次に、図面を参照して、本発明の第1乃至第8の実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。又、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることはもちろんである。
又、以下に示す第1乃至第8の実施形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の実施形態は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。この発明の実施形態は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態に係る半導体装置10は、図1に示すように、ユニポーラ動作する還流ダイオード100と、少なくともキャパシタ210及び抵抗220を有してスナバ機能を有するように構成され、還流ダイオード100と並列接続されて還流ダイオード100に隣接して配置された半導体スナバ回路200とを備える。
還流ダイオード100と半導体スナバ回路200は、アノード端子300とカソード端子400間に並列接続されている。即ち、還流ダイオード100のアノードとカソードが、それぞれアノード端子300とカソード端子400に接続されている。還流ダイオード100はユニポーラ動作と同等の動作をする還流ダイオードを含む。キャパシタ210と抵抗220は、少なくとも直列接続していれば複数の部分に分割されて形成されていても良いし、例えば交互に形成されていても良い。
以下では、半導体スナバ回路200が、キャパシタ210と抵抗220を直列接続したいわゆるRCスナバ回路とした場合について説明する。図1においては、半導体スナバ回路200の構成として、アノード端子300にキャパシタ210が接続し、カソード端子400に抵抗220が接続する場合を示している。しかし、図2に示すように、アノード端子300に抵抗220が接続し、カソード端子400にキャパシタ210が接続していてもよい。
第1の実施形態では、一例として、還流ダイオード100と半導体スナバ回路200を別の半導体チップとして形成した場合について説明する。また、第1の実施形態においては、半導体装置10を大電流用途に用いた場合について説明することとし、還流ダイオード100を構成するチップが複数ある場合について説明する。
キャパシタ210はアノード端子300に接続され、抵抗220はカソード端子400に接続される。第1の実施形態では、半導体スナバ回路200が、例えばシリコンを半導体基体材料とし、且つ、アノード端子300に接続する電極とカソード端子400に接続する電極とが互いに対面するように形成された、いわゆる縦型の半導体チップである場合について説明する。
また、還流ダイオード100が、例えば炭化珪素を半導体基体材料としたショットキーバリアダイオードであるとする。このショットキーバリアダイオードについても、アノード端子300に接続する電極とカソード端子400に接続する電極とが互いに対面するように形成された、いわゆる縦型のショットキーバリアダイオードを一例として説明する。なお、例えば、PN接合ダイオードの構造であっても、導通時にP型領域から注入される過剰キャリアの主成分である少数キャリアのライフタイムを制御することにより、ユニポーラ動作と同等の動作を行うため、バイポーラ型ダイオードであっても、ユニポーラ動作と同等の特性を有するダイオードについても、本発明で説明されるユニポーラ動作するダイオードに含まれるものとする。
図3は、図1で示した還流ダイオード100(例えば炭化珪素ショットキーバリアダイオード)と半導体スナバ回路200(例えばシリコン半導体RCスナバ回路)からなる半導体装置10の具体的な実装形態の例である。
図3においては、半導体装置10が実装される半導体パッケージの一例として、絶縁基板500上に、例えば銅やアルミニウム等の金属材料からなるアノード側の金属膜310とカソード側の金属膜410が形成されたセラミック基板を配置した場合を示している。絶縁基板500は、例えばセラミック板等で形成された絶縁性を有し、且つ支持体としての機能を有する。
上記セラミック基板上に、還流ダイオード100の配置された2つの半導体チップ(図中、符号100で示す。)と半導体スナバ回路200の配置された半導体チップ(図中、符号200で示す。)が配置される。ここで、カソード端子400に接続する還流ダイオード100と半導体スナバ回路200のカソード端子は、例えば半田やろう材等の接合材料を介して金属膜410と電気的に接続するように配置される。そして、アノード端子300に接続する還流ダイオード100と半導体スナバ回路200のアノード端子は、例えばアルミニウムワイヤやアルミニウムリボン等の金属配線320、330を介して、金属膜310に接続される。金属膜410はカソード端子400に接続し、金属膜310はアノード端子300に接続する。
上記のように、図3に示した本発明の第1の実施形態に係る半導体装置10では、還流ダイオード100を複数備え、還流ダイオード100間にスナバ回路200の少なくとも一部が配置されている。
図3に示した半導体パッケージは、放熱性を向上し安定的に性能を発揮するために、例えば図4に示すような実装構造体に組み込まれる。図3では、絶縁基板500より上側の構造について例示したが、図3のIV−IV方向に沿った断面図である図4は、実装構造の一例を示す。
図4に示すように、絶縁基板500の裏面側には、例えばアノード側の金属膜310やカソード側の金属膜410と同様の金属膜からなる裏面金属膜1000が形成されている。裏面金属膜1000は、例えば半田やろう材等の接合材料を介して、例えば銅やアルミニウム等の金属材料からなるベースプレート1100上に形成されている。ベースプレート1100は半導体パッケージの支持構造体としての機能と熱伝導の機能を有するのが好ましい。更に、還流ダイオード100や半導体スナバ回路200で発生した熱を速やかに放熱できるように、ベースプレート1100は冷却構造体1200と接触している。なお、ベースプレート1100と冷却構造体1200は直接に接していても良いし、例えば、密着性を上げ、熱伝達をより高めるために、シリコングリース等の密着材料を介して接していても良い。冷却構造体1200によって放熱する方式は大まかに2つあり、空気の気流によって放熱する空冷式と、水や油等の液体の水流によって放熱する水冷式とがある。図4には、冷却構造体1200の所定部に水流路1300が形成された水冷式の冷却構造の例を示している。第1の実施形態における放熱方式は、水冷式の冷却構造に限定されることなく、空冷式の冷却構造であってもよいことはもちろんである。
図5及び図6に、還流ダイオード100及び半導体スナバ回路200をそれぞれ構成する半導体チップの断面構造図の一例を示す。
図5に示す還流ダイオード100は、例えば炭化珪素のポリタイプが4HタイプのN+型である基板領域1上に、N-型のドリフト領域2が形成された基板材料で構成されている。基板領域1としては、例えば抵抗率が数mΩcm〜数十mΩcm、厚さが数十〜数百μm程度の一般的な低抵抗基板を用いることができる。なお、素子構造や所要の耐圧により、抵抗率や厚みが上記範囲外となってもよいが、一般に抵抗率及び厚みが小さいほうが導通時の損失を低減できるため、可能な限り抵抗率及び厚みが小さいことが好ましい。ドリフト領域2は、例えばN型の不純物密度が1015cm-3〜1018cm-3、厚みが0.1μm〜数十μmである。なお、ドリフト領域2に関しても、素子構造や所要の耐圧により、不純物密度や厚みが上記範囲外となってもよい。
第1の実施形態では、不純物密度が1016cm-3、厚みが5μmで耐圧が600Vクラスのドリフト領域2を採用した場合を説明する。ただし、耐圧は600Vクラスに限定されるものではない。図5では、基板が基板領域1とドリフト領域2の二層からなる場合を示したが、抵抗率の大きさが上記の一例にはよらない基板領域1のみで形成された基板を使用してもよいし、多層の基板を使用してもよい。なお、基板材料を炭化珪素材料で形成した場合を説明しているが、シリコン等の他の半導体材料で構成されていてもよい。
ドリフト領域2の基板領域1との接合面に対向する主面上に表面電極3が形成される。更に、表面電極3に対向し、基板領域1のドリフト領域2との接合面に対向する主面上に裏面電極4が形成されている。
表面電極3は、ドリフト領域2との間にショットキー障壁を形成する金属材料を少なくとも含む単層若しくは多層の金属材料から構成される。ショットキー障壁を形成する金属材料は、例えば、チタン、ニッケル、モリブデン、金、白金等である。また、表面電極3はアノード端子300として外部電極と接続するため、表面電極3の最表面にアルミニウム、銅、金、ニッケル、銀等の金属材料を用いた多層構造としてもよい。
一方、裏面電極4は基板領域1とオーミック接続する電極材料から構成されている。基板領域1とオーミック接続する電極材料の一例としてはニッケルシリサイドやチタン材料等が挙げられ、更に、裏面電極4はカソード端子400として外部電極と接続をするために、最表面にアルミニウム,銅,金,ニッケル,銀等の金属材料を用いて多層構造としてもよい。このように、図5に示す還流ダイオード100は、表面電極3がアノード端子、裏面電極4がカソード端子であるダイオードとして機能する。
図6は、半導体スナバ回路200の断面構造図の一例である。図6において、例えばシリコンのN-型である基板領域11上に、例えばシリコン酸化膜等の誘電材料からなる誘電領域12が形成されている。図6に示した構造において、基板領域11は抵抗220として機能し、誘電領域12はキャパシタ210として機能する。基板領域11について、必要な抵抗値の大きさに応じて、基板の抵抗率や厚みを決定することができる。例えば、抵抗率が数mΩcmから数百Ωcm、厚さが数十μm〜数百μm程度の基板を用いる。第1の実施形態においては、少なくとも還流ダイオード100に含まれる抵抗値よりも大きくなるように、例えば、抵抗率が100Ωcmで厚さが300μmの基板領域11を用いた場合で説明する。なお、第1の実施形態においては、基板領域11が単一の抵抗率を有するように形成された場合を例示しているが、基板領域11が異なる抵抗率をそれぞれ有する複数の部分から構成されていてもよい。また、第1の実施形態においては、基板領域11の導電型をN型としているがP型でもよい。
誘電領域12については、必要な耐圧並びに必要なキャパシタ容量の大きさに応じて、厚みや面積が決定される。耐圧については、誘電領域12の破壊防止のため、還流ダイオード100よりも高いことが好ましい。また、キャパシタ210の静電容量については、還流ダイオード100が遮断状態時(高電圧印加時)に生じる空乏層による容量に対して、100分の1程度〜100倍ぐらいの範囲で選ぶことができる。十分なスナバ機能を発揮し、且つ損失の増加を極力抑えるために必要なチップ面積を考慮すると、後述する計算結果が示すように、概ね10分の1程度〜10倍程度の範囲が好ましい。
第1の実施形態においては、還流ダイオード100よりも耐圧が高くなるように誘電領域12の厚みは1μmとし、キャパシタ210の静電容量が還流ダイオード100の遮断状態時に形成される空乏層容量と同程度である場合について説明する。なお、誘電領域12は、シリコン酸化膜以外の材料でも、所定の耐圧を有し、かつキャパシタ210として機能する誘電材料であればどのような材料でもよいが、絶縁破壊電界と比誘電率との積の値がシリコン酸化膜の値よりも大きい材料であれば、更によい。
このような材料を用いた場合には、誘電領域12の絶縁耐圧を維持しつつ、少ない面積で必要な静電容量を得ることができる。例えば、一般的なシリコン酸化膜の物性値として絶縁破壊電界を1×109V/mとし、比誘電率を3.9とした場合、シリコン酸化膜の厚みが1μmの場合に1cm2当たりの静電容量は約3.4nF程度である。これに対して、シリコン酸化膜の代わりに窒化シリコン(Si3N4)膜を誘電領域12に用いた場合、絶縁破壊電界を1×109V/mとし、比誘電率を7.5とすると、厚みが1μmでシリコン酸化膜と同等の耐圧を確保することができる。このとき、Si3N4膜を用いた場合の1cm2当たりの静電容量は6.6nF程度になる。
上記のように、Si3N4膜を用いた場合には、シリコン酸化膜を用いた場合に比べて静電容量を約2倍程度大きくでき、誘電領域12の絶縁耐圧を維持しつつ、より大きな静電容量を得ることができる。したがって面積効率が向上し、ウェハコストを低減することができる。この効果は誘電材料の絶縁破壊電界と比誘電率との積で比較することができ、シリコン酸化膜の値はSi3N4膜の値の約2倍程度である。更に、誘電領域の材料がBaTiO3のような強誘電体であれば、この値がシリコン酸化膜の約13倍となり、より少ない面積にすることができる。他にも強誘電体膜としては、Pb(Zr,Ti)O3やSrBi2Ta2O9やTi4Ti3O12があるが、絶縁破壊電界と比誘電率の積がシリコン酸化膜の値よりも大きければ、いずれを誘電領域12の材料としてもよい。また、誘電領域12は単一の誘電材料とは限らず複数の誘電材料を積層したものを用いてもよい。例えば図7に示すような、Si3N4膜をシリコン酸化膜で挟んだONO構造では、Si3N4膜でのリーク電流をシリコン酸化膜により最小限にすることができる。
第1の実施形態においては、後述するように、還流ダイオード100として例えばショットキーバリアダイオードを用いた場合に、ユニポーラ動作によって本質的に発生する電流・電圧の振動現象に対して、静電容量が小さく小サイズのキャパシタ210と抵抗220を有する半導体スナバ回路200を並列接続することで、容易且つ効果的に振動現象を抑制できる。即ち、バイポーラ動作するダイオードの振動低減用にスナバ回路として従来から用いられている、メイン電流が流れる経路にフィルムコンデンサやメタルクラッド抵抗等の外付けのディスクリート部品を配線する手法を用いる必要がない。
また、効果的にスナバ機能を発揮する設計式として、C=1/(2πfR)の関係式が一般的に知られている。ここで、キャパシタ210の静電容量値をC、抵抗220の抵抗値をR、振動現象の周波数をfである。第1の実施形態においては、上記の設計式を満たすように、静電容量の小さい半導体スナバ回路200を用いてキャパシタ210と抵抗220を容易に設定することができる。
更に、誘電領域12上に表面電極13が形成され、表面電極13に対向して、基板領域11上に裏面電極14が形成されている。表面電極13は、アノード端子として外部電極と接続するため例えば金属材料で形成されており、最表面にアルミニウム、銅、金、ニッケル、銀等の金属材料を用いた単層構造若しくは多層構造である。同様に、裏面電極14についても、カソード端子として外部電極と接続するため例えば金属材料で形成されており、最表面にアルミニウム、銅、金、ニッケル、銀等の金属材料を用いた単層構造若しくは多層構造である。このように、図6に示す半導体スナバ回路200は、表面電極13が図5に示す還流ダイオード100のアノード端子に接続し、裏面電極14が図5に示す還流ダイオード100のカソード端子に接続する、半導体RCスナバ回路として機能する。
次に、第1の実施形態の動作について説明する。
本発明の第1の実施形態に係る半導体装置10は、例えば図8及び図9に示す電力エネルギーの変換手段の1つとして一般的に使用されるコンバータ(図8)やインバータ(図9)等の電力変換装置において、例えば400Vの電源電圧(+V)に対して逆バイアス接続になるように接続され、電流を還流する受動素子として使用される。図8及び図9において受動素子として機能する半導体装置10について、電力変換装置に要求される電力容量若しくは電流容量に応じて、チップサイズやチップ数を決めることができ、これにより高性能・小サイズ・低コストを兼ね備えた電力変換装置を実現するのが好ましい。
半導体装置10の動作モードは、MOSFETやIGBT等のスイッチング素子Sのスイッチング動作に連動して、電流を遮断する遮断状態から電流を還流する導通状態へ、そして導通状態から遮断状態へと動作する。電力変換装置においては、スイッチング素子Sと同様に、電流を還流する受動素子に対しても低損失でかつ誤動作等が起こりにくい安定動作が求められる。図8のコンバータ回路を一例として動作を説明する。なお、図8中のスイッチング素子Sは例えばIGBTで構成されている。以下では、高い電流容量を必要とされるため、還流ダイオード100を構成するチップが図3に示したように2チップである場合について説明する。
スイッチング素子Sがオンし、スイッチング素子Sに電流が流れている状態においては、受動素子である半導体装置10は逆バイアス状態となり遮断状態になる。図5に示した還流ダイオード100(ここでは、ショットキーバリアダイオード)では、アノード端子300とカソード端子400間に逆バイアス電圧が印加されるため、ドリフト領域2中に表面電極3とのショットキー接合部から伸びた空乏層が生じて、遮断状態が維持される。また、図6に示した半導体スナバ回路200においては、キャパシタ210として機能する誘電領域12が高電圧により充電された状態になっており、遮断状態を維持する。このように、遮断状態においては、半導体装置10がショットキーバリアダイオードのみで構成されている場合と同様に機能する。
次に、スイッチング素子Sがオフすると、スイッチング素子Sがオフ状態に移行するのに連動して、半導体装置10は順バイアス状態となって導通状態に移行する。図5に示した還流ダイオード100のドリフト領域2中に広がっていた空乏層が後退し、表面電極3とドリフト領域2との間に形成されているショットキー接合部にショットキー障壁高さに応じた順バイアス電圧が印加されると、還流ダイオード100は導通状態となる。このとき、還流ダイオード100に流れる電流は、裏面電極4側からドリフト領域2中に供給される電子による電子電流のみでほぼ構成されており、ユニポーラ動作をする。また、図6に示した半導体スナバ回路200においても、還流ダイオード100と同様に、高電圧の逆バイアス状態から低電圧の順バイアス状態に移行するため、誘電領域12に充電されていた電荷が放電され、過渡電流が流れる。
しかしながら、第1の実施形態に係る半導体装置10では、誘電領域12のキャパシタ容量が、還流ダイオード100の遮断時に形成される空乏容量と同程度であって非常に小さい。このため、放電によって流れる過渡電流の大きさは、並列する還流ダイオード100に流れる順バイアス電流に比べて非常に小さく、動作にはほとんど影響しない。そして、半導体スナバ回路200は、バイアス電圧の変化に伴う過渡電流が流れた後は、順バイアス状態となり定常状態に移行するため遮断状態となり、還流ダイオード100のみが導通状態となる。還流ダイオード100が炭化珪素材料の半導体基体からなるショットキーバリアダイオードで構成されている場合、一般的なシリコン材料からなるPN接合ダイオードに比べて、ドリフト領域2の抵抗をより低く形成することができ、導通損失を低減できる。
しかし、この導通時に、還流ダイオード100は電流の大きさに応じて定常導通損失が発生する。この定常導通損失は熱として発生し、その熱は、半導体チップそのもの、もしくは半導体パッケージ全体、更には電力変換装置全体の性能低下につながる。それは、熱の上昇に伴う性能劣化であったり、耐熱温度を超えることによる破壊であったりする。このため、半導体素子から発生した熱を速やかに放熱するための冷却装置が用いられる。
図4に例示した実装構造においては、還流ダイオード100で発生した熱は、カソード側の金属膜410、絶縁基板500、裏面金属膜1000、ベースプレート1100、冷却構造体1200を介して、放熱部である水流路1300の流体に放熱される。この放熱部にあたる水流路1300までの放熱性が良いほど、還流ダイオード100の損失の増加に伴う還流ダイオード100の温度の上昇が抑えられる。つまり、還流ダイオード100の最大温度を所定の温度に制限した場合、放熱性が良いほど、還流ダイオード100の損失を許容でき、即ち、より大きな電流密度で電流を流すことができる。このことから、放熱性が高いほど、還流ダイオード100の最大使用電流の制限を大きくすることができる。
ここで、還流ダイオード100の配置された半導体チップから、冷却構造体1200の放熱部である水流路1300までの距離を放熱距離tとし、還流ダイオード100の配置された半導体チップ同士の間隔をチップ間距離dとする。放熱距離tは小さいほど放熱性能が高まり、また放熱距離tの間に配置される構造材料の熱抵抗特性が小さいほど放熱性能が高まる。一方、半導体チップから発生する熱が互いに干渉しなくなる距離までは、チップ間距離dが大きいほど放熱性が高まる。しかし、チップ間距離dが大きいほど実装面積が増えてしまうので、小型化・低コスト化の面では不利になる。一般に、所定の熱源からの熱の拡散は45度の角度で広がると近似することができるため、概ね放熱距離tに対してチップ間距離dが約2倍以上となれば、各熱源間の熱の干渉が起こりにくい。
第1の実施形態においては、実装面積を無駄に増やさずに、還流ダイオード100の配置された半導体チップ(還流ダイオードチップ)を複数有する半導体装置10の放熱性を向上するチップ実装配置を実現している。上述したように、還流ダイオードチップは、ターンオン時及び定常導通時に相応の損失が生じ発熱する。一方、半導体スナバ回路200は、還流ダイオード100に比べてターンオン時の過渡動作時の損失が小さく、且つ定常導通時にはほとんど損失がないことから、ほとんど発熱しない。
図3及び図4に示すように、2つの還流ダイオードチップの間に半導体スナバ回路200の配置された半導体チップ(スナバチップ)が実装されている。このため、還流ダイオードチップ間の距離を製造バラつきに対応する余裕代のみとした場合、即ち最も高密度な実装の場合にも、熱源となる還流ダイオードチップ同士は、少なくともスナバチップの幅以上に離して実装される。
