JP4391737B2 - 金属の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、粒子状または膜状の金属を製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、貴金属や銅などの易還元性の金属元素を有する化合物を溶媒中で還元剤存在下に加熱することにより金属粒子を生成させうることは知られていたが、金属は極めて合一しやすいため、前記従来の方法では、目的とする金属を、100nm以下の超微粒子の状態で分散した分散液として得ることは困難であった。
そこで、超微粒子金属の分散液を得る方法として、各種高分子保護剤や界面活性剤などの分散剤の共存下で金属生成を行わせる方法が提案されている(たとえば、特許文献1、特許文献2参照)。このような方法によれば、金属超微粒子が超微粒子状態で分散した分散液が得られる。
【0003】
しかし、分散剤の共存下で金属生成を行わせる従来の方法では、得られる金属の濃度が極めて低くなるため、生産性が悪く、必然的に得られる金属は高価なものになるといった問題があった。
また、金属超微粒子が市場で最も必要とされる用途は、例えば導電性薄膜などの金属薄膜としての用途であるが、前述した分散剤の共存下で金属生成を行わせる従来の方法で得られた分散液は多量に分散剤を含有しているため、これを薄膜形成材料として用いると、形成された膜中に多量に残存する分散剤の影響で、充分な導電性が得られないという問題が生じる。この問題を解決するためには、通常基材上に付着して得られることとなる金属膜を該基材とともに高温状態におくことにより残存する分散剤を分解する処理を施せばよいが、該処理を施すには、耐熱性を考慮して基材を選択する必要があり、PETフィルムなど導電化のニーズが高いフィルムを基材とする場合には適用し難く、導電性薄膜を得る方法としては適さないのが実情であった。しかも、金属超微粒子を得てから膜とする方法は、プロセスの煩雑性の点からコスト的に不利となるので、好ましいとはいいがたい。なお、金属薄膜を直接基材表面に形成する方法として、蒸着による方法も知られているが、導電性などの機能を発現させるためには、ある程度の厚みが必要となるので、生産性が悪く、やはりコスト面で不利となる。
【0004】
【特許文献1】
特開平11−76800号公報
【0005】
【特許文献2】
特開平11−319538号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明の解決しようとする課題は、目的とする金属を、粒子径の小さい金属粒子が高濃度で分散した分散液として、もしくは、導電性薄膜などとして適した金属膜として、安価に得ることができる、金属の製造方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者は上記課題を解決するべく、鋭意検討を行った。その結果、従来に無い特定の組み合わせの出発原料から金属を生成させることにより、上記課題を一挙に解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明にかかる金属の製造方法は、Pt、Pd、Ru、Rh、Ir、Fe、Co、Ni、Cu、およびAgからなる金属元素群(I)より選ばれる少なくとも1種の金属を生成させる方法であって、前記金属の元素を含む金属カルボン酸塩とアルコールとを出発原料として、還元性物質の存在下で金属を生成させる、ことを特徴とする金属の製造方法であって、0.05〜6MPaの加圧下での加熱により金属の生成を行い、前記金属の元素を含む金属カルボン酸塩とアルコールとを出発原料とするときの還元性物質がSn(II)またはMn(II)の化合物またはアミノ基含有化合物である。好ましくは、上記アルコールがメタノールである。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明にかかる金属の製造方法について、詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更実施し得る。
本発明の金属の製造方法は、Pt、Pd、Ru、Rh、Ir、Fe、Co、Ni、Cu、およびAgからなる金属元素群(I)より選ばれる少なくとも1種の金属を生成させる方法である。なお、後述するように、本発明の製造方法において金属を膜として得る場合には、前記金属元素群(I)以外の金属元素の酸化物との複合膜として金属元素群(I)の金属が生成することもある。
【0009】
本発明の製造方法においては、前記金属元素群(I)のうち得ようとする金属の元素を含む金属カルボン酸塩とアルコールとを出発原料とするか(以下、これら原料を「組み合わせA」とする)、または、前記金属元素群(I)のうち得ようとする金属の元素を含む金属アルコキシ基含有化合物とカルボキシル基含有化合物とを出発原料とする(以下、これら原料を「組み合わせB」とする)。
組み合わせAにおける金属カルボン酸塩としては、具体的には、分子内に、カルボキシル基の水素原子が、金属原子(前記金属元素群(I)から選ばれる少なくとも1種の金属の原子)で置換された構造を少なくとも有する化合物であればよい。なお、金属カルボン酸塩は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0010】
前記金属カルボン酸塩の具体例としては、例えば、飽和モノカルボン酸、不飽和モノカルボン酸、飽和多価カルボン酸、不飽和多価カルボン酸などの鎖式カルボン酸と前記金属原子からなる塩;環式飽和カルボン酸と前記金属原子からなる塩;芳香族モノカルボン酸、芳香族不飽和多価カルボン酸などの芳香族カルボン酸と前記金属原子からなる塩;さらに前記各種カルボン酸の分子内にヒドロキシル基、アミノ基、ニトロ基、アルコキシ基、スルホン基、シアノ基、ハロゲン原子等の官能基または原子団を有する化合物と前記金属原子からなる塩;等が挙げられる。なお、前記金属カルボン酸塩は、結晶水を含む水和物であってもよいが、無水物であることが好ましい。
【0011】
組み合わせAにおけるアルコールとしては、例えば、脂肪族1価アルコール(メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、t−ブチルアルコール、ステアリルアルコール等)、脂肪族不飽和1価アルコール(アリルアルコール、クロチルアルコール、プロパギルアルコール等)、脂環式1価アルコール(シクロペンタノール、シクロヘキサノール等)、芳香族1価アルコール(ベンジルアルコール、シンナミルアルコール、メチルフェニルカルビトール等)、フェノール類(エチルフェノール、オクチルフェノール、カテコール、キシレノール、グアヤコール、p−クミルフェノール、クレゾール、m−クレゾール、o−クレゾール、p−クレゾール、ドデシルフェノール、ナフトール、ノニルフェノール、フェノール、ベンジルフェノール、p−メトキシエチルフェノール等)、複素環式1価アルコール(フルフリルアルコール等)等の1価アルコール類;アルキレングリコール(エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,10−デカンジオール、ピナコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等)、脂環式グリコール(シクロペンタン−1,2−ジオール、シクロヘキサン−1,2−ジオール、シクロヘキサン−1,4−ジオール等)、および、ポリオキシアルキレングリコール(ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等)等のグリコール類;プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、3−メチル−3−メトキシブタノール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノアセテート等の上記グリコール類のモノエーテルまたはモノエステル等の誘導体;グリセリンやトリメチロールエタン等の3価アルコール、エリスリトールやペンタエリスリトール等の4価アルコール、リピトールやキシリトール等の5価アルコール、ソルビトール等の6価アルコール等の3価以上の多価アルコール、ヒドロベンゾイン、ベンズピナコール、フタリルアルコール等の多価芳香族アルコール、カテコール、レゾルシン、ヒドロキノン等の2価フェノールや、ピロガロール、フロログルシン等の3価フェノール等の多価フェノール、および、これら多価アルコール類におけるOH基の一部(1〜(n−1)個(ただし、nは1分子当たりのOH基の数))がエステル結合またはエーテル結合となった誘導体;等を挙げることができる。これらの中でも特に、アルコール性水酸基に関して、3級、さらには2級、特に1級の水酸基を有するアルコールが、より低い温度状態で金属が得られるため、好ましい。同様の理由で、脂肪族アルコールも好ましい。なお、アルコールは、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0012】
