JP6440357B2 - 蓄熱材及び蓄熱装置 - Google Patents
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(1)水和物塩と過冷却安定剤を含む過冷却液体状態の下層と、水溶性液体を含む液体状の上層と、を少なくとも有し、前記過冷却安定剤の20℃での比誘電率は10〜50で、分子量が200以下であり、前記水溶性液体は、水と前記過冷却安定剤の混合物であることを特徴とする蓄熱材。
(2)前記水和物塩は酢酸ナトリウム3水和物、チオ硫酸ナトリウム5水和物、硫酸ナトリウム10水和物のいずれか一種類以上を含むことを特徴とする(1)に記載の蓄熱材。
(3)前記下層に含まれる水の量が、前記水和物塩の化学量論組成よりも多いことを特徴とする(1)または(2)に記載の蓄熱材。
(4)前記上層は、密度が0.7〜1.2で、凝固点が−20℃以下であり、前記蓄熱材の全体に占める前記上層の体積分率は0.1%〜25%であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の蓄熱材。
(5)前記上層と前記下層は一様に相溶可能であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の蓄熱材。
(6)前記上層が、前記水溶性液体を主成分として含む水溶性液体層に加えて、非水溶性液体を主成分として含む非水溶性液体層を有し、二層以上の液体層を形成することを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の蓄熱材。
(7)前記上層は第1層と第2層に分かれ、前記第1層と前記第2層のうち、前記第2層が前記下層側にあり、前記第1層が前記非水溶性液体層であり、前記第2層が前記水溶性液体層であることを特徴とする(6)に記載の蓄熱材。
(8)前記上層は第1層と第2層に分かれ、前記第1層と前記第2層のうち、前記第2層が前記下層側にあり、前記第1層が前記水溶性液体層であり、前記第2層が前記非水溶性液体層であることを特徴とする(6)に記載の蓄熱材。
(9)前記上層は第1層と第2層と第3層に分かれ、前記第1層が前記水溶性液体層であり、前記第2層が前記非水溶性液体層であり、前記第3層が前記水溶性液体層であることを特徴とする(6)に記載の蓄熱材。
(10)前記非水溶性液体が、20℃での比誘電率が2〜20の液体であることを特徴とする(6)〜(9)のいずれかに記載の蓄熱材。
(11)前記水溶性液体層の20℃での比誘電率は、前記下層の20℃での比誘電率の50%以下であり、前記非水溶性液体層の20℃での比誘電率は、前記下層の20℃での比誘電率の10%以下であることを特徴とする(6)〜(10)のいずれかに記載の蓄熱材。
(12)前記過冷却安定剤を添加した後の前記下層の0℃での比誘電率が、前記過冷却安定剤を添加する前の前記下層の、前記下層に含まれる前記水和物塩の融点で完全に溶融した状態での比誘電率の60%以下であり、前記過冷却安定剤を添加した後の前記下層の−20℃での比誘電率が、前記過冷却安定剤を添加する前の前記下層の、前記下層に含まれる前記水和物塩の融点で完全に溶融した状態での比誘電率の50%以下であることを特徴とする(1)に記載の蓄熱材。
(13)前記過冷却安定剤として、1価のアルコール、グリコール、3価以上の多価アルコール又はそれらの混合物であって、5℃及び1気圧で液体である材料を用いることを特徴とする(1)に記載の蓄熱材。
(14)前記過冷却安定剤が、エタノール、エチレングリコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ブチレングリコール、イソブチレングリコール、メチルプロパンジオール、グリセリンからなる群より選ばれる一つまたはこれらの混合物であることを特徴とする(1)に記載の蓄熱材。
(15)容器内に(1)〜(14)のいずれかに記載の蓄熱材を有することを特徴とする蓄熱装置。
(16)前記容器内に空間があることを特徴とする(15)に記載の蓄熱装置。
