本発明において乳酸オリゴマーとは、乳酸の2量体から分子量5万程度までの乳酸重合物を含む概念であるが、ラクチドの製造において解重合装置に投入される乳酸オリゴマーの分子量は、数平均分子量で、通常150〜1万、好ましくは500〜5,000である。
本発明においてラクチドとは、乳酸2分子から水2分子を脱水することにより生じる環式エステルを意味する。乳酸には、L−乳酸、D−乳酸のいずれも包含される。本発明は、光学活性なラクチド、特にLL−ラクチドの製造に特に好適である。
ポリ乳酸は、乳酸を主成分とする重合体を意味し、ポリL−乳酸ホモポリマー、ポリD−乳酸ホモポリマー、ポリL/D−乳酸共重合物、これらのポリ乳酸に他のエステル結合形成性成分、例えば、ヒドロキシカルボン酸、ラクトン類、ジカルボン酸とジオールなどを共重合した共重合ポリ乳酸及びそれらに副次成分として添加物を混合したものを包含する。添加物の例としては、酸化防止剤、安定剤、紫外線吸収剤、顔料、着色剤、無機粒子、各種フィラー、離型剤、可塑剤、その他類似のものが挙げられる。これらの共重合成分及び添加剤の添加率は任意であるが、主成分は乳酸又は乳酸由来のもので、共重合成分及び添加剤は50重量%以下、特に30%以下とすることが好ましい。
本発明において、連続反応又は連続とは、当技術分野において通常用いられる意味を有し、原料の供給と生成物の排出を行う時間帯が少なくとも一部重なる場合や、原料の供給を連続的に行い、生成物を連続的に排出する場合を含むものである。
本発明は、原料液である乳酸オリゴマーを溶融状態で連続的に供給し、加熱しつつ必要に応じて触媒と接触させて減圧環境下に置くことで解重合を行い、ラクチド蒸気を製品として回収するものである。なお、反応槽内部の液は解重合反応することで変質し当初の原料液とは異なる状態になっているのが当然であるが、本明細書では、これらを区別せず、原料液又は反応液の言葉で表記する。
乳酸オリゴマーが溶融状態にあるためには、加熱温度がその融点以上である必要がある。融点は乳酸オリゴマーの重合度分布等によって変化するが、通常100〜250℃、好ましくは180〜220℃である。
本発明では、乳酸オリゴマーの解重合反応を多段式の連続反応で行う。すなわち、解重合反応を、多段の連続解重合装置で実施する。連続解重合装置は、解重合反応を連続反応で行うための反応装置をさし、多段の連続解重合装置は、該反応装置が複数連結されていることをさす。
本発明では、多段式の連続解重合反応の各段で発生する粗ラクチド蒸気から不純物をそれぞれ分離し、不純物分離後の粗ラクチドを段ごとに別々に精製する。すなわち、本発明において、連続解重合装置は、発生する粗ラクチド蒸気から不純物を分離するための分縮装置、不純物分離後の粗ラクチドを回収するためのタンク、及び不純物分離後の粗ラクチドを精製するための精製装置を備え、分縮装置及びタンクは多段式連続解重合装置の各段の下流に少なくとも1つずつ設置されている。精製装置は、解重合反応によって生成したラクチドから目的の光学活性ラクチドを精製する装置をさし、好ましくはLL−ラクチドの製造において光学異性体化により生じるDL−ラクチド及びDD−ラクチドを含むラセミ混合物からLL−ラクチドを精製する装置をさす。
精製装置は複数系統あってもよいが、不純物分離後の粗ラクチドを回収するためのタンクを多段の連続解重合装置の各段の下流に少なくとも1つずつ設置することにより、1つの精製装置で粗ラクチドを段ごとに別々に精製することができ、高価な精製装置を複数設置する必要がなくなり有利である。
前段側の連続解重合装置で発生する粗ラクチドほど生成量が多い割に光学異性体の生成率が低い。従って、精製工程で光学異性体と一緒に廃棄されることによる製品ラクチド(LL−ラクチド)のロスが少ない。本発明のように、各段からの粗ラクチドを別々に精製する際の製品ラクチドのロスは、全段からの粗ラクチドを混合し一括して精製する場合と比べて少ないため、原料収率が向上する。
連続解重合装置は、少なくとも反応槽、乳酸オリゴマー供給口、ラクチド排出口及び残渣排出口を有する。また、通常温度計も設置される。各段の連続解重合装置内部は、通常、分縮装置、ラクチド蒸気凝縮器、不純物凝縮器を経由して設置されている真空ポンプにより減圧されている。原料である溶融乳酸オリゴマーや前段の残渣液(ドレン)は連続的に後段の解重合装置内に供給される。反応液の装置内滞留量は必要に応じて、滞留量測定器により計測され、一定となるよう供給量とドレン排出量は調節されるのが望ましい。
連続解重合装置における加熱方法としては、当技術分野において通常用いられる方法を使用することができ、例えば、外周部に熱媒のジャケットを設置し、反応槽壁面を通して伝熱により加熱する方法、又は装置内部への熱交換設置により熱媒を通して加熱する方法等があり、これらを単独で使用しても組み合わせて使用してもよい。
連続解重合装置には通常減圧装置が設置されており、通常100Torr以下、好ましくは10Torr以下の減圧環境下、通常120〜250℃、好ましくは180〜220℃で加熱することにより乳酸オリゴマーの解重合反応を実施する。当該解重合反応によりラクチドが気体として生成する。
