以下、本発明の好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。また、本文に用いる蒸発防止機能、漏出防止機能、および圧力緩和機能については、詳細を(機能の詳細)で後述する。
(実施の形態1)
[蓄熱装置の構成]
まず、本実施の形態に係る蓄熱装置の具体的な構成について、図1(a)を参照して具体的に説明する。
図1(a)に示すように、本実施の形態に係る蓄熱装置20Aは、蓄熱容器21および蓄熱用熱交換器22を備え、蓄熱容器21内には、蓄熱溶液が貯えられることで蓄熱溶液層11が形成されているとともに、当該蓄熱溶液層11の上方に蒸発防止層13および空気層12が形成されている。
蓄熱容器21は、箱部211および蓋部212から構成されている。箱部211は、蓄熱容器21の本体であって、略直方体形状を有し、その上面が上部開口213となっている。箱部211の内部空間は、蓄熱溶液層11を貯えることができるように構成され、当該内部空間は上部開口213を介して外部空間とつながっている。蓋部212は、箱部211の上部開口213を覆うように設けられ、その一部に、箱部211の内部空間とつながる通気孔214が設けられている。したがって、蓄熱容器21の内部空間は、箱部211の上部開口213が蓋部212で閉じられた状態であっても、通気孔214を介して外気と連通している。
箱部211および蓋部212は、内部空間で蓄熱溶液層11を安定して保持できる材料および形状で構成されていればよく、材料としては、一般的には、ステンレス(SUS)または繊維強化プラスチック(FRP)が用いられ、形状としては、一般的には、直方体状または立方体状等が挙げられる。また、箱部211の内部容積についても特に限定されず、蓄熱装置20Aの使用条件等に応じて適切な容積となるように設計されればよい。
蓋部212に設けられる通気孔214は、蓄熱容器21の内部の圧力上昇を緩和するために、空気層12を形成する内部空気を蓄熱容器21の外部に流出させたり、蓄熱溶液か
ら生ずる蒸気または溶存空気等を外部に放出させたりするよう構成されている。また、蓄熱容器21の内外で空気層12を構成する空気が必要以上に流動したり、蓄熱容器21から生ずる蒸気が必要以上に放出されて蓄熱溶液等が減少したりすることを抑制するように、その開口面積は最適化されていればよい。なお、通気孔214の位置、形状、個数等の具体的構成については特に限定されず、前記圧力上昇の緩和と、蓄熱溶液等の減少の抑制を実現できるような構成であればよい。また、通気孔214は、蓋部212ではなく箱部211の上部に設けられても良いし、双方に設けられても良い。
蓄熱用熱交換器22は、図1に示すように、蓄熱容器21の内部全体に広がるように設けられる配管状の構成であり、内部に熱交換用の熱媒体(便宜上、熱交換媒体と称する。)を流動可能とする構成となっている。また、蓄熱用熱交換器22が設けられる位置は、蓄熱容器21の内部で、蓄熱溶液層11に浸漬する位置となっている。
蓄熱用熱交換器22の両端である流入口部221および流出口部222は、蓋部212を貫通して蓄熱容器21の上方から外部に露出しており、これら流入口部221および流出口部222に、熱交換媒体を流動させる外部配管が接続される。また、蓄熱用熱交換器22の大部分を構成する本体配管部223は、大部分がつづら折れ状に構成されており、流入口部221から流出口部222に至るまで、本体配管部223が一筆書き可能(unicursal)な形状となっている。この本体配管部223のほとんどは、蓄熱溶液層11に浸漬されている。そして、流入口部221から流出口部222に向かって本体配管部223の内部を熱交換媒体が流通することにより、蓄熱溶液層11と熱交換媒体との間で熱交換を行う。蓄熱用熱交換器22の具体的な構成は特に限定されず、公知の構成を好適に用いることができる。
蓄熱用熱交換器22による蓄熱および熱回収の方法は特に限定されないが、例えば、次の2種類の方法を用いることができる。
まず、第一の方法は、蓄熱用熱交換器22を放熱源として利用する方法である。具体的には、高温の熱交換媒体(例えば、温水または高温の冷媒等)を本体配管部223内で流通させる間に、熱交換媒体が蓄熱している熱を蓄熱溶液層11に放熱することで、蓄熱溶液層11に熱を蓄熱する。そして、図1には示さないが、蓄熱用熱交換器22とは別に、熱交換器を設け、この熱交換器内に低温の熱交換媒体(例えば、冷水または低温の冷媒等)を流通させることで、蓄熱溶液層11から熱を回収する。
次に、第二の方法は、蓄熱容器21の外部または内部に、図1には図示しない熱供給機器(蓄熱用熱交換器22とは別の熱交換器、あるいは加熱源)を併設する方法である。具体的には、熱供給機器から蓄熱溶液層11に熱が蓄熱され、蓄熱用熱交換器22内に低温の熱交換媒体を流通させることにより、蓄熱溶液層11から熱を回収し、蓄熱用熱交換器22の流出口部222に接続された図示しない熱利用機器に伝達する。
[蓄熱容器内の層構成]
次に、蓄熱容器21内に形成される各層の構成について、図1(a)も参照して具体的に説明する。蓄熱容器21の内部には、前記のとおり、蓄熱溶液が貯えられることで蓄熱溶液層11が形成されているが、この蓄熱溶液層11の上方には、当該蓄熱溶液層11に積層される形で蒸発防止層13が形成されている。また、蒸発防止層13の上方には、通気孔214から流入する外気により空気層12が形成されている。したがって、蓄熱容器21の内部には、蓄熱溶液層11、蒸発防止層13および空気層12が下側からこの順で形成されていることになる。
蓄熱溶液層11および空気層12の層厚については、特に限定されず、蓄熱容器21の
形状、内部空間の容積、熱膨張による蓄熱溶液の体積の増分等の諸条件に応じて、適切な厚みが設定されればよい。つまり、熱膨張によって蓄熱溶液が通気孔214から漏れ出さない空間的余裕(空気層12)が形成されるのであれば、蓄熱溶液層11および空気層12の層厚はどのような値であってもよい。
蓄熱溶液層11を構成する蓄熱溶液は、少なくとも水から構成される蓄熱媒(thermal−storage medium)であればよい。蓄熱溶液は、水のみから構成されてもよいが、水に溶解または分散が可能な種々の添加剤を含んでもよい。特に本実施の形態では、凍結防止剤(不凍液)として、二価アルコールを含んでいることが好ましい。蓄熱溶液が、二価アルコールを含む水溶液であれば、氷点(常温常圧で0℃)以下であっても、当該蓄熱溶液の凍結を回避することができる。
