以下、本発明に係る実施形態について説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
本実施形態に係る情報記録媒体用ガラス基板の製造方法は、ガラス基板の記録再生用領域における任意の半径位置にレーザ光を照射しながら、前記ガラス基板を回転させ、前記レーザ光が照射された表面からの反射光から測定される微小うねりの、波長領域を20〜90μmとして解析した際の1周分の測定値の平均値(単に、平均値とも称する。)が、0.04nm以下となるガラス基板を選定する検査工程を備える。
このような検査工程を施せば、タッチダウンハイトの低い、例えば、4nm以下を実現可能な情報記録媒体を製造することができる情報記録媒体用ガラス基板を選定することができる。よって、このような検査工程を備える情報記録媒体用ガラス基板の製造方法であれば、得られたガラス基板は、タッチダウンハイトの低い、例えば、4nm以下を実現可能な情報記録媒体を製造することができる。このことは、微小うねりの、波長領域を20〜90μmとして解析した際の1周分の測定値の平均値は、タッチダウンハイトとの相関性が高いことによる。そして、この測定平均値が、0.04nm以下のものを選別すれば、低いタッチダウンハイトを実現可能な情報記録媒体を製造することができるガラス基板を得ることができる。
また、本実施形態に係る情報記録媒体用ガラス基板の製造方法は、前記検査工程を備えていれば、特に限定されない。具体的には、検査工程を備えており、その検査工程が、上記のような工程であること以外、特に限定されず、従来公知の製造方法であればよい。また、この検査工程は、研磨工程等を施した後のガラス基板に対して、検査する工程であることが好ましく、従来の一般的な情報記録媒体用ガラス基板の製造方法における最終工程として、この検査工程を実施することが好ましい。
ここで、本実施形態に係る情報記録媒体用ガラス基板の製造方法における検査工程について、説明する。
前記検査工程は、上述した検査工程であれば、特に限定されない。また、前記微小うねりの測定方法は、ガラス基板の記録再生用領域における任意の半径位置にレーザ光を照射しながら、前記ガラス基板を回転させ、前記レーザ光が照射された表面からの反射光に基づいて測定する方法であれば、特に限定されない。具体的には、ガラス基板にレーザ光を照射して、その照射したレーザ光の、ガラス基板での反射光の角度や強度の変化に基づいて測定する方法や、ガラス基板にレーザ光を照射して、その照射したレーザ光の、ガラス基板での反射光を、レーザドップラ振動計を用いて測定する、いわゆるレーザドップラ方式に基づいて測定する方法等が挙げられる。この中でも、精度や互換性を確保するために、予め検査された基板(マスターディスク)によって、レーザ光を照射する光源等の光学照射手段の校正や調整が不要である点で、レーザドップラ方式に基づく測定方法が好ましい。
また、前記レーザ光の光源は、出力光の波長が略安定したものであれば、特に限定されない。例えば、He−Neレーザを用いることができる。また、前記反射光から得られる検出結果は、レーザ光が種々の波長のレーザ光であることから、スペクトル分布として得られる。このスペクトル分布として得られる検出結果を、フーリエ変換処理により、波長領域を20〜90μmとして解析した測定値が得られる。そして、本実施形態における検査工程では、この測定値の1周分の平均値が、0.04nm以下となるガラス基板を選定するものである。
また、この微小うねりを測定するための測定装置は、上記のような平均値を得ることができる装置であれば、特に限定されず、例えば、レーザドップラ方式に基づいて、微小うねりを測定することができる装置が挙げられる。より具体的には、Polytec社製のAVT−1000等が挙げられる。
