例えば、自動車用変速機として用いるシングルキャビティ式トロイダル型無段変速機は、図3および図4に示すように構成されている(例えば、特許文献1参照)。ケーシング(図示略)の内側には入力軸1が回転自在に支持されており、この入力軸1の外周には、入力側ディスク2と出力側ディスク3とが取り付けられている。
出力側ディスク3は、入力軸1との間に介在されたニードル軸受5によって、入力軸1の軸心を中心に回転自在に支持されている。また、入力側ディスク2は、入力軸1との間に介在されたニードル軸受6によって、入力軸1の軸心を中心に回転自在に支持されている。入力側ディスク2は、入力側ディスク2とカム板7との間に設けられたローディングカム式の押圧装置12を介して、入力軸1により回転駆動されるようになっている。
また、入力軸1の出力側ディスク3の背面側の外周には出力歯車4が回転自在に支持されている。この出力歯車4に出力側ディスク3が連結されて一体に回転するようになっている。また、出力歯車4は、この出力歯車4に対して出力側ディスク3の逆側(図3中右側)に設けられるとともにケーシングに支持された出力側軸受36を介してケーシングに回転自在に支持されている。出力側ディスク3は、出力側軸受36によって出力歯車4を介して入力軸1の右側への移動が規制されている。これにより、出力側ディスク3および出力歯車4は、入力軸1の軸心を中心に回転できる一方で、軸心方向の変位が阻止されている。
また、入力側ディスク2の内側面(凹面)2aと出力側ディスク3の内側面(凹面)3aとの間には、パワーローラ11が回転自在に挟持されている。
図3中左側に位置する押圧装置12のカム板7は、入力軸1の図3中左側に形成された鍔部38により入力軸1に対して左側への移動が規制されている。また、カム板7は、入力軸1と一体に回転可能に、入力軸1に例えばスプライン結合されている。また、入力軸1の右端部には筒状の支持部材42が固定されており、この支持部材42は、ケーシングに支持された入力側軸受37に挿入固定されている。また、支持部材42のフランジ部42aの右側にリング状の固定部材43が当接され、この固定部材43が入力軸1に固定されている。
これにより、押圧装置12により入力側ディスク2を入力軸1の軸方向右側に向かって押圧した際に、反力によりカム板7が入力軸1の軸方向左側に押圧されることにより、入力軸1が軸方向左方へ移動するのが規制される。また、押圧装置12によって、入力側ディスク2およびパワーローラ11を介して出力側ディスク3が右方に押圧されることによって、出力側軸受36には出力歯車4を介してスラスト荷重が加わる。この場合に、ケーシングに支持された出力側軸受36により、出力側ディスク3および出力歯車4の入力軸1の軸方向右方への移動が規制される。これらのことから押圧装置12により、各ディスク2,3の凹面2a,3aとパワーローラ11,11の周面11a,11aとの当接部に押圧力を付与することができる。
また、支持部材42のフランジ部42aと固定部材43との間には、皿ばね8が設けられており、この皿ばね8は、押圧装置12が非作動時に、各ディスク2,3の凹面2a,3aとパワーローラ11,11の周面11a,11aとの当接部に押圧力(予圧)を付与する。
図4は、図3のA−A線に沿う断面図である。図4に示すように、ケーシングの内側には、入力軸1に対し捻れの位置にある一対の枢軸14,14を中心として揺動する一対のトラニオン15,15が設けられている。各トラニオン15,15は、支持板部16の長手方向(図4の上下方向)の両端部に、この支持板部16の内側面側に折れ曲がる状態で形成された一対の折れ曲がり壁部20,20を有している。そして、この折れ曲がり壁部20,20によって、各トラニオン15,15には、パワーローラ11を収容するための凹状のポケット部Pが形成される。また、各折れ曲がり壁部20,20の外側面には、各枢軸14,14が互いに同心的に設けられている。
