JP4230157B2 - ワイヤ放電加工機のワイヤ張力制御装置 - Google Patents

ワイヤ放電加工機のワイヤ張力制御装置 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、従来よりも張力制御を高性能化させたワイヤ放電加工機のワイヤ張力制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
ワイヤ放電加工機は、ブレーキ部から回収部に向かって常に新たなワイヤ電極を繰り出しつつワイヤ電極と被加工体との放電により被加工体を加工するものであり、加工品質や加工精度を上げるためにはきめ細かなワイヤ電極の張力制御が必要となる。従来のワイヤ放電加工機にあっては、例えば特開平10−309631号公報に示されるように、ワイヤ走行時の張力変動を低減させるべく、ワイヤ張力を検出してブレーキモータであるサーボモータで張力を一定にするような制御を施している。
【0003】
図20及び図21は、典型的な従来例である特開平10−309631号公報に記載するワイヤ放電加工機及び張力制御装置を示し、この張力制御はNC装置P10に設定されたワイヤ張力設定信号TSに張力検出器P11の出力信号が追従するように行われている。図20にあって、ワイヤ電極P1はブレーキプーリP4A及びサーボモータP4Bからなるブレーキ部P4より、引き取りプーリP6A及び引き取りモータP6Bからなる回収部P6に至る経路を辿る。途中経路のブレーキプーリP4AとガイドプーリP3Bとの間には張力検出器P11及び被加工体P8を挟むように放電加工部分P5を形成する一対の位置決めガイドP7が存在する。ここで、ブレーキプーリP4Aへは、ワイヤボビンP2からプーリP3Aを介してワイヤ電極P1が送給される。また、張力制御系として、引取りモータP6BのサーボドライバP6Cに速度指令が出されるNC装置P10からは、ワイヤ走行開始信号、ワイヤ速度設定値SS、張力設定信号TSが張力制御装置P13に送られる。張力制御装置P13では、上記ワイヤ走行開始信号、ワイヤ速度設定値SS、張力設定信号TSの他、張力検出器P11によって検出され増幅回路P12にて増幅された張力検出信号TMが入力され、サーボドライバP4Cに速度指令SCが出力される。サーボドライバP4Cでは、張力制御装置P13からの速度指令SCとサーボモータP4Bの速度検出器からのフィードバック速度検出信号とによって、サーボモータP4Bに電流指令を送る。この結果、引き取りモータP6Bのモータ速度に基づくワイヤ電極P1の走行スピードに対して、ブレーキモータであるサーボモータP4Bが速度制御を行いワイヤ電極P1に一定の張力を与えている。
【0004】
図21は、図20の張力制御装置の回路ブロックを示しており、前述のNC装置P10からの張力設定信号TSと張力検出器P11からの張力検出信号TMとの偏差をとり張力補償信号TCを出力する加算回路P15、例えばノッチフィルタ等からなり張力補償信号TCの位相遅れ補償のためのフィルタ装置P18、フィルタ装置P18による出力とこのフィルタ装置P18を経ない加算回路P15の出力TCとを切り替える切り替え回路P20、制御ゲインを得る増幅回路P16を有し、更に、ワイヤ走行信号を前提として張力検出信号TMが入力され、この張力検出信号TMを高速フーリエ変換(FFTという)して周波数成分を取り出し共振周波数を得てフィルタ選定・調整指令を前述のフィルタ装置P18に出力し、及び前述の切り替え回路P20に切り替え信号を出力するフィルタ決定演算指令装置P19を有し、また、NC装置P10から得られあるいはプログラム等の読み出しにより得られたワイヤ速度設定値SSと張力設定信号TSとが入力され、ワイヤ電極P1の基準速度指令信号を得る基準速度設定回路P14を有する。そして、この基準速度設定回路P14の基準速度指令信号と増幅回路P16で増幅された張力補償信号との偏差をとり、張力を加味した速度指令SCを出力する加算回路P17を有する。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、図20及び図21にて示すワイヤ放電加工機及び張力制御装置にあっては、ワイヤ放電加工機の電源を入れワイヤ電極P1を指し回し自動結線を行った後引き取りモータP6B及びサーボモータP4Bを駆動し張力制御を開始した時、ワイヤ電極P1の初期張力に関わらず、ワイヤ張力設定値すなわち張力設定信号TSが一定値で与えられることになる。このとき、ワイヤ電極P1の初期張力とワイヤ張力設定値との誤差が大きいと、加算回路P15への入力偏差大きくなり、加算回路P17の出力速度指令SCが過小となってブレーキ部P4のサーボモータP4Bへの電流指令がステップ状に落ち込み、ワイヤ張力設定値に対して張力検出器P11による張力検出値はオーバーシュート(図4(a)参照)を生じてしまう。例えば、φ0.1mm以下のワイヤ電極P1のように破断張力の小さいものを用いて張力制御をした場合には、張力制御の起動に伴いワイヤ電極P1の断線が生じやすいという問題があった。