また、前記検査工程は、例えば、以下のように行う。具体的には、図1に示すように、ガラス基板1を回転させながら、そのガラス基板1の表面近傍に、微小うねりを測定するための測定装置2を配置させ、その測定装置2から、ガラス基板1にレーザ光を照射し、その照射したレーザ光の反射光を測定装置2で検出する。その検出を、ガラス基板1の1周分行う。そして、上述したように、得られた検出結果を、波長領域を20〜90μmとして解析した際の1周分の測定値の平均値を得る。この平均値に基づいて、上述した選定基準で選定する。なお、図1は、本実施形態に係る情報記録媒体用ガラス基板の製造方法における検査工程について説明するための図面である。また、図1(a)は、斜視図であり、図1(b)は、測定装置2の近傍を示す、側面図である。
また、図1には、ガラス基板の一方の表面上を測定する場合について示したが、ガラス基板のもう一方の表面近傍にも、測定装置2を配置するようにしてもよい。そうすることによって、同時にガラス基板の微小うねりを測定することができる。
そして、この測定を行ったガラス基板を用いて、公知の方法により、情報記録媒体である磁気ディスクを製造し、タッチダウンハイトを測定すると、図2に示すように、この測定した平均値が、タッチダウンハイトと高い相関性を示す。これに対して、異なる波長範囲で解析して得られた値、例えば、波長領域を80〜150μmとして解析した際の1周分の測定値の平均値であれば、上記と同様にタッチダウンハイトを測定しても、図3に示すように、タッチダウンハイトと高い相関性を示すものではない。これらについては、後述する。なお、タッチダウンハイトとは、磁気ヘッドが、磁気ディスクに衝突する最大高さのことである。なお、図2は、波長領域を20〜90μmとして解析した際の1周分の測定値の平均値とタッチダウンハイトとの関係を示すグラフである。また、図3は、波長領域を80〜150μmとして解析した際の1周分の測定値の平均値とタッチダウンハイトとの関係を示すグラフである。
そして、波長領域を20〜90μmとして解析した際の1周分の測定値の平均値が、0.04nm以下となるガラス基板を選定する。そうすることによって、タッチダウンハイトの低い、例えば、4nm以下を実現可能な情報記録媒体を製造することができる情報記録媒体用ガラス基板が得られる。
また、前記研磨工程は、前記検査工程の前に施すものである。また、この研磨工程は、前記検査工程で測定される測定値の平均値が、0.04nm以下となるガラス基板が得られるように研磨する工程であることが好ましい。この研磨工程としては、具体的には、研磨工程で得られたガラス基板を、前記検査工程で検査し、その検査結果に基づいて、それ以降に行う研磨工程の研磨条件を調整して、検査工程で測定される測定値の平均値が、0.04nm以下となるガラス基板が得られるように研磨する工程にすること等が挙げられる。そうすることによって、タッチダウンハイトが4nm以下の情報記録媒体用ガラス基板を好適に製造することができる。
また、前記研磨工程は、具体的には、情報記録媒体用ガラス基板の製造方法における研磨工程であって、上記のような研磨が行えるように研磨条件を調整したものが挙げられる。また、前記研磨工程は、1回研磨であってもよいが、例えば、粗研磨工程と精密研磨工程との複数回の工程を行うものであってもよい。また、精密研磨工程も、1回であってもよいが、2回以上行ってもよい。具体的には、例えば、以下のような研磨工程が挙げられる。
前記粗研磨工程(1次研磨工程)は、ガラス素板の表面に粗研磨を施す工程である。例えば、後述するラッピング工程が施されたガラス素板や、成形により得られたガラス素板の表面に粗研磨を施す工程である。この粗研磨は、傷や歪みの除去を目的とするもので、後述する研磨装置を用いて実施する。なお、前記粗研磨工程で研磨する表面は、ガラス素板の面方向に平行な面、すなわち主表面である。
まず、粗研磨工程で用いる研磨装置は、ガラス基板の製造に用いる研磨装置であれば、特に限定されない。具体的には、図4に示すような研磨装置11が挙げられる。なお、図4は、本実施形態に係る情報記録媒体用ガラス基板の製造方法における研磨工程で用いる研磨装置の一例を示す概略断面図である。
