以下、この発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、車両に搭載されるこの実施形態に係る電動パワーステアリング装置10の全体概略構成図である。
図2は、図1の電動パワーステアリング装置10中、ECU(Electronic Control Unit:制御装置)22内の機能ブロック図である。
図1に示すように、電動パワーステアリング装置10は、基本的には、ステアリングホイール12(運転者が車両を操縦するために操作する操作子)からステアリングシャフト14を介して転舵輪16に至る操舵系(ステアリング系)18と、この操舵系18の回転軸に設けられて内部に操舵角センサ19を備え前記回転軸のトルクTrと操舵角(操作角ともいう。)θsとを検出するトルクセンサ(トルクセンサ及び操舵角センサともいう。)20と、トルクセンサ20からの出力等に基づいてアシストトルクTaを決定するECU22と、このECU22によって駆動されるブラシレスモータである電動モータ(以下、モータともいう。)24と、このモータ24の出力を減速し前記操舵系18の回転軸にアシストトルクTaとして伝達する減速伝達機構26と、を備える。なお、モータ24は、ブラシ付きモータであってもよい。
トルクセンサ20は、それぞれが操舵系18の回転軸である入力軸41と出力軸42が内部でトーションバーにより連結され、図示しないハウジングに支持された2個の検出コイル(不図示)が、入出力軸41、42に係合している円筒状のコア(不図示)を囲むように配設された公知の構成を備える(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
操舵角センサ19は、入力軸41の回転角を操舵角θsとして検出する公知の構成を備える(例えば、特許文献1参照)。
トルクセンサ20は、トーションバーや円筒状のコアを利用しない磁歪膜センサを用いた公知の構成を備えるようにしてもよい(例えば、特許文献3、又は特許文献4参照)。
なお、操舵角センサ19を含まないトルクセンサであっても、操舵系18の回転角を検出する操舵角センサが別途設けられている場合、例えば、車両の旋回時の横滑り抑制制御等が行われる車両では、この別途設けられた操舵角センサを利用して、この発明を適用することができる。
トルクセンサ20及び操舵角センサ19の出力信号であるトルクTr及び操舵角θsの各信号は、ハーネス91を通じて、前記トルクTrがECU22のトルク検出回路72に供給され、前記操舵角θsが操舵角速度算出部74に供給される。
ステアリングシャフト14は、それぞれが回転軸である、ステアリングホイール12に一体結合されたメインステアリングシャフト15と、このメインステアリングシャフト15に対してユニバーサルジョイント46を介して結合された入力軸41と、ラック&ピニオン機構28のピニオン30が設けられた出力軸42と、が連結された構成とされている。
入力軸41と出力軸42が軸受48a、48b、48cによって支持されており、出力軸42の下端部にピニオン30が設けられている。ピニオン30は、車幅方向に往復動可能なラック軸50のラック歯50aに噛合する。ラック軸50の両端には、タイロッド52を介して左右の前輪である転舵輪16が連結されている。
上述した操舵系18は、より詳細には、ステアリングホイール12からステアリングシャフト14(メインステアリングシャフト15、ユニバーサルジョイント46、入力軸41、ピニオン30が設けられた出力軸42)、ラック歯50aを有するラック軸50、タイロッド52、及び転舵輪16を含む構成とされている。
この構成により、ステアリングホイール12の操舵時に通常のラック&ピニオン式の転舵操作が可能であり、ステアリングホイール12を操作して転舵輪16を転舵させ車両の向きを変えることができる。ここで、ラック軸50、ラック歯50a、タイロッド52は、操舵系18中の転舵機構を構成する。
上述したように、電動パワーステアリング装置10は、ステアリングホイール12による操舵力を軽減するための操舵アシスト力(操舵補助力であって、単にアシスト力ともいう。)を供給するモータ24を備えており、このモータ24の回転軸25に固着されたウォームギア54が、出力軸42の中間部の軸受48bの下側に設けられたウォームホィールギア56に噛合している。ウォームギア54とウォームホィールギア56とにより減速伝達機構26が構成される。
回転軸25と一体的に回転するモータ24の回転子23の回転角θrm(モータ機械角ともいう。)が、回転角検出部としてのレゾルバ58により回転子23の回転角θr(モータ電気角ともいう。)として検出されハーネス92を通じてECU22の回転子回転角検出回路(後述するモータ機械角θrmを算出するモータ機械角算出回路として機能する。)76に供給される。なお、レゾルバ58は、相対角検出センサであるが、レゾルバ58に代えて絶対角検出センサのロータリエンコーダを採用することもできる。回転角θrm(モータ機械角)と回転角θr(モータ電気角)との違いについては後述する。
ECU22は、マイクロコンピュータを含む計算機であり、CPU(中央処理装置)、メモリであるROM(EEPROMも含む。)及びRAM(ランダムアクセスメモリ)、その他、A/D変換器、D/A変換器等の入出力装置、計時手段としてのタイマ(計時部)等を有しており、CPUがROMに記録されているプログラムを読み出し実行することで各種機能実現部(機能実現手段)、たとえば制御部、演算部、処理部等として機能する。
この実施形態において、ECU22は、後述する各種の特性(マップを含む)、プログラム等が記憶されるメモリとしての記憶部78を有し、前記のトルク検出回路72、操舵角速度算出部74、回転子回転角検出回路76として機能する他、異常検出部80、車両停止状態検出部82、モータ制御部84、及び計時部85等として機能する。
トルク検出回路72は、トルクセンサ20の2つの検出コイル(不図示)からハーネス91を通じて出力されるトルクTrに関連する信号の差動信号からトルクTrに対応する信号(理解の便宜のために、トルクTrという。)を生成して、モータ制御部84に供給する。
回転子回転角検出回路76は、レゾルバ58から供給された回転角θr(モータ電気角)からモータ24の回転子23の回転に対応する回転角(モータ機械角)θrmを算出(検出)してモータ制御部84に供給するとともに、操舵角速度算出部74に供給する。