支持板部16の中央部には円孔21が形成され、この円孔21には変位軸23の基端部23aが支持されている。そして、各枢軸14,14を中心として各トラニオン15,15を揺動させることにより、これら各トラニオン15,15の中央部に支持された変位軸23の傾斜角度を調節できるようになっている。また、各トラニオン15,15の内側面から突出する変位軸23の先端部23bの周囲には、各パワーローラ11がラジアルニードル軸受35を介して回転自在に支持されており、各パワーローラ11,11は、入力側ディスク2および出力側ディスク3の間に挟持されている。なお、各変位軸23,23の基端部23aと先端部23bとは、互いに偏心している。
また、各トラニオン15,15の枢軸14,14はそれぞれ、一対のヨーク23A,23Bに対して揺動自在および軸方向(図4の上下方向)に変位自在に支持されており、各ヨーク23A,23Bにより、トラニオン15,15はその水平方向の移動を規制されている。各ヨーク23A,23Bは鋼等の金属のプレス加工あるいは鍛造加工により入力軸1の軸方向に直交する方向に長尺な矩形状に形成されている。各ヨーク23A,23Bの両端部には円形の支持孔18,18がそれぞれ設けられており、これら支持孔18,18にはそれぞれ、トラニオン15の両端部に設けた枢軸14がラジアルニードル軸受30を介して揺動自在に支持されている。また、ヨーク23A,23Bの幅方向(図4の左右方向)の中央部には、係止孔19が設けられており、この係止孔19は、ポスト64,68を内嵌している。すなわち、上側のヨーク23Aは、ケーシングに固定部材52を介して支持されているポスト64によって揺動自在に支持されており、下側のヨーク23Bは、ポスト68およびこれを支持するシリンダボディ31の上側シリンダボディ61によって揺動自在に支持されている。
なお、各トラニオン15,15に設けられた各変位軸23,23は、入力軸1に対し、互いに180度反対側の位置に設けられている。また、これらの各変位軸23,23の先端部23bが基端部23aに対して偏心している方向は、両ディスク2,3の回転方向に対して同方向(図4で上下逆方向)となっている。また、偏心方向は、入力軸1の配設方向に対して略直交する方向となっている。したがって、各パワーローラ11,11は、入力軸1の長手方向に若干変位できるように支持される。その結果、押圧装置12が発生するスラスト荷重に基づく各構成部材の弾性変形等に起因して、各パワーローラ11,11が入力軸1の軸方向に変位する傾向となった場合でも、各構成部材に無理な力が加わらず、この変位が吸収される。
また、パワーローラ11の外側面とトラニオン15の支持板部16の内側面との間には、パワーローラ11の外側面の側から順に、スラスト転がり軸受であるスラスト玉軸受(スラスト軸受)24と、スラストニードル軸受25とが設けられている。このうち、スラスト玉軸受24は、各パワーローラ11に加わるスラスト方向の荷重を支承しつつ、これら各パワーローラ11の回転を許容するものである。このようなスラスト玉軸受24はそれぞれ、複数個ずつの玉(以下、転動体という)26,26と、これら各転動体26,26を転動自在に保持する円環状の保持器27と、円環状の外輪28とから構成されている。また、各スラスト玉軸受24の内輪軌道は各パワーローラ11の外側面(大端面)に、外輪軌道は各外輪28の内側面にそれぞれ形成されている。
また、スラストニードル軸受25は、トラニオン15の支持板部16の内側面と外輪28の外側面との間に挟持されている。このようなスラストニードル軸受25は、パワーローラ11から各外輪28に加わるスラスト荷重を支承しつつ、これらパワーローラ11および外輪28が各変位軸23の基端部23aを中心として揺動することを許容する。