図4に示すような研磨装置11は、ガラス素板の主表面の両面を、同時に研磨可能な装置である。また、この研磨装置11は、装置本体部11aと、装置本体部11aに研磨液(研磨スラリー)を供給する研磨液供給部11bとを備えている。
研磨本体部11aは、互いに対向して配置される2枚の定盤12,13を備えている。それぞれの定盤の位置関係は、上下に限定されないが、例えば、2枚の定盤のうち、上側に配置される定盤を、上定盤12とし、下側に配置される定盤を、下定盤13と称する。すなわち、研磨本体部11aは、円盤状の上定盤12と円盤状の下定盤13とを備えており、それらが互いに平行になるように上下に間隔を隔てて配置されている。そして、円盤状の上定盤12と円盤状の下定盤13とが、互いに逆方向に回転する。
この円盤状の上定盤12と円盤状の下定盤13との対向するそれぞれの面に、ガラス素板10の表裏の両面を研磨するための研磨パッド15が貼り付けられている。
また、円盤状の上定盤12と円盤状の下定盤13との間には、回転可能な複数のキャリア14が設けられている。このキャリア14は、複数の素板保持用孔51が形成されており、この素板保持用孔51にガラス素板10をはめ込んで配置することができる。キャリア14としては、例えば、素板保持用孔51が100個形成されていて、100枚のガラス素板10をはめ込んで配置できるように構成されていてもよい。そうすると、1回の処理(1バッチ)で100枚のガラス素板を処理できる。
研磨パッド15を介して定盤12,13に挟まれているキャリア14は、ガラス素板10を保持した状態で、自転しながら、定盤12,13の回転中心に対して下定盤13と同じ方向に公転する。なお、円盤状の上定盤12と円盤状の下定盤13とは、別駆動で動作することができる。このように動作している研磨装置11において、研磨液16を、上定盤12とガラス素板10との間、及び下定盤13とガラス素板10との間に、それぞれ供給することによって、ガラス素板10の研磨を行うことができる。
また、研磨液供給部11bは、液貯留部110と液回収部120とを備えている。液貯留部110は、液貯留部本体110aと、液貯留部本体110aから装置本体部11aに延ばされた吐出口110eを有する液供給管110bとを備えている。液回収部120は、液回収部本体120aと、液回収部本体120aから装置本体部11aに延ばされた液回収管120bと、液回収部本体120aから研磨液供給部11bに延ばされた液戻し管120cとを備えている。
そして、液貯留部本体110aに入れられた研磨液16は、液供給管110bの吐出口110eから装置本体部11aに供給され、装置本体部11aから液回収管120bを介して液回収部本体120aに回収される。また、回収された研磨液16は、液戻し管120cを介して液貯留部110に戻され、再度、装置本体部11aに供給可能とされている。
ここで、研磨によって発生するガラス屑が回収された研磨液に混入するため、図示しないフィルタを液回収部120に備えて前記ガラス屑を除去することが、表面に発生するキズを低減するという観点から望ましい。
ここでは回収した研磨液を再度利用する循環使用としたが、研磨した研磨液を回収せずにかけ流しとして使用することもできる。
ここで用いる研磨パッドとしては、粗研磨工程に用いることができる研磨パッドであれば、特に限定されない。具体的には、硬質研磨パッド等が挙げられる。
また、ここで用いる研磨液は、研磨剤を水に分散させた状態の液体、すなわち、スラリー液である。そして、この研磨剤としては、例えば、CeO2を含有する研磨剤等が挙げられる。
次に、精密研磨工程について説明する。
前記精密研磨工程は、前記粗研磨工程で得られた平坦平滑な主表面を維持しつつ、例えば、主表面の表面粗さ(Rmax)が0.3nm程度以下である平滑な鏡面に仕上げる鏡面研磨処理である。
また、精密研磨工程は、前記検査工程で測定される測定値の平均値が、0.04nm以下となるガラス基板が得られるような研磨条件に調整された研磨工程であることが好ましい。具体的には、研磨パッド、研磨液、及び研磨圧力等の加工条件を調整する。