このため、例えば、スナバチップを還流ダイオードチップ間に実装せずに、どちらかのみに隣接するように実装した場合に比べて、還流ダイオードチップの放熱性を向上することができる。更に、図4に示すように、放熱距離tに対してチップ間距離dの大きさが2倍以上とすれば、熱源である還流ダイオードチップ間の熱の干渉が起こりにくいため、より放熱性能が高まる。このことにより、最小限度の実装面積で高い冷却効率を得ることができる。
このように、第1の実施形態における還流ダイオード100及び半導体スナバ回路200の動作メカニズムにあった実装配置とすることで、本発明の第1の実施形態に係る半導体装置10の性能を更に向上させることができる。
スイッチング素子Sがターンオンし、スイッチング素子Sがオン状態に移行するのに連動して、半導体装置10は逆バイアス状態となり遮断状態に移行する。還流ダイオード100である図5に示すショットキーバリアダイオードでは、裏面電極4側からドリフト領域2中に供給されていた電子電流が順バイアス電圧の低下と共に減少する。そして、順バイアス電圧がショットキー接合部のショットキー障壁高さに応じた電圧以下になり、更には、ショットキー接合部に逆バイアス電圧が印加されはじめると、ドリフト領域2中に表面電極3とのショットキー接合部から伸びた空乏層が広がり、還流ダイオード100は遮断状態に移行する。
この導通状態から遮断状態に移行する際に、還流ダイオード100の素子内部に蓄積されていた過剰キャリアが消滅する過程で過渡的に発生する電流が逆回復電流である。この逆回復電流は、半導体装置10及びスイッチング素子Sに過渡電流として流れ、それぞれの素子において損失(ここでは逆回復損失と呼ぶ)が発生する。このことから、還流ダイオード100で発生する逆回復電流は極力小さいほうがよい。
炭化珪素からなる半導体材料で形成したユニポーラ動作するショットキーバリアダイオードで還流ダイオード100を形成した場合、一般的なシリコンで形成されたPN接合ダイオードに比べるとこの逆回復電流は格段に小さい。つまり、逆回復損失を大幅に低減することができる。この逆回復損失の違いは、以下のようにショットキーバリアダイオードとPN接合ダイオードとの遮断・導通のメカニズムの違いで説明することができる。
一般的なシリコンで形成されたPN接合ダイオードでは、順バイアス導通時に少数キャリア注入によるドリフト領域の伝導度変調効果がある。このため、導通損失を極力低減しつつ耐圧を確保するために、ドリフト領域の厚みを小さく、且つ、不純物濃度を低く形成するのが一般的である。そして、例えば耐圧が600VクラスのPN接合ダイオードを実現しようとすると、低不純物濃度の実現性の制限から、例えばドリフト領域の不純物密度を1014cm-3程度とした場合、厚みが50μm程度で比較的ドリフト領域の厚い基板を使用する必要がある。導通時には、バイポーラ動作の伝導度変調効果によって、流れる電流の大きさに応じて少数キャリアと多数キャリアがほぼ同等の濃度になるようにドリフト領域に注入されるため、低抵抗を得ることができる。例えば数百A/cm2程度の順バイアス電流が流れた場合、多数キャリア(電子)及び少数キャリア(ホール)の濃度が共に1017cm-3台になる程度までキャリアが注入され、それらが過剰キャリアとなって動作する。
一方、ショットキーバリアダイオードでは、導通時に流れる電流が多数キャリアである電子のみで構成される。このため、遮断状態に移行する際に発生する過剰なキャリアの量自体が、ほぼ還流ダイオード100に空乏層が形成される際に空乏層中から排出されるキャリアの量のみしか発生しない。つまり、例えば耐圧を600Vクラスとして不純物密度が1016cm-3、厚みが5μmのドリフト領域2が全域空乏化した場合にも、上記PN接合ダイオードと単純に比較して、キャリア密度は10分の1、キャリアの分布しているドリフト領域の厚みは10分の1となり、トータルで100分の1程度の過剰キャリアしか発生しない。
以上のように、還流ダイオード100をユニポーラ動作する素子で形成することにより、逆回復電流を大幅に低減し、その結果、逆回復損失を大幅に低減できる。このように、逆回復損失低減の効果は、受動素子がショットキーバリアダイオードのみで構成されている場合と同様の効果を奏する。
更に、第1の実施形態に係る半導体装置10は、受動素子がショットキーバリアダイオードのみで構成されている場合には本質的に解決できなかった、受動素子がユニポーラ動作する場合に生じる逆回復動作時の電流・電圧の振動現象を抑制する機能を有する。
この振動現象は、還流ダイオードが組み込まれたインバータ等の電力変換装置の回路中に生じる寄生インダクタンスLsと、逆回復動作時に還流ダイオードに生じる逆回復電流Irの遮断速度(dIr/dt)との相互作用によってサージ電圧が生じ、このサージ電圧の発生を起点として生じることが一般的に知られている。この電流・電圧の振動現象は、サージ電圧による素子の破壊、振動動作中の損失の増大、周辺の回路の誤動作等を引き起こす。つまり、安定動作の阻害要因となるため、電流・電圧の振動現象を低減することが求められる。振動現象を低減するためには、逆回復動作時の電流の遮断速度(dIr/dt)を緩和することと、更には振動している電流をいち早く減衰し振動を収束させる機構が必要となる。
しかしながら、ユニポーラ動作をするショットキーバリアダイオードのみでは、逆回復電流Irの成分が多数キャリアで構成されているため、過剰キャリアによる逆回復電流Irは大きく減るものの、空乏層の形成速度でほぼ決まる逆回復時間tをほとんど制御できない。このため、電流・電圧に振動現象が生じやすく、その振動も容易に減衰しない。その理由として大きく2つ挙げられる。
1つの理由は、上述したように、ショットキーバリアダイオードにおいては、遮断状態から導通状態に注入される過剰キャリアが、遮断時にドリフト領域中に形成される空乏領域を補充する多数キャリアのみで構成されている点である。つまり、ショットキーバリアダイオードの逆回復電流の遮断速度(dI/dt)はほとんど空乏領域の形成速度にのみ依存し、且つ、少数キャリアがほとんど存在しないため、PN接合ダイオードのようなライフタイム制御法をそのまま用いることはできない。このため、ショットキーバリアダイオードのみを用いる場合、スイッチング素子のスイッチング速度を向上させて過渡損失を低減しようとすると、より激しい振動現象が発生する。つまり、過渡損失の低減と振動現象の抑制にはトレードオフの関係がある。
他の1つの理由は、ショットキーバリアダイオードは導通時にほぼ多数キャリアのみで動作するため、導通時も遮断直前においても、素子内部の抵抗はドリフト領域の厚み及び不純物濃度に応じた抵抗で変わらない点である。上述したように、PN接合ダイオードは、導通時は伝導度変調効果によって低抵抗になるものの、伝導度変調が解除される逆回復動作時にはドリフト領域は高抵抗となり、逆回復電流Irを抵抗制限する機構を有している。これに対して、ショットキーバリアダイオードは、それ自体の抵抗成分は導通時も遮断直前においても低抵抗であり、逆回復電流Irを抵抗制限する機構を有していない。そのため、電流・電圧に振動現象が生じやすく、その振動も容易に減衰しないのである。更に、半導体材料として炭化珪素等のワイドギャップ半導体を用いることにより、素子自体の抵抗が小さいために導通損失を低減できる反面、振動現象がより起きやすい。このため、ショットキーバリアダイオードのみを用いる場合、導通時の損失と振動現象の抑制にトレードオフの関係がある。
これに対して、第1の実施形態に係る半導体装置10によれば、還流ダイオード100と半導体スナバ回路200を並列接続する簡便な構成により、過渡損失及び導通損失を低減しつつ、振動現象を抑制することができる。
即ち、半導体装置10においては、還流ダイオード100において順バイアス電流が減少してゼロになると、ドリフト領域2中に逆バイアス電圧による空乏層が形成され、過剰キャリアで構成される逆回復電流が流れ始める。この逆バイアス電圧が印加されるのとほぼ同時に、半導体スナバ回路200中の誘電領域12からなるキャパシタ210にも同等の逆バイアス電圧が印加され、半導体スナバ回路200中にも相応の過渡電流が流れ始める。この半導体スナバ回路200に流れる過渡電流は、誘電領域12からなるキャパシタ210の大きさと基板領域11の抵抗成分の大きさで決まり、自由に設計することができる。この並列に接続された半導体スナバ回路200の効果は3つある。
第1の効果は、半導体スナバ回路200は電圧の過渡変動がないと動作しないため、スイッチング素子Sのスイッチング速度には影響を与えず、スイッチング速度に依存する損失は従来と同様に低く抑えることができる点である。つまり、還流ダイオード100に流れる順バイアス電流の遮断速度を高速に設定することができるため、メイン電流の遮断に伴う損失を低減できる。第2の効果は、還流ダイオード100が逆回復動作に入ったときに、還流ダイオード100に並列接続された半導体スナバ回路200のキャパシタ成分及び抵抗成分が作用し、逆回復電流の遮断速度(dIr/dt)を緩和することができ、サージ電圧そのものを低減できる点である。第3の効果は、半導体スナバ回路200に流れた電流が基板領域11の抵抗成分により電力消費されるため、寄生インダクタンスLsで生じたエネルギーが吸収され、振動現象が素早く収束される点である。
このように、第1の実施形態に係る半導体装置10は、還流ダイオード100が有する過渡損失及び導通損失を低減する性能を有すると同時に、半導体スナバ回路200を用いることでユニポーラ動作に本質的な振動現象を解消できる。
RCスナバ構成は一般的に知られた回路であるが、スナバ回路を半導体基体上に形成した半導体スナバ回路200は、ユニポーラ動作若しくはユニポーラ動作と同等の動作を有する還流ダイオード100と組み合わせることで、初めてスナバ回路として十分な機能を果たすことができる。従来、インバータ等の電力変換装置に一般的に用いられてきたシリコンからなるPN接合ダイオードについては、電力容量の制限で半導体チップ上にスナバ回路を形成することは事実上困難であった。このため、ディスクリート部品であるフィルムコンデンサ等からなるキャパシタとメタルクラッド抵抗等からなる抵抗を電力変換装置の半導体パッケージの内側或いは外側のメイン電流が流れる経路に配置する必要があった。その理由として、スナバ回路が十分機能を果たすためには、逆回復電流の遮断速度(dIr/dt)を緩和するために、還流ダイオードに流れる逆回復電流と同程度の過渡電流が流れる静電容量を持つキャパシタが必要であること、及び、振動現象を減衰するために、そのキャパシタに流れる電流を電力消費可能な電力容量を有する抵抗が必要であること、が挙げられる。
上述したように、PN接合ダイオードは、還流する電流の大きさによって逆回復電流の大きさが変化し、上記一例ではユニポーラ動作のショットキーバリアダイオードに比べて100倍の逆回復電流が発生する。還流ダイオードに流れる電流密度が更に大きくなったり、耐圧クラスが大きくなったりするほど、導通時に注入される過剰キャリアは増大し、逆回復電流も大きくなる。そのため、還流ダイオードがPN接合ダイオードである場合、キャパシタを半導体チップ上に形成しようとすると、厚みは必要耐圧で制限されることから、ユニポーラ動作する還流ダイオードと比べて単純に計算してキャパシタの面積を100倍にする必要がある。また、抵抗に関しても消費すべき電力が100倍となるため体積を100倍にする必要があり、結果として、スナバ回路に還流ダイオードの100倍のチップサイズが必要となる。このため、電力変換装置におけるスナバ回路を半導体チップで形成することは事実上困難であった。
第1の実施形態においては、還流ダイオード100に流れる過渡電流が、高々ドリフト領域2に空乏層が形成される際に発生するキャリアのみからなる過渡電流であることに着目し、スナバ回路を静電容量の小さい半導体スナバ回路200で形成する点が従来技術と異なる。更に、第1の実施形態で説明した構成により、過渡損失と導通損失を低減する機能と振動現象を抑制する機能の点で、従来技術にはない以下の新たな効果を奏する。
1つの効果は、ユニポーラ動作をする還流ダイオード100に所定のキャパシタ容量及び抵抗値をもつ半導体スナバ回路200を並列接続すると、その還流ダイオード100が動作する全電流範囲、全温度範囲において、スナバ機能が有効に働くということである。上述したように、ショットキーバリアダイオードの逆回復電流は、逆バイアス電圧によって空乏層が生じた際に発生する過剰キャリアのみで構成されている。このため、還流動作時に流れていた電流の大きさによらず、毎回ほぼ一定の逆回復電流が流れる。また同様の理由で、還流ダイオードの動作温度にもほとんど影響を受けず、ほぼ一定の逆回復電流が流れる。このため、全ての電流範囲、温度範囲において、過渡損失を低減し、且つ振動現象を抑制することができる。これらは、一般的なPN接合ダイオードとの組み合わせでは得られない効果である。
他の1つの効果は、スナバ回路を半導体スナバ回路200で形成することで、例えば図3に示すように還流ダイオード100の直近にスナバ回路を低インダクタンスで実装することができ、更に過渡損失を低減し且つ振動現象を抑制できる点である。これは、還流ダイオード100にスナバ回路を並列接続する際に生じる寄生インダクタンスが小さいほど、半導体スナバ回路200に過渡電流が流れやすく、還流ダイオード100に流れる逆回復電流(Ir)の遮断速度(dIr/dt)を緩和しやすくなること、及び、半導体スナバ回路200のキャパシタ210に印加される電圧に重畳される寄生インダクタンスで発生する逆起電力が小さいため、キャパシタ210の耐圧範囲でスイッチング時間を速くできることによる。このことから、第1の実施形態においては、従来のディスクリート部品であるフィルムコンデンサ等からなるキャパシタとメタルクラッド抵抗等からなる抵抗とを用いるスナバ回路の場合に比べて、寄生インダクタンスが低減される。これにより、スイッチング時間を短縮し過渡損失を低減できるとともに、逆回復電流の遮断速度(dIr/dt)を適切に緩和し振動現象を抑制することができる。
また、半導体スナバ回路200を還流ダイオード100の直近に実装することは、不要なノイズ放射を低減することにもなる。例えばディスクリート部品のキャパシタと抵抗を用いるスナバ回路の場合では、還流ダイオード100で発生した振動電流は、これらディスクリート部品を経由して還流ダイオード100に戻る電流経路を通る。その際に抵抗により振動電流が抑制されていくが、それまでの間にこの電流経路が作る面が一種のループアンテナとして働き、ノイズを放射する。スナバ回路を半導体スナバ回路200で形成した場合には、還流ダイオード100の直近に半導体スナバ回路200を実装することにより、振動電流の電流経路が作る面の大きさがディスクリート部品を用いた場合よりも格段に小さくなり、振動電流によるノイズ放射が低減される。これにより、ノイズによる制御回路等の誤動作を防ぐことができる。
更に、第1の実施形態に係る半導体装置10においては、スナバ回路を半導体スナバ回路200で形成することで、還流ダイオード100と同様の実装工程を用いて電力変換装置を構成することができる。このため、簡便で且つ容易に振動現象を抑制することができるとともに、ディスクリート部品を使用したスナバ回路に比べて必要な体積も大幅に低減できる。
また、半導体スナバ回路200の抵抗成分を半導体基体で形成し図3に示すような半導体パッケージに直接実装することができるため、高い放熱性を得ることができる。そのため、外付けの抵抗等に比べて、より高密度の抵抗設計が可能となる。つまり、破壊に対する耐性が高くより小型化が可能である。
所定の耐圧を得る場合、還流ダイオード100にワイドバンドギャップ半導体素子を採用して空乏層の厚みを小さくするほど、還流ダイオード100自体の抵抗は小さく、これにより低導通損失を低減できる。その反面、逆回復電流の遮断速度(dIr/dt)が高くなり、且つ振動エネルギーが消費され難いため、振動現象がより顕著となる。一方、還流ダイオード100としてシリコンからなるショットキーバリアダイオードを用いた場合には、本発明の効果として一定レベルの効果は得られるものの、ドリフト領域2の不純物濃度や厚みの制限により、炭化珪素材料に比べて還流ダイオード100自体が大きな抵抗成分を有し、還流ダイオード100自体で振動エネルギーを消費し減衰しやすい。
しかしながら、第1の実施形態に係る半導体装置10では、還流ダイオード100を炭化珪素等のワイドバンドギャップ半導体で構成することにより、より顕著に導通損失の低減と振動現象の緩和を両立することができる。つまり、第1の実施形態で一例としてあげたように、還流ダイオード100を炭化珪素からなるショットキーバリアダイオードで構成することで、本発明の効果を最大限に引き出すことができる。なお、第1の実施形態においては、還流ダイオード100の半導体材料を炭化珪素とした場合で説明しているが、窒化ガリウムやダイヤモンド等のワイドギャップ半導体を用いても同様の効果を得ることができる。
逆回復動作時においても、図4に例示した実装構造にすることで、還流ダイオード100が配置された2つの半導体チップの放熱性を向上することができる。
半導体スナバ回路200としては、図1で示す単純なRCスナバ回路以外にも、例えば図10に示すように、抵抗220に並列に接続するようにダイオード230を有する構成であってもよい。これは、少なくともキャパシタ210と抵抗220を有するように構成された半導体スナバ回路200であれば、上記と同様の効果を得ることができるためである。
また、実装形態の一例として示した図3及び図4で示したセラミック基板等を用いた半導体パッケージ以外にも、例えば図11に示すように、金属基材420をベースプレート代わりとなる支持基材及びカソード端子とし、絶縁性を有する絶縁板若しくは絶縁シートからなる絶縁層1400によって冷却構造体1200と金属基材420を絶縁させた実装形態を用いてもよいし、他の実装形態を用いてもよい。
また、還流ダイオード100を配した還流ダイオードチップが2チップの場合だけでなく、図12に示すように、還流ダイオードチップが3チップ若しくはそれ以上であってもよい。このとき、還流ダイオードチップ間にはスナバチップが配置される。つまり、還流ダイオード100間に、半導体スナバ回路200の少なくとも一部が配置される。
また、図3、図4、図11、及び図12ではカソード端子側の裏面電極4及び裏面電極14を半田等により実装し、アノード端子側は金属配線320、330により配線する例を示したが、カソード端子及びアノード端子の両方を半田等により実装する方式としてもよい。カソード端子及びアノード端子の両方を半田等により実装することで冷却性能が向上する。このため、還流ダイオード100の放熱性及び半導体スナバ回路200の抵抗220の放熱性が増し、より高密度に実装することができる。
半導体スナバ回路200のキャパシタ210を図13〜図16に示す構造、抵抗220を図17、図18に示す構造で形成しても良い。
図13は、図6に示したシリコン酸化膜からなる誘電領域12の代わりに、例えばP型の反対導電型領域15を形成した場合を示している。図6に示した構成の場合では、還流ダイオード100が逆回復動作する際に印加される電圧を、誘電領域12のキャパシタ210に充電することで振動現象を抑制していた。これに対し、図13に示した構成例では、P型の反対導電型領域15とN型の基板領域11との間に形成される空乏層をキャパシタ210として使用する。空乏層をキャパシタ210の成分として用いる利点は、シリコン酸化膜等の誘電領域12に比べて、過渡電流による劣化が比較的少ない点である。つまり、長期信頼性の点で有利である。
また、基板領域11に空乏層を形成する他の構成として、例えば図14に示すように、基板領域11上に、基板領域11とショットキー接合を形成する金属材料からなる表面電極13を形成する方法も採用できる。ショットキー接合以外にも、ヘテロ接合等の逆バイアス電圧が印加されると空乏層が形成される構成であれば、どのような構成でも同様の効果を得ることができる。
なお、図13及び図14の構成では、順バイアス時に順方向電流が流れることが懸念される。しかし、図13及び図14の基板領域11の抵抗値は還流ダイオード100のドリフト領域2の抵抗に比べて大きい。このため、電流の大部分は低抵抗の還流ダイオード100に流れ、順バイアス時の導通損失にはほとんど影響しない。
図15及び図16に示すように、複数の領域を直列もしくは並列に形成してキャパシタ210を構成してもよい。図15は、図6に示した誘電領域12によるキャパシタ成分と、図13に示した反対導電型領域15を形成することで得られる空乏層によるキャパシタ成分とを直列に接続して、キャパシタ210を形成した例を示す。また、図16は、誘電領域12によるキャパシタ成分と、図10に示した空乏層によるキャパシタ成分とを並列に接続して、キャパシタ210を形成した例を示している。いずれにしても、キャパシタ210を抵抗220と直列接続するように形成すれば、どのような領域でキャパシタ210を構成してもよい。
図17は、図6に示した基板領域11からなる抵抗220を、基板領域11以外で形成した例を示している。図17に示した構成例では、図6で用いた基板領域11の代わりに、N+型の低抵抗基板で構成された低抵抗基板領域16で形成し、抵抗220として、例えば多結晶シリコンからなる抵抗領域17を誘電領域12上に形成する。多結晶シリコンからなる抵抗領域17の厚み及び不純物濃度を変えることで、抵抗220の抵抗値を自由に設定できる点が利点として挙げられる。つまり、支持基体として基板領域を選ぶ際にどのような基板を用いても半導体スナバ回路200を形成できる。このため、材料選択等の自由度をあげることが可能となる。