組み合わせAにおける金属カルボン酸塩とアルコールとの使用量の割合については、特に限定はないが、金属カルボン酸塩の有するカルボキシル基の総数に対するアルコール中の(アルコール由来の)水酸基の総数のモル比(水酸基/カルボキシル基)が、0.8/1〜1000/1となるようにすることが好ましく、1.2/1〜100/1となるようにすることがより好ましい。
組み合わせBにおける金属アルコキシ基含有化合物としては、特に限定はされないが、例えば、下記一般式(1):
M(ORa)n-mRb m (1)
(但し、Mは、金属原子(前記金属元素群(I)から選ばれる少なくとも1種の金属の原子);Raは、水素原子、置換されていてもよいアルキル基、シクロアルキル基、アシル基、アラルキル基、アリール基から選ばれた少なくとも1種;Rbは、水素原子、置換されていてもよいアルキル基、シクロアルキル基、アシル基、アラルキル基、アリール基、不飽和脂肪族残基、および、ORa基以外の官能基を含む有機基から選ばれた少なくとも1種;nは金属原子M’の価数;mは0〜n−1の範囲の整数である。)
で示される化合物、またはこの化合物を(部分)加水分解・縮合してなる縮合物を挙げることができる。なお、金属アルコキシ基含有化合物は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0013】
一般式(1)中、Raとしては、水素原子および/またはアルコキシアルキル基などの置換されていてもよいアルキル基が好ましく、より好ましくは置換されていてもよいアルキル基である。また、Rbとしては、置換されていてもよいアルキル基、シクロアルキル基、アシル基、アラルキル基、アリール基、不飽和脂肪族残基、および、β−ジケトン化合物等のORa基以外の官能基を含む有機基から選ばれた少なくとも1種であるものが好ましい。
金属アルコキシ基含有化合物は、前述したもの以外であってもよく、単一金属のアルコキシ基含有化合物の他、ヘテロ金属アルコキシ基含有化合物であってもよい。なお、ヘテロ金属アルコキシ基含有化合物とは、2個以上の異なる金属原子を有し、アルコキシ基や酸素原子を介したり、金属−金属結合等によって結ばれた金属アルコキシ基含有化合物のことである。
【0014】
結晶性の金属を得る場合には、一般式(1)中、mが0である化合物を主成分とすることが最も好ましく、単一金属のアルコキシ基含有化合物やヘテロ金属アルコキシ基含有化合物が挙げられる。
組み合わせBにおけるカルボキシル基含有化合物としては、具体的には、分子内に、カルボキシル基を少なくとも有する化合物であればよい。なお、カルボキシル基含有化合物は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記カルボキシル基含有化合物の具体例としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、イソ酪酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルチミン酸、ステアリン酸等の飽和脂肪酸(飽和モノカルボン酸)、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、オレイン酸、リノレン酸等の不飽和脂肪酸(不飽和モノカルボン酸)、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、β,β−ジメチルグルタル酸等の飽和多価カルボン酸、マレイン酸、フマル酸等の不飽和多価カルボン酸などの鎖式カルボン酸類;シクロヘキサンカルボン酸等の環式飽和カルボン酸類;安息香酸、フェニル酢酸、トルイル酸等の芳香族モノカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ピロメリット酸、トリメリット酸等の不飽和多価カルボン酸等の芳香族カルボン酸類;無水酢酸、無水マレイン酸、ピロメリット酸無水物等のカルボン酸無水物;トリフルオロ酢酸、o−クロロ安息香酸、o−ニトロ安息香酸、アントラニル酸、p−アミノ安息香酸、アニス酸(p−メトキシ安息香酸)、トルイル酸、乳酸、サリチル酸(o−ヒドロキシ安息香酸)等の分子内にカルボキシル基以外のヒドロキシル基、アミノ基、ニトロ基、アルコキシ基、スルホン酸基、シアノ基、ハロゲン原子等の官能基または原子団を有する化合物;アクリル酸ホモポリマー、アクリル酸−メタクリル酸メチル共重合体等の上記不飽和カルボン酸の(共)重合体;等を挙げることができる。これらのカルボキシル基含有化合物のうち、分散性の優れる粒子を得るためには、飽和カルボン酸が好ましく、酢酸が最も好ましい。また、カルボキシル基含有化合物が液体の場合は、後述するように反応溶媒としても用いることもできる。
【0015】
組み合わせBにおける金属アルコキシ基含有化合物と、カルボキシル基含有化合物との使用量の割合については、特に限定はないが、カルボキシル基含有化合物の金属アルコキシ基含有化合物に対するモル比が、金属アルコキシ基含有化合物に含有されている金属原子Mの平均原子価数Navを用いて、好ましくは下限が0.8Nav超、さらに好ましくは1.2Nav超であり、また、好ましくは上限が10Nav未満である。ここで、平均原子価数Navは、金属アルコキシ基含有化合物として、含有金属元素の異なるp種の金属アルコキシ基含有化合物(含有金属元素がそれぞれM1、M2、M3、・・・、Mpであるp種の金属アルコキシ基含有化合物(2≦p))を併せて用いる場合、下記数式:
【0016】
【数1】
【0017】
(数式中、Niは、金属Miの原子価(価数)を表す。また、Xiは、金属アルコキシ基含有化合物として用いた金属元素Miのモル数を表す。pは2以上の整数である。)
から算出することができる。また、前記カルボキシル基含有化合物の総量に含まれるカルボキシル基の数が、前記金属アルコキシ基含有化合物の総量に含まれるアルコキシ基の数N’に対して、0.8N’超であることも好ましく、1N’〜10N’が特に好ましい。なお、数値範囲を表す際に、数値の後ろに「超」と付した場合は、その数値を含まずそれより大きい数値範囲を示すものとする。
【0018】
本発明の製造方法は、前記組み合わせAまたは前記組み合わせBを出発原料として、還元性物質の存在下で金属を生成させるようにする。
前記還元性物質としては、特に制限はなく、従来公知の還元性物質を用いることができる。具体的には、例えば、ホルムアルデヒド;ヒドラジン、ヒドラジン誘導体等のヒドラジン化合物;水素化ホウ素ナトリウム等の金属水素化ホウ素塩;クエン酸、クエン酸金属塩等のクエン酸化合物;コハク酸、コハク酸金属塩等のコハク酸化合物;アミノ基含有化合物;Sn(II)やMn(II)などの低原子価金属の化合物;単糖類、多糖類等の糖類;等が挙げられる。また、これら液体や固体のものの他に、水素ガスなどの還元性ガスも還元性物質として用いることができる。これらの中でも特に、安全性および得られる金属粒子や金属膜の機能を阻害しにくい点から、クエン酸化合物、コハク酸化合物、アミノ基含有化合物、低原子価金属の化合物が好ましい。なお、還元性物質は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0019】
前記アミノ基含有化合物としては、具体的には、例えば、1〜3級のアミノ基を含有する化合物や、4級アンモニウム基を含有する化合物などが挙げられ、具体的には、メチルアミン、イソブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン、エチル−n−ブチルアミン、tert−ブチルアミン、ラウリルアミン、ステアリルアミン、N−ドデシル−1−ドデカンアミン、N,N−ジオクチル−1−オクタンアミン、N,N−ジメチル−1−オクタデカンアミン、シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン等の1級、2級または3級の脂肪族アミン、エチレンジアミン、N−オクタデシル−1,3−プロパンジアミン等の脂肪族ジアミン、トリアミン、ポリエチレンイミン等のポリアミン、モルフォリン、ピペラジン等の脂肪族環状アミンなどの脂肪族アミン;N−フェニルヒドロキシルアミン、p−(ヒドロキシアミノ)フェノール、モノエタノールアミン、トリエタノールアミン等の脂肪族または芳香族ヒドロキシルアミン;アニリン、N−メチルアニリン、N、N−ジメチルアニリン、ジフェニルアミン、N−エチル−N−フェニルベンジルアミン、o−トルイジン、p−トルイジン、2,3−キシリジン、o−アニシジン、ジアミノトルエン、4,4−メチレンジアニリン、フェニレンジアミン等の芳香族アミン;水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化トリメチルベンジルアンモニウム、テトラブチルアンモニウムハイドロゲンサルフェート、臭化トリメチルフェニルアンモニウム、臭化テトラメチルアンモニウム、臭化テトラ−n−ブチルアンモニウム、N−ベンジルピコリニウムクロライド、ヨウ化テトラメチルアンモニウム、N−ラウリル4−ピコロニウムクロライド、塩化トリメチルベンジルアンモニウム、塩化N−ラウリルピリジニウム、塩化トリブチルベンジルアンモニウム、塩化トリオクチルメチルアンモニウム、塩化テトラメチルアンモニウム、塩化トリエチルペンジルアンモニウム等の第4級アンモニウム塩;等が挙げられる。
