JP5370332B2 - 圧電体素子およびインクジェット式記録ヘッド - Google Patents
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Description
本発明は、電気的エネルギーを機械的エネルギーに変換し、又は、その逆を行う薄膜型の圧電体素子に関する。この圧電体素子は、圧力センサ、温度センサ、インクジェット式記録ヘッド等のアクチュエータに使用される。本発明は、このインクジェット式記録ヘッドに関する。さらに、本発明は、この圧電体薄膜素子の製造方法に関する。
従来のインクジェット式記録ヘッドでは、インクを吐出するための駆動源となる振動子が、圧電体薄膜素子から構成されている。この圧電体薄膜素子は、一般に、多結晶体からなる圧電体薄膜と、この圧電体薄膜を間に挟んで配置される上電極及び下電極と、を備えた構造を有している。
この圧電体薄膜の組成は、一般に、チタン酸ジルコン酸鉛(以下、「PZT」という。)を主成分とする二成分系、または、この二成分系のPZTに第三成分を加えた三成分系からなる。これらの組成の圧電体薄膜は、例えば、スパッタ法、ゾルゲル法、レーザアブレーション法及びCVD法等により形成される。
二成分系PZTを用いた強誘電体が、"Aied Physics Letters, 1991, Vol.58,No.11, pages 1161-1163"、に記載されている。
また、特開平6−40035号公報や、"Jornal of The American Ceramic Society, 1973, Vol.56, No.2,pages 91-96"には、二成分系PZTを用いた圧電体が開示されている。
圧電体薄膜素子をインクジェット式記録ヘッドに適用する場合、0.5μm〜25μm程度の膜厚を備えた圧電体薄膜(PZT膜)を利用することが望ましく、そして、この圧電体薄膜には、高い圧電ひずみ定数が要求される。
このような高い圧電ひずみ定数を備えた圧電体薄膜を得るためには、通常、700℃以上の温度でPZT膜の熱処理を行い、この圧電体薄膜の結晶粒を成長させることが必要であるとされている。圧電体薄膜素子の下電極を構成する材料として、プラチナ、チタン、白金、金、ニッケル等の導電体が使用されている。
特開平6−116095号公報は、圧電体の結晶粒について述べている。この公報は、基板面が(111)面に配向した白金基板上にチタン酸ジルコン酸鉛またはランタン含有チタン酸ジルコン酸鉛の前駆体溶液を塗布し、加熱して強誘電体薄膜を形成する方法において、この前駆体溶液を基板上に塗布した後、まず所望の結晶配向をもたらす150〜550℃の温度範囲で熱処理を行い、その後550〜800℃で焼成して結晶化させることにより、基板面方向に薄膜の特定結晶面を熱処理温度に従って優先的に配向させる、ことが開示されている。
その他、本発明に関する従来技術として、例えば特開平3−232755号公報に記載されたバルク圧電磁器の製法が存在する。この従来例に示されているとおり、圧電磁器の場合、緻密な(密度が高い)ほど高い圧電特性が得られると考えられている。
また、特開昭50−145899号公報に、バルク圧電磁器をガス器具等の高電圧発生用に用いた例が開示されている。この公報は、圧電性磁器中に直径4〜10μmの空孔を4×105〜8×105個/cm2均一に分散させ、比重が真比重の90〜93%の場合に於いて、放電率が100%と良い特性を持つことが記載されている。
薄膜の圧電体素子を用いたインクジェット記録ヘッドの従来例として、例えば米国特許第5265315号明細書が存在する。
1μm以上の膜厚を備えた圧電体薄膜(PZT膜)を形成する場合、前述した高い圧電ひずみ定数を得るために、既述の熱処理を行うと、膜内にクラックが発生する問題がある。特開平3−232755号公報に記載されているように、バルク磁器に於いては、密度が高いほど圧電特性が良いとされているが、非常に緻密な膜をインクジェット記録ヘッド等のアクチュエータとして好適に用いるためには、圧電体膜の膜厚が0.5〜25μm程度が良く、この程度の厚みの圧電体膜を一回の製造工程で、製造しようとしたときには、通常、膜にクラックが入ってしまう。クラックが入らないように、薄い膜厚で積層して行く場合に於いては、製造工程が長くなり、工業的に不適合である。
また、ゾル、又はゲル組成物を基板に塗布して高温で焼成して結晶化させ、これを繰り返すことで、圧電体薄膜の膜厚を厚くする方法が、"Philips J. Res.47 (1993') pages 263-285"に開示されている。しかしながら、この方法によって得られた圧電体薄膜は、層状の積層界面を有し、良好な圧電特性を得ることができないとともに、加工性が悪くなるという問題がある。
圧電体薄膜は、通常、基板上に形成された下電極である金属膜上に形成されるが、この圧電体薄膜を形成する際に行われる熱処理により、基板に反りやひずみが生じるという問題がある。下電極と圧電体薄膜との間に、良好な密着性が得られることも必要である。
特開昭50−145899号公報は、高電圧発生用の用途に適するバルク磁器を用いた圧電体素子であるため、薄膜の圧電体素子であって、しかも、これをインクジェット式記録ヘッドに応用した場合とは、用途が異なる。
米国特許第5265315号明細書は、本発明と同様インクジェット記録ヘッドについて述べているが、圧電体膜としてのPZTの気孔、或いは、その密度については、記載されていないし、圧電体膜の製法もゾルゲル法を用いている為、複数層の堆積、及び熱処理工程が必要となり、工業的には不向きである。
既述の特開平6−116095号公報においては、X線回折広角法による配向、つまり基板平行方向に対する結晶面の配向度を議論しており、X線回折薄膜法による議論はされていない。
また、圧電体素子をインクジェット記録装置等のアクチュエーターとして用いる場合は、高い圧電特性が要求されるが、結晶配向性に対する圧電特性との関係は、特開平6−116095号には示されていない。
本発明は、このような従来の問題点を解決することを課題とするものであり、従来よりも圧電特性が向上された圧電体薄膜素子、並びにこの製造方法を提供することを目的とする。
本発明の他の目的は、高い圧電ひずみ定数を備えた圧電体薄膜素子の製造方法を提供することである。本発明の他の目的は、クラックを生じることなく、必要な膜厚を持った圧電体薄膜を備える圧電体薄膜素子を提供することにある。
さらに、本発明の他の目的は、クラックを生じることなく、必要な膜厚を持った圧電体薄膜を備える圧電体薄膜素子を1回の工程によって提供できる、圧電体薄膜素子の製造方法を提供することにある。
さらに、本発明の他の目的は、下電極との密着性が良好である圧電体薄膜を備えた圧電体素子を提供することにある。さらに、本発明の他の目的は、このような圧電体薄膜素子を用いた高精細な印字が可能となるインクジェット記録ヘッドを提供することにある。
この目的を達成する本発明は、改良された新規な圧電体薄膜素子に関する。すなわち、圧電体素子の圧電体膜と下電極との密着性を向上させるために、下電極と、Pb、ZrおよびTiを構成元素として含む圧電体膜と、上電極と、を有する圧電体素子であって、下電極が、プラチナおよび酸化チタンを含み、下電極において、酸化チタンの含有率は0.5重量%以上10重量%以下であることを特徴とする。
さらに、好適には、下電極の結晶粒の粒界が、膜厚方向に延びることを特徴とする。
さらに、好適には、下電極の結晶粒は、膜面方向の幅と膜厚方向の幅との関係(膜面方向の幅/膜厚方向の幅)が、1/10〜1/3の範囲であることを特徴とする。
さらに、好適には、圧電体膜は、チタン酸ジルコン酸鉛を含み、菱面体晶系の結晶構造を備え、X線回折薄膜法で測定した(100)、(110)、(111)、(210)および(211)の結晶面反射強度の総和に対する(100)の結晶面反射強度の比で表される(100)配向度が、30%以上であることを特徴とする。
さらに、好適には、圧電体膜の結晶粒が、下電極から上電極方向に延びる柱状であることを特徴とする。
