本発明において、銀化合物とアルコール系溶剤とを混合して、銀化合物−アルコールスラリーを得て、
得られた銀化合物−アルコールスラリーに、脂肪族炭化水素アミンを添加して、前記銀化合物及び前記アミンを含む錯化合物を生成させ、
前記錯化合物を加熱して熱分解させて、銀ナノ粒子を形成する、
ことにより、銀ナノ粒子を製造する。このように、本発明における銀ナノ粒子の製造方法は、スラリー形成工程と、錯化合物の生成工程と、錯化合物の熱分解工程とを主として含む。
本明細書において、「ナノ粒子」なる用語は、一次粒子の大きさ(平均一次粒子径)が1000nm未満であることを意味している。また、粒子の大きさは、表面に存在(被覆)している保護剤(安定剤)を除外した大きさ(すなわち、銀自体の大きさ)を意図している。本発明において、銀ナノ粒子は、例えば0.5nm〜100nm、好ましくは0.5nm〜50nm、より好ましくは0.5nm〜25nm、さらに好ましくは0.5nm〜20nmの平均一次粒子径を有している。
本発明において、銀化合物としては、加熱により容易に分解して、金属銀を生成する銀化合物を用いる。このような銀化合物としては、ギ酸銀、酢酸銀、シュウ酸銀、マロン酸銀、安息香酸銀、フタル酸銀などのカルボン酸銀;フッ化銀、塩化銀、臭化銀、ヨウ化銀などのハロゲン化銀;硫酸塩、硝酸銀、炭酸銀等を用いることができるが、分解により容易に金属銀を生成し且つ銀以外の不純物を生じにくいという観点から、シュウ酸銀が好ましく用いられる。シュウ酸銀は、銀含有率が高く、且つ、還元剤を必要とせず熱分解により金属銀がそのまま得られ、還元剤に由来する不純物が残留しにくい点で有利である。
銀以外の他の金属を含む金属ナノ粒子を製造する場合には、上記の銀化合物に代えて、加熱により容易に分解して、目的とする金属を生成する金属化合物を用いる。このような金属化合物としては、上記の銀化合物に対応するような金属の塩、例えば、金属のカルボン酸塩;金属ハロゲン化物;金属硫酸塩、金属硝酸塩、金属炭酸塩等の金属塩化合物を用いることができる。これらのうち、分解により容易に金属を生成し且つ金属以外の不純物を生じにくいという観点から、金属のシュウ酸塩が好ましく用いられる。他の金属としては、Al、Au、Pt、Pd、Cu、Co、Cr、In、及びNi等が挙げられる。
また、銀との複合物を得るために、上記の銀化合物と、上記の銀以外の他の金属化合物を併用してもよい。他の金属としては、Al、Au、Pt、Pd、Cu、Co、Cr、In、及びNi等が挙げられる。銀複合物は、銀と1又は2以上の他の金属からなるものであり、Au−Ag、Ag−Cu、Au−Ag−Cu、Au−Ag−Pd等が例示される。金属全体を基準として、銀が少なくとも20重量%、通常は50重量%、例えば80重量%を占める。
本発明において、まず、銀化合物とアルコール系溶剤とを混合して、銀化合物−アルコールスラリーを得る[スラリー形成工程]。スラリーとは、固体の銀化合物が、アルコール系溶剤中に分散されている混合物を表している。
前記アルコール系溶剤としては、炭素数3〜10のアルコール、好ましくは炭素数4〜8のアルコールを用いることができる。例えば、n−プロパノール(沸点bp:97℃)、イソプロパノール(bp:82℃)、n−ブタノール(bp:117℃)、イソブタノール(bp:107.89℃)、 sec−ブタノール(bp:99.5℃)、tert−ブタノール(bp:82.45℃)、n−ペンタノノール(bp:136℃)、n−ヘキサノール(bp:156℃)、n−オクタノール(bp:194℃)、2−オクタノール(bp:174℃)等が挙げられる。これらの内でも、後に行われる錯化合物の熱分解工程の温度を高くできること、銀ナノ粒子の形成後の後処理での利便性等を考慮して、n−ブタノール、イソブタノール、 sec−ブタノール、tert−ブタノールから選ばれるブタノール類、ヘキサノール類が好ましい。特に、n−ブタノール、n−ヘキサノールが好ましい。
また、前記アルコール系溶剤は、銀化合物−アルコールスラリーの十分な攪拌操作のために、前記銀化合物100重量部に対して、例えば120重量部以上、好ましくは130重量部以上、より好ましくは150重量部以上用いることがよい。前記アルコール系溶剤量の上限については、特に制限されることなく、例えば1000重量部以下、好ましくは800重量部以下、より好ましくは500重量部以下とするとよい。
次に、得られた銀化合物−アルコールスラリーに、脂肪族炭化水素アミンを添加して、前記銀化合物及び前記アミンを含む錯化合物を生成させる[錯化合物の生成工程]。
本発明において、錯形成剤及び/又は保護剤として機能する脂肪族炭化水素アミンとして、例えば、炭化水素基の炭素総数が6以上である脂肪族炭化水素モノアミン(A)を含み、さらに、脂肪族炭化水素基と1つのアミノ基とからなり且つ該脂肪族炭化水素基の炭素総数が5以下である脂肪族炭化水素モノアミン(B)、及び脂肪族炭化水素基と2つのアミノ基とからなり且つ該脂肪族炭化水素基の炭素総数が8以下である脂肪族炭化水素ジアミン(C)のうちの少なくとも一方を用いる。これら各成分は、通常、アミン混合液として用いられるが、ただし、前記銀化合物−アルコールスラリーに対する前記アミンの混合は、必ずしも混合された状態のアミン類を用いて行う必要はない。前記銀化合物−アルコールスラリーに対して、前記アミン類を順次添加してもよい。
本明細書において、確立された用語であるが、「脂肪族炭化水素モノアミン」とは、1〜3個の1価の脂肪族炭化水素基と1つのアミノ基とからなる化合物である。「炭化水素基」とは、炭素と水素とのみからなる基である。ただし、前記脂肪族炭化水素モノアミン(A)、及び前記脂肪族炭化水素モノアミン(B)は、その炭化水素基に、必要に応じて酸素原子あるいは窒素原子の如きヘテロ原子(炭素及び水素以外の原子)を含む置換基を有していてもよい。この窒素原子がアミノ基を構成することはない。
