鋼の凝固過程では体積収縮(凝固収縮ともいう)が起こり、この収縮に伴って、連続鋳造鋳片の場合には、鋳片の引き抜き方向へ未凝固溶鋼が吸引されて流動する。凝固収縮による、この吸引・流動に伴い、炭素、燐、硫黄などの溶質元素が濃縮されたデンドライト樹間の溶鋼(「濃化溶鋼」という)が流動を起こし、それが鋳片の厚み中心部に集積して凝固し、所謂、中心偏析が形成される。凝固末期の溶鋼が流動する要因としては、上記の凝固収縮の他に、溶鋼静圧によるロール間での鋳片バルジング(膨らみ)や、鋳片支持ロールのロールアライメントの不整合なども挙げられる。
この中心偏析は、鋼製品、特に厚鋼板の品質を劣化させる。例えば、石油輸送用や天然ガス輸送用のラインパイプ材においては、サワーガスの作用により中心偏析を起点として水素誘起割れが発生し、また、海洋構造物、貯槽、石油タンクなどにおいても、同様の問題が発生する。しかも近年、鋼材の使用環境は、より低温下或いはより腐食環境下といった厳しい環境での使用を求められることが多く、鋳片の中心偏析を低減することの重要性は益々大きくなっている。
これに対処するべく、連続鋳造工程から圧延工程に至るまで、鋳片の中心偏析を低減する或いは無害化する対策が多数提案されている。例えば、連続鋳造中の鋳片を凝固収縮量に相当する程度の圧下量で圧下する、所謂「軽圧下方法」は広く行われており、中心偏析低減に効果を挙げている。但し、一般的な軽圧下方法では、事前に決めたロール開度設定で鋳造を開始し、鋳造終了まで同じロール開度で鋳造するという方法であり、この方法であると、鋳造速度の変動やその他の外乱要因により、所定の圧下量が鋳片に付与されないことが発生するという問題がある。
そこで、鋳造速度の変動やその他の外乱要因の影響を解消して、所定の圧下条件で鋳片を軽圧下するための技術も提案されている。例えば、特許文献1には、鋳造速度に応じて軽圧下範囲(圧下帯または軽圧下帯という)を鋳造方向の上流側或いは下流側に移動させ、鋳造速度が変更されても、軽圧下の開始時期を常に鋳片中心部の固相率が0.1〜0.3の時期とするとともに、軽圧下の終了時期を鋳片中心部の固相率が0.5〜0.7の時期とし、鋳造速度に影響されることなく、常に同じ状態で軽圧下する方法が提案されている。
また、特許文献2には、鋳片中心部に未凝固溶鋼を有する鋳片の厚みを測定し、その結果に基づいて、軽圧下量、二次冷却水量、鋳造速度のうちの何れか1種以上を制御し、鋳片の内部品質を向上させる連続鋳造方法が提案されている。
また、特許文献3には、鋳片の中心固相率が0を超え0.3以下の任意の位置で測定した凝固シェル厚みの実測値と、鋳片の成分及び鋳造条件から計算される凝固シェル厚みの計算値とを比較し、凝固シェル厚みの実測値と計算値との差から中心偏析の程度を判定し、判定される中心偏析が所定の値以下になるように、軽圧下での圧下速度または二次冷却水量を調整する連続鋳造方法が提案されている。
また更に、特許文献4には、鋳片を凝固率40%以上の位置から凝固完了部までの範囲において、1回の圧下率を1.5%以下で、且つ全圧下率を0.5%以上5%以下で面圧下しつつ鋳造するにあたり、圧下帯に逐次入ってくる鋳片の厚み変動を0.5mm以下とし、その後、上記圧下を付与する連続鋳造方法が提案されている。
しかしながら、上記従来技術には以下の問題点がある。
即ち、特許文献1のように、鋳造速度に応じて鋳造中にロール開度を変更して鋳片の内部品質を向上させる技術では、二次冷却の影響や鋳片支持ロールのロールアライメントの不整合などの外乱要因に関しては対処できないという問題点がある。
特許文献2では、未凝固溶鋼を内部に有する、凝固完了前の鋳片の厚みを測定し、その結果に基づいて軽圧下などの中心偏析防止対策を制御しているが、未凝固溶鋼を内部に有する鋳片の厚みは、ロール間での鋳片バルジングや鋳片表面温度の変化により鋳造中に大幅に変動しており、同一の鋳造チャンスであっても測定時期によって変化する。つまり、凝固完了前の鋳片厚みは常に変動しており、変動する鋳片厚みに基づいて対策を施すことは、却って鋳片内部品質を劣化させる恐れがある。また、的確な対策が採られないことも発生する。