解重合反応においては、必要に応じて、解重合反応のための触媒を添加してもよい。触媒としては、従来公知のものを使用することができ、例えば、周期表IA族、IVA族、IVB族及びVA族からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属又は金属化合物を含む触媒を用いることができる。IVA族に属するものとしては、例えば、有機スズ系の触媒(例えば、乳酸スズ、酒石酸スズ、ジカプリル酸スズ、ジラウリル酸スズ、ジパルミチン酸スズ、ジステアリン酸スズ、ジオレイン酸スズ、α−ナフトエ酸スズ、β−ナフトエ酸スズ、2−エチルヘキサン酸スズ等)、及び粉末スズ等が挙げられる。IA族に属するものとしては、例えば、アルカリ金属の水酸化物(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等)、アルカリ金属と弱酸の塩(例えば、乳酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、オクチル酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、乳酸カリウム、酢酸カリウム、炭酸カリウム、オクチル酸カリウム等)、アルカリ金属のアルコキシド(例えば、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド等)等が挙げられる。IVB族に属するものとしては、例えば、テトラプロピルチタネート等のチタン系化合物、ジルコニウムイソプロポキシド等のジルコニウム系化合物等が挙げられる。VA族に属するものとしては、例えば、三酸化アンチモン等のアンチモン系化合物等が挙げられる。これらの中でも、有機スズ系触媒又はスズ化合物が活性の点から特に好ましい。
触媒は液体又は粉末状の固体のものであれば、当技術分野で通常用いられる触媒添加装置により溶融乳酸オリゴマーに添加してから混合液を連続解重合装置に連続供給し解重合後の残液を連続排出してもよいし、連続解重合装置に直接添加し、連続供給されてきた溶融乳酸オリゴマーと連続解重合装置内で接触させてもよい。また、反応性維持の観点から、必要に応じて触媒供給を各段の連続解重合装置で実施することも可能であるが、一段目の連続解重合装置に添加した触媒のみで最終段までの反応を進めてもよい。この他、触媒が固体の場合には、連続解重合装置内の機器又は構造物で溶融乳酸オリゴマーと接触する面の少なくとも一部に担持させてもよい。本方法では触媒の添加装置が不要となる反面、上記方法と比べて溶融乳酸オリゴマーとの実際の接触面積が低下するので解重合反応が遅くなる、触媒活性低下のたびに連続解重合装置内の機器及び構造物をメンテナンスする必要がある等の短所がある。
本発明では、多段式の連続反応における二段目以降の段で連続解重合装置として横型二軸攪拌機を用いることが好ましい。従って、本発明において多段の連続解重合装置は、二段目以降の段に横型二軸攪拌機を含むことが好ましい。
本発明では、多段式の連続反応の少なくとも一段において遠心薄膜蒸発装置を用い、それより後段で横型二軸攪拌機を用いることが好ましい。従って、本発明において多段の連続解重合装置は、遠心薄膜蒸発装置を含み、それより後段に横型二軸攪拌機を含むことが好ましい。
本発明において、連続解重合装置としての横型二軸攪拌機には横型二軸押出機も包含され、反応槽内の攪拌機の二本の回転軸が地面に対して実質的に水平になるように設置され、反応槽内において回転軸方向の一端に溶融乳酸オリゴマーを含む反応液を供給するための供給口を有し、他端に反応液を取り出すための排出口を有する装置をさす。地面に対して実質的に水平とは、攪拌装置の回転軸が厳密に水平であることを意図するものではなく、地面、すなわち、地平線と回転軸とのなす角度が、通常−5°〜5°、好ましくは−1°〜1°、より好ましくは0°であることを意味する。反応槽の形状等については、特に制限されず、当技術分野で通常用いられるものを使用できる。代表的なものには日立プラントテクノロジー社のめがね翼重合器、格子翼重合器などがある。排出口は撹拌装置の回転軸より下側に位置するのが好ましい。横型二軸攪拌機に設置される混合機としては、地面に対して実質的に水平方向に配置される回転軸を中心とした回転により攪拌を行うものであれば特に限定されない。例えば、円形、長円形、3角形、4角形及び多葉形、めがね形状、格子形状などの攪拌翼が回転軸上に間隔をあけて2枚以上設置された互いに噛み合う二軸の混合機などが挙げられる。互いに噛み合う二軸以上の混合機は、混合機の回転軸や反応槽への反応液の付着を防止することができるため、セルフクリーニング作用の観点から好ましい。複数の攪拌翼を有する二軸の混合機を使用する場合は各回転軸を逆方向に回転させるのが好ましい。
