以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
1.基本構成
1.1 記録システムの概要
図1は、本発明に使用可能なインクジェット記録システムにおける画像データ処理の流れを説明するためのブロック図である。インクジェット記録システムJ0011は、ホスト装置J0012と記録装置J0013によって構成されている。ホスト装置J0012は、記録すべき画像を示す画像データの生成や、そのデータ生成のためのUI(ユーザインタフェース)の設定等を行う。記録装置J0013は、ホスト装置J0012にて生成された画像データに基づいて、記録媒体に記録を行う。
本例の記録装置は、一例として、シアン(C)、ライトシアン(Lc)、マゼンタ(M)、ライトマゼンタ(Lm)、イエロー(Y)、ブラック(K)、グレー(Gray)、第1の透明インク(CL1)、第2の透明インク(CL2)の9種類のインクを備える。そのために、これら9種類のインクをそれぞれ吐出する記録ヘッドH1001が用いられる。これらのうち、シアン(C)、ライトシアン(Lc)、マゼンタ(M)、ライトマゼンタ(Lm)、イエロー(Y)、ブラック(K)、グレー(Gray)は、色材として顔料を含む顔料インクである。
ホスト装置J0012のオペレーティングシステムにて動作するプログラムとしては、アプリケーションやプリンタドライバがある。アプリケーションJ0001は、記録装置にて記録するための画像データの作成処理を実行する。この画像データ、もしくはその編集等がなされる前のデータは、種々の媒体を介してホスト装置(PC)J0012に取り込むことができる。本例のホスト装置は、デジタルカメラによって撮像した例えばJPEG形式の画像データを、CFカードを介して取り込むことができる。またホスト装置は、スキャナによって読み取った例えばTIFF形式の画像データ、およびCD−ROMに格納される画像データを取り込むことができる。さらにホスト装置は、インターネットを介してウェブ上のデータを取り込むことができる。これらの取り込まれたデータは、ホスト装置のモニタに表示され、そしてアプリケーションJ0001を介した編集、加工等の処理がなされて、例えばsRGB規格の画像データR、G、Bが作成される。ホスト装置J0012のモニタに表示されるUI画面において、ユーザは、記録に使用する記録媒体の種類や記録の品位等の設定を行った後、記録を指示する。この記録指示に応じて、画像データR、G、Bがプリンタドライバに渡される。
プリンタドライバは、その処理として、前段処理J0002、後段処理J0003、γ補正J0004、透明インクデータ生成処理J0005、ハーフトーニングJ0006および記録データ作成J0007を含む。以下、プリンタドライバにて行われる各処理J0002〜J0007について簡単に説明する。
前段処理J0002では色域(Gamut)のマッピングを行う。本例では、sRGB規格の画像データR、G、Bによって再現される色域を、記録装置J0013によって再現される色域内に写像するためのデータ変換を行う。具体的には、R、G、Bのそれぞれが8ビットで表現された256階調の画像データR、G、Bを、3次元LUTを用いることにより、記録装置J0013の色域内の8ビットデータR、G、Bに変換する。
後段処理J0003では、8ビットデータR、G、Bに基づき、このデータが表す色を再現するための7色の有色インクにそれぞれに対応した8ビットの色分解データY、M、Lm、C、Lc、K、Grayおよび第2の透明インクデータCL2を生成する。第2の透明インクデータCL2は、色分解データY、M、Lm、C、Lc、K、Grayの値や組合せに応じて定められており、当該対応については後に詳しく説明する。後段処理J0003についても前段処理J0002と同様、3次元LUTを参照しながら補間演算を併用して変換処理を行えばよい。
γ補正J0004は、後段処理J0003によって求められた色分解データの各色のデータ毎に、その濃度値(階調値)変換を行う。具体的には、記録装置J0013における各色インクの階調特性に応じた1次元LUTを用いることにより、色分解データが記録装置の階調特性に線形的に対応付けられるような変換を行う。
装飾画像合成処理J0005では、γ補正後のオリジナル画像に対し装飾画像を合成し、各色のデータおよび装飾画像の指定領域に基づいて、第1の透明インクと第2の透明インクの夫々に対応する8ビットデータCL1およびCL2を新たに生成(或は補正)する。具体的な生成方法については、後に詳しく説明する。
ハーフトーニングJ0006は、γ補正がなされた8ビットの色分解データY、M、Lm、C、Lc、K、Gray、CL1、CL2のそれぞれについて、4ビットのデータに変換する量子化を行う。本例では、多値誤差拡散法を用いて256階調の8ビットデータを9階調の4ビットデータに変換する。この4ビットデータは、後述するドット配置のパターン化処理において、ドットの配置パターンを示すためのインデックスとなるデータである。
プリンタドライバで行う処理の最後には、記録データ作成処理J0007によって、上記4ビットのインデックスデータを内容とする記録画像データに、記録制御情報を加えた記録データを作成する。
図2は、かかる記録データの構成例を示した図である。記録データは、記録の制御のための記録制御情報、および記録すべき画像を示す記録画像データ(上述の4ビットのインデックスデータ)によって構成される。記録制御情報は、「記録媒体情報」、「記録品位情報」、および給紙方法等のような「その他制御情報」から構成されている。記録媒体情報は、記録の対象となる記録媒体の種類を示す情報であり、普通紙、光沢紙、はがき、プリンタブルディスクなどの内、いずれか1種類の記録媒体が規定されている。記録品位情報は、記録の品位を示す情報であり、「きれい」、「標準」、「はやい」等の内、いずれか1種の品位が規定されている。これらの記録制御情報は、ホスト装置J0012のモニタおけるUI画面にて、ユーザが指定した内容に基づいて形成される。また、記録画像データは、前述のハーフトーン処理J0006によって生成された4ビットの画像データである。以上のようにして生成された記録データは、記録装置J0013へ供給される。
記録装置J0013は、ホスト装置J0012から供給された記録データに対して、次に述べるドット配置パターン化処理J0008およびマスクデータ変換処理J0009を行う。
上述したハーフトーン処理J0006では、256値の多値濃度情報(8ビットデータ)を9値の階調値情報(4ビットデータ)まで階調レベル数を下げている。しかし、実際に記録装置J0013が記録できるデータは、各エリアに対しインクドットを記録するか否かの2値データ(1ビットデータ)である。そこで、ドット配置パターン化処理J0007では、ハーフトーン処理J0006からの出力値である階調レベル0〜8の4ビットデータに、その階調値(レベル0〜8)に対応したドット配置パターンを割当てる。これにより、1画素内の複数のエリア各々に「1」(記録)または「0」(非記録)の1ビットの2値データを配置し、インクドットの記録の有無を定義する。
