JP4330917B2 - 気相成長炭素繊維の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、鉄系触媒を利用した気相成長炭素繊維の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、直径1μm以下の微小径の炭素繊維が発見されており、かかる炭素繊維はその形状によって分類できる。図7(i)に示すような単層カーボンナノチューブがある。単層カーボンナノチューブはグラファイト状の炭素の層であるグラフェン5を丸めて円筒状にした形状を有する。なお、以下の説明において、グラフェンとは黒鉛構造の一部であって、1枚の炭素の層からなるものをいう。
【0003】
また、図7(ii)に示すような多層カーボンナノチューブがある。多層カーボンナノチューブは複数のグラフェン5の円筒を同心円状に重ねた形状を有する。
さらに、多数の小さなグラフェン5の層が軸方向に連続して積層したカーボンナノファイバーがある。カーボンナノファイバーには2つのタイプがあり、図7(iii)に示すように、頂部を切り欠いて底面が開放した略円錐形状のグラフェン5が重なり合って軸方向に伸びたタイプAのものや、図7(iV)に示すように、小紙片状のグラフェン5が積層して軸方向に伸びたタイプBのものがある。
【0004】
これらの微小径の炭素繊維は、素材強度を高めるための使用や、樹脂の導電性フィラーとしての使用、リチウムイオン2次電池の負極材としての使用、水素吸蔵体としての使用等が可能であり、その製造方法が研究開発されている。
直径1μm以下の太さの炭素繊維のうち、カーボンナノファイバーの製造方法として鉄系触媒を利用した気相成長法がある(例えば、非特許文献1を参照)。鉄系触媒を利用する気相成長法では、以下のような機構が提案され、広く受け入れられている。まず、一酸化炭素を原料として、式1で表される反応により炭素を生成させる。
【0005】
2CO→CO2+C …(1)
そして、生成した炭素を鉄触媒の中に一旦溶解させるか又は鉄カーバイドの形態とし、グラフェンの層が触媒の表面に析出する反応を繰り返し、カーボンナノファイバーを成長させる。この場合に使用される触媒としては、SUS板、インバーなどの合金板、鉄をシリカなどの不活性担体上に担持したものなどがある。かかる鉄系触媒を利用した気相成長法には幾つかの方法がある。
【0006】
鉄系触媒を利用した気相成長法のうちの第1の方法として、Fe−Ni合金又はFe−Co合金の基板を触媒とし、この基板上にカーボンナノファイバーを製造する方法がある(第1従来技術)(例えば、非特許文献2を参照)。
鉄系触媒を利用した気相成長法のうちの第2の方法として、SUS304の基板を触媒とし、この基板上に一酸化炭素と水素の混合ガスからカーボンナノファイバーを製造する方法がある(第2従来技術)(例えば、非特許文献3を参照)。
【0007】
鉄系触媒を利用した気相成長法のうちの第3の方法として流動気相合成法がある(第3従来技術)(例えば、特許文献1及び2を参照)。この方法では、フェロセンなどの鉄化合物を気相として供給し、供給された鉄化合物を熱分解して流動する鉄の微粒子を発生させ、この鉄微粒子を触媒としてカーボンナノファイバーを製造する。
鉄系触媒を利用した気相成長法のうちの第4の方法として、シリカ等の不活性担持体の上に担持された鉄を触媒としてカーボンナノファイバーを製造する方法がある(第4従来技術)(例えば、非特許文献4を参照)。
【0008】
【特許文献1】
特公昭62−49363号公報
【特許文献2】
特公平4−24320号公報
【非特許文献1】
H.P.Boehm著、「Carbon from carbon monoxide disproportionation on nickel and iron catalysts: Morphological studies and possible growth mechanisms」、Carbon誌、イギリス、1973年、第11巻、p.583〜590
