つぎに、この発明の実施例を図面に基づいて説明する。まず、この発明を適用できる車両のパワートレーン、およびその車両の制御系統を、図2に示す。図2に示す車両Veにおいては、エンジン1と車輪2との間の動力伝達経路に、流体伝動装置3、ロックアップクラッチ4、前後進切り換え機構5、ベルト式無段変速機6、歯車伝動装置110などが設けられている。エンジン1としては、内燃機関、具体的には、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、LPGエンジンなどを用いることができる。
また、流体伝動装置3およびロックアップクラッチ4は、エンジン1と前後進切り換え機構5との間の動力伝達経路に設けられており、流体伝動装置3とロックアップクラッチ4とは相互に並列に配置されている。流体伝動装置3は、流体の運動エネルギにより動力を伝達する装置であり、ロックアップクラッチ4は、摩擦力により動力を伝達する装置である。前後進切り換え機構5は、入力部材に対する出力部材の回転方向を、選択的に切り換える装置である。この前後進切り換え機構5は、遊星歯車機構5Aおよびクラッチ(図示せず)およびブレーキ(図示せず)などを有する。この実施例では、クラッチおよびブレーキとして、油圧制御式の摩擦係合装置5Bを用いた場合を例として説明する。
ベルト式無段変速機6は、前後進切り換え機構5と車輪2との間の動力伝達経路に設けられている。ベルト式無段変速機6は、相互に平行に配置されたプライマリシャフト7およびセカンダリシャフト8を有している。このプライマリシャフト7にはプライマリプーリ9が設けられており、セカンダリシャフト8にはセカンダリプーリ10が設けられている。プライマリプーリ9は、プライマリシャフト7に固定された固定シーブ11と、プライマリシャフト7の軸線方向に移動できるように構成された可動シーブ12とを有している。そして、固定シーブ11と可動シーブ12との間に溝M1が形成されている。
また、この可動シーブ12をプライマリシャフト7の軸線方向に動作させることにより、可動シーブ12と固定シーブ11とを接近・離隔させる油圧サーボ機構13が設けられている。この油圧サーボ機構13は、油圧室19と、油圧室19のオイル量に応じてプライマリシャフト7の軸線方向に動作し、かつ、可動シーブ12に接続されたピストン(図示せず)とを備えている。
一方、セカンダリプーリ10は、セカンダリシャフト8に固定された固定シーブ14と、セカンダリシャフト8の軸線方向に移動できるように構成された可動シーブ15とを有している。そして、固定シーブ14と可動シーブ15との間にはV字形状の溝M2が形成されている。
また、この可動シーブ15をセカンダリシャフト8の軸線方向に動作させることにより、可動シーブ15と固定シーブ14とを接近・離隔させる油圧サーボ機構16が設けられている。この油圧サーボ機構16は、油圧室100と、油圧室100の油圧によりセカンダリシャフト8の軸線方向に動作し、かつ、可動シーブ15に接続されたピストン(図示せず)とを備えている。上記構成のプライマリプーリ9およびセカンダリプーリ10に、無端状のベルト17が巻き掛けられている。
一方、ベルト式無段変速機6の油圧サーボ機構13,16およびロックアップクラッチ4、および前後進切り換え機構5を制御する機能を有する油圧制御装置18が設けられている。さらに、エンジン1、ロックアップクラッチ4、前後進切り換え機構5、ベルト式無段変速機6、油圧制御装置18を制御するコントローラとしての電子制御装置52が設けられており、この電子制御装置52は、演算処理装置(CPUまたはMPU)および記憶装置(RAMおよびROM)ならびに入出力インターフェースを主体とするマイクロコンピュータにより構成されている。