以下、図面に基づいて、本発明の実施形態を詳細に説明する。
第1の実施形態に係る蓄熱装置1について説明する。図1(a)は、過冷却状態の蓄熱装置1を示す図である。蓄熱装置1は、容器2に、蓄熱材7を有する。蓄熱材7は、過冷却状態において、少なくとも上層3と下層5の二層構造を有する。下層5は水和物塩と過冷却安定剤を含む過冷却液体状態であり、上層3は水溶性液体を含む液体状である。
そこで、本発明者らは、材料要因と外部要因の両方から過冷却状態の安定化を実現する方法の検討を行った。
材料要因として、無水物、水和物塩の結晶構造から結晶化過程を考察した。以下、水和物塩が酢酸ナトリウム3水和物の場合で説明する。
過冷却液体からの酢酸ナトリウムの析出は、過冷却状態の安定性に直接影響を与えないが、酢酸ナトリウムは蓄熱装置の動作温度では相変化せずに放熱に寄与しないために、酢酸ナトリウムが存在すれば、利用できる放熱量が小さくなる。そのため、酢酸ナトリウムの析出を抑制する必要があり、酢酸ナトリウムの析出の抑制には化学量論組成より水を多くするのが効果的である。水和物の化学量論組成より多い水分子は、ナトリウムイオンの周囲に集まり、水和物を形成しやすいため、過冷却状態において結晶化を引き起こしやすい。そこで無水物の析出を抑制し過冷却状態を安定するには、水分子の凝集を抑制する材料の添加が望ましい。本発明者らは、特定の誘電率を有する材料が、このような作用を示す材料として適することを見出し、本発明に至った。
過冷却安定剤としては、比誘電率が10〜50の分子量200以下の物質を使用できる。
過冷却安定剤としては、1価のアルコール、グリコール、3価以上の多価アルコールで、5℃及び1気圧で液体が望ましく、具体的には、エタノール、エチレングリコール、プロピルアルコール(プロパノール)、イソプロピルアルコール(2−プロパノール)、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ブチレングリコール(ブタンジオール)、イソブチレングリコール(2−メチル−1,2−プロパンジオール)、メチルプロパンジオールなどを挙げることができる。
材料要因ではない外的要因による結晶化現象として、以下の現象を見出した。
蓄熱材7の上部に空間9がある場合、空間9の容器2の側面に、蒸発した水分に由来する氷や凝縮した際に取り残されて析出した蓄熱材料由来の水和物塩が過冷却状態の蓄熱材組成物に落下して、結晶化が始まる場合があった。また振動などの外部からの機械的要因で、蓄熱物組成物と空間との境界が変動して容器側面に衝突した場合に、衝撃により過冷却状態の蓄熱材組成物が結晶化する場合があった。
そこで、蓄熱材組成物の上に析出物による結晶化などを防ぐ緩衝層として上層を設けて過冷却状態の安定化を実現した。
第1の実施形態において、上層3の存在により、蓄熱材7の上部の空間9より析出物が落ちた際にも、上層3が受け止め、さらに析出物が上層3へ溶解するなどして、析出物による過冷却状態の下層5の結晶化を防止し、過冷却状態を安定化できる。析出物を溶解させて消失させるために、上層3は水溶性液体であることが望ましい。
また、蓄熱材7には、水溶性の過冷却安定剤が添加されているため、過冷却状態を安定に維持できる。
上層3は、水溶性液体を主成分とする液体の層である。上層を形成するための層調整工程には、上層、下層に相当する液体組成物を別々に用意した後、下層相当液体組成物に上層相当液体組成物をゆっくり加える工程、もしくは、一様に相溶した蓄熱材組成物を上下層に相分離させる工程がある。
蓄熱容器の空間と蓄熱材組成物の境界エネルギーを緩和するように、上層3が下層5と空間9との間に存在するためには、上層3の密度は1.2以下が望ましい。上層3の密度が1.2を超える場合では下層5との密度が近く、効果的に分離しない。
添加する材料の分子量と水との相溶性から、上層3の密度は0.7以上が望ましい。
下層5は、過冷却安定剤により過冷却状態を安定化した水和物塩を主体とする過冷却液体であり、放熱蓄熱を担う本体部分である。水和物塩としては、酢酸ナトリウム3水和物、チオ硫酸ナトリウム5水和物、硫酸ナトリウム10水和物のいずれか又はこれらの混合物を使用できる。
