JP5560677B2 - タイヤ横力算出方法および装置、タイヤ剛性パラメータの値の抽出方法および装置、タイヤ特性算出方法および装置、タイヤの設計方法、車両の運動解析方法、および、プログラム - Google Patents
タイヤ横力算出方法および装置、タイヤ剛性パラメータの値の抽出方法および装置、タイヤ特性算出方法および装置、タイヤの設計方法、車両の運動解析方法、および、プログラム Download PDFInfo
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Description
タイヤのコーナリング特性および制駆動特性は、具体的に、横軸にスリップ角を、縦軸に横力あるいは制駆動力を表したグラフにおいて表されるタイヤの特性曲線である。この特性曲線のデータは、別途作成された車両モデルに組み込まれて、車両モデルを用いた運動性能シミュレーションに用いられる。したがって、運動性能シミュレーションを正確に行って正しい評価ができるように、タイヤのコーナリング特性および制駆動特性を、正確に予測して算出することが望まれている。
しかし、特許文献1では、タイヤが車両に装着されるときの対地キャンバ角を0度としているため、特許文献1で算出されるコーナリング特性および制駆動特性は、対地キャンバ角が付いた車両装着タイヤのコーナリング特性および制駆動特性を必ずしも正確に再現していない、といった問題がある。
横力が算出可能なタイヤ力学モデルにおいて用いられるキャンバ剛性パラメータの値を設定するステップと、
設定された前記キャンバ剛性パラメータの前記値と付与されたキャンバ角を用いて前記タイヤ力学モデルに従って横力を算出するステップと、を有する。その際、前記タイヤ力学モデルは、前記横力を算出するとき、前記付与されたキャンバ角が前記横力に応じて修正された修正キャンバ角を用いる。
付与されたキャンバ角と、このキャンバ角により発生する横力との関係を表す実験データを取得するステップと、
横力を算出可能なタイヤ力学モデルで用いられるキャンバ剛性パラメータの値を、前記実験データを用いて抽出するステップと、
抽出したキャンバ剛性パラメータの値を出力するステップと、を有する。その際、前記タイヤ力学モデルは、前記付与されたキャンバ角が前記横力に応じて修正された修正キャンバ角を用いる。
横力を算出可能なタイヤ力学モデルにおいて用いられるキャンバ剛性パラメータの値をコンピュータに設定させる手順と、
設定された前記キャンバ剛性パラメータの前記値と付与されたキャンバ角を用いて前記タイヤ力学モデルに従って横力を前記コンピュータに算出させて出力させる手順と、を有する。その際、前記タイヤ力学モデルを用いて前記横力が算出されるとき、前記付与されたキャンバ角が前記横力に応じて修正された修正キャンバ角が用いられる。
横力を算出可能なタイヤ力学モデルにおいて用いられるキャンバ剛性パラメータの値を設定する設定部と、
設定された前記キャンバ剛性パラメータの前記値と付与されたキャンバ角を用いて前記タイヤ力学モデルに従って横力を算出する算出部と、を有する。その際、前記算出部は、前記横力を算出するとき、前記付与されたキャンバ角が前記横力に応じて修正された修正キャンバ角を用いる。
付与されたキャンバ角と、このキャンバ角により発生する横力との関係を表す実験データをコンピュータに取得させる手順と、
横力を算出可能なタイヤ力学モデルにおいて用いられるキャンバ剛性パラメータの値を、前記実験データを用いて、前記コンピュータに抽出させる手順と、
抽出したキャンバ剛性パラメータの値を出力させる手順と、を有する。その際、前記タイヤ力学モデルは、前記付与されたキャンバ角が前記横力に応じて修正された修正キャンバ角を用いる。
付与されたキャンバ角と、このキャンバ角により発生する横力との関係を表す実験データを取得するデータ取得部と、
横力が算出可能なタイヤ力学モデルが用いるキャンバ剛性パラメータの値を、前記実験データを用いて抽出する抽出部と、
抽出したキャンバ剛性パラメータの値を出力する出力部と、を有する。その際、前記タイヤ力学モデルは、前記付与されたキャンバ角が前記横力に応じて修正された修正キャンバ角を用いる。
