合成帯域処理については、上記文献に記載されているが、ここでは発明が解決しようとする課題を明確にするために簡単に説明する。
合成帯域処理を用いて高分解能相対距離を得るパルスレーダ装置では、送信時に、図13に示すように、N個の送信パルスStに対して、パルス毎に送信周波数をf0からfN−1まで周波数ステップ間隔Δf毎に変化させる。その時の送信信号Sn(t)は式1で表される。ただし、ここでは、数式による表現を簡略化するために、各信号を複素信号で表現している。
ただし、Aは送信信号の振幅、φnは各送信周波数の初期位相、Tpはパルス幅、Tpriはパルス繰り返し周期を表す。式1で表される送信信号Sn(t)がパルスレーダ装置から距離R離れたところにあり、パルスレーダ装置と目標との間に相対速度が0の目標に反射して、パルスレーダ装置に受信された場合、受信信号Un(t)は、式2で表される。
ただし、A′は受信信号の振幅、cは光速を表す。式2で表される受信信号Un(t)に対して、式3で示す送信信号Sn(t)と同じ周波数、同じ初期位相をもつ局部発信信号Wn(t)を用いて周波数をダウンコンバートすることによって生成した複素ビデオ信号Vn(t)は式4で表される。ただし、Bは局部発信信号の振幅、A″は複素ビデオ信号の振幅を示す。
式4より、同じレンジビン番号でサンプリングされたn(n=0,1,・・・N−1)番目の送信パルスに対する複素ディジタルビデオ信号V(n)は式5で表される。ただし、量子化誤差は無視している。
式5で表される複素ディジタルビデオに対して、逆フーリエ変換を行った場合、逆フーリエ変換後の信号Pv(k)は式6で表される。
式6より、式7が成り立つ時にPv(k)の絶対値として求められる振幅値(強度)がピーク値となることがわかる。
Pv(k)の振幅値がピーク値となるkをkpとすると、Pv(k)のピークを検出することによってkpを求め、求めたkpを用いて式8より、パルスレーダ装置と目標との相対距離Rを求めることができる。
また、距離分解能ΔRは式9で表され、Nあるいは、Δfを大きくすることによって、距離分解能ΔRは小さくなり、高分解能相対距離が得られることが分かる。
しかしながら、パルスレーダ装置が移動している、あるいは、目標が移動している場合には、パルスレーダ装置と目標との間に相対速度が生じ、受信信号は相対速度の影響をうける。例えば、周波数f0の送信パルスの立ち上がりの時間を基準時間とし、その時のパルスレーダ装置40と目標10との相対距離をR0とし、パルスレーダ装置が静止、目標が速度vで等速直線運動でパルスレーダ装置に接近しているとすると、式1で表される送信信号Sn(t)が目標に反射して、パルスレーダ装置に受信された場合、受信信号はU′n(t)は、式10で表される。
式10で表されるパルスレーダ装置と目標との相対速度がvの場合の受信信号U′n(t)に対して、式3で示す送信信号Sn(t)と同じ周波数、同じ初期位相をもつ局部発信信号Wn(t)を用いて周波数をダウンコンバートすることによって生成したパルスレーダ装置と目標との相対速度がvの場合の複素ビデオ信号V′n(t)は式11で表される。ただし、複素ビデオ信号の振幅は、式4と同様にA″としている。
式11より、同じレンジビン番号でサンプリングされたn(n=0,1,・・・N−1)番目の送信パルスに対するパルスレーダ装置と目標との相対速度がvの場合の複素ディジタルビデオ信号V′(n)は式12で表される。ただし、量子化誤差は無視している。
よって、式12で表されるパルスレーダ装置と目標との相対速度がvの場合の複素ディジタルビデオ信号V′(n)に対して、逆フーリエ変換を行った場合、逆フーリエ変換後の信号PV′(k)は式13で表される。
式13より、式14が成り立つ時にPV′(k)の絶対値として求められる振幅値がピーク値となることがわかる。
しかし、式7と異なり、パルスレーダ装置と目標との相対速度vが0でない場合は、n毎に式13中のexp(j2π(k/N-Δf(2R0/c)+f0(2v/c)Tpri+Δf(2v/c)nTpri)n)の振幅値が最大値をとるkの値が異なり、式15に示すように、基準時間のパルスレーダ装置と目標との相対距離R0からずれた距離がピークとなることが分かる。ただし、kp2(n)はn毎の式13中のexp(j2π(k/N-Δf(2R0/c)+f0(2v/c)Tpri+Δf(2v/c)nTpri)n)の振幅値が最大値をとるkの値を示す。
すなわち、図14に示すように、パルスレーダ装置と目標との相対速度vが0でない場合は、合成帯域処理によって高距離分解能化して得られたパルスレーダ装置と目標との相対距離は、基準の時刻のパルスレーダ装置と目標との相対距離R0と異なる距離を示す。図14において、Srpは、目標との相対速度vが0の時の目標10からの反射信号、Srp´は、目標との相対速度vが0でない時の目標10からの反射信号を示す。
式12に示すパルスレーダ装置と目標との相対速度がvの場合の複素ディジタルビデオ信号において、Δf、f0、Tpri、Nの値は、送信パラメータであるため既知である。そのため、合成帯域処理によって、真の基準時間のパルスレーダ装置と目標との相対距離R0を得るためには、何等かの方法で目標との相対速度を計測し、式16で表される相対速度補正量Z(n)を求め、式17に示すように、目標との相対速度がvの場合の複素ディジタルビデオ信号V´(n)に対して相対速度の補正を行えばよい。
ただし、vcalは計測した目標との相対速度を、Vc(n)は相対速度補正後複素ディジタルビデオ信号を示す。
式17において、真の目標との相対速度vと計測した目標との相対速度Vcalが等しければ、式17で表される相対速度補正後複素ディジタルビデオ信号Vc(n)は、式5で示す目標との相対速度が0の場合の複素ディジタルビデオV(n)と同じとなる。よって、相対速度補正後複素ディジタルビデオ信号Vc(n)に対して、逆フーリエ変換することによって、前述のように、基準時間のパルスレーダ装置と目標との相対距離R0を求めることができる。
従来のパルスレーダ装置では、相対速度計測モードと合成帯域モードを設け、相対速度計測モードで計測した目標との相対速度をvcalとして、式16、17で表される相対速度補正量Z(n)、相対速度補正後複素ディジタルビデオ信号Vc(n)を求め、求めた相対速度補正後複素ディジタルビデオ信号Vc(n)に対して、逆フーリエ変換することによって、基準時間のパルスレーダ装置と目標との相対距離R0を求めていた。
