しかしながら、上記した特許文献1に開示された構成では、舵角を検出するために高価な舵角センサ又は制御装置に舵角推定機能を備えることが必要となるし、特許文献2に開示された構成では操舵速度を検出する操舵速度センサを必要とし、特許文献3に開示された構成ではトルクリミッタを組み込む必要があり、いずれも新たな部材を必要とするから、製造コストを高めるという不都合がある。
この対策として、操舵補助トルクを付与する電動モータに供給されるモータ電流検出値の変化率と予め設定された閾値とを対比して、ステアリングホイールの操舵角が操舵限界に達したか否かを判断し、操舵限界に達したと判断されたときは、電圧指令値又はデューテイ比を制限して端当て時の衝撃を低減する構成が考えられる。
図6は、図4に示す電動パワーステアリング装置の制御装置130に上記した制御機能を組み込んだ制御回路の構成の一例を示すブロック図である。以下、制御装置130の構成と動作を説明する。
電流指令値演算部151には、トルクセンサ110で検出された操舵トルクTと、車速センサ112で検出された車速Vとが入力される。電流指令値演算部151は、入力された操舵トルクTと車速Vに基づいて、予め設定されたアシストテーブルを参照し或いは所定の演算式に基づいて電流指令値Iを算出する。
電流指令値補償部153には、モータ角速度検出部166から出力されたモータ角速度情報が入力され、電流指令値Iの特性を補償する収斂性補償情報、電動モータの慣性補償情報、セルフアライニングトルク情報等を出力する。
加算器152では、演算された電流指令値Iに、電流指令値補償部153から出力された収斂性補償情報、電動モータの慣性補償情報、セルフアライニングトルク情報等が加算されて所要の補償が行なわれ、補償済みの電流指令値Iref がモータ制御部155に出力される。
モータ制御部155はモータ120に供給するモータ電流を制御するもので、複数の機能要素から構成される。まず、減算器161には、前記した加算器152から出力された電流指令値Iref に後述するモータ電流検出部165で検出されたモータ電流検出値imがフィードバックされて入力され、電流指令値Iref とモータ電流検出値im との偏差Iref −im )が演算される。
演算された偏差(Iref −im )は、PI制御部162においてPI(比例及び積分演算)処理されて操舵特性が改善された電圧制御値EV がデューテイ比演算制限部163に出力される。
デューテイ比演算制限部163では、入力された電圧制御値EV に基づいて電動モータを駆動するときのパルス幅変調信号(PWM信号)のデューテイ比Dが決定され、決定されたデューテイ比Dでインバータ164の半導体素子が駆動され、電動モータ120が駆動される。電動モータ120に流れるモータ電流はモータ電流検出部165で検出され、
前記した減算器161にフィードバックされるほか、後述する電流変化率検出部160に入力される。
デューテイ比演算制限部163におけるデューテイ比Dの決定は、以下のようにして行われる。
まず、デューテイ比演算制限部163の構成を説明する。デューテイ比演算制限部163は、電圧制御値EV に基づいてデューテイ比DVNを演算するデューテイ比演算部163aと、演算されたデューテイ比DVNを所定値、例えば3%に制限された制限デューテイ比DVLを演算するリミッタ163bと、前記デューテイ比DVNとデューテイ比DVLと選択する選択スイッチ163cとから構成される。
そして、選択スイッチ163cは、後述する電流変化率検出部160から出力される選択信号SLがSL0 の場合はデューテイ比DVNを選択してインバータ回路164に出力し、選択信号SLがSL1 の場合は制限デューテイ比DVLを選択してインバータ164に出力する。
電流変化率検出部160は、ステアリングホイールの操舵角が操舵限界近傍の所定の舵角を越えたか否か、即ち「端当て」状態に接近したか否かを判定するもので、電流変化率検出部160は微分回路160aと選択信号出力部160b、及び予め設定された所定の閾値Δim を格納した閾値メモリ160cとを備えている。
