JP6747638B2 - 無塩乃至減塩パン類の製造方法 - Google Patents
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Description
しかしながら、日本人の成人1日の食塩の平均摂取量は、2012年時点で、男性で11.3g、女性で9.6gと、WHOや厚生労働省の摂取目標基準より依然として多く、過剰摂取であり、健康維持のためには、多くの日本人が食塩摂取量を控える必要があるとされている。
食パン1斤分の材料としては、例えば、強力粉250g、有塩バター10g(食塩含量0.16g)、砂糖17g、スキムミルク6g、食塩5g、水180g、ドライイースト2.8gが用いられる。
このため、食塩は、1斤あたり、5.16g程度用いられていることになる。
従って、6枚切りの食パンを1枚食べると、食塩摂取量は約0.86g程度となり、食パンを2枚食べると、パンだけで1.7g以上の食塩を摂取することになり、上記厚生労働省の1日の摂取目標値(男性8.0g/日未満、女性7.0g/日未満)の20%以上(男性で約21%、女性で約24%)を占めることになる。
また、腎臓疾患患者の食塩の摂取量は、健常人より厳しく制限されるため、腎臓疾患患者は、少しでも美味しく食べられる減塩パンや無塩パンを必要としている。
このため、腎臓疾患を持つ人は、パンを食べる機会や食べる量を減らすことを余儀なくされていた。
なお、ここで「テクスチャー」とは、食品の咀嚼や嚥下の過程で、口腔内の触覚により知覚される「食感」を総称するものであって、歯応え、口あたり、舌ざわりといった概念を含む、食品の組織や構造に由来した力学的性質に対する感覚的評価を含む概念である。
(1)パン類の味を調える
(2)パン類の保存性の向上
(3)パン類生地の引き締め
(4)発酵の調節
一般に、食塩濃度を減らしたパン類は、テクスチャーが悪くなり、口の中でネチャネチャする傾向がある。
市販ホームベーカリーの取扱説明書には、「塩を入れないと歯応えに欠けたパンになります。塩には酵素活性を抑える働きがあります。塩がないと酵素が働き、グルテンを切るためパンがうまくできません」という記載も見られる。
また、非特許文献2には、食塩を添加しないパン生地は、生地の密度が高くなり、安定性が悪くなると記載されている。
近年の画像解析研究より、食塩の添加でグルテン構造がより繊維状になったり、βシート構造が増加したりすることがわかっている。これは、塩素イオン(Cl―)の遮蔽効果、或いは、Na+やCl-の静電的効果と考えられている(非特許文献3参照)。
これは、食塩によってイーストの活性が抑制されることで、パン生地発酵中のイーストのタンパク質分解酵素(プロテアーゼ等)活性が抑制されることである。発酵中のパン生地のタンパク質分解酵素活性が強いと、グルテンネットワークが破壊され、イーストが発生するガスを保持できず、パンの内層膜が厚くなり、歯ごたえが悪く、テクスチャーが劣るパンになる(通常の減塩パンや無塩パンの状態)。
逆に、発酵段階でタンパク質分解酵素活性が弱く、グルテンネットワークが強固な場合は、焼成などの加熱調理後の食感が硬くねとつき、口の中に残留感のある口溶けの悪いものとなる。
パンを製造する際に、小麦質量の2%程度の食塩をパン生地に添加すると、イーストのタンパク質分解酵素活性が適度に制御され、発酵中にグルテンネットワークが適度に分解されて品質のよいパンになる。
このため、塩化カリウムの使用は、せいぜい小麦質量の0.25〜0.5%程度までが限度であり、少なくとも残りの1.75〜1.5%は食塩を使用せざるを得ず、さらなる改善が望まれていた。
また、本発明は、上記のような無塩乃至減塩パン類について、そのテクスチャーを改善する方法を提供することを目的とするものである。
さらに、本発明は、パン類製品のテクスチャー・品質に大きな影響を与えることなく、パン類を上記のように無塩乃至減塩化する方法を提供することを目的とするものである。
即ち、食塩による発酵の調節は、食塩の浸透圧でイースト(製パン用酵母)の活性を抑制し、結果的にパンの発酵を抑制、調節することである。これは、食塩によって、イーストの活性が抑制されることで、パン生地発酵中のイーストのタンパク質分解酵素活性が抑制されることである。
発酵中のパン生地のタンパク質分解酵素活性が強すぎると、グルテンネットワークが破壊され、イーストが発生するガスを保持することができず、パンの内層膜が厚くなり、歯応えが悪く、テクスチャーが劣るパンとなってしまう。
