一例としては、記録媒体のテンション制御への影響が生じる場合があった。つまり、特許文献1では、記録媒体を支持する支持部材(回転ドラム)より記録媒体の搬送方向の上流側に駆動ローラーが設けられている。また、駆動ローラーより搬送方向の下流側で記録媒体のテンションを検出した結果に基づき記録媒体のテンションを制御することで、支持部材に支持される記録媒体のテンションを制御する。これによって、吐出ヘッドから吐出された液体が着弾する記録媒体のテンションを適切に制御できる。ただし、記録媒体が帯電していると、駆動ローラーの通過の際に記録媒体が駆動ローラーに貼り付く。そして、このような記録媒体の駆動ローラーへの貼り付きが記録媒体のテンションの検出結果に影響するために、記録媒体のテンション制御を適切に行えない場合があった(第1の課題)。
あるいは、別の例としては、吐出ヘッドの汚れに影響が生じる場合があった。つまり、記録媒体が帯電していると、吐出ヘッドの記録媒体への対向面にミスト状になった液体が付着しやすいという傾向があった。また、このようなミスト状の液体の吐出ヘッドへの付着は、記録媒体の除電により容易に解消できない事情もあった。
つまり、記録媒体の除電には、イオナイザー等の除電器を用いることが考えられる。また、このような除電器としては、配列された複数の電極に交流電圧を印加することで生じたイオンにより除電するものが知られている。ただし、記録媒体のうち電極に対向する部分に偏って多くのイオンが与えられるといった傾向があるため、電極の配列に起因した除電ムラが生じ、吐出ヘッドにおいてこの除電ムラに応じた箇所にミスト状の液体が付着する場合があった(第2の課題)。
また、イオンバランスが不適切であるために、支持部材に支持される記録媒体が十分に除電できず、支持部材に対向する吐出ヘッドにミスト状の液体が付着する場合があった(第3の課題)。
この発明は、上記に鑑みなされたものであり、上述の課題の少なくとも一つを解決する技術の提供を目的とする。
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の態様として実現することが可能である。
本発明の第1態様(印刷装置)は、回転することで記録媒体を所定方向へ駆動する駆動ローラーと、駆動ローラーより所定方向の下流側で記録媒体を支持する支持部材と、支持部材に対向して設けられて支持部材に支持される記録媒体に液体を吐出する吐出ヘッドと、駆動ローラーより所定方向の下流側で記録媒体のテンションを検出した結果に基づき記録媒体のテンションを制御することで支持部材に支持される記録媒体のテンションを調整するテンション制御部と、駆動ローラーより所定方向の上流側で記録媒体を除電する第1除電部とを備えることを特徴とする。
本発明の第2態様(印刷方法)は、駆動ローラーを回転させることで駆動ローラーにより記録媒体を所定方向へ駆動する工程と、駆動ローラーより所定方向の上流側で除電部により記録媒体を除電する工程と、駆動ローラーより所定方向の下流側で記録媒体のテンションを検出した結果に基づき記録媒体のテンションを制御することで支持部材に支持される記録媒体のテンションを調整する工程と、駆動ローラーより所定方向の下流側に設けられた支持部材に支持される記録媒体に、支持部材に対向する吐出ヘッドから液体を吐出する工程とを備えることを特徴とする。
このように構成された本発明(第1態様、第2態様)では、記録媒体を所定方向に駆動する駆動ローラーよりも所定方向の上流側で、記録媒体が除電部により除電される。したがって、駆動ローラーの通過時には記録媒体が除電済みであるため、駆動ローラーへの記録媒体の貼りつきが抑えられている。その結果、駆動ローラーより所定方向の下流側において記録媒体のテンションを的確に検出することができ、記録媒体のテンション制御を適切に行うことが可能となっている。
また、第1除電部より所定方向の上流側で記録媒体へ放電エネルギーを与えることで記録媒体に表面改質処理を行う放電器を備えるように、印刷装置を構成しても良い。つまり、放電器を備えた印刷装置では、記録媒体の帯電量が多くなる傾向にあるため、帯電した記録媒体が駆動ローラーに貼り付くことによるテンション制御への影響も大きくなる。これに対して、駆動ローラーよりも所定方向の上流側で記録媒体を除電部により除電することで、記録媒体のテンション制御を適切に行うことができる。
また、駆動ローラーと吐出ヘッドとの間で記録媒体を除電する第2除電部を備えるように、印刷装置を構成しても良い。こうして、吐出ヘッドに到るまでに記録媒体を2段階で除電することで、記録媒体をしっかりと除電して、記録媒体の帯電に起因してミスト状の液体が吐出ヘッドに付着するのを効果的に抑制できる。
この際、第2除電部は支持部材に対向して設けられているように、印刷装置を構成しても良い。これによって、吐出ヘッドの近傍で記録媒体を除電することができ、記録媒体の帯電に起因してミスト状の液体が吐出ヘッドに付着するのを抑制できる。
また、支持部材の表面が絶縁層で被覆されているように、印刷装置を構成しても良い。つまり、支持部材の表面が導電性を有する場合、支持部材のうち記録媒体に隠れていない部分に除電部で生じたイオンが向かい、記録媒体にしっかりとイオンを付与できないおそれがある。これに対して、支持部材の表面を絶縁層で被覆することで、除電部で生じたイオンを記録媒体にしっかりと付与して、記録媒体をより確実に除電することができる。
また、第1除電部および第2除電部は、配列された複数の電極に交流電圧を印加することで生じたイオンを記録媒体に与えることで記録媒体を除電し、第1除電部の電極に印加される交流電圧によって記録媒体に生じる交流電圧の振幅より、第2除電部の電極に印加される交流電圧によって記録媒体に生じる交流電圧の振幅が小さいように、印刷装置を構成しても良い。
かかる構成では、記録媒体が搬送される所定方向において、上流側に配置された第1除電部と下流側に配置された第2除電部とが設けられている。また、第1除電部の電極に印加される交流電圧によって、記録媒体には比較的大きな振幅の交流電圧が生じる。そのため、イオンが密に付与される部分とイオンが疎に付与される部分との間でイオンの付与量に大きな差が生じ、第1除電部により除電された記録媒体には除電ムラが生じやすい。これに対して、第2除電部が第1除電部による除電後の記録媒体をさらに除電する。しかも、第2除電部の電極に印加される交流電圧によって記録媒体に生じる交流電圧の振幅は比較的小さい。したがって、第1除電部に比較して第2除電部は記録媒体を一様に除電することができ、第1除電部による除電後の記録媒体の除電ムラを緩和することが可能となっている。その結果、吐出ヘッドにミスト状の液体が付着するのを抑制することができる。