また、「脂肪族炭化水素ジアミン」とは、2価の脂肪族炭化水素基(アルキレン基)と、該脂肪族炭化水素基を介在した2つのアミノ基と、場合によっては、該アミノ基の水素原子を置換した脂肪族炭化水素基(アルキル基)とからなる化合物である。ただし、前記脂肪族炭化水素ジアミン(C)は、その炭化水素基に、必要に応じて酸素原子あるいは窒素原子の如きヘテロ原子(炭素及び水素以外の原子)を含む置換基を有していてもよい。この窒素原子がアミノ基を構成することはない。
炭素総数6以上の脂肪族炭化水素モノアミン(A)は、その炭化水素鎖によって、生成する銀粒子表面への保護剤(安定化剤)としての高い機能を有する。
前記脂肪族炭化水素モノアミン(A)としては、第一級アミン、第二級アミン、及び第三級アミンが含まれる。第一級アミンとしては、例えば、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ウンデシルアミン、ドデシルアミン、トリデシルアミン、テトラデシルアミン、ペンタデシルアミン、ヘキサデシルアミン、ヘプタデシルアミン、オクタデシルアミン等の飽和脂肪族炭化水素モノアミン(すなわち、アルキルモノアミン)が挙げられる。飽和脂肪族炭化水素モノアミンとして、上記の直鎖脂肪族モノアミンの他に、イソヘキシルアミン、2−エチルヘキシルアミン、tert−オクチルアミン等の分枝脂肪族炭化水素アミンが挙げられる。また、シクロヘキシルアミンも挙げられる。さらに、オレイルアミン等の不飽和脂肪族炭化水素モノアミン(すなわち、アルケニルモノアミン)が挙げられる。
第二級アミンとしては、N,N−ジプロピルアミン、N,N−ジブチルアミン、N,N−ジペンチルアミン、N,N−ジヘキシルアミン、N,N−ジペプチルアミン、N,N−ジオクチルアミン、N,N−ジノニルアミン、N,N−ジデシルアミン、N,N−ジウンデシルアミン、N,N−ジドデシルアミン、N−メチル−N−プロピルアミン、N−エチル−N−プロピルアミン、N−プロピル−N−ブチルアミン等のジアルキルモノアミンが挙げられる。第三級アミンとしては、トリブチルアミン、トリヘキシルアミン等が挙げられる。
これらの内でも、炭素数6以上の飽和脂肪族炭化水素モノアミンが好ましい。炭素数6以上とすることにより、アミノ基が銀粒子表面に吸着した際に他の銀粒子との間隔を確保できるため、銀粒子同士の凝集を防ぐ作用が向上する。炭素数の上限は特に定められないが、入手のし易さ、焼成時の除去のし易さ等を考慮して、通常、炭素数18までの飽和脂肪族モノアミンが好ましい。特に、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ウンデシルアミン、ドデシルアミン等の炭素数6〜12のアルキルモノアミンが好ましく用いられる。前記脂肪族炭化水素モノアミン(A)のうち、1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
炭素総数5以下の脂肪族炭化水素モノアミン(B)は、炭素総数6以上の脂肪族モノアミン(A)に比べると炭素鎖長が短いのでそれ自体は保護剤(安定化剤)としての機能は低いと考えられるが、前記脂肪族モノアミン(A)に比べると極性が高く銀化合物の銀への配位能が高く、そのため錯体形成促進に効果があると考えられる。また、炭素鎖長が短いため、例えば120℃以下の、あるいは100℃程度以下の低温焼成においても、30分間以下、あるいは20分間以下の短時間で銀粒子表面から除去され得るので、得られた銀ナノ粒子の低温焼成に効果がある。
前記脂肪族炭化水素モノアミン(B)としては、エチルアミン、n−プロピルアミン、イソプロピルアミン、n−ブチルアミン、イソブチルアミン、 sec−ブチルアミン、tert−ブチルアミン、ペンチルアミン、イソペンチルアミン、tert−ペンチルアミン等の炭素数2〜5の飽和脂肪族炭化水素モノアミン(すなわち、アルキルモノアミン)が挙げられる。また、N,N−ジメチルアミン、N,N−ジエチルアミン等のジアルキルモノアミンが挙げられる。
これらの内でも、n−ブチルアミン、イソブチルアミン、 sec−ブチルアミン、tert−ブチルアミン、ペンチルアミン、イソペンチルアミン、tert−ペンチルアミン等が好ましく、上記ブチルアミン類が特に好ましい。前記脂肪族炭化水素モノアミン(B)のうち、1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
炭素総数8以下の脂肪族炭化水素ジアミン(C)は、銀化合物の銀への配位能が高く、錯体形成促進に効果がある。脂肪族炭化水素ジアミンは、一般に、脂肪族炭化水素モノアミンと比べて極性が高く、銀化合物の銀への配位能が高くなる。また、前記脂肪族炭化水素ジアミン(C)は、錯化合物の熱分解工程において、より低温且つ短時間での熱分解を促進する効果があり、銀ナノ粒子製造をより効率的に行うことができる。さらに、前記脂肪族ジアミン(C)を含む銀粒子の保護被膜は極性が高いので、極性の高い溶剤を含む分散媒体中での銀粒子の分散安定性が向上する。さらに、前記脂肪族ジアミン(C)は、炭素鎖長が短いため、例えば120℃以下の、あるいは100℃程度以下の低温焼成においても、30分間以下、あるいは20分間以下の短い時間で銀粒子表面から除去され得るので、得られた銀ナノ粒子の低温且つ短時間焼成に効果がある。
前記脂肪族炭化水素ジアミン(C)としては、特に限定されないが、エチレンジアミン、N,N−ジメチルエチレンジアミン、N,N’−ジメチルエチレンジアミン、N,N−ジエチルエチレンジアミン、N,N’−ジエチルエチレンジアミン、1,3−プロパンジアミン、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジアミン、N,N−ジメチル−1,3−プロパンジアミン、N,N’−ジメチル−1,3−プロパンジアミン、N,N−ジエチル−1,3−プロパンジアミン、N,N’−ジエチル−1,3−プロパンジアミン、1,4−ブタンジアミン、N,N−ジメチル−1,4−ブタンジアミン、N,N’−ジメチル−1,4−ブタンジアミン、N,N−ジエチル−1,4−ブタンジアミン、N,N’−ジエチル−1,4−ブタンジアミン、1,5−ペンタンジアミン、1,5−ジアミノ−2−メチルペンタン、1,6−ヘキサンジアミン、N,N−ジメチル−1,6−ヘキサンジアミン、N,N’−ジメチル−1,6−ヘキサンジアミン、1,7−ヘプタンジアミン、1,8−オクタンジアミン等が挙げられる。これらはいずれも、2つのアミノ基のうちの少なくとも1つが第一級アミノ基又は第二級アミノ基である炭素総数8以下のアルキレンジアミンであり、銀化合物の銀への配位能が高く、錯体形成促進に効果がある。