この電子制御装置52には、シフトポジション選択装置50の操作状態、変速モード選択装置51の操作状態、変速比選択装置53の操作状態、エンジン回転数、加速要求(例えばアクセルペダルの操作状態)、制動要求(例えば、ブレーキペダルの操作状態)、スロットルバルブの開度、プライマリシャフト7の回転数(入力回転数)、セカンダリシャフト8の回転数(出力回転数)などの検知信号が入力される。シフトポジション選択装置50を車両の乗員が操作することにより、パーキングポジション、リバースポジション、ニュートラルポジション、第1のドライブポジションおよび第2のドライブポジションなどを選択的に切換可能である。
また、変速モード選択装置51を車両の乗員が操作することにより、自動変速モードとマニュアル変速モードとを切換可能である。自動変速モードとは、電子制御装置52に入力される信号、例えば、車速、加速要求などの信号と、電子制御装置52に記憶されているデータ(変速マップ)とに基づいて、ベルト式無段変速機6の変速比を制御することの可能なモードである。マニュアル変速モードとは、変速比選択装置53の操作状態に基づいて、ベルト式無段変速機6の変速比を変更することの可能なモードである。この実施例では、変速比選択装置53は、ダウンシフトボタン53Aおよびアップシフトボタン53Bを有している。
一方、電子制御装置52からは、エンジン1を制御する信号、ベルト式無段変速機6を制御する信号、前後進切り換え機構5を制御する信号、ロックアップクラッチ4を制御する信号、油圧制御装置18を制御する信号などが出力される。油圧制御装置18は、油圧回路(図示せず)およびリニアソレノイドバルブ(図示せず)などを有しており、リニアソレノイドバルブの通電電流に応じて、油圧室19のオイル量、油圧室100の油圧が制御される。
つぎに、図1に示す車両Veにおける動力伝達作用を説明する。まず、エンジン1が自律回転し、かつ、第1のドライブポジションまたは第2のドライブポジションまたはリバースポジションが選択され、かつ、アクセルオン(アクセルペダルが踏み込まれている)である場合について説明する、このように、所定値以上の加速要求がある場合は、エンジン1の動力が、流体伝動装置3またはロックアップクラッチ4、および前後進切り換え機構5を経由して、ベルト式無段変速機6のプライマリシャフト7に伝達される。プライマリシャフト7のトルクは、プライマリプーリ9、ベルト17、セカンダリプーリ10を介してセカンダリシャフト8に伝達される。そして、セカンダリシャフト8のトルクが、歯車伝動装置110を経由して車輪2に伝達され、駆動力が発生する。
これに対して、車両Veの走行中に、アクセルオンからアクセルオフ(アクセルペダルが解放された)に切り換えられると、エンジン1のスロットルバルブが閉じられる。このように、加速要求が無くなった場合は、車両Veが惰力走行するとともに、車両Veの運動エネルギに対応する動力が、車輪1から、歯車伝動装置110、デファレンシャル、ベルト式無段変速機6、前後進切り換え機構5を経由してエンジン1に伝達される。なお、ニュートラルポジションまたはパーキングポジションが選択された場合は、エンジントルクは車輪2に伝達されない。
図1に示す車両Veの制御系統の機能を説明する。電子制御装置52には各種のデータが記憶されており、電子制御装置52に入力される信号、および電子制御装置52に記憶されているデータに基づいて、エンジン1、ベルト式無段変速機6、前後進切り換え機構5、ロックアップクラッチ4、油圧制御装置18などが制御される。初めに、ベルト式無段変速機6の変速制御について説明する。まず、油圧サーボ機構13の油圧室19のオイル量に基づいて、プライマリプーリ9の可動シーブ12を軸線方向に動作させる推力が調整される。また、油圧サーボ機構16の油圧室100の油圧により、セカンダリプーリ10の可動シーブ15を軸線方向に動作させる推力(挟圧力)が調整される。そして、可動シーブ12の軸線方向の動作に応じて溝M1の幅が変化し、可動シーブ15の軸線方向の動作に応じて溝M2の幅が変化する。
