<第1実施形態>
本発明の第1実施形態に係る乗員保護装置10について、図1〜図8に基づいて説明する。なお、各図に適宜記す矢印FR、矢印UPは、車両用シート12の前方向(着座者の向く方向)、上方向をそれぞれ示している。以下、単に前後、上下、左右の方向を用いて説明する場合は、特に断りのない限り、シート前後方向の前後、シート上下方向の上下、シート前後方向の前方を向いた場合の左右を示すものとする。なお、この実施形態では、車両用シート12は、シート前後方向が車両の前後方向に一致され、シート上下方向が車両の上下方向に一致され、シート幅方向が車両幅方向に一致されている。そして、各図に適宜記す矢印INは、車両用シート12が搭載された車両としての自動車における車両幅方向の車両中央側を示している。
(乗員保護装置の概略全体構成)
図1、図2、図4に示されるように、乗員保護装置10は、車両用シート12に搭載されている。車両用シート12は、図示しない自動車の車体における車両幅方向中央に対し左右何れか(本実施形態では左側)にオフセットして配置されている。この車両用シート12は、シートクッション14と、シートクッション14の後端に下端が連結されたシートバック16と、シートバック16の上端に設けられたヘッドレスト18とを有して構成されている。
ヘッドレスト18は、図5に示されるように、シートバック16に取り付けられたヘッドレスト本体19と、ヘッドレスト18の後部意匠を構成するバックボードとして機能するモジュールケース34(後述)とを含んで構成されている。ヘッドレスト本体19は、ヘッドレストステー19Sを介してシートバック16に取り付けられている。ヘッドレストステー19Sは、シートバック16に支持された下部19SLに対し上部19SUが前方に位置しており、下部19SLと上部19SUとが傾斜した中間部19SCにて連結されて構成されている。
なお、図1、図2、図4等は、保護すべき乗員のモデルとして衝突試験用のダミー(人形)Dが車両用シート12のシートクッション14に着座した状態を図示している。ダミーDは、例えばWorldSID(国際統一側面衝突ダミー:World Side Impact Dummy)のAM50(米国人成人男性の50パーセンタイル)である。このダミーDは、衝突試験法で定められた標準的な着座姿勢(正規の状態)で着座しており、車両用シート12は、当該着座姿勢に対応した基準設定位置に位置している。なお、上記の頭部Hは、ダミーDの顔面も含めた首より上方の部位のことであり、顔面を車両前方(シート前方)へ向けている。以下、説明を分かり易くするために、ダミーDを「乗員D」と称する。
乗員保護装置10は、乗員Dを各種形態の衝突から保護するための多方位エアバッグ装置20と、サイドエアバッグ装置22と、シートベルト装置24とを備えて構成されている。以下、シートベルト装置24、サイドエアバッグ装置22について概略構成を説明し、その後、多方位エアバッグ装置20の詳細構成を説明することとする。
シートベルト装置24は、3点式のシートベルト装置とされており、一端がリトラクタ26に引き出し可能に巻き取られたベルト(ウエビング)28の他端がアンカ24Aに固定されている。ベルト28にはタングプレート24Tがスライド可能に設けられており、このタングプレート24Tをバックル24Bに係止させることで、ベルト28が乗員Dに装着されるようになっている。そして、ベルト28は、乗員Dへの装着状態で、ベルト28のうちリトラクタ26からタングプレート24Tまでのショルダベルト28Sが乗員Dの上体に装着され、タングプレート24Tからアンカ24Aまでのラップベルト28Lが乗員Dの腰部Pに装着される構成である。
この実施形態では、シートベルト装置24は、リトラクタ26、アンカ24A、及びバックル24Bが車両用シート12に設けられている、所謂シート付のシートベルト装置とされている。また、この実施形態では、リトラクタ26は、作動されることで強制的にベルト28を巻き取るプリテンショナ機能を有する。リトラクタ26のプリテンショナ機能は、後述するECU60によって作動されるようになっている。
サイドエアバッグ装置22は、インフレータ22Aと、サイドエアバッグ22Bとを備えて構成されており、サイドエアバッグ22Bの折り畳み状態でシートバック16における車両幅方向外側の側部に収納されている。インフレータ22Aは、作動されるとサイドエアバッグ22B内でガスを発生するようになっている。このガスによってサイドエアバッグ22Bは、シートバック16の側部から前方に突出され乗員Dに対する車両幅方向外側で膨張展開する構成とされている。この実施形態では、サイドエアバッグ22Bは、乗員Dの腰部P、腹部A、胸部B、肩部Sに対する車両幅方向外側で膨張展開する構成とされている。
(多方位エアバッグ装置の構成)
図1及び図4(A)に示されるように、多方位エアバッグ装置20は、エアバッグとしての多方位エアバッグ30と、インフレータ32と、モジュールケース(エアバッグケースともいう)34とを有して構成されている。多方位エアバッグ30は、後述するようにインフレータ32がガス供給可能に接続された状態で折り畳まれ、モジュールケース34内に収納されている。このようにモジュール化された多方位エアバッグ装置20は、シートバック16上においてヘッドレスト18に設けられている。以下、具体的に説明する。
<多方位エアバッグ>
多方位エアバッグ30は、平断面視で図3(A)に示されるように、乗員Dの頭部H(以下、単に「頭部H」という場合がある)を前方及び左右両側方から取り囲むように膨張展開される一体の袋体として構成されている。より具体的には、図1〜図3に示されるように、多方位エアバッグ30は、頭部Hに対する左右両側でかつ上方側を含む領域に間隔をあけて膨張展開する左右一対のフレームダクト35と、頭部Hの前方を含む領域に展開する前展開部36と、頭部Hの左右両側方を含む領域に展開する一対の横展開部38と、頭部Hの上方を含む領域に展開する上展開部48を含んで構成されている。
多方位エアバッグ30は、少なくともフレームダクト35と、前展開部36の後述する前膨張部40と、横展開部38の後述する横膨張部44とが、連通状態で区画された一体の袋体として構成されており、折り畳み状態でヘッドレストに収納されている。この実施形態における多方位エアバッグ30は、頭部Hの上方を含む領域に展開される上展開部48と、頭部Hの後方で展開される後展開部55とをさらに含んで構成されている。
[フレームダクト]
フレームダクト35は、頭部Hに対するシート幅方向の両側にそれぞれ設けられて一対を成しており、それぞれ側面視で下向きに開口する略U字状に膨張展開される構成である。具体的には、フレームダクト35は、膨張展開状態における側面視で、ヘッドレスト18に沿って上下に延びる後ダクト35Rと、後ダクト35Rの上端から前方に延びる上ダクト35Uと、上ダクト35Uの前端から垂下される前ダクト35Fとを含んでいる。図6にフラットパターンにて示すように、後ダクト35Rの下端には、後述するようにインフレータ32からガスが供給されるガス供給口を成す供給筒56が繋がっている。そして、フレームダクト35は、インフレータ32からのガスを前展開部36及び横展開部38へ供給させる流路を構成している。
[前展開部]
前展開部36は、頭部Hの前方で展開される部分を含む前膨張部40と、前膨張部40を複数の膨張部に区画する非膨張部42とを含んで構成されている。この実施形態では、前膨張部40は、それぞれ上下方向を長手方向としてシート幅方向に隣接して膨張展開される一対の上下膨張部40Aと、一対の上下膨張部40Aの下方に位置する下膨張部40Lとを含んで構成されている。一対の上下膨張部40Aは、頭部Hの前方(正面)で膨張展開される構成とされ、下膨張部40Lは、乗員Dの胸部B及び肩部Sの前方で膨張展開される構成とされている。
非膨張部42は、一対の上下膨張部40Aをシート幅方向に区画する非膨張部42Aと、各上下膨張部40Aとフレームダクト35の前ダクト35Fとの間に介在される非膨張部42Bとを含んで構成されている。この実施形態では、非膨張部42Aは上下に延びる線状のシームにて構成され、非膨張部42Bは上下に延びる環(無端)状のシームにて囲まれた部分として構成されている。また、前膨張部40は、下膨張部40Lの長手方向両端において、連通路40R(図6参照)を通じて前ダクト35Fの下部と連通されている。また、下膨張部40Lには、一対の上下膨張部40Aの下端が全体として連通されている。
[横展開部]
横展開部38は、ガス供給を受けて頭部Hの側方で膨張展開される横膨張部44と、横膨張部44を複数の膨張部に区画する非膨張部46とを含んで構成されている。この実施形態では、膨張展開状態の横展開部38は、フレームダクト35によって後方、上方、前方の三方から囲まれており、側面視で略矩形状を成している。また、横展開部38は、側面視で頭部Hのほぼ全体にラップする大きさ(面積)を有している。この横展開部38の横膨張部44は、非膨張部46を構成するシームにおける下向きに開口する逆U字状を成すU字状シーム46Aによって、フレームダクト35と仕切られている。この実施形態では、横展開部38の横膨張部44は、その前端側がフレームダクト35の前ダクト35Fを介して間接的に前膨張部40に接続されている。
