この発明で対象とする車両は、トルクを増大させて出力するトルクコンバータと、油圧が供給されて係合することによりそのトルクコンバータを介さずに駆動力源から出力されたトルクを伝達するロックアップクラッチと、供給される油圧に応じて変速比が変化する無段変速機とを備えたものであって、それら無段変速機と係合装置とを備えた動力伝達装置の構成の一例を図2に模式的に示している。図2に示す動力伝達装置は、駆動力源として機能するエンジン1を備えている。このエンジン1は、供給された燃料を燃焼して動力を出力するものであり、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンあるいはLPGエンジンなどである。なお、図2には、エンジン1を駆動力源とした車両を例に挙げて示しているが、電動機を駆動力源とした電気自動車であってもよく、あるいは上記エンジン1と電動機との双方を駆動力源としたハイブリッド車であってもよい。
このエンジン1の出力軸2には、流体流によって動力を伝達するトルクコンバータ3が連結されている。図2に示すトルクコンバータ3は、エンジン1の出力軸2に連結されたフロントカバー4と一体となって回転するポンプインペラー5と、そのポンプインペラー5と対向して配置され、後述する前後進切替機構6に連結されたタービンランナー7とを備えており、ポンプインペラー5が回転することにより内部に供給されたオイルが流動してタービンランナー7を回転させるように構成されている。すなわち、図2に示すトルクコンバータ3は、流体流によって動力を伝達する流体伝動装置である。さらに、入力されたトルクを増幅して出力するために、内部のオイルの流れを一方向に整流するステータ8がポンプインペラー5とタービンランナー7との間に設けられている。このステータ8は、図示しないワンウェイクラッチを介してケース9に連結されている。具体的には、エンジン1から出力された動力によってポンプインペラー5が回転する方向と、タービンランナー7を介してポンプインペラー5にオイルが戻るときにポンプインペラー5に作用させる荷重の方向とが同一方向となるように、ステータ8がワンウェイクラッチを介してケース9に固定されて、流体が流れる方向を制限するように構成されている。
また、図2に示す例では、エンジン1の出力トルクを前後進切替機構6に直接伝達することができるようにロックアップクラッチ10が設けられている。このロックアップクラッチ10は、表裏両面の油圧差に応じて軸線方向に移動するものであって、図2に示す例では、ロックアップクラッチ10のトルクコンバータ3側(図2における左側)の油圧が、エンジン1側(図2における右側)の油圧よりも高いときには、ロックアップクラッチ10がエンジン1側に移動してフロントカバー4と摩擦係合することにより、エンジン1の出力トルクを前後進切替機構6に直接伝達するように構成されている。それとは反対に、ロックアップクラッチ10のトルクコンバータ3側の油圧が、エンジン1側の油圧よりも低いときには、ロックアップクラッチ10がフロントカバー4から離れて解放されることにより、トルクコンバータ3を介してエンジン1の出力トルクを増幅して前後進切替機構6に伝達するように構成されている。なお、図2に示す例では、ポンプインペラー5と一体となって回転することができるようにメカオイルポンプ11が連結されている。
そして、上記トルクコンバータ3やロックアップクラッチ10の出力部材であるタービンランナー7の回転方向と後述するベルト式無段変速機12の入力軸13との回転方向を反転させることができる前後進切替機構6が設けられている。図2に示す前後進切替機構6は、外歯車のサンギヤ14と、内歯車のリングギヤ15と、内周側ピニオンギヤ16と、外周側ピニオンギヤ17と、キャリヤ18とによって構成されたダブルピニオン型の遊星歯車機構を備えている。具体的には、タービンランナー7にサンギヤ14が連結されており、そのサンギヤ14に内周側ピニオンギヤ16が噛み合っている。さらに、内周側ピニオンギヤ16には外周側ピニオンギヤ17が噛み合い、その外周側ピニオンギヤ17にリングギヤ15が噛み合っている。そして、内周側ピニオンギヤ16と外周側ピニオンギヤ17とのそれぞれが自転しつつ、サンギヤ14の回転軸線を中心として公転することができるようにキャリヤ18が各ピニオンギヤ16,17を保持するとともに、そのキャリヤ18が後述するベルト式無段変速機12に連結されている。すなわち、サンギヤ14が入力要素として機能し、キャリヤ18が出力要素として機能し、リングギヤ15が反力要素として機能するように構成されている。