この際、第1除電部は、記録媒体の一方面側に設けられた複数の電極と、記録媒体の他方面側に設けられた複数の電極とを有し、一方面側の複数の電極に印加する交流電圧の位相と他方面側の複数の電極に印加する交流電圧の位相とが180度異なるように、印刷装置を構成しても良い。あるいは、第1除電部の電極と記録媒体との間隔が第2除電部の電極と記録媒体との間隔より狭いように、印刷装置を構成しても良い。これらの印刷装置では、第1除電部の電極に印加される交流電圧によって、記録媒体には比較的大きな振幅の交流電圧が生じることとなる。そこで、上記のように第2除電部を設けることで、第1除電部による除電後の記録媒体の除電ムラを緩和することが好適となる。
また、第1除電部で複数の電極が配列されるピッチと、第2除電部で複数の電極が配列されるピッチとが異なるように、印刷装置を構成しても良い。こうして、電極が配列されるピッチを第1除電部と第2除電部とで異ならせることで、第1除電部による除電後の記録媒体の除電ムラを第2除電部により効果的に緩和することができる。
また、第1除電部のイオンバランスを調整する調整部と、支持部材に支持される記録媒体の電位を検出する電位検出器とを備えるように、印刷装置を構成しても良い。かかる構成では、支持部材に支持される記録媒体の電位の検出結果を確認しつつ除電部のイオンバランスを調整することができる。したがって、イオンバランスを適切化することが可能となっている。その結果、吐出ヘッドにミスト状の液体が付着するのを抑制することができる。
この際、電位検出器の検出結果に基づき調整部に第1除電部のイオンバランスを調整させることで第1除電部のイオンバランスを制御するバランス制御部を備えるように、印刷装置を構成しても良い。かかる構成では、バランス制御部によってイオンバランスを自動的に適切化することができる。
あるいは、電位検出器の検出結果を示す表示部と、入力操作に応じて調整部に第1除電部のイオンバランスを調整させるバランス制御部とを備えるように、印刷装置を構成しても良い。かかる構成では、ユーザーが表示部に表示された電位検出器の検出結果を確認しながら入力操作を行ってイオンバランスを適切化することができる。
本発明の第3態様(印刷装置)は、記録媒体を所定方向へ搬送する搬送部と、記録媒体を支持する支持部材と、支持部材に対向して設けられて支持部材に支持される記録媒体に液体を吐出する吐出ヘッドと、吐出ヘッドより所定方向の上流側に設けられて、配列された複数の電極に交流電圧を印加することで生じたイオンを記録媒体に与えることで記録媒体を除電する第1除電部と、第1除電部と吐出ヘッドとの間に設けられて、配列された複数の電極に交流電圧を印加することで生じたイオンを記録媒体に与えることで記録媒体を除電する第2除電部とを備え、第1除電部の電極に印加される交流電圧によって記録媒体に生じる交流電圧の振幅より、第2除電部の電極に印加される交流電圧によって記録媒体に生じる交流電圧の振幅が小さいことを特徴とする。
本発明の第4態様(印刷装置)は、記録媒体を所定方向へ搬送する工程と、支持部材に対向して設けられた吐出ヘッドから支持部材に支持される記録媒体に液体を吐出する工程と、吐出ヘッドより所定方向の上流側に設けられた第1除電部に配列された複数の電極に交流電圧を印加することで生じたイオンを記録媒体に与えることで記録媒体を除電する工程と、第1除電部と吐出ヘッドとの間に設けられた第2除電部に配列された複数の電極に交流電圧を印加することで生じたイオンを記録媒体に与えることで記録媒体を除電する工程とを備え、第1除電部の電極に印加される交流電圧によって記録媒体に生じる交流電圧の振幅より、第2除電部の電極に印加される交流電圧によって記録媒体に生じる交流電圧の振幅が小さいことを特徴とする。
このように構成された本発明(第3態様、第4態様)では、記録媒体が搬送される所定方向において、上流側に配置された第1除電部と下流側に配置された第2除電部とが設けられている。また、第1除電部の電極に印加される交流電圧によって、記録媒体には比較的大きな振幅の交流電圧が生じる。そのため、イオンが密に付与される部分とイオンが疎に付与される部分との間でイオンの付与量に大きな差が生じ、第1除電部により除電された記録媒体には除電ムラが生じやすい。これに対して、第2除電部が第1除電部による除電後の記録媒体をさらに除電する。しかも、第2除電部の電極に印加される交流電圧によって記録媒体に生じる交流電圧の振幅は比較的小さい。したがって、第1除電部に比較して第2除電部は記録媒体を一様に除電することができ、第1除電部による除電後の記録媒体の除電ムラを緩和することが可能となっている。その結果、吐出ヘッドにミスト状の液体が付着するのを抑制することができる。
本発明の第5態様(印刷装置)は、記録媒体を所定方向へ搬送する搬送部と、記録媒体を支持する支持部材と、支持部材に対向して設けられて支持部材に支持される記録媒体に液体を吐出する吐出ヘッドと、吐出ヘッドより所定方向の上流側に設けられて、配列された電極に交流電圧を印加することで生じたイオンを記録媒体に与えることで記録媒体を除電する除電部と、除電部のイオンバランスを調整する調整部と、支持部材に支持される記録媒体の電位を検出する電位検出器とを備えたことを特徴とする。
本発明の第6態様(印刷方法)は、記録媒体を所定方向へ搬送する工程と、支持部材に対向して設けられた吐出ヘッドから支持部材に支持される記録媒体に液体を吐出する工程と、吐出ヘッドより所定方向の上流側に設けられた除電部に配列された電極に交流電圧を印加することで生じたイオンを記録媒体に与えることで記録媒体を除電する工程と、支持部材に支持される記録媒体の電位を検出する工程と、検出された電位に基づき除電部のイオンバランスを調整する工程とを備えたことを特徴とする。
このように構成された本発明(第5態様、第6態様)では、支持部材に支持される記録媒体の電位の検出結果を確認しつつ除電部のイオンバランスを調整することができる。したがって、イオンバランスを適切化することが可能となっている。その結果、吐出ヘッドにミスト状の液体が付着するのを抑制することができる。