なお、抵抗領域17は多結晶シリコン以外でも、どのような材料を用いても良いが、抵抗領域17をシリコンよりも高い絶縁破壊電界を持つ材料で構成するとなおよく、抵抗領域17の製造プロセスを更に容易にする効果がある。例えば、逆回復時に還流ダイオード100の両端にサージ電圧として100Vが印加された場合、半導体スナバ回路200においてキャパシタ210に過渡電流が流れるため、概ね抵抗220を構成する抵抗領域の両端にサージ電圧と同等の100Vが印加される。このとき、抵抗領域には、その材料に応じた絶縁破壊電界と厚みから決まる絶縁破壊電圧以上の破壊耐圧が求められる。シリコンの場合、100Vの破壊耐圧を持たせるためには、シリコンの絶縁破壊電界が約0.3MV/cmなので3μm程度の厚さが必要になる。シリコンよりも高い絶縁破壊電界を持つポリ炭化珪素を抵抗領域に用いると、ポリ炭化珪素の絶縁破壊電界は約3.6MV/cmなので、厚みをシリコンの1/10程度に削減することができる。そのため、抵抗領域形成時の堆積時間を短縮でき、プロセスを容易にすることができる。また、炭化珪素のほうがシリコンよりも熱伝導率が3倍程度良いため、抵抗領域17の放熱性をよくする効果もある。
図18は抵抗220の成分として、図6で説明した基板領域11と図17で説明した抵抗領域17を直列に接続した場合を示している。このように、抵抗220についても、キャパシタ210と直列接続するように形成されていれば、どのような領域で構成しても良い。
以上、第1の実施形態においては、半導体スナバ回路200の支持基体としてシリコンからなる半導体材料を用いた場合を一例としてあげたが、例えば窒化シリコンや窒化アルミやアルミナ等の絶縁基板材料を基板領域として用いてもよい。図19は一例として窒化シリコンからなる絶縁基板18上にN-型の抵抗領域19を形成した例を示している。このように、基板領域にシリコン等の半導体基体を用いなくても、チップ材料として半導体チップと同等に扱えて図3に示すように実装できる構成であれば、どのような構成でもよい。また、図19においては、絶縁基板18と抵抗領域19とが接する場合を示しているが、絶縁基板18と抵抗領域19間に金属膜や半田等の接合材料が形成されていてもよい。
図20及び図21は、スナバ回路に用いるキャパシタの静電容量Cの大きさと、振動現象の抑制効果との関係、及びキャパシタに流れる過渡電流による損失の増加代との関係について、回路シミュレータを用いて計算した例である。スナバ回路の振動低減は、回路中の寄生インダクタンスLs、還流ダイオードのキャパシタ成分の静電容量C0、及び、還流ダイオードに並列接続されたスナバ回路のキャパシタの静電容量Cと抵抗の抵抗値Rで構成された簡単な回路シミュレータで計算できる。本計算では、一例として、効果回路中の寄生インダクタンスLs=99nH、抵抗値R=40Ωに固定して、容量比C/C0の大きさによって、振動現象の減衰時間やスナバ回路で発生する過渡損失の増加代の変化を計算した。なお、還流ダイオードのキャパシタ成分の静電容量C0は150pFとした。
図20は、容量比C/C0が0.004倍〜40倍までの振動現象の波形を示す。図20に示すように、容量比C/C0が大きくなるほど、振動現象の減衰時間は小さくなる。特に、容量比C/C0が0.1倍前後から振動現象の減衰効果が顕著になっている。一方、容量比C/C0が10を超える辺りから振動現象の収束時間比の値が飽和傾向になる。
図21の左側の軸は、スナバ回路がない場合において電圧若しくは電流振動が1/10に減衰するまでの時間をt0とし、スナバ回路を追加した際にスナバ回路がない場合と同等の振動となるまでの時間をtとした場合の振動現象収束時間比t/t0を示す。図21の右側の軸は、還流ダイオードに流れる過度電流により発生する損失をE0、スナバ回路のキャパシタに流れる過度電流により発生する損失をEとした場合の、過度損失の増加代E/E0を示す。過渡動作時にはキャパシタの静電容量Cの大きさに比例する過渡電流による損失Eが発生するため、キャパシタの静電容量Cは極力小さいほうが好ましい。
回路シミュレータ結果から、スナバ回路200に含まれるキャパシタ210の静電容量は、還流ダイオード100の遮断状態におけるキャパシタ成分の容量の大きさに比べて、1/10倍以上10倍以下の範囲で選択することが好ましい。これにより、損失の増加を抑えつつ、より顕著に振動現象を低減することができる。この効果は、第1の実施形態で説明したどの構成例においても得ることができる。
以上に説明したように、第1の実施形態に係る半導体装置によれば、並列接続された還流ダイオード100と半導体スナバ回路200が隣接し、且つ複数の還流ダイオード100間に半導体スナバ回路200の少なくとも一部が配置されることによって小型化され、逆バイアス時に還流ダイオードに発生する振動現象の収束時間を短縮できる半導体装置を提供することができる。
(第2の実施形態)
以下に、第2の実施形態に係る半導体装置について説明する。以下では、第1の実施形態と同様の部分の説明は省略し、異なる特徴について詳しく説明する。
図22に示すように、第2の実施形態に係る半導体装置10Aは、第1の実施形態で説明したユニポーラ動作若しくはユニポーラ動作と同等の動作をする還流ダイオード100と、少なくともキャパシタ210と抵抗220を含む半導体スナバ回路200に加え、還流ダイオード100及び半導体スナバ回路200に並列接続するスイッチング素子600を更に備える。図22に示した例では、半導体スナバ回路200はキャパシタ210と抵抗220を直列接続したRCスナバ回路である。エミッタ端子301に、スイッチング素子600のエミッタ端子、還流ダイオード100のアノード端子、及び半導体スナバ回路200の抵抗220が接続する。コレクタ端子401に、スイッチング素子600のコレクタ端子、還流ダイオード100のカソード端子、及び半導体スナバ回路200のキャパシタ210が接続する。
第2の実施形態では、還流ダイオード100、半導体スナバ回路200、及びスイッチング素子600が、それぞれ異なる半導体チップに形成された場合について説明する。また、第2の実施形態においては、還流ダイオード100及びスイッチング素子600を大電流用途に用いるために、還流ダイオード100及びスイッチング素子600の配置されるチップはそれぞれ複数である場合について説明する。
半導体スナバ回路200の構成及び還流ダイオード100の構成は、第1の実施形態と同じ構成を採用可能である。以下では、スイッチング素子600が、例えばシリコンを半導体基体材料としたIGBTである場合について説明する。なお、ここでは、スイッチング素子600が、エミッタ端子とコレクタ端子が互いに対面するように電極形成された、いわゆる縦型のIGBTである場合を例示的に説明する。
図23は、図22で示した還流ダイオード100(例えば炭化珪素ショットキーバリアダイオード)と半導体スナバ回路200(例えばシリコン半導体RCスナバ)更にはスイッチング素子600(例えばシリコンIGBT)からなる半導体装置10Aについて、具体的な実装例を示した図である。図23に示したように、第2の実施形態に係る半導体装置10Aを、図3に示した例と同様にセラミック基板を用いた半導体パッケージに実装することができる。
図23に示した例では、金属膜410上に、還流ダイオード100が配置された半導体チップ(還流ダイオードチップ、図中に符号100で示す。)、半導体スナバ回路200が配置された半導体チップ(スナバチップ、図中に符号200で示す。)、及びスイッチング素子600が配置された半導体チップ(スイッチング素子チップ、図中に符号600で示す。)が2チップずつ配置される。図23に示すように、還流ダイオードチップ間にスナバチップが配置され、スイッチング素子600間にスナバチップが配置されている。
還流ダイオードチップ、スナバチップ及びスイッチング素子チップのそれぞれコレクタ端子401に接続される端子は、例えば半田やろう材等の接合材料を介して金属膜410に接するように配置されている。そして、還流ダイオードチップ、スナバチップ及びスイッチング素子チップのそれぞれエミッタ端子301に接続される端子は、例えばアルミニウムワイヤやアルミニウムリボン等の金属配線320、330、350を介して、金属膜310に接続される。更に、スイッチング素子600のゲート端子は、金属配線710を介して、ゲート端子510に接続する金属膜700に接続される。
図23に示した半導体パッケージは、放熱性を向上し安定的に性能を発揮するために、例えば図24及び図25に示すような実装構造体に組み込まれて使用する。図24は、図23のXXIV−XXIV方向に沿った断面図であり、スイッチング素子600が実装されている部分の実装構造の一例を示す。また、図25は、図23のXXV−XXV方向に沿った断面図であり、還流ダイオード100が実装されている部分の実装構造の一例を示す。図24及び図25に示すように、絶縁基板500の裏面側には、例えばエミッタ側の金属膜310やコレクタ側の金属膜410と同様の金属膜からなる裏面金属膜1000が形成されている。
図24及び図25に示す実装構造体は、図4に示した実装構造体と同様の構成である。即ち、裏面金属膜1000は、半導体パッケージの支持構造体としての機能と熱伝導の機能を有するベースプレート1100上に形成されている。ベースプレート1100は冷却構造体1200と接する。既に述べたように、ベースプレート1100及び冷却構造体1200は直接接していても良いし、シリコングリース等の密着材料を介して接していても良い。図24及び図25に示した例では、冷却構造体1200の所定部に水流路1300が形成された水冷式の冷却構造の例を示したが、冷却構造は水冷式であっても空冷式であってもよい。
また、スイッチング素子600、還流ダイオード100及び半導体スナバ回路200がそれぞれ配置されたスイッチング素子チップ、還流ダイオードチップ及びスナバチップの断面構造の一例を示したのが、それぞれ図26、図5及び図6に示す断面構造図である。
図26は、スイッチング素子600が一般的なIGBTである例を示している。例えばシリコンを材料としたP+型の基板領域21上に、N型のバッファ領域22を介して、N-型のドリフト領域23が形成された基板材料を用いたIGBTである。基板領域21は、例えば抵抗率が数mΩcm〜数十mΩcm、厚さが数μm〜数百μm程度である。ドリフト領域23は、例えばN型の不純物密度が1013cm-3〜1016cm-3、厚みが数十μm〜数百μmである。
なお、素子構造や所要の耐圧により、抵抗率や不純物密度及び厚みが上記の範囲外となってもよいが、一般に抵抗率及び厚みは小さいほうが導通時の損失を低減できるため、可能な限り抵抗を小さくすることが好ましい。第2の実施形態では、例えば不純物密度が1014cm-3、厚みが50μmで耐圧が600Vクラスであるドリフト領域23を用いる。
バッファ領域22はドリフト領域23に高電界が印加された際に、基板領域21とパンチスルーするのを防止するために形成される。第2の実施形態では一例として、基板領域21を支持基材とした場合を説明しているが、バッファ領域22やドリフト領域23を支持基材としてもよい。バッファ領域22は、基板領域と21とドリフト領域23とがパンチスルーしない構造であれば、特になくてもよい。
図26に示すように、ドリフト領域23中の表層部の一部にP型のウェル領域24が形成され、ウェル領域24中の表層部の一部にN+型エミッタ領域25が形成されている。そして、ドリフト領域23、ウェル領域24及びエミッタ領域25上に、例えばシリコン酸化膜からなるゲート絶縁膜26が形成され、ゲート絶縁膜26上に例えばN型の多結晶シリコンからなるゲート電極27が配設されている。更に、ゲート絶縁膜26に設けた開口部においてエミッタ領域25及びウェル領域24に接して、例えばアルミニウム材料からなるエミッタ電極28が形成されている。エミッタ電極28とゲート電極27が互いに接しないように、例えばシリコン酸化膜からなる層間絶縁膜29がエミッタ電極28とゲート電極27間に形成されている。また、基板領域21とオーミック接続するようにコレクタ電極30が形成されている。このように、図26に示したスイッチング素子600に採用可能なIGBTは、ゲート電極27が半導体基体平面上に形成された所謂プレーナ型である。
図23に示した還流ダイオードチップの断面構造図として図5に例示した還流ダイオード(ここではショットキーバリアダイオード)の構成は、第1の実施形態において説明したものと同様であるため、重複した説明を省略する。
図23に示したスナバチップの断面構造図として図6に例示した半導体スナバ回路200については、基本的な構成は第1の実施形態と同様とするものの、スナバ機能を効果的に発揮するためには、新たに並列接続されたスイッチング素子600を考慮して、キャパシタ210と抵抗220を設定することが好ましい。ただし後述するように、還流ダイオード100に逆回復電流が流れる場合においては、並列されたスイッチング素子600は必ず遮断状態にある。このため、半導体スナバ回路200のキャパシタ210及び抵抗220の設定は、第1の実施形態で説明した場合と同じように、還流ダイオード100とスイッチング素子600の遮断時の空乏容量に応じた設定で対応可能である。
つまり、基板領域11については、抵抗220に必要な抵抗値の大きさに応じて、基板の抵抗率や厚みを設定する。例えば抵抗率が数mΩcm〜数百Ωcm、厚さが数十μm〜数百μm程度の基板領域11を用いる。また、キャパシタ210の静電容量についても、必要耐圧を最低限満たし、且つ必要な静電容量が得られるように、誘電領域12の厚みや面積を設定する。遮断状態時(高電圧印加時)に還流ダイオード100及びスイッチング素子600がそれぞれ充電される空乏容量の和に対して、100分の1程度〜100倍ぐらいの範囲でキャパシタ210を選択可能である。しかし、十分なスナバ機能を発揮し、且つ損失の増加を極力抑え、必要となるチップ面積を考慮すると、後述する計算結果が示すように、概ね10分の1程度〜10倍程度の範囲でキャパシタ210を選ぶことが好ましい。第2の実施形態においては、還流ダイオード100及びスイッチング素子600の耐圧よりも高くなるように、例えば誘電領域12の厚みを1μmとし、キャパシタ210の静電容量が還流ダイオード100及びスイッチング素子600の遮断状態時に形成される空乏容量の和と同程度であるとする。
スイッチング素子600が還流ダイオード100及び半導体スナバ回路200と並列に接続された第2の実施形態においても、後述するように、還流ダイオード100に例えばショットキーバリアダイオードを用いた場合にユニポーラ動作によって本質的に発生する電流・電圧の振動現象に対して、静電容量が小さく小サイズのキャパシタ210と抵抗220を有する半導体スナバ回路200を並列接続することで、容易に且つ効果的に振動現象を抑制できる。つまり、バイポーラ動作する還流ダイオードの振動低減用のスナバ回路として、メイン電流が流れる経路にフィルムコンデンサやメタルクラッド抵抗等の外付けディスクリート部品を配線する従来からの手法を用いる必要がない。また、既に述べたように、効果的にスナバ機能を発揮する設計式として一般的に知られているC=1/(2πfR)を満たすように、第2の実施形態においても、半導体スナバ回路200のキャパシタ210と抵抗220を容易に設定することができる。
第2の実施形態に係る半導体装置10Aの動作について以下に説明する。
半導体装置10Aは、電力エネルギーの変換手段の1つとして一般的な図27に示すような3相交流モータを動かす所謂インバータや、図28に示すような所謂Hブリッジ等の電力変換装置に用いることができる。例えば図27に示すインバータにおいては、上アームを形成する並列接続されたスイッチング素子Eと受動素子Bからなる半導体装置10Aと、下アームを形成する並列接続されたスイッチング素子Gと受動素子Fからなる半導体装置10Aとを、例えば400Vの電源電圧(+V)に対して逆バイアス接続になるように直列に接続して使用される。この接続が3相分接続され、3相インバータを構成する。図27で使用されるスイッチング素子及び受動素子について、電力変換装置に要求される電力容量若しくは電流容量に応じて、チップサイズやチップ数が決定され、高性能・小サイズ・低コストを兼ね備えた電力変換装置を実現する。
図27に示した半導体装置10Aの動作モードは、上アーム又は下アームのどちらかのスイッチング素子がスイッチング動作した場合に、スイッチング動作していないアームのスイッチング素子及び受動素子が連動して、電流を遮断する遮断状態から電流を還流する導通状態へ、そして導通状態から遮断状態へと動作する。ここで、図27に示した3相のうち1相の動作を用いて半導体装置10Aの動作を説明する。更に、一例として下アームのスイッチング素子Gがスイッチング動作をし、上アームのスイッチング素子Eと受動素子Bとが還流動作をする場合について説明する。つまり、図22に示した半導体装置10Aを1アームとして、2つのアームが上下に接続されている場合について説明する。また、以下においては、電力変換装置に高い電流容量が必要とされ、還流ダイオード100、半導体スナバ回路200及びスイッチング素子600の配置された半導体チップが、1アームに付きそれぞれ2チップずつ使用される場合について説明する。
下アームのスイッチング素子Gがオンし、スイッチング素子Gに電流が流れている状態においては、上アームのスイッチング素子Eと受動素子Bは逆バイアス状態となり遮断状態になる。
導通状態にあるスイッチング素子Gに並列に接続されている受動素子Fにおいて、還流ダイオード100及び半導体スナバ回路200は遮断状態を維持する。還流ダイオード100については、還流ダイオード100であるショットキーバリアダイオードの両端にスイッチング素子Gのオン電圧程度の低い電圧が逆バイアスとして印加されるため、遮断状態である。また、図6に示す半導体スナバ回路200については、キャパシタ210として機能する誘電領域12は電圧が変化するときのみ動作するため、スイッチング素子Gのオン電圧程度の電圧が定常状態で印加された状態では遮断状態である。
つまり、下アームにおいては、スイッチング素子Gの導通時に、スイッチング素子Gに電流の大きさに応じた定常導通損失が発生する。この定常導通損失は熱として発生し、その熱は、半導体チップそのもの、もしくは半導体パッケージ全体、更には電力変換装置全体の性能低下につながる。これは、熱の上昇に伴う性能劣化であったり、耐熱温度を超えることによる破壊であったりする。このため、半導体装置10Aから発生した熱を速やかに放熱するための冷却装置が用いられる。
図24に例示した実装構造においては、スイッチング素子600で発生した熱は、コレクタ側の金属膜410、絶縁基板500、裏面金属膜1000、ベースプレート1100、冷却構造体1200の構造体を介して、水流路1300の流体に放熱される。この放熱部にあたる水流路1300までの放熱性が良いほど、スイッチング素子600の損失の増加に伴うスイッチング素子600の温度の上昇が抑えられる。つまり、スイッチング素子600の最大温度を所定の温度に制限した場合、放熱性が良いほど、スイッチング素子600の損失を許容でき、即ち、より大きな電流密度で電流を流すことができる。このことから、放熱性が高いほど、スイッチング素子600の最大使用電流の範囲を拡大することができる。
第2の実施形態においても、第1の実施形態と同様に、放熱距離tは小さいほど放熱性能が高まり、また放熱距離t間に形成される構造材料の熱抵抗特性が小さいほど放熱性能が高まる。一方、チップ間距離dが大きいほど放熱性が高まるが、実装面積が増えてしまうために小型化・低コスト化の面では不利になってしまう。所定の熱源からの熱拡散は45度の角度で広がるように近似されるため、放熱距離tに対してチップ間距離dの大きさが約2倍以上であれば、各熱源間の熱の干渉が起こりにくい。
第2の実施形態においては、実装面積を無駄に増やさずに、スイッチング素子600の配置されたスイッチング素子チップを複数含む半導体装置10Aの放熱性を向上するチップ実装配置を採用している。上述したように、スイッチング素子600は、ターンオン時並びに定常導通時に相応の損失が生じ発熱するが、半導体スナバ回路200は、還流ダイオード100に比べてターンオン時の過渡動作時の損失が小さく、且つ定常導通時にはほとんど損失がないことから、ほとんど発熱しない。
また、第2の実施形態においては、図22及び図24に示すように、スイッチング素子600を配置した2つのスイッチング素子チップの間に、半導体スナバ回路200が配置されたスナバチップが実装されている。このため、実装するチップ間の距離が製造バラつきに対応する余裕代のみである最も高密度な実装の場合でも、熱源となるスイッチング素子600同士を、少なくともスナバチップの幅以上に離して実装することができる。このため、例えば、スナバチップをスイッチング素子チップ間に実装せずに、スイッチング素子チップのどちらかのみに隣接させて実装した場合に比べて、スイッチング素子チップの放熱性を向上することができる。更に、図24に示したように、放熱距離tに対してチップ間距離dの大きさを2倍以上にすれば、各熱源となるスイッチング素子600間の熱の干渉が起こりにくいため、より放熱性能が高まる。このことにより、最小限度の実装面積で高い冷却効率を得ることができる。
このように、第2の実施形態に係るスイッチング素子600及び半導体スナバ回路200の動作メカニズムにあった実装配置とすることで、第2の実施形態に係る半導体装置10Aの性能を更に向上することができる。