前記二価アルコールとしては、特に限定されないが、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、3−メチルペンタジオール、1,4−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール等が挙げられる。これらの中でも、コスト面および凍結防止剤としての使用実績の観点から、エチレングリコールまたはプロピレングリコールが好ましく用いられる。これら二価アルコールは、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。さらに、凍結防止剤は、前記二価アルコールに限定されず、二価アルコール以外の化合物または組成物であってもよい。
また、蓄熱溶液に添加される添加剤の具体的な種類も特に限定されず、前記凍結防止剤以外に、過冷却防止剤、増粘剤、伝熱促進材、水分蒸発防止剤、腐食防止剤、防錆剤(蓄熱容器21が金属製の場合)等、蓄熱材組成物の分野で公知の種々の添加剤を用いることができる。これら添加剤の添加量、添加方法等も特に限定されず、公知の範囲または手法を好適に用いることができる。
蒸発防止層13は、蓄熱溶液層11の上に積層され、蓄熱溶液の蒸発を防止または抑制するものである。この蒸発防止層13を構成する蒸発防止組成物は、前記蓄熱溶液に不溶であり、比重が蓄熱溶液の比重より小さく、融点が常温以上である有機化合物から少なくとも構成されている。なお、有機化合物の具体的な構成については後述する。
ここで融点が不明慮な油脂類や多成分系の場合には、流動点と同義とする。なお、流動点とは日本工業規格(JIS)K2269に従って測定されるものとする。
また、蒸発防止層13は、後述する蒸発防止機能、漏出防止機能、および圧力緩和機能を実現する上で好ましい物性を付与したり、蒸発防止層13が蓄熱容器21内で安定して保持するための物性を付与したりするために、主成分の有機化合物以外に公知の他の成分を含んでもよい。具体的には、例えば、酸化防止剤、腐食防止剤、防錆剤、流動点降下剤、消泡剤、粘度調整剤等を例示することができる。これら添加剤の添加量、添加方法等も特に限定されず、公知の範囲または手法を好適に用いることができる。
したがって、蓄熱溶液層11および蒸発防止層13のいずれも、複数の成分を特定の組成で調製した組成物となっていてもよい。この場合、蓄熱溶液層11は、水を含む蓄熱溶液組成物で構成されていることになり、蒸発防止層13は、主成分に有機化合物を含む蒸発防止組成物で構成されていることになる。
なお、蒸発防止層13として主成分の有機化合物に前述の添加剤を含んだ場合も、その状態で比重や融点の条件を満たすものであれば同様の効果を得られることはいうまでもない。
[有機化合物の構成]
次に、蒸発防止層13の主成分として含まれる有機化合物について、例を挙げて具体的に説明する。
本実施の形態において、蒸発防止層13として用いられる有機化合物は、代表としてn−トリコサン、n−ドコサン、n−ヘンエイコサンなどの低融点パラフィンやポリエチレンワックス、ポリオレフィンなどのアルケン重合体などが挙げられる。
前者低融点パラフィンのn−トリコサンは炭素数23、融点46℃、比重0.7969、n−ドコサンは炭素数22、融点46℃、比重0.7778、n−ヘンエイコサンは炭素数21、融点42℃、比重0.792の直鎖状の炭化水素である。また、いずれも蓄熱溶液に不溶で比重が小さく、かつ、融点が蓄熱溶液の沸点以下である。また、後者アルケン重合体は、少なくとも1種類以上のアルケン化合物(炭素・炭素間に二重結合を含む有機化合物)を重合して得られるものであり、融点等はモノマーの構造や重合度、分子量などによって異なる。具体的には、上記アルケン重合体は、少なくとも、下記一般式(1),(2),(3)および(4)のうち少なくともいずれか1つで表される構造を有している。
ここで、前記一般式中R1、R2およびR3は、いずれもそれぞれ炭素数1以上の有機基である。
前記アルケン重合体は、蓄熱溶液に対して不溶であり、比重が蓄熱溶液より小さく、かつ融点が常温以上のものであれば、有機基R1 〜R3の具体的な種類は特に限定されず、公知のあらゆる有機基であればよいが、一般に、側鎖である有機基R1 〜R3が直鎖状である方が結晶性が高く、本実施の形態に望まれるように、蒸発防止機能をより高めるためには、前記アルケン重合体の結晶性は高い方が望ましいため、有機基R1 〜R3は、直鎖状の有機基であるとより好ましい。
直鎖状の有機基としては、例えば、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基等の直鎖アルキル基;フェニルエチル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基、フェニルペンチル基、フェニルヘキシル基、フェニルヘブチル基、4−プロピルトリル基、(1−エチル−4−フェニル)プロピル基等の芳香族アルキル基(複素環系も含む);エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ペンチルフェニル基、ヘキシルフェニル基等の直鎖アルキルフェニル基または直鎖アルキル芳香族基;オクチルオキシ基、ノニルオキシ基、デシルオキシ基、ウンデシルオキシ基、ドデシルオキシ基、トリデシルオキシ基、オクタデシルオキシ基、ノナデシルオキシ基等の直鎖アルコキシル基;オクテニル基、ノネニル基、デシニル基、ウンデシニル基、ドデシニル基、トリデシニル基、テトラデシニル基、ペンタデシニル基、ヘキサデシニル基、ヘプタデシニル基、オクタデシニル基、ノナデシニル基、イコシニル基等のアルケニル基(二重結合の位置は限定されない);アルカニル基(三重結合の位置は特に限定されない);オクタノイル基、ノニノイル基、デシノイル基等のカルボキシル基;N−オクチルアミノ基、N−ノニルアミノ基、N−デシルアミノ基等のアルキルアミノ基;ジブチルアミド基、ブチルペンチルアミド基、フェニルエチルアミド基等のアルキルアミド基;ジブチルホスフィド基、ブチルペンチルホスフィド基、フェニルエチルホスフィド基等のアルキルホスフィド基;オクチルスルフィド基、ノニルスルフィド基、デシルスルフィド基等のアルキルスルフィド基;等を挙げることができるが、特に限定されない。なお、前記有機基においては、任意の水素原子がハロゲン原子に置換されてもよいし、任意のメチル基がシリル基に置換されてもよいし、酸素原子または硫黄原子を含む場合には、他の第16属元素に置換されてもよいし、リン原子を含む場合には、他の第15属元素に置換されてもよい。さらに、結晶性を妨げるおそれが小さいか、結晶性の向