【0006】
また、図21に示す張力制御装置においては、図20に示す引き取りモータP6BとサーボモータP4Bとを駆動し加工工程に入るまでの時間を短縮するためにワイヤ回収動作と張力制御の起動とを同時に行おうとした場合、すなわち図20に示すNC装置P10からのサーボドライバP6Cへの速度指令による引取りモータP6Bの駆動と、図21に示す張力設定値TS、ワイヤ速度設定値SS及びワイヤ走行開始信号、更には張力検出信号TMに基づく張力制御装置P13からのサーボドライバP4Cへの速度指令SCと速度検出信号とに基づくサーボモータP4Bの駆動とを同時に行おうとした場合、前述の張力制御のオーバーシュートの発生に加えてワイヤ回収動作に対する張力制御の追従遅れが重なり過剰な張力が発生する程度が極めて高くなり、φ0.1mm以下のワイヤ電極を用いた場合に起動時の断線を生じてしまうという問題もあった。
【0007】
また、図20及び図21に示す従来のワイヤ放電加工機及び張力制御装置においては、回収ローラP6AとブレーキプーリP4Aとの間の相対距離が被加工体P8とワイヤ電極P1との間の相対位置によって変化するような機械構造(例えばY軸駆動系)に対しても、引き取りモータP6Bへは常に一定の速度指令信号が与えられているため、回収ローラP6AとブレーキプーリP4Aとの間の相対距離変化に基づく軸移動に伴いワイヤ電極P1のたるみや引っ張りが発生し、これによってワイヤ電極P1の断線あるいは被加工体P8の加工面の筋つきが発生してしまうという問題もあった。
【0008】
また、図21に示す従来の張力制御装置においては、すべてのワイヤ電極P1に対して増幅回路P16の制御ゲインを固定にしているので、ワイヤ電極P1の変化によって固有振動数が低下すると振動が発生しやすくなるという問題点があった。この固有振動数の低下よって生じる振動を抑える方策として、張力フィードバックループ内のフィルタ装置P18に設けたノッチフィルタのノッチ周波数を張力検出値TMのFFTによる周波数分析で推定するようにもできる。しかしながら、このような方法は、工場内の環境が非常に悪い場合、電磁ノイズや電源の基本高調波などによる誤動作が発生する。また、FFTによる周波数分析のためのデータを得るべく、不適当なノッチ周波数で制御される張力制御装置によってワイヤ電極を走行させる必要が生じることから、例えばφ0.03mmのワイヤ電極のような二百グラム程度の張力で破断してしまうようなワイヤ電極P1では、周波数分析のためのデータを得るためにワイヤを走行させた時点で破断が生じるという問題点があった。
【0009】
最近では、電源や駆動系の位置決め性能の向上、φ0.1mm以下のワイヤ電極を用いた加工の精度向上、加工時間短縮についての要求が高まっており、張力制御装置の高性能化はワイヤ放電加工機の重要な課題となっている。
【0010】
この発明は上記に鑑みてなされたもので、前述のオーバーシュートや張力制御の追従遅れによる断線、軸移動に伴う断線や加工面の筋つき、電磁ノイズ等による誤動作の発生、データを得るための試運転による断線を防止して、張力制御を高性能化したワイヤ放電加工機のワイヤ張力制御装置を得ることを目的とする。
【0019】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、この発明にかかるワイヤ張力制御装置は、ブレーキ部のブレーキモータの速度検出信号とワイヤ電極から検出した張力検出信号、NC装置からの張力設定値及び張力制御開始信号とに基づいて生成されるブレーキ部のブレーキモータの電流指令により回収部の回収モータの速度指令に対して張力制御を行いつつブレーキプーリと回収ローラ間で張力を付与した状態でブレーキプーリと回収ローラ間にワイヤ電極を走行させるワイヤ放電加工機のワイヤ張力制御装置において、前記ブレーキプーリと前記回収ローラとの間の相対距離が時間変化するワイヤ放電加工機の前記ブレーキプーリと前記回収ローラとの間の相対速度を検出し、この検出した情報に基づいて前記回収モータへの速度指令を生成することを特徴とする。
【0020】
この発明によれば、回収部とブレーキ部の相対距離が被加工体及びワイヤ電極間の位置決めによって変化するようなワイヤ放電加工機においては、位置決め時の回収部とブレーキ部の相対距離の急峻な変化があったとしても、回収部の動きを上記相対距離の変化に応じて速度を変化させることで、ワイヤ電極の引っ張りやたるみを低減できるので、断線、加工時の筋つきを防止できる利点がある。
【0022】
この発明によれば、ユーザがNC装置に与えたワイヤ電極の線径や材質などの情報から張力制御ゲインを決定するようにしているので、常に適正な制御ゲインによる運転が可能であり、工場内の電気ノイズによるFFTの誤動作も無くなり、従来より安定したワイヤ張力制御装置が構成できる利点がある。
