JP4116337B2 - タイヤ性能のシミュレーション方法及びその装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、精度良くタイヤ性能をシミュレートしうるタイヤ性能のシミュレーション方法及びその装置に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
従来、タイヤの開発は、試作品を作り、それを実験し、実験結果から改良品をさらに試作するという繰り返し作業で行われていた。この方法では、試作品の製造や実験に多くの費用と時間を要するため、開発効率の向上には限界がある。かかる問題点を克服するために、近年では近似解析手法などを用いたコンピューターシミューションにより、タイヤを試作しなくてもある程度の性能を予測・解析する方法が提案されている。
【0003】
コンピュータシミュレーションには、種々の解析法が用いられ、例えば有限要素法を用いたものが良く知られている。有限要素法(Finite Element Method )は、構造物を有限要素と呼ばれる有限の大きさの多数の領域に分割し、各有限要素に比較的簡単な特性を与えて系全体を解析する手法である。
【0004】
従来のタイヤ性能の有限要素法による解析は、タイヤの非転動状態での荷重負荷解析であったり、またトレッドパターンについては、溝のない、いわゆるプレーントレッドが多く、タイヤのトレッドパターン全てを有限要素にモデル化したものは知られていない。また、タイヤの内部には、カーカス、ベルトなどのコード材を角度を変えて積層した補強層などが設けられるが、これらについても1枚の平面シェル要素などで簡略モデル化した解析がほとんどであった。
【0005】
このため、これまでのシミュレーションでは、タイヤの挙動をおおまかに予測・解析することはできるが、製品に付するトレッドパターンによる影響については解析不能であった。
【0006】
本発明のうち、請求項1又は5記載の発明では、評価しようとするタイヤの有限要素モデルは、前記タイヤのトレッドパターンをタイヤ周方向の全周に亘り有限個の多数の要素に分割したトレッドパターン要素部を具えることを基本として、トレッドパターンを考慮に入れた実際の開発に適用可能な精度の良いタイヤ性能をシミュレートしうるタイヤ性能のシミュレーション方法、装置を提供することを目的としている。
【0007】
また、請求項3記載の発明では、タイヤの内部構造に関して、カーカス、ベルト層といったコード補強材、サイドウォールゴムなどのゴム部、ビードコアなど、各構造材を有限個の複数の要素に分割した要素モデルを設定するとともに、コード補強材のうちコード材については、異方性を定義した四辺形膜要素にモデル化し、またトッピングゴムについては六面体ソリッド要素にモデル化することによって、非常に精度の良いタイヤ性能をシミュレートでき、タイヤのパターン形状や、カーカスやベルトの配置、トッピングゴムの厚さなど詳細なタイヤ設計までを検討可能とするタイヤ性能のシミュレーション方法を提供することを目的としている。
【0008】
また、請求項4記載の発明では、タイヤ有限要素モデルの内圧、軸荷重、スリップ角、キャンバー角、タイヤ有限要素モデルと仮想路面との間の摩擦などの走行条件を設定し、このタイヤ有限要素モデルから、特にタイヤの開発に重要となるコーナリングフォース、接地面の形状又は内部応力分布を含む情報を取得しうるタイヤ性能のシミュレーション方法を提供することを目的としている。