タイヤ力学モデルに用いるタイヤ力学要素パラメータの値を設定するステップと、
設定された前記タイヤ力学要素パラメータの値を用いて、前記タイヤ力学モデルに従って、コーナリング特性および/または制駆動特性を算出するステップと、を有する。その際、前記タイヤ力学要素パラメータは、前記タイヤ剛性パラメータの値の抽出方法で抽出されたタイヤ剛性パラメータを含む。
この評価結果に応じて、前記タイヤ力学要素パラメータの値を実現するタイヤ形状あるいはタイヤ構成部材を変更する設計ステップと、を有するタイヤの設計方法である。
車両を再現した車両モデルに、前記コーナリング特性および/または制駆動特性を適用して車両の運動特性を解析するステップと、を有する車両の運動解析方法である。
したがって、このタイヤ力学モデルを用いて、タイヤ特性算出方法および装置、および、プログラムは、キャンバ角の付与されたタイヤのコーナリング特性あるいは制駆動特性等のタイヤ特性を正確に算出することができる。したがって、算出したタイヤ特性をタイヤの設計方法、車両の運動解析方法に有効に適用することができる。
以降で説明する横力Fyは、タイヤが路面から受ける力のうち、タイヤ回転軸の方向の成分をいい、前後力Fxは、タイヤが路面から受ける力のうち、タイヤホイール中心面の方向の成分をいう。スリップ角αは、タイヤの進行方向が、タイヤホイール中心面に対してずれる角度をいう。セルフアライニングトルクMzは、タイヤの接地中心を通る、路面に対して垂直な軸周りに作用するトルクをいう。セルフアライニングトルクMzは、スリップ角を増減させるようにタイヤを回転させるトルクをいう。キャンバ角γは、地面に対して垂直な方向を基準としてタイヤホイール中心面が傾斜する角度をいう。
オーバーターニングモーメントMxは、キャンバ角γを増減させる方向に作用するトルクをいう。
上記力およびトルクはいずれも、タイヤ軸に作用する物理量として実際のタイヤで測定可能である。
図2は、タイヤ横力算出方法、タイヤ剛性パラメータの値の抽出方法、タイヤの設計方法、車両の運動解析方法およびタイヤ特性算出方法を実施する装置1の構成を示す図である。
設定部9は、後述するタイヤ力学モデルの各種タイヤ力学要素パラメータの値を設定する。この設定された値は、タイヤ力学モデル演算部12において横力、前後力、セルフアライニングトルクの算出に用いられる。さらに設定部9は、車両走行シミュレーションに用いる車両諸元の各値を設定する。設定された値は車両走行シミュレーション部13において、シミュレーションに用いられる。これらの設定は、オペレータによる入力操作系5を用いた入力に基づいて行われる。
メモリ4は、現在の検討中のタイヤのタイヤ力学要素パラメータの値と、現在の検討中の車両諸言の各値とをセットとして記憶し、設定部9がこのセットの値を呼び出して値の設定を行うこともできる。
また、設定部9は、タイヤの負荷荷重、算出するスリップ角度、制駆動を表すスリップ率、あるいはキャンバ角、あるいは、これらの範囲を設定する。設定された負荷荷重、スリップ角、スリップ率、あるいは、キャンバ角、あるいはこれらの範囲は、タイヤ特性算出部10およびパラメータ抽出部11、タイヤ力学モデル演算部12、車両走行シミュレーション部13に送られる。設定部9は、また、タイヤ特性の算出を行うか、タイヤ力学要素パラメータの値の抽出を行うか、車両走行シミュレーションを行うか、等の処理内容を設定する。
あるいは、タイヤ特性は、横軸にスリップ率、縦軸に横力あるいはセルフアライニングトルクで表したグラフ上で定まる特性曲線を含む。スリップ角、キャンバ角およびタイヤの負荷荷重を様々に変えた条件の場合、タイヤ特性は、これらの条件毎の上記グラフ上の特性曲線を含む。
あるいは、タイヤ特性は、横軸に前後力、縦軸に横力で表したグラフ上で定まる特性曲線を含む。例えば、スリップ角、スリップ率、キャンバ角、およびタイヤの負荷荷重を様々に変えた条件の場合、タイヤ特性は、これらの条件毎の上記グラフ上の特性曲線を含む。
あるいは、タイヤ特性は、横軸にキャンバ角、縦軸に横力あるいはセルフアライニングトルクで表したグラフ上で定まる特性曲線を含む。例えば、スリップ角、スリップ率、およびタイヤの負荷荷重を様々に変えた条件の場合、タイヤ特性は、これらの条件毎の上記グラフで定まる特性曲線を含む。