微分回路160aでは、入力されたモータ電流検出値im の微分値が演算される。そして、選択信号出力部160bにおいて、演算されたモータ電流検出値im の微分値dimが、閾値メモリ160cに格納されている所定の閾値Δim を越えたか否かが判定され、微分値dim が閾値Δim を越えていない(dim <Δim )ときは、選択信号SL0 が前記選択スイッチ163cに出力され、微分値dim が閾値Δim を越えている(dim>Δim )ときは、選択信号SL1 が前記選択スイッチ163cに出力される。
即ち、電流変化率検出部160では、微分回路160aで演算されたモータ電流検出値の微分値dim からモータ電流検出値im の変化率が急激に増加して所定の閾値Δim を越えたと判定されたときはステアリングホイールの操舵角が操舵限界に接近したものと判断し、それまで出力されていた選択信号SL0 を選択信号SL1 に切換える。
デューテイ比演算制限部163の選択スイッチ163cは、操舵角が操舵限界に接近していない状態では選択信号SL0 に基づいてデューテイ比DVNを選択し、インバータ164に出力していたが、操舵角が操舵限界に接近して選択信号SL1 が入力されると、選択信号SL1 に基づいてデューテイ比DVL(例えば3%に制限されたデューテイ比)を選択し、インバータ164に出力する。
即ち、モータ電流検出値im の変化率を示す微分値dim が急激に増加して所定の閾値Δim を越えたと判定されたときは、操舵限界に達したと判断してデューテイ比を制限するから、端当て時の衝撃を低減することができる。
そして、この構成によれば、従来の制御装置のように、舵角センサや操舵速度センサ又はトルクリミッタなど新たな部材を必要としないから、製造コストを高めることがなく、従来の構成からは得られない利点がある。
しかしながら、モータ電流検出値imにはノイズが含まれているため、モータ電流検出値の変化率を求めるとき、ノイズの影響が大きくなり、前記した閾値Δim との対比や、閾値そのものの設定が困難となる。また、ノイズの影響を避けるためローパスフイルタを使用すると、モータ電流検出値の変化率の位相に遅れが生じ、操舵限界についての判断が遅くなるので、端当て時の衝撃を低減するための操舵補助トルクを期待どおりに制限することができない、という不都合のあることが分かった。この発明は上記した課題を解決することを目的とするものである。
この発明は上記課題を解決するもので、請求項1の発明は、ステアリング機構に入力される操舵トルクを検出する操舵トルク検出部と、少なくとも前記操舵トルク検出部で検出された操舵トルクに基づいて電流指令値を演算する電流指令値演算部と、前記ステアリング機構に付与する操舵補助トルクを供給する電動モータと、前記電流指令値に基づいて演算されたパルス幅変調信号によって前記電動モータを駆動制御するモータ制御部とを備え、前記モータ制御部は、前記電流指令値の変化率を演算する電流指令値変化率演算部と、演算された電流指令値変化率が予め設定された所定の閾値を越えたとき操舵限界であると判定する操舵限界判定部を備え、操舵限界であると判定されたときは、前記パルス幅変調信号のデューテイ比を制限してステアリング機構に付与する操舵補助トルクを制限することを特徴とする電動パワーステアリング装置である。
そして、前記モータ制御部の電流指令値変化率演算部は、前記電流指令値演算部から出力された電流指令値の微分値を演算する演算器を備え、前記操舵限界判定部は、前記電流指令値の微分値が予め設定された所定の閾値を越えたか否かを判定する操舵限界判定器を備えている。
また、前記モータ制御部は、更にパルス幅変調信号のデューテイ比を演算出力するほか、演算されたデューテイ比を制限した制限デューテイ比を出力するデューテイ比演算制限部を備える。
そして、前記デューテイ比演算制限部は、前記電流指令値に基づいてパルス幅変調信号のデューテイ比を演算出力し、前記操舵限界判定部により操舵限界であると判定されたときは演算されたデューテイ比を所定の比率で制限した制限デューテイ比を電動モータを駆動制御するパルス幅変調信号のデューテイ比として選択出力し、ステアリング機構に付与する操舵補助トルクを制限する。