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明のうち請求項1記載の発明は、評価しようとするタイヤを有限個の多数の要素に分割したタイヤ有限要素モデルで近似し、有限要素法を用いて前記タイヤ有限要素モデルからタイヤ性能をシミュレーションするタイヤ性能のシミュレーション方法であって、カーカス、ベルトを含むコード補強材と、サイドウォールゴム、ビードゴムを含むゴム部と、ビードコアとがタイヤ周方向に同一断面形状で連続するタイヤボディ部を有限個の要素に分割してタイヤボディ部要素モデルを設定する処理と、タイヤ周方向にのびる縦溝とこの縦溝と交わる向きにのびる横溝とを有する前記タイヤのトレッドパターンをタイヤ周方向の全周に亘り有限個の多数の要素に分割したトレッドパターン部要素モデルを設定する処理と、このトレッドパターン部要素モデルを前記タイヤボディ部要素モデルに結合することによりタイヤ有限要素モデルを設定する処理と、前記タイヤ有限要素モデルの内圧、軸荷重、スリップ角、キャンバー角、タイヤ有限要素モデルと仮想路面との間の摩擦係数を含む走行条件を設定するとともに、このタイヤ有限要素モデルを仮想リムに装着し前記仮想路面に対して接触又は相対移動させる走行シミュレーション処理と、前記走行シミュレーション中のタイヤ有限要素モデルから所定の情報を取得する情報取得処理とを含むとともに、前記タイヤとはトレッドパターンのみ異なるタイヤのトレッドパターン部要素モデルを設定し、これに前記タイヤボディ部要素モデルを共用して設定されたタイヤ有限要素モデルを用いてさらに前記走行シミュレーション処理を行うことを特徴としている。
【0010】
また請求項2記載の発明では、前記タイヤボディ部のゴム部は、トレッド部ベースゴムを含むことを特徴とする請求項1記載のタイヤ性能のシミュレーション方法である。
【0011】
また請求項3記載の発明では、前記タイヤボディ部要素モデルは、前記コード補強材を構成するコード材とこれを被覆するトッピングゴムとを夫々有限個の複数の要素に分割したコード補強材要素モデルと、前記ゴム部を有限個の複数の要素に分割したゴム部要素モデルと、前記ビードコアを有限個の複数の要素に分割したビードコア要素モデルとを含み、かつ、前記コード補強材要素モデルは、前記コード材を異方性が定義された四辺形膜要素にモデル化され、前記トッピングゴムは六面体ソリッド要素にモデル化されていることを特徴とする請求項1又は2記載のタイヤ性能のシミュレーション方法である。
【0012】
また請求項4記載の発明では、前記情報取得処理は、タイヤ有限要素モデルからコーナリングフォース、接地面の形状、圧力分布又は内部応力分布を含む情報を取得することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1記載のタイヤ性能のシミュレーション方法である。
【0013】
また、請求項5記載の発明では、評価しようとするタイヤを有限個の多数の要素に分割したタイヤ有限要素モデルで近似し、有限要素法を用いて前記タイヤ有限要素モデルからタイヤ性能をシミュレーションするタイヤ性能のシミュレーション装置であって、カーカス、ベルトを含むコード補強材と、サイドウォールゴム、ビードゴムを含むゴム部と、ビードコアとがタイヤ周方向に同一断面形状で連続するタイヤボディ部を有限個の要素に分割してタイヤボディ部要素モデルを配する処理と、タイヤ周方向にのびる縦溝とこの縦溝と交わる向きにのびる横溝とを有する前記タイヤのトレッドパターンを、タイヤ周方向の全周に亘り有限個の多数の要素に分割したトレッドパターン部要素モデルを設定する処理と、このトレッドパターン部要素モデルを前記タイヤボディ部要素モデルに結合することによりタイヤ有限要素モデルを設定する処理と、前記タイヤ有限要素モデルの内圧、軸荷重、スリップ角、キャンバー角、タイヤ有限要素モデルと仮想路面との間の摩擦係数を含む走行条件を設定するとともに、このタイヤ有限要素モデルを仮想リムに装着し仮想路面に対して接触又は相対移動させる走行シミュレーション処理と、前記走行シミュレーション中のタイヤ有限要素モデルから所定の情報を取得する情報取得処理とを行う演算処理装置を含むとともに、前記演算処理装置は、前記タイヤとはトレッドパターンのみ異ならせたタイヤのトレッドパターン部要素モデルに前記タイヤボディ部要素モデルを共用して設定されたタイヤ有限要素モデルを用いてさらに前記走行シミュレーション処理を行うことを特徴としている。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下本発明の実施の一形態を図面に基づき説明する。