また、係合することによってキャリヤ18とサンギヤ14とを一体として回転させるクラッチC1と、係合することによってリングギヤ15を停止させるブレーキB1とが設けられている。したがって、クラッチC1を係合すると前後進切替機構6は一体となって回転するので、タービンランナー7とベルト式無段変速機12の入力軸13との回転方向が同一となる。また、ブレーキB1を係合すると、サンギヤ14とキャリヤ18とが反対方向に回転する。そのため、ブレーキB1を係合することによって、タービンランナー7とベルト式無段変速機12の入力軸13との回転方向が反転する。さらに、クラッチC1とブレーキB1とを解放することにより、エンジン1とベルト式無段変速機12との動力の伝達が遮断される。すなわち、ニュートラル状態となる。また、上記クラッチC1やブレーキB1は、供給される油圧に応じて伝達トルク容量が制御される摩擦係合装置である。したがって、クラッチC1とブレーキB1とに供給する油圧を制御することによって、前進走行させたり後進走行させたり、あるいはニュートラル状態としたりすることができる。すなわち、クラッチC1やブレーキB1はエンジン1から駆動トルクを伝達するときに係合するものであって、この発明における発進クラッチに相当する。
この前後進切替機構6から伝達された駆動力の回転数やトルクを変化させて出力するベルト式無段変速機12が設けられている。図2に示すベルト式無段変速機12は、前後進切替機構6と連結された入力軸13と、入力軸13と一体となって回転するプライマリープーリ19と、入力軸13と平行に配置された出力軸20と、出力軸20と一体となって回転するセカンダリープーリ21と、プライマリープーリ19とセカンダリープーリ21とに巻き掛けられた無端状のベルト22とによって構成されている。図2に示すプライマリープーリ19は、入力軸13と一体化された円錐状の固定シーブ23と、入力軸13の軸線方向に移動することができかつ入力軸13と一体となって回転することができるように配置された円錐状の可動シーブ24と、その可動シーブ24の背面に付設されかつ供給される油圧に応じた推力を可動シーブ24に作用させる油圧アクチュエータ25とを備えている。また、セカンダリープーリ21は、出力軸20と一体化された円錐状の固定シーブ26と、出力軸20の軸線方向に移動することができかつ出力軸20と一体となって回転することができるように配置された円錐状の可動シーブ27と、その可動シーブ27の背面に付設されかつ供給される油圧に応じた推力を可動シーブ27に作用させる油圧アクチュエータ28とを備えている。そして、ベルト式無段変速機12から出力されたトルクが、ギヤトレーン部29およびデファレンシャルギヤ30を介して駆動輪31,31に伝達される。
また、図2に示すベルト式無段変速機12は、各油圧アクチュエータ25,28の油圧差に応じてベルト22の巻き掛け半径を変更するように構成されている。さらに、各油圧アクチュエータ25,28の少なくともいずれか一方の油圧を制御してベルト22を押圧する荷重を変更することによって、伝達トルク容量を変更するように構成されている。具体的には、ベルト式無段変速機12に入力されるトルクに応じてベルト22が滑らない程度の挟圧力をベルト22に作用させるように油圧アクチュエータ28に供給する油圧を求め、その油圧アクチュエータ28に供給される油圧と、油圧アクチュエータ25に供給される油圧との差圧に応じた変速比が、ベルト式無段変速機12の目標変速比となるように油圧アクチュエータ25に供給する油圧を求めて、それら算出された各油圧に応じて各油圧アクチュエータ25,28に供給される油圧が制御されるように構成されている。
図2に示すように構成された動力伝達装置は、車両が発進するときなど比較的大きな駆動トルクを出力する必要があるときには、ロックアップクラッチ10を解放させてトルクコンバータ3によってトルクを増幅して出力するとともに、ベルト式無段変速機12の変速比を大きい変速比に設定するように構成されている。なお、車両が前進する場合には、クラッチC1が係合され、後進する場合にはブレーキB1が係合される。したがって、大きな駆動トルクを出力する必要がある場合には、ロックアップクラッチ10のトルクコンバータ3側の油圧を排出するとともに、油圧アクチュエータ25の油圧を低下させるように構成され、さらにクラッチC1あるいはブレーキB1の油圧が比較的高い油圧に維持される。