さらに、好適には、圧電体膜の結晶粒の膜面方向の幅と膜厚方向の幅との関係(膜面方向の幅/膜厚方向の幅)が、1/10〜1/3の範囲であることを特徴とする。
さらに、好適には、圧電体膜中に気孔を有し、気孔の平均気孔径が0.03μm以上0.07μm以下であり、気孔の面積密度が0.3%以上3%以下であることを特徴とする。
次に、本発明に係る実施の形態及び図面について、以下に、必要に応じて図面を参照しながら説明する。なお、本実施の形態では、圧電体膜としてPZT膜を形成した場合について説明する。
I.先ず、具体的な薄膜圧電体素子の構造を図面を用いて説明する。図1において、薄膜圧電体素子は、シリコン(Si)基板10と、下電極(例えば、Ptからなる)12と、圧電体膜(例えば、2成分系PZT)14と、上電極16(例えば、Ptからなる)とから構成される。
図2は、この圧電体薄膜素子の構造をより詳しく示した断面図であり、シリコン基板10と、シリコン基板上に形成されたシリコン酸化膜11と、シリコン酸化膜上に形成されたチタン酸化膜11Aと、チタン酸化膜上に形成された下電極12と、下電極上に形成されたPZT膜(圧電体膜)14と、PZT膜上に形成された上電極16と、を備えて構成されている。
下電極を例えばプラチナから形成することにより、下電極の格子定数とPZT膜の格子定数を近づけて、下電極と後に形成されるPZT膜との密着性を向上させることができる。
(参考例1)
この参考例1においては、まず、シリコン基板10上に下電極12として白金をスパッタ法で形成した。次に、圧電体薄膜14をゾルゲル法により形成した。ゾルは次のように調製した。酢酸鉛0.105モル、ジルコニウムアセチルアセトナート0.045モル、酢酸マグネシウム0.005モルと30ミリリットルの酢酸を、100℃に加熱して溶解させた。
この参考例1においては、まず、シリコン基板10上に下電極12として白金をスパッタ法で形成した。次に、圧電体薄膜14をゾルゲル法により形成した。ゾルは次のように調製した。酢酸鉛0.105モル、ジルコニウムアセチルアセトナート0.045モル、酢酸マグネシウム0.005モルと30ミリリットルの酢酸を、100℃に加熱して溶解させた。
このゾルを室温まで冷却し、チタンテトライソプロポキシド0.040モル、ペンタエトキシニオブ0.010モルをエチルセラソルブ50ミリリットルに溶解させて添加した。アセチルアセトンを30ミリリットル添加して安定化させた後、ポリエチレングリコールをゾル中の金属酸化物に対し30重量%添加し、よく攪拌して均質なゾルとした。
下電極を形成した基板上に調製したゾルをスピンコートで塗布し、400℃で仮焼成し、非晶質の多孔質ゲル薄膜を形成し、さらに、ゾルの塗布と400℃の仮焼成を2度繰り返し、多孔質ゲル薄膜を形成した。この加熱の際に、ゾル中のポリエチレングルコールが蒸発して、多孔質を形成する。
次に、ペロブスカイト結晶を得るためRTA(Raid Thermal Anneaing)炉を用いて酸素雰囲気中、5秒間で650℃に加熱して1分間保持しプレアニールを行い、緻密なPZT薄膜とした。
再びこのゾルをスピンコートで塗布して400℃に仮焼成する工程を3度繰り返し、非晶質の多孔質ゲル薄膜を積層した。次に、RTAを用いて650℃でプレアニールして1分間保持することにより、結晶質の緻密な薄膜とした。このプレアニールの際の温度を400乃至800℃、好ましくは、450乃至750℃、さらに好ましくは、550乃至750℃にすることによって、既述の多孔質薄膜の積層界面を一体化することができる。
さらに、RTA炉を用いて酸素雰囲気中750、800、850、900、950、1000、1050℃の各温度に加熱し1分間保持してアニールした。その結果1.0μmの膜厚の圧電体薄膜14が得られた。
このようにして得られたPZT薄膜をX線回折薄膜法によって分析を行った。測定は、理学電機製 RINT−1400を用い、銅管球でX線入射角度1°で行った。
図3に、900℃でアニールしたPZT薄膜の薄膜法によるX線回折パターンを示す。図4に、750℃でアニールしたPZT薄膜の薄膜法によるX線回折パターンを示す。
図3、図4に示したX線回折パターンの全てのピークがペロブスカイト構造のPZTの反射ピークである。さらに、このPZT薄膜は結晶系としては菱面体晶あるいは正方晶を採るが、(100)、(110)等のピークが分離せず1つの鋭いピークになっていることから、菱面体晶系の結晶である。
また、圧電薄膜上にアルミニウム電極を蒸着法で形成し、圧電定数d31を測定した。表1にアニール温度と(100)配向度と圧電定数d31の関係を示す。
ここで、(100)の配向度P(100)は、P(100)=I(100)/ΣI(hkl)で表す。ΣI(hkl)は、X線回折薄膜法で、波長にCuKα線を用いたときの2θが20度〜60度のPZTの全回折強度の和を表す。
ただし、(200)面は(100)面と等価な結晶面であるため、ΣI(hkl)には含めない。具体的には、(100)、(110)、(111)、(210)、(211)、結晶面反射強度の総和である。I(100)は、同じくPZTの(100)結晶面反射強度を表す。
(100)の配向度P(100)が高くなるほど、圧電定数d31が大きくなっており、アクチュエーターとして特性が向上する。
(実施例1)
シリコン基板上に下電極として金をスパッタ法で形成した。次に、圧電体薄膜をゾルゲル法により形成した。ゾルは次のように調製した。酢酸鉛0.105モル、ジルコニウムアセチルアセトナート0.030モル、酢酸マグネシウム0.007モルと30ミリリットルの酢酸を、100℃に加熱して溶解させた。
シリコン基板上に下電極として金をスパッタ法で形成した。次に、圧電体薄膜をゾルゲル法により形成した。ゾルは次のように調製した。酢酸鉛0.105モル、ジルコニウムアセチルアセトナート0.030モル、酢酸マグネシウム0.007モルと30ミリリットルの酢酸を、100℃に加熱して溶解させた。
このゾルを室温まで冷却し、チタンテトライソプロポキシド0.050モル、ペンタエトキシニオブ0.013モルをエチルセラソルブ50ミリリットルに溶解させて添加した。アセチルアセトンを30ミリリットル添加して安定化させた後、ポリエチレングリコールをゾル中の金属酸化物に対し30重量%添加し、よく攪拌して均質なゾルとした(Zr/Ti=30/50)。
同様にジルコニウムアセチルアセトナート0.035モル、チタンテトライソプロポキシド0.045モル(Zr/Ti=35/45)、更にジルコニウムアセチルアセトナート0.040モル、チタンテトライソプロポキシド0.040モル(Zr/Ti=40/40)、さらに、ジルコニウムアセチルアセトナート0.045モル、チタンテトライソプロポキシド0.035モル(Zr/Ti=45/35)のジルコニウムとチタンの組成の異なる4種類のゾル液を調製した。
以降は参考例1と同様に、各ゾル液で積層し圧電体薄膜素子を作製し、評価を行った。表2にZr/Tiと(100)配向度と圧電定数d31の関係を示す。
参考例1と同様に(100)配向度P(100)が高くなるほど、圧電定数d31が大きくなっており、アクチュエーターとして特性が向上する。
以上の参考例1及び実施例1に於いて、下部電極として、Pt,Auを用いて説明したが、PZT薄膜の(100)配向度が、30%以上となれば良く、Au、Pt−Ir、Pt−Pd、Pt−Ni、Pt−Ti等他の金属膜でも良い。
さらに、第3成分としてマグネシウムニオブ酸鉛を用いて説明したが、PZT薄膜の(100)配向度が、30%以上となれば良く、ニッケルニオブ酸鉛、コバルトニオブ酸鉛、等ほかのものでも良く、不純物としてNb、La、Mo、W、Ba、Sr、Bi等が含有されることを妨げない。
II.次に、電極面に対して、結晶粒が略垂直方向に形成された圧電体薄膜を備えた圧電体素子について説明する。図5の(A)は、圧電体薄膜素子を構成するPZT膜の断面を示す走査型電子顕微鏡(SEM)写真、図5の(B)は(A)に示すPZT膜の平面を示す走査型電子顕微鏡写真である。
