以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を説明する。但し本発明は以下の実施形態に限定されない点に留意されたい。
図1は、本実施形態の排気ガス流量測定装置が適用された内燃機関を示す。内燃機関(エンジンともいう)1は、車両(図示せず)に搭載された多気筒エンジンである。本実施形態において、車両はトラック等の大型車両であり、これに搭載される車両動力源としてのエンジン1は直列4気筒ディーゼルエンジンである。しかしながら、車両および内燃機関の種類、形式、用途等に特に限定はなく、例えば車両は乗用車等の小型車両であってもよいし、エンジン1はガソリンエンジンであってもよい。
エンジン1は、エンジン本体2と、エンジン本体2に接続された吸気通路3および排気通路4と、ターボチャージャ14と、燃料噴射装置5とを備える。エンジン本体2は、シリンダヘッド、シリンダブロック、クランクケース等の構造部品と、その内部に収容されたピストン、クランクシャフト、バルブ等の可動部品とを含む。
燃料噴射装置5は、コモンレール式燃料噴射装置からなり、各気筒に設けられた燃料噴射弁すなわちインジェクタ7と、インジェクタ7に接続されたコモンレール8とを備える。インジェクタ7は、シリンダ9内すなわち燃焼室内に燃料を直接噴射する筒内インジェクタである。コモンレール8は、インジェクタ7から噴射される燃料を高圧状態で貯留する。
吸気通路3は、エンジン本体2(特にシリンダヘッド)に接続された吸気マニホールド10と、吸気マニホールド10の上流端に接続された吸気管11とにより主に画成される。吸気マニホールド10は、吸気管11から送られてきた吸気を各気筒の吸気ポートに分配供給する。吸気管11には、上流側から順に、エアクリーナ12、エアフローメータ13、ターボチャージャ14のコンプレッサ14C、インタークーラ15、および電子制御式の吸気スロットルバルブ16が設けられる。エアフローメータ13は、エンジン1の単位時間当たりの吸入空気量すなわち吸気流量を検出するためのセンサであり、マスエアフロー(MAF)センサ等とも称される。
排気通路4は、エンジン本体2(特にシリンダヘッド)に接続された排気マニホールド20と、排気マニホールド20の下流側に接続された排気管21とにより主に画成される。排気マニホールド20は、各気筒の排気ポートから送られてきた排気ガスを集合させる。排気管21、もしくは排気マニホールド20と排気管21の間には、ターボチャージャ14のタービン14Tが設けられる。タービン14Tより下流側の排気通路4には、上流側から順に、酸化触媒22、フィルタ23、選択還元型NOx触媒(SCR)24およびアンモニア酸化触媒26が設けられる。これらは排気後処理を実行する後処理部材をなす。フィルタ23とNOx触媒24の間の排気通路4には、還元剤としての尿素水を排気通路4内に噴射する還元剤噴射弁としての尿素インジェクタ25が設けられる。
酸化触媒22は、排気中の未燃成分(炭化水素HCおよび一酸化炭素CO)を酸化して浄化すると共に、このときの反応熱で排気ガスを加熱昇温する。フィルタ23は、所謂連続再生式ディーゼルパティキュレートフィルタであり、排気中に含まれる粒子状物質(PMとも称す)を捕集すると共に、その捕集したPMを貴金属と反応させて連続的に燃焼除去する。フィルタ23には、ハニカム構造の基材の両端開口を互い違いに市松状に閉塞した所謂ウォールフロータイプのものが用いられる。
NOx触媒24は、尿素インジェクタ25から噴射された尿素水を加水分解して得られるアンモニアを、排気中のNOxと反応させて、NOxを還元浄化する。NOx触媒24は、ゼオライト又はアルミナなどの基材表面にPtなどの貴金属を担持したものや、その基材表面にCu等の遷移金属をイオン交換して担持させたもの、その基材表面にチタニヤ/バナジウム触媒(V2O5/WO3/TiO2)を担持させたもの等が例示できる。アンモニア酸化触媒26は、NOx触媒24から排出された余剰アンモニアを酸化して浄化する。