また、非膨張部46は、横膨張部44の下縁からU字状シーム46Aの開口内まで延びる前後一対の縦シーム46Bを含んで構成されている。一対の縦シーム46Bは、横膨張部44の下部44Lを前後に並んで膨張展開される3つの膨張部44L1、44L2、44L3に区画する構成である。このように横膨張部44の下部44Lが3つの膨張部44L1〜44L3に区画されることで、膨張展開状態の横膨張部44の下部44Lの平断面視における前後長を、横膨張部44の上部44Uの平断面視における前後長よりも短くしている。
左右の横展開部38は、図3(B)に示されるように、多方位エアバッグ30の膨張展開状態で、それぞれの横膨張部44の下端44Bが乗員Dの肩部S上に接触するようになっている。この横膨張部44の下端44Bの肩部Sに対する接触によって、膨張展開状態の多方位エアバッグ30の乗員D(の頭部H)に対する上下方向の位置が決まる構成である。この位置決め状態で多方位エアバッグ30は、通常の着座姿勢をとる乗員Dに対して、前展開部36、左右の横展開部38、及び後述する上展開部48の何れも頭部Hと接触しない(隙間が形成される)構成とされている。
[上展開部及び後展開部]
上展開部48は、図6に示されるように、シート幅方向を長手方向として膨張展開される先行膨張部としての後側クロス膨張部48A1と、後側クロス膨張部48A1よりもシート前方側に設けられシート幅方向を長手方向として膨張展開される前側クロス膨張部48A2と、後側クロス膨張部48A1と前側クロス膨張部48A2とを繋ぐ布状の非膨張部48Bとを含んで構成されている。また、上展開部48は、前側クロス膨張部48A2と前展開部36(一対の上下膨張部40A)の上端とを繋ぐ布状の非膨張部48Cを含んで構成されている。なお、後側クロス膨張部48A1は、後展開部55を介してモジュールケース34に接続されている(図示省略)。この実施形態では、後展開部55は、布状の非膨張部とされている。
後側クロス膨張部48A1及び前側クロス膨張部48A2は、後述するようにフレームダクト35の上ダクト35Uからガス供給を受けて、一対の上ダクト35Uをシート幅方向に連結して膨張展開されるようになっている。これにより、後側クロス膨張部48A1及び前側クロス膨張部48A2は、上ダクト35Uとで連続する一体の膨張部を、頭部Hの上方で展開させる構成とされている。具体的には、図1に示されるように、後側クロス膨張部48A1は、乗員Dの頭頂部HTよりもシート後方側で膨張展開され、前側クロス膨張部48A2は、頭頂部HTよりもシート前方側で膨張展開される。また、図6に示されるように、非膨張部48Bは、後側クロス膨張部48A1と前側クロス膨張部48A2との間で、上ダクト35Uをシート幅方向に繋いで展開されるようになっている。一方、後展開部55は、一対のフレームダクト35の後ダクト35Rをシート幅方向に繋いで展開されるようになっている。
[フラットパターン]
次に、多方位エアバッグ30の各部へのガス供給経路について、図6に示すフラットパターンを参照しつつ説明する。多方位エアバッグ30は、周縁部の一部が接合される前でかつ折り畳みの前には、図6に示されるような展開形状(フラットパターン)とされている。この展開形状の多方位エアバッグ30は、OPW(One Piece Wovenの略)により一体の袋体として形成されている。なお、例えば2枚の織物の周縁を縫い合わせる方法(Cut & Sew)にて多方位エアバッグ30を一体の袋体として形成しても良い。
多方位エアバッグ30は、図6に示す状態から、フレームダクト35の上ダクト35Uが上展開部48の側縁48Sに縫合等により接合されると共に、フレームダクト35の後ダクト35Rが後展開部55の側縁55Sに縫合等により接合されている(図示省略)。また、一端が上ダクト35Uに連通された状態でフレームダクト35の上ダクト35Uから突出された前後一対の連通筒54の他端が、縫合等によって後側クロス膨張部48A1のシート幅方向両端の開口端部48D及び前側クロス膨張部48A2のシート幅方向両端の開口端部48Dに連通状態で接合されている。一方、フレームダクト35の後ダクト35Rの下端からは、後ダクト35Rに連通された供給筒56が下向きに突出されている。
左右の供給筒56は、モジュールケース34内でヘッドレスト18をシート幅方向に挟んで配置されており、それぞれインフレータ32からのガスが通過されるようになっている。すなわち、多方位エアバッグ30は、左右の供給筒56を通じて、先ずはフレームダクト35にガスが供給される構成とされている。図示は省略するが、インフレータ32は、ディフューザ等の分流手段を介して左右の供給筒56に連通状態で接続されている。
また、多方位エアバッグ30では、上記した通り、前膨張部40における下膨張部40Lのシート幅方向両側の端部に形成された連通路40Rを通じて、フレームダクト35から前膨張部40にガスが供給されるようになっている。前膨張部40では、下膨張部40Lに供給されたガスが、一対の上下膨張部40Aに供給される構成である。
さらに、多方位エアバッグ30では、横膨張部44におけるU字状シーム46Aの前下端の下方に形成された連通路44R1を通じて、フレームダクト35から横膨張部44にガスが供給されるようになっている。この実施形態では、横膨張部44におけるU字状シーム46Aの後下端の下方に形成された連通路44R2を通じても、フレームダクト35から横膨張部44にガスが供給されるようになっている。なお、多方位エアバッグ30は、連通路44R2が形成されない構成としても良い。
<その他>
以上説明した多方位エアバッグ30は、上記の通りフラットパターンから周縁の一部が接合された状態から折り畳まれ、ヘッドレスト18内(モジュールケース34)に収納されるようになっている。多方位エアバッグ30の折り畳み形態については、展開誘導布58の構成と併せて、モジュールケース34の構成と共に後述する。
また、乗員Dを拘束しない無拘束の膨張展開状態の多方位エアバッグ30は、図1に示されるように、乗員Dを拘束しない無拘束の膨張展開状態のサイドエアバッグ22Bに側面視で重ならない(ラップしない)構成とされている。換言すれば、多方位エアバッグ30とサイドエアバッグ22Bとは、互いの無拘束の膨張展開状態で、少なくとも側面視でラップする膨張展開部分を互いに有しない構成とされている。また、図2に示されるように、無拘束の膨張展開状態の多方位エアバッグ30は、乗員Dを拘束しない無拘束の膨張展開状態のサイドエアバッグ22Bに正面視で重ならない構成とされている。
[インフレータ]
インフレータ32は、燃焼式又はコールドガス式のものが採用され、作動されることで発生したガスを多方位エアバッグ30内に供給するようになっている。この実施形態では、インフレータ32は、シリンダ型のインフレータとされ、モジュールケース34内でシート幅方向を長手方向として配置されている。このインフレータ32は、後述する制御装置としてのECU60によって作動が制御されるようになっている。
[モジュールケース]
図1及び図5に示されるように、モジュールケース34は、シートバック16上におけるヘッドレスト本体19の後方に配置されている。この実施形態では、モジュールケース34は、ヘッドレスト18(の後部意匠)を構成するバックボードとされている。すなわち、本実施形態におけるモジュールケース34は、多方位エアバッグ装置20の要素と、ヘッドレスト18の要素とを兼ねて構成されている。したがって、多方位エアバッグ30は、ヘッドレスト18の後部の内側(内部)に配設されていることとなる。
モジュールケース34は、正面視ではヘッドレスト本体19の上端よりも上方に突出すると共に、ヘッドレスト本体19に対しシート幅方向の両側に張り出している。すなわち、モジュールケース34は、ヘッドレスト本体19を後方から覆っている。この実施形態では、モジュールケース34は、ヘッドレスト本体19の後部を上方及び左右両側方から覆っており、上記の通りヘッドレスト18の後部意匠を構成している。
より具体的には、モジュールケース34は、ベース部34Bと、後壁としての主壁34Mと、シート幅方向に対向する一対の側壁34Sとを主要部として構成されている。ベース部34Bは、シートバック16の上端に対する固定部とされている。
主壁34Mは、ベース部34Bの後端から上方に延出されており、シートバック16上に固定された下端に対し上端が前方に位置するように前傾され、かつ側面視で後上向きに凸となる湾曲形状を成している。主壁34Mは、正面視でヘッドレスト本体19の上端よりも上方に突出すると共に、ヘッドレスト本体19に対しシート幅方向の両側に張り出している。
