本発明で使用する脂肪酸エステル化合物は、2官能以上の多価アルコールを含有する多価アルコール混合物と脂肪酸との脂肪酸エステル化合物である。該脂肪酸エステル化合物は、所定の水酸基価を有する脂肪酸の部分エステル化合物である。
本発明で使用する脂肪酸エステル化合物は、4官能以下の多価アルコールの脂肪酸エステル化合物の含有割合が10重量%以下、好ましくは8重量%以下、より好ましくは5重量%以下であり、かつ、8官能以上の多価アルコールの脂肪酸エステル化合物の含有割合が15重量%以上、好ましくは18〜35重量%、より好ましくは20〜30重量である。該脂肪酸エステル化合物は、5官能乃至7官能の多価アルコールの脂肪酸エステル化合物を、それぞれ、好ましくは15重量%以上、より好ましくは18〜35重量%、特に好ましくは20〜30重量%の割合で含有することが望ましい。
本発明で用いる脂肪酸エステル化合物は、その脂肪酸残基の90重量%以上、好ましくは95重量%以上、より好ましくは98重量%以上が炭素数20〜25である。脂肪酸残基の炭素数は、好ましくは21〜24、特に好ましくは22である。
本発明において、各官能の脂肪酸エステル化合物の割合及び脂肪族残基の炭素数の割合は、GC−MS(ガスクロマトグラフィ/質量分析)測定により得られた分析値である。原料の多価アルコールの官能基数(OH基数)及び長鎖脂肪酸の炭素数は、主成分の官能基数や炭素数により表示されているが、実際には、バラツキがあるため、合成した脂肪酸エステル化合物について、これらの値を実測する必要がある。
本発明で使用する脂肪酸エステル化合物が前記の選択された組成を備えていることにより、本発明の前記課題を達成することができる。4官能以下の多価アルコールの脂肪酸エステル化合物の含有割合が高すぎたり、8官能以上の多価アルコールの脂肪酸エステル化合物の含有割合が低すぎたりすると、高温雰囲気下に放置後の耐ブロッキング性、剥離性及び細線再現性が低下する。脂肪酸エステル化合物中の炭素数20〜25の脂肪酸残基の割合が低すぎると、高温雰囲気下に放置後の耐ブロッキング性が著しく悪化したり、細線再現性が低下したりする。
本発明で使用する脂肪酸エステル化合物の水酸基価は、10〜20mgKOH/gの範囲、好ましくは11〜18mgKOH/g、より好ましくは12〜16mgKOH/gの範囲である。脂肪酸エステル化合物の水酸基価が高すぎると、重合トナーを製造する場合、水系分散媒体中で、該脂肪酸エステル化合物を含む単量体組成物の液滴を造粒する際に悪影響を及ぼし、粒径分布が均一で安定した液滴粒子を造粒することが困難となる結果、トナー粒子が凝集しやすくなり、耐ブロッキング性が悪化する。また、水酸基価が高すぎる脂肪酸エステル化合物を含むトナーは、高温高湿下での帯電性が不安定となり、細線再現性が悪化し、十分な画像濃度を得ることが難しくなる。他方、脂肪酸エステル化合物の水酸基価が低すぎると、OH基の残存量が少なく、極性が低いため、トナーは、定着時に記録媒体と定着ロールの界面に移行しにくくなる結果、十分な剥離性を得ることが困難となる。
本発明で使用する脂肪酸エステル化合物の平均分子量は、好ましくは2,000〜6,000、より好ましくは2,300〜4,000、特に好ましくは2,500〜3,500である。該脂肪酸エステル化合物の平均分子量が高すぎると、定着温度を低下させることが難しく、耐オフセット性も不十分となる。脂肪酸エステル化合物の平均分子量が低すぎると、それ自体の融点が低くなり、トナーの保存中あるいは現像装置のトナーボックス中の高温環境下で、トナーから脂肪酸エステル化合物が析出(ブリード)しやすくなり、その結果、トナーが凝集したり、ブリードアウトした脂肪酸エステル化合物の結晶が大きく成長したりすることがある。印字中に脂肪酸エステル化合物が析出すると、装置の各部を汚染し、現像ロールや感光体表面などへのトナーフィルミング発生の原因ともなる。脂肪酸エステル化合物の平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を用いて測定した標準ポリスチレン換算値として得ることができる。また、脂肪酸エステル化合物の平均分子量は、エステル化に使用した多価アルコールの平均分子量(計算値)と脂肪酸の分子量とから計算によって算出することもできる。
本発明で使用する脂肪酸エステル化合物は、示差走査熱量計により測定されるDSC曲線において、昇温時に50〜80℃の領域に最大吸熱ピークを示すものであることが好ましい。最大吸熱ピーク温度が50〜80℃にある脂肪酸エステル化合物は、トナーの低温定着性に寄与することができる。最大吸熱ピーク温度は、好ましくは55〜78℃、特に好ましくは60〜75℃である。
本発明で使用する脂肪酸エステル化合物は、少なくとも4官能から8官能までの多価アルコールを含有する多価アルコール混合物と炭素数20〜25の脂肪酸とをエステル化反応させることにより得ることができる。
多価アルコールの分子量は、好ましくは100〜1,500、より好ましくは200〜1,000、特に好ましくは300〜800である。したがって、多価アルコール混合物の平均分子量も、上記範囲内になる。分子量が大きすぎる多価アルコールを用いた脂肪酸エステル化合物は、脂肪酸成分による剥離効果が小さくなる傾向にある。
多価アルコールとしては、グリセリンの脱水縮合物(重縮合体)、糖質類またはその脱水縮合物などが挙げられる。これらの中でも、グリセリン重縮合体(ポリグリセリン)が好ましい。したがって、多価アルコール混合物としては、重縮合度の異なるグリセリン重縮合体混合物が好ましい。グリセリン及びポリグリセリンは、下記式で表すことができる。
n=1の場合、グリセリンの単量体であって、その水酸基数(官能基数)は、3個となる。n=2の場合、グリセリンの2量体であって、その官能基数は、4個となる。nが1つ増えるごとに、官能基数が1個ずつ増える。すなわち、官能基数=3+(n−1)となる。n=6の場合、グリセリンの6量体であって、その官能基数は8個となる。
グリセリンを脱水重縮合すると、重合度が異なるグリセリン重縮合体の混合物が得られる。本発明では、多価アルコール混合物として、少なくとも2量体から6量体までのグリセリン重縮合体混合物を含有するポリグリセリンを用いることが好ましい。このポリグリセリンには、グリセリン単量体及び/または7量体以上のポリグリセリンが含まれていてもよい。