つぎに、図2に示すベルト式無段変速機12やクラッチC1またはブレーキB1あるいはロックアップクラッチ10を制御することができる油圧制御装置の一例について説明する。図1は、その油圧制御装置を説明するための油圧回路図である。図1に示す油圧回路は、図2に示すメカオイルポンプ11などの油圧源から出力された油圧を元圧として各油圧供給部の油圧を制御するように構成されている。具体的には、油圧源から出力された油圧を、アクセル開度などに応じたライン圧PL に調圧する図示しないレギュレータバルブが設けられ、そのレギュレータバルブによって調圧されたライン圧PL が各油圧供給部に供給されるように構成されている。なお、電動機によって駆動される電動オイルポンプを油圧源としていてもよい。
図1に示す例では、油圧アクチュエータ25に油圧を供給して増圧させたりその油圧を排出して減圧させたりする圧力制御弁32が設けられている。この圧力制御弁32は、スプール型の制御弁である。図1に示す圧力制御弁32には、ライン圧PL が供給される入力ポート33と、油圧アクチュエータ25に連通した出力ポート34と、油圧アクチュエータ25の油圧が供給されるフィードバックポート35と、図示しないオイルパンに連通したドレーンポート36と、後述するリニアソレノイドバルブSLPから出力された信号圧PSLP が供給される第1パイロットポート37と、後述する切り替えバルブ38における第3出力ポート39と連通した第2パイロットポート40とが形成されている。また、スプール41を押圧するスプリング42が設けられている。そして、図1に示す圧力制御弁32は、フィードバックポート35から供給されたフィードバック圧と、第1パイロットポート37から供給される信号圧PSLP と、スプリング42のバネ力とに応じて連通させるポートを切り替えるように構成されている。具体的には、フィードバック圧に基づいてスプール41を押圧する荷重と、信号圧PSLP に基づいてスプール41を押圧する荷重とが反対方向に作用し、その信号圧PSLP に基づいてスプール41を押圧する荷重と同一方向にバネ力が作用するように構成されている。また、後述する切り替えバルブ38から第2パイロットポート40に油圧が供給されたときには、その油圧に基づいてスプール41を押圧する荷重がフィードバック圧に基づいてスプール41を押圧する荷重と同一方向に作用するように構成されている。
図1に示す例では、フィードバック圧に基づく荷重がスプール41を下側に押圧し、信号圧PSLP に基づく荷重がスプール41を上側に押圧し、さらにバネ力がスプール41を押圧するように構成されている。そして、スプール41が上側に移動することにより入力ポート33と出力ポート34とを連通させて油圧アクチュエータ25に油圧を供給するように構成され、スプール41が下側に移動することにより出力ポート34とドレーンポート36とが連通して油圧アクチュエータ25のオイルをオイルパンに排出するように構成されている。したがって、図1に示す圧力制御弁32は、信号圧PSLP を増大させることにより油圧アクチュエータ25の油圧を増大させることができ、それとは反対に信号圧PSLP を低下させることにより油圧アクチュエータ25の油圧を低下させることができるように構成されている。なお、第2パイロットポート40に油圧が供給されたときにおける圧力制御弁32の作用については後述する。
また、図1に示す油圧回路には、圧力制御弁32に信号圧PSLP を供給するリニアソレノイドバルブSLPと、ロックアップクラッチ10を係合させるときに信号圧PSLU を出力するリニアソレノイドバルブSLUと、クラッチC1またはブレーキB1に供給する油圧PSLC を出力するリニアソレノイドバルブSLCとが設けられている。これらのリニアソレノイドバルブSLP,SLU,SLCは、供給される電流に応じて開閉するように構成されたものである。また、リニアソレノイドバルブSLPは、電流が供給されていないときに開弁するノーマルオープン型(N/O)のバルブであり、リニアソレノイドバルブSLUおよびリニアソレノイドバルブSLCは、電流が供給されていないときに閉弁するノーマルクローズ型(N/C)のバルブである。なお、リニアソレノイドバルブSLPがこの発明における第1パイロット弁に相当し、リニアソレノイドバルブSLUがこの発明における第2パイロット弁に相当し、リニアソレノイドバルブSLCがこの発明におけるクラッチ圧制御弁に相当する。また、信号圧PSLP がこの発明における第1信号圧に相当し、信号圧PSLU がこの発明における第2信号圧に相当する。
