図1は、実施形態に係るブレーキ制御装置10の構成を示す図である。図1に示すブレーキ制御装置10は、車両用の電子制御式ブレーキシステム(ECB)を構成しており、運転者によるブレーキ操作部材としてのブレーキペダル12の操作量にもとづいて車両の4輪のブレーキを最適に制御するものである。
ブレーキペダル12は、運転者による踏み込み量に応じて作動液を送り出すマスタシリンダ14に接続されている。ブレーキペダル12には、その踏み込み量を検出するためのストロークセンサ46が設けられている。
実施形態に係るストロークセンサ46は、非接触式のホールIC型の磁気センサである。ストロークセンサ46は、ブレーキペダル12の回転軸に設けられ、図示しない電源部から電流が供給される。また、ストロークセンサ46は、ホールICの回路において、検出した値に温度補正等を施してECU(Electronic control unit)200に出力する。
車速センサ45は、車両の車速情報を検出し、検出値をECU200に出力する。なお、車輪速センサが車両の車速情報を検出してよい。アクセルセンサ47は、アクセルペダル(図示せず)の踏み込み量を検出し、その検出値をECU200に出力する。アクセルセンサ47は、アクセルペダルの操作を検出するアクセル操作検出手段として機能する。
ストップランプスイッチ(図示せず)は、ブレーキペダル12の踏み込みの有無を検出する。ストップランプスイッチは、車両の後方に設けられるブレーキランプの点灯制御に用いられる。たとえば、運転者によりブレーキペダル12が踏み込まれると、ストップランプスイッチがONされて、ブレーキランプが点灯し、ブレーキペダル12の踏み込みが解除されると、ストップランプスイッチがOFFされて、ブレーキランプが消灯する。
マスタシリンダ14の第1出力ポート14aには、運転者によるブレーキペダル12の踏力に応じたペダルストロークを創出するストロークシミュレータ24が接続されている。
マスタシリンダ14とストロークシミュレータ24とを接続する流路の中途には、シミュレータカット弁23が設けられている。シミュレータカット弁23は、通電することにより開弁し、非通電時に閉弁する常閉型の電磁開閉弁である。また、マスタシリンダ14には、作動液を貯留するためのリザーバタンク26が接続されている。
マスタシリンダ14の第1出力ポート14aには、右前輪用のブレーキ油圧制御管18が接続されており、ブレーキ油圧制御管18は、右前輪に対して制動力を付与する右前輪用のホイールシリンダ20FRに接続されている。また、マスタシリンダ14の第2出力ポート14bには、左前輪用のブレーキ油圧制御管16が接続されており、ブレーキ油圧制御管16は、左前輪に対して制動力を付与する左前輪用のホイールシリンダ20FLに接続されている。
右前輪用のブレーキ油圧制御管18の中途には、右電磁開閉弁22FRが設けられており、左前輪用のブレーキ油圧制御管16の中途には、左電磁開閉弁22FLが設けられている。これらの右電磁開閉弁22FRおよび左電磁開閉弁22FLは、何れも、非通電時に開状態にあり、通電時に閉状態に切り換えられる常開型電磁弁である。
また、右前輪用のブレーキ油圧制御管18の中途には、右前輪側のマスタシリンダ圧を検出する右マスタシリンダ圧センサ48FRが設けられており、左前輪用のブレーキ油圧制御管16の途中には、左前輪側のマスタシリンダ圧を計測する左マスタシリンダ圧センサ48FLが設けられている。なお、以下では適宜、右マスタシリンダ圧センサ48FRおよび左マスタシリンダ圧センサ48FLを総称して、「マスタシリンダ圧センサ48」という。
ブレーキ制御装置10では、運転者によってブレーキペダル12が踏み込まれた際、ストロークセンサ46によりその踏み込み量が検出されるが、これらの右マスタシリンダ圧センサ48FRおよび左マスタシリンダ圧センサ48FLによって検出されるマスタシリンダ圧からもブレーキペダル12の踏み込み操作力(踏力)を求めることができる。
一方、リザーバタンク26には、油圧給排管28の一端が接続されており、この油圧給排管28の他端には、モータ32により駆動されるオイルポンプ34の吸込口が接続されている。オイルポンプ34の吐出口は、高圧管30に接続されており、この高圧管30には、アキュムレータ50とリリーフバルブ53とが接続されている。本実施形態では、オイルポンプ34として、モータ32によってそれぞれ往復移動させられる2体以上のピストン(図示せず)を備えた往復動ポンプが採用される。また、アキュムレータ50としては、作動液の圧力エネルギを窒素等の封入ガスの圧力エネルギに変換して蓄えるものが採用される。