主壁34Mとヘッドレスト本体19との間には、折り畳み状態の多方位エアバッグ30を収納する空間が形成されている。また、主壁34Mの上端は、ヘッドレスト本体19の上方まで至っている。この主壁34Mの上端部とヘッドレスト本体19との間を、膨張展開過程の多方位エアバッグ30が通過する構成とされている。
一対の側壁34Sは、主壁34Mのシート幅方向両端から前方に延出されており、側面視でヘッドレスト本体19の後部を覆っている。一対の側壁34Sとヘッドレスト本体19との間を、膨張展開状態の多方位エアバッグ30における主に後ダクト35Rが通る構成とされている。
以上説明したモジュールケース34は、ヘッドレスト本体19との間に折り畳み状態の多方位エアバッグ30を収納している。また、この多方位エアバッグ30の左右の供給筒56は、モジュールケース34内で、上記の通りヘッドレスト本体19をシート幅方向に挟んで配置されている。そして、ディフューザ等の分流手段を介して左右の供給筒56に接続されたインフレータ32が、そのスタッドボルトがモジュールケース34のベース部34Bを貫通した状態で、シートバックフレームに締結されている。
ここで、図7に示されるように、多方位エアバッグ30は、外ロール折りされてモジュールケース34内に収納された外ロール折り部30Rと、この外ロール折り部30Rよりもシート下方側で蛇腹折りされてモジュールケース34内に収納された蛇腹折り部30Bとを含んでいる。なお、図7及び図8では、説明の便宜上、前側クロス膨張部48A2及び後述する展開誘導布58の図示を省略している。
外ロール折り部30Rは、図5に示されるように、側面視で展開状態における前端側から前展開部36の外面側へ巻くようにしたロール状の折り態様とされている。換言すれば、外ロール折り部30Rは、図5に想像線にて示されるように、多方位エアバッグ30の展開過程で外ロール折り部30Rが頭部H側とは反対側に位置する折り態様とされる。また、横展開部38が上展開部48及び後展開部55に接合されている多方位エアバッグ30は、前展開部36及びフレームダクト35が外ロール折りされる前に横展開部38が内側に折り込まれている。そして、この実施形態の外ロール折り部30Rは、後側クロス膨張部48A1よりもシート前方で膨張展開される部分が外ロール折りされることで構成されている。
図7に示されるように、外ロール折り部30Rよりもシート下方側に配置された蛇腹折り部30Bは、蛇腹状に折り畳まれている。そして、この実施形態の蛇腹折り部30Bは、後側クロス膨張部48A1を含んでインフレータ32に近い部分が蛇腹状に折り畳まれることで構成されている。
この折り畳み状態の多方位エアバッグ30は、少なくとも一部がヘッドレスト本体19のヘッドレストステー19Sにおける上部19SU、中間部19SCの後方に配置されている。この実施形態のヘッドレスト本体19は、ヘッドレストステー19Sにおける上部19SU、中間部19SCの後方のクッション材(パッド)19Cが薄く形成され、クッション材19Cとモジュールケース34との間に折り畳み状態の収納空間が形成されている。多方位エアバッグ30は、インフレータ32からガス供給を受けると、外ロール折りが解消されながら、クッション材19Cとモジュールケース34との間からモジュールケース34外に向けて膨張展開される構成である。
この際、モジュールケース34の主壁34Mは、膨張展開過程の多方位エアバッグ30を後方から支持する(前方へ向かうための反力をとる)構成されている。またこの際、モジュールケース34の主壁34Mは、上記した側面視での湾曲形状により、膨張展開過程の多方位エアバッグ30を前方(前上方)に向けて案内する構成とされている。したがって、この実施形態における主壁34Mは、支持壁、案内壁として機能するようになっている。
また、図5に示されるように、モジュールケース34内には、展開誘導布58が多方位エアバッグ30と共に折り畳まれて収納されている。モジュールケース34内で展開誘導布58は、上記の通り外ロール折りされた外ロール折り部30Rに対する外側(主壁34M側)に配置された基部がインフレータ32又は多方位エアバッグ30における基端側の部分である後展開部55に接続されている。一方、展開誘導布58の先端側は多方位エアバッグ30の外ロール折り部30Rをロール方向(図5では時計方向)とは反対向き(反時計方向)に覆うように外ロール折り部30Rの内側(ヘッドレスト18側)に配置されている。
この展開誘導布58は、図5の想像線にて示されるように、多方位エアバッグ30の膨張展開(ロール折り解消)に伴ってモジュールケース34外に導出され、多方位エアバッグ30に先行して多方位エアバッグ30と車室天井との間で展開されるようになっている。また、展開誘導布58は、乗員保護装置10が適用された自動車の天井材よりも多方位エアバッグ30に対する摩擦係数が小さくされている。この実施形態では、展開誘導布58の車室天井側の面はシリコンコートが施されており、展開誘導布58の多方位エアバッグ30との接触面はシリコンコートが施されない低摩擦面とされている。
図4(B)に示されるように、正面視でモジュールケース34とヘッドレスト本体19との間はエアバッグドア33にて閉止されている。エアバッグドア33は、多方位エアバッグ30の展開圧によって脆弱部であるティアライン33Tをきっかけに開裂されることで、多方位エアバッグ30の前方への膨張展開を許容する構成とされている。
(ECUの構成)
乗員保護装置10を構成する多方位エアバッグ装置20、サイドエアバッグ装置22、及びシートベルト装置24は、図4(A)に示されるように、制御装置としてのECU60によって制御されるようになっている。具体的には、多方位エアバッグ装置20のインフレータ32、サイドエアバッグ装置22のインフレータ22A、シートベルト装置24のリトラクタ26(プリテンショナ機能)は、それぞれECU60に電気的に接続されている。また、ECU60は、衝突センサ62(又はセンサ群)と電気的に接続されている。
ECU60は、衝突センサ62からの情報に基づいて、適用された自動車に対する各種形態の前面衝突(の発生又は不可避であること)を後述する衝突形態毎に検知又は予測可能とされている。また、ECU60は、衝突センサ62からの情報に基づいて、適用された自動車に対する側面衝突(の発生又は不可避であること)を検知又は予測可能とされている。
ECU60は、衝突センサ62からの情報に基づいて側面衝突を検知又は予測すると、インフレータ22A、32を作動させるようになっている。また、ECU60は、衝突センサ62からの情報に基づいて前面衝突を検知又は予測すると、インフレータ32、リトラクタ26を作動させるようになっている。なお、ECU60がインフレータ32、リトラクタ26を作動させる前面衝突の形態は、フルラップ前面衝突、オフセット前面衝突等とされる。
そして、ECU60は、衝突センサ62からの情報に基づいて前面衝突のうち車両幅方向一方側に所定値以上オフセットした位置への前面衝突を検知又は予測すると、インフレータ22A、32、及びリトラクタ26を作動させるようになっている。このような車両幅方向一方側に所定値以上オフセットした位置への前面衝突には、斜め衝突や微小ラップ衝突等が含まれる。
ここで、斜め衝突(MDB斜突、オブリーク衝突)とは、例えばNHTSAにて規定される斜め前方からの衝突(一例として、衝突相手方との相対角15°、車両幅方向のラップ量35%程度の衝突)とされる。この実施形態では、一例として相対速度90km/hrでの斜め衝突が想定されている。また、微小ラップ衝突とは、自動車の前面衝突のうち、例えばIIHSにて規定される衝突相手方との車両幅方向のラップ量が25%以下の衝突とされる。例えば車体骨格であるフロントサイドメンバに対する車両幅方向外側への衝突が微小ラップ衝突に該当する。この実施形態では、一例として相対速度64km/hrでの微小ラップ衝突が想定されている。
(作用及び効果)
次に、実施形態の作用について説明する。先ず、多方位エアバッグ30の展開性と頭部Hの拘束性に係る基本作用について説明し、その後、各種の衝突形態に対する着座者の保護作用、多方位エアバッグ30の展開性等に係る他の作用を説明することとする。
<基本作用の説明>
[フレームダクトによる作用効果]
多方位エアバッグ30は、インフレータ32からガスが供給されると、モジュールケース34及び展開誘導布58に案内され、ヘッドレスト18から前方に向けて膨張展開される。モジュールケース34、展開誘導布58、外ロール折りによる作用効果は後述する。