上アームのスイッチング素子Eと受動素子Bについても、スイッチング素子Gが導通時において、電源電圧程度の逆バイアス電圧が印加されているため、遮断状態を維持する。これは、図26に示すスイッチング素子600であるIGBTについては、エミッタ端子301とコレクタ端子401間に逆バイアス電圧が印加されるため、ドリフト領域23中にはウェル領域24とのPN接合部から伸びた空乏層が形成され遮断状態が維持されるためである。また、図5に示した還流ダイオード100であるショットキーバリアダイオードにおいては、表面電極3と裏面電極4間に逆バイアス電圧が印加されるため、ドリフト領域2中には表面電極3とのショットキー接合部から伸びた空乏層が生じ遮断状態が維持される。図6に示した半導体スナバ回路200も、キャパシタ210として機能する誘電領域12が高電圧により充電された状態になり、遮断状態を維持する。
このように、下アームのスイッチング素子Gが導通状態の時には、上下アーム共に受動素子がショットキーバリアダイオードのみで構成されている従来技術と同様の効果を有する。
次に、下アームのスイッチング素子Gがターンオフして遮断状態に移行する場合について説明する。
図27に示すようなモータ用インバータ回路(L負荷回路)では、スイッチング素子Gがターンオフする際に、電圧上昇と電流遮断の位相がずれるため、導通時の電流をほぼ維持した状態で、まずスイッチング素子Gの電圧上昇が起こる。
一方、ターンオフするスイッチング素子Gに並列に接続されている受動素子Fには過渡電流が流れる。つまり、スイッチング素子Gの出力電圧上昇に伴って、受動素子Fに印加される電圧が、オン電圧程度の低い逆バイアス電圧から電源電圧程度の高電圧の逆バイアス電圧に変化し、これにより還流ダイオード100及び半導体スナバ回路200共に、電圧変化の速度に応じた過渡電流が流れる。
即ち、図5に示す還流ダイオード100においては、印加電圧の上昇に伴って表面電極3側からドリフト領域2中に空乏層が広がり、電子が裏面電極4側に過渡電流として流れる。図6に示す半導体スナバ回路200においては、キャパシタ210の静電容量として働く誘電領域12が印加電圧に応じて充電されるため、過渡電流が流れる。このとき、半導体スナバ回路200の誘電領域12におけるキャパシタ容量の充電作用によって、スイッチング素子Gのコレクタ−エミッタ間に生じる過渡的な電圧上昇が緩和され、回路中に含まれる寄生インダクタンスによるサージ電圧の発生が抑制される。つまり、第2の実施形態においては、スイッチング素子600を還流ダイオード100及び半導体スナバ回路200と並列接続することにより、スイッチング素子600がターンオフ動作をする際にも、素子破壊や他の周辺回路への誤動作等を引き起こすサージ電圧が低減され、より安定した動作を実現することができる。
そして、スイッチング素子600の電圧上昇後、電流は所定の速度で遮断する。このとき、第2の実施形態で一例として挙げたIGBTでは、導通時に基板領域21から注入されたホール電流の影響で電流の遮断速度は制限され損失は生じるものの、電流遮断による振動現象は起こりにくく、結果として安定動作する。そして、スイッチング素子600の電流が遮断された後は、下アームのスイッチング素子G及び受動素子Fは定常オフ状態となり、遮断状態を維持する。
スイッチング素子600のターンオフ動作時においても、図24に例示した実装構造にすることで、スイッチング素子600からなる2つのスイッチング素子チップの放熱性を向上することができる。
一方、上アームのスイッチング素子Eと並列に接続されている受動素子Bは、スイッチング素子Gのターンオフ動作に連動して、順バイアス状態となり導通状態に移行する。即ち、図5に示した還流ダイオード100のドリフト領域2中に広がっていた空乏層が後退し、表面電極3とドリフト領域2との間に形成されているショットキー接合部にショットキー障壁高さに応じた順バイアス電圧が印加され、還流ダイオード100は導通状態となる。このとき、還流ダイオード100に流れる電流は、ドリフト領域2中をほぼ裏面電極4側から供給される電子電流のみで構成されており、還流ダイオード100はユニポーラ動作をする。
また、図6に示す半導体スナバ回路200においても、還流ダイオード100と同様に、高電圧の逆バイアス状態から低電圧の順バイアス状態に移行するため、誘電領域12に充電されていた電荷が放電され、過渡電流が流れる。しかしながら第2の実施形態では、誘電領域12のキャパシタ容量が、還流ダイオード100及びスイッチング素子600の遮断時に形成される空乏容量と同程度であり、非常に小さい。このため、放電によって流れる過渡電流の大きさは、半導体スナバ回路200に並列接続された還流ダイオード100に流れる順バイアス電流に比べて非常に小さく、動作にはほとんど影響しない。
また、受動素子Bに並列接続されているスイッチング素子Eについても、コレクタ−エミッタ間の電圧は逆バイアス電圧状態から順バイアス状態に移行するものの、ゲート信号はオフ状態を維持するように制御され、更に基板領域21とバッファ領域22間のPN接合が逆バイアス状態となるため、オフ状態を維持する。ただし、コレクタ−エミッタ間の電圧状態が変位するため、スイッチング素子600中のドリフト領域23中に生じていた空乏層の容量変化に伴うキャパシタの放電による過渡電流は流れる。しかし、半導体スナバ回路200と同様に、この過渡電流はスイッチング素子600と並列接続された還流ダイオード100に流れる順バイアス電流に比べて非常に小さく、動作にはほとんど影響しない。そして、半導体スナバ回路200及びスイッチング素子600は、バイアス電圧の変化に伴う過渡電流が流れた後は、順バイアス状態と定常状態に移行するため遮断状態となり、還流ダイオード100のみが導通状態となる。
第2の実施形態において、還流ダイオード100が炭化珪素材料の半導体基体からなるショットキーバリアダイオードで構成されている場合、一般的なシリコン材料からなるPN接合ダイオードに比べて、ドリフト領域2の抵抗を低く形成することができる。このため、順バイアス導通時の導通損失を低減しているが、この導通時に、還流ダイオード100は電流の大きさに応じて定常導通損失が発生する。この定常導通損失は熱として発生するため、半導体装置10Aから発生した熱を速やかに放熱するための冷却装置が用いられる。
既に述べたように、図25に例示した実装構造においては、還流ダイオード100で発生した熱は、金属膜410、絶縁基板500、裏面金属膜1000、ベースプレート1100、冷却構造体1200の構造体を介して、水流路1300の流体に放熱される。この放熱部にあたる水流路1300までの放熱性が良いほど、還流ダイオード100の損失の増加に伴う還流ダイオード100の温度の上昇が抑えられる。つまり、還流ダイオード100の最大温度を所定の温度に制限した場合、放熱性が良いほど、還流ダイオード100の損失を許容でき、より大きな電流密度で電流を流すことができる。このことから、放熱性が高いほど、還流ダイオード100の最大使用電流の範囲を拡大することができる。
次に、下アームのスイッチング素子Gがターンオンし、再びスイッチング素子Gがオン状態に移行する動作について説明する。
図27に示したモータ用インバータ回路(L負荷回路)では、スイッチング素子Gがターンオンする際には、電流上昇と電圧低下の位相がずれる。このため、比較的高い電圧が印加された状態で、スイッチング素子Gに電流が流れ始める。スイッチング素子Gに並列接続されている受動素子Fには過渡電流が流れる。これは、スイッチング素子Gに電流が流れてコレクタ−エミッタ間の電圧が低下するのに伴って、受動素子Fに印加される電圧が電源電圧程度の高電圧の逆バイアス電圧からオン電圧程度の低い逆バイアス電圧に変化し、この電圧変化の速度に応じた過渡電流が還流ダイオード100及び半導体スナバ回路200に流れる。このとき、図5に示す還流ダイオード100においては、電圧の減少に伴ってドリフト領域2中に広がっていた空乏層は表面電極3側に徐々に狭まり、裏面電極4側からドリフト領域2中に電子が過渡電流として流れる。また、図6に示す半導体スナバ回路200においては、キャパシタ容量として働く誘電領域12が印加電圧の減少と共に放電されるため過渡電流が流れる。
この過渡電流は、還流ダイオード100及び半導体スナバ回路200と並列接続するスイッチング素子600に流れるターンオン電流と比べるとほとんど影響がない大きさである。このように、下アームの半導体スナバ回路200及び還流ダイオード100は過渡電流が流れた後は定常状態に移行し電流は遮断されるため、スイッチング素子600のみが導通状態となる。
一方、上アームのスイッチング素子Eと並列に接続されている受動素子Bは、下アームのスイッチング素子Gのターンオン動作に連動して、逆バイアス状態となり遮断状態に移行する。図5に示すショットキーバリアダイオードにおいては、裏面電極4側からドリフト領域2中に供給される電子による電子電流が順バイアス電圧の低下と共に減少する。そして、順バイアス電圧がショットキー接合部のショットキー障壁高さに応じた電圧以下になり、更には、ショットキー接合部に逆バイアス電圧が印加されはじめると、ドリフト領域2中には表面電極3とのショットキー接合部から伸びた空乏層が広がり遮断状態へと移行する。
導通状態から遮断状態に移行する際に、還流ダイオード100の素子内部に蓄積されていた過剰キャリアが消滅する過程において、過渡的に発生する電流が逆回復電流である。この逆回復電流は、受動素子B及び下アームのスイッチング素子Gに過渡電流として流れ、それぞれの素子において損失(ここでは逆回復損失と呼ぶ)が発生する。このことから、還流ダイオード100で発生する逆回復電流は極力小さいほうがよい。
第2の実施形態において、還流ダイオード100を炭化珪素からなる半導体材料で形成したユニポーラ動作のショットキーバリアダイオードで形成した場合、一般的なシリコンで形成されたPN接合ダイオードに比べるとこの逆回復電流は格段に小さい。つまり、逆回復損失を大幅に低減することができる。
更に、第2の実施形態は、受動素子がショットキーバリアダイオードのみで構成されている従来技術の場合には本質的に解決できなかった、ユニポーラ動作に起因する逆回復動作時の電流・電圧の振動現象を抑制する機能を有する。即ち、第2の実施形態では、還流ダイオード100において順バイアス電流が減少してゼロになると、ドリフト領域2中に逆バイアス電圧による空乏層が形成され、過剰キャリアで構成される逆回復電流が流れ始める。この逆バイアス電圧が印加されるのとほぼ同時に、スイッチング素子600及び半導体スナバ回路200中の誘電領域12からなるキャパシタ210にも同等の逆バイアス電圧が印加され、スイッチング素子600及び半導体スナバ回路200中にも相応の過渡電流が流れ始める。この半導体スナバ回路200に流れる過渡電流は、誘電領域12からなるキャパシタの大きさと基板領域11の抵抗成分の大きさで決まり、自由に設計することができる。
この並列に接続された半導体スナバ回路200の効果は、第1の実施形態で説明したように3つある。即ち、(1)還流ダイオード100に流れる順バイアス電流の遮断速度を高速に設定することができるため、メイン電流の遮断に伴う損失を低減できる;(2)還流ダイオード100が逆回復動作に入ったときにサージ電圧そのものを低減できる;(3)寄生インダクタンスLsで生じたエネルギーが吸収され、振動現象を素早く収束することができる。
このように、第2の実施形態に係る半導体装置10Aにおいては、還流ダイオード100が有する過渡損失ならびに導通損失を低減する性能を有すると同時に、半導体スナバ回路200を用いることでユニポーラ動作に起因する振動現象を解決することができる。
本発明の第2の実施形態においては、還流ダイオード100及びスイッチング素子600に流れる過渡電流が、高々ドリフト領域2及びドリフト領域23に空乏層が形成される際に発生するキャリアのみからなる過渡電流であることに着目し、スナバ回路を静電容量の小さい半導体スナバ回路200で形成している点が従来技術と異なる。更に、第2の実施形態で説明した構成により、過渡損失と導通損失を低減する性能と振動現象を抑制する上で、従来技術にはない以下の新たな効果を奏する。
1つの効果は、ユニポーラ動作をする還流ダイオード100及びスイッチング素子600に所定のキャパシタ容量及び抵抗値をもつ半導体スナバ回路200を並列接続すると、還流ダイオード100が動作する全電流範囲、全温度範囲において、スナバ機能が有効に働くということである。上述したように、ショットキーバリアダイオードの逆回復時に発生する逆回復電流は、逆バイアス電圧によって還流ダイオード100及びスイッチング素子600に空乏層が生じた際に発生する過剰キャリアのみで構成されているため、還流動作時に流れていた電流の大きさによらず、毎回ほぼ一定の逆回復電流が流れる。同様の理由で、還流ダイオード100は動作温度にもほとんど影響を受けず、ほぼ一定の逆回復電流が流れる。このため、全ての電流範囲、温度範囲において、過渡損失を低減し、且つ振動現象を抑制することができる。これらは、一般的なPN接合ダイオードとの組み合わせでは得られない効果である。
他の効果は、図23に示すようにスナバ回路を半導体スナバ回路200で形成することで、還流ダイオード100及びスイッチング素子600の直近に低インダクタンスで半導体スナバ回路200を実装することができ、更に過渡損失を低減し且つ振動現象を抑制できる点である。これは、既に述べたように、寄生インダクタンスが小さいほどスナバ回路に流れる過渡電流が流れやすく、還流ダイオードに流れる逆回復電流の遮断速度を緩和しやすいこと、及び、キャパシタの耐圧範囲でスイッチング時間を速くできることによる。したがって、第2の実施形態においても、ディスクリート部品のキャパシタや抵抗を用いる従来のスナバ回路の場合に比べて寄生インダクタンスを低減することで、スイッチング時間を短縮し過渡損失を低減できるとともに、逆回復電流の遮断速度を適切に緩和し振動現象を抑制することができる。
また、既に述べたように、スナバ回路を還流ダイオードの直近に実装することにより、不要なノイズ放射が低減される。これにより、ノイズによる制御回路等の誤動作を防ぐことができる。
更に、第2の実施形態においては、スナバ回路を半導体スナバ回路200で形成することで、還流ダイオード100及びスイッチング素子600と同様の実装工程を用いて電力変換装置を構成することができる。このため、簡便で且つ容易に振動現象を抑制することができるとともに、従来技術のスナバ回路に比べて必要な体積も大幅に低減できる。
また、半導体スナバ回路200の抵抗成分を半導体基体で形成し図23に示すような半導体パッケージに直接実装することができる。このため、高い放熱性を得ることができる。その結果、外付けの抵抗等を使用する場合に比べて、より高密度の抵抗設計が可能となる。つまり、破壊に対する耐性が高くより小型化が実現可能である。
また、第1の実施形態で例示したように、還流ダイオード100を炭化珪素からなるショットキーバリアダイオードで構成することで、本発明の効果を最大限に引き出すことができる。つまり、還流ダイオード100を炭化珪素等のワイドバンドギャップ半導体で構成することで、より顕著に導通損失の低減と振動現象の緩和を両立することができる。還流ダイオード100の半導体材料に、炭化珪素以外の窒化ガリウムやダイヤモンド等のワイドギャップ半導体を用いても、同様の効果を得ることができる。
逆回復動作時においても、図25に例示した実装構造にすることで、還流ダイオードチップが2つの場合でも、放熱性を向上することができる。
また、第2の実施形態においても、第1の実施形態で説明した図10に示した構成に対応する、抵抗220とダイオード230が並列接続する構成であってもよい。これは、キャパシタ210と抵抗220を少なくとも有するように構成された半導体スナバ回路200であれば、上記と同様の効果を得ることができるためである。
また、実装形態についても、第1の実施形態と同様に、図11に対応する実装形態を用いてもよいし、他の実装形態を用いてもよい。また、第2の実施形態においては、還流ダイオードチップ、スナバチップ及びスイッチング素子チップがそれぞれ2チップずつの場合を説明したが、図12に対応するように、還流ダイオードチップやスイッチング素子チップがそれぞれ3チップ以上であってもよい。また、コレクタ端子及びエミッタ端子の両面を半田等で実装する方式としてもよい。両面を半田等で実装することで冷却性能が向上するため、還流ダイオード100の放熱性及び半導体スナバ回路200の抵抗220の放熱性が増すため、より高密度に実装することができる。
また、第2の実施形態の説明において、半導体スナバ回路200の構造の一例として図6を参照して説明したが、第1の実施形態と同様に、キャパシタ210を図13〜図16に示した構造で形成し、抵抗220を図13、14に示した構造で形成してもよい。
また、第2の実施形態においても、半導体スナバ回路200の支持基体としてシリコンからなる半導体材料を用いた場合を一例としてあげたが、例えば図19に示したように、窒化シリコンや窒化アルミやアルミナ等の絶縁基板材料を基板領域として用いてももちろんよい。なお、図19においては、絶縁基板18と抵抗領域19とが接する場合を示しているが、それらの間に金属膜や半田等の接合材料が形成されていてもよい。
第1の実施形態において図20及び図21を参照して説明したのと同様に、スナバ回路に用いるキャパシタの静電容量C、及び遮断状態における還流ダイオードとスイッチング素子とのキャパシタ成分の総和の静電容量C0であるとき、容量比C/C0が0.1前後から振動現象の減衰効果が顕著になり、容量比C/C0が10を超える辺りから振動現象の収束時間比の値が飽和傾向になる。また、過渡動作時には、スナバ回路に形成するキャパシタの静電容量の大きさに比例する過渡電流によって損失Eが発生するため、キャパシタ210の静電容量の大きさは極力小さいことが好ましい。
このことから、第2の実施形態で用いる半導体スナバ回路200のキャパシタ210の静電容量は、還流ダイオード100及びスイッチング素子600の遮断状態におけるキャパシタ成分の総和に比べて、10分の1倍以上10倍以下の範囲に選択することで、損失の増加を抑えつつ、より顕著に振動現象を低減することができる。この効果は、第2の実施形態で説明したどの構成例においても得ることができる。
(第3の実施形態)
第3の実施形態においては、第2の実施形態で説明した還流ダイオード100、半導体スナバ回路200及びスイッチング素子600が並列接続した構成において、還流ダイオード100及びスイッチング素子600がそれぞれショットキーバリアダイオード及びIGBT以外の素子で構成された場合について説明する。図29は図5に対応する還流ダイオード100の断面構造の一例を示し、図30は図26に対応するスイッチング素子600の断面構造の一例を示す。以下では、第1の実施形態若しくは第2の実施形態と同様の部分の説明は省略し、異なる特徴ついて詳しく説明する。
図29に示す還流ダイオード100は、例えば炭化珪素のポリタイプが4HタイプのN+型である基板領域41上にN-型のドリフト領域42が形成された基板材料で構成されている。基板領域41は、例えば抵抗率が数mΩcm〜数十mΩcm、厚さが数十μm〜数百μm程度である。
ドリフト領域42は、例えばN型の不純物密度が1015cm-3〜1018cm-3、厚みが数μm〜数十μmである。なお、素子構造や所要の耐圧により、抵抗率や不純物密度及び厚みが上記の範囲外となってももちろんよいが、一般に抵抗率及び厚みは小さいほうが導通時の損失を低減できるため、可能な限り抵抗が小さくなるようにすることが好ましい。第3の実施形態では、例えば不純物密度が1016cm-3、厚みが5μm、耐圧が600Vクラスであるドリフト領域42を用いる。
なお、以下では、半導体基体が基板領域41とドリフト領域42の二層からなる基板の場合について説明するが、抵抗率の大きさが上記の一例によらない基板領域41のみで形成された基板を使用してもかまわないし、多層の基板を使用してもかまわない。また、一例として耐圧が600Vクラスの場合を説明しているが、耐圧クラスはこれに限定されない。
ドリフト領域42の基板領域41との接合面に対向する主面に接上に、炭化珪素よりもバンドギャップの小さい多結晶シリコンからなるヘテロ半導体領域43が堆積されている。炭化珪素からなるドリフト領域42と多結晶シリコンからなるヘテロ半導体領域43というバンドギャップが異なる材料の接合部にヘテロ接合ダイオードが形成され、この接合界面にエネルギー障壁が存在する。ヘテロ接合ダイオードでは、ヘテロ半導体領域43の不純物密度を変えることで、ヘテロ接合部のエネルギー障壁の高さを制御することができる。このため、必要な耐圧に応じて、最適な障壁高さを設定することができる。ここでは、一例としてヘテロ半導体領域43が、P型不純物密度が1019cm-3、厚みが0.5μmであるとする。
また、図29に示すように、ヘテロ半導体領域43上に表面電極44が形成され、基板領域41と接して裏面電極45が形成されている。表面電極44はアノード端子302として外部電極と接続するため、最表面にアルミニウム、銅、金、ニッケル、銀等の金属材料を用いた多層構造としてもよい。一方、裏面電極45は基板領域41とオーミック接続する電極材料から構成されている。オーミック接続する電極材料の一例としてはニッケルシリサイドやチタン材料等が挙げられ、裏面電極45はカソード端子402として外部電極と接続する。このように、図29に示す還流ダイオード100は、表面電極44がアノード端子、裏面電極45がカソード端子である縦型のダイオードとして機能する。
一方、図30は、スイッチング素子600が炭化珪素からなるMOSFETである例を示す。図30において、例えば炭化珪素のポリタイプが4HタイプのN+型である基板領域51上にN-型のドリフト領域52を形成した基板材料が用いられている。基板領域51は、例えば抵抗率が数mΩcm〜数十mΩcm、厚さが数μm〜数百μm程度である。