【0020】
前記低原子価金属の化合物としては、具体的には、例えば、金属イオン;水酸化物;酸化物;硝酸塩、塩化物、炭酸(水素)塩、カルボン酸塩等の塩;金属アルコキシド;金属アセチルアセテートなどのβ−ジケトン錯体、β−ケトエステル錯体等の有機金属錯体;等が挙げられ、これらの金属元素としては、Sn、Mn、V、Cr、Mo、W、Re、In、Tl、Sb等が挙げられる。
前記還元性物質の使用量については、前記出発原料に含まれる金属原子(カチオン状態)を金属に還元するのに必要な量が少なくとも存在すればよく、特に限定はないが、前記出発原料に含まれる金属原子Xの原子価をnとして、還元性物質/金属原子X(モル比)が0.5n〜5nとなるようにすることが好ましい。
【0021】
本発明の製造方法においては、前記組み合わせAまたは前記組み合わせBの出発原料と前記還元性物質との混合系を高温状態にすることにより、金属が生成する。ここで、混合系とは、前記出発原料と前記還元性物質とを必須とする原料を混合してなる混合物、および/または、前記出発原料と前記還元性物質とを必須とする原料から得られる予備反応物を意味するものである。なお、前記混合系は、その一部が予備反応物であり、その他が混合物となっていてもよい。
前記予備反応物は、前記組み合わせAにおける金属カルボン酸塩とアルコールと還元性物質との反応による反応物、または組み合わせBにおける金属アルコキシ基含有化合物とカルボキシル基含有化合物と還元性物質との反応による反応物として、金属が生成されるまでの任意の段階の状態(金属の生成が認められる前の状態)の反応中間体であり、生成される金属に対する前駆体(金属前駆体)である。すなわち、予備反応物は、前述した各原料のいずれでもなく、生成される金属でもない、金属前駆体である。このような予備反応物は、例えば、各原料を混合(好ましくは加圧下で混合)するだけで直ちに得られるか、各原料の混合物を緩やかな高温状態(好ましくは、金属が得られる温度よりも低い温度である状態)にすることにより得られる。
【0022】
前記混合系は、ペースト状、懸濁液状、溶液状などの流動性のある液状であることが好ましく、必要に応じて、出発原料として反応溶媒をも用いるようにしてもよい。具体的には、組み合わせAまたは組み合わせBおよび還元性物質からなる各原料の一部または全部を混合するにあたり、あるいは、これら原料からなる混合系を高温状態にするにあたり、さらに反応溶媒を加えた上で行うようにすればよい。
前記反応溶媒をも用いる場合、その使用量については、特に限定はないが、経済的に金属を得ることを考慮すると、金属カルボン酸塩または金属アルコキシ基含有化合物の使用量が、該反応溶媒を含めた全重量に対して0.1〜50重量%となるようにすることが好ましい。
【0023】
前記反応溶媒としては、水以外の溶媒、すなわち、非水溶媒が好ましい。非水溶媒としては、例えば、エチルベンゼン、オクタン、キシレン類、シクロヘキサン、シクロヘキシルベンゼン、ジメチルナフタレン、スチレン、ソルベントナフサ、デカリン、デカン、テトラリン、ドデシルベンゼン、トルエン、メチルシクロヘキサン、メチルシクロペンタン、流動パラフィン等の炭化水素系溶媒;各種ハロゲン化炭化水素系溶媒;組み合わせAにおいて前述したアルコール等のアルコール(フェノール類や、多価アルコールおよびその誘導体で水酸基を有する化合物なども含む)系溶媒;アニソール、エピクロロヒドリン、エポキシブタン、クラウンエーテル類、ジイソアミルエーテル、ジエチルアセタート、ジオキサン、ジグリシジルエーテル、ジフェニルエーテル、ジブチルエーテル、ジベンジルエーテル、ジメチルエーテル、メチル−t−ブチルエーテル等のエーテルもしくはアセタール系溶媒;アセチルアセトン、アセトアルデヒド、アセトフェノン、アセトン、イソホロン、エチル−n−ブチルケトン、ジアセトンアルコール、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ジ−n−プロピルケトン、ホロン、メシチルオキシド、メチル−n−アミルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、メチルシクロヘキサノン、メチル−n−ヘプチルケトン等のケトンもしくはアルデヒド系溶媒;アジピン酸ジエチル、アセチルクエン酸トリエチル、アセト酢酸エチル、アビエチン酸メチル、安息香酸ベンジル、安息香酸メチル、イソ吉草酸イソアミル、イソ吉草酸エチル、ギ酸プロピル、クエン酸トリブチル、ケイ皮酸メチル、酢酸2−エチルヘキシル、酢酸シクロヘキシル、酢酸n−ブチル、酢酸ベンジル、酢酸メチル、酢酸メチルシクロヘキシル、サリチル酸ベンジル、サリチル酸メチル、シュウ酸ジブチル、酒石酸ジエチル、ステアリン酸エチル、ステアリン酸ブチル、セバシン酸ジオクチル、セバシン酸ジブチル、炭酸ジフェニル、炭酸ジメチル、乳酸ブチル、乳酸メチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジメチル、γ−ブチロラクトン、プロピオン酸ブチル、プロピオン酸ベンジル、プロピオン酸メチル、ホウ酸エステル類、マレイン酸ジオクチル、マロン酸ジメチル、酪酸イソアミル、酪酸メチル、リン酸エステル類等のエステル系溶媒;エチレンカーボナート、エチレングリコールジアセタート、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセタート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセタート、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジアセタート、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジベンゾエート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセタート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセタート、トリエチレングリコールジ−2−エチルブチラート、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸ジエステル、両末端に水酸基を有しないポリ(オキシエチレン−オキシプロピレン)誘導体等の多価アルコール類のすべての水酸基の活性水素がアルキル基やアセトキシ基で置換された誘導体化合物;カルボン酸およびその無水物;シリコーン油、鉱物油;等を挙げることができる。特に、組み合わせAの場合の反応溶媒としては、必須の出発原料として用いられるアルコールを溶媒とすることが好ましい。
【0024】
金属を生成させる際には、特定の多価アルコールまたはその誘導体化合物を存在下で生成させることが好ましい。これにより、収率よく金属を生成させることができる。特定の多価アルコールまたはその誘導体化合物とは、1)β−ジオールまたは隣接した炭素原子それぞれに水酸基が結合したもの、2)多価アルコールの水酸基の少なくとも1つが炭素数4以上のアルコキシ基で置換された化合物で、少なくとも1個のOH基を有する化合物、3)多価アルコールの水酸基の少なくとも1つが炭素数4以上のカルボキシル基で置換された化合物で、少なくとも1個のOH基を有する化合物、である。なお、これら特定の多価アルコールまたはその誘導体化合物は、前述した反応溶媒として存在していてもよいし、出発原料のいずれかとして存在していてもよいし、反応溶媒および出発原料とは別に別途添加して存在させるようにしてもよい。
【0025】
金属を生成させる際には、前記混合系に含まれる水分は少ない方が、得られる金属の欠陥が少なくなるため好ましい。具体的には、組み合わせAを原料とする場合には、前記混合系中の水分/金属カルボン酸塩中の金属原子(モル比)が4未満のわずかな水分しか含有しないことが好ましく、前記モル比が1未満であるとさらに好ましく、0.5未満であると特に好ましい。一方、組み合わせBを原料とする場合には、前記混合系中の水分/金属アルコキシ基含有化合物中の金属原子(モル比)が1未満のわずかな水分しか含有しないことが好ましく、前記モル比が0.2未満であるとさらに好ましく、0.1未満であると特に好ましい。
【0026】
本発明の製造方法において、前記混合系を高温状態にするとは、前記混合系の温度を常温よりも高い温度(金属が生成する温度)にまで昇温することである。高温状態の温度(金属が生成する温度)は、得ようとする金属の種類等によって異なるが、通常50℃以上であり、結晶性の高い金属を得るためには、100℃以上が好ましく、さらに100〜300℃の範囲であるのが好ましい。特に、後述するように金属を膜として得ようとする場合であって基材として高分子フィルム等の有機物の基材を用いる場合には、100〜200℃の範囲であるのが好ましく、より好ましくは100〜150℃の範囲である。
【0027】