エンジン1はEGR装置30をも備える。EGR装置30は、排気通路4内(特に排気マニホールド20内)の排気ガスの一部(EGRガスという)を吸気通路3内(特に吸気マニホールド10内)に還流させるためのEGR通路31と、EGR通路31を流れるEGRガスを冷却するEGRクーラ32と、EGRガスの流量を調節するためのEGR弁33とを備える。EGR装置30は外部EGRを実行するためのものである。
また、本実施形態は、それぞれ排気通路4に設けられた電子制御式の排気スロットルバルブ37と、排気インジェクタ38とを備える。本実施形態において、これらはタービン14Tと酸化触媒22の間の排気通路4に設けられ、排気スロットルバルブ37より下流側に排気インジェクタ38が配置される。但しこれらの設置位置は変更可能である。排気スロットルバルブ37の作動状態に応じて排気ガス流量が変化させられる。排気インジェクタ38は、主にフィルタ23の再生時に排気通路4内に燃料を噴射するためのインジェクタである。
このエンジン1を制御するための制御装置が車両に搭載されている。制御装置は、制御ユニットもしくはコントローラをなす電子制御ユニット(ECUと称す)100を有する。ECU100はCPU、ROM、RAM、入出力ポートおよび記憶装置等を含む。ECU100は、筒内インジェクタ7、吸気スロットルバルブ16、尿素インジェクタ25、EGR弁33、排気スロットルバルブ37および排気インジェクタ38を制御するように構成され、プログラムされている。なお特に断らない限り、吸気スロットルバルブ16および排気スロットルバルブ37は全開に制御されているものとする。
制御装置は、以下のセンサ類も有する。このセンサ類に関して、上述のエアフローメータ13の他、エンジンの回転速度、具体的には毎分当たりの回転数(rpm)を検出するための回転速度センサ40と、アクセル開度を検出するためのアクセル開度センサ41とが設けられる。また、酸化触媒22、フィルタ23およびNOx触媒24の上流側入口部には排気温度を検出するための排気温センサ42,43,44が設けられている。また、NOx触媒24の下流側出口部には排気温度を検出するための排気温センサ46が設けられている。また、フィルタ23の入口部および出口部の排気圧の差圧を検出するための差圧センサ45が設けられている。
また、NOx触媒24の上流側入口部と下流側出口部には、それぞれ、排気中のNOxを検出するための上流側NOxセンサ47および下流側NOxセンサ48が設けられている。これらNOxセンサ47,48は、排気ガスのNOx濃度に相関した出力を発する。但しNOxセンサ47,48はアンモニアも検出可能である。上流側NOxセンサ47は尿素インジェクタ25よりも上流側に設けられている。以上のセンサ類の出力信号はECU100に送られる。
次に、ECU100により実行される制御の内容について説明する。
まず、尿素インジェクタ25から噴射される尿素水噴射量の制御の概要を説明する。尿素水噴射量Mは、概して後述する第1噴射量MAと第2噴射量MBと第3噴射量MCの和として表され、式:M=MA+MB+MCで表される。そしてECU100は、尿素水噴射量Mを算出すると共に、算出された尿素水噴射量Mに等しい量の尿素水を尿素インジェクタ25から噴射させる。
第一に、NOx触媒24に流入するNOx量(流入NOx量)に見合った第1噴射量MAが算出される。流入NOx量は、上流側NOxセンサ47により検出されたNOx濃度と排気ガス流量の積で表される。排気ガス流量は、エアフローメータ13により検出された吸気流量の値に基づいて算出される。流入NOx量と第1噴射量MAとの間の予め定められた関係、具体的にはマップ(関数でもよい。以下同様)が、ECU100に記憶され、ECU100はこのマップを参照して流入NOx量に対応した第1噴射量MAを算出する。ここでは、流入NOxを還元浄化するのに必要な最小限の噴射量、言い換えれば流入NOx量に対し当量比が1となるような噴射量が第1噴射量MAとして算出される。