多方位エアバッグ30の膨張展開について具体的に説明すると、多方位エアバッグ30は、左右の供給筒56から左右のフレームダクト35にガスが供給されると、フレームダクト35は、後ダクト35R、上ダクト35U、前ダクト35Fの順で膨張展開される。この際、上ダクト35Uは、側面視において頭部Hの上方で前向きに膨張展開され、上ダクト35Uの前端は頭部Hの上方を通過する。前膨張部40は、フレームダクト35から連通路40Rを通じてガス供給を受けて頭部Hに対する前方で膨張展開される。また、一対の横膨張部44は、それぞれ連通路44R1、44R2を通じてフレームダクト35からガス供給を受けて、頭部Hに対する側方で頭部Hをシート幅方向に挟むように膨張展開される。これにより、頭部Hは、前膨張部40を含む前展開部36、それぞれ横膨張部44を含む一対の横展開部38によって、前方及びシート幅方向の両側方(三方)から囲まれる。
ここで、多方位エアバッグ30では、シート幅方向から見て前端が頭部Hに対する前方に至る上ダクト35Uが前膨張部40、横膨張部44に対し先行して膨張展開される。そして、多方位エアバッグ30の膨張展開過程で上ダクト35Uの前端が頭部Hを越えてから、上ダクト35Uを含むフレームダクト35における頭部Hに対する前方に至った前ダクト35Fからガス供給を受けた前膨張部40が頭部Hに対する前方で膨張展開される。これにより、前膨張部40を頭部Hに対する前方で高い確度で膨張展開させることができる。そして、このように展開性に寄与するフレームダクト35を備えない構成と比較して、前膨張部40を頭部Hに近接して膨張展開させることができる。
このように、実施形態に係る乗員保護装置10では、一体の袋体として構成された多方位エアバッグ30がヘッドレスト18に収納された構成において、前膨張部40を頭部Hの前方で膨張展開させるための多方位エアバッグ30の展開性と、多方位エアバッグ30による頭部Hの拘束性とを両立することができる。
[後側クロス膨張部による作用効果]
また、図7に示されるように、多方位エアバッグ30における外ロール折り部30Rよりもシート下方側には、後側クロス膨張部48A1を含む蛇腹折り部30Bが配置されている。そして、上述したように左右の供給筒56から左右のフレームダクト35にガスが供給されると、後ダクト35Rから後側クロス膨張部48A1にガスが供給される。そして、図8に示されるように、後側クロス膨張部48A1が外ロール折り部30Rに先行して膨張展開される。このように後側クロス膨張部48A1が膨張することで、外ロール折り部30Rがシート上方側へ押し上げられる。すなわち、外ロール折り部30Rが展開される前に外ロール折り部30Rをシート上方側へ移動させることができ、外ロール折り部30Rがヘッドレスト18及び乗員Dの頭部Hの上方を通過しやすくなる。このようにして、多方位エアバッグ30がヘッドレスト18や乗員Dの頭部Hに引っ掛かるのを抑制することができる。
特に、この実施形態では、図6に示されるように、後側クロス膨張部48A1によって左右一対のフレームダクト35がシート幅方向に連結されている。これにより、両方のフレームダクト35を流れるガスによって後側クロス膨張部48A1を膨張させることができる。この結果、一方のフレームダクト35へガスが流れるタイミングと他方のフレームダクト35へガスが流れるタイミングとに僅かなずれが生じた場合であっても、後側クロス膨張部48A1の膨張が遅れるのを抑制することができる。すなわち、後側クロス膨張部48A1を安定して早期に膨張させることができる。
また、この実施形態では、図1に示されるように、後側クロス膨張部48A1を乗員Dの頭頂部HTよりもシート後方側に設けている。これにより、後側クロス膨張部48A1よりもシート前方側の外ロール折り部30Rを膨張展開の初期段階で押し上げることができ、外ロール折り部30Rがヘッドレスト18及び乗員Dの頭部Hの上方を通過しやすくなる。この結果、後側クロス膨張部48A1が乗員Dの頭頂部HTよりもシート前方側に設けられた構成と比較して、外ロール折り部30Rがヘッドレスト18及び乗員Dの頭部Hに引っ掛かるのを抑制することができる。
[引張構造による作用効果]
また、一対の縦シーム46Bを備えない比較形態の場合、多方位エアバッグの展開性の観点からは問題ないが、膨張展開完了時における前膨張部40を頭部Hに対し一層近接させるには限界がある。この対策として、前膨張部40よりも大容量である前膨張部を備えた比較形態の場合、膨張展開しながら頭部Hの上方を通過する過程で、多方位エアバッグの前膨張部が頭部H又はルーフに干渉しやすい。この多方位エアバッグは、膨張展開過程で頭部H又はルーフに干渉すると、適正な姿勢又は配置での膨張展開が阻害される場合がある。
ここで、多方位エアバッグ30は、横膨張部44の膨張展開に伴って前膨張部40を後方に引っ張る一対の縦シーム46Bを備えている。これにより、頭部Hに対し前方に離れて膨張展開される前膨張部40を横膨張部44の膨張展開に伴って頭部Hに近づけることができる。
具体的には、多方位エアバッグ30の膨張展開の初期段階では、前膨張部40、横膨張部44に対し先行してフレームダクト35が膨張展開される。このため、フレームダクト35の前ダクト35Fは、横膨張部44に拘束されることなく頭部Hに対し前方に離れて膨張展開される。そして、横膨張部44が膨張展開されると、一対の縦シーム46Bで前後に並ぶ3つの膨張部44L1〜44L3に区画された横膨張部44の下部44Lは、上部44Uよりも大きく縮む。これにより、前膨張部40の下部が後方に引っ張られ、前膨張部40が頭部Hに近接される。
また、前膨張部40、横膨張部44のそれぞれが前ダクト35Fの下部からガス供給を受けるため、多方位エアバッグ30の膨張展開の初期段階では前膨張部40、横膨張部44共にほとんど膨張展開されることなくフレームダクト35が膨張展開される。このため、多方位エアバッグ30の膨張展開過程での頭部Hへの干渉が効果的に抑制される。一方、多方位エアバッグ30の膨張展開完了状態では、前膨張部40は上記の通り頭部Hに前側から近接し、一対の横膨張部44(上部44U)は左右両側方から頭部Hに近接する。
このように、ヘッドレスト18に収納された多方位エアバッグ30の展開性を確保しつつ多方位エアバッグ30を頭部Hに一層近接して展開させ、多方位エアバッグ30による頭部Hの拘束性を向上することができる。すなわち、乗員保護装置10は、多方位エアバッグ30の展開性と多方位エアバッグ30による頭部Hの拘束性とをより高度に両立することができる。
また、横膨張部44に一対の縦シーム46Bを設ける簡単な構造で、横膨張部44の膨張展開に伴って前膨張部40の下部を後方すなわち頭部H側に引っ張る引張構造を得ることができる。また、一対の縦シーム46Bによって横膨張部44の下部44Lにおけるシート幅方向の展開厚みが制限されるので、横膨張部44すなわち多方位エアバッグ30の容量低減に寄与する。
<側面衝突の場合>
ECU60は、衝突センサ62からの情報に基づいて側面衝突を検知又は予測すると、インフレータ22A、32を作動させる。これにより、図1、図2に示されるように、サイドエアバッグ装置22のサイドエアバッグ22Bが乗員Dに対する車両幅方向の外側で膨張展開されると共に、多方位エアバッグ装置20の多方位エアバッグ30が乗員Dの頭部Hを取り囲むように膨張展開される。以下に説明するニアサイドの側面衝突は、乗員Dに対し車両幅方向で近い側の車両側面への衝突がニアサイドの側面衝突であり、ファーサイドの側面衝突は、乗員Dに対し車両幅方向で遠い側の車両側面への衝突がニアサイドの側面衝突である。したがって例えば、乗員Dが運転席乗員である場合、ニアサイドの側面衝突は運転席側への側面衝突であり、ファーサイド側面衝突は助手席側への側面衝突である。
[ニアサイドの側面衝突]
側面衝突が車両幅方向における車両用シート12の設置側で生じた場合、乗員Dは、サイドエアバッグ22Bによって上体のサイドドア側への移動が制限されると共に、車両幅方向外側の横展開部38によって頭部Hのサイドウインドウガラス側への移動が制限される。すなわち、乗員Dは、サイドエアバッグ22B及び車両幅方向外側の横展開部38によって、上体及び頭部Hにおいて拘束され、側面衝突に対し保護される。
これにより、頭部Hの衝突側への移動を制限することができる。しかも、横展開部38が横膨張部44を含んでいるため、頭部Hの拘束過程で横膨張部44の変形によるエネルギ吸収が果たされる。例えば頭部Hがサイドウインドウガラスまで移動する場合でも、頭部Hに入力される荷重のピークが小さく抑えられる。
さらに、サイドエアバッグ22B及び車両幅方向外側の横展開部38による乗員Dの保護後の揺り戻しの際には、乗員Dの頭部Hは、車両幅方向中央側の横展開部38にて反衝突側への移動が制限される。これにより、例えば、乗員Dの頭部Hと隣席のシートバックや隣席乗員との干渉が抑制される。
[ファーサイドの側面衝突]
一方、側面衝突が車両幅方向における車両用シート12の設置側とは反対側で生じた場合、乗員Dは、車両幅方向中央側の横展開部38によって頭部Hの衝突側(車両幅方向の中央側)への移動が制限される。すなわち、乗員Dは、車両幅方向中央側の横展開部38によって、頭部Hが拘束され、側面衝突に対し保護される。
