JP4884583B2 - 干渉色を呈するクロムの酸化物または酸窒化物の呈色皮膜を形成した切削工具 - Google Patents

干渉色を呈するクロムの酸化物または酸窒化物の呈色皮膜を形成した切削工具 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、PVD処理により硬質皮膜を施した切削工具において、干渉色を呈するクロムの酸化物または酸窒化物の呈色皮膜を該工具に形成することで、硬質被膜処理が施されている旨をユーザーに覚知させ得るようにした切削工具に関するものである。
【0002】
【従来技術】
木材や木質材料系の複合材料を切削加工するのに使用される丸鋸等の回転切削用工具その他プレーナ用平刃等の平削り用工具は、その刃部の母材として、例えば高速度工具鋼や高クロム合金工具鋼等の工具鋼、超硬合金その他サーメットを材料として選択的に採用している。そしてこれらの切削工具では、切れ味の更なる改善や切削寿命の持続と向上を目的として、その刃部に各種の硬質皮膜を施す処理が広く実施されている。
【0003】
例えば、刃部に硬質皮膜を施す手段として、特願平1−75889号(特公平6−69681号)や、特願平2−257864号(特許第2665565号)に開示される技術が知られている。これらの発明では、高速度工具鋼や高クロム合金工具鋼その他超硬合金等を母材とする木材切削用の切削工具において、その刃部の逃げ面またはすくい面の何れか一方の面にクロム窒化物からなる硬質被覆層を形成することで刃先の経時的な摩耗を抑制するものであって、従来の被覆層を施してない切削工具に比較して、切れ味の持続性や耐久性の点で優れた効果が発揮される。
【0004】
また特願平4−187077号(特許第2816511号)には、前記と同じく高速度工具鋼や高クロム合金工具鋼その他超硬合金等を母材とする木材切削用刃物において、該刃物の逃げ面またはすくい面の何れか一方または両方にクロム窒化物の中間層を設け、この中間層の上にクロム(Cr)の表面層を設けることで、切れ味が持続して寿命が向上することが開示されている。更に特願平5−259323号(特許第2673655号)には、逃げ面の粗さをRmax1〜10μmに仕上げた側面刃における回転方向の逃げ角が10゜以下である回転切削工具に関して、その逃げ面にクロムまたはクロムの窒化物、炭化物、炭窒化物のうち何れかを被覆することで、従来の切削工具に比べて10倍以上の長寿命化が達成される旨が開示されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
このように切削工具の刃部にクロムまたはクロムの窒化物、炭化物、炭窒化物の如きクロム系硬質皮膜(以下「クロム系皮膜」という)を形成することで、該刃部における切れ味の持続性および刃先の長寿命化を図ることが従来より行なわれている。勿論、この硬質皮膜処理が施された切削工具であっても、使用に伴ない経時的に切れ味は低下するので刃先を再研磨する必要があるが、その場合は硬質皮膜を施した個所を外して再研磨しなければならない。しかし前記刃部に施されたクロム系皮膜が呈する色(色合い、色調)は、一般に白色、灰白色、灰色或いはその中間色の単一色であって、切削工具における母材の金属光沢色と簡単に区別することが困難であり、従って硬質皮膜の処理がなされているか否かを識別し難いのが現状である。
【0006】
一例として、木材の長さ方向の端面にフィンガ状の継ぎ手部を加工するフィンガカッタで前述の硬質皮膜処理を施したものでは、その加工形状の精度を維持するためにすくい面だけを再研磨する必要がある。しかるに硬質皮膜は先に述べたクロム系皮膜であるために、該被覆が施されているか否かを視覚で識別することは難く、誤って外周刃逃げ面を再研磨してしまう畏れがあった。このときは、フィンガカッタに要求される加工形状の精度は維持し得なくなってしまう。
【0007】
