つぎに、この発明を具体例に基づいて説明する。図2には、この発明の制御装置の対象となる車両Veのパワートレーンおよび制御系統の一例が、模式的に示されている。ここに示すパワートレーンにおいては、駆動力源1のトルクが、流体伝動装置9および前後進切換装置8を介してベルト式無段変速機4に伝達されるように構成されている。駆動力源1としては、エンジンまたは電動機のうちの少なくとも一方を用いることができる。このエンジンとしては、例えば、内燃機関、具体的には、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、LPGエンジンなどを用いることができる。以下、駆動力源1としてガソリンエンジンを用いる場合について説明し、便宜上、駆動力源1を“エンジン1”と記す。このエンジン1の吸気管(図示せず)には、電子スロットルバルブ(図示せず)が設けられているとともに、エンジン1はクランクシャフト70を有している。
このクランクシャフト70に連結される流体伝動装置9として、図2の実施例ではトルクコンバータが用いられている。以下、流体伝動装置9を“トルクコンバータ9”と記す。このトルクコンバータ9は、ポンプインペラ11とタービンランナ12とを有している。フロントカバー10には円筒部71が連続されており、円筒部71であって、フロントカバー10とは反対側の端部に、ポンプインペラ11が形成されている。タービンランナ12は円筒部71の内部に配置されており、ポンプインペラ11とタービンランナ12とが対向して設けられている。タービンランナ12はシャフト50と一体回転するように連結されている。これらのポンプインペラ11とタービンランナ12とには、多数のブレード(図示せず)が設けられており、ポンプインペラ11とタービンランナ12との間で、流体の運動エネルギにより動力伝達がおこなわれる。
また、ポンプインペラ11とタービンランナ12との内周側の部分には、タービンランナ12から送り出されたフルードの流動方向を選択的に変化させてポンプインペラ11に流入させるステータ13が配置されている。このステータ13は、一方向クラッチ14を介して、所定の固定部(ケーシング)15に連結されている。
このトルクコンバータ9は、ロックアップクラッチ16を備えている。ロックアップクラッチ16は、円筒部71の内部に設けられており、フロントカバー10からシャフト50に至る動力伝達経路に対して並列に配置されたものである。また、円筒部71の内部には第1の油圧室72と第2の油圧室73とが形成されている。ロックアップクラッチ16は、シャフト50と一体回転するように取り付けられているとともに、シャフト50の軸線方向に移動可能に構成されている。そして、第1の油圧室72の油圧と、第2の油圧室73の油圧との対応関係に基づいて、シャフト50の軸線方向におけるロックアップクラッチ16の動作が制御される。さらにまた、第1の油圧室72および第2の油圧室73に供給される作動流体(オイル)の圧力を制御する機能を有する油圧制御装置59が設けられている。
前後進切換装置8は、エンジン1の回転方向が一方向に限られていることに伴って採用されている機構であって、前後進切換装置8は、シャフト50の回転方向に対するプライマリシャフト51の回転方向を切り換える機能を備えている。また、前後進切換装置8は、シャフト50とプライマリシャフト51とを、動力伝達可能な状態に連結する機能と、シャフト50とプライマリシャフト51との間における動力伝達を遮断する機能とを有している。
図2に示す例では、前後進切換装置8としてダブルピニオン型の遊星歯車機構が採用されている。すなわち、シャフト50と一体回転するサンギヤ17と、サンギヤ17と同心状に配置されたリングギヤ18とが設けられ、これらのサンギヤ17とリングギヤ18との間に、サンギヤ17に噛合したピニオンギヤ19と、ピニオンギヤ19およびリングギヤ18に噛合した他のピニオンギヤ20とが配置され、ピニオンギヤ19,20がキャリヤ21によって、自転かつ公転自在に保持されている。
さらに、サンギヤ17およびシャフト50と、キャリヤ21とを一体回転可能に連結する前進用クラッチ22が設けられている。またリングギヤ18を選択的に固定することにより、シャフト50の回転方向に対するプライマリシャフト51の回転方向を反転する後進用ブレーキ23が設けられている。上記前進用クラッチ22および後進用ブレーキ23の係合・解放は、油圧制御装置59により制御される。なお、プライマリシャフト51とキャリヤ21とが一体回転するように連結されている。