操舵角速度算出部74は、正常動作している操舵角センサ19から操舵角(ステアリングシャフト14の舵角、ステアリング角又はハンドル角ともいう。)θsが供給されている場合には、その操舵角センサ19からハーネス91を通じて出力される操舵角θsを微分して操舵角速度θs´(θs´=dθs/dt:dは微分演算子、tは時間。)を生成してモータ制御部84に供給する。
一方、操舵角センサ19に異常が発生したときあるいは元々操舵角センサ19が設けられていない車両において、操舵角速度算出部74は、レゾルバ58の回転角θrに基づき回転子回転角検出回路76により算出されるモータ機械角θrmから算出した推定操舵角θscを時間微分して推定操舵角速度θsc´(θsc´=dθsc/dt:dは微分演算子、tは時間。)を算出する。
異常検出部80は、トルク検出回路72の出力であるトルクTr及び操舵角センサ19の出力である操舵角θsを監視することで、トルクセンサ20の端子とハーネス91との間のヒュージング不良、ハーネス91の開放(ハーネス91の断線)あるいはハーネス91間内での短絡、トルク検出回路72内の差動増幅器等の異常、例えば、出力が0ボルトに固定されるあるいは0〜5ボルト以外の電圧が出力される等の異常を検出したとき、異常検出信号Sabをモータ制御部84及び操舵角速度算出部74に供給する。
ECU22のモータ制御部84及び車両停止状態検出部82には、さらに、前後輪若しくはトランスミッションの回転数から車速Vsを検出する車速センサ86の出力、すなわち車速Vsがハーネス94を通じて供給される。
さらにまた、ECU22の車両停止状態検出部82及びモータ制御部84には、パーキングブレーキ88のブレーキ作動信号Sbがハーネス95を通じて供給される。
実際上、車速Vs並びにブレーキ作動信号Sb等の信号は、CAN(コントローラエリアネットワーク)等の車内ネットワークを通じてECU22に供給される。車内ネットワークではなく、いわゆるポイントツーポイント配線システムにより接続してもよい。
パーキングブレーキ88のブレーキ作動信号Sbを検出したとき、あるいは車速Vsがゼロ値となったことを検出したとき、車両停止状態検出部82は、モータ制御部84に対して車両停止検出信号Sstopを供給する。
モータ制御部84は、アシストトルクTaに対応するモータ24のアシスト電流Iaを決定する際、トルクTr及び操舵角速度θs´の他、回転子23の回転角(モータ機械角)θrm、推定操舵角θsc、推定操舵角速度θsc´、異常検出信号Sab、車速Vs、及びブレーキ作動信号Sb等に基づき、記憶部78(特性記憶部)に記憶されている特性(後述する。)を参照し、かつプログラムを実行して決定し、決定したアシスト電流Iaをハーネス93を通じてモータ24の各相の固定子のコイルに供給する。
モータ24は、供給されたアシスト電流Iaに応じたアシストトルクTaを発生し、減速伝達機構26を通じて出力軸42に付与することでステアリングシャフト14に操舵アシスト力を発生させる。
基本的には以上のように構成されかつ動作するこの実施形態の電動パワーステアリング装置10の特徴的な動作についてフローチャート等を参照して以下に説明する。
図3は、この実施形態に係る電動パワーステアリング装置10の動作説明に供されるフローチャートである。このフローチャートによる処理は、所定時間毎に繰り返し実行される。
ECU22は、トルクセンサ20や操舵角センサ19の異常・正常に係わらず、ステップS1〜S3において、操舵角推定処理(推定操舵角算出処理)を行う。
ステップS1において、回転子回転角検出回路76は、レゾルバ58により検出されている回転角θr(回転子23の電気角)を積算し、モータ電気角θreを算出する。
次いで、回転子回転角検出回路76は、ステップS2において、次の(1)式に示すように、算出したモータ電気角θreにレゾルバ58の極対数を乗算して、回転子23(回転軸25)の回転角であるモータ機械角θrmを算出し(モータ機械角θrmに換算し)、モータ制御部84及び操舵角速度算出部74に供給する。
モータ機械角=モータ電気角×レゾルバ極対数
θrm=θre×レゾルバ極対数 …(1)
次に、モータ制御部84及び/又は回転子回転角検出回路76は、ステップS3において、次の(2)式に示すように、算出したモータ機械角θrmをステアリングシャフト14の操舵角(推定操舵角)θscに換算する。
推定操舵角=モータ機械角×(モータ24の回転軸と操舵系18の回転軸の比率)=モータ機械角×減速伝達機構26の減速比
θsc=θrm×減速伝達機構26の減速比 …(2)
減速伝達機構26の減速比は、この実施形態では、値1/20に設定している。すなわち、この実施形態では、モータ機械角θrmの360[deg]が、ステアリングホイール12(出力軸42)の回転を推定する推定操舵角θscでは、18(=360/20)[deg]に換算される。同様に、1秒間当たりのモータ24の回転子23の回転数であるモータ回転速度N、例えば、N=2[rps]は、ステアリングホイール12(出力軸42)の回転速度(推定操舵回転速度)Nscでは、Nsc=0.1(=2/20)[rps]に対応する。
そして、ステアリングホイール12(出力軸42)の推定操舵回転速度Nsc=0.1[rps]は、推定操舵角速度θsc´では、θsc´=36(0.1[rps]×360[deg])[deg/s]に対応する。したがって、モータ回転速度Nと、推定操舵角速度(回転角速度)θsc´とは一意に対応する。例えば、モータ回転速度NがN=2[rps]は、推定操舵角速度θsc´のθsc´=36[deg/s]に対応する。
なお、モータ回転速度N及び推定操舵回転速度Nscは、モータ制御部84により算出される。
図1に示すように、ステアリングホイール12に固定されたステアリングシャフト14と一体的に回転する出力軸42の回転により、出力軸42に軸が固着されたウォームホィールギア56が一体的に回転するとウォームギア54が回転し、ウォームギア54が回転すると、ウォームギア54に固着されているモータ24の回転軸25(回転子23)が一体的に回転し、回転子23の回転がレゾルバ58により検出されるので、結果として、レゾルバ58による回転角θrに基づき、ステアリングホイール12の回転角である操舵角θsを推定した推定操舵角θscを算出(検出)することができる。
なお、操舵角θs及び推定操舵角θscは、ステアリングホイール12の右回転が正で左回転が負とされ、直進状態(θs=θsc=0[deg])から右折する場合には、運転者は、まず、ステアリングホイール12を右回転させて切り込んだ後、左回転させて切り戻して、直進状態に戻る。従って、基本的には、直進状態から右折して直進状態に戻る場合には、右回転が切り込み方向、左回転が切り戻し方向となる。