特許文献3では、凝固厚みを実測することが必須であるが、残念ながら現在の測定技術では、凝固厚みの測定精度はそれほど高くなく、特許文献2と同様に、誤った対策を講じさせる原因となりかねない。
特許文献4では、圧下帯に逐次入ってくる、未凝固溶鋼を内部に有する鋳片の厚み変動を0.5mm以下に制御するとしているが、はたして、どのような手段を用いて鋳片厚みの変動量を0.5mm以下に制御するかが記載されていない。前述したように、未凝固溶鋼を内部に有する鋳片の厚みは、鋳片バルジングなどに起因して、隣り合うロール間においても測定位置に応じて変動する。しかし、バルジングなどによって一旦厚みが増加しても、未凝固相を有する鋳片は、次の鋳片支持ロールに接触すると矯正されて、設定されたロール間隔(相対するロール間の距離)の厚みとなる。設定されたロール間隔と等しい厚みに制御することは、未凝固相を有する鋳片においては制御するまでもなく極めて容易であり、一方、バルジングなどの影響を含め、ロール間においても0.5mm以下に制御することは極めて困難である。何れにしても、特許文献4には、鋳片厚みの変動量を0.5mm以下に制御する手段が開示されておらず、どのような技術であるのか定かでない。
また、特許文献1〜3は、軽圧下を施す際のロール開度を変更することを概念的に示すだけであり、外乱要因に対して、具体的にどのようにして開度を変更するかは開示していない。
現在、連続鋳造鋳片に対する品質要求レベルは高まり、中心偏析の少ない鋳片が求められている。また、鋳造速度を変更した部位の鋳片においても、優れた品質を確保しない限り、低級品質鋳片へと格下げになり、工業生産上からも望ましい形態ではない。しかしながら、上記に説明したように、近年の厳格な品質要求に応えることのできる中心偏析低減対策は未だ達成されていないのが現状である。
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、鋼の連続鋳造鋳片の中心部に発生する中心偏析を低減することのできる、鋼鋳片の連続鋳造方法を提供することである。
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意研究・検討を実施した。その結果、中心偏析の程度が著しい鋳片では、凝固完了直後の鋳片の鋳造方向における鋳片厚みの変動が大きいことが分かった。これは、ロール間での鋳片バルジングが矯正されずに一部残存したり、鋳片支持ロールの偏磨耗や偏心などによるロールアライメントに起因したりするものであり、凝固過程で濃化溶鋼が流動し易くなっていたことを示している。逆に、凝固完了直後の鋳片の鋳造方向における厚みの変動が小さい場合には、中心偏析が軽微であることも分かった。
凝固完了後の鋳片の厚みは、鋳片の温度変化に伴う収縮或いは膨張などによって変化するのみであり、厚み変化は極めて小さく、従って、凝固完了直後の鋳片の鋳造方向における厚みの変動が大きいということは、凝固完了前の時点から鋳片の鋳造方向における厚みの変動が大きく、そのまま凝固してしまったことを現している。凝固完了前での鋳片の鋳造方向における厚みの変動量が大きいということは、鋳造方向の凝固シェル厚みが不均一であったか、鋳造方向の未凝固相厚みが不均一であったことを現しており、これらは中心偏析悪化の原因となる。
つまり、凝固完了直後の鋳片厚みの変動は中心偏析と強い相関があり、中心偏析の程度を現す指標となり、従って、凝固完了直後の鋳片厚みの変動を測定することにより鋳片の中心偏析を予測できるのみならず、凝固完了直後の鋳片厚みの変動を測定し、測定される厚みの変動が所定値以下になるように凝固完了前の鋳片を軽圧下することで、凝固完了後の鋳片の鋳造方向の厚み変動が少なくなり、鋳片の中心偏析が軽減することを知見した。
本発明は、上記検討結果に基づいてなされたものであり、第1の発明に係る鋼鋳片の連続鋳造方法は、鋳造中の鋳片に圧下力を付与することの可能な複数本の圧下ロールを具備する連続鋳造機を用い、前記圧下ロールで鋳片を圧下しながら鋼鋳片を連続鋳造するにあたり、前記圧下ロールの開度を調整することにより、鋳片の中心部が凝固完了する位置から連続鋳造機の鋳造方向下流側に3m離れた位置までの範囲において測定される鋳片厚みの変動量を0.5mm以下に制御することを特徴とするものである。