【非特許文献2】
M.Audier, A.Oberdin, 及び M.Oberdin著、「Morphology and crystalline order in catalytic carbons」、Carbon誌、イギリス、1981年、第19巻、p.217〜224
【非特許文献3】
曽根田靖及び牧野三則著、「一酸化炭素を原料とする繊維状炭素の構造」、第24回炭素材料学会予稿集、日本、1997年、p.210〜211
【非特許文献4】
P.E.Anderson 及び N.M.Rodriguez著、「Growth of graphite nanofibers from the decomposition of CO/H2 over silica-supported iron-nickel particles」、Journal of materials research誌、1999年7月、第14巻、p.2912〜2921
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
第1従来技術により製造されるカーボンナノファイバーは繊維状から塊状まで多様な形態を有し、繊維直径が10nm以下のものから90nm程度のものまで得られている。しかし、約100nm程度の直径を有する太い繊維も混じり、微小直径で一定した形態を有するカーボンナノファイバーを得ることが難しいという不具合があるとともに、導電性が充分でなく、導電性フィラーとしての性能が必ずしも満足できるものではなかった。
【0010】
また、第2従来技術により製造されるカーボンナノファイバーは、繊維直径が30nm以下のものも製造可能であるが、生産性に劣るという問題があった。
さらに、第3従来技術により製造されるカーボンナノファイバーは、触媒コストが高く、製造設備も複雑になるという問題があった。
また、第4従来技術により製造されるカーボンナノファイバーは生産性が低く、生成したカーボンナノファイバーから付着している触媒を分離するのに手間とコストがかかるという不具合があった。
【0011】
本発明は、上記した従来の技術の問題点を除くためになされたものであり、その目的とするところは、簡単な設備を用いて微小直径を有するカーボンナノファイバーを効率よく製造でき、生成したカーボンナノファイバーを容易に回収できる気相成長炭素繊維の製造方法を提供することである。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明は、その課題を解決するために以下のような構成をとる。請求項1の発明に係る気相成長炭素繊維の製造方法は、鉄、コバルト及びニッケルからなる群より選ばれる1又は2以上を含有する非晶質金属と、一酸化炭素を5体積%以上含有するガスとを加熱状態で接触させて触媒を生成し、気相成長炭素繊維を得る。
【0013】
請求項2の発明に係る気相成長炭素繊維の製造方法は、一部分が結晶化しており、他の部分が非晶質であり、鉄、コバルト及びニッケルからなる群より選ばれる1又は2以上を含有する非晶質金属と、一酸化炭素を5体積%以上含有するガスとを加熱状態で接触させて触媒を生成し、気相成長炭素繊維を得る。
請求項3の発明に係る気相成長炭素繊維の製造方法は、請求項1又は2請求項2に記載の気相成長炭素繊維の製造方法であって、前記金属と前記ガスとが接触するときの前記ガスの温度を、250℃〜800℃とする。
【0014】
請求項4の発明に係る気相成長炭素繊維の製造方法は、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の気相成長炭素繊維の製造方法であって、前記ガスが水素を含有する。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
まず、図1を参照して本発明の実施の形態の構成を説明する。