上が期待されるものであれば、種々の側鎖構造または環状構造を含んでもよい。
本実施の形態におけるアルケン重合体の重合方法(合成方法)は特に限定されず、公知のさまざまな方法を用いることができる。ここで、アルケン重合体の重合に用いられるモノマーには、少なくとも、前記一般式(1),(2),(3)または(4)で表される構造のアルケン化合物を含んでいればよく、前記一般式(1),(2),(3)および(4)で表される構造のうち、2種類のアルケン化合物を含んでいてもよく、前記一般式(1)〜(4)で表される構造の全てのアルケン化合物を含んでいてもよい。
また、用いられるモノマーは1種類のみであってもよいし、2種類以上であってもよい。例えば、モノマーとして用いられるアルケン化合物が前記一般式(2)で表される構造の化合物(ビニル化合物)のみである場合、置換基である有機基R1 は1種類のみでもよいし、複数種類の有機基を含む化合物が併用されてもよい。つまり、前記一般式(2)で用いられるアルケン化合物は、特定の1種類のビニル化合物のみでもよいし、複数種類のビニル化合物が用いられてもよい。
また、モノマーとしては、前記一般式(1)〜(4)で表されるアルケン化合物以外のモノマー化合物を含んでもよい。この場合、得られる重合体は、アルケンおよび他のモノマー化合物との共重合体となる。他のモノマー化合物としては、特に限定されず、(メタ)アクリル酸エステル、アクリロニトリル、ハロゲン化ビニル、ビニルアルコール等のアルケン化合物と共重合可能なものであればよい。
また、モノマーの重合時には、種々の触媒、重合用溶媒、種々の添加物等が用いられてもよい。例えば、前記アルケン化合物に触媒、溶媒、添加物等を任意の組成で調製したモノマー組成物を準備し、当該モノマー組成物を用いて、任意の重合反応器内で任意の条件で重合させることによって、本実施の形態におけるアルケン化合物を製造することができる。
なお、本実施の形態で利用可能な重合方法の一例としては、例えば、参考特許文献:国際公開番号WO2002/014384号(対応日本国公表特許公報:特表2004−506758号)に開示される具体的な方法および当該文献中に引用される特許文献に開示される具体的な方法(いずれも本明細書中に参考として援用される)を挙げることができるが、特に限定されない。
得られるアルケン重合体の構造は、次の一般式(5)または(6)で示される構造となる。なお、一般式中、R1 は前述した通りの有機基であり、X1 は、水素原子または前記R2 の置換基であり、X2 は、水素原子または前記R3 の置換基である。また、一般式(6)におけるYは、酸素原子、硫黄原子等の二価の原子、または、アルケン化合物以外のモノマー構造である。また、モノマー構造単位の繰り返し数であるnについては、分子量の好ましい範囲内において適宜選択可能な整数であればよい。
さらに、単一の重合体分子中におけるモノマー構造単位は、下記一般式(5)または(6)に該当すればよいので、1種類のみの構造単位からアルケン重合体が構成されてもよいし、複数種類の構造単位が含まれても良い。つまり、R1 ,X1 ,X2 は、同一分子中のモノマー構造単位全てにおいて同一の有機基または置換基であってもよいし、同一分子中のモノマー構造単位のそれぞれにおいて、異なる種類の有機基または置換基であってもよい。
得られるアルケン重合体の分子量は特に限定されないが、本実施の形態では、数平均分子量は100万以下であると好ましい。数平均分子量が100万以下であれば、アルケン
重合体の融点が常温を超える温度となって、常温では固体で維持されることになる。また、得られるアルケン重合体の温度条件(融点の許容範囲等)については後述する。
[蒸発防止層の機能]
次に、前記有機化合物を含む蒸発防止層13の具体的な機能について、図1(b)を参照して具体的に説明する。
本実施の形態では、蒸発防止層13が、蓄熱溶液に不溶で、かつ、比重が水より軽く、融点が常温以上の前記有機化合物を少なくとも含んでおり、蓄熱動作を行わない状態では固体もしくは半固体である。
ここで半固体とは、熱変形状態やガラス転移状態などの固体と液体の中間に該当する状態を言う。
蓄熱溶液層11および蒸発防止層13について、温度変化に伴う固相から液相への相状態の変化を対比する。図1(b)に示すように、温度が低温であればいずれの層も固体もしくは半固体(図中網掛けの領域)であるが、温度が徐々に高くなれば、蓄熱溶液層11は、凝固点Pfで固体から液体に相変化し、沸点Pbに達するまでは液体で維持される。一方、蒸発防止層13は、蓄熱溶液の凝固点Pfでは固体もしくは半固体であって、さらに、常温の範囲(図中一点鎖線で挟まれる領域)であっても固体もしくは半固体のままである。
蒸発防止層13を構成する有機化合物は、融点Pmに達して高粘度の液体として液化する。なお、本実施の形態では、日本工業規格JIS Z 8703に従って、常温の範囲を20℃±15℃(5℃以上35℃以下)の範囲と規定する。それゆえ、有機化合物の融点Pmは35℃を超えていればよい。
蓄熱溶液層11の温度がさらに上昇すれば、沸点Pbに達した時点で、蓄熱溶液が沸騰して気化が開始されるが、蒸発防止層13は高粘度の液体のままで維持される。なお、蒸発防止層13を構成する有機化合物がアルケン重合体などの場合、温度が十分に高くなると気化せずに熱分解するので、図1(b)では、熱分解温度Ptも図示している。
このように、常温の範囲内では、蒸発防止層13は固体もしくは半固体となるため、蓄
熱溶液の過剰な蒸発を有効に防止できる(蒸発防止機能の実現)とともに、蓄熱装置20Aの運搬時に蓄熱溶液層11を構成する蓄熱溶液が蓄熱容器21の外部に漏れ出したり空気層12へ露出したりすることを抑制できる(漏出防止機能の実現)。また、蓄熱動作時に蓄熱溶液の温度が上昇しても、蒸発防止層13は高粘度の液体層となるので、蓄熱溶液の過剰な蒸発を有効に防止できる。
さらに、蓄熱溶液の蒸発によって蒸気圧が上昇したり、蓄熱溶液に含まれる溶存酸素等の気体が遊離したりしても、蒸発防止層13が高粘度の液体であることから、蓄熱溶液層11が膨張してもその上面は蒸発防止層13で良好に覆われる。しかも、圧力が大きく上昇しても、蒸気または遊離気体の一部が液状の蒸発防止層13から空気層12に抜け出るため、圧力が過剰に上昇することがなく、蓄熱溶液の圧力上昇にも十分対応することができる(圧力緩和機能の実現)。それゆえ、蒸発防止機能、漏出防止機能および圧力緩和機能のいずれも良好に実現することができる。その結果、蓄熱容器21内で蓄熱溶液を安定して保持することができ、取扱性に優れた蓄熱装置20Aを得ることができる。