そして、前記モータ制御部の操舵限界判定部は、電流指令値と、モータ角速度と、モータ角速度の変化率が所定の条件を満たしたときは、操舵限界ではないと判定して演算されたデューテイ比を制限しない。
請求項6の発明は、ステアリング機構に入力される操舵トルクを検出する操舵トルク検出部と、少なくとも前記操舵トルク検出部で検出された操舵トルクに基づいて電流指令値を演算する電流指令値演算部と、前記ステアリング機構に付与する操舵補助トルクを供給する電動モータと、前記電流指令値に基づいて前記電動モータをパルス幅変調信号によって駆動制御するモータ制御部とを備え、前記モータ制御部は、前記電流指令値の位相進み値を演算する電流指令値位相進み値演算部と、演算された電流指令値位相進み値が予め設定された所定の閾値を越えたとき操舵限界であると判定する操舵限界判定部とを備え、操舵限界であると判定されたときは、前記パルス幅変調信号のデューテイ比を制限してステアリング機構に付与する操舵補助トルクを制限することを特徴とする電動パワーステアリング装置である。
そして、前記モータ制御部の電流指令値位相進み値演算部は、1個以上の位相進み/遅れフィルタが直列に接続されたフィルタ回路を備え、前記操舵限界判定部はフィルタ回路の出力が予め設定された所定の閾値を越えたか否かを判定する操舵限界判定器を備えている。
また、前記モータ制御部は、更にパルス幅変調信号のデューテイ比を演算出力するほか、演算されたデューテイ比を制限した制限デューテイ比を出力するデューテイ比演算制限部を備える。
そして、前記デューテイ比演算制限部は、前記電流指令値に基づいてパルス幅変調信号のデューテイ比を演算出力し、前記操舵限界判定部により操舵限界であると判定されたときは演算されたデューテイ比を所定の比率で制限した制限デューテイ比を電動モータを駆動制御するパルス幅変調信号のデューテイ比として選択出力し、ステアリング機構に付与する操舵補助トルクを制限する。
そして、前記モータ制御部の操舵限界判定部は、電流指令値と、モータ角速度と、モータ角速度の変化率が所定の条件を満たしたときは、操舵限界ではないと判定して演算されたデューテイ比を制限しない。
請求項1の発明では、モータ制御部は、電流指令値の変化率を演算する電流指令値変化率演算部と、演算された電流指令値変化率が予め設定された所定の閾値を越えたとき操舵限界であると判定する操舵限界判定部を備え、操舵限界であると判定されたときは、前記パルス幅変調信号のデューテイ比を制限してステアリング機構に付与する操舵補助トルクを制限する。
請求項1の発明では、電流指令値の変化率が予め設定された所定の閾値を越えたか否かにより操舵限界を判定するから、電流検出値を使用する場合のように、電流検出値に含まれるノイズの影響を受けることがなく、前記した閾値との対比や閾値そのものの設定も容易に行うことができる。
請求項6の発明では、モータ制御部は、前記電流指令値の位相進み値を演算する電流指令値位相進み値演算部と、演算された電流指令値位相進み値が予め設定された所定の閾値を越えたとき操舵限界であると判定する操舵限界判定部とを備え、操舵限界であると判定されたときは、前記パルス幅変調信号のデューテイ比を制限してステアリング機構に付与する操舵補助トルクを制限する。
請求項6の発明では、電流指令値の位相進み値が予め設定された所定の閾値を越えたか否かにより操舵限界を判定するから、電流検出値を使用する場合のように、電流検出値に含まれるノイズの影響を受けることがなく、前記した閾値との対比や閾値そのものの設定も容易に行うことができる。
また、端当て時の電流指令値の周波数成分の位相のみを進ませた位相進み値を使用するから、操舵限界の判定をより迅速に行うことができる。