ドリフト領域52は、例えばN型の不純物密度が1014cm-3〜1017cm-3、厚みが数μm〜数十μmである。一般に抵抗率及び厚みは小さいほうが導通時の損失を低減できるため、可能な限り抵抗が小さいことが好ましい。例えば不純物密度が2×1016cm-3、厚みが5μm、耐圧が600Vクラスのドリフト領域52が採用可能である。第3の実施形態では、一例として基板領域51を支持基材とした場合を説明するが、ドリフト領域52を支持基材としても良い。
ドリフト領域52中の表層部の一部にP型のウェル領域53が形成され、ウェル領域53中の表層部の一部にN+型ソース領域54が形成されている。そして、ドリフト領域52、ウェル領域53及びソース領域54の表層部上に、例えばシリコン酸化膜からなるゲート絶縁膜55が形成され、例えばN型の多結晶シリコンからなるゲート電極56がゲート絶縁膜55上に配設されている。
更に、ゲート絶縁膜55に設けた開口部においてソース領域54及びウェル領域53と接して、例えばアルミニウム材料からなるソース電極57が形成されている。ソース電極57とゲート電極56とが接しないように、例えばシリコン酸化膜からなる層間絶縁膜58がソース電極57とゲート電極56間に形成されている。また、基板領域51とオーミック接続するドレイン電極59が形成されている。このように、図30に示したMOSFETは、ゲート電極56が半導体基体平面上に形成された所謂プレーナ型である。
第3の実施形態の説明では、図29に示した還流ダイオード100と図30に示したスイッチング素子600とを、図6に示した半導体スナバ回路200と並列接続して使用する場合を例示的に説明する。このとき、スナバ機能を効果的に発揮するために、還流ダイオード100とスイッチング素子600の遮断状態におけるキャパシタ容量を考慮して、誘電領域12によるキャパシタ、及び基板領域11による抵抗を設定することが好ましい。第1の実施形態及び第2の実施形態と同様に、第3の実施形態においても、例えば還流ダイオード100及びスイッチング素子600の耐圧よりも高くなるように例えば厚みは1μmとし、キャパシタ210の静電容量が還流ダイオード100及びスイッチング素子600の遮断状態時に形成される空乏容量の和と同程度であるとする。
第3の実施形態の動作について、第2の実施形態と同様に図27に示したインバータの動作に対応させて、以下に説明する。
図27に示した下アームのスイッチング素子Gがオンし、スイッチング素子Gに電流が流れている状態においては、上アームのスイッチング素子Eと受動素子Bは逆バイアス状態となり遮断状態になる。
導通状態にあるスイッチング素子Gは、炭化珪素材料からなるMOSFETで構成されているため、第2の実施形態で説明したIGBTに比べて、低オン抵抗で導通する。これは、炭化珪素材料のバンドギャップがシリコン材料に比べて約3倍大きく、最大絶縁電界が約1桁大きいため、ドリフト領域52の厚みを小さく且つ不純物濃度大きくできるためである。このため、IGBTのようなバイポーラ型の動作とせずとも、ドリフト領域52の抵抗を低くすることができる。
また、導通状態にあるスイッチング素子Gと並列接続されている受動素子Fにおいて、還流ダイオード100及び半導体スナバ回路200は遮断状態を維持する。還流ダイオード100であるヘテロ接合ダイオードが遮断状態を維持するのは、スイッチング素子Gのオン電圧程度と低い逆バイアス電圧が還流ダイオード100の両端に印加されるためである。また、半導体スナバ回路200が遮断状態を維持するのは、キャパシタ210として機能する誘電領域12は電圧が変化するときのみ動作するため、スイッチング素子Gのオン電圧程度の電圧が定常状態で印加された状態では遮断状態となるためである。
一方、上アームのスイッチング素子Eと受動素子Bについても、電源電圧程度の逆バイアス電圧が印加されているため、遮断状態を維持する。スイッチング素子600であるMOSFETでは、ソース端子302とドレイン端子402間に逆バイアス電圧が印加されるため、ウェル領域53とのPN接合部から伸びた空乏層がドリフト領域52中に形成され、遮断状態が維持される。また、還流ダイオード100であるヘテロ接合ダイオードが遮断状態を維持するのは、表面電極44と裏面電極45間に逆バイアス電圧が印加されるため、ドリフト領域42とヘテロ半導体領域43間のヘテロ接合面からドリフト領域42中に空乏層が伸びるためである。半導体スナバ回路200も、キャパシタ210として機能する誘電領域12が高電圧により充電された状態になり、遮断状態を維持する。
このように、下アームのスイッチング素子Gが導通状態の時には、上下アームの受動素子は第2の実施形態と同様に機能する。
次に、下アームのスイッチング素子Gがターンオフして遮断状態に移行する場合について説明する。
図27に示すようなモータ用インバータ回路(L負荷回路)では、スイッチング素子Gがターンオフする際には、電圧上昇と電流遮断の位相がずれる。このため、導通時の電流をほぼ維持した状態で、まずスイッチング素子Gの電圧上昇が起こる。
スイッチング素子Gと並列接続されている受動素子Fでは、還流ダイオード100及び半導体スナバ回路200それぞれに過渡電流が流れる。これは、スイッチング素子Gの電圧上昇に伴って、受動素子Fに印加される電圧が、オン電圧程度の低い逆バイアス電圧から電源電圧程度の高電圧の逆バイアス電圧に変化するため、その電圧変化の速度に応じた過渡電流が流れるためである。即ち、還流ダイオード100においては、電圧の上昇に伴ってヘテロ半導体領域43側からドリフト領域42中に空乏層が広がる際に、電子が裏面電極45側に過渡電流として流れる。半導体スナバ回路200においては、キャパシタ210として働く誘電領域12が印加電圧に応じて充電されるため、過渡電流が流れる。
上記のように、半導体スナバ回路200の誘電領域12におけるキャパシタ容量の充電作用によって、スイッチング素子Gのコレクタ−エミッタ間に生じる過渡的な電圧上昇が緩和され、回路中に含まれる寄生インダクタンスによるサージ電圧の発生が抑制される。つまり、第3の実施形態においては、還流ダイオード100及び半導体スナバ回路200をスイッチング素子600と並列接続することで、スイッチング素子600自体がターンオフ動作する際にも、素子破壊や他の周辺回路への誤動作等を引き起こすサージ電圧を低減することができる。
炭化珪素からなるMOSFETでは、電圧上昇後、電流は急峻に遮断される。これは、第2の実施形態で説明したIGBTとは異なり、導通時にMOSFETがユニポーラ動作をしているため、電圧の上昇によって空乏層から吐き出された電子電流が空乏層の伸びの速さに応じて遮断されるためである。つまり、スイッチング素子600が炭化珪素からなるMOSFETであることによって、導通時においては低オン抵抗を実現できるものの、スイッチング素子の遮断性能の速さによって、スイッチング素子600自体のターンオフ時に振動現象が生じやすい。更に、オン抵抗が小さいため振動現象がなかなか減衰しないという問題が生じる。
しかし、第3の実施形態においては、スイッチング素子600が炭化珪素からなるMOSFETであっても、スイッチング素子600と並列に半導体スナバ回路200が配置されているため、効果的に振動現象を緩和することができる。つまり、スイッチング素子600の電流が遮断された際に、回路中の寄生インダクタンスと共振して電流及び電圧に振動現象が始まるものの、半導体スナバ回路200の誘電領域12からなるキャパシタ210にも同等の電圧が印加され、相応の過渡電流が流れ始める。すると、キャパシタ210及び抵抗220によって電流振動の傾き(dI/dt)が緩和され、基板領域11の抵抗成分により寄生インダクタンスLsに生じたエネルギーが消費されるため、振動現象を素早く収束できる。このことから、第3の実施形態のように、スイッチング素子600がユニポーラ型で高速遮断性能を有している場合にも、振動現象を抑制することができる。
また、スイッチング素子600が導通損失のより小さいワイドギャップ半導体からなり、振動現象が減衰しにくい構成であっても、導通損失を悪化させることなく、容易に振動現象を減衰させることができる。このように、第3の実施形態においては、スイッチング素子600における導通損失と過渡損失の抑制を高い次元で両立できるような構成、即ち、スイッチング素子600が、高速動作が可能なユニポーラ型のスイッチング素子であることや低オン抵抗が実現できるワイドバンドギャップ半導体である場合に、更に高い効果を引き出すことができる。
スイッチング素子600の電流が遮断した後は、下アームのスイッチング素子G及び受動素子Fは定常オフ状態となり、遮断状態を維持する。
一方、上アームのスイッチング素子Eと並列に接続されている受動素子Bは、下アームのスイッチング素子Gのターンオフ動作に連動して、順バイアス状態となり導通状態に移行する。図29に示す還流ダイオード100のドリフト領域42中に広がっていた空乏層が後退し、ヘテロ半導体領域43とドリフト領域42との間に形成されているヘテロ接合部にヘテロ障壁高さに応じた順バイアス電圧が印加されると、還流ダイオード100は導通状態となる。ヘテロ接合ダイオードにおいては、ヘテロ接合部からドリフト領域42側及びヘテロ半導体領域43側にそれぞれ広がる内蔵電位の和によって決まる電圧降下で順方向電流が流れるものの、価電子帯側の正孔に対するヘテロ障壁が大きいため、電流はドリフト領域42中を裏面電極45側から供給される電子電流のみでほぼ構成されており、ユニポーラ動作をする。このとき、第2の実施形態で説明したショットキーバリアダイオードでは、ショットキー障壁高さが表面電極13のショットキーメタル固有の仕事関数差で一義的に決まる為、所定の耐圧を得るために、ドリフト領域42の不純物濃度や厚みが制限される。これに対し、第3の実施形態においては、ヘテロ接合ダイオードのヘテロ障壁の高さをヘテロ半導体領域43の不純物濃度を制御することによって変えることができるため、ドリフト領域42の抵抗をより低抵抗にすることができる。つまり、導通時の損失をより低減することができる。
また、図6に示す半導体スナバ回路200においては、還流ダイオード100が逆バイアス状態から順バイアス状態に移行する際に、誘電領域12に充電されていた電荷が過渡電流として放電される。第3の実施形態では、誘電領域12によるキャパシタ210としての静電容量が還流ダイオード100及びスイッチング素子600に形成されていた空乏容量と同程度と小さい。このため、放電によって過渡電流は流れるものの、半導体スナバ回路200に並列接続する還流ダイオード100に流れる順バイアス電流と比べるとほとんど影響がない大きさである。半導体スナバ回路200は、過渡電流が流れた後は定常状態に移行し電流は遮断される。
受動素子Bに並列接続されているスイッチング素子Eについても、ドレイン−ソース間の電圧は逆バイアス電圧状態から順バイアス状態に移行するものの、ゲート信号がオフ状態を維持するように制御されること、及び、ウェル領域53とドリフト領域52間のPN接合が順バイアス状態となるものの、内蔵電位が2〜3Vと大きいことから、オフ状態を維持する。ただし、ドレイン−ソース間の電圧状態が変化するため、スイッチング素子600のドリフト領域52中に生じていた空乏層の容量変化に伴う放電による過渡電流は流れる。しかし、この過渡電流は、放電により半導体スナバ回路200に流れる過渡電量と同様に、還流ダイオード100に流れる順バイアス電流に比べるとほとんど影響がない大きさである。このように、上アームの半導体スナバ回路200及びスイッチング素子600は、過渡電流が流れた後は定常状態に移行し電流は遮断され、還流ダイオード100のみが導通状態となる。
次に、下アームのスイッチング素子Gがターンオンし、再びスイッチング素子Gがオン状態に移行する動作について説明する。
既に説明したように、図27に示したモータ用インバータ回路(L負荷回路)では、スイッチング素子Gがターンオンする際には、比較的高い電圧が印加された状態でスイッチング素子Gに電流が流れ始める。スイッチング素子Gに電流が流れてドレイン−ソース間の電圧が低下するのに伴って、受動素子Fに印加される電圧が電源電圧程度の高電圧の逆バイアス電圧からオン電圧程度の低い逆バイアス電圧に変化する。この電圧変化の速度に応じた過渡電流が、受動素子Fの還流ダイオード100及び半導体スナバ回路200に流れる。つまり、還流ダイオード100においては、電圧の減少に伴ってドリフト領域42中に広がっていた空乏層がヘテロ半導体領域43側に徐々に狭まり、裏面電極45側からドリフト領域42中に電子が過渡電流として流れる。半導体スナバ回路200においては、キャパシタ210として働く誘電領域12が印加電圧の減少と共に放電され、過渡電流が流れる。この過渡電流は、スイッチング素子600に流れるターンオン電流と比べるとほとんど影響がない大きさである。このように、下アームの半導体スナバ回路200及び還流ダイオード100は、過渡電流が流れた後は定常状態に移行し電流は遮断され、スイッチング素子600のみが導通状態となる。
一方、上アームのスイッチング素子Eと並列に接続されている受動素子Bは、下アームのスイッチング素子Gのターンオン動作に連動して、逆バイアス状態となり遮断状態に移行する。つまり、ヘテロ接合ダイオードである還流ダイオード100においては、裏面電極45側からドリフト領域42中に供給されていた電子電流が順バイアス電圧の低下と共に減少する。そして、順バイアス電圧がヘテロ接合部のヘテロ障壁高さに応じた電圧以下になり、更にヘテロ接合部に逆バイアス電圧が印加されると、ヘテロ半導体領域43とのヘテロ接合部から伸びた空乏層がドリフト領域42中に生じ、還流ダイオード100は遮断状態に移行する。
第3の実施形態において使用されるヘテロ接合ダイオードは、第1の実施形態及び第2の実施形態で説明したショットキーバリアダイオードと同様に、ユニポーラ動作する。このため、一般的なシリコンで形成されたPN接合ダイオードに比べると逆回復電流は格段に小さい。つまり、逆回復損失を大幅に低減することができる。
更に、第3の実施形態においては、ショットキーバリアダイオードよりも導通損失を低減可能なヘテロ接合ダイオードと半導体スナバ回路200とを組み合わせることによって、導通損失と過渡損失を高い次元で両立することができる。即ち、第3の実施形態においては、還流ダイオード100が逆回復動作する場合に、逆バイアス電圧が印加されて過剰キャリアで構成される逆回復電流がドリフト領域42中に流れ始めるのとほぼ同時に、スイッチング素子600及び半導体スナバ回路200の誘電領域12からなるキャパシタ210にも同等の逆バイアス電圧が印加され、スイッチング素子600及び半導体スナバ回路200中にも相応の過渡電流が流れ始める。放電による過渡電流が還流ダイオード100及びスイッチング素子600に流れる過渡電流とほぼ同等となるように、キャパシタ210の大きさは設定されている。このため、下アームのスイッチング素子Gのスイッチング速度をほぼ変えることなく、逆回復電流の遮断速度(dI/dt)を緩和することができる。更に、半導体スナバ回路200に流れる電流は基板領域11の抵抗成分で消費されるため、寄生インダクタンスLsで生じたエネルギーを吸収し、振動現象を素早く収束することができる。つまり、還流ダイオード100をヘテロ接合ダイオードにして導通損失が小さくなっても、第2の実施形態で説明したショットキーバリアダイオードを用いた場合と同様に、ユニポーラ動作に起因する振動現象を半導体スナバ回路200により解決できる。
以上のように、低オン抵抗を実現できるヘテロ接合ダイオードを使用することにより、更に高い効果を引き出すことができる。
第3の実施形態においても、還流ダイオード100及びスイッチング素子600に流れる過渡電流が、高々ドリフト領域42及び52に空乏層が形成される際に発生するキャリアのみであることに着目し、スナバ回路を半導体スナバ回路200で形成している点が従来技術と異なる。
また、スイッチング素子600もユニポーラ型とすることで、還流ダイオード100が逆回復動作をする場合に加えて、スイッチング素子600がターンオフする場合においても、全電流範囲、全温度範囲においてスナバ機能が有効に働く。
スイッチング素子600に、MOSFET以外の、例えば図31及び図32に示すような他のユニポーラ素子を用いても同様の効果を得ることができる。
図31に示したスイッチング素子600は、例えば炭化珪素のポリタイプが4HタイプのN+型である基板領域61上にN-型のドリフト領域62が形成され、ドリフト領域62の基板領域61との接合面に対向する主面上に、例えばN型の多結晶シリコンからなるヘテロ半導体領域63が形成された構造である。つまり、ドリフト領域62とヘテロ半導体領域63の接合部は、バンドギャップが異なる炭化珪素材料と多結晶シリコン材料によるヘテロ接合であり、この接合界面にエネルギー障壁が存在する。ヘテロ半導体領域63とドリフト領域62上に例えばシリコン酸化膜からなるゲート絶縁膜64が形成され、ゲート絶縁膜64上にゲート電極65が形成されている。更に、ゲート絶縁膜64に形成された開口部においてヘテロ半導体領域63と接するソース電極66が形成され、ゲート電極65とソース電極66間には例えばシリコン酸化膜からなる層間絶縁膜67が形成されている。また、基板領域61に接続してドレイン電極68が形成されている。
次に、図31に示したスイッチング素子600の動作について説明する。図31に示したスイッチング素子600においても、MOSFETと同様に、ソース電極66を接地しドレイン電極68に正電位を印加して使用する。
ゲート電極65を接地電位又は負電位とした場合、スイッチング素子600は遮断状態を保持する。ヘテロ半導体領域63とドリフト領域62とのヘテロ接合界面に、伝導電子に対するエネルギー障壁が形成されているためである。
遮断状態から導通状態に移行させるために、ゲート電極65に正電位を印加した場合、ゲート絶縁膜64を介してゲート電界が及ぶヘテロ半導体領域63及びドリフト領域62の表層部に、電子の蓄積層が形成される。このため、ヘテロ半導体領域63及びドリフト領域62の表層部は自由電子が存在可能なポテンシャルとなり、ドリフト領域62側に伸びていたエネルギー障壁が急峻になり、エネルギー障壁厚みが薄くなる。その結果、スイッチング素子600に電子電流が流れる。このとき、スイッチング素子600の導通・遮断を制御する所謂チャネル部分の長さは、ヘテロ障壁によって形成されるエネルギー障壁の厚み程度であり、MOSFETにおいて耐圧保持に必要なチャネル長に比べて小さいため、より低抵抗で導通する。このため、半導体スナバ回路200によって、導通損失と過渡損失を更に高いレベルで両立することができる
図31に示したスイッチング素子600において、導通状態から遮断状態に移行させるために再びゲート電極65を接地すると、ヘテロ半導体領域63とドリフト領域62間のヘテロ接合界面に形成されていた伝導電子の蓄積状態が解除され、エネルギー障壁中のトンネリングが止まる。ヘテロ半導体領域63からドリフト領域62への伝導電子の流れが止まり、更にドリフト領域62中にあった伝導電子が基板領域61に流れて枯渇すると、ドリフト領域62側にヘテロ接合部から空乏層が広がり、スイッチング素子600は遮断状態となる。
また、図31に示したスイッチング素子においては、ソース電極66を接地し、ドレイン電極68に負電位が印加された逆方向導通(還流動作)も可能である。例えばソース電極66及びゲート電極65を接地し、ドレイン電極67に所定の正電位を印加すると、伝導電子に対するエネルギー障壁は消滅し、ドリフト領域62側からヘテロ半導体領域63側に伝導電子が流れ、逆導通状態となる。このとき、正孔の注入はなく伝導電子のみで導通するため、逆導通状態から遮断状態に移行する際の逆回復電流による損失は小さい。なお、ゲート電極65を接地にせずに制御電極として使用することも可能である。
図31に示した構成はユニポーラ型の還流ダイオードとしても使用できるため、例えば、還流ダイオード100を図31に示した構成により実現することができる。即ち、図31に示した構成をスイッチング素子600として使用する場合、スイッチング素子600と還流ダイオード100を別チップで形成する以外にも、還流ダイオード100とスイッチング素子600を1チップ化して、半導体パッケージを小型化することができる。これにより、配線等に生じる寄生インダクタンスが低減され、振動現象を更に低減することができる。配線長を短くすることには、振動電流によって配線から発せられる放射ノイズを低減させる効果もある。また、チップサイズの縮小によって製造コストが低減されると共に、還流ダイオード100とスイッチング素子600とのキャパシタ容量の和が小さくなるため、半導体スナバ回路200に必要なキャパシタ210の静電容量も小さくすることができる。つまり、小型の半導体スナバ回路200により、低コストで振動現象を抑制することができる。
なお、図31においては、ヘテロ半導体領域63の材料として多結晶シリコンを用いる例で説明したが、炭化珪素とヘテロ接合を形成する材料であれば、単結晶シリコン、アモルファスシリコン等他のシリコン材料やゲルマニウムやシリコンゲルマン等他の半導体材料や6H、3C等炭化珪素の他のポリタイプ等、どの材料をヘテロ半導体領域63に使用してもかまわない。また、一例として、ドリフト領域62としてN型の炭化珪素を用い、ヘテロ半導体領域63としてP型の多結晶シリコンを用いて説明しているが、ドリフト領域62とヘテロ半導体領域63を、N型の炭化珪素とP型の多結晶シリコン、P型の炭化珪素とP型の多結晶シリコン、或いはP型の炭化珪素とN型の多結晶シリコンとする等、如何なる組み合わせを採用してもよい。
次に、図32に示した接合型FET(JFET)と呼ばれる接合型のFETについて説明する。図32に示したスイッチング素子600は、例えば炭化珪素のポリタイプが4HタイプのN+型である基板領域71上にN-型のドリフト領域72が形成され、ドリフト領域72の表層部の一部にP型のゲート領域73とN+型のソース領域74が形成された構造である。ドリフト領域72、ゲート領域73及びソース領域74上に層間絶縁膜77が形成されている。層間絶縁膜77の開口部において、ゲート領域73はゲート電極75に接続され、ソース領域74はソース電極76に接続されている。基板領域71はドレイン電極78に接している。