前記混合系を高温状態にする際の具体的な昇温手段(予備反応物を得る場合に緩やかな高温状態にする際の昇温手段も含む)としては、ヒーター、温風や熱風による加熱が一般的であるが、これに制限されるものではなく、例えば、紫外線照射による加熱などの手段を採用することもできる。
前記混合系を高温状態にする際に、前記混合系が気体と接触する場合には、非酸化性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。非酸化性ガスとしては、例えば、窒素ガス、ヘリウムやアルゴン等の不活性ガス、水素ガス、およびこれらの混合ガスが挙げられる。
【0028】
本発明の製造方法における好ましい形態としては、金属の生成を加圧下での加熱により行わせるのがよい。前記混合系を高温状態にする際の加熱(予備反応物を得る場合に緩やかな高温状態にする際の加熱も含む)は、常圧下、加圧下、減圧下のいずれの圧力下で行ってもよいのであるが、加圧下で加熱することにより、低沸点溶媒中で金属を生成させることができるとともに、揮発性のマイルドな還元性物質を選択することができる。特に、金属を粒子として得る場合には、分散液中に分散した状態で金属が得られることになるが、加圧下での加熱によることで、分散剤を用いずとも分散性の高い分散液とすることができる。
【0029】
本発明の製造方法における好ましい形態としては、金属の生成を平均粒子径が100nm以下の無機質微粒子の存在下での加熱により行わせるのがよい。金属を粒子として得る場合には、特に該形態が好ましく、これにより、生成した金属粒子間の凝集や融着による粒子の粗大化が抑制され、粒子径の微細な金属粒子を高い収率で得ることができる。
前記無機質微粒子としては、特に制限はなく、例えば、金属、合金、金属酸化物、金属硫化物、金属セレン化物、金属テルル化物、金属窒化物、金属炭化物、金属酸窒化物等を用いることができる。中でも、好ましくは、別途本発明の製造方法により得た金属粒子、もしくは、金属酸化物粒子(好ましくは金属カルボン酸塩とアルコール、または、金属アルコキシ基含有化合物とカルボキシル基含有化合物とを加熱することにより得られた粒子)が好適である。なお、無機質微粒子としては、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0030】
本発明の製造方法において、前記混合系(前記混合物および/または前記予備反応物)を得る際の混合と、前記混合系を高温状態にする際の昇温(予備反応物を各原料の混合と、さらに緩やかな高温状態にすることとで得る場合において、緩やかな高温状態にする際の昇温も含む)とは、別々に行っても、同時(一部同時も含む)に行ってもよく、特に限定はされない。具体的には、例えば、1)各原料を混合した後、該混合物を所定温度に昇温する、2)アルコールもしくはカルボキシル基含有化合物を所定温度に昇温しておき、該温度を維持しながら、これにその他の原料を混合する、3)反応溶媒と金属カルボン酸塩もしくは金属アルコキシ基含有化合物とを混合して所定温度に昇温しておき、該温度を維持しながら、これにその他の原料を混合する、4)各原料を別々に所定温度に昇温しておいた後、これらを混合する、等が好ましく挙げられる。
【0031】
本発明の製造方法においては、生成する金属を粒子として得るようにしてもよいし、生成する金属を基材の表面に膜として定着させて得るようにしてもよい。生成する金属を粒子として得る場合、その平均粒子径は1〜100nmであることが好ましく、1〜20nmであることがより好ましい。平均粒子径が1nm未満であると、優れた電気物性が得られにくくなり、一方、100nmを越えると、該粒子の分散液の分散安定性が不充分となり、成膜性等が悪化しやすくなる。
本発明の製造方法において、金属は、前記混合系を高温状態にすることで得られる反応液(分散液)中に粒子として生成する。詳しくは、本発明の製造方法によれば、前記平均粒子径に制御された金属粒子が、0.1〜50重量%、好ましくは1〜20重量%で分散した反応液(分散液)が得られる。したがって、粒子(粉末)として金属を得ようとする場合には、得られた前記反応液(分散液)を遠心分離や濾過などの通常の分離手段に供するようにすればよい。また、得られた前記反応液(分散液)を、限外濾過膜を用いるか、加熱によって溶媒の一部を除去することにより所望の濃度の濃縮液として用いたり、ペースト状に加工して用いることもできる。さらに、得られた前記反応液(分散液)、前記濃縮液もしくはペースト状加工物を所望の溶媒の共存下で加熱するなどして、前記反応液(分散液)、前記濃縮液もしくはペースト状加工物に始めに含まれる溶媒を除去し、所望の溶媒に置き換えるようにしてもよい。このような反応液(分散液)、濃縮液もしくはペースト状加工物は、そのままもしくは必要に応じてバインダー成分等を混合するなどして、金属膜の膜形成材料や塗料として好適に用いることができる。
【0032】
生成する金属を基材の表面に膜として定着させて得る場合、前記金属元素群(I)以外の金属元素からなる金属元素群(II)より選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む金属カルボン酸塩または金属アルコキシ基含有化合物をも前記出発原料として、金属を金属酸化物との複合膜として生成させるようにすることもできる。詳しくは、この場合、前記金属元素群(I)の元素からなる金属と、元素前記金属元素群(II)の元素からなる金属酸化物との複合膜となる。なお、生成する金属を粒子として得る場合であっても、前記金属元素群(II)より選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む金属カルボン酸塩または金属アルコキシ基含有化合物をも前記出発原料として、金属を生成させるようにしてもよく、その場合、金属粒子と金属酸化物粒子との混合物や、金属と金属酸化物との複合体粒子などが得られることとなる。
【0033】
前記金属元素群(II)の元素を含む金属カルボン酸塩または金属アルコキシ基含有化合物としては、金属元素が異なる以外は出発原料として前述したものと同様のものであればよい。好ましくは、組み合わせAを出発原料とする場合には金属カルボン酸塩を、組み合わせBを出発原料とする場合には金属アルコキシ基含有化合物を、選択するのがよい。前記金属元素群(II)としては、In、Sn、Zn、Tiから選ばれる少なくとも1種が特に好ましい。なお、前記金属元素群(II)の元素を含む金属カルボン酸塩または金属アルコキシ基含有化合物をも出発原料とする場合、前記混合系はこれらをも含むものとなる。
【0034】
生成する金属を基材の表面に膜として定着させて得る場合、前記混合系を基材に接触させ、この接触系を高温状態にすることにより、金属を生成させるようにする方法(以下、「方法I」とする)、前記混合系を高温状態にしながらか、または、高温状態にしておいて前記基材の表面に塗布するようにする方法(以下、「方法II」とする)、などによって容易に得ることができる。前記方法Iによる場合、さらに詳しくは、前記接触系を高温状態にすることを、前記混合系を前記基材の表面に塗布しておいて前記基材を高温状態にする方法(以下、「方法I−1」とする)、前記基材を前記混合系に漬けておいて高温状態にする方法(以下、「方法I−2」とする)のいずれかで行うようにすればよい。方法I−1と方法IIとは、前記混合系を基材の表面に塗布する方法であり、方法I−1では塗布後に、方法IIでは塗布前もしくは塗布中に、混合系を高温状態にすることにより、基材の表面に金属を定着させ金属層を形成させる方法である。一方、方法I−2は、前記混合系に基材を浸漬した状態で該混合系を高温状態にすることにより、基材の表面に金属を析出させ成長させて、基材表面に金属を定着させ金属層を形成させる方法である。以下、方法I−1と方法IIとを塗布法として、方法I−2を浸漬法として、それぞれ説明する。
【0035】
前記塗布法において、方法I−1では前記混合系の基材へ塗布後に、方法IIでは前記混合系の基材へ塗布前もしくは塗布中に、混合系を高温状態にするものであり、混合系を得る際の混合、高温状態とする際の昇温、および基材への塗布のタイミングについては、特に制限はない。但し、前記混合系が予備反応物を含む場合、予備反応物は常温で長時間溶解状態で存在し難い傾向があるため、予備反応物を得たあとは、速やかに該混合系を基材に塗布することが好ましい。また、方法IIと方法I−1を組み合わせる形態も好ましく、塗布前または塗布中に昇温した混合系を基材に塗布した後、さらに該基材を昇温することが好ましい。
【0036】
方法IIのうち、前記混合系の基材へ塗布中に、混合系を高温状態にする形態の具体例としては、例えば、混合系を、基材の塗布部分に直結する加熱されたパイプに通して加熱し、塗布する形態や、混合系を、ロールコーターのパン中で加熱し、加熱された状態のまま基材に塗布する形態、などが挙げられるが、特にこれらに限定はされない。方法IIのうち、前記混合系の基材へ塗布前に、混合系を高温状態にする形態の具体例としては、例えば、混合系を、(耐圧)回分式反応装置などを用いて加熱しておき、基材に塗布する形態、などが挙げられるが、特に限定されるわけではない。