以下、この発明の実施の形態の電動パワーステアリング装置の制御装置について説明する。電動パワーステアリング装置の全体構成は先に図4を参照して説明した構成と変らないし、ステアリング機構のラックエンド機構についても先に図5を参照して説明した構成と変らないので、以下説明する第1及び第2の実施の形態の説明においては、電動パワーステアリング装置の全体構成は先に説明した図4及び図5を援用して説明を省略し、制御装置の構成と機能について説明する。以下説明する第1の実施の形態では、図4における制御装置130を制御装置10と読み替え、第2の実施の形態では制御装置130を制御装置50と読み替えるものとする。また、図4のトルクセンサ110はトルクセンサ11と、車速センサ112は車速センサ12と、電動モータ120は電動モータ30と読み替えるものとする。
この発明の実施の形態の電動パワーステアリング装置の制御装置は、発明の課題で説明した、モータ電流検出値の変化率に基づく操舵限界の検出においてモータ電流検出値に含まれるノイズの影響を回避するため、モータ電流検出値に代えてモータ電流指令値を使用する第1の実施の形態と、モータ電流検出値に代えてモータ電流指令値の位相進み値を使用する第2の実施の形態とがある。第1の実施の形態と第2の実施の形態には共通の機能ブロックがあるので、共通の機能ブロックには同一符号を付して説明する。
[第1の実施の形態]
図1は、この発明の第1の実施の形態の電動パワーステアリング装置の制御装置10の構成と機能を説明するブロック図である。
電流指令値演算部15には、トルクセンサ11で検出された操舵トルクTと、車速センサ12で検出された車速Vとが入力される。電流指令値演算部15は、入力された操舵トルクTと車速Vに基づいて、予め設定されたアシストテーブルを参照し或いは所定の演算式に基づいて電流指令値Iを算出する。
電流指令値補償部17にはモータ角速度検出部28から出力されたモータ角速度情報が入力され、電流指令値Iの特性を補償する収斂性補償情報、モータの慣性補償情報、セルフアライニングトルク情報等が出力される。
加算器16では、演算された電流指令値Iに、電流指令値補償部17から出力された収斂性補償情報、モータの慣性補償情報、セルフアライニングトルク情報等が加算されて所要の補償が行なわれ、補償済みの電流指令値Iref がモータ制御部20に出力される。
モータ制御部20は電動モータ30に供給するモータ電流を制御するもので、複数の機能要素から構成される。まず、減算器21には、前記した加算器16から出力された電流指令値Iref に後述するモータ電流検出部27で検出されたモータ電流検出値im がフィードバックされて入力され、電流指令値Iref とモータ電流検出値im との偏差(Iref−im )が演算される。
PI制御部22は、演算された偏差(Iref −im )の操舵特性を改善するもので、入力された偏差(Iref −im )にPI(比例及び積分演算)処理を行い、操舵特性が改善された電圧制御値EV をデューテイ比演算制限部23に出力する。
デューテイ比演算制限部23は、入力された電圧制御値EV に基づいてモータを駆動するパルス幅変調信号(PWM信号)のデューテイ比Dを演算し、演算された基準デューテイ比DVN、或いは制限された制限デューテイ比DVLを出力する。デューテイ比演算制限部23については後で詳細に説明する。
インバータ24は複数の半導体素子で構成され、前記したパルス幅変調信号(PWM信号)のデューテイ比D(DVN又はDVL)で半導体素子が駆動され、電動モータ30を駆動する。電動モータ30に流れるモータ電流imはモータ電流検出部27で検出され、前記した減算器21にフィードバックされる。
デューテイ比演算制限部23は、入力された電圧制御値EV に基づいて基準デューテイ比DVNを演算するデューテイ比演算部23aと、演算された基準デューテイ比DVNを所定値、例えば3%に制限された制限デューテイ比DVLを演算するリミッタ23bと、前記デューテイ比DVNとデューテイ比DVLとのいずれかを選択して出力する選択スイッチ23cとから構成される。
そして、選択スイッチ23cは、後述する操舵限界判定部26から出力される選択信号SLがSL0 の場合は基準デューテイ比DVNを選択し、また選択信号SLがSL1 の場合は制限デューテイ比DVLを選択し、インバータ24に出力する。