逆に、発酵段階でタンパク質分解酵素活性が弱すぎて、グルテンネットワークが強固な場合には、焼成などの加熱調理後の食感が硬くねとつき、口の中に残留感のある口溶けの悪いものとなる。
そこで、小麦質量の2%程度の食塩をパン生地に添加すると、イーストのタンパク質分解酵素活性が適度に制御され(抑制され)、発酵中のグルテンネットワークの分解が適切に制御され(抑制され)、テクスチャー・品質のよいパンとなるのである。
しかしながら、食塩量が少なかったり、或いは食塩を用いない場合には、パン生地調製段階で、グルテンネットワーク形成時に食塩による静電結合ができないためにパン生地が不安定になってしまうのである。
本発明は、食塩濃度を下げることでパン生地が不安定になるにもかかわらず、生地のpHを下げることによって、発酵段階では、2%(通常濃度)の食塩より強く、イーストのタンパク質分解酵素活性が抑制され、グルテンネットワークの過剰な破壊を抑制し、テクスチャー・品質のよいパンを製造する技術を提供するものであって、このような技術は、これまで知られていない。
(1);無塩乃至減塩パン類のテクスチャーを改善するにあたり、pH3.00〜5.81に調整した水、小麦質量の2%以下の食塩及びイーストを含むパン類生地を用いることを特徴とする、無塩乃至減塩パン類のテクスチャーの改善方法に関するものである。
(2);食塩が、小麦質量の1%以下である、前記(1)に記載の方法に関するものである。
また、本発明の無塩乃至減塩パン類のテクスチャーの改善方法によれば、上記のような「減塩パン類」、乃至、「無塩パン類」について、そのテクスチャーを改善する方法が提供される。
さらに、本発明のパン類の無塩乃至減塩化方法によれば、パン類製品のテクスチャー・品質に大きな影響を与えることなく、パン類を、食塩濃度が小麦質量の2%以下、好ましくは2%未満、より好ましくは1%以下、さらに最も好ましくは0%と、無塩乃至減塩化する方法が提供される。
従って、本発明によれば、美味しさを維持しながら、無塩乃至減塩化されたパン類が得られることから、塩分の摂り過ぎに起因する高血圧症などの生活習慣病;胃がん;骨粗しょう症;等の疾患の予防に大きく寄与することができるものと期待される。また、塩分制限の必要がある腎臓疾患患者などが安心して食べられるパンを提供できるものと期待される。
(A):pH2.9〜6.2に調整した水、小麦質量の2%以下の食塩およびイーストを含むパン類生地を製造する、パン類生地製造工程。
(B):前記(A)工程で得られたパン類生地を発酵させる、発酵工程。
(C):前記(B)工程終了後のパン類生地を焼成する、焼成工程。
「食パン」は、パン類品質表示基準に定める「食パン」に準ずるパンで、パン生地を食パン型に入れて焼いたものであって、いわゆる角型食パン、山型食パンがあり、中にレーズンなどを包みこんだものなども含まれる。
「菓子パン」は、パン類品質表示基準に定める「菓子パン」に準ずるパンで、基本的には、「食パン」以外のパン類を指し、例えば、あんパン、ジャムパン、メロンパン、クロワッサン、デニッシュ類、パイ類などが挙げられる。
「その他のパン」は、パン類品質表示基準に定める「その他のパン」に準ずるパン、並びにいわゆる惣菜パン、調理パンを指し、例えば、フランスパン、ロールパン、ライ麦パン、コッペパン、サンドイッチなどが挙げられる。
本発明では、これらのパン類の中でも特に、「食パン」について好適に適用される。
勿論、小麦質量の2%以下の食塩を用いない場合には、そもそも無塩乃至減塩パン類を得ることはできない。
また、pH2.9〜6.2に調整した水を用いたとしても、小麦質量の2%以下の食塩を用いない場合には、膨らみのない又は膨らみの少ない小ぶりなパン類となってしまい、好ましくない。
pH2.9〜6.2に調整した水を用いると共に、小麦質量の2%以下の食塩を用いることにより、通常のパン類に似た大きさ(膨らみ)とテクスチャーを持つパン類が得られる。
但し、pHは、食塩の濃度の高低に依存して、pH2.9〜6.2の範囲で適宜調整する。即ち、食塩含量が少なく食塩濃度が低い場合には、前記範囲内でpHをより低い方(pH2.9に近くなる方)へ設定する。この反対に、食塩含量がより多く食塩濃度がより高い場合には、前記範囲内でpHをより高い方(pH6.2に近くなる方)へ設定する。