従来のパルスレーダ装置において、パルスレーダ装置と目標との間の相対速度が0でない場合に、合成帯域処理によって、高分解能相対距離を得る場合の目標との相対速度と高分解能相対距離計測結果が得られるタイミングを図12に示す。また、あわせてその時の送信パルスSt、受信パルスSrを示す。また、相対速度計測モードと合成帯域モードで、パルス繰り返し周期とパルス幅は、必ずしも同じである必要はないため、相対速度計測モードのパルス繰り返し周期とパルス幅をTpri1、Tp1、合成帯域モードのパルス繰り返し周期とパルス幅をTpri2、Tp2としている。
従来のパルスレーダ装置では、はじめに、相対速度計測モードとして、M個のパルスに対し、パルス毎に同じ送信周波数、例えばf0で送信し、次に、合成帯域モードとして、パルス毎に送信周波数がf0からfN−1まで周波数間隔Δfずつ変化するN個のパルスを送信する。以降は、この(M+N)個のパルスの組を繰り返し送信する。
目標との相対速度計測には、パルス繰り返し周期Tpri1の時間毎に得られる相対速度計測モードのM個の周波数f0の送信パルスに対する同じレンジビン番号、図12の例ではレンジビン番号3の受信信号を用いて、周波数解析を行うことによって、目標との相対速度を計測する。
一方、合成帯域処理には、パルス繰り返し周期Tpri2の時間毎に得られる合成帯域モードの周波数f0、f1、・・・、fNー1のN個の送信パルスに対する同じレンジビン番号、図12の例ではレンジビン番号3の受信信号に対して、相対速度計測モードで計測した最新の目標との相対速度を用いて相対速度補正を行った後に、位相合成処理を行い、目標までの高分解能相対距離測距結果を得る。
下記に従来のパルスレーダ装置において、目標との相対速度を測定する原理を説明する。従来のパルスレーダ装置において、目標との相対速度を測定するには、送信時に図15に示すように、M個の送信パルスStに対し、パルス毎に同じ送信周波数、例えばf0を用いる。その時の送信信号S″n(t)は式18で表される。ただし、ここでは、数式による表現を簡略化するために、式1と同様に、各信号を複素信号で表現している。また、パルス繰り返し周期、パルス幅は1を省略し、Tpri、Tpで表している。
ただし、送信信号の振幅は、式1と同様にAとしている。また、φ″mは各送信周波数の初期位相を表す。
式18で表される送信信号S″n(t)が、パルスレーダ装置から基準時間に相対距離R0離れ、相対速度vで等速直線運動している目標に反射して、パルスレーダ装置に受信された場合、受信信号U″m(t)は、式19で表される。
式19で表される受信信号U″m(t)に対して、式20で示す送信信号S″m(t)と同じ周波数、同じ初期位相をもつ局部発信信号W″m(t)を用いて周波数をダウンコンバートすることによって生成した複素ビデオ信号V″m(t)は式21で表される。
ただし、式3、4と同様に、Bは局部発信信号の振幅、A″は複素ビデオ信号の振幅を示す。式21より、同じレンジビン番号でサンプリングされたm(m=0,1,・・・M−1)番目の送信パルスに対する複素ディジタルビデオ信号V″(m)は式22で表される。ただし、量子化誤差は無視している。
よって、式22で表される複素ディジタルビデオ信号V″(m)に対して、フーリエ変換を行った場合、フーリエ変換後の信号PV″(k)は式23で表される。
式23より、式24が成り立つ時にPV″(k)の振幅値がピーク値となることがわかる。
PV″(k)の振幅値がピーク値となるkをkp3とすると、kp3を用いて式25より、パルスレーダ装置と目標との相対速度vを求めることができる。
よって、上記従来のパルスレーダ装置では、図12に示すように、はじめに、相対速度計測モードとして、M個のパルスに対し、パルス毎に同じ送信周波数、例えばf0で送信し、次に、合成帯域モードとして、パルス毎に送信周波数がf0からfN−1まで周波数間隔Δfずつ変化するN個のパルスを送信する。以降は、この(M+N)個のパルスの組を繰り返し送信する。
目標との相対速度計測には、パルス繰り返し周期Tpri1の時間毎に得られる相対速度計測モードのM個の周波数f0の送信パルスに対する同じレンジビン番号、図12の例ではレンジビン番号3の受信信号を用いて求める。
一方、合成帯域処理には、パルス繰り返し周期Tpri2の時間毎に得られる合成帯域モードの周波数f0、f1、・・・、fNー1のN個の送信パルスに対する同じレンジビン番号、図12の例ではレンジビン番号3の受信信号を用いる。真の高分解能相対距離を得るためには、相対速度計測モードで求めた最新の目標との相対速度を用いて相対速度補正を行った後に合成帯域処理を行う。
そのため、1回の高分解能相対距離計測結果を得るために、少なくとも相対速度計測モードのパルス繰り返し周期Tpri1のM倍の時間と合成帯域モードのパルス繰り返し周期Tpri2のN倍の信号送信時間を必要とするという問題点があった。
さらに、目標との相対速度計測と合成帯域処理に用いる受信信号が異なるために、相対速度変化の大きい目標に対しては、相対速度補正の精度が劣化するという問題点があった。
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、その目的は、パルスレーダ装置と目標との間に相対速度が0でない場合に、1回の高分解能相対距離計測結果を得るために必要な信号送信時間間隔を短くすることができ、かつ相対速度変化の大きい目標に対しても相対速度補正の精度を高くすることができるパルスレーダ装置を得るものである。
この発明に係るパルスレーダ装置は、パルス毎に送信周波数が所定の周波数間隔ずつ変化する複数個のパルスを目標方向へ繰り返し送信し、パルス繰り返し周期毎に得られる反射信号を受信してI成分、及びQ成分ビデオ信号を生成するパルスレーダ装置であって、送信パルスに対する受信信号から得られた同じレンジビン番号のI成分ビデオ信号を実部、Q成分ビデオ信号を虚部とした複素ビデオ信号、及び前記複素ビデオ信号の虚部の符号を反転した複素共役ビデオ信号を生成し、前記複素ビデオ信号及び前記複素共役ビデオ信号を最適なシフト量だけシフトさせ乗算を行って相対速度計測用複素信号を生成する複素共役乗算手段と、前記相対速度計測用複素信号の周波数スペクトルを求める周波数スペクトル分析手段と、前記周波数スペクトルより目標との相対速度を求める相対速度計測手段とを設けたものである。
この発明に係るパルスレーダ装置は、1回の高分解能相対距離計測結果を得るために必要な信号送信時間間隔が短くすることができ、かつ相対速度変化の大きい目標に対しても相対速度補正の精度を高くすることができるという効果を奏する。
実施の形態1.