前記ベルト式無段変速機4は、互いに平行に配置されたプライマリプーリ24とセカンダリプーリ25とを有する。まず、プライマリプーリ24は、プライマリシャフト51と一体回転するように構成されており、プライマリプーリ24は、固定シーブ52と可動シーブ53とを有している。そして、可動シーブ53を、プライマリシャフト51の軸線方向に動作させる油圧式のアクチュエータ26が設けられている。
これに対して、セカンダリプーリ25は、セカンダリシャフト55と一体回転するように構成されており、セカンダリプーリ25は、固定シーブ54と可動シーブ56とを有している。さらに、可動シーブ56をセカンダリシャフト55の軸線方向に動作させる油圧式のアクチュエータ27が設けられている。さらに、プライマリプーリ24およびセカンダリプーリ25には環状のベルト28が巻き掛けられている。さらに、上記アクチュエータ26の油圧室(図示せず)およびアクチュエータ27の油圧室(図示せず)に供給・排出されるオイルの状態は、油圧制御装置59により制御される。なお、セカンダリシャフト55には歯車伝動装置29を経由してデファレンシャル6が連結されており、デファレンシャル6には車輪(前輪)2が連結されている。
つぎに、図2に示された車両Veの制御系統を説明する。まず、電子制御装置(ECU)34が設けられており、この電子制御装置34は、演算処理装置(CPUまたはMPU)と、記憶装置(RAMおよびROM)と、入出力インターフェースとを有するマイクロコンピュータにより構成されている。この電子制御装置34には、エンジン回転速度センサ30の信号、タービンランナ12の回転速度を検出するタービン回転速度センサ31の信号、プライマリシャフト51の回転速度を検出する入力回転速度センサ32の信号、セカンダリシャフト55の回転速度を検出する出力回転速度センサ33の信号、アクセル開度センサ57の信号、シフトポジションセンサ60の信号、ブレーキスイッチ74の信号、油圧検知センサ58の信号などが入力される。この油圧検知センサ58は、前進用クラッチ22および後進用クラッチ23のトルク容量を制御する油圧室(後述)の油圧を検知するものである。また、入力回転速度センサ32の信号および出力回転速度センサ33の信号に基づいて、ベルト式無段変速機4の変速比が算出される。
前記シフトポジションセンサ60は、車両Veの乗員が操作するシフトポジション選択装置(図示せず)の操作状態を検知するものである。このシフトポジションセンサ60により、例えば、パーキングポジション、リバースポジション、ニュートラルポジション、ドライブポジション、ローポジションなどが検知される。車両Veの乗員が、車両Veで駆動力を生じさせないことを意図する場合は、パーキングポジションまたはニュートラルポジションが選択される。車両Veを前進させる駆動力を生じさせる意図がある場合は、ドライブポジションまたはローポジションが選択される。また、車両Veを後退させる駆動力を生じさせる意図がある場合は、リバースポジションが選択される。この電子制御装置34からは、エンジン1を制御する信号、油圧制御装置59を制御する信号、ベルト式無段変速機4を制御する信号、ロックアップクラッチ16を制御する信号、前後進切換装置8を制御する信号などが出力される。
上記のように構成された車両Veにおいて、エンジン1が運転されると、エンジン1から出力されたトルクが、トルクコンバータ9、前後進切換装置8、ベルト式無段変速機4を経由して車輪2に伝達される。また、電子制御装置34にはロックアップクラッチ制御マップが記憶されており、ロックアップクラッチ制御マップに基づいて、ロックアップクラッチ16の伝達トルク容量(言い換えれば、係合油圧、係合圧、係合状態)が制御され、ロックアップクラッチ16が解放(具体的には完全解放)またはスリップまたは係合(具体的には完全係合)される。
つぎに、前後進切換装置8の制御について説明する。前記シフトポジションセンサ60により、ローポジションまたはドライブポジションが検知された場合は、前後進切換装置8の前進用クラッチ22が係合され、かつ、後進用ブレーキ23が解放される。すると、シャフト50とキャリヤ21とが一体回転し、シャフト50のトルクがプライマリシャフト51に伝達されるとともに、プライマリシャフト51のトルクが車輪2に伝達されて、車両Veを前進させる向きの駆動力が発生する。このとき、シャフト50およびプライマリシャフト51が同方向に回転する。
これに対して、シフトポジションセンサ60により、リバースポジションが検知された場合は、前進用クラッチ22が解放され、かつ、後進用ブレーキ23が係合される。すると、エンジントルクがサンギヤ17に伝達された場合は、リングギヤ18が反力要素となって、サンギヤ17のトルクがキャリヤ21を経由してプライマリシャフト51に伝達される。プライマリシャフト51のトルクが車輪2に伝達されると、車両Veを後進させる向きの駆動力が発生する。この場合、シャフト50とプライマリシャフト51とは逆方向に回転する。なお、ニュートラルポジションまたはパーキングポジションが選択された場合は、前進用クラッチ22および後進用ブレーキ23が解放されて、シャフト50とプライマリシャフト51との間における動力伝達が遮断される。