タイヤ力学モデルについては、後述する。
その後、算出結果は、統合・管理部14から呼び出され、タイヤの性能評価に用いられ、タイヤ試作に反映される。
車両の走行シミュレーションで用いる車両モデルは、例えば運動解析ソフトウェアCarSim、制御設計ソフトウェアMatLabにて定義される解析モデル、機構解析ソフトウェアADAMSで作成されたモデル等が用いられる。
なお、タイヤ特性を表す特性曲線のデータを、パラメータで規定される非線形近似式で近似し、車両の走行シミュレーションを行う際、非線形近似式のパラメータの値を用いて走行シミュレーションを行うこともできる。
非線形近似式は、例えば、周知の「Magic Formula」(http://www.tytlabs.co.jp/japanese/review/rev343pdf/343_039mizuno.pdf)を用いることができる。
このようなタイヤの設計を可能にするのは、タイヤ力学モデルのタイヤ力学要素パラメータとタイヤ構成部材との間に強い対応関係があるからである。この場合、効率よくタイヤの設計の示唆あるいは提案をするために、タイヤ力学要素パラメータの値とタイヤ構成部材の種類とが対応したテーブルを備えることが好ましい。
このような装置1におけるタイヤ力学モデル演算部12で用いるタイヤ力学モデルについて説明する。
タイヤ力学モデルは、タイヤ特性算出部10におけるタイヤ特性の算出、およびパラメータ抽出部11におけるタイヤ力学要素パラメータの値の抽出を行う際に用いられる。パラメータ抽出部11において、値が抽出されるタイヤ力学要素パラメータは、キャンバスティフネスCγおよび横ねじり剛性Gmyである。
タイヤ力学モデルは、複数の特化した部分モデルが統合されている。タイヤ力学モデルは、パラメータ抽出部11で用いるキャンバスラスト(横力)の算出を行う部分モデル1と、制動状態における横力Fy、前後力FxあるいはセルフアライニングトルクMzを算出する部分モデル2と、駆動状態における横力Fy、前後力FxあるいはセルフアライニングトルクMzを算出する部分モデル3と、を有する。最初に、タイヤ力学モデルの理解を容易にするために、キャンバ角γとこのキャンバ角γに伴って生じるキャンバスラスト(横力Fy)を算出する部分モデル1から説明する。
図4は、キャンバスラスト(横力Fy)の算出を行う部分モデル1を説明する図である。
部分モデル1は、キャンバ角γが入力されると、図4中の式(20)あるいは式(21)に従ってキャンバスラストである横力Fyを計算する。このとき、タイヤ力学要素パラメータである横ねじり剛性Gmyおよびキャンバスティフネス(キャンバ剛性パラメータ)Cγに値が設定され、さらに、接地幅w、接地長l、距離hに値が設定されて、部分モデル1が演算可能状態になっている。
図4に示すように、式(20)、(21)は、横力Fyに関して再帰方程式となっているので、タイヤ特性算出部10は、ニュートン・ラフソン法等を用いて、横力Fyを決定する。
一方、図5(b)に示すように、タイヤを側面から見たとき、図5(b)中のタイヤの接地端の接線勾配はl/(2h)になるので、撓みの変化w・tanγ/2を接線勾配l/(2h)で除算することにより、キャンバ角γによって最小接地長la(=l−2hwtanγ/l)および最大接地長lb(=l+2hwtanγ/l)が計算される。lはキャンバ角γ=0における接地中心位置での接地長であり、hは接地中心とタイヤ中心との距離である。なお、接地中心位置における接地長は、キャンバ角γに対して不変な長さlを有する。
このようにキャンバ角γの付与により、図5(b)に示すように、接地形状は矩形形状から台形形状に変化する。さらに、キャンバ角γが大きくなると、接地形状は、最小接地形状la=0となって三角形形状に変化する。すなわち、接地形状は後述するηの絶対値である|η|が1より大きいとき三角形形状に変化する。このとき、接地幅wが狭くなる。
図6に示すように、キャンバ角γが付与されて傾斜したタイヤのタイヤホイール中心面に平行な面に投影したタイヤの状態を考える。このとき、タイヤの縦撓みによって生じるタイヤの半径方向の力のsinγ成分が、キャンバスラストである横力Fyに相当する。