アキュムレータ50は、オイルポンプ34によって例えば14〜22MPa程度にまで昇圧された作動液を蓄える。また、リリーフバルブ53の弁出口は、油圧給排管28に接続されており、アキュムレータ50における作動液の圧力が異常に高まって例えば25MPa程度になると、リリーフバルブ53が開弁し、高圧の作動液は油圧給排管28へと戻される。さらに、高圧管30には、アキュムレータ50の出口圧力、すなわち、アキュムレータ50における作動液の圧力を検出するアキュムレータ圧センサ51が設けられている。
そして、高圧管30は、増圧弁40FR、40FL、40RR、40RLを介して右前輪用のホイールシリンダ20FR、左前輪用のホイールシリンダ20FL、右後輪用のホイールシリンダ20RRおよび左後輪用のホイールシリンダ20RLに接続されている。以下、適宜、ホイールシリンダ20FR〜20RLを総称して「ホイールシリンダ20」といい、適宜、増圧弁40FR〜40RLを総称して「増圧弁40」という。増圧弁40は、何れも、非通電時は閉じた状態にあり、必要に応じてホイールシリンダ20の増圧に利用される常閉型の電磁流量制御弁(リニア弁)である。なお、図示されない車両の各車輪に対しては、ディスクブレーキユニットが設けられており、各ディスクブレーキユニットは、ホイールシリンダ20の作用によってブレーキパッドをディスクに押し付けることで制動力を発生する。
また、右前輪用のホイールシリンダ20FRと左前輪用のホイールシリンダ20FLとは、それぞれ減圧弁42FRまたは42FLを介して油圧給排管28に接続されている。減圧弁42FRおよび42FLは、必要に応じてホイールシリンダ20FR,20FLの減圧に利用される常閉型の電磁流量制御弁(リニア弁)である。一方、右後輪用のホイールシリンダ20RRと左後輪用のホイールシリンダ20RLとは、常開型の電磁流量制御弁である減圧弁42RRまたは42RLを介して油圧給排管28に接続されている。以下、適宜、減圧弁42FR〜42RLを総称して「減圧弁42」という。
右前輪用、左前輪用、右後輪用および左後輪用のホイールシリンダ20FR〜20RL付近には、それぞれ対応するホイールシリンダ20に作用する作動液の圧力であるホイールシリンダ圧を検出するホイールシリンダ圧センサ44FR,44FL,44RRおよび44RLが設けられている。以下、適宜、ホイールシリンダ圧センサ44FR〜44RLを総称して「ホイールシリンダ圧センサ44」という。
上述の右電磁開閉弁22FRおよび左電磁開閉弁22FL、増圧弁40FR〜40RL、減圧弁42FR〜42RL、オイルポンプ34、アキュムレータ50等は、ブレーキ制御装置10の油圧アクチュエータ81を構成する。そして、かかる油圧アクチュエータ81は、ECU200によって制御される。
ECU200は、ホイールシリンダ20FR〜20RLにおけるホイールシリンダ圧を制御する制御手段として機能する。ECU200は、各種演算処理を実行するCPU、各種制御プログラムを格納するROM、データ格納やプログラム実行のためのワークエリアとして利用されるRAM、エンジン停止時にも記憶内容を保持できるバックアップRAM等の不揮発性メモリ、入出力インターフェース、各種センサ等から入力されたアナログ信号をデジタル信号に変換して取り込むためのA/Dコンバータ、計時用のタイマ等を備えるものである。
ECU200には、上述の電磁開閉弁22FR,22FL、シミュレータカット弁23、増圧弁40FR〜40RL、減圧弁42FR〜42RL等の油圧アクチュエータ81を含む各種アクチュエータ類が電気的に接続されている。
また、ECU200には、制御に用いるための信号を出力する各種センサ・スイッチ類が電気的に接続されている。すなわち、ECU200には、ストロークセンサ46からブレーキペダル12のペダルストロークを示す信号が入力され、マスタシリンダ圧センサ48からマスタシリンダ圧を示す信号が入力され、ストップランプスイッチからブレーキランプのON/OFFを示す信号が入力される。