図3は、本例のドット配置パターン化処理にて変換する、入力レベル0〜8に対する出力パターンを示している。図の左に示した各レベル値は、ホスト装置側のハーフトーン処理部からの出力値であるレベル0〜レベル8に相当する。右側に配列した縦2エリア×横4エリアで構成される領域は、ハーフトーン処理で出力される1画素の領域に対応するものである。1画素内の各エリアは、ドットのオン・オフが定義される最小単位に相当する。
図において、丸印を記入したエリアがドットの記録を行うエリアを示しており、レベル数が上がるにしたがって、記録するドット数も1つずつ増加している。本例においては、最終的に、このような形でオリジナル画像の濃度情報が反映されることになる。
(4n)〜(4n+3)は、nに1以上の整数を代入することにより、記録すべき画像データの左端からの横方向の画素位置を示す。その(4n)〜(4n+3)の下に示した各パターンは、同一の入力レベルにおいても画素位置に応じて互いに異なる複数のパターンが用意されていることを示す。すなわち、同一のレベルが入力された場合にも、記録媒体上では、(4n)〜(4n+3)に示した4種類のドット配置パターンが巡回されて割当てられる。
図3においては、縦方向を記録ヘッドの吐出口が配列する方向、横方向を記録ヘッドの走査方向としている。このように同一レベルに対して、複数の異なるドット配置を用いて記録する構成は、ドット配置パターンの上段に位置するノズルと、その下段に位置するノズルと、において、インクの吐出回数を分散させる効果がある。さらに、記録装置特有の様々なノイズを分散させるという効果もある。このようなドット配置パターン化処理によって、記録媒体におけるドットの記録位置が全て決定される。
図4は、マルチパス記録方法を説明するために、記録ヘッドおよび記録パターンを模式的に示す図である。本例に適用される記録ヘッドH10001は、実際には768個のノズルを有するが、ここでは説明の簡略化のために、16個のノズルを有する記録ヘッドP0001として説明する。複数のノズルは、図4のように第1〜第4の4つのノズル群に分割され、各ノズル群には、第1〜第4のマスクパターンP0002(a)〜P0002(d)のそれぞれが宛てがわれている。第1〜第4のマスクパターンP0002(a)〜P0002(d)において、黒塗りエリアは記録許容エリア(1)を示し、白塗りエリアは非記録許容エリア(0)を示している。第1〜第4のマスクパターンP0002(a)〜P0002(d)は互いに補完の関係にあり、これら4つのマスクパターンを重ね合わせると、4×4のエリアに対応した領域の記録が完成される。
P0003〜P0006で示した各パターンは、記録走査を重ねていくことによって画像が完成されていく様子を示している。各記録走査が終了する度に、記録媒体は、図の矢印方向にノズル群の幅分(この図では4ノズル分)ずつ搬送される。よって、記録媒体の同一領域(各ノズル群の幅に対応する領域)は、4回の記録走査によって画像が完成される。以上のように、記録媒体の各同一領域を複数回の走査でかつ複数のノズル群によって形成することは、ノズル特有のばらつきや記録媒体の搬送精度のばらつき等を低減させる効果がある。
図5は、マスクパターンの一例を示した図である。本実施形態で用いる記録ヘッドH1001は768個のノズルを有しているので、4つのノズル群には、それぞれ192個ずつのノズルが属している。マスクパターンの大きさは、縦方向がノズル数と同等の768エリア、横方向は256エリアとなっており、4つのノズル群それぞれに対応する4つのマスクパターンは互いに補完の関係を保つような構成となっている。
インクジェット記録ヘッドから多数の小液滴を高周波数で吐出するには、記録動作時に記録部近傍に気流が生じ、それが特に記録ヘッドの端部に位置するノズルにおけるインクの吐出方向に影響を与えることが確認されている。このような場合、図5のように、各ノズル群また同一のノズル群の中でも領域によって記録許容率の分布に偏りを持たせたマスクパターンが有効である。端部のノズルの記録許容率を中央部の記録許容率よりも小さくすることにより、端部のノズルにより吐出されるインク滴の着弾位置ずれによる弊害を目立たなくすることが出来る。
このようなマスクパターンの2値データは記録装置本体内のROMに格納されている。マスクデータ変換処理J0009においては、各エリアについて、2値のマスクデータと上述したドット配置パターン化処理で得られた2値データと、の間にてAND処理をかけることにより、各記録走査での記録対象となる2値データが決定される。そして、その2値データがヘッド駆動回路J0010へ送られる。これにより、記録ヘッドH1001が駆動され、2値データにしたがってインクが吐出される。
なお図1においては、前段処理J0002〜記録データ作成処理J0007がホスト装置J0012で実行され、ドット配置パターン化処理J0008およびマスクデータ変換処理J0009が記録装置J0013で実行される構成とした。しかし本発明は、このような形態に限られるものではない。例えば、ホスト装置J0012で実行している処理J0002〜J0006の一部を記録装置J0013にて実行する形態であってもよいし、全てをホスト装置J0012にて実行する形態であってもよい。あるいは、処理J0002〜J0009の全てを記録装置J0013にて実行する形態であってもよい。
1.2 装置構成
図6は、本発明に使用可能なシリアル型のインクジェット記録装置J0013の外観を示す斜視図である。記録媒体は、給紙トレイ12より矢印で示す方向に装置内に給紙されて画像が形成された後、排紙トレイ22に排紙される。一方、図7はインクジェット記録装置内部を示す斜視図である。記録開始コマンドが入力されると、給紙トレイ12情に積載されている記録媒体のうち1枚S2が装置内に供給され、搬送ローラ16とピンチローラ15とにより挟持されながら、記録ヘッドH1001によって記録可能な位置にあるプラテン2まで搬送される。
キャリッジ5に搭載された記録ヘッドH1001は、矢印A1、A2方向にガイドレール4に沿って往復移動しながらノズルからインクを吐出し、記録媒体S2上に画像を形成する。記録ヘッド1は、7色の有色インク、シアン(C)、ライトシアン(Lc)、マゼンタ(M)、ライトマゼンタ(Lm)、イエロー(Y)、ブラック(K)、グレー(Gray)の他、第1および第2の透明インク(CL1、CL2)を吐出するノズル群を有している。これら各色のインクと透明インクは、インクタンク7に貯留されており、必要に応じて記録ヘッドH1001に供給される。