一方、直進状態(θs=θsc=0[deg])から左折する場合には、まず、左回転で切り込んだ後、右回転で切り戻して、直進状態に戻る。従って、基本的には、直進状態から左折して直進状態に戻る場合には、左回転が切り込み方向、右回転が切り戻し方向となる。
このように、直進状態(ステアリングホイール12の中立状態)から右方向にステアリングホイール12が回転される場合の操舵角θs(推定操舵角θsc)は、正の値となり、直進状態(ステアリングホイール12の中立状態)から左方向にステアリングホイール12が回転される場合の操舵角θs(推定操舵角θsc)は、負の値となり、角度の大小を考察する場合に、正負の符号があると、煩雑となるので、以下の説明においては、注記しない場合には、直進状態から右折して直進状態に戻る場合を例(操舵アシスト特性の座標上では、第1象限を対象)として説明する。この場合、操舵角θs及び推定操舵角θscともに正の値を採る。
上述したステップS1〜S3の手順により、操舵角センサ19及びトルクセンサ20が、仮に異常状態となったときにおいても、この実施形態では、レゾルバ58により検出される回転角θrに基づき、回転子回転角検出回路76、操舵角速度算出部74、及びモータ制御部84により操舵角θs[deg]が推定された推定操舵角θsc[deg]及び推定操舵角速度θsc´[deg/s]を求めることができる。
なお、モータ24を回転させてステアリングホイール12に付与する操舵アシスト力は、基本的には、操舵角θs又は推定操舵角θscの変化している方向に付与すればよいこととなる。
次に、ステップS4において、異常検出部80から異常検出信号Sabが供給されたかどうかが検出される。このステップS4において、モータ制御部84は、トルクセンサ20及び操舵角センサ19に係る異常検出信号Sabを検出したとき、ステップS5以降の処理を実行する。なお、図1に示す操舵角センサ19内蔵型のトルクセンサ20では、ハーネス91の開放あるいは短絡等により電源の供給が停止され、操舵角センサ19とトルクセンサ20の出力が、同時に異常状態になる場合が多い。
ステップS4において、モータ制御部84が異常検出信号Sabを検出しなかった場合には、ステップS21において通常処理(通常時アシスト処理)を行う。この通常処理では、トルクセンサ20及び操舵角センサ19が正常であるので、従来通りの操舵アシスト力の付与動作を行う。
この場合、モータ制御部84は、記憶部78に予め記憶されている図4Aに示す、車速Vsをパラメータとした操舵トルクTr[kgfcm]に対するベースアシスト電流Ia[A]の特性(ベースアシスト電流特性又はベースアシスト特性ともいう。)101を参照(検索)し、基本的には、車速が低くなるほど大きくなるベースアシスト電流Iaを算出してモータ24を駆動する。
一方、ステップS4において、モータ制御部84が、トルクセンサ20等が異常になった異常検出信号Sabを検出したとき、ステップS5での異常時アシスト処理が実行される。
ステップS5において、モータ制御部84は、記憶部78に予め記憶されている図4Bに示す推定操舵角θscに対するベースアシスト電流Ia[A]の特性(ベースアシスト電流特性又はベースアシスト特性ともいう。)102を参照(検索)して、ベースアシスト電流Iaを算出し、このベースアシスト電流Iaに基づきモータ24を駆動する。
ベースアシスト電流特性102は、マップとして記憶部78に記憶しておいてもよく、算出式で記憶部78に記憶しておいてもよい。マップとして記憶部78に離散的に記憶しておく場合、間の値は、補間により求めることが好ましい。
図4Bから分かるように、ベースアシスト電流特性102は、推定操舵角θsc[deg]が、0[deg]から不感帯対応操舵角θd[deg](0〜10[deg]程度の値とされるが、この実施形態では、10[deg]に設定している。)までの中立位置近傍では、Ia=0[A]とされ(アシスト電流Iaを流さない領域とされ)、不感帯対応操舵角θd[deg]以上では、推定操舵角θscの増加に応じて増加させ(略比例して増加させ)、それ以上の推定操舵角θscでは、増加の割合を減少させて、推定操舵角θscが、180[deg]近傍以上では、一定の値を採る(ベースアシスト電流Iaの値が飽和する)特性に設定している。
このように、この実施形態では、異常検出信号Sabを検出したときの異常時においても、ベースアシスト電流特性102に基づくアシスト電流Iaを流して所定の操舵アシスト制御が行えるようにしている。ただし、異常時における操舵アシスト制御は暫定的なアシスト処理であり、後述するように種々の制限を課すようにしている。
以上のように、この実施形態に係る電動パワーステアリング装置10は、操舵系18に発生するトルクTrを検出するトルク検出部としてのトルクセンサ20と、操舵系18の回転軸である出力軸42にアシストトルクTaを付与するモータ24と、モータ24の回転子23の回転角θrを検出する回転角検出部としてのレゾルバ58と、トルクセンサ20にて検出されたトルクTrに基づいて、モータ24を駆動する電流を制御するモータ制御部84と、を備える電動パワーステアリング装置10であって、トルクセンサ20やトルク検出回路72に異常が発生したかどうかを検出する異常検出部80を備え、モータ制御部84は、異常検出部80によりトルクセンサ20あるいはトルク検出回路72の異常が検出されたとき、レゾルバ58により検出された回転角θrの積算値であるモータ電気角θreに基づいてモータ機械角θrmを算出することで、推定操舵角θscを算出し{上記(2)式参照}、この推定操舵角θscに対してベースアシスト電流特性102を参照して、ベースアシスト電流Ia[A]を算出し、このベースアシスト電流Iaに基づきモータ24を駆動するように制御している。
このようにモータ24を駆動制御することで、たとえトルクセンサ20又はトルク検出回路72の異常が検出され、トルクセンサ20により操舵トルクTrを検出することができなくなった異常時においても、モータ24のアシストトルクTaによりステアリングホイール12に操舵アシスト力を付与することができる。
なお、トルクセンサ20が正常状態であるときには、トルクセンサ20の出力が略ゼロ値であって、車速センサ86での車速Vsの検出値が略等速度である状態が所定時間継続したとき、レゾルバ58の出力である回転角θrに対応する推定操舵角θscをゼロ値(θsc=0[deg])として記憶内容を更新する中点(中立状態)補正処理を適宜行うように構成されている。