ここでpHが2.9未満の水であると、イーストの生育(ガス発酵能やタンパク質分解酵素活性能)に悪影響を与え、食塩量が少ない場合でも、膨らみのない又は膨らみの少ない小ぶりなパン類となってしまい、好ましくない。
一方、pHが6.2を超えた水であると、食塩量を減らした場合に、歯応えのないパンとなってしまうため、好ましくない。
なお、上記有機酸などの材料は、pH調整用のためだけに添加されているわけではないが、少なくとも水のpHを下げる働きがあるものであることから、便宜上、本明細書では、以下、これらを総称して「pH調整用材料」と称することがある。
しかしながら、このようにしてpH2.9〜6.2の範囲に調整した水を用いて、パン類生地製造時におけるpHを下げることにより、捏ね段階で、仮にパン類生地が不安定なものになったとしても、発酵段階で、イーストのタンパク質分解酵素がグルテンネットワークに作用する活性が抑制され、過剰にグルテンネットワークが破壊されることを阻止することができることが分かったものである。
従って、本発明により得られる無塩乃至減塩パン類は、通常のパンと比較しても、パンとしてのテクスチャー・品質が悪くならない。
通常のパンのように、小麦質量の2%程度の食塩をパン生地に添加すると、捏ね段階では、食塩(Na+やCl−)が関与するタンパク分子内の結合ができる。次に、発酵段階では、食塩がイーストのタンパク質分解活性(プロテアーゼ活性)を抑制し、タンパク質分子内の共有結合が切れにくくなり、グルテンネットワークが適度に切断された状態になる。発酵工程である程度グルテンネットワークが切断されることが、次の焼成工程の「窯のび」には重要である。その結果、焼成後は、膨らみがあり、かつ、歯応えのある美味しいパンが得られる。
次に、この状態で、例えば食塩濃度を0%としてしまうと、捏ね段階では、食塩が関与するタンパク分子内の結合ができなくなり不安定な生地になる。次に、発酵段階では、食塩でイーストのタンパク質分解活性(プロテアーゼ活性)を抑制することができなくなり、不安定なグルテンネットワークは、更に切断が進む。その結果、焼成後は内層の厚い歯応えのないパンとなってしまう。
なお、pHを2.9〜6.2に調整した水を使ったにもかかわらず、例えば食塩濃度を2%とした場合には、捏ね段階では、食塩が関与するタンパク分子内の結合ができる。次に、発酵段階では、食塩がイーストのタンパク質分解活性(プロテアーゼ活性)を抑制すると共に、pHを低くしたことにより、イーストのタンパク質分解活性(プロテアーゼ活性)も抑制されることとなり、結局、膨らみの小さいパンとなってしまう。
膨らませたパン類を製造する場合、イーストを用いて発酵させるものと、種を用いて発酵させるものと、発酵させずに膨張剤を用いるものと、があるが、本発明は、このうちのイーストを用いて発酵させる場合に適用される。
イーストとしては、勿論、製パン用イースト、つまり製パン用酵母が用いられる。
イーストとしては、ドライイーストでも、生イーストであっても、いずれも用いることができる。必要に応じて、両者のいずれか又は両方を用いればよい。
また、イーストにイーストフードが含まれていても、本技術を使うパン製造には問題がない。
このようなイーストのガス発生能とグルテン膜切断能との両活性のバランスをとりながら、パンを焼いていることになる。
食塩は、その浸透圧でイースト(パン酵母)の活性を抑制し、結果的にパンの発酵を抑制、調節する(発酵の抑制、調節)作用を有している。
これは、食塩によってイーストの活性が抑制されることで、パン生地発酵中のイーストの二酸化炭素発生活性とタンパク質分解酵素(プロテアーゼ等)活性が抑制されることである。
パンを製造する際に、2%程度の食塩をパン生地に添加すると、イーストのタンパク質分解酵素活性が適度に制御され、発酵中にグルテンネットワークが適度に分解されて品質のよいパンになるのである。
本発明においては、食塩を添加しないことで、パン生地が不安定にはなるものの、pHを下げることで、発酵段階で、タンパク質分解酵素活性がかなり強烈に抑制され、不安定なパン生地でも、相応のグルテンネットワークが残ったままになっており、このため食塩を添加したパンと同程度のテクスチャーが得られるのである。
即ち、本発明におけるパン類生地は、基本的には、pH2.9〜6.2に調整した水、食塩、イースト、パン類用小麦粉とからなり、さらに、必要に応じて、味や風味付けなどのために、砂糖などの糖類、ショートニング、油脂類、卵、牛乳、脱脂粉乳、大豆レシチンなどを用いることもできる。