本実施形態では、図13に示すような乗用車用ラジアルタイヤ(以下、単にタイヤということがある。)Tの性能をシミュレートするものを例示している。タイヤTは、トレッド部12からサイドウォール部13を経てビード部14のビードコア15の回りで折り返されかつコードをタイヤ周方向に対して略90度で傾けたプライ16aからなるカーカス16と、このカーカス16のタイヤ半径方向外側かつトレッド部12の内方に配されるベルト層17とを含むコード補強材Fを具える。
【0015】
前記ベルト層17は、本例ではタイヤ周方向に対して20度の角度で並列された内、外2枚のベルトプライ17A、17Bが前記コードが交差する向きに積層されて構成される。また本例では、前記ベルト層17のタイヤ半径方向外側に、ナイロンコードをタイヤ周方向に実質的に平行に配列したバンド層19を具え、高速走行時のベルト層17のリフティングを防止している。なおバンド層19は例えば、ベルト層17の両端部を覆うエッジバンドと、ベルト層17の略全巾を覆うフルバンドとを具える。
【0016】
なお前記カーカス16は、例えばポリエステルなどの有機繊維コードを、またベルトプライ17A、17Bはスチールコードを、それぞれシート状のトッピングゴムにより被覆されて構成されている。なおコード補強材Fには、これらカーカス16、ベルト層17、バンド層19の他、ビード部14の剛性を補強するビード補強フィラーなどを必要に応じて含ませることができる。
【0017】
またタイヤTは、前記各コード補強材Fの外側に、トレッドゴム20、サイドウォールゴム21、ビードゴム22などを具える。前記トレッドゴム20は、本例では前記ベルト層17の半径方向外側に配され、タイヤ子午断面において縦溝G1の溝底ラインを通りトレッド部12の表面に略沿ってのびるトレッド部ベースゴム20aと、その外側に配され路面と接触して様々な力を伝達するトレッド部キャップゴム20bとから構成された2層構造を例示する。
【0018】
前記サイドウォールゴム21は、タイヤの転動時に大きく屈曲する部分であり、路面の縁石と接触したときでもタイヤTの側部を保護するもので、例えば前記トレッドゴム20よりも複素弾性率が小さい柔軟なゴムを用いるのが好ましい。また前記ビードゴム22は、リムフランジと接触する嵌合部付近に配され、例えば比較的弾性率の大きくかつ耐摩耗性に優れたゴムから構成されうる。
【0019】
また、トレッド部12の外表面には、例えばタイヤ周方向にのびる縦溝G1と、この縦溝G1に交わる向きにのびる横溝G2などにより所定のトレッドパターンが形成されている。このトレッドパターンは、タイヤ性能に大きく影響を与えるもので、本発明のシミュレーション方法では、後述するようにこのトレッドパターンのタイヤ性能への影響を解析することが可能になる。
【0020】
本発明のシミュレーション方法乃至装置では、評価しようとするこのようなタイヤTを、図1に示すような有限個の多数の要素2a、2b、2c…に分割したタイヤ有限要素モデル2で近似し、有限要素法を用いて前記タイヤ有限要素モデル2からタイヤ性能をシミュレーションするものである。
【0021】
本シミュレーション装置は、例えば図6に示すように、演算処理装置であるCPUと、このCPUの処理手順などが予め記憶されるROMと、画像ないし数値を一時的に記憶しうる作業用メモリであるRAMと、入出力ポートと、これらを結ぶデータバスとから構成されている。
【0022】
また、前記入出力ポートには、本例ではタイヤ有限要素モデルを設定するための数値などを入力するキーボード、マウス等の入力手段Iと、入力結果やシミュレーション結果を表示しうるディスプレイ、プリンタなどの出力手段Oと、ハードディスク、光磁気ディスクなどの外部記憶装置Dとが接続されている。
【0023】
前記ROMには、予め図7に示すようなシミュレーションの処理手順などが記憶されており以下説明する。シミュレーションが行われるタイヤ有限要素モデル2は、タイヤボディ部要素モデル3と、トレッドパターン部要素モデル4とから構成されている。