キャリッジモータ11の駆動力はタイミングベルト17を介してキャリッジ5に伝達され、キャリッジ5はガイド軸3とガイドレール4に沿って矢印A1、A2方向(主走査方向)に往復移動する。この移動の際、キャリッジ5の位置はキャリッジ5に設けられたエンコーダセンサ21がキャリッジの移動方向に沿って備えられたリニアスケール19を読み取ることにより検出される。記録ヘッドH1001が、画像データとキャリッジの位置に応じてインクを吐出することにより、記録媒体に1走査分の画像が記録される。このような1走査分の記録が行われると、搬送モータ13によってリニアホイール20を介して搬送ローラ16が駆動され、記録媒体S2は副走査方向である矢印B方向に所定量搬送される。その後、キャリッジ5がA2方向に走査しながら、記録媒体S2に記録が行なわれる。
以上説明した動作を繰り返すことにより、記録媒体の1枚分の記録が終了すると、記録媒体は排紙トレイに排出され、1枚分の記録が完了する。ホームポジションには図7に示されているように、ヘッドキャップ10と回復ユニット14が備えられ、必要に応じて間欠的に記録ヘッド1の回復処理を行う。
図8は、インクジェット記録装置の制御構成を示すブロック図である。コントローラ100は主制御部であり、例えばマイクロ・コンピュータ形態のASIC101、ROM103、RAM105を有する。ROM103は、ドット配置パターン、マスクパターン、その他の固定データを格納している。RAM105は、画像データを展開する領域や作業用の領域等を設けている。ASIC101がROM103からプログラムを読み出し、画像データを記録媒体へ記録するまでの一連の処理を実行する。画像データ、その他のコマンド、ステータス信号等は、インタフェース(I/F)112を介してホスト装置J0012と記録装置J0013の間で送受信される。
ヘッド・ドライバ140は、プリント・データ等に応じて記録ヘッド1を駆動する。モータ・ドライバ150はキャリッジモータ11を駆動し、モータ・ドライバ160は搬送モータ13を駆動する。
1.3 インク構成
以下、実施形態のインクジェット記録装置で使用される顔料色材を含む有色インク(以下インクと記載する)と透明インクについて説明する。
(水性媒体)
本発明で使用するインクには、水及び水溶性有機溶剤を含有する水性媒体を用いることが好ましい。インク中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として3.0質量%以上50.0質量%以下とすることが好ましい。又、インク中の水の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として50.0質量%以上95.0質量%以下とすることが好ましい。
水溶性有機溶剤は、具体的には、例えば、以下のものを用いることができる。メタノール、エタノール、プロパノール、プロパンジオール、ブタノール、ブタンジオール、ペンタノール、ペンタンジオール、ヘキサノール、ヘキサンジオール、等の炭素数1〜6のアルキルアルコール類。ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類。アセトン、ジアセトンアルコール等のケトン又はケトアルコール類。テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類。ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の平均分子量200、300、400、600、及び1,000等のポリアルキレングリコール類。エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオジグリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール等の炭素数2〜6のアルキレン基を持つアルキレングリコール類。ポリエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の低級アルキルエーテルアセテート。グリセリン。エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル類。N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等。又、水は、脱イオン水(イオン交換水)を用いることが好ましい。
(顔料)
顔料は、カーボンブラックや有機顔料を用いることが好ましい。インク中の顔料の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として0.1質量%以上15.0質量%以下とすることが好ましい。
ブラックインクは、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラックを顔料として用いることが好ましい。具体的には、例えば、以下の市販品等を用いることができる。レイヴァン:7000、5750、5250、5000ULTRA、3500、2000、1500、1250、1200、1190ULTRA−II、1170、1255(以上、コロンビア製)。ブラックパールズL、リーガル:330R、400R、660R、モウグルL、モナク:700、800、880、900、1000、1100、1300、1400、2000、ヴァルカンXC−72R(以上、キャボット製)。カラーブラック:FW1、FW2、FW2V、FW18、FW200、S150、S160、S150、プリンテックス:35、U、V、140U、140V、スペシャルブラック:6、5、4A、4(以上、デグッサ製)。No.25、No.33、No.40、No.47、No.52、No.900、No.2300、MCF−88、MA600、MA7、MA8、MA100(以上、三菱化学製)。又、本発明のために新たに調製したカーボンブラックを用いることもできる。勿論、本発明はこれらに限定されるものではなく、従来のカーボンブラックを何れも用いることができる。又、カーボンブラックに限定されず、マグネタイト、フェライト等の磁性体微粒子や、チタンブラック等を顔料として用いてもよい。
有機顔料は、具体的には、例えば、以下のものを用いることができる。トルイジンレッド、トルイジンマルーン、ハンザイエロー、ベンジジンイエロー、ピラゾロンレッド等の水不溶性アゾ顔料。リトールレッド、ヘリオボルドー、ピグメントスカーレット、パーマネントレッド2B等の水溶性アゾ顔料。アリザリン、インダントロン、チオインジゴマルーン等の建染染料からの誘導体。フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン等のフタロシアニン系顔料。キナクリドンレッド、キナクリドンマゼンタ等のキナクリドン系顔料。ペリレンレッド、ペリレンスカーレット等のペリレン系顔料。イソインドリノンイエロー、イソインドリノンオレンジ等のイソインドリノン系顔料。ベンズイミダゾロンイエロー、ベンズイミダゾロンオレンジ、ベンズイミダゾロンレッド等のイミダゾロン系顔料。ピランスロンレッド、ピランスロンオレンジ等のピランスロン系顔料。インジゴ系顔料、縮合アゾ系顔料、チオインジゴ系顔料、ジケトピロロピロール系顔料。フラバンスロンイエロー、アシルアミドイエロー、キノフタロンイエロー、ニッケルアゾイエロー、銅アゾメチンイエロー、ペリノンオレンジ、アンスロンオレンジ、ジアンスラキノニルレッド、ジオキサジンバイオレット等。勿論、本発明はこれらに限定されるものではない。