また、回転子回転角検出回路76を利用した操舵アシスト力の付与は、暫定的な処理であるので、異常検出部80がトルクセンサ20等の異常を検出したときには、音声あるいは表示等により、当該異常対応の操舵力アシスト処理を行っていることを操作者(運転手)に伝達する。これにより操作者(運転者)は、モータ24の回転子23の回転角θrを用いて暫定的な電動パワーステアリングによるアシスト力を利用して、当該車両を安全な場所まで運転することができる。
この暫定的な電動パワーステアリングによるアシスト力は、トルクセンサ20等が正常状態のステップS21の通常アシスト処理に対して種々の制限を課している。
この制限の一つとして、まず、ステップS6〜S9の電流フェード処理について説明する。
図5は、記憶部78に記憶されている電流フェード処理に供される切り込み電流フェード特性(切り込み時電流フェード特性ともいう。)103と、切り戻し電流フェード特性(切り戻し時電流フェード特性ともいう。)104の例を示すとともに、図4Bのベースアシスト電流特性102の一部を再掲している。なお、以下、理解の便宜のために、図5中の第1象限の特性(横軸の0[deg]から正の方向の大きい値に向かう右方向への切り込み方向と、正の方向から0[deg]方向の小さい値に向かう切り戻し方向とに係る特性)により説明する。
ステップS6において、アシスト電流Iaが通電中であってステアリングホイール12が切り込み時中であるかどうかが、上記した推定操舵角θscの微分値である推定操舵角速度θsc´から判定される。なお、推定操舵角速度θsc´は、操舵角速度算出部74又はモータ制御部84により算出される。
切り込み中である場合には、切り込み電流フェード特性103に沿ってアシスト電流Iaを決定してモータ24を駆動制御する。
図5において、同一の推定操舵角θscにおいて、一点鎖線で示した切り込み電流フェード特性103が実線で示しているベースアシスト電流特性102よりアシスト量(アシスト電流Ia)を少なくしている理由は、切り込み過ぎを防止するためである。ステアリングホイール12を同一方向に切り続けている場合には、モータ制御部84は、切り始めからの時間{(同一方向の)連続操舵時間trという。}を計時部85により計時し、図6に示す連続操舵時間低減特性105を参照してレシオ(連続操舵低減レシオ、又は連続操舵低減比率という。)Rc{Rcは、1(低減なし)〜0(アシスト電流Iaをゼロ値にする。)までの値を採る。}を算出する。
連続操舵中が検出された場合には、ベースアシスト電流特性102上で推定操舵角θscにより算出されるアシスト電流Iaに対し、連続操舵時間trに対応する連続操舵低減レシオRcが掛け合わされて、次の(3)式に示すように、フェード(低減)されたアシスト電流Iaとされる。
Ia←Ia×Rc …(3)
(3)式の右辺のIaがベースアシスト電流特性102上でのベースアシスト電流、左辺のIaが切り込み電流フェード特性103上でのフェード(低減)されたベースアシスト電流を意味する。
連続操舵時間低減特性105の連続操舵低減レシオRcは、この例では、1秒(1[s])で、アシスト電流Iaが10%ずつ低減される特性にしているので、10[s]以上、同一方向に切り続けられることが検出されるとアシスト電流Iaは、ゼロ値にされる。
このように、ステップS7の切り込み電流フェード処理において、同一方向に連続切り込み操舵している場合には、ベースアシスト電流特性102よりもアシスト量(アシスト電流Ia)を少なくする切り込み電流フェード特性103としてアシストするようにしている。
さらに、切り込み時の過アシスト電流を防止するため、推定操舵角θscが閾値操舵角θscth以上の値となったときには、アシスト電流Iaを許容最大アシスト電流Iamaxに制限する{図5中の座標点106(θscth,Iamax)参照}。
次いで、ステップS8において、推定操舵角速度θsc´(θsc´=dθsc/dt)が略ゼロ値(θsc´≒0[deg/s])、この実施形態では、閾値操舵角速度θsc´th(絶対値)が、例えば、θsc´th=7.2[deg/s](推定操舵回転速度Nsc=0.02[rps]換算、モータ回転速度N=0.4[rps]換算)以下の値になったかどうかを判定し(θsc´≦θsc´th=7.2)、このステップS8の判定が肯定的となった場合には、切り戻し時のステアリングホイール12の戻りを促進するため、ステップS9の切り戻し電流フェード処理を実行する。
ステップS9の切り戻し電流フェード処理実行中には、図5の切り戻し電流フェード特性104に沿ってアシスト電流Iaを決定してモータ24を駆動制御する。
この切り戻し電流フェード特性104は、推定操舵角速度θsc´が閾値操舵角速度θsc´th以下の値になったときの推定操舵角θsc=θsc1でのアシスト電流Ia=Ia1{座標点107(θsc1,Ia1)}から、計時部85により計時される1秒程度の時間でアシスト電流Ia(図5例では、Ia=Ia1)をゼロ値まで徐々に、例えば比例的かつ自動的に減衰させる特性である。このとき、切り戻し電流フェード特性104において、推定操舵角θscが左方向に切り戻されているのは、走行中の車両に働く、ステアリングホイール12(操舵系18)を直進方向(中立位置)に戻そうとする力、いわゆるSAT(Self Aligning Torque)による。
このように、操舵系18の回転軸である出力軸42の推定操舵角速度θsc´を算出する操舵角速度算出部74又はモータ制御部84を備え、モータ制御部84は、ステアリングの切り込み時に、操舵角速度算出部74により算出される推定操舵角速度θsc´の絶対値がゼロ値近傍(一例としては、上述したように、閾値操舵角速度θsc´th=7.2[deg/s])になったとき、モータ24を駆動するアシスト電流Iaを切り戻し電流フェード特性104{この特性104の勾配は、個々の車両毎の負荷(車両の前軸荷重)、車速Vs、路面状態等に応じて変化する。}に沿ってフェードすることで、過アシスト電流を防止することができる。
もちろん、トルクセンサ20に付設される操舵角センサ19あるいはトルクセンサ20とは単独に設けられている操舵角センサが正常状態である場合には、それら操舵角センサ19等の出力である操舵角θsを微分することで操舵角速度θs´を算出して電流フェード処理を行うことができる。