図32に示したJFETは、MOSFETと同様にユニポーラ動作をするため、既に述べたスイッチング素子600がMOSFETである場合に得られる効果と同様の効果を得ることができる。更に、JFETではMOSFETに必須のゲート絶縁膜が不要のため、例えば200℃を超えるような高い温度でのオペレーションが比較的容易であり、信頼性の確保という観点で有利である。このことから、スイッチング素子600にJFETを用いることで、本発明の効果である使用温度領域によらず振動現象を抑制できる点をより強みとして活かすことができる。なお、高温用途においては、例えば図13、図14等に示したように、半導体スナバ回路200のキャパシタ210としてシリコン酸化膜を用いない空乏容量を用いる構成のほうが、信頼性を確保しつつ、効果を発揮することができる。
このように、スイッチング素子600についてMOSFET以外のスイッチング素子を用いた場合の効果について説明してきたが、還流ダイオード100についても、ユニポーラ動作若しくはユニポーラ動作と同等の動作をするダイオードであれば、これまで説明してきた本発明の効果と同様の効果を得ることができる。
例えば、図33に示すようなPN接合ダイオードの構造であっても、金や白金を用いた重金属拡散、電子線を用いた電子線照射、プロトン等を用いたイオン照射等の方策によって、導通時にP型領域から注入される過剰キャリアの主成分である少数キャリアのライフタイムを制御することにより、ユニポーラ動作と同等の動作をする。この場合、還流ダイオード100がPN接合ダイオードの構造であっても、本発明の効果が得られる。
例えば、図33に示すPN接合ダイオードがソフトリカバリダイオードで構成されている場合について説明する。図33に示す還流ダイオード100は、例えばシリコンからなるN+型の基板領域81上にN-型のドリフト領域82が形成された基板材料で構成されている。基板領域81は、例えば抵抗率が数mΩcmから数十mΩcm、厚さが数十μm〜数百μm程度である。ドリフト領域82は、例えばN型の不純物密度が1013cm-3〜1017cm-3、厚みが数μm〜数百μmである。ここでは、不純物密度が1014cm-3、厚みが50μmで耐圧が600Vクラスのドリフト領域82であるとする。図33は、半導体基体が基板領域81とドリフト領域82の二層からなる基板の場合について示しているが、抵抗率の大きさは上記の一例にはよらない基板領域81のみで形成された基板を使用してもかまわないし、多層の基板を使用してもかまわない。また、耐圧は600Vクラスに限定されないことはもちろんである。
図33に示すように、ドリフト領域82の基板領域81との接合面に対向する主面上にP型の反対導電型領域83が形成され、反対導電型領域83上に表面電極84が形成されている。また、基板領域81に接して裏面電極85が形成されている。なお、図33に示した還流ダイオードはPN接合のみで形成されているが、例えば一部がショットキーダイオードとして働くように構成されていてもよいし、他の構成を含んでいてもよい。
図33に示したPN接合ダイオードがソフトリカバリダイオードとして働くようにするひとつの手法として、導通時にドリフト領域82中に注入される少数キャリアのライフタイムを制御する方法がある。例えば、ドリフト領域82にイオン照射する等して、反対導電型領域83に近い領域と基板領域81に近い領域とでドリフト領域82中の少数キャリアのライフタイムが異なるように制御する。これにより、逆回復時に流れる少数キャリアによる過渡電流を小さくしつつ、基板領域81側に滞留していた少数キャリアの減少時間を緩和し、大電流時の逆回復動作においては振動現象が起こらないようにすることができる。
しかしながら、少数キャリアのライフタイムを制御したPN接合ダイオードにおいては、電流の大きさによらず少数キャリアのライフタイムが短くなる。このため、電流が小さいときには、逆回復時において瞬時に少数キャリアが消滅してしまい、PN接合ダイオードがほとんどユニポーラ動作と同じ動作をする。この場合は、図33に示したダイオードに流れる過渡電流は、図5等を参照して説明したユニポーラ型のダイオードと同じように空乏層が広がる際の多数キャリアの移動による電流である。このため、半導体スナバ回路200が無い状態だと振動現象が生じる。しかし、還流ダイオード100に半導体スナバ回路200を並列接続することで、低電流時においての振動現象を緩和することができる。
したがって、ソフトリカバリダイオードである還流ダイオード100と半導体スナバ回路200との組み合わせによっても、大電流時も小電流時も振動現象を緩和することができる。なお、ここではソフトリカバリダイオードを一例として第3の実施形態の効果を説明したが、大電流時に逆回復特性がソフト化されていないファストリカバリダイオードを用いた場合にも、ユニポーラ動作と同等の動作をする電流領域があれば、少なくとも低電流時の振動現象を抑制する効果を得ることができる。また、例えば炭化珪素からなるPN接合ダイオード等の、シリコン材料に比べて熱処理による結晶の回復が起こりにくい材料においては、イオン注入によってP型領域を形成した場合等のような少数キャリアのライフタイムが元々小さいダイオードにおいても、上記で説明したように、振動現象を抑制する効果を得ることができる。また、いずれの構造においても、少なくとも電流が流れず少数キャリアが注入されない条件でPN接合ダイオードを逆回復動作させる場合に、本発明の効果を得ることができる。
このように、少なくともユニポーラ動作と同等の動作を一部でも行う還流ダイオード100であれば、逆回復動作時に振動現象を低減するという本発明の効果を得ることができる。
なお、図33に示した還流ダイオード100は、第1の実施形態で説明したスイッチング素子600が還流ダイオード100に並列接続されていない場合でも、同様の効果を発揮する。つまり、還流ダイオード100と半導体スナバ回路200のみを並列接続としてもよい。
更に、第3に実施形態においては、還流ダイオード100とスイッチング素子600の素子の組み合わせが第2の実施形態で説明した組み合わせと異なる場合について説明したが、還流ダイオード100とスイッチング素子600の素子は、第1〜第3の実施形態で説明したどの素子を用いて組み合わせてもよい。即ち、例えば還流ダイオード100に第2の実施形態で説明したショットキーバリアダイオードを用い、スイッチング素子600に第3に実施形態で説明したMOSFETを用いた組み合わせでもよい。また、還流ダイオード100とスイッチング素子600を同一チップ上に形成していてもよい。
また、還流ダイオード100とスイッチング素子600とをいずれの素子を用いて組み合わせても、第1の実施形態及び第2の実施形態において図4、図11、図12、図24、図25等を参照して説明した実装構造を採用することで、還流ダイオード100及びスイッチング素子600のそれぞれにおいてチップの放熱性を向上することができる。
また、第1の実施形態において図20及び図21を参照して説明したのと同様に、スナバ回路に用いるキャパシタの静電容量C、及び遮断状態における還流ダイオードとスイッチング素子とのキャパシタ容量成分の総和が静電容量C0であるとき、容量比C/C0が0.1前後から振動現象の減衰効果が顕著になり、容量比C/C0が10を超える辺りから振動現象の収束時間比の値が飽和傾向になる。また、過渡動作時にはスナバ回路に形成するキャパシタの静電容量の大きさに比例する過渡電流によって損失Eが発生するため、キャパシタの静電容量Cは極力小さいことが好ましい。
したがって、第3の実施形態で用いるスナバ回路200のキャパシタ210の静電容量は、還流ダイオード100及びスイッチング素子600の遮断状態におけるキャパシタ成分の静電容量の総和に比べて、1/10倍以上10倍以下の範囲で選択する。これにより、損失の増加を抑えつつ、より顕著に振動現象を低減することができる。この効果は、第3の実施形態で説明したどの構成例においても得ることができる。
(第4の実施形態)
第4の実施形態は、還流ダイオード100と半導体スナバ回路200が同一チップ上に形成された場合について例示する。
図34は図3に対応する半導体チップの実装図の一例であり、図35は図4に対応する実装構造体図の一例である。図36は図34及び図35の実装図に用いられている半導体チップの断面構造図の一例であり、還流ダイオード100と半導体スナバ回路200が形成された半導体チップの断面構造を示す。以下では、第1の実施形態と同様の部分の説明は省略し、異なる特徴について詳しく説明する。
図34に示すように、還流ダイオード100と半導体スナバ回路200を含むスナバ回路内蔵還流ダイオード800が配置されたチップ(スナバ内蔵還流ダイオードチップ、図中に符号800で表示)が、カソード側の金属膜410上に2チップ配置されている。スナバ回路内蔵還流ダイオード800のカソード端子は、例えば半田やろう材等の接合材料を介して、カソード側の金属膜410と接する。スナバ回路内蔵還流ダイオード800には、還流ダイオード100が形成された還流ダイオード領域2100と半導体スナバ回路200が形成された半導体スナバ領域2200とが配置されている。第4の実施形態においては、図34に示すように、2つのスナバ内蔵還流ダイオードチップが、互いの半導体スナバ領域2200が形成された領域が対面するように配置されている。そして、スナバ回路内蔵還流ダイオード800のアノード端子は、例えばアルミニウムワイヤやアルミニウムリボン等の金属配線320を介して、アノード側の金属膜310に接続されている。
第4の実施形態においても、図34に示した半導体パッケージは、放熱性を向上し安定的に性能を発揮するために、例えば図35に示すような実装構造体に組み込まれて使用する。図35に示すように、絶縁基板500の裏面側に、例えば金属膜310や金属膜410と同様の金属膜からなる裏面金属膜1000が形成されている。図4や図24を参照して説明したように、裏面金属膜1000は、半導体パッケージの支持構造体としての機能と熱伝導の機能を有するベースプレート1100上に形成されている。ベースプレート1100は、冷却構造体1200と接するように構成されている。ただし、ベースプレート1100と冷却構造体1200は直接に接触してもよいし、シリコングリース等の密着材料を介して接触してもよい。また、冷却構造体1200は放熱する方式は、空冷式であっても水冷式であってもよいが、第4の実施形態においては、冷却構造体1200の所定部に水流路1300が形成された水冷式の冷却構造を採用する例を示した。
図36に、スナバ内蔵還流ダイオードチップの断面構造を示す。半導体スナバ内蔵還流ダイオード800は、図36中の右側破線の右側に形成される還流ダイオード100の部分と、図36中の左側破線の左側に形成される半導体スナバ回路200の部分で構成されている。
還流ダイオード100の部分は、例えば炭化珪素のポリタイプが4HタイプのN+型である基板領域1上に、N-型のドリフト領域2が配置された基板材料で構成されている。基板領域1は、例えば抵抗率が数mΩcm〜数十mΩcm、厚さが数十〜数百μm程度である。ドリフト領域2は、例えばN型の不純物密度が1015cm-3〜1018cm-3、厚みが数μm〜数十μmである。第4の実施形態では、不純物密度が1016cm-3、厚みが5μmで耐圧が600Vクラスのドリフト領域2が採用可能である。ただし、耐圧クラスは600Vクラスに限定されない。なお、第4の実施形態においても、半導体基体が基板領域1とドリフト領域2の二層からなる基板の場合について説明するが、抵抗率の大きさが上記の一例にはよらない基板領域1のみで形成された基板を使用してもかまわないし、多層の基板を使用してもかまわない。
図36に示した右側破線の右側に形成される還流ダイオード100の部分では、ドリフト領域2の基板領域1との接合面に対向する主面上に表面電極3が形成され、表面電極3に対向して、基板領域1と接触する裏面電極4が形成されている。表面電極3は、ドリフト領域2との間でショットキー障壁を形成する金属材料を少なくとも含む単層若しくは多層の金属材料からなる。ショットキー障壁を形成する金属材料として、チタン、ニッケル、モリブデン、金、白金等を用いることができる。また、表面電極3はアノード端子300として外部電極と接続するため、最表面にアルミニウム、銅、金、ニッケル、銀等の金属材料を用いて多層の構造としてもよい。一方、裏面電極4は基板領域1とオーミック接続する電極材料からなる。基板領域1とオーミック接続する電極材料の例としてはニッケルシリサイドやチタン材料等が挙げられ、裏面電極4はカソード端子400として外部電極と接続する。このように、図36に示した還流ダイオード100は、表面電極3をアノード端子、裏面電極4をカソード端子とするダイオードとして機能する。
更に、図36に示すように、還流ダイオード100が形成される領域を除いて、ドリフト領域2と表面電極3間に、例えばシリコン酸化膜からなるフィールド絶縁膜5が形成されている。フィールド絶縁膜5は、還流ダイオード100を半導体チップとして製造する際に、例えばチップ外周部のショットキー接合部における電界集中を緩和するために一般的に用いられるフィールド絶縁膜である。図36においては、フィールド絶縁膜5の端部形状の一例として、表面電極3と接する部分が直角の場合を示しているが、端部が鋭角形状になっていてもよい。
また、フィールド絶縁膜5が形成される還流ダイオード100の外周端部において、例えば図37に示すように、表面電極3とフィールド絶縁膜5とが接する部分の直下のドリフト領域2中に、P型の電界緩和領域7を形成してもよい。更に、図37に示した構成に加えて、電界緩和領域7の外周を囲むように、1本若しくは複数のガードリングを形成してもよい。
次に、図36中の左側破線の左側に形成される半導体スナバ回路200について説明する。還流ダイオード100の外周端部の電界緩和に用いられているフィールド絶縁膜5の所定領域上に、例えば多結晶シリコンからなる抵抗領域6が形成されている。そして、抵抗領域6上に表面電極3が形成され、この表面電極3は、還流ダイオード100のアノード端子が接続するアノード端子300に接続する。第4の実施形態に係る半導体スナバ回路200では、抵抗領域6が抵抗220として機能し、フィールド絶縁膜5がキャパシタ210の一部として機能する。抵抗220に必要な抵抗値の大きさに応じて、抵抗領域6の不純物濃度や厚みを設定することができる。また、フィールド絶縁膜5についても、キャパシタ210に必要な耐圧や静電容量の大きさに応じて、厚みや面積を設定することができる。
耐圧については、半導体スナバ回路200の機能としてだけではなく、還流ダイオード100の電界緩和という機能を満たすために、フィールド絶縁膜5の破壊防止のため、還流ダイオード100で形成されるショットキーバリアダイオードよりも耐圧が高いことが好ましい。また、キャパシタ210の静電容量は、還流ダイオード100が遮断状態時(高電圧印加時)に充電される空乏容量に対して、100分の1程度から100倍程度の範囲で選ぶことができる。ただし、十分なスナバ機能を発揮し、且つ損失の増加を極力抑え、必要となるチップ面積を考慮すると、後述する計算結果に示すように、概ね10分の1程度から10倍程度の範囲が好ましい。
第4の実施形態においては、還流ダイオード100のショットキーバリアダイオードよりも耐圧が高くなるように例えば厚みを1μmとし、キャパシタ210の静電容量が還流ダイオード100の遮断状態時に形成される空乏容量と同程度にした場合について説明する。なお、フィールド絶縁膜5は、シリコン酸化膜以外の材料でも、所定の耐圧を有し、且つ電界緩和機能とキャパシタ210として機能する誘電材料であればどのような材料でも良く、絶縁破壊電界と比誘電率との積の値がシリコン酸化膜の値よりも大きい材料であれば、更によい。そのような材料をフィールド絶縁膜5に用いた場合には、誘電領域12の絶縁耐圧を維持しつつ、シリコン酸化膜の場合より少ない面積で必要な静電容量を得ることができる。
例えば、第1の実施形態で説明したように、厚みが1μmの場合に1cm2当たりの静電容量は約3.4nF程度になるシリコン酸化膜に対し、シリコン酸化膜の代わりにSi3N4膜を用いた場合、厚みが1μmで同等の耐圧を確保することができ、Si3N4膜を用いた場合の1cm2当たりの静電容量は6.6nF程度である。つまり、フィールド絶縁膜5にSi3N4膜を用いると静電容量が約2倍程度大きくなり、誘電領域の絶縁耐圧を維持しつつ、より大きな静電容量を得ることができる。したがって、面積効率が向上し、ウェハコストを低減することができる。
また、抵抗領域の抵抗の大きさは、既に説明したように、効果的にスナバ機能を発揮する一般的な設計式C=1/(2πfR)を満たすように設定するのが好ましい。
このように、同一チップ上に還流ダイオード100と半導体スナバ回路200が形成された場合にも、第1の実施形態で説明した動作及び効果を得ることができる。
図36に示した第4の実施形態においては、還流ダイオード100と半導体スナバ回路200が支持基体としての基板領域1及びドリフト領域2を共用し、且つ、電極材として表面電極3及び裏面電極4を共用している。更に、還流ダイオード100の電解緩和機能として働くフィールド絶縁膜5は、半導体スナバ回路200のキャパシタ210として機能する。これら共用する部分については、同一プロセスで形成することができるため、製造プロセスを簡易化することができる。また、還流ダイオード100と半導体スナバ回路200を1チップ化することによって、実装面積(敷地面積)を減らすことができるため、半導体パッケージを小型化することができる。
更に、第4の実施形態をL負荷回路に用いた場合には、還流ダイオード100と半導体スナバ回路200とを1チップ化した新たな効果を奏する。即ち、既に説明したように、還流ダイオード100が遮断時及び導通時には半導体スナバ回路200は動作せずに過渡時のみ動作をし、還流ダイオード100の空乏容量並びに半導体スナバ回路200のキャパシタ210に起因して発生する過渡電流を消費するために抵抗220で発熱する。一方、還流ダイオード100においては、ターンオンおよびターンオフの過渡動作時においては、電流と電圧の位相ずれの影響であまり発熱しない。したがって、還流ダイオード100が最も発熱するのは定常状態の導通時となる。つまり、還流ダイオード100と半導体スナバ回路200とで、一連の動作中で発熱するタイミングが異なる。例えば還流ダイオード100の部分が導通時に発熱している際には半導体スナバ回路200の部分は遮断状態にあり発熱していないため、1チップ化した場合にチップ全体としての温度上昇を、別チップの場合と比べて低く抑えることができる。つまり、1チップ化することによって、還流ダイオード100の導通性能も向上することができる。
更に、第4の実施形態の特徴としては、スナバ回路内蔵還流ダイオード800の還流ダイオード100が形成された還流ダイオード領域2100が、2チップ分の半導体スナバ領域2200を介して対面するように実装されているため、更に高い放熱性を有する。もちろん、図38に示すように、2つの還流ダイオード領域2100の間に1チップ分の半導体スナバ領域2200が形成されていても放熱性向上の効果を奏する。しかし、半導体スナバ領域2200が対面するように2つのスナバ回路内蔵還流ダイオード800を配置することにより、還流ダイオード領域2100が対面するように配置する場合に比べて、還流ダイオード領域2100同士の距離を2倍程度まで広げることができる。このため、各熱源となる還流ダイオード領域2100間の熱の干渉が起こりにくく、より放熱性能が高まる。
また、スナバ内蔵還流ダイオードチップを3チップ以上並列実装する場合においても、還流ダイオード領域2100間に少なくとも1チップ分の半導体スナバ領域2200を配置することで、容易に放熱性を高めることができる。更に、例えばスナバ回路内蔵還流ダイオード800内の半導体スナバ領域2200の配置を変えることで、さまざまな並列数に対応可能である。例えば、スナバ回路内蔵還流ダイオード800の両側に半導体スナバ領域2200を形成すれば、半導体スナバ領域2200が対面するように配置することは可能であるし、図39に示すように、4つのスナバ内蔵還流ダイオードチップを格子状に配置する場合は、互いに対面する位置に半導体スナバ領域2200を形成すれば容易に対応可能である。このことにより、最小限度の実装面積で高い冷却効率をえることができる。
上記のように、第4の実施形態における還流ダイオード100及び半導体スナバ回路200の動作メカニズムにあった実装配置とすることで、本発明の半導体装置の性能を更に向上することができる。第4の実施形態では、振動現象を更に抑制し過渡性能を向上する効果と導通性能とをともに向上すると同時に、小型化且つ低コスト化を実現できる。
図36、37では、還流ダイオード100がショットキーバリアダイオードの場合を説明してきたが、例えば第3の実施形態で説明したヘテロ接合ダイオードの場合でも同様に容易に実現することができる。還流ダイオード100がヘテロ接合ダイオードの場合における、図36に対応する断面図を図40に示す。
図40に示すように、基板領域41、ドリフト領域42、ヘテロ半導体領域43、表面電極44及び裏面電極45からなるヘテロ接合ダイオードに加えて、フィールド絶縁膜46が形成されている。フィールド絶縁膜46は、還流ダイオード100が形成される領域を除いて、ドリフト領域42とヘテロ半導体領域43の間に形成される。フィールド絶縁膜46の所定領域上に、例えば多結晶シリコンからなる抵抗領域47が形成されている。そして、抵抗領域47上に表面電極44が形成され、この表面電極44は、還流ダイオード100のアノード端子が接続するアノード端子300に接続する。なお、図37に示したようにP型の電界緩和領域が形成されていてもよいし、電界緩和領域の外周を囲むようにガードリングが形成されていてもよい。