電流指令値変化率演算部25は、ステアリングホイールの操舵角が操舵限界を越えたか否か、即ち「端当て」状態か否かを判定するために、電流指令値変化率を演算するものである。即ち、ステアリングホイールが「端当て」状態になると、操舵トルクが急激に増大するから電流指令値も急激に増大する。このため、電流指令値の変化率を検出することで、「端当て」状態か否かを検出することができるのである。
電流指令値変化率演算部25は、微分回路を備え、入力された電流指令値Iref の微分値dIref を演算する。演算された微分値dIref は、後段の操舵限界判定部26に出力される。
操舵限界判定部26は、ステアリングホイールの操舵角が操舵限界を越えたか否か、即ち「端当て」状態か否かを判定するもので、操舵限界判定器26aと、予め設定された所定の閾値ΔIm を格納した閾値メモリ26bと備えている。
操舵限界判定部26において、ステアリングホイールの操舵角が操舵限界を越えたか否か(「端当て」状態か否か)の誤判定を防止するため、電流指令値Iref の微分値と、モータ角速度と、モータ角速度の変化率を使用する。このため、モータ角速度変化率演算器29を設け、モータ角速度検出部28で検出されたモータ角速度の変化率を演算し、操舵限界判定器26aに入力する。
操舵限界判定器26aにおいては、電流指令値変化率検出部25から出力された電流指令値の微分値dIref と閾値メモリ26bに格納されている閾値ΔIm とが比較され、微分値dIref が閾値ΔIm を越えたか否かが判定される。そして、微分値dIref が閾値ΔIm を越えていない(dIref <ΔIm )ときは選択信号SL0 が選択スイッチ23cに出力され、微分値dIref が閾値ΔIm を越えている(dIref >ΔIm )ときは選択信号SL1 が選択スイッチ23cに出力される。
また、(1) 電流指令値の絶対値|Iref |が所定値以上(「端当て」状態になると電流指令値が高くなる)、(2) モータ角速度の絶対値|ω|が所定値の範囲内(「端当て」状態になるとモータ角速度が所定範囲内に収まる)、(3) モータ角速度の絶対値|ω|の変化率(「端当て」状態になるとモータ角速度が遅くなる)の3条件において、上記(1) と(2) が成立し、(3) が零であれば、「端当て」状態ではないと判定し、電流指令値の微分値dIref が閾値ΔIm を越えても、以下説明するデューテイ比演算制限部23の選択スイッチ23cによる制限されたデューテイ比DVLを選択しないものとする。
デューテイ比演算制限部23の選択スイッチ23cは、ステアリングホイールの操舵角が操舵限界にないときは、選択信号SL0 に基づいてデューテイ比DVNを選択してインバータ24に出力するが、ステアリングホイールの操舵角が操舵限界にあるときは、選択信号SL1 に基づいてデューテイ比DVL(例えば3%に制限されたデューテイ比)を選択し、インバータ24に出力する。
即ち、電流指令値Iref の変化率が急激に増加して電流指令値の微分値dIref が所定の閾値ΔIm を越えたと判定されたときは、操舵限界に達したと判断してパルス幅変調信号(PWM信号)のデューテイ比Dを制限されたデューテイ比DVLに制限するから、端当て時の衝撃を低減することができる。
そして、この構成によれば、従来の制御装置のように舵角センサや操舵速度センサ、又はトルクリミッタなど新たな部材を必要としないから、製造コストを高めることがなく、従来の構成からは得られない利点がある。
また、電流指令値Iref 及びその微分値dIref にはノイズが含まれていないから、ノイズの影響を受けることなく電流指令値の微分値dIref と閾値ΔIm との対比や、閾値そのものの設定を行うことができる。
また、先に説明した従来技術において、ノイズの影響を避けるためローパスフイルタを使用した場合は、モータ電流検出値の変化率の位相に遅れが生じ、操舵限界についての判断が遅くなるので、端当て時の衝撃を低減するための操舵補助トルクを期待どおりに制限することができないという不都合があったが、この発明ではローパスフイルタを使用しないので、上記した不都合が発生することもない。
[第2の実施の形態]
図2は、この発明の第2の実施の形態の電動パワーステアリング装置の制御装置50の構成と機能を説明するブロック図である。