横型二軸攪拌機内において反応液の装置内滞留量は、必要に応じて、滞留量測定器により計測され、一定となるよう供給量とドレン排出量が調節される。横型二軸攪拌機内において触媒は、互いに逆方向に回る攪拌翼により発生する表面更新効果により拡散し、装置内部の反応液と混合される。反応液は互いに逆方向に回る攪拌翼により引っ張られ液膜を形成する。装置ケーシング外面は熱媒等で加熱されており、これにより反応液は加熱され、触媒との接触により生成したラクチドの蒸発が促進される。ラクチド蒸気の気泡は攪拌翼により発生する表面更新効果により反応液バルク層から蒸発面に向かって拡散・移行して反応液の外部に排出される。その後、蒸気は分縮装置に供給され、水分、未反応乳酸、低分子量の揮発性乳酸オリゴマーが分離され、好ましくは濃縮乳酸のオリゴマー化工程に還流される。水分、未反応乳酸、低分子量の揮発性乳酸オリゴマーが除去されたラクチド蒸気は、その後ラクチド蒸気凝縮器に供給される。ここでラクチド蒸気は凝縮して回収され、精製工程に移送される。ラクチド蒸気凝縮器を出た蒸気は不純物凝縮器に入り、ここで液化される。凝縮した不純物は通常廃棄される場合が多い。不純物凝縮器を出たガスは真空ポンプを経由して、系外に放出される。また、横型二軸攪拌機の滞留量測定器については液ヘッド、溶融乳酸オリゴマーの誘電率、差圧、ガンマ線等を利用した液面計が適用可能である。前段の連続解重合装置で既に反応性が低下した残渣液がドレンとして排出された後、これを後段の、表面更新効果を有することで反応性を改善することができる横型二軸攪拌機で解重合に付すことで、さらにラクチドを回収できるため、原料収率が向上する。
本発明において、遠心薄膜蒸発装置とは、装置内に供給された被濃縮液を遠心力により装置ケーシング内面に被濃縮液を当てて液膜を形成し、装置ケーシング外面からの加熱により蒸発を促すものである。遠心力は固定された装置ケーシング内に翼が設置された回転子を設置し、回転する翼を通して被濃縮液に与えられる。本装置を用いることにより設備規模をコンパクトにできる、翼とケーシングの間のギャップ幅及び翼の回転制御により液膜厚さを制御できる等の長所がある。横型、縦型どちらの遠心薄膜蒸発装置でもよい。いずれについても、装置内に触媒等の添加物を滞留させ、回転子、翼の稼動により触媒を溶融乳酸オリゴマーに分散させることが可能である。従って、装置の一端から溶融乳酸オリゴマーを連続供給しても、それがラクチド蒸気の排出量に見合っていれば滞留量を一定に保てるので、通常は他端から連続排出を行うが、その必要は必ずしもない。供給量が排出量に比べて不足していれば、すなわち液膜が薄くなってきていることが確認されれば、所定の液膜厚さとなるよう、原料液の供給量を増やせばよい。逆に多い場合、攪拌翼後方の堰により液膜からの原料液の漏洩は抑制され液膜が厚くなることが確認されるので、所定の液膜厚さとなるよう、原料液の供給量を減らせばよい。触媒活性の低下に伴う解重合反応の効率低下や解重合後の残渣蓄積により滞留量が増大する。これらはドレン穴より連続的又は断続的に排出される。触媒はこれに合わせて、連続的に又は断続的に装置内に添加される。このような観点から、原料液の供給系、又は反応槽には触媒等の添加物を供給するノズルを設置するのが望ましい。また、ドレン穴の設置位置について、連続的にドレン排出する場合については攪拌翼よりも後方でなければいけないが、断続的な場合には通常ドレンバルブを閉じて運転するため、攪拌翼にかかる場所であってもよい。この場合、液膜からの原料液の漏洩を抑制するための堰は攪拌翼にギリギリのところまで接近して設置させることが可能で、原料液の漏洩スペースを著しく低減することができる。液膜厚さを計測する方法には色々考えられるが、その一つに遠心力により液膜が反応槽内壁に与える圧力を測定することができる。圧力測定は反応槽外面の頂部にレベルゲージを設置してその液面高さを見る方法、圧力センサーを設置して圧力に応じた電圧を測定する方法等がある。
特に縦型の遠心薄膜蒸発装置を適用する場合、原料液を反応槽の上部、下部いずれから供給するにせよ、攪拌翼には一部スクリュー機能を持たせることで、重力による液の流下に抗し液膜を保持するための揚力を発生させることが望ましい。
遠心薄膜蒸発装置内において反応液の装置内滞留量は滞留量測定器により計測され、一定となるよう供給量は調節され、また、攪拌翼後部の堰により、攪拌翼の外部への漏洩は抑制される。遠心薄膜蒸発装置内において触媒は回転子の翼の回転により反応液と混合されると共に遠心力で装置ケーシング内面に押しつけられ、内面の形状に沿って液膜を形成する。装置ケーシング外面は熱媒等で加熱されており、これにより液膜は加熱され、添加物との接触により生成したラクチドの蒸発が促進される。ラクチド蒸気は遠心薄膜蒸発装置の外に排出され、ラクチド凝縮器に供給される。ここでラクチド蒸気は凝縮して回収され、精製工程に移送される。ラクチド凝縮器を出た蒸気は不純物凝縮器に入り、ここで液化される。凝縮した不純物は通常廃棄される場合が多い。不純物凝縮器を出たガスは真空ポンプを経由して、系外に放出される。遠心薄膜蒸発装置について、上記の方式は固定された装置ケーシング内で翼を回転させて遠心力を与える方式であり、翼は通常回転軸に平行な板状のもので回転軸から放射状に設置される場合が多く、その他上記翼にねじれを加えスクリュー状にした物を用いる場合もある。遠心薄膜蒸発装置は回転軸が地面に水平なもの、垂直なもの、その中間の角度のもの、いずれでもよい。また、滞留量測定器については液ヘッド、溶融乳酸オリゴマーの誘電率、差圧等を利用した液面計が例えば適用可能である。遠心薄膜蒸発装置を適用した解重合装置は横型二軸攪拌機と異なり、後段側で処理を行う残渣には必ずしも低下した反応性を改善する効果が十分ではない可能性があるが、反応性に富んだ前段側の反応液については、横型二軸攪拌機と比べて光学異性体の生成を抑制する効果が大きい。多段の連続解重合装置において、横型二軸攪拌機よりも前段側に遠心薄膜蒸発装置を設置することで、光学異性体の生成を抑制しつつ廃棄する残渣を低減できるので、原料収率をさらに向上することができる。