本実施の形態においては、蒸発防止層13として用いられる有機化合物の融点Pmは、蓄熱溶液の沸点Pbよりも低いことが好ましい。本実施の形態では、蓄熱溶液として水溶液が用いられているので、沸点Pbは実質的に100℃となる。したがって、有機化合物の融点Pmは、35℃以上100℃未満であると好ましい。これにより、有機化合物において、融点が蓄熱溶液の沸点より低いため、蓄熱動作が行われている温度範囲内で確実に融解することができる。それゆえ、蒸発防止機能、漏出防止機能および圧力緩和機能のいずれも良好に実現することができる。
本実施の形態において特に好ましいアルケン重合体の一例としては、モノマーとしてアルケン化合物を用いた、炭素数18の重合体を例示することができる。この重合体が蒸発防止層13として用いられれば、アルケン重合体として、炭素数18という特定範囲のポリアルファオレフィンを含んでいることになるため、蒸発防止層13の物性がさらに安定化する。それゆえ、蒸発防止機能、漏出防止機能および圧力緩和機能のいずれも良好に実現することができる。
また、蒸発防止層13が前述した有機化合物を主成分として構成されていれば、当該蒸発防止層13は蓄熱溶液層11の上に積層するだけで形成することができ、かつ、有機酸が多量に生成して蓄熱溶液の品質を劣化する可能性を抑制することができる。それゆえ、蓄熱装置20Aの製造コストまたは維持コストの増大を回避することもできる。
(実施の形態2)
前記実施の形態1における蓄熱装置20Aは、蓄熱容器21内には、下から順に、蓄熱溶液層11、蒸発防止層13および空気層12の3層が形成されている構成となっていたが、本実施の形態では、蓄熱溶液層11および蒸発防止層13の間に、さらに1層以上の副蒸発防止層を備える構成となっている。当該構成について、図2(a),(b)を参照して具体的に説明する。
[蓄熱容器内の層構成]
図2(a)に示すように、本実施の形態に係る蓄熱装置20Bは、前記実施の形態1に係る蓄熱装置20Aと同一の構成を有しているが、蓄熱容器21内には、下から順に、蓄熱溶液層11、副蒸発防止層14、蒸発防止層13、空気層12の4層が形成されている。
副蒸発防止層14は、蒸発防止層13とともに蓄熱溶液層11を構成する蓄熱溶液の蒸発を防止または抑制する(蒸発防止機能を実現する)層であり、本実施の形態では、蒸発
防止層13の下方に独立層として形成されている。また、図2(a)には示さないが、副蒸発防止層14は、蒸発防止層13と混合されて実質的に1層となってもよい。この副蒸発防止層14は、少なくとも1種の不水溶性溶媒からなる溶媒組成物で構成されている。当該溶媒組成物としては、後述するように、例えば85〜95重量%が不水溶性溶媒であって、残部が酸化防止剤等の添加剤の混合物で構成されている例を好ましく用いることができる。
なお、2層以上の副蒸発防止層14が形成されている場合、それぞれの副蒸発防止層14は異なる組成の溶媒組成物で構成され、互いに混合せずに独立して層形成されてもよいし、副蒸発防止層14同士で混合したり、蒸発防止層13に混合したりするように構成されてもよい。
前記溶媒組成物に用いられる不水溶性溶媒は、極性が実質的に無い無極性溶媒、常温で水と実質的に混合せずに水層から遊離した単層となる程度に極性が低い低極性溶媒等であって、少なくとも常温の範囲内で液体を示せばよい。
前記不水溶性溶媒としては、具体的には、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、ヘプタデカン、シクロヘキサン等の飽和アルカン類;トルエン、キシレン、ベンゼン等の芳香族アルカン類;1,2−ジクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、トリクロロエチレン、クロロホルム、モノクロロベンゼン、四塩化炭素、塩化メチレン(ジクロロメタン)等のハロアルカン類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル等のエステル類;ジエチルエーテル、イソプロピルエーテル、エチルtert−ブチルエーテル、フラン等のエーテル類;ポリアルファオレフィンワックス、パラフィンワックス、シリコーンオイル等の鉱油類;コーン油、大豆油、ごま油、菜種油、米油、椿油、ベニバナ油、パーム核油、ヤシ油、綿実油、ヒマワリ油、エゴマ油、オリーブオイル、ピーナッツオイル、アーモンドオイル、グレープシードオイル、マスタードオイル、魚油等の食用油脂;ひまし油、アブラキリ油等の工業用油脂;等を挙げることができるが、これらに限定されない。これら不水溶性溶媒は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。また、溶媒組成物が複数種類の不水溶性溶媒を含む場合、有効な蒸発防止機能を実現できるのであれば、それぞれの溶媒の組成も特に限定されない。
本実施の形態で、特に好ましい不水溶性溶媒の一例としては、前記シリコーンオイル、もしくは、前記飽和アルカン類や芳香族アルカン類等(もしくは、限りなく飽和アルカン類に近い鎖式または脂環式の炭化水素であり、以下これらを飽和アルカン類と称す)の炭化水素のうち、炭素数が24〜44の範囲内にある炭化水素の少なくともいずれかを挙げることができ、より具体的には、前記範囲内の炭素数を有する成分を含むポリアルファオレフィンワックスまたはパラフィンワックス等を例示することができる。
溶媒組成物がこのような不水溶性溶媒を含んでいるということは、当該溶媒組成物が特定範囲の分子量を有する炭化水素を含んでいることになる。そのため、後述するように、副蒸発防止層14の低温における流動性保持をより確実なものとすることができる。さらに望ましくは、この溶媒組成物は、その主成分が、炭素数が24〜44の範囲内にある炭化水素を含んでいれば、低温での流動性保持をよりさらに一層確実なものとすることができる。
前記の不水溶性溶媒の炭素構造について説明する。一般論であるが、飽和アルカン類(飽和炭化水素とも称する)は、炭素数が4以下だと常温で気体、炭素数が5〜約18で常温で液体、炭素数が約18を越えると常温で固体である。この一般論の規則性は、炭素が直線状に配列して枝分かれのない直鎖構造の飽和アルカン類で成立する話しであり、枝分