この発明の実施の形態1に係るパルスレーダ装置について図1から図3までを参照しながら説明する。図1は、この発明の実施の形態1に係るパルスレーダ装置の構成を示す図である。なお、各図中、同一符号は同一又は相当部分を示す。
図1において、この実施の形態1に係るパルスレーダ装置は、タイミング発生器1と、周波数シンセサイザ2と、分配器3a、3bと、基準中間周波数信号発生器4と、周波数変換器5a、5bと、パルス変調器6と、電力増幅器7と、送受切替器8と、アンテナ9とが設けられている。
さらに、中間周波数増幅器11と、90度ハイブリッド器12と、位相検波器13a、13bと、A/D変換器14a、14bと、ビデオ信号保存用メモリ15と、シフト複素共役乗算器(複素共役乗算手段)16と、周波数スペクトル分析器(周波数スペクトル分析手段)17と、相対速度計測器(相対速度計測手段)18と、相対速度補正器(相対速度補正手段)19と、合成帯域器(合成帯域手段)20と、包絡線検波器21と、表示器22とが設けられている。
つぎに、この実施の形態1に係るパルスレーダ装置の動作について図面を参照しながら説明する。
タイミング発生器1では、パルス繰り返し周期Tpriの間隔で、周波数切換信号を周波数シンセサイザ2へ、パルス変調信号をパルス変調器6へ、送受切換信号を送受切替器8へ出力する。周波数シンセサイザ2では、タイミング発生器1からの周波数切換信号によって、予め周波数と初期位相を定めたN種類の信号の中の一種類を、最も低い周波数から昇順に、あるいは、最も高い周波数から降順にパルス繰り返し周期Tpri毎に生成し、分配器3aに出力する。
分配器3aでは、周波数シンセサイザ2からの入力信号を2分し、一方を送信信号生成用の周波数変換器5aの局部発振信号として周波数変換器5aに、もう一方を中間周波数信号生成用の周波数変換器5bの局部発振信号として、周波数変換器5bに出力する。周波数変換器5aでは、分配器3aからの局部発振信号の周波数と、基準中間周波数信号発生器4で生成した基準中間周波数信号の周波数との和の周波数の送信キャリア信号を生成し、パルス変調器6に出力する。パルス変調器6では、周波数変換器5aからの入力信号に対して、タイミング発生器1からのパルス変調信号によって、パルス繰り返し周期Tpri毎に、予め定めたパルス幅Tpのパルス変調を行う。
パルス変調器6の出力信号は、電力増幅器7に入力され、電力の増幅が行われ、送受切替器8に出力される。送受切替器8では、タイミング発生器1からの送受切換信号によって、パルス繰り返し周期Tpri毎に、予め定めた時間間隔の電力増幅器7からの入力信号をアンテナ9に出力する。アンテナ9では、送受切替器8からの入力信号を、送信信号として空間へ放射する。
送信信号は目標10、および背景に反射し、反射信号となってアンテナ9で受信され、送受切替器8に出力される。送受切替器8では、タイミング発生器1からの送受切換信号によって、パルス繰り返し周期Tpri毎に、予め定めた時間間隔のアンテナ9からの入力信号を周波数変換器5bに出力する。
また、周波数変換器5bには、分配器3aから局部発振信号も入力される。周波数変換器5bでは、受信信号の周波数と局部発振信号の差の周波数の中間周波数信号を生成し、中間周波数増幅器11へ出力する。中間周波数増幅器11では、中間周波数信号の電力の増幅を行い、その結果を分配器3bに出力する。分配器3bでは、中間周波数増幅器11から入力信号を2分し、それぞれを位相検波器13a、13bに出力する。
一方、基準中間周波数信号発生器4で発生した基準中間周波数信号は、90度ハイブリッド器12で90度の位相差を持った2つの信号に分離され、位相検波器13a、13bに出力される。位相検波器13a、13bでは、分配器3bからの入力信号と90度ハイブリッド器12からの入力信号から、中間周波数信号の周波数と基準中間周波数信号の周波数の差の周波数を持ち、互いに90度の位相差を持つI成分、Q成分のビデオ信号を生成する。生成されたI、Qビデオ信号は、サンプリング周波数が1/TpのA/D変換器14a、14bに入力され、パルス幅Tpと同じ間隔のレンジビン毎のディジタルI、Qビデオ信号に変換され、ビデオ信号保存用メモリ15に出力される。
ビデオ信号保存用メモリ15では、パルス繰り返し周期TpriのN倍の時間間隔の全てのレンジビン番号のディジタルI、Qビデオ信号を保存する。
シフト複素共役乗算器16では、ビデオ信号保存用メモリ15からN個の周波数の異なる送信パルスに対する受信信号から得られた同じレンジビン番号のディジタルI、Qビデオ信号をとりだし、ディジタルIビデオ信号を実部、ディジタルQビデオ信号を虚部とした、複素ディジタルビデオ信号と、生成した複素ディジタルビデオ信号の虚部の符号を反転した、複素共役ディジタルビデオ信号を生成し、複素ディジタルビデオ信号と複素共役ディジタルビデオ信号を1以上、N未満の値を持つ整数量αだけシフトさせて乗算を行い、N−α組の相対速度計測用ディジタルI、Q信号を生成する。生成したN−α組の相対速度計測用複素ディジタル信号を周波数スペクトル分析器17に出力する。
図2にαを1とした時のシフト複素共役乗算器16での処理内容を示す。図2において、V′(n)(n=0,1,…,N−1)は、複素ディジタルビデオ信号を、V′*(n)(n=0,1,…,N−1)は、複素共役ディジタルビデオ信号を、X(n′)(n′=0,1,…,N−2)は、相対速度計測用複素ディジタル信号を示す。
