以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1における空気調和装置1の冷媒回路11の配管系統図である。図1に示すように、空気調和装置1は、冷媒回路11を備え、冷房運転や暖房運転により室内に冷風や温風等を供給する。
冷媒回路11は、冷媒が充填されており、冷媒配管内を冷媒が循環することで蒸気圧縮式の冷凍サイクルを行うものである。充填される冷媒は、例えば、アンモニア冷媒やフロン冷媒であるが、これらに限定されるものではない。
冷媒回路11は、圧縮機21、室内熱交換器22、膨張弁23、及び室外熱交換器24が接続されて形成されるものである。
圧縮機21は、図示しない室外機に設置され、冷媒蒸気を圧縮するものである。圧縮機21は、例えば、ロータリー型の圧縮機であって、後述するインバータ装置31によって駆動制御されている。
室内熱交換器22は、図示しない室内機に設置され、圧縮機21から供給された冷媒と室内の空気とを熱交換するものであり、あるいは、膨張弁23から供給された冷媒と室内の空気とを熱交換するものである。また、室内熱交換器22には、室内ファン26が対で形成され、室内ファン26は、図示しない室内機に設置されている。また、室内熱交換器22は、例えば、フィンや伝熱器がアルミから形成されるものである。
膨張弁23は、図示しない室外機に設置され、冷媒を減圧する減圧手段であり、例えば、電子膨張弁で形成されている。膨張弁23は、室内熱交換器22から供給された冷媒を減圧して室外熱交換器24へ供給し、あるいは、室外熱交換器24から供給された冷媒を減圧して室内熱交換器22へ供給する。
室外熱交換器24は、図示しない室外機に設置され、膨張弁23から供給された冷媒と室外の空気とを熱交換するものであり、あるいは、圧縮機21から供給された冷媒と室外の空気とを熱交換するものである。また、室外熱交換器24には、室外ファン27が対で形成され、室外ファン27は、図示しない室外機に設置されている。また、室外熱交換器24は、例えば、フィンや伝熱器がアルミから形成されるものである。
四路切換弁25は、図示しない室外機に設置され、第1から第4までの4つのポートを形成しており、冷房運転や暖房運転等の運転状態に応じて、冷媒回路内の接続関係を切り換えるものである。四路切換弁25は、第1ポート45が圧縮機21の吐出側である吐出管91(図2で後述する)と接続されている。四路切換弁25は、第2ポート46が室内熱交換器22と接続されている。四路切換弁25は、第3ポート47が圧縮機21の吸入側である吸入管71(図2で後述する)と接続されている。四路切換弁25は、第4ポート48が室外熱交換器24と接続されている。四路切換弁25は、図1の実線で示すように、第1ポート45と第2ポート46とがつながっているときには、第3ポート47と第4ポート48とがつながっている状態となる。また、四路切換弁25は、図1の破線で示すように、第1ポート45と第4ポート48とがつながっているときには、第2ポート46と第3ポート47とがつながっている状態となる。そして、暖房運転のときには、第1ポート45と第2ポート46とがつながっている状態となり、第3ポート47と第4ポート48とがつながっている状態となる。また、冷房運転のときには、第1ポート45と第4ポート48とがつながっている状態となり、第2ポート46と第3ポート47とがつながっている状態となる。
室内ファン26は、室内の空気を吸い込み、吸い込んだ室内の空気と室内熱交換器22内部を流れる冷媒とが熱交換された空気を室内に送り出すものである。
室外ファン27は、室外熱交換器24内部を流れる冷媒と室外の空気とが熱交換された空気を図示しない室外機の外へ排出するものである。
インバータ装置31は、詳細については後述するが、電装品部41、パワーモジュール42、及び伝熱部43から形成されており、圧縮機21の駆動を制御し、パワーモジュール42の熱を伝熱部43を介して圧縮機21へ供給するものである。
電装品部41は、後述するコンバータ回路111、インバータ回路112、及び制御用CPU113を含むものである。電装品部41は、例えば、室外機の電気品箱(図示せず)内に形成されるものである。