この精密研磨工程は、例えば、上記粗研磨工程で使用したものと同様の研磨装置を用い、研磨パッドを硬質研磨パッドから軟質研磨パッドに取り替えて行われる。なお、前記精密研磨工程で研磨する表面は、前記粗研磨工程で研磨する表面と同様、主表面である。なお、軟質研磨パッドとしては、例えば、スエードパッド等が挙げられる。スエードパッドとは、表面部(研磨層)が、軟質発泡ポリウレタン等の軟質発泡樹脂で構成されるスエードタイプの軟質発泡樹脂パッドである。また、スエードパッドは、気泡が表面(パッド面)に開放されており、気泡を仕切る壁が軟らかいものが相対的に多い研磨パッドである。
また、精密研磨工程で用いる研磨剤としては、粗研磨工程で用いた研磨剤より、研磨性が低くても、傷の発生がより少なくなる研磨剤が用いられる。具体的には、例えば、粗研磨工程で用いた研磨剤より、粒子径が低いシリカ系の砥粒(コロイダルシリカ)を含む研磨剤等が挙げられる。このシリカ系の砥粒の平均粒子径としては、20nm程度であることが好ましい。そして、本実施形態では、このコロイダルシリカを含む研磨剤が用いられる。
そして、前記研磨剤を含む研磨液(スラリー液)をガラス素板に供給し、研磨パッドとガラス素板とを相対的に摺動させて、ガラス素板の表面を鏡面研磨する。なお、スラリー液は、例えば、上記研磨装置11の研磨液供給部11bによって循環使用してもよい。
スラリー液を循環使用する場合は、前記粗研磨工程と同様に、研磨によって発生するガラス屑が回収された研磨液に混入するため、図示しないフィルタを液回収部120に備えて前記ガラス屑を除去することが、表面に発生するキズを低減するという観点から望ましい。
また、本実施形態に係る情報記録媒体用ガラス基板の製造方法としては、前記検査工程を備えていればよいが、その他の工程を備えていてもよい。例えば、円盤加工工程、熱処理工程(アニール工程)、研削工程(ラッピング工程)、内外研削工程、端面研磨工程、化学強化工程、研磨工程(ポリッシング工程)、洗浄工程、及び検査工程を備える方法等が挙げられる。そして、前記各工程を、この順番で行うものであってもよいし、これらの工程の全てを行わなくてもよいし、これら以外の工程を備える方法であってもよい。例えば、研削工程を行わない場合であってもよいし、研磨工程の後に化学強化工程を行うものであってもよい。また、研磨工程の途中で、化学強化工程を行ってもよい。具体的には、研磨工程として、粗研磨工程、第1精密研磨工程、第2精密研磨工程を備え、第1精密研磨工程と第2精密研磨工程との間に、化学強化工程を行ってもよい。さらに、これら以外の工程を備える方法であってもよい。また、検査工程は、上記検査工程を行うものであり、研磨工程は、上記研磨工程を行うものである。
前記円盤加工工程は、原料ガラスを、図5に示すような、内周及び外周が同心円となるように、中心部に貫通孔10aが形成された円盤状のガラス素板10に加工する工程である。具体的には、原料ガラスを、溶融炉で溶融して、溶融ガラスとするガラス溶融工程と、溶融ガラスを円盤状のガラス素板に形成するプレス工程と、形成された円盤状のガラス素板の中心部に貫通孔10aを形成するコアリング加工を施し、図5に示すような、円盤状のガラス素板10に加工するコアリング加工工程等を備える。なお、図5は、本実施形態に係る情報記録媒体用ガラス基板の製造方法で用いられるガラス素板を示す上面図である。
前記ガラス溶融工程は、原料ガラスを、溶融炉で溶融して、溶融ガラスとすることができれば、特に限定されない。原料ガラスとしては、特に限定されず、例えば、SiO2、Na2O、及びCaOを主成分とするソーダライムガラス、SiO2、Al2O3、及びR1 2O(式中、R1は、K、Na、又はLiを示す。)で表される酸化物を主成分とするアルミノシリケートガラス、ボロシリケートガラス、Li2O−SiO2系ガラス、Li2O−Al2O3−SiO2系ガラス、R2O−Al2O3−SiO2系ガラス(式中、R2は、Mg、Ca、Sr、又はBaを示す。)等が挙げられる。より具体的には、例えば、ガラス組成が、SiO2が55〜75質量%、Al2O3が5〜18質量%、Li2Oが1〜10質量%、Na2Oが3〜15質量%、K2Oが0.1〜5質量%、MgOが0.1〜5質量%、CaOが0.1〜5質量%であるもの等が挙げられる。これらの中でも、アルミノシリケートガラス、及びボロシリケートガラスが、耐衝撃性や耐振動性に優れる点で好ましい。また、原料ガラスの溶融方法としては、特に限定されず、通常は上記ガラス素材を公知の温度、時間にて高温で溶融する方法を採用することができる。