又、有機顔料をカラーインデックス(C.I.)ナンバーで示すと、例えば、以下のものを用いることができる。C.I.ピグメントイエロー:12、13、14、17、20、24、74、83、86、93、97、109、110、117、120、125、128、137、138、147、148、150、151、153、154、166、168、180、185等。C.I.ピグメントオレンジ:16、36、43、51、55、59、61、71等。C.I.ピグメントレッド:9、48、49、52、53、57、97、122、123、149、168、175、176、177、180、192等。同、215、216、217、220、223、224、226、227、228、238、240、254、255、272等。C.I.ピグメントバイオレット:19、23、29、30、37、40、50等。C.I.ピグメントブルー:15、15:1、15:3、15:4、15:6、22、60、64等。C.I.ピグメントグリーン:7、36等。C.I.ピグメントブラウン:23、25、26等。勿論、本発明はこれらに限定されるものではない。
(分散剤)
上記したような顔料を水性媒体に分散するための分散剤は、水溶性を有する樹脂であれば何れのものも用いることができる。中でも特に、分散剤の重量平均分子量が1,000以上30,000以下、更には3,000以上15,000以下のものが好ましい。インク中の分散剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として0.1質量%以上5.0質量%以下とすることが好ましい。
分散剤は、具体的には、例えば、以下のものを用いることができる。スチレン、ビニルナフタレン、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸の脂肪族アルコールエステル、アクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、フマール酸、酢酸ビニル、ビニルピロリドン、アクリルアミド、又はこれらの誘導体等を単量体とするポリマー。尚、ポリマーを構成する単量体のうち1つ以上は親水性単量体であることが好ましく、ブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体、又はこれらの塩等を用いても良い。又は、ロジン、シェラック、デンプン等の天然樹脂を用いることもできる。これらの樹脂は、塩基を溶解した水溶液に可溶である、即ち、アルカリ可溶型であることが好ましい。
(界面活性剤)
インクセットを構成するインクの表面張力を調整するためには、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、及び両性界面活性剤等の界面活性剤を用いることが好ましい。具体的には、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェノール類、アセチレングリコール化合物、アセチレングリコールエチレンオキサイド付加物等を用いることができる。
(その他の成分)
インクセットを構成するインクは、前記した成分の他に、保湿性維持のために、尿素、尿素誘導体、トリメチロールプロパン、及びトリメチロールエタン等の保湿性固形分を含有してもよい。インク中の保湿性固形分の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として0.1質量%以上20.0質量%以下、更には3.0質量%以上10.0質量%以下とすることが好ましい。又、インクセットを構成するインクは、前記した成分以外にも必要に応じて、pH調整剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤、及び蒸発促進剤等の種々の添加剤を含有してもよい。
次に、本実施形態で用いるインクをより具体的に説明する。本発明はその要旨を超えない限り、下記実施例によって限定されるものではない。尚、文中「部」、及び「%」とあるのは、特に断りのない限り質量基準である。
(樹脂水溶液Aの調製)
酸価200mgKOH/g、重量平均分子量10,000のスチレン/アクリル酸のランダム共重合体を水酸化カリウムで1当量に中和した。その後、樹脂濃度が10.0%となるように水で調整して、樹脂水溶液Aを得た。
(樹脂水溶液Bの調製 (浸透し易いポリマー))
樹脂水溶液Aで用いた、酸価200mgKOH/g、重量平均分子量10,000のスチレン/アクリル酸のランダム共重合体を、酸価:288mgKOH/g、重量平均分子量10,000、モノマー組成 スチレン/n−ブチルアクリレート/アクリル酸=23/37/37のランダム共重合体に替えた。これ以外は樹脂水溶液Aの調製同様にして樹脂水溶液Bを調製した。
(樹脂水溶液Cの調製(浸透し難いポリマー))
樹脂水溶液Aで用いた、酸価200mgKOH/g、重量平均分子量10,000のスチレン/アクリル酸のランダム共重合体を、酸価:210mgKOH/g、重量平均分子量10,000、モノマー組成 スチレン/n−ブチルアクリレート/アクリル酸=33/30/27のランダム共重合体に替えた。これ以外は樹脂水溶液Aの調製同様にして樹脂水溶液Cを調製した。
(顔料分散液1〜4の調製)
以下に示す手順により、顔料分散液1〜4を調製した。
<C.I.ピグメントレッド122を含む顔料分散液1の調製>
顔料(C.I.ピグメントレッド122)10部、樹脂水溶液A20部、イオン交換水70部を混合し、バッチ式縦型サンドミルを用いて3時間分散する。その後、遠心分離処理によって粗大粒子を除去した。更に、ポアサイズ3.0μmのセルロースアセテートフィルター(アドバンテック製)にて加圧ろ過し、顔料濃度が10質量%である顔料分散液1を得る。
<C.I.ピグメントブルー15:3を含む顔料分散液2の調製>
顔料(C.I.ピグメントブルー15:3)10部、樹脂水溶液A20部、イオン交換水70部を混合し、バッチ式縦型サンドミルを用いて5時間分散する。その後、遠心分離処理によって粗大粒子を除去した。更に、ポアサイズ3.0μmのセルロースアセテートフィルター(アドバンテック製)にて加圧ろ過し、顔料濃度が10質量%である顔料分散液2を得る。