これにより、頭部Hの衝突側への移動を制限することができる。しかも、横展開部38が横膨張部44を含んでいるため、頭部Hの拘束過程で横膨張部44の変形によるエネルギ吸収が果たされる。例えば頭部Hが隣席のシートバックや隣席乗員と干渉し得る領域まで移動する場合でも、頭部Hに入力される荷重のピークが小さく抑えられる。
さらに、車両幅方向中央側の横展開部38による乗員Dの頭部Hの保護後の揺り戻しの際には、乗員Dは、車両幅方向外側の横展開部38及びサイドエアバッグ22Bにて反衝突側への移動が制限される。これにより、例えば、乗員Dの頭部Hとサイドウインドウガラスとの干渉が抑制される。
<フルラップ又はオフセット前面衝突>
ECU60は、衝突センサ62からの情報に基づいてフルラップ前面衝突を検知又は予測すると、インフレータ32、リトラクタ26を作動させる。これにより、シートベルト装置24のベルト28がリトラクタ26により強制的に巻き取られると共に、多方位エアバッグ装置20の多方位エアバッグ30が乗員Dの頭部Hを取り囲むように膨張展開される。
フルラップ前面衝突の場合、乗員Dは、慣性によってまっすぐ前方へ移動する。なお、シートベルト装置24のベルト28が装着されている乗員Dの前方への移動は、腰部Pを中心に乗員Dの上体が前傾する形態となる。乗員Dは、ショルダベルト28Sによって拘束され(前方への移動に対する抵抗を受け)つつ、頭部Hが多方位エアバッグ30の前展開部36に接触する。これにより、頭部Hは、前展開部36の一対の上下膨張部40Aによって、前方への移動が制限される。また、前膨張部40の下膨張部40Lが乗員Dの胸部B、肩部Sに前方から接触し、前膨張部40の下膨張部40Lによって乗員Dの上体(頭部H)の前方への移動が制限される。
特に、上記の通り横膨張部44の膨張展開に伴って前膨張部40の下部が後方に引っ張られるため、前膨張部40の下膨張部40Lが乗員Dの肩部S、胸部Bに押し付けられる。これにより、頭部Hの前方への移動前に乗員Dの上体をしっかり拘束(エネルギ吸収)することができ、頭部Hの前方への移動が一層効果的に制限される。
このように、乗員Dは、前展開部36によって、頭部H及び上体が拘束され、フルラップ前面衝突に対し保護される。すなわち、乗員Dの頭部H及び上体の前方への移動を制限することができる。
しかも、前展開部36の前膨張部40が乗員Dの前方で膨張展開されるため、頭部H、胸部B、肩部Sの拘束過程で前膨張部40の変形によるエネルギ吸収が果たされる。これにより、例えば、頭部Hが車室内構成品(ステアリングホイールやインストルメントパネル等)と干渉し得る領域まで移動する場合でも、頭部Hに入力される荷重のピークが小さく抑えられる。
以上、フルラップ前面衝突の場合を説明したが、例えば相手方車両との車両幅方向のラップ量が50%程度であるオフセット前面衝突の場合の作用も、上記したフルラップ前面衝突の場合と概ね同様である。
<斜め衝突又は微小ラップ衝突>
ECU60は、衝突センサ62からの情報に基づいて斜め衝突を検知又は予測すると、インフレータ22A、32、及びリトラクタ26を作動させる。これにより、シートベルト装置24のベルト28がリトラクタ26により強制的に巻き取られると共に、多方位エアバッグ装置20の多方位エアバッグ30が乗員Dの頭部Hを取り囲むように膨張展開される。また、サイドエアバッグ装置22のサイドエアバッグ22Bが乗員Dに対する車両幅方向の外側で膨張展開される。以下、斜め衝突の場合についてさらに説明するが、微小ラップ衝突の場合における乗員保護装置10による乗員Dの保護態様についても、斜め衝突の場合の乗員保護装置10による乗員Dの保護態様と概ね同様である。
[ニアサイドの斜め衝突]
斜め衝突が車両幅方向における車両用シート12の設置側への斜め衝突であった場合、乗員Dは、図3(A)に矢印Xにて示すように、前方に移動しつつ、車体に対し車両幅方向の衝突側である車両幅方向外側に移動する。この場合も、3点式のシートベルト装置24が装着された乗員Dの前方への移動は、腰部Pを中心に前傾する形態となる。
この場合、乗員Dは、サイドエアバッグ22B並びに多方位エアバッグ30を構成する前展開部36及び車両幅方向外側の横展開部38によって、斜め前方衝突側(フロントピラー側)への移動が制限される。すなわち、乗員Dは、サイドエアバッグ22B並びに多方位エアバッグ30を構成する前展開部36及び車両幅方向外側の横展開部38によって、上体及び頭部Hにおいて拘束され、斜め衝突に対し保護される。
これにより、頭部Hの斜め前方衝突側への移動を制限することができる。しかも、前展開部36及び車両幅方向外側の横展開部38は、それぞれ前膨張部40、横膨張部44を含んでいる。このため、頭部H等の拘束過程で前膨張部40及び横膨張部44の少なくとも一つの膨張部の変形によるエネルギ吸収が果たされる。これにより、例えば、頭部Hがフロントピラーまで移動する場合でも、頭部Hに入力される荷重のピークが小さく抑えられる。
[ファーサイドの斜め衝突]
斜め衝突が車両幅方向における車両用シート12の設置側とは反対側への斜め衝突であった場合、乗員Dは、図3(A)に矢印Yにて示すように、前方に移動しつつ、車体に対し車両幅方向の衝突側である車両幅方向中央側に移動する。この場合も、3点式のシートベルト装置24が装着された乗員Dの前方への移動は、腰部Pを中心に前傾する形態となる。
この場合、乗員Dは、多方位エアバッグ30を構成する前展開部36及び車両幅方向中央側の横展開部38によって、斜め前方衝突側(センタクラスタ側)への移動が制限される。すなわち、乗員Dは、前展開部36及び並びに車両幅方向中央側の横展開部38によって、頭部Hにおいて拘束され、斜め衝突に対し保護される。
これにより、頭部Hの斜め前方衝突側への移動を制限することができる。しかも、前展開部36及び車両幅方向中央側の横展開部38は、それぞれ前膨張部40、横膨張部44を含んでいる。このため、頭部H等の拘束過程で前膨張部40及び横膨張部44の少なくとも一つの膨張部の変形によるエネルギ吸収が果たされる。これにより、例えば、頭部Hがインストルメントパネルやセンタクラスタ等の車室内構成品まで移動する場合でも、頭部Hに入力される荷重のピークが小さく抑えられる。
<衝突に対する保護作用のまとめ>
以上説明したように、実施形態に係る乗員保護装置10では、ヘッドレスト18に収納された多方位エアバッグ30を膨張展開させて、側面衝突、斜め衝突を含む各種形態の前面衝突(複数方向からの衝突)に対し乗員Dを効果的に保護することができる。そして、多方位エアバッグ30は、前展開部36、横展開部38が上展開部48等とで頭部Hを取り囲むように展開される一体の袋体として構成されている。このため、多方位エアバッグ30は、各展開部が強固に繋がっていると共に、頭部H、胸部B、肩部Sを拘束する際の荷重(反力)が車両用シート12に支持される。したがって、多方位エアバッグ30は、複数のエアバッグ(膨張部)が乗員の拘束の際に接合される構成と比較して、大きな拘束力で乗員を拘束することができる。
一方、乗員保護装置10では、多方位エアバッグ30がヘッドレスト18(ヘッドレスト本体19の後方に設けられたモジュールケース34)内に収納されている。このため、乗員保護装置10は、例えば、乗員の頭部を上方から囲むように配置されたガス供給パイプが常時車室内に突出している構成と比較して、同等以上の乗員保護性を確保しつつ作動前における見栄えが良好である。また、乗員保護装置10(主に多方位エアバッグ装置20)は、車両用シート12の前後位置調整、高さ調整、リクライニング動作等を妨げることがない。
また、乗員保護装置10では、多方位エアバッグ30とサイドエアバッグ22Bとが互いの無拘束での膨張展開状態において側面視で重ならない。このため、多方位エアバッグ30及びサイドエアバッグ22Bが共に膨張展開される衝突形態において、互いの膨張展開に干渉することがなく適正に膨張展開される。したがって、多方位エアバッグ30によって乗員Dの頭部Hを拘束し、サイドエアバッグ22Bによって乗員Dの肩部Sから腰部Pまでの範囲を側方から拘束することができる。
<その他の作用効果>
[適正な膨張展開による拘束性向上]
また、乗員保護装置10を構成する多方位エアバッグ装置20では、多方位エアバッグ30の横展開部38を構成する横膨張部44の下端44Bが乗員Dの肩部S上に接触することで、乗員Dに対する多方位エアバッグ30の上下方向の位置が決まる。このため、例えば乗員Dの体格や適正範囲の着座姿勢の個人差によらず、多方位エアバッグ30を上下方向の適切な位置で膨張展開させることができる。これにより、多方位エアバッグ30による乗員Dの拘束性(移動制限性能)が向上される。
[多方位エアバッグ自体による膨張展開性の確保]