なお、車両停止状態検出部82は、車速センサ86により検出されている車速Vs[km/h]がVs=0、あるいはパーキングブレーキ88の作動によるブレーキ作動信号Sbの少なくともいずれか一方を検出したときには、モータ制御部84に対して車両停止検出信号Sstopを供給する。このとき、モータ制御部84は、アシスト電流Iaをゼロ値とすることで、不必要に操舵アシスト力を付与しないようにすることができる。
パーキングブレーキ88が解除されていて、駆動輪がエンジン等によって回転している状態、例えば、サービス工場等で車両をリフトアップして、駆動輪が空転している状態においては、いわゆるセルフステアとならないように、車速センサ86により検出される車速VsがVs=0のとき、アシスト電流Iaを供給しないようにすることも、この発明に含まれる。
以上説明したように、上述した実施形態によれば、トルクセンサ20が故障してトルクセンサ20により操舵トルクTrを検出することができなくなった場合においても、モータ24のレゾルバ58等により検出されるモータ24の回転子23の回転角θrを利用して操舵角θs及び操舵角速度θs´を推定した、推定操舵角θsc及び推定操舵角速度θsc´を用いて、モータ24による所定の操舵アシスト力を付与することができる。
[第1実施例](保舵時アシスト機能)
上述した実施形態によれば、図5に例として示した切り戻し電流フェード特性104によりアシスト電流Iaが減少し、ステアリングホイール12の戻りが促進されるようになる。しかし、推定操舵角速度θsc´が略ゼロ値である状態を継続しているステアリングホイール12の保舵時(保舵中)において、上述した図5の切り戻し電流フェード特性104に示す切り戻し電流フェード処理を実行すると、保舵中のアシスト時間が短くなってしまう。
運転者が保舵を望み、かつSATが大きい場合には、切り戻し電流フェード処理を実行すると、運転者はステアリングホイール12にかけている操舵保舵力をさらに大きくする必要があるため、アシストを継続して、保舵時の運転者による保舵力を低減させることが好ましい。
そこで、この第1実施例では、保舵時の運転者の保舵力を低減させる、換言すれば、保舵時に適切なアシスト力を継続するような機能を実現している。
次に、図7、図8のフローチャート及び図9の特性図を参照して第1実施例に係る保舵時アシスト機能について説明する。
なお、図7のフローチャートは、図3のフローチャート中のステップS9の「切り戻し電流フェード処理」の詳細処理を示し、図8のフローチャートは、図7のフローチャート中のステップS9dの「保舵解除処理」の詳細処理を示している。また、図9の特性図は、理解の便宜のために、図5の特性図中、第1象限の部分を拡大して表示している。
上述したステップS8の判定において、推定操舵角速度θsc´が閾値操舵角速度θsc´th=7.2[deg/s]以下の値になったときに、ステップS9において切り戻し電流フェード処理が開始される。そこで、図7のステップS9aでは切り戻し電流フェード処理中であるか否かが判定され、処理中であれば、図5を参照して説明した切り戻し電流フェード処理(計時部85により計時される1秒程度の時間でアシスト電流Iaをゼロ値まで徐々に自動的に減衰させる処理)を継続する。
この第1実施例では、切り戻し電流フェード処理の継続中に、ステップS9bにおいて、保舵継続判定条件が成立しているか否かが監視される。ここで、保舵継続判定条件とは、操舵角速度θsc´が保舵継続中とみなされる比較的小さな値である閾値操舵角速度θsc´tha(例として、θsc´tha=3.6[deg/s])以下の値になっている状態であって、かつステップS9aでの切り戻し電流フェード処理が開始されてからの時間(保舵継続時間)tk(計時部85により計時される。)が所定時間Tkth(上記切り戻し電流フェード処理の所定時間である1秒程度より短い閾値時間で閾値保舵継続時間ともいう。)、例えばTkth=500[ms]を継続したか否かにより判定される{(θsc´≦θsc´tha)が所定時間Tkth以上継続}。
ステップS9bの判定が肯定的となったとき、すなわち、図9中、座標点107において、切り戻し電流フェード特性104に基づく切り戻し電流フェード処理が開始されてからTkth=500[ms]経った時点において、かつ、推定操舵角速度θsc´が保舵とみなす閾値操舵角速度θsc´tha=3.6[deg/s]以下の値になっていたとき(図9中、座標点108参照)、ステップS9cにおいて、保舵継続中であると判定し、切り戻し電流フェード処理を中断する。
このとき、計時部85での切り戻し電流フェード処理に定められた1秒間の計時が、上記の閾値保舵継続時間Tkth=500[ms]計時した時点(座標点108)で中断される(図9参照)。
切り戻し電流フェード処理中の、この時点(ステップS9bの判定が肯定的となり、ステップS9cの処理を中断した時点)でのアシスト電流Iaを、図9に示す座標点108(θsc2,Iak)における保舵アシスト電流Iakとしている。
切り戻し電流フェード処理の保舵継続判定に基づく中断により、そのステップS9cにおいて、アシスト電流Iaが保舵アシスト電流Iakとして記憶部78に保持される。また、このときの推定操舵角θscが推定操舵角θsc2として記憶部78に保持される。
この第1実施例では、切り戻し電流フェード処理の保舵継続判定に基づく中断処理は、図9に示す切り戻し電流フェード特性104上の座標点108の位置で実行される。
座標点108での保舵アシスト電流Iakは、基本的には、次のステップS9dの処理で説明する保舵解除条件が成立するまでモータ24に供給され、運転者の保舵状態をアシストする。このようにアシストすることにより、運転者によるステアリングホイール12の保舵時(一定曲率半径での車両の旋回時)の保舵力を低減させることができる。
次に、この中断処理の解除処理、換言すれば、保舵解除処理がステップS9dで実行される。
図8は、ステップS9dの保舵解除処理の詳細フローチャートを示している。
ステップS9d1において、保舵継続判定条件成立による切り戻し電流フェード処理の中断中であるか否かが判定される。
最初の判定では、ステップS9cの切り戻し電流フェード処理の中断処理が実行されているので、ステップS9d1の判定は肯定的となり、次に、ステップS9d2において、保舵解除条件が成立しているか否かが判定される。
保舵解除条件成立判定条件は、座標点108での推定操舵角θsc2から推定操舵角θscが徐々に小さくなって(ステアリングホイール12が中立位置に戻されて)、かつ戻し判定操舵角Δθscが、例えば、Δθsc=10[deg]以上の値となったときに(θsc≦θsc2−Δθsc)、運転者によるステアリングホイール12の保舵状態が解除されたと判定する。