これらの内でも、N,N−ジメチルエチレンジアミン、N,N−ジエチルエチレンジアミン、N,N−ジメチル−1,3−プロパンジアミン、N,N−ジエチル−1,3−プロパンジアミン、N,N−ジメチル−1,4−ブタンジアミン、N,N−ジエチル−1,4−ブタンジアミン、N,N−ジメチル−1,6−ヘキサンジアミン等の2つのアミノ基のうちの1つが第一級アミノ基(−NH2 )であり、他の1つが第三級アミノ基(−NR1 R2 )である炭素総数8以下のアルキレンジアミンが好ましい。好ましいアルキレンジアミンは、下記構造式で表される。
R1 R2 N−R−NH2
ここで、Rは、2価のアルキレン基を表し、R1 及びR2 は、同一又は異なっていてもよく、アルキル基を表し、ただし、R、R1 及びR2 の炭素数の総和は8以下である。該アルキレン基は、通常は酸素原子又は窒素原子等のヘテロ原子(炭素及び水素以外の原子)を含まないが、必要に応じて前記ヘテロ原子を含む置換基を有していてもよい。また、該アルキル基は、通常は酸素原子又は窒素原子等のヘテロ原子を含まないが、必要に応じて前記ヘテロ原子を含む置換基を有していてもよい。
2つのアミノ基のうちの1つが第一級アミノ基であると、銀化合物の銀への配位能が高くなり、錯体形成に有利であり、他の1つが第三級アミノ基であると、第三級アミノ基は銀原子への配位能に乏しいため、形成される錯体が複雑なネットワーク構造となることが防止される。錯体が複雑なネットワーク構造となると、錯体の熱分解工程に高い温度が必要となることがある。さらに、これらの内でも、低温焼成においても短時間で銀粒子表面から除去され得るという観点から、炭素総数6以下のジアミンが好ましく、炭素総数5以下のジアミンがより好ましい。前記脂肪族炭化水素ジアミン(C)のうち、1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明において、前記炭素総数6以上の脂肪族炭化水素モノアミン(A)と、前記炭素総数5以下の脂肪族炭化水素モノアミン(B)及び前記炭素総数8以下の脂肪族炭化水素ジアミン(C)のいずれか一方又は両方との使用割合は、特に限定されないが、前記全アミン類[(A)+(B)+(C)]を基準として、例えば、
前記脂肪族モノアミン(A):5モル%〜65モル%
前記脂肪族モノアミン(B)及び前記脂肪族ジアミン(C)の合計量:35モル%〜95モル%
とするとよい。前記脂肪族モノアミン(A)の含有量を5モル%〜65モル%とすることによって、該(A)成分の炭素鎖によって、生成する銀粒子表面の保護安定化機能が得られやすい。前記(A)成分の含有量が5モル%未満では、保護安定化機能の発現が弱いことがある。一方、前記(A)成分の含有量が65モル%を超えると、保護安定化機能は十分であるが、低温焼成によって該(A)成分が除去されにくくなる。
前記脂肪族モノアミン(A)と、さらに、前記脂肪族モノアミン(B)及び前記脂肪族ジアミン(C)の両方とを用いる場合には、それらの使用割合は、特に限定されないが、前記全アミン類[(A)+(B)+(C)]を基準として、例えば、
前記脂肪族モノアミン(A): 5モル%〜65モル%
前記脂肪族モノアミン(B): 5モル%〜70モル%
前記脂肪族ジアミン(C): 5モル%〜50モル%
とするとよい。
この場合には、前記(A)成分の含有量の下限については、10モル%以上が好ましく、20モル%以上がより好ましい。前記(A)成分の含有量の上限については、65モル%以下が好ましく、60モル%以下がより好ましい。
前記脂肪族モノアミン(B)の含有量を5モル%〜70モル%とすることによって、錯体形成促進効果が得られやすく、また、それ自体で低温且つ短時間焼成に寄与でき、さらに、焼成時において前記脂肪族ジアミン(C)の銀粒子表面からの除去を助ける作用が得られやすい。前記(B)成分の含有量が5モル%未満では、錯体形成促進効果が弱かったり、あるいは、焼成時において前記(C)成分が銀粒子表面から除去されにくいことがある。一方、前記(B)成分の含有量が70モル%を超えると、錯体形成促進効果は得られるが、相対的に前記脂肪族モノアミン(A)の含有量が少なくなってしまい、生成する銀粒子表面の保護安定化が得られにくい。前記(B)成分の含有量の下限については、10モル%以上が好ましく、15モル%以上がより好ましい。前記(B)成分の含有量の上限については、65モル%以下が好ましく、60モル%以下がより好ましい。
前記脂肪族ジアミン(C)の含有量を5モル%〜50モル%とすることによって、錯体形成促進効果及び錯体の熱分解促進効果が得られやすく、また、前記脂肪族ジアミン(C)を含む銀粒子の保護被膜は極性が高いので、極性の高い溶剤を含む分散媒体中での銀粒子の分散安定性が向上する。前記(C)成分の含有量が5モル%未満では、錯体形成促進効果及び錯体の熱分解促進効果が弱いことがある。一方、前記(C)成分の含有量が50モル%を超えると、錯体形成促進効果及び錯体の熱分解促進効果は得られるが、相対的に前記脂肪族モノアミン(A)の含有量が少なくなってしまい、生成する銀粒子表面の保護安定化が得られにくい。前記(C)成分の含有量の下限については、5モル%以上が好ましく、10モル%以上がより好ましい。前記(C)成分の含有量の上限については、45モル%以下が好ましく、40モル%以下がより好ましい。