上記のようにして、溝M1の幅が調整されると、プライマリプーリ9におけるベルト17の巻き掛け半径と、セカンダリプーリ10におけるベルト17の巻き掛け半径との比が変化する。その結果、プライマリシャフト7およびプライマリプーリ9と、セカンダリシャフト8およびセカンダリプーリ10との間の回転速度の比、すなわち変速比が変化する。具体的には、油圧室19のオイル量が増加して溝M1の幅が狭められると、プライマリプーリ9におけるベルト17の巻き掛け半径が大きくなり、ベルト式無段変速機6の変速比が小さくなるように変速する。このように、変速比が小さくなるような変速がアップシフトである。
これに対して、油圧室19のオイル量が減少して溝M1の幅が広げられると、プライマリプーリ9におけるベルト17の巻き掛け半径が小さくなり、ベルト式無段変速機6の変速比が大きくなるように変速する。このように、変速比が大きくなるような変速がダウンシフトである。ダウンシフトまたはアップシフトのいずれにおいても、ベルト式無段変速機6の実変速比を、連続的に、言い換えれば、無段階に制御することが可能である。
一方、セカンダリプーリ10において、溝M2の幅が調整されると、ベルト17に加えられる挟圧力およびベルト17の張力が変化し、かつ、プライマリシャフト7とセカンダリシャフト8との間で伝達されるトルクの容量が制御される。具体的には、油圧サーボ機構16の油圧室100の油圧が高められて、ベルト17に加えられる挟圧力が増加すると、ベルト17のトルク容量が増加する。これに対して、油圧サーボ機構16の油圧室100の油圧が低下されてベルト17に加えられる挟圧力が減少すると、ベルト17のトルク容量が低下する。
上記のようなベルト式無段変速機6の制御と、電子制御装置52に入力される信号などとの対応関係を説明する。まず、第1のドライブポジションまたは第2のドライブポジションが選択され、かつ、自動変速モードが選択された場合は、車速、加速要求を示す信号、および電子制御装置52に記憶されている変速マップに基づいて、ベルト式無段変速機6の目標変速比が算出され、ベルト式無段変速機6の実変速比を、目標変速比に近づけるフィードバック制御が実行される。なお、車速は、セカンダリシャフト8の回転数に基づいて算出される。この自動変速モードが選択された場合は、エンジン1の運転状態が最適燃費線に沿ったものとなるように、ベルト式無段変速機6の変速比が制御される。この最適燃費線は、エンジン出力、すなわちトルクおよび回転数をパラメータとして設定されている。
前記第1のドライブポジションおよび第2のドライブポジションは、共に、車両Veを前進させる向きのトルクを車輪2に伝達することが可能となるように、前後進切り換え機構5を制御するポジションである。この第1のドライブポジションと第2のドライブポジションとでは、変速マップが異なる。例えば、車速が同じであっても、この第1のドライブポジションと第2のドライブポジションとでは選択可能な変速比が異なり、第1のドライブポジションと第2のドライブポジションとで切り換えがおこなわれた場合に、車速およびアクセル開度が同じであっても、変速比が変更される可能性がある。その結果、この第1のドライブポジションと第2のドライブポジションとでは、惰力走行時にエンジンブレーキ力が生じる車速、あるいはエンジンブレーキ力の強さなどに相違が生じる。
つぎに、マニュアル変速モードが選択された場合について説明する。このマニュアル変速モードが選択された場合は、ステップ変速操作および連続変速操作を選択可能である。ステップ変速操作とは、ダウンシフトボタン51Aまたはアップシフトボタン51Bを、所定時間以下の短時間の間、押す操作を意味する。連続変速操作とは、ダウンシフトボタン51Aまたはアップシフトボタン51Bを、所定時間を越える長時間の間、押す操作を意味する。このように、マニュアル変速モードが選択された場合は、変速比選択装置53を操作することにより、ベルト式無段変速機6の目標変速比が選択される。