この判定が、図9の座標点110の位置で成立した場合には、ステップS9d3において、切り戻し電流フェード処理を再開するので、図9の一点鎖線で示す特性のように、自動的にアシスト電流Iaが低減される。
以上説明したように、上述した第1実施例によれば、異常検出部80によりトルク検出部(トルクセンサ20やトルク検出回路72及びその間のハーネス91)の異常が検出されたとき、回転角検出部としてのレゾルバ58により検出されているモータ24の回転子23の回転角θrに基づく推定操舵角θscによりベースアシスト電流特性102から算出されるベースアシスト電流Iaによりモータ24を駆動しようとし、駆動した際、回転子23の回転角θrに基づき算出される推定操舵角速度(回転子回転角速度)θsc´の絶対値|θsc´|が所定値である閾値操舵角速度θsc´th(=7.2[deg/s])以下になったときに(図5、図9の座標点107参照)、モータ24を駆動するベースアシスト電流Iaを低減する処理である切り戻し時電流フェード処理を開始し、切り戻し時電流フェード処理を開始した後、推定回転角速度θsc´の絶対値|θsc´|が所定値である閾値操舵角速度θsc´tha以下の状況が所定時間(上記の例では、閾値保舵継続時間Tkth=500[ms])継続する場合には、座標点108に示すように、アシスト電流Iaを低減する処理である切り戻し時電流フェード処理を中断するようにしたので、いわゆる保舵時において適切なアシスト力を付与することができる。
そして、アシスト電流Iaの低減を停止した保舵アシスト時において、推定操舵角θscが、徐々に小さくなって(ステアリングホイール12が中立位置に戻されて)、推定操舵角θscの戻り量が、戻し判定操舵角Δθsc[deg](所定値)以上の値となったとき(座標点110参照)、すなわち、第1の保舵解除条件成立条件が成立した場合には、運転者による保舵状態が解除されたと判定し、電流を低減する処理の中断を再開するようにしたので、保舵が必要でなくなったときに、アシスト力を低減することができる。
また、アシスト電流Iaの低減を停止した保舵アシスト時において、推定操舵角速度(推定回転角速度)θsc´の絶対値が所定値である保舵解除判定閾値操舵角速度θsc´th1以上の値になった場合、すなわち第2の保舵解除条件成立条件が成立した場合にも、切り戻し時電流フェード処理の中断を再開するようにしたので、保舵が必要でなくなったときに、アシスト力を小さくすることができる。
[第2実施例](切り込みすぎ抑制機能)
上述したように、推定操舵角θscに応じて、アシスト量(アシスト特性)を決定し、切り込み時電流フェード処理、切り戻し時電流フェード処理、並びに保舵判定処理等によりフェードを調整しているが、例えば、高μ路(μは摩擦係数)でアシスト量(アシスト特性)を決定した後に、推定操舵角θscに対する必要アシスト量のバランス(均衡)の異なる低μ路で操舵操作を行うと、逆に切り込みすぎてしまう場合がある。このように推定操舵角θscと必要なアシスト量のバランスは路面の摩擦係数μの大小と密接に関係している。
そこで、この第2実施例では、ステップS7の切り込み電流フェード処理時において、低μ路での切り込みすぎは、過多状態となったアシスト量を制限すればよいとの考察のもと、モータ制御部84は、アシスト電流Iaに対して、モータ24のモータ回転速度N[rps]に応じたレシオ(モータ回転速度低減レシオ、又はモータ回転速度低減比率という。)Rmを算出する。
図10は、この第2実施例に係るモータ回転速度低減レシオRmの特性(モータ回転速度低減特性)112を示している。
モータ回転速度NがN=0〜2[rps](推定操舵角速度θsc´では、θsc´=0〜36[deg/s])までは、モータ回転速度低減レシオRmの値は、1(低減なし。)とし、モータ回転速度NがN=2〜7[rps](θsc´=36〜126[deg/s])では、モータ回転速度低減レシオRmの値が1から0まで比例的に低減する特性となっている。
モータ回転速度低減レシオRmは、運転者のステアリングホイール12の推定操舵角速度を検出し、推定操舵角速度が大きい場合には、切り込み過ぎを抑制するためにアシスト電流Iaを低減補正するための係数である。
なお、モータ回転速度低減レシオRmは、図10のモータ回転速度低減特性112で減少させる場合には、アシストが必要な低速走行時において、所望のアシスト力を確保できなくなる可能性があるため、車速Vsが低速になるほど、モータ回転速度低減特性112の横軸の引数、すなわちモータ回転速度Nの増加を防止することを目的として、横軸の引数となるモータ回転速度Nに、図11に示す、車速レシオRvをかけるように制御する。車速レシオRvは、例えば、停止状態から車速VsがVs=10[km/h]程度までは、0.25程度の値とし、車速Vs=10〜50[km/h]程度までは、値0.9程度まで略直線的に増加する値とし、車速Vs=50〜80[km/h]までで値を0.9程度から1(低減なし)にする特性(車速特性)114に設定している。
すなわち、図12に模式的に示すように、モータ制御部84は、車速Vsに対し、図11の車速特性114を参照して車速レシオRvを決定した後、モータ回転速度N[rps]に車速レシオRvを乗算器111でかけた補正後のモータ回転速度(以下、補正モータ回転速度という。)Ns[rps]で、図10のモータ回転速度低減特性112を参照してモータ回転速度低減レシオRmを決定する。
ベースアシスト電流特性102で得られるベースアシスト電流Iaに、このモータ回転速度低減レシオRmをかけた値の補正後のベースアシスト電流Ia(Ia←Ia×Rm)に対し、上述した切り込み電流フェード処理を行う。
このように制御すれば、高車速時の切り込みすぎの抑制と、低車速時のアシスト力の確保を両立することができる。これにより高μ路と低μ路を両立できるアシスト制御が可能となる。
なお、転舵輪16等の車輪からの外乱の入力等によりステアリングホイール12の操舵角θsが切り込みすぎてしまう場合にも、モータ回転速度低減レシオRmを用いることで、切り込みすぎを抑制することが可能となり、いわゆる外乱耐性(外乱タフネス)を確保することもできる。