<C.I.ピグメントイエロー74を含む顔料分散液3の調製>
顔料(C.I.ピグメントイエロー74)10部、樹脂水溶液A20部、イオン交換水70部を混合し、バッチ式縦型サンドミルを用いて1時間分散する。その後、遠心分離処理によって粗大粒子を除去した。更に、ポアサイズ3.0μmのセルロースアセテートフィルター(アドバンテック製)にて加圧ろ過し、顔料濃度が10質量%である顔料分散液3を得る。
<C.I.ピグメントブラック7を含む顔料分散液4の調製>
カーボンブラック顔料(C.I.ピグメントブラック7)10部、樹脂水溶液A20部、イオン交換水70部を混合し、バッチ式縦型サンドミルを用いて3時間分散する。尚、分散する際の周速は、顔料分散液1を調製する際の2倍とした。その後、遠心分離処理によって粗大粒子を除去する。更に、ポアサイズ3.0μmのセルロースアセテートフィルター(アドバンテック製)にて加圧ろ過し、顔料濃度が10質量%である顔料分散液4を得る。
(有色インクと画質向上液の調製)
図9に示した各成分を混合し、十分攪拌した後、ポアサイズ0.8μmのセルロースアセテートフィルター(アドバンテック製)にて加圧ろ過を行い、インク1〜7と画質向上液CL1(第1の透明インク)とCL2(第2の透明インク)を調製する。上記調整により得られる透明インクは、少なくても光沢感を制御するための液である。同様の効果が得られる限り、透明インクは、前記実施例によって限定されるものではない。
1.4 光沢度と写像性の関係
(光沢度と写像性の評価方法)
本発明の実施形態において、画像内の光沢均一性を評価するための基準となる記録媒体表面の光沢度と写像性について説明する。記録媒体や画像の光沢感を評価する指標には、光沢度と写像性がある。以下に、光沢度と写像性の評価方法、及びこれらと写像性の関係を説明する。
図10(a)〜(d)は、光沢度とヘイズを説明する図である。図10(a)に示すように、20°鏡面光沢度(以下、光沢度)およびヘイズは、印刷物表面で反射した反射光を検出器(例えば、BYK−Gardner社製のB−4632(日本名;マイクロ−ヘイズ プラス)によって検出することができる。図10(d)に示すように、反射光はその正反射光の軸を中心にある角度で分布しており、光沢度は検出器中心の開口幅例えば1.8°で検出され、ヘイズはその外側の例えば±2.7°までの範囲で検出されるものとすることができる。すなわち、反射光が観察される場合、その分布の中心軸をなす正反射光の入射光に対する反射率が光沢度と定義される。また、反射光の分布において正反射光の近傍に生じている散乱光を測定したものがヘイズもしくはヘイズ値と定義される。なお、上記検出器により測定される光沢度およびヘイズの単位は無次元で、光沢度はJIS規格のK5600に、ヘイズはISO規格のDIS13803に準拠している。
写像性は、例えば、JIS H8686『アルミニウム及びアルミニウム合金の陽極酸化皮膜の写像性測定方法』やJIS J7105『プラスチックの光学的特性試験方法』を用いて測定され、記録媒体に映り込んだ像の鮮明さを表す。例えば、記録媒体に映り込んだ照明像がぼやけている場合は、写像性の値が低くなる。
図10(b)および(c)は、印刷画像表面の粗さに応じて反射光の量や向きが異なることを示す図である。これらの図に示されるように、一般に、表面が粗くなるほど反射光が拡散し正反射光の量が減るため、写像性と光沢度がより小さく測定される。以下、本実施例では、目標の写像性に対して、測定した写像性の測定値が小さいことを、写像性が低いと記載する。また、目標の光沢度に対して、測定した光沢度の測定値が小さいことを、光沢度が低いと記載する。
(光沢度と写像性の関係)
図11(a)〜(d)は有色インクと透明インクの重なり方に応じて写像性や光沢度が変化する様子を説明するための図である。図11(a)は、有色インクのみが一様に付与され、透明インクが付与されていない状態を示す。有色インクが一様に付与された場合、画像表面は平滑になり入射した光は正反射しやすいので光沢度も写像性も高い状態となる。この際、有色インクを付与した領域と付与しない白紙領域とで光沢度に差が現れることがある。このような場合は、白紙領域を含むハイライト領域に透明インクを付与して画像表面を平滑にし、光沢度を上昇させることも出来る。
図11(b)は、有色インクと透明インクを同時記録した場合を示している。同時記録では、有色インクと透明インクが同じ記録走査でランダムなタイミングで記録されるため、有色インクの上に透明インクが付与される部分と、透明インクの上に有色インクが付与される部分とが混在し、画像表面に凹凸が出来る。その結果、画像の最表面で光が散乱し、表面が平滑であった図11(a)に比べ写像性も光沢度も下がりやすい傾向にある。
図11(c)は有色インクの記録後に第2の透明インクをオーバーコートした場合を示している。第2の透明インクは液体成分と固体成分に分離し難いため、全成分が画像の表面に残らず内部に浸透し写像性は低下し難い。ただし、第2の透明インクの屈折率は低く、表面での正反射量は低くなるので、図11(a)に比べて表面の光沢度は低下する。つまり、第2の透明インクをオーバーコートすることにより、写像性を維持しつつも光沢度は適正な値に調整することができる。
図11(d)は有色インクの記録後に第1の透明インクをオーバーコートした場合を示している。第1の透明インクは液体成分と固体成分に分離しやすいため、画像の表面に個体成分が残り凹凸が増幅する。そのため光沢度も写像性も低下する。つまり、比較的光沢度の高い装飾領域において、光沢度を効果的に低減することができる。
図12(a)〜(c)は、インクの記録率に対する光沢度と第2の透明インクを付与した場合の効果を説明するための図である。図12(a)は、透明インクを記録しない条件におけるブラックインクの記録率に対する光沢度を示した図である。ここでは、600dpi×600dpiの1画素領域に3.5plのブラックインクを8滴付与した場合の記録率を100%としている。図によれば、記録率が増大するほど光沢度も増大していることがわかる。
図12(b)は、図12(a)で示したグラフの記録率64%〜124%の領域において、第2の透明インクをオーバーコートした場合の光沢度の変化を、第2の透明インクの記録率を0%、10%、20%で比較して示した図である。透明インクの記録率が高くなるにつれ、光沢度が低減していることがわかる。また、図12(c)は、同じ条件におけるヘイズの変化を示した図である。透明インクの記録率が高くなっても、ヘイズは安定していることがわかる。
一方、図12(d)は、第2の透明インクをブラックインクと同時記録した場合のヘイズの変化をしめした図である。図11(b)でも示したように、同時記録では画像表面の凹凸が増幅するので、第2の透明インクの記録率が高まるほどヘイズも悪化している。すなわち、光沢度を調整するために第2の透明インクを付与する際は、有色インクの上にオーバーコートするのが好ましいと言える。