なお、上述した本発明の各態様の有する複数の構成要素はすべてが必須のものではなく、上述の課題の一部又は全部を解決するため、あるいは、本明細書に記載された効果の一部又は全部を達成するために、適宜、前記複数の構成要素の一部の構成要素について、その変更、削除、新たな他の構成要素との差し替え、限定内容の一部削除を行うことが可能である。また、上述の課題の一部又は全部を解決するため、あるいは、本明細書に記載された効果の一部又は全部を達成するために、上述した本発明の一形態に含まれる技術的特徴の一部又は全部を上述した本発明の他の形態に含まれる技術的特徴の一部又は全部と組み合わせて、本発明の独立した一形態とすることも可能である。
図1は本発明を適用したプリンターが備える内部構成の一例を模式的に示す正面図である。図1に示すように、プリンター1では、その両端が繰出軸20および巻取軸40にロール状に巻き付けられた1枚のシートS(ウェブ)が、繰出軸20と巻取軸40の間に張架されており、シートSはこうして張架された搬送経路Pcに沿って、繰出軸20から巻取軸40へと搬送される。換言すれば、シートSの両端のそれぞれがロール状に巻かれて繰出ロールR20および巻取ロールR40が形成されており、繰出軸20に軸支された繰出ロールR20から巻取軸40に軸支された巻取ロールR40へ向かう搬送方向Dsに沿って、シートSがロール・トゥ・ロールで搬送される。
そして、プリンター1では、この搬送方向Dsに搬送されるシートSに対して画像が記録される。シートSの種類は、紙系とフィルム系に大別される。具体例を挙げると、紙系には上質紙、キャスト紙、アート紙、コート紙等があり、フィルム系には合成紙、PET(Polyethylene terephthalate)、PP(polypropylene)等がある。概略的には、プリンター1は、繰出軸20からシートSを繰り出す繰出部2(繰出領域)と、繰出部2から繰り出されたシートSに画像を記録するプロセス部3(プロセス領域)と、プロセス部3で画像の記録されたシートSを巻取軸40に巻き取る巻取部4(巻取領域)とを備える。なお、以下の説明では、シートSの両面のうち、記録ヘッド51と対向する側の面を表面と称する一方、その逆側の面を裏面と称する。
繰出部2は、シートSの端を巻き付けた繰出軸20と、繰出軸20から引き出されたシートSを巻き掛ける従動ローラー21とを有する。繰出軸20は、シートSの表面を外側に向けた状態で、シートSの端を巻き付けて支持する。そして、繰出軸20が図1の時計回りに回転することで、繰出軸20に巻き付けられたシートSが従動ローラー21を経由してプロセス部3へと繰り出される。ちなみに、シートSは、繰出軸20に着脱可能な芯管22を介して繰出軸20に巻き付けられている。したがって、繰出軸20のシートSが使い切られた際には、ロール状のシートSが巻き付けられた新たな芯管22を繰出軸20に装着して、繰出軸20のシートSを取り換えることが可能となっている。
また、繰出部2では、シートSの搬送方向Dsにおける繰出軸20と従動ローラー21との間に、コロナ処理器7が配置されている。コロナ処理器7は、繰出軸20から従動ローラー21に到るシートSを裏面側から巻き掛ける支持ローラー71と、シートSを介して支持ローラー71の表面に対向するコロナ放電器73とを有する。支持ローラー71は接地されており、アース電極として機能する。一方、コロナ放電器73は、コロナ放電電極731と、コロナ放電電極731を覆う電極カバー733とを有する。コロナ放電電極731は、シートSを介して支持ローラー71に対向して配置され、電圧印加を受けると支持ローラー71との間にコロナ放電を起こす。こうしてコロナ放電のエネルギーが支持ローラー71に巻き掛けられたシートSの表面に与えられることで、シートSの表面にコロナ処理(表面改質処理)が施される。
さらに、繰出部2は、従動ローラー21より搬送方向Dsの下流側に設けられた第1除電部81を有する。この第1除電部81は、シートSの表面に対向する表面イオナイザー82と、シートSの裏面に対向する裏面イオナイザー83とを有し、これらのイオナイザー82、83によりシートSを除電する。このように、繰出部2は、コロナ処理器7により表面改質処理を受けた後に第1除電部81により除電されたシートSをプロセス部3へと繰り出す。
プロセス部3は、繰出部2から繰り出されたシートSを回転ドラム30で支持しつつ、回転ドラム30の外周面に沿って配置された各機能部51、52、61、62、63により処理を適宜行って、シートSに画像を記録するものである。このプロセス部3では、回転ドラム30の両側に前駆動ローラー31と後駆動ローラー32とが設けられており、前駆動ローラー31から後駆動ローラー32へと搬送されるシートSが回転ドラム30に支持されて、画像記録を受ける。
前駆動ローラー31は、溶射によって形成された複数の微小突起を外周面に有しており、繰出部2から繰り出されたシートSを裏面側から支持する。そして、前駆動ローラー31は図1の時計回りに回転することで、繰出部2から繰り出されたシートSを搬送方向Dsの下流側へと搬送する。なお、前駆動ローラー31に対してはニップローラー31nが設けられている。このニップローラー31nは、前駆動ローラー31側へ付勢された状態でシートSの表面に当接しており、前駆動ローラー31との間でシートSを挟み込む。これによって、前駆動ローラー31とシートSの間の摩擦力が確保され、前駆動ローラー31によるシートSの搬送を確実に行なうことができる。
回転ドラム30は図示を省略する支持機構により回転可能に支持された、例えば400[mm]の直径を有する円筒形状のドラムであり、前駆動ローラー31から後駆動ローラー32へと搬送されるシートSを裏面側から巻き掛ける。この回転ドラム30は、シートSとの間の摩擦力を受けてシートSの搬送方向Dsに従動回転しつつ、シートSを裏面側から支持するものである。ちなみに、プロセス部3では、回転ドラム30への巻き掛け部の両側でシートSを折り返す従動ローラー33、34が設けられている。これらのうち従動ローラー33は、前駆動ローラー31と回転ドラム30の間でシートSの表面を巻き掛けて、シートSを折り返す。一方、従動ローラー34は、回転ドラム30と後駆動ローラー32の間でシートSの表面を巻き掛けて、シートSを折り返す。このように、回転ドラム30に対して搬送方向Dsの上・下流側それぞれでシートSを折り返すことで、回転ドラム30へのシートSの巻き掛け部を長く確保することができる。