【0037】
前記塗布法を採用する場合であって前記混合系に反応溶媒を含む場合には、反応溶媒として、常圧における沸点が金属の生成する温度(高温状態にする際の温度)よりも高い反応溶媒を選択することが好ましい。これにより、透明性に優れた金属層や、金属含有量が高い金属層が容易に得られる。また、この場合、反応溶媒の含有量は、混合系中の金属に対するモル比で、等モル以上であることが好ましく、より好ましくは2倍モル以上である。また、前記塗布法を採用する場合であって前記混合系に反応溶媒を含む場合には、反応溶媒として、水と共沸し得る非水溶媒を選択することが好ましい。これにより、緻密な金属層を、より低温で容易に形成することができる。この場合、反応溶媒の含有量は、混合系中の金属に対するモル比で、等モル以上であること好ましく、より好ましくは2倍モル以上、さらに好ましくは5倍以上である。なお、塗布法においては、加熱により、金属層が形成されるとともに、反応溶媒等を揮発させ除去させることができる。
【0038】
前記塗布法において、混合系を基材に塗布する際の方法としては、特に制限はなく、具体的には、例えば、バーコーター法、ロールコーター法、ナイフコーター法、ダイコーター法、スピンコート法、ディッピング法などの従来公知の方法を採用すればよい。
前記塗布法において、高温状態とする際には、基材のみを昇温してもよいし、塗布面のみを昇温するようにしてもよいし、基材および塗布面の両方を昇温してもよく、特に限定はされない。
前記塗布法において、方法IIと方法I−1を組み合わせる形態を採用する場合、塗布前または塗布中に高温状態とする際の温度は、予備反応物を生成させる程度の温度が好ましく、具体的には、50℃以上でかつ塗布後に高温状態とする際の温度以下であることが好ましい。
【0039】
前記塗布法においては、高温状態にする際の加熱時間は、特に限定されるわけではなく、具体的には、10秒〜1時間が好ましいが、結晶性を高めたり基材との密着性を高めるなどといった目的で、さらに加熱して熟成させてもよい。熟成の際の温度や時間、昇温手段については、特に限定はなく、適宜選択すればよい。
前記塗布法は、連続層、特に、表面の平滑性が高くかつ緻密な連続層の金属層を得る場合に好適である。
前記浸漬法においては、金属の生成が完全に終わるまでに、好ましくは金属の生成反応を開始させるまでに、基材を前記混合系に漬けておけばよく、混合系を得る際の混合、高温状態とする際の昇温、および基材の浸漬のタイミングについては、特に制限はない。但し、前記混合系が予備反応物を含む場合、予備反応物は常温で長時間溶解状態で存在し難い傾向があるため、予備反応物を得たあとは、速やかに該混合系に基材を浸漬することが好ましい。
【0040】
前記浸漬法においては、通常用いられている装置を使用することができるが、基材を固定する機能を備えたものが好ましい。例えば、基板(基材)ホルダーを設置してなる回分式反応装置を使用することができる。撹拌の有無や、撹拌条件は特に限定されず、適宜選択すればよい。
前記浸漬法において、高温状態にする際には、基材を漬けている状態で混合系全体を昇温するようにしてもよいし、基材を漬けている状態で基材のみを選択的に昇温するようにしてもよいが、基材のみを選択的に昇温する方が、基材表面での反応が選択的に起こりやすく、基材表面に密着性の高い金属層が形成されやすいため好ましい。
【0041】
前記浸漬法は、不連続層や多孔質構造を有する連続層の金属層を得る場合に好適である。但し、高温状態にする際の温度や原料の種類によって、金属層のマクロな構造(連続層か不連続層か、または、緻密性に優れているか多孔質であるか、など)や、結晶構造(結晶子の大きさや形状など)を制御することができる。
生成する金属を基材の表面に膜として定着させて得る際の基材としては、その材質は、特に限定されるわけではなく、具体的には、例えば、酸化物、窒化物、炭化物などのセラミックス、ガラス等の無機物;PET、PBT、PENなどのポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリイミド樹脂、アモルファスポリオレフィン樹脂、ポリアリレート樹脂、アラミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、PVC樹脂、PVDC樹脂、PVA樹脂、EVOH樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、PTFE、PVF、PGF、ETFEなどのフッ素樹脂、エポキシ樹脂、ポリオレフィン樹脂等の各種樹脂や、これら各種樹脂にアルミ、アルミナ、シリカなどを蒸着した加工品等の有機物;各種金属類;等が好ましく挙げられる。また、その形態は、具体的には、例えば、フィルム状、シート状、板状、繊維状、積層体状などが挙げられるが、特に限定はされない。また、前記基材は、機能的には、特に限定はされず、具体的には、光学的には透明、不透明;電気的には絶縁体、導電体、p型またはn型の半導体あるいは誘電体;磁気的には磁性体、非磁性体;など目的に応じて選択される。
【0042】
生成する金属を基材の表面に膜として定着させて得る場合、金属層の厚み(基材の表面に対して垂直な方向の厚み)は、特に限定はされないが、通常、1nm〜1000μmであることが好ましく、より好ましくは1nm〜1μmである。
本発明の製造方法により得られる金属(金属粒子、金属膜、および金属と金属酸化物との複合膜)は、例えば、導電性材料、磁性材料、熱伝導材料、電磁遮蔽材料などの機能性材料として、各種の表示素子、記録・記憶素子などの各種デバイスに有用なものである。詳しくは、金属粒子は、その分散液に必要に応じてバインダー等を添加して良好な膜形成材料として利用でき、特に、平均粒子径100nm以下の超微粒子である場合にはインクジェット描画用として好ましい材料となる。金属膜は、導電性膜、熱伝導膜、電磁遮蔽膜などとして有用であり、特に、Fe、Co、Niなどの金属膜は、強磁性膜などとして有用である。金属と金属酸化物との複合膜は、金属単独の膜に比べて透明性に優れるものであり、透明性をも備えた前記機能性材料として、例えば、透明導電膜、透明電磁遮蔽膜などに有用である。さらに、本発明の製造方法においては、従来よりも低温での膜形成が可能となるので、基材として高分子フィルムや高分子板を選択することができ、工業的価値が極めて高い。
【0043】
【実施例】
以下に、実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。なお、以下では、便宜上、「重量部」を単に「部」と記すことがある。
<金属膜の製造>
下記実施例で得られた膜の分析は、以下のようにして行った。
(膜の結晶構造および同定) 電子線回析測定もしくは薄膜X線回析測定により格子定数の値、回析パターンから結晶構造を判定した。さらに、ESCA測定により膜表層およびエッチング処理を行った後の内部層の元素分析を行うことにより、金属種および必要に応じて膜の組成(金属と金属酸化物の比率)を同定した。なお、基板に付着したままで測定を充分に行うことができない場合は、基板から膜を剥離して、測定を行った。
【0044】
(膜厚) 膜が付着したガラス板をガラスカッターで垂直に切断し、その切断面をSEMにて観察し、SEM像によって膜厚を測定した。
(実施例1−1)
攪拌機、添加口、温度計、留出ガス出口、窒素ガス導入口を備えた、外部より加熱し得る耐圧ガラス製反応器、および、添加口に繋がれた添加槽、留出ガス出口に繋がれた濃縮器(該濃縮器はトラップに直結している)を備えた反応装置を用意した。
反応器内に、原料I(金属カルボン酸塩)として酢酸銅(II)無水物18部と、原料II(アルコール)としてメタノール269部およびエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル70部と、原料III(還元性物質)としてモノエタノールアミン31部とからなる混合物を仕込み、気相部を窒素ガスでパージした後、攪拌しながら、20℃より、100℃にまで昇温した。次いで、0.4MPaの加圧下、100±2℃で10分間保持した後、常温まで冷却することにより、塗布液を得た。
【0045】
次に、得られた塗布液を、アルミナ蒸着したPETフィルム基板にバーコーターで塗布し、窒素雰囲気下150℃で5分間加熱して、基板上に付着した膜を得た。
得られた膜を分析したところ、該膜は金属Cuからなる膜であり、膜厚は0.05μmであり、該膜が付着した被着体は透明感の高いフィルムであった。
(実施例1−2)
実施例1−1と同様の反応装置を用い、反応器内に、原料I(金属カルボン酸塩)として2−エチルヘキサン酸銅(II)35部および酢酸パラジウム(II)2.2部と、原料II(アルコール)としてメタノール320部と、原料III(還元性物質)としてモノエタノールアミン26部とからなる混合物を仕込み、気相部を窒素ガスでパージした後、攪拌しながら、20℃より、100℃にまで昇温した。次いで、0.4MPaの加圧下、100±2℃で10分間保持した後、常温まで冷却することにより、塗布液を得た。