式12で示したパルスレーダ装置と目標との相対速度がvの場合の複素ディジタルビデオ信号V′(n)に対して図2に示す処理を行った場合、その出力信号である相対速度計測用複素ディジタル信号X(n′)は式26で表される。
ただし、*は複素共役を示す。また、相対速度計測用複素ディジタル信号X(n′)の数N′はαだけシフトさせたため、次式となる。
式26で表される相対速度計測用ビデオ信号X(n′)に対して、周波数スペクトル分析を行った場合、第1項exp(-j2πf0(2v/c)αTpri)、第2項exp(-j2παΔf(-2R0/c))、第3項exp(-j2πα2Δf(2v/c)Tpri)は、それぞれ、変数n′には関係のない項なので、これらは初期位相としか影響しない。一方、第4項exp(-j2π2αΔf(2v/c)n'Tpri)は、送信キャリア周波数が2αΔfの信号に対するドップラ周波数を表す。
周波数スペクトル分析方法として逆フーリエ変換を用いた場合、式26で表される相対速度計測用ビデオ信号X(n′)に対してN′点で逆フーリエ変換した信号、すなわち相対速度計測用複素ディジタル信号の周波数スペクトルPX(k′)は式28で表される。
周波数スペクトル分析器17では、上述のように、逆フーリエ変換を用いて、シフト複素共役乗算器16からの相対速度計測用複素ディジタル信号の周波数スペクトルを求め、その結果を相対速度計測器18に出力する。
式28より、式29が成り立つ時にPX(k′)の絶対値として求められる振幅値(強度)がピーク値となることがわかる。
PX(k′)の振幅値が最大値をとるk′の値をkp4とすると、kp4を求めることにより、式30よりによりパルスレーダ装置と目標との相対速度vを求めることができる。
相対速度計測器18では、上述のように、周波数スペクトル分析器17からの相対速度計測用複素ディジタル信号の周波数スペクトルの振幅値のピーク信号を検出することにより目標との相対速度を求め、その結果を相対速度補正器19に出力する。
相対速度補正器19では、相対速度計測器18で求めた目標との相対速度をvcalとして、式16で表される相対速度補正量Z(n)を求め、目標との相対速度計測のためにシフト複素共役乗算器16で用いた同じN組の周波数の異なる送信パルスに対する受信信号から得られた同じレンジビン番号のディジタルI、Qビデオ信号をビデオ信号保存用メモリ15から取り出し、ディジタルIビデオ信号を実部、ディジタルQビデオ信号を虚部とした複素ディジタルビデオ信号に対して、式17で示す相対速度の補正を行い、相対速度補正後複素ディジタルビデオ信号を求め、求めた相対速度補正後複素ディジタルビデオ信号を合成帯域器20に出力する。
合成帯域器20では、相対速度補正器19から入力された相対速度補正後複素ディジタルビデオ信号を逆フーリエ変換することによって、帯域の合成を行い、パルス幅Tp以下の距離分解能ΔRを持つ複素信号を生成し、その結果を包絡線検波器21に出力する。包絡線検波器21では、合成帯域器20から入力されるすべて複素信号の振幅値を求め、合成帯域処理による高距離分解能相対距離計測結果として、表示器22に出力する。表示器22では、包絡線検波器21からの入力信号を表示する。
図3は、この実施の形態1に係るパルスレーダ装置において、目標とレーダ装置間に相対速度がある場合に、合成帯域処理によって、高分解能相対距離を得る場合の目標との相対速度と高分解能相対距離計測結果が得られるタイミングを示す。また、あわせてその時の送信パルスSt、受信パルスSrを示す。
図3に示すように、この実施の形態1に係るパルスレーダ装置では、パルス毎に送信周波数がf0からfN−1まで周波数間隔Δfずつ変化するN個のパルスを繰り返し送信する。
相対速度計測処理には、パルス繰り返し周期Tpriの時間毎に得られる合成帯域モードの周波数f0、f1、・・・、fNー1のN個の送信パルスに対する同じレンジビン番号、図3の例ではレンジビン番号3の受信信号を用いる。また、合成帯域処理には、目標との相対速度計測に用いた同じ受信信号に対して、相対速度計測処理において求めた目標との相対速度を用いて相対速度補正を行った後に合成帯域処理を行う。
すなわち、この実施の形態1に係るパルスレーダ装置は、パルス毎に送信周波数がf0からfN−1まで周波数間隔Δfずつ変化するN(2以上の整数)個のパルスを目標方向へ繰り返し送信するパルスレーダ装置であって、パルス繰り返し周期毎に得られるf0からfN−1の送信パルスに対する同じレンジビン番号の複素ビデオ信号とその複素共役信号を1以上、N未満の値を持つ整数値αだけシフトさせて乗算行うシフト複素共役乗算器16と、複素共役乗算によって得られた信号の周波数スペクトルを求める周波数スペクトル分析器17と、求めた周波数スペクトルより、目標との相対速度を求める相対速度計測器18と、求めた目標との相対速度を用いて、目標との相対速度計測に用いた同じビデオ信号に対して相対速度補正を行う相対速度補正器19と、相対速度補正を施されたビデオ信号に対して合成帯域処理を行う合成帯域器20等を備えたものである。
従って、目標との相対速度を求めるために従来のパルスレーダ装置で示した相対速度計測モードを設けなくても、パルス繰り返し周期TpriのN倍の時間間隔毎に目標との相対速度を求めることができ、求めた目標との相対速度を用いて目標との相対速度計測に用いた同じ受信信号に対して相対速度補正を行った後に合成帯域処理を行うことによって、パルス繰り返し周期TpriのN倍の信号送信時間で1回の高分解能相対距離計測結果を得ることができる。
実施の形態2.