前記脂肪族モノアミン(A)と前記脂肪族モノアミン(B)とを用いる(前記脂肪族ジアミン(C)を用いずに)場合には、それらの使用割合は、特に限定されないが、上記各成分の作用を考慮して、前記全アミン類[(A)+(B)]を基準として、例えば、
前記脂肪族モノアミン(A): 5モル%〜65モル%
前記脂肪族モノアミン(B): 35モル%〜95モル%
とするとよい。
前記脂肪族モノアミン(A)と前記脂肪族ジアミン(C)とを用いる(前記脂肪族モノアミン(B)を用いずに)場合には、それらの使用割合は、特に限定されないが、上記各成分の作用を考慮して、前記全アミン類[(A)+(C)]を基準として、例えば、
前記脂肪族モノアミン(A): 5モル%〜65モル%
前記脂肪族ジアミン(C): 35モル%〜95モル%
とするとよい。
以上の前記脂肪族モノアミン(A)、前記脂肪族モノアミン(B)及び/又は前記脂肪族ジアミン(C)の使用割合は、いずれも例示であり、種々の変更が可能である。
本発明においては、銀化合物の銀への配位能が高い前記脂肪族モノアミン(B)、及び/又は前記脂肪族ジアミン(C)を用いると、それらの使用割合に応じて、前記炭素総数6以上の脂肪族モノアミン(A)の銀粒子表面上への付着量は少なくて済む。従って、前記低温短時間での焼成の場合にも、これら脂肪族アミン化合物類は銀粒子表面から除去されやすく、銀粒子の焼結が十分に進行する。
本発明において、前記脂肪族炭化水素アミン[例えば、(A)、(B)及び/又は(C)]の合計量は、特に限定されないが、原料の前記銀化合物の銀原子1モルに対して、1〜50モル程度とするとよい。前記アミン成分の合計量[(A)、(B)及び/又は(C)]が、前記銀原子1モルに対して、1モル未満であると、錯化合物の生成工程において、錯化合物に変換されない銀化合物が残存する可能性があり、その後の熱分解工程において、銀粒子の均一性が損なわれ粒子の肥大化が起こったり、熱分解せずに銀化合物が残存する可能性がある。一方、前記アミン成分の合計量[((A)、(B)及び/又は(C)]が、前記銀原子1モルに対して、50モル程度を超えてもあまりメリットはないと考えられる。実質的に無溶剤中において銀ナノ粒子の分散液を作製するためには、前記アミン成分の合計量を例えば2モル程度以上とするとよい。前記アミン成分の合計量を2〜50モル程度とすることにより、錯化合物の生成工程及び熱分解工程を良好に行うことができる。前記アミン成分の合計量の下限については、前記銀化合物の銀原子1モルに対して、2モル%以上が好ましく、6モル%以上がより好ましい。なお、シュウ酸銀分子は、銀原子2個を含んでいる。
本発明において、銀ナノ粒子の分散媒への分散性をさらに向上させるため、安定剤として、さらに脂肪族カルボン酸(D)を用いてもよい。前記脂肪族カルボン酸(D)は、前記アミン類と共に用いるとよく、前記アミン混合液中に含ませて用いることができる。前記脂肪族カルボン酸(D)を用いることにより、銀ナノ粒子の安定性、特に有機溶剤中に分散された塗料状態での安定性が向上することがある。
前記脂肪族カルボン酸(D)としては、飽和又は不飽和の脂肪族カルボン酸が用いられる。例えば、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸、イコサン酸、エイコセン酸等の炭素数4以上の飽和脂肪族モノカルボン酸; オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、パルミトレイン酸等の炭素数8以上の不飽和脂肪族モノカルボン酸が挙げられる。
これらの内でも、炭素数8〜18の飽和又は不飽和の脂肪族モノカルボンが好ましい。炭素数8以上とすることにより、カルボン酸基が銀粒子表面に吸着した際に他の銀粒子との間隔を確保できるため、銀粒子同士の凝集を防ぐ作用が向上する。入手のし易さ、焼成時の除去のし易さ等を考慮して、通常、炭素数18までの飽和又は不飽和の脂肪族モノカルボン酸化合物が好ましい。特に、オクタン酸、オレイン酸等が好ましく用いられる。前記脂肪族カルボン酸(D)のうち、1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
前記脂肪族カルボン酸(D)は、用いる場合には、原料の前記銀化合物の銀原子1モルに対して、例えば0.05〜10モル程度用いるとよく、好ましくは0.1〜5モル、より好ましくは0.5〜2モル用いるとよい。前記(D)成分の量が、前記銀原子1モルに対して、0.05モルよりも少ないと、前記(D)成分の添加による分散状態での安定性向上効果は弱い。一方、前記(D)成分の量が10モルに達すると、分散状態での安定性向上効果が飽和するし、また、低温焼成での該(D)成分の除去がされにくくなる。ただし、脂肪族カルボン酸(D)を用いなくてもよい。
本発明において、通常は、前記脂肪族モノアミン(A)と、さらに、前記脂肪族モノアミン(B)及び前記脂肪族ジアミン(C)のいずれか一方又は両方とを含むアミン混合液を調製する[アミン混合液の調製工程]。
アミン混合液は、各アミン(A)、(B)及び/又は(C)成分、及び用いる場合には前記カルボン酸(D)成分を、所定割合で室温にて攪拌して調製することができる。
上記で得られた銀化合物−アルコールスラリーに、各アミン成分を含む脂肪族炭化水素アミン混合液を添加して、前記銀化合物及び前記アミンを含む錯化合物を生成させる[錯化合物の生成工程]。各アミン成分は、混合液としてないで、逐次に銀化合物−アルコールスラリーに添加してもよい。
銀以外の他の金属を含む金属ナノ粒子を製造する場合には、上記の銀化合物−アルコールスラリーに代えて、目的とする金属を含む金属化合物−アルコールスラリーを用いる。
銀化合物−アルコールスラリー(あるいは金属化合物−アルコールスラリー)と、所定量のアミン混合液とを混合する。この際の混合は、室温で攪拌しながら、あるいは銀化合物(あるいは金属化合物)へのアミン類の配位反応は発熱を伴うため室温以下に適宜冷却して攪拌しながら行うとよい。銀化合物は、予めアルコールとのスラリー状態とされているので、アミン混合液の滴下に際して攪拌及び冷却は良好に行うことができる。アルコールとアミン類の過剰分が反応媒体の役割を果たす。