図40に示したスナバ回路内蔵還流ダイオード800により、第3の実施形態で説明した還流ダイオード100やスイッチング素子600を種々の素子で実現できる効果と共に、第4の実施形態で説明したスナバ回路と還流ダイオードを1チップ化することによる効果を実現することができる。更に、図40に示したスナバ回路内蔵還流ダイオード800の特徴として、抵抗領域47を還流ダイオード100のヘテロ半導体領域43と同一材料で形成する点がある。図40に示した構成にすることによって、還流ダイオード100としてヘテロ接合ダイオードを用いた場合の効果に加え、製造工程を更に簡略化し、低コストで実現することができる。
他にも図41〜図44に示すような構成で、還流ダイオード100と半導体スナバ回路200を1チップ化することができる。
図41に示した構成は、半導体スナバ回路200の抵抗220を、ドリフト領域42の一部を低濃度ドリフト領域8で構成している点が図36に示した構成と異なる。図41に示した構成は、例えば基板領域1と低濃度ドリフト領域8を積層した半導体材料を用いて、不純物導入と不純物の活性化によってドリフト領域2を形成することで容易に実現できる。図41に示した構成にすることによって、還流ダイオード100と半導体スナバ回路200を1チップ化する場合において、半導体基板を抵抗成分として使用することもでき、振動現象で生じる熱エネルギーが半導体基板を通して放熱されるため、抵抗部分の高密度化が可能となる。
図42に示した構成は、還流ダイオード100としてショットキーバリアダイオードの代わりに図33に示したユニポーラ動作と同等の動作を有するPN接合ダイオードを構成した点が、図36に示した構成と異なる。図42に示した構成を採用しても、チップ化が容易に実現でき、振動現象を更に抑制し過渡性能を向上する効果と導通性能とがともに向上すると同時に、小型化と低コスト化を実現できる。
図43に示した構成は、半導体スナバ回路200の抵抗220を低濃度ドリフト領域88で構成している点が、図42に示した構成と異なる。図43に示した構成は、例えば基板領域81と低濃度ドリフト領域88を積層した半導体材料を用いて、不純物導入と不純物の活性化によってドリフト領域82を形成することで容易に実現できる。図43に示した構成にすることによって、還流ダイオード100と半導体スナバ回路200を1チップ化する場合においても、半導体基板を抵抗成分として使用することもでき、振動現象で生じる熱エネルギーが半導体基板を通して放熱されるため、抵抗部分の高密度化が可能となる。
図44に示した構成は、半導体スナバ回路200のキャパシタ210の一部を反対導電型領域89と低濃度ドリフト領域88との間に形成されるPN接合で構成している点が、図43に示した構成と異なる。図44に示した構成は、例えば基板領域81と低濃度ドリフト領域88を積層した半導体材料を用いて、不純物導入と不純物の活性化によってドリフト領域82を形成し、不純物導入と不純物の活性化によって還流ダイオード100の一部である反対導電型領域83と半導体スナバ回路200の一部である反対導電型領域89とを同時に形成することで、容易に実現できる。図44に示した構成にすることによって、還流ダイオード100と半導体スナバ回路200とを同一プロセスで形成できるため、製造工程を簡略化でき製造コストを低減することができる。
また、図44に示した構成においても、半導体基板の一部を抵抗220として使用することができ、振動現象で生じる熱エネルギーが半導体基板を通して放熱されるため、抵抗部分の高密度化が可能となる。なお、図44に示した構成では、半導体スナバ回路200のキャパシタ210が、反対導電型領域89と低濃度ドリフト領域88との間に形成されるPN接合の空乏容量とフィールド絶縁膜86による容量とが直列に接続した容量であるが、PN接合容量のみの構成としてもよい。
以上、還流ダイオード100と半導体スナバ回路200とを1チップ化した場合の構成を複数例示したが、上記で例示した以外にも、還流ダイオード100と半導体スナバ回路200の素子の組み合わせを替えて、1チップ化してももちろんよい。
また、第4の実施形態においては、第1の実施形態に対応する還流ダイオード100と半導体スナバ回路200のみが並列接続している場合を例示したが、第2の実施形態及び第3の実施形態で示したような、スイッチング素子600が還流ダイオード100や半導体スナバ回路200と並列接続される場合においても、同様に本発明の効果を奏する。このとき、図45に示すように、2チップあるスナバ内蔵還流ダイオードチップの外側にそれぞれ1チップずつスイッチング素子チップを配置することで、スイッチング素子600同士の距離を大きく離して配置することができる。このため、還流ダイオード領域2100間、及びスイッチング素子600間の熱の干渉が起こりにくく、より放熱性能が高まる。
以上に説明したように、第4の実施形態によれば、上記のいずれの構成においても、少なくとも還流ダイオード100と半導体スナバ回路200とを1チップ化することで、振動現象を更に抑制し過渡性能を向上する効果と導通性能とを共に向上させると同時に、小型化と低コスト化を実現できる。
また、第1の実施形態で図20と図21を参照して説明したのと同様に、容量比C/C0が0.1前後から振動現象の減衰効果が顕著になり、容量比C/C0が10を超える辺りから振動現象の収束時間比の値が飽和傾向になる。また、過渡電流による損失Eの発生を考慮して、キャパシタの静電容量は極力小さいことが好ましい。つまり、第4の実施形態で用いる半導体スナバ回路200のキャパシタ210を、還流ダイオード100及びスイッチング素子600の遮断状態におけるキャパシタ成分の静電容量の総和に比べて、1/10倍以上10倍以下の範囲で選択することによって、損失の増加を抑えつつ、より顕著に振動現象を低減することができる。この効果は、第4の実施形態で説明したどの構成例においても得ることができる。
(第5の実施形態)
第5の実施形態においては、図22に示した第2の実施形態の回路において、スイッチング素子600と半導体スナバ回路200が同一の半導体チップ上に形成された場合について例示する。
図46は図23に対応する半導体チップの実装図の一例であり、図47は図25に対応する実装構造体図の一例である。図48は図26に対応する半導体チップの断面構造図の一例であり、スイッチング素子600と半導体スナバ回路200の断面構造を示す。以下では、第2の実施形態と同様の部分の説明は省略し、異なる特徴ついて詳しく説明する。
図46に示すように、スイッチング素子600と半導体スナバ回路200を含むスナバ内蔵スイッチング素子900が形成されたチップ(スナバ内蔵スイッチング素子チップ、図中に符号900で示す)が2チップと、還流ダイオード100が配置されたチップ(還流ダイオードチップ、図中に符号100で示す)が2チップ、カソード側の金属膜410上に配置されている。スナバ内蔵スイッチング素子900には、還流ダイオードが形成されたスイッチング素子領域2600と半導体スナバが形成された半導体スナバ領域2200が形成されている。図46に示すように、2つのスナバ内蔵スイッチング素子チップが、互いの半導体スナバ領域2200が形成された部分が対面するように配置されている。また、還流ダイオードチップは、2つのスナバ内蔵スイッチング素子チップの外側に、1チップずつ配置されている。つまり、還流ダイオード100間に半導体スナバ回路200が配置された構造である。
スナバ内蔵スイッチング素子900のコレクタ端子と還流ダイオード100のカソード端子が、例えば半田やろう材等の接合材料を介して、コレクタ端子401に接続する金属膜410に接している。スナバ内蔵スイッチング素子900のエミッタ端子は、還流ダイオード100のアノード端子と共に、例えばアルミニウムワイヤやアルミニウムリボン等の金属配線350を介して、エミッタ端子301に接続する金属膜310に接続されている。更に、スイッチング素子600のゲート端子は、金属配線710を介して、ゲート端子510に接続する金属膜700に接続される。
第5の実施形態においても、図46に示した半導体パッケージは、放熱性を向上し安定的に性能を発揮するために、例えば図47に示すような実装構造体に組み込まれて使用する。図47に示す実装構造体の絶縁基板500の裏面側には、例えば金属膜310や金属膜410と同様の金属膜からなる裏面金属膜1000が形成されている。図4や図24を参照して説明したように、裏面金属膜1000は、半導体パッケージの支持構造体としての機能と熱伝導の機能を有するベースプレート1100上に形成されている。ベースプレート1100は、冷却構造体1200と接している。ただし、ベースプレート1100及び冷却構造体1200は直接に接触していてもよいし、シリコングリース等の密着材料を介して接触していてもよい。また、冷却構造体1200は放熱する方式は、空冷式であっても水冷式であってもよい。図47に示した例では、冷却構造体1200の所定部に水流路1300が形成された水冷式の冷却構造を採用している。
図48は、スナバ内蔵スイッチング素子900を構成する半導体チップの断面構造を示す断面構造図である。図48に示すように、スナバ内蔵スイッチング素子900は、右側破線の右側に形成されるスイッチング素子600の部分と、左側破線の左側に形成される半導体スナバ回路200の部分とで構成されている。
図48に示したスイッチング素子600の部分は、一例として一般的なIGBTで構成されている。例えばシリコンを材料としたP+型の基板領域21上に、N型のバッファ領域22とN-型のドリフト領域23とを積層した基板材料を用いてスイッチング素子600は構成されている。ドリフト領域23中の表層部の一部にP型のウェル領域24が形成され、ウェル領域24中の表層部の一部にN+型エミッタ領域25が形成されている。ドリフト領域23、ウェル領域24及びエミッタ領域25の表層部上に、例えばシリコン酸化膜からなるゲート絶縁膜26が配置され、ゲート絶縁膜26上に例えばN型の多結晶シリコンからなるゲート電極27が配設されている。ゲート絶縁膜26に形成された開口部においてエミッタ領域25及びウェル領域24に接して、例えばアルミニウムからなるエミッタ電極28が形成されている。また、基板領域21にオーミック接続させてコレクタ電極30が形成されている。このように、図48に示したIGBTはゲート電極27が半導体基体平面上に形成された所謂プレーナ型である。
更に、図48に示すように、スイッチング素子600が形成される領域の外周部において、ドリフト領域23及びウェル領域24上に、例えばシリコン酸化膜からなるフィールド絶縁膜31が形成されている。既に述べたように、フィールド絶縁膜31はチップ外周部のPN接合部における電界集中を緩和するために用いられる。また、フィールド絶縁膜31が形成される外周端部の構成として、ウェル領域24の外周を囲むように、ガードリングが形成されていてもよい。
次に、図48中の左側破線の左側に形成される半導体スナバ回路200について説明する。スイッチング素子600の外周端部の電界緩和に用いられているフィールド絶縁膜31の所定領域上に、例えばスイッチング素子600のゲート絶縁膜26や層間絶縁膜(図示せず)等を形成する際に形成される絶縁膜32が配置され、絶縁膜32上に多結晶シリコンからなる抵抗領域33が形成されている。なお、図48には絶縁膜32が形成された場合について例示しているが、絶縁膜32を形成せずに、フィールド絶縁膜31上に抵抗領域33を形成してもよい。抵抗領域33上にエミッタ電極28が形成され、このエミッタ電極28は、半導体スナバ回路200の表面電極として、スイッチング素子600のエミッタ端子が接続するエミッタ端子301に接続する。
半導体スナバ回路200では、抵抗領域33が抵抗220として機能し、フィールド絶縁膜31及び絶縁膜32がキャパシタ210として機能する。抵抗220に必要な抵抗値の大きさに応じて、抵抗領域33の不純物濃度や厚みを設定することができる。フィールド絶縁膜31についても、キャパシタ210に必要な耐圧並び必要な静電容量の大きさに応じて、厚みや面積を設定することができる。耐圧については、半導体スナバ回路200の条件としてだけではなく、スイッチング素子600の電界緩和という機能を果たすフィールド絶縁膜31の破壊防止のため、スイッチング素子600の耐圧よりも高くなるように設定することが好ましい。
また、キャパシタ210の静電容量については、半導体スナバ回路200と並列に接続される還流ダイオード100が遮断状態時(高電圧印加時)に充電される空乏容量に対して、100分の1程度から100倍ぐらいの範囲で選ぶことができる。しかし、既に述べたように、十分なスナバ機能を発揮し、かつ損失の増加を極力抑え、必要となるチップ面積を考慮すると、キャパシタ210の静電容量は還流ダイオード100に充電される空乏容量の概ね10分の1程度から10倍程度の範囲が好ましい。
図48に示した半導体スナバ回路200では、スイッチング素子600の耐圧よりも高くなるように例えばキャパシタ210の厚みを1μm程度とし、キャパシタ210の静電容量がスイッチング素子600と還流ダイオード100の遮断状態時に形成される空乏容量の和と同程度であるとする。なお、フィールド絶縁膜31は、シリコン酸化膜以外の材料でも、所定の耐圧を有し、且つ電界緩和機能とキャパシタ210として機能する誘電材料であればどのような材料でもよい。また、抵抗領域33の抵抗の大きさは、効果的にスナバ機能を発揮する設計式C=1/(2πfR)を満たすように設定することが好ましい。
上記のようにように、1チップにスイッチング素子600と半導体スナバ回路200が形成された場合にも、第2の実施形態で説明した動作及び効果を実現できる。
図48に示した構成においては、スイッチング素子600と半導体スナバ回路200が、支持基体としての基板領域21及びバッファ領域22及びドリフト領域23を共用し、且つエミッタ電極28及びコレクタ電極30を共用している。また、スイッチング素子600の電界緩和機能として働くフィールド絶縁膜31も、キャパシタ210として機能する。更に、スイッチング素子600のゲート電極27として働く多結晶シリコン膜を、抵抗220である抵抗領域33と同様に形成することができる。つまり、これらの部分については、同一プロセスで形成することができ、製造プロセスを簡易化することができる。
更に、半導体スナバ回路200とスイッチング素子600を1チップ化することによって、実装面積(敷地面積)を減らすことができるため、半導体パッケージを小型化することができる。また、スイッチング素子600及び半導体スナバ回路200のエミッタ電極28が共通の電極となり、第2の実施形態では金属配線350、330で接続されていたのに比べて、配線等に生じる寄生インダクタンスを更に低減することができる。このため、並列接続している還流ダイオード100の逆回復時における振動現象を更に低減することができる。
また、第5の実施形態を例えば図27に示すようなインバータ回路に適用した場合には、スイッチング素子600と半導体スナバ回路200とを1チップ化した新たな効果を生むことができる。即ち、第2の実施形態及び第3の実施形態で説明したように、還流ダイオード100が逆回復動作をする場合においては、半導体スナバ回路200は振動現象を緩和するべく、還流ダイオード100、スイッチング素子600の空乏容量並びに半導体スナバ回路200のキャパシタ210に起因して発生する過渡電流が消費され、抵抗220で発熱する。一方、還流ダイオード100が逆回復動作をする場合においては、還流ダイオード100に並列接続されているスイッチング素子600は導通状態にないため、ほとんど発熱していない。このように、逆回復時に半導体スナバ回路200が発熱している場合にはスイッチング素子600の部分は遮断状態にあり発熱していない。このため、スイッチング素子600と半導体スナバ回路200を1チップ化することによって、チップ全体としての温度上昇を、別チップの場合と比べて低く抑えることができる。つまり、スイッチング素子600と半導体スナバ回路200を1チップ化することによって、放熱性の向上による抵抗領域33の高集積化が期待できる。
更に、第5の実施形態の特徴として、高い放熱性を有していることが挙げられる。これは、スナバ内蔵スイッチング素子900のスイッチング素子600が形成されたスイッチング素子領域2600が、2チップ分の半導体スナバ領域2200を介して対面するように実装されているためである。もちろん、第4の実施形態において説明したように、スイッチング素子領域2600の間に、1チップ分の半導体スナバ領域2200が形成されていても放熱性向上の効果を有する。しかし、半導体スナバ領域2200が対面するように配置すれば、スイッチング素子領域2600の間に1チップ分の半導体スナバ領域2200が配置された場合に比べて、スイッチング素子領域2600同士の距離を2倍程度まで大きくできる。このため、熱源であるスイッチング素子領域2600間の熱の干渉が起こりにくくなり、より放熱性能が高まる。
スナバ内蔵スイッチング素子チップを3チップ以上並列実装する場合においても、スイッチング素子領域2600間に少なくとも1チップ分の半導体スナバ領域2200を配置することで容易に放熱性を高めることができる。しかし、例えば第4の実施形態で示したのと同様に、スナバ内蔵スイッチング素子900内の半導体スナバ領域2200の配置を変えることで、さまざまな並列数に対応可能である。例えば、スナバ内蔵スイッチング素子900の両側に半導体スナバ領域2200を形成すれば、半導体スナバ領域2200が対面するように配置することは可能である。また、スナバ内蔵スイッチング素子900が4回路ある場合にも、図39に示した構成と同様にして、それぞれ対面する位置に半導体スナバ領域2200が配置されるように4つのスナバ内蔵スイッチング素子チップを格子状に配置することにより、放熱性を高めることができる。いずれにしても、最小限度の実装面積で高い冷却効率を得ることができる。
上記のように、第5の実施形態におけるスイッチング素子600及び半導体スナバ回路200の動作メカニズムにあった実装配置とすることで、本発明の半導体装置の性能を更に向上することができる。また、スナバ内蔵スイッチング素子チップの外側に配置されている還流ダイオードチップについても、2つのチップの距離を十分確保できるため、放熱性能を向上することができる。
以上のように、第5の実施形態では、振動現象を更に抑制し過渡性能を向上する効果と導通性能とをともに向上すると同時に、小型化且つ低コスト化を実現できる。
上記の図46及び図48では、スイッチング素子600がIGBTの場合を説明したが、例えば第2の実施形態および第3の実施形態で説明したさまざまなスイッチング素子600を半導体スナバ回路200と1チップ化することは、スイッチング素子600がIGBTである場合と同様に容易に実現できる。図49〜図50にその例を示す。
図49は、図48に示したIGBTを用いる代わりに、スイッチング素子600として例えば炭化珪素半導体基体からなるMOSFETを用いた例を示している。スイッチング素子600は、例えばN+型である基板領域51上にN-型のドリフト領域52が形成された基板材料を用いる。ドリフト領域52の表層部の一部にP型のウェル領域53が形成され、ウェル領域53の表層部の一部にN+型ソース領域54が形成されている。ドリフト領域52、ウェル領域53及びソース領域54の表層部に接して、例えばシリコン酸化膜からなるゲート絶縁膜55が形成され、ゲート絶縁膜55上に例えばN型の多結晶シリコンからなるゲート電極56が配設されている。更に、ゲート絶縁膜55に形成された開口部においてソース領域54及びウェル領域53と接するソース電極57が形成される。基板領域51にオーミック接続させてドレイン電極59が形成されている。
更に、図49に示すように、スイッチング素子600の形成される領域の外周部に、ドリフト領域52及びウェル領域53の表層部に接して、例えばシリコン酸化膜からなるフィールド絶縁膜31が形成されている。
次に、図49に示した左側破線の左側に形成される半導体スナバ回路200について説明する。スイッチング素子600の外周端部の電界緩和に用いられているフィールド絶縁膜31の所定領域上に、例えばスイッチング素子600のゲート絶縁膜55を形成する際に形成される絶縁膜32や層間絶縁膜(図示せず)が形成され、絶縁膜32上に多結晶シリコンからなる抵抗領域33が形成されている。なお、図49には絶縁膜32が形成された場合について例示しているが、絶縁膜32を形成せずにフィールド絶縁膜31上に抵抗領域33が形成されていてもよい。そして、抵抗領域33上にソース電極57が形成され、このソース電極57は、スイッチング素子600のソース端子が接続するソース端子302に接続する。
図49に示した半導体スナバ回路200は、抵抗領域33が抵抗220として機能し、フィールド絶縁膜31及び絶縁膜32がキャパシタ210として機能する。抵抗220に必要な抵抗値の大きさに応じて、抵抗領域33の不純物濃度や厚みを設定することができる。
図49に示した構成によって、第3の実施形態で説明した還流ダイオード100やスイッチング素子600を種々の素子で実現できる効果と、第5の実施形態で説明した半導体スナバ回路200とスイッチング素子600を1チップ化したことによる効果を実現することができる。更に、図49に示した構成の特徴として、図48に示した構成と同様に、抵抗領域33をスイッチング素子600のゲート電極56と同一材料で形成している点が挙げられる。このような構成することによって、スイッチング素子600にMOSFETを用いた場合の効果に加え、製造工程を更に簡略化し、低コストで実現することができる。