さらに、各トラニオン15,15の一端部(図4の下端部)にはそれぞれ駆動ロッド(トラニオン軸)29,29が設けられており、各駆動ロッド29,29の中間部外周面に駆動ピストン(油圧ピストン)33,33が固設されている。そして、これら各駆動ピストン33,33はそれぞれ、上側シリンダボディ61と下側シリンダボディ62とによって構成されたシリンダボディ31内に油密に嵌装されている。これら各駆動ピストン33,33とシリンダボディ31とで、各トラニオン15,15を、これらトラニオン15,15の枢軸14,14の軸方向に変位させる駆動装置32を構成している。
このように構成されたトロイダル型無段変速機の場合、入力軸1の回転は、押圧装置12を介して、入力側ディスク2に伝えられる。そして、入力側ディスク2の回転が、一対のパワーローラ11,11を介して出力側ディスク3に伝えられ、さらに出力側ディスク3の回転が、出力歯車4より取り出される。
入力軸1と出力歯車4との間の回転速度比を変える場合には、一対の駆動ピストン33,33を互いに逆方向に変位させる。これら各駆動ピストン33,33の変位に伴って、一対のトラニオン15,15が互いに逆方向に変位する。例えば、図4の左側のパワーローラ11が同図の下側に、同図の右側のパワーローラ11が同図の上側にそれぞれ変位する。
その結果、これら各パワーローラ11,11の周面11a,11aと入力側ディスク2および出力側ディスク3の内側面2a,3aとの当接部に作用する接線方向の力の向きが変化する。そして、この力の向きの変化に伴って、各トラニオン15,15が、ヨーク23A,23Bに枢支された枢軸14,14を中心として、互いに逆方向に揺動(傾転)する。
その結果、各パワーローラ11,11の周面11a,11aと各内側面2a,3aとの当接位置が変化し、入力軸1と出力歯車4との間の回転速度比が変化する。また、これら入力軸1と出力歯車4との間で伝達するトルクが変動し、各構成部材の弾性変形量が変化すると、各パワーローラ11,11およびこれら各パワーローラ11,11に付属の外輪28,28が、各変位軸23,23の基端部23a、23aを中心として僅かに回動する。これら各外輪28,28の外側面と各トラニオン15,15を構成する支持板部16の内側面との間には、それぞれスラストニードル軸受25,25が存在するため、前記回動は円滑に行われる。したがって、前述のように各変位軸23,23の傾斜角度を変化させるための力が小さくて済む。
図5および図6に、シングルキャビティ式トロイダル型無段変速機のヨーク23A(23B)を示す。上述のようにヨーク23Aには、その中央部にポスト64(68)が貫通した状態でかつヨーク23Aを揺動自在に支持するように嵌合している係止孔19が設けられている。また、ヨーク23Aの両端部には、それぞれトラニオン15の枢軸14が揺動自在に嵌合している支持孔18が設けられている。
これら支持孔18および係止孔19は、ヨーク23Aの長手方向と直交する方向(幅方向)で、かつ、入力軸1の軸方向に沿う方向に沿った位置がヨーク23Aの中央となっている。例えば、係止孔19のヨーク23Aの長手方向に沿った左の側縁と、ヨーク23Aの長手方向に沿った左の側縁との距離である幅Xと、係止孔19のヨーク23Aの長手方向に沿った右の側縁と、ヨーク23Aの長手方向に沿った右の側縁との距離としての幅Yとが等しくなっている。すなわち、ヨーク23Aの中央部分の入力軸1の軸方向に沿って係止孔19により左右に分割される各分割部分の幅Xおよび幅Yが互いに等しくなっている。
シングルキャビティ式トロイダル型無段変速のヨーク23A(23B)には、図6に示すようにトラニオン15の枢軸14からパワーローラ11のスラスト力(FPR)が作用する。上述の入力側ディスク2と出力側ディスク3に挟まれた状態で押圧装置12に押圧されるパワーローラ11には、スラスト力が作用し、このスラスト力が、スラスト玉軸受24を介してトラニオン15に伝達され、このスラスト力がトラニオン15の枢軸14からヨークに作用する。