また製材から木質系ボードの加工まで種々の切断加工を行なうチップソーの切れ味が低下したときは、刃部のすくい面と外周刃逃げ面の両方を再研磨するのが一般的である。しかし前記硬質皮膜処理の施されたチップソーに関しては、すくい面および外周刃逃げ面の両方を再研磨すると皮膜全体が除去されてしまい、切れ味の持続性および刃先の長寿命化が図られなくなってしまう。従って硬質皮膜の施されたチップソーでは、すくい面または外周刃逃げ面の何れか一面だけを再研磨することになっている。しかるに前記硬質皮膜はクロム系皮膜であるため、被覆処理の有無をユーザーが視覚により識別することが同じく困難で、再研磨してはならない部位(すくい面または外周刃逃げ面)を誤って研磨してしまい、刃部の耐久性を低下させる畏れがあった。
【0008】
このように硬質皮膜が施された切削工具の再研磨に際して、該硬質皮膜が形成されている部位の有無を視覚で識別することが困難な事実に鑑み、刃部にクロム系皮膜を処理した後に、更なる別工程でクロム(Cr)以外の蒸発金属を用いて別の色調、例えば金色を呈する窒化チタン(TiN)や黄緑色を呈する窒化バナジウム(VN)等の上層を被覆形成する技術が特開平2−252501号公報に記載されている。この技術によれば、硬質皮膜の上に金色や黄緑色を呈する窒化膜等が被覆されるために、該硬質皮膜の形成部位を視覚により容易に判別し得る利点がある。しかしPVD処理により前記硬質皮膜を形成する場合は、チャンバ中に存在させるべき蒸発金属を、クロムから例えば窒化チタンや窒化バナジウム等の他の金属物質に交換しなければならない。すなわちクロム系硬質皮膜を形成するためのPVD処理バッチとは別工程として、該硬質皮膜の上に色調判別用の窒化膜等を形成するPVD処理バッチが必要となり、製造コストおよび手間が大幅に嵩んでしまう難点がある。
【0009】
【発明の目的】
本発明は、前述した課題を好適に解決するために提案されたものであって、PVD処理により硬質皮膜を施した切削工具に関して、干渉色を呈するクロムの酸化物または酸窒化物の呈色皮膜を該工具に形成することで、硬質被膜処理が施されている旨をユーザーに覚知させ得るようにした切削工具を提供することにある。本発明の更に別の目的は、従来は別バッチのPVD処理によらざるを得なかったためにコスト高となっていたところを改善して、チャンバー中の蒸発金属を交換する必要をなくし、コストおよび手間が嵩む難点を解消させることにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
前記課題を克服し、所期の目的を達成するため本発明に係る干渉色を呈するクロムの酸化物または酸窒化物の呈色皮膜を形成した切削工具は、刃部の母材が工具鋼、超硬合金その他サーメットの何れかよりなる切削工具であって、
前記刃部PVD処理することで刃部表面に層状に形成され、クロムまたはクロムの窒化物、炭化物、炭窒化物の何れか1つ若しくは2つ以上からなる硬質皮膜層と、
前記PVD処理に際し窒素と酸素の流量比を酸素のみを流す場合から4:1の範囲内で設定することで、前記硬質皮膜層上に0.04μm〜1.3μmの厚さで透明に形成され、自然光における分光色の一部または全部が縞状に分布する干渉色を呈するクロムの酸化物または酸窒化物の呈色皮膜とからなり、
前記クロムの酸化物または酸窒化物の呈色皮膜が呈する干渉色をもって、前記硬質被膜処理が施されている旨をユーザーに覚知させ得るようにしたことを特徴とする。
【0012】
【発明の実施の形態】
次に本発明について、好適な実施例を挙げて、添付図面を参照しながら以下説明する。本願の発明者は、PVD処理により切削工具の刃部にクロム系硬質皮膜を施した後に、クロム以外の蒸発金属からなる呈色皮膜を更に施すことで該硬質皮膜の有無を判別させようとする場合に、従来は別バッチのPVD処理によらざるを得なかったためにコスト高となっている現状に鑑み、この難点を解消すべく様々な試験を行なった。
【0013】