図1,2のPZT膜14は、多結晶体からなり、この結晶体の粒界が、図5に示すように、上下の電極の平面に対して略垂直方向に存在している。図5において、中間の白く表示されているのがPZT膜であり、その結晶粒が図5の上下に延びる柱状に形成されているのが確認される。このPZT膜の下方にある白く表示される層が下電極であり、この下電極のさらに下にSiO2が配置されている。結晶体の粒界とは、隣接する結晶粒の境界であり、結晶粒がペロブスカイト型構造を持つ結晶であるのに対して、結晶粒界は非晶質から構成されている。
この結晶体は、結晶粒の膜厚方向(図5においてYで示す。)の幅が、結晶粒の膜面方向(図5においてXで示す。)の幅より大きく、結晶粒の膜厚方向の幅と、結晶粒の膜面方向の幅との関係が、膜面方向の幅/膜厚方向の幅=1/10以上1/3以下の範囲内とされる。
さらに、このPZT膜の結晶構造は、菱面体晶であり、面方位(111)の結晶面に強く配向している。ここで示す、「配向度」とは、例えば、広角XRD法にてPZT膜の面方位(XYZ)面の反射強度をI(XYZ)で表した時に、次のように定義される。
I(XYZ)/{I(100)+I(110)+I(111)}
面方位(111)の配向度と、圧電ひずみ定数との関係は、以下の通りである。
面方位(111)の配向度と、圧電ひずみ定数との関係は、以下の通りである。
(111)面の配向度 電圧ひずみ定数
50% 80pC/N
70% 120pC/N
90% 150pC/N
既述の参考例1,実施例1では、(100)の配向度が30%であることが好適であると説明した。ここで明らかなように、(111)の配向度を50%以上にすることにより、参考例1,実施例1と同様な電圧ひずみ定数を得て圧電特性を得ることができる。
50% 80pC/N
70% 120pC/N
90% 150pC/N
既述の参考例1,実施例1では、(100)の配向度が30%であることが好適であると説明した。ここで明らかなように、(111)の配向度を50%以上にすることにより、参考例1,実施例1と同様な電圧ひずみ定数を得て圧電特性を得ることができる。
圧電ひずみ定数は、比誘電率と電圧出力係数の積に比例する。この比誘電率は、電界印加方向(図5のY方向)の結晶粒の大きさが大きいほど大きく、圧電出力係数は、結晶粒が横方向(図5のX方向)に大きく、結晶粒界の幅が狭いほど大きい、という理由から、このような構造を備えたPZT膜15は、圧電ひずみ定数が向上される。
この理由から、既述のように、圧電体薄膜の結晶の膜面方向の幅/膜厚方向の幅の値が1/10以上1/3以下の範囲内におかれている。好ましくは1/8以上3/10以下であり、さらに好ましくは、1/6以上3/11以下である。
ここで、PZT膜は、二成分系を主成分とするもの、この二成分系に第三成分を加えた三成分系を主成分とするものが好適に用いられる。二成分系PZTの好ましい具体例としては、ゾルゲルによって、PZT膜を形成する場合は、例えば、次の化学式の組成を有するものである。
Pb(ZrxTi1-x)O3+YPbO
(ここで、0.40≦X≦0.6,0≦Y≦0.1)
また、スパッタリング法によって、PZT膜を形成する場合の二成分系のPZT膜は、例えば、次の化学式で表わされる組成を有するものである。
(ここで、0.40≦X≦0.6,0≦Y≦0.1)
また、スパッタリング法によって、PZT膜を形成する場合の二成分系のPZT膜は、例えば、次の化学式で表わされる組成を有するものである。
Pb(ZrxTi1-x)O3+YPbO
(ここで、0.40≦X≦0.6,0≦Y≦0.3)
また、三成分系PZTの好ましい具体例としては、スパッタリング法では、前記二成分系のPZTに、例えば、第三成分(好適には、マグネシウムニオブ酸鉛である。)を添加した以下に示す化学式で表わされる組成を有するものが挙げられる。
(ここで、0.40≦X≦0.6,0≦Y≦0.3)
また、三成分系PZTの好ましい具体例としては、スパッタリング法では、前記二成分系のPZTに、例えば、第三成分(好適には、マグネシウムニオブ酸鉛である。)を添加した以下に示す化学式で表わされる組成を有するものが挙げられる。
PbTibZra(AgBh)cO3+ePbO+(fMgO)n・・・(I式)
(ここで、Aは、Mg,Co,Zn,Cd,Mn及びNiからなる群から選択される2価の金属またはY,Fe,Sc,Yb,Lu,In及びCrからなる群から選択される3価の金属を表す。また、Bは、Nb,Ta及びSbからなる群から選択される5価の金属、またはW及びTeからなる群から選択される6価の金属を表す。また、a,b,cをそれぞれモル比とした場合、a+b+c=1,0.10≦a≦0.55,0.25≦b≦0.55,0≦c≦0.5,0≦e≦0.3,0≦f≦0.15c,g=h=1/2,n=0であるが、但し、Aが3価の金属であり、かつBが6価の金属でなく、また、Aが2価の金属であり、かつBが5価の金属である場合、gは1/3であり、hは2/3であり、また、AはMg、BがNbの場合に限り、nは1を表す。)
三成分系のより好ましい具体例としては、マグネシウムニオブ酸鉛で、AがMgであり、BがNbであり、gが1/3、hが2/3であるものが挙げられる。
(ここで、Aは、Mg,Co,Zn,Cd,Mn及びNiからなる群から選択される2価の金属またはY,Fe,Sc,Yb,Lu,In及びCrからなる群から選択される3価の金属を表す。また、Bは、Nb,Ta及びSbからなる群から選択される5価の金属、またはW及びTeからなる群から選択される6価の金属を表す。また、a,b,cをそれぞれモル比とした場合、a+b+c=1,0.10≦a≦0.55,0.25≦b≦0.55,0≦c≦0.5,0≦e≦0.3,0≦f≦0.15c,g=h=1/2,n=0であるが、但し、Aが3価の金属であり、かつBが6価の金属でなく、また、Aが2価の金属であり、かつBが5価の金属である場合、gは1/3であり、hは2/3であり、また、AはMg、BがNbの場合に限り、nは1を表す。)
三成分系のより好ましい具体例としては、マグネシウムニオブ酸鉛で、AがMgであり、BがNbであり、gが1/3、hが2/3であるものが挙げられる。
ゾルゲル法に依る場合の、第3成分としてマグネシウムニオブ酸鉛を加えたPZT膜は、例えば、Pb(Mg1/3Nb2/3)0.2ZrxTi0.8-xO3(xが0.35〜0.45)からなる組成で表示される。
さらに、これら二成分系PZT及び三成分系PZTのいずれであっても、その圧電特性を改善するために、微量のBa,Sr,La,Nd,Nb,Ta,Sb,Bi,W,Mo及びCa等が添加されてもよい。とりわけ、三成分系では、0.10モル%以下のSr,Baの添加が圧電特性の改善に一層好ましい。また、三成分系では、0.10モル%以下のMn,Niの添加が、その焼結性を改善するので好ましい。第3成分の一部を第4成分で置き換えても良い。その場合、第4成分は、上記第3成分の内の一つを用いる。
なお、PZT膜は、前述した配向の他、面方位(100)の結晶面、あるいは面方位(111)と面方位(100)の結晶面のいずれかに強く配向していても良い。また、PZT膜の結晶構造が、正方晶であり、面方位(001)の結晶面に強く配向していてもよい。
(参考例2)
次に、この構造を備えた圧電体薄膜素子の製造方法について図面を参照して説明する。図6の(a)から(c)は、前述した圧電体薄膜素子の各製造工程に於ける断面図である。
次に、この構造を備えた圧電体薄膜素子の製造方法について図面を参照して説明する。図6の(a)から(c)は、前述した圧電体薄膜素子の各製造工程に於ける断面図である。
図6(a)に示す工程では、シリコン基板10に熱酸化を行い、シリコン基板上に、膜厚が0.3〜1.2μm程度のシリコン酸化膜11を形成する。次に、スパッタ法により、シリコン酸化膜上に、膜厚が0.005〜0.04μm程度のチタン酸化膜11Aを形成する。
次いで、チタン酸化膜上に、プラチナからなる下電極12を、0.2〜0.8μm程度の膜厚で形成する。次に、図6(b)に示す工程では、図6(a)に示す工程で形成した下電極上にPZT膜14を、0.5〜3.0μm程度の膜厚で形成する。なお、さらに、PZT膜の製造をスパッタ法を依った場合と、ゾルゲル法に依った場合について説明する。
参考例2−1:スパッタ法によるPZT膜の製造方法