具体的には、例えば、大豆油、菜種油、コーン油、パーム油、オリーブオイルなどの食用植物油や、バター、牛脂、豚脂などの食用動物油や、ショートニングなどの加工油脂が挙げられ、バター等の固体油脂がより好ましい。
捏ねる時間は、パン類生地が耳たぶくらいの柔らかさになるまで行えばよく、特に限定されないが、通常は、10〜15分間程度である。
ここで発酵工程には、下記に述べるような、一次から三次にわたるような発酵工程があるが、1回のみ発酵を行ってもよい。
この発酵工程は、一般に行われている条件にて行うことができる。発酵は、30〜35℃程度の温度下に行うことが好ましい。
通常は、上記のようにして得られたパン類生地について、丸め等の処理を行った後、一旦、これを寝かせるフロアタイムと呼ばれる一次発酵工程を行い、次いで、一次発酵工程により膨らんだ生地を押えて炭酸ガスを抜き、必要に応じて分割、丸めを行い、これを休ませるベンチタイムと呼ばれる二次発酵工程を行い、さらに成形、型詰めして、これを寝かせるホイロと呼ばれる三次発酵工程が行われるが、必要に応じて、いずれかの発酵工程を省略することもできる。
焼成は、通常行われている焼成条件で行えばよく、特に限定されない。
一般には、180〜250℃程度の温度で、10〜50分間程度焼成する。
焼成手段も、通常行われている焼成手段で行えばよく、例えば、赤外線による加熱、遠赤外線による加熱、過熱蒸気や常圧蒸気による加熱などが挙げられる。
初めに、上記の如き材料を所定量計量し、「ホームベーカリー」に入れると、練り(18分間程度)、イースト添加、寝かし(60分間程度)、練り(9分間程度)、発酵(120分間程度)、焼成(33分間程度)が全自動で行われる。
以上の構成による本発明の第1によれば、パン類製品のテクスチャー・品質に大きな影響を与えることなく、無塩パン類(即ち、食塩含量が0%のパン類)、乃至、食塩含量が1%未満と、これまでの2%より大きく食塩濃度を下げた減塩パン類を製造する方法が提供される。
従って、これらについての説明は、前記した本発明の第1における説明がそのまま参照される。
このテクスチャーは、感覚的評価であり、人間の感覚で評価されるものであるが、パン類の硬さや凝集性などを測ることによって、ある程度評価できるので、以下の実施例では、テクスチャーに関して、動的粘弾性測定装置(レオメーター)を用いて、パン類の硬さや凝集性などを測定し、評価している。
特に、本発明により得られるパンは、焼成してから、2時間後はもとより、24時間後であっても、そのときのパンのテクスチャーが、通常の食塩2%を使用したパンと同等レベルのテクスチャーを保持し、やわらかく、ふんわり、ふわふわした弾力性のある品質良好な無塩乃至減塩パン類となっている。
本発明の第3は、パン類を無塩乃至減塩化するにあたり、pH2.9〜6.2に調整した水、小麦質量の2%以下の食塩およびイーストを含むパン類生地を用いることを特徴とするものであって、基本的には、本発明の第1に記載したと同様のことを行うものである。
従って、本発明の第3についての説明は、前記した本発明の第1における説明がそのまま参照される。
水180mlに、かぼす果汁0.6ml(600μl)を添加してpHを4.3に調整した水(「かぼす果汁を用いたpH調整水」と称することがある)を作成した。
水180mlに、かぼす果汁0.3ml(300μl)を添加してpHを5.4に調整した水(「かぼす果汁を用いたpH調整水」と称することがある)を作成した。
水180mlに、ゆず果汁0.6ml(600μl)を添加してpHを4.2に調整した水(「ゆず果汁を用いたpH調整水」と称することがある)を作成した。
水180mlに、ゆず果汁0.3ml(300μl)を添加してpHを5.1に調整した水(「ゆず果汁を用いたpH調整水」と称することがある)を作成した。
水180mlに、レモン果汁0.1ml(100μl)を添加してpHを3.8に調整した水(「レモン果汁を用いたpH調整水」と称することがある)を作成した。
水25mlに、オレンジ果汁155mlを添加してpHを3.8に調整した水(「オレンジ果汁を用いたpH調整水」と称することがある)を作成した。
水180mlに、クエン酸0.03g(30mg)を添加してpHを4.3に調整した水(「クエン酸を用いたpH調整水」と称することがある)を作成した。