また、過冷却安定剤を添加した後の下層5の−20℃での比誘電率が、過冷却安定剤を添加する前の下層5の、下層5に含まれる水和物塩の融点で完全に溶融した状態での比誘電率の50%以下であることが好ましい。
容器2は、可撓性のあるラミネートフィルムからなる外装材で囲まれたパックや、硬質なステンレスなどの金属製の容器である。蓄熱材7は、加熱や冷却により体積が膨張収縮するため、硬質な金属製容器を使用する場合は、蓄熱材7の上部に空間9を設け、蓄熱材7の膨張収縮に伴う容器の破損を防止することが好ましい。
次に、第2の実施形態について説明する。
図1(b)は、第2の実施形態にかかる蓄熱装置11を示す図である。以下の実施形態で第1の実施形態と同一の様態を果たす要素には同一の番号を付し、重複した説明は避ける。
[実施例]
酢酸ナトリウム3水和物90質量%と水10質量%を溶解させた液体に対して、プロピレングリコール(実施例1)、1,3−ブタンジオール(実施例2)、エチレングリコール(実施例3)、等質量比のエタノールとエチレングリコール(実施例4)を10質量%含むように加えて蓄熱材組成物を作製した。
実施例5は、実施例3の蓄熱材組成物に対して1質量比の2−ブトキシエタノールを添加して作製した。層調整工程を行い、エチレングリコールを含む上層第2層と、2−ブトキシエタノールを含む上層第1層を形成した。下層の20℃での比誘電率に対して、上層第2層の比誘電率は38%、上層第1層の比誘電率は2%であった。
実施例6は、チオ硫酸ナトリウム5水和物94質量%と水6質量%を溶解させた液体に対して、エチレングリコールを10質量%含むように加えて蓄熱材組成物を作製した。
実施例1と同じ割合で、比誘電率が68と高いアセトアミドを酢酸ナトリウム3水和物と水に添加した蓄熱材組成物で、層調整工程なしの例である。
実施例1と同量のプロピレングリコールを酢酸ナトリウム3水和物と水に添加した蓄熱材組成物で、層調整工程なしの例である。
過冷却安定剤を添加しない酢酸ナトリウム3水和物と水を蓄熱材組成物として用い、層調整工程ありが比較例3で、層調整工程なしが比較例4である。
比較例5は、比較例3の蓄熱材組成物に対して、1質量比の2−ブトキシエタノールを添加して作製した。2−ブトキシエタノールは蓄熱材組成物に対して相溶せず、層調整工程なしで分離し非水溶性液体層を構成した。すなわち、下層の上に、水溶性液体層がなく、非水溶性液体層のみが形成された。
実施例6と同量のエチレングリコールをチオ硫酸ナトリウム5水和物と水に添加した蓄熱材組成物で、層調整工程なしの例である。
実施例1〜6、比較例1〜6の蓄熱材組成物を各3個作製し、過冷却安定性を確認した。各試料とも室温での過冷却状態で発核動作を行うと、結晶化が起き発熱が確認できた。90℃まで加熱し蓄熱材組成物を溶融後に、−20℃まで冷却し、1日保持後に、過冷却状態が維持できているか評価した。各3個に対して、3回加熱冷却の評価を行った。
表中の評価結果は、1個の蓄熱材組成物に対して、過冷却状態確認を行った3回に対して(分母)、結晶化した回数(分子)を示している。
結晶化した回数において、−20℃までの冷却中に結晶化した回数と−20℃に保持中に結晶化した回数を示す。“−”は、冷却中で結晶化したので、保持の評価ができた回数がないための表記である。
また、実施例1と比較例1の比較により、誘電率が高い材料の選択では過冷却が十分に安定せず、冷却中に結晶化したことがわかる。
実施例1と比較例2を比較すると、酢酸ナトリウム3水和物に、プロピレングリコールを添加しても、層調整工程を行わずに上層を形成しなかった比較例2では、結晶化する場合があった。
また、比較例3と比較例4から、上層を形成した際の過冷却安定の効果が確認できた。
比較例3と比較例5と実施例5から、非水溶性液体層を有する場合の過冷却安定の効果が確認できた。
以上の通り、実施例においては、過冷却状態の安定が確認できた。
2………容器
3………上層
5………下層
7………蓄熱材
9………空間
11………蓄熱装置
13………上層第1層