分縮装置、ラクチド凝縮器、及び不純物凝縮器については、金属管を隔てて上記と冷媒が間接的に接触する表面凝縮器が望ましい。これはラクチドが水を含む冷媒と直接接触すると分解して酸を生成するためである。これは酸触媒として重合反応の進捗を阻害する上、凝縮器等の材料腐食を引き起こす可能性がある。不純物凝縮物についても、光学異性体成分等、融点が低いが含まれる場合があり、これも水と接触すると酸を生成するので同様に腐食を引き起こす可能性がある。冷媒としてラクチドに対し不活性なものを用いる場合は上記の限りではないが、その場合、冷媒を十分乾燥させ湿分を低減する必要がある。
多段の連続解重合装置には、横型二軸攪拌機、遠心薄膜蒸発装置の他、特許文献1にあるような通常のタンク式攪拌機が含まれていてもよい。タンク式攪拌機の特徴は横型二軸攪拌機、遠心薄膜蒸発装置と比べて滞留量、すなわち装置体積あたりの生産量が大きいことである。このため上記3種類の機器を用いて3段式の連続解重合工程を構築する場合、例えばタンク式攪拌機、遠心薄膜蒸発装置、横型二軸攪拌機の順に連続解重合装置を設置して、解重合を実施する方法が考えられる。
一実施形態において本発明は、乳酸からポリ乳酸を製造する方法であって、
乳酸を縮合して乳酸オリゴマーを合成する乳酸縮合工程、
得られた乳酸オリゴマーを上記ラクチド製造工程、及び
ラクチドを開環重合してポリ乳酸を合成する開環重合工程
を含み、解重合工程で発生した粗ラクチド蒸気から分離された不純物を乳酸縮合工程又はより上流の工程に還流することを特徴とする方法に関する。
上記ポリ乳酸の製造方法は、
乳酸からポリ乳酸を合成するためのポリ乳酸製造装置であって、
乳酸を縮合して乳酸オリゴマーを合成する乳酸縮合装置、
乳酸オリゴマーの解重合によりラクチドを合成するための本発明のラクチド製造装置、
ラクチドを開環重合してポリ乳酸を合成する開環重合装置、及び
ラクチド製造装置の分縮装置で分離された不純物を乳酸縮合装置又はより上流の装置に還流するための系
を備える装置により実施できる。
乳酸を縮合することにより乳酸オリゴマーを合成する乳酸縮合工程において、乳酸は従来公知の方法により製造されたもののいずれを用いてもよいが、水分含量の少ない乳酸が好ましい。このような乳酸を使用することにより、乳酸に含まれる水分を蒸発させて濃縮するための工程を短縮することができ、コストの面からも有利となる。
乳酸にもともと含まれている水分は、加熱して蒸発させることにより除去することが好ましい。原料乳酸に含まれる水分は、縮合工程において、乳酸の縮合反応よって生成する水分と一緒に除去してもよいが、原料乳酸から予め水分を除去し、乳酸を濃縮した後で、これを乳酸縮合工程に付してもよい。
前者の場合は、原料乳酸を乳酸縮合装置に直接輸送して乳酸縮合反応を行うが、後者の場合は、乳酸濃縮装置と乳酸縮合装置を直列に接続し、前段の乳酸濃縮装置で乳酸を加熱して水分を蒸発させた後、得られた乳酸濃縮物を乳酸縮合装置に輸送して乳酸縮合反応を行う。乳酸縮合装置又は乳酸濃縮装置の前段に、乳酸供給装置を設置して、ここからいずれかの装置に乳酸を供給してもよい。
乳酸縮合装置において、乳酸を加熱することにより乳酸オリゴマーを生成する。乳酸縮合反応においては、得られる乳酸オリゴマーの分子量が、上述の連続解重合装置に投入するのに適する分子量となるようにする。すなわち、得られる乳酸オリゴマーの分子量が数平均分子量で通常150〜1万、好ましくは500〜5,000となるように反応を行う。乳酸縮合反応は、通常圧力100Torr以下、好ましくは10Torr以下、さらに好ましくは1Torr以下で、通常160〜220℃、好ましくは170〜200℃まで徐々に昇温させることにより実施する。加熱時間を可能な限り短くすることで、乳酸及びオリゴマーの熱分解を抑制することができる。
乳酸縮合反応においては、必要に応じて、乳酸縮合反応のための触媒を添加してもよい。触媒としては、従来公知のものを使用することができ、例えば、有機スズ系の触媒(例として、乳酸スズ、酒石酸スズ、ジカプリル酸スズ、ジラウリル酸スズ、ジパルミチン酸スズ、ジステアリン酸スズ、ジオレイン酸スズ、α−ナフトエ酸スズ、β−ナフトエ酸スズ、オクチル酸スズ等)及び粉末スズ等が挙げられる。上記乳酸供給装置が設置されている場合は、予め乳酸供給装置においてこれらの触媒を添加してもよい。
縮合反応によって得られた乳酸オリゴマーは、一度バッファタンクとしての乳酸オリゴマー供給装置等に蓄積してから連続解重合装置に輸送してもよいし、連続解重合装置に直接輸送してもよい。解重合反応を連続的に実施する場合は、乳酸オリゴマーを乳酸オリゴマー供給装置に蓄積してから連続解重合装置に連続的に輸送することが好ましい。