このように構成されるブレーキ制御装置10では、運転者によってブレーキペダル12が踏み込まれると、ECU200により、ブレーキペダル12の踏み込み量を表すペダルストロークとマスタシリンダ圧とから車両の目標制動力が算出され、算出された目標制動力に応じて各車輪のホイールシリンダ圧の目標値である目標油圧が求められる。そして、ECU200により増圧弁40、減圧弁42が制御され、各車輪のホイールシリンダ圧が目標油圧になるよう制御される。
ところで、ストロークセンサ46は、電源部から供給される供給電圧の低下時に、出力が不定となることを防止するため、供給電圧を出力電圧としてそのまま出力する。このとき、ストロークセンサ46の出力電圧にもとづいて目標制動力が決定されれば、運転者が意図しない制動力が発生しうる。一方、ストロークセンサ46の供給電圧の低下時に、マスタシリンダ圧は、ブレーキペダル12が踏み込まれていなければ、上昇しない。したがって、ストロークセンサ46の出力から制動要求が得られ、マスタシリンダ圧センサ48の出力から制動要求が得られない場合がある。
そこで、ECU200は、たとえばストロークセンサ46の出力とマスタシリンダ圧センサ48の出力とが正常な関係を満たすかどうか判定することで、ストロークセンサ46およびマスタシリンダ圧センサ48のいずれかの出力が正常でないと判定することができる。しかしながら、この判定では、ECU200が、ストロークセンサ46およびマスタシリンダ圧センサ48のどちらの出力が正常でないか特定できていない。実施形態においては、以下に説明する方法でどちらのセンサの出力が正常でないか特定する。
実施形態に係るECU200は、アクセルセンサ47の出力にもとづいてアクセルペダルの踏み込みの有無を検出する。一般に、運転者がアクセルペダルを踏み込んでいれば、ブレーキペダル12を踏み込んでいない。そこで、ECU200は、アクセルペダルが踏み込まれていれば、ブレーキペダル12が踏み込まれていないと推定する。ストロークセンサ46の出力から制動要求が得られ、アクセルペダルの踏み込みからブレーキペダル12が踏み込まれていないと推定できた場合、ストロークセンサ46の出力とアクセルセンサ47の出力から得られた結果が相反する。
そこで、ECU200は、マスタシリンダ圧センサ48の出力と、ストロークセンサ46の出力の関係が正常であるかどうか、および、ストロークセンサ46の出力から得られた制動要求とアクセルペダルの踏み込みの有無とに矛盾があるかどうかを判定し、ストロークセンサ46の出力が正常であるかどうかを特定する。たとえばECU200は、マスタシリンダ圧センサ48から制動要求がなく、ストロークセンサ46から制動要求があり、アクセルペダルが踏み込まれていれば、ストロークセンサ46の出力が正常でないと特定する。これにより、ストロークセンサ46およびマスタシリンダ圧センサ48のいずれの出力が正常でないか、それ以外のセンサを用いて特定することができる。
さらに、ECU200は、ストロークセンサ46の出力が正常でないと特定して、ストロークセンサ46の出力を補正する。補正をすることで、ストロークセンサ46の出力が正常でないと判定されても、ストロークセンサ46の出力を使用しないブレーキモードに切り替えることなく、ブレーキ制御を維持することができる。
なお、アクセルペダルが踏み込まれていれば、ブレーキペダル12が踏み込まれていないのが通常であるが、運転者がアクセルペダルとブレーキペダル12を同時に踏む運転(以下、「両踏み運転」という)を行う場合がまれにある。また、マスタシリンダ圧の初期応答性は鈍く、ブレーキペダル12が軽く踏み込まれても、マスタシリンダ圧センサ48の出力がほとんど変化しない領域がある。
両踏み運転において、ブレーキペダル12が運転者の足の自重などにより軽く踏まれている場合、マスタシリンダ圧の初期応答性が鈍いため、マスタシリンダ圧センサ48の出力はあまり変化しない。このとき、両踏み運転時において、ストロークセンサ46の出力が正常であっても、マスタシリンダ圧センサ48から制動要求がなく、ストロークセンサ46から制動要求があり、アクセルペダルが踏み込まれている場合が成立しうる。なお、運転者がブレーキペダル12を強く踏み込めば、マスタシリンダ圧が応答性の鈍い領域を超えて、上昇する。
図2は、ストロークセンサ46の出力とマスタシリンダ圧センサ48の出力との正常な関係を示す。縦軸がマスタシリンダ圧センサ48の出力を示し、横軸がストロークセンサ46の出力を示す。実線92は、ストロークセンサ46の出力とマスタシリンダ圧センサ48の出力との正常な関係を示す。実線92は、両センサの出力の関係が比例関係になく、ブレーキペダル12の踏み込み時のマスタシリンダ圧の初期応答性が鈍いことを示す。