ポリグリセリンとして、最終的に得られる脂肪酸エステル化合物が、4官能以下の多価アルコールの脂肪酸エステル化合物の含有割合が10重量%以下、好ましくは8重量%以下、より好ましくは5重量%以下であり、かつ、8官能以上の多価アルコールの脂肪酸エステル化合物の含有割合が15重量%以上、好ましくは18〜35重量%、より好ましくは20〜30重量%であるような官能基の分布を有するポリグリセリンを使用する。さらに、ポリグリセリンは、5官能乃至7官能の多価アルコールの各脂肪酸エステル化合物の含有割合が、それぞれ15重量%以上、より好ましくは18〜35重量%、特に好ましくは20〜30重量%となるような脂肪酸エステル化合物を与えることができる官能基の分布を有するものであることが好ましい。このようなポリグリセリンは、グリセリンの平均重縮合度が6以上となるような条件で脱水重縮合させ、その際、ジグリセリン重縮合体からデカグリセリン重縮合体まで分布が広くなるように重縮合条件を設定することにより得ることができる。
脂肪酸エステル化合物は、前記ポリグリセリンと炭素数20〜25の脂肪酸とをエステル化反応させることにより得ることができる。炭素数20〜25の脂肪酸は、飽和脂肪酸であることが好ましい。その場合、得られる脂肪酸エステル化合物が前記の如き官能基数の分布となるように、高純度の飽和脂肪酸を用いることが好ましい。また、炭素数が20〜25の高純度の飽和脂肪酸を用いることによって、脂肪酸残基の90重量%以上が炭素数20〜25である脂肪酸エステル化合物を得ることができる。
脂肪酸としては、炭素数が20〜25個、好ましくは22〜24個の飽和若しくは不飽和の脂肪酸であり、飽和脂肪酸であることがより好ましい。このような脂肪酸としては、イコサン酸(炭素数20)、ベヘン酸(炭素数22)、リグノセリン酸(炭素数24)等の飽和の高級脂肪酸;エルカ酸(炭素数22)等の高級不飽和脂肪酸;が挙げられる。これらの中でも、ベヘン酸が特に好ましい。
炭素数が少ない脂肪酸を用いて得られた脂肪酸エステル化合物を使用すると、高温雰囲気下に保持した静電荷像現像用トナーの耐久性が低下傾向を示す上、凝集性が増大したり、現像ロールが白化したりする。本発明で用いる脂肪酸エステル化合物の合成に使用される脂肪酸は、1種類であることが好ましく、ベヘン酸のみであることがより好ましい。従来、炭素数が異なる2種類の脂肪酸を用いて合成した脂肪酸エステル化合物は、結晶性が低下し、トナー定着時の溶融に必要な熱量が減少するので好ましいとされていた。しかし、炭素数が20未満の脂肪酸と炭素数が20以上の脂肪酸を併用して得られた脂肪酸エステル化合物を用いると、高温雰囲気下に保持した静電荷像現像用トナーの耐久性が低下傾向を示す上、凝集性が著しく増大したり、現像ロールが白化したりする。そのため、本発明で使用する脂肪酸エステル化合物は、脂肪酸残基の90重量%以上が炭素数20〜25であることが必要である。
本発明で使用する脂肪酸エステル化合物は、その水酸基価が10〜20mgKOH/gの範囲内となるように、ポリグリセリンの如き多価アルコールと脂肪酸とのエステル化反応率を調整することが必要である。そのためには、エステル化反応時に、多価アルコールに対して当量未満の脂肪酸を反応させ、そして、反応生成物を精製することが好ましい。
脂肪酸エステル化合物の使用割合は、トナーの結着樹脂(または結着樹脂を形成する重合性単量体)100重量部に対して、通常1〜10重量部、好ましくは1.5〜9重量部、より好ましくは2〜8重量部、特に好ましくは3〜7重量部である。本発明では、1〜9重量部である。脂肪酸エステル化合物の使用割合が低すぎると、低温定着性に優れ、細線再現性が高いトナーを得ることが困難となる。脂肪酸エステル化合物の使用割合が高すぎると、感光体表面へのトナーフィルミングが生じたり、トナー表面から析出したりしやすくなる。
本発明の静電荷像現像用トナーは、結着樹脂、着色剤、帯電制御剤、及び前記脂肪酸エステル化合物を含有する着色樹脂粒子であることが好ましい。着色樹脂粒子は、トナー粒子とも呼ばれ、重合トナーの場合には、着色重合体粒子と呼ばれることがある。本発明の静電荷像現像用トナーは、該着色樹脂粒子の表面に重合体層から成るシェルが更に形成されたコアシェル型着色樹脂粒子(カプセルトナー)であってもよい。
本発明の静電荷像現像用トナーの製造方法としては、例えば、粉砕法や重合法があり、重合法としては、乳化重合法、凝集法、分散重合法、懸濁重合法などが挙げられる。重合法によれば、ミクロンオーダーのトナー粒子を、比較的小さい粒径分布で直接得ることができる。本発明の静電荷像現像用トナーは、懸濁重合法によって得られる重合トナーであることが、現像剤特性の観点から特に好ましい。
懸濁重合による重合トナーは、分散安定剤を含有する水系分散媒体中で、少なくとも重合性単量体、着色剤、帯電制御剤、及び脂肪酸エステル化合物を含有する重合性単量体組成物を懸濁重合することにより得ることができる。重合性単量体が重合して生成する重合体が結着樹脂となる。コアシェル構造を有する重合トナーは、スプレイドライ法、界面反応法、in situ 重合法、相分離法などの方法により製造することができる。特に、in situ 重合法や相分離法は、製造効率がよく好ましい。具体的には、分散安定剤を含有する水系分散媒体中で、少なくとも重合性単量体、着色剤、及び脂肪酸エステル化合物を含有する重合性単量体組成物を懸濁重合することにより得られた着色樹脂粒子をコアとし、該コアの存在下にシェル用重合性単量体を懸濁重合することにより得ることができる。シェル用単量体が重合して形成される重合体層が樹脂被覆層となる。重合性単量体組成物には、必要に応じて、架橋性単量体、マクロモノマー、分子量調整剤、汎用の離型剤、滑剤、分散助剤などの各種添加剤を含ませることができる。
重合性単量体としては、モノビニル系単量体が好ましい。具体的には、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン等のスチレン系単量体;アクリル酸、メタクリル酸;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアクリル酸またはメタクリル酸の誘導体;エチレン、プロピレン、ブチレン等のエチレン性不飽和モノオレフィン;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル等のハロゲン化ビニル;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル等のビニルエーテル;ビニルメチルケトン、メチルイソプロペニルケトン等のビニルケトン;2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、N−ビニルピロリドン等の含窒素ビニル化合物;などが挙げられる。モノビニル系単量体は、それぞれ単独で、あるいは複数の単量体を組み合わせて用いることができる。モノビニル系単量体のうち、スチレン系単量体と(メタ)アクリル酸の誘導体とを併用するのが好適である。