ただし、パワーモジュール42は、図3で後述するように、回路構成上はインバータ回路112に含まれるものであるものの、インバータ回路112の主要素子が実装されている電装品部41の内部ではなく、電装品部41の外部に設けられている。
パワーモジュール42は、ワイドバンドギャップ素子で形成されるものとし、周波数が可変な交流を生成するものである。ワイドバンドギャップ素子は、窒化ガリウム(GaN)等の窒化物半導体、炭化ケイ素(SiC)、又はダイヤモンド等のように、バンドギャップが2[eV]よりも大きな半導体のことであり、耐熱性の高い素子である。例えば、窒化ガリウム(GaN)のバンドギャップは、3.4[eV]であり、炭化ケイ素(SiC)のバンドギャップは、3.2[eV]である。また、窒化ガリウム(GaN)の絶縁破壊電界強度は、3.0[MV/cm]であり、炭化ケイ素(SiC)の絶縁破壊電界強度は、3.0[MV/cm]である。また、従来から回路素子の材料として利用されているシリコン(Si)は、バンドギャップが1.1[eV]であり、絶縁破壊電界強度が0.3[MV/cm]である。
絶縁破壊電界強度が大きく、バンドギャップ幅が大きいということは、耐圧を維持しつつ、素子を薄くしてオン抵抗を低くすることができることを意味する。オン抵抗を低くすることができれば、電力損失を低減させることができる。電力損失を低減させることができることにより、発熱量が減る。発熱量が減ることにより、モジュールを小型化して熱容量が小さくなったとしても、温度が上昇しにくくなる。
ここでいうバンドギャップとは、物質内部で、電子の存在できないエネルギー領域のことである。また、ここでいう絶縁破壊電界強度とは、半導体や絶縁体において、絶縁破壊を引き起こす最大電界強度である。
すなわち、ワイドバンドギャップ素子は、従来のシリコンで形成される素子と比較して、バンドギャップ幅が約3倍広く、絶縁破壊電界強度が約10倍大きい。そのため、耐熱性や耐電圧性がシリコンで形成される素子よりも優れている。耐熱性が優れているということは、高温での動作が可能ということを意味する。よって、ワイドバンドギャップ素子を用いることにより、冷却構造を小型化することができる。
さらに、窒化ガリウム(GaN)や炭化ケイ素(SiC)は、シリコン(Si)に比べて、電界飽和速度が速い。具体的には、窒化ガリウム(GaN)の場合、2.7[1×107cm/s]であり、炭化ケイ素(SiC)の場合、2.0[1×107cm/s]であり、シリコン(Si)の場合、1.0[1×107cm/s]である。電界飽和速度が速いということは、高周波駆動が可能なことを意味するものである。高周波駆動が可能であることにより、周辺部品を小型化することができる。
パワーモジュール42は、従来であれば、シリコンで形成される素子を用いていた。そのため、高温に弱いため、耐熱性に優れていなかった。また、シリコンで形成される素子により、電力損失が大きかったため、発熱量も大きく、モジュールを小型化することはできなかった。また、電力損失が大きかったため、外部へノイズを出すことが多かった。そのため、従来においては、パワーモジュール42は電装品部41内部に設けられ、かつ、ヒートシンク等を取り付けて放熱しなければならなかった。このため、シリコンで形成された素子でパワーモジュール42を形成した場合、パワーモジュール42は、構造的な制約を受けることとなる。
一方、本発明においては、パワーモジュール42は、上記で説明したバンドギャップ素子を用いてスイッチング素子を実装することとしている。そのため、高温に強いため、耐熱性に優れており、電力損失が小さいため、発熱量も少なく、モジュールを小型化することができる。また、電力損失が小さいため、外部へノイズを出しにくくなる。そのため、従来に比べて、パワーモジュール42は電装品部41内部に設けられる必要はなく、かつ、ヒートシンク等を取り付けて放熱する必要もない。このため、バンドギャップ素子でパワーモジュール42を形成した場合、パワーモジュール42は、構造的な制約を受けることがなくなる。よって、本発明においては、パワーモジュール42を電装品部41から物理的に離れた場所に設けることができるのである。
伝熱部43は、伝熱部材のことであり、パワーモジュール42の熱を効率的に圧縮機21の外郭へ伝えるものである。伝熱部43は、圧縮機21の外郭表面に対して面で接する形状で形成されている。伝熱部43は、熱伝導率の高い材質で形成されており、例えば、アルミや銅から形成されるものである。また、伝熱部43は、後述する温度検知用サーミスタ44を設けている。