先ず、特定成分のPZT焼結体をスパッタリングのターゲットとして用い、基板温度を200℃以下とし、Arガス100%雰囲気中で、RFマグネトロンスパッタリングにより、アモルファス、又はパイロクロア相からなるPZT膜の前駆体膜を基板上に形成する。
先ず、特定成分のPZT焼結体をスパッタリングのターゲットとして用い、基板温度を200℃以下とし、Arガス100%雰囲気中で、RFマグネトロンスパッタリングにより、アモルファス、又はパイロクロア相からなるPZT膜の前駆体膜を基板上に形成する。
次に、この前駆体膜を加熱し結晶化して焼結させる。この加熱は、酸素雰囲気中(例えば、酸素中、または酸素とアルゴン等の不活性ガスとの混合ガス中)において、二段階に分けて行われるのが好ましい。
すなわち、第1の加熱工程においては、アモルファス状の前駆体膜を、酸素雰囲気中で500〜700℃程度の温度で加熱し、これによって前駆体膜を結晶化させる。この第1の加熱工程は、前駆体膜が均一に結晶化した時点で終了させれば良い。
次に、第2の加熱工程においては、生じた結晶粒を成長させ、さらに結晶粒同士の焼結を促進させる。具体的には、第1の加熱工程で結晶化した前駆体膜を750〜1200℃程度の温度で加熱する。この加熱は、結晶体の粒界が、下電極14面に対して略垂直方向に存在し、結晶粒の膜厚方向の幅と、当該結晶粒の膜面方向の幅との関係が、膜面方向の幅/膜厚方向の幅=1/3〜1/10の範囲で構成されるまで実施される。
このようにして、下電極上に、多結晶体からなり、かつ粒界が下電極面に対して略垂直方向(図5のY方向)に存在するとともに、結晶体の結晶粒の膜厚方向(図5のY方向)の幅が結晶粒の膜面方向の幅(X方向)より長く、結晶粒の膜厚方向の幅と、当該結晶粒の膜面方向の幅との関係が、膜面方向の幅/膜厚方向の幅=1/3〜1/10の範囲にあるPZT膜を形成した。
ここで、第1の加熱工程と、第2の加熱工程は、連続して行ってもよく、また第1の加熱工程を行った後、室温まで冷却し、その後に第2の加熱工程を行ってもよい。
第1及び第2の加熱工程では、前駆体膜が前述した構造のPZT膜15を形成させ得る限り、種々の加熱炉が使用されるが、昇温速度の大きな加熱炉を利用することが好ましい。例えば、ランプアニール炉の利用が好ましい。なお、第1及び第2の加熱工程における好ましい昇温速度は、50℃/秒以上であり、より好ましくは、100℃/秒以上である。
図7は、スパッタ法によってPZTの前駆体膜を形成する場合における、PZT膜(又は、PZTターゲット)の好ましい組成範囲を示している。ここでは、第3成分として、既述の(I式)のPb(AgBh)O3の中から、Pb(Mg1/3Nb2/3)O3を用いている。図7のA,B,C,D,E,Fで囲まれた領域がこの組成範囲に相当する。
PbZrO3:PbTiO3:Pb(Mg1/3Nb2/3)O3=a:b:cとおいたとき、(a,b,c)をモル%で表すと、次のようになる。
A:(45,55,0)
B:(50,50,0)
C:(25,25,50)
D:(10,40,50)
E:(10,45,40)
F:(35,45,20)
すなわち、10≦a≦50,20≦b≦55,0≦c≦50である。この範囲は、前記(I)式で説明した範囲の好適な範囲である。
B:(50,50,0)
C:(25,25,50)
D:(10,40,50)
E:(10,45,40)
F:(35,45,20)
すなわち、10≦a≦50,20≦b≦55,0≦c≦50である。この範囲は、前記(I)式で説明した範囲の好適な範囲である。
図7の右側の境界(C−B)を定めた意義は、次のとおりである。
PbTiO3を、PbZrO3より、多くすることにより、スパッタ成膜の手法にて、柱状の膜が好適に形成されることが判明した。
また、図7の左側の境界(D−E−F−A)は、高い電圧歪み定数(100pC/N以上)を得るために定められた。さらに、図7の上側の境界(D−C)は、キュリー温度が室温に近づくため、デバイスとしての安定性が悪くなる虞があるので、この虞を避けるために定められた。なお、キュリー温度以上では、圧電体素子の圧電特性が十分には発揮されない。また、前記(I)式で示される組成範囲が、図15に示されている。
参考例2−2:ゾルゲル法による製造方法
この製造方法では、PZT膜を形成可能な金属成分の水酸化物の水和錯体、すなわちゾルを脱水処理してゲルとし、このゲルを加熱焼成して無機酸化物を調整する二つの方法について説明する。これらのゾルゲル法は、先に説明した参考例1及び実施例1とほぼ同様であるが、ここに改めて詳説することとする。
この製造方法では、PZT膜を形成可能な金属成分の水酸化物の水和錯体、すなわちゾルを脱水処理してゲルとし、このゲルを加熱焼成して無機酸化物を調整する二つの方法について説明する。これらのゾルゲル法は、先に説明した参考例1及び実施例1とほぼ同様であるが、ここに改めて詳説することとする。
(その1)
a.ゾル組成物の成膜工程
本参考例において、PZT膜を構成する金属成分のゾルは、PZT膜を形成可能な金属のアルコキシドまたはアセテートを、例えば酸で加水分解して調整することができる。本発明においては、ゾル中の金属の組成を制御することで、既述のPZT膜の組成を得ることができる。すなわち、チタン、ジルコニウム、鉛、さらには他の金属成分のそれぞれのアルコキシドまたはアセテートを出発原料とする。
a.ゾル組成物の成膜工程
本参考例において、PZT膜を構成する金属成分のゾルは、PZT膜を形成可能な金属のアルコキシドまたはアセテートを、例えば酸で加水分解して調整することができる。本発明においては、ゾル中の金属の組成を制御することで、既述のPZT膜の組成を得ることができる。すなわち、チタン、ジルコニウム、鉛、さらには他の金属成分のそれぞれのアルコキシドまたはアセテートを出発原料とする。
本参考例では、最終的にPZT膜(圧電体薄膜)とされるまでに、PZT膜を構成する金属成分の組成がほぼ維持されるという利点がある。すなわち、焼成およびアニール処理中に金属成分、とりわけ鉛成分の蒸発等による変動が極めて少なく、したがって、これらの出発原料における金属成分の組成は、最終的に得られるPZT膜中の金属組成と一致することになる。つまり、ゲルの組成は生成しようとする圧電体膜(本参考例ではPZT膜)に応じて決定される。
また、本参考例では、既述の鉛成分が過剰となるPZT膜を得るため、ゾルにおいて鉛成分を化学量論から要求される量よりも20モル%まで好ましくは15モル%まで過剰にすることが好ましい。
本参考例では、このゾルは有機高分子化合物と混合された組成物として用いられるのが好ましい。この有機高分子化合物は、乾燥及び焼成時に薄膜の残留応力を吸収して、この薄膜にクラックが生じることを有効に防止する。具体的には、この有機高分子を含むゲルを用いると、後述するゲル化された薄膜に細孔が生じる。この細孔が、さらに後述するプレアニール及びアニール工程において薄膜の残留応力を吸収するものと考えられる。
好ましく用いられる有機高分子化合物としては、ポリ酢酸ビニル、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアミド、ポリアミク酸、アセチルセルロース及びその誘導体、ならびにそれらの共重合体がある。
なお、本参考例では、ポリ酢酸ビニルを添加することで、0.05μmφ程度の細孔を多数有する多孔質ゲル薄膜を、ヒドロキシプロプルセルロースを添加することで、0.1μm以下の大きさでかつ広い分布の細孔を持った多孔質ゲル薄膜を形成することができる。
本参考例では、ポリエチレングリコールとして、平均分子量285〜420程度のものが好適に用いられる。また、ポリプロピレングリコールとしては、平均分子量300〜800程度のものが好適に用いられる。
本参考例に係る製造方法では、先ず、このゾル組成物をPZT膜を形成しようとする下電極(図6(b)参照)上に塗布する。この時の塗布方法は特に限定されず、通常行われている方法、例えば、スピンコート、ディップコート、ロールコート、バーコート等によって行うことができる。また、フレキソ印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷等によって塗布することもできる。