図1に示すように、非晶質の基盤金属板10が石英管12内に設置されている。この基盤金属板10は10000℃/s以上の冷却速度で溶融状態から冷却して製造したものであり、非晶質の状態にあり、結晶化した成分を有しない。基盤金属板10は、鉄、コバルト及びニッケルからなる群より選ばれる1又は2以上を含有する非晶質の金属であればよく、Fe−B−Si系、Fe−B−Si−C系、Fe−Co−B−Si系、Fe−Ni−Mo−B系、Ni−Mo−B系等の非晶質の金属を用いることができる。特に、鉄を含有する非晶質の金属を用いることが好ましい。
【0016】
石英管12は図示しないガス流入口とガス流出口を備えて中にガスを流すことができる構成となっている。基盤金属板10の面は石英管12内を流れるガス流の方向と平行に置かれている。基盤金属板10は石英管12内でガス流の中に位置していればよく、石英管12内での基盤金属板10の面をガス流の方向に対して傾斜させてもよい。すなわち、基盤金属板10の面をガス流の方向に対して垂直に置くことも可能である。
【0017】
また、一酸化炭素と水素を含有する反応原料ガスが準備されており、配管によってこの反応原料ガスを前記ガス流入口から前記ガス流出口へかけて石英管12内を流すことができるように構成されている。
反応原料ガスの組成は一酸化炭素が30体積%、水素が70体積%となっている。反応原料ガスの組成を一酸化炭素が30体積%、水素が70体積%であるとしたが、本発明においては反応原料ガスが一酸化炭素を5体積%以上含有する。反応原料ガス中の一酸化炭素の濃度は、生産性を低くしないために5体積%以上とし、10体積%以上とすることが好ましい。また、さらに生産性を向上させるために水素を含有することが好ましい。水素の濃度は5体積%以上とすることが好ましく、30体積%以上とすることがさらに好ましい。
【0018】
反応原料ガスが窒素等の不活性ガスを含有していても問題はない。しかし、酸素や二酸化炭素などの酸化性ガスが気相成長炭素繊維を酸化して分解することを防止する必要がある。このため、反応原料ガス中の酸素濃度を一酸化炭素濃度の半分以下とし、二酸化炭素濃度を一酸化炭素濃度以下とすることが望ましい。
図示しない熱源があり、この熱源が石英管12内の基盤金属板10及び石英管12内を流れる前記反応原料ガスの温度を250℃〜800℃の範囲に昇温し維持可能な構成となっている。
【0019】
本発明は上記のように構成されており、次にその作用について、鉄を含有する非晶質の基盤金属板を用いた例により説明する。
まず、前記反応原料ガスを石英管12内の前記ガス流入口から前記ガス流出口へ向けて流す。そして、前記熱源により石英管12内の基盤金属板10と前記反応原料ガスとを加熱状態とし、前記反応原料ガスの温度を好ましくは250℃〜800℃の温度範囲まで昇温して維持する。なお、この温度範囲を300℃〜700℃とすることがより好ましい。また、この例では反応原料ガスと基盤金属板10の両方を加熱したが、反応原料ガスのみを加熱して、その顕熱で基盤金属板10を加熱状態としてもよいし、基盤金属板10を加熱し、反応原料ガスを加熱状態とするようにしてもよい。
【0020】
非晶質の基盤金属板10は鉄の結晶を有していないが、基盤金属板10は加熱されると一部分が結晶化し、鉄の微小な結晶14を生成する。このように、本発明においては、基盤金属板として、一部分が結晶化しており、他の部分が非晶質である非晶質金属を使用してもよい。生成した鉄の結晶14の一部は基盤金属板10表面に露出している。鉄の結晶14の一部が基盤金属板10の表面から剥離するが、基盤金属板10表面から落下せずに留まっている。基盤金属板10表面に留まっている鉄の結晶14は、粒状、板状など様々な形状を有している。
【0021】
一方、炭素が前記反応原料ガス中の一酸化炭素より基盤金属板10表面に留まっている剥離した鉄の結晶14の表面上で式1の反応によって生成する。この鉄の結晶14上で生成した炭素に対して、鉄の結晶14は触媒として作用し、鉄の結晶14と接触した炭素はこの結晶14中に溶解するか又は鉄カーバイドとなる。
【0022】