ここで、室外機は、機械室と送風機室との空間に内部で分かれている(いずれも図示せず)。圧縮機21、インバータ装置31、膨張弁23、及び四路切換弁25は、室外機内において、板金で密閉された空間である機械室(図示せず)内部に配置されている。また、室外熱交換器24及び室外ファン27は、機械室とは別の領域である送風機室内部に配置されている。
なお、上記で説明した空気調和装置1の各構成は一例を示すものであり、これらに限定されるものではない。
次に、圧縮機21の外観について図2を用いて説明し、圧縮機21を駆動制御するインバータ装置31について図3を用いて説明する。
図2は、本発明の実施の形態1における圧縮機21の外観構成を示す概略図である。図2に示すように、圧縮機21は、天板部81、胴部82、及び底板部83を溶接等でつなげることにより内部に密閉空間が形成されるものである。天板部81、胴部82、及び底板部83は、例えば、鉄等の金属材料で形成されている。
天板部81は、吐出管91を備え、吐出管91は、図1に示す第1ポート45と冷媒配管を介して接続されている。吐出管91は、圧縮機21で圧縮された冷媒を圧縮機21の外部へ吐出するものである。また、天板部81は、パワーモジュール42からの信号ライン53が接続されている。圧縮機21は、信号ライン53を介してパワーモジュール42からの指令を受けることで、後述するブラシレス直流モータ102を駆動制御するものである。つまり、圧縮機21は、信号ライン53を介してインバータ装置31と電気的に接続されている。そして、後述する冷媒の寝込みを防止する拘束通電時には、信号ライン53を介して微弱電流がブラシレス直流モータ102に流される。拘束通電の指令は、電装品部41から信号ライン51を介してパワーモジュール42に伝達される。また、温度検知用サーミスタ44からの検出信号は、信号ライン52を介して電装品部41へ供給される。
ここで、信号ライン51、52は、例えば、1[m]程の長さから形成される信号線のことである。すなわち、パワーモジュール42を形成する際、SiC等のワイドギャップ半導体素子を用いることで、電装品部41と、パワーモジュール42とは、1[m]程の距離を隔てて電気的に接続させることが可能である。
胴部82は、上接続管72及び下接続管73を介して吸入マフラー61と接続されている。吸入マフラー61は、吸入管71、上接続管72、及び下接続管73を備えており、図1に示す冷媒回路11から冷媒配管を介して供給された冷媒を吸入し、圧縮機21へ供給するものである。吸入管71は、吸入マフラー61の上端に設けられており、上接続管72及び下接続管73は、吸入マフラー61の下端に設けられている。具体的には、吸入管71は、冷媒回路11から冷媒配管を介して冷媒を吸入後、上接続管72を介して上圧縮室124(図4で後述する)に冷媒を供給し、下接続管73を介して下圧縮室125(図4で後述する)に冷媒を供給する。
図3は、本発明の実施の形態1におけるインバータ装置31の構成を示す図である。図3に示すように、インバータ装置31は、コンバータ回路111、インバータ回路112、制御用CPU113、及び温度検知用サーミスタ44から形成されている。
コンバータ回路111は、交流電源101と接続されており、交流電源101から供給された交流を整流して直流に変換するものである。具体的には、コンバータ回路111は、例えば、交流リアクトル、ダイオードブリッジ、シャント抵抗、パワースイッチ素子、及び電解コンデンサ等から形成されており(いずれも図示せず)、交流を整流し、整流した直流を平滑化し、平滑化した直流をインバータ回路112に供給するものである。なお、ここでいう交流電源101は、商用電源のことである。
インバータ回路112は、コンバータ回路111、制御用CPU113、及びブラシレス直流モータ102と接続されている。インバータ回路112は、制御用CPU113の指令に応じて、コンバータ回路111から供給された平滑された直流を、PWM信号に変換して圧縮機21内部にあるブラシレス直流モータ102(図4で後述する)に供給して、ブラシレス直流モータ102を駆動制御するものである。