ステップ変速操作が実行された場合は、ベルト式無段変速機6の目標変速比として、電子制御装置52に予め設定された複数の変速段、例えば、第1速ないし第7速の各変速段のいずれかに対応する変速比を選択することが可能である。この第1速ないし第7速の各変速段は、異なる変速比を段階的に区分する用語である。ベルト式無段変速機6の実変速比を、ステップ変速操作により選択された目標変速比に近づけるフィードバック制御を実行するモードを、ステップ変速モードと呼ぶ。
ここで、第1速に対応する変速比は、第2速に対応する変速比よりも大きく、第2速に対応する変速比は、第3速に対応する変速比よりも大きく、第3速に対応する変速比は、第4速に対応する変速比よりも大きく、第4速に対応する変速比は、第5速に対応する変速比よりも大きく、第5速に対応する変速比は、第6速に対応する変速比よりも大きく、第6速に対応する変速比は、第7速に対応する変速比よりも大きい。そして、各変速段に対応する変速比同士の差が所定値以上であり、目標変速比が段階的に切り換えられることから、これらの変速段同士での切り換えをステップ変速と呼ぶ。
このように、ステップ変速操作が実行された場合は、ベルト式無段変速機6の目標変速比として、各変速段のいずれかに対応する変速比が選択され、ステップ変速モードが実行される。つまり、変速比が段階的、言い換えれば不連続に切り換えられる有段式(多段式)自動変速機と同様な変速比を、運転者が意図的に選択することが可能である。ここで、ステップ変速操作に基づく変速制御においては、予め設定されている変速段に対応する変速比(基準変速比)同士の間に相当する変速比(中間変速比)に、ベルト式無段変速機6の変速比が固定されることはない。
これに対して、連続変速操作が実行された場合は、ベルト式無段変速機6の目標変速比として、第1速ないし第7速の各変速段に対応する変速比を選択することが可能であることに加えて、第1速ないし第7速の各変速段に対応する変速比同士の間に相当する変速比を、目標変速比として選択することが可能である。なお、自動変速モードまたはマニュアル変速モードのいずれにおいても、ベルト式無段変速機6の実変速比は、車速、プライマリシャフト7の回転数(実入力回転数)、セカンダリシャフト8の回転数などから判断される。各種の状況で実行されるフィードバック制御では、周知のPI制御を用いることが可能である。ここで、Pは比例動作、Iは積分動作を意味する。例えば、目標変速比に対応する目標入力回転数と、実入力回転数との偏差を算出するとともに、積分項および比例項を算出し、その算出結果に基づいて、操作量、つまり、リニアソレノイドバルブの電流値を制御する。このようにして、油圧室19のオイル量を制御し、実変速比が目標変速比に近づけられる。
つぎに、フィードバック制御を実行する場合において、比例動作に用いるゲインの算出例を、図1のフローチャートに基づいて説明する。まず、ゲインの算出プログラムが開始されると、マニュアル変速モードが選択され、かつ、ステップ変速操作が実行されたか否かが判断される(ステップS1)。このステップS1で肯定的に判断された場合は、ステップ変速操作による変速要求が、ベルト式無段変速機6のアップシフトであるか否かが判断される(ステップS2)。
このステップS2で肯定的に判断された場合は、ガタ打ちショックの発生期間であるか否かが判断される(ステップS3)。前記エンジン1と車輪2との間に形成されている動力伝達経路には、遊星歯車機構5Aおよび歯車伝動装置110が設けられている。遊星歯車機構5Aおよび歯車伝動装置110を構成するギヤ同士の噛み合い部分にはバックラッシが設定されているため、エンジン1から車輪2に至る動力伝達経路で、動力伝達の向きが切り換えられた場合は、ギヤ同士の噛み合い部分で衝撃が生じる。このようなギヤ同士の噛み合い部分で生じる衝撃が「ガタ打ちショック」である。また、「動力伝達の向き」とは、エンジン1の動力がベルト式無段変速機6に伝達される「第1の向き」と、車両Veの惰力走行時において、車両Veの運動エネルギによる車輪2の動力が、ベルト式無段変速機6に伝達される「第2の向き」とを意味する。