上記各リニアソレノイドバルブSLP,SLU,SLCには、図示しないモジュレータバルブによってライン圧PL を一定の油圧に調圧したモジュレータ圧PM が供給されて、そのモジュレータ圧PM を元圧として出力圧を制御するように構成されている。なお、ロックアップクラッチ10のエンジン1側に連通した油路と、トルクコンバータ3側に連通した油路とのいずれか一方の油路に、所定の油圧に調圧された油圧が供給される油路を連通させるように構成されたロックアップコントロールバルブ43に、リニアソレノイドバルブSLUから出力された信号圧PSLU が供給される。すなわち、ロックアップコントロールバルブ43に供給される信号圧PSLU が増大することにより、ロックアップクラッチ10におけるトルクコンバータ3側の油圧室に所定の油圧に調圧された油圧が供給されてロックアップクラッチ10が係合され、それとは反対にロックアップコントロールバルブ43に供給される信号圧PSLU が低下することによりロックアップクラッチ10におけるエンジン1側の油圧室に所定の油圧に調圧された油圧が供給されてロックアップクラッチ10が解放される。
そして、リニアソレノイドバルブSLUから出力された信号圧PSLU は、切り替えバルブ38を介してロックアップコントロールバルブ43に供給されるように構成され、リニアソレノイドバルブSLCから出力された油圧PSLC も同様に切り替えバルブ38を介してクラッチC1またはブレーキB1に供給されるように構成されている。なお、切り替えバルブ38とクラッチC1またはブレーキB1との間には、図示しないシフトレバーに応じて連通させる油路を切り替える図示しないマニュアルバルブが設けられており、シフトレバーの操作に応じてクラッチC1とブレーキB1とのいずれか一方に油圧PSLC を供給するように構成されている。
ここで、図1に示す切り替えバルブ38の構成について説明する。図1に示す切り替えバルブ38は、各リニアソレノイドバルブSLP,SLU,SLCのいずれかがフェールしたときに機能するように構成されたフェールセーフバルブである。図1に示す切り替えバルブ38は、スプール弁であって、リニアソレノイドバルブSLPから出力される信号圧PSLP が過剰に増大したときに連通させる油路を切り替えるように構成されている。具体的には、信号圧PSLP が供給されるパイロットポート44が形成されていて、そのパイロットポート44から供給された信号圧PSLP に基づいてスプール45を押圧する荷重と、その荷重がスプール45に作用する方向に対向してバネ力が作用するようにスプリング46が設けられている。そして、変速する際にリニアソレノイドバルブSLPから出力される信号圧PSLP の最大値よりも大きい信号圧PSLP がパイロットポート44に供給されたときに、その信号圧PSLP に基づいてスプール45を押圧する荷重がスプリング46がスプール45を押圧する荷重よりも大きくなったときにスプール45が移動して連通するポートを切り替えるように構成されている。
なお、図3には、リニアソレノイドバルブSLPから出力される信号圧PSLP と、油圧アクチュエータ25の油圧との関係を示している。図3に示すようにリニアソレノイドSLPから出力される信号圧PSLP に比例して油圧アクチュエータ25の油圧が変化するように構成されている。そして、変速する際にリニアソレノイドバルブSLPから出力される信号圧PSLP は、図3に示すP1までの油圧になるように構成されている。その油圧P1よりも高く、リニアソレノイドバルブSLPから出力することができる最大の油圧P3よりも低い油圧P2を切り替えバルブ38の切り替え圧となるようにバネ力が設定されている。
また、図1に示す切り替えバルブ38には、リニアソレノイドバルブSLUから出力された信号圧PSLU が供給される第1入力ポート47と、リニアソレノイドバルブSLCから出力された油圧PSLC が供給される第2入力ポート48と、モジュレータ圧PM が供給される第3入力ポート49と、ロックアップコントロールバルブ43に連通した第1出力ポート50と、クラッチC1またはブレーキB1に連通した第2出力ポート51と、圧力制御弁32に形成された第2パイロットポート40に連通した第3出力ポート39と、オイルパンに連通した第1および第2ドレーンポート52,53とが形成されている。なお、図1に示す例では、モジュレータ圧PM をクラッチC1またはブレーキB1に供給するように構成した例を示しているが、クラッチC1またはブレーキB1が係合することができる程度の油圧を供給することができればよく、モジュレータ圧PM に限らず他の油圧源から第3入力ポート49に油圧を供給するように構成されていてもよい。