ラクチドの開環重合反応は、開環重合装置において、不活性ガス雰囲気下、通常120〜250℃、好ましくは120〜200℃で加熱することにより実施する。当該開環重合反応によりポリ乳酸が生成する。
開環重合反応の触媒としては、必要に応じて解重合反応のための触媒と同じものを用いてもよい。触媒としては、従来公知のものを使用することができ、例えば、周期律表IA族、IIIA族、IVA族、IIB族及びVA族からなる群から選択される金属又は金属化合物からなる触媒を使用できる。これらの中でも、オクチル酸スズ等のスズ系化合物又は三酸化アンチモン等のアンチモン系化合物を使用するのが好ましい。これら触媒の使用量は、ラクチドに対して1〜2000ppm、好ましくは5〜1500ppm、より好ましくは10〜1000ppm程度である。
開環重合反応においては、分子量の調整等を目的として、必要に応じて開環重合反応のための重合開始剤を添加してもよい。重合開始剤としては1−ドデカノール等のアルコール類のように水酸基を有する物質を用いることができる。
ラクチドの解重合において分縮装置で分離された不純物は、乳酸縮合工程又はより上流の工程、例えば乳酸濃縮工程に還流される。すなわち、ラクチド製造装置の分縮装置で分離された不純物を、乳酸縮合装置又はより上流の装置に還流する。そのための系は、通常、バルブ、送液ポンプ、配管を含む。これにより、解重合工程で不純物として生成した水、乳酸及び低分子量乳酸オリゴマーを回収・再利用することができ、原料乳酸に対するラクチド及びポリ乳酸の収率をさらに向上させることができる。
以下本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。
(実施例1)
図1は、本発明の多段式連続解重合方法及び装置を用いたポリ乳酸合成の全工程の一実施形態を示す。本実施形態においてポリ乳酸合成工程は、原料モノマー(乳酸)の濃縮工程、濃縮物の縮合工程、乳酸オリゴマーの解重合工程、ラクチドの精製工程、開環重合工程、残存モノマーの処理工程、ポリマー(ポリ乳酸)の乾燥工程から構成される。これらはポリマーの性状、プロセスの必要性に応じて省略したり、途中で他工程を追加したりしてもよい。また、残存モノマーの処理工程は、減圧環境下におけるモノマーの脱離・除去、融点以下の温度における固相重合等の方式から選択できる。
図2は、本発明の多段式連続解重合方法を、タンク式攪拌機、遠心薄膜蒸発装置、横型二軸攪拌機の順に三段式で実施する実施形態を示す。いずれの解重合装置も必要に応じて種類を変更してもよい。段数についても2段以上あればよく、どれか一つを省略しても、或いは段数を増やしてもよい。その他についても必要に応じて省略することができる。
バルブ5を閉じてドレン配管6からの排出を止めた状態とした後、ニードルバルブ1を開き、送液ポンプ2を稼動させて、濃縮乳酸を配管3を通して乳酸縮合装置4に供給する。オリゴマー化工程は連続式、回分式いずれでもよい。また、乳酸縮合装置4についても、本実施例ではタンク式攪拌機1台を想定しているが、横型攪拌機等いずれのタイプでもよく、複数の乳酸縮合装置が直列、並列になっていてもよい。連続方式を適用する場合、ニードルバルブ1により適度な背圧をかけておくのが望ましい。濃縮乳酸の送液のため、配管3は室温以上200℃以下に加熱することが望ましい。加熱方法としては、電気ヒーター、蒸気トレース、熱媒ジャケット等による方法があるが、いずれの方式でもよい。
乳酸縮合装置4は内部が100℃以上200℃以下の温度で減圧環境になっており、この環境で所定の時間処理することで、乳酸分子同士で縮合反応が起こり分子量数百から数万の乳酸オリゴマーが生成する。例えば、180℃、30torr、滞留時間2時間の条件で処理することで重量平均分子量600程度の乳酸オリゴマーが生成し、200℃、30torr、滞留時間2時間の条件で処理することで重量平均分子量1200程度の乳酸オリゴマーが生成する。乳酸縮合装置4の内部を加熱する方法については、熱媒ジャケットによる外部からの加熱や、装置内部への熱交換器設置による熱媒加熱等、いずれの方法でもよい。装置内部の減圧は真空ポンプ14により実施する。乳酸分子間の縮合反応に伴い水が生成し、これが水蒸気となり配管7を通って還流器8に到達する。配管7は内部を100℃以上200℃以下の温度で加熱することが望ましい。加熱方法としては、電気ヒーター、蒸気トレース、熱媒ジャケット等による方法があるが、いずれの方式でもよい。還流器8では水蒸気とこれに同伴して移送された乳酸及びその縮合物を分離する。還流器8の温度は乳酸及びその縮合物を固着させない程度の温度を保ちつつ凝縮させ、かつ水蒸気を凝縮させないため、50℃以上100℃以下が望ましい。乳酸及びその縮合物を凝縮させて配管11により乳酸縮合装置4に戻す。水蒸気は配管9により凝縮器10に到達する。凝縮器10では水蒸気を凝縮させ、凝縮水はバルブ123を開として、配管16を通って凝縮水回収タンク17に貯蔵される。水蒸気を取り除かれた後の排ガスは減圧弁12、配管13を通り真空ポンプ14から配管15を通って系外放出される。なお、乳酸縮合装置4の運転時にはバルブ24、18を閉として、配管19、25からのドレン排出を停止しておく。