後駆動ローラー32は、溶射によって形成された複数の微小突起を外周面に有しており、回転ドラム30から従動ローラー34を経由して搬送されてきたシートSを裏面側から支持する。そして、後駆動ローラー32は図1の時計回りに回転することで、シートSを巻取部4へと搬送する。なお、後駆動ローラー32に対してはニップローラー32nが設けられている。このニップローラー32nは、後駆動ローラー32側へ付勢された状態でシートSの表面に当接しており、後駆動ローラー32との間にシートSを挟み込む。これによって、後駆動ローラー32とシートSの間の摩擦力が確保され、後駆動ローラー32によるシートSの搬送を確実に行なうことができる。
このように、前駆動ローラー31から後駆動ローラー32へと搬送されるシートSは、回転ドラム30の外周面に支持される。そして、プロセス部3では、回転ドラム30に支持されるシートSの表面に対してカラー画像を記録するために、互いに異なる色に対応した複数の記録ヘッド51が設けられている。具体的には、イエロー、シアン、マゼンタおよびブラックに対応する4個の記録ヘッド51が、この色順で搬送方向Dsに並ぶ。各記録ヘッド51は、回転ドラム30に巻き掛けられたシートSの表面に対して若干のクリアランスを空けて対向しており、対応する色のインク(有色インク)をノズルからインクジェット方式で吐出する。そして、搬送方向Dsへ搬送されるシートSに対して各記録ヘッド51がインクを吐出することで、シートSの表面にカラー画像が形成される。
ちなみに、インクとしては、紫外線(光)を照射することで硬化するUV(ultraviolet)インク(光硬化性インク)が用いられる。そこで、プロセス部3では、インクを硬化させてシートSに定着させるために、UV照射器61、62(光照射部)が設けられている。なお、このインク硬化は、仮硬化と本硬化の二段階に分けて実行される。複数の記録ヘッド51の各間には、仮硬化用のUV照射器61が配置されている。つまり、UV照射器61は少ない積算光量の紫外線を照射することで、インクの形状が崩れない程度にインクを硬化(仮硬化)させるものであり、インクを完全に硬化させるものではない。一方、複数の記録ヘッド51に対して搬送方向Dsの下流側には、本硬化用のUV照射器62が設けられている。つまり、UV照射器62は、UV照射器61より多い積算光量の紫外線を照射することで、インクを完全に硬化(本硬化)させるものである。
このように、複数の記録ヘッド51の各間に配置されたUV照射器61が、搬送方向Dsの上流側の記録ヘッド51からシートSに吐出された有色インクを仮硬化させる。したがって、一の記録ヘッド51がシートSに吐出したインクは、搬送方向Dsの下流側で一の記録ヘッド51に隣接する記録ヘッド51に到るまでに仮硬化される。これによって、異なる色の有色インクが混ざり合うといった混色の発生が抑制される。こうして混色が抑制された状態で、複数の記録ヘッド51は互いに異なる色の有色インクを吐出して、シートSにカラー画像を形成する。さらに、複数の記録ヘッド51より搬送方向Dsの下流側では、本硬化用のUV照射器62が設けられている。そのため、複数の記録ヘッド51により形成されたカラー画像は、UV照射器62により本硬化されてシートSに定着する。
さらに、UV照射器62に対して搬送方向Dsの下流側には、記録ヘッド52が設けられている。この記録ヘッド52は、回転ドラム30に巻き掛けられたシートSの表面に対して若干のクリアランスを空けて対向しており、透明のUVインクをノズルからインクジェット方式でシートSの表面に吐出する。つまり、4色分の記録ヘッド51によって形成されたカラー画像に対して、透明インクがさらに吐出される。この透明インクは、カラー画像の全面に吐出されて、光沢感あるいはマット感といった質感をカラー画像に与える。また、記録ヘッド52に対して搬送方向Dsの下流側には、UV照射器63が設けられている。このUV照射器63は強い紫外線を照射することで、記録ヘッド52が吐出した透明インクを完全に硬化(本硬化)させるものである。これによって、透明インクをシートS表面に定着させることができる。
ところで、このように記録ヘッド51、52からインクを吐出することでシートSに画像を記録するプリンター1では、シートSの帯電量が多いと、記録ヘッド51、52のうちシートSに対向する面にミスト状のインクが多量に付着する傾向がある。上述のとおり、繰出部2には第1除電部81が設けられているため、シートSの帯電はある程度抑えられている。ただし、このプロセス部3では、ミスト状インクの記録ヘッド51、52への付着をより確実に抑制するために、第2除電部85が設けられている。この第2除電部85は、搬送方向Dsにおいて最上流の記録ヘッド51より上流側で(換言すれば、搬送方向Dsにおいて従動ローラー33と最上流の記録ヘッド51との間で)、シートSの表面に対向する表面イオナイザー86を有する。そして、この表面イオナイザー86によってシートSが除電される。さらにプロセス部3では、シートSの除電の効果を確認するために、シートSの表面の電位を検出する電位センサーS30が設けられている。この回転ドラム30は、搬送方向Dsにおいて第2除電部85と最上流の記録ヘッド51との間で、回転ドラム30に巻き掛けられたシートSの表面の電位を検出する。
このように、プロセス部3では、回転ドラム30の外周部に巻き掛けられるシートSに対して、インクの吐出および硬化が適宜実行されて、透明インクでコーティングされたカラー画像が形成される。この際、プロセス部3においてカラー画像の印刷を受けるシートSは、記録ヘッド51、52の対向部分に到達する前に予め表面改質処理を受けている。こうして表面改質処理の施されたシートSに対してインクを吐出することでカラー画像が形成されるため、良質なカラー画像を形成することが可能となっている。また、シートSは、記録ヘッド51、52の対向部分に到達する前に除電されている。そのため、シートSの帯電量が多いために記録ヘッド51、52に多量のミスト状のインクが付着するのを抑制しつつ、シートSにカラー画像を形成することができる。そして、このカラー画像の形成されたシートSが、後駆動ローラー32によって巻取部4へと搬送される。
巻取部4は、シートSの端を巻き付けた巻取軸40の他に、巻取軸40と後駆動ローラー32の間でシートSを裏面側から巻き掛ける従動ローラー41を有する。巻取軸40は、シートSの表面を外側に向けた状態で、シートSの端を巻き取って支持する。つまり、巻取軸40が図1の時計回りに回転すると、後駆動ローラー32から搬送されてきたシートSが従動ローラー41を経由して巻取軸40に巻き取られる。ちなみに、シートSは、巻取軸40に着脱可能な芯管42を介して巻取軸40に巻き取られる。したがって、巻取軸40に巻き取られたシートSが満杯になった際には、芯管42ごとシートSを取り外すことが可能となっている。