【0046】
次に、得られた塗布液を、チタン酸バリウム基板にバーコーターで塗布し、窒素雰囲気下150℃で5分間加熱して、基板上に付着した膜を得た。
得られた膜を分析したところ、該膜は金属Cuおよび金属Pdからなる膜であり、膜厚は0.1μmであった。
(実施例1−3)
実施例1−1と同様の反応装置を用い、反応器内に、原料I(金属アルコキシ基含有化合物)として銅(II)エトキシド20部と、原料II(カルボキシル基含有化合物)として酢酸19部と、原料III(還元性物質)としてモノエタノールアミン80部と、原料IV(有機溶媒)としてジプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート300部とからなる混合物を仕込み、気相部を窒素ガスでパージした後、攪拌しながら、20℃より、100℃にまで昇温した。次いで、0.2MPaの加圧下、100±2℃で10分間保持した後、常温まで冷却することにより、塗布液を得た。
【0047】
次に、得られた塗布液を、アルミナ基板にバーコーターで塗布し、窒素雰囲気下150℃で5分間加熱して、基板上に付着した膜を得た。
得られた膜を分析したところ、該膜は金属Cuからなる膜であり、膜厚は0.1μmであった。
(実施例1−4)
実施例1−1と同様の反応装置を用い、反応器内に、原料I(金属カルボン酸塩)として酢酸銅(II)無水物18部と、原料II(アルコール)としてエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル30部と、原料III(還元性物質)としてモノエタノールアミン31部と、原料IV(有機溶媒)としてエチレングリコールジメチルエーテル300部とからなる混合物を仕込み、気相部を窒素ガスでパージした後、攪拌しながら、20℃より、100℃にまで昇温した。次いで、0.4MPaの加圧下、100±2℃で10分間保持した後、常温まで冷却することにより、塗布液を得た。
【0048】
次に、得られた塗布液を用い、実施例1−1と同様にして、基板上に付着した膜を得た。
得られた膜を分析したところ、該膜は金属Cuからなる膜であり、膜厚は0.1μmであった。
(実施例1−5)
実施例1−1と同様の反応装置を用い、反応器内に、原料I(金属カルボン酸塩)として酢酸銅(II)無水物18部と、原料II(アルコール)としてメタノール100部および1,2−ブタンジオール40部と、原料III(還元性物質)としてモノエタノールアミン31部と、原料IV(有機溶媒)としてエチレングリコールジメチルエーテル200部とからなる混合物を仕込み、気相部を窒素ガスでパージした後、攪拌しながら、20℃より、100℃にまで昇温した。次いで、0.4MPaの加圧下、100±2℃で10分間保持した後、常温まで冷却することにより、塗布液を得た。
【0049】
次に、得られた塗布液を用い、実施例1−1と同様にして、基板上に付着した膜を得た。
得られた膜を分析したところ、該膜は金属Cuからなる膜であり、膜厚は0.1μmであった。
(比較例1−1)
実施例1−1における原料II(アルコール)の代わりに、イオン交換水300部を用いたこと以外は、実施例1−1と同様にして、塗布液を得、得られた塗布液を用い、実施例1−1と同様にして、基板上に付着した膜を得た。
【0050】
得られた膜を分析したところ、該膜は酸化銅からなる膜であった。
(比較例1−2)
実施例1−1における原料I(金属カルボン酸塩)の代わりに、硝酸銅(II)24部を用いたこと以外は、実施例1−1と同様にして、塗布液を得、得られた塗布液を用い、実施例1−1と同様にして、基板上に付着した膜を得た。
得られた膜を分析したところ、該膜は金属Cuを含有しない膜であった。
(比較例1−3)
実施例1−1における原料II(アルコール)の代わりに、酢酸ブチル(非アルコール)300部を用い、原料III(還元性物質)であるモノエタノールアミンの量を20部に変更したこと以外は、実施例1−1と同様にして、塗布液を得、得られた塗布液を用い、実施例1−1と同様にして、基板上に付着した膜を得た。
【0051】
得られた膜を分析したところ、該膜は金属Cuを含有するものの、膜中の全Cuの約20%が未反応の酢酸銅である膜であった。
(実施例1−6)
実施例1−1と同様の反応装置を用い、反応器内に、原料I(金属カルボン酸塩)として酢酸銅(II)無水物18部と、原料II(アルコール)としてメタノール269部およびエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル70部と、原料III(還元性物質)としてモノエタノールアミン31部とからなる混合物を仕込み、気相部を窒素ガスでパージした後、攪拌しながら、20℃より、150℃にまで昇温した。次いで、1.3MPaの加圧下、150±2℃で10分間保持した後、常温まで冷却することにより、Cu金属からなる平均粒子径3nmの超微粒子の分散液を得た。そして、実施例1−1において得られた塗布液100部に対し、前記分散液100部を混合し、得られた混合液を塗布液とした。
【0052】
次に、得られた塗布液を、シリカ蒸着PETフイルム基板にバーコーターで塗布し、窒素雰囲気下150℃で10分間加熱して、基板上に付着した膜を得た。
得られた膜を分析したところ、該膜は金属Cuからなる膜であり、膜厚は0.05μmであった。
(実施例1−7)
実施例1−1と同様の反応装置を用い、反応器内に、原料I(金属アルコキシ基含有化合物)として銅(II)エトキシド20部と、原料II(カルボキシル基含有化合物)として酢酸30部と、原料IV(有機溶媒)としてエチレングリコールエチルエーテルアセテート300部と、さらに原料V(金属元素群(II)の金属元素を含む金属アルコキシド基含有化合物)としてチタンテトラ−n−ブトキシド9部とからなる混合物を仕込み、気相部を窒素ガスでパージした後、攪拌しながら、20℃より、100℃にまで昇温した。次いで、0.05MPaの加圧下、100±2℃で10分間保持した後、該温度と圧力を維持したまま、原料III(還元性物質)としてモノエタノールアミン60部を添加した。その後、常温まで冷却することにより、塗布液を得た。
【0053】
次に、得られた塗布液を、ガラス板にバーコーターで塗布し、窒素雰囲気下180℃で10分間加熱して、基板上に付着した膜を得た。
得られた膜を分析したところ、該膜は金属Cuおよび酸化チタンからなる膜であり、膜厚は0.1μmであった。また、該膜中のCu/Ti(原子比)は4.9/1であった。
(実施例1−8)
実施例1−1と同様の反応装置を用い、反応器内に、原料I(金属カルボン酸塩)として酢酸銀(I)20部と、原料II(アルコール)としてメタノール300部と、原料III(還元性物質)としてn−ブチルアミン50部とからなる混合物を仕込み、気相部を窒素ガスでパージした後、攪拌しながら、19℃より、80℃にまで昇温し、0.15MPaの加圧下、80±2℃で10分間保持した後、常温まで冷却することにより、予備反応液を得た。
【0054】
他方、別の反応器に、原料V(金属元素群(II)の金属元素を含む金属カルボン酸塩)として酢酸亜鉛無水物18部とメタノール380部とからなる混合物を仕込み、気相部を窒素ガスでパージした後、攪拌しながら、19℃より、100℃にまで昇温し、0.3MPaの加圧下、100±2℃で10分間保持した後、常温まで冷却することにより、亜鉛含有溶液を得た。
前記予備反応液100部と、前記亜鉛含有溶液13部と、原料IV(有機溶媒)としてジプロピレングリコールモノエチルエーテル20部とを混合することにより、塗布液を得た。
【0055】
次に、得られた塗布液を、ガラス板にバーコーターで塗布し、窒素雰囲気下120℃で10分間加熱して、基板上に付着した膜を得た。
得られた膜を分析したところ、該膜は金属Agおよび酸化亜鉛結晶からなる膜であり、膜厚は0.1μmであった。また、該膜中のAg/Zn(原子比)は10/1であった。また、該膜は、透明性の高い膜であることが確認された。
(実施例1−9)
実施例1−1と同様の反応装置を用い、反応器内に、原料I(金属カルボン酸塩)として酢酸ニッケル(II)4水和物20部と、原料II(アルコール)としてメタノール400部と、原料III(還元性物質)としてモノエタノールアミン400部とからなる混合物を仕込み、気相部を窒素ガスでパージした後、攪拌しながら、19℃より、150℃にまで昇温し、1.3MPaの加圧下、150±2℃で10分間保持した後、常温まで冷却することにより、予備反応液を得た。
【0056】
他方、別の反応器に、原料V(金属元素群(II)の金属元素を含む金属カルボン酸塩)として酢酸スズ(II)無水物25部とエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル200部とメタノール400部とからなる混合物を仕込み、気相部を窒素ガスでパージした後、攪拌しながら、19℃より、100℃にまで昇温し、0.3MPaの加圧下、100±2℃で10分間保持した後、常温まで冷却することにより、スズ含有溶液を得た。
前記予備反応液100部と、前記スズ含有溶液111部と、原料IV(有機溶媒)として3−メチル−1,3−ブタンジオール20部とを混合することにより、塗布液を得た。