また、連続運転の場合はバルブ20を開として送液ポンプ21を連続運転し、配管22を通して乳酸オリゴマーを乳酸オリゴマー供給槽23に送付する。回分操作による運転の場合はバルブ20を閉としておき、オリゴマー化を終了した段階で開とし、送液ポンプ21を運転し、配管22を通して乳酸オリゴマーを乳酸オリゴマー供給槽23に送付する。その際、配管22は乳酸オリゴマーを固着させないため、内部を100℃以上200℃以下の温度で加熱することが望ましい。また、その際の加熱方法は熱媒ジャケットによる外部加熱が望ましい。乳酸オリゴマー供給槽23は乳酸オリゴマーを固着させないため、内部を100℃以上200℃以下の温度で加熱することが望ましい。また、その際の加熱方法は熱媒ジャケットによる外部加熱や、装置内部への熱交換器設置による熱媒加熱等、いずれの方法でもよい。乳酸オリゴマーはバルブ26を開として、ニードルバルブ124により必要に応じて背圧をかけながら送液ポンプ27により配管28を通って、第一段目の連続解重合装置29に連続供給される。その際、配管28は内部を100℃以上200℃以下の温度で加熱することが望ましい。また、その際の加熱方法は熱媒ジャケットによる外部加熱が望ましい。
連続解重合装置29はタンク式の反応装置で、配管28から連続供給される乳酸オリゴマーのほか、バルブ31を開とすることにより触媒移送ポンプ32によりニードルバルブ125、配管33を通して触媒タンク30内の触媒の連続供給を受ける。触媒は液体、固体いずれでもよいが、液体触媒の場合には触媒移送ポンプ32は送液ポンプであり、ニードルバルブ125により必要に応じて背圧をかけることが望ましい。連続解重合装置29は内部が180℃以上220℃以下の温度で減圧環境になっている。圧力としては10torr以下が望ましい。この環境で所定の時間、乳酸オリゴマーと触媒とを接触・混合させることで乳酸オリゴマーの解重合反応が起こり、ラクチドが生成する。連続解重合装置29の内部を加熱する方法は、熱媒ジャケットによる外部からの加熱や、装置内部への熱交換器設置による熱媒加熱等、いずれの方法でもよい。また、装置内部の減圧については真空ポンプ49により実施する。生成したラクチドは、水分、乳酸、低分子量乳酸オリゴマーを伴う粗ラクチドとして乳酸オリゴマーの液面から蒸発し、配管34を通って分縮装置35に到達する。配管34は粗ラクチドの付着を防止するため、内部を100℃以上200℃以下の温度で加熱することが望ましい。加熱する方法については、熱媒ジャケットによる外部からの加熱が望ましい。分縮装置35では水分、乳酸、低分子量乳酸オリゴマー等の不純物を凝縮してラクチド蒸気から粗く分離する。分離後のラクチド蒸気は配管36を通ってラクチド凝縮器37に供給される。配管36は粗ラクチドの付着を防止するため、内部を100℃以上200℃以下の温度で加熱することが望ましい。加熱する方法については、熱媒ジャケットによる外部からの加熱が望ましい。不純物の凝縮液はバルブ38を通って、送液ポンプ39により配管40から乳酸縮合装置4に還流される。なお、還流する場所は本実施例のように乳酸縮合装置4、又はそれよりもプラントの上流側でなければいけない。これは不純物中の水分を除去すると共に乳酸、低分子量乳酸オリゴマーを回収・再利用してオリゴマー化するためである。ラクチド凝縮器37では粗ラクチド蒸気をラクチドの融点95〜98℃に近い温度まで冷却し凝縮して回収する。連続解重合装置29の連続運転時にはバルブ41を開とし、粗ラクチド凝縮物はポンプ42により配管43を通って第一粗ラクチド回収タンク44に供給される。その際、バルブ110は閉とする。本粗ラクチドの光学純度は90〜95%程度である。粗ラクチド分離後の排ガスは分離し切れなかったラクチド、水分、乳酸、低分子量乳酸オリゴマー等を含み、配管45を通って不純物凝縮器46に到達する。配管45はラクチド、水分、乳酸、低分子量乳酸オリゴマー等の付着を防止するため50℃以上100℃以下に加熱することが望ましい。加熱方法としては、電気ヒーター、蒸気トレース、熱媒ジャケット等による方法があるが、いずれの方式でもよい。不純物凝縮器46では排ガスからラクチド、水分、乳酸、低分子量乳酸オリゴマー等の不純物が凝縮・分離され、減圧弁47、配管48を通って、真空ポンプ49により配管50から系外放出される。不純物凝縮器46はメソラクチドの融点を考え、50℃〜90℃に保温して不純物を凝縮させる。凝縮物は、バルブ136を開くことにより配管137から系外放出する。連続解重合装置29の連続運転時にはバルブ51を開とし、連続解重合装置29から反応液の残渣が送液ポンプ52により配管53を通って、第二段の連続解重合装置54に連続供給される。配管53は残渣液の付着を防止するため、内部を100℃以上200℃以下の温度で加熱することが望ましい。加熱する方法については、熱媒ジャケットによる外部からの加熱が望ましい。