この発明の実施の形態2に係るパルスレーダ装置について図4を参照しながら説明する。図4は、この発明の実施の形態2に係るパルスレーダ装置の構成を示す図である。
図4において、この実施の形態2に係るパルスレーダ装置は、複数シフト複素共役乗算器(複素共役乗算手段)23と、複数周波数スペクトル分析器(周波数スペクトル分析手段)24と、複数相対速度計測器(相対速度計測手段)25と、相対速度平均器(相対速度平均手段)26とが設けられている。その他は、上記実施の形態1と同様である。
つぎに、この実施の形態2に係るパルスレーダ装置の動作について図面を参照しながら説明する。
図4において、ビデオ信号保存用メモリ15までは、上記実施の形態1と同様の動作である。
複数シフト複素共役乗算器23では、ビデオ信号保存用メモリ15からN個の周波数の異なる送信パルスに対する受信信号から得られた同じレンジビン番号のディジタルI、Qビデオ信号をとりだし、ディジタルIビデオ信号を実部、ディジタルQビデオ信号を虚部とした、複素ディジタルビデオ信号と、生成した複素ディジタルビデオ信号の虚部の符号を反転した、複素共役ディジタルビデオ信号を生成し、複素ディジタルビデオ信号と複素共役ディジタルビデオ信号を1以上、N未満の値を持つ複数の異なる値の整数量αだけシフトさせて乗算を行い、複数のN−α組の相対速度計測用ディジタルI、Q信号を生成する。生成した複数のN−α組の相対速度計測用複素ディジタル信号を複数周波数スペクトル分析器24に出力する。
複数周波数スペクトル分析器24では、複数シフト複素共役乗算器23からの複数のN−α組の相対速度計測用複素ディジタル信号をそれぞれ逆フーリエ変換することによって複数の相対速度計測用複素ディジタル信号の周波数スペクトルを求め、その結果を複数相対速度計測器25に出力する。
複数相対速度計測器25では、複数の相対速度計測用複素ディジタル信号の周波数スペクトルそれぞれの振幅値のピーク信号を検出することにより目標との複数の相対速度を求め、その結果を相対速度平均器26に出力する。相対速度平均器26では、複数相対速度計測器25より入力された目標との複数の相対速度の平均を求めその結果を相対速度補正器19に出力する。
相対速度補正器19以降の動作は、上記実施の形態1と同様である。
すなわち、この実施の形態2に係るパルスレーダ装置は、パルス毎に送信周波数がf0からfN−1まで周波数間隔Δfずつ変化するN(2以上の整数)個のパルスを目標方向へ繰り返し送信するパルスレーダ装置であって、パルス繰り返し周期毎に得られるf0からfN−1の送信パルスに対する同じレンジビン番号の複素ビデオ信号とその複素共役信号を複数の異なる1以上、N未満の値を持つ整数値αだけシフトさせて乗算行う複数シフト複素共役乗算器23と、複数のN−α組の複素共役乗算によって得られた信号の各周波数スペクトルを求める複数周波数スペクトル分析器24と、求めた複数の周波数スペクトルより、目標との複数の相対速度を求める複数相対速度計測器25と、求めた目標との複数の相対速度を平均する相対速度平均器26と、求めた目標との平均相対速度を用いて、目標との相対速度計測に用いた同じビデオ信号に対して相対速度補正を行う相対速度補正器19と、相対速度補正を施されたビデオ信号に対して合成帯域処理を行う合成帯域器20等を備えたものである。
従って、目標との相対速度を求めるために従来のパルスレーダ装置で示した相対速度計測モードを設けなくても、パルス繰り返し周期TpriのN倍の時間間隔毎に目標との相対速度を求めることができ、求めた目標との相対速度を用いて目標との相対速度計測に用いた同じ受信信号に対して相対速度補正を行った後に合成帯域処理を行うことによって、パルス繰り返し周期TpriのN倍の信号送信時間で1回の高分解能相対距離計測結果を得ることができ、さらに、計測精度の良い目標との相対速度計測が可能となる。
実施の形態3.