図13(a)〜(c)は、装飾を行わずに画像を記録する場合の、第2の透明インクの記録率の調整方法を説明するための図である。ここでは、一例として、白→グレー→黒の無彩色ラインでのカラーインク、グレーインク、ブラックインクおよび第2の透明インクの記録率を示している。但し、第2の透明インクの記録率については、白から黒へ向かうラインであれば、どのようなカラーラインであってもほぼ同等の傾向を示し、同等の記録率制御を行うことが出来る。
図において、横軸はRGBの輝度信号を示し、左端が白(R、G、B)=(255、255、255)、右端が黒(R、G、B)=(0、0、0)を示している。縦軸は各輝度信号に対するインクの記録率を示している。白から黒へ徐々に明度を下げていくグレーラインの場合、ハイライトからほぼ中央のグレーまではライトシアン、ライトマゼンタ、イエローの混合によって無彩色を表現し、クレーインンクとブラックインクの記録率は0%を維持している。更に明度が低い領域に移行すると、グレーインクの記録率が徐々に増加し、これに伴ってライトシアン、ライトマゼンタ、イエローの記録率は低下する。更に明度が下がりブラックインクの記録率が上昇すると、グレーインクの記録率も徐々に下がり、最も明度の低い黒(R、G、B)=(0、0、0)では、ブラックインクの記録率が100%、他の有色インクの記録率が0%になっている。
第2の透明インクの記録率は、記録物の用途や記録領域によって調整することができる。ここで、図13(a)は、有色インクを付与することによって必要以上に光沢度が上がってしまう領域で、光沢度を低減する場合を示している。透明インクの記録率は白(R、G、B)=(255、255、255)では0%であるが、明度が下がるにつれ増加し、ハイライト部から黒(R、G、B)=(0、0、0)まで20%の記録率が維持されている。第2の透明インクの記録率をこのように設定することにより、光沢度が高くなりがちな明度の低い領域を、白紙領域とほぼ同等の光沢度に調整することができる。
一方、図13(b)は、明度の低い領域の光沢度に合わせるように、白紙領域の光沢度を上昇させる場合を示している。透明インクの記録率は白(R、G、B)=(255、255、255)では20%程度であるが、明度が下がるにつれ減少し、ほぼ中央のグレー以降は0%に維持されている。第2の透明インクの記録率をこのように設定することにより、光沢度が低くなりがちな明度の高い領域を、有色インクを付与した領域とほぼ同等の光沢度に調整することができる。
図13(c)は、画像データの階調値に依らず透明インクの記録率を一律に維持する場合を示している。第2の透明インクの記録率をこのように設定することにより、明度の高い領域の光沢度を上げつつ明度の低い領域の光沢度を下げ、画像全体の光沢度をほぼ一定に安定させることが出来る。
このように、本実施形態で装飾を行わずに画像を記録する場合には、有色インクを付与する領域と付与しない領域との間で大きな光沢度の差が現れないようにするために、有色インクの付与量(すなわちRGB信号値)に応じて第2の透明インクの記録率を調整する。この際第2の透明インクは、有色インクで形成された画像をオーバーコートするため、有色インクの記録が終了した後に記録する。
図14は、上記透明インクのオーバーコートを実現するために使用する、有色インクと透明インクのマスクパターンの一例を示す図である。141は有色インク用のマスクパターン、142は透明インク用のマスクパターンをそれぞれ示している。ここでは、6パスのマルチパスの場合のマスクパターン例を示し、1回の記録走査が終了する度に記録媒体は幅d(128ノズル分)だけ矢印で示した方向に搬送される。図5で示したマスクパターンと同様、黒エリアはドットの記録を許容するエリア、白エリアはドットの記録を許容しないエリアをそれぞれ示している。
有色インク用のマスクパターン141は、第1ノズル群〜第3ノズル群による前半の3回の記録走査により画像の記録が完了し、第4ノズル群〜第6ノズル群による後半の3回の記録走査ではインクは付与されないようになっている。一方、透明インク用のマスクパターン142は、第1ノズル群〜第3ノズル群による前半の3回の記録走査ではインクは付与されず、第4ノズル群〜第6ノズル群による後半の3回の記録走査でインクが付与されるようになっている。これらマスクパターン141および142を使用することにより、記録媒体における幅dを有する同一画像領域は、前半の3回の記録走査で有色インク記録が完了した後、後半の3回の記録走査で透明インクが付与すなわちオーバーコートされる。
ところで、通常の画像領域では、上記のように有色インクを付与する領域と付与しない領域とで光沢度を安定させることが望まれるが、装飾部分のように敢えて光沢差を強調する場合には、上記透明インクの記録方法とは異なる記録方法が必要となる。この場合、例えば、装飾部の光沢を十分に低くしたい時は、図13を参照するに、装飾部の明度が低ければ装飾部における第2透明インクの付与量を増加し、装飾部の明度が高ければ装飾部における第2透明インクの付与量を減少すれば良い。但し、装飾部が、ライトシアン、ライトマゼンタあるいはイエローのような明度が高いインクで記録される場合は画像の明度が高くても付与されるインクの量は多く、有色インクのみの記録で極めて高い光沢が表現される場合がある。そして、このような場合は、第2の透明インクの記録率を0%にしても光沢度を十分に下げることが出来ず、装飾効果が得られない。
このような課題を解決するため、本発明では、第2の透明インクの他に、これよりも浸透性が低い第1の透明インクを用意する。以下、第1の透明インクと第2の透明インクを用い、オリジナル画像部においては安定した光沢度を維持しながらも、装飾部においては光沢度の高低を様々に制御しながら、効果的な装飾を行う記録方法をいくつかの実施例を挙げて具体的に説明する。
図15は、写真であるオリジナル画像200に対し、第1の装飾画像201と第2の装飾画像202を設定して記録する例を示している。ユーザはアプリケーションにおいて、様々な文字や図形の中から所望の装飾用画像を選択すると共に、オリジナル画像200における装飾画像の配置や装飾効果を設定する。ここで、装飾効果とは装飾画像における光沢度の強度や光沢度のパターンを示す。例えば、ハートマークから構成される装飾画像201については、ハートの内部において光沢度を一律に設定するパターンAや光沢の高い領域と低い領域を互い違いに配置するパターンBなどが設定可能である。このような装飾画像の設定が終了すると、ホスト装置J0012は、オリジナル画像とは別に装飾画像データを生成する。
図16(a)および(b)は、図1で説明したステップJ0005における装飾画像合成処理で実行する行程を説明するためのフローチャートである。図16(a)は装飾画像データの生成処理を示し、図16(b)は、図16(a)で生成された装飾画像データとオリジナル画像データを合成し、これに基づいて第1の透明インクと第2の透明インクの記録データを生成する工程を示す。