ここでは、一対のトラニオン15からヨークに作用する力をFPRとしているので、各支持孔18に作用する力は、FPR/2となる。また、トロイダル型無段変速機では、変速時にパワーローラ11が枢軸14を中心として揺動(傾転)することになる。例えば、中立位置では、入力軸1の軸方向に沿う方向に対してパワーローラ11の軸方向(回転軸方向)が直角な状態となっているが、パワーローラ11は、トラニオン15とともに変速比のLow側またはHigh側に傾転する。図6では、ヨーク23Aの左側に斜めにパワーローラ11が傾転し、ヨーク23Aの斜め右にパワーローラ11のスラスト力が作用する場合(FPR/2)にHigh側となる。
逆に、ヨーク23Aの右側に斜めにパワーローラ11が傾転し、ヨーク23Aの斜め左にパワーローラ11のスラスト力(FPR/2)が作用する場合にLow側となる。
なお、一対のパワーローラ11,11は中立位置で互いに対向した状態で、左右方向に傾転する際に同じ方向に傾転する。ここで、パワーローラ11,11の向きは、パワーローラ11,11の回転軸の軸方向で、かつ、パワーローラ11,11の大径側から小径側に向かう向きである。また、中立位置に対して傾転した場合のヨーク23Aの各支持孔18に作用するパワーローラ11のスラスト力であるFPR/2の向き(方向)は、パワーローラ11の上述の向き(方向)の逆向きとなる。
また、図6においては、傾転したパワーローラ11のスラスト力であるFPR/2の方向を入力軸1に沿う方向に対する角度φで表すものとし、FPR/2を入力軸1の軸方向に沿う軸方向成分と、入力軸1の軸方向に対して直角となる軸直角方向に沿う軸直角成分とに分けている。FPR/2の軸方向成分は、(FPR/2)COSφとなり、軸直角成分は、(FPR/2)SINφとなる。また、図6におけるHigh(側)とLow(側)とは、パワーローラ11が傾転した際に軸直角成分の矢印が向く側である。したがって、図6におけるFPR/2の方向は、パワーローラ11が変速比のHigh側に傾転した場合のものである。
ヨーク23Aの2つの支持孔18の部分にそれぞれにトラニオン15の枢軸14から作用するパワーローラ11のスラスト力FPR/2の軸直角成分は、互いに逆方向で略同じ大きさの力となるので、互いに相殺される。それに対して、2つの支持孔18の部分にかかるパワーローラ11のスラスト力FPR/2の軸方向成分は、それらの方向が互いに平行で、かつ同じ向きであるため相殺されない。
そのため、ヨーク23Aは、一対の支持孔18の部分に、それぞれ、上述のパワーローラ11のスラスト力としてのFPR/2の軸方向成分の力(FPR/2)COSφをトラニオン15から受け、これらの力の合計値としてFPRCOSφとなる反力を係止孔19の部分でポスト64(68)から受けることになる。したがって、ヨーク23Aには、これらの力に対応するための剛性が要求され、ヨーク23Aは、パワーローラ11にかかる最大スラスト力FPRが作用しても耐える剛性のものを使っている。
ところで、パワーローラ11に作用するスラスト力FPRは、変速比により変化するものであり、図7のグラフに示すように、High側からLow側となるにつれてスラスト力FPRが高くなる。したがって、パワーローラ11がLow側に傾転した場合に、最大スラスト力FPRが発生し、High側に傾転した場合には、最大スラスト力(ステップS)が発生せず、中立の傾転角度でLowとHighに分けた場合に、High側でのスラスト力FPRは、Low側より低くなる。
それに対して、従来のヨーク23A(23B)は、パワーローラ11の傾転角度に関わらず、最大スラスト力FPRが作用しても耐えられる剛性となっており、Low側より作用するFPRが小さいHigh側に傾転している状態では、ヨーク23Aが必要十分な剛性より高い剛性を有することになり、コスト的に問題がある。