重合性単量体と共に架橋性単量体及び/または架橋性重合体を用いると、耐ホットオフセット性の改善に有効である。架橋性単量体は、2以上の重合可能な炭素−炭素不飽和二重結合を有する単量体であり、例えば、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン、これらの誘導体等の芳香族ジビニル化合物;エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート等のジエチレン性不飽和カルボン酸エステル;1,4−ブタンジオール、1,9−ノナンジオール等の脂肪族両末端アルコール由来の(メタ)アクリレート;N,N−ジビニルアニリン、ジビニルエーテル等のジビニル化合物;3個以上のビニル基を有する化合物;などを挙げることができる。
架橋性重合体としては、分子内に2個以上の水酸基を有するポリエチレンやポリプロピレン、ポリエステルやポリシロキサン由来の(メタ)アクリレート等を挙げることができる。これらの架橋性単量体及び架橋性重合体は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。架橋性単量体及び/または架橋性重合体は、重合性単量体100重量部に対して、通常10重量部以下、好ましくは0.01〜5重量部、より好ましくは0.1〜2重量部の割合で使用される。
重合性単量体と共にマクロモノマーを用いると、保存性やオフセット防止性と低温定着性とのバランスを改善することができる。マクロモノマーは、分子鎖の末端に重合可能な官能基(例えば、炭素−炭素二重結合のような不飽和基)を有する比較的長い線状分子である。マクロモノマーとしては、数平均分子量が通常1,000〜30,000のオリゴマーまたはポリマーが好ましい。数平均分子量が小さいマクロモノマーを用いると、トナー粒子の表面部分が柔らかくなり、保存性が低下する。逆に、数平均分子量が大きいマクロモノマーを用いると、マクロモノマーの溶融性が悪く、トナーの定着性が低下する。
マクロモノマーの具体例としては、スチレン、スチレン誘導体、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等を単独でまたは2種以上を重合して得られる重合体、ポリシロキサン骨格を有するマクロモノマーなどが挙げられる。マクロモノマーの中でも、結着樹脂のガラス転移温度より高いガラス転移温度を有する重合体が好ましく、特にスチレンとメタクリル酸エステル及び/またはアクリル酸エステルとの共重合体マクロモノマーやポリメタクリル酸エステルマクロモノマーが好適である。マクロモノマーを使用する場合、その配合割合は、重合性単量体100重量部に対して、通常0.01〜10重量部、好ましくは0.03〜5重量部、より好ましくは0.05〜1重量部である。マクロモノマーの使用割合が高すぎると、定着性が低下する傾向を示す。
着色剤としては、カーボンブラックやチタンホワイトなどのトナーの分野で用いられている各種顔料及び染料を使用することができる。黒色着色剤としては、カーボンブラック、ニグロシンベースの染顔料類;コバルト、ニッケル、四三酸化鉄、酸化鉄マンガン、酸化鉄亜鉛、酸化鉄ニッケル等の磁性粒子;などを挙げることができる。カーボンブラックを用いる場合、一次粒径が20〜40nmであるものを用いると良好な画質が得られ、また、トナーの環境への安全性も高まるので好ましい。
カラートナー用着色剤としては、イエロー着色剤、マゼンタ着色剤、シアン着色剤などを使用することができる。イエロー着色剤としては、例えば、C.I.ピグメントイエロー3、12、13、14、15、17、62、65、73、83、90、93、97、120、138、155、180、181;ネフトールイエローS、ハンザイエローG、C.I.バットイエロー等が挙げられる。
マゼンタ着色剤としては、アゾ系顔料、縮合多環系顔料等が挙げられ、より具体的には、例えば、C.I.ピグメントレッド48、57、58、60、63、64、68、81、83、87、88、89、90、112、114、122、123、144、146、149、163、170、184、185、187、202、206、207、209、251;C.I.ピグメントバイオレット19等が挙げられる。
シアン着色剤としては、銅フタロシアニン化合物及びその誘導体、アントラキノン化合物等が挙げられ、より具体的には、例えば、C.I.ピグメントブルー2、3、6、15、15:1、15:2、15:3、15:4、16、17、60;フタロシアニンブルー、C.I.バットブルー、C.I.アシッドブルーなどが挙げられる。該着色剤は、結着樹脂または結着樹脂を形成する重合性単量体100重量部に対して、通常0.1〜50重量部、好ましくは1〜20重量部の割合で用いられる。
分子量調整剤としては、例えば、t−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン等のメルカプタン類;四塩化炭素、四臭化炭素等のハロゲン化炭化水素類;などを挙げることができる。これらの分子量調整剤は、重合開始前または重合途中に添加することができる。分子量調整剤は、重合性単量体100重量部に対して、通常0.01〜10重量部、好ましくは0.1〜5重量部の割合で用いられる。
着色剤の均一分散のために、オレイン酸、ステアリン酸等の脂肪酸、脂肪酸とNa、K、Ca、Mg、Zn等の金属とからなる脂肪酸金属塩などの滑剤;シラン系またはチタン系カップリング剤などの分散助剤;を使用することができる。滑剤及び分散剤は、着色剤の重量を基準として、それぞれ通常1/1,000〜1/1程度の割合で使用される。
トナーの帯電性を向上させるために、各種の正帯電性または負帯電性の帯電制御剤を使用することが好ましい。帯電制御剤としては、例えば、ボントロンN01(オリエント化学工業株式会社製)、ニグロシンベースEX(オリエント化学工業株式会社製)、スピロンブラックTRH(保土谷化学工業株式会社製)、T−77(保土谷化学工業株式会社製)、ボントロンS−34(オリエント化学工業株式会社製)、ボントロンE−81(オリエント化学工業株式会社製)、ボントロンE−84(オリエント化学工業株式会社製)、ボントロンE−89(オリエント化学工業株式会社製)、ボントロンF−21(オリエント化学工業株式会社製)、COPY CHRGE NX VP434(クラリアントジャパン株式会社製)、COPY CHRGE NEG VP2036(クラリアントジャパン株式会社製)、TNS−4−1(保土谷化学工業株式会社製)、TNS−4−2(保土谷化学工業株式会社製)、LR−147(日本カーリット株式会社社製)などの帯電制御剤;特開平11−15192号公報、特開平3−175456号公報、特開平3−243954号公報などに記載の4級アンモニウム(塩)基含有共重合体、特開平3−243954号公報、特開平1−217464号公報、特開平3−15858号公報などに記載のスルホン酸(塩)基含有共重合体等の帯電制御樹脂;を用いることができる。帯電制御樹脂を用いることが好ましく、市販品としては、例えば、FCA−592P(藤倉化成社製)等が挙げられる。帯電制御剤は、結着樹脂または結着樹脂を形成する重合性単量体100重量部に対して、通常0.01〜10重量部、好ましくは0.1〜7重量部の割合で用いられる。