水180mlに、酢酸0.04ml(40μl)を添加してpHを4.3に調整した水(「酢酸を用いたpH調整水」と称することがある)を作成した。
水180mlに、グルコノデルタラクトン0.05g(50mg)を添加してpHを3.1に調整した水(「グルコノデルタラクトンを用いたpH調整水」と称することがある)を作成した。
水175mlに、赤ワイン5mlを添加してpHを4.3に調整した水(「赤ワインを用いたpH調整水」と称することがある)を作成した。
ホームベーカリー(パナソニック社製ホームベーカリー、SD−BH106)を用い、次のようにして食パンの製造を行った。
即ち、作成例1で得られた、かぼす果汁0.6ml(600μl)を用いたpH調整水(pH4.3のもの)、強力粉250g、バター10g、砂糖17g、スキムミルク6g、ドライイースト(スーパーカメリヤ、日清フーズ(株)製)2.8gをホームベーカリーに投入し、後は全自動により、(A)工程(パン類生地製造工程)、(B)工程(発酵工程)、(C)工程(焼成工程)を経て、パンを製造した。
具体的には、ホームベーカリーに投入すると、練り(18分間)、イースト添加、寝かし(60分間)、練り(9分間)、発酵(120分間)、焼成(33分間)が自動的に行われ、食パンが製造された。
製造例1において、作成例2で得られた、かぼす果汁0.3ml(300μl)を用いたpH調整水(pH5.4のもの)を用いたこと以外は、製造例1と同様にして行い、食パンを製造した。
製造例1において、作成例3で得られた、ゆず果汁を用いたpH調整水(pH4.2のもの)を用いたこと以外は、製造例1と同様にして行い、食パンを製造した。
製造例1において、作成例4で得られた、ゆず果汁を用いたpH調整水(pH5.1のもの)を用い、かつ、食塩1%を用いたこと以外は、製造例1と同様にして行い、食パンを製造した。
製造例1において、作成例5で得られた、レモン果汁を用いたpH調整水(pH3.8のもの)を用いたこと以外は、製造例1と同様にして行い、食パンを製造した。
製造例1において、作成例6で得られた、オレンジ果汁を用いたpH調整水(pH3.8のもの)を用いたこと以外は、製造例1と同様にして行い、食パンを製造した。
製造例1において、作成例7で得られた、クエン酸を用いたpH調整水(pH4.3のもの)を用いたこと以外は、製造例1と同様にして行い、食パンを製造した。
製造例1において、作成例8で得られた、酢酸を用いたpH調整水(pH4.3のもの)を用いたこと以外は、製造例1と同様にして行い、食パンを製造した。
製造例1において、作成例9で得られた、グルコノデルタラクトンを用いたpH調整水(pH3.1のもの)を用いたこと以外は、製造例1と同様にして行い、食パンを製造した。
製造例1において、作成例10で得られた、赤ワインを用いたpH調整水(pH4.3のもの)を用いたこと以外は、製造例1と同様にして行い、食パンを製造した。
(1)製造例2で得られたかぼす果汁を用いた無塩パンについて、破断強度試験を行って、パンの物性を測定した。
なお、物性測定は、焼成2時間後と24時間後にそれぞれ行った。このとき、パンは焼成2時間後までは、そのまま放置して温度を下げ、その後は、パンをラップでくるみ、ビニール袋で保存した。保存は、20−26℃の範囲内で行った。
(2)破断強度試験の内容と結果
焼成2時間後と24時間後に、それぞれ動的粘弾性測定装置(RE-3305、山電社製)を用いて、破断強度試験を行った。結果を図1に示す。破断強度試験は、破壊に対する抵抗力を測定するもので、パンを一定の速度で変形させる(歪率(%))ときに必要な力(荷重(gf))を測定して、パンのクラムの硬さを調べることができる。例えば、歪率が25%や80%にするために、必要な荷重が大きいほど、破断強度が大きく、パンは硬いということになる。
なお、比較のために、製造例1において、pHを2.9〜6.2の範囲に調整した水を用いることなく、水(pH7.6)180mlを用いて、食塩濃度2%、食塩濃度1%、食塩濃度0%にて同様に製造したパンについて、それぞれ破断強度試験を行った。結果を、それぞれ図2、図3、図4に示す。
これに対して、図1からは、食塩濃度が0%であっても、かぼす果汁を用いることにより、焼成の24時間後でも破断強度は大きくならず、食塩濃度が2%のときと同レベルとなっていることが分かる。