また、ヨーク23A(23B)には、トラニオン15の傾転範囲(回転範囲)を規制する傾転ストッパが、ヨーク23A(23B)に左右非対称に設けられている。なお、ここでの左右方向は、ヨーク23Aの長手方向に直交する方向である。トロイダル型無段変速機を組み立てる際に、ヨーク23A(23B)を左右逆、すなわち、上述のLow側とHigh側が逆になるように誤組してしまうと、傾転ストッパの配置が左右逆(180度回転した状態)になり、設計上の変速を行うことができなくなる虞がある。
ここで、ヨーク23A(23b)のトロイダル型無段変速機への組み立て時には、ヨーク23A(23B)の支持孔18にトラニオン15の枢軸14を挿入し、係止孔19にポスト64(68)を挿入することになる。また、ヨーク23A(23B)の長手方向に沿った中心線が2つの支持孔18の中心と1つの係止孔19の中心との全てを通ることにより、ヨーク23A(23B)を左右逆にしても、2つの枢軸14と、1つのポスト64(68)を、2つの支持孔18と、1つの係止孔19に挿入可能である。すなわち、ヨーク23A(23B)は、左右を逆にした誤組が可能な形状であり、誤組を完全に防止することが困難である。
本発明は、前記事情に鑑みてなされたもので、ヨークのポストが係止される係止孔の位置を軸の軸方向に沿って偏心させる構造となることにより、ヨークを当該ヨークに作用するパワーローラのスラスト力に基づく力に対して効率的な構造とすることができるシングルキャビティ式のトロイダル型無段変速機を提供することを目的とする。
前記目的を達成するために、本発明のトロイダル型無段変速機は、それぞれの内側面同士を互いに対向させた状態で互いに同心的に且つ回転自在に支持された入力側ディスクおよび出力側ディスクと、前記入力側ディスクの中心および前記出力側ディスクの中心を貫通する軸と、前記入力側ディスクと前記出力側ディスクとの間に挟持されたパワーローラと、前記入力側ディスクおよび前記出力側ディスクの中心軸に対して捻れの位置にある枢軸を中心に傾転し且つ前記パワーローラを回転自在に支持するトラニオンと、前記トラニオンの前記枢軸をそれぞれ傾転自在且つ当該枢軸の軸方向に変位自在に支持するとともに、前記トラニオンの変位により揺動する一対のヨークと、前記ヨークを揺動自在に支持するポストとを備えるシングルキャビティ式のトロイダル型無段変速機において、
前記ヨークは、当該ヨークに支持される一対の前記枢軸の間に、前記ポストが挿入されて係止される係止孔を備え、
かつ、前記軸の軸方向に沿って前記係止孔により2つに分割された前記ヨークの各分割部分の前記軸の軸方向に沿った幅が互いに異なることを特徴とする。
本発明においては、シングルキャビティ式のトロイダル型無段変速機において、前記軸の軸方向に沿って前記係止孔により2つに分割された前記ヨークの各分割部分の前記軸方向に沿った幅が互いに異なる。すなわち、ヨークのポストが係止される係止孔の位置が前記軸方向に沿って偏心している。この場合に幅の長い分割部分の前記軸方向に沿った剛性が、幅の短い分割部分の前記軸方向に沿った剛性より高くなる。
また、これら分割部分には、ヨークの一対の枢軸を支持する部分にそれぞれトラニオンの枢軸を介してパワーローラのスラスト力FPR/2が入力した場合に、これらのスラスト力FPR/2の前記軸の軸方向成分(FPR/2)COSφの反力が1つのポスト64からかかるようになっている。この際に、パワーローラがLow側に傾転しているか、High側に傾転しているかで、ヨークの係止孔を境にした2つの分割部分のいずれに反力が作用するか決まるようになっている。
ここでパワーローラがHigh側に回転した場合に幅の狭い分割部分に反力が作用し、パワーローラがLow側に回転した場合に幅の広い側に反力が作用するようにすれば、パワーローラのスラスト力FPRがHigh側からLow側に変化するにつれて大きくなる傾向なので、Low側でスラスト力が高くなった場合に、軸方向に沿って幅の広い分割部分にスラスト力の反力が作用し、High側でスラスト力が低くなった場合に、軸方向に沿って幅の狭い分割部分にスラスト力の反力が作用する。