第2の発明に係る鋼鋳片の連続鋳造方法は、鋳造中の鋳片に圧下力を付与することの可能な複数本の圧下ロールを具備する連続鋳造機を用い、前記圧下ロールで鋳片を圧下しながら鋼鋳片を連続鋳造するにあたり、鋳片の中心部が凝固完了する位置から連続鋳造機の鋳造方向下流側に3m離れた位置までの範囲で鋳片厚みの変動量を測定し、測定される鋳片厚みの変動量が0.5mmを超えた場合には、前記圧下ロールの開度を調整することによって鋳片厚みの変動量を0.5mm以下に制御することを特徴とするものである。
第3の発明に係る鋼鋳片の連続鋳造方法は、鋳造中の鋳片に圧下力を付与することの可能な複数本の圧下ロールを有し、鋳造方向に連続して配置される3基以上の独立したセグメントからなる圧下帯を具備する連続鋳造機を用い、前記圧下帯において所定の圧下速度で圧下しながら鋼鋳片を連続鋳造するにあたり、鋳片の中心部が凝固完了する位置から連続鋳造機の鋳造方向下流側に3m離れた位置までの範囲で鋳片厚みの変動量を測定し、測定される鋳片厚みの変動量が0.5mmを超えて1.0mm以下のときには、鋳片の凝固が完了する位置のセグメントよりも鋳造方向上流側に1つ上流側のセグメントの圧下勾配を0.10〜0.30mm/mだけ更に増加させ、測定される鋳片厚みの変動量が1.0mmを超えて2.0mm以下のときには、鋳片の凝固が完了する位置のセグメントよりも鋳造方向上流側に1つ上流側のセグメントの圧下勾配を0.20〜0.60mm/mだけ更に増加させ、測定される鋳片厚みの変動量が2.0mmを超えるときには、鋳片の凝固が完了する位置のセグメントよりも鋳造方向上流側に1つ上流側のセグメントの圧下勾配を0.20〜0.60mm/mだけ更に増加させるとともに、鋳片の凝固が完了する位置のセグメントよりも鋳造方向上流側に2つ上流側のセグメントの圧下勾配を0.20〜0.60mm/mだけ更に増加させ、かくして、鋳片の中心部が凝固完了する位置から連続鋳造機の鋳造方向下流側に3m離れた位置までの範囲において測定される鋳片厚みの変動量を0.5mm以下に制御することを特徴とするものである。
本発明によれば、連続鋳造機における鋼鋳片の連続鋳造中に、凝固直後の鋳片厚みの変動量が0.5mm以下となるように、未凝固鋳片に圧下量を付与するための圧下ロールのロール開度を変更するので、鋳造速度などの鋳造条件が変更になった場合にも、連続鋳造鋳片の中心偏析を大幅に低減することが達成される。その結果、鋳造速度が変更される部位の鋳片の品質が向上して鋳片歩留りも向上し、品質向上のみならず、省資源、省エネルギーなどの工業上有益な効果がもたらされる。
以下、添付図面を参照して本発明を具体的に説明する。図1は、本発明を実施する際に用いたスラブ連続鋳造機の側面概略図である。
図1に示すように、スラブ連続鋳造機1には、溶鋼9を注入して凝固させ、鋳片10の外殻形状を形成するための鋳型5が設置され、この鋳型5の上方所定位置には、取鍋(図示せず)から供給される溶鋼9を鋳型5に中継供給するためのタンディッシュ2が設置されている。タンディッシュ2の底部には、溶鋼9の流量を調整するためのスライディングノズル3が設置され、このスライディングノズル3の下面には、浸漬ノズル4が設置されている。一方、鋳型5の下方には、サポートロール、ガイドロール及びピンチロールからなる複数対の鋳片支持ロール6が配置されている。鋳造方向に隣り合う鋳片支持ロール6の間隙には、水スプレーノズル或いはエアーミストスプレーノズルなどのスプレーノズル(図示せず)が配置された二次冷却帯が構成され、二次冷却帯のスプレーノズルから噴霧される冷却水(「二次冷却水」ともいう)によって鋳片10は引抜かれながら冷却されるようになっている。また、鋳造方向最終の鋳片支持ロール6の下流側には、鋳造された鋳片10を搬送するための複数の搬送ロール7が設置されており、この搬送ロール7の上方には、鋳造される鋳片10から所定の長さの鋳片10aを切断するための鋳片切断機8が配置されている。