【0057】
次に、得られた塗布液を、ガラス板にバーコーターで塗布し、窒素雰囲気下200℃で10分間加熱して、基板上に付着した膜を得た。
得られた膜を分析したところ、該膜は金属Niおよび酸化スズからなる膜であり、膜厚は0.05μmであった。また、該膜中のNi/Sn(原子比)は1/1であった。
(実施例1−10)
実施例1−1と同様の反応装置を用い、反応器内に、原料I(金属アルコキシ基含有化合物)として銅(II)エトキシド20部と、原料II(カルボキシル基含有化合物)として酢酸19部と、原料III(還元性物質)としてモノエタノールアミン80部と、原料IV(有機溶媒)としてジエチレングリコールエチルエーテルアセテート300部とからなる混合物を仕込み、気相部を窒素ガスでパージした後、攪拌しながら、0.1MPaの加圧下で、19℃より、100℃にまで昇温し、100±2℃で30分間保持した後、常温まで冷却することにより、予備反応液を得た。
【0058】
他方、別の反応器に、原料V(金属元素群(II)の金属元素を含む金属カルボン酸塩)として酢酸インジウム(III)無水物20部とエチレングリコール9部とメタノール500部とからなる混合物を仕込み、気相部を窒素ガスでパージした後、攪拌しながら、19℃より、110℃にまで昇温し、0.4MPaの加圧下、110±2℃で20分間保持した後、常温まで冷却することにより、インジウム含有溶液を得た。
前記予備反応液100部と、前記インジウム含有溶液12部とを混合することにより、塗布液を得た。
【0059】
次に、得られた塗布液を、ガラス板にバーコーターで塗布し、窒素雰囲気下160℃で10分間加熱して、基板上に付着した膜を得た。
得られた膜を分析したところ、該膜は金属Cuおよび酸化インジウムからなる膜であり、膜厚は0.05μmであった。また、該膜中のCu/In(原子比)は20/1であった。
(実施例1−11)
実施例1−1と同様の反応装置を用い、反応器内に、原料I(金属カルボン酸塩)として酢酸銀(I)無水物17部およびプロピオン酸亜鉛無水物3部と、原料II(アルコール)としてメタノール320部とからなる混合物を仕込み、気相部を窒素ガスでパージした後、攪拌しながら、0.4MPaの加圧下で、19℃より100℃にまで昇温し、100±2℃で10分間保持した。次いで、該温度と圧力を維持したまま、原料III(還元性物質)としてn−ブチルアミン30部を添加した。その後、常温まで冷却することにより、酸化亜鉛からなる太さ8nm、長さ30nmの柱状の超微粒子が分散し、かつ銀が溶解した分散液を得た。そして、前記分散液100部とジプロピレングリコールモノエチルエーテル20部とを混合し、得られた混合液を塗布液とした。
【0060】
次に、得られた塗布液を、ガラス基板にバーコーターで塗布し、窒素雰囲気下150℃で10分間加熱して、基板上に付着した膜を得た。
得られた膜を分析したところ、該膜は0価の金属Agおよび酸化亜鉛(ZnO)からなる膜であり、膜厚は0.1μmであった。また、該膜中のAg/Zn(原子比)は7.2/1であった。また、該膜は、透明性の高い膜であることが確認された。
(実施例1−12)
実施例1−1と同様の反応装置を用い、反応器内に、チタンテトラ−n−ブトキシド50部と、酢酸40部と、n−ブタノール300部とからなる混合物を仕込み、気相部を窒素ガスでパージした後、攪拌しながら、20℃より180℃にまで昇温した。1MPaの加圧下、180±2℃で10分間保持した後、常温まで冷却することにより、結晶子径6nmのアナタース型酸化チタン超微粒子が溶解した分散液を得た。
【0061】
他方、実施例1−1と同様の反応装置を用い、反応器内に、原料I(金属カルボン酸塩)として酢酸銀(I)17部と、原料II(アルコール)としてメタノール400部と、原料III(還元性物質)としてn−ブチルアミン60部とからなる混合物を仕込み、気相部を窒素ガスでパージした後、2MPaの加圧下で攪拌しながら、19℃より80℃にまで昇温した後、常温まで冷却することにより、予備塗布液を得た。
そして、前記予備塗布液100部と、前記分散液5.7部と、プロピレンカーボネート20部とを混合し、得られた混合液を塗布液とした。
【0062】
次に、得られた塗布液を、ガラス基板にバーコーターで塗布し、窒素雰囲気下150℃で10分間加熱して、基板上に付着した膜を得た。
得られた膜を分析したところ、該膜は0価の金属Agおよび酸化チタン(TiO)からなる膜であり、膜厚は0.1μmであった。また、該膜中のAg/Ti(原子比)は10/1であった。また、該膜は、透明性の高い膜であることが確認された。
(実施例1−13)
実施例1−1と同様の反応装置を用い、反応器内に、酢酸インジウム(III)無水物40部と、スズ(IV)テトライソブトキシド0.6部と、n−ブタノール360部とからなる混合物を仕込み、気相部を窒素ガスでパージした後、攪拌しながら、19℃より180℃にまで昇温した。1MPaの加圧下、180±2℃で10分間保持した後、常温まで冷却した後、エバポレータで減圧加熱濃縮することにより、スズ1%含有酸化インジウムからなる結晶子径5nmの超微粒子(ITO超微粒子)を15重量%含有する分散液を得た。そして、前記分散液38部と、実施例1−12において得られた予備塗布液100部と、プロピレンカーボネート20部とを混合し、得られた混合液を塗布液とした。
【0063】
次に、得られた塗布液用いて、実施例1−12と同様にして、基板上に付着した膜を得た。
得られた膜を分析したところ、該膜は0価の金属AgおよびITOからなる膜であり、膜厚は0.1μmであった。また、該膜中のAg/In(原子比)は3/7であった。また、該膜は、透明性の高い膜であることが確認された。
(実施例1−14)
実施例1−1と同様の反応装置を用い、反応器内に、酢酸亜鉛無水物45部と、酢酸インジウム(III)無水物1部と、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル500部とからなる混合物を仕込み、気相部を窒素ガスでパージした後、攪拌しながら、19℃より200℃にまで昇温した。1MPaの加圧下、200±2℃で3時間保持した後、常温まで冷却した後、エバポレータで減圧加熱濃縮することにより、In1%含有酸化亜鉛からなる、結晶子径Ds(002)10nm、Ds(110)25nmの薄片状結晶の超微粒子(ZIO超微粒子)を20重量%含有する分散液を得た。そして、前記分散液63部と、実施例1−12において得られた予備塗布液100部と、プロピレンカーボネート20部とを混合し、得られた混合液を塗布液とした。
【0064】
次に、得られた塗布液用いて、実施例1−12と同様にして、基板上に付着した膜を得た。
得られた膜を分析したところ、該膜は0価の金属AgおよびZIOからなる膜であり、膜厚は0.1μmであった。また、該膜中のAg/Zn(原子比)は1/9であった。また、該膜は、透明性の高い膜であることが確認された。
(実施例1−15)
後述する実施例2−1で得られた分散液を塗布液として、アルミナ蒸着したPETフィルム基板にバーコーターで塗布し、窒素雰囲気下150℃で5分間加熱して、基板上に付着した膜を得た。
【0065】
得られた膜を分析したところ、該膜は金属Agからなる膜であり、膜厚は0.05μmであった。
(実施例1−16)
後述する実施例2−5で得られた分散液を塗布液として、アルミナ蒸着したPETフィルム基板にバーコーターで塗布し、窒素雰囲気下150℃で5分間加熱して、基板上に付着した膜を得た。
得られた膜を分析したところ、該膜は金属CuおよびZIOからなる膜であり、膜厚は0.05μmであった。また、該膜は、透明性の高い膜であることが確認された。
【0066】
(実施例1−17)
後述する実施例2−12で得られた分散液を塗布液として、アルミナ蒸着したPETフィルム基板にバーコーターで塗布し、窒素雰囲気下120℃で5分間加熱して、基板上に付着した膜を得た。
得られた膜を分析したところ、該膜は金属Pdからなる膜であり、膜厚は0.05μmであった。
(実施例1−18)
後述する実施例2−13で得られた分散液を塗布液として、ポリイミドフィルム基板にバーコーターで塗布し、窒素雰囲気下200℃で5分間加熱して、基板上に付着した膜を得た。
【0067】
得られた膜を分析したところ、該膜は金属Niからなる膜であり、膜厚は0.05μmであった。
<金属粒子の製造>
下記実施例で得られた粒子の分散液の分析は、以下のようにして行った。
(試料の作製) 分散液を孔径0.1μmのフィルターでろ過し、得られたろ過液を試料とした。
(同定) 試料の電子線回析測定および電界放射型電子顕微鏡で観察しながら、最高分解能1nmφでスポットを絞り込めるXMAを用いて元素分析を行うことにより、金属種を同定した。
【0068】
(平均粒子径) 試料の電界放射型透過型電子顕微鏡像より粒子30個の粒子径を測り、数平均粒子径を求めた。酸化物を含む分散液の場合は、XMAにおける元素分析結果(元素別マッピング)も併せて考慮しながら区別して評価した。