以上説明したように、上述した第2実施例によれば、運転者が車両を操縦するために操作する操作子としてのステアリングホイール12と、前記車両の操舵系18に発生するトルクTrを検出するトルク検出部としてのトルクセンサ20と、前記車両の車速Vsを検出する車速検出部としての車速センサ86と、操舵系18の回転軸としての出力軸42にアシストトルクを付与するモータ24と、操舵系18の回転角を検出する回転角検出部としてのレゾルバ58と、トルクセンサ20により検出されたトルクTrに基づいてモータ24を駆動する電流(アシスト電流)Iaを制御するモータ制御部84と、を備える電動パワーステアリング装置10であって、トルクセンサ20等に異常が発生したかどうかを検出する異常検出部80と、レゾルバ58が検出した回転角θrとモータ24を駆動する電流Iaとの関係を特性102として記憶した記憶部78と、を備え、モータ制御部84は、異常検出部80によりトルクセンサ20等の異常が検出されたとき、レゾルバ58により検出されている回転角θrと特性102とに基づいてモータ24を駆動し、駆動する際、回転角θrに基づき算出される推定操舵角速度(回転角速度)θsc´に対応するモータ回転速度Nが大きくなるに従いモータ24を駆動する電流Iaを小さくするようにモータ回転速度低減レシオRm(図10参照)を導入して制御している。
この第2実施例によれば、異常検出部80によりトルクセンサ20等の異常が検出されたとき、レゾルバ58により検出されている回転角θrと特性102とに基づいてモータ24を駆動し、駆動する際、回転角θrに基づき算出されるモータ回転速度N{推定操舵角速度(回転角速度)θsc´}が大きくなるに従いモータ24を駆動する電流Iaを小さくするよう制御したので、トルクセンサ20が異常のときに、切り込み方向において切り込み過ぎを防止しつつ適切なアシスト力を付与することができる。
この場合、モータ制御部84は、レゾルバ58により検出されているモータ回転速度Nを、車速Vsが所定車速(図11例では、略80[km/h])より小さくなるに従い小さくなるように車速レシオRvにより補正し、補正モータ回転速度Ns(図12参照)と特性102とに基づいて、モータ24を駆動するようにする、換言すれば、車速Vsが所定車速より小さくなるに従い、モータ24を駆動する電流Iaの引数としてのモータ回転速度N{推定操舵角速度(回転角速度)θsc´}が小さくなる補正モータ回転速度Ns(補正回転角速度)を用いて、モータ24を駆動するようにしたので、操舵力がより必要となる所定車速以下でのアシスト力を確保することができる。
この第2実施例によれば、トルクセンサ20等が故障して操舵トルクTrを検出することができなくなった場合においても、モータ24のモータ回転速度N{推定操舵角速度(回転角速度)θsc´}に基づきモータ24による操舵アシスト力を切り込み方向及び切り戻し方向の両方向に付与することができ、特に、切り込み方向において、モータ回転速度N{推定操舵角速度(回転角速度)θsc´}が大きくなるに従いアシスト力が小さくなるように制御しているので切り込み過ぎを防止しつつ適切なアシスト力を付与することができる。
[第3実施例](極低速走行域切り戻し時操舵力低減機能)
図5又は図9を参照して説明した切り戻し電流フェード特性104に基づく切り戻し電流フェード処理によりアシスト電流Iaがゼロ値となったときに、未だ推定操舵角θscがゼロ値とならずに、右方向の推定操舵角θscが残っていた場合(図5と図9例では、値の異なる残留推定操舵角θscrが残っている。)、換言すれば、左方向への切り戻し角度が残った状態で右方向(切り込み方向)のアシスト電流Iaがゼロ値又はゼロ値近傍となったときに、車速VsがVs=Vs1=20[km/h]程度以下の極低速走行時には、SATによるステアリングホイール12(操舵系18)を直進方向(中立位置)に戻そうとする力が弱く、運転者による切り戻しの操舵力(操舵トルク)が多く必要になる。
そこで、この第3実施例では、切り戻し電流フェード特性104に基づく電流フェード処理によりアシスト電流Iaがゼロ値となったときに、未だ推定操舵角θscがゼロ値とならずに、右方向の推定操舵角θscが残っていた場合(残留推定操舵角θscrともいう。)においても、ステアリングホイール12(操舵系18)に対して切り戻し側のアシスト力を付与できるようにする。
次に、図13のフローチャート及び図14、図15の特性図を参照して第3実施例に係る極低速走行域切り戻し時操舵力低減機能について説明する。
そこで、図3のステップS9の処理後の図13のステップS10において、モータ制御部84により切り戻し電流フェード特性104に基づく切り戻し電流フェード処理が終了したか否かが、アシスト電流Iaの値により判定される。
すなわち、アシスト電流Iaが略ゼロ値(Ia≒0)になってステップS10の判定が肯定的となり、推定操舵角θscが、不感帯対応操舵角θd以上残っていた場合には(図5例、図9例では、残留推定操舵角θscrが残っている。)、ステップS11において、モータ制御部84により車速Vsが極低車速Vs1(Vs1≒20[km/h])を下回っている(Vs<Vs1)か否かが判定される。なお、極低車速Vs1は、車種により5〜20[km/h]内の値に設定してもよい。
下回っていない場合には(ステップS11:NO)、SATが働くので、再びステップS1に戻る。このとき、ステップS1、S2、S3、S4(YES)、ステップS5、ステップS6(NO)の後、再びステップS10の判定に戻る。
一方、車速Vsが極低車速Vs1を下回っていて、ステップS11の判定が肯定的となったとき、ステップS12において、推定操舵角θsc=θsc3(残留切り戻し角という。)を基準角度θf[deg]にリセットする(図14参照)。
次いで、ステップS13において、ステップS1〜ステップS3の処理と同様にして、切り戻し方向の切り戻し推定操舵角(切り戻し回転角又は切り戻し角度ともいう。)θscを算出する。
次に、ステップS14において、ベースアシスト電流特性102を参照し、切り戻し推定操舵角θscに対応する切り戻し側のアシスト電流Iaを算出する。
次いで、ステップS15において、推定操舵角θscの絶対値|θsc|が閾値推定操舵角θsc4(図15参照)を通過する値になっているか否かを比較判定する。閾値推定操舵角θsc4は、一例として、θsc4≒30[deg]に設定される。
ステップS15の判定が否定的である範囲では(ステップS15:NO)、図14に一点鎖線で示す特性120に沿う切り戻し方向のアシスト電流Ia(ステップS14で算出)が付与されステップS17においてモータ24が駆動される。
その一方、ステップS15の判定が肯定的である場合には、次に、ステップS16において、図15に特性118で示すセンタレシオ(中立位置戻し用比率)RnをステップS14で算出した補正前のアシスト電流Iaに乗算した補正後のアシスト電流Ia(Ia←Ia×Rn)を算出する。