たとえば、ECU200は、ストロークセンサ46の出力値とマスタシリンダ圧センサ48の出力値との関係が実線92から所定値以内にあれば、正常な関係を満たすと判定する、すなわち、ECU200は、ストロークセンサ46の出力値がマスタシリンダ圧センサ48の出力値PMC0に応じた基準ストローク出力値ST0から所定値以内にあれば、正常な関係を満たすと判定する。
ストロークセンサ46の出力値がST0からST1の範囲内では、マスタシリンダ圧センサ48の出力はあまり変化していない。そのため、この範囲のブレーキペダル12の踏み込みがあったとしても、マスタシリンダ圧センサ48によっての出力値を用いて両者の関係が正常であるか精度良く判定することが困難である。出力値ST0から出力値ST1の範囲と、出力値PMC0から出力値PMC1の範囲を、マスタシリンダ圧の応答性が鈍い初期応答領域という。
ここで、両踏み運転時に、ブレーキペダル12が軽く踏まれていれば、マスタシリンダ圧センサ48が出力値PMC0で、ストロークセンサ46が出力値ST1を示す場合がある。このとき、所定値の大きさによっては、マスタシリンダ圧センサ48の出力およびストロークセンサ46の出力が正常であっても、ECU200により正常な関係を満たさないと判定される。そこで、たとえば所定値を|ST1−ST0|より大きい値に設定することで、ストロークセンサ46の出力値とマスタシリンダ圧センサ48の出力値が正常な関係を満たすかどうか精度良く判定することができる。
一方、ストロークセンサ46またはマスタシリンダ圧センサ48のどちらかの出力が初期応答領域を超えていれば、出力値が正常な関係を満たすかどうかを精度良く判定できる。たとえば、マスタシリンダ圧センサ48の出力が出力値PMC2であれば、ストロークセンサ46の出力値が基準ストローク出力値ST2から所定値以上にずれれば、ECU200は、ストロークセンサ46およびマスタシリンダ圧センサ48のいずれかの出力が正常でないと判定する。
図3は、実施形態に係るECU200の機能構成を示す。ECU200は、センサ値取得部72、アクセル操作検出部74、判定部78、待機時間導出部80、ストローク補正部82、制動要求量算出部84、制動要求量制限部86、上限値保持部88、および制御部90を備える。
センサ値取得部72は、ストロークセンサ46の出力値(以下、「ストローク出力値」という)、マスタシリンダ圧センサ48の(以下、「マスタ出力値」という)、車速センサ45の出力値およびアクセルセンサ47の出力値を取得する。
制動要求量算出部84は、ストローク出力値およびマスタ出力値をセンサ値取得部72から受け取る。制動要求量算出部84は、ストローク出力値にもとづいてストローク制動要求量を算出し、マスタ出力値にもとづいてマスタ制動要求量を算出する。なお、制動要求量算出部84は、ストローク補正部82により補正されたストローク出力値を受け取って、ストローク制動要求量を算出してよい。制動要求量算出部84は、算出した制動要求量を制動要求量制限部86と判定部78に供給する。
制動要求量制限部86は、ストローク制動要求量がマスタシリンダ圧センサ48の出力値に応じた制動要求量の上限値を超えていれば、ストローク制動要求量を上限値に制限する。上限値は、マスタシリンダ圧センサ48の出力値から得られたマスタ制動要求量から誤差が許容できる範囲に定められてよく、マスタ制動要求量より大きい値に定められる。また、上限値は、2次元マップとして記憶されていてよい。また、上限値とマスタ制動要求量の差分は、マスタ制動要求量が大きくなれば、小さくなるようにしてよい。これにより、マスタシリンダ圧センサ48の初期応答性の鈍さを吸収することができる。
ここで、図4を参照して、ストローク制動要求量の制限処理について説明する。図4は、実施形態に係るストロークセンサ46の出力値と、ストロークセンサ46の出力値から得られたストローク制動要求量との関係を示す。縦軸は、ストロークセンサ46の出力値から得られたストローク制動要求量を示し、横軸は、ストロークセンサ46の出力値を示す。
制動要求量算出部84は、ストローク出力値ST5に応じてストローク制動要求量Gxを算出し、制動要求量制限部86に供給する。このとき、制動要求量制限部86は、マスタ出力値に応じて上限値Mを定める。制動要求量制限部86は、ストローク制動要求量Gxが、マスタ出力値に応じた上限値Mを超えているため、上限値Mをあらたなストローク制動要求量Mとして制御部90に出力する。