【0024】
前記タイヤボディ部要素モデル3は、図1、図2に示すように、タイヤボディ部1Bを有限個の要素に分割して得られるものである。またタイヤボディ部1Bとは、評価すべきタイヤにおいて周方向について実質的に同じ材料でかつ同じ断面形状が連続する部分であって、本例では前記タイヤTからトレッドゴム20のトレッド部キャップゴム20bを除いた部分としている。
【0025】
このタイヤボディ部1Bは、具体的には前記タイヤのカーカス16、ベルト層17、バンド層19を含むコード補強材Fと、トレッドゴム20のトレッド部ベースゴム20a、サイドウォールゴム21、ビードゴム22を含むゴム部と、ビードコア15とを含む。
【0026】
本例のシミュレーション方法では、前記タイヤボディ部1Bは、有限要素法に基づき有限個の要素に分割される。有限要素法に基づく要素とは、例えば2次元平面では四辺形要素、3次元要素としては、4面体ソリッド要素、5面体ソリッド要素、6面体ソリッド要素などコンピュータで用いうる要素とするのが望ましく、これらの要素は3次元座標X−Y−Zを用いて逐一特定されうる。
【0027】
前記コード補強材Fとして例えばベルト層17の任意の微小領域は、図3に示すように、コード補強材要素モデル5に設定される。本例ではコード補強材Fのうちコード材cは、四辺形膜要素5a、5bにてモデル化され、またトッピングゴムtについては、六面体ソリッド要素5c、5d、5eでモデル化したものを例示している。
【0028】
前記コード材cをモデル化した前記四辺体膜要素5aの材料定義は、その厚さを例えばコード材cの直径とし、コード材cの配列方向と、これと直交する方向とにおいて剛性の異なる直交異方性材料として取り扱い、各方向の剛性は均質化しているものとして取り扱うものを例示している。またコード補強材Fのトッピングゴムtを表す六面体ソリッド要素5c〜5eは、他のゴム部材と同様に超粘弾性材料として定義して取り扱うことができる。
【0029】
また、タイヤボディ部1Bのトレッド部ベースゴム部10a、サイドウォールゴム21、ビードゴム22、ビードコア14については、例えば六面体ソリッド要素または五面体ソリッド要素でモデル化する処理を行う。このようなモデル化は、前記入力手段Iを用いて行うことができる。またタイヤボディ部要素モデル3は、タイヤの回転軸を含む子午断面の2次元形状を特定し、これを周方向に展開する形で要素分割することにより、比較的簡単にモデリングを行うことができる。
【0030】
このように、本例ではコード補強材Fを従来のように1枚の平面ショル要素でモデル化するのではなく、コード材c、トッピングゴムtというように、それぞれ材質の特性に応じてモデル化することによって、実際の製品により近いタイヤ性能をシミュレートすることが可能となる。また、各ゴム部20〜22、コード補強材F、ビードコア14を有限要素にモデル化する際には、各ゴム、コードの複素弾性率、ビードコアの弾性率などに基づき材料、剛性を定義しうる。
【0031】
次に、前記トレッドパターン部要素モデル4は、タイヤのトレッドパターンをタイヤ周方向の全周に亘り有限個の多数の要素に分割したトレッドパターン要素部を設定する処理により得られる。このパターン要素モデル4は、本例では前記トレッドゴムのトレッド部キャップゴム20bをモデル化したもので、前記タイヤボディ部要素モデル3とは別個に設定された後、前記タイヤボディ部要素モデル3に結合されるものを例示している。
【0032】
本実施形態では、パターン要素モデル4は、タイヤ周方向に配されるトレッド部キャップゴム20bを、有限個の多数の四面体要素4a、4b…で分割したものを例示し、タイヤ全周にわたって構成される。このようにパターン要素モデル4を、タイヤボディ部要素モデル3と分離してモデル化することにより、例えば本例のように前記タイヤボディ部要素モデル3よりも詳細に要素化(メッシュ化)でき、トレッドパターンの影響をより詳しく解析しうる点で好ましい。また、タイヤの内部構造を同じとし、トレッドパターンのみ異なる種々のタイヤについては、トレッドパターン部要素モデル4のみを設定し、タイヤボディ部要素モデル用3についてはこれを共用化でき、さらに開発効率を向上しうる利点がある。