このように構成された切り替えバルブ38は、変速比を設定しているとき、具体的には、油圧アクチュエータ25の油圧を制御する際に出力される信号圧PSLP の範囲内(図3における油圧P1以下)でリニアソレノイドバルブSLPから信号圧PSLP が出力されているとき(以下、通常時と記す場合がある。)には、図1に示す左側の位置にスプール45が移動している。そのため、通常時には、第1入力ポート47と第1出力ポート50とが連通し、第2入力ポート48と第2出力ポート51とが連通し、第3出力ポート39と第1ドレーンポート52とが連通する。また、第3入力ポート49と第2ドレーンポート53とは閉じられる。したがって、通常時には、第1入力ポート47と第1出力ポート50とが連通するので、リニアソレノイドバルブSLUから出力された信号圧PSLU がロックアップコントロールバルブ43に供給され、第2入力ポート48と第2出力ポート51とが連通するので、リニアソレノイドバルブSLCから出力された油圧PSLC がクラッチC1またはブレーキB1に供給される。すなわち、リニアソレノイドバルブSLUから出力された信号圧PSLU に応じてロックアップクラッチ10が係合したり解放したりすることができ、リニアソレノイドバルブSLCから出力された油圧PSLC に応じてクラッチC1またはブレーキB1が係合したり解放したりすることができる。さらに、第3出力ポート39と第1ドレーンポート52とが連通するので、圧力制御弁32における第2パイロットポート40から油圧が排出される。
一方、リニアソレノイドバルブSLPから出力される信号圧PSLP が高くスプール45が図1に示す下側に移動すると、第1入力ポート47と第3出力ポート39とが連通し、第3入力ポート49と第2出力ポート51とが連通し、第1出力ポート50と第2ドレーンポート53とが連通する。また、第1ドレーンポート52と第2入力ポート48とが閉じられる。したがって、スプール45が図1に示す下側に移動したときには、リニアソレノイドバルブSLUの信号圧PSLU が圧力制御弁32に形成された第2パイロットポート40に供給され、モジュレータ圧PM がクラッチC1またはブレーキB1に供給される。また、ロックアップコントロールバルブ43に供給された信号圧PSLU が第2ドレーンポート53から排出される。そのため、スプール45が図1に示す下側に移動したときには、クラッチC1またはブレーキB1が係合し、ロックアップコントロールバルブ43が切り替わることによりロックアップクラッチ10が解放される。
そして、切り替えバルブ38が図1に示す下側に移動するときには、圧力制御弁32に供給される信号圧PSLP が、通常時に供給される信号圧PSLP よりも高いので、スプール41が図1に示す上側に押圧される荷重が増大する。そのような場合には、油圧アクチュエータ25に油圧が供給されて変速比が小さくなるように変速してしまう可能性があるため、切り替えバルブ38を介してリニアソレノイドバルブSLUから信号圧PSLU が第2パイロットポート40に供給される。したがって、切り替えバルブ38が図1に示す下側に移動したときには、リニアソレノイドバルブSLUから出力する信号圧PSLU に応じて油圧アクチュエータ25の油圧を制御することができる。言い換えると、リニアソレノイドバルブSLUによって変速比を制御することができる。
ここで、図1に示すリニアソレノイドバルブSLPを閉じること、言い換えるとリニアソレノイドバルブSLPから出力される信号圧PSLP を低下させることができないフェールが生じたときの作用について説明する。なお、リニアソレノイドバルブSLPは、上述したようにノーマルオープン型のバルブであるので、ここで説明するフェールには、リニアソレノイドバルブSLPに電流を供給することができない場合や、そのリニアソレノイドバルブSLPの出力ポートを閉じる弁体がスタックした場合などを含む。また、リニアソレノイドバルブSLPを閉じることができないフェールが生じた場合には、目標変速比よりも変速比が小さくなるように圧力制御弁32が作用するので、ベルト式無段変速機12の入力側の回転数と出力側の回転数とをセンサなどによって検出して現在の変速比を判断することにより、フェールが生じたことを判断することができる。また、上述したように切り替えバルブ38が図1に示す下側に移動するとロックアップクラッチ10が解放されるので、エンジン回転数とベルト式無段変速機12の入力側の回転数あるいはタービン回転数との絶対値が一致していないときに、フェールが生じたことを判断することができる。