一方、制動要求量制限部86は、ストローク制動要求量が、マスタ出力値に応じた上限値を超えていなければ、受け取ったストローク制動要求量をそのまま制御部90に出力する。
独立配線で、電源部の電圧変動に対する影響が少ないマスタシリンダ圧センサ48の出力は、ストロークセンサ46の出力より信頼性が高い。ストローク制動要求量をマスタ出力値に応じた上限値で規制することで、ストローク制動要求量が、信頼性の高いマスタ制動要求量から大きくずれないように制限することができる。上限値保持部88は、マスタ出力値に応じた上限値を保持する。
図2に戻る。制御部90は、制限されたストローク制動要求量と、マスタ制動要求量にもとづいて油圧アクチュエータ81の目標油圧を決定する。制御部90は、決定した目標油圧に応じた電流値を油圧アクチュエータ81の電磁制御弁に付与する。なお、制御部90は、ストローク補正部82から補正されたストローク制動要求量を取得して目標油圧を決定してよい。
アクセル操作検出部74は、アクセルセンサ47の出力値を受け取り、アクセルペダルの操作を検出する。アクセル操作検出部74は、検出した情報を判定部78に供給する。
判定部78は、アクセル操作検出部74によりアクセルペダルの操作が検出され、ストロークセンサ46の出力とマスタシリンダ圧センサ48の出力とが正常な関係を満たさない場合に、ストロークセンサ46の出力が正常でないと判定する。具体的に、判定部78は、アクセル操作検出部74によりアクセルペダルの操作が検出され、ストロークセンサ46の出力値がマスタシリンダ圧センサ48の出力値に応じた基準ストローク出力値より所定値以上に大きい場合に、ストロークセンサ46の出力が正常でないと判定する。基準ストローク出力値は、マスタ出力値に応じて定められ、ストローク出力値およびマスタ出力値の理想的な関係を示す基準値であってよい。また、基準ストローク出力値は、2次元マップとして保持されてよい。なお、判定部78は、マスタシリンダ圧センサ48の出力値がストロークセンサ46の出力値に応じた基準マスタ出力値より所定値以上に小さければ、正常な関係を満たさないと判定してもよい。
具体的には、正常な関係を満たさないという判定結果から、ストロークセンサ46およびマスタシリンダ圧センサ48の出力のいずれかが正常でないことと、ストロークセンサ46の出力から制動要求が得られたことを導く。さらに、アクセルペダルの操作が検出されたことからブレーキペダル12が踏み込まれていないと推定する。これにより、ストロークセンサ46およびマスタシリンダ圧センサ48のいずれの出力が正常でないかどうか、それ以外のセンサを用いて精度良く特定する。
基準ストローク出力値から所定値以上のずれかどうかを判定することで、基準ストローク値に一定の幅を持たせ、基準値から所定値以内のずれを正常でないと過剰に判定することを抑制できる。なお、所定値は、初期応答領域にもとづく値より大きい値、たとえば図2の|ST1−ST0|より大きい値に定められてよい。また、所定値は、マスタ出力値またはストローク出力値に応じて変化してよい。たとえば、マスタシリンダ圧が小さい場合は、初期応答性が鈍いため、所定値を比較的大きい値に設定し、マスタシリンダ圧が上昇して大きくなると、所定値を比較的小さい値に設定してよい。所定値を設けることで、過剰に正常でないと判定することを抑制する。また、所定値を比較的大きい値に設定することで、正常な関係を満たすかどうかを判定する精度が向上する。
なお、判定部78は、アクセルペダルの操作が検出され、ストローク出力値から制動要求が得られ、マスタ出力値から制動要求が得られない場合に、ストロークセンサ46の出力が正常でないと判定してよい。ストローク出力値から制動要求が得られないとは、ストローク出力値が、ストロークセンサ46の出力のゼロ点から微少値以内であることをいう。また、マスタ出力値から制動要求が得られないとは、マスタ出力値が、マスタシリンダ圧センサ48の出力のゼロ点から微少値以内であることをいう。