この発明の実施の形態3に係るパルスレーダ装置について図5を参照しながら説明する。図5は、この発明の実施の形態3に係るパルスレーダ装置の構成を示す図である。
図5において、この実施の形態3に係るパルスレーダ装置は、周波数スペクトル加算器(周波数スペクトル加算手段)27が設けられている。その他は、上記実施の形態1あるいは2と同様である。
つぎに、この実施の形態3に係るパルスレーダ装置の動作について図面を参照しながら説明する。
図5において、複数周波数スペクトル分析器24までは、上記実施の形態2と同様の動作である。
周波数スペクトル加算器27では、複数周波数スペクトル分析器24からの複数の相対速度計測用複素ディジタル信号の周波数スペクトルを同じ周波数ビン毎に加算しその結果を相対速度計測器18に出力する。
相対速度計測器18以降の動作は、上記実施の形態1と同様である。
すなわち、この実施の形態3に係るパルスレーダ装置は、パルス毎に送信周波数がf0からfN−1まで周波数間隔Δfずつ変化するN(2以上の整数)個のパルスを目標方向へ繰り返し送信するパルスレーダ装置であって、パルス繰り返し周期毎に得られるf0からfN−1の送信パルスに対する同じレンジビン番号の複素ビデオ信号とその複素共役信号を複数の異なる1以上、N未満の値を持つ整数値αだけシフトさせて乗算行う複数シフト複素共役乗算器23と、複数のN−α組の複素共役乗算によって得られた信号の各周波数スペクトルを求める複数周波数スペクトル分析器24と、求めた複数の周波数スペクトルを同じ周波数ビン毎に加算する周波数スペクトル加算器27と、求めた複数の周波数スペクトルを周波数ビン毎に加算した周波数スペクトルより、目標との相対速度を求める相対速度計測器18と、求めた目標との相対速度を用いて、目標との相対速度計測に用いた同じビデオ信号に対して相対速度補正を行う相対速度補正器19と、相対速度補正を施されたビデオ信号に対して合成帯域処理を行う合成帯域器20等を備えたものである。
従って、目標との相対速度を求めるために従来のパルスレーダ装置で示した相対速度計測モードを設けなくても、パルス繰り返し周期TpriのN倍の時間間隔毎に目標との相対速度を求めることができ、求めた目標との相対速度を用いて目標との相対速度計測に用いた同じ受信信号に対して相対速度補正を行った後に合成帯域処理を行うことによって、パルス繰り返し周期TpriのN倍の信号送信時間で1回の高分解能相対距離計測結果を得ることができ、さらに、目標との相対速度計測時の目標反射信号対雑音電力比を等価的に高めることが可能となる。なお、上記実施の形態1に適用した場合について説明したが、上記実施の形態2にも適用することができる。すなわち、図4において、複数周波数スペクトル分析器24の後段に周波数スペクトル加算器27を設ける。
実施の形態4.
この発明の実施の形態4に係るパルスレーダ装置について図6を参照しながら説明する。図6は、この発明の実施の形態4に係るパルスレーダ装置の構成を示す図である。
図6において、この実施の形態4に係るパルスレーダ装置は、最適シフト量選択器(最適シフト量選択手段)28が設けられている。その他は、上記実施の形態1と同様である。
つぎに、この実施の形態4に係るパルスレーダ装置の動作について図面を参照しながら説明する。
図6において、ビデオ信号保存用メモリ15までは、上記実施の形態1と同様の動作である。
シフト複素共役乗算器16では、ビデオ信号保存用メモリ15からN個の周波数の異なる送信パルスに対する受信信号から得られた同じレンジビン番号のディジタルI、Qビデオ信号をとりだし、ディジタルIビデオ信号を実部、ディジタルQビデオ信号を虚部とした、複素ディジタルビデオ信号と、生成した複素ディジタルビデオ信号の虚部の符号を反転した、複素共役ディジタルビデオ信号を生成し、複素ディジタルビデオ信号と複素共役ディジタルビデオ信号を1以上、N未満の値を持つ整数量αだけシフトさせて乗算を行い、N−α組の相対速度計測用ディジタルI、Q信号を生成する。生成したN−α組の相対速度計測用複素ディジタル信号を周波数スペクトル分析器17に出力する。
周波数スペクトル分析器17では、逆フーリエ変換を用いて、シフト複素共役乗算器16からの相対速度計測用複素ディジタル信号の周波数スペクトルを求め、その結果を相対速度計測器18に出力する。相対速度計測器18では、周波数スペクトル分析器17からの相対速度計測用複素ディジタル信号の周波数スペクトルの振幅値のピーク信号を検出することにより目標との相対速度を求め、その結果を相対速度補正器19に出力するとともに、最適シフト量選択器28へ出力する。
最適シフト量選択器28では、目標との相対速度が速い場合は少ないシフト量αを選択し、逆に、目標との相対速度が遅い場合は、多いシフト量αを選択し、選択したシフト量αをシフト複素共役乗算器16に出力する。シフト複素共役乗算器16では、最適シフト量選択器28から入力された最新のシフト量αを用いて上述の処理を行い、相対速度計測用複素ディジタル信号を求め、その結果を周波数スペクトル分析器17に出力する。以降この動作を繰り返す。
相対速度補正器19以降の動作は、上記実施の形態1と同様である。
すなわち、この実施の形態4に係るパルスレーダ装置は、求めた目標との相対速度より最適なシフト量αを求め、その結果をシフト複素共役乗算器16、複数シフト複素共役乗算器23に反映する最適シフト量選択器28等を備えたものである。
従って、目標との相対速度を求めるために従来のレーダ装置で示した相対速度計測モードを設けなくても、パルス繰り返し周期TpriのN倍の時間間隔毎に目標との相対速度を求めることができ、求めた目標との相対速度を用いて目標との相対速度計測に用いた同じ受信信号に対して相対速度補正を行った後に合成帯域処理を行うことによって、パルス繰り返し周期TpriのN倍の信号送信時間で1回の高分解能相対距離計測結果を得ることができ、さらに、目標の相対速度に応じた効率および精度の良い目標との相対速度計測が可能となる。なお、上記実施の形態1に適用した場合について説明したが、上記実施の形態2や3にも適用することができる。
実施の形態5.
