JP7013267B2 - パン生地、パン及びこれらの製造方法 - Google Patents
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Description
パンに求められる食感は多様であるが、中でも柔らかく口溶けの良い食感は最も求められる食感の一つである。このような食感を得るため、小麦粉などの製パン用穀粉に対する加水量を多くした高加水パン生地を焼成し、高加水パンを製造している。しかしながら、高加水パン生地は、加水量が多いため生地のベタつきが生じやすく、成形性等の作業性が悪くなるという欠点がある。
高加水パン生地の欠点を解決するために様々な試みが為されている。
例えば、特開2010-252667号公報(特許文献1)では、グリセリン有機酸脂肪酸エステルを含有し、好ましくは、さらにアルギン酸及び/又はアルギン酸塩を含有することを特徴とする多加水パン生地が開示されている。しかしながら、近年では、グリセリン有機酸脂肪酸エステルなどの乳化剤は、なるべく使用しないことが望まれる。
特開2011-200140号公報(特許文献2)では、パン生地を製造する際の原料穀粉の加水に使用する水の一部又は全量として、特定の物性を有する高含水寒天ゲルを使用し、原料穀粉に対する総加水量を標準総加水量の1.1~2.3倍に増加させたパン生地を形成することを特徴とした多加水製パン方法が開示されている。当該方法は、加水量を増加させる観点からは優れた方法であるが、当該方法で得られるパンの食感には違和感が生じる恐れがある。
特開2014-200190号公報(特許文献3)では、平均粒径が60μm~120μmであると共に損傷澱粉を4.0重量%~7.0重量%含有する基準小麦粉と、平均粒径が20μm~40μmであると共に損傷澱粉を7.0重量%~12重量%含有する微粉砕小麦粉とを特定割合で混合したパン生地用小麦粉の重量に対して、70重量%より多く140重量%以下の水が配合された多加水パンの製造方法が開示されている。しかしながら、当該方法は煩雑であり、コスト高になりがちである。
特開2016-77202号公報(特許文献4)では、穀粉100質量部のうちの30~60質量部の穀粉、及び前記穀粉100質量部に対して200~250質量部の水を混捏して湯種を作製する工程を含む、多加水パンの製造方法が開示されている。また、特開2017-163929号公報(特許文献5)では、湯種用穀粉100重量部に対し加水量150~250重量部の湯種を調製する工程と、油脂類以外の原材料及び、前記湯種の50重量%以下を混合後、これに残りの湯種及び油脂類を混合して生地を調製する工程とを含む、パン類の製造方法が開示されている。しかしながら、これらの方法も簡便性に劣る。
また、本発明の目的は、柔らかく口溶けが良好であり、経時的な硬化を抑制する作用を有するパン、該パンを製造するためのパン生地、及びこれらの製造方法を提供することにある。
さらに、本発明の目的は、上記パン生地及びパンを簡便に製造する方法を提供することにある。
すなわち、本発明は、以下の態様を包含する。
[1]以下の工程:
(1)穀粉、イースト、及び水を含んでおり、穀粉の質量に対する水分含量が、パンの種類に応じた標準水分含量の範囲の上限以上である穀粉組成物を調製する工程;
(2)油脂及び粉末状原料(但し、穀粉及び粉末状イーストを除く)をクリーミングして気泡含有油脂組成物を調製する工程;及び
(3)前記穀粉組成物と前記気泡含有油脂組成物とを混合する工程
を含むパン生地を製造する方法。
[2]水分含量が、穀粉100質量部に対して72質量部以上である、[1]記載の方法。
[3]気泡含有油脂組成物に含まれる油脂の含有量が、穀粉100質量部に対して3~60質量部である、[1]又は[2]記載の方法。
[4][1]~[3]のいずれか1項記載の方法により得られるパン生地。
[5][4]記載のパン生地が焼成されたパン。
本発明のパン生地の製造方法は、以下の工程を含んでいる:
(1)穀粉、イースト、及び水を含んでおり、穀粉の質量に対する水分含量が、パンの種類に応じた標準水分含量の範囲の上限以上である穀粉組成物を調製する工程;
(2)油脂及び粉末状原料(但し、穀粉及び粉末状イーストを除く)をクリーミングして気泡含有油脂組成物(又は可塑性油脂組成物)を調製する工程;及び
(3)前記穀粉組成物と前記気泡含有油脂組成物とを混合する工程。
穀粉は、小麦、大麦、ライ麦、米、大豆、トウモロコシなどの穀類を製粉して得られるものである。穀粉としては、小麦粉、大麦粉、ライ麦粉、米粉、大豆粉、コーンフラワーなどが挙げられ、パン原料として使用されるものであれば特に限定されない。