前記成形工程は、溶融ガラスを円盤状のガラス素板に形成することができれば、特に限定されない。具体的には、溶融ガラスをプレス成形により、円盤状のガラス素板を形成するプレス工程等が挙げられる。また、前記成形工程は、プレス工程に限らず、例えば、ダウンドロー法やフロート法等で形成したシートガラスを研削砥石で切り出して、円盤状のガラス素板を作製する工程であってもよい。なお、フロート法とは、例えば、ガラス素材を溶融させた溶融液を、溶融したスズの上に流し、そのまま固化させる方法である。得られたガラス素板は、一方の面がガラスの自由表面であり、他方の面が、ガラスとスズとの界面であるため、平滑性の高い、例えば、算術平均粗さRaが0.001μm以下の鏡面を備えたものとなる。また、ガラス素板の厚みとしては、例えば、0.95mmのものが挙げられる。なお、ガラス素板やガラス基板の表面粗さ、例えばRaやRmaxは、一般的な表面粗さ測定機を用いて測定することができる。
また、前記コアリング加工工程は、前記成形工程で形成された円盤状のガラス素板の中心部に貫通孔10aを形成するコアリング加工を施す工程である。そうすることによって、図5に示すような、中心部に貫通孔10aが形成された円盤状のガラス素板10が得られる。コアリング加工は、ガラス素板の中心部に貫通孔を形成する穴あけ加工であれば、特に限定されない。例えば、カッター部にダイヤモンド砥石等を備えたコアドリルや、円筒状のダイヤモンドドリル等で研削することで、ガラス素板の中心部に貫通孔を形成させる方法等が挙げられる。そうすることで、ガラス素板の中心部に貫通孔を形成され、平面視で円環状のガラス素板が得られる。
前記円盤加工工程によって、例えば、外径r1が2.5インチ(約64mm)、1.8インチ(約46mm)、1インチ(約25mm)、0.8インチ(約20mm)等で、厚みが2mm、1mm、0.63mm等の円盤状のガラス素板が得られる。また、外径r1が2.5インチ(約64mm)のときは、例えば、内径r2が0.8インチ(約20mm)等に加工される。
前記熱処理工程(アニール工程)は、前記ガラス素板の形状を整えるための工程である。具体的には、ガラス基板熱処理用セッタに、ガラス素板を載置した状態で、加熱炉に収納し、前記ガラス素板を熱処理する工程等が挙げられる。
前記研削工程(ラッピング工程)は、前記ガラス素板を所定の板厚に加工する工程である。具体的には、例えば、ガラス素板の両面を研削(ラッピング)加工する工程等が挙げられる。そうすることによって、ガラス素板の平行度、平坦度及び厚みを調整する。また、このラッピング工程は、1回であってもよいし、2回以上であってもよい。例えば、2回行う場合、1回目のラッピング工程(第1ラッピング工程)で、ガラス素板の平行度、平坦度及び厚みを予備調整し、2回目のラッピング工程(第2ラッピング工程)で、ガラス素板の平行度、平坦度及び厚みを微調整する。また、研削工程を2回行う場合、第1ラッピング工程と第2ラッピング工程とを連続で行ってもよいが、これらの工程の間に、後述する、内外研削工程、及び端面研磨工程を行ってもよい。
また、研削工程で用いる研削装置は、情報記録媒体用ガラス基板の製造方法における研削工程で用いる研削装置として用いることができるものであれば、特に限定されない。具体的には、前記研磨工程で用いる研磨装置と同様のものであって、研磨パッドの代わりに、固定砥粒としてダイヤモンドを使用した樹脂シート(研削シート)を用いたものが挙げられる。また、前記第1ラッピング工程としては、ガラス素板の表面全体が略均一の表面粗さとなるようにした工程等が挙げられる。