なお、上流側NOxセンサ47は排気通路4のより上流側の位置に設けられてもよい。また流入NOx量は、エンジン運転状態(例えばエンジン回転数と筒内インジェクタ7の燃料噴射量)に基づいてECU100により推定してもよい。
第二に、NOx触媒24のアンモニア吸着量を目標吸着量に近づけるための第2噴射量MBが算出される。すなわち、NOx触媒24はアンモニア吸着能を有し、多くのアンモニアを吸着する程、高いNOx浄化性能を発揮する。このため、NOx触媒24のアンモニア吸着量が推定されると共に、この推定吸着量と目標吸着量の差分に基づき、還元剤噴射量が制御される。アンモニア吸着量を推定する理由は、それを実測するのが困難だからである。
図2には、NOx触媒24のアンモニア吸着特性を示す。線aは、実験等を通じて把握されるアンモニア吸着量の上限値もしくは吸着限界を示し、この上限値は、NOx触媒24の触媒温度が高くなる程、低くなる傾向がある。なお、実際のアンモニア吸着量が上限値のときにアンモニアが供給されると、そのアンモニアはNOx触媒24に吸着できないので、NOx触媒24の下流側に流出し、アンモニアスリップを生じさせる。
線aより所定のマージンだけ低吸着量側の目標値が線bの如く定められ、この線bがマップの形でECU100に記憶されている。
ECU100は、排気温センサ44,46の少なくとも一方の検出値に基づきNOx触媒24の触媒温度を推定する。例えば、いずれか一方の検出値を触媒温度とみなしてもよいし、両方の検出値の平均値を触媒温度とみなしてもよい。そして推定した触媒温度(図2のTc1)に対応したアンモニア吸着量の目標値Wt(図2のc点の値)をマップから算出する。なお触媒温度は直接検出してもよい。推定および検出を総称して取得という。
この目標吸着量Wtと推定吸着量Weの差分ΔWが式:ΔW=Wt−Weにより求められ、この差分ΔWに応じた第2噴射量MBが算出される。差分ΔWが大きい程、大きな第2噴射量MBが算出される。
例えば図2のd点のように、推定吸着量Weが目標吸着量Wtよりも少ない場合、差分ΔWが正であるため、噴射量増大側の正の第2噴射量MBが算出され、この第2噴射量MBが噴射されることにより、推定吸着量Weが増大し、目標吸着量Wtに徐々に近づいていく。他方、例えば図2のe点のように、推定吸着量Weが目標吸着量Wtよりも多い場合、差分ΔWが負であるため、ゼロまたは負の第2噴射量MBが算出される。これにより、NOx触媒24に吸着したアンモニアがNOxの還元に消費され、推定吸着量Weが減少し、目標吸着量Wtに徐々に近づいていく。
アンモニア吸着量の推定方法については、公知方法を含め、様々な方法が採用可能である。本実施形態では、NOx触媒24におけるアンモニアとNOxの反応を表す化学反応式に基づいて数学モデルを構築し、当該モデルに基づいてアンモニア吸着量をECU100により精度良く推定するようになっている。この際、ECU100は、尿素水噴射量M、NOx触媒24の触媒温度、排気ガス流量、上下流側NOxセンサ47,48の検出値、エンジン運転状態を表すエンジンパラメータ(エンジン回転数、燃料噴射量等)等のパラメータに基づいて、アンモニア吸着量を推定する。
第三に、NOx触媒24から流出したNOx量(流出NOx量)に見合った第3噴射量MCが算出される。具体的には、下流側NOxセンサ48の出力(センサ出力)Vが所定の上限値Vup以下のときには、流出NOx量が許容範囲内であるとして、ゼロの第3噴射量MCが算出される。他方、センサ出力Vが上限値Vupを超えたときには、流出NOx量が許容範囲外であるため、尿素水噴射量を増やして流出NOx量を抑制すべく、正の第3噴射量MCが算出される。