連続解重合装置54は遠心薄膜蒸発装置を適用した反応装置で、配管53から連続供給される連続解重合装置29の残渣液(以下、これも乳酸オリゴマーと呼ぶ)のほか、必要に応じてバルブ31を開とすることにより触媒移送ポンプ55によりニードルバルブ126、配管56を通して触媒タンク30内の触媒の連続供給を受ける。触媒は液体、固体いずれでもよいが、液体触媒の場合には触媒移送ポンプ55は送液ポンプであり、ニードルバルブ126により必要に応じて背圧をかけることが望ましい。この段における乳酸オリゴマーは連続解重合装置29の残渣液であるため、既に触媒が添加・混合されており、ここでの触媒の添加は必ずしも必要ではない。連続解重合装置54は内部が180℃以上220℃以下の温度で減圧環境になっている。圧力としては10torr以下が望ましい。この環境で所定の時間、乳酸オリゴマーと触媒とを接触・混合させることで乳酸オリゴマーの解重合反応が起こり、ラクチドが生成する。連続解重合装置54の内部を加熱する方法について、熱媒ジャケットによる外部からの加熱が望ましい。また、装置内部の減圧については真空ポンプ132により実施する。生成したラクチドは、水分、乳酸、低分子量乳酸オリゴマーを伴う粗ラクチドとして乳酸オリゴマーの液面から蒸発し、配管57を通って分縮装置58に到達する。配管57は粗ラクチドの付着を防止するため、内部を100℃以上200℃以下の温度で加熱することが望ましい。加熱する方法については、熱媒ジャケットによる外部からの加熱が望ましい。分縮装置58では水分、乳酸、低分子量乳酸オリゴマー等の不純物を凝縮してラクチド蒸気から粗く分離する。分離後のラクチド蒸気は配管59を通ってラクチド凝縮器60に供給される。配管59は粗ラクチドの付着を防止するため、内部を100℃以上200℃以下の温度で加熱することが望ましい。加熱する方法については、熱媒ジャケットによる外部からの加熱が望ましい。不純物の凝縮液はバルブ61を通って、送液ポンプ62により配管63から乳酸縮合装置4に還流される。なお、還流する場所は上記と同様、本実施例のように乳酸縮合装置4、又はそれよりもプラントの上流側でなければいけない。ラクチド凝縮器60では粗ラクチド蒸気をラクチドの融点95〜98℃に近い温度まで冷却し凝縮して回収する。連続解重合装置54の連続運転時にはバルブ64を開とし、粗ラクチド凝縮物はポンプ65により配管66を通って第二粗ラクチド回収タンク67に供給される。その際、バルブ111は閉とする。本粗ラクチドの光学純度は90〜95%程度である。粗ラクチド分離後の排ガスは分離し切れなかったラクチド、水分、乳酸等を含み、配管128を通って不純物凝縮器129に到達する。配管128はラクチド、水分、乳酸、低分子量乳酸オリゴマー等の付着を防止するため50℃以上100℃以下に加熱することが望ましい。加熱方法としては、電気ヒーター、蒸気トレース、熱媒ジャケット等による方法があるが、いずれの方式でもよい。不純物凝縮器129では排ガスからラクチド、水分、乳酸等の不純物が凝縮・分離され、減圧弁130、配管131を通って、真空ポンプ132により配管133から系外放出される。不純物凝縮器129はメソラクチドの融点を考え、50℃〜90℃に保温して不純物を凝縮させる。凝縮物は、バルブ134を開くことにより管135から系外放出される。連続解重合装置54の連続運転時にはバルブ68を開とし、連続解重合装置54から反応液の残渣が送液ポンプ69により配管70を通って、第三段の連続解重合装置71に連続供給される。配管70は残渣液の付着を防止するため、内部を100℃以上200℃以下の温度で加熱することが望ましい。加熱する方法については、熱媒ジャケットによる外部からの加熱が望ましい。
連続解重合装置71は横型二軸攪拌機を適用した反応装置で、配管70から連続供給される連続解重合装置54の残渣液(以下、これも乳酸オリゴマーと呼ぶ)のほか、必要に応じてバルブ31を開とすることにより触媒移送ポンプ72によりニードルバルブ127、配管73を通して触媒タンク30内の触媒の連続供給を受ける。触媒は液体、固体いずれでもよいが、液体触媒の場合には触媒移送ポンプ72は送液ポンプであり、ニードルバルブ127により必要に応じて背圧をかけることが望ましい。この段における乳酸オリゴマーは連続解重合装置29、54の残渣液であるため、既に触媒が添加・混合されており、ここでの触媒の添加は必ずしも必要ではない。連続解重合装置71は内部が180℃以上220℃以下の温度で減圧環境になっている。圧力としては10torr以下が望ましい。この環境で所定の時間、乳酸オリゴマーと触媒とを接触・混合させることで乳酸オリゴマーの解重合反応が起こり、ラクチドが生成する。連続解重合装置71の内部を加熱する方法については、熱媒ジャケットによる外部からの加熱が望ましい。また、装置内部の減圧については真空ポンプ89により実施する。生成したラクチドは水分、乳酸、低分子量乳酸オリゴマーを伴う粗ラクチドとして乳酸オリゴマーの液面から蒸発し、配管74を通って分縮装置75に到達する。配管74は粗ラクチドの付着を防止するため、内部を100℃以上200℃以下の温度で加熱することが望ましい。加熱する方法については、熱媒ジャケットによる外部からの加熱が望ましい。分縮装置75では水分、乳酸、低分子量乳酸オリゴマー等の不純物を凝縮してラクチド蒸気から粗く分離する。分離後のラクチド蒸気は配管76を通ってラクチド凝縮器77に供給される。配管76は粗ラクチドの付着を防止するため、内部を100℃以上200℃以下の温度で加熱することが望ましい。