まず、図16(a)を参照するに、本処理が開始されると、ステップS1511においてユーザによって設定された装飾画像に基づいて、装飾画像データを生成する。図15の例では、第1の装飾画像201の画像データと第2の装飾画像202の画像データを生成する。
ステップS1512では、アプリケーションで設定された項目に基づいて、オリジナル画像200内における配置や装飾効果を示す情報からなるデータを生成し、ステップS1511で生成した画像データの先頭にヘッダデータとして加える。ヘッダデータとなる情報としては、ページID、印刷設定、ページサイズ、幅、高さ、装飾効果、ページ内の位置などが挙げられる。ここで、印刷設定とは用紙サイズや印刷の向きなど、印刷実行時に必要な項目が含まれる情報である。また装飾効果とは、図15におけるパターンAやパターンBなどを指定するための情報である。
続くステップS1513において、装飾画像データは、それぞれのヘッダデータに基づいてラスタライズされ、600dpiの多値の夫々の装飾画像データが生成される。
ステップS1514では、ステップS1513で生成された多値データを2値化し、600dpiの2値データ(201および202)を生成する。2値化後のデータにおいて、黒「1」は装飾データが存在する画素、白「0」は装飾データが存在しない画素を示している。更にステップS1515において、生成した2値データをメモリに一時保存する。
次に、図16(b)を参照しながら、第1の透明インクと第2の透明インクの記録データの生成工程を説明する。再度図1を参照するに、本処理が開始される前の工程において、各有色インクに対応する多値のオリジナル画像データと第2の透明インク用の多値データは既に生成されている。図15では、有色インクに対応する多値のオリジナル画像データを203、第2の透明インク用の多値データを204で示している。これらは600dpiの解像度を有し、第2の透明インク用の多値データ204は、図13で説明したように、オリジナル画像データの全領域で同等の光沢度が得られるような適切な値に調整されている。
本処理が開始されると、まずステップS1504では、ステップS1515で一時保存された装飾画像の2値データ201および202を読み出し、ステップS1505ではこれら装飾画像データのヘッダデータを解析する。更に、ステップS1506では、ヘッダデータに基づいて装飾画像の2値データ201および202をオリジナル画像データと合成し、合成画像データを生成する。
ステップS1507では、装飾画像の2値データ201および設定された装飾効果に基づいて、各画素について第2の透明インク用の多値データ204を補正したり、透明インク用の多値データ205も生成したりする。
図15を参照するに、本例において、補正後の第2の透明インク用の多値データ206は、補正前の多値データ204に対し装飾領域の多値データが「0」に補正されている。このような補正は、補正前の多値データ204のうち、装飾画像の2値データ201および202が「1」である画素の多値データを「0」に変更することによって実現される。
一方、新たに生成される第1のインク用の多値データ205は、装飾画像のうち、特に光沢度を低くする領域に生成される。図15の例では、第1の透明インクの多値データはハート領域内にのみ生成されている。この際、装飾効果としてパターンAが設定されている場合、多値データはハート内領域に一様に生成される。また、パターンBが設定されている場合は、所定の多値データが存在する領域と0データが存在する領域とが交互に配置される。
再度図1を参照するに、以上説明した装飾画像合成処理J0005によって、600dpiの7色の有色インク用の多値データ、600dpiの第1の透明インク用の多値データおよび第2の透明インク用の多値データが生成される。そして、これらデータは後続のハーフトーニング処理に送信される。その後、既に説明したJ0006〜J0009の処理が施され、記録ヘッドH1001によって記録動作が行われる。
図17は、装飾記録が設定された場合に使用する、有色インクと第1および第2の透明インクのマスクパターンの一例を示す図である。171は有色インク用のマスクパターン、172は第2の透明インク用のマスクパターン、173は第1の透明インク用のマスクパターンをそれぞれ示している。ここでは、9パスのマルチパスを採用した場合のマスクパターン例を示し、1回の記録走査が終了する度に記録媒体は幅d´(85ノズル分)だけ矢印で示した方向に搬送される。図5で示したマスクパターンと同様、黒エリアはドットの記録を許容するエリアを示し、白エリアはドットの記録を許容しないエリアを示している。有色インク用のマスクパターン171は、第1ノズル群〜第3ノズル群による最初の3回の記録走査により画像の記録が完了し、第4ノズル群以降の記録走査ではインクは付与されないようになっている。一方、第2の透明インク用のマスクパターン172は、第1ノズル群〜第3ノズル群および第7ノズル群〜第9ノズル群による計6回の記録走査ではインクは付与されず、第4ノズル群〜第6ノズル群による3回の記録走査でインクが付与されるようになっている。更に、第1の透明インク用のマスクパターン173は、第7ノズル群〜第9ノズル群による最後の3回の記録走査により記録が完了し、第6ノズル群以前の記録走査ではインクは付与されないようになっている。これらマスクパターン171〜173を使用することにより、記録媒体における幅d´を有する同一画像領域は、最初に有色インクが記録された後、次に第2の透明インクが付与され、最後に第1の透明インクが付与されることになる。よって、オリジナルの画像領域においては写像性を損なうことなく好適で一様な光沢度を実現することが出来る一方、装飾領域においては装飾効果を十分に発揮することが可能となる。
なお、以上では装飾を行わない場合は図14で示すマスクパターンを用いた6パスのマルチパス記録を行い、装飾を行う場合は図17で示すマスクパターンを用いた9パスのマルチパス記録を行う構成としたが、本実施例はこれに限定されるものではない。浸透性の高い第2の透明インクが有色インクよりも遅れて付与されるようなマスクパターンが使用されれば、これらマスクパターンは自由に設定することが出来る。例えば、装飾を行う場合であっても、図14で示すマスクパターンを用い、有色インクにはマスクパターン242を第1および第2の透明インクにはマスクパターン142を宛てがいようにしても良い。さらに、これら同時に使用するマスクパターンにおいては、高速記録を実現するために、記録許容画素を設定される領域の一部が互いに重複していても、本実施例の効果を得ることは出来る。