つぎに、ベルト式無段変速機4の制御、より具体的には、変速比およびトルク容量の制御を説明する。前記のように、エンジントルクがプライマリシャフト51に伝達されるとともに、電子制御装置34に入力される各種の信号、および電子制御装置34に予め記憶されているデータに基づいて、ベルト式無段変速機4の変速比およびトルク容量が制御される。まず、変速比の制御について説明する。プライマリシャフト51の軸線方向における可動シーブ53の位置が制御されて、プライマリプーリ24の溝幅が調整されると、プライマリプーリ24に対するベルト28の巻掛け半径が変化し、ベルト式無段変速機4の変速比が無段階に変化する。
具体的には、油圧アクチュエータ26の油圧室に供給されるオイル量が増加した場合は、プライマリプーリ24の溝幅が狭められて、プライマリプーリ24におけるベルト28の巻き掛け半径が大きくなり、ベルト式無段変速機4の変速比が小さくなるように変化、すなわち、増速変速する。これとは逆に、油圧アクチュエータ26の油圧室に供給されるオイル量が減少した場合は、プライマリプーリ24の溝幅が広げられて、プライマリプーリ24におけるベルト28の巻き掛け半径が小さくなり、ベルト式無段変速機4の変速比が大きくなるように変化、すなわち、減速変速する。なお、油圧アクチュエータ26の油圧室に供給されるオイル量が略一定に制御された場合は、プライマリプーリ24におけるベルト28の巻き掛け半径が略一定に維持され、ベルト式無段変速機4の変速比が略一定に維持される。
上記のような変速比の制御に並行して、油圧アクチュエータ27の油圧室に供給される油圧が制御されて、セカンダリシャフト55の軸線方向における可動シーブ56の位置が制御されて、ベルト式無段変速機4のトルク容量が制御される。具体的には、油圧アクチュエータ27の油圧室の油圧が高められた場合は、セカンダリプーリ25の溝幅が狭められて、セカンダリプーリ25からベルト28に加えられる挟圧力が増加し、ベルト式無段変速機4のトルク容量が増加する。これとは逆に、油圧アクチュエータ27の油圧室の油圧が低下した場合は、セカンダリプーリ25からベルト28に加えられる挟圧力が低下して、ベルト式無段変速機4のトルク容量が低下する。具体的には、増速変速の実行時にはトルク容量が低下され、減速変速の実行時にはトルク容量が高められる。なお、油圧アクチュエータ27の油圧室の油圧が略一定に制御された場合は、セカンダリプーリ25からベルト28に加えられる挟圧力が略一定に維持され、ベルト式無段変速機4のトルク容量が略一定に制御される。
つぎに、前述した油圧制御装置59の構成例を、図1に基づいて説明する。まず、車両Veの乗員により選択されるシフトポジションに応じて動作するマニュアルバルブ80が設けられている。マニュアルバルブ80は、所定方向、具体的には軸線方向に動作可能なスプール81と、スプール81に形成されたランド部82,83,84と、入力ポート85と、出力ポート86,87,88と、ドレーンポート89,90とを有している。このスプール81を動作させる動作機構としては、シフトポジション選択装置(図示せず)に加えられる操作力が、伝動装置(図示せず)を経由してスプール81に伝達される構成の動作機構、または、シフトポジション選択装置の操作を光電的に検知し、その検知結果に基づいて動作するアクチュエータにより、スプール81を動作させる構成の動作機構などを用いることが可能である。
前記出力ポート86は、油路91,92に接続されており、油路91は前進クラッチ用油圧室93に接続されている。また、スプール81の動作に関わりなく、油路91と油路92とが連通されている。前進クラッチ用油圧室93は、前進用クラッチ22のトルク容量を制御するものであり、後進ブレーキ用油圧室95は、後進用ブレーキ23のトルク容量を制御するものである。
一方、エンジン1または電動機(図示せず)などにより駆動されるオイルポンプ(図示せず)が設けられており、オイルポンプから吐出されたオイルが、圧力制御弁(図示せず)により調圧されて、そのオイルが油路96に供給される構成となっている。この油路96は、モジュレータバルブ97に接続される。このモジュレータバルブ97は、所定方向に往復移動可能なスプール98と、スプール98を所定の向きで付勢する弾性部材99と、スプール98に形成されたランド部100,101,102と、入力ポート103および出力ポート104およびドレーンポート105およびフィードバックポート106および制御ポート107とを有している。入力ポート103は油路96に接続され、出力ポート104およびフィードバックポート106に接続された油路108が設けられている。また、油路108はリニアソレノイドバルブ109の入力ポート110に接続されており、リニアソレノイドバルブ109は出力ポート111を有している。