またさらに、多方位エアバッグ30は、外ロール折りされた状態でヘッドレスト18内に収納されている。このため、多方位エアバッグ30における膨張展開過程で折りを解かれる部分である外ロール折り部30Rがフレームダクト35の上方に位置する。このため、折りを解かれる部分が下方すなわち乗員Dの頭部H側に位置する構成(前端側からシート下方側かつシート後方側へロール状に折り畳まれた内ロール折りの構成)と比較して、多方位エアバッグ30は、フレームダクト35へのガス流通に伴って前方へ展開されつつ乗員Dの頭部Hを越える態様で展開されやすい。
特に、多方位エアバッグ30では、前膨張部40が一対のフレームダクト35の前ダクト35Fのそれぞれに接合されている。このため、前膨張部40(前展開部36)は、前ダクト35Fの膨張展開に伴って上下に展開されてから、膨張されることとなり、膨張展開過程で頭部Hに干渉し難い。また、多方位エアバッグ30では、各横膨張部44が対応するフレームダクト35の前ダクト35F及び上ダクト35Uのそれぞれに接合されている。このため、横膨張部44(横展開部38)は、前ダクト35Fの膨張展開に伴って展開されてから膨張されることとなり、膨張展開過程で頭部Hに干渉し難い。
また、多方位エアバッグ30は、シート幅方向に離間して膨張展開される一対のフレームダクト35の上ダクト35Uを連結する後側クロス膨張部48A1及び前側クロス膨張部48A2を有する。すなわち、後側クロス膨張部48A1及び前側クロス膨張部48A2と一対の上ダクト35Uとで連続する一体の膨張部として頭部Hの上方に形成されるため、多方位エアバッグ30が安定して膨張展開されやすい。
[展開誘導布による多方位エアバッグの膨張展開性の確保]
さらに、乗員保護装置10を構成する多方位エアバッグ装置20は、多方位エアバッグ30と接触する側の面が低摩擦面とされた展開誘導布58を備えている。この展開誘導布58は、多方位エアバッグ30の膨張展開に伴って、多方位エアバッグ30に先行して自動車の車室天井に沿って展開される。この展開誘導布58は、多方位エアバッグ30に対して車室天井材よりも低摩擦であるため、展開誘導布58を備えない構成と比較して、多方位エアバッグ30をスムースに膨張展開させることができる。
これにより、膨張展開過程の多方位エアバッグ30が、車室天井や天井に設けられた部材等に引っ掛かることが展開誘導布58にて抑制される。換言すれば、多方位エアバッグ30を前方に向けて膨張展開させるガイド(上方への移動を制限するリミッタ)として車室天井を利用しつつ、多方位エアバッグ30をスムースに膨張展開させることができる。
[モジュールケースによる多方位エアバッグの膨張展開性の確保]
またさらに、乗員保護装置10を構成する多方位エアバッグ装置20では、モジュールケース34がヘッドレスト本体19に対し上方及びシート幅方向の両側に張り出している。このため、モジュールケース34における正面視でヘッドレスト本体19に対しシート幅方向に張り出している部分(ヘッドレスト本体19との隙間部分)から多方位エアバッグ30を前方へ展開させることができる。これにより、ヘッドレスト本体19を上部のみから前方へ展開される多方位エアバッグを備えた構成と比較して、多方位エアバッグ30の膨張展開を短時間で完了させることができる。
また、モジュールケース34は、ヘッドレスト本体19の後方でヘッドレスト本体19との間に多方位エアバッグ30を収納しており、その主壁34Mが膨張展開過程の多方位エアバッグ30を後方から支持する。このため、多方位エアバッグ30は、膨張展開に伴って主壁34Mによって後方から反力が支持され、後方に向かうことなく前方に向けて膨張展開される。これにより、モジュールケース34に主壁が支持壁(の機能)を有しない構成と比較して、多方位エアバッグ30を適正な態様(位置、形状)で膨張展開させることができる。
さらに、モジュールケース34の主壁34Mは、下端に対し上端が前方に位置するように、側面視で後上向きに凸となる湾曲形状を成している。このため、ヘッドレスト本体19の後方で折り畳み状態とされた多方位エアバッグ30は、膨張展開の初期段階ではモジュールケース34内で上方に向かいつつ、モジュールケース34外へ展開される際には主壁34Mによって上前方に向けて案内される。すなわち、膨張展開過程の多方位エアバッグ30は、モジュールケース34の主壁34Mによって前上方に案内されることで、乗員Dの頭部Hを越えつつ前方へ展開される。これにより、主壁34Mが案内壁(の機能)を有しない構成と比較して、多方位エアバッグ30を適正な態様(経路)で膨張展開させることができる。
[モジュールケース等による他の効果]
また、乗員保護装置10を構成する多方位エアバッグ装置20では、多方位エアバッグ30及びインフレータ32を収納したモジュールケース34をヘッドレスト本体19の後方に配置している。このため、例えば多方位エアバッグ30及びインフレータ32をシートバック16内に収納する構成と比較して、車両用シート12の構造による制約を受け難い。換言すれば、車両用シート12の構造を大きく変更することなく、車両用シート12に多方位エアバッグ装置20を設けることができる。
さらに、折り畳み状態の多方位エアバッグ30は、ヘッドレストステー19Sにおける上部19SU、中間部19SCの後方に配置されている。これにより、多方位エアバッグ30は、例えば、上下方向に沿ったストレート形状のヘッドレストステー19Sの後方に配置される構成と比較して、クランク状を成すヘッドレストステー19Sに対する後方の広いスペースに配置される。これにより、モジュールケース34を含むヘッドレスト18を全体としてコンパクトに構成しつつ、ヘッドレスト18内に多方位エアバッグ30を収納することができる。さらに、折り畳み状態の多方位エアバッグ30が乗員Dの頭部Hの近くに配置されることとなるため、多方位エアバッグ30を短時間で乗員Dの頭部Hを取り囲む態様で膨張展開させることができる。
<第2実施形態>
次に第2実施形態に係る乗員保護装置70について、図9に基づいて説明する。なお、第1実施形態と同様の構成については同じ符号を付し、適宜説明を省略する。
図9に示されるように、本実施形態に係る乗員保護装置70を構成する多方位エアバッグ72は、上展開部74を除いて第1実施形態と同様の構成とされている。このため、上展開部74についてのみ以下に説明する。後述する第3実施形態〜第5実施形態についても同様である。
多方位エアバッグ72の上展開部74は、シート幅方向を長手方向として膨張展開される先行膨張部としての後側クロス膨張部74Aと、後側クロス膨張部74Aよりもシート前方側に設けられシート幅方向を長手方向として膨張展開される前側クロス膨張部74Bとを含んで構成されている。また、上展開部74は、前側クロス膨張部74Bよりもシート前方側に設けられた布状の非膨張部74Cを含んで構成されている。
乗員Dの頭部Hに対するシート幅方向の両側にはフレームダクト75が設けられており、このフレームダクト75は、後ダクト75Rと、上ダクト75Uと、前ダクト75Fとを含んでいる。また、後ダクト75Rの下端には、第1実施形態と同様にインフレータからガスが供給されるガス供給口を成す図示しない供給筒が繋がっている。そして、フレームダクト75は、インフレータからのガスを前展開部及び横展開部へ供給させる流路を構成している。
ここで、後側クロス膨張部74Aは、一対のフレームダクト75からそれぞれ対向する方向へ延出されている。具体的には、乗員Dの右側(車両幅方向中央側)で膨張展開されるフレームダクト75から右膨張部74ARが延出されている。右膨張部74ARは、乗員Dの右側のフレームダクト75と一体に形成されており、後ダクト75Rと上ダクト75Uとの間の部位から対向するフレームダクト75へ向かってシート幅方向に延出されている。
一方、乗員Dの左側(車両幅方向外側)で膨張展開されるフレームダクト75から左膨張部74ALが延出されている。左膨張部74ALは、乗員Dの左側のフレームダクト75と一体に形成されており、後ダクト75Rと上ダクト75Uとの間の部位から対向するフレームダクト75へ向かって右膨張部74ARと突き合わされるように延出されている。
右膨張部74AR及び左膨張部74ALは、膨張展開状態で先端部同士が接触する長さに形成されている。また、右膨張部74AR及び左膨張部74ALは、乗員Dの頭頂部HTよりもシート後方側に設けられている。さらに、後側クロス膨張部74Aは、右膨張部74ARと左膨張部74ALとに分割されているため、後側クロス膨張部74Aと前側クロス膨張部74Bとの間には、膨張展開状態における平面視で略矩形状の開口76が形成される。
(作用及び効果)
次に、実施形態の作用について説明する。
本実施形態では、後側クロス膨張部74Aの右膨張部74ARを一方のフレームダクト75と一体に形成しており、左膨張部74ALを他方のフレームダクト75と一体に形成している。これにより、フレームダクト75と後側クロス膨張部74Aとの縫製が不要となる。この結果、フレームダクト75を流れるガスがフレームダクト75と後側クロス膨張部74Aとの間から漏れるのを抑制することができる。すなわち、膨張展開時にガスの主流路となるフレームダクト75からガスが漏れるのを抑制することができ、安定して多方位エアバッグ72を膨張展開させることができる。