まず、粒状の鉄の結晶14から析出するグラフェン5について述べる。鉄の結晶14中から炭素は、グラフェン5となってその結晶14の粒の表面のうちで基盤金属板10と向かい合っている面の上に析出する。析出したグラフェン5の形状は、鉄の結晶14の粒の表面とほぼ対応した形状となっており、頂部を切り欠いて底面が開放した略円錐形状をなす。
【0023】
反応原料ガスが引き続き外部から供給されて石英管12内を流れ、炭素が鉄の結晶14の上で式1の反応によって一酸化炭素から生成し続け、生成した炭素が鉄の結晶14の中に溶解する。図2に示すように、既に析出したグラフェン5aと鉄の結晶14の粒との間において、鉄の結晶14中に溶解した炭素が鉄の結晶14の面上に新たなグラフェン5bとなって析出する。新たに析出したグラフェン5bは既に析出したグラフェン5aと同様の形状を有し、既に析出したグラフェン5aの略円錐形状の内側に重なって積層する。
【0024】
このようにしてグラフェン5bが繰り返して析出し、略円錐形状のグラフェン5a、5bが連続して積層して長くなって気相成長炭素繊維1となる。この気相成長炭素繊維1は前記タイプAのカーボンナノファイバーの形状を有しており、その先端には鉄の結晶14が付着しており、後端は基盤金属板10の表面に連なっている。また、この気相成長炭素繊維1を構成する各略円錐形状のグラフェン5a、5bの円錐形先端は、基盤金属板10の方向を向いている。
【0025】
次に、板状の鉄の結晶14から析出するグラフェン5について述べる。図3に示すように、炭素が板状の鉄の結晶14の中に溶解した後、紙片状のグラフェン5が鉄の結晶14の両方の板面上に析出する。そして、引き続いて鉄の結晶14中に炭素が溶解し、既に析出したグラフェン5aの層と鉄の結晶14の面との境界で、新たなグラフェン5bが鉄の結晶14上に析出し、グラフェン5a、5bの層が重なって積層する。
【0026】
このようにしてグラフェン5bの析出が繰り返し生じ、鉄の結晶14の両方の面上でそれぞれ小さな紙片状のグラフェン5a、5bが連続して積層して長くなり2本の気相成長炭素繊維1となる。この2本の気相成長炭素繊維1はそれぞれ前記タイプBのカーボンナノファイバーの形状を有し、2本の気相成長炭素繊維1の間には、板状の鉄の結晶14が挟まれている。
【0027】
タイプBのカーボンナノファイバーからなる各気相成長炭素繊維1において、このカーボンナノファイバーを形成するグラフェン5a、5bの各C軸Xcとその気相成長炭素繊維1の繊維軸Xfとは互いに平行であり、C軸Xcと繊維軸Xfとの間の角度θが0°となっている。なお、グラフェン5のC軸Xcとは、グラフェン5を構成する炭素の層の面に垂直な軸線のことをいう(図4を参照)。
【0028】
また、生成する気相成長炭素繊維1中には、以下に述べるタイプCの形状を有するカーボンナノファイバーからなるものも存在する。図5に示すように、タイプCのカーボンナノファイバーは、紙片状のグラフェン5の層が重なって積層する点でタイプBのカーボンナノファイバーと同じである。しかし、タイプCのカーボンナノファイバーは、各グラフェン5のC軸Xcと気相成長炭素繊維1の繊維軸Xfとの間の角度θが45°以上、90°未満となっている。
【0029】
そして、タイプCのカーボンナノファイバーからなる気相成長炭素繊維1の形状には、図6(i)ないし(iii)に示すバリエーションがある。
図6(i)に示すタイプCのカーボンナノファイバーにおいて、板状の鉄の結晶14の1つの面から気相成長炭素繊維1が生成しており、その繊維軸Xfの方向はこの気相成長炭素繊維1が生成する結晶14の面の法線Xvの方向からずれている。この法線Xvの方向は、結晶14から生成した直後の新たなグラフェン5bのC軸Xcと一致している。繊維軸Xfと、気相成長炭素繊維1を形成するグラフェン5a又は5bの各C軸Xcとの間の角度θ1は45°以上、90°未満となっており、この気相成長炭素繊維1の先端には鉄の結晶14が付着し、後端は基盤金属板10の表面に連なっている。
【0030】