縦撓みは、図中のx1を用いてl2/(2r)・x1/l・(1−x1/l)で表される。したがって、この縦たわみにスティフネスCzを乗算し、さらに、キャンバ角γをγ+η・Fy/Gmyに修正された修正キャンバ角を用いて、図3(b)に示す台形形状の接地面に沿って面積積分をすることにより、キャンバスラストである横力Fyを算出することができる。上記スティフネスCzにw・l3/(12r)を乗算した積がキャンバスティフネスCγに対応する。すなわち、Cγ=w・l3/(12r)・Czである。
以上の説明は、キャンバ角γが正の場合であり、図5(a),(b)において、キャンバ角γが負の場合は、laが最大接地長,lbが最小接地長となり、ηも負値となる。
こうして、下記式に示すように、接地面の面積積分を行うことにより、キャンバスラストである横力Fyが算出される。|η|が1より大きいか1以下であるか、によって、図4に示されるように、式(20)または式(21)が選択される。これは、|η|が1より大きいとき、台形形状から三角形形状の接地面になり、接地面の面積積分の値が変化するからである。
パラメータ抽出部11は、算出されたキャンバ角γ毎の横力Fy’と、実験データの対応する横力Fyとの間で二乗残差和を算出し(ステップS50)、この二乗残差和が所定の値以下であるか否か、すなわち、横力Fy’が横力Fyに収束したか否か、を判別する(ステップS60)。
上記判別において、横力Fy’が収束する場合(Yesの場合)、パラメータ抽出部11は、設定されているキャンバスティフネスCγ、横ねじり剛性Gmyの値を、タイヤ特性を再現するタイヤ力学要素パラメータの値として決定する(ステップS80)。決定された値は、メモリ4に記憶され、出力装置7に出力される。
このような処理は、装置1においてプログラムを用いて実行される。
次に、タイヤ特性算出部10は、横力Fyの値を初期設定する(ステップS120)。初期設定の設定方法に制限はないが、例えば過去に算出した横力を参照して値が設定される。
タイヤ特性算出部10は、横力Fy’と横力Fyの誤差を算出し(ステップS140)、この誤差の絶対値が所定の値以下であるか否かによって、横力Fyが収束したか否かを判別する(ステップS150)。
すべてのキャンバ角γについて横力Fyを決定した場合(Yesの場合)、タイヤ特性算出部10は、タイヤ特性の算出を終了し、算出結果をメモリ4に記憶させる。さらに、タイヤ特性算出部10は算出結果を出力装置7に出力させる。
このような処理は、装置1においてプログラムを用いて実行される。
図中の「本発明」は、取得した実験データに近似するように横ねじり剛性GmyおよびキャンバスティフネスCγ(=Cz・w・l3/(12r))の値を抽出し、これを用いて、タイヤ特性算出部10にて、キャンバスラストのキャンバ角γの依存性を算出した結果である。
従来例は、キャンバ角γに対して線形的に変化する。一方、キャンバ角γが修正量η・Fy/Gmyだけ修正された修正キャンバ角を採用したタイヤ力学モデルを用いる「本発明」は、、実測のキャンバスラストの実験データに近似した算出結果を得ることができる。
次に、部分モデル2,3について説明する。
部分モデル2、3は、上述の部分モデル1を組み込んだ、タイヤの制駆動状態におけるタイヤ特性を算出するモデルである。部分モデル2,3は、タイヤ力学モデルで力が釣り合い状態(平衡状態)にある、制動状態,駆動状態の前後力Fx、横力Fy及びセルフアライニングトルクMzを算出する。部分モデル2はスリップ率が制動状態であるとき用いられ、部分モデル3はスリップ率が駆動状態であるとき用いられる。
なお、タイヤ力学モデル演算部12は、力学要素パラメータの値を用いて前後力Fx、横力FyあるいはセルフアライニングトルクMzを算出する。算出結果は、メモリ4に記憶されるとともに、出力装置7に出力される。
(a)タイヤトレッド部の横方向の剪断剛性によって定められる横剛性Ky、
(b)タイヤトレッド部の前後方向(制駆動方向)の剪断剛性によって定められる前後剛性Kx、
(c)タイヤトレッド部のタイヤ中心軸周りのねじり剛性Ay、
