JP4361158B2 - 製菓、製パン用超耐糖性酵母 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、新規な酵母およびその利用に関する。
【0002】
【従来の技術】
パンには多くの種類がある。糖を全く加えないフランスパン、糖を小麦粉に対し5〜6%加える低糖域の食パン、8〜15%加える中糖域のクロワッサンやバターロール、20〜30%加える高糖域のデニッシュペストリーや菓子パン、更には35〜50%加える酒種あんパンやコーヒーケーキ・プリオッシュ等の発酵菓子まで幅広い。また、製パン方法もスクラッチ製法(ストレート製パンと中種製パン法が含まれる)と冷凍生地製法があり、製法とパンのアイテムの組み合わせは千差万別である。
【0003】
従来、低糖から高糖域のパンアイテム作りには、発酵力の異なる種々のイーストが使われ、冷凍生地製法には冷凍耐性の強いイーストを使用しなければならない等の煩雑さが生じていた。一方、小麦粉に対して35%以上というような非常に高い濃度の糖が配合されるアイテム(酒種あんパンや発酵菓子等)の生地で十分に発酵できる耐糖性を備えたイーストはなく、多くのベーカリーは必要以上に発酵時間を長く取ったり、イースト量を増大させるなどの工夫をして、なんとか製品を作っており、元々設定したパン品質には到達しないボリューム感のない製品となっているのが現状である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記課題を解決すべく、超高糖域で優れた高い発酵力を有する高い耐糖性(あるいは浸透圧耐性)の酵母を提供することを目的とする。
【0005】
すなわち本発明は、従来より、糖量30〜40%以上の超高糖生地に油脂や卵を加えた配合でパン製品が作られてはいるものの、従来の酵母では浸透圧の影響を受けるため、すぐれた品質のパン製品は得られなかったのであるが、日本人の嗜好として糖量の多い甘さのあるパンや菓子が好まれている現状に鑑み、糖量が30〜40%以上の超高糖生地でも、油脂や卵の多い配合でも浸透圧の影響を受けにくい(発酵力が低下しにくい)、従来の酵母にはない超耐糖性酵母を新たに提供する目的でなされたものである。近年の製パン技術の進歩とアイテムの多様化により、酵母もそれぞれに応じて使い分けるようになり、多くの種類の酵母が不可欠であるが、その度毎に異なった酵母を使用することは作業が繁雑となるうえ工業的ではない点に鑑み、これらの性質を併有する酵母が得られれば1種類の酵母がすべての局面に対応できるとの観点から、優れた性質を有する新しい酵母を提供するものである。
【0006】
つまり本発明は、超耐糖性という面だけでも特異的に優れた酵母を提供するものであるが、更に、従来得ることができなかった新規有用酵母、換言すれば、それぞれに酵母を使い分けることなく、ひとつの酵母ですべてのニーズに対応できる新規有用酵母として新たに提供することができるものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、高い耐糖性(あるいは浸透圧耐性)の酵母に関するものであって、本発明に係る酵母の具体的な特徴は、次のとおりである。
【0008】
▲1▼小麦粉に対して糖5〜25%を添加する食パン〜菓子パン(低糖〜高糖)配合生地において、ストレート製法および中種製法で汎用の普通イースト(例えば当社レギュラーイースト)と同等の発酵力を有し、ボリューム感のある品質の安定したパンができる。
▲2▼小麦粉に対し糖30〜50%含むような非常に高い糖濃度の生地で発酵できる耐糖性(浸透圧耐性)を有している。
【0009】
本発明に係る酵母を得るには、各種の方法が採用できるが、例えば交雑法によって目的とする菌株を効率よく取得することができる。それには、先ず、当社パン酵母保存菌株の中から発酵力が強く、耐糖性を高める形質を備えた菌株を選抜し、それぞれの菌株を常法に従い胞子形成培地に塗沫し、胞子を形成させた後、胞子の性質を調べ、古典的な交雑法により育種した菌株から、通常のパン酵母と同様の製パン性能をもち、かつ40%糖配合の生地での発酵が強い株をスクリーニングすればよい。もちろん、突然変異処理して目的とする菌株を創製することができる。なお、突然変異処理としては、γ線、紫外線、温度差等物理的処理のほか、エチジウムブロマイド、ナイトロジェンマスタード、ジエポキシブタン、コルヒチン、パーオキサイド、プリン誘導体等変異誘導剤処理といった常法が広く利用できる。
【0010】