図6(ii)に示すタイプCのカーボンナノファイバーにおいて、板状の鉄の結晶14の両側の面から、それぞれ1本ずつ気相成長炭素繊維1が生成している。各気相成長炭素繊維1の繊維軸Xfの方向は、その気相成長炭素繊維1が生成する鉄の結晶14の面の法線Xvの方向からずれている。一方の気相成長炭素繊維1を形成するグラフェン5a又は5bの各C軸Xcと繊維軸Xfとの間の角度θ2、他方の気相成長炭素繊維1を形成するグラフェン5a又は5bの各C軸Xcと繊維軸Xfとの間の角度θ3はともに45°以上、90°未満となっている。また、これら2本の気相成長炭素繊維1の先端同士の間には、鉄の結晶14が挟まれている。そして、これら2本の気相成長炭素繊維1は全体として束をなしている。
【0031】
図6(iii)に示すタイプCのカーボンナノファイバーにおいて、このカーボンナノファイバーを形成する各グラフェン5a、5bは、1枚の紙片を1本の折れ線により山形に折り曲げた形状をなして積層している。各グラフェン5a、5bが山形の形状をなすのは、鉄の結晶14が山形の形状をなす面を有し、この面上に各グラフェン5a、5bが析出しているからである。山形の各グラフェン5a、5bの一方の斜面はC軸Xc1を有し、他方の斜面はC軸Xc2を有しており、これらの各C軸Xc1、Xc2は気相成長炭素繊維1の繊維軸Xfの方向からずれている。C軸Xc1と繊維軸Xfとの間の角度θ4、C軸Xc2と繊維軸Xfとの間の角度θ5は、45°以上、90°未満となっている。
【0032】
なお、図6(iii)に示すタイプCのカーボンナノファイバーの形状において、各グラフェン5a、5bは1本の折れ線により折り曲げた山形の形状をなすとしたが、各グラフェン5a、5bが2本以上の折れ線により折り曲げられた形状をなしていてもよい。
タイプCのカーボンナノファイバーは、グラフェン5のC軸Xcと繊維軸Xfとの間の角度が45°以上となっているので、繊維軸Xf方向への電子の移動が活発に行われ、良好な導電性を示し、この導電性はFe−Ni合金又はFe−Co合金の基板上に生成される従来のカーボンナノファイバーが示す導電性よりも良好である。したがって、タイプCのカーボンナノファイバーは導電性フィラーとしても好適なものとなっている。特に、図6(i)及び(ii)に示す平面状グラフェンが積層したカーボンナノファイバーは、導電性の点で好ましい。
【0033】
さらに、気相成長炭素繊維1を形成するカーボンナノファイバーの中には、以下に述べるタイプDの形状を有するものも存在する。タイプDのカーボンナノファイバーは、紙片状のグラフェン5の層が積層しており、各グラフェン5のC軸Xcと気相成長炭素繊維1の繊維軸Xfとの間の角度が0°より大きく、45°未満となっている。すなわち、図6(i)ないし(iii)において角度θ1、θ2、θ3、θ4、θ5を0°より大きく、45°未満としたものである。
【0034】
タイプDのカーボンナノファイバーは、グラフェン5のC軸Xcと繊維軸Xfとの間の角度が45°未満となっているので、繊維軸Xf方向への電子の移動はタイプCのものほど活発ではなく、導電性はタイプCのものに劣っている。
なお、鉄の結晶14は様々な形状をとりうるので、1つの鉄の結晶14から生成するカーボンナノファイバーの形状が、タイプA、B、C、Dの形状を混在させたものとなりうることは勿論である。また、鉄の結晶14の形状の多様性より各グラフェン5a、5bの形状が図3、図5、図6に示した形状に限定されるものではないことも勿論である。
【0035】
タイプA、B、C、D及びこれらを混在させた形状のカーボンナノファイバーからなる気相成長炭素繊維1は、グラフェン5が積層した単純な構造であり、その繊維直径は結晶14の粒径に依存すると考えられる。鉄の結晶14は基盤金属板10の一部に析出した微小な結晶であり、気相成長炭素繊維1の繊維直径は結晶14の粒径に応じて微小なものとなっている。同時に、反応原料ガス中の水素は鉄の結晶14の触媒活性を高める役割を担っているとともに、水素が存在することで気相成長炭素繊維1の生成量が高まることから、反応原料ガスが水素を含有することが好ましい。また、これにより、生成する気相成長炭素繊維1の大半は繊維直径が50nm以下にコントロールされている。したがって、気相成長炭素繊維1は、燃料電池の電極などの微細な炭素材料と金属とを接続させて使用する用途に適している。