具体的には、インバータ回路112は、スナバコンデンサ(図示せず)、シャント抵抗(図示せず)、及びパワーモジュール42等から形成されている。パワーモジュール42は、回路構成としては、インバータ回路112に含まれるものであるが、物理構成としては、図1、図2、後述する図4及び図8で示すように、他の素子とは離れた位置に備えられている。
パワーモジュール42は、コンバータ回路111から供給された直流出力をスイッチングすることでPWM信号を生成する。パワーモジュール42は、生成したPWM信号をブラシレス直流モータ102に供給する。ブラシレス直流モータ102は、供給されたPWM信号により、回転磁界を発生させ、回転を制御する。
温度検知用サーミスタ44は、所定の周期で、パワーモジュール42の温度を伝熱部43を介して検出し、検出結果を制御用CPU113に供給する。
制御用CPU113は、外部からの制御信号と温度検知用サーミスタ44の検出結果とPWM信号とに基づいて、パワーモジュール42のドライバ(図示せず)を制御している。これにより、パワーモジュール42は、さまざまな条件に基づいて、その条件に適したスイッチング周波数でパワーモジュール42内部に実装されているスイッチング素子であるバンドギャップ素子をスイッチングさせる。この結果、ブラシレス直流モータ102が、条件に応じた回転速度で回転し、出力トルクを生成する。それにより、圧縮機21は、条件に応じて駆動されることとなる。
なお、「温度検知用サーミスタ44」は、本発明における「温度検知部」に相当する。
なお、「制御用CPU113」は、本発明における「制御部」に相当する。
次に、本発明の要部であるパワーモジュールの排熱構成について図4を用いて説明する。
図4は、本発明の実施の形態1における圧縮機21の内部構成を概略的に示す断面図である。図4に示すように、圧縮機21は、ブラシレス直流モータ102、圧縮機構部123を含むものである。なお、図2と同様の符号については、その説明を省略することとする。
ブラシレス直流モータ102は、ステータ131とロータ132から形成され、パワーモジュール42から供給されたPWM信号によりステータ131で回転磁界を発生させ、それにより、ロータ132を回転させることで、ロータ132に固定されているクランクシャフト122を回転させるものである。
ステータ131は、巻線、鉄心、及び基板等から形成されるものであり(いずれも図示せず)、供給されたPWM信号に基づいて基板から巻線に電流を流し、鉄心に所定回数巻き付けられた巻線が誘導磁界を生むことで、ロータ132に対して回転磁界を生じさせるものである。
ロータ132は、永久磁石で形成され、ステータ131で生じさせた回転磁界により回転するものである。ロータ132にはクランクシャフト122が固定されており、クランクシャフト122は、自身の回転に連動して偏芯回転するクランクシャフト上偏芯部122a及びクランクシャフト下偏芯部122bを備えている。
なお、「ブラシレス直流モータ102」は、本発明における「電動機」に相当する。
圧縮機構部123は、上圧縮室124及び下圧縮室125から形成されている。上圧縮機室124は、フレーム141、上シリンダ142、及び仕切り板143から形成されている。下圧縮室125は、仕切り板143、下シリンダ144、及びシリンダヘッド145から形成されている。上シリンダ142は、上接続管72に接続されており、クランクシャフト上偏芯部122aの偏芯回転により駆動し、冷媒を圧縮する。下シリンダ144は、下接続管73に接続されており、クランクシャフト下偏芯部122bの偏芯回転により駆動し、冷媒を圧縮する。
具体的には、冷媒回路11から吸入される冷媒が吸入管71を介して吸入マフラー61の内部に吸い込まれる。ロータ132が回転すると、クランクシャフト122が回転する。クランクシャフト122は回転すると、クランクシャフト上偏芯部122aにより、図示しない上ローリングピストンが偏芯回転し、同時に、クランクシャフト下偏芯部122bにより、図示しない下ローリングピストンが偏芯回転する。このとき、冷媒は、上接続管72を介して上シリンダ142に供給される。同時に、冷媒は、下接続管73を介して下シリンダ144に供給される。そして、上ローリングピストンと上ベーン(図示せず)とにより冷媒は圧縮され、また、下ローリングピストンと下ベーン(図示せず)とにより冷媒は圧縮され、圧縮された冷媒は、吐出管91により外部に吐出される。