本発明で使用する脂肪酸エステル化合物は、軟化剤として作用するため、その他の軟化剤の使用は必要ないが、所望により、低温定着性の向上などの目的で、軟化剤として、融点が50〜90℃の炭化水素化合物を、更に含有させることができる。このような炭化水素化合物としては、例えば、低分子量ポリエチレン、低分子量ポリプロピレン、及び低分子量ポリブチレン等のポリオレフィンワックス;キャンデリラ、カルナウバ、ライス、木ロウ、及びホホバ等の天然ワックス;パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、及びペトロラタム等の石油ワックス;等を用いることができるが、石油ワックスが好ましい。石油ワックスとしては、種々の市販品を用いることができ、例えば、日本精鑞株式会社製の、PW150(商品名;パラフィンワックス)、PW140(商品名;パラフィンワックス)、PW155(商品名;パラフィンワックス)、HNP−11(商品名;パラフィンワックス)、HNP−5(商品名;パラフィンワックス)、Hi−Mic−1045(商品名;マイクロクリスタリンワックス)、Hi−Mic−2045(商品名;マイクロクリスタリンワックス)等が挙げられる。炭化水素化合物は、その融点が、50〜90℃であり、55〜85℃であることが好ましく、60〜80℃であることが更に好ましい。融点が50℃より低いと、保存性が低下することがあり、融点が90℃を超えると、定着温度が高くなり、定着性が悪化することがある。炭化水素化合物を更に含有させる場合は、結着樹脂100重量部に対して、1〜10重量部を含むものとすることが好ましく、2〜8重量部が更に好ましい。炭化水素化合物の含有量が多すぎると、保存性が低下することがあり、炭化水素化合物の含有量が少なすぎると、定着温度が高くなり、定着性が悪化することがある。
重合開始剤としては、ラジカル重合開始剤が好適に用いられる。具体的には、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;4,4′−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2,2′−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩、2,2′−アゾビス−2−メチル−N−1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチルプロピオアミド、2,2′−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2′−アゾビスイソブチロニトリル、1,1′−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)等のアゾ化合物;イソブチリルパーオキサイド、2,4−ジ−クロロベンゾイルパーオキサイド、3,5,5′−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド系;ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジ−カーボネート、ジ−n−プロピルパーオキシジ−カーボネート、ジ−イソプロピルパーオキシジ−カーボネート、ジ−2−エトキシエチルパーオキシジ−カーボネート、ジ(2−エチルエチルパーオキシ)ジ−カーボネート、ジ−メトキシブチルパーオキシジ−カーボネート、ジ(3−メチル−3−メトキシブチルパーオキシ)ジ−カーボネート等のパーオキシジ−カーボネート類;(α,α−ビス−ネオデカノイルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、クミルパーオキシネオデカノエート、1,1′,3,3′−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシピバレート、メチルエチルパーオキシド、ジ−t−ブチルパーオキシド、アセチルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジ−イソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−t−ブチルパーオキシイソフタレート、t−ブチルパーオキシイソブチレート等の他の過酸化物類などが例示される。これら重合開始剤と還元剤とを組み合わせたレドックス開始剤を使用することもできる。
これらの重合開始剤の中でも、重合性単量体に可溶な油溶性ラジカル開始剤が好ましく、必要に応じて、水溶性の開始剤をこれと併用することもできる。重合開始剤の使用割合は、重合性単量体100重量部に対して、通常0.1〜20重量部、好ましくは0.3〜15重量部、より好ましくは0.5〜10重量部である。この使用割合が低すぎると重合速度が遅くなり、大きすぎると分子量が低くなるので、好ましくない。重合開始剤は、単量体組成物中に予め添加することができるが、早期重合を避ける目的で、水系分散媒体中での単量体組成物の造粒工程終了後に懸濁液中に添加することもできる。重合開始剤の使用割合は、水系分散媒体基準で、通常0.001〜3重量%程度である。
本発明で用いられる分散安定剤としては、硫酸バリウム、硫酸カルシウムなどの硫酸塩;炭酸バリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムなどの炭酸塩;リン酸カルシウムなどのリン酸塩;酸化アルミニウム、酸化チタン等の金属酸化物;水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化第二鉄等の金属水酸化物;ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ゼラチン等の水溶性高分子;アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤等の界面活性剤;などを挙げることができる。これらの中でも、硫酸塩、炭酸塩、金属酸化物、金属水酸化物などの金属化合物が好ましく、難水溶性の金属化合物のコロイドがより好ましい。特に、難水溶性の金属水酸化物のコロイドは、トナー粒子の粒径分布を狭くすることができ、画像の鮮明性が向上するので好適である。
難水溶性金属化合物のコロイドは、その製法による制限はないが、水溶性多価金属化合物の水溶液のpHを7以上に調整することによって得られる難水溶性の金属水酸化物のコロイド、特に水溶性多価金属化合物と水酸化アルカリ金属塩との水相中の反応により生成する難水溶性の金属水酸化物のコロイドが好ましい。難水溶性金属化合物のコロイドは、個数粒径分布D50(個数粒径分布の50%累積値)が0.5μm以下で、D90(個数粒径分布の90%累積値)が1μm以下であることが好ましい。コロイドの粒径が大きくなりすぎると、重合の安定性が崩れ、また、トナーの保存性が低下する。