(d)路面とタイヤ間の静止摩擦係数、μs、
(e)路面とタイヤ間の動摩擦係数μd(μd0,bV)、
(f)ベルト部材の横方向曲げ係数ε、
(g)タイヤのタイヤ中心軸周りのねじり剛性の逆数であるねじりコンプライアンス(1/Gmz)、
(h)キャンバスラストを生じさせるキャンバスティフネスCγ、
(i)接地面の横ねじり剛性Gmy、
(j)横力発生中の接地面の接地圧力分布を規定する係数n,q0
(k)接地圧力分布の偏向の程度を表す係数Cq、
(l)タイヤの接地面の中心位置の前後方向への移動の程度を示す移動係数Cxc、
(m)横力発生時の実効接地長l、等である。
なお、横力の発生する方向である横方向とは、タイヤ回転軸の軸方向であるので、タイヤが直進状態で転動する場合の横方向はタイヤの進行方向に対して直交する方向となって方向が一致するが、スリップ角が付いた場合の横方向はスリップ角分ずれる。また、タイヤ中心軸(図14(a),(b)中の軸CLをいう)は、タイヤ回転軸に直交し、かつタイヤ中心を通る、路面に垂直な軸である。
図11は、制駆動方向のスリップ率Sが制動である時の処理内容を、図12は、制駆動方向のスリップ率Sが駆動である時の処理内容をそれぞれ示している。
制動の場合、キャンバスティフネスCγ、横ねじり剛性Gmy及びベルト部材の横方向曲げ係数ε、係数Cq、横剛性Kyやねじり剛性Ay等の非線形パラメータおよび線形パラメータからなるタイヤ力学要素パラメータの値が設定され、キャンバ角γ、スリップ角α、制動時のスリップ率S、タイヤ走行速度Vr、及び前後力Fx、横力Fy、セルフアライニングトルクMz、さらに、接地幅w、接地長l、距離hを入力することで、図11中の式(1)〜(8)に従って演算された前後力、横力及びセルフアライニングトルクの値(以降、前後力Fx’、横力Fy’、セルフアライニングトルクMz’とする)が算出される。勿論、タイヤ特性算出部10は、入力された前後力Fx,横力Fy及びセルフアライニングトルクMzの値と、算出された前後力Fx’、横力Fy’及びセルフアライニングトルクMz’の値との誤差が所定値以下、すなわち略一致した(収束した、タイヤ力学モデルで力が釣り合い状態となった)場合にのみ、前後力Fx、横力Fy及びセルフアライニングトルクMzの値を、力の釣り合い状態を実現するタイヤの前後力、横力及びトルクの値として決定する。
なお、線形パラメータとは、式(6)〜(8)において線形の形式で表されている力学要素パラメータをいい、非線形パラメータとは、式(6)〜(8)において非線形の形式で表されている力学要素パラメータをいう。
なお、図13(b)は、この実効スリップ角αeによって生じる横方向変位とベルトの横曲げ変形によって生じる横方向変位の関係を示している。この内容は、式(7)に示されている。図13(c)はタイヤの接地面が前後力によって前後方向に移動することを示している。この内容は、式(3)に示されている。
ここで、関数Dgsp(t;n,q)中の係数nは横力発生中の接地面の接地圧分布を規定するもので、図14(c)に示すように接地圧分布の踏込み端及び蹴りだし端付近で角張る(曲率が大きくなる)ように接地圧分布を規定する係数である。また、図14(d)に示すように係数qが0から1になるにしたがって接地圧分布のピーク位置は踏込み端側に移動するように設定されている。このように係数q及び係数nは、接地圧分布の形状を規定する形状規定係数である。
図15(a)〜(c)に示される最大摩擦曲線は、凝着摩擦係数μsに接地圧分布p(t)を乗算したものである。
踏込み端で路面と接地したタイヤのトレッド部材は、蹴りだし端に移動するにつれてスリップ角αによって徐々に路面から横方向の剪断を受け、トレッド部材に横方向剪断力(凝着摩擦力)が発生する。さらに、路面の移動速度(タイヤの走行速度)とタイヤの回転速度と差によって生じる制駆動方向のスリップ率Sによって、トレッド部材は徐々に路面から前後方向に剪断を受け、トレッド部材に前後方向剪断力(凝着摩擦力)が発生する。タイヤと路面との間に発生する剪断力は、横方向剪断力と前後方向剪断力との合力により表される。