図50は、図48に示したIGBTを用いる代わりに、スイッチング素子600として図16に示したヘテロ接合部を絶縁ゲート電極で駆動するトランジスタを用いた場合を示している。例えば炭化珪素のポリタイプが4HタイプのN+型である基板領域61上にN-型のドリフト領域62が形成されている。スイッチング素子600が形成される領域において、ドリフト領域62上に例えばN型の多結晶シリコンからなるヘテロ半導体領域63が形成されている。そして、ヘテロ半導体領域63の開口部でドリフト領域62と接して、ヘテロ半導体領域63上に例えばシリコン酸化膜から成るゲート絶縁膜64が形成されている。また、ゲート絶縁膜64上にはゲート電極65が形成され、ヘテロ半導体領域63に接してソース電極66が配置されている。基板領域1に接してドレイン電極68が形成されている。更に、スイッチング素子600が形成される領域の外周部において、ドリフト領域62とヘテロ半導体領域63間にシリコン酸化膜等からなるフィールド絶縁膜31が形成されている。
次に、図50に示した左側破線の左側に形成される半導体スナバ回路200について説明する。スイッチング素子600の外周端部の電界緩和に用いられているフィールド絶縁膜31の所定領域上に、多結晶シリコンからなる抵抗領域33が形成されている。そして、抵抗領域33上にソース電極66が半導体スナバ回路200の表面電極として形成され、この表面電極は、スイッチング素子600のソース端子が接続するソース端子302に接続する。つまり、図50に示した半導体スナバ回路200では、抵抗領域33が抵抗220として機能し、フィールド絶縁膜31及び絶縁膜32がキャパシタ210として機能する。抵抗220に必要な抵抗値の大きさに応じて、抵抗領域33の不純物濃度や厚みを設定することができる。
図50に示した構成によっても、第3の実施形態で説明した還流ダイオード100やスイッチング素子600を種々の素子で実現できる効果と、第5の実施形態で説明した半導体スナバ回路200とスイッチング素子600を1チップ化したことによる効果を実現することができる。更に、図50に示した構成の特徴としては、抵抗領域33をスイッチング素子600のヘテロ半導体領域63と同一材料で形成している点も挙げられる。また、図48、図49に示した構成例と同じように、抵抗領域33をスイッチング素子600のゲート電極65と同一材料で形成することもできる。
図51は、図48に示したIGBTを用いる代わりに、スイッチング素子600として図32で示したJFETを用いた場合を示している。図51において、例えば炭化珪素のポリタイプが4HタイプのN+型である基板領域71上にN-型のドリフト領域72が形成されている。ドリフト領域72中の表層部の一部にN+型のソース領域73とP型のゲート領域74がそれぞれ形成されている。ゲート領域74はゲート電極75に接続され、ソース領域73はソース電極76に接続されている。基板領域71はドレイン電極78に接続されている。更に、スイッチング素子600の外周部に、ドリフト領域72の表層部に接して例えばシリコン酸化膜からなるフィールド絶縁膜31が形成されている。
図51中の左側破線の左側に形成される半導体スナバ回路200について説明する。スイッチング素子600の外周端部の電界緩和に用いられているフィールド絶縁膜31の所定領域上に、例えばスイッチング素子600の絶縁膜77を形成する際に形成される絶縁膜32や層間絶縁膜(図示せず)等が形成され、絶縁膜32に多結晶シリコンからなる抵抗領域33が形成されている。なお、図51には絶縁膜32が形成された場合について例示しているが、絶縁膜32を形成せずにフィールド絶縁膜31上に抵抗領域33が形成されていてもよい。抵抗領域33上にソース電極76が半導体スナバ回路200の表面電極として形成され、この表面電極は、スイッチング素子600のソース端子が接続するソース端子302に接続する。つまり、図51に示した半導体スナバ回路200では、抵抗領域33が抵抗220として機能し、フィールド絶縁膜31及び絶縁膜32がキャパシタ210として機能する。抵抗220に必要な抵抗値の大きさに応じて、抵抗領域33の不純物濃度や厚みを設定することができる。
図51に示した構成によっても、第3の実施形態で説明した還流ダイオード100やスイッチング素子600を種々の素子で実現できる効果と、第5の実施形態で説明した半導体スナバ回路200とスイッチング素子600を1チップ化したことによる効果を実現することができる。図51に示した構成により、製造工程を更に簡略化し、低コストで実現することができる。
また、第5の実施形態において、第3の実施形態で説明したのと同様に、スイッチング素子600に採用する構成がユニポーラ型の還流ダイオードとしても使用できる場合には、還流ダイオード100を別チップで形成する以外にも、還流ダイオード100とスイッチング素子600と半導体スナバ回路200とを1チップ化して、半導体パッケージを小型化することができる。これにより、配線等に生じる寄生インダクタンスを更に低減することができるため、半導体スナバ回路200による振動現象を更に低減することができる。配線長がより短くなることは、振動電流により配線から発する放射ノイズを更に低減させる効果もある。また、チップサイズの低減によってコストが低減されると共に、還流ダイオード100とスイッチング素子600とのキャパシタ容量の和が小さくなるため、半導体スナバ回路200に必要な静電容量も小さくすることができる。つまり、振動現象の抑制を小型且つ低コストで実現できる。
以上、スイッチング素子600と半導体スナバ回路200とを1チップ化する一例を説明してきたが、1チップ化する際に、半導体スナバ回路200の抵抗220として、多結晶シリコンからなる抵抗領域33以外にも、半導体基体中の基板領域やドリフト領域を用いてもよい。また、半導体スナバ回路200のキャパシタ210として、シリコン酸化膜からなるフィールド絶縁膜31以外にも、PN接合やヘテロ接合等の逆バイアス時に空乏層を形成する構成を採用し、この空乏層容量をキャパシタ210として用いてもよい。また、例えばショットキーバリアダイオードを内蔵するMOSFET等のように、スイッチング素子600中に還流ダイオード100を内蔵する構成とし、半導体スナバ回路200と共に1チップ化してもよい。いずれの構成においても、本発明の特徴である振動現象を更に抑制し、過渡性能と導通性能をともに向上すると同時に、小型化及び低コスト化を実現できる。
また、いずれの組み合わせにおいてもスイッチング素子600間の熱の干渉が起こりにくいため、より放熱性能を高めることができ、より高電流密度で動作させることが可能となる。
第5の実施形態においても、第1の実施形態で図20と図21を参照して説明したのと同様に、容量比C/C0が0.1前後から振動現象の減衰効果が顕著になり、容量比C/C0が10を超える辺りから振動現象の収束時間比の値が飽和傾向になる。また、過渡動作時にはキャパシタ210の静電容量の大きさに比例する過渡電流による損失Eが発生するため、キャパシタ210の静電容量は極力小さいことが好ましい。したがって、既に述べたように、第5の実施形態で用いる半導体スナバ回路200のキャパシタ210の静電容量を、還流ダイオード100及びスイッチング素子600の遮断状態におけるキャパシタ成分の容量の総和に比べて、1/10倍以上10倍以下の範囲で選択することで、損失の増加を抑えつつ、より顕著に振動現象を低減することができる。この効果は、第5の実施形態で説明したどの構成例においても得ることができる。
(第6の実施形態)
第6の実施形態においては、第4の実施形態と同様に還流ダイオード100と半導体スナバ回路200が同一チップ上に形成され、且つ、半導体スナバ回路200が還流ダイオード100の配置された領域(以下において、「還流ダイオード領域」という。)に隣接してそれぞれ分散するように配置された場合について説明する。
例えば還流ダイオード領域が矩形である場合、分散された複数の半導体スナバ回路200が、還流ダイオード100の配置された矩形領域の複数の辺にそれぞれ隣接して配置される。図52は、1つの還流ダイオード100の両側に2つの半導体スナバ回路200がそれぞれ配置された構造のスナバ回路内蔵還流ダイオード800が、半導体パッケージに実装された例である。図52では、スナバ回路内蔵還流ダイオード800が配置されたチップ(スナバ内蔵還流ダイオードチップ)を、符号800で表示している。
図52に示した半導体パッケージは、絶縁基板500上に、例えば銅やアルミニウム等の金属材料からなるアノード側の金属膜310とカソード側の金属膜410が形成されたセラミック基板で構成されている。絶縁基板500は、例えばセラミック板等で形成されており、絶縁性を有し、且つ、支持体としての機能を有する。スナバ回路内蔵還流ダイオード800に含まれる還流ダイオード100及び半導体スナバ回路200のカソード端子は、例えば半田やろう材等の接合材料を介して金属膜410に接続する。そして、還流ダイオード100及び半導体スナバ回路200のアノード端子は、例えばアルミニウムワイヤやアルミニウムリボン等の金属配線320、330を介して、金属膜310に接続される。金属膜410はカソード端子400に接続し、金属膜310はアノード端子300に接続する。
図53に、図52に示したスナバ回路内蔵還流ダイオード800の上面図の例を示す。還流ダイオード100が炭化珪素ショットキーバリアダイオードである場合の図53のI−I方向に沿った断面は、例えば図5に示した断面図である。半導体スナバ回路200の断面構造図であるII−II方向に沿った断面は、例えば図6に示した断面図である。還流ダイオード100と半導体スナバ回路200との境界部分の断面構造を示すIII−III方向に沿った断面は、例えば図36に示した断面図である。スナバ回路内蔵還流ダイオード800は、図36の右側破線の右側に形成される還流ダイオード100の部分と、左側破線の左側に形成される半導体スナバ回路200の部分で構成されている。
第6の実施形態においては、第1の実施形態〜第5の実施形態で説明した還流ダイオード100及び半導体スナバ回路200を使用できる。このため、第6の実施形態で使用可能な還流ダイオード100及び半導体スナバ回路200の構造や変形例についての重複した説明は省略する。第6の実施形態に係る半導体装置は、第1の実施形態〜第5の実施形態で説明した半導体装置と同様に、電力エネルギーの変換手段として使用されるコンバータ(図8)やインバータ(図9)等の電力変換装置において、電流を還流する受動素子A、Bとして使用される。
第4の実施形態で説明したように、還流ダイオード100と半導体スナバ回路200を同一チップ上に形成することにより、製造プロセスの簡易化、半導体パッケージの小型化、配線長が短いことによる放射ノイズの低減、半導体スナバ回路200を還流ダイオード100の直近に低インダクタンスで実装することによる過渡損失を低減し且つ振動現象を抑制できる等の効果が得られる。更に、既に述べたように、還流ダイオード100が導通して発熱している際には半導体スナバ回路200は遮断状態にあり発熱していないため、チップ全体としての温度上昇を別チップの場合と比べて低く抑えることができるという効果がある。
これらの効果に加え、第6の実施形態に係る半導体装置では以下のような効果が得られる。例えば図53に示すように、半導体スナバ回路200が還流ダイオード100の配置された半導体基体主面の周辺の2辺以上に分散して配置されることから、還流ダイオード100の発生する振動電流をバランスよく半導体スナバ回路200に分散することができ、その結果、局部的な電流集中を避けることができる。更に、過渡電流が通過することにより発生する半導体スナバ回路200の発熱を均等に分散することができ、局部的な発熱を避けることができる。
なお、図53では半導体スナバ回路200は対向する辺に一塊ずつ配置しているが、分割して配置しても構わない。また、図54に示すように還流ダイオード100が配置された領域の4辺に分散して半導体スナバ回路200を配置することにより、振動電流と熱の分散効果がより高まる。
また、図55に示すように、還流ダイオード100の電界緩和のために設けられた還流ダイオード100の配置された領域の湾曲部CRの外側に、半導体スナバ回路200を配置してもよい。図55に示したように配置すれば、もともと使われていない湾曲部CRの外側の主面を、半導体スナバ回路200を配置する領域として利用することができ、半導体基体の面積利用効率を向上できる。
更に、図56に示すように、還流ダイオード100の全周を囲むように半導体スナバ回路200を配置してもよい。図56に示したように配置すれば、還流ダイオード100の四隅を使うことによる面積利用効率を向上する効果と、振動電流と発熱を分散する効果の両方を得ることができる。また、第6の実施形態に係る半導体装置についても、例えば図4や図11に例示した実装構造にすることで、スナバ回路内蔵還流ダイオード800を配置したチップの放熱性を向上させることができる。
第6の実施形態においては、半導体スナバ回路200を還流ダイオード100と一体化することで、還流ダイオードとスナバ回路を同時に実装することができるため、簡便で且つ容易に振動現象を抑制することができるとともに、従来技術のスナバ回路に比べて必要な体積を大幅に低減できる。
なお、第6の実施形態を説明するにあたって、半導体スナバ回路200の構造の一例として図6を用いて説明したが、半導体スナバ回路200のキャパシタ210を図13〜図16に示す構造、抵抗220を図17、図18に示す構造で形成してもよいことはもちろんである。また、還流ダイオード100には、ショットキーバリアダイオード以外にも、第3の実施形態で説明したように、ヘテロ接合ダイオード等のワイドバンドギャップ半導体により形成されたダイオードや、ソフトリカバリダイオードで構成されたPN接合ダイオード等が採用可能である。
(第7の実施形態)
第7の実施形態に係る半導体装置は、第6の実施形態で説明したスナバ回路内蔵還流ダイオード800に加えてスイッチング素子600を更に含み、図22に示した構成と同様に、スイッチング素子600が、還流ダイオード100及び半導体スナバ回路200と並列接続された半導体装置である。つまり、第7の実施形態は、第2の実施形態と第6の実施形態とを組み合わせた実施形態である。
半導体スナバ回路200及び還流ダイオード100には、第6の実施形態で説明したように種々の構造が採用可能である。スイッチング素子600には、例えば第2の実施形態で説明したIGBTを採用可能であるほか、第3の実施形態で説明したように、MOSFETや、ヘテロ接合を有するトランジスタ、JFET等が採用可能である。
図57は、図52に例示した還流ダイオード100(例えば炭化珪素ショットキーバリアダイオード)と半導体スナバ回路200(例えばシリコン半導体RCスナバ)とを含むスナバ内蔵還流ダイオードチップ(図中に符号800で示す)、及びスイッチング素子600(例えばシリコンIGBT)の配置されたスイッチング素子チップ(図中に符号600で示す)からなる半導体装置の、具体的な実施形態を示す実装図である。
図57において、図3や図52と同様に、半導体パッケージの一例としてセラミック基板を用いた場合について説明する。還流ダイオード100のカソード端子、半導体スナバ回路200のキャパシタ210、及びスイッチング素子600のコレクタ端子がカソード側の金属膜410に接続するように、スナバ内蔵還流ダイオードチップ及びスイッチング素子チップが金属膜410上に配置されている。一方、還流ダイオード100のアノード端子、半導体スナバ回路200の抵抗220、及びスイッチング素子600のエミッタ端子は、金属配線320、330、350を介してアノード側の金属膜310に接続されている。スイッチング素子600のゲート端子は、金属配線710を介してゲート側の金属膜700に接続されている。
第7の実施形態に係る半導体装置は、第2の実施形態に係る半導体装置と同様に、例えば図27に示した3相交流モータを動かす所謂インバータや、図28に示した所謂Hブリッジ等の電力変換装置に用いることができる。具体的には、電力変換装置のスイッチング素子及び受動素子として用いられる。このとき、第2の実施形態で説明したように、還流ダイオード100及び半導体スナバ回路200とスイッチング素子600を並列接続することにより、還流ダイオード100が有する過渡損失及び導通損失を低減すると同時に、ユニポーラ動作に起因する振動現象の発生を抑制し、より安定な動作を実現することができる。
以上に説明したように、第7の実施形態に係る半導体装置によれば、第6の実施形態で説明した還流ダイオード100と半導体スナバ回路200を同一チップ上に形成することの効果に加えて、還流ダイオード100及び半導体スナバ回路200とスイッチング素子600を並列接続することにより、電力変換装置の安定動作を実現することができる。
(第8の実施形態)
第8の実施形態においては、第5の実施形態と同様にスイッチング素子600と半導体スナバ回路200が同一チップ上に形成され、且つ、半導体スナバ回路200がスイッチング素子600の配置された領域に隣接してそれぞれ分散するように配置された場合について説明する。例えば、1つのスイッチング素子600の周囲に複数の半導体スナバ回路200が配置される構造のスナバ内蔵スイッチング素子900が、第8の実施形態に係る半導体装置の一例である。
第8の実施形態に係る半導体装置のスイッチング素子600、半導体スナバ回路200のキャパシタ210及び抵抗220についても、第1の実施形態から第7の実施形態で説明した種々の構造が採用できるのはもちろんである。
図58に、1つのスイッチング素子600の周囲に複数の半導体スナバ回路200が配置された構造のスナバ内蔵スイッチング素子900の例を示す。図58に示したスナバ内蔵スイッチング素子900では、2つの半導体スナバ回路200が、スイッチング素子600の配置された半導体基体主面の周辺の2辺に分散して配置されている。図58において、半導体スナバ回路200の断面構造図であるIV−IV方向に沿った断面は、例えば図6に示した断面図である。スイッチング素子600の断面構造図であるV−V方向に沿った断面は、例えば図26に示した断面図である。還流ダイオード100とスイッチング素子600との境界部分の断面構造を示すVI−VI方向に沿った断面は、例えば図48に示した断面図である。
図58に示す構造によれば、スイッチング素子600が発生する振動電流をバランスよく半導体スナバ回路200に分散することができ、局部的な電流集中を避けることができる。更に、過渡電流が通過することにより発生する半導体スナバ回路200の発熱を均等に分散することができ、局部的な発熱を避けることができる。なお、図58に示した例では半導体スナバ回路200は対向する辺に一塊ずつ配置されているが、半導体スナバ回路200を分割して配置しても構わない。
更に、図59に示すように、スイッチング素子600の4辺に分散して半導体スナバ回路200を配置すると、振動電流と熱の分散効果がより高まる。
また、スイッチング素子600の電界緩和のために設けられた図60に示す湾曲部CRの外側に、半導体スナバ回路200を配置してもよい。もともと使われていない湾曲部CRの外側の領域を、半導体スナバ回路200を配置する領域として利用することにより、半導体基体の面積効率を向上することができる。
更に、図61に示すように、半導体スナバ回路200を還流ダイオード100の全周を囲むように配置しても良い。このように配置すれば、スイッチング素子600の四隅を使うことによる面積効率を向上する効果と、振動電流と発熱を分散する効果の両方を得ることができる。また、第8の実施形態に係る半導体装置についても、例えば図4や図11に例示した実装構造にすることで、スナバ内蔵スイッチング素子900を配置したチップの放熱性を向上させることができる。
以上のように、第8の実施形態の半導体装置によれば、振動現象を抑制し過渡性能を向上し、且つ導通性能を向上すると同時に、小型で低コストの半導体装置を実現することができる。
(その他の実施形態)
上記のように、本発明は第1乃至第8の実施形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
例えば、還流ダイオード100、スイッチング素子600、半導体スナバ回路200の材料として、シリコン材料、炭化珪素材料等を一例として説明してきたが、振動現象の低減効果が得られれば、基板材料はシリコンゲルマニウム、窒化ガリウム、ダイヤモンド等その他の半導体材料でもかまわない。また、炭化珪素のポリタイプとして4Hタイプを用いて説明したが、6H、3C等その他のポリタイプでも構わない。また、スイッチング素子600及び還流ダイオード100のドリフト領域としてN型の場合で説明してきたが、P型で構成されていてもよい。
また、本発明の実施形態に係る半導体装置を適用可能な電力変換装置として、DC/DCコンバータや3相交流インバータ等を一例として説明したが、一般にHブリッジ等と呼ばれる電力変換装置に用いてもよい。いずれにしても、直流電圧を交流電圧に変換するインバータや、交流電圧を直流電圧に変換する整流器や、直流電圧の電圧値を変えて出力するDC/DCコンバータ等のように、あらゆるタイプの電力変換装置に適用することができる。そして、本発明の実施形態の構成を用いる電力変換装置であれば、大電流領域及びゼロ電領域のいずれの領域においても、更には、低温及び高温時のいずれにおいても、振動現象を低減することができる。このため、導通損失及び過渡損失を低減し高密度化ができると共に、振動現象が低減し安定的に動作させることができるので、装置の基本性能を両立して向上させることができる。
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。