分散安定剤は、重合性単量体100重量部に対して、好ましくは0.1〜20重量部、より好ましくは0.3〜10重量部の割合で使用する。この使用割合が低すぎると、十分な重合安定性を得ることが困難となり、重合凝集物が生成しやすくなる。逆に、この使用割合が高すぎると、微粒子の増加によりトナー粒子の粒径分布が広がったり、水溶液粘度が大きくなって重合安定性が低くなる。
懸濁重合法により着色樹脂粒子(着色重合体粒子)を製造するには、先ず、重合性単量体、着色剤、その他の添加剤成分を混合し、重合性単量体組成物を調製する。次に、該重合性単量体組成物を、分散安定剤を含有する水系媒体中に投入し、高速攪拌機等により高剪断力で攪拌して、水系媒体中に重合性単量体組成物の微小な液滴を形成する。
重合性単量体組成物の液滴形成においては、先ず、体積平均粒径が50〜1,000μm程度の一次液滴を形成する。重合開始剤は、早期重合を避けるため、水系媒体中での一次液滴の大きさが均一になってから水系分散媒体に添加することが好ましい。水系分散媒体中に重合性単量体組成物の一次液滴が分散した懸濁液に重合開始剤を添加混合し、さらに、高速回転剪断型撹拌機を用いて、液滴の粒径が目的とする着色重合体粒子に近い小粒径になるまで撹拌する。このようにして、体積平均粒径が2〜15μm程度の微小粒径の二次液滴を形成する。
液滴形成の方法は、特に限定されないが、例えば、(インライン型)乳化分散機(株式会社荏原製作所製、商品名「マイルダー」)、高速乳化・分散機(特殊機化工業株式会社製、商品名「T.K.ホモミクサー MARK II型」)等の強攪拌が可能な装置を用いて行う。
水系媒体中に液滴として分散した重合性単量体組成物を、重合開始剤の存在下に重合して、着色重合体粒子を生成させる。重合温度は、通常50℃以上、好ましくは60〜95℃である。重合の反応時間は、通常1〜20時間、好ましくは2〜15時間である。生成した着色重合体粒子を含有する水分散液を濾過し、次いで、洗浄、脱水、及び乾燥の各工程を経て、着色重合体粒子を回収する。
着色重合体粒子を形成するのに用いる重合性単量体は、それを重合して得られる重合体のガラス転移温度Tgが通常80℃以下、好ましくは40〜80℃、より好ましくは50〜70℃になるように選択することが望ましい。重合性単量体を単独で、または2種以上を組み合わせて使用することにより、生成する重合体のガラス転移温度を所望の範囲に調整することができる。
コアシェル型着色重合体粒子の場合、シェルを構成する重合体のガラス転移温度が、コアの着色重合体粒子を構成する重合体のガラス転移温度より高いことが好ましく、5℃以上高いことがより好ましく、10℃以上高いことが特に好ましい。シェル用重合性単量体としては、80℃を超える高いガラス転移温度を持つ重合体を形成することができるスチレン、メチルメタクリレート、アクリロニトリル、これらの混合物などが好ましい。
シェル用重合性単量体の重合に用いる重合開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸金属塩;2,2′−アゾビス〔2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド〕、2,2′−アゾビス−[2−メチル−N−〔1,1−ビス(ヒドロキシメチル)2−ヒドロキシエチル〕プロピオンアミド]等のアゾ系開始剤;等の水溶性重合開始剤を挙げることができる。重合開始剤の添加量は、シェル用重合性単量体100重量部に対して、好ましくは、0.1〜30重量部、より好ましくは1〜20重量部である。シェル層の重合温度は、好ましくは50℃以上、より好ましくは60〜95℃である。重合の反応時間は、好ましくは1〜20時間、より好ましくは2〜15時間である。
重合により生成した着色重合体粒子(コアシェル型を含む)を含有する水分散液は、分散安定剤を含んでいるため、着色重合体粒子の表面には、多数の分散安定剤の微粒子が付着している。分散安定化剤として、酸で可溶な無機水酸化物等の無機化合物を使用した場合には、生成した着色重合体粒子を含有する水分散液に酸を添加し、分散安定化剤を水に溶解させて除去する。分散安定化剤がアルカリで可溶な無機化合物である場合には、着色重合体粒子を含有する水分散液にアルカリを添加して、分散安定化剤を水に溶解させて除去する。
例えば、分散安定剤として水酸化マグネシウムコロイドなどの難水溶性金属水酸化物のコロイドを用いた場合には、水分散液に硫酸の如き酸を加えて分散安定剤を水に可溶化させる(これを「酸洗浄」という)。酸洗浄により、水分散液のpHを通常6.5以下、好ましくは2〜6.5、より好ましくは3〜6.0に調整する。添加する酸としては、硫酸、塩酸、硝酸等の無機酸;蟻酸、酢酸等の有機酸;を用いることができる。
酸洗浄またはアルカリ洗浄工程で得られた水分散液を濾過して、着色重合体粒子を濾別する。次に、濾別した着色重合体粒子を、水で洗浄し、洗浄水を濾過する。水洗工程では、濾液(濾過した洗浄水)の電気伝導度が1,000μS/cm以下となるまで水で洗浄し、洗浄水を濾過することが好ましい。水洗工程は、バッチ式で繰り返し行ってもよく、またはベルトフィルターなどを用いて連続的に行ってもよい。水洗浄に用いる洗浄装置としては、例えば、ベルトフィルター、ロータリーフィルター、及びフィルタープレスのいずれか1つもしくはこれらの複数を組み合わせて用いることが好ましい。洗浄工程後、湿潤状態の着色重合体粒子は、脱水工程により脱水され、乾燥される。
本発明の静電荷像現像用トナー(コアシェル型着色樹脂粒子を含む)の体積平均粒径(Dv)は、通常3〜12μm、好ましくは5〜11μm、より好ましくは6〜10μmである。本発明のトナー粒子の体積平均粒径(Dv)と個数平均粒径(Dn)との比(Dv/Dn)で表される粒径分布は、通常1以上で、1.7以下、好ましくは1.5以下、より好ましくは1.4以下、特に好ましくは1.3以下である。トナー粒子の体積平均粒径が大きすぎると、細線再現度が低下し、解像度が低下しやすくなる。トナー粒子の粒径分布が大きいと、大粒径のトナー粒子の割合が高くなり、解像度が低下しやすくなる。
本発明のトナー粒子の平均円形度は、好ましくは0.960〜0.995、より好ましくは0.970〜0.990である。トナー粒子の平均円形度が小さすぎると、非球形トナーの形状に起因して、静電荷像現像用トナーの流動性が低下し、細線再現性が低下しやすくなる。トナー粒子の平均円形度が大きすぎると、感光体上に残留するトナーのクリーニング性が低下傾向を示す。トナー粒子の平均円形度が上記範囲内にあることによって、静電荷像現像用トナーの流動性、細線再現性、及びクリーニング性が高度にバランスされる。