この発明の実施の形態5に係るパルスレーダ装置について図7から図10までを参照しながら説明する。図7は、この発明の実施の形態5に係るパルスレーダ装置の構成を示す図である。
図7において、この実施の形態5に係るパルスレーダ装置は、周波数選別器(周波数選別手段)29と、目標相対速度/距離対応器(目標相対速度/距離対応手段)30が設けられている。その他は、上記実施の形態1と同様である。
つぎに、この実施の形態5に係るパルスレーダ装置の動作について図面を参照しながら説明する。
図8及び図9は、この発明の実施の形態5に係るパルスレーダ装置の周波数選別器の動作を示す図である。また、図10は、この発明の実施の形態5に係るパルスレーダ装置の目標相対速度/距離対応器の動作を示す図である。
図7において、周波数スペクトル分析器17までは、上記実施の形態1と同様の動作である。
周波数選別器29では、周波数スペクトル分析器17からの相対速度計測用複素ディジタル信号の周波数スペクトルの各周波数成分の振幅値(強度)を求め、振幅値が予め定めた閾値よりも大きい場合、あるいは、図8に示すように、振幅値が予め定めた閾値よりも大きく、且つ、その周波数が予め定めた周波数ゲートの範囲内である場合、あるいは、図9に示すように、予め定めた閾値を超える振幅値を持つ連続する周波数の幅が、予め定めた周波数幅よりも小さい場合、あるいは、予め定めた閾値を超える振幅値を持つ連続する周波数の幅が、予め定めた周波数幅よりも小さいく、且つ、それらの周波数が予め定めた周波数ゲートの範囲内である場合に、それらの周波数成分を目標の周波数成分を含む範囲の周波数スペクトルとし、全ての目標の周波数成分を含む範囲の周波数スペクトルを相対速度計測器18に出力する。
図8及び図9を用いて、周波数選別器29の動作の例を説明する。図8、図9にそれぞれ、周波数スペクトル分析器17からの相対速度計測用複素ディジタル信号の周波数スペクトルの各周波数成分の振幅値を示す。図8において、予め定めた閾値は0.04、予め定めた周波数ゲートの範囲を0から5000Hzとしている。そのため、閾値を越えた3つの周波数成分FA、FB、FCの中で、FAとFBが、目標の周波数成分を含む範囲の周波数スペクトルとして選択される。
また、図9おいて、予め定めた閾値は0.04、予め定めた周波数幅を700Hzとしている。閾値を越えた3つの周波数成分FA、FB、FCの周波数幅WFA、WFB、WFCはそれぞれ564Hz、459Hz、1084Hzであるため、予め定めた周波数幅よりも小さいFAとFBが、目標の周波数成分を含む範囲の周波数スペクトルとして選択される。
相対速度計測器18では、周波数選別器29からの各目標の周波数成分を含む範囲の周波数スペクトルのピーク信号を検出することにより各目標との相対速度を求め、その結果を相対速度補正器19に出力する。
相対速度補正器19では、相対速度計測器18で求めた全ての目標との相対速度中のから1つの目標との相対速度を順次選択し、その目標との相対速度をvcalとして、式16で表される相対速度補正量Z(n)を求め、目標との相対速度計測のためにシフト複素共役乗算器16で用いた同じN組の周波数の異なる送信パルスに対する受信信号から得られた同じレンジビン番号のディジタルI、Qビデオ信号をビデオ信号保存用メモリ15から取り出し、ディジタルIビデオ信号を実部、ディジタルQビデオ信号を虚部とした複素ディジタルビデオ信号に対して、式17で示す相対速度の補正を行い、相対速度補正後複素ディジタルビデオ信号を求め、求めた相対速度補正後複素ディジタルビデオ信号を合成帯域器20に出力する。
合成帯域器20では、相対速度補正器19から入力された相対速度補正後複素ディジタルビデオ信号を逆フーリエ変換することによって、帯域の合成を行い、パルス幅Tp以下の距離分解能ΔRを得る合成帯域処理を行い、その結果を包絡線検波器21に出力する。
包絡線検波器21では、合成帯域器20から入力されるすべて複素信号の振幅値を求め、合成帯域処理による高距離分解能相対距離計測結果として、目標相対速度/距離対応器30に出力する。
目標相対速度/距離対応器30では、包絡線検波器21からの合成帯域処理による高距離分解能相対距離計測結果より、各相対距離の振幅値と予め定めた閾値との大きさの比較を行い、振幅値が予め定めた閾値よりも大きい場合、あるいは、図10に示すように、予め定めた閾値を超える振幅値を持つ連続する距離の幅が、予め定めた距離幅よりも小さい場合、あるいは、振幅値が予め定めた閾値よりも大きく、相対速度補正器19で用いた目標との相対速度を相対速度計測器18で求めた時の相対速度計測用複素ディジタル信号の周波数スペクトルの振幅値(強度)、あるいはその換算値に最も近い場合に、その相対距離を相対速度補正器19で用いた相対速度の目標の相対距離とし、包絡線検波器21からの合成帯域処理による高距離分解能相対距離計測結果に、相対速度補正器19で用いた目標との相対速度と、その相対速度の目標の相対距離の情報を付加して、表示器22に出力する。
図8、図10を用いて、目標相対速度/距離対応器30の動作の例を説明する。図10に、包絡線検波器21からの合成帯域処理による高距離分解能測距結果を示す。図10において、予め定めた閾値は0.02、予め定めた距離幅が3.0mとしている。閾値を越えた2つの距離成分RA、RBの距離幅WRA、WRBは、それぞれ1.7m、3.9mであるため、予め定めた距離幅よりも小さいRAが、相対速度補正器19で用いた相対速度の目標の相対距離として選択される。
また、例えば、相対速度補正器19で用いた目標との相対速度を相対速度計測器18で求めた時の周波数成分の振幅値が図8のFAであった場合、その振幅値は、0.129であり、図10において、閾値を越えた2つの距離成分RA、RBの中で、振幅値が0.129に最も近いRAが、相対速度補正器19で用いた相対速度の目標の相対距離として選択される。
表示器22では、目標相対速度/距離対応器30からの出力信号を表示する。
周波数選別器29において、複数の目標の周波数成分を含む範囲の周波数スペクトルが選別された場合は、相対速度計測器18で求めた目標との相対速度の回数だけ、相対速度補正器19から表示器22の動作を繰り返し、全ての目標との相対速度に対して対応する相対距離を求める。
すなわち、この実施の形態5に係るパルスレーダ装置は、相対速度計測用複素ディジタル信号の周波数スペクトルより目標の周波数成分を含む範囲の周波数スペクトルを選別する周波数選別器29と、目標との相対速度と相対距離の対応を行う目標相対速度/距離対応器30等を備えたものである。
従って、目標との相対速度を求めるために、従来のパルスレーダ装置で示した相対速度計測モードを設けなくても、パルス繰り返し周期TpriのN倍の時間間隔毎に目標との相対速度を求めることができ、求めた目標との相対速度を用いて目標との相対速度計測に用いた同じ受信信号に対して相対速度補正を行った後に合成帯域処理を行うことによって、パルス繰り返し周期TpriのN倍の信号送信時間で1回の高分解能相対距離計測結果を得ることができ、さらに、目標の数が複数ある場合にも対応することが可能となる。なお、上記実施の形態1に適用した場合について説明したが、上記実施の形態2、3、4にも適用することができる。
実施の形態6.