ところで、上述のとおりプリンター1は、繰出部2に配置された第1除電部81と、プロセス部3に配置された第2除電部85とを有する。続いては、これら第1・第2除電部81、85の構成について説明する。図2は第1除電部の構成を模式的に示す説明図であり、図3は第2除電部の構成を模式的に示す図である。なお、図2では第1除電部81以外にシートSが併記され、図3では第2除電部85以外にシートSおよび回転ドラム30が併記されている。また、両図に示される幅方向Dwは、搬送方向Dsに直交して回転ドラム30の表面に平行な方向であり、換言すれば回転ドラム30の回転軸に平行な方向である。
図2に示すように、第1除電部81は、シートSの表面側に配置された表面イオナイザー82と、シートSの裏面側に配置された裏面イオナイザー83とを有する。表面イオナイザー82では、シートSの表面に間隔d82を空けて対向する複数の放電針821が幅方向Dwに平行に等ピッチP82で一列に並ぶ。また、裏面イオナイザー83では、シートSの裏面に間隔d83を空けて対向する複数の放電針831が幅方向Dwに平行に等ピッチP83で一列に並ぶ。ここで、間隔d82と間隔d83とは互いに等しく、ピッチP82とピッチP83とは互いに等しい。そして、一の放電針821と一の放電針831とがシートSを挟んで対向するように、表面イオナイザー82と裏面イオナイザー83とが相互に位置決めされている。また、複数の放電針821の列および複数の放電針831の列がシートSよりも幅方向Dwの両側に突出するように、表面イオナイザー82および裏面イオナイザー83がシートSの搬送経路Pcに対して位置決めされている。
図3に示すように、第2除電部85は、シートSの表面側に配置された表面イオナイザー86を有する。表面イオナイザー86では、シートSの表面に間隔d86を空けて対向する複数の放電針861が幅方向Dwに平行に等ピッチP86で一列に並ぶ。ここで、間隔d86は間隔d82および間隔d83よりも広く(d86>d82=d83)、ピッチP86はピッチP82およびピッチP83よりも広い(P86>P82=P83)。複数の放電針861の列がシートSよりも幅方向Dwの両側に突出するように、表面イオナイザー86はシートSの搬送経路Pcに対して位置決めされている。また、回転ドラム30は、複数の放電針861の列およびシートSよりも幅方向Dwの両側に突出するように位置決めされている。ちなみに、回転ドラム30の表面(周面)の全域は、アルマイト処理により形成された黒色の絶縁層で被覆されている。したがって、回転ドラム30の表面のうちシートSで覆われずに放電針861に対して露出するシートSの両側部分は、絶縁層により被覆されている。
以上がプリンター1の装置構成の概要である。続いて、プリンター1を制御する電気的構成について説明を行なう。図4は図1に示すプリンターを制御する電気的構成を示すブロック図である。プリンター1は、装置各部を統括的に制御するプリンター制御部100を有する。このプリンター制御部100はCPU(Central Processing Unit)やメモリーにより構成されたコンピューターである。
また、プリンター1はUI (User Interface) 9を備える。このUI9は、液晶ディスプレー等で構成されるモニターと、キーボードやマウス等で構成される入力操作部とを有する。そして、UI9のモニターには、印刷対象の画像の他にメニュー画面が表示される。したがって、ユーザーは、UI9のモニターを確認しつつUI9の入力操作部を操作することで、メニュー画面から印刷設定画面を開いて、印刷媒体の種類、印刷媒体のサイズ、印刷品質等の各種の印刷条件を設定することができる。なお、UI9の具体的構成は種々の変形が可能であり、例えばタッチパネル式のディスプレーをモニターとして用い、このモニターのタッチパネルで入力操作部を構成しても良い。そして、プリンター制御部100は、外部装置からの指令やUI9への入力操作に応じて、記録ヘッド、UV照射器およびシート搬送系の装置各部を次にようにして制御する。
プリンター制御部100は、カラー画像を形成する各記録ヘッド51のインク吐出タイミングを、シートSの搬送に応じて制御する。具体的には、このインク吐出タイミングの制御は、回転ドラム30の回転軸に取り付けられて、回転ドラム30の回転位置を検出するドラムエンコーダーE30の出力(検出値)に基づいて実行される。つまり、回転ドラム30はシートSの搬送に伴って従動回転するため、回転ドラム30の回転位置を検出するドラムエンコーダーE30の出力を参照すれば、シートSの搬送位置を把握することができる。そこで、プリンター制御部100は、ドラムエンコーダーE30の出力からpts(print timing signal)信号を生成し、このpts信号に基づいて各記録ヘッド51のインク吐出タイミングを制御することで、各記録ヘッド51が吐出したインクを搬送されるシートSの目標位置に着弾させて、カラー画像を形成する。
また、記録ヘッド52が透明インクを吐出するタイミングも、同様にドラムエンコーダーE30の出力に基づいてプリンター制御部100により制御される。これによって、複数の記録ヘッド51によって形成されたカラー画像に対して、透明インクを的確に吐出することができる。さらに、UV照射器61、62、63の点灯・消灯のタイミングや照射光量もプリンター制御部100によって制御される。
また、プリンター制御部100は、図1を用いて詳述したシートSの搬送を制御する機能を司る。つまり、シート搬送系を構成する部材のうち、繰出軸20、前駆動ローラー31、後駆動ローラー32および巻取軸40それぞれにはモーターが接続されている。そして、プリンター制御部100はこれらのモーターを回転させつつ、各モーターの速度やトルクを制御して、シートSの搬送を制御する。このシートSの搬送制御の詳細は次のとおりである。