平均円形度は、粒子の投影面積に等しい円の周囲長L1と該粒子投影像の周囲長L2との比(L1/L2)によって求めることができる。平均円形度は、0.6〜400μmの円相当径を有するトナー粒子について測定した各粒子の円形度の平均値である。平均円形度の測定は、フロー式粒子像分析装置を用いて行うことができる。平均円形度は、トナー粒子形状の凹凸の度合いを示す指標であり、トナー粒子が完全な円形の場合には、1.0を示し、形状が複雑になるほど平均円形度は小さな値を示す。
本発明のトナー粒子のテトラヒドロフラン(THF)抽出分量は、通常20〜80重量%、好ましくは25〜70重量%、より好ましくは30〜65重量%である。THF抽出分量が80重量%を超えるものでは、保存性や剥離性が劣り、THF抽出分量が20重量%未満のものでは、低温定着性が低下する場合がある。
コアシェル型着色樹脂粒子(コアシェル型トナー粒子)におけるシェルの平均厚みは、通常0.001〜1μm、好ましくは0.003〜0.5μm、より好ましくは0.005〜0.2μm、特に好ましくは0.02〜0.05μm(20〜50nm)である。シェル厚みが大きすぎると定着性が低下し、小さすぎると保存性が低下する。重合トナーのコア粒径及びシェルの厚みは、電子顕微鏡により観察できる場合は、その観察写真から無作意に選択した粒子の大きさ及びシェル厚みを直接測ることにより得ることができる。電子顕微鏡でコア粒子とシェルとを区別して観察することが困難な場合は、コア粒子の体積平均粒径とシェルを形成する重合性単量体の使用量とから、シェルの厚みを算出することができる。
コアシェル構造の形成方法は、重合トナーの場合には、前記着色樹脂粒子をコア粒子とし、該コア粒子の存在下にシェル用重合性単量体を重合して、コア粒子の表面に重合体層(シェル)を形成する方法(in situ 重合法)が好ましい。
本発明の静電荷像現像用トナーは、定着温度が低く、剥離性に優れており、限界剥離温度が、好ましくは190℃以上、より好ましくは196℃以上、特に好ましくは200℃以上である。本発明の静電荷像現像用トナーは、高温で保存後の連続印字特性に優れており、55℃で8時間浸漬保存後の凝集性が、好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下、特に好ましくは2重量%以下であり、高温での耐ブロッキング性に優れている。
本発明の静電荷像現像用トナーを非磁性一成分現像剤として使用する場合は、トナー粒子(着色樹脂粒子)に外添剤を混合することが好ましい。外添剤としては、流動化剤や研磨剤などとして作用する無機粒子及び有機樹脂粒子が挙げられる。無機粒子としては、例えば、二酸化ケイ素(シリカ)、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化錫、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウムなどが挙げられる。有機樹脂粒子としては、メタクリル酸エステル重合体粒子、アクリル酸エステル重合体粒子、スチレン−メタクリル酸エステル共重合体粒子、スチレン−アクリル酸エステル共重合体粒子、コアがメタクリル酸エステル共重合体でシェルがスチレン重合体で形成されたコアシェル型粒子などが挙げられる。
これらの中でも、無機酸化物粒子が好ましく、二酸化ケイ素が特に好ましい。無機微粒子表面を疎水化処理することができ、疎水化処理された二酸化ケイ素粒子が特に好適である。外添剤は、2種以上を組み合わせて用いてもよく、外添剤を組み合わせて用いる場合には、平均粒子径の異なる無機粒子同士または無機粒子と有機樹脂粒子とを組み合わせる方法が好適である。外添剤の量は、特に限定されないが、トナー粒子100重量部に対して、通常0.1〜6重量部である。外添剤をトナー粒子に付着させるには、通常、トナー粒子と外添剤とをヘンシェルミキサーなどの混合機に入れて攪拌する。
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。部及び%は、特に断りのない限り重量基準である。物性及び特性は、以下の方法により測定して評価した。
(1)水酸基価(mgKOH/g):
脂肪酸エステル化合物の水酸基価は、1gの試料に含まれる遊離のヒドロキシル基をアセチル化するために必要な酢酸を中和するのに要する水酸化カリウムのmg数として測定した。
具体的には、アセチル化試薬として、無水酢酸25gを100mlの全量フラスコに入れ、ピリジン(JIS K8777)を標線まで加えて、混合したものを用いた。試料2gを、内容量150mlの首長丸底フラスコに量り取り、アセチル化試薬5mlを加える。首長丸底フラスコの首に小さな漏斗をのせ、フラスコの底部を加熱浴に約1cmの深さに沈め、95〜100℃に加熱する。フラスコの首がこの時の浴の熱を受けて温度が上がるのを防ぐために、中に丸い穴を開けた厚紙の円盤をフラスコの首の付け根にかぶせる。1時間後、首長丸底フラスコを加熱浴から抜き離して冷却し、漏斗から1mlの水を加える。混合物を振ると熱がでて無水物が酸に変わる。この反応を確実に完結させるために、該フラスコをもう一度加熱浴に入れ、10分間加熱する。再び常温まで冷却し、漏斗やフラスコの首に凝縮した液を5mlの中性エタノールでフラスコの中に洗い流す。このフラスコ中の内容物を0.5mol/Lの水酸化カリウム−エタノール標準液で、フェノールフタレイン指示薬(混合液が強い褐色のときは、アルカリブルー6B指示薬)を用いて滴定する。本試験と並行して空試験を行う。試料の酸価は、別に決定しておく。
水酸基価=[〔(A−B)×28.05×F〕/C]+酸価
A:空試験での0.5mol/L水酸化カリウム−エタノール標準液使用量(ml)、
B:本試験での0.5mol/L水酸化カリウム−エタノール標準液使用量(ml)、
F:0.5mol/L水酸化カリウム−エタノール標準液のファクター、
C:試料採取量(g)。
(2)脂肪酸エステル化合物における多価アルコールの官能基数の割合と脂肪酸残基の炭素数の割合:
脂肪酸エステル化合物における多価アルコールの官能基数の割合と脂肪酸残基の炭素数の割合は、以下の方法で測定した結果に基づいて定めた。
試料2gをはかり取り、該試料に6Nの塩酸を加えて110℃で6時間加熱して加水分解を行った。加水分解後、試料溶液を分液ロートに移し、ジエチルエーテルを加えて抽出を行った。エーテル相については、そのままGC−MS(ガスクロマトグラフィ/質量分析)測定に供した。水相については、水を蒸発乾固させ、次いで、ピリジン1ml、ヘキサメチルジシラザン0.2ml、及びトリメチルクロロシラン0.1mlを添加して、100℃で20分間加熱してシリル化を行った。このシリル化を行った試料についてGC−MS測定を行った。各成分の割合は、クロマトグラム上のピーク面積値より求めた。
測定装置:Agilent 5975 inert GC/MSシステム(Agilent Technologies Inc.製)、