すなわち、センタレシオRnは、中立位置(センタ)を乗り超えてアシスト力を付与しないようにするために、図14の特性123に示すように、閾値推定操舵角θsc4より切り戻し推定操舵角θscの絶対値が小さくなった場合には、アシスト電流Iaを徐々にゼロ値とするために補正前のアシスト電流Iaにかけられる比率(特性)である。
次いで、ステップS17において、上述したステップS14で算出されたアシスト電流Ia(特性120)又はステップS16で補正されたアシスト電流Ia(Ia←Ia×Rn)(特性123)によりモータ24を駆動する。
この切り戻し時において、ステアリングホイール12の操舵角が中立位置に達した場合、切り戻し回転角θscをリセットすることで、以降の切り込み方向及び切り戻し方向へのアシストをベースアシスト特性102により適切に行うことができる。
図13のフローチャートのように制御すれば、切り戻し角度が残った状態(残留切り戻し角θsc3)で切り込み方向のアシスト電流Iaがゼロ値近傍となったときであっても、切り戻し側へのアシストが可能となり、かつ切り戻し側に過剰にアシストされることが防止される。
以上説明したように、上述した第3実施例によれば、運転者が車両を操縦するために操作する操作子としてのステアリングホイール12と、車両の操舵系18に発生するトルクTrを検出するトルク検出部としてのトルクセンサ20と、車両の車速Vsを検出する車速検出部としての車速センサ86と、操舵系18の回転軸としての出力軸42にアシストトルクを付与するモータ24と、操舵系18の回転角θrを検出する回転角検出部としてのレゾルバ58と、トルクセンサ20により検出されたトルクTrに基づいてモータ24を駆動する電流Iaを制御するモータ制御部84と、を備える電動パワーステアリング装置10であって、トルクセンサ20等に異常が発生したかどうかを検出する異常検出部80と、レゾルバ58が検出した回転角θrとモータ24を駆動する電流Iaとの関係を特性102として記憶した記憶部78と、を備え、モータ制御部84は、異常検出部80によりトルクセンサ20等の異常が検出されたとき、ステアリングホイール12の操舵角が中立位置に近づく方向に変化する切り戻し時において、切り戻し角度が残った状態(残留推定操舵角θscr=残留切り戻し角θsc3)で切り込み方向のアシスト電流Iaがゼロ値近傍となったとき(ステップS10:YES)にレゾルバ58により検出されている回転角θrを基準角度θfとして切り戻し回転角θscを検出し、切り戻し回転角θscと特性102とに基づき、切り込み方向とは逆方向の切り戻し方向にモータ24を駆動する(このとき電流フェード処理を行ってもよい。)。
このように、残留切り戻し角θsc3が残った状態で切り込み方向のアシスト電流Iaがゼロ値近傍となったときにレゾルバ58により検出されている推定操舵角θscを基準角度θfとして切り戻し回転角θscを検出し、切り戻し回転角θscと特性102とに基づき、切り込み方向とは逆方向の切り戻し方向にモータ24を駆動するようにしたので、ステアリングホイール12の操作角が中立位置に近づく方向にアシストが可能となり、切り戻し側での運転者によるステアリングホイール12の操舵力を低減して、ステアリングホイール12を中立位置付近に戻し易くすることができる。
この場合、前記切り戻し時におけるモータ24の駆動は、車速Vsが所定車速である極低車速Vs1以下のときに有効にしているので、SAT(セルフアライニングトルク)が弱い状態においても、切り戻し側での運転者の操舵力を低減することができる。
なお、切り戻し時におけるモータ24の駆動電流Iaに、前記車両の操舵性に応じた所定の係数を乗ずることが好ましい。車両の操舵性は、個々の車両毎の負荷(車両の前軸荷重)の大きさによって変わるので、車両の操舵性に応じた係数をモータ24の駆動電流Iaに乗じることで、車両の操舵性に応じた最適なアシストが可能となる。車両の前軸加重が標準の前軸加重より大きい場合には、1より大きい係数とし、小さい場合には、1より小さい係数とすることが好ましい。この係数の乗算処理は、ステップS14の電流Iaの算出時に補正処理として行えばよい。
なお、図15のセンタレシオRnを用いて説明したように、切り戻し角度θscに対応するステアリングホイール12の操舵角が中立位置に近づくにつれて、モータ24の電流Iaが小さくなるように制御することで、中立位置近傍においてアシスト電流Iaが略ゼロ値となり、過アシストを回避することができる。
また、切り戻し時において、ステアリングホイール12の操舵角が中立位置に達した場合には、増加してきた切り戻し回転角θscをリセットすることで、以降の切り込み方向へのアシストを図5のベースアシスト特性102により適切に行うことができる。
[実施形態及び第1〜第3実施例による運転者の操舵力と、トルクセンサ20が正常な場合の運転者の操舵力と、アシスト制御がない場合の操舵力(手動操舵による操舵力)との概略的な比較]
例えば、車速VsがVs=30[km/h]程度の速度で交差点を右折するようなステアリングホイール12の操舵操作をしたときに、電動パワーステアリング装置10のトルクセンサ20が正常な場合(ステップS21の通常制御)には、ステアリングホイール12の操舵角θs[deg]に対する運転者の操舵力(操舵トルク)は、図16中、最も低レベルの一点鎖線で示す操舵トルク特性(操舵力特性)132に示すようになる。
一方、トルクセンサ20が異常となって暫定的なアシスト制御をしなかった場合、すなわち手動操舵の場合には、図16の破線で示す操舵トルク特性130に示すように、運転者の操舵力(操舵トルク)が、正常な場合の操舵トルク特性132の4倍程度(推定操舵角θscが150[deg]程度時)の大きさが必要になってしまう。
これに対して、上述した実施形態、実施例1〜3によるレゾルバ58等(操舵角センサ19が正常であれば操舵角センサ19)を利用した暫定的なアシスト制御(レゾルバアシスト制御ともいう。)によれば、正常な場合の操舵トルク特性132の2.5倍程度の操舵力(操舵トルク)の増加にとどめることができる操舵トルク特性134とされる。換言すれば、レゾルバアシスト制御による操舵トルク特性134は、操舵アシスト制御を行わない場合の手動操舵の操舵トルク特性130に比較して、不感帯対応操舵角θdを上回る推定操舵角θscの大部分の範囲で、概ね、30[%]程度、アシスト力を低減することができる。
なお、この発明は、上述した実施形態、第1実施例〜第3実施例に限らず、この明細書の記載内容に基づき、種々の構成を採り得ることはもちろんである。