そして発明者は、PVD処理による切削工具への硬質皮膜の形成に際し、蒸発金属をクロムに固定すると共に、チャンバー中に供給される反応ガスの組成を変化させる実験を繰り返した結果、▲1▼クロム系硬質皮膜の上層としてクロムの酸化物または酸窒化物の皮膜を施すと共に、▲2▼PVD処理中における窒素と酸素の流量比を或る範囲に設定することで、▲3▼該皮膜は透明膜になって自然光の分光色の一部または全部が縞状に分布する干渉色を呈することを見い出したものである。そして得られたクロムの酸化物または酸窒化物の皮膜が呈する色調は金属光沢色と明らかに相違し、下地となっている硬質皮膜処理の有無を瞬時に識別し得るものである。このようにPVD処理によりクロム系硬質皮膜を施した後に、該皮膜の上層として呈色皮膜を形成する際に、この呈色皮膜の成分となる蒸発金属を前記クロム系皮膜の成分となる蒸発金属(クロム)と同じにすることで、チャンバー中の蒸発金属を交換する必要がなくなる。すなわち別バッチで呈色皮膜を形成する必要がないため、コストおよび手間が従来のPVD処理の単一バッチと殆ど変わることがなく、従ってコストが嵩む難点を解消し得るものである。
【0014】
ここでクロムの酸化物または酸窒化物の皮膜をPVD処理により形成するに際して、該皮膜が呈する色調は皮膜中の窒素と酸素の流量比によって決定される。すなわち窒素と酸素の流量比が或る範囲に特定されると、前記皮膜が呈する色調は自然光の分光色(いわゆる虹色)の一部または全部が縞状に分布する干渉色になる。より具体的には、窒素と酸素の流量比を酸素のみを流す場合から4:1の範囲に特定することが好適であり、酸素流量が4:1より少ない場合は全体が窒化クロム(CrN)が呈する色調である灰白色となる。また窒素と酸素の流量比の酸素の上限は、好ましくは1:9の範囲にあり、酸素流量がこれより多い場合は、前記の流量比以外の条件の如何によって3酸化2クロム(Cr23)が成膜されて黒色を呈してしまうことがある。
【0015】
また、前述した処理条件の下で皮膜が干渉色を呈する場合であっても、被処理物品の形状やチャンバー内への装着方法の如何によっては、クロム金属から蒸発したクロムイオンが該物品の一部へ殆ど到達し得ない部分も出てくる。このようにクロムイオンが到達しなかったり、またはクロムイオンが僅かしか到達しなかったりした部分は成膜されず、その部分は表面が酸化されて黒黄色を呈する。特に酸素流量が1:9よりも多い場合は、より広い範囲で表面酸化が起き易く、商品価値の見地から好ましくない場合がある。
なお、装置の特性その他の事情により、例えばアーク放電を安定化させる目的でチャンバー内の圧力を上昇させる必要があるような場合等においては、窒素と酸素の流量比を前述した範囲内とし、アルゴン(Ar)等の不活性ガスを同時に流すことができる。
【0016】
なおクロムの酸化物または酸窒化物の膜厚は、極力薄くした方が自然光の分光が略完全に発色し、しかも透明度の高い鮮明な色を呈することになる。逆に前記膜厚が大きくなるに従って、色合いが濃くなると共に分光色の全てが識別され難くなる傾向を示す。そして該膜厚が更に大きくなると、赤色等が僅かに認められる程度となり、遂には全体の色調が濃灰色〜黒色を呈するようになってしまう。但し、本発明が企図している如く、クロムの酸化物または酸窒化物の皮膜が呈する干渉色をもって、切削工具に硬質被覆処理を施してあるか否かを判別する目印として利用する場合には、前記皮膜の厚みを大きくする必要はなく、例えば0.04〜1.3μmの範囲に納まっていればよい。このように硬質被覆処理の判別用途に限って考えると、本発明で得られるクロムの酸化物または酸窒化物の皮膜は非常に薄くてよいことになる。
【0017】
この点につき本願では、次のような測定方法によって膜厚を推定した。先ず、後述する実験例1の試料1における干渉色の分布と膜厚を測定した結果は、図3に示す通りであった。一般に透明膜に対し略直角に光が照射される場合を想定すると、干渉色を呈する膜厚hは、h=λ(2m−1)/4nで表される。ここにλ=波長、m=正整数、n=屈折率である。