また、塗布により形成された膜の厚さは、それ以降の工程を考慮すると、後述するゲル化工程において形成される多孔質ゲル薄膜の厚さが0.01μm以上となるように制御することが望ましく、より好ましくは0.1〜1μm程度とすることがよい。
次に、塗布されたゾル組成物を自然乾燥、または200℃以下の温度で加熱する。ここで、この乾燥(加熱)された膜上に、ゾル組成物をさらに塗布して膜厚を厚くすることもできる。この場合は、下地となる膜は、80℃以上の温度で乾燥されることが望ましい。
b.ゾル組成物からなる膜のゲル化工程
次に、前述したゾル組成物の成膜工程で得た膜を焼成し、残留有機物を実質的に含まない非晶質の金属酸化物からなる多孔質ゲル薄膜を形成する。
次に、前述したゾル組成物の成膜工程で得た膜を焼成し、残留有機物を実質的に含まない非晶質の金属酸化物からなる多孔質ゲル薄膜を形成する。
焼成は、ゾル組成物の膜をゲル化し、かつ膜中から有機物を除去するのに十分な温度で、十分な時間加熱することによって行う。
本参考例では、焼成温度を300〜450℃にすることが好ましく、350〜400℃にすることがさらに好ましい。焼成時間は、温度及び使用する炉の形式によって変化するが、例えば、脱脂炉を用いた場合には、10〜120分程度が好ましく、15〜60分程度とすることがより好ましい。また、ホットプレートを用いた場合には、1〜60分程度が好ましく、5〜30分程度とすることがさらに好ましい。以上の工程によって、下電極上に多孔質ゲル薄膜が形成された。
c.プレアニール工程
次に、前述した工程bで得た多孔質ゲル薄膜を加熱焼成し、この膜を結晶質の金属酸化膜からなる膜に変換する。焼成は、多孔質ゲル薄膜を結晶質の金属酸化物からなる膜に変換するために必要な温度で行うが、結晶中にペロブスカイト型結晶が大部分を占めるまで行う必要はなく、ゲル薄膜が均一に結晶化された時点で終了させればよい。
次に、前述した工程bで得た多孔質ゲル薄膜を加熱焼成し、この膜を結晶質の金属酸化膜からなる膜に変換する。焼成は、多孔質ゲル薄膜を結晶質の金属酸化物からなる膜に変換するために必要な温度で行うが、結晶中にペロブスカイト型結晶が大部分を占めるまで行う必要はなく、ゲル薄膜が均一に結晶化された時点で終了させればよい。
本実施例では、焼成温度として400〜800℃の範囲が好ましく、550〜750℃の範囲で焼成することが、より好ましい。焼成時間は、焼成温度及び使用する炉の形式によって変化するが、例えばアニール炉を使用する場合は、0.1〜5時間程度が好ましく、0.5〜2時間程度がより好ましい。また、RTA(Rapid Thermal Annealing)炉を用いた場合、0.1〜10分程度が好ましく、1〜5分程度がより好ましい。
また、本参考例では、このプレアニール工程を二段階に分けて実施している。具体的には、先ず、第一段階として、400〜600℃の範囲の温度でプレアニールを行い、次に、第二段階として、600〜800℃の範囲の温度でプレアニールを行う。また、さらに好ましくは、第一段階として、450〜550℃の範囲の温度でプレアニールを行い、次に、第二段階として、600〜750℃の範囲の温度でプレアニールを行う。この工程によって、多孔質ゲル薄膜を結晶質の金属酸化膜からなる膜に変換させた。
d.繰り返し工程
次に、前述した工程a、b及びcを少なくとも1回以上繰り返し、結晶質の金属酸化物の膜を積層する。ここで、この繰り返し工程で得られる膜の膜厚、焼成温度、プレアニール条件は、下電極上に第1回の膜を形成した場合と同様である。
次に、前述した工程a、b及びcを少なくとも1回以上繰り返し、結晶質の金属酸化物の膜を積層する。ここで、この繰り返し工程で得られる膜の膜厚、焼成温度、プレアニール条件は、下電極上に第1回の膜を形成した場合と同様である。
この繰り返し工程の結果得られる積層膜の膜厚は、最終的なPZT膜の膜厚を考慮して適宜決定すればよいが、後述する次工程(工程e)においてクラック等が発生しない適切な膜厚であることが好ましい。
この繰り返し工程では、先に形成した膜上に新たに多孔質ゲル薄膜を形成し、その後のプレアニールの結果、新たに形成された多孔質ゲル薄膜は、先に形成された膜と実質的に一体化された膜となる。
ここで、実質的に一体化された膜とは、積層された層間に不連続層がない場合のみならず、本参考例に係る最終的に得られるPZT膜15の場合と異なり、積層された層間に不連続層があってもよい。そして、さらに工程a、b及びcを繰り返す場合には、さらに新たな多孔質ゲル薄膜が形成され、その後のプレアニールの結果、この新たな多孔質ゲル薄膜は、先に得た結晶質の積層膜と実質的に一体化された膜となる。
なお、圧電体薄膜素子を形成するためのパターニングや、上電極の形成は、この段階で行うことが好ましい。
e.ペロブスカイト型結晶成長工程
次に、工程dで得た膜に、焼成温度600〜1200℃、さらに好ましくは800〜1000℃の範囲でアニールを行う。焼成時間は、焼成温度や、使用する炉の形式によって変化するが、例えば、アニール炉を用いた場合、0.1〜5時間程度が好ましく、0.5〜2時間程度がより好ましい。また、RTA炉を用いた場合には、0.1〜10分程度が好ましく、0.5〜3分程度がより好ましい。
次に、工程dで得た膜に、焼成温度600〜1200℃、さらに好ましくは800〜1000℃の範囲でアニールを行う。焼成時間は、焼成温度や、使用する炉の形式によって変化するが、例えば、アニール炉を用いた場合、0.1〜5時間程度が好ましく、0.5〜2時間程度がより好ましい。また、RTA炉を用いた場合には、0.1〜10分程度が好ましく、0.5〜3分程度がより好ましい。
このペロブスカイト型結晶成長工程、すなわち、アニールを二段階に分けて実施することもできる。具体的には、第一段階では、600〜800℃程度の温度でアニールを行い、第二段階では、800〜1000℃の温度でアニールを行う。また、さらに好ましくは、第一段階では、600〜750℃程度の温度でアニールを行い、第二段階では、800〜950℃の温度でアニールを行うことができる。
以上の操作によって、下電極14上に、多結晶体からなり、かつ粒界が下電極14面に対して略垂直方向に存在するとともに、結晶体の結晶粒の膜厚方向の幅が、当該結晶粒の膜面方向の幅より長く、結晶粒の膜厚方向の幅と、当該結晶粒の膜面方向の幅との関係が、膜面方向の幅/膜厚方向の幅=1/10〜1/3の範囲であるPZT膜15を形成した。
(その2)
次に、もう一つのゾルゲル法を利用した圧電体薄膜素子の製造方法について説明する。
次に、もう一つのゾルゲル法を利用した圧電体薄膜素子の製造方法について説明する。
f.多孔質ゲル薄膜形成工程
先ず、前述した工程a及びbを、少なくとも1回以上繰り返し、多孔質ゲル薄膜の積層膜を形成する。なお、工程a及びbにおいて形成される膜厚、焼成温度は、前述した製造工程(その1)に準じる。
先ず、前述した工程a及びbを、少なくとも1回以上繰り返し、多孔質ゲル薄膜の積層膜を形成する。なお、工程a及びbにおいて形成される膜厚、焼成温度は、前述した製造工程(その1)に準じる。
本参考例では、積層膜の膜厚を、1μm以下に設定することが好ましく、0.5μm以下にすることがさらに好ましい。この積層膜の膜厚をこの程度にすることで、次の工程(工程c')におけるプレアニールの際に、膜にクラックが発生することを防止することができる。この工程によって、多孔質ゲル薄膜が複数枚積層された積層膜が得られた。
c'.プレアニール工程
次に、工程fで得た積層膜を焼成して、この積層膜を結晶質の金属酸化物からなる膜に変換する。この焼成は、積層膜を結晶質の金属酸化物からなる膜に変換するのに必要な温度で行うが、結晶中にペロブスカイト型結晶が大部分を占めるまで行う必要はなく、ゲル薄膜が均一に結晶化した時点で終了させればよい。また、この焼成の温度及び時間は、工程cとほぼ同じにすればよい。そしてまた、この焼成は、工程cと同様に、二段階に分けて行ってもよい。この工程により、多結晶質ゲル薄膜が複数枚積層された積層膜が、結晶質の薄膜に変換された。