(1)製造例2で得られたかぼす果汁を用いた無塩パンについて、テクスチャー試験を行って、パンの物性を測定した。
なお、物性測定は、焼成2時間後と24時間後にそれぞれ行った。このとき、パンは焼成2時間後までは、そのまま放置して温度を下げ、その後は、パンをラップでくるみ、ビニール袋で保存した。保存は、20−26℃の範囲内で行った。
(2)テクスチャー試験の内容と結果
焼成2時間後と24時間後に、動的粘弾性測定装置(RE-3305、山電社製)を用いて、テクスチャー試験を行った。結果を図5に示す。
なお、比較のために、製造例2において、pHを2.9〜6.2の範囲に調整した水を用いることなく、水(pH7.6)180mlを用いて、食塩濃度2%、食塩濃度1%、食塩濃度0%にて同様に製造したパンについて、それぞれテクスチャー試験を行った。結果を、それぞれ図6、図7、図8に示す。
(3)テクスチャー試験の凝集性評価
3-1)凝集性は、テクスチャーに関与する食品の力学的特性のひとつである。パンに負荷を加えると変形したり損傷したりするが、負荷を連続で2回加え、1回目と2回目の負荷面積エネルギー比率を調べて、凝集性を評価した。結果を図9に示す。
即ち、製造例1で得られたかぼす果汁を用いた無塩パン;製造例3で得られたゆず果汁を用いた無塩パン;製造例4で得られたゆず果汁を用いた無塩パン;製造例5で得られたレモン果汁を用いた無塩パン;製造例6で得られたオレンジ果汁を用いた無塩パン;製造例7で得られたクエン酸を用いた無塩パン;製造例8で得られた酢酸を用いた無塩パン;製造例9で得られたグルコノデルタラクトンを用いた無塩パン;製造例10で得られた赤ワインを用いた無塩パン;について、それぞれ凝集性を評価し、図9に示した。
なお、比較のために、製造例2において、pHを2.9〜6.2の範囲に調整した水を用いることなく、水(pH7.6)180mlを用いて、食塩濃度2%、食塩濃度1%、食塩濃度0%にて同様に製造したパンについても、凝集性を評価し、図9に示した。
なお、図9において、各例の左側のデータが、焼成2時間後のデータであり、各例の右側のデータが、焼成24時間後のデータである。
3-2)図5〜9によれば、食塩濃度が2%のときと比べて、パンの食塩濃度が、2%から、1%、0%と下がるにつれて、凝集性が減少していることが分かる。
これに対して、食塩濃度が0%であっても、pHを2.9〜6.2の範囲に調整した水を用いることにより、テクスチャー試験のプロファイルや凝集性が、食塩濃度が2%のときと同レベルとなっていることが分かる。
(1)クリープ試験の内容
製造例1、3、4、5、7、8、9、10でそれぞれ得られたパンについて、焼成2時間後と24時間後に、動的粘弾性測定装置(RE-3305、山電社製)を用いて、クリープ試験を行った。
なお、物性測定は、焼成2時間後と24時間後にそれぞれ行った。このとき、パンは焼成2時間後までは、そのまま放置して温度を下げ、その後は、パンをラップでくるみ、ビニール袋で保存した。保存は、20−26℃の範囲内で行った。
クリープ試験では、一定荷重に対する食品の変形量を測定するが、クリープ試験におけるE0値(初期弾性率)を図10に、η1値(遅延粘性率)を図11に、それぞれ示す。
なお、図10、図11において、各例の左側のデータが、焼成2時間後のデータであり、各例の右側のデータが、焼成24時間後のデータである。
また、比較のために、pHを2.9〜6.2の範囲に調整した水を用いることなく、食塩濃度2%、食塩濃度1%、食塩濃度0%にて製造したパンについて、それぞれクリープ試験を行い、そのときのE0値(初期弾性率)を図10に、η1値(遅延粘性率)を図11に示した。
ここで、E0値(初期弾性率)、η1値(遅延粘性率)が、大きくなると、パンのクラムの食感として硬くなることを示している。
図10、図11によれば、パンの食塩濃度が、2%から、1%、0%と下がるにつれて、焼成24時間後のE0値(初期弾性率)、η1値(遅延粘性率)が大きくなっており、パンのクラムの食感として硬くなっていることが分かる。
これに対して、パンの食塩濃度が0%であっても、pHを2.9〜6.2の範囲に調整した水を用いることにより、食塩濃度が低くても、焼成24時間後のE0値(初期弾性率)、η1値(遅延粘性率)が、食塩濃度が2%のときと同レベルとなっていることが分かる。
(1)食パンの製造