また、前記第2ラッピング工程としては、大きなうねり、欠け、ひび等の欠陥を除去したガラス素板が得られるようにした工程等が挙げられる。
前記内外研削工程は、ガラス素板の外周端面及び内周端面を研削する工程である。具体的には、鼓状のダイヤモンド砥石等の研削砥石により、ガラス素板の外周端面および内周端面を研削する工程等が挙げられる。
前記端面研磨工程は、ガラス素板の外周端面及び内周端面を研磨する工程である。具体的には、前記内外研削工程を施したガラス素板を複数枚、例えば、100枚程度積み重ねて積層し、その状態で外周端面及び内周端面の研磨加工を、端面研磨機を用いて研磨する工程等が挙げられる。
前記化学強化工程は、特に限定されず、具体的には、ガラス素板を化学強化液(強化処理液)に浸漬して、ガラス素板に化学強化層を形成する工程等が挙げられる。このような工程を施すことによって、ガラス素板の表面、例えば、ガラス素板表面から5μmの領域に化学強化層を形成することができる。そして、化学強化層を形成することで耐衝撃性、耐振動性及び耐熱性等を向上させることができる。
より詳しくは、化学強化工程は、加熱された化学強化処理液にガラス素板を浸漬させることによって、ガラス素板に含まれるリチウムイオンやナトリウムイオン等のアルカリ金属イオンをそれよりイオン半径の大きなカリウムイオン等のアルカリ金属イオンに置換するイオン交換法によって行われる。イオン半径の違いによって生じる歪みにより、イオン交換された領域に圧縮応力が発生し、ガラス素板の表面が強化される。すなわち、この化学強化工程により、ガラス素板に強化層が好適に形成されると考えられる。
化学強化処理液としては、磁気情報記録媒体用ガラス基板の製造方法における化学強化工程で用いられる化学強化処理液であれば、特に限定されない。具体的には、例えば、カリウムイオンを含む溶融液、及びカリウムイオンやナトリウムイオンを含む溶融液等が挙げられる。
これらの溶融液としては、例えば、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、炭酸カリウム、及び炭酸ナトリウム等を溶融させて得られた溶融液等が挙げられる。この中でも、硝酸カリウムを溶融させて得られた溶融液と硝酸ナトリウムを溶融させて得られた溶融液とを組み合わせて用いることが、融点が低く、ガラス素板の変形を防止する観点から好ましい。その際、硝酸カリウムを溶融させて得られた溶融液と硝酸ナトリウムを溶融させて得られた溶融液とを、ほぼ同量ずつの混合させた混合液であることが好ましい。
前記洗浄工程は、ガラス素板を洗浄する工程である。洗浄工程は、各工程の後に適宜行うことが好ましい。また、前記洗浄工程のうち、前記研磨工程により研磨されたガラス基板を洗浄する最終洗浄工程としては、例えば、スクラブ洗浄が挙げられる。スクラブ洗浄とは、湿式の物理洗浄方法であり、ガラス基板の表面に洗浄液を供給しながら、スクラブ部材をガラス基板に押圧した状態で、スクラブ部材とガラス基板とを相対的に移動させる方法である。そうすることで、ガラス基板の表面上の汚れをこすり取ることができる。また、このスクラブ洗浄を行う装置(スクラブ洗浄装置)としては、情報記録媒体用ガラス基板をスクラブ洗浄できる装置であれば、特に限定されない。具体的には、スクラブ部材が円筒形のロールスクラブであるロールスクラブ洗浄装置や、スクラブ部材がカップ型のカップスクラブ洗浄装置等が挙げられる。
また、この最終洗浄工程等の洗浄工程を施す前のガラス素板やガラス基板は、表面への異物が付着されることを防止するために、ガラス素板やガラス基板を液体と接触させておくことが好ましい。
また、最終洗浄工程としては、スクラブ洗浄をした後、超音波による洗浄を行うことが好ましい。
また、最終洗浄後は、ガラス基板を乾燥させる。その乾燥方法としては、例えば、IPA蒸気による乾燥、スピン乾燥、及び温水乾燥等が挙げられる。