次に、工程fで得た積層膜を焼成して、この積層膜を結晶質の金属酸化物からなる膜に変換する。この焼成は、積層膜を結晶質の金属酸化物からなる膜に変換するのに必要な温度で行うが、結晶中にペロブスカイト型結晶が大部分を占めるまで行う必要はなく、ゲル薄膜が均一に結晶化した時点で終了させればよい。また、この焼成の温度及び時間は、工程cとほぼ同じにすればよい。そしてまた、この焼成は、工程cと同様に、二段階に分けて行ってもよい。この工程により、多結晶質ゲル薄膜が複数枚積層された積層膜が、結晶質の薄膜に変換された。
d'.繰り返し工程
次に、工程f及びc'を、少なくとも1回以上繰り返す。すなわち、この工程では、工程a及びbを少なくとも1回以上繰り返して、多孔質ゲル薄膜の積層膜を形成し、これを焼成して結晶質の金属酸化物からなる膜に変換する工程をさらに1回以上繰り返す。このようにして、結晶質の金属酸化膜からなる膜を複数枚積層した積層膜を形成する。なお、繰り返される工程a、b及びc'における種々の条件は、前述した条件と同様にした。
次に、工程f及びc'を、少なくとも1回以上繰り返す。すなわち、この工程では、工程a及びbを少なくとも1回以上繰り返して、多孔質ゲル薄膜の積層膜を形成し、これを焼成して結晶質の金属酸化物からなる膜に変換する工程をさらに1回以上繰り返す。このようにして、結晶質の金属酸化膜からなる膜を複数枚積層した積層膜を形成する。なお、繰り返される工程a、b及びc'における種々の条件は、前述した条件と同様にした。
この工程d'によって得られた積層膜の膜厚は、最終的に得られるPZT膜15の膜厚を考慮して適宜決定されるが、後述する次工程(工程e')において、膜にクラック等が発生しない膜厚にすることが好ましい。
この繰り返し工程では、先に形成した膜上に新たに多孔質ゲル薄膜を形成し、その後のプレアニールの結果、新たに形成された多孔質ゲル薄膜は、先に形成された膜と実質的に一体化された膜となる。ここで、実質的に一体化された膜の定義は、前述した通りである。
なお、圧電体薄膜素子を形成するためのパターニングや、上電極16の形成は、この段階で行うことが好ましい。
その後、工程eを行い、下電極14上に、多結晶体からなり、かつ粒界が下電極14面に対して略垂直方向に存在するとともに、結晶体の結晶粒の膜厚方向の幅が、当該結晶粒の膜面方向の幅より長く、結晶粒の膜厚方向の幅と、当該結晶粒の膜面方向の幅との関係が、膜面方向の幅/膜厚方向の幅=1/10〜1/3の範囲であるPZT膜を形成した。
次に、図6(c)に示す工程では、図6(b)に示す工程で得たPZT膜上に、スパッタ法によって、膜厚が、0.2〜1.0μm程度のアルミニウムからなる上電極16を形成する。
このようにして、図2に示す圧電体薄膜素子を得た。なお、得られたPZT膜14には、クラックの発生がなく、また断面には前述した積層による層状の不連続面も存在していないことが確認された。
(参考例3)
次に、参考例3に係る圧電体薄膜素子(発明品1)と、PZT膜を構成する結晶体の粒界が下電極の面に対して略垂直方向に存在していない以外は、発明品1と同様の構造を備えた圧電体薄膜素子(比較品1)との圧電ひずみ定数(pC/N)を測定したところ、発明品1の圧電ひずみ定数は、150pC/Nであり、比較品1の圧電ひずみ定数は、100pC/Nであった。
次に、参考例3に係る圧電体薄膜素子(発明品1)と、PZT膜を構成する結晶体の粒界が下電極の面に対して略垂直方向に存在していない以外は、発明品1と同様の構造を備えた圧電体薄膜素子(比較品1)との圧電ひずみ定数(pC/N)を測定したところ、発明品1の圧電ひずみ定数は、150pC/Nであり、比較品1の圧電ひずみ定数は、100pC/Nであった。
この結果、発明品1は、比較品1に比べ、高い圧電ひずみ定数を示すことが確認された。なお、圧電ひずみ定数の測定は、2mmφのPZTドットパターンのインピーダンスアナライザを用いた誘電率測定と、片持ち梁の自由端に加重をかけた時に、ドットパターンに発生する電圧より求めた電圧出力係数との積により求めた。また、比較品1のPZT膜の断面を示すSEM写真を図8に、図8に示すPZT膜の平面を示すSEM写真を図9に示す。発明品1は、反りや歪みが少なく、良好な外観を備えていた。
なお、参考例3では、PZT膜を、スパッタ法あるいはゾルゲル法によって製造する場合について説明したが、これに限らず、結晶体の粒界が下電極の面に対して略垂直方向に存在した構造を備えたPZT膜を形成可能であれば、他の方法により製造してもよいことは勿論である。
また、参考例3では、結晶体の粒界が、電極の平面に対して略垂直方向に存在し、結晶体の結晶粒の膜厚方向の幅が、この結晶粒の膜面方向の幅より長く、結晶粒の膜厚方向の幅と、当該結晶粒の膜面方向の幅との関係が、膜面方向の幅/膜厚方向の幅=1/10〜1/3の範囲で構成されているPZT膜について説明したが、PZT膜は、少なくとも結晶体の粒界が、電極の平面に対して略垂直方向に存在していれば良い。
(参考例4)
図10は、他の圧電体薄膜素子を構成する下電極の断面を示す走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。なお、この参考例4では、既述の参考例3との相違点について説明し、参考例2と同様の構成及び工程に関しては、同一の符号を使用して、その詳細な説明は省略する。
図10は、他の圧電体薄膜素子を構成する下電極の断面を示す走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。なお、この参考例4では、既述の参考例3との相違点について説明し、参考例2と同様の構成及び工程に関しては、同一の符号を使用して、その詳細な説明は省略する。
この参考例に係る圧電体薄膜素子と、参考例2の圧電体薄膜素子と異なる点は、下電極の構造及び製造方法についてである。すなわち、本参考例に係る圧電体薄膜素子の下電極は、プラチナと酸化チタンとの化合物(プラチナ99重量%、酸化チタン1重量%)からなり、かつ、この化合物の結晶体の粒界が、図10に示すように、基板の表面に対して略垂直方向に存在した構造を有している。
また、この下電極を構成する結晶体は、その粒界が、PZT膜の膜面に対して略垂直方向に存在し、結晶粒の膜厚方向の幅と、膜面方向の幅との関係が、膜面方向の幅/膜厚方向の幅=1/10〜1/3となる範囲で構成されている。
このような構造を備えた下電極は、酸化チタンがプラチナの収縮を抑制するという理由から、PZT膜を形成する際に行われる熱処理によって、基板が、反ったり、歪んだりすることを抑制することができる。また、PZT膜及びチタン酸化膜との密着性を向上させることができる。
次に、この構造を備えた下電極の製造方法について説明する。
先ず、図6(a)に示す工程と同様の方法で、シリコン基板10上に、シリコン酸化膜11及びチタン酸化膜11Aを形成する。次に、チタン酸化膜上に、プラチナターゲットと酸化チタンターゲットを同時に放電させ、成膜するマルチスパッタ法により、下電極12を形成する。このようにすることで、プラチナと酸化チタンとの化合物(プラチナ99重量%、酸化チタン1重量%)からなり、かつ、この化合物の結晶体の粒界が、基板10の表面に対して略垂直方向に存在した構造を有し、さらに結晶粒の膜厚方向の幅と、膜面方向の幅との関係が、膜面方向の幅/膜厚方向の幅=1/10〜1/3となる範囲で構成された下電極12を得ることができる。
その後、前述した参考例3と同様の方法で、下電極12上にPZT膜14及び上電極16を形成し、圧電体薄膜素子を得た。この参考例4に係る圧電体薄膜素子も、高い圧電ひずみ定数を示すことが確認された。
次に、参考例4に係わる圧電体薄膜素子(発明品2)と、下電極をプラチナのみで形成した以外は、発明品2と同様の構造を備えた圧電体薄膜素子(比較品2)について、反りや歪みの発生を調査した。なお、図11は、この比較品2を構成する下電極の断面を示す走査型電子顕微鏡写真である。図11は、図10に対する比較例であり、PZTが柱状でない構造を示している。この調査は、前記圧電体薄膜素子が形成された基板の反りを測定することによって行った。