また、前記油路108からマニュアルバルブ80の入力ポート85に至る経路に、クラッチ圧切換バルブ112が設けられている。このクラッチ圧切換バルブ112は、所定方向、具体的には軸線方向に動作可能なスプール113と、スプール113を所定の向きに付勢する弾性部材114とを有している。このスプール113と前記スプール81とを連動させる機械的な連結機構は設けられておらず、スプール81とスプール113とが別々に動作可能である。スプール81とスプール113とが同時に作動することも可能であるが、スプール81とスプール113とでは、その動作位置および動作量などが異なる。
このスプール113には、ランド部115,116,117が形成されている。また、クラッチ圧切換バルブ112は、入力ポート118,119と、出力ポート120と、ドレーンポート121と、制御ポート122と、中継ポート123,124とを有している。そして、入力ポート118と油路108とが油路125により接続され、出力ポート120と、マニュアルバルブ80の入力ポート85とが油路126により接続され、中継ポート123と、マニュアルバルブ80の出力ポート88とが油路127により接続され、中継ポート124と、モジュレータバルブ97の制御ポート107とが油路128により接続されている。さらに、制御ポート122に信号圧を入力する油路129が設けられている。
前記油路108と、クラッチ圧切換バルブ112の入力ポート119との間の経路には、リニアソレノイドバルブ130が設けられている。このリニアソレノイドバルブ130は、所定方向に往復移動可能なスプール131と、スプール131を所定の向きに付勢する弾性部材132と、スプール131に形成されたランド部133,134,135とを有している。また、リニアソレノイドバルブ130は、入力ポート136および出力ポート137およびドレーンポート138およびフィードバックポート139を有している。上記構成のリニアソレノイドバルブ130は、通電電流により形成される磁気吸引力に基づいて、スプール131の動作位置が制御される。この実施例では、電流値が高まるほど、入力ポート136と出力ポート137との連通面積が狭められて出力ポート137の油圧が低下し、電流値が低下するほど、入力ポート136と出力ポート137との連通面積が拡大されて出力ポート137の油圧が高まる特性のリニアソレノイドバルブ130が用いられている場合を例として説明する。
そして、入力ポート136は油路108に接続され、出力ポート137と、クラッチ圧切換バルブ112の入力ポート119とが油路140により接続され、この油路140はフィードバックポート139にも接続されている。このように、油路108からクラッチ圧切換バルブ112に至る経路に、油路125とリニアソレノイドバルブ130とが並列に配置されている。なお、リニアソレノイドバルブ109,130の電流値および制御ポート122に入力される信号圧は、電子制御装置34により制御される。
つぎに、図1に示された油圧制御装置59の機能を説明する。まず、モジュレータバルブ97においては、弾性部材99の付勢力によりスプール98が、図2において下向きに付勢されて、入力ポート103と出力ポート104とが連通している場合は、油路96のオイルが油路108に供給される。この油路108のオイルを、油圧室93または油圧室95に供給する場合、オイルの供給経路として、油路125と油路140とが選択的に切り換えられる。この油路125,140の切り換えは、シフトポジションまたは油圧室95の油圧などをパラメータとして実行される。
まず、リバースポジション以外のポジションから、リバースポジションに切り換えられた場合の機能を説明する。リバースポジションが選択されて、マニュアルバルブ80のスプール142が、リバースポジションに対応する位置に停止すると、入力ポート85と出力ポート86とが遮断され、かつ、ドレーンポート89が開放され、かつ、入力ポート85と出力ポート87,88とが連通され、かつ、ドレーンポート90と出力ポート87とが遮断される。