この剪断力の合力は、徐々に大きくなって最大摩擦曲線に達すると、路面に凝着していたタイヤトレッド部材は滑り出し、滑り摩擦係数μdに接地圧分布p(t)を乗算した滑り摩擦曲線に従って滑り摩擦力が発生する。図15(a)では、境界位置(lh/l)より踏込み端側の領域がタイヤトレッド部材が路面に凝着した凝着域となり、蹴りだし側の領域がタイヤトレッド部材が路面に対して滑る滑り域となる。境界位置(lh/l)は、式(4)により定まる。
図15(b)は、スリップ角αが図15(a)に示すスリップ角αよりも大きくなった状態を示している。境界位置(lh/l)は図15(a)に比べて踏込み端側に移動している。さらに、スリップ角αが大きくなると、図15(c)に示すように接地面の踏込み端の位置から滑り摩擦が発生する状態となる。
同様に、前後方向についても、凝着域及び滑り域の前後方向摩擦力、すなわち前後力成分をタイヤ幅方向に沿って積分することによって前後力Fx’を算出することができる。なお、上述したように、部分モデル2,3は、いずれもキャンバ角γによって接地面が矩形から台形形状に変化するが、そのときの凝着域とすべり域との境界位置(lh/l)は、接地面内の幅方向で変化しない。すなわち、境界位置(lh/l)は、タイヤの幅方向において、一定であると、仮定されている。
式(6)は、2つの項(2つの前後力成分)の和によって前後力Fx’を算出する。第1項は積分範囲が0〜(lh/l)の積分結果であって、凝着域に発生する凝着前後力成分を表す。第2項は積分範囲が(lh/l)〜1の積分であって滑り域に発生する滑り前後力成分を表す。
式(7)では3つの項(3つの横力成分)の和によって横力Fy’を算出する。第1項は積分範囲が0〜(lh/l)の積分であって、凝着域に発生する凝着横力成分を表す。第2項は積分範囲が(lh/l)〜1の積分であって滑り域に発生する滑り横力成分を表す。第3項は、キャンバスラストの横力成分を表す。式(7)中の第1項の凝着横力成分は凝着域における横力であり、式(7)では、実効スリップ角αeによって生じるトレッド部材の横方向変位がベルトの横曲げ変形によって緩和された状態を表すことによって凝着横力成分を算出する。第2項の滑り横力成分は滑り域における横力であり、式(7)では、実効スリップ角αeによって生じる接地圧分布p(t)の形状を関数Dgsp(t;n,q)で表して滑り横力成分を算出する。第3項のキャンバスラストの横力成分は、図4中の式(20)に従って算出される横力と同じである。
又、式(6)〜(8)中で用いられるβは、制駆動時における接地面の滑り域における滑り方向の角度を表し、スリップ角と制駆動方向のスリップ率とによって定められる。この滑り方向に対して摩擦力が働くため、式(6)では滑り方向に対する前後力のcos成分が、式(7)では滑り方向に対する横力のsin成分が、式(8)では、トルクに寄与する横力のsin成分がそれぞれ、前後力Fx’、横力Fy’及びセルフアライニングトルクMz’に寄与する。すなわち、この滑り方向の角度βを用いて前後力Fx’、横力Fy’及びセルフアライニングトルクMz’を算出する。滑り域における滑り方向は、制駆動方向の滑りとスリップ角αによる滑りが同時に発生するため、必ずしもスリップ角αの方向及び制駆動方向の滑りにならない。具体的には、図13(e)に示すように、タイヤの走行速度Vwとタイヤの回転速度Vrの向きが異なり、この向きの違いから、滑り速度Vs、滑り方向の角度βが定められる。このときの滑り方向の角度βが、式(6)〜(8)、又後述する図12中の式(16)〜(18)の括弧内に定義される。式(6)〜(8)と式(16)〜(18)におけるβの定義が異なるのは、後述するように制動時と駆動時における制駆動方向のスリップ率Sの定義が異なることによる。
タイヤ特性算出部12は、まず、線形パラメータの値及び非線形パラメータの値をメモリ4から読み出して各パラメータの値を設定する(ステップS200)。非線形パラメータには、パラメータ抽出部11により値が抽出されたキャンバスティフネスCγの値および接地面における横ねじり剛性Gmyの値が含まれている。さらに、負荷荷重Fzにおける前後力Fx、横力Fy及びセルフアライニングトルクMzの値を初期設定する(ステップS210)。