【0033】
そして、本実施形態では前記タイヤボディ部要素モデル3に、前記トレッドパターン部要素モデル4を結合する処理を行うことにより、タイヤ有限要素モデル2を完成させる。なお図5に示すように、トレッドパターン部要素モデル4の内側の面または節点は、タイヤボディ部要素モデル3の面または節点に対してその相対位置が変わらないように強制変位させるよう定義して接合される。
【0034】
次に、このタイヤ有限要素モデル2を仮想リムに装着し仮想路面7に接地させて所定の走行条件で前記仮想路面に対して接触又は相対移動させる走行シミュレーション処理を行う。
【0035】
前記「タイヤ有限要素モデル2を仮想リムに装着する」とは、図8に示すように、タイヤ有限要素モデル2のリム接触域を拘束するとともに該モデル2のビード部のタイヤ軸方向距離Wをリム巾に強制変位させることをいう。なお、タイヤ有限要素モデル2の回転軸CLは、図8に示したようにタイヤ有限要素モデル2のリム拘束域との相対距離rが常に一定となるよう連結固定されている。また、仮想路面7は、平坦な四辺形剛表面としてモデル化している。
【0036】
前記走行シミュレーション処理での所定の走行条件としては、例えばタイヤ有限要素モデル2の内圧、軸荷重、スリップ角α、キャンバー角、タイヤ有限要素モデル2と仮想路面7との間の摩擦情報などを含む。また前記内圧は、タイヤ有限要素モデル2の内側面にタイヤ内圧に相当する等分布荷重を作用させることにより設定しうる。
【0037】
また「スリップ角α」とは、図9に示すように、路面の進行方向とタイヤの周方向の中心線とのなす角をいう。一般に、このような転動状態(コーナリング中)にあるタイヤは、図13に示すようにトレッド部の接地面が時間の経過とともに路面との接触を保ちながら横方向に移動する。このようにトレッド部の表面が路面によって横方向に押され、トレッド部がせん断変形を起こし、それによって進行方向と直角方向の力であるコーナリングフォースが生じる。またキャンバー角とは、タイヤを進行方向正面から見たときの路面とタイヤ周方向中心線とのなす角をいう。
【0038】
そして、タイヤ有限要素モデル2を走行シミュレーションする際には、例えば前記タイヤ有限要素モデルのビード部を拘束し、内圧を作用させた後、図8に示したように仮想路面7をタイヤ有限要素モデル2に押しつけるか、若しくはタイヤ有限要素モデル2の回転軸CLを仮想路面7に押し付けることにより、タイヤ有限要素モデル2を仮想路面7と接触させて実際の使用条件等に合わせて荷重負荷等の諸条件を設定する。
【0039】
例えばコーナリング特性などを解析する場合には、仮想路面7に対してタイヤ有限要素モデル2を前記の如く接触させるとともに、スリップ角αがつくように向き換えして両者を相対移動させることによりシミュレーションを行う。なおこのとき、タイヤ有限要素モデル2は、例えば回転軸を自由支持とした場合には、前記仮想路面7の移動による摩擦力により転動させることができる。
【0040】
なおコーナリングフォースなどをシミュレートする際には、仮想路面7に対してタイヤ有限要素モデルが半回転以上転動させることが正確な情報を解析しうる点で好ましい。何故ならば、タイヤのコーナリングフォースは、時間とともに変化し、定常状態になるには、ある程度のタイヤの転動が必要だからである。
【0041】
次に、本例のシミュレーションでは、前記走行シミュレーション中のタイヤ有限要素モデル2から所定の情報を取得する情報取得処理を行う。この処理は、例えばタイヤ有限要素モデル2からコーナリングフォース、接地面の形状又は内部応力分布を含む情報を数値情報、ないしアニメーションなどの画像情報として取得することができる。
【0042】