プリンター制御部100は、繰出軸20を駆動する繰出モーターM20を回転させて、繰出軸20から前駆動ローラー31にシートSを供給する。この際、プリンター制御部100は、繰出モーターM20のトルクを制御して、繰出軸20から前駆動ローラー31までのシートSのテンション(繰出テンションTa)を調整する。つまり、繰出軸20と前駆動ローラー31の間に配置された従動ローラー21には、繰出テンションTaを検出するテンションセンサーS21が取り付けられている。このテンションセンサーS21は、例えばシートSから受ける力を検出するロードセルによって構成することができる。そして、プリンター制御部100は、テンションセンサーS21の検出結果に基づいて、繰出モーターM20のトルクをフィードバック制御して、シートSの繰出テンションTaを調整する。
また、プリンター制御部100は、前駆動ローラー31を駆動する前駆動モーターM31と、後駆動ローラー32を駆動する後駆動モーターM32とを回転させる。これによって、繰出部2から繰り出されたシートSがプロセス部3を通過する。この際、前駆動モーターM31に対しては速度制御が実行される一方、後駆動モーターM32に対してはトルク制御が実行される。つまり、プリンター制御部100は、前駆動モーターM31のエンコーダー出力に基づいて、前駆動モーターM31の回転速度を一定に調整する。これによって、シートSは、前駆動ローラー31によって一定速度で搬送される。
一方、プリンター制御部100は、後駆動モーターM32のトルクを制御して、前駆動ローラー31から後駆動ローラー32までのシートSのテンション(プロセステンションTb)を調整する。つまり、回転ドラム30と後駆動ローラー32の間に配置された従動ローラー34には、プロセステンションTbを検出するテンションセンサーS34が取り付けられている。このテンションセンサーS34は、例えばシートSから受ける力を検出するロードセルによって構成することができる。そして、プリンター制御部100は、テンションセンサーS34の検出結果に基づいて、後駆動モーターM32のトルクをフィードバック制御して、シートSのプロセステンションTbを調整する。
また、プリンター制御部100は、巻取軸40を駆動する巻取モーターM40を回転させて、後駆動ローラー32が搬送するシートSを巻取軸40に巻き取る。この際、プリンター制御部100は、巻取モーターM40のトルクを制御して、後駆動ローラー32から巻取軸40までのシートSのテンション(巻取テンションTc)を調整する。つまり、後駆動ローラー32と巻取軸40の間に配置された従動ローラー41には、巻取テンションTcを検出するテンションセンサーS41が取り付けられている。このテンションセンサーS41は、例えばシートSから受ける力を検出するロードセルによって構成することができる。そして、プリンター制御部100は、テンションセンサーS41の検出結果に基づいて、巻取モーターM40のトルクをフィードバック制御して、シートSの巻取テンションTcを調整する。
また、プリンター制御部100は、コロナ処理器7を制御する機能も担っている。具体的には、プリンター制御部100は、コロナ放電器73が備えるコロナ放電電極731へ供給する電圧を調整する。これによって、コロナ処理に供するエネルギーを調整して、シートSに対するインクの濡れ性を適切化することができる。
さらに、プリンター制御部100は第1除電部81および第2除電部85を制御することでシートSへの除電処理を適切化する。特に次に示す除電処理の第1制御例では、プリンター制御部100はドラムエンコーダーE30がシートSの表面電位を検出した結果に基づき第1除電部81および第2除電部85を制御する。
図5はシートの除電処理の第1制御例を実行する構成を示すブロック図である。同図に示すように、プリンター制御部100は、第1除電部81の表面イオナイザー82が有する各放電針821に電圧を供給する電源部110と、第1除電部81の裏面イオナイザー83が有する各放電針831に電圧を供給する電源部120と、第2除電部85の表面イオナイザー86が有する各放電針861に電圧を供給する電源部130とを有する。
電源部110は、直流電源111と、交流電源112と、直流電源111の出力に交流電源112の出力を加算するアンプ113とを有し、アンプ113の出力電圧が第1除電部81の放電針821に供給される。これによって、放電針821には、直流電源111の出力電圧がバイアス電圧として与えられるとともに、このバイアス電圧を中心として交流電源112が出力する交流電圧が与えられる。これにより、放電針821は、バイアス電圧を基準(中心)に振動する交流電圧の供給に応じて、正のイオンおよび負のイオンを交互に周期的に放出する。
電源部120は、直流電源121と、交流電源122と、直流電源121の出力に交流電源122の出力を加算するアンプ123とを有し、アンプ123の出力電圧が第1除電部81の放電針831に供給される。これによって、放電針831には、直流電源121の出力電圧がバイアス電圧として与えられるとともに、このバイアス電圧を中心として交流電源122が出力する交流電圧が与えられる。これにより、放電針831は、バイアス電圧を基準(中心)に振動する交流電圧の供給に応じて、正のイオンおよび負のイオンを交互に周期的に放出する。
この際、直流電源111が出力する直流電圧と直流電源121が出力する直流電圧とは等しく、放電針821と放電針831とは同じ直流電圧にバイアスされる。また、交流電源112が出力する交流電圧と、交流電源122が出力する交流電圧とは、互いに等しい振幅と周波数とを有する。ただし、交流電源112が出力する交流電圧の位相と、交流電源122が出力する交流電圧の位相とは180度異なっている。これによって、放電針821と放電針831とのそれぞれには、バイアス電圧を中心に互いに反転した電圧が供給される。その結果、第1除電部81の各放電針821、831から放出されるイオンをシートSに効率的に供給することが可能となっている。
電源部130は、直流電源131と、交流電源132と、直流電源131の出力に交流電源132の出力を加算するアンプ133とを有し、アンプ133の出力電圧が第2除電部85の放電針861に供給される。これによって、放電針861には、直流電源131の出力電圧がバイアス電圧として与えられるとともに、このバイアス電圧を中心として交流電源132が出力する交流電圧が与えられる。これにより、放電針861は、バイアス電圧を基準(中心)に振動する交流電圧の供給に応じて、正のイオンおよび負のイオンを交互に周期的に放出する。なお、ここの例では、交流電源132が出力する交流電圧の振幅は、交流電源112あるいは交流電源122が出力する交流電圧の振幅の1倍以上で2倍未満に設定されている。