かれのある飽和アルカン類にすると、炭素数が約18を越えても常温で液体となる。そこで例えば、炭素8〜10のα―オレフィン(末端に二重結合があり他は単結合の構造を有する不飽和アルケン)を重合反応したあと水素化処理すると、炭素数が24〜44の範囲内にある炭化水素の少なくともいずれかを含んでいる飽和アルカン類が生成する。しかも、この飽和アルカン類は、重合反応の工夫で枝分かれを多く有する飽和アルカン類になっているので、常温で液体となっている。本実施の形態で使用する鉱油や合成油、さらに半合成油は、この製法を用いて得られる不水溶性溶媒を85〜100弱%(重量%)混合して、使用している。
この様な数字領域の炭素数の炭化水素は、炭素数を制御することが現在の技術では難しいので、成り行き任せのところが多い。そのため、炭素数が24未満の炭化水素になると、直鎖構造の飽和アルカン類になり易いので揮発性の高い液体が生成して、直ぐに揮発して寿命が短い課題がある。また逆に、炭素数が45以上の炭化水素になると、常温で固体に成り易いので取り扱いが難しい課題がある。この様に、揮発し難くて寿命が長い、常温で液体で取り扱いが簡単であるという理由から、不水溶性溶媒は、炭素数が24〜44の範囲内にある炭化水素の少なくともいずれかを含んでいるとした組成物とした。またこれに加えて、この不水溶性溶媒は、有機酸が生成し難く気密性が高いので、蓄熱溶液の蒸発を防止または抑制ししかも空気中の酸素が蓄熱溶液に浸入しがたい利点が有る。
さらに、前記溶媒組成物は、前記不水溶性溶媒以外に公知の他の成分を含んでもよい。具体的には、例えば、酸化防止剤、腐食防止剤、防錆剤、消泡剤等を例示することができる。これら添加剤の添加量、添加方法等も特に限定されず、公知の範囲または手法を好適に用いることができる。
前記溶媒組成物の具体的な組成は特に限定されないが、本実施の形態では、前述したように、少なくとも1種の不水溶性溶媒が85〜95重量%の範囲内であり、前記添加剤を含む混合物が残部(5〜15重量%の範囲内)である構成を好ましく挙げることができる。もちろん、副蒸発防止層14に要求される性能、蓄熱装置20Aの使用環境等の諸条件により、組成を適宜設計できることはいうまでもない。
前記溶媒組成物の温度条件は特に限定されないが、常温の範囲内で液体であることが好ましいため、融点は常温未満であると好ましい。また、後述するように、前記溶媒組成物の融点は、蓄熱溶液の凝固点より低いことが好ましい。
[副蒸発防止層の機能]
次に、前記不水溶性溶媒を含む副蒸発防止層14の具体的な機能について、図2(b)を参照して具体的に説明する。
蓄熱溶液層11、蒸発防止層13および副蒸発防止層14について、温度変化に伴う固相から液相への相状態の変化を対比する。図2(b)に示すように、蓄熱溶液層11および蒸発防止層13の相変化は、前記実施の形態1で説明したとおりであるが、副蒸発防止層14は、図2(b)に示す例では、常温の範囲内であっても常温を超えても液体のままで実質的に維持される。
このように、常温の範囲内では、副蒸発防止層14は液体であるが蒸発防止層13は固体であるので、蒸発防止層13により、蓄熱溶液について蒸発防止機能を実現できるとともに、蓄熱溶液および副蒸発防止層14について漏出防止機能を実現することができる。さらに、蓄熱動作時に蓄熱溶液の温度が上昇すると、蒸発防止層13が高粘度の液体層となり、副蒸発防止層14は、使用時または不使用時に関わらず相対的に低粘度の液体層で維持されるので、蓄熱溶液は二層の液体層で保護されることになり、しかも、互いの液体
層の密着度が高まることになる。
その結果、それぞれの単独使用の場合と比較して、これら層においては、蒸気通過穴が狭くなり、蒸発防止の機能が向上するにもかかわらず、余分な蓄熱溶液の蒸気または溶存酸素等を逃がすことが可能となる(圧力緩和機能の向上)。また、蓄熱動作の後に、蒸発防止層13が硬化した後に生じるクラックを、副蒸発防止層14により穴埋めすることも可能となる(蒸発防止機能および漏出防止機能の向上)。
また、図2(b)に示すように、溶媒組成物の融点Ppは、蓄熱溶液の凝固点Pfより低くなっている。これにより、蓄熱溶液が凝固するまで蓄熱装置20Bの温度が低下しても、溶媒組成物は流動性を保持できるので、低温の状態でも蒸発防止機能を有効に実現することができる。また、蓄熱溶液が凝固しても溶媒組成物は凝固していないので、蓄熱溶液の凝固に伴う体積膨張を緩和することが可能となり、圧力緩和機能をさらに一層確実なものとすることができる。特に、溶媒組成物が、炭素数が24〜44の範囲内にある炭化水素を含んでいれば、副蒸発防止層14の低温における流動性をより良好に保持することができる。
このように、蒸発防止層13に加えて副蒸発防止層14が蓄熱容器21内に形成されることで、蒸発防止層13による蒸発防止機能、漏出防止機能および圧力緩和機能のいずれの機能も良好に実現できるだけでなく、各機能をより一層向上させることができる。それゆえ、蓄熱容器21内で蓄熱溶液を安定して保持することができ、取扱性に優れた蓄熱装置20Bを得ることができる。
なお、蒸発防止層13を構成する有機化合物(またはこれを含む蒸発防止組成物)の比重は、副蒸発防止層14を構成する溶媒組成物の比重よりも小さいことが好ましい。これにより、蒸発防止層13は、主成分である有機化合物が固体でも、副蒸発防止層14よりも軽くなるので、当該蒸発防止層13は、必ず副蒸発防止層14の上層に「浮く」ことになる。それゆえ、蒸発防止層13が高温において液相となっても、蒸発防止機能をより一層確実なものとすることができる。
これに加えて、液体である副蒸発防止層14は、蒸発防止層13の下方に位置するほどその量が多くなる。それゆえ、蓄熱動作の後に、蒸発防止層13が硬化した後に生じるクラックを、副蒸発防止層14によりさらに一層確実に穴埋めすることができる。その結果、蒸発防止機能および漏出防止機能をさらに一層向上することができる。この際、例えば、蒸発防止層13と副蒸発防止層14の両者が非常に混和しやすいものであって高温時に一体となる場合は、蓄熱動作の後、常温に戻った際に、固体となった蒸発防止層13内に副蒸発防止層14が一部取り込まれる現象が見られるが、副蒸発防止層14の方が比重が大きいため、下方に位置するほどその量が多くなり、上から順に固体、ゲル、液体となる。この場合、最下層がゲルであっても前述のクラックに対する穴埋め効果は見られるが、より有効に効果を発揮させるためには、蒸発防止層13に対する副蒸発防止層14の割合を多くすれば、最下層の液量がより多くなるので、蒸発防止層13と副蒸発防止層14の割合は常温時に残る最下層の液量を考慮して設計することが好ましい。