実験例1において、中心孔近傍に確認された青色部分(最も膜が薄い部分)の膜厚は実測で0.05μmであった。青色の波長λを450nmとし、この青色がm=1であるとするならば、屈折率nは2.25となるが、同じようにm=2であるとするならば、屈折率nは6.75となって一般的な屈折率の値から大きくずれてしまうので、この青色はm=1であると推測される。なお、実験例1では最も膜厚が薄い部分は青色であったが、膜厚分布がゆるやかである実験例2では、最も膜厚が薄い部分で紫色が確認された。ここで屈折率n=2.25、紫色の波長λ=390nmとすれば、干渉色が最初に現れるこの紫色の部分の膜厚(すなわち最小膜厚)は約0.04μmであると推定される。すなわち最小膜厚は約0.04μmとなる。また実験2の試料13において、干渉色を確認し得る限界での膜厚は、実測値で1.3μmであった。何れにしても、クロムの酸化物または酸窒化物の膜厚が薄いほど鮮明な色調(明るい虹色)になり、厚みが大きくなるほど透明感のない混合色或いはくすんだ色調となるので、目的用途に応じて適宜の膜厚が選択される。
【0018】
なお、膜厚が厚目である場合や膜厚に均一性が求められる場合は、皮膜に自然光の分光色全てが現れるとは限らず、被処理物品の形状やチャンバーに供給される反応ガスの分量等の制御パラメータの種類に依存して分光色の一部だけが発色し、これにより様々の色調を呈することになる。従って前記制御パラメータを可変とすることで、分光色の呈色度合いを目的に応じて微妙に変化させることができる。例えば、窒素と酸素の流量比により皮膜の透明度を種々に変化させることができ、その流量比を約3:1付近に設定することで最も透明度のある膜が得られる。また、被処理物品の形状程度の如何によっては、チャンバー中でのクロムイオンの到達度に相違を生じ、同一物品であっても細部において膜厚が異なるために色調分布が様々になることが判っている。
【0019】
また、PVD処理による硬質皮膜の形成に際しては、基板のクリーニングを目的としてボンバード処理が一般的に実施されるが、このボンバード処理を前述したクロムの酸化物または酸窒化物の皮膜処理後に行なうと、該皮膜はコントラストの弱い色調を呈することになる。更に、クロム酸窒化物皮膜を処理した後、クロム膜を極めて薄く被覆すると、クロムが呈する白色の下に前記クロム酸窒化物の皮膜が呈する色が透けて見える状態となって全体が白っぽくなる。
【0020】
上層をなす前記クロムの酸化物または酸窒化物の皮膜処理に際して、例えば中間層をなすクロム窒化物皮膜の形成後に、チャンバー中を流れる窒素の流量を減らしていき、逆に酸素の流量を増やしていけば、所謂傾斜組成層とすることができる。すなわち中間層と上層の間の積層体接合界面における高い応力集中は、層間剥離を生じさせる原因になるが、この積層体接合界面を傾斜組成とすることで物性値が急変する界面が存在しなくなる。従って応力特異性がなくなり、応力緩和の発生により切削中や再研磨中に上層が剥離して消失することがなく、長期間に亘って硬質被覆処理の有無を識別可能になる。
【0021】
【実験例1】
次に、実験例1により本発明の実施例を具体的に説明する。ここでは、アーク放電型イオンプレーティング装置を使用してPVD処理法を実施し、これによりクロムの酸化物または酸窒化物の被覆層を超硬合金の替刃に形成した。その際の処理条件は、以下の通りであった。
蒸発金属の種類 クロム(Cr)
アーク放電電流値 150A
基板のバイアス電圧 −40V
チャンバー内圧力 2.6Pa
導入ガスの流量(酸素、窒素共に) 350〜700sccm
処理時間 10分
試料として、超硬合金を材質とする替刃式カッターの替刃を使用した。試料は矩形状板体であって、その寸法は幅10mm、長さ20mm、厚み1.5mmであった。またチャンバー内で該試料は、その被覆面が蒸発金属板(ターゲット)の蒸発面と平行になるように取り付けた。なお、この場合に試料は、その中央部に位置する直径4.5mmの通孔を介してM4皿ビスで治具に取り付けたので、その通孔周辺は前記皿ビスの頭の陰になる。
【0022】
各被覆層の構成および結果を、表1に纏めて示す。
【0023】
【表1】
Figure 0004884583
【0024】
試料に被覆されたクロムの酸化物または酸窒化物の皮膜を、X線回折により測定した。そのX線回折測定条件は、以下の通りであった。
Figure 0004884583
【0025】