図2のパワートレーンにおいては、エンジン1から車輪2に至る動力伝達経路において、遊星歯車機構5Aと歯車伝動装置110との間にベルト式無段変速機が配置されている。このため、遊星歯車機構5Aで生じる衝撃は、ベルト式無段変速機6のプライマリシャフト7に伝達され、歯車伝動装置110で生じる衝撃も、ベルト式無段変速機6のプライマリシャフト7に伝達される。このようにして、プライマリシャフト7に衝撃が伝達されると、プライマリシャフト7で回転変化が生じる。このステップS3で判断されるガタ打ちショックは、アクセルペダルがオン状態からオフ状態に切り換えられること、言い換えれば、動力の伝達の向きが、前述した「第1の向き」から「第2の向き」に切り替わる際に生じるガタ打ちショックである。
さらに、ステップS3における「発生期間(発生時間)」は、例えば、アクセルオフから所定時間内であるか否か、またはダッシュポット制御実行中であるか否かにより判断可能である。ここで、アクセルオフから所定時間内である場合、またはダッシュポット制御実行中である場合のいずれかが検知された場合は、ステップS3で肯定的に判断され、「ガタ打ちショック発生時用の比例項(P項)ゲイン(定数)」を設定し(ステップS4)、ゲイン算出プログラムを終了する。ダッシュポット制御とは、アクセルオフとなってから、スロットルバルブの開度を、エンジン1のアイドリング運転に相当する開度まで減少する時の減少程度を、緩慢にする(少なくする)制御を意味する。
これに対して、ステップS3で否定的に判断された場合は、「通常用の比例項ゲイン(定数)」を算出し(ステップS5)、ゲイン算出プログラムを終了する。ちなみに、ステップS4で設定される比例項ゲインは、ステップS5で算出される比例項ゲインよりも低ゲインである。なお、ステップS1またはステップS2で否定的に判断された場合は、ゲイン算出プログラムを終了する。ちなみに、ゲインが低ゲイン化されるほど、ベルト式無段変速機6の変速速度が遅くなる。
このように、図1の制御例においては、ガタ打ちショックの発生期間と、アップシフト制御の実行期間とが重なる期間では、比例項ゲインが「低」に設定され、変速速度が比較的緩やかとなる。したがって、「ガタ打ちショックがベルト式無段変速機6に伝達されて、プライマリシャフト7の回転変化が生じることと、ベルト式無段変速機6におけるアップシフトとが並行しておこなわれて(干渉して)、ショックが増幅すること」を、この実施例では抑制することが可能である。また、ガタ打ち発生期間を過ぎた後は、比例項ゲインが「大」に設定されて、変速速度がガタ打ち発生期間内よりも速くなる。したがって、この実施例によれば、ガタ打ち発生期間の終了後は、目標入力回転数に対する実入力回転数の追従性および収束性が向上し、変速応答性の低下を抑制できる。
図1の制御例に対応するタイムチャートの一例を、図3に基づいて説明する。アクセルオン状態にある時刻t1以前においては、比例項ゲインは「高」に設定され、ガタ打ちショック判定タイマはリセットされ、スロットル開度は所定開度になっている。時刻t1でアクセルオンからアクセルオフに切り替わると、ガタ打ちショック判定タイマがセットされ、かつ、ダッシュポット制御が開始される。そして、時刻t1から所定時間が経過した時刻t2でアップシフト操作がおこなわれている。この時刻t2では、ガタ打ちショック判定タイマが継続中であるため、比例項ゲインが実線で示すように「低」に設定される。また、時刻t3以前でダッシュポット制御が終了し、かつ、時刻t3でガタ打ちショック判定タイマによる計測時間が終了し、比例項ゲインが「低」から「中」に切り換えられている。