従来、銀アミン錯体の熱分解法においては、反応容器中に液体の脂肪族アミン成分をまず込み、その中に粉体の銀化合物(シュウ酸銀)が投入されていた。液体の脂肪族アミン成分は引火性物質であり、その中への粉体の銀化合物の投入には危険があった。すなわち、粉体の銀化合物の投入による静電気による着火の危険性があった。また、粉体の銀化合物の投入により、局所的に錯形成反応が進行し、発熱反応が暴発してしまう危険もあった。本発明によれば、このような危険を回避できる。
生成する錯化合物が一般にその構成成分に応じた色を呈するので、反応混合物の色の変化の終了を適宜の分光法等により検出することにより、錯化合物の生成反応の終点を検知することができる。また、シュウ酸銀が形成する錯化合物は一般に無色(目視では白色として観察される)であるが、このような場合においても、反応混合物の粘性の変化などの形態変化に基づいて、錯化合物の生成状態を検知することができる。このようにして、アルコール及びアミン類を主体とする媒体中に銀−アミン錯体(あるいは金属−アミン錯体)が得られる。
次に、得られた錯化合物を加熱して熱分解させて、銀ナノ粒子を形成する[錯化合物の熱分解工程]。銀以外の他の金属を含む金属化合物を用いた場合には、目的とする金属ナノ粒子が形成される。還元剤を用いることなく、銀ナノ粒子(金属ナノ粒子)が形成される。ただし、必要に応じて本発明の効果を阻害しない範囲で適宜の還元剤を用いてもよい。
このような金属アミン錯体分解法において、一般に、アミン類は、金属化合物の分解により生じる原子状の金属が凝集して微粒子を形成する際の様式をコントロールすると共に、形成された金属微粒子の表面に被膜を形成することで微粒子相互間の再凝集を防止する役割を果たしている。すなわち、金属化合物とアミンの錯化合物を加熱することにより、金属原子に対するアミンの配位結合を維持したままで金属化合物が熱分解して原子状の金属を生成し、次に、アミンが配位した金属原子が凝集してアミン保護膜で被覆された金属ナノ粒子が形成されると考えられる。
この際の熱分解は、錯化合物をアルコール及びアミン類を主体とする反応媒体中で攪拌しながら行うことが好ましい。熱分解は、被覆銀ナノ粒子(あるいは被覆金属ナノ粒子)が生成する温度範囲内において行うとよいが、銀粒子表面(あるいは金属粒子表面)からのアミンの脱離を防止する観点から前記温度範囲内のなるべく低温で行うことが好ましい。シュウ酸銀の錯化合物の場合には、例えば80℃〜120℃程度、好ましくは95℃〜115℃程度、より具体的には100℃〜110℃程度とすることができる。シュウ酸銀の錯化合物の場合には、概ね100℃程度の加熱により分解が起こると共に銀イオンが還元され、被覆銀ナノ粒子を得ることができる。なお、一般に、シュウ酸銀自体の熱分解は200℃程度で生じるのに対して、シュウ酸銀−アミン錯化合物を形成することで熱分解温度が100℃程度も低下する理由は明らかではないが、シュウ酸銀とアミンとの錯化合物を生成する際に、純粋なシュウ酸銀が形成している配位高分子構造が切断されているためと推察される。
また、錯化合物の熱分解は、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気内において行うことが好ましいが、大気中においても熱分解を行うことができる。
錯化合物の熱分解により、青色光沢を呈する懸濁液となる。この懸濁液から、アルコール溶剤及び過剰のアミン等の除去操作、例えば、銀ナノ粒子(あるいは金属ナノ粒子)の沈降、適切な溶剤(水、又は有機溶剤)によるデカンテーション・洗浄操作を行うことによって、目的とする安定な被覆銀ナノ粒子(あるいは被覆金属ナノ粒子)が得られる[銀ナノ粒子の後処理工程]。洗浄操作の後、乾燥すれば、目的とする安定な被覆銀ナノ粒子(あるいは被覆金属ナノ粒子)の粉体が得られる。
デカンテーション・洗浄操作には、水、又は有機溶剤を用いる。有機溶剤としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン等の脂肪族炭化水素溶剤; メチルシクロヘキサン、シクロヘキサン等の脂環式炭化水素溶剤; トルエン、キシレン、メシチレン等のような芳香族炭化水素溶剤; メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のようなアルコール溶剤; アセトニトリル; 及びそれらの混合溶剤を用いるとよい。
本発明の銀ナノ粒子の形成工程においては還元剤を用いなくてもよいので、還元剤に由来する副生成物がなく、反応系から被覆銀ナノ粒子の分離も簡単であり、高純度の被覆銀ナノ粒子が得られる。しかしながら、必要に応じて本発明の効果を阻害しない範囲で適宜の還元剤を用いてもよい。
このようにして、用いた保護剤によって表面が被覆された銀ナノ粒子が形成される。前記保護剤は、例えば、前記脂肪族モノアミン(A)を含み、さらに、前記脂肪族モノアミン(B)及び前記脂肪族ジアミン(C)のうちのいずれか一方又は両方を含み、さらに用いた場合には前記カルボン酸(D)を含んでいる。保護剤中におけるそれらの含有割合は、前記アミン混合液中のそれらの使用割合と同等である。金属ナノ粒子についても同様である。