第1の液面高さ151は、底板部83から吐出管91への方向を上としたとき、ブラシレス直流モータ102の下端部の高さに設定されるものであり、液冷媒の高さの第1の閾値を示すものである。
第2の液面高さ152は、底板部83から吐出管91への方向を上としたとき、上シリンダ142の上端部近傍の高さに設定されるものであり、液冷媒の高さの第2の閾値を示すものである。
設置範囲161は、第1の液面高さ151と第2の液面高さ152との間の範囲のことであり、この範囲にパワーモジュール42を伝熱部43を介して圧縮機21の外郭に設置することとする。
パワーモジュール42を設置範囲161に設けることにより、パワーモジュール42で発生した熱を伝熱部43を介して圧縮機21の外郭に供給し、圧縮機21の外郭から圧縮機の内部へ供給する。このように、設置範囲161にパワーモジュール42の設置範囲を限定することにより、的確に圧縮機21の内部に熱を供給する。すなわち、第1の液面高さ151から上の範囲においては、通常通り、ステータ131の構成要素である巻線により、熱を供給することができる。これに対して、設置範囲161における圧縮機21の内部空間に滞留する液冷媒には、ステータ131の構成要素である巻線では十分に熱を供給することができない。そこで、その範囲にパワーモジュール42から熱を供給するのである。
なお、上記で説明した圧縮機21の構成はツインロータリ形圧縮機の一例を示すものであり、これに限定されるものではない。例えば、シングルロータリ形圧縮機であってもよいことは言うまでもないことである。
次に、冷媒の寝込みを防止する拘束通電について一般的な現象を説明後、図5〜図7を用いて説明する。
まず、一般的な現象について説明する。
低温状態で圧縮機21の運転が停止している場合を想定する。このとき、外気温度が上昇すると、外気温度から室外機に熱が伝達される。室外機に熱が伝達されると、室外機の内部にある室外熱交換器24や圧縮機21等にも熱が伝達される。
ただし、室外熱交換器24はアルミで形成されており、圧縮機21は鉄で形成されている。よって、圧縮機21に比べて、室外熱交換器24の方が熱伝導率は高い。そのため、室外熱交換器24の方が外気温度の上昇の変化に伴い温度は早く上昇する。それにより、室外熱交換器24と圧縮機21とでは温度差が生じることとなる。温度差が生じるということは、室外熱交換器24と圧縮機21とで圧力差が生じていることを意味する。そのため、低温状態で圧縮機21の運転が停止しているときに外気温度が上昇すると、室外熱交換器24は高圧側となり、圧縮機21は低圧側となる。その結果、圧縮機21へ冷媒が集まり、液冷媒が圧縮機21の内部へ溜まり込む現象(以下、冷媒寝込み現象という)が発生する。
冷媒寝込み現象が発生すると、圧縮機21を停止中の状態から稼働状態に移行させたとき、起動負荷が大きくなる。そのため、圧縮機21が破損してしまうことがあった。また、起動負荷が大きいため、大きな起動電流が流れることによりシステム異常が発生することがあった。このような状態になると、圧縮機21を再起動させることができないことがあった。
そのため、一般的に、冷媒寝込み現象を防止する対策として、室外機に電源を投入した際に、一定時間、パワーモジュール42を形成するパワー素子等のスイッチング素子により、ブラシレス直流モータ102の巻線に対して、圧縮機21が駆動しない高周波交流電圧を印加している。このようにして巻線に電流を流すことを拘束通電と称することとする。このようにすることで、巻線は加熱され、巻線から発生する熱により圧縮機21内部に溜まった液冷媒を圧縮機21から排出している。このように室外機への電源投入後の拘束通電について図5を用いて説明する。
図5は、本発明の実施の形態1における電源投入後の拘束通電の実行時間を示す図である。図5に示すように、電源投入後、実行時間171で示す所定時間の間、拘束通電は実行される。実行時間171は、例えば、4時間である。
なお、ここでは、4時間、拘束通電を実行する一例について説明したが、これに限定されるものではない。室外機内において、室外熱交換器24と圧縮機21とで温度差がほとんどない状態となり、冷媒寝込み現象が生じないようにすればよい。