本シミュレーションは、有限要素法により行われる。一般に、有限要素モデルに各種の境界条件を与え、その系全体の力、変位などの情報を取得する手順については、よく知られている公知の例に従い行うことができる。なお本例の計算のアルゴリズムは、陽解法である。例えば、要素の形状、要素の材料特性、例えば密度、ヤング率、減衰係数などをもとに、要素の質量マトリックスM、剛性マトリックスK、減衰マトリックスCを作成する。
【0043】
前記各マトリックスを組み合わせて、シミュレーションされる全体の系のマトリックスを作成する。また適宜境界条件をあてはめて、下記数1の運動方程式を作成する。
【数1】
【0044】
この数1を微小時間tごとにCPUにて逐次計算することによりシミュレーションを行ないうる。前記逐次計算の微小時間tは、全ての要素について応力波の伝達時間を計算し、その最小時間の0.9倍以下の時間とするのが好ましい。
【0045】
タイヤには、コーナリングフォース、制動性能、ノイズ性能、摩耗性能、転がり抵抗性能など多くの性能が要求され、特にこれらのタイヤ性能を解析するためには、タイヤを転動させるシミュレーションが必要となる。本シミュレーションでは、タイヤボディ部要素モデル2、トレッドパターン部要素モデル3がいずれも周方向に連続するため転動シミュレーションが可能であり、コーナリング性能や摩耗性能、さらに、減衰の効果を考慮すれば振動性能、流体との連成によりハイドロプレーニング性能についての予測・解析が可能となる。
【0046】
以上、詳述したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、例えばタイヤボディ部1Bはベルト層までとし、トレッド部ベースゴム20aをトレッドパターン部に含ませるなど、種々の態様に変形しうる。
【0047】
【実施例】
今回シミュレーションを行ったタイヤは、235/45ZR17LMG02(住友ゴム工業株式会社製)であり、コーナリングフォース、コーナリング中のトレッド面、内部応力分布である。このタイヤの有限要素モデルは図1に示したものと同じであり、節点数は43896、要素数は76359である。
【0048】
また仮想路面は平坦な剛表面としてモデル化した。そしてタイヤ有限要素モデルのビード部を拘束し、タイヤ内圧荷重を作用させた後、仮想路面をタイヤモデルに押しつけて荷重負荷し、路面をタイヤに対してスリップ角がつくように移動させてシミュレーションを行った。タイヤ有限要素モデルは回転軸をフリーとしており、路面の移動による摩擦力により転動する。タイヤと路面の摩擦係数は、静動摩擦とともに1.0とした。路面の移動速度は時速20km/hとした。
【0049】
本シミュレーションでは、スリップ角αとして0、1、2、4deg を設定し、コーナリングシミュレーションを行った。この結果を図10に示す。
【0050】
図10から明らかなように、スリップ角をつけて路面移動して約0.15秒後にはコーナリングフォースがほぼ安定して得られていることが解る。これはタイヤの回転数に換算すると約半回転弱である。したがって、コーナリングフォースをシミュレーションするためには、少なくともタイヤをこの程度転動させることが必要であり、そのためにはトレッドパターンをタイヤの全周に具えることが好ましいものであることが解った。
【0051】
また、本シミュレーションによるコーナリングフォースと、ドラム試験機を用いた実測による定常コーナリングフォース(Experiment) とはほぼ一致しており、このシミュレーションの精度の高さが確認できた。なお本シミュレーションでは、スリップ角0deg でコーナリングフォースが若干発生しているが、これは主として、ベルト層がバイアス積層された構造をなすため、そのカップリング効果により起こるプライステア現象が現れたものと見ることができる。このようなプライステア現象までの本シミュレーションにおいて忠実に表現されており、精度の高さが窺える。
【0052】