この場合に、従来のようにヨークの係止孔の位置が偏心していない状態で、ヨークにより分割された部分の幅を互いに等しくした場合に比較して、最大の反力が作用する分割部分の力の作用方向の幅が広くなる。
したがって、本発明のヨークは、略同じ形状および材質で係止孔が偏心していないヨークに比較して、Low側でより大きな反力に耐える構造とすることができる。これにより、従来と作用する最大反力が同じ場合に、ヨークの幅を狭くしたり、板厚を薄くしたりしてコストダウンを図ることができるともに、ヨークを従来と同様の幅と板厚とした場合に、より大きな反力(パワーローラのスラスト力)に耐えられる構造にすることができる。
本発明の前記構成において、前記ヨークは、前記枢軸から前記パワーローラにかかるスラスト力を受けるとともに、前記ポストから前記スラスト力の前記軸の軸方向に沿った軸方向成分の反力を前記パワーローラの傾転角度に基づいて2つの前記分割部分のいずれかで受け、一方の前記分割部分より前記幅が広い他方の前記分割部分に、大きな前記反力が作用するように設定されていることが好ましい。
このような構成によれば、シングルキャビティ式のトロイダル型無段変速機において、上述のように軸方向に沿った幅が広いことにより、軸方向に沿った剛性が高い分割部分でより大きな反力を受けることが可能になるので、従来に比較して、より大きな反力に対応可能となるとともに、従来と同じ反力を受ける場合にヨークの幅を狭くしたり、板厚を薄くしたりしてコストの低減を図ることができる。
本発明によれば、シングルキャビティ式のトロイダル型無段変速機において、ヨークのポストが係止される係止孔をヨークの軸方向に沿って偏心した配置とすることができ、これにより、ヨークを当該ヨークに作用するポストからの力に対して効率的に対応可能な構造とすることができる。また、ヨークを左右逆に組み付けるような誤組を確実に防止することができる。
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。
なお、本実施の形態のトロイダル型無段変速機の特徴は、シングルキャビティ方式のトロイダル型無段変速機におけるヨークのポストが係止される係止孔の位置にあるので、以下ではこの点について詳細に説明し、それ以外の部分については、従来と同一符号を付してその説明を省略ないし簡略化する。
図1に示すように、この実施の形態のシングルキャビティ式のトロイダル型無段変速機では、従来と同様にヨーク23A(23B)の長手方向(入力軸(軸)1の軸方向に直交する方向)の両端部にトラニオン15の枢軸14が挿入されて支持される支持孔18が設けられている。また、ヨーク23Aの長手方向の中央部で、前記支持孔18(枢軸14)同士の間には、ポスト64,68が挿入されて係止される係止孔19が設けられている。
ヨーク23Aは、トロイダル型無段変速機に組み立てられた場合に、前記ヨーク23Aの長手方向が、前記入力軸1の軸方向(図1および図2中の左右方向)に沿う方向に直角となっている。
また、ヨーク23Aの支持孔18の中心は、入力軸1の軸方向に沿う幅の中央に配置されている。前記係止孔19は、前記2つの支持孔18の間の中央部に配置されるが、軸方向に沿うヨーク23Aの幅の中央から図中左側に偏心して配置されている。ここで、ヨーク23Aの長手方向に沿った中央部分においては、ヨーク23Aが係止孔19によって、左右に2分割された状態となっている。これら各分割部分は、上述のように係止孔19が偏心して配置されていることにより、一方の左側の分割部分の入力軸1の軸方向に沿った幅X(図2に図示)より、他方の右側の分割部分の入力軸1の軸方向の沿った幅Y(図2に図示)の方が入力軸1の軸方向に沿った長さが長くなっている。