また、本実施形態では、後側クロス膨張部74Aを左右に分割したことにより、一対のフレームダクトを後側クロス膨張部で連結した構造と比較して製造(縫製)し易い。その他の作用については第1実施形態と同様である。
<第3実施形態>
次に第3実施形態に係る乗員保護装置80について、図10に基づいて説明する。なお、第1実施形態と同様の構成については同じ符号を付し、適宜説明を省略する。
図10に示されるように、本実施形態に係る多方位エアバッグ82の上展開部84は、シート幅方向を長手方向として膨張展開される先行膨張部としての後側クロス膨張部84Aと、後側クロス膨張部84Aよりもシート前方側に設けられシート幅方向を長手方向として膨張展開される前側クロス膨張部84Bとを含んで構成されている。また、上展開部84は、前側クロス膨張部84Bよりもシート前方側に設けられた布状の非膨張部84Cを含んで構成されている。
乗員Dの頭部Hに対するシート幅方向の両側にはフレームダクト85が設けられており、このフレームダクト85は、後ダクト85Rと、上ダクト85Uと、前ダクト85Fとを含んでいる。また、後ダクト85Rの下端には、第1実施形態と同様にインフレータからガスが供給されるガス供給口を成す図示しない供給筒が繋がっている。そして、フレームダクト85は、インフレータからのガスを前展開部及び横展開部へ供給させる流路を構成している。
ここで、後側クロス膨張部84Aは、一対のフレームダクト85からそれぞれ対向する方向へ延出されている。具体的には、乗員Dの右側(車両幅方向中央側)で膨張展開されるフレームダクト85から右膨張部84ARが延出されている。右膨張部84ARは、乗員Dの右側のフレームダクト85と一体に形成されており、後ダクト85Rと上ダクト85Uとの間の部位から対向するフレームダクト85へ向かってシート幅方向に延出されている。
一方、乗員Dの左側(車両幅方向外側)で膨張展開されるフレームダクト85から左膨張部84ALが延出されている。左膨張部84ALは、乗員Dの左側のフレームダクト85と一体に形成されており、フレームダクト85における右膨張部84ARよりもシート後方側から対向するフレームダクト85へ向かってシート幅方向に延出されている。
右膨張部84AR及び左膨張部84ALはそれぞれ、膨張展開状態で対向するフレームダクト85に接触する長さに形成されている。また、右膨張部84AR及び左膨張部84ALは、乗員Dの頭頂部HTよりもシート後方側に設けられている。さらに、後側クロス膨張部84Aは、右膨張部84ARと左膨張部84ALとに分割されているため、後側クロス膨張部84Aと前側クロス膨張部84Bとの間には、膨張展開状態における平面視で略矩形状の開口86が形成される。
(作用及び効果)
次に、実施形態の作用について説明する。
本実施形態では、後側クロス膨張部84Aの右膨張部84ARを一方のフレームダクト85と一体に形成しており、左膨張部84ALを他方のフレームダクト85と一体に形成している。これにより、フレームダクト85と後側クロス膨張部84Aとの縫製が不要となる。この結果、フレームダクト85を流れるガスがフレームダクト85と後側クロス膨張部84Aとの間から漏れるのを抑制することができる。すなわち、膨張展開時にガスの主流路となるフレームダクト85からガスが漏れるのを抑制することができ、安定して多方位エアバッグ82を膨張展開させることができる。
また、本実施形態では、前後に二つの膨張部(右膨張部84AR、左膨張部84AL)を設けたことにより、第2実施形態の構造と比較して、後側クロス膨張部84Aの膨張時に多方位エアバッグ82における外ロール折り部のシート幅方向中央部の押し上げ効果を高めることができる。これにより、第2実施形態よりも多方位エアバッグ82がヘッドレストや乗員Dの頭部Hに引っ掛かるのを抑制することができる。さらに、後側クロス膨張部84Aを左右に分割したことにより、一対のフレームダクトを後側クロス膨張部で連結した構造と比較して製造(縫製)し易い。その他の作用については第1実施形態と同様である。
<第4実施形態>
次に第4実施形態に係る乗員保護装置90について、図11に基づいて説明する。なお、第1実施形態と同様の構成については同じ符号を付し、適宜説明を省略する。
図11に示されるように、本実施形態に係る多方位エアバッグ92の上展開部94は、シート幅方向を長手方向として膨張展開される先行膨張部としての後側クロス膨張部94Aと、後側クロス膨張部94Aよりもシート前方側に設けられシート幅方向を長手方向として膨張展開される前側クロス膨張部94Bとを含んで構成されている。また、上展開部94は、前側クロス膨張部94Bよりもシート前方側に設けられた布状の非膨張部94Cを含んで構成されている。
乗員Dの頭部Hに対するシート幅方向の両側にはフレームダクト95が設けられており、このフレームダクト95は、後ダクト95Rと、上ダクト95Uと、前ダクト95Fとを含んでいる。また、後ダクト95Rの下端には、第1実施形態と同様にインフレータからガスが供給されるガス供給口を成す図示しない供給筒が繋がっている。そして、フレームダクト95は、インフレータからのガスを前展開部及び横展開部へ供給させる流路を構成している。
ここで、後側クロス膨張部94Aは、一対のフレームダクト95からそれぞれ対向する方向へ延出されている。具体的には、乗員Dの右側(車両幅方向中央側)で膨張展開されるフレームダクト95から右膨張部94ARが延出されている。右膨張部94ARは、乗員Dの右側のフレームダクト95と一体に形成されており、後ダクト95Rと上ダクト95Uとの間の部位から対向するフレームダクト95へ向かってシート幅方向に延出されている。
また、右膨張部94ARの先端部には、膨張展開状態における平面視でシート前後方向を長手方向とする略矩形状の右幅広部94DRが形成されている。右幅広部94DRは、右膨張部94ARと一体に形成されており、右膨張部94ARからガスが供給されて膨張される。また、右幅広部94DRは、一対のフレームダクト95間のシート幅方向中央部に位置している。
一方、乗員Dの左側(車両幅方向外側)で膨張展開されるフレームダクト95から左膨張部94ALが延出されている。左膨張部94ALは、乗員Dの左側のフレームダクト95と一体に形成されており、後ダクト95Rと上ダクト95Uとの間の部位から対向するフレームダクト95へ向かってシート幅方向に延出されている。
また、右膨張部94ALの先端部には、膨張展開状態における平面視でシート前後方向を長手方向とする略矩形状の左幅広部94DLが形成されている。左幅広部94DLは、左膨張部94ALと一体に形成されており、左膨張部94ALからガスが供給されて膨張される。また、左幅広部94DLは、一対のフレームダクト95間のシート幅方向中央部に位置しており、右幅広部94DRに突き合わされている。
右膨張部94AR及び左膨張部94ALはそれぞれ、膨張展開状態で右幅広部94DRと左幅広部94DLとが接触する長さに形成されている。また、右膨張部94AR及び左膨張部94ALは、乗員Dの頭頂部HTよりもシート後方側に設けられている。さらに、後側クロス膨張部94Aは、右膨張部94ARと左膨張部94ALとに分割されているため、後側クロス膨張部94Aと前側クロス膨張部94Bとの間には、膨張展開状態で開口96が形成される。
また、右幅広部94DR及び左幅広部94DLはそれぞれ、膨張展開の初期段階ではヘッドレスト内に収納されているため、シート上下方向が長手方向となるように配置されている。このため、膨張展開の初期段階では、外ロール折り部に先行して右幅広部94DR及び左幅広部94DLがシート上下方向に大きく膨張される。その後、ヘッドレストの上方を通過し、膨張展開の完了状態で図11のようにシート前後方向が長手方向となるように構成されている。
(作用及び効果)
次に、実施形態の作用について説明する。
本実施形態では、後側クロス膨張部94Aの右膨張部94ARを一方のフレームダクト95と一体に形成しており、左膨張部94ALを他方のフレームダクト95と一体に形成している。これにより、フレームダクト95と後側クロス膨張部94Aとの縫製が不要となる。この結果、フレームダクト95を流れるガスがフレームダクト95と後側クロス膨張部94Aとの間から漏れるのを抑制することができる。すなわち、膨張展開時にガスの主流路となるフレームダクト95からガスが漏れるのを抑制することができ、安定して多方位エアバッグ92を膨張展開させることができる。