次に、スリップ角4deg におけるコーナリング時の接地中心断面応力分布を解析した結果を図12に示す。これより、コーナリング内側のタイヤ側面に大きな引張応力(ドット部分)が発生していることが判った。また、このときのトレッド部の接地圧分布を図11に示す。これより、トレッド部の後方のタイヤ中央部のブロックでの変形が大きく、接地圧も高い(ドット部分)ことがわかる。なお今までのところ、実車を用いたタイヤ転動中の接地圧分布は、実験計測は不可能であるが、本シミュレーションではこれを知ることができる。このようなデータを採取することにより、タイヤのトレッドパターンの、どの部分にどのような力が働くかを詳細に解析することができ、タイヤパターン設計を効率よく行え、非常に有用なものである。本シミュレーションは、スーパーコンピューターを使って約40時間のCPU計算時間を要した。
【0053】
【発明の効果】
上述したように、請求項1、2及び5記載の発明では、タイヤ有限要素モデルは、タイヤ周方向に同一断面が連続するタイヤボディ部要素モデルに、トレッドパターンを全周にわたって有限要素化したトレッドパターン部要素モデルを備えるため、このタイヤ有限要素モデルを用いて走行シミュレーションを行うことにより、トレッドパターンの影響などを含め、精度の良いタイヤ性能をシミュレートでき、開発効率を高めるのに役立つ。またトレッドパターンのみ異なる種々のタイヤについて、タイヤボディ部要素モデルを共用化できるため、さらに開発効率を向上しうる。
【0054】
また、請求項3記載の発明では、タイヤの内部構造に関して、カーカス、ベルト層といったコード補強材、サイドウォールゴムなどのゴム部、ビードコアなど、各構造材を有限個の複数の要素に分割した要素モデルを設定するとともに、コード補強材のうちコード材については、異方性を定義した四辺形膜要素にモデル化し、またトッピングゴムについては六面体ソリッド要素にモデル化することによって、非常に精度の良いタイヤ性能をシミュレートでき、タイヤのパターン形状や、カーカスやベルトの配置、トッピングゴムの厚さなど詳細なタイヤ設計までを検討可能としうる。
【0055】
また、請求項4記載の発明では、タイヤ有限要素モデルの内圧、軸荷重、スリップ角、キャンバー角、タイヤ有限要素モデルと仮想路面との間の摩擦などの走行条件を設定し、このタイヤ有限要素モデルから、特にタイヤの開発に重要となるコーナリングフォース、接地面の形状又は内部応力分布を含む情報などを取得でき、開発効率のさらなる向上に寄与しうる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のタイヤ有限要素モデルの斜視図である。
【図2】タイヤボディ部要素モデルの斜視図である。
【図3】コード補強材の要素モデル化を示す概念図である。
【図4】トレッドパターン部要素モデルの斜視図である。
【図5】タイヤ有限要素モデルの変形を例示する線図である。
【図6】本発明のシミュレーション装置の実施形態を示すブロック図である。
【図7】本実施形態の処理手順を示すフローチャート図である。
【図8】タイヤ有限要素モデルを仮想路面に接地させた断面の概念図である。
【図9】タイヤ有限要素モデルを仮想路面に接地させた平面の概念図である。
【図10】コーナリングフォースのシミュレーション結果を示すグラフである。
【図11】コーナリング中のタイヤ有限要素モデルのトレッド面を示す線図である。
【図12】コーナリング中のタイヤ有限要素モデルの断面を示す線図である。
【図13】タイヤの断面図である。
【図14】コーナリングフォースを説明する線図である。
【符号の説明】
T タイヤ
2 タイヤ有限要素モデル
3 タイヤボデイ部要素モデル
4 トレッドパターン部要素モデル
5 コード補強材要素モデル
7 仮想路面
Claims (5)
- 評価しようとするタイヤを有限個の多数の要素に分割したタイヤ有限要素モデルで近似し、有限要素法を用いて前記タイヤ有限要素モデルからタイヤ性能をシミュレーションするタイヤ性能のシミュレーション方法であって、