判定部78は、ストロークセンサ46の出力値が所定の閾値以上であり、マスタシリンダ圧センサ48の出力値から制動要求が得られない場合に、ストロークセンサ46の出力が正常でないと判定する。ブレーキペダル12がある程度以上に踏み込まれ、ストローク出力値が所定の閾値以上である場合に、ストローク出力値およびマスタ出力値が正常な関係を満たすかどうか判定することで、両者の関係を精度良く判定することができる。また、両踏み運転であり、ストロークセンサ46の出力が正常である場合に、ストロークセンサ46の出力の補正が実行されることを抑制することができる。なお、所定の閾値は、初期応答領域にもとづいて定められてよい。
ストローク補正部82は、判定部78によりストロークセンサ46が正常でないと判定されたときに、ストロークセンサ46の出力を補正する。具体的には、ストローク補正部82は、マスタ出力値に応じた基準ストローク出力値と、ストローク出力値との差分にもとづいて補正をしてよい。ストロークセンサ46が正常でないと判定されても、ストロークセンサの出力を使用しないブレーキモードに切り替えることなく、ブレーキ制御を維持することができる。なお、急激な制動力の変化を抑制するため、ストローク補正部82は、基準ストローク出力値とストローク出力値との差分を少しずつ徐減するように補正してよい。
判定部78によりストロークセンサ46の出力が正常でないとひとたび判定されれば、ストローク補正部82は、ストロークセンサの出力値を、マスタシリンダ圧センサの出力値に応じた基準ストローク出力値になるように補正してもよい。すなわち、ストローク補正部82は、アクセルペダルの操作が検出され、かつ、ストローク出力値がマスタ出力値に応じた基準ストローク出力値より所定値以上に大きいとされてから、ストロークセンサ46の出力の補正を開始し、制動要求が継続している間、補正をする。制動要求が継続している間とは、たとえば、ゼロ点より大きいストローク出力値が継続して出力されている間をいう。
なお、判定部78により、マスタ出力値から制動要求が得られず、ストロークセンサ46の出力が正常でないと判定されれば、ストローク補正部82は、ストロークセンサ46の出力値から制動要求が得られなくなるまで補正してよい。すなわち、ストローク補正部82は、判定部78によりマスタ出力値から制動要求が得られていないことを確定させて、ストローク制動要求量がゼロになるように補正する。
たとえば、図2に示すように、ストロークセンサ46の出力が出力値ST2を示せば、初期応答領域の範囲外で、判定部78により正常な関係を満たすかどうか確実に判定できたことになる。そして、アクセルペダルの踏み込みも検出すれば、ストロークセンサ46の出力が正常でないと確実に判定できる。一度、確実に正常でないと判定できれば、その制動要求が継続している間、ストロークセンサ46の出力値から制動要求が得られなくなるまで補正する。これにより、基準ストローク出力値とストローク出力値とのずれが所定値以下になっても補正をすることができる。
また、ストローク補正部82は、判定手段によりストロークセンサ46の出力が正常でないと判定された場合、ストローク制動要求量が上限値に制限されているかどうかにより、ストロークセンサ46の出力の補正量を変えてよい。ストローク補正部82は、マスタ出力値に応じた上限値を上限値保持部88から取得する。
ここで、図4を参照して、説明する。ストローク出力値ST5であり、このときのマスタ出力値に応じて上限値Mが定められている。制動要求量制限部86は、ストローク出力値ST5に応じたストローク制動要求量Gxを、上限値Mに制限している。このとき、ストローク補正部82は、ストロークセンサ46の出力を上限値に応じた出力値ST4以上の範囲で補正すれば、急減するように補正しても、ストローク制動要求量Mに変化はない。そこで、ストローク補正部82は、出力値ST5を早く出力値ST4にするように補正をする。これにより、運転者に与える制動力の変化を抑えつつ、ストロークセンサ46の出力が正常でない場合に、ストローク補正部82は素早く補正をすることができる。
一方、ストローク補正部82は、ストローク制動要求量が上限値以下であれば、ストロークセンサ46の出力値をゆっくり漸減させるように補正する。これにより、運転者に与える制動力の変化を穏やかにすることができる。
以上より、ストローク制動要求量が上限値に制限されている場合は、ストローク補正部82は、上限値に応じたストローク出力値まで急激に下げるようにストローク出力値を補正をし、ストローク制動要求量が上限値以下である場合は、ゆっくり漸減するようにストローク出力値を補正をする。これにより、運転者に与える制動力の変化を抑えつつ、制限されている余分なストロークセンサ46の出力を速やかに低減することができる。