次に、冷媒寝込み現象を防止する対策として別の一例について図6を用いて説明する。
図6は、本発明の実施の形態1における運転停止後の拘束通電の実行タイミングを示す図である。図6においては、圧縮機21の運転停止後に拘束通電が実行される場合を想定している。図6に示すように、圧縮機21の運転停止後、所定時間が経過した後、実行タイミング191、192、193、・・・で示す所定間隔で、拘束通電は実行される。実行タイミング191、192、193、・・・を総称するときには実行タイミング190と称することとする。
ここで、圧縮機21の運転停止後の最初の所定時間は、例えば、30分である。また、実行タイミング191は、例えば、30分であり、実行タイミング192は、例えば、30分であり、実行タイミング193は、例えば、30分である。図6に示すように、圧縮機21の運転停止後は、次に、圧縮機21が運転を再開するまでは、常に所定間隔で、冷媒寝込み現象を防止する拘束通電が実行されることとなる。
図5及び図6で示すように、拘束通電は長期間にわたって実行されるものである。そのため、パワーモジュール42を構成するスイッチング素子は、耐熱性が低ければ、破壊されてしまうことがあり、拘束通電を続けるためには、拘束通電をスイッチング素子の耐熱性が維持できる範囲で行う必要があった。そのため、従来においては、十分に拘束通電をできないことがあった。そこで、上記で説明したワイドバンドギャップ素子を用いてパワーモジュール42を構成するのである。これにより、耐熱性の高い素子がパワーモジュール42に利用されることとなる。よって、図5及び図6で示したように長期間にわたって拘束通電を実行できる。また、ワイドバンドギャップ素子を用いたとしても、耐熱性には限度がある。そこで、上記で説明したように、設置範囲161にパワーモジュール42を設けるのである。これにより、パワーモジュール42の排熱を効率良く行うことができる。
また、図4に示すように、設置範囲161にパワーモジュール42を設けることにより、拘束通電による液冷媒への加熱に加え、パワーモジュール42による液冷媒の加熱を行うことができるようになる。例えば、従来においては、拘束通電に25[W]使用していたと想定する。このとき、パワーモジュール42のモジュール損失が25[W]であったとする。この場合、従来であれば、常に、モジュール損失として25[W]を捨てていたことになり、それだけ電力を無駄に消費していたことになる。本実施の形態においては、この捨てていたモジュール損失を後述する図7に示すように冷媒寝込み現象の防止に利用するものである。
図7は、本発明の実施の形態1における拘束通電の実行時間とパワーモジュールの排熱時の拘束通電の実行時間との比較を示す図である。図7に示すように、拘束通電だけの場合、実行時間201で示す時間の間、拘束通電が実行される。これに対して、図7に示すように、パワーモジュール42の排熱を利用した状態で拘束通電する場合、実行時間202で示す時間の間、拘束通電が実行される。つまり、差分211の分だけ拘束通電の時間を短縮できることになる。
次に、上記の構成を前提として、空気調和装置1の動作について説明する。
空気調和装置1は、冷房運転、暖房運転、及び拘束通電の何れかを行うことができることとする。インバータ装置31は、圧縮機21の駆動を制御することで、冷房運転、暖房運転、及び拘束運転の何れかを行う。
冷房運転の場合には、四路切換弁25は、図1の破線で示す状態となる。また、膨張弁23及び室外ファン27は上記で説明した所定の動作を実行する。また、圧縮機21は、上記で説明したように、所定の周波数と出力トルクで駆動される。その結果、吸入管71から吸入された冷媒が圧縮機21により圧縮されて高圧冷媒となり、吐出管91から吐出される。
暖房運転の場合には、四路切換弁25は、図1の実線で示す状態となる。また、膨張弁23及び室外ファン27は上記で説明した所定の動作を実行する。また、圧縮機21は、上記で説明したように、所定の周波数と出力トルクで駆動される。その結果、吸入管71から吸入された冷媒が圧縮機21により圧縮されて高圧冷媒となり、吐出管91から吐出される。