この結果、発明品2は、反りや歪みが殆ど生じなかったが、比較品2は、発明品2に比べ、反りや歪みの発生が大きいことが確認された。
また、発明品2と比較品2について、下電極12のPZT膜14との接着性、及び下電極12とチタン酸化膜11Aとの接着性を調査した。なお、この調査は、スクラッチ試験機によって行った。この結果、発明品2は、比較品2に比べ、下電極とPZT膜との接着性、及び下電極とチタン酸化膜との接着性とも、良好であることが確認された。
なお、本参考例では、下電極を既述の組成としたが、これに限らず、プラチナと酸化チタンの含有率は、プラチナが90〜99.5重量%、酸化チタンが0.5〜10重量%とすることができる。
また、本参考例では、下電極の結晶体の粒界が、基板10の表面に対して略垂直方向に存在し、さらに結晶粒の膜厚方向の幅と、膜面方向の幅との関係が、膜面方向の幅/膜厚方向の幅=1/10〜1/3となる範囲で構成された下電極14について説明したが、これに限らず、下電極は、少なくとも結晶体の粒界が、基板10の表面に対して略垂直方向に存在していればよい。
また、本参考例では、下電極を、プラチナと酸化チタンとの化合物から構成した場合について説明したが、これに限らず、下電極は、プラチナとPZT膜の構成要素である他の金属元素の酸化物との化合物から構成してもよい。この酸化物としては、酸化チタンの他、例えば、酸化鉛、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム及び酸化ニオブ等が挙げられる。
(参考例5)
次に、閉気孔(気孔)の径を制御することにより、圧電体薄膜中のクラックの発生を防止するようにした本発明の参考例について説明する。図1の点線部の断面拡大図を図12に示す。この図12に示すように、圧電体膜10中には、気孔20が存在しており、しかもその気孔は、角が丸く、結晶粒内、あるいは、結晶粒と結晶粒の間に、閉じこめられた閉気孔(個々の結晶粒は、図中に記載していない。)であり、その平均気孔径が、0.01〜0.1μmで且つ、面積密度が0.3〜5%である。
次に、閉気孔(気孔)の径を制御することにより、圧電体薄膜中のクラックの発生を防止するようにした本発明の参考例について説明する。図1の点線部の断面拡大図を図12に示す。この図12に示すように、圧電体膜10中には、気孔20が存在しており、しかもその気孔は、角が丸く、結晶粒内、あるいは、結晶粒と結晶粒の間に、閉じこめられた閉気孔(個々の結晶粒は、図中に記載していない。)であり、その平均気孔径が、0.01〜0.1μmで且つ、面積密度が0.3〜5%である。
圧電体膜の膜厚は、0.5〜25μm程度が好ましく、より好ましくは、1〜5μm程度である。更に、他の膜の厚さは、適宜決定されて良いが、例えばSi基板は、10〜1000μm程度、Si熱酸化膜は、0.05〜3μm程度、上電極及び下電極は、0.05〜2μm程度が好ましい。
以下に、この圧電体膜を用いた圧電体素子の製造方法を詳細に説明するが、製造方法は、これら参考例の製造方法に限定されない。
厚さ400μm、直径3インチのSi基板を硫酸で洗浄した後、1000℃で4時間、水蒸気を含む酸素雰囲気中で、加熱して湿式酸化を行い、1μmの厚さのSi熱酸化膜を形成した。次に、直流マグネトロンスパッタ法によって、膜厚200オングストロームのTi膜と、膜厚2000オングストロームのPt膜とを連続して形成した。更に、スパッタリングターゲットとして組成の制御されたPZTの焼結体を用い、RFマグネトロンスパッタ法によって、Pt膜上に膜厚1μmの圧電体膜前駆体膜を形成した。加熱せず、スパッタ成膜した為に、この前駆体膜は、アモルファス状態であった。
前駆体膜が形成されたSi基板を、拡散炉中で酸素雰囲気中にて加熱して、前駆体膜を結晶化し、焼結させて圧電体膜とした。その際の温度条件は、第1加熱工程として600℃で結晶化するまで加熱し、更にその後第2加熱工程として、750℃で焼結を行った。圧電体膜中の気孔の平均気孔径と面積密度の調整には、主にアモルファス状態での膜中のPb組成比、第1加熱工程温度、第2加熱工程時間が効く。アモルファス膜中Pbが多いと気孔径及び面積密度とも大きくなる傾向がある。第2加熱工程の温度が高いこと、あるいは、その加熱時間が長いと、気孔径が大きくなる傾向がある。
圧電体膜の上にさらに、直流マグネトロンスパッタ法によって、膜厚2000オングストロームのPt膜を形成し、最終的には、図1に示すように加工して、圧電体素子の形状とした。
上記に示すような製造条件の変更により、気孔の平均気孔径を変えて、圧電体素子を作成したところ、圧電体膜中のクラックの発生と上下電極間の電気リークは、表3に示すようになった。
気孔の観察は、サンプルを破断し、その破断面を走査型電子顕微鏡(SEM)にて、観察することによって行った。
但し、表3中に示すサンプルの気孔の面積密度は、1〜2%の範囲内とした。電気リークの測定は、直径2mmの円形の上電極を形成したサンプルを用い、電圧100Vを上下電極間に印加し測定した。クラックのあるサンプルは、クラック部でリークが生じていると思われる。
この結果により、平均気孔径が、0.01〜0.1μmで、クラックもなく、電気リークもないアクチュエータを得ることが出来ることが分かった。
この理由は、以下のようであると考えられる。圧電体は、キュリー温度を境にして、結晶構造が変わる相転移を起こすが、結晶化する為の熱処理温度は、キュリー温度より高いために、室温まで温度降下するときに、圧電体膜が緻密でありすぎると、その時の歪みを吸収できなくなり、クラックを生じてしまう。
また、熱膨張係数もシリコン基板に比べて大きいため、その熱応力を圧電体膜が吸収できない場合には、クラックを発生する可能性がある。
つまり、気孔がある程度あったほうが、歪み及び応力を吸収できるために、クラックなしの膜を得ることができるのである。
一方、気孔の直径が上記範囲より大きい場合には、圧電体膜に実行的にかかる電界強度が大きくなるために、リーク破壊の虞がある。
また、圧電体素子としての耐久加速試験を行った。条件としては、上下電極間にデューティー10%、周波数10KHz、30Vのパルス電圧を印加し、圧電体素子先端の変位量の変化を調べた。
その結果、平均気孔径が0.05μm以下の場合には、2×109回以上の繰り返し耐久性を示したが、平均気孔径が0.05μmを越え、0.1μm以下の場合に於いては、2×109回までに、変位量が低下してしまう。
(参考例6)
参考例5と同様にして、気孔の面積密度を変えて、アクチュエータを作成したところ、圧電体膜中のクラックの発生と上下電極間の電気リークは、表4に示すようになった。
参考例5と同様にして、気孔の面積密度を変えて、アクチュエータを作成したところ、圧電体膜中のクラックの発生と上下電極間の電気リークは、表4に示すようになった。
但し、表4中に示すサンプルの気孔の平均気孔径は、0.03〜0.07μmの範囲内とした。この結果により、気孔の面積密度が0.3〜3%で、クラックもなく、電気リークもないアクチュエータを得ることが出来ることが分かった。気孔の面積密度が上記範囲より大きい場合には、圧電体膜に実行的にかかる電界強度が大きくなるために、リーク破壊の虞がある。
また、圧電体素子としての耐久加速試験を行った。条件としては、参考例1と同じとした。その結果、気孔の面積密度が1%以下の場合には、2×109回以上の耐久性を示したが、気孔の面積密度が、1%を越え、5%以下の場合に於いては、2×109回までに、変位量が低下してしまう。
参考例5及び6に於いて、基板としてSi基板を用いたが、マグネシア、アルミナ、ジルコニア等のセラミック基板を用いても良いし、圧電体膜として、2成分系PZTを用いて、説明したが、もちろん用途によって、圧電体膜の材料を変えることが望ましく、例えば、後述するインクジェット記録ヘッドの場合に於いては、キュリー点が200℃以上で、高い圧電歪定数d31を得ることが出来る3成分系PZTであることが望ましく、更に望ましくは、第3成分としてマグネシウムニオブ酸鉛を用いた、3成分系PZTであることが望ましい。