加熱する方法については、熱媒ジャケットによる外部からの加熱が望ましい。不純物の凝縮液は、バルブ78を通って、送液ポンプ79により配管80から乳酸縮合装置4に還流される。なお、還流する場所は上記と同様、本実施例のように乳酸縮合装置4、又はそれよりもプラントの上流側でなければいけない。ラクチド凝縮器77では粗ラクチド蒸気をラクチドの融点95〜98℃に近い温度まで冷却し凝縮して回収する。連続解重合装置71の連続運転時にはバルブ81を開とし、粗ラクチド凝縮物はポンプ82により配管83を通って第三粗ラクチド回収タンク84に供給される。その際、バルブ112は閉とする。本粗ラクチドの光学純度は90%以下である。粗ラクチド分離後の排ガスは分離し切れなかったラクチド、水分、乳酸等を含み、配管85を通って不純物凝縮器86に到達する。配管85はラクチド、水分、乳酸等の付着を防止するため50℃以上100℃以下に加熱することが望ましい。加熱方法としては、電気ヒーター、蒸気トレース、熱媒ジャケット等による方法があるが、いずれの方式でもよい。不純物凝縮器86では排ガスからラクチド、水分、乳酸等の不純物が凝縮・分離され、減圧弁87、配管88を通って、真空ポンプ89により配管90から系外放出される。不純物凝縮器86はメソラクチドの融点を考え、50℃〜90℃に保温して不純物を凝縮させる。凝縮物はバルブ91を開き配管92から系外放出する。連続解重合装置71の連続運転時にはバルブ93を開とし、連続解重合装置71から反応液の残渣が送液ポンプ94により配管95を通って、残渣回収タンク96に連続排出される。配管95は残渣液の付着を防止するため、内部を100℃以上200℃以下の温度で加熱することが望ましい。加熱する方法については、熱媒ジャケットによる外部からの加熱が望ましい。
第一〜第三粗ラクチド回収タンク44、67、84に回収した粗ラクチドは個別に精製装置116により処理される。以下、上段側の粗ラクチドから順に精製する手順で説明するが、必ずしも上段側から精製処理を行う必要はない。まず、バルブ111、112、104、105、106を閉じた状態でバルブ110のみを開き、第一粗ラクチド回収タンク44の中の粗ラクチドをポンプ113により、配管114、115を通して精製装置116に供給する。精製装置116は回分式、連続式いずれでもよい。また、配管114、115は粗ラクチド付着防止のため、100℃以上に加熱することが望ましい。加熱方法としては、電気ヒーター、蒸気トレース、熱媒ジャケット等による方法があるが、いずれの方式でもよい。精製装置116では粗ラクチドから水、乳酸、乳酸オリゴマー等の不純物とメソラクチド(L−乳酸とその光学異性体であるD−乳酸の環状二量体)が分離され、配管118を通して排出される。配管118はこれらの付着防止のため、50〜100℃に加熱することが望ましい。加熱方法としては、電気ヒーター、蒸気トレース、熱媒ジャケット等による方法があるが、いずれの方式でもよい。排出物は、回収・再利用される場合、廃棄される場合、両方ある。精製ラクチドは配管117を通して排出される。配管117は精製粗ラクチド付着防止のため、100℃以上に加熱することが望ましい。加熱方法としては、電気ヒーター、蒸気トレース、熱媒ジャケット等による方法があるが、いずれの方式でもよい。次に、バルブ110、112、104、105、106を閉じた状態でバルブ111のみを開き、第二粗ラクチド回収タンク67の中の粗ラクチドをポンプ119により、配管120、115を通して精製装置116に供給する。また、配管120は配管114と同様、粗ラクチド付着防止のため、100℃以上に加熱することが望ましい。上記と同様に、精製装置116では粗ラクチドから水、乳酸、乳酸オリゴマー等の不純物とメソラクチドが分離され、配管118を通して排出される。精製ラクチドは配管117を通して排出される。そして、バルブ110、111、104、105、106を閉じた状態でバルブ112のみを開き、第三粗ラクチド回収タンク84の中の粗ラクチドをポンプ121により、配管122、115を通して精製装置116に供給する。また、配管122は配管114と同様、粗ラクチド付着防止のため、100℃以上に加熱することが望ましい。上記と同様に、精製装置116では粗ラクチドから水、乳酸、乳酸オリゴマー等の不純物とメソラクチドが分離され、配管118を通して排出される。精製ラクチド(LL−ラクチド、純度99%以上)は配管117を通して排出される。以上のようにして合成された精製ラクチドは開環重合によるポリ乳酸合成の原料となる。
実施例1で示した装置によって精製ラクチドを合成した。その結果、精製ラクチドの収率は乳酸モル数基準で70%程度となった。また、本ラクチドを用いて開環重合したポリ乳酸の重量平均分子量は20万程度で着色はb値で2.5であった。
(比較例)
実施例1と同じ乳酸オリゴマーを用いて、従来のタンク式反応槽でバッチ方式による解重合を行った。その結果、精製ラクチドの収率は乳酸モル数基準で実施例1の半分程度となった。
以上から、本発明の方法により、光学異性体化を含めた熱分解が少ないラクチド等の環式縮合物を高品質かつ高収率で得られること、及びこれを通して高品質のポリ乳酸等のポリマーが高効率で得られることが明らかとなった。