電流指令値演算部15には、トルクセンサ11で検出された操舵トルクTと、車速センサ12で検出された車速Vとが入力される。電流指令値演算部15は、入力された操舵トルクTと車速Vに基づいて、予め設定されたアシストテーブルを参照し或いは所定の演算式に基づいて電流指令値Iを算出する。
電流指令値補償部17にはモータ角速度検出部28から出力されたモータ角速度情報が入力され、電流指令値Iの特性を補償する収斂性補償情報、モータの慣性補償情報、セルフアライニングトルク情報等が出力される。
加算器16では、演算された電流指令値Iに、電流指令値補償部17から出力された収斂性補償情報、モータの慣性補償情報、セルフアライニングトルク情報等が加算されて所要の補償が行なわれ、補償済みの電流指令値Iref がモータ制御部20に出力される。
モータ制御部20は電動モータ30に供給するモータ電流を制御するもので、複数の機能要素から構成される。まず、減算器21には、前記した加算器16から出力された電流指令値Iref に後述するモータ電流検出部27で検出されたモータ電流検出値im がフィードバックされて入力され、電流指令値Iref とモータ電流検出値im との偏差(Iref-−im )が演算される。
PI制御部22は、演算された偏差(Iref −im )の操舵特性を改善するもので、入力された偏差(Iref −im )にPI(比例及び積分演算)処理を行い、操舵特性が改善された電流制御値EV をデューテイ比演算制限部23に出力する。
デューテイ比演算制限部23は、入力された電圧制御値EV に基づいてモータを駆動するパルス幅変調信号(PWM信号)のデューテイ比Dを演算し、演算された基準デューテイ比DVN、或いは制限された制限デューテイ比DVLを出力する。デューテイ比演算制限部23については後で詳細に説明する。
インバータ24は複数の半導体素子で構成され、前記したパルス幅変調信号(PWM信号)のデューテイ比D(DVN又はDVL)で半導体素子が駆動され、電動モータ30を駆動する。電動モータ30に流れるモータ電流imはモータ電流検出部27で検出され、前記した減算器21にフィードバックされる。
デューテイ比演算制限部23は、入力された電圧制御値EV に基づいて基準デューテイ比DVNを演算するデューテイ比演算部23aと、演算された基準デューテイ比DVNを所定値、例えば3%に制限された制限デューテイ比DVLを演算するリミッタ23bと、前記デューテイ比DVNとデューテイ比DVLとのいずれかを選択して出力する選択スイッチ23cとから構成される。
そして、選択スイッチ23cは、後述する操舵限界判定部26から出力される選択信号SLがSL0 の場合は基準デューテイ比DVNを選択し、また選択信号SLがSL1 の場合は制限デューテイ比DVLを選択し、インバータ24に出力する。
電流指令値位相進み値演算部51は、ステアリングホイールの操舵角が操舵限界を越えたか否か、即ち「端当て」状態か否かを判定するために、位相のみを進ませた電流指令値の位相進み値を演算するものである。
先に説明した第1の実施の形態では、電流指令値変化率を示す数値として電流指令値Iref の微分値dIref を使用したが、第2の実施の形態では、「端当て」状態か否かの判定をさらに迅速に行うため、電流指令値Iref の周波数成分の位相のみを進ませた電流指令値IrefPを使用する。
電流指令値位相進み値演算部51は、1個又は1個以上の位相進み/遅れフィルタが直列に接続されたフィルタ回路を備え、フィルタ回路により入力された電流指令値Iref の周波数成分の位相のみを進ませた電流指令値IrefPを、後段の操舵限界判定部26に出力する。
図3は、上記した1個又は1個以上の位相進み/遅れフィルタが直列に接続されたフィルタ回路の特性を説明する図で、横軸は周波数、縦軸は位相進み角、及び振幅である。図3に示すように、「端当て」状態において電流指令値Iref の位相進み角、及び振幅が大きくなるように設計されている。また、フィルタを直列に複数個(ここでは2個)接続することで位相進み角、及び振幅の差を大きくすることができ、端当て状態の判定を確実に行うことができる。