カラム:HP−5ms(30m×250μmφ×0.25μm)、
カラム温度:100℃から320℃に昇温(昇温速度10℃/分、15分間保持)、
キャリヤーガス:He(1ml/分)、
イオン化法:EI(70eV)。
(3)最大吸熱ピーク温度(℃):
脂肪酸エステル化合物の最大吸熱ピーク温度は、ASTM D3418−82に従って測定した。より具体的には、示差走査熱量計を用いて試料を昇温速度10℃/分で昇温し、その過程で得られたDSC曲線の最大吸熱ピークを示す温度を測定した。示差走査熱量計として、セイコー電子工業社製「SSC5200」を使用した。
(4)体積平均粒径(Dv)及び粒径分布(Dv/Dn):
着色樹脂粒子(コアシェル型着色樹脂粒子を含む)の体積平均粒径(Dv)、及び体積平均粒径(Dv)と個数平均粒径(Dn)との比(Dv/Dn)で表される粒径分布は、マルチサイザー(商品名、ベックマン・コールター株式会社製)により測定した。マルチサイザーによる測定は、アパーチャー径=100μm、媒体=アイソトンII、濃度=10%、測定粒子個数=50,000個の条件で行った。
(5)平均円形度:
着色樹脂粒子の平均円形度は、フロー式粒子像分析装置(FPIA−1000;シスメックス株式会社製)を用いて、水分散系で測定し得た値である。測定方法としては、容器中に予めイオン交換水10mlを用意し、その中に分散剤として界面活性剤、好ましくはアルキルベンゼンスルホン酸塩を加えた後、測定試料0.02gを加え、均一に分散させる。分散手段としては、超音波分散機を用いて、60W、3分間の条件で分散処理を行った。測定時の着色樹脂粒子の濃度は、3,000〜10,000個/μlとなるよう調整した。着色樹脂粒子1,000個から10,000個の円形度を計測した。このデータを用いて、平均円形度を求めた。
(6)テトラヒドロフラン(THF)抽出分量:
着色樹脂粒子のテトラヒドロフラン(THF)抽出分は、以下の方法により測定した。
着色樹脂粒子を1g精秤し、円筒ろ紙(東洋ろ紙製:No.86R、サイズ28×100mm)の入ったソックスレー抽出器に入れ、溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)100mlを用いて6時間環流して抽出液を得た。抽出液からTHFを蒸発留去して不揮発成分を得、それを50℃で1時間真空乾燥した後、精秤し、以下の計算式から算出した。
THF抽出分量(%)=S/T×100
T:着色樹脂粒子サンプル量(g)
S:抽出不揮発成分量(g)
(7)定着温度:
静電荷像現像用トナーの定着温度は、以下の方法により測定した。
市販の非磁性一成分現像方式のプリンター(印字速度=20枚/分)の定着ロール部の温度を変化できるように改造したプリンターを用いて、定着試験を行った。定着試験は、改造プリンターの定着ロールの温度を変化させて、それぞれの温度での現像剤の定着率を測定し、温度−定着率の関係を求めることにより行った。
定着率は、温度を変化させたとき、定着ロールの温度を安定化させるため5分間以上放置し、その後、改造プリンターで印刷した試験用紙における黒ベタ領域のテープ剥離操作前後の画像濃度の比率から計算した。テープ剥離操作とは、試験用紙の測定部分に粘着テープ(住友スリーエム株式会社製スコッチメンディングテープ810−3−18)を貼り、一定圧力で押圧して付着させ、その後、一定速度で紙に沿った方向に粘着テープを剥離する一連の操作である。画像濃度は、グレタグマクベス社製反射式画像濃度測定機を用いて測定した。
定着率(%)=(ID後/ID前)×100
ID前:テープ剥離前の画像濃度
ID後:テープ剥離後の画像濃度
この定着試験において、定着率80%に該当する定着ロール温度を現像剤の定着温度とした。
(8)限界剥離温度:
静電荷像現像用トナーの限界剥離温度は、以下の方法により測定した。
記録媒体と定着ロールを分離するためのプレートを設けた市販の非磁性一成分現像方式のプリンター(ブラザー工業株式会社製、HL4040CN、印字速度=20枚/分)を改造し、定着ロール表面の温度を変化できるようにし、剥離試験を行った。剥離試験は、改造プリンターの定着ロールの温度を150℃から200℃に変化させて、温度23℃及び相対湿度50%(N/N)の常温常湿環境下で印字試験を行い、10枚印字したときに剥離不良が発生する温度を限界剥離温度とした。剥離不良とは定着ロールに記録媒体が剥離されずに巻きついて詰まってしまう、または記録媒体面に分離プレートの跡が観察されることである。試験結果に「200<」とあるのは、改造プリンターの定着ロールの温度を200℃としても剥離不良が発生しなかったことを示す。
(9)凝集性:
静電荷像現像用トナーの凝集性は、以下の方法により測定した。
内容積100mlのプラスチック製容器に静電荷像現像用トナー10gを秤量した後容器の口を密閉し、55℃の恒温水槽に8時間浸漬した。この容器の中身を目開き150μmの篩で振幅1.0mmで30秒間振動させて篩分した。このとき篩の上に残ったトナー重量を計測し、その重量の10gに対する割合(%)で凝集性を評価した。
(10)細線再現性:
静電荷像現像用トナーの細線再現性は、以下の方法により測定した。
細線再現性試験は、市販の非磁性一成分現像方式のプリンター(印字速度:20枚/分)を用いて行った。該プリンターの現像装置に、試験に供するトナーを入れ、コピー用紙をセットし、温度23℃及び相対湿度50%(N/N)の常温常湿環境下で一昼夜放置後、2×2ドットライン(幅約85μm)で連続して線画像を形成し、500枚毎に、印字評価システム(YA−MA社製、商品名:RT2000)によって、線画像の濃度分布データを測定した。評価は、その濃度の最大値の半値における全幅を線幅として、一枚目の線画像の線幅を基準として、その線幅の差が10μm以下のものを1枚目の線画像を再現しているとして、線画像の線幅の差が10μm以下を維持できる枚数を10,000枚まで調べた。試験結果に「10000<」とあるのは、10,000枚連続で線画像を印字しても、上記基準を満たしていることを示す。
[製造例1]脂肪酸エステル化合物A
脂肪酸エステル化合物Aは、ポリグリセリン#500(阪本薬品工業株式会社製)100部とベヘン酸480部を反応容器に入れ、触媒及び窒素気流下に240℃で反応させることにより粗生成物540部を得た。この粗生成物をn−ヘキサンで再結晶し、洗浄した後、真空乾燥機中で24時間乾燥を行うことでポリグリセリンのベヘン酸エステル化合物520部を得た。この脂肪酸エステル化合物の最大吸熱ピーク温度は、68℃であった。その官能基数と飽和脂肪酸残基の炭素数の分析結果を表1に示す。
[製造例2]脂肪酸エステル化合物B
脂肪酸エステル化合物Bは、ポリグリセリン#500(阪本薬品工業株式会社製)100部とベヘン酸640部を反応容器に入れ、触媒及び窒素気流下に240℃で反応させることにより調製した。この脂肪酸エステル化合物の最大吸熱ピーク温度は、71℃であった。その官能基数と飽和脂肪酸残基の炭素数の分析結果を表1に示す。