得られた銀ナノ粒子を用いて銀塗料組成物を作製することができる。該銀塗料組成物は、制限されることなく、種々の形態をとり得る。例えば、銀ナノ粒子を適切な有機溶剤(分散媒体)中に懸濁状態で分散させることにより、いわゆる銀インクと呼ばれる銀塗料組成物を作製することができる。あるいは、銀ナノ粒子を有機溶剤中に混練された状態で分散させることにより、いわゆる銀ペーストと呼ばれる銀塗料組成物を作製することができる。塗料組成物を得るための有機溶剤としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン等の脂肪族炭化水素溶剤; シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素溶剤; トルエン、キシレン、メシチレン等のような芳香族炭化水素溶剤; メタノール、エタノール、プロパノール、n−ブタノール、n−ペンタノール、n−ヘキサノール、n−ヘプタノール、n−オクタノール、n−ノナノール、n−デカノール等のようなアルコール溶剤等が挙げられる。また、銀塗料組成物を得るための有機溶剤としては、銀ペーストを得るためにターピネオール、ジヒドロターピネオールのようなテルペン系溶剤等が挙げられる。所望の銀塗料組成物(銀インク、銀ペースト)の濃度や粘性に応じて、有機溶剤の種類や量を適宜定めるとよい。金属ナノ粒子についても同様である。
本発明により得られた銀ナノ粒子の粉体、及び銀塗料組成物は、安定性に優れている。例えば、銀ナノ粒子の粉体は、1か月間以上の期間において室温保管で安定である。銀塗料組成物は、例えば、50wt%の銀濃度において、1か月間以上の期間において室温で、凝集・融着を起こすことなく安定である。
調製された銀塗料組成物を基板上に塗布し、その後、焼成する。
塗布は、スピンコート、インクジェット印刷、スクリーン印刷、ディスペンサ印刷、凸版印刷(フレキソ印刷)、昇華型印刷、オフセット印刷、レーザープリンタ印刷(トナー印刷)、凹版印刷(グラビア印刷)、コンタクト印刷、マイクロコンタクト印刷などの公知の方法により行うことができる。印刷技術を用いると、パターン化された銀塗料組成物層が得られ、焼成により、パターン化された銀導電層が得られる。
焼成は、200℃以下、例えば室温(25℃)以上150℃以下、好ましくは室温(25℃)以上120℃以下の温度で行うことができる。しかしながら、短い時間での焼成によって、銀の焼結を完了させるためには、60℃以上200℃以下、例えば80℃以上150℃以下、好ましくは90℃以上120℃以下の温度で行うことがよい。焼成時間は、銀インクの塗布量、焼成温度などを考慮して、適宜定めるとよく、例えば数時間(例えば3時間、あるいは2時間)以内、好ましくは1時間以内、より好ましくは30分間以内、さらに好ましくは10分間〜20分間、より具体的には10分間〜15分間とするとよい。
銀ナノ粒子は上記のように構成されているので、このような低温短時間での焼成工程によっても、銀粒子の焼結が十分に進行する。その結果、優れた導電性(低い抵抗値)が発現する。低い抵抗値(例えば15μΩcm以下、範囲としては7〜15μΩcm)を有する銀導電層が形成される。バルク銀の抵抗値は1.6μΩcmである。
低温での焼成が可能であるので、基板として、ガラス製基板、ポリイミド系フィルムのような耐熱性プラスチック基板の他に、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルムなどのポリエステル系フィルム、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系フィルムのような耐熱性の低い汎用プラスチック基板をも好適に用いることができる。また、短時間での焼成は、これら耐熱性の低い汎用プラスチック基板に対する負荷を軽減するし、生産効率を向上させる。
本発明の銀導電材料は、電磁波制御材、回路基板、アンテナ、放熱板、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ(FED)、ICカード、ICタグ、太陽電池、LED素子、有機トランジスタ、コンデンサー(キャパシタ)、電子ペーパー、フレキシブル電池、フレキシブルセンサ、メンブレンスイッチ、タッチパネル、EMIシールド等に適用することができる。
銀導電層の厚みは、目的とする用途に応じて適宜定めるとよく、特に本発明に係る銀ナノ粒子を使用することで比較的膜厚の大きい銀導電層を形成した場合でも高い導電性を示すことができる。銀導電層の厚みは、例えば5nm〜30μm、好ましくは100nm〜25μm、より好ましくは500nm〜20μmの範囲から選択するとよい。
以上、主として銀ナノ粒子を中心に説明したが、本発明によれば、銀以外の金属を含む金属ナノ粒子の製造方法及び該金属ナノ粒子にも適用される。
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
[銀焼成膜の比抵抗値]
得られた銀焼成膜について、4端子法(ロレスタGP MCP−T610)を用いて測定した。この装置の測定範囲限界は、107 Ωcmである。
以下の試薬を各実施例及び比較例で用いた。
n−ブチルアミン(MW:73.14):東京化成社製試薬
n−ヘキシルアミン(MW:101.19):東京化成社製試薬
n−オクチルアミン(MW:129.25):東京化成社製試薬
ドデシルアミン(MW:185.35):和光純薬社製試薬
N,N−ジメチル−1,3−プロパンジアミン(MW:102.18):東京化成社製試薬
メタノール:和光純薬社製試薬特級
1−プロパノール:和光純薬社製試薬
1−ブタノール:和光純薬社製試薬特級
tert−ブタノール:和光純薬社製試薬
1−ヘキサノール:和光純薬社製試薬
デカリン:東京化成社製試薬
デカン:和光純薬社製試薬
ジヒドロターピネオール:日本テルペン株式会社製
シュウ酸銀(MW:303.78):硝酸銀(和光純薬社製)とシュウ酸二水和物(和光純薬社製)とから合成したもの
[実施例1]
(銀ナノ粒子の調製)
100mLフラスコにシュウ酸銀3.0g(9.9mmol)を仕込み、その後、1−ブタノール4.5gを添加し、室温で攪拌することにより、シュウ酸銀の1−ブタノールスラリーを調製した。
シュウ酸銀の1−ブタノールスラリーに、30℃で、n−ブチルアミン10.84g(148.1mmol)、及びn−ヘキシルアミン3.00g(29.6mmol)のアミン混合液を滴下した。滴下後、30℃で2時間攪拌して、シュウ酸銀とアミンとの錯形成反応を進行させ、白色物質(シュウ酸銀−アミン錯体)を形成した。