さらに、蒸発防止層13も副蒸発防止層14も蓄熱溶液層11の上に積層するだけで容易に形成することができ、かつ、蒸発防止層13が、前記のとおりアルケン重合体を主成分としているため、有機酸が多量に生成して蓄熱溶液の品質を劣化する可能性を抑制することができる。それゆえ、蓄熱装置20Bの製造コストまたは維持コストの増大を回避することができる。
(実施の形態3)
前記実施の形態1に係る蓄熱装置20A、または前記実施の形態2に係る蓄熱装置20Bは、いずれも蓄熱容器21および蓄熱用熱交換器22から構成されていたが、本実施の形態に係る蓄熱装置は、さらに加熱源を備え、当該加熱源の廃熱を蓄熱可能とする構成となっている。当該構成について、図3(a),(b)を参照して具体的に説明する。
図3(a)および(b)に示すように、本実施の形態に係る蓄熱装置20Cは、蓄熱容器23、蓄熱用熱交換器24に加えて、熱伝導性部材25および加熱源としての圧縮機26を備えている。なお、図3(a)におけるV1−V1矢視断面が図3(b)に示す蓄熱装置20Cの縦断面図に相当し、図3(b)におけるV2−V2矢視断面が図3(a)に示す蓄熱装置20Cの横断面図に相当する。
蓄熱容器23は、前記実施の形態1における蓄熱容器21と同様に、箱部231および蓋部232から構成され、箱部231の上部開口233を閉じるように蓋部232が取り付けられているが、箱部231の形状は、前記実施の形態1または2における箱部211と同様に、実質的に略直方体形状であるが、蓄熱溶液を蓄えるための内部空間の形状は、前記箱部211とは異なり、図2(a)に示すように、圧縮機26の側面を囲むように、略U字状の横断面を有している。箱部231の内部には、図2(b)に示すように、蓄熱用熱交換器24が設けられ、この大部分を浸漬するように、蓄熱溶液層11が形成されている。また、蓄熱溶液層11の上方には、副蒸発防止層14および蒸発防止層13がこの順で積層され、さらに、蒸発防止層13の上方には、蓋部232に設けられる通気孔234を介して流入する外気によって空気層12が形成されている。
圧縮機26は空気調和装置に用いられる冷媒を圧縮するものであって、公知の構成を有するものが用いられる。なお、図3(a),(b)では、説明の便宜上、圧縮機26は模式的に外形のみを示している。圧縮機26の外形は、本実施の形態では、図3(a),(b)に示すように、略直方体形状であって、当該直方体形状の4つの側面のうち、3つの側面を囲むように蓄熱容器23が位置している。蓄熱容器23(箱部211)の内部空間は、前記のとおり略U字状の横断面を有しているので、当該U字状の横断面における陥凹部位となる領域に圧縮機26が位置することで、圧縮機26の周囲の少なくとも一部が蓄熱容器23により囲まれることになる。
このように圧縮機26の周囲に蓄熱容器23が位置していれば、圧縮機26は蓄熱容器23と実質的に一体化しているため、圧縮機26で生じた廃熱は、蓄熱容器23の外部に逃げることがほとんど無く、蓄熱容器23内の蓄熱溶液層11に伝達される。それゆえ、外部機器である圧縮機26を加熱源として用いることができ、当該圧縮機26からの廃熱を効率的に蓄熱することができる。
ここで、圧縮機26の側面と蓄熱容器23との間には、層状の熱伝導性部材25が設けられていることが特に好ましい。圧縮機26は蓄熱容器23内で蓄熱溶液層11に直接接しても良いが、この場合、圧縮機26の側面に防水処理を施す必要がある。一方、蓄熱容器23の形状を圧縮機26に合わせて、略U字状の断面を有するように構成してもよいが、蓄熱容器23の加工が煩雑となってコストが上昇することに加え、蓄熱容器23の外面と圧縮機26の側面との密着性を高めることが難しくなる。それゆえ、本実施の形態のように、熱伝導性部材25を設けることが好ましい。
熱伝導性部材25の具体的な構成は特に限定されず、圧縮機26の周囲を覆うことができ、かつ、圧縮機26からの熱を蓄熱溶液層11に良好に伝達できるものであればよい。具体的には、例えば、銅、銀、アルミニウムまたはこれらの合金で形成される金属シート;黒鉛または金属の粒子を樹脂組成物中に分散させた熱伝導シート;黒鉛または金属の粒子をゲル状組成物中に分散させた熱伝導グリース;等を挙げることができる。
このように、蓄熱容器23が熱伝導性部材25を介して圧縮機26と接触していることで、圧縮機26からの熱を蓄熱装置20Cにより良好に回収することができる。特に、熱伝導性部材25が熱伝導シートであれば、樹脂組成物として可撓性材料、例えば、EPDM(エチレン−プロピレン−ジエンゴム)、シリコーンゴム等のエラストマー材料を選択すれば、圧縮機26の側面に凹凸が存在しても、当該圧縮機26と蓄熱容器23との接触性を良好なものとできるため、圧縮機26から蓄熱容器23への熱伝導を、より一層円滑なものとすることができる。
そして、本実施の形態においても、蓄熱容器23内には、前記実施の形態1および2で説明した蒸発防止層13と副蒸発防止層14とが形成されている。それゆえ、これらの層によって蒸発防止機能、漏出防止機能および圧力緩和機能のいずれの機能も良好に実現されるので、蓄熱容器23内で蓄熱溶液を安定して保持することができ、取扱性に優れた蓄熱装置20Cを得ることができる。
なお、本実施の形態においては、加熱源として圧縮機26を例示したが、これに限定されず、空気調和装置等、本発明に係る蓄熱装置20Cが適用される機器が備える他の加熱源であってもよい。また、加熱源は、蓄熱溶液層11の外部に設けられているものであればよく、必ずしも蓄熱容器23の外部でなくてもよい。また、加熱源は、その周囲が蓄熱容器23に囲まれていなくてもよい。例えば、圧縮機26が広い平坦な側面を有しているのであれば、蓄熱溶液層11を平坦面同士で接触させるのみの構成としてもよい。また、本実施の形態では、蓄熱容器23は、圧縮機26の周囲を囲んでいるが、例えば、圧縮機26の底面または上面を囲んでもよい。加熱源が圧縮機26以外のものであっても同様である。
(実施の形態4)
前記実施の形態1ないし3は、いずれも蓄熱装置の構成を例示するものであったが、本実施の形態においては、前記構成の蓄熱装置の代表的な適用例である空気調和装置の一例について、図4を参照して具体的に説明する。
[空気調和装置の構成]
図4に示すように、本実施の形態に係る空気調和装置30は、冷媒配管により互いに接続された室内機31および室外機32から構成されており、室外機32は、前記実施の形態3に係る蓄熱装置20Cを備えている。室内機31および室外機32および外部配管310は、管継手40を介して室内機内部配管311と室外機内部配管である第1配管301および第2配管302に接続されている。