リニアソレノイドバルブSLPを閉じることができないときには、そのリニアソレノイドバルブSLPを介してモジュレータ圧PM が圧力制御弁32における第1パイロットポート37と切り替えバルブ38におけるパイロットポート44とに供給される。したがって、切り替えバルブ38は図1に示す下方側に移動する。そのため、上述したようにロックアップクラッチ10は解放され、クラッチC1またはブレーキB1は係合される。そして、圧力制御弁32の第2パイロットポート40には、リニアソレノイドバルブSLUから出力された信号圧PSLU が供給される。その結果、上述したようにリニアソレノイドバルブSLPを閉じることができないフェールが生じていることを判断したときには、リニアソレノイドバルブSLUから出力する信号圧PSLU を目標変速比に応じて油圧アクチュエータ25の油圧が変化するように制御する。なお、図1に示す例では、第2パイロットポート40から供給された油圧が作用するスプール41の受圧面積が、第1パイロットポート37から供給された油圧が作用するスプール41の受圧面積よりも小さく形成されているが、第2パイロットポート40から供給された油圧が作用するスプール41の受圧面積を、第1パイロットポート37から供給された油圧が作用するスプール41の受圧面積よりも大きく形成してもよく、それらの面積差は、各ポート37,40から供給される油圧に応じて適宜変更すればもよい。
図1に示すように構成された切り替えバルブ38を設けることによって、リニアソレノイドバルブSLPを閉じることができないフェールが生じた場合であっても、変速比を変化させることができる。言い換えると、変速比を大きくすることができる。そのため、再発進時あるいはリンプホーム走行時などに要求される大きな駆動トルクを出力することができる。また、そのようなフェールが生じたときに、ロックアップクラッチ10が解放されるので、エンジンストールが生じてしまうことを抑制もしくは防止することができ、さらに、トルクコンバータ3を介してエンジン1の出力トルクを伝達することにより駆動トルクを増大させることができる。そのため、再発進時あるいはリンプホーム走行時に要求される駆動トルクをより一層増大させて出力することができる。そして、クラッチC1またはブレーキB1には、モジュレータ圧PM が供給されて係合状態を維持させるので、ニュートラル状態となってしまうことを抑制もしくは防止することができる。
また、リニアソレノイドバルブSLUは、ノーマルクローズ型のものであるが、出力ポートを閉じる弁体がスタックしたときには、リニアソレノイドバルブSLUから高い油圧(モジュレータ圧PM )が出力され続ける可能性がある。そのようなフェールが生じたときの作用について説明する。なお、リニアソレノイドバルブSLUの出力ポートを閉じることができないフェールが生じると、ロックアップクラッチ10が係合し続けるので、ロックアップクラッチ10を解放する信号をリニアソレノイドバルブSLUに出力したときに、エンジン回転数とベルト式無段変速機12の入力側の回転数あるいはタービン回転数の絶対値とが一致している場合に、フェールが生じていると判断することができる。また、停車時にエンジンストールが生じた場合に、フェールが生じていると判断することができる。このようにフェールが生じていることが判断された状態で発進する時には、リニアソレノイドバルブSLPから出力される信号圧PSLP を増大させて切り替えバルブ38におけるスプール45を図1に示す下側に移動させる。そのように切り替えバルブ38を切り替えることにより、ロックアップコントロールバルブ43に供給された油圧が排出されてロックアップクラッチ10が解放される。また、クラッチC1またはブレーキB2には、モジュレータ圧PM が供給されて係合状態を維持する。さらに、リニアソレノイドバルブSLPから出力される信号圧PSLU が高いので、圧力制御弁32が油圧アクチュエータ25の油圧を低下させるように作用する。すなわち、ベルト式無段変速機12の変速比が大きくなるように変速される。
そのため、リニアソレノイドバルブSLUが上述したようにフェールしたときに、リニアソレノイドバルブSLPから出力する信号圧PSLP を増大させて切り替えバルブ38を切り替えることにより、ロックアップクラッチ10を解放することができ、その結果、エンジンストールが生じることを抑制もしくは防止することができる。また、ベルト式無段変速機12の変速比が大きくなるように変速されるので、発進時に要求される駆動トルクを出力することができる。そして、クラッチC1またはブレーキB1には、モジュレータ圧PM が供給されて係合状態を維持させるので、ニュートラル状態となってしまうことを抑制もしくは防止することができる。なお、車速が増大して要求される駆動トルクが低下した後に、リニアソレノイドバルブSLPから出力する信号圧PSLP を通常時と同様に目標変速比に基づいて制御することにより、切り替えバルブ38が通常時の位置に戻るので、ロックアップクラッチ10を係合させるとともに、クラッチC1またはブレーキB1にリニアソレノイドバルブSLCから油圧PSLC を供給して係合および解放を制御することができる。また、その場合には、変速比を目標変速比に追従させて変化させることができるので、通常の走行状態と同様に走行させることができる。