本実施形態に係る情報記録媒体用ガラス基板の製造方法は、例えば、この最終洗浄後のガラス基板に対して、前記検査工程を行う。
次に、本実施形態に係る情報記録媒体用ガラス基板の製造方法により製造された情報記録媒体用ガラス基板を用いた磁気記録媒体について説明する。
図6は、本実施形態に係る情報記録媒体用ガラス基板の製造方法により製造された情報記録媒体用ガラス基板を用いた磁気記録媒体の一例である磁気ディスクを示す一部断面斜視図である。この磁気ディスクDは、円形の情報記録媒体用ガラス基板101の主表面に形成された磁性膜102を備えている。磁性膜102の形成には、公知の常套手段による形成方法が用いられる。例えば、磁性粒子を分散させた熱硬化性樹脂を情報記録媒体用ガラス基板101上にスピンコートすることによって磁性膜102を形成する形成方法(スピンコート法)や、情報記録媒体用ガラス基板101上にスパッタリングによって磁性膜102を形成する形成方法(スパッタリング法)や、情報記録媒体用ガラス基板101上に無電解めっきによって磁性膜102を形成する形成方法(無電解めっき法)等が挙げられる。磁性膜102の膜厚は、スピンコート法による場合では、約0.3〜1.2μm程度であり、スパッタリング法による場合では、約0.04〜0.08μm程度であり、無電解めっき法による場合では、約0.05〜0.1μm程度である。薄膜化および高密度化の観点から、スパッタリング法による膜形成が好ましく、また、無電解めっき法による膜形成が好ましい。
磁性膜102に用いる磁性材料は、公知の任意の材料を用いることができ、特に限定されない。磁性材料は、例えば、高い保持力を得るために結晶異方性の高いCoを基本とし、残留磁束密度を調整する目的でNiやCrを加えたCo系合金等が好ましい。より具体的には、Coを主成分とするCoPt、CoCr、CoNi、CoNiCr、CoCrTa、CoPtCr、CoNiPt、CoNiCrPt、CoNiCrTa、CoCrPtTa、CoCrPtB、CoCrPtSiO等が挙げられる。磁性膜102は、ノイズの低減を図るために、非磁性膜(例えば、Cr、CrMo、CrV等)で分割された多層構成(例えば、CoPtCr/CrMo/CoPtCr、CoCrPtTa/CrMo/CoCrPtTa等)であってもよい。磁性膜102に用いる磁性材料は、上記磁性材料の他、フェライト系や鉄−希土類系であってもよく、また、SiO2、BN等からなる非磁性膜中にFe、Co、FeCo、CoNiPt等の磁性粒子を分散した構造のグラニュラー等であってもよい。また、磁性膜102への記録には、内面型および垂直型のいずれかの記録形式が用いられてよい。
また、磁気ヘッドの滑りをよくするために、磁性膜102の表面には、潤滑剤が薄くコーティングされてもよい。潤滑剤として、例えば液体潤滑剤であるパーフロロポリエーテル(PFPE)をフレオン系などの溶媒で希釈したものが挙げられる。
さらに必要により磁性膜102に対し下地層や保護層が設けられてもよい。磁気ディスクDにおける下地層は、磁性膜102に応じて適宜に選択される。下地層の材料として、例えば、Cr、Mo、Ta、Ti、W、V、B、Al、Ni等の非磁性金属から選ばれる少なくとも一種以上の材料が挙げられる。例えば、Coを主成分とする磁性膜102の場合には、下地層の材料は、磁気特性向上等の観点からCr単体やCr合金であることが好ましい。また、下地層は、単層とは限らず、同一または異種の層を積層した複数層構造であってもよい。このような複数層構造の下地層は、例えば、Cr/Cr、Cr/CrMo、Cr/CrV、NiAl/Cr、NiAl/CrMo、NiAl/CrV等の多層下地層が挙げられる。磁性膜102の摩耗や腐食を防止する保護層として、例えば、Cr層、Cr合金層、カーボン層、水素化カーボン層、ジルコニア層、シリカ層等が挙げられる。これら保護層は、下地層および磁性膜102と共にインライン型スパッタ装置で連続して形成することができる。また、これら保護層は、単層としてもよく、あるいは、同一または異種の層からなる複数層構成であってもよい。なお、上記保護層上に、あるいは、上記保護層に代えて、他の保護層が形成されてもよい。例えば、上記保護層に代えて、Cr層の上にSiO2層が形成されてもよい。このようなSiO2層は、Cr層の上にテトラアルコキシシランをアルコール系の溶媒で希釈した中に、コロイダルシリカ微粒子を分散して塗布し、さらに焼成することによって形成される。