このとき、センサ出力Vと上限値Vupの差分ΔV(=V−Vup)が算出され、この差分ΔVに応じた第3噴射量MCが算出される。こうして尿素水噴射量Mは、センサ出力Vに基づきフィードバック制御あるいはフィードバック補正されることとなる。
ここで本実施形態では、第3噴射量MCは補正係数K(≧1)によって表される。つまり前式M=MA+MB+MCは本実施形態の場合、M=K×MA+MB(=MA+MB+(K−1)×MA)で表され、MC=(K−1)×MAとされる。図3に示すようなマップがECU100に記憶され、差分ΔVがゼロから大きくなる程、1より大きな補正係数Kが算出される。また差分ΔVがリミット値ΔV1(>0)以上になったとき、補正係数Kはその上昇が抑制されてリミット値K1(>1)に制限される。差分ΔVがゼロ以下のとき補正係数Kは1である。
センサ出力Vが上限値Vupを超えたとき、差分ΔVに応じた補正係数K(>1)が算出され、ベース噴射量である第1噴射量MAが補正係数Kによって増量補正され、その結果、尿素水噴射量Mが増量補正される。
なお、ここでは単純なフィードバック制御の例を示したが、フィードバック制御は周知のPID制御等の手法を用いたより複雑なものであってもよい。また差分ΔVに応じて第1噴射量MAと無関係な加算項である第3噴射量MCを算出し、式M=MA+MB+MCにより尿素水噴射量Mを算出してもよい。
ところで、下流側NOxセンサ48は、NOxだけでなく、アンモニアも検出可能であり、両者を区別して検出できない。このため、尿素水噴射量に対するNOx触媒下流側の流出NOx量と、下流側NOxセンサ48のセンサ出力と、NOx触媒下流側に流出したアンモニア量(流出アンモニア量)との関係は、図4に示すようになる。
図の左端付近のように、尿素水噴射量が比較的少なく流入NOx量に対して不足する場合、NOx触媒24が流入NOxを全て還元できないため、NOx触媒下流側にNOxが流出するNOxスリップが起こる。そして流出NOx量は多くなり、NOxセンサ出力も大きくなる。そして尿素水噴射量が増加するにつれ、尿素水噴射量が流入NOx量に対して徐々に見合うようになって行くため、流出NOx量が徐々に減少し、NOxセンサ出力も徐々に減少する。
しかし、更に尿素水噴射量を増加すると、尿素水噴射量が流入NOx量に対して過剰となり、NOx触媒24から余剰のアンモニアが流出するアンモニアスリップが起こる。尿素水噴射量を増加するにつれ、流出アンモニア量も増加する。NOxセンサ48はこのアンモニアを検出するため、尿素水噴射量を増加するにつれ、NOxセンサ出力は徐々に増加していくこととなる。
NOxスリップとアンモニアスリップがバランスするバランス点、すなわち、流出NOx量と流出アンモニア量の両者をできるだけ最小化できる尿素水噴射量の値を図中Mhで示す。Mhより小噴射量側をNOxスリップ領域、Mhより大噴射量側をアンモニアスリップ領域とする。
NOxセンサ出力は、バランス点で極小値となる曲線を描く。よって、NOxセンサ出力のみによっては、NOxセンサ出力がNOxスリップ領域にあるのか(NOxスリップが起こっているのか)、アンモニアスリップ領域にあるのか(アンモニアスリップが起こっているのか)を判別することができない。このため従来は、尿素水噴射量を強制的に増加または減少し、それに応じてNOxセンサ出力が大小どちら側に変化するかを検出し、その結果に基づいて、NOxセンサ出力がいずれの領域にあるかを判別している。
例えば、尿素水噴射量を増量したときにNOxセンサ出力が減少した場合はNOxスリップ領域にある(NOxスリップが起こっている)と判定し、尿素水噴射量を増量したときにNOxセンサ出力が増加した場合はアンモニアスリップ領域にある(アンモニアスリップが起こっている)と判定する。