製造例1(かぼす果汁を用いた無塩パンの製造)において、ドライイースト(日清フーズ(株)製)2.8gの代わりに、生イーストA(オリエンタル酵母工業(株)製)5.6gを用いたこと以外は、製造例1と同様にして食パンを製造した。
(2)クリープ試験
上記(1)で得られた、生イーストAを使用して製造した食パンについて、実施例3と同様にして、クリープ試験を行った。
「食塩0% かぼす0.6ml(600μl)」として、E0値(初期弾性率)を図12に、η1値(遅延粘性率)を図13に、それぞれ示す。
なお、図12、図13において、各例の左側のデータが、焼成2時間後のデータであり、各例の右側のデータが、焼成24時間後のデータである。
また、比較のために、生イーストAを使用し、かつ、pHを2.9〜6.2の範囲に調整した水を用いることなく、食塩濃度0%にて製造したパンについて、クリープ試験を行った。E0値(初期弾性率)を図12に、η1値(遅延粘性率)を図13に、それぞれ示す。
さらに、参考のために、実施例3でクリープ試験を行った、ドライイーストを使用し、かつ、pHを2.9〜6.2の範囲に調整した水を用いることなく、食塩濃度2%、食塩濃度1%、食塩濃度0%にて製造したパンについて、それぞれクリープ試験を行った。E0値(初期弾性率)を図12に、η1値(遅延粘性率)を図13に、それぞれ示す。従って、このグラフは、図10、図11におけるものと、それぞれ同じものである。
3-1)上記(1)で得られた食パンについて、実施例2と同様にしてテクスチャー試験を行い、凝集性を評価した。結果を図14に示す。
また、比較のために、pHを2.9〜6.2の範囲に調整した水を用いることなく、食塩濃度0%にて製造したパンについても、同様に凝集性を評価し、図14に示した。
さらに参考のために、ドライイーストを使用し、かつ、pHを2.9〜6.2の範囲に調整した水を用いることなく、食塩濃度2%、食塩濃度1%、食塩濃度0%にて製造したパンについても、凝集性を評価し、図14に示した。従って、この図14に示すグラフは、図9におけるものと、それぞれ同じものである。
なお、図14において、各例の左側のデータが、焼成2時間後のデータであり、各例の右側のデータが、焼成24時間後のデータである。
(1)食パンの製造
製造例1において、ドライイースト 日清フーズ(株)製)2.8gの代わりに、生イーストB(日本甜菜精糖(株)製)5.6gを用いたこと以外は、製造例1と同様にして食パンを製造した。
(2)クリープ試験
上記(1)で得られた、生イーストBを使用して製造した食パンについて、実施例3と同様にして、クリープ試験を行った。
「食塩0% かぼす0.6ml(600μl)」として、E0値(初期弾性率)を図12に、η1値(遅延粘性率)を図13に、それぞれ示す。
なお、図12、図13において、各例の左側のデータが、焼成2時間後のデータであり、各例の右側のデータが、焼成24時間後のデータである。
また、比較のために、生イーストBを使用し、かつ、pHを2.9〜6.2の範囲に調整した水を用いることなく、食塩濃度0%にて製造したパンについて、クリープ試験を行った。E0値(初期弾性率)を図12に、η1値(遅延粘性率)を図13に、それぞれ示す。
さらに、参考のために、実施例3でクリープ試験を行った、ドライイーストを使用し、かつ、pHを2.9〜6.2の範囲に調整した水を用いることなく、食塩濃度2%、食塩濃度1%、食塩濃度0%にて製造したパンについて、それぞれクリープ試験を行った。E0値(初期弾性率)を図12に、η1値(遅延粘性率)を図13に、それぞれ示す。従って、このグラフは、図10、図11におけるものと、それぞれ同じものである。
3-1)上記(1)で得られた食パンについて、実施例2と同様にしてテクスチャー試験を行い、凝集性を評価した。結果を図14に示す。
また、比較のために、pHを2.9〜6.2の範囲に調整した水を用いることなく、食塩濃度0%にて製造したパンについても、同様に凝集性を評価し、図14に示した。
さらに、比較のために、ドライイーストを使用し、かつ、pHを2.9〜6.2の範囲に調整した水を用いることなく、食塩濃度2%、食塩濃度1%、食塩濃度0%にて製造したパンについても、凝集性を評価し、図14に示した。
なお、図14において、各例の左側のデータが、焼成2時間後のデータであり、各例の右側のデータが、焼成24時間後のデータである。