さらに、図1に示すように構成された油圧回路は、リニアソレノイドバルブSLCが開くことができないフェールが生じたとき、言い換えるとリニアソレノイドバルブSLCからクラッチC1またはブレーキB1に油圧を供給することができないフェールが生じたときに切り替えバルブ38を切り替えるように構成されている。なお、ここでのフェールには、リニアソレノイドバルブSLCに電流を供給することができない場合やリニアソレノイドバルブSLCの出力ポートを閉じる弁体がスタックした場合を含む。このようなフェールが生じた場合には、クラッチC1またはブレーキB1が解放されてニュートラル状態となるので、図2に示す動力伝達装置では、タービン回転数とベルト式無段変速機12の入力側の回転数とに差がある場合には、リニアソレノイドバルブSLCが開くことができないフェールが生じていると判断することができる。
そのようなフェールが生じた場合には、まず、リニアソレノイドバルブSLPから出力する信号圧PSLP を増大させて切り替えバルブ38に設けられたスプール45を図1における下側に移動させる。すると、クラッチC1またはブレーキB1には、切り替えバルブ38を介してモジュレータ圧PM が供給されるので、クラッチC1またはブレーキB1が係合する。また、ロックアップコントロールバルブ43には、リニアソレノイドバルブSLUから油圧が供給されないので、ロックアップクラッチ10が解放される。さらに、圧力制御弁32における第2パイロットポート40には、切り替えバルブ38を介してリニアソレノイドバルブSLUから信号圧PSLU が供給される。したがって、リニアソレノイドバルブSLUから出力される信号圧PSLU を増大させることによってベルト式無段変速機12の変速比を増大させることができ、またその信号圧PSLU を低下させることによってベルト式無段変速機12の変速比を低下させることができる。
そのため、リニアソレノイドバルブSLCが上述したようにフェールしたときに、リニアソレノイドバルブSLPから出力する信号圧PSLP を増大させて切り替えバルブ38を切り替えることにより、クラッチC1またはブレーキB1を係合させることができる。そして、ロックアップクラッチ10を解放することにより、エンジン1の出力トルクを増大させて出力することができるので、駆動トルクを増大させることができる。さらに、リニアソレノイドバルブSLUの信号圧PSLU を制御することによりベルト式無段変速機12の変速比を制御することができるので、車両に要求される走行状態に追従して変速比を変化させることができる。言い換えると、駆動トルクが不足することなどを抑制もしくは防止することができる。なお、車速が増大して要求される駆動トルクが低下した後に、リニアソレノイドバルブSLUから出力する信号圧PSLU を低下させて変速比を低下させることができるので、通常の走行状態と同様に走行させることができる。
図1に示す油圧回路では、各リニアソレノイドバルブSLP,SLU,SLCのいずれか一つのリニアソレノイドバルブがフェールしたとき、より具体的には、比較的大きな駆動トルクを出力することができないようなフェールがいずれかのリニアソレノイドバルブに生じたときであっても、切り替えバルブ38が切り替わることによって、エンジン1から出力されたトルクを増大させて駆動輪31,31に伝達することができる。すなわち、図1に示すように切り替えバルブ38を設けることによって、上述したように各リニアソレノイドバルブSLP,SLU,SLCのいずれか一つのリニアソレノイドバルブがフェールしたときに、その切り替えバルブ38のみを設けることにより駆動トルクを出力するようにフェールセーフさせることができる。
なお、上述した例では、ベルト式無段変速機12を備えた車両の油圧制御装置を例に挙げて説明したが、この発明で対象とすることができる車両は、供給される油圧に応じて変速比を変化することができる無段変速機を備えていればよく、したがって、パワーローラの傾斜角度を変化させるために油圧を制御するように構成されたトロイダル式無段変速機を対象としてもよい。また、上記クラッチC1やブレーキB1は、要はエンジンと駆動輪とのトルクの伝達を遮断することができる、いわゆる発進クラッチであればよいので、例えば、無段変速機の出力側に発進クラッチを設けた車両の場合には、その発進クラッチを制御するリニアソレノイドバルブがフェールしたときに、切り替えバルブ38を切り替えてモジュレータ圧PM など比較的高い油圧を発進クラッチに供給するように構成してもよい。