図1には、ユニモルフ型のアクチュエータの例で、説明したが、図13に示すように、バイモルフ型のアクチュエータにも応用は可能である。これは、12の下電極に対して対称になった構造をなしており、101、201は、共に、圧電体膜であり、103、203は、共に、上電極である。
他の実施の形態
III.次に、以上説明した圧電体薄膜素子を備えたインクジェット記録装置について説明する。このインクジェット式記録ヘッドを模式的に表す断面図を示す。図14は、本発明に係る圧電体薄膜素子を振動子として使用したインクジェット式記録ヘッドの一つのインク溜め部分を示す。
III.次に、以上説明した圧電体薄膜素子を備えたインクジェット記録装置について説明する。このインクジェット式記録ヘッドを模式的に表す断面図を示す。図14は、本発明に係る圧電体薄膜素子を振動子として使用したインクジェット式記録ヘッドの一つのインク溜め部分を示す。
このインクジェット式記録ヘッドは、インク溜め27が形成されたシリコン基板21と、シリコン基板21上に形成された振動板22と、振動板22上の所望位置に形成された下電極23と、下電極23上であって、インク溜め27に対応した位置に形成された圧電体薄膜24と、圧電体薄膜24上に形成された上電極25と、シリコン基板21の下面に接合された第2の基板26と、を備えて構成されている。この基板26には、インク溜27に連通するインク吐出ノズル26Aが設けられている。
下電極23は、既述の参考例及び実施例で説明された構成を有している。また、圧電体薄膜24についても同様である。
このインクジェット式記録ヘッドは、図示しないインク流路を介してインク溜め27にインクが供給される。ここで、下電極23と上電極25とを介して、圧電体膜24に電圧を印加すると、圧電体膜24が変形してインク溜め27内を負圧にし、インクに圧力を加える。この圧力によって、インクが図示しないノズルから吐出され、インクジェット記録を行う。
ここで、インクジェット式記録ヘッドは、既述の圧電特性に優れた圧電体薄膜素子を振動子として用いているため、大きな圧力でインクを吐出させることができる。
より具体的には、次のとおりである。圧電体薄膜は、フォトエッチングにより幅0.2mm、長さ4mmにパターニングし、シリコン基板に異方性エッチングにより幅0.3mmの溝を形成した。上電極を形成した後、ガラス製の第2基板と接合し、インク流路を形成した。基板ごと切断してインクジェットヘッドを組み立て、インクを吐出させたところ、充分な吐出力が得られた。インクジェット記録装置に組み込んで印字すると、良好な印字品質が得られた。
また、この記録ヘッドは、例えば、Si熱酸化膜を振動板とし、その上部に、下電極、圧電体膜、上電極で構成される薄膜圧電体素子を薄膜プロセスにより一体成形し、且つキャビティー(インク溜)が形成された単結晶シリコン基板からなるチップと、インク吐出するノズルを備えたステンレス製のノズル板(第2の基板)が、接着剤により、張り合わせた構造となっている。ここでは、より大きな変位量が稼げるように、圧電体膜として、圧電歪定数d31の高い材料として、例えば第3成分としてマグネシウムニオブ酸鉛を添加した3成分系PZTを用い、その厚みを2μmとした。圧電体膜は、その断面にて、気孔が存在し、平均気孔径が、0.01〜0.1μmで且つ、面積密度が0.3〜5%の範囲内にあると、実際のインクジェット記録ヘッドの信頼性5年に対応する、耐久性試験を行い、インク噴射させ、印字したところ、4×109回の印字に問題はなかった。
フォトエッチングを用いると、印字の高精細化が可能で、一枚の基板から多数の素子が取れるため低コスト化も可能である。また製造安定性、特性の再現性も大変優れていた。すなわち、本発明による薄膜圧電体素子を利用することで、製造工程が簡略で、高密度なインクジェット記録ヘッドを歩留り良く作ることが可能となる。
本発明による薄膜圧電体素子は、その良好な特性を利用して、種々の用途に用いられて良い。例えば、既述のように、インクジェット記録ヘッドの振動子として利用されることである。
以上述べたように本発明の圧電体薄膜素子は、最適な結晶配向性を持ったPZT薄膜を用いることにより、圧電特性を向上することができる。
本発明に係る圧電体薄膜素子は、この構成要素である圧電体膜の結晶体の粒界が、電極面に対して略垂直方向に存在しているため、クラックを発生させることなく、圧電ひずみ定数を向上させることができる。この結果、信頼性の高い、高性能な圧電体薄膜素子を提供することができる。
また、結晶体の結晶粒の膜厚方向の幅を、結晶粒の膜面方向の幅より長くすることで、この効果を向上することができる。結晶体の結晶粒の膜厚方向の幅と、当該結晶粒の膜面方向の幅との関係を、既述の範囲に具体的に定めることによって、この効果をより一層向上することができる。
そしてまた、下電極をプラチナと、圧電体膜の構成要素である金属元素の酸化物との化合物から構成することで、圧電体膜を形成する際に行われる熱処理によって、基板が、反ったり、歪んだりすることを抑制することができる。また、圧電体膜や基板との密着性を向上させることもできる。
また、下電極を構成する結晶体の粒界を、圧電体膜の膜面に対して略垂直方向に存在させることで、この効果を向上させることができる。さらにまた、下電極を構成する結晶体の結晶粒の膜厚方向の幅を、この結晶粒の膜面方向の幅より長くすることで、この効果をさらに向上することができる。
また、本発明の薄膜圧電体素子は、膜厚が、0.5μm以上と比較的厚い薄膜でもクラックなしで、容易に製造することが可能となり、インクジェット記録ヘッドに用いた場合に於いても、高密度の記録ヘッドを歩留り良く製造できる。さらに、本発明の薄膜圧電体素子をアクチュエータに用いた場合に於いて、変位駆動させた時の繰り返し耐久性試験に於いても、良好な再現性を示す。
また、本発明に係るインクジェット式記録ヘッドは、既述の圧電体薄膜素子を振動子として備えるため、大きな圧力でインクを吐出させることができるという効果を有する。
10…シリコン基板、12…下電極、14…圧電体膜、16…上電極。
Claims (8)
- シリコン基板に形成された下電極と、Pb、ZrおよびTiを構成元素として含む圧電体膜と、上電極と、を有する圧電体素子であって、
前記下電極が、プラチナ及び酸化チタンを含み、前記シリコン基板側にチタン酸化膜が形成され、前記チタン酸化膜上にプラチナ膜が形成され、前記チタン酸化膜が0.005〜0.04μmの膜厚であり、前記プラチナ膜が0.2〜0.8μmの膜厚から構成され、
前記下電極において、前記酸化チタンの含有率は0.5重量%以上10重量%以下であることを特徴とする圧電体素子。 - 前記下電極の結晶粒の粒界が、膜厚方向に延びることを特徴とする請求項1に記載の圧電体素子。
- 前記下電極の結晶粒は、膜面方向の幅と膜厚方向の幅との関係(膜面方向の幅/膜厚方向の幅)が、1/10〜1/3の範囲であることを特徴とする請求項2に記載の圧電体素子。
- 前記圧電体膜は、チタン酸ジルコン酸鉛を含み、菱面体晶系の結晶構造を備え、X線回折薄膜法で測定した(100)、(110)、(111)、(210)および(211)の結晶面反射強度の総和に対する(100)の結晶面反射強度の比で表される(100)配向度が、30%以上であることを特徴とする請求項1乃至3何れか一項に記載の圧電体素子。
- 前記圧電体膜の結晶粒が、前記下電極から前記上電極方向に延びる柱状であることを特徴とする請求項1乃至4何れか一項に記載の圧電体素子。
- 前記圧電体膜の結晶粒の膜面方向の幅と膜厚方向の幅との関係(膜面方向の幅/膜厚方向の幅)が、1/10〜1/3の範囲であることを特徴とする請求項5に記載の圧電体素子。
- 前記圧電体膜中に気孔を有し、前記気孔の平均気孔径が0.03μm以上0.07μm以下であり、前記気孔の面積密度が0.3%以上3%以下であることを特徴とする請求項1乃至6何れか一項に記載の圧電体素子。
- 請求項1乃至7何れか一項に記載の圧電体素子を備えることを特徴とするインクジェット式記録ヘッド。
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