鋳片10の凝固完了位置13を挟んで鋳造方向の上流側及び下流側には、鋳片10を挟んで対向する鋳片支持ロール間の間隔(この間隔を「ロール間隔」と呼ぶ)を鋳造方向下流側に向かって順次狭くなるように設定された、複数対の鋳片支持ロール群から構成される圧下帯14が設置されている。圧下帯14では、その全域または一部選択した領域で、鋳片10に軽圧下を行うことが可能である。圧下帯14の各鋳片支持ロール間にも鋳片10を冷却するためのスプレーノズルが配置されている。尚、圧下帯14の鋳片支持ロール6を、軽圧下を施すためのロールであることから「圧下ロール」とも称している。また、鋳造方向下流に向かって順次狭くなるように設定されたロール間隔の状態を「圧下勾配」と称している。通常、圧下勾配は、鋳造方向1m当たりのロール間隔絞り込み量(mm)、つまり「mm/m」で表示される。従って、圧下帯14における、鋳片10の圧下速度(mm/min)は、この圧下勾配(mm/m)に鋳造速度(m/min)を乗算することで得られる。
図1に示す圧下帯14は、3対の圧下ロールを1組とするセグメント構造の圧下ロール群が鋳造方向に3基つながって構成されており、各セグメントの上流側端部と下流側端部には、圧下ロールのロール間隔を鋳造中に測定するためのロール間隔測定装置16が設置されている。このロール間隔測定装置16は、各セグメントの端部の圧下ロールの位置を、レーザー光などを利用して非接触で測定しており、それぞれの測定値は圧下条件演算装置19に入力され、圧下条件演算装置19は上下一対の圧下ロールの位置の測定値からロール間隔を算出している。各セグメントの端部に設けた圧下ロールのロール間隔が測定されるので、それぞれのセグメントの圧下勾配が分かるようになっている。尚、このロール間隔測定装置16は非接触で測定しているが、本発明を実施する上で非接触とする必要はなく、作動トランスなどを圧下ロールに接触させて配置し、それによりロール間隔を測定しても構わない。尚、図示はしないが、圧下ロール以外の鋳片支持ロール6もセグメント構造となっている。
圧下帯14の各セグメントの上面側のセグメントには、その上流側端部及び下流側端部に、油圧或いは電動機による遠隔操作によって、鋳造中でも圧下ロールの間隔を調整可能なロール間隔調整装置17が設置されている。但し、セグメント構造であるので、3対の圧下ロールのロール間隔が一括して調整されるようになっている。
また、凝固完了位置13から鋳造方向下流側に3.0m離れた位置までの任意の位置に、鋳片10を挟んで一対の水柱超音波センサー18が設置されている。この水柱超音波センサー18は、水柱超音波センサー18から鋳片10の表面に向けて水柱(図示せず)を噴射させ、この水柱中を伝播させて超音波を鋳片表面に向けて発信するとともに鋳片表面から反射される超音波を受信し、超音波の反射時間に基づいて水柱超音波センサー18から鋳片10の表面までの距離を測定する装置である。水柱超音波センサー18の測定結果を入力された圧下条件演算装置19は、鋳片10の上面及び下面の絶対位置を決定することによって、鋳片10の厚みを算出している。尚、鋳片厚みは、接触式の作動トランスなどでも測定できるが、測定精度が高いことから水柱超音波センサー18を用いることが好ましい。
また、圧下帯14よりも鋳造方向下流側には、鋳片10の凝固完了位置13を検出するための凝固完了位置検出装置15が設置されている。この凝固完了位置検出装置15は、対向する1対のセンサーを介して鋳片10に縦波超音波または横波超音波を透過させ、縦波超音波または横波超音波の透過速度が鋳片10の温度に依存することを利用して、超音波の透過時間から鋳片中心部の温度を求め、求めた鋳片中心部の温度から伝熱計算などを利用して凝固完了位置13を検出する装置である。凝固完了位置検出装置15の測定結果は、圧下条件演算装置19に入力されている。
圧下条件演算装置19は、水柱超音波センサー18の測定結果、及びロール間隔測定装置16の測定結果、更には、凝固完了位置検出装置15の測定結果も加えて、圧下帯14における最適な圧下勾配や圧下範囲などを演算して求める装置である。
このようにして構成されるスラブ連続鋳造機1を用い、以下のようにして本発明を実施する。