車速検出部(図示せず)は、車速センサ45の出力値にもとづき車両の車速を検出し、待機時間導出部80に供給する。待機時間導出部80は、ストロークセンサ46の出力の補正を実行させるまでの待機時間を、車速検出部により検出された車両の車速にもとづいて導出する。なお、車速検出部として車両の車速を検出する公知の技術を用いてよい。
ストローク補正部82は、判定部78によりストロークセンサ46の出力が正常でないと判定されると、待機時間の経過後に、ストロークセンサ46の出力を補正する。
たとえば、判定部78によりストロークセンサ46が正常でないと判定された直後に、ストローク補正部82がストロークセンサ46の出力を補正すると、両踏み運転時にストロークセンサ46の出力を補正する可能性が高まり、過剰に補正を実行する可能性もある。一方、ストロークセンサ46が正常でないと判定された後、ストロークセンサ46の出力の補正を遅らせると、制動力を発生し続けてブレーキパッドが過剰に発熱する。
たとえば、車速が高い場合は、車速が低い場合より、カーブを進行している可能性が低く、直進をしている可能性が高い。直進していれば、カーブを進行している場合より、ブレーキをかける可能性は低く、車速が高い場合は、両踏み運転の可能性が低くなる。また、車速が高い場合および車速が低い場合に、同じ制動力をブレーキパッドに加えると、制動力の発熱量は、車速が高い場合の方が大きい。したがって、ストローク補正部82が、車速が高い場合に、車速が低い場合より待機時間を短く補正を実行すれば、ブレーキパッドの発熱を抑えることができる。車速に依存させて、ストロークセンサ46の出力の補正を実行し始める待機時間を調整することで、ブレーキパッドの発熱を抑えつつ、過剰に補正をすることを抑えることができる。
図5は、実施形態に係るストロークセンサ46の補正処理を示すフローチャートである。まず、センサ値取得部72は、ストローク出力値、マスタ出力値、車速センサ45の出力、およびアクセルセンサ47の出力を取得する(S10)。アクセル操作検出部74は、アクセルペダルの操作を検出する(S12)。
判定部78は、アクセルペダルの操作が検出されたかどうか、および、ストローク出力値がマスタ出力値に応じた基準ストローク出力値より大きいかどうかにより、ストロークセンサ46の出力が正常かどうかを判定する(S14)。これにより、ストロークセンサ46の出力が正常でないと特定することができる。なお、判定部78は、アクセルペダルの操作が検出され、ストローク出力値から制動要求が得られ、マスタ出力値から制動要求が得られない場合に、ストロークセンサ46の出力が正常でないと判定してもよい。
判定部78は、アクセルペダルの操作が検出されず、または、ストロークセンサ46の出力値がマスタシリンダ圧センサ48の出力値に応じた基準ストローク出力値より大きくない場合に、ストロークセンサ46の出力が正常であると判定する(S14のY)。ストロークセンサ46が正常であると判定されると、補正処理を終了する。
判定部78は、アクセルペダルの操作が検出され、ストローク出力値がマスタ出力値に応じた基準ストローク出力値より大きい場合、ストロークセンサ46の出力が正常でないと判定する(S14のN)。
ストローク補正部82は、判定部78によりストロークセンサ46が正常でないと判定された後、車両の車速を検出する車速検出部にもとづいて導出する待機時間を経過するかどうか判定する(S16)。ストローク補正部82は、待機時間を経過するまで補正をせず(S16のN)、待機時間経過後に(S16のY)、ストロークセンサ46の出力を補正する(S18)。
以上、実施の形態をもとに本発明を説明した。本発明によれば、ストロークセンサ46とマスタシリンダ圧センサ48の出力の不調を判定する場合に、アクセルペダルの踏み込みの有無によって、ストロークセンサ46に不調が発生したと特定することができ、ストロークセンサ46の出力に対して補正をすることができる。
これらの実施形態は例示であり、各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
たとえば、ストロークセンサ46およびマスタシリンダ圧センサ48以外の手段を用いて、ブレーキペダル12の踏み込みがあるかどうかを検出してよい。具体的に、ストップランプスイッチの出力にもとづいてブレーキペダル12の踏み込みがあるかどうかを判定してよい。