シュウ酸銀−アミン錯体の形成後に、反応物を加熱攪拌したところ、89℃で還流状態となり、これ以上の温度上昇は見られなかった。この還流温度89℃にて、シュウ酸銀−アミン錯体を熱分解させ、濃青色の銀ナノ粒子がアミン混合液中に懸濁した懸濁液を得た。
錯形成反応段階、熱分解段階のいずれにおいても、攪拌は非常に良好に行うことができた。
次に、得られた懸濁液を冷却し、これにメタノール9gを加えて攪拌し、その後、遠心分離により銀ナノ粒子を沈降させ、上澄み液を除去した。銀ナノ粒子に対して、再度、メタノール9gを加えて攪拌し、その後、遠心分離により銀ナノ粒子を沈降させ、上澄み液を除去した。このようにして、湿った状態の銀ナノ粒子を得た。
銀換算収率は97%であった。高い収率は、熱分解温度を高くできたことによる。
銀換算収率(%)=
[(生成した銀ナノ粒子中の含有銀重量)/(仕込み銀塩中の含有銀重量)]x100
(銀ナノ塗料の調製と焼成)
次に、湿った銀ナノ粒子に、ジヒドロターピネオールを銀濃度70wt%となるように加えて混練し、銀ナノ粒子ペーストを調製した。
得られた銀ナノ粒子ペーストを、焼成後の膜厚が10μm程度になるようにアプリケーターにより無アルカリガラス板上に塗布し、塗膜を形成した。塗膜の形成後、速やかに80℃にて60分間の条件で、送風乾燥炉にて焼成し、銀焼成膜を形成した。得られた銀焼成膜の比抵抗値を4端子法により測定したところ、14.0μΩcmであった。
(シュウ酸銀−アミン錯体について)
上記銀ナノ粒子の調製中に得られた白色物質について、DSC(示差走査熱量計)測定を行ったところ、熱分解による発熱開始平均温度値は102.5℃であった。一方、原料のシュウ酸銀について、同様に、DSC測定を行ったところ、熱分解による発熱開始平均温度値は218℃であった。このように、上記銀ナノ粒子の調製中に得られた白色物質は、原料のシュウ酸銀に比べて、熱分解温度が低下していた。このことから、上記銀ナノ粒子の調製中に得られた白色物質は、シュウ酸銀とアルキルアミンとが結合してなるものであることが示され、シュウ酸銀の銀原子に対してアルキルアミンのアミノ基が配位結合しているシュウ酸銀−アミン錯体であると推察された。
DSC測定条件は以下のとおりであった。
装置:DSC 6220−ASD2(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製)
試料容器:15μL 金メッキ密封セル(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製)
昇温速度:10℃/min (室温〜600℃)
雰囲気ガス:セル内 大気圧 空気封じ込み
セル外 窒素気流(50mL/min)
また、上記銀ナノ粒子の調製中に得られた白色物質について、IRスペクトル測定を行ったところ、アルキルアミンのアルキル基に由来する吸収(2900cm-1付近、1000cm-1付近)が観察された。このことからも、上記銀ナノ粒子の調製中に得られた粘性のある白色物質は、シュウ酸銀とアルキルアミンとが結合してなるものであることが示され、シュウ酸銀の銀原子に対してアミノ基が配位結合しているシュウ酸銀−アミン錯体であると推察された。
[実施例2]
銀ナノ粒子の調製において、シュウ酸銀3.0g(9.9mmol)に対して1−ブタノールの量を9.0gに変更した以外は、実施例1と同様にして、シュウ酸銀の1−ブタノールスラリーを調製した。得られたシュウ酸銀の1−ブタノールスラリーに、実施例1と同様にして、アミン混合液を滴下し、白色物質(シュウ酸銀−アミン錯体)を形成した。
シュウ酸銀−アミン錯体の形成後に、反応物を加熱攪拌したところ、93℃で還流状態となり、これ以上の温度上昇は見られなかった。この還流温度93℃にて、シュウ酸銀−アミン錯体を熱分解させ、濃青色の銀ナノ粒子がアミン混合液中に懸濁した懸濁液を得た。錯形成反応段階、熱分解段階のいずれにおいても、攪拌は非常に良好に行うことができた。
得られた懸濁液から、実施例1と同様にして、湿った状態の銀ナノ粒子を得た。銀換算収率は97%であった。
次に、得られた銀ナノ粒子を用いて、実施例1と同様にして、銀ナノ粒子ペーストを調製し、銀焼成膜を形成した。得られた銀焼成膜の比抵抗値を4端子法により測定したところ、13.0μΩcmであった。
[実施例3]
銀ナノ粒子の調製において、シュウ酸銀3.0g(9.9mmol)に対して1−ブタノールの代わりに1−プロパノール4.5gを用いた以外は、実施例1と同様にして、シュウ酸銀の1−プロパノールスラリーを調製した。得られたシュウ酸銀の1−プロパノールスラリーに、実施例1と同様にして、アミン混合液を滴下し、白色物質(シュウ酸銀−アミン錯体)を形成した。
シュウ酸銀−アミン錯体の形成後に、反応物を加熱攪拌したところ、86℃で還流状態となり、これ以上の温度上昇は見られなかった。この還流温度86℃にて、シュウ酸銀−アミン錯体を熱分解させ、濃青色の銀ナノ粒子がアミン混合液中に懸濁した懸濁液を得た。錯形成反応段階、熱分解段階のいずれにおいても、攪拌は非常に良好に行うことができた。
得られた懸濁液から、実施例1と同様にして、湿った状態の銀ナノ粒子を得た。銀換算収率は97%であった。
次に、得られた銀ナノ粒子を用いて、実施例1と同様にして、銀ナノ粒子ペーストを調製し、銀焼成膜を形成した。得られた銀焼成膜の比抵抗値を4端子法により測定したところ、92.0μΩcmであった。
[比較例1]
銀ナノ粒子の調製において、シュウ酸銀3.0g(9.9mmol)に対して1−ブタノールの代わりにデカン4.5gを用いた以外は、実施例1と同様にして、シュウ酸銀のデカンスラリーを調製した。得られたシュウ酸銀のデカンスラリーに、実施例1と同様にして、アミン混合液を滴下し、白色物質(シュウ酸銀−アミン錯体)を形成した。