このようにして得た新菌株は、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)P−712と命名され、工業技術院生命工学工業技術研究所にFERM P−17271として寄託されている。その菌学的性質は次のとおりである。
【0011】
P−712株の菌学的性質
【0012】
3.各生理的性質
▲1▼至適生育条件 温度28〜32℃ pH4.5〜6.5
▲2▼生育の範囲 温度 5〜40℃ pH2.5〜8.0
▲3▼硝酸塩の同化 なし
▲4▼脂肪分解 なし
▲5▼カロチノイド生成 なし
▲6▼顕著な有機酸生成 なし
▲7▼ビタミン要求性 ビオチン及びパントテン酸
▲8▼耐糖性 小麦粉100重量部に対して30〜40重量部を超える糖配合の生地において充分な発酵力を発揮する
▲9▼冷凍耐性 生地を凍結保管4週間後の発酵力の低下が20%以下である
【0013】
【0014】
本菌株は、上記のような菌学的性質を有し、サッカロマイセス・セレビシエに属するものと認められるが、超高糖域で高い発酵力を有し、しかも低糖〜中糖域でも高い発酵力を有するという特徴をもっている。このような菌株は従来既知の菌株には見当らず、新菌株と認定した。本発明においては、本菌株のみをその権利として包含するものではなく、上記した特性を有する菌株すべてを包含し、人工的に作出したもの、自然界から分離したものを問わず、すべて包含するものである。
【0015】
本発明に係る菌株は、次のようにして選択、育種することができる。先ず、耐糖性を有する酵母については、小麦粉100重量部に対し40重量部の糖を含有する培地において、0.4gイースト乾物量を含む生地40gあたり、30℃、2時間で110ml以上のCO2を発生する菌株を分離すればよい。なお以下において、本発明に係る菌株を超耐糖性イースト(Ultra Sweet yeast : USイースト)ということもある。
【0016】
超耐糖性イーストは、フランスパン、食パン等のように無糖〜低糖のパンはもとより、常識をくつがえす程のすぐれた耐糖性を有するため、菓子パン〜超高糖生地配合の発酵菓子に至るまで、また油脂や卵等を用いた各種のパンの製造に広く使用することができる。例えば、コーヒーケーキ(アメリカで多数の人々に好まれている、コーヒーに合うパン)、あんぱん、黒糖ロール,フルーツブレッド、ペストリー、バターロール、クロワッサン等の製造に使用することができる。
【0017】
本菌株を用いる製パン法としては、常法にしたがい、スクラッチ製法(ストレート製パン法)、中種製パン法)のいずれの方法によっても製パンすることができ、通常のパン生地のほか冷凍パン生地も使用することができる。以下、本発明の実施例について述べる。
【0018】
【実施例1】
下記条件にて、本発明に係る超耐糖性イースト(FERM P−17271)を30Lジャーファーメンターを用いて培養して、大量製造した。
【0019】
(種培養)
糖量(蔗糖換算) 1035g
尿素 103g
リン酸1ナトリウム 20.7g
2水和物
種酵母量(湿量) 20g*1
(30Lジャー本培養)
糖量(蔗糖換算) 1400g
尿素 140g
リン酸1ナトリウム g 28g
2水和物
種酵母量(湿量) 1 420g *2
メーカー:オリエンタルバイオサービスK.K.
名 称:FERMENTER CONTROL SYSTEM MC-10
容 量:30L
攪拌子回転数:600rpm
通気量:16L/min
【0020】
*1:250mlのYPD培地/1L容坂口フラスコに1白金耳植菌し、30℃で2日間培養したのち、4本分全量をそのまま種酵母として用いた。
*2:種培養で得られた菌体を遠心分離操作によって分離し、脱イオン水により洗滌した後、その一部を使用した。
【0021】
【実施例2】
日本イースト工業会で定める酵母のガス発生量の測定法に準じて、各酵母の耐糖性を測定した。すなわち、本発明のイースト(超耐糖性イースト)、市販のレギュラーイースト(オリエンタル酵母工業(株)製品)を用いて、下記の配合及び工程条件により30℃、120分間のガス発生量をファーモグラフで測定した。得られた結果を表2に示した。
【0022】
【0023】
【0024】
【0025】
【0026】
(生地40gに含まれるイースト量は0.40g乾物相当である)
上記表2の結果から明らかなように、小麦粉に対し糖を30〜50%含むような非常に高い糖濃度の生地でも、本発明に係る超耐糖性イーストは、これを充分に発酵できる耐糖性(浸透圧耐性)を有していることが確認された。
【0027】
【実施例3】
本発明に係るUSイーストを用い、下記する配合及び工程により、コーヒーケーキを製造した。
【0028】
【0029】