【0036】
なお、気相成長炭素繊維1を生成する反応は、反応温度が低すぎると充分な反応速度を得られないが、前記熱源が石英管12内の基盤金属板10及び石英管12内を流れる前記反応原料ガスを250℃〜800℃の温度範囲に昇温し維持可能となっているので、充分な反応速度を得られる。また、炭素が一酸化炭素から式1の反応によって生成するが、式1の平衡は温度が高すぎると左向きに有利となり、式1の高い反応率を得られない。しかし、反応原料ガスは250℃〜800℃の温度範囲にあり、気相成長炭素繊維1を生成する反応速度も速く、一酸化炭素から炭素を生成する反応率も高くなる。
【0037】
次いで、石英管12内から基盤金属板10を取りだし、基盤金属板10に震動を与え、基盤金属板10上から気相成長炭素繊維1を落して回収する。また、基盤金属板10に震動を与えて、気相成長炭素繊維1を基盤金属板10から落して回収するとしたが、気相成長炭素繊維1を基盤金属板10からブラシで掻き取って落下させて回収することも可能である。したがって、簡便な設備を用いて容易に気相成長炭素繊維1を回収可能である。なお、鉄の結晶14は酸洗などで除去できる。
【0038】
回収された気相成長炭素繊維1はタイプCの導電性に優れるカーボンナノファイバーを含有しているので、この気相成長炭素繊維1を樹脂の導電性フィラーとして使用することが可能であり、リチウムイオン2次電池の負極材としての使用、水素吸蔵体としての使用等が可能である。各用途に応じて、気相成長炭素繊維1に洗浄、精製、熱処理などの処理を行う。
【0039】
(実施例)
(実施例1)
実施例1における条件を以下のものとした。基盤金属板10は、その組成としてBを3質量%、Siを2質量%、Cを0.5質量%含有するFe−B−Si−C系アモルファス金属とし、基盤金属板10の大きさを100mm×10mm×0.025mmとした。石英管12は横置きの直径20mmの大きさとし、石英管12内を流れる反応原料ガスの流速を標準状態に換算して350cm3/minとした。反応原料ガスの組成は、水素を30体積%、一酸化炭素を70体積%とした。石英管12内で反応原料ガスと基盤金属板10を550℃まで昇温して同温度で30分維持し、その後室温まで放置して冷却した。
【0040】
そして、基盤金属板10上に生成した気相成長炭素繊維を回収し、走査型電子顕微鏡で観察した。その結果、回収された気相成長炭素繊維は繊維直径が10nm〜30nmであり、長さが2μm〜5μmのカーボンナノファイバーであることを確認した。また、この気相成長炭素繊維には、1つの鉄の粒状の結晶14から1本のカーボンナノファイバーが伸びているタイプAのものが2体積%、1つの鉄の板状の結晶14を間に挟んで2本のカーボンナノファイバーが伸びているタイプBのものが32体積%、C軸と繊維軸とがなす角度が45°以上90°未満のタイプCのものが60体積%、C軸と繊維軸とがなす角度が0°より大きく45°よりも小さなのタイプDのものが6体積%含まれていた。生産速度は0.2g/cm2・hであった。
【0041】
(実施例2)
基盤金属板10はCoを21質量%、Bを3質量%、Siを0.5質量%含有するFe−Co−B−Si系アモルファス金属とした。反応原料ガスの組成は、水素を20体積%、一酸化炭素を80体積%とした。他の条件は実施例1と同様とした。回収された気相成長炭素繊維を実施例1と同様に観察した結果、実施例1と同様のカーボンナノファイバーであり、C軸と繊維軸とがなす角度が45°以上90°未満のタイプCのものが54体積%含まれていた。また、タイプAのものは2体積%、タイプBのものは36体積%、タイプDのものは8体積%含まれていた。生産速度は0.2g/cm2・hであった。