15………上層第2層
17………上層
19………蓄熱材
Claims (16)
- 水和物塩と過冷却安定剤を含む過冷却液体状態の下層と、
水溶性液体を含む液体状の上層と、を少なくとも有し、
前記過冷却安定剤の20℃での比誘電率は10〜50で、分子量が200以下であり、前記水溶性液体は、水と前記過冷却安定剤の混合物であることを特徴とする蓄熱材。 - 前記水和物塩は酢酸ナトリウム3水和物、チオ硫酸ナトリウム5水和物、硫酸ナトリウム10水和物のいずれか一種類以上を含むことを特徴とする請求項1に記載の蓄熱材。
- 前記下層に含まれる水の量が、前記水和物塩の化学量論組成よりも多いことを特徴とする請求項1または2に記載の蓄熱材。
- 前記上層は、密度が0.7〜1.2で、凝固点が−20℃以下であり、
前記蓄熱材の全体に占める前記上層の体積分率は0.1%〜25%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の蓄熱材。 - 前記上層と前記下層は一様に相溶可能であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の蓄熱材。
- 前記上層が、水及び前記水溶性液体を主成分として含む水溶性液体層に加えて、非水溶性液体を主成分として含む非水溶性液体層を有し、二層以上の液体層を形成することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の蓄熱材。
- 前記上層は第1層と第2層に分かれ、前記第1層と前記第2層のうち、前記第2層が前記下層側にあり、
前記第1層が前記非水溶性液体層であり、前記第2層が前記水溶性液体層であることを特徴とする請求項6に記載の蓄熱材。 - 前記上層は第1層と第2層に分かれ、前記第1層と前記第2層のうち、前記第2層が前記下層側にあり、
前記第1層が前記水溶性液体層であり、前記第2層が前記非水溶性液体層であることを特徴とする請求項6に記載の蓄熱材。 - 前記上層は第1層と第2層と第3層に分かれ、
前記第1層が前記水溶性液体層であり、前記第2層が前記非水溶性液体層であり、前記第3層が前記水溶性液体層であることを特徴とする請求項6に記載の蓄熱材。 - 前記非水溶性液体が、20℃での比誘電率が2〜20の液体であることを特徴とする請求項6〜9のいずれか1項に記載の蓄熱材。
- 前記水溶性液体層の20℃での比誘電率は、前記下層の20℃での比誘電率の50%以下であり、
前記非水溶性液体層の20℃での比誘電率は、前記下層の20℃での比誘電率の10%以下であることを特徴とする請求項6〜10のいずれか1項に記載の蓄熱材。 - 前記過冷却安定剤を添加した後の前記下層の0℃での比誘電率が、前記過冷却安定剤を添加する前の前記下層の、前記下層に含まれる前記水和物塩の融点で完全に溶融した状態での比誘電率の60%以下であり、
前記過冷却安定剤を添加した後の前記下層の−20℃での比誘電率が、前記過冷却安定剤を添加する前の前記下層の、前記下層に含まれる前記水和物塩の融点で完全に溶融した状態での比誘電率の50%以下であることを特徴とする請求項1に記載の蓄熱材。 - 前記過冷却安定剤として、1価のアルコール、グリコール、3価以上の多価アルコール又はそれらの混合物であって、5℃及び1気圧で液体である材料を用いることを特徴とする請求項1に記載の蓄熱材。
- 前記過冷却安定剤が、エタノール、エチレングリコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ブチレングリコール、イソブチレングリコール、メチルプロパンジオール、グリセリンからなる群より選ばれる一つまたはこれらの混合物であることを特徴とする請求項1に記載の蓄熱材。
- 容器内に請求項1〜14のいずれか1項に記載の蓄熱材を有することを特徴とする蓄熱装置。
- 前記容器が硬質な容器であり、前記容器内に空間があることを特徴とする請求項15に記載の蓄熱装置。
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