すなわち、ヨーク23Aの一方の長手方向に沿った側縁(図1中左側の側縁)から係止孔19の側縁までの最短距離としての幅Xと、ヨーク23Aの他方の長手方向に沿った側縁(図1中右側の側縁)から係止孔19の側縁までの最短距離としての幅Yとでは、互いに幅の長さが異なり、一方の幅Xより、他方の幅Yの方が長くなっている。
この場合に、入力軸1の軸方向に沿ったヨーク23Aの剛性は、幅(幅Y)の広い分割部分の方が幅(幅X)の狭い分割部分より高くなる。このようなヨーク23Aにおいては、従来と同様のパワーローラ11のスラスト力であるFPRが作用し、このFPRの軸方向成分である2×(FPR/2)COSφに対する反力FPRCOSφがポスト64(68)から作用する。
図2では、パワーローラ11がHigh側に傾転した場合のヨーク23Aに作用する力を示しており、この場合に、ポスト64からの反力は、入力軸1の軸方向に沿って図2中左側に作用し、ヨーク23Aの係止孔19により分割された2つの分割部分のうちの幅Xとなる左側の分割部分に作用する。
また、図2の逆にパワーローラ11がLow側に傾転した場合には、ポスト64からの反力は、入力軸1の軸方向に沿って右側に作用し、ヨーク23Aの係止孔19により分割される2つの分割部分のうちの幅Yとなる右側の分割部分に作用する。ここで、パワーローラ11を中立位置からHigh側に傾転させた場合に、スラスト力の軸方向成分(FPR/2)COSφは、High側に傾転するほど、軸直角成分に対して軸方向成分の方が大きくなるが、スラスト力FPRは、図7のグラフに示すように低下する。
また、パワーローラ11を中立位置からLow側に傾転させた場合に、スラスト力の軸方向成分(FPR/2)COSφは、Low側に傾転するほど、軸直角成分に対して軸方向成分の方が大きくなり、かつ、スラスト力FPRは、図7のグラフに示すように増加する。したがって、変速比をLow側にした場合の方がHigh側にした場合より、ポスト64から大きな反力が作用する。
本実施の形態のヨーク23Aにおいては、パワーローラ11がHigh側に傾転した場合に図2に示すように、入力軸1の軸方向に沿った幅Yより短い幅Xの分割部分にポスト64からの反力が作用する。それに対して、パワーローラ11がLow側に傾転した場合に図2に示す状態とは逆に、入力軸1の軸方向に沿った幅Xより長い幅Yの分割部分にポスト64からの反力が作用する。
これにより反力が小さい場合に、幅が狭く、入力軸1の軸方向に沿った剛性が低い分割部分に反力が作用し、反力が大きい場合に、幅が広く、入力軸1の軸方向に沿った剛性が高い分割部分に応力が作用する。この場合に、ヨーク23Aでは、従来に比較してより高い反力でも耐える構造となる。したがって、作用する反力が従来と同様なら、ヨーク23Aの入力軸1の軸方向に沿った幅を狭くしたり、板厚を薄くしたりしてコストの低減を図ることも可能である。
また、ヨーク23A(23B)においては、2つの支持孔18の中心を結んだ線分に対して、係止孔19の中心位置がずれることにより、左右非対称の形状となる。また、この場合にトラニオン15の枢軸14の配置位置に対してポスト64の位置が偏心した状態となる。したがって、ヨーク23Aの2つの支持孔18に2つのトラニオン15の枢軸14を挿入し、係止孔19にポスト64(68)を挿入しようとした場合に、ヨーク23Aが左右逆になっていると、枢軸14とポスト64とを両方とも支持孔18と係止孔19に挿入した状態にできず、ヨーク23Aを左右逆に組み付ける誤組(誤組付け)を確実に防止することができる。
なお、ヨーク23Aの係止孔19の偏心量を決める幅Xと幅Yの値は、例えば、シミュレーションや実験等により求めるものとしてもよいし、利用可能なデータがある場合に、テータから算出してもよく、例えば、それぞれの分割部分に作用する最も大きな反力に基づいて決定される。
本発明は、シングルキャビティ式の様々なハーフトロイダル型無段変速機に適用することができる。