即ち、図3に示すように、フィルタを1個使用したときは、端当て時と端当て時以外の時の周波数成分の振幅の差は(b)であるが、フィルタを2個直列に使用したときは、端当て時と端当て時以外の時の周波数成分の振幅の差は(a)であり、1個使用したときの振幅の差(b)よりも大きな振幅の差(a)が得られ、端当て状態の判定を確実に行うことができる。
操舵限界判定部26は、ステアリングホイールの操舵角が操舵限界を越えたか否か、即ち「端当て」状態か否かを判定するもので、操舵限界判定器26aと、予め設定された所定の閾値ΔIm を格納した閾値メモリ26bとを備えている。
操舵限界判定部26において、ステアリングホイールの操舵角が操舵限界を越えたか否か(「端当て」状態か否か)の誤判定を防止するため、電流指令値Iref の微分値と、モータ角速度と、モータ角速度の変化率を使用する。このため、モータ角速度変化率演算器52を設け、モータ角速度検出部28で検出されたモータ角速度の変化率を演算し、操舵限界判定器26aに入力する。
操舵限界判定器26aにおいて、電流指令値位相進み演算部51から出力された位相のみを進ませた電流指令値IrefPと閾値メモリ26bに格納されている閾値ΔIm を比較し、位相を進ませた電流指令値IrefPが閾値ΔIm を越えたか否かが判定され、位相のみを進ませた電流指令値IrefPが閾値ΔIm を越えていないとき(IrefP<ΔIm )は、選択信号SL0 が選択スイッチ23cに出力され、位相のみを進ませた電流指令値IrefPが閾値ΔIm を越えているとき(IrefP>ΔIm )は、選択信号SL1 が選択スイッチ23cに出力される。
また、(1) 電流指令値の絶対値|Iref |が所定値以上(「端当て」状態になると電流指令値が高くなる)、(2) モータ角速度の絶対値|ω|が所定値の範囲内(「端当て」状態になるとモータ角速度が所定範囲内に収まる)、(3) モータ角速度の絶対値|ω|の変化率(「端当て」状態になるとモータ角速度が遅くなる)の3条件において、上記(1) と(2) が成立し、(3) が零であれば、「端当て」状態ではないと判定し、電流指令値の位相のみを進ませた電流指令値IrefPが閾値ΔIm を越えても、以下説明するデューテイ比演算制限部23の選択スイッチ23cによる制限されたデューテイ比DVLを選択しないものとする。
デューテイ比演算制限部23の選択スイッチ23cは、ステアリングホイールの操舵角が操舵限界にないときは、選択信号SL0 に基づいてデューテイ比DVNを選択してインバータ24に出力するが、ステアリングホイールの操舵角が操舵限界にあるときは、選択信号SL1 に基づいてデューテイ比DVL(例えば3%に制限されたデューテイ比)を選択し、インバータ24に出力する。
即ち、位相のみを進ませた電流指令値IrefPが急激に増加して所定の閾値ΔIm を越えたと判定されたときは、操舵限界に達したと判断してパルス幅変調信号(PWM信号)のデューテイ比Dを制限されたデューテイ比DVLに制限するから、端当て時の衝撃を低減することができる。
そして、この構成によれば、従来の制御装置のように舵角センサや操舵速度センサ、又はトルクリミッタなど新たな部材を必要としないから、製造コストを高めることがなく、従来の構成からは得られない利点がある。
また、位相のみを進ませた電流指令値IrefPにはノイズが含まれていないから、ノイズの影響を受けることなく閾値ΔIm との対比や、閾値そのものの設定を行うことができる。また、位相のみを進ませた電流指令値IrefPを使用することにより、より迅速に操舵限界に達したことを判断できる。
また、先に説明した従来技術において、ノイズの影響を避けるためローパスフイルタを使用した場合は、モータ電流検出値の変化率の位相に遅れが生じ、操舵限界についての判断が遅くなるので、端当て時の衝撃を低減するための操舵補助トルクを期待どおりに制限することができないという不都合があったが、この発明ではローパスフイルタを使用しないので、上記した不都合の発生することもない。