また、本実施形態では、右幅広部94DR及び左幅広部94DLを設けたことにより、初期段階でこの右幅広部94DR及び左幅広部94DLがシート上下方向に大きく膨張される。これにより、膨張展開の初期段階で外ロール折り部のシート幅方向中央部を効果的にシート上方側へ押し上げることができる。さらに、後側クロス膨張部94Aを左右に分割したことにより、一対のフレームダクトを後側クロス膨張部で連結した構造と比較して製造(縫製)し易い。その他の作用については第1実施形態と同様である。
<第5実施形態>
次に第5実施形態に係る乗員保護装置100について、図12に基づいて説明する。なお、第1実施形態と同様の構成については同じ符号を付し、適宜説明を省略する。
図12に示されるように、本実施形態に係る多方位エアバッグ102の上展開部104は、シート幅方向を長手方向として膨張展開される先行膨張部としての後側クロス膨張部104Aと、後側クロス膨張部104Aよりもシート前方側に設けられシート幅方向を長手方向として膨張展開される前側クロス膨張部104Cと、後側クロス膨張部104Aと前側クロス膨張部104Cとを繋ぐ布状の非膨張部104Bとを含んで構成されている。また、上展開部104は、前側クロス膨張部104Cよりもシート前方側に設けられた布状の非膨張部104Dを含んで構成されている。
乗員Dの頭部Hに対するシート幅方向の両側にはフレームダクト105が設けられており、このフレームダクト105は、後ダクト105Rと、上ダクト105Uと、前ダクト105Fとを含んでいる。また、後ダクト105Rの下端には、第1実施形態と同様にインフレータからガスが供給されるガス供給口を成す図示しない供給筒が繋がっている。そして、フレームダクト105は、インフレータからのガスを前展開部及び横展開部へ供給させる流路を構成している。
ここで、後側クロス膨張部104Aは、一対のフレームダクト105をシート幅方向に連結している。また、後側クロス膨張部104Aのシート幅方向中央部には、幅広部104Eが設けられている。幅広部104Eは、後側クロス膨張部104Aの一般部(フレームダクト105の近傍の部位)よりもシート前後方向に長く形成されており、本実施形態では、後側クロス膨張部104Aからシート前方及びシート後方にそれぞれ膨出されている。
また、幅広部104Eは、膨張展開の初期段階ではヘッドレスト内に収納されているため、シート上下方向が長手方向となるように配置されている。このため、膨張展開の初期段階では、外ロール折り部に先行して幅広部104Eがシート上下方向に大きく膨張される。その後、ヘッドレストの上方を通過して図12のようにシート前後方向が長手方向となるように膨張展開される。
(作用及び効果)
次に、実施形態の作用について説明する。
本実施形態では、幅広部104Eを設けたことにより、初期段階で幅広部104Eがシート上下方向に大きく膨張される。これにより、膨張展開の初期段階で外ロール折り部のシート幅方向中央部を効果的にシート上方側へ押し上げることができる。その他の作用については第1実施形態と同様である。
(その他の変形例)
なお、図7に示されるように、上記実施形態では、外ロール折り部30Rよりもシート下方側に、後側クロス膨張部48A1を含む蛇腹折り部30Bを配置したが、これに限定されない。例えば、蛇腹折り以外の折り畳み方で後側クロス膨張部48A1が折り畳まれた構成でもよい。また、外ロール折り部30Rよりもシート下方側を折り畳まずにヘッドレスト18に収納してもよい。
また、上記実施形態では、後側クロス膨張部48A1を外ロール折り部30Rに先行して膨張させる先行膨張部としたが、これに限定されない。例えば、後側クロス膨張部48A1までを外ロール折りで折り畳んで収納し、この後側クロス膨張部48A1よりもインフレータ32に近い部位に先行膨張部を別途設定してもよい。この先行膨張部としては、後側クロス膨張部48A1と同様に一対のフレームダクト35をシート幅方向に連結する膨張部としてもよく、他の構成としてもよい。
さらに、上記実施形態では、膨張展開状態で乗員Dの頭頂部HTよりもシート後方側に先行膨張部としての後側クロス膨張部を設定したが、これに限定されない。例えば、頭頂部HTよりもシート前方側に先行膨張部を設定してもよく、図1における前側クロス膨張部48A2を先行膨張部としてもよい。この場合、前側クロス膨張部48A2よりもシート前方側で膨張展開される部位のみが外ロール折りされてヘッドレスト18に収納される。そして、前側クロス膨張部48A2及び前側クロス膨張部48A2よりもシート後方側で膨張展開される部位は、蛇腹折り又は他の折り畳み方で折り畳まれてヘッドレスト18に収納される。ただし、ヘッドレスト18及び乗員Dの頭部Hに引っ掛からないように多方位エアバッグ30を膨張展開させる観点から、乗員Dの頭頂部HTよりもシート後方側に先行膨張部を設定するのが好ましい。この場合、先に先行膨張部が膨張することで、外ロール折り部をシート上方側へ押し上げることができるため、多方位エアバッグが乗員Dの頭部Hと車室天井との間を通過しやすくなる。
またさらに、第2実施形態及び第4実施形態では、膨張展開状態で右膨張部と左膨張部の先端部同士が突き合わされて接触する構成としたが、これに限定されない。例えば、膨張展開状態で右膨張部と左膨張部との間に隙間が設けられた構成としてもよい。ただし、膨張展開の初期段階で外ロール折り部を効果的に押し上げる観点から、右膨張部及び左膨張部を多方位エアバッグのシート幅方向中央部分まで形成するのが好ましい。
また、第3実施形態では、膨張展開状態で右膨張部84AR及び左膨張部84ALがそれぞれフレームダクト85に接触するように構成したが、これに限定されない。例えば、膨張展開状態で乗員Dの頭部Hに対する左側のフレームダクト85と右膨張部84ARとの間に隙間が設けられた構成としてもよい。同様に、膨張展開状態で乗員Dの頭部Hに対する右側のフレームダクト85と左膨張部84ALとの間に隙間が設けられた構成としてもよい。
さらに、図1及び図2に示されるように、上記実施形態では、乗員保護装置がサイドエアバッグ装置22を備えた例を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、乗員保護装置がサイドエアバッグ装置22を備えない構成としても良い。また、乗員保護装置がサイドエアバッグ装置を備える構成において、サイドエアバッグ装置が車両用シート12に設けられる構成には限定されない。例えば、サイドドア等に設けられたサイドエアバッグ装置を備えて乗員保護装置が構成されても良い。さらに、上記した実施形態では、乗員保護装置が車両幅方向外側のサイドエアバッグ装置22を備えた例を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、乗員保護装置は、車両幅方向外側のサイドエアバッグ装置22に代えて又は加えて、車両幅方向中央側に配置されるサイドエアバッグ装置を備える構成としても良い。
またさらに、上記実施形態では、乗員保護装置がシートベルト装置24を備えた例を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、乗員保護装置がシートベルト装置24を備えない構成としても良い。また、乗員保護装置がシートベルト装置を備える構成において、シートベルト装置が車両用シート12に設けられる構成には限定されない。例えば、リトラクタやアンカ、バックル等が車体側に設けられた構成としても良い。また、乗員保護装置がシートベルト装置を備える構成において、シートベルト装置は3点式に限られることはなく、4点式や2点式のシートベルト装置であっても良い。
また、上記実施形態では、車両用シート12がシート幅方向を車両幅方向に一致させて配置された例を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、車両用シート12は車体に対し斜めに配置されても良く、車体に対する向きが変更(上下軸回りに回転)可能である構成としても良い。このような構成において、乗員Dの頭部Hを取り囲んで膨張展開される多方位エアバッグを備えた構成は、頭部Hの良好な保護に寄与し得る。また、膨張展開前の多方位エアバッグ等は、ヘッドレスト18に収納されているため、車室内面や車室内構成品と干渉し難く、車両用シート12の車体に対する向きの変更動作を阻害することが抑制又は防止される。
さらに、上記実施形態では、多方位エアバッグ装置20が展開誘導布58を備えた例を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、展開誘導布58を備えない構成としても良い。また例えば、展開誘導布58を設ける構成に代えて、車室天井の天井材を低摩擦材にて構成したり、車室天井に低摩擦処理を施したりしても良い。
その他、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で各種変更して実施可能であることは言うまでもない。例えば、上記実施形態、変形例の構成(要素)を適宜組み合わせ又は組み替えても良い。また、後側クロス膨張部の形状については上記実施形態の形状に限定されず、他の形状としてもよい。