室内機31の内部には、室内機内部配管311および室内熱交換器33等が設けられ、室外機32の内部には、蓄熱装置20C、圧縮機26、室外機内部配管、室外熱交換器34、各種弁部材等が設けられている。そして、室内機31および室外機32は、前記のとおり、外部配管310により互いに接続されているので、前記構成によって空気調和装置30の冷凍サイクルが構成されている。なお、以下の説明では、冷媒配管(室内機内部配管311、外部配管310、および室外機内部配管)内において、冷媒の流れる方向の上流側または下流側を、単に上流側または下流側と略す。
室内機31の構成について具体的に説明すると、外部配管310に接続されている室内機内部配管311は、室内熱交換器33に接続されている。また、室内機31の内部には、室内熱交換器33に加えて、送風ファン(図示せず)、上下羽根(図示せず)、左右羽根(図示せず)等が設けられている。
室内熱交換器33は、送風ファンにより室内機31の内部に吸込まれた室内空気と、室内熱交換器33の内部を流れる冷媒との間で熱交換を行い、暖房時には熱交換により暖められた空気を室内に吹き出す(図中ブロック矢印)一方、冷房時には熱交換により冷却された空気を室内に吹き出す。上下羽根は、室内機31から吹き出される空気の方向を必要に応じて上下に変更し、左右羽根は、室内機31から吹き出される空気の方向を必要に応じて左右に変更する。なお、図4においては、説明の便宜上、室内機31の詳細な構成(前記送風ファン、上下羽根、左右羽根等)については、記載を省略している。
室外機32の構成について具体的に説明すると、室外機32の内部には、圧縮機26、蓄熱装置20Cおよび室外熱交換器34に加えて、ストレーナ35、膨張弁42、四方弁41、第1電磁弁43、第2電磁弁44、アキュームレータ36等が設けられている。また、外部配管310に接続されている第1配管301および第2配管302のうち、第1配管301は圧縮機26の吐出口(図示せず)に接続されている。それゆえ、圧縮機26は、室内機31内の室内熱交換器33に接続されていることになる。
圧縮機26は、前記実施の形態3で説明したように、蓄熱装置20Cの蓄熱容器23に実質的に一体化するように設けられており、圧縮機26の周囲は、熱伝導性部材25を介して蓄熱溶液層11が位置している。蓄熱溶液層11の上面には副蒸発防止層14および蒸発防止層13がこの順で形成されている。なお、図4においては、説明の便宜上、蓄熱容器23を構成する蓋部232と空気層12については記載を省略している。蓄熱容器23の内部には、蓄熱溶液層11に浸漬するように蓄熱用熱交換器24が設けられ、流入口部(図示せず)が第6配管306に接続されている。第6配管306には第2電磁弁44が設けられている。
また、外部配管310に接続されている第1配管301および第2配管302のうち、第2配管302は、室外機内部配管である第3配管303と第6配管306とに分岐している。第2配管302はストレーナ35を備えており、前記のとおり一方が外部配管310に接続され、他方が膨張弁42を介して第3配管303に接続されている。また、第6配管306は、ストレーナ35の上流側において第2配管302から分岐している。
第3配管303は、膨張弁42および室外熱交換器34を接続し、室外熱交換器34は、第4配管304を介して圧縮機26の吸入口(図示せず)に接続されている。また、第4配管304における圧縮機26側には、液相冷媒および気相冷媒を分離するためのアキュームレータ36が設けられている。また、圧縮機26の吐出口は、第1配管301に接続されているとともに、当該第1配管301における圧縮機26の吐出口と四方弁41との間からは、第5配管305が分岐している。第5配管305には第1電磁弁43が設けられている。第1配管301は、この第5配管305を介して第3配管303の膨張弁42および室外熱交換器34との間に接続されている。
第2配管302から分岐した第6配管306は、前記のとおり、蓄熱用熱交換器24の流入口部(図示せず)に接続されているが、蓄熱用熱交換器24の流出口部(図示せず)は、第7配管307を介して第4配管304に接続されている。第7配管307は、アキュームレータ36から見て上流側の位置で、第4配管304から分岐している。
また、第1配管301および第4配管304の中間部は、四方弁41により接続されている。具体的には、第1配管301においては、第5配管305が分岐する位置から上流側に四方弁41が設けられ、第4配管304においては、第7配管307が分岐する位置から上流側で、室外熱交換器34に接続する位置から下流側となる位置に四方弁41が設けられている。
ここで、室外機内部配管のうち、第4配管304はヒートポンプ循環路を構成し、第5配管305および第6配管306は、冷媒バイパス路を構成している。つまり、本実施の形態に係る空気調和装置30は、ヒートポンプ式の構成を有している。この構成であれば、後述するように、除霜運転に並行してノンストップで暖房運転を行うことができる。この点については後述する。
なお、圧縮機26および蓄熱装置20Cを除く各機器または部材(冷媒配管、管継手40、室内熱交換器33、送風ファン、上下羽根、左右羽根、室外熱交換器34、ストレーナ35、膨張弁42、四方弁41、第1電磁弁43、第2電磁弁44、アキュームレータ36等)の具体的な構成は特に限定されず、公知の構成を好適に用いることができる。また、圧縮機26および蓄熱装置20Cを含む各機器および部材の個数、配置等についても、図4に示す構成に限定されず、ヒートポンプ式の構成を実現できる他の配置であってもよい。
また、圧縮機26、送風ファン、上下羽根、左右羽根、四方弁41、膨張弁42、第1電磁弁43、第2電磁弁44等は、制御装置(図示せず、例えばマイクロコンピュータ)に電気的に接続されており、当該制御装置により制御される。
[空気調和装置の動作]
次に、前記構成の空気調和装置30の動作について、通常暖房運転、並びに、除霜・暖房運転を例に挙げて、図4を参照して具体的に説明する。
まず、通常暖房運転について説明する。この場合、第1電磁弁43および第2電磁弁44は閉制御されており、圧縮機26の吐出口から吐出された冷媒は、第1配管301を流れて四方弁41から外部配管310、室内機内部配管311を介して室内熱交換器33に達する。室内熱交換器33では、室内空気との熱交換により冷媒が凝縮する。この冷媒は、室内熱交換器33から、第2配管302を流れて膨張弁42に達し、膨張弁42で減圧される。減圧された冷媒は、第3配管303を通って室外熱交換器34に達する。室外熱交換器34では、室外空気との熱交換により冷媒が蒸発し、この冷媒は、第4配管304を流れて四方弁41から圧縮機26の吸入口へ戻る。圧縮機26で発生した熱(廃熱)は、圧縮機26の外壁から熱伝導性部材25を介して、蓄熱容器23内の蓄熱溶液層11に蓄積される。