なお、本実施の形態において、基盤金属板10は非晶質状態のものとしたが、予め非晶質の金属板を加温し、鉄成分が一部結晶化して析出している金属板を用いることも可能である。
【0042】
(比較例1)
基盤金属板として、長さ100mm×幅10mm×厚さ0.1mmのインバー(Co+Ni:42質量%、残部Fe)板を用いた以外は、実施例1と同様の条件で、気相成長炭素繊維を製造した。回収された気相成長炭素繊維を実施例1と同様に観察した結果、繊維直径50nm〜100nm、繊維長2μm〜5μmであった。得られた気相成長炭素繊維中、タイプAのものは85体積%、タイプBのものは11体積%、タイプCのものは0体積%、タイプDのものは4体積%含まれていた。また、生産速度は0.5g/cm2・hであった。
【0043】
(比較例2)
基盤金属板として、長さ100mm×幅10mm×厚さ0.1mmのSUS304板を用いた以外は、実施例1と同様の条件で、気相成長炭素繊維を製造した。回収された気相成長炭素繊維を実施例1と同様に観察した結果、繊維直径30nm〜40nm、繊維長0.5μm〜1μmであった。得られた気相成長炭素繊維中、タイプAのものは95体積%、タイプBのものは5体積%、タイプC及びタイプDのものは含まれていなかった。また、生産速度は0.01g/cm2・hであった。
【0044】
【発明の効果】
本発明は、上記のような気相成長炭素繊維の製造方法であるので、簡単な設備を用いて微小直径を有する気相成長炭素繊維を効率よく製造でき、生成した気相成長炭素繊維を容易に回収できる気相成長炭素繊維の製造方法を提供することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態に係る基盤金属板と石英管の構成図である。
【図2】タイプAのカーボンナノファイバーからなる気相成長炭素繊維が鉄の粒状の結晶から生成する状況の説明図である。
【図3】タイプBのカーボンナノファイバーからなる気相成長炭素繊維が鉄の板状の結晶から生成する状況の説明図である。
【図4】グラフェンのC軸の説明図である。
【図5】タイプCのカーボンナノファイバーの説明図である。
【図6】タイプCのカーボンナノファイバーからなる気相成長炭素繊維のバリエーションの説明図である。
【図7】従来の気相成長炭素繊維の構造を示す説明図であり、(i)は単層カーボンナノチューブを示し、(ii)は多層カーボンナノチューブを示し、(iii)及び(iV)はそれぞれタイプA及びタイプBのカーボンナノファイバーを示す。
【符号の説明】
1 気相成長炭素繊維
5 グラフェン
10 基盤金属板
12 石英管
14 鉄の結晶
Xf 気相成長炭素繊維の繊維軸
Xc グラフェンのC軸
Xv 鉄の結晶の面の法線
θ、θ1、θ2、θ3、θ4、θ5 グラフェンのC軸と気相成長炭素繊維の繊維軸との角度
Claims (4)
- 鉄、コバルト及びニッケルからなる群より選ばれる1又は2以上を含有する非晶質金属と、一酸化炭素を5体積%以上含有するガスとを加熱状態で接触させて触媒を生成し、気相成長炭素繊維を得ることを特徴とする気相成長炭素繊維の製造方法。
- 一部分が結晶化しており、他の部分が非晶質であり、鉄、コバルト及びニッケルからなる群より選ばれる1又は2以上を含有する非晶質金属と、一酸化炭素を5体積%以上含有するガスとを加熱状態で接触させて触媒を生成し、気相成長炭素繊維を得ることを特徴とする気相成長炭素繊維の製造方法。
- 前記金属と前記ガスとが接触するときの前記ガスの温度を、250℃〜800℃とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の気相成長炭素繊維の製造方法。
- 前記ガスが水素を含有することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の気相成長炭素繊維の製造方法。
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