一方、リバースポジション以外のポジションから、リバースポジションに切り換えられた時点では、油圧室95の必要油圧は所定値以下である。油圧室95の必要油圧が所定値以下である場合は、油路129から、クラッチ圧切換バルブ112の制御ポート122に入力される信号圧が低圧に制御される。すると、スプール113は弾性部材114の付勢力により、図1において上向きに動作し、図1の左半分で示す第1の動作ポジションで、スプール113が停止する。スプール113がこの第1の動作ポジションで停止すると、入力ポート119と出力ポート120とが連通され、かつ、入力ポート118と出力ポート120とが遮断される。
また、リニアソレノイドバルブ130においては、弾性部材132の付勢力によりスプール131が図1において上向きに付勢され、リニアソレノイドバルブ130供給される電流値に応じた磁気吸引力により、スプール131が図1において下向きに付勢される。このため、リニアソレノイドバルブ130の電流値により、入力ポート136と出力ポート137との連通面積が制御され、油路108から油路140に供給されるオイルの油圧が制御される。油路108の油圧は、リニアソレノイドバルブ130により減圧されるため、油路140の油圧は油路108の油圧以下となる。
この油路140のオイルが、油路126および油路94を経由して油圧室95に供給されて、油圧室95の油圧が上昇し、後進用ブレーキ23のトルク容量が高まる。そして、油路140の油圧の上昇にともない、フィードバックポート139の油圧も上昇して、スプール131を図1において下向きに付勢する力が増加し、入力ポート136と出力ポート137との連通面積が狭められる。なお、クラッチ圧切換バルブ112のスプール113が第1の動作ポジションで停止している場合は、中継ポート123と中継ポート124とが遮断される。このため、油路126から出力ポート88を経由して油路127に供給されているオイルが、油路128に供給されることはない。
このようにして、後進用ブレーキ23の係合が開始され、かつ、油圧室95の必要油圧が所定油圧以上になると、制御ポート122に入力される信号圧が高圧に制御される。所定油圧は、後進用ブレーキ23のトルク容量が、後進用ブレーキ23で滑りが生じないトルク容量となる油圧に相当する。すると、スプール113が図1において下向きに動作して、図1の右側に示す第2の動作ポジションでスプール113が停止する。スプール113が第2の動作ポジションで停止した場合は、入力ポート119と出力ポート120とが遮断され、かつ、入力ポート118と出力ポート120とが連通される。すると、油路108のオイルが、油路125,126を経由して油圧室95に供給される。
また、クラッチ圧切換バルブ112のスプール113が第2の動作ポジションで停止している場合は、中継ポート123と中継ポート124とが連通される。このため、油路126のオイルが、出力ポート88を経由して油路127に供給されるとともに、そのオイルが油路128を経由してモジュレータバルブ97の制御ポート107に供給される。すると、モジュレータバルブ97のスプール98を、図1において下向きに付勢する力が増加して、入力ポート103と出力ポート104との連通面積が拡大される。このため、スプール113が、第1の動作ポジションで停止している場合における油路108の油圧よりも、スプール113が、第2の動作ポジションで停止している場合における油路108の油圧の方が高圧となる。
このように、リバースポジション以外のポジションから、リバースポジションに切り換えられた場合において、後進用ブレーキ23の係合が開始された時点から、後進用ブレーキ23のトルク容量が所定値に到達するまでの間は、油路108のオイルが、リニアソレノイドバルブ130および油路140を経由して、油圧室95に供給される。このため、リニアソレノイドバルブ130の電流値の制御により、油圧室95の油圧を微調整すること、具体的には、油圧を緩やかに上昇させることができ、後進用ブレーキ23の係合にともなうショックを抑制することが可能である。
ところで、油路108のオイルは、リニアソレノイドバルブ109の入力ポート110に供給されており、リニアソレノイドバルブ109の電流値により出力ポート111の油圧もしくはオイル量が制御される。ここで、油路108のオイルが油路140を経由して油圧室95に供給されている場合は、制御ポート107に入力される油圧が高まることはない。したがって、油路108の油圧の変動を抑制でき、リニアソレノイドバルブ109の制御性能に影響を及ぼすことを回避できる。また、油路108の油圧の上昇を抑制できるため、油路108におけるオイルの漏れ量の増加を抑制することが可能である。