次に、除霜・暖房運転について説明する。前記通常暖房運転中に室外熱交換器34に着霜が発生し、さらに着霜した霜が成長すると、室外熱交換器34の通風抵抗が増加して風量が減少し、室外熱交換器34内の蒸発温度が低下する。そこで、室外熱交換器34の配管温度を検出する温度センサ(図示せず)が、非着霜時に比べて、蒸発温度が低下したことを検出すると、制御装置から通常暖房運転から除霜・暖房運転への指示が出力される。
通常暖房運転から除霜・暖房運転に移行すると、第1電磁弁43および第2電磁弁44は開制御され、上述した通常暖房運転時の冷媒の流れに加え、圧縮機26の吐出口から出た気相冷媒の一部は第5配管305および第1電磁弁43を流れ、第3配管303を流れる冷媒に合流して、室外熱交換器34を加熱し、凝縮して液相化する。その後、第4配管304を流れて四方弁41およびアキュームレータ36を介して圧縮機26の吸入口へと戻る。
また、第2配管302における室内熱交換器33およびストレーナ35の間で分流した液相冷媒の一部は、第6配管306および第2電磁弁44を介して、蓄熱用熱交換器24で蓄熱溶液層11から吸熱することで、蒸発および気相化する。気相冷媒は、第7配管307を流れて、第4配管304を流れる冷媒に合流し、アキュームレータ36から圧縮機
26の吸入口へ戻る。
アキュームレータ36に戻る冷媒には、室外熱交換器34から戻る液相冷媒が含まれているが、この液相冷媒に、蓄熱用熱交換器24から戻る高温の気相冷媒が混合されることで、液相冷媒の蒸発が促進され、アキュームレータ36を通過して液相冷媒が圧縮機26に戻ることが回避され、圧縮機26の信頼性の向上を図ることができる。
除霜・暖房開始時に霜の付着により氷点下となった室外熱交換器34の温度は、圧縮機26の吐出口から出た気相冷媒によって加熱されて、零度付近で霜が融解する。霜の融解が終わると、室外熱交換器34の温度は再び上昇し始める。この室外熱交換器34の温度上昇を前記温度センサで検出すれば、制御装置は除霜が完了したと判断し、当該制御装置から除霜・暖房運転から通常暖房運転への指示が出力される。
このように、本実施の形態では、空気調和装置30がヒートポンプ式であるので、暖房運転時、または、冬季に室外熱交換器34に着霜が生じた場合であっても、冷媒バイパス路である第5配管305および第6配管306に冷媒を流して、蓄熱の回収および除霜を行うことができる。それゆ、除霜運転に並行して暖房運転を行うことができるので、例えば、冬季の寒い朝等であっても、短時間で暖房を行うことができる。また、圧縮機26からの廃熱を有効に回収できるので、省エネルギーの運転が可能となる。
さらに、蓄熱装置20Cが、前記実施の形態3で説明したように、蓄熱容器23内に蒸発防止層13および副蒸発防止層14が形成されているので、蓄熱溶液の過剰な蒸発を有効に防止できる(蒸発防止機能の実現)とともに、蓄熱溶液が蓄熱容器21の外部に漏れ出したり空気層12へ露出したりすることを抑制でき(漏出防止機能の実現)、さらに、蓄熱溶液層11の圧力が大きく上昇しても、蒸気または遊離気体の一部が液状の蒸発防止層13から空気層12に抜け出るため、圧力が過剰に上昇することがなく、蓄熱溶液の圧力上昇にも十分対応することができる(圧力緩和機能の実現)。
なお、本実施の形態では、空気調和装置30がヒートポンプ式の構成となっているが、これに限定されず、ヒートポンプ式以外の構成であってもよいことはいうまでもない。また、蓄熱装置20Cに代えて、前記実施の形態1または2で説明した蓄熱装置20Aまたは20Bを備えてもよいし、本発明の範囲内である他の構成の蓄熱装置を備えてもよい。さらに、本実施の形態では、加熱源として圧縮機26を用いているが、加熱源としては、電気ヒータ等の他の機器を用いてもよい。
さらに、本実施の形態では、本発明に係る蓄熱装置20A〜20Cを適用する例として空気調和装置を例示したが、もちろん本発明はこれに限定されず、空気調和装置以外でも、蓄熱装置を備える各種機器に好適に用いることができる。具体的には、例えば、冷蔵庫、給湯器、ヒートポンプ式洗濯機を挙げることができる。
なお、本発明は実施の形態1〜4で前述した代表例に限定されるものではない。当業者は本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、および改変を行うことができる。
(機能の詳細)
以下、本文で記載した各機能について詳細を説明する。これらの機能において、本実施の形態1〜4は、全ての機能を同時に満たすことができない従来例に対し、3つともを満たし、総合的に高い機能を有するものである。
[蒸発防止機能]
蒸発防止機能とは、蓄熱溶液上に蒸発防止層や少なくとも1つ以上の副蒸発防止層を設置した際の、蓄熱動作時を想定した所定条件における蓄熱溶液の蒸発速度で判断されるものである。具体的には、蓄熱容器内に、蓄熱溶液としてエチレングリコール31%水溶液を充填し、その上部に蒸発防止層を20mm積層し、100℃乾燥器に5日間放置して、重量減少を測定する。
重量減少量(Xmg)を、蒸発防止層の断面積(Scm2 )および試験期間(Y日)で除算して、蒸発速度〔X/(S*Y)mg/(cm2 ・日)〕を算出し、算出値が小さいほど、蒸発防止効果が優れた材料であることを意味している。なお、蒸発速度は、蓄熱溶液を充填せずに蒸発防止層だけでも評価し、蒸発防止層を構成する材料そのものの重量減少速度も考慮して、蒸発速度の値を算出する。
[漏出防止機能]
漏出防止機能とは、運搬時に想定される蓄熱容器の転倒が発生した際に、蓄熱容器内の蓄熱溶液や蒸発防止層が容器外に漏れ出る量で判断するものである。具体的には、常温で蓄熱容器を45度傾斜させ、蓄熱溶液(エチレングリコール31%水溶液)や蒸発防止層が容器外に漏れ出る液量を測定し、液量が少ないほど漏出防止機能が高いことを意味している。
[圧力緩和機能]
圧力緩和機能とは、蓄熱動作時の温度上昇によって、蓄熱容器内で蓄熱溶液が膨張し、液面が上昇する際に、上層の蒸発防止層が下層からの内圧を逃がすことができるかを判断するものである。具体的には、蓄熱容器の温度を常温から100℃に上昇させた際に、蒸発防止層の位置が、初期からどれだけ上側に移動しているかを測定し、蓄熱溶液のみを100℃まで上昇させた際に見られる液面上昇距離に近いほど機能が高く、それ以下もしくは、蒸発防止層や蓄熱容器の破壊が見られた場合は機能が低いことを意味している。