表1において、試料1の色調は干渉色を呈したが、試料2の色調は替刃全体が黒色を呈するに至った。これらの試料をX線回折により測定したところ、図1に示すように、試料2の超硬合金替刃には3酸化2クロム(Cr23)の回折ピークが現れた。しかるに図2から判明する如く、試料1の超硬合金替刃には3酸化2クロムの回折ピークは現れなかった。すなわち、被覆面が蒸発金属板(ターゲット)の蒸発面と平行になるように試料を取り付けた実験例1において、試料2のように酸素だけを流した場合は、3酸化2クロムが成膜されて干渉色を呈しないことが判った。また同条件下において、試料1のように窒素と酸素を同時に流すことで皮膜がアモルファス化し、干渉色を呈することが判明した。図3は、試料1に係る超硬合金の替刃が干渉色を呈していることを示している。すなわち外側から内側にかけて、緑色、赤色、緑色、赤色、黄色、赤〜緑色、黄色、青色の干渉色となっていることが確認された。
【0026】
【実験例2】
次に、実験例2により本発明の実施例を更に具体的に説明する。ここでは、アーク放電型イオンプレーティング装置を使用してPVD処理法を実施し、これによりクロムの酸化物または酸窒化物の被覆層を丸鋸状の円盤に形成した。その際の処理条件は、以下の通りであった。
蒸発金属の種類 クロム(Cr)
アーク放電電流値 150A
基板のバイアス電圧 −40V
チャンバー内圧力 0.13〜2.6Pa
導入ガスの流量(酸素、窒素共に) 30〜700sccm
処理時間 3〜10分
フランジと試料との間隔 20mm
フランジ直径 340mm
マスキング直径 100mm
【0027】
試料として、合金工具鋼(SK−5)を材質とする丸鋸状の円盤を使用した。試料の寸法は外部直径450mm、厚み2.0mmであった。図4に示すように、半径225mmの円盤状試料10を、半径50mmで厚み20mmの円形マスキング12,12で両側から挟み、更に該マスキング12,12の両側を半径170mmのフランジ14,14により挟むことでリング状のマスキングを施した。このとき試料10、マスキング12,12およびフランジ14,14は、何れも中心軸を整列させてある。この状態でPVD処理することで、試料10の両側面には、前記マスキング12,12を外れた外周付近のみに被覆層が形成される。
【0028】
夫々の処理条件および得られた結果を、表2に纏めて示す。
【0029】
【表2】
Figure 0004884583
【0030】
チャンバー内の圧力を2.6Paとして一定に保ち、窒素と酸素の流量を各々変化させて3分間処理した(試料3〜試料11)。これによれば、窒素のみを流した場合(試料3)は、全体が窒化クロム(CrN)の色調である灰白色を呈して、干渉色を呈するには至らなかった。また窒素と酸素の流量比を9:1に設定した場合(試料4)は、全体が窒化クロムの色調である灰白色を呈したものの、僅かに繰り返し回数1(m=1)の干渉色が見られた。但し、この干渉色は非常に暖昧な色調であった。また該干渉色が現れた外側の位置では、窒化クロムの色調である灰白色を呈していた。
【0031】
更に窒素と酸素の流量比を酸素のみを流す場合から4:1の範囲に設定した場合(試料5〜試料11)は、干渉色が数回の繰り返しにより明瞭に見られ、特に窒素の流量比が1:3の場合(試料8)が最も鮮明に現れた。この中で、窒素と酸素の流量比が1:24および酸素のみを流す場合(試料10および試料11)は、干渉色が現れる外側の位置で該干渉色が重なり合って黒色を呈した。この黒色部をX線回折した結果、3酸化2クロムは認められず、これがアモルファスであることを確認した。すなわち被覆面が蒸発金属板と直角をなす面であると、酸素のみを流す場合であってもアモルファス化することが判明した。更に、クロムイオンが殆ど到達しない試料中央部のマスキング付近は殆ど成膜がなされず、該試料の表面が酸化して黒黄色となった。
【0032】