一方、油圧室95の必要油圧が所定値以上となり、後進用ブレーキ23のトルク容量が所定値以上となる場合は、クラッチ圧切換バルブ112のスプール113の動作ポジションが、第2の動作ポジションに切り換えられる。すると、油路108のオイルが、リニアソレノイドバルブ130により減圧されることなく、油路125を経て油圧室95に供給されるため、後進用ブレーキ23のトルク容量を十分な値、具体的には、伝達トルクによりスリップすることのない値に制御することが可能である。
特に、スプール113が第2の動作ポジションで停止した場合は、油路126のオイルが油路127および油路128を経由して、モジュレータバルブ97の制御ポート107に供給されて、油路96から油路108に供給されるオイル量が増加する。したがって、油路108の油圧を一層高めることが可能であり、後進用ブレーキ23のトルク容量を確実に高めることが可能である。
なお、油圧室95の油圧が充分に上昇して、油路108の油圧が上昇すると、フィードバックポート106の油圧により、スプール98を図1において上向きに付勢する力が増加して、入力ポート103と出力ポート104との連通面積が狭められる。したがって、油路108の油圧が過剰に上昇することを抑制できる。
つぎに、ドライブポジションが選択された場合を説明する。この場合は、マニュアルバルブ80のスプール81の動作により、入力ポート85と出力ポート87とが遮断されるとともに、出力ポート87とドレーンポート90とが連通される。このため、油圧室95のオイルが油路94を経由してドレーンポート90に排出され、油圧室95の油圧が低下する。したがって、後進用ブレーキ23が解放される。また、スプール81の動作により、入力ポート85と出力ポート86とが連通され、かつ、ドレーンポート89が遮断される。
このドライブポジションが選択された場合は、クラッチ圧切換バルブ112のスプール113の動作ポジションとしては、第1の動作ポジションまたは第2の動作ポジションのいずれを選択してもよい。クラッチ圧切換バルブ112の動作による各ポート同士の連通・遮断の関係は、リバースポジションが選択された場合と同じである。
まず、第1の動作ポジションが選択された場合は、油路108のオイルが、リニアソレノイドバルブ130、油路140,126,91を経由して油圧室93に供給される。その結果、油圧室93の油圧が上昇して前進用クラッチ22が係合される。これに対して、第2の動作ポジションが選択された場合は、油路108のオイルが、油路125,126,91を経由して油圧室93に供給される。その結果、油圧室93の油圧が上昇して前進用クラッチ22が係合される。なお、ドライブポジションが選択された場合は、入力ポート85と出力ポート88とが遮断されるため、第2の動作ポジションが選択された場合でも、油路126のオイルは油路128には供給されない。
また、図1の油圧制御装置59においては、マニュアルバルブ80のスプール81の動作と、クラッチ圧切換バルブ112のスプール113の動作とが独立して(別々に)おこなわれ、かつ、異なる動作がおこなわれる構成となっている。スプール113の動作ポジションは2段階であり、スプール81の動作ポジションは5段階であり、全く異なる。具体的には、スプール113とスプール81とを連動して動作させるような機械的な連結機構は設けられていない。したがって、マニュアルバルブ80の大型化を抑制できる。
さらに、この実施例においては、前進用クラッチ22を係合させる場合における油圧室93の目標油圧よりも、後進用ブレーキ23を係合させる場合における油圧室95の目標油圧の方が高く設定される。その理由は以下のとおりである。まず、前進用クラッチ22を係合させるピストン(図示せず)の推力は、「油圧室93の油圧×ピストンの受圧面積」で求められる。一方、後進用ブレーキ23を係合させるピストン(図示せず)の推力は、「油圧室95の油圧×ピストンの受圧面積」で求められる。そして、ケーシング15内のスペース上の制約から、後進用ブレーキ23のピストンの受圧面積の方が、前進用クラッチ22のピストンの受圧面積よりも狭いため、同じ推力を生じさせるために、油圧室93の目標油圧よりも油圧室95の目標油圧の方を高く設定する必要があるからである。なお、油圧室93,95の目標油圧は電子制御装置34により設定される。
上記構成の油圧制御装置59の制御例を、図3に示すフローチャートに基づいて包括的に説明する。まず、リバースポジションが選択されたか否かが判断され(ステップS1)、このステップS1で肯定的に判断された場合は、リバースポジションで係合される後進用ブレーキ23の油圧室95の油圧が所定油圧以上であるか否かが判断される(ステップS2)。ステップS2で否定的に判断された場合は、クラッチ圧切換バルブ112のスプール113が第1の動作ポジションに停止されて、油路108のオイルが、リニアソレノイドバルブ130および油路140を経由して油圧室95に供給され(ステップS3)、制御ルーチンのスタートにリターンする。