カーカス、ベルトを含むコード補強材と、サイドウォールゴム、ビードゴムを含むゴム部と、ビードコアとがタイヤ周方向に同一断面形状で連続するタイヤボディ部を有限個の要素に分割してタイヤボディ部要素モデルを設定する処理と、
タイヤ周方向にのびる縦溝とこの縦溝と交わる向きにのびる横溝とを有する前記タイヤのトレッドパターンをタイヤ周方向の全周に亘り有限個の多数の要素に分割したトレッドパターン部要素モデルを設定する処理と、
このトレッドパターン部要素モデルを前記タイヤボディ部要素モデルに結合することによりタイヤ有限要素モデルを設定する処理と、
前記タイヤ有限要素モデルの内圧、軸荷重、スリップ角、キャンバー角、タイヤ有限要素モデルと仮想路面との間の摩擦係数を含む走行条件を設定するとともに、このタイヤ有限要素モデルを仮想リムに装着し前記仮想路面に対して接触又は相対移動させる走行シミュレーション処理と、
前記走行シミュレーション中のタイヤ有限要素モデルから所定の情報を取得する情報取得処理とを含むとともに、
前記タイヤとはトレッドパターンのみ異なるタイヤのトレッドパターン部要素モデルを設定し、これに前記タイヤボディ部要素モデルを共用して設定されたタイヤ有限要素モデルを用いてさらに前記走行シミュレーション処理を行うことを特徴とするタイヤ性能のシミュレーション方法。 - 前記タイヤボディ部のゴム部は、トレッド部ベースゴムを含むことを特徴とする請求項1記載のタイヤ性能のシミュレーション方法。
- 前記タイヤボディ部要素モデルは、前記コード補強材を構成するコード材とこれを被覆するトッピングゴムとを夫々有限個の複数の要素に分割したコード補強材要素モデルと、前記ゴム部を有限個の複数の要素に分割したゴム部要素モデルと、前記ビードコアを有限個の複数の要素に分割したビードコア要素モデルとを含み、
かつ、前記コード補強材要素モデルは、前記コード材を異方性が定義された四辺形膜要素にモデル化され、前記トッピングゴムは六面体ソリッド要素にモデル化されていることを特徴とする請求項1又は2記載のタイヤ性能のシミュレーション方法。 - 前記情報取得処理は、タイヤ有限要素モデルからコーナリングフォース、接地面の形状、圧力分布又は内部応力分布を含む情報を取得することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1記載のタイヤ性能のシミュレーション方法。
- 評価しようとするタイヤを有限個の多数の要素に分割したタイヤ有限要素モデルで近似し、有限要素法を用いて前記タイヤ有限要素モデルからタイヤ性能をシミュレーションするタイヤ性能のシミュレーション装置であって、
カーカス、ベルトを含むコード補強材と、サイドウォールゴム、ビードゴムを含むゴム部と、ビードコアとがタイヤ周方向に同一断面形状で連続するタイヤボディ部を有限個の要素に分割してタイヤボディ部要素モデルを配する処理と、
タイヤ周方向にのびる縦溝とこの縦溝と交わる向きにのびる横溝とを有する前記タイヤのトレッドパターンを、タイヤ周方向の全周に亘り有限個の多数の要素に分割したトレッドパターン部要素モデルを設定する処理と、
このトレッドパターン部要素モデルを前記タイヤボディ部要素モデルに結合することによりタイヤ有限要素モデルを設定する処理と、
前記タイヤ有限要素モデルの内圧、軸荷重、スリップ角、キャンバー角、タイヤ有限要素モデルと仮想路面との間の摩擦係数を含む走行条件を設定するとともに、このタイヤ有限要素モデルを仮想リムに装着し仮想路面に対して接触又は相対移動させる走行シミュレーション処理と、
前記走行シミュレーション中のタイヤ有限要素モデルから所定の情報を取得する情報取得処理とを行う演算処理装置を含むとともに、
前記演算処理装置は、前記タイヤとはトレッドパターンのみ異ならせたタイヤのトレッドパターン部要素モデルに前記タイヤボディ部要素モデルを共用して設定されたタイヤ有限要素モデルを用いてさらに前記走行シミュレーション処理を行うことを特徴とするタイヤ性能のシミュレーション装置。
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