さて、本実施形態において、排気ガス流量Ge(g/s)は、エアフローメータ13により検出された吸気流量Ga(g/s)の値に基づいて、ECU100により推定される。そして推定された排気ガス流量Geの値は、様々なパラメータの算出等に用いられる。本実施形態では前述したように、流入NOx量の算出と、アンモニア吸着量の推定とに用いられる。またこの他、流出NOx量の算出にも用いられる。流出NOx量は、下流側NOxセンサ48により検出されたNOx濃度と排気ガス流量との積で表される。流入NOx量と流出NOx量を用いてNOx浄化率も計算される(NOx浄化率=1−流出NOx量/流入NOx量)。これらのパラメータを用いて種々の診断も実行される。
本実施形態では、図1に示すように、排気通路4の所定位置P、具体的にはNOx触媒24の上流側入口部に位置する上流側NOxセンサ47の位置Pにおける排気ガス流量Geが推定される。但し所定位置Pは任意に設定可能である。
所定位置Pの排気ガス流量は、基本的に、エアフローメータ13の位置から所定位置Pまでの輸送遅れ分の時間だけ前の時点での吸気流量に等しいとみなせる。言い換えれば、エアフローメータ13で検出された吸気流量の値は、輸送遅れ分の時間だけ遅れて所定位置Pに出現する。従って本実施形態では、現時点tより遅延時間Dだけ前のエアフローメータ13の検出値Ga(t−D)が、現時点tの排気ガス流量の値Ge(t)として推定される。これは式で表すとGe(t)=Ga(t−D)となる。遅延時間Dが輸送遅れ分の時間に相当する。
遅延時間Dは主に、エンジン回転数Neと、エアフローメータ13から所定位置Pまでの距離(ガス通路長)との関数である。後者はエンジンに固有の一定値であるので、変数は前者のみである。よって本実施形態では遅延時間Dの基本値である基本遅延時間Dbが、エンジン回転数Neに基づいてECU100により算出される。なおエンジン回転数Ne以外のパラメータにも基づいて基本遅延時間Dbを算出してもよい。
具体的にはECU100は、回転速度センサ40によってエンジン回転数Neを検出すると共に、図5に示すような予め記憶したマップに従って、エンジン回転数Neに対応した基本遅延時間Dbを算出する。エンジン回転数Neが高い程、基本遅延時間Dbは短くなる。
ところで、本実施形態では、作動状態に応じて排気ガス流量を変化させる排気系装置が排気通路4に設けられている。この排気系装置は具体的には、所定位置Pの上流側に設けられた排気スロットルバルブ37であり、排気スロットルバルブ37の作動状態、すなわち開度に応じて、所定位置Pの排気ガス流量が変化する。例えば、通常運転時もしくは排気ブレーキの非作動時に、排気スロットルバルブ37の開度が最大の100%(全開)であると、排気ガス流量は最大となる。しかし、排気ブレーキの作動時に、排気スロットルバルブ37の開度が最小の0%(全閉)であると、排気ガス流量は最小となる。なお周知のように、開度が0%であっても、排気スロットルバルブ37は僅かに開弁されて排気ガスの流通が許容される。このように排気ガス流量はエンジン回転数Neだけでなく、排気スロットルバルブ37の開度に応じても変化される。
従来、こうした排気系装置の作動状態が考慮されておらず、遅延時間Dは基本遅延時間Dbに等しく設定されていた。しかし、これだと排気ガス流量を正確に推定することができない。
例えば排気ブレーキの作動開始時に、排気スロットルバルブ37の開度が全開から全閉に切り替わった直後、排気スロットルバルブ37により排気ガスの流れが堰き止められるので、所定位置Pにおける実際の排気ガス流量は大幅に減少する。しかし、従来は一律に基本遅延時間Dbだけ前のエアフローメータ検出値Ga(t−Db)が排気ガス流量値Ge(t)として推定されていた。このため、排気スロットルバルブ37の開度が切り替わる前のエアフローメータ検出値が排気ガス流量値として推定される虞があり、必ずしも正確な排気ガス流量を推定できない。