拘束通電の場合には、制御用CPUは、外気温度が上昇していることを、温度検知用サーミスタ44により検知する。制御用CPUは、外気温度が上昇していることを検知すると、ステータ131に設けられている巻線に電流を流す拘束通電を開始する。
具体的には、巻線の三相のうち、二相のみに高周波欠相電流を流す。例えば、パワーモジュール42は、高周波欠相電流を図6に示す実行タイミング190で流す。つまり、この場合においては、パワーモジュール42は、間欠的に高周波欠相電流を巻線に流すことになる。これにより、巻線では銅損による熱が発生する。同時に、パワーモジュール42は、巻線に電流を流し続けることにより、モジュール損失が生じて本体の温度であるモジュール温度が上昇する。この熱は、伝熱部43を介して図4に示す設置範囲161に供給される。この結果、パワーモジュール42自体も冷却される。これらにより、圧縮機21内部には、全体にわたって、まんべんなく熱が液冷媒に伝達される。
また、高周波欠相電流ではなく、圧縮機21のブラシレス直流モータ102の運転周波数範囲外の周波数成分により、巻線を加熱する場合もある。この場合には、圧縮動作時の運転周波数(〜1kHz)よりも高い周波数で動作させ、高周波電圧をブラシレス直流モータ102に印加する。このようにすると、回転トルクや振動が発生することなく、また、高周波電圧印加によって、巻線インピーダンスが高くなり、巻線に流れる電流が小さくなって銅損は減るものの、その分、高周波電圧印加による鉄損が発生し、効果的に巻線を加熱することができる。同時に、パワーモジュール42は、上記で説明したように圧縮機21に熱を供給する。よって、この場合においても、圧縮機21内部には、全体にわたって、まんべんなく熱が液冷媒に伝達される。
このようにすることで、パワーモジュール42によって、圧縮機21内部に滞留している液冷媒に熱を排出することができる。これにより、パワーモジュール42の温度上昇を抑制し、長期間にわたる拘束通電を行うことができる。
また、巻線により加熱に加え、パワーモジュール42によって加熱を行うため、巻線への通電時間を短縮することができる。これにより、消費電力量を抑制することができる。
また、巻線による加熱に加え、パワーモジュール42によって加熱を行うため、巻線への通電量を低減することができる。これにより、消費電力量を抑制することができる。
また、拘束通電を行う処理というのは、いわゆる待機電力を消費している処理に相当することとなるが、拘束通電の消費電力量を抑制することができるので、待機電力を削減させることができる。よって、欧州EuP指令(Directive on Eco−Design of Energy−using Products)や豪州MEPS(Minimum Energy Performance Standards)に適合させることができる。さらに、APF(Annual Performance Factor)に待機電力を削減させる項目が追加された場合であっても、拘束通電の消費電力を低減させることができることにより、そのようなAPFに対しても適合させることができる。
以上のように、本実施の形態1においては、圧縮機21と、圧縮機21のブラシレス直流モータ102を駆動するインバータ装置31とを備えた空気調和装置1であって、インバータ装置31は、圧縮機21を駆動するパワーモジュール42を備え、パワーモジュール42は、ブラシレス直流モータ102が設置された範囲より下の範囲の圧縮機21の外郭に取り付けられており、ブラシレス直流モータ102に電流を流すことにより、圧縮機21に冷媒が寝込むのを防止することができる。
また、本実施の形態1においては、パワーモジュール42は、ワイドギャップ半導体素子でスイッチング素子を形成し、伝熱部43を介して外郭に取り付けられ、圧縮機21が停止したときには、ブラシレス直流モータ102を加熱する電流を流す拘束通電を実行するものであり、拘束通電を実行するときには、スイッチング素子によりブラシレス直流モータ102に電流を流し、スイッチング素子の発熱を伝熱部43を介して圧縮機21に供給することにより、パワーモジュール42によって、圧縮機21内部に滞留している液冷媒に熱を排出することができる。これにより、パワーモジュール42の温度上昇を抑制し、長期間にわたる拘束通電を行うことができる。
実施の形態2.