取鍋からタンディッシュ2に溶鋼9を注入してタンディッシュ2に所定量の溶鋼9を滞留させ、次いで、タンディッシュ2に滞留した溶鋼9を、浸漬ノズル4を介して鋳型5に注入する。鋳型5に注入された溶鋼9は、鋳型5で冷却されて凝固シェル11を形成し、外殻を凝固シェル11とし、内部に未凝固相12を有する鋳片10として、鋳片支持ロール6に支持されながらピンチロールによって鋳型5の下方に連続的に引抜かれる。鋳片10は、鋳片支持ロール6を通過する間、二次冷却帯の二次冷却水で冷却され、凝固シェル11の厚みを増大し、圧下帯14で軽圧下されながら凝固完了位置13で内部までの凝固を完了する。その後、凝固完了した鋳片10は、鋳片切断機8によって切断されて鋳片10aとなる。
二次冷却水量は、鋳造する鋼種に応じて、比水量としての換算値で0.8〜3.0リットル/kg-steel程度とする。ここで、比水量とは、連続鋳造機の二次冷却帯の全域において、鋳片1kgを冷却するのに要する二次冷却水の水量という意味である。一般に、割れ感受性の高い鋼種では比水量を少なくし、逆に、割れ感受性の低い鋼種では比水量を多くすることが行われている。比水量が一定の場合には、鋳造速度の上昇に比例して二次冷却水量は増加するが、鋳造速度を高速化する場合は、比水量自体も大きくすることが一般的である。
この場合、凝固完了位置13が、3基のセグメントからなる圧下帯14の最も下流側のセグメントに位置するように、伝熱計算などの手法を用いて鋳造速度及び二次冷却水量を設定する。また、鋳造中は凝固完了位置検出装置15を用いて、凝固完了位置13が上記の位置に在ることを確認し、上記の位置にない場合には、鋳造速度及び二次冷却水量を再度設定する。但し、この処置は、3基のセグメントからなる圧下帯14の場合に必要な処理であり、圧下帯14が3基以上のセグメントからなる場合には、上記の処置は必要とせず、凝固完了位置13の位置するセグメントの上流側に、圧下帯14を構成するセグメントが2基以上存在するように、凝固完了位置13の位置を設定すればよい。尚、水柱超音波センサー18は、予定される凝固完了位置13に応じて、凝固完了位置13からの鋳造方向下流側の距離が3m以内となる位置に予め配置しておく。
鋳片10の中心偏析を防止するためには、鋳片10の中心部の固相率が少なくとも0.4〜0.7の期間は継続して軽圧下することが必要である。本発明では、凝固完了位置13を圧下帯14に位置させるので、鋳片中心部の固相率が0.7を超える範囲まで鋳片10には軽圧下が施されるが、鋳片10が圧下帯14に到達するときの鋳片10の中心部の固相率として0.4を確保する必要があり、従って、圧下帯14の後半部に凝固完了位置13を位置させ、且つ、圧下帯14の入側での鋳片中心部の固相率が0.4を確保できるように、圧下帯14の鋳造方向長さを確保する必要がある。この必要長さは、鋳造速度や二次冷却水量によって変化するので、予め伝熱計算などを用いて確認し、それに応じて圧下帯14の長さを決めればよい。尚、上記のように軽圧下期間を規定する理由は、鋳片中心部の固相率が0.4未満の範囲は残溶鋼が多く溶鋼流動が発生しても中心偏析には至らず、一方、鋳片中心部の固相率が0.7を超える範囲はバルジングなどが発生しても溶鋼流動が生じず、どちらも軽圧下の効果が見られなくなり、軽圧下の必要性がないからである。但し、この範囲を軽圧下しても全く問題はない。
この連続鋳造操業に先立ち、オペレーターは、鋳片10が圧下帯14で所定量軽圧下されるように、ロール間隔調整装置17を遠隔で操作して、圧下帯14の圧下勾配を設定する。ここでは、このようにして設定した圧下勾配を基準値と称する。鋳片10の中心偏析防止のためには、鋳片10の圧下速度は0.5〜1.5mm/min程度が望ましいことが知られており、従って、当該鋳造時の予定する鋳造速度に応じて、圧下速度が0.5〜1.5mm/minになるように、圧下帯14の圧下勾配つまり基準値を設定する。その際に、圧下帯14の圧下勾配が基準値になっていることを、ロール間隔測定装置16の測定値によって確認する。尚、圧下速度が0.5mm/min未満では、濃化溶鋼の流動を十分に阻止することができず、一方、圧下速度が1.5mm/minを越えると、セグメントに対する荷重負荷が増大するのみならず、濃化溶鋼が鋳造方向とは逆方向に絞り出され、鋳片中心部には負偏析が生成される恐れがある。また、総圧下量は2〜6mm程度で十分であるが、これ以上であっても構わない。