(分散液中の金属濃度) 原子吸光法により分析して得られた値を、分散液中の金属粒子濃度とした。
(実施例2−1)
攪拌機、添加口、温度計、留出ガス出口、窒素ガス導入口を備えた、外部より加熱し得る耐圧ガラス製反応器、および、添加口に繋がれた添加槽、留出ガス出口に繋がれた濃縮器(該濃縮器はトラップに直結している)を備えた反応装置を用意した。
【0069】
反応器内に、原料I(金属カルボン酸塩)として酢酸銀(I)無水物8部と、原料II(アルコール)としてメタノール500部と、原料III(還元性物質)としてモノエタノールアミン15部とからなる混合物を仕込み、気相部を窒素ガスでパージした後、攪拌しながら、20℃より、150℃にまで昇温した。次いで、1.5MPaの加圧下、150±2℃で10分間保持した後、常温まで冷却することにより、粒子の分散液を得た。
得られた分散液中の粒子を分析したところ、該粒子は、粒子径が2〜5nm(平均粒子径3nm)の金属Ag粒子であり、分散液中の粒子濃度は0.2重量%であった。
【0070】
(実施例2−2)
実施例2−1と同様の反応装置を用い、反応器内に、原料I(金属アルコキシ基含有化合物)として銅(II)エトキシド12部と、原料II(カルボキシル基含有化合物)として酢酸12部と、原料III(還元性物質)としてモノエタノールアミン30部と、原料IV(反応溶媒)としてt−ブタノール400部とからなる混合物を仕込み、気相部を窒素ガスでパージした後、攪拌しながら、20℃より、150℃にまで昇温した。次いで、1.5MPaの加圧下、150±2℃で10分間保持した後、常温まで冷却することにより、粒子の分散液を得た。
【0071】
得られた分散液中の粒子を分析したところ、該粒子は、平均粒子径8nmの金属Cu粒子であり、分散液中の粒子濃度は0.2重量%であった。
(比較例2−1)
実施例2−1における原料II(アルコール)の代わりに、ジイソアミルエーテル500部を用い、1.5MPaの加圧を行わず常圧下で150±2℃で10分間保持したこと以外は、実施例2−1と同様にして、粒子の分散液を得た。
得られた分散液中の粒子を分析したところ、該粒子は、平均粒子径20nm以下の金属Ag粒子であったが、分散液中の粒子濃度は100ppm以下であった。
【0072】
(実施例2−3)
実施例2−2における原料IV(反応溶媒)の代わりに、エチレングリコール−n−ブチルエーテルアセテート400部を用い、1.5MPaの加圧を行わず常圧下で150±2℃で10分間保持したこと以外は、実施例2−2と同様にして、粒子の分散液を得た。
得られた分散液中の粒子を分析したところ、該粒子は、平均粒子径20nm以下の金属Cu粒子であり、分散液中の粒子濃度は0.05重量%であった。
(実施例2−4)
実施例2−1と同様の反応装置を用い、反応器内に、原料I(金属カルボン酸塩)として酢酸銅(II)無水物15部と、原料II(アルコール)としてメタノール450部と、原料III(還元性物質)としてモノエタノールアミン28部と、実施例1−13において得られたITO超微粒子を含有する分散液7.6部とからなる混合物を仕込み、気相部を窒素ガスでパージした後、攪拌しながら、20℃より、150℃にまで昇温した。次いで、1.5MPaの加圧下、150±2℃で10分間保持した後、常温まで冷却することにより、粒子の分散液を得た。
【0073】
得られた分散液中の粒子を分析したところ、該粒子は、主に粒子径が2〜5nm(平均粒子径3nm)の金属Cu粒子であり、分散液中の粒子濃度は0.5重量%であった。
(実施例2−5)
実施例2−1と同様の反応装置を用い、反応器内に、原料I(金属アルコキシ基含有化合物)として銅(II)エトキシド12部と、原料II(カルボキシル基含有化合物)として酢酸12部と、原料III(還元性物質)としてモノエタノールアミン30部と、原料IV(反応溶媒)としてt−ブタノール400部と、実施例1−14において得られたZIO超微粒子を含有する分散液0.64部とからなる混合物を仕込み、気相部を窒素ガスでパージした後、攪拌しながら、20℃より、150℃にまで昇温した。次いで、1.5MPaの加圧下、150±2℃で10分間保持した後、常温まで冷却することにより、粒子の分散液を得た。
【0074】
得られた分散液中の粒子を分析したところ、該粒子は、主に平均粒子径6nmの金属Cu粒子であり、分散液中の粒子濃度は0.4重量%であった。
(実施例2−6)
実施例2−1と同様の反応装置を用い、反応器内に、原料I(金属カルボン酸塩)として酢酸パラジウム(II)11部と、原料II(アルコール)としてメタノール450部と、原料III(還元性物質)としてMn(II)2,4−ペンタンジオネート26部とからなる混合物を仕込み、気相部を窒素ガスでパージした後、攪拌しながら、20℃より、150℃にまで昇温した。次いで、1.5MPaの加圧下、150±2℃で10分間保持した後、常温まで冷却することにより、粒子の分散液を得た。
【0075】
得られた分散液中の粒子を分析したところ、該粒子は、平均粒子径10nm)の金属Pd粒子であり、分散液中の粒子濃度は0.6重量%であった。
(実施例2−7)
実施例2−1と同様の反応装置を用い、反応器内に、原料I(金属カルボン酸塩)として酢酸銅(II)無水物15部と、原料II(アルコール)としてメタノール380部およびプロピレングリコール20部と、原料III(還元性物質)としてモノエタノールアミン28部とからなる混合物を仕込み、気相部を窒素ガスでパージした後、攪拌しながら、20℃より、150℃にまで昇温した。次いで、1.5MPaの加圧下、150±2℃で10分間保持した後、常温まで冷却することにより、粒子の分散液を得た。
【0076】
得られた分散液中の粒子を分析したところ、該粒子は、粒子径7〜12nm(平均粒子径9nm)の金属Cu粒子であり、分散液中の粒子濃度は0.5重量%であった。また、得られた分散液は、分散性に優れるものであった。
(実施例2−8〜2−14)
実施例2−1と同様の反応装置を用い、原料I、原料II、原料IIIの種類および量を表1に示すように変更し、これらの混合物を反応器内に仕込み、気相部を窒素ガスでパージした後、攪拌しながら、20℃より、150〜300℃にまで昇温した。次いで、0.1〜6MPaの加圧下、ほぼ同温度で10分間保持した後、常温まで冷却することにより、粒子の分散液を得た。なお、実施例2−8についてのみ、溶媒としてプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート380部を前記各原料とともに用いた。
【0077】
得られた分散液中の粒子を分析したところ、いずれの実施例の粒子も平均粒子径20nm以下である、表1に示す金属の粒子であり、分散液中の粒子濃度はいずれも0.3重量%以上であった。また、得られた分散液は、いずれも分散性に優れるものであった。なお、実施例2−7についても表1に併せて示す。
なお、表1においては、下記の略号を用いた。
PGBE:プロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル
EGHE:エチレングリコールモノ−n−ヘキシルエーテル
EGBE:エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル
【0078】
【表1】
【0079】
【発明の効果】
本発明によれば、目的とする金属を、粒子径の小さい金属粒子が高濃度で分散した分散液として、もしくは、導電性薄膜などとして適した金属膜として、安価に得ることができる、金属の製造方法を提供することができる。
Claims (6)
- Pt、Pd、Ru、Rh、Ir、Fe、Co、Ni、Cu、およびAgからなる金属元素群(I)より選ばれる少なくとも1種の金属を生成させる方法であって、
前記金属の元素を含む金属カルボン酸塩とアルコールとを出発原料として、還元性物質の存在下で金属を生成させる、ことを特徴とする金属の製造方法であって、
0.05〜6MPaの加圧下での加熱により金属の生成を行い、
前記金属の元素を含む金属カルボン酸塩とアルコールとを出発原料とするときの還元性物質がSn(II)またはMn(II)の化合物またはアミノ基含有化合物である、金属の製造方法。 - 金属を粒子として生成させる、請求項1に記載の金属の製造方法。
- 金属を基材の表面に定着した膜として生成させる、請求項1に記載の金属の製造方法。
- 金属の生成を平均粒子径が100nm以下の無機質微粒子の存在下での加熱により行わせる、請求項2または3に記載の金属の製造方法。
- 前記金属元素群(I)以外の金属元素からなる金属元素群(II)より選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む金属カルボン酸塩をも前記出発原料として、前記金属元素群(I)の元素からなる金属を該金属元素群(II)の元素からなる金属酸化物との複合膜として生成させる、請求項3に記載の金属の製造方法。
- 前記アルコールがメタノールである、請求項1から5までのいずれかに記載の金属の製造方法。
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