所定位置Pから排気スロットルバルブ37までの距離の方が、所定位置Pからエアフローメータ13までの距離より大幅に短い。そのため、所定位置Pの実際の排気ガス流量は、所定位置Pからより近い位置にある排気スロットルバルブ37の開度の影響を大きく受ける。
そこで本実施形態では、排気系装置の作動状態が排気ガス流量減少側であるときには、排気ガス流量増加側であるときに比べ、遅延時間Dを短くする。具体的には、排気スロットルバルブ37の開度が小さいときには、大きいときに比べ、遅延時間Dを短くする。
こうすると、例えば排気スロットルバルブ37の開度が全開のときには、通常通り、基本遅延時間Dbに等しい遅延時間Dを用いる一方、排気スロットルバルブ37の開度が全閉のときには、基本遅延時間Dbより短い遅延時間Dを用いることができる。これにより、排気スロットルバルブ37の開度が全閉のときには、現時点tにより近い前の時点でのエアフローメータ検出値を排気ガス流量値として推定することができ、排気スロットルバルブ37の開度の影響を取り込んで排気ガス流量をより正確に推定することが可能となる。
ECU100は、図6に示すような所定のマップを用いて、排気スロットルバルブ37の開度S(%)に応じた補正値Fを算出する。そして基本遅延時間Dbと補正値Fに基づいて遅延時間Dを算出する。具体的には、基本遅延時間Dbに補正値Fを乗じて遅延時間Dを算出する(D=Db×F)。
図6から理解されるように、開度Sが増加するほど補正値Fは増加し、開度Sが0(%)のとき補正値Fは最小のF1、開度Sが100(%)のとき補正値Fは最大のF2である。本実施形態ではF1=0、F2=1である。よって開度Sが100(%)のときには通常通り、基本遅延時間Dbに等しい遅延時間Dが算出される。また開度Sが0(%)のときには、遅延時間Dがゼロとされ、現時点tのエアフローメータ検出値が排気ガス流量値として推定される。また開度Sが0(%)と100(%)の間の中間開度のときには、ゼロより長く基本遅延時間Dbより短い遅延時間Dが算出され、開度Sが100(%)のときよりは現時点tに近い、前の時点でのエアフローメータ検出値が排気ガス流量値として推定される。
このように、排気系装置の作動状態(排気スロットルバルブ37の開度)が排気ガス流量減少側(0(%)側)であるときには、排気ガス流量増加側(100(%)側)であるときに比べ、基本遅延時間Dbをより短い時間に補正するような補正値Fが算出される。
なお、図6の特性線は比例直線として描かれているが、これは単に傾向を示したに過ぎず、特性線は任意に変更可能である(図5も同様)。
上記によると、例えば排気ブレーキの非作動中に、排気スロットルバルブ37の開度が全開に維持されているときには、遅延時間DがDbに等しくされ、Dbだけ前の時点のエアフローメータ検出値Ga(t−Db)が排気ガス流量値Ge(t)として推定される。また例えば排気ブレーキの作動中に、排気スロットルバルブ37の開度が全閉に維持されているときには、遅延時間Dがゼロとされ、現時点のエアフローメータ検出値Ga(t)が排気ガス流量値Ge(t)として推定される。
また例えば排気ブレーキの作動開始時に、排気スロットルバルブ37の開度が全開から全閉に切り替わったときには、遅延時間DもDbからゼロに切り替えられるので、その切替直後には現時点のエアフローメータ検出値Ga(t)が排気ガス流量値Ge(t)として推定される。切り替え直後には排気ガス流量の減少に応答して吸気流量も減少するので、その減少した吸気流量の値であるエアフローメータ検出値Ga(t)を、排気ガス流量値Ge(t)として推定できる。このため、実際の排気ガス流量の値を正確に推定することが可能である。