次に、タイヤ特性算出部10は、算出された二乗残差和が所定値以下となって収束しているか否かを判別する(ステップS240)。収束していないと判別すると、先に設定された前後力Fx、横力Fy、セルアライニングトルクMzの設定値を調整する(ステップS250)。この調整された前後力Fx、横力Fy及びセルフアライニングトルクMzと線形パラメータ及び非線形パラメータの値とが再度タイヤ力学モデル演算部12に付与される。
このような処理は、装置1においてプログラムを用いて実行される。
2 CPU
3 バス
4 メモリ
5 入力操作系
6 インターフェース
7 出力装置
8 モジュール群
9 設定部
10 タイヤ特性算出部
11 パラメータ抽出部
12 タイヤ力学モデル演算部
13 車両シミュレーション部
14 統合・管理部
Claims (14)
- 地面上を転動するタイヤにキャンバ角が付与されたときのタイヤに作用する横力を算出する算出方法であって、
横力が算出可能なタイヤ力学モデルにおいて用いられるキャンバ剛性パラメータの値を設定するステップと、
設定された前記キャンバ剛性パラメータの前記値と付与されたキャンバ角を用いて前記タイヤ力学モデルに従って横力を算出するステップと、を有し、
前記タイヤ力学モデルは、前記横力を算出するとき、前記付与されたキャンバ角が前記横力に応じて修正された修正キャンバ角を用いる、ことを特徴とするタイヤ横力算出方法。 - 前記付与されたキャンバ角から前記修正キャンバ角を求めるために用いる修正量は、前記付与されたキャンバ角における、タイヤ接地長のタイヤ幅方向変化率に比例し、かつ、前記横力に比例する量である、請求項1に記載のタイヤ横力算出方法。
- 地面上を転動するタイヤにキャンバ角が付与されたときのタイヤに作用する横力を算出するタイヤ力学モデルにおいて、前記横力を算出する際に用いるキャンバ剛性パラメータの値を抽出する方法であって、
付与されたキャンバ角と、このキャンバ角により発生する横力との関係を表す実験データを取得するステップと、
横力を算出可能なタイヤ力学モデルで用いられるキャンバ剛性パラメータの値を、前記実験データを用いて抽出するステップと、
抽出したキャンバ剛性パラメータの値を出力するステップと、を有し、
前記タイヤ力学モデルは、前記付与されたキャンバ角が前記横力に応じて修正された修正キャンバ角を用いる、ことを特徴とするタイヤ剛性パラメータの値の抽出方法。 - 前記付与されたキャンバ角から前記修正キャンバ角を求めるために用いる修正量は、前記付与されたキャンバ角における、タイヤ接地長のタイヤ幅方向変化率に比例し、かつ、前記横力に比例する量である、請求項3に記載のタイヤ剛性パラメータの値の抽出方法。
- 地面上を転動するタイヤにキャンバ角が付与されたときのタイヤに作用する横力をコンピュータに算出させる、コンピュータが実行可能なプログラムであって、
横力を算出可能なタイヤ力学モデルにおいて用いられるキャンバ剛性パラメータの値をコンピュータに設定させる手順と、
設定された前記キャンバ剛性パラメータの前記値と付与されたキャンバ角を用いて前記タイヤ力学モデルに従って横力を前記コンピュータに算出させて出力させる手順と、を有し、
前記タイヤ力学モデルを用いて前記横力が算出されるとき、前記付与されたキャンバ角が前記横力に応じて修正された修正キャンバ角が用いられる、ことを特徴とするプログラム。 - 地面上を転動するタイヤにキャンバ角が付与されたときのタイヤに作用する横力を算出する算出装置であって、
横力を算出可能なタイヤ力学モデルにおいて用いられるキャンバ剛性パラメータの値を設定する設定部と、
設定された前記キャンバ剛性パラメータの前記値と付与されたキャンバ角を用いて前記タイヤ力学モデルに従って横力を算出する算出部と、を有し、
前記算出部は、前記横力を算出するとき、前記付与されたキャンバ角が前記横力に応じて修正された修正キャンバ角を用いる、ことを特徴とするタイヤ横力算出装置。 - 地面上を転動するタイヤにキャンバ角が付与されたときのタイヤに作用する横力を算出するタイヤ力学モデルにおいて、前記横力を算出するときに用いるキャンバ剛性パラメータの値を、コンピュータに抽出させる、コンピュータが実行可能なプログラムであって、