このように、時刻t2から時刻t3の間で、ガタ打ちショック発生期間と、マニュアル変速制御の実行期間とが重なっており、時刻t3以降は、ガタ打ちショックが発生せず、マニュアル変速制御が実行される。そして、図3のタイムチャートでは、時刻t2から時刻t3の間で設定される比例項ゲインは、時刻t3以降で設定される比例項ゲインよりも低ゲインとなっている。したがって、前述した効果を得ることができる。なお、図3には、時刻t2から時刻t3の間で設定される比例項ゲイン(破線で示す)を「中」に設定する比較例も示されている。
図4は、ゲインの算出プログラムの他の例を示すフローチャートである。まず、ベルト式無段変速機6でステップ的な変速がおこなわれるか否かが判断される(ステップS11)。このステップS1で判断されるステップ変速には、マニュアル変速モードが選択され、かつ、ステップ変速操作が実行された場合に生じるステップ変速と、第1のドライブポジションと第2のドライブポジションとの切り換えにより生じるステップ変速と、自動変速モードが選択され、かつ、アクセル開度が急激に変化した場合におこなわれるステップ変速とが含まれる。アクセル開度の変化は、増または減のいずれでもよい。この3種類のステップ変速のいずれかがおこなわれる場合は、ステップS11で肯定的に判断される。なお、ステップS11で判断されるステップ変速は、アップシフトまたはダウンシフトのいずれでもよい。
上記のステップS11で肯定的に判断された場合は、ガタ打ちショック発生期間であるか否かが判断される(ステップS12)。このステップS12の処理は、図1のステップS3の処理と同じである。また、ステップS12で判断されるガタ打ちショックは、アクセルオンからアクセルオフに切り換えられて生じるガタ打ちショック、またはアクセルオフからアクセルオンに切り換えられて生じるガタ打ちショックのいずれでもよい。
上記のステップS12で肯定的に判断された場合は、ステップS13の処理を実行し、プログラムを終了する。これに対して、ステップS12で否定的に判断された場合は、ステップS14の処理を実行し、プログラムを終了する。ここで、ステップS13の処理は、ステップS4の処理と同じであり、ステップS14の処理は、ステップS5の処理と同じである。なお、アップシフトが実行され、かつ、ステップS13で選択される比例項ゲインを、ダウンシフトが実行され、かつ、ステップS13で選択される比例項ゲインよりも高ゲインにすることも可能である。さらに、ステップS11で否定的に判断された場合は、ゲイン算出プログラムを終了する。この図4に示す制御例においても、図1に示す制御例と同様の理由により、図1に示す制御例と同じ効果を得ることができる。
なお、上記実施例では、油圧室19のオイル量に基づいて、ベルト式無段変速機6の変速比が制御される場合について説明しているが、油圧室19の油圧に基づいて、ベルト式無段変速機6の変速比を制御することも可能である。また、油圧室100の油圧またはオイル量に基づいて、ベルト式無段変速機6の変速比を制御することも可能である。この場合、油圧室19のオイル量または油圧に基づいて、ベルト式無段変速機6のトルク容量を制御することが可能である。このような構成のベルト式無段変速機6においても、図1の制御例を実行可能である。
さらに、この実施例において、入力回転数および出力回転数という意味は、エンジン1の動力が、ベルト式無段変速機6のプライマリシャフト7に入力され、セカンダリシャフト8から出力される場合を基準として用いているのであって、車輪2の動力が、ベルト式無段変速機6のセカンダリシャフト8に入力され、プライマリシャフト7から出力される場合に、プライマリシャフト7の入力回転数、セカンダリシャフト8の出力回転数という用語を使うことも可能である。また、ベルト式無段変速機6の変速比をフィードバック制御するにあたり、「回転数」を用いているが、回転数と等価のパラメータである「回転速度」を用いることも可能である。