実施の形態1との相違点は、パワーモジュール42が圧縮機21内部の液冷媒の高さを検知する処理を追加した点である。
なお、本実施の形態2において、特に記述しない項目については実施の形態1と同様とし、同一の機能や構成については同一の符号を用いて述べることとする。
図8は、本発明の実施の形態2における液冷媒の滞留範囲を示す図である。図8に示すように、第1の液面高さ151と第2の液面高さ152との間においては、第1の液冷媒滞留範囲221が設定され、第2の液面高さ152と第3の液面高さ153との間においては、第2の液冷媒滞留範囲222が設定されることとする。
第1の液冷媒滞留範囲221は、液冷媒がその範囲に滞留していることを意味するものである。すなわち、その範囲内に液冷媒が滞留していれば、パワーモジュール42からの熱は、圧縮機21に滞留している液冷媒に伝達されるため、温度検知用サーミスタ44が検知するモジュール温度に基づいて演算される時間当たりのモジュール温度の上昇は緩やかとなる。
第2の液冷媒滞留範囲222は、液冷媒がその範囲に滞留している可能性があることを意味するものである。すなわち、その範囲内に液冷媒が滞留していると想定すると、第1の液冷媒滞留範囲221には、液冷媒が存在しないこととなる。その結果、パワーモジュール42からの熱は、液冷媒には伝達されない。そのため、温度検知用サーミスタ44が検知するモジュール温度に基づいて演算される時間当たりのモジュール温度の上昇は大きくなる。
換言すれば、温度検知用サーミスタ44が検知するモジュール温度に基づいて演算される時間当たりのモジュール温度の傾きの度合い(以下、モジュール温度変化率という)により、液面高さを推定することができる。具体的には、モジュール温度変化率と液面高さとは相関関係がある。その相関関係について図9及び図10を用いて説明する。
図9は、本発明の実施の形態2における液面高さの違いによる温度の時間変化率を示す図である。図9に示すように、第1の値231及び第2の値232はある時点での時間を示すものとする。第1の値231と第2の値232との間の範囲は、モジュール温度変化率が緩やかであり、第2の値232を超えると、モジュール温度変化率が急激に変化する。すなわち、第2の値232の時間以降は、液冷媒に熱が伝達されていないことを意味することになる。すなわち、この場合においては、液冷媒の高さは、図8に示す第2の液面高さ152を下回ったこととなる。
具体的には、図9に示すように、温度の時間変化率を示す第1の領域241では、時間Δtに対して、モジュール温度の上昇幅であるΔTは小さい。これに対して、温度の時間変化率を示す第2の領域242では、時間Δtに対して、モジュール温度の上昇幅であるΔTは大きい。よって、モジュール温度変化率により、液冷媒の液面高さを推定することができる。
図10は、本発明の実施の形態2における液冷媒の滞留範囲の違いによる温度の時間変化率を示す図である。図10に示すように、第1の液冷媒の滞留範囲221と、第2の液冷媒の滞留範囲222とでは、モジュール温度変化率は異なる。よって、モジュール温度変化率により、液冷媒の液面高さを推定することができる。
したがって、モジュール温度変化率により、液面高さが、第1の液面高さ151から第2の液面高さ152の範囲にあるのか、又は、第2の液面高さ152から第3の液面高さ153の範囲にあるのかが推定できる。これにより、加熱を停止するタイミングがわかることになる。すなわち、第2の液冷媒の滞留範囲222であれば、これ以上、加熱を行う必要は生じない。よって、必要なときに必要な分だけ加熱をすることができる。そのため、消費電力を低減することができる。
以上のように、本実施の形態2においては、パワーモジュール42を制御する制御用CPU113と、パワーモジュール42の温度を検知する温度検知用サーミスタ44とを備え、制御用CPU113は、温度検知用サーミスタ44で検知した温度に基づいて、時間当たりの温度変化率を演算し、拘束通電を実行中に、時間当たりの温度変化率が変化したときには、パワーモジュール42がブラシレス直流モータ102に流す電流を止めることにより、液面高さを推定することができる。よって、必要なときに必要な分だけ加熱をすることができる。そのため、消費電力を低減することができる。