付与されたキャンバ角と、このキャンバ角により発生する横力との関係を表す実験データをコンピュータに取得させる手順と、
横力を算出可能なタイヤ力学モデルにおいて用いられるキャンバ剛性パラメータの値を、前記実験データを用いて、前記コンピュータに抽出させる手順と、
抽出したキャンバ剛性パラメータの値を出力させる手順と、を有し、
前記タイヤ力学モデルは、前記付与されたキャンバ角が前記横力に応じて修正された修正キャンバ角を用いる、ことを特徴とするプログラム。 - 地面上を転動するタイヤにキャンバ角が付与されたときのタイヤに作用する横力を算出するタイヤ力学モデルにおいて、前記横力を算出するときに用いられるキャンバ剛性パラメータの値を抽出する装置であって、
付与されたキャンバ角と、このキャンバ角により発生する横力との関係を表す実験データを取得するデータ取得部と、
横力が算出可能なタイヤ力学モデルが用いるキャンバ剛性パラメータの値を、前記実験データを用いて抽出する抽出部と、
抽出したキャンバ剛性パラメータの値を出力する出力部と、を有し、
前記タイヤ力学モデルは、前記付与されたキャンバ角が前記横力に応じて修正された修正キャンバ角を用いる、ことを特徴とするタイヤ剛性パラメータの値の抽出装置。 - 複数のタイヤ力学要素パラメータを用いたタイヤ力学モデルに基づいて、キャンバ角が付与された条件におけるタイヤのコーナリング特性および/または制駆動特性を算出するタイヤ特性算出方法であって、
タイヤ力学モデルに用いるタイヤ力学要素パラメータの値を設定するステップと、
設定された前記タイヤ力学要素パラメータの値を用いて、前記タイヤ力学モデルに従って、コーナリング特性および/または制駆動特性を算出するステップと、を有し、
前記タイヤ力学要素パラメータは、請求項3または4に記載の方法で抽出されたタイヤ剛性パラメータを含む、ことを特徴とするタイヤ特性算出方法。 - 前記コーナリング特性および/または制駆動特性を算出するとき、前記タイヤ力学モデルでは、前記付与されたキャンバ角が前記横力に応じて修正された修正キャンバ角が用いられる、請求項9に記載のタイヤ特性算出方法。
- 複数のタイヤ力学要素パラメータを用いたタイヤ力学モデルに基づいて、キャンバ角が付与された条件におけるタイヤのコーナリング特性および/または制駆動特性をコンピュータに算出させる、コンピュータが実行可能なプログラムであって、
タイヤ力学モデルが用いるタイヤ力学要素パラメータの値をコンピュータに設定させる手順と、
設定された前記タイヤ力学要素パラメータの値を用いて、前記タイヤ力学モデルに従って、コーナリング特性および/または制駆動特性を前記コンピュータに算出させ、出力させる手順と、を有し、
前記タイヤ力学要素パラメータは、請求項3または4に記載の方法で抽出されたタイヤ剛性パラメータを含む、ことを特徴とするプログラム。 - 複数のタイヤ力学要素パラメータを用いたタイヤ力学モデルに基づいて、キャンバ角が付与された条件におけるタイヤのコーナリング特性および/または制駆動特性を算出する装置であって、
前記タイヤ力学要素パラメータの値を設定する設定部と、
設定された前記タイヤ力学要素パラメータの値を用いて、前記タイヤ力学モデルに従って、コーナリング特性および/または制駆動特性を算出する算出部と、を有し、
前記タイヤ力学要素パラメータは、請求項3または4に記載の方法で抽出されたタイヤ剛性パラメータを含む、ことを特徴とするタイヤ特性算出装置。 - 請求項9または10に記載のタイヤ特性算出方法で算出されたコーナリング特性および/または制駆動特性を評価する評価ステップと、
この評価結果に応じて、前記タイヤ力学要素パラメータの値を実現するタイヤ形状あるいはタイヤ構成部材を変更する設計ステップと、を有することを特徴とするタイヤの設計方法。 - 請求項9または10に記載のタイヤ特性算出方法で算出されたコーナリング特性および/または制駆動特性を取得するステップと、
車両を再現した車両モデルに、前記コーナリング特性および/または制駆動特性を適用して車両の運動特性を解析するステップと、を有することを特徴とする車両の運動解析方法。
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