穀粉は、1種のみを使用してもよく、2種以上を混合して使用することもできる。穀粉が2種以上の混合物である場合、各穀粉の種類や含有量は、パンの種類に応じて適宜選択することができる。なお、穀粉中の小麦粉及び/又はライ麦粉の割合が低い又はゼロの場合、穀粉中に任意にグルテンを含有させてもよい。
イーストは、粉末状、ペースト状、液状のいずれの性状のものも使用することができる。また、イーストは、生イースト、ドライイーストのいずれであってもよい。
イーストは、必要に応じて、予備発酵させて使用してもよい。予備発酵の方法は、イーストと温水(例えば、35~40℃程度の水)とを混合する方法など、公知の方法をいずれも採用することができる。
イーストの含有量は、イーストの種類、パンの種類などに応じて適宜選択され、例えば、穀粉100質量部に対して、0.5~10質量部であり、好ましくは1~5質量部である。
水分含量は、穀粉100質量部に対して、72質量部以上であるのが好ましく、73~82質量部であるのがより好ましく、73~75質量部であるのが特に好ましい。水分含量がこのような範囲にあると、焼成されたパンがより一層柔らかくなり口溶けがさらに良好になる。なお、水は、必要により卵液、牛乳などとの混合液として使用してもよい。混合液は、混合液中に含まれる全ての水(卵液、牛乳などに含有される水も含む)の穀粉の質量に対する割合が上記の範囲になるように使用する。
油脂は、製パン原料として使用される油脂であればいずれも好適に使用できる。油脂の具体例としては、バター;動物油脂、植物油脂又はこれらの混合油脂を水素添加等の公知の方法で加工して得られる加工油脂(例えば、ショートニング、マーガリン、ラード)などが挙げられる。
油脂は、1種のみを使用してもよく、2種以上を混合して使用することもできる。
油脂の含有量は、特に制限されないが、柔らかさ及び口溶けの改善、並びに、時間経過に伴う硬化の抑制の点から、穀粉100質量部に対して、3~60質量部(好ましくは5~50質量部)になるように調整するのが好ましい。本発明では、少量の油脂(例えば、穀粉100質量部に対して、10~30質量部)であってもパンの柔らかさ及び口溶けを顕著に改善することができる。
粉末状原料の含有量は、特に制限されないが、穀粉100質量部に対して1~30質量部(好ましくは5~25質量部)になるように調整するのが好ましい。
油脂組成物のクリーミングにおいて、攪拌速度は、油脂組成物中に気泡を抱き込ませることができる限り特に制限されず、例えば、280~600rpmである。また、攪拌時間は、攪拌速度にも依るが、例えば、3~8分である。
気泡含有油脂組成物の比重は、0.9未満であるのが好ましく、0.4~0.85であるのがより好ましく、0.6~0.8であるのが特に好ましい。
比重は、気泡含有油脂組成物を計量容器に100mlを計り取って質量(g)を測定し、あらかじめ測定しておいた計量容器の質量(g)を差引き、単位容積当たりの質量(g/ml)を求めることにより算出される。
穀粉組成物と気泡含有油脂組成物との混合(又は混捏)手段に特に限定はない。本発明では、気泡含有油脂組成物が穀粉組成物となじみやすいため、混合時間(又は混捏時間)を短縮することができ、生産効率を向上することができる。
本発明のパン生地は、穀粉、イースト、及び水を含んでおり、穀粉の質量に対する水分含量が、パンの種類に応じた標準水分含量の範囲の上限以上(例えば、穀粉100質量部に対して72質量部以上)である穀粉組成物と、油脂及び粉末状原料(但し、穀粉及び粉末状イーストを除く)を含有する気泡含有油脂組成物とを含む。本発明のパン生地は、「パン生地の製造方法」に記載の方法により得られる。
本発明のパンは、上記パン生地を焼成してなる。パンの種類は、特に制限はなく、例えば、食パン、フランスパン、イングリッシュマフィン、菓子パン、ドーナツ、調理パンなどが挙げられる。
菓子パンとしては、アンパン、ジャムパン、クリームパン、カレーパンなどのフィリング類をパンに詰めたパン、メロンパン、ロールパン(テーブルロール、バターロール、スィートロール、レーズンロールなど)、コッペパン、バンズ、デニッシュペストリー、クロワッサン、ブリオッシュなどが挙げられる。
調理パンとしては、ハンバーガー、ホットドック、ピザなどが挙げられる。