また、上記では、図15で説明したように、ハート内部の装飾パターンとしてパターンAとパターンBとを一例として用意したが、このようなパターンは更に多く用意することも出来る。パターンBでは矩形を周期的に繰り返すパターンとしたが、例えば、丸型ドット、ひし形などの所定図形を周期的に配置することも出来る。この際、パターンの図形のほか、図形のサイズを「大」「中」「小」の中から設定可能としたり、配置の周期や間隔を設定したりしても良い。いずれにしても、図16(b)で説明したステップS1507では、指定された図形やパラメータに従って装飾画像内部にパターンデータを生成すればよい。装飾領域内にこのような周期的なパターンを設定することにより、光沢度の高い部分と低い部分が隣り合い、領域内がキラキラと光るような装飾効果を生み出すことが出来る。本発明者らの検討によれば、2〜3mm程度のパターンサイズの場合も、最もこのような効果が高まることが確認された。
更に以上では装飾画像の信号値が「1」である画素について、第2の透明インク用の多値データを「0」に補正したが、第2の透明インク用の多値データは、所定量だけ低減したり固定の信号値に変更したりなど「0」ではない信号値に補正しても良い。
同じ装飾画像を記録する場合であっても、使用する透明インクの種類やインク付与の順番を変更することにより、装飾の効果を様々に変化させることが出来る。本実施例では、使用する透明インクの種類や付与の順番を異ならせた複数のモードを用意することにより、ユーザが好みの装飾効果を選択可能な構成とする。
図18は、本実施例において、ユーザが設定可能な4種類の装飾モードA〜Dを示す図である。モードAは装飾部において第1の透明インクも第2の透明インクも付与しないモードである。本モードが設定された場合、ホスト装置J0012は、図16(b)のステップS1507において、第2の透明インクの多値データ204のうち、装飾画像の2値データ201および202が「1」である画素の多値データを全て「0」に変更する。また、第1のインク用の多値データ205は全画素について「0」に設定する。一方、記録装置のコントローラ100は、ROM103に記憶された複数のマスクパターンの中から、図14に示したマスクパターン141を有色インクのノズル列に、マスクパターン142を第2の透明インクに宛がい、6パスのマルチパス記録を実行する。これにより、光沢性を一様にするために第2の透明インクは付与されるが、第1の透明インクによる装飾効果も第2の透明インクもよる装飾効果も表現されない画像が出力される。
モードBは第1の透明インクによる装飾効果のみを実現するモードである。本モードが設定された場合、ホスト装置J0012は、図16(b)のステップS1507において、第2の透明インクの多値データ204のうち、装飾画像の2値データ201および202が「1」である画素の多値データを「0」に変更する。また、第1のインク用の多値データ205は装飾画像の2値データ201および202が「1」である画素に対し、「0」よりも大きな所定の多値データを生成したり、指定されたパターンに従って多値データや「0」データを配置したりする。一方、記録装置J0013において、コントローラ100は図14に示したマスクパターン141を有色インクのノズル列に、マスクパターン142を第1の透明インクおよび第2の透明インクに宛がって、6パスのマルチパス記録を実行する。これにより、有色インクの記録が完成した後に第1および第2の透明インクが付与され、オリジナル画像の光沢性を一様にしつつも、第1の透明インクによる装飾効果を得ることが出来る。
モードCは実施例1と同様に、有色インクを記録した後、第2の透明インクを付与してから第1の透明インクを付与するモードである。本モードが設定された場合、ホスト装置J0012は、実施例1で説明した画像処理を行う。記録装置J0013において、コントローラ100は、図17に示したマスクパターン171を有色インクのノズル列に、マスクパターン172を第2の透明インクに、マスクパターン173を第3の透明インクに宛がって、9パスのマルチパス記録を実行する。これにより、実施例1と同様、有色インクの記録が完成した後に第2の透明インクが付与され、更にその後第1の透明インクが付与される。その結果、実施例1と同様、第1の透明インクによる装飾効果と第2の透明インクによる光沢の一様性効果を得ることが出来る。
モードDは第1および第2の透明インクによって装飾効果を表現しながらも、第1の透明インクと第2の透明インクは有色インクを記録した後の同じ記録走査で記録するモードである。本モードが設定された場合、ホスト装置J0012は、実施例1で説明した画像処理を行う。一方、記録装置J0013のコントローラ100は、図14に示したマスクパターン141を有色インクのノズル列に、マスクパターン142を第1および第2の透明インクに宛がって、6パスのマルチパス記録を実行する。これにより、有色インクの記録が完成した後に第1および第2の透明インクが付与され、第1の透明インクによる装飾効果と第2の透明インクによる光沢の一様性効果を得ることが出来る。装飾部においては、図11(b)で説明したように、有色インクの上に透明インクが付与される部分と、透明インクの上に有色インクが付与される部分とが混在し、画像表面に凹凸が出来る。その結果、画像の最表面で光が散乱して写像性も光沢度も下がり、装飾効果を高めることが出来る。
以上説明した本実施例によれば、オリジナルの画像領域においては写像性を損なうことなく好適で一様な光沢度を実現することが出来る一方、装飾領域においてはユーザが好みの装飾効果を実現することが可能となる。
(その他の実施例)
以上の実施例では、装飾画像の信号値が「1」である画素についてのみ、第2の透明インク用の多値データを「0」または所定量に低減する場合について説明したが、装飾の方法としては、逆に、補正前の値よりも増大された信号値に変更しても構わない。
また、以上では、第1の透明インクは装飾領域にのみ付与し、オリジナル画像領域の光沢性を一様にするためには図13で示したように第2のインクのみを生成する内容で説明した。しかしながら、極端に光沢度が高くなってしまうようなオリジナル画像領域に対し、第2の透明インクのみでは十分に光沢度を低減できないような場合には、オリジナル画像の光沢度を一様にするために第1の透明インクを付与しても良い。この場合、図1で示した後段処理において第1の透明インクの多値データも第2の透明インクの多値データとともに生成され、図16(a)のS1507において第2の透明インクとともに第1の透明インクの多値データも削除されたり補正されたりすれば良い。更に、このような装飾領域における透明インクの付与量は、装飾効果とともにユーザが設定可能な構成としても良い。
いずれにしても、光沢が一様になるように調整されたオリジナル画像を引き立てることが出来るように、装飾領域の光沢度が目的のレベルに高められたり低く抑えられたりすれば本発明は有効である。