[実施例1]
1.コア用重合性単量体組成物の調製:
スチレン77部及びn−ブチルアクリレート23部からなるコア用重合性単量体、マクロモノマーとしてポリメタクリル酸エステルマクロモノマー(東亜合成株式会社製、製品名AA6)0.25部、カーボンブラック(三菱化学株式会社、製品名#25B)7部、及び正帯電制御樹脂(第4アンモニウム塩基含有スチレン/アクリル樹脂、藤倉化成株式会社製、製品名FCA−592P)0.75部とを、撹拌翼を有する攪拌装置で攪拌し、混合した後、メディア型分散機により、均一分散した。この混合液に、脂肪酸エステル化合物A(ポリグリセリンのベヘン酸エステル化合物)5部添加し、混合、溶解してコア用重合性単量体組成物を得た。
2.水系分散媒体の調製:
25℃で、イオン交換水240部に塩化マグネシウム(水溶性多価金属塩)10部を溶解した水溶液を、攪拌しながら、イオン交換水45部に水酸化ナトリウム(水酸化アルカリ金属塩)5部を溶解した水溶液を、徐々に添加して、水酸化マグネシウムコロイド(難水溶性の金属水酸化物コロイド)の分散液を調製した。得られたコロイドの粒径分布を粒径分布測定機(株式会社島津製作所製、製品名SALD有形分布測定機)で測定したところ、D50(個数粒径分布の50%累積値)が0.36μm、D90(同90%累積値)が0.80μmであった。
3.造粒工程:
上記水酸化マグネシウムコロイド分散液に、45℃で、上記コア用重合性単量体組成物を添加し、撹拌翼を備えた攪拌装置により、生成する粗い液滴が安定するまで攪拌した。ここに、重合開始剤としてt−ブチルパーオキシジエチルアセテート4.4部、分子量調整剤としてテトラエチルチウラムジスルフィド(TETD)1.0部、及び架橋性の重合性単量体としてジビニルベンゼン0.5部を添加し、次いで、高速剪断攪拌機(株式会社荏原製作所製、製品名エバラマイルダー)を用いて15,000rpmの回転数で5分間高速剪断攪拌して、重合性単量体組成物の液滴を造粒した。
4.シェル用重合性単量体の調製:
シェル用重合性単量体として、メチルメタクリレート1.5部を、シェル用の水溶性の重合開始剤として、和光純薬株式会社製、製品名VA086の0.1部をイオン交換水10部に溶解した溶液を用意した。
5.懸濁重合工程:
撹拌翼を持つ攪拌装置を備えた反応器を用意した。この反応器に、上記コア用重合性単量体の液滴が分散した水系分散液を投入した。
反応器の外部に取り付けたジャケットにより、反応器内の分散液の液温が90℃になるまで加熱することにより、コア用重合性単量体組成物の重合反応を開始した。重合反応を継続し、重合転化率が95%に達した時に、反応系内の温度を90℃に維持しながら、上記シェル用重合性単量体と、上記シェル用水溶性重合開始剤を添加した。さらに3時間、90℃に反応系内の温度を維持することにより重合反応を継続したあと、ジャケットに冷却水を注入し、系内の温度を約25℃に下げることにより重合反応を停止した。以上の操作により、反応器内に、生成コアシェル型の着色重合体粒子を含む水系分散液を得た。
6.後処理工程:
得られた着色重合体粒子を含む水系分散液をストリッピング処理した。まず、得られた着色重合体粒子を含む水系分散液に非シリコーン系消泡剤(サンノプコ株式会社製、製品名SNデフォーマー180)1部を加えた。反応器内に、窒素ガスを流して、その気層部を窒素ガスで置換した。次いで、着色重合体粒子を含む水系分散液を、90℃になるまで加熱し、液中に気体吹き込み口が直管形状の気体吹き込み管から窒素ガスを6時間吹き込んで、液中の揮発性物質を除去していった。その後、着色重合体粒子を含む水系分散液を、ジャケットに冷却水を注入することにより25℃まで冷却した。
冷却後の着色重合体粒子を含む水系分散液を攪拌しながら、硫酸を加えて、その液のpHを4.5に中和することより、酸洗浄を行った。中和後の着色重合体粒子を含む水系分散液から、濾過により湿潤状態の着色重合体粒子を分離した。その後、新たにイオン交換水500部を加えて、湿潤状態の着色重合体粒子を再度スラリー化し、これを再度濾別した。このスラリー化と濾別を3回繰り返して行うことにより、湿潤状態の着色重合体粒子を水洗した。
水洗後の湿潤状態の着色重合体粒子を、真空乾燥機により、温度40℃で72時間乾燥して、乾燥したコアシェル型着色重合体粒子を得た。
7.外添工程:
着色重合体粒子100部に、疎水化処理した微粒子(キャボット社製、製品名TG820F)0.6部、及び疎水化処理した微粒子(日本アエロジル株式会社製、製品名NA50Y)1部を添加し、ヘンシェルミキサーを用いて混合して非磁性一成分現像剤を得た。その体積平均粒径(Dv)は7.6μm、粒径分布(Dv/Dn)は1.19で、平均円形度は0.986であり、THF抽出分量は、55重量%であった。得られた現像剤(単に、トナーと呼ぶことがある)の試験結果をまとめて表1に示す。
[実施例2]
実施例1において、軟化剤として、更に炭化水素化合物(商品名:HNP−11、日本精蝋株式会社製)5部を添加した以外は実施例1と同様にして、非磁性一成分現像剤を得た。得られたトナーの試験結果をまとめて表1に示す。
[比較例1]
実施例1において、軟化剤を、脂肪酸エステル化合物Aから脂肪酸エステル化合物Bに変更した以外は実施例1と同様にして、非磁性一成分現像剤を得た。得られたトナーの試験結果をまとめて表1に示す。
[比較例2]
実施例1において、軟化剤をジペンタエリスリトールヘキサミリステートエステルに変更した以外は実施例1と同様にして非磁性一成分現像剤を得た。得られたトナーの試験結果をまとめて表1に示す。
表1の結果の対比から明らかなように、脂肪酸エステル化合物中の飽和脂肪酸残基の90重量%以上が、炭素数20〜25であり、かつ、特定の官能基数の分布を有し、水酸基価が10〜20mgKOH/gである脂肪酸エステル化合物を用いることにより(実施例1)、低温定着性で、限界剥離温度が200℃を超えて剥離性に優れ、かつ、細線再現性が高く、高温で保存後の凝集性が著しく小さな静電荷像現像用トナーを得ることができる。
また、軟化剤として、更に、融点が50〜90℃の炭化水素化合物を併用すると(実施例2)、低温定着性が一層優れた静電荷像現像用トナーを得ることができる。
これに対して、ポリグリセリンの脂肪酸エステル化合物であっても、水酸基価が10mgKOH/g未満である比較例1の脂肪酸エステル化合物を用いた場合には、限界剥離温度が十分高いとはいえず、剥離性にやや劣る静電荷像現像用トナーとなる。
また、脂肪族エステル化合物としてジペンタエリスリトールのミリスチン酸エステルを用いた比較例2の場合には、剥離性がやや劣るだけでなく、細線再現性が悪化し、高温で保存後の凝集性が高く耐ブロッキング性が悪い静電荷像現像用トナーが得られる。