本発明のパンの製造方法は、上記パン生地の製造工程を含む限り特に制限されない。上記パン生地を用いたパンの製造方法としては、直捏法、中種法、促成法、液種法、サワー種法、酒種法、ホップ種法、中麺法、チョリーウッド法、連続製パン法、冷蔵生地法、冷凍生地法など公知の方法が挙げられる。
上記方法において、発酵条件は、特に制限されず、例えば、温度25~40℃、湿度70~80%である。また、焼成温度は、特に制限されず、例えば、200~300℃である。
ショートニング5質量部をミキサー(ミキサーN50、ホバート社製)に投入してビーターを使用してショートニングが柔らかくなるまで139rpmで撹拌した。続いて粉末状原料7質量部(食塩2質量部及び砂糖5質量部)を投入して更に591rpmで5分間撹拌することによりクリーミングして気泡含有油脂組成物を得た(以下、この工程をクリーミング工程という)。
小麦粉(イーグル、日本製粉社製)100質量部、イースト2質量部、水72質量部をミキサー(エスケーミキサー社製)に投入し、低速2分、中速3分で混捏し、次いで上記で得られた気泡含有油脂組成物全量を投入して更に低速2分、中速3分で混捏してパン生地を得た。得られたパン生地を温度27℃、湿度75%で60分間発酵させた後、450gに分割して成形し、温度38℃、湿度85%で50分間最終発酵させた。庫内温度210℃のオーブンに投入し、25分間焼成して食パンを得た。なお、食パンの原料組成をまとめると、以下の表1のようになる。
小麦粉(イーグル、日本製粉社製)100質量部と、イースト2質量部及び粉末状原料7質量部(食塩2質量部と砂糖5質量部)を水72質量部に溶解させた水溶液とをミキサー(エスケーミキサー社製)に投入し、低速2分、中速8分で混捏し、ショートニング5質量部を投入して更に低速2分、中速8分で混捏してパン生地を得た。得られたパン生地を温度27℃、湿度75%で60分間発酵させた後、450gに分割して成形し、温度38℃、湿度85%で50分間最終発酵させた。庫内温度210℃のオーブンに投入し、25分間焼成して食パンを得た。なお、食パンの原料組成は、表1に示した組成と同じである。
以下の表3に記載の加水量とした以外は、製造例1(クリーミング工程:あり)及び製造例2(クリーミング工程:なし)に従って食パンを製造して評価した。加水量は、増加率で示した。例えば+5%と表記した場合、水の量は72×1.05=75.6質量部である。
なお、製造例1において、小麦粉と水との混捏物中に、クリーミングせずに粉末状原料と油脂とを添加すると、粉末状原料と油脂とが均質に分散し難いため、パン生地を得るには不適である。従って、製造例2では、小麦粉と粉末状原料の水溶液との混捏物中に油脂を添加した。
各食パンの評価結果を以下の表3に示す。
以下の表4に記載の油脂添加量とした以外は、製造例1(クリーミング工程:あり)及び製造例2(クリーミング工程:なし)に従って食パンを製造して評価した。
各食パンの評価結果を以下の表4に示す。
加水量を+4%にした以外は製造例1に従って実施例13の食パンを得た。
製造例2に従って対照例1の食パンを得た。
0.3質量部の乳化剤(MM-100、理研ビタミン社製)を添加した以外は、製造例2に従って対照例10の食パンを得た。
焼成翌日を1日目として、1日目から3日目までのクラムの硬さをテクスチャーアナライザーで測定した。また、3日目の食パンの水分値を赤外線水分系(ケット社)で測定した。
結果を以下の表5に示す。
Claims (4)
- 以下の工程:
(1)パン生地の製造に使用する全量の穀粉、イースト、及び水を含んでおり、前記穀粉の質量に対する水分含量が、前記穀粉100質量部に対して72質量部以上である穀粉組成物を調製する工程;
(2)油脂及び粉末状原料(但し、穀粉及び粉末状イーストを除く)をクリーミングして気泡含有油脂組成物を調製する工程;及び
(3)前記穀粉組成物と前記気泡含有油脂組成物とを混合する工程
を含むパン生地を製造する方法。 - 前記穀粉の質量に対する水分含量が、穀粉100質量部に対して73~82質量部である、請求項1記載の方法。
- 気泡含有油脂組成物に含まれる油脂の含有量が、穀粉100質量部に対して3~60質量部である、請求項1又は2記載の方法。
- 請求項1~3のいずれか1項記載の方法によりパン生地を製造し、前記パン生地を焼成することを含む、パンの製造方法。
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クロワッサンの技術(旭屋出版),2008年,pp.30-31 |
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