これに対して、ステップS2で肯定的に判断された場合は、クラッチ圧切換バルブ112のスプール113が第2の動作ポジションに停止されて、油路108のオイルが、油路125を経由して油圧室95に供給され(ステップS4)、制御ルーチンのスタートにリターンする。
ここで、実施例の構成とこの発明の構成との対応関係を説明すれば、前後進切換装置8が、この発明の動力伝達装置に相当し、前進用クラッチ22および後進用ブレーキ23が、この発明の複数の摩擦係合装置に相当し、前進用クラッチ22が、この発明の前進用摩擦係合装置に相当し、後進用ブレーキ23が、この発明の後進用摩擦係合装置に相当し、油圧室93,95が、この発明の複数の油圧室に相当し、油圧室93が、この発明の前進用油圧室に相当し、油圧室95が、この発明の後進用油圧室に相当し、マニュアルバルブ80が、この発明の第1の切換弁に相当し、出力ポート104から出力される油圧(油路108の油圧)が、この発明の第1の油圧に相当し、モジュレータバルブ97が、この発明の第1の制御弁に相当し、出力ポート137から出力される油圧が、第2の油圧に相当し、リニアソレノイドバルブ130が、この発明の第2の制御弁およびソレノイドバルブに相当し、クラッチ圧切換バルブ112が、この発明の第2の切換弁および切換弁に相当し、油圧室95が、この発明の所定の油圧室に相当し、油路127,128および中継ポート123,124が、この発明の制御油路に相当し、電子制御装置34が、この発明の第1の油圧設定装置に相当し、クラッチ圧切換バルブ112のスプール113が、この発明の遮断装置に相当し、モジュレータバルブ97のスプール98および制御ポート107が、この発明の第2の油圧設定装置に相当し、油路96が、この発明の所定油路に相当する。
また、インプットシャフト50とシャフト51との間で動力伝達を遮断し、かつ、動力伝達を可能とする機能と、インプットシャフト50に対するシャフト51の回転方向の切り替え機能とが、この発明の動力伝達装置の動力伝達状態の制御に相当し、スプール113を第1の動作ポジションで停止させる制御モードが、この発明の第1の動作モードに相当し、スプール113を第2の動作ポジションで停止させる制御モードが、この発明の第2の動作モードに相当し、ベルト式無段変速機4が、この発明の無段変速機に相当し、前進用クラッチ22および後進用ブレーキ23が、この発明の摩擦係合装置に相当し、前進用クラッチ22が、この発明の前進用摩擦係合装置に相当し、後進用ブレーキ23が、この発明の後進用摩擦係合装置に相当し、エンジン1が、この発明の駆動力源に相当する。また、この発明の「異なる動作」は、第1の切換弁のスプールの動作と、第2の切換弁のスプールとが連動することなく別々に動作可能であること、各スプールの動作位置および動作量が異なることなどを意味する。また、後進用ブレーキ23で滑りが生じることのない油圧が、この発明の「所定の油圧室の油圧が所定値」に相当する。
なお、前進用クラッチの油圧室における目標油圧の方が、後進用ブレーキの油圧室における目標油圧よりも高圧となる構成の車両にも、この発明を適用可能である。この場合、前進用クラッチの油圧室が、この発明の所定の油圧室に相当し、後進用ブレーキの油圧室が、この発明の他の油圧室となる。さらに、動力伝達装置として有段変速機が設けられているとともに、有段変速機が複数の摩擦係合装置(クラッチやブレーキ)の係合・解放により、変速比が制御される構成の車両に、この発明を適用することも可能である。さらにまた、ベルト式無段変速機に代えて、トロイダル式無段変速機を有する車両に、この発明を適用することも可能である。さらに、前後進切換装置としてシングルピニオン形式の遊星歯車機構を設けた車両にも、この発明を適用可能である。さらに、リニアソレノイドバルブに供給される電流値の増減と、出力油圧の高低との関係が、前述したものとは逆である油圧制御装置にも、この発明を適用可能である。