【0030】
製造されたコーヒーケーキは、糖が多く配合され、甘くて美味且つソフトな食感が得られ、スポンジケーキ的な新しい食感、風味のパン製品であった。
なお、小麦粉に対して糖10〜25%を添加した中糖〜高糖域の配合生地をそれぞれ作製し(小麦粉100g、砂糖10〜25g、食塩0.5g、イースト6g、水52ml)、混捏後、小麦粉換算で30gを分割し、30℃で前発酵60分後、成型し、各生地を1〜3週間冷凍貯蔵し、解凍後、30℃で120分間のガス発生量をファーモグラフで測定した。その結果、本発明に係る超耐糖性イースト(USイースト)は、汎用の冷凍生地風イースト(例えばFD−1イースト:オリエンタル酵母工業(株)製品)並みの冷凍耐性を有し、冷凍生地製パンにより長期間凍結保存しても、品質が良好なパンを製造できることが確認された。
【0031】
【実施例4】
本発明に係るUSイーストを用い、下記する配合及び工程により、ミニあんぱん(酒種)を製造した。なお「熟シリーズ・サカリッチ」は酒種風の発酵風味液、「C−マキシ−EM」は包あん機を使用する場合に適した製パン改良剤製剤であって、いずれもオリエンタル酵母工業(株)の製品である。
【0032】
【0033】
【0034】
【実施例5】
本発明に係るUSイーストを用い、下記する配合及び工程により、黒糖ロールを製造した。なお、糖量が15〜25重量部の場合でもUSイーストの効果が奏された。
【0035】
【0036】
【0037】
【実施例6】
本発明に係るUSイーストを用い、下記する配合及び工程により、フルーツブレッドを製造した。得られた製品は、フルーツを多量に使用した軽い食べ口の菓子風のパンであり、更に、長時間熟成した果実種の発酵風味液「ぶどう種#2」(オリエンタル酵母工業(株)製品)を併用したことにより、豊かな香りも広がりきわめて美味なパンとなつた。
【0038】
【0039】
【0040】
【実施例7】
本発明に係るUSイーストを用い、下記する配合及び製法で発酵菓子(クッキー)を製造した。得られた製品は甘味たっぷりで歯ざわりの軽い発酵菓子となった。
【0041】
【0042】
製法
1.上白糖、マーガリン、加糖煉乳、食塩をビーターで擂り合わせる。
2.卵を2回に分けて加え、乳化させる。
3.篩った小麦粉とUSイーストと水を加えて混合する。
4.手で軽く捏ねる。
5.ポリ袋に入れ、手で薄く延ばしてから冷蔵庫で冷やし、成形しやすい固さにして型ぬきをする。
6.室温で20〜30分発酵させたのち220℃で約13分間焼成する。
【0043】
【実施例7】
本発明に係るUSイースト及び市販のレギュラーイースト(オリエンタル酵母工業製)を用いて、下記の配合及び工程条件により、スクラッチ製パン法(ストレート製パン法)にしたがって、食パン及び菓子パンを製造し、表1(A)の結果を得た。
【0044】
【0045】
【0046】
【0047】
次に、同様に、下記の配合及び工程条件により、スクラッチ法(中種製パン法
【0048】
【0049】
【0050】
上記表1の結果から明らかなように、小麦粉に対して糖5〜25%を添加する食パン〜菓子パン(低糖〜高糖)配合生地において、本発明に係るイーストは、ストレート製パン法及び中種製パン法のいずれにおいても、汎用の普通イースト(例えば、オリエンタル酵母工業(株)製のレギュラーイースト)と同等の発酵力を有し、ソフトでボリューム感のある品質の安定したすぐれたパンを製造できることが確認された。
【0051】
【発明の効果】
超高糖域で発酵力及び高い耐糖性を有する酵母が開発された。本超耐糖性酵母を使用することにより、無糖〜低糖のパンのみでなく非常に甘いパンを、スクラッチ製パン法などいずれの製パン法によっても、それぞれに適した酵母を使い分ける必要がなく、本酵母のみですべての局面に対応することができる。
Claims (3)
- 小麦粉に対し糖30〜50%含む超高糖生地で高い発酵力を有する酵母であることを特徴とする、サッカロミセス・セレビシエP−712(FERM P−17271)。
- 小麦粉100重量部に対し40重量部の砂糖を含有する生地において、0.4gイースト乾物量を含む生地40gあたり、30℃、2時間で110ml以上のCO2を発生させる耐糖性を有する請求項1に記載の酵母、サッカロミセス・セレビシエP−712(FERM P−17271)。
- 請求項1又は2に記載の酵母を含有する、小麦粉に対し糖30〜50%含む超高糖生地を発酵し、焼成することを特徴とする菓子又はパンの製造方法。
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