次に、窒素と酸素の流量比は等分の1:1としつつも流量を少なくし、チャンバー内の圧力を0.13Paに保持して3分間処理した場合(試料12)は、全体がクロムの色調である白色を呈して干渉色は見られなかった。また、窒素と酸素の流量比を1:3に設定し、チャンバー内の圧力を2.6Paに保持して10分間処理した場合(試料13)、干渉色の繰り返しは6回(m=6)確認できた。この場合、干渉色の分布の範囲は狭く、その外側の位置は干渉色が重なり合って黒灰色となった。このように、窒素と酸素の流量比を酸素のみを流す場合から4:1の範囲内で夫々変化させることで、自然光の分光色の一部または全部が縞状に分布する干渉色となり、識別可能であることが判明した。この実験例2の結果によれば、窒素と酸素の流量比は好ましくは1:9〜4:1であった。
【0033】
【実験例3】
次に、実験例3により本発明の実施例を更に具体的に説明する。ここでは、アーク放電型イオンプレーティング装置を使用してPVD処理法を実施し、これによりクロムの酸化物または酸窒化物の被覆層を超硬合金がろう付けされたチップソーに形成した。その際の処理条件は、以下の通りであった。
蒸発金属の種類 クロム(Cr)
アーク放電電流値 150A
基板のバイアス電圧 −40V
チャンバー内圧力 0.6〜2.6Pa
導入ガスの流量(酸素、窒素共に) 35〜700sccm
処理時間 3分
試料間隔 10mm
マスキング直径 230mm
試料として、超硬合金のチップを外周刃部にろう付けした刃数40のチップソーを使用した。試料の寸法は外部直径305mm、刃厚3.0mmであった。試料における台金の中央部にリング状のマスキングを施し、試料を10mm間隔で複数枚積み重ね、該マスキング以外の部分(台金側面および刃部側面と外周面)に被覆層を形成する処理を行なった。前記のマスキングは、図4に示した方法に準じて施した。
【0034】
各被覆層の構成および結果を、表3に纏めて示す。
【0035】
【表3】
Figure 0004884583
【0036】
試料21は、上層に窒化クロムを処理した場合の比較例であって、台金の外周部と共に刃先部の色調は灰白色を呈していた。また、同じく比較例としての試料22はクロムを処理したものであって、その色調は白色を呈していた。
【0037】
この実験例3において、試料14〜試料19に示す如く、窒素と酸素のガス流量を夫々変化させた。この場合は全ての試料に関して、自然光の分光色の一部または全部が縞状に分布する干渉色を良好に呈し、硬質被覆処理の有無が容易に識別可能であった。但し、酸素のみを流した場合(試料19)は、試料の側面に干渉色が現れたものの、実験例1の被覆面と同じく蒸発金属板に対して平行な面となる刃部外周面は、3酸化2クロムの黒色を呈した。更にこの場合は、図5に示すように、クロムイオンが試料に殆ど到達せず、従って成膜が殆どなされないマスキング付近はかなり広い幅で表面が酸化され、黒黄色を呈した。このような事実から、酸素量が多過ぎると好ましくない場合があることが判る。なお、試料20は窒素と酸素の流量比を9:1に設定した比較例であって、これが呈する色調は窒化クロムと略同色の灰白色となった。
【0038】
以上の実験例3から、窒素と酸素の流量比を酸素のみを流す場合から4:1の範囲内で夫々変化させることで、クロムの酸化物または酸窒化物の皮膜が呈する色調は自然光の分光色の一部または全部が縞状に分布する干渉色となり、ユーザーが視覚により充分に識別可能であることが判った。すなわち、硬質被覆処理がなされた切削工具であることの目印を低廉なコストで付し得るものであり、これにより硬質膜の維持が必要な面を再研磨により除去してしまう可能性を確実に低減させ得るものである。なお上層は、複数層からなるクロムの酸化物または酸窒化物層の何れであってもよい。この実験例3では、刃先部と共に台金外周部にもクロムの酸化物または酸窒化物の皮膜を被覆したが、台金部分を全部マスキングすることで、刃先部だけを露出させて被覆処理するようにしてもよい。更に、刃部が本体にろう付けされておらず着脱自在な替刃である場合は、その替刃のみにクロムの酸化物または酸窒化物が被覆される。また本発明は、前述した実施例のみに限定されるものでなく、装飾その他に広く応用可能である。
【0039】
【実験例4】