このような本実施形態における情報記録媒体用ガラス基板101を基体とした磁気記録媒体は、情報記録媒体用ガラス基板101が上述した組成により形成されるので、情報の記録再生を長期に亘り高い信頼性で行うことができる。
なお、上述では、本実施形態における情報記録媒体用ガラス基板101を磁気記録媒体(磁気ディスク)に用いた場合について説明したが、これに限定されるものではなく、本実施形態における情報記録媒体用ガラス基板101は、光磁気ディスクや光ディスク等にも用いることが可能である。
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
まず、原料ガラスを溶融させ、公知の方法より、得られた溶融ガラスをプレス成形して円盤状のガラス素板(ブランクス)を得た。得られたガラス素板に対して、公知の方法により、熱処理工程、粗研磨工程、第1精密研磨工程、化学強化工程、第2精密研磨工程、洗浄工程を施し、情報記録媒体用ガラス基板を製造した。その際、研磨工程、例えば第2精密研磨工程での研磨条件を種々変更して、微小うねりが異なる情報記録媒体用ガラス基板を複数枚製造した。
[実施例]
この複数枚の情報記録媒体用ガラス基板に対して、レーザドップラ振動計を備えた光学表面検査装置(Polytec社製のAVT−1000)を用いて、所定の半径位置の一周分の微小うねりに関するデータを取得した。そして、そのデータを、波長領域20〜90μmとして解析した測定値の1周分の平均値を得た。
そして、各情報記録媒体用ガラス基板の表面上に、公知の方法により、磁性膜を形成した。そうすることにより、情報記録媒体である磁気ディスクが得られた。そして、得られた磁気ディスクを、ハードディスクドライブ装置に設置した。そして、磁気ディスクと磁気ヘッドとの距離が徐々に狭くなるようにして、タッチダウンハイトを測定した。
得られた、波長領域20〜90μmとして解析した測定値の1周分の平均値と、タッチダウンハイトとの関係を検討した。その関係を示すグラフを、図2に示す。
図2からわかるように、波長領域20〜90μmとして解析することによって、その解析により得られた測定値の1周分の平均値は、タッチダウンハイトと高い相関性を示すことがわかった。このことから、波長領域20〜90μmとして解析した測定値の1周分の平均値が小さいガラス基板を選定すれば、タッチダウンハイトの低減を実現可能なガラス基板を選定できることがわかった。
[比較例]
これに対して、波長領域80〜150μmとして解析した測定値の1周分の平均値を得た。そして、実施例と同様の方法で、情報記録媒体である磁気ディスクを得、タッチダウンハイトを測定した。
そして、得られた、波長領域80〜150μmとして解析した測定値の1周分の平均値と、タッチダウンハイトとの関係を検討した。その関係を示すグラフを、図3に示す。
図3からわかるように、波長領域20〜90μmとして解析した場合以外であれば、測定値の1周分の平均値と、タッチダウンハイトとの相関性が、波長領域20〜90μmとして解析した場合と比較して低いことがわかった。すなわち、図3に示す線形近似線からのばらつきが大きいことがわかった。例えば、波長領域80〜150μmとして解析した場合、図3に示すように、得られた平均値が0.020nm以下のものを選定したとしても、前記相関性が低いため、タッチダウンハイトが充分に低いものもあれば、4nmを超えるものもある。このことから、波長領域80〜150μmとして解析した場合、タッチダウンハイトの低減を実現可能なガラス基板を選定することが困難であることがわかった。