この鋳造中、水柱超音波センサー18によって鋳片10の厚みを連続的に測定する。ここで、水柱超音波センサー18による鋳片10の厚み変動の測定方法を説明する。鋳片10の厚み変動量は、水柱超音波センサー18で測定される、水柱超音波センサー18と鋳片10との間の距離に基づき求めるが、本発明においては、水柱超音波センサー18と鋳片10との間の基準となる距離(L0)を予め定め、この基準距離(L0)に対する変動量を鋳片10の厚み変動量として求める。
この基準距離(L0)は、水柱超音波センサー18の設置位置に対して鋳造方向上流側直前の鋳片支持ロール6のロール開度から決定する。スラブ連続鋳造機1においては、下面側(「基準面側」という)の鋳片支持ロール6は固定されており、上面側(「反基準面側」という)の鋳片支持ロール6が昇降することでロール開度が決定される。ロール開度が決定されると、上面側の鋳片支持ロール6の設置位置が決定される。鋳片支持ロール6の設置位置が決定されることにより、水柱超音波センサー18と前記上流側直前の鋳片支持ロール6との空間的な位置関係が決定される。
この空間的な位置関係に基づき、基準距離(L0)が定められる。即ち、鋳片10の上面側に設置される水柱超音波センサー18の基準距離(L0)は、鋳造方向上流側直前の上面側の鋳片支持ロール6と、上面側に設置される水柱超音波センサー18の設置位置との位置関係から決定される。図2(A)に、上面側に設置される水柱超音波センサー18の基準距離(L0)の決定方法を模式的に示す。基準位置から上面側の水柱超音波センサー18の先端位置までの距離をx、基準位置から上面側の鋳片支持ロール6の中心までの距離をy、鋳片支持ロール6の半径をdとすると、「L0=y+d−x」として基準距離(L0)が一義的に定められる。つまり、基準距離(L0)は仮想した鋳片10の表面までの距離となる。下面側に配置される水柱超音波センサー18の基準距離(L0)も、同様にして、下面側に設置される鋳片支持ロール6との位置関係によって定められる。
鋳造中は、図2(B)に示すように、水柱超音波センサー18により距離(Li)を測定し、距離(Li)と基準距離(L0)との差を鋳片10の厚み変動量として測定する。
鋳片10の上面側及び下面側にそれぞれ水柱超音波センサー18が設置されており、従って、鋳片10の上面側及び下面側で、それぞれ鋳片10の厚み変動量が測定される。本発明においては、測定された上面側及び下面側の厚み変動量のうちで、大きい値の変動量に基づいて、後述するように軽圧下条件を調整する。尚、図1では、鋳片10の上面側及び下面側に水柱超音波センサー18が設置されているが、どちらか一方のみとしても構わない。但し、鋳片10の厚み変動は、鋳片厚み中心に対して上面側及び下面側で対称に変動するわけではなく、片方のみを測定することは厚み変動の測定精度が低下することから、上面及び下面の双方を測定することが好ましい。
このようにして測定される、鋳片10の厚みの変動量が0.5mmを超えない場合には、上記の基準値での圧下条件を維持して鋳造を継続する。しかし、鋳片10の厚みの変動量が0.5mmを超えた場合には、厚み変動量を0.5mm以下とするべく、上記の圧下条件を、圧下速度が更に大きくなるように変更して鋳造を継続する。
具体的には、(1)測定される鋳片厚みの変動量が0.5mmを超えて1.0mm以下のときには、鋳片10の凝固が完了する位置のセグメントよりも鋳造方向上流側に1つ上流側のセグメントの圧下勾配を基準値に対して0.10〜0.30mm/mだけ更に増加させ、(2)測定される鋳片厚みの変動量が1.0mmを超えて2.0mm以下のときには、鋳片10の凝固が完了する位置のセグメントよりも鋳造方向上流側に1つ上流側のセグメントの圧下勾配を基準値に対して0.20〜0.60mm/mだけ更に増加させ、(3)測定される鋳片厚みの変動量が2.0mmを超えるときには、鋳片10の凝固が完了する位置のセグメントよりも鋳造方向上流側に1つ上流側のセグメントの圧下勾配を基準値に対して0.20〜0.60mm/mだけ更に増加させるとともに、鋳片10の凝固が完了する位置のセグメントよりも鋳造方向上流側に2つ上流側のセグメントの圧下勾配を基準値に対して0.20〜0.60mm/mだけ更に増加させる。