さらに、プリンター制御部100はフィードバック回路140を有しており、フィードバック回路140が電位センサーS30の検出値に基づき電源部110、120それぞれの直流電源111、121の出力電圧、換言すれば放電針821、831のバイアス電圧をフィードバック制御する。具体的には、電位センサーS30が検出する電圧がグランド電位に近づくように、直流電源111、121の出力電圧がフィードバック制御される。これによって、第1除電部81のイオンバランスが調整される。
図6は第1除電部および第2除電部がシートに生じる電圧の時間的変化を模式的に示す図である。同図において、横軸は時間tを示し、縦軸は電圧Vを示す。また、実線で示された曲線が第1除電部81によりシートSに生じる電圧変化を示し、破線で示された曲線が第2除電部85によりシートSに生じる電圧変化を示す。なお、前者の電圧変化は、表面イオナイザー82および裏面イオナイザー83に挟まれた部分のシートSでの電圧変化を計測することにより求めても良いし、放電針821および放電針831それぞれの先端の電圧変化と間隔d82、d83から算出しても良い。また、後者の電圧変化は、表面イオナイザー86が対向する部分のシートSでの電圧変化を計測することにより求めても良いし、放電針861の先端の電圧変化と間隔d86から算出しても良い。交流電源112、交流電源および交流電源132が出力する交流電圧の振幅が上述のように設定された結果、同図に示すように、第1除電部81によりシートSに生じる交流電圧の振幅は、第2除電部85によりシートSに生じる交流電圧の振幅よりも大きい。
以上に説明したように本実施形態では、シートSを搬送方向Dsに駆動する前駆動ローラー31よりも搬送方向Dsの上流側で、シートSが第1除電部81により除電される。したがって、前駆動ローラー31の通過時にはシートSが除電済みであるため、前駆動ローラー31へのシートSの貼りつきが抑えられている。その結果、前駆動ローラー31より搬送方向Dsの下流側のプロセス部3においてシートSのプロセステンションTbを的確に検出することができ、シートSのプロセステンションTbの制御を適切に行うことが可能となっている。特にこの前駆動ローラー31から後駆動ローラー32の間のシートSのプロセステンションTbは、回転ドラム30の周面で記録ヘッド51、52からインクの吐出を受けるシートSのテンションである。したがって、良好な画像記録の観点から、プロセステンションTbは他のテンションTa、Tcよりも重要となる。そのため、プロセステンションTbの制御を適切に行うことができる本実施形態は極めて好適と言える。
また、第1除電部81より搬送方向Dsの上流側でシートSに放電エネルギーを与えることでシートSに表面改質処理を行うコロナ処理器7が設けられている。かかるコロナ処理器7を備えたプリンター1では、シートSの帯電量が多くなる傾向にあるため、帯電したシートSが前駆動ローラー31に貼り付くことによるテンション制御への影響も大きくなる。これに対して、前駆動ローラー31よりも搬送方向Dsの上流側でシートSを第1除電部81により除電することで、シートSのテンション制御を適切に行うことができる。
また、搬送方向Dsにおいて前駆動ローラー31と最上流の記録ヘッド51との間でシートSを除電する第2除電部85が設けられている。こうして、記録ヘッド51に到るまでにシートSを2段階で除電することで、シートSをしっかりと除電して、シートSの帯電に起因してミスト状のインクが記録ヘッド51に付着するのを抑制できる。
しかも、第2除電部85は回転ドラム30に対向して設けられている。これによって、記録ヘッド51の近傍でシートSを除電することができ、シートSの帯電に起因してミスト状のインクが記録ヘッド51に付着するのを効果的に抑制できる。
なお、上記実施形態では、回転ドラム30の表面が絶縁層で被覆されていた。この理由は次の通りである。つまり、回転ドラム30の表面が導電性を有する場合、回転ドラム30の表面のうちシートSに隠れていない部分に第2除電部85で生じたイオンが向かい、シートSにしっかりとイオンを付与できないおそれがある。これに対して本実施形態では、回転ドラム30の表面を絶縁層で被覆することで、第2除電部85で生じたイオンをシートSにしっかりと付与して、シートSをより確実に除電することが可能となっている。
ところで、上記では、シートSの搬送方向Dsにおいて、上流側に配置された第1除電部81と下流側に配置された第2除電部85とが設けられている。また、第1除電部81の放電針821、831に印加される交流電圧によって、シートSには比較的大きな振幅の交流電圧が生じる。そのため、放電針821、831の対向部分のシートSにイオンが集中して付与される傾向にある。その結果、イオンが密に付与される部分とイオンが疎に付与される部分との間でイオンの付与量に大きな差が生じ、第1除電部81により除電されたシートSには除電ムラが生じやすい。これに対して本実施形態では、第2除電部85が第1除電部81による除電後のシートSをさらに除電する。しかも、図6に示したように、第1除電部81の放電針821、831に印加される交流電圧によってシートSに生じる交流電圧の振幅より、第2除電部85の放電針861に印加される交流電圧によってシートSに生じる交流電圧の振幅が小さい。したがって、第1除電部81に比較して第2除電部85はシートSを一様に除電することができ、第1除電部81による除電後のシートSの除電ムラを緩和することが可能となっている。その結果、記録ヘッド51にミスト状の液体が付着するのを抑制することが可能となっている。
この際、第1除電部81は、シートSの表面側に設けられた複数の放電針821と、シートSの裏面側に設けられた複数の放電針831とを有し、表面側の複数の放電針821に印加する交流電圧の位相と裏面側の複数の放電針831に印加する交流電圧の位相とが180度異なっている。かかる構成では、第1除電部81の放電針821、831に印加される交流電圧によって、シートSには比較的大きな振幅の交流電圧が生じることとなる。そこで、上記のように第2除電部85を設けることで、第1除電部81による除電後のシートSの除電ムラを緩和することが好適となる。
また、第1除電部81の放電針821、831とシートSとの間隔d82、d83とが、第2除電部85の放電針861とシートSとの間隔d86より狭い。かかる構成では、第1除電部81の放電針821、831に印加される交流電圧によって、シートSには比較的大きな振幅の交流電圧が生じることとなる。そこで、上記のように第2除電部85を設けることで、第1除電部81による除電後のシートSの除電ムラを緩和することが好適となる。