ここで、実施例に記載された特徴的な構成を記載すれば以下のとおりである。すなわち、第1の特徴的な構成は、動力伝達装置の動力伝達状態を制御する複数の油圧室と、所定の動作により前記複数の油圧室のいずれかを選択し、かつ、入力される油圧を、選択された油圧室へ出力する第1の切換弁とを有する動力伝達装置の油圧制御装置において、第1の油圧を出力する第1の制御弁と、この第1の油圧を調圧し、かつ、前記第1の油圧とは異なる第2の油圧を出力する第2の制御弁と、前記第1の切換弁の動作とは異なる動作により、前記第1の油圧または前記第2の油圧のいずれかを選択し、選択された油圧を前記第1の切換弁に入力する第2の切換弁と、この第2の切換弁により選択された第1の油圧を、第1の切換弁により選択された所定の油圧室に供給する場合に、前記第1の油圧を前記第1の制御弁に供給することにより、この第1の制御弁による第1の油圧の調圧機能を制御する制御油路と、前記所定の油圧室の目標油圧を、他の油圧室の目標油圧よりも高圧に設定する電子制御装置(コントローラ)と、前記第1の切換弁により前記第2の油圧を選択し、かつ、この第2の油圧を前記第1の切換弁に入力する場合に、前記制御油路を遮断する遮断装置と、前記第1の油圧が前記制御油路を経由して第1の制御弁に供給される場合に出力される第1の油圧を、前記制御油路が遮断された場合に出力される第1の油圧よりも高圧に設定する油圧設定装置とを有することを特徴とする動力伝達装置の油圧制御装置である。ここで、実施例の電子制御装置34が、第1の特徴的な構成の電子制御装置(コントローラ)に相当し、スプール98および制御ポート107が、第1の特徴的な構成の油圧設定装置に相当する。
また、第2の特徴的な構成は、第1の特徴的な構成を前提とし、前記所定の油圧室の油圧を高める場合における前記第2の切換弁の動作モードとして、前記第2の油圧を選択し、この第2の油圧を前記第1の切換弁に入力する第1の動作モードと、前記第2の油圧が前記所定の油圧室に供給されて、この所定の油圧室の油圧が所定値以上に高まった場合に、前記第1の油圧を選択し、この第1の油圧を前記第1の切換弁に供給するとともに、前記第1の油圧を前記制御油路を経由させて前記第1の制御弁に供給する第2の動作モードとを選択的に切り換えるモード選択装置を有する動力伝達装置の油圧制御装置である。ここで、実施例の電子制御装置34が、第2の特徴的な構成のモード選択装置に相当する。
さらに、第3の特徴的な構成は、動力伝達装置の動力伝達状態を制御する複数の油圧室と、所定の動作により前記複数の油圧室のいずれかを選択し、かつ、入力される油圧を、選択された油圧室へ出力する第1の切換弁とを有する動力伝達装置の油圧制御方法において、第1の油圧を出力する第1の制御弁と、この第1の油圧を調圧し、かつ、前記第1の油圧とは異なる第2の油圧を出力する第2の制御弁と、前記第1の切換弁の動作とは異なる動作により、前記第1の油圧または前記第2の油圧のいずれかを選択し、選択された油圧を前記第1の切換弁に入力する第2の切換弁と、この第2の切換弁により選択された第1の油圧を、第1の切換弁により選択された所定の油圧室に供給する場合に、前記第1の油圧を前記第1の制御弁に供給することにより、この第1の制御弁による第1の油圧の調圧機能を制御する制御油路と、前記所定の油圧室の目標油圧を、他の油圧室の目標油圧よりも高圧に設定する電子制御装置(コントローラ)と、前記第1の切換弁により前記第2の油圧を選択し、かつ、この第2の油圧を前記第1の切換弁に入力する場合に、前記制御油路を遮断する遮断装置と、前記第1の油圧が前記制御油路を経由して第1の制御弁に供給される場合に出力される第1の油圧を、前記制御油路が遮断された場合に出力される第1の油圧よりも高圧に設定する油圧設定装置とを有するとともに、前記所定の油圧室の油圧を高める場合における前記第2の切換弁の動作モードとして、前記第2の油圧を選択し、この第2の油圧を前記第1の切換弁に入力する第1の動作モード選択手段(第1の動作モード選択ステップ)と、前記第2の油圧が前記所定の油圧室に供給されて、この所定の油圧室の油圧が所定値以上に高まった場合に、前記第1の油圧を選択し、この第1の油圧を前記第1の切換弁に供給するとともに、前記第1の油圧を前記制御油路を経由させて前記第1の制御弁に供給する第2の動作モード選択手段(第2の動作モード選択ステップ)とを有する動力伝達装置の油圧制御方法である。ここで、図3に示すステップS2,S3が、第2の動作モード選択手段(第2の動作モード選択ステップ)に相当し、ステップS2,S4が、第2の動作モード選択手段(第2の動作モード選択ステップ)に相当する。なお、特許請求の範囲の各請求項に記載されている「動力伝達装置の油圧制御装置」には「変速機の油圧制御装置」、または「ベルト式無段変速機の油圧制御装置」という概念が含まれる。
1…エンジン(駆動力源)、 2…車輪、 4…ベルト式無段変速機、 8…前後進切換装置、 22…前進用クラッチ、 23…後進用ブレーキ、 34…電子制御装置、 59…油圧制御装置、 80…マニュアルバルブ、 93,95…油圧室、 97…モジュレータバルブ、 98,113…スプール、 107…制御ポート、 112…クラッチ圧切換バルブ、 123,124…中継ポート、 127,128…油路、 130…リニアソレノイドバルブ、 Ve…車両。