さらに、図2においては、無段変速機としてベルト式無段変速機6が示されているが、他の無段変速機、例えば、トロイダル式無段変速機を有する車両に、図1または図4の制御例を適用することも可能である。このトロイダル式無段変速機は、トロイダル面を有する入力ディスクおよび出力ディスクと、各ディスクに対して接触するパワーローラとを有する変速機である。入力ディスクはプライマリシャフトに連結され、出力ディスクはセカンダリシャフトに連結される。各ディスクとパワーローラとの接触面には潤滑油が存在する。
そして、パワーローラを、各ディスクの軸線に直交する平面内で直線状に移動させて、パワーローラと各ディスクとの接触半径を調整することにより、プライマリシャフトとセカンダリシャフトとの間の変速比が制御される。また、各ディスクとパワーローラとの接触面圧を調整することにより、プライマリシャフトとセカンダリシャフトとの間で伝達されるトルクの容量が制御される。さらに、無段変速機の変速比を制御するアクチュエータは、油圧式のアクチュエータ、空気圧式のアクチュエータ、電磁式のアクチュエータなどのうち、いずれが用いられている構成でも、各請求項に係る発明を実施可能である。さらに、車輪は前輪または後輪のいずれでもよい。
ここで、図1に示された機能的手段と、各請求項に係る発明の構成との対応関係を説明すれば、ステップS1が、この発明のモード判断手段に相当し、S2,S3が、この発明の衝撃判断手段に相当し、ステップS4,S5が、この発明の変速内容制御手段に相当する。また、エンジン1が、この発明の駆動力源に相当し、ベルト式無段変速機6が、この発明の変速機に相当し、プライマリシャフトおよびセカンダリシャフトが、この発明の回転部材に相当し、「ガタ打ちショック」が、この発明の「動力伝達経路における動力伝達の向きが切り換わることにより生じる衝撃」に相当し、ステップ変速が、この発明の変速に相当し、第1の向きおよび第2の向きが、この発明の「動力伝達の向き」に相当する。
また、比例項ゲインが、この発明の「変速の内容」および「フィードバック制御に用いるゲイン」に相当し、プライマリシャフトが、この発明の入力部材に相当し、セカンダリシャフトが、この発明の出力部材に相当する。また、この実施例においては、「アクセルオンからアクセルオフに切り換えられること」から、この発明の「動力伝達経路における動力伝達の向きが切り換わること」を判断している。また、ベルト式無段変速機およびトロイダル式無段変速機が、この発明の変速機および無段変速機に相当する。
この実施例に開示された特徴的な構成を記載すれば以下のとおりである。すなわち、駆動力源から車輪に至る動力伝達経路に変速機が設けられており、前記動力伝達経路における駆動力源と変速機との間、または変速機と車輪との間の少なくとも一方に、歯車伝動装置が設けられているとともに、変速機の変速比を変更可能な変速機の制御装置において、前記動力伝達経路における動力伝達の向きが切り換わることにより、前記歯車伝動装置で生じる衝撃が、前記変速機の変速比を変更中に、その変速機に伝達されるか否かを判断する衝撃判断手段と、この衝撃判断手段の判断結果に基づいて、前記変速機の変速の内容を決定する変速内容制御手段とを有していることを特徴とする変速機の制御装置である。
なお、特許請求の範囲の各請求項に記載されている「衝撃判断手段」を「衝撃判断器」または「衝撃判断用コントローラ」と読み替え、「変速内容制御手段」を、「変速内容制御器」または「変速内容制御用コントローラ」と読み替えることも可能である。この場合、電子制御装置52が、「衝撃判断器」、「衝撃判断用コントローラ」、「変速内容制御器」、「変速内容制御用コントローラ」に相当する。さらに、特許請求の範囲の各請求項に記載されている「衝撃判断手段」を「衝撃判断ステップ」と読み替え、「変速内容制御手段」を、「変速内容制御ステップ」と読み替え、「変速機の制御装置」を、「変速機の制御方法」と読み替えることも可能である。