つまり、水柱超音波センサー18による鋳片10の厚み変動量が0.5mmを超えたなら、オペレーターはそれを確認し、遠隔でロール間隔調整装置17を操作して、圧下帯14の圧下勾配が上記に記した所定の値となるように、鋳造中に変更する。この場合、水柱超音波センサー18からの測定結果を受け、圧下条件演算装置19からロール間隔調整装置17に新たな圧下勾配の設定値を発信し、自動的に圧下帯14のロール間隔を変更するようにしてもよい。
圧下帯14の圧下勾配を変更した後、測定される鋳片厚みの変動量は減少する。そこで、測定される鋳片厚みの変動量の減少に応じて、圧下帯14の圧下勾配を小さくし、最終的に測定される鋳片厚みの変動量が0.5mm以下になったなら、圧下帯14の圧下勾配は全て基準値に戻す。
例えば、仮に、測定される鋳片厚みの変動量が2.5mmとすると、鋳造方向上流側に1つ上流側のセグメントの圧下勾配を基準値に対して更に0.20〜0.60mm/mだけ増加させるとともに、鋳造方向上流側に2つ上流側のセグメントの圧下勾配も基準値に対して更に0.20〜0.60mm/mだけ増加させ、この処置により、測定される鋳片厚みの変動量が2.0mm以下になったなら、鋳造方向上流側に2つ上流側のセグメントの圧下勾配を基準値に戻し、鋳造方向上流側に1つ上流側のセグメントの圧下勾配だけを基準値に対して0.20〜0.60mm/mだけ増加させる。また、この処置により、測定される鋳片厚みの変動量が1.0mm以下になったなら、鋳造方向上流側に1つ上流側のセグメントの圧下勾配を基準値に対して0.10〜0.30mm/mだけ増加させ、この処置により測定される鋳片厚みの変動量が0.5mm以下になったなら、圧下帯14の圧下勾配は全て基準値に戻す。
圧下帯14の圧下勾配を大きくすることにより、凝固完了位置13が鋳造方向上流側に移動することもあるので、圧下帯14の圧下勾配を大きくしたときには、凝固完了位置検出装置15により凝固完了位置13を検出・確認し、必要に応じて、鋳造速度を増速する或いは二次冷却水量を減少するなどして、凝固完了位置13が、水柱超音波センサー18からの距離が3m以内で且つ圧下帯14の範囲内に位置するように調整する。
このようにして鋳造することで、一部分の鋳片10の厚み変動量は0.5mmを超えることがあるが、大部分の鋳片10の厚み変動量は0.5mm以下に制御される。これは、鋳片厚みを測定するための水柱超音波センサー18が凝固完了位置13から3m以内の範囲に設置されていることにより、フィードバックが迅速に行われ、厚み変動量が0.5mmを超える部分の発生が抑制されるからである。
以上説明したように、本発明によれば、連続鋳造機における鋼鋳片の連続鋳造中に、凝固直後の鋳片厚みの変動量が0.5mm以下となるように、未凝固鋳片に圧下量を付与するための圧下ロールのロール開度を変更するので、鋳造速度などの鋳造条件が変更になった場合でも、連続鋳造鋳片の中心偏析を大幅に低減することが実現され、中心偏析の少ない鋳片10aを製造することが可能となる。
尚、本発明は上記説明に限るものではなく、種々の変更が可能である。例えば、図1では、スラブ連続鋳造機1の水平部に圧下帯14が設置されているが、鋳片支持ロール6の設置されている範囲であればどこであっても、例えば湾曲部であっても圧下帯14とすることができる。
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明する。前述した図1に示すスラブ連続鋳造機を用い、表1に示す化学成分の溶鋼を、表2に示す鋳造条件で試験鋳造した。鋳片の凝固完了位置を、3基のセグメントからなる圧下帯の最も下流側のセグメントのほぼ中央部に制御した。また、圧下速度が1.0mm/minとなるように、圧下帯の各セグメントの圧下勾配を鋳造前に設定した。
鋳造中、水柱超音波センサーによって鋳片厚みを連続的に測定し、鋳片厚みの変動量が0.8mmとなった時点(水準1)、1.8mmとなった時点(水準2)、並びに、2.4mmとなった時点(水準3)で、前述した本発明の基準に沿って、凝固完了位置が存在するセグメントの1つ上流側のセグメント及び2つ上流側のセグメントの圧下勾配を変更した(発明例)。尚、本発明を適用すれば、鋳片厚みの変動量が0.5mmを超えた時点で、圧下帯の圧下勾配を変更させる必要があるが、ここでは、測定される鋳片厚みの変動量が上記の3水準の値になるまで敢えて放置し、その後、本発明の対策を適用し、鋳片厚みの変動量がどのように推移するかを調査した。