次に、実験例4により本発明の実施例を更に具体的に説明する。ここでは、アーク放電型イオンプレーティング装置を使用してPVD処理法を実施し、これによりクロムの酸化物または酸窒化物の被覆層を、超硬合金がろう付けされた成型面取りルータに形成した。その際の処理条件は、以下の通りであった。
蒸発金属の種類 クロム(Cr)
アーク放電電流値 150A
基板のバイアス電圧 −40V
チャンバー内圧力 2.6Pa
窒素ガスの流量 350sccm
酸素ガスの流量 350sccm
処理時間 5分
試料として、外周刃部に刃先材料として超硬合金をろう付けした刃数2の成型面取りルータを使用した。試料の寸法は外径54mm、シャンク径16mm、全長67mm、刃長23mmであった。
【0040】
図6に示す如く、試料たる成型面取りルータの外周面は略均一の色調(緑色)を呈すると共に、細部が自然光の分光色の一部または全部が縞状に分布する干渉色を良好に呈していた。従って、該ルータの施したクロムの酸化物または酸窒化物の被覆の有無が容易に識別可能であった。
【0041】
【発明の効果】
以上に説明した如く本発明によれば、PVD処理により硬質皮膜を施した切削工具に関して、干渉色を呈するクロムの酸化物または酸窒化物の呈色皮膜を該工具に形成することで、硬質被膜処理が施されている旨をユーザーに覚知させることができる。しかもクロム系硬質皮膜を施した後に、クロム以外の蒸発金属からなる呈色皮膜を更に施すことで該硬質皮膜の有無を判別させようとする場合に、従来は別バッチのPVD処理によらざるを得なかったためにコスト高となっていたが、本発明によれば呈色皮膜の成分となる蒸発金属をクロム系皮膜の成分となる蒸発金属と同じにすることで、チャンバー中の蒸発金属を交換する必要がなくなり、コストおよび手間が嵩む難点を解消し得るものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】表1の試料2に係る超硬合金の替刃をX線回折測定した際のX線回折強度を示すグラフ図であって、3酸化2クロムの回折ピークが現れている状態を示している。
【図2】表1の試料1に係る超硬合金の替刃をX線回折測定した際のX線回折強度を示すグラフ図であって、3酸化2クロムの回折ピークが現れていない状態を示している。
【図3】表1の試料1に係る超硬合金の替刃が、干渉色を呈していることを示す説明平面図である。
【図4】試料に係る丸鋸状の円盤にマスキングを施した状態を示す正面図であって、中心軸より上方だけを示してある。
【図5】試料としてのチップソーの部分側面図であって、干渉色が良好に現れている状態を示している。
【図6】試料としての成型面取りルータの概略斜視図であって、干渉色が良好に現れている状態を示している。
【符号の説明】
10 試料(丸鋸状円盤)
12 マスキング
14 フランジ

Claims (2)

  1. 刃部の母材が工具鋼、超硬合金その他サーメットの何れかよりなる切削工具であって、
    前記刃部PVD処理することで刃部表面に層状に形成され、クロムまたはクロムの窒化物、炭化物、炭窒化物の何れか1つ若しくは2つ以上からなる硬質皮膜層と、
    前記PVD処理に際し窒素と酸素の流量比を酸素のみを流す場合から4:1の範囲内で設定することで、前記硬質皮膜層上に0.04μm〜1.3μmの厚さで透明に形成され、自然光における分光色の一部または全部が縞状に分布する干渉色を呈するクロムの酸化物または酸窒化物の呈色皮膜とからなり、
    前記クロムの酸化物または酸窒化物の呈色皮膜が呈する干渉色をもって、前記硬質被膜処理が施されている旨をユーザーに覚知させ得るようにした
    ことを特徴とする干渉色を呈するクロムの酸化物または酸窒化物の呈色皮膜を形成した切削工具。
  2. 硬質皮膜層およびクロムの酸化物または酸窒化物の呈色皮膜は、前記刃部における逃げ面またはすくい面の何れかに形成される請求項1記載の干渉色を呈するクロムの酸化物または酸窒化物の呈色皮膜を形成した切削工具。
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