シュウ酸銀−アミン錯体の形成後に、反応物を加熱攪拌したところ、87℃で還流状態となり、これ以上の温度上昇は見られなかった。この還流温度87℃にて、シュウ酸銀−アミン錯体を熱分解させ、濃青色の銀ナノ粒子がアミン混合液中に懸濁した懸濁液を得た。錯形成反応段階においては攪拌は良好に行うことができたが、熱分解段階においては攪拌は困難であった。
得られた懸濁液から、実施例1と同様にして、湿った状態の銀ナノ粒子を得た。銀換算収率は96%であった。
次に、得られた銀ナノ粒子を用いて、実施例1と同様にして、銀ナノ粒子ペーストを調製し、銀焼成膜を形成した。得られた銀焼成膜の比抵抗値を4端子法により測定したところ、20.0μΩcmであった。
[比較例2]
銀ナノ粒子の調製において、溶剤を用いたスラリー調製を行わなかった。
100mLフラスコにn−ブチルアミン10.84g(148.1mmol)、及びn−ヘキシルアミン3.00g(29.6mmol)のアミン混合液を仕込み、これにシュウ酸銀3.0g(9.9mmol)を粉体のまま加えた。添加後、30℃で2時間攪拌して、シュウ酸銀とアミンとの錯形成反応を進行させ、白色物質(シュウ酸銀−アミン錯体)を形成した。この段階において攪拌は困難であった。
シュウ酸銀−アミン錯体の形成後に、反応物を加熱したところ、82℃で還流状態となり、これ以上の温度上昇は見られなかった。この還流温度82℃にて、シュウ酸銀−アミン錯体を熱分解させ、濃青色の銀ナノ粒子がアミン混合液中に懸濁した懸濁液を得た。熱分解段階においても攪拌は困難であった。
得られた懸濁液から、実施例1と同様にして、湿った状態の銀ナノ粒子を得た。銀換算収率は86%であった。
次に、得られた銀ナノ粒子を用いて、実施例1と同様にして、銀ナノ粒子ペーストを調製し、銀焼成膜を形成した。得られた銀焼成膜の比抵抗値を4端子法により測定したところ、10.0μΩcmであった。
[実施例4]
(銀ナノ粒子の調製)
100mLフラスコにシュウ酸銀3.0g(9.9mmol)を仕込み、その後、1−ブタノール4.5gを添加し、室温で攪拌することにより、シュウ酸銀の1−ブタノールスラリーを調製した。
シュウ酸銀の1−ブタノールスラリーに、30℃で、n−ブチルアミン8.67g(118.5mmol)、n−ヘキシルアミン6.00g(59.3mmol)、n−オクチルアミン5.74g(44.4mmol)、及びドデシルアミン2.75g(14.8mmol)、及びN,N−ジメチル−1,3−プロパンジアミン6.05g(59.3mmol))のアミン混合液を滴下した。滴下後、30℃で2時間攪拌して、シュウ酸銀とアミンとの錯形成反応を進行させ、白色物質(シュウ酸銀−アミン錯体)を形成した。
シュウ酸銀−アミン錯体の形成後に、反応物を加熱攪拌したところ、100℃で還流状態となり、これ以上の温度上昇は見られなかった。この還流温度100℃にて、シュウ酸銀−アミン錯体を熱分解させ、濃青色の銀ナノ粒子がアミン混合液中に懸濁した懸濁液を得た。
錯形成反応段階、熱分解段階のいずれにおいても、攪拌は非常に良好に行うことができた。
次に、得られた懸濁液を冷却し、これにメタノール30gを加えて攪拌し、その後、遠心分離により銀ナノ粒子を沈降させ、上澄み液を除去した。銀ナノ粒子に対して、再度、メタノール9gを加えて攪拌し、その後、遠心分離により銀ナノ粒子を沈降させ、上澄み液を除去した。このようにして、湿った状態の銀ナノ粒子を得た。
(銀ナノ塗料の調製と焼成)
次に、湿った銀ナノ粒子に、1−ヘキサノール/デカリン混合溶剤(重量比=1/1)を銀濃度40wt%となるように加えて攪拌し、銀ナノ粒子分散液を調製した。この銀ナノ粒子分散液を、焼成後の膜厚が0.5μm〜1.0μm程度になるようにスピンコート法により無アルカリガラス板上に塗布し、塗膜を形成した。
塗膜の形成後、速やかに120℃にて15分間の条件で、送風乾燥炉にて焼成し、約0.8μmの厚みの銀焼成膜を形成した。得られた銀焼成膜の比抵抗値を4端子法により測定したところ、7.0μΩcmであった。
[実施例5]
銀ナノ粒子の調製において、シュウ酸銀3.0g(9.9mmol)に対して1−ブタノールの代わりに1−ヘキサノール4.5gを用いた以外は、実施例4と同様にして、シュウ酸銀の1−ヘキサノールスラリーを調製した。得られたシュウ酸銀の1−ヘキサノールスラリーに、実施例4と同様にして、アミン混合液を滴下し、白色物質(シュウ酸銀−アミン錯体)を形成した。
シュウ酸銀−アミン錯体の形成後に、反応物を加熱攪拌したところ、102℃で還流状態となり、これ以上の温度上昇は見られなかった。この還流温度102℃にて、シュウ酸銀−アミン錯体を熱分解させ、濃青色の銀ナノ粒子がアミン混合液中に懸濁した懸濁液を得た。錯形成反応段階、熱分解段階のいずれにおいても、攪拌は非常に良好に行うことができた。
次に、得られた懸濁液を用いて、実施例4と同様にして、銀ナノ粒子分散液を調製し、約0.6μmの厚みの銀焼成膜を形成した。得られた銀焼成膜の比抵抗値を4端子法により測定したところ、15.4μΩcmであった。
[実施例6]
銀ナノ粒子の調製において、シュウ酸銀3.0g(9.9mmol)に対して1−ブタノールの代わりにtert−ブタノール4.5gを用いた以外は、実施例4と同様にして、シュウ酸銀のtert−ブタノールスラリーを調製した。得られたシュウ酸銀のtert−ブタノールスラリーに、実施例4と同様にして、アミン混合液を滴下し、白色物質(シュウ酸銀−アミン錯体)を形成した。
シュウ酸銀−アミン錯体の形成後に、反応物を加熱攪拌したところ、96℃で還流状態となり、これ以上の温度上昇は見られなかった。この還流温度96℃にて、シュウ酸銀−アミン錯体を熱分解させ、濃青色の銀ナノ粒子がアミン混合液中に懸濁した懸濁液を得た。錯形成反応段階、熱分解段階のいずれにおいても、攪拌は非常に良好に行うことができた。
次に、得られた懸濁液を用いて、実施例4と同様にして、銀ナノ粒子分散液を調製し、約0.7μmの厚みの銀焼成膜を形成した。得られた銀焼成膜の比抵抗値を4端子法により測定したところ、12.9μΩcmであった。