排気ガス流量を正確に推定することにより、この値に基づく様々なパラメータ(流入NOx量等)を正確に算出可能となる。よって尿素水噴射量の制御等もより正確に行えるようになり、排ガス性能の悪化等を未然に回避することができる。またパラメータを用いた診断も正確に実行できるようになる。
次に、図7を参照して、本実施形態の排気ガス流量測定ルーチンを説明する。図示するルーチンはECU100により所定の演算周期τ(例えば10msec)毎に繰り返し実行される。
ステップS101では、回転速度センサ40によりエンジン回転数Neが検出され、エアフローメータ13により吸気流量Gaが検出されると共に、ECU100により排気スロットルバルブ37の開度Sが検出される。検出された吸気流量Gaのデータは検出毎にバッファに貯め込まれ、バッファには、現時点tから少なくとも基本遅延時間Dbだけ前までの複数のデータが貯め込まれている。排気スロットルバルブ37の開度Sは、ECU100から排気スロットルバルブ37に指示した開度であり、ECU100の内部値である。
ステップS102では、エンジン回転数Neに応じた基本遅延時間Dbが図5のマップから算出される。
ステップS103では、排気スロットルバルブ37の開度Sに応じた補正値Fが図6のマップから算出される。
ステップS104では、基本遅延時間Dbに補正値Fを乗じて遅延時間Dが算出される(D=Db×F)。
ステップS105では、現時点tから遅延時間Dだけ前の時点のエアフローメータ検出値Ga(t−D)が、現時点の排気ガス流量Ge(t)として推定される。このとき例えば、バッファに貯め込まれた、遅延時間Dだけ前の時点に最も近い時点の吸気流量Gaのデータが、エアフローメータ検出値Ga(t−D)として採用される。
このように本実施形態では、排気ガス流量を測定する際、現時点tより遅延時間Dだけ前のエアフローメータ13の検出値Ga(t−D)を現時点tの排気ガス流量Ge(t)の値として推定し、排気スロットルバルブ37の開度が排気ガス流量減少側(0(%)側)であるときには、排気ガス流量増加側(100(%)側)であるときに比べ、遅延時間Dを短くする。このため、排気スロットルバルブ37の開度を考慮して排気ガス流量を正確に推定することが可能となる。
上記の説明で理解されるように、本実施形態のエアフローメータ13、ECU100および排気スロットルバルブ37は、それぞれ特許請求の範囲にいう吸気流量センサ、推定部および排気系装置に相当する。
以上、本発明の実施形態を詳細に述べたが、本発明は他にも様々な実施形態が可能である。
(1)例えば遅延時間Dは、付加的もしくは代替的に、排気スロットルバルブ37の開度の単位時間当たりの変化率、すなわち変化速度に応じて変化されてもよい。例えば開度の変化速度が速いほど、遅延時間Dを短く設定することが可能である。また例えば開度の変化速度が速いほど、小さい補正値Fを算出することが可能である。こうすると、排気スロットルバルブ37の開度変化中に、開度変化速度を考慮して遅延時間Dを適切に設定することができ、排気ガス流量を正確に推定できる。
(2)排気スロットルバルブ37の開度に応じた遅延時間Dの変化特性は、図6に示したような連続的かつリニアな特性でなくてもよく、例えば、所定の開度閾値を境に最長(F=F2=1)と最短(F=F1=0)が切り替わるよりシンプルなものであってもよい。あるいは、階段状に変化する特性であっても構わない。
(3)排気系装置は、排気スロットルバルブ37以外のものであってもよい。また排気スロットルバルブ37は、所定位置Pの下流側に設けられたものであってもよい。
(4)基本遅延時間Dbに補正値を加算または減算して遅延時間Dを算出してもよい。
本発明の実施形態は前述の実施形態のみに限らず、特許請求の範囲によって規定される本発明の思想に包含されるあらゆる変形例や応用例、均等物が本発明に含まれる。従って本発明は、限定的に解釈されるべきではなく、本発明の思想の範囲内に帰属する他の任意の技術にも適用することが可能である。