この発明の実施の形態6に係るパルスレーダ装置について図11を参照しながら説明する。図11は、この発明の実施の形態6に係るパルスレーダ装置の構成を示す図である。
図11において、この実施の形態6に係るパルスレーダ装置は、レプリカ信号生成器(レプリカ信号生成手段)31と、減算器(減算手段)32と、減算後ビデオ信号保存用メモリ33とが設けられている。その他は、上記実施の形態5と同様である。
つぎに、この実施の形態6に係るパルスレーダ装置の動作について図面を参照しながら説明する。
図11において、目標相対速度/距離対応器30までは、上記実施の形態5と同様の動作である。
目標相対速度/距離対応器30では、包絡線検波器21からの合成帯域処理による高距離分解能相対距離計測結果に、相対速度補正器19で用いた目標との相対速度と、その相対速度の目標の相対距離の情報を付加して、表示器22に出力するとともに、相対速度補正器19で用いた目標との相対速度の情報、その相対速度の目標の相対距離の情報、及び、その相対距離の包絡線検波器21からの合成帯域処理による高距離分解能相対距離計測結果の振幅値を、相対速度補正器19で用いた相対速度の目標の強度の情報としてレプリカ信号生成器31に出力する。
レプリカ信号生成器31では、目標相対速度/距離対応器30からの、相対速度補正器19で用いた目標との相対速度の情報と、その相対速度の目標の相対距離と強度の情報より、目標反射信号のレプリカ信号を生成し、生成したレプリカ信号を減算器32に出力する。
減算器32では、ビデオ信号保存用メモリ15より目標との相対速度計測のためにシフト複素共役乗算器16で用いた同じN組の周波数の異なる送信パルスに対する受信信号から得られた同じレンジビン番号のディジタルI、Qビデオ信号を取り出し、取り出したディジタルI、Qビデオ信号から、レプリカ信号生成器31で生成したレプリカ信号を引くことによって、減算後ディジタルI、Qビデオ信号を生成し、その結果を相対速度補正器19に出力するとともに、減算後ビデオ信号保存用メモリ33に出力する。
相対速度補正器19では、相対速度計測器18で求めた別の目標との相対速度をvcalとして、式16で表される新たな相対速度補正量Z(n)を求め、減算後ディジタルIビデオ信号を実部、減算後ディジタルQビデオ信号を虚部とした減算後複素ディジタルビデオ信号に対して、式17で示す相対速度の補正を行い、相対速度補正後複素ディジタルビデオ信号を新たに求め、求めた相対速度補正後複素ディジタルビデオ信号を合成帯域器20に出力する。
合成帯域器20から、目標相対速度/距離対応器30までは、上記実施の形態5と同様の動作である。
レプリカ信号生成器31では、目標相対速度/距離対応器30からの、新たに相対速度補正器19で用いた目標との相対速度の情報と、その相対速度の目標の相対距離と強度の情報より、新たに目標反射信号のレプリカ信号を生成し、生成したレプリカ信号を減算器32に出力する。
減算器32では、減算後ビデオ信号保存用メモリ33より、前回の減算後ディジタルI、Qビデオ信号を取り出し、取り出した減算後ディジタルI、Qビデオ信号から、レプリカ信号生成器31で新たに生成したレプリカ信号を引くことによって、新たに減算後ディジタルI、Qビデオ信号を生成し、その結果を相対速度補正器19に出力するとともに、新たに、減算後ビデオ信号保存用メモリ33に出力する。
上記の相対速度補正器19から減算後ビデオ信号保存用メモリ33までの動作を、相対速度計測器18で検出された目標との相対速度の数だけ繰り返す。
すなわち、この実施の形態6に係るパルスレーダ装置は、目標相対速度/距離対応器30からの、相対速度補正器19で用いた目標との相対速度の情報と、その相対速度の目標の相対距離と強度の情報より、目標反射信号のレプリカ信号を生成するレプリカ信号生成器31と、目標との相対速度計測に用いた同じビデオ信号、あるいは、減算後ビデオ信号保存用メモリ33から取り出した減算後ビデオ信号から目標反射信号のレプリカ信号を引く減算器32と、減算後ビデオ信号を保存する減算後ビデオ信号保存用メモリ33等を備えたものである。
従って、目標との相対速度を求めるために、従来のパルスレーダ装置で示した相対速度計測モードを設けなくても、パルス繰り返し周期TpriのN倍の時間間隔毎に目標との相対速度を求めることができ、求めた目標との相対速度を用いて目標との相対速度計測に用いた同じ受信信号に対して相対速度補正を行った後に合成帯域処理を行うことによって、パルス繰り返し周期TpriのN倍の信号送信時間で1回の高分解能相対距離計測結果を得ることができ、さらに、目標の数が複数ある場合にも対応でき、なお且つ、大きな受信信号強度目標のサイドローブに小さな受信信号強度の目標が埋もれてしまうことを回避することができる。
1 タイミング発生器、2 周波数シンセサイザ、3a、3b 分配器、4 基準中間周波数信号発生器、5a、5b 周波数変換器、6 パルス変調器、7 電力増幅器、8 送受切替器、9 アンテナ、10 目標、11 中間周波数増幅器、12 90度ハイブリッド器、13a、13b 位相検波器、14a、14b A/D変換器、15 ビデオ信号保存用メモリ、16 シフト複素共役乗算器、17 周波数スペクトル分析器、18 相対速度計測器、19 相対速度補正器、20 合成帯域器、21 包絡線検波器、22 表示器、23 複数シフト複素共役乗算器、24 複数周波数スペクトル分析器、25 複数相対速度計測器、26 相対速度平均器、27 周波数スペクトル加算器、28 最適シフト量選択器、29 周波数選別器、30 目標相対速度/距離対応器、31 レプリカ信号生成器、32 減算器、33 減算後ビデオ信号保存用メモリ。