また、第1除電部81で複数の放電針821、831が配列されるピッチP82、P83と、第2除電部85で複数の放電針861が配列されるピッチP86とが異なっている。このように、放電針821、831、861が配列されるピッチP82、P83、P86を第1除電部81と第2除電部85とで異ならせることで、第1除電部81による除電後のシートSの除電ムラを第2除電部85により効果的に緩和することができる。
また、第1除電部81のイオンバランスを調整する直流電源111、121と、回転ドラム30に支持されるシートSの電位を検出する電位センサーS30とが設けられている。かかる構成では、回転ドラム30に支持されるシートSの電位の検出結果を確認しつつ第1除電部81のイオンバランスを調整することができる。したがって、イオンバランスを適切化することが可能となっている。その結果、記録ヘッド51にミスト状の液体が付着するのを抑制することができる。
特に、電位センサーS30の検出結果に基づき直流電源111、121に第1除電部81のイオンバランスを調整させることで第1除電部81のイオンバランスを制御するフィードバック回路140が設けられている。かかる構成では、フィードバック回路140によってイオンバランスを自動的に適切化することができる。
以上のように、上記実施形態では、プリンター1が本発明の「印刷装置」の一例に相当し、前駆動ローラー31が本発明の「駆動ローラー」の一例に相当し、回転ドラム30が本発明の「支持部材」の一例に相当し、記録ヘッド51、52が本発明の「吐出ヘッド」の一例に相当し、プリンター制御部100、テンションセンサーS34、後駆動ローラー32および後駆動モーターM32が協働して本発明の「テンション制御部」の一例として機能し、第1除電部81が本発明の「第1除電部」の一例に相当し、シートSが本発明の「記録媒体」の一例に相当し、搬送方向Dsが本発明の「所定方向」の一例に相当し、プロセステンションTbが本発明の「テンション」の一例に相当する。また、コロナ処理器7が本発明の「放電器」の一例に相当し、第2除電部85が本発明の「第2除電部」の一例に相当し、放電針821および放電針831が本発明の「第1除電部」の「電極」の一例に相当し、放電針861が本発明の「第2除電部」の「電極」の一例に相当し、間隔d82および間隔d83が本発明の「第1除電部の電極と記録媒体との間隔」の一例に相当し、間隔d86が本発明の「第2除電部の電極と記録媒体との間隔」の一例に相当し、ピッチP82およびピッチP83が本発明の「第1除電部で複数の電極が配列されるピッチ」の一例に相当し、ピッチP86が本発明の「第2除電部で複数の電極が配列されるピッチ」の一例に相当し、直流電源111および直流電源121が本発明の「調整部」の一例に相当し、電位センサーS30が本発明の「電位検出部」の一例に相当し、フィードバック回路140が本発明の「バランス制御部」の一例に相当する。
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したものに対して種々の変更を加えることが可能である。したがって、図7に示すように構成することもできる。ここで、図7はシートの除電処理の第2制御例を実行する構成を示すブロック図である。ここでは、図5に示した構成との違いを中心に説明し、共通する構成については相当符号を付して適宜説明を省略する。ただし、上述と共通する構成を備えることで同様の効果を奏することは言うまでもない。
図7に示す第2制御例では、プリンター制御部100はディスプレー制御回路150を有し、ディスプレー制御回路150は電位センサーS30が検出した電位をUI9のディスプレー91に表示する。したがって、ユーザーはディスプレー91によって回転ドラム30上でのシートSの電位を確認することができる。また、UI9には、直流電源111の出力電位を調整するボリュームツマミ92と、直流電源121の出力電位を調整するボリュームツマミ93とが設けられている。したがって、ユーザーはディスプレー91により回転ドラム30上でのシートSの電位を確認しつつ、ボリュームツマミ92、93を操作することで放電針821、831に供給されるバイアス電圧を調整することができる。
このように、電位センサーS30の検出結果を示すディスプレー91(表示部)と、入力操作に応じて直流電源111、121に第1除電部81のイオンバランスを調整させるボリュームツマミ92、93(バランス制御部)とが具備されている。これによって、ユーザーがディスプレー91に表示された電位センサーS30の検出結果を確認しながらボリュームツマミ92、93に入力操作を行ってイオンバランスを適切化することが可能となっている。
また、第1除電部81の具体的構成を適宜変更しても良い。例えば表面イオナイザー82あるいは裏面イオナイザー83のうちの一方を接地された導体(金属)の平板に置き換えても良いし、あるいは排除しても良い。また、表面イオナイザー82あるいは裏面イオナイザー83のうちの一方を省略して、単一のイオナイザーで第1除電部81を構成することもできる。放電針821、831のピッチP82、P83やシートSとの間隔d82、d83も適宜変更が可能である。さらに、第1除電部81の配置を変更しても良く、例えば支持ローラー71と従動ローラー21との間、あるいは前駆動ローラー31より搬送方向Dsの下流側に第1除電部81を配置しても良い。
また、第2除電部85の具体的構成を適宜変更しても良い。したがって、表面イオナイザー86の放電針861のピッチP86やシートSとの間隔d86も適宜変更が可能である。また、第2除電部85の配置を変更し、あるいは第2除電部85を省略しても構わない。
また、図5の例では、直流電源111、121に対して一括してフィードバック制御を行っていた。しかしながら、直流電源111、121に対して個別にフィードバック制御を行うように構成しても構わない。また、図7の例では、直流電源111、121の出力電位を個別に調整する構成が例示されていた。しかしながら、直流電源111、121の出力電位を一括して調整するように構成しても良い。さらには、電位センサーS30を設けることや、直流電源111、121の出力電位を可変に構成することも必須ではない。
また、上記実施形態では、円筒形状の回転ドラム30でシートSを支持していた。しかしながら、シートSを支持する部材の形状はこれに限られず、例えば平板の表面でシートSを支持しても構わない。