即ち、(1)測定される鋳片厚みの変動量が0.5mmを超えて1.0mm以下のときには、鋳片の凝固完了位置の存在するセグメントよりも鋳造方向上流側に1つ上流側のセグメントの圧下勾配を基準値に対して0.10〜0.30mm/mだけ増加させ、(2)鋳片厚みの変動量が1.0mmを超えて2.0mm以下のときには、鋳片の凝固完了位置の存在するセグメントよりも鋳造方向上流側に1つ上流側のセグメントの圧下勾配を基準値に対して0.20〜0.60mm/mだけ増加させ、(3)鋳片厚みの変動量が2.0mmを超えるときには、鋳片の凝固完了位置が存在するセグメントよりも鋳造方向上流側に1つ上流側のセグメントの圧下勾配を基準値に対して0.20〜0.60mm/mだけ増加させるとともに、鋳造方向上流側に2つ上流側のセグメントの圧下勾配を基準値に対して0.20〜0.60mm/mだけ更に増加させた。また、測定される鋳片厚みの変動量が小さくなっていく際には、逆に徐々に圧下勾配を小さくした。
つまり、圧下勾配を大きくすることによって測定される鋳片厚みの変動量は徐々に減少する。従って、例えば水準3では、測定される鋳片厚みの変動量が2.0mm以下に減少した時点では、鋳造方向上流側に2つ上流側のセグメントの圧下勾配は基準値に戻し、鋳造方向上流側に1つ上流側のセグメントの圧下勾配だけを基準値に対して0.20〜0.60mm/mだけ増加させ、更に、鋳片厚みの変動量が1.0mm以下となったときには、鋳造方向上流側に1つ上流側のセグメントの圧下勾配を基準値に対して0.10〜0.30mm/mだけ増加させ、測定される鋳片厚みの変動量が0.5mm以下になったなら、鋳造方向上流側に1つ上流側のセグメントの圧下勾配も基準値に戻すという鋳造方法である。水準1及び水準2もこれに準ずる。
また、比較のために、圧下勾配を本発明の基準の範囲よりも小さくする試験鋳造、並びに、大きくする試験鋳造も実施した(比較例)。
その結果、圧下帯の圧下勾配を、本発明で規定する圧下勾配に変更した試験鋳造では、圧下勾配を変更した直後から鋳片厚みの変動量は減少し、厚み変動量が0.5mm以下となるまで、初期の厚み変動量が大きい試験(発明例6〜8)では5〜6分間程度であったが、初期の厚み変動量が小さい発明例1〜4では、数分のうちに厚み変動量は0.5mm以下となることが分かった。また、一旦、厚み変動量が0.5mm以下に制御された後は、鋳造終了まで厚み変動量が0.5mmを超えることはなかった。
これに対して、圧下勾配を本発明の基準の範囲よりも小さくした試験鋳造では、鋳片厚みの変動量はなかなか小さくならず、結局、鋳造終了まで厚み変動量が0.5mm以下になることはなかった。一方、圧下勾配を本発明の基準の範囲よりも大きくした試験鋳造では、厚み変動量が大きく変位し、一旦0.5mm以下になったとしても直ちに0.5mmを超えてしまい、安定して0.5mm以下になることはなかった。測定される厚み変動量が0.5mmを超える毎に、圧下帯の圧下勾配を変更する必要があり、圧下帯セグメントへの荷重負荷が変動し、機械構造的にも好ましい形態ではなかった。
また、圧下帯の圧下勾配を変更した以降に鋳造した鋳片を厚鋼板に熱間圧延し、厚鋼板から試料を採取して水素誘起割れ試験を実施した。水素誘起割れ試験は、試験溶液をNACE溶液(5%NaCl+0.5%CH3COOHの硫化水素飽和溶液、pH=3.7)とし、浸漬時間を96時間、試験溶液温度を25℃として測定した結果である。
鋳造条件、圧下帯の圧下勾配を変更した以降での鋳片厚みの最大変動量、及び水素誘起割れ試験の結果を表3に示す。尚、表3の評価の欄の「○」印は良好、「△」印はやや不要、「×」印は不良を示している。
表3に示すように、発明例では圧下帯の圧下勾配を変更した以降での鋳片厚みの最大変動量が0.5mm以下に制御され、また、水素誘起割れ試験の結果も良好であることから、鋳片の中心偏析が軽減されたことが確認できた。