3-2)図14によれば、ドライイーストの代わりに、生イーストBを使用した場合にも、pHを2.9〜6.2の範囲に調整した水を用いることにより、食塩濃度が0%であっても、焼成24時間後のテクスチャー試験による凝集性が、食塩濃度が2%のときと同レベルとなっていることが分かる。
(1)各種pH調整水の作成
水180mlに、下記の表1に示す材料を所定量添加して、表1のNO.1からNO.6に示す、各種pH値(pH3.00〜6.11の範囲)を有するpH調整水を作成した。
上記(1)で得られた、各種pH調整水(pH3.00〜6.11の範囲)を用いたこと以外は、製造例1と同様にして行い、食パンを製造した。
(3)テクスチャー試験の凝集性評価
上記(2)で製造された食パンについて、実施例2と同様にして、テクスチャー試験を行い、凝集性を評価した。結果を図15に示す。
なお、比較のために、各種pH調整水を用いることなく、水(pH7.6)180mlを用いて、食塩濃度2%、食塩濃度1%、食塩濃度0%にて同様に製造したパンについても、凝集性を評価し、図15に示した。なお、図15において、各例の左側のデータが、焼成2時間後のデータであり、各例の右側のデータが、焼成24時間後のデータである。
図15によれば、食塩濃度が2%のときと比べて、パンの食塩濃度が、2%から、1%、0%と下がるにつれて、特に、焼成24時間後のテクスチャー試験による凝集性が減少していることが分かる。
これに対して、各種pH調整水(pH3.00〜6.11の範囲)を用いることにより、食塩濃度が0%であっても、焼成24時間後の凝集性が、食塩濃度が2%のときと同等レベルとなっていることが分かる。
(1)各種pH値を有するpH調整水を用いた食パンの製造
実施例6の(1)で作成した各種pH値を有するpH調整水(pH3.00〜6.11の範囲)を用いたこと以外は、製造例1と同様にして行い、食パンを製造した。
(2)上記(1)で得られた、各種pH値を有するpH調整水(pH3.00〜6.11の範囲)を用いた食パンについて、実施例3と同様にして、クリープ試験を行った。
結果を図16と図17に示す。なお、図16、図17において、各例の左側のデータが、焼成2時間後のデータであり、各例の右側のデータが、焼成24時間後のデータである。
なお、比較のために、各種pH調整水を用いることなく、水(pH7.6)180mlを用いて、食塩濃度2%、食塩濃度1%、食塩濃度0%にて同様に製造したパンについても、それぞれクリープ試験を行った。E0値(初期弾性率)を図16に、η1値(遅延粘性率)を図17に、それぞれ示す。
前記したように、E0値(初期弾性率)、η1値(遅延粘性率)が、大きくなると、パンのクラムの食感として硬くなることを示している。
図16、図17によれば、パンの食塩濃度が、2%から、1%、0%と下がるにつれて、特に、焼成24時間後のE0値(初期弾性率)、η1値(遅延粘性率)が大きくなっており、パンのクラムの食感として硬くなっていることが分かる。
これに対して、各種pH調整水(pH3.00〜6.11の範囲)を用いることにより、食塩濃度が0%であっても、焼成24時間後のE0値(初期弾性率)、η1値(遅延粘性率)が、食塩濃度が2%のときと同レベルとなっていることが分かる。
本発明は、より食べやすい減塩パン類や無塩パン類を製造する技術を提供するものであり、各種疾病予防のために、減塩目的で利用することができる。
また、粉末化したり液体化したりしたpH調整用材料を単独で容器に詰めたり、さらには、小麦粉やイーストなどと組合せて容器に詰めたキットとすれば、所定量の水に溶解し、pHを2.9〜6.2の範囲とすることが簡単にでき、ホームベーカリーで、簡単に減塩パン類や無塩パン類をつくることができる。
本発明の技術は、パンの発酵段階でのイーストのタンパク質分解酵素の活性制御に基づくものであり、食塩以外についても、雑穀パン等で、パンの膨らみに影響を与える場合の製パン工程に、広く活用できるものと考えられる。
Claims (2)
- 無塩乃至減塩パン類のテクスチャーを改善するにあたり、pH3.00〜5.81に調整した水、小麦質量の2%以下の食塩及びイーストを含むパン類生地を用いることを特徴とする、無塩乃至減塩パン類のテクスチャーの改善方法。
- 食塩が、小麦質量の1%以下である、請求項1に記載の方法。
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