【0023】
つぎの発明にかかるワイヤ張力制御装置は、上記の発明において、張力制御ゲインを、張力制御系の開ループ伝達特性の交差周波数がワイヤ走行系の固有振動数の1/5以下になるように与えたことを特徴とする。
【0024】
この発明によれば、張力制御系の開ループ伝達特性における交差周波数がワイヤ電極の固有振動数の1/5以下に設定するように張力制御ゲインを与えているので、十分な位相余裕とゲイン余裕が確保でき、従来の装置に比べて固有振動数推定誤差による性能劣化がなく、固有振動数の数Hzの変動に対しても従来装置よりは性能劣化の程度を少なくできる利点がある。
【0025】
【発明の実施の形態】
以下に図1〜図19を参照して、この発明にかかる好適な実施の形態を詳細に説明する。なお、この発明にかかる図1〜図19では、既に図20、図21にて説明した部分は、説明を簡略化する。
【0026】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1の前提となるワイヤ放電加工機の全体構成である。ワイヤ電極1は、ワイヤボビン2からガイドプーリ3A、ブレーキ部4のブレーキプーリ4Aなどの複数のプーリを経由して、一対の位置決めガイド7が所望間隔を置いて配置された加工部分5に供給され、更に下部ローラ3Bを経由して回収部6の回収ローラ6Aを経て回収されるようになっている。ブレーキプーリ4Aと下部ローラ3Bとの間は、一対の位置決めガイド7間の被加工体8による加工部分5にてワイヤ電極1が所定の直線状態を維持して走行するように、張力がワイヤ電極1に付与されるようになっている。
【0027】
一方、回収部6には回収モータ6Bとサーボドライバ6Cが備えられ、ブレーキ部4にはブレーキモータ4Bとサーボドライバ4Cが備えられ、張力制御装置12からサーボドライバ6Cには速度指令信号、サーボドライバ4Cには電流指令信号がそれぞれ送られる。張力制御装置12には、コンピュータ制御のNC装置9からワイヤ走行開始信号、ワイヤ速度設定値、張力設定値、張力制御開始信号、自動結線識別信号が入力され、また張力変動検出のための張力検出器10及び増幅回路11からの張力検出信号が入力され、更にはブレーキモータ4Bの速度検出器からの速度検出信号が入力される。このワイヤ放電加工機は、回転速度が制御された回収モータ6Bを有する回収部6によって走行移動するワイヤ電極1に対し、ブレーキプーリ4Aを介してブレーキモータ4Bによる制動力を付与するようになっている。ブレーキプーリ4Aから引き出されるワイヤ電極1は、一対の位置決めガイド7、7間の加工部分5において、ブレーキプーリ4Aの偏心やブレーキモータ4Bによる制動力の変動などの外乱などによってワイヤ電極1に張力変動を生じる。このため、ブレーキモータ4Bのサーボドライバ4Cに電流指令値を回収モータ6Bのサーボドライバ6Cに速度指令値をそれぞれ出力する張力制御装置12にてブレーキモータ4Bを制御して、ワイヤ電極1の張力検出器10からの張力検出値とNC装置9からの張力設定値との偏差を減少させている。
【0028】
図2は、張力制御装置12の詳細ブロック図を示す。図2において、図1にも示すNC装置からのワイヤ走行開始信号、ワイヤ速度設定値、張力設定値、張力制御開始信号は、指令値生成処理部13に入力され、自動結線識別信号は、PI制御器14に入力される。ここで、指令値生成処理部13はNC装置9の設定入力またはプログラムなどの読み出しによって得られるワイヤ電極1のワイヤ速度設定値、張力設定値、ワイヤ走行開始信号、張力制御開始信号、及び張力検出器10からの張力検出信号に基づきブレーキモータ速度指令、回収モータ速度指令、及び張力指令信号を生成する。PI制御器14は、指令値生成処理部13からの張力指令信号と張力検出器10からの張力検出信号とを差動演算した偏差信号を比例倍および積分して比例倍して張力制御信号を得る演算器で、自動結線識別信号にて制御される。PI制御器14で算出した張力制御信号は、指令値生成処理部13の出力であるブレーキモータの速度指令を増幅部15で増幅した信号と、フィードバックされたブレーキモータ速度検出信号を増幅部16で増幅した信号とを加算(あるいは減算)することで得られた信号に加算(あるいは減算)することで、ブレーキモータ4Bへの電流指令としてサーボドライバ4Cに出力するようになっている。なお、PI制御器14は、自動結線識別信号によってワイヤ電極1の自動結線作業中かどうかを判別し、自動結線作業中であればPI制御器14の出力は零、自動結線作業中でなければ(張力制御中であれば)PI制御器14は入力偏差信号を比例倍および積分して比例倍して出力するようになっている。
【0029】
次に、図2の指令値生成処理部13の詳細な動作について説明する。指令値生成処理部13は張力指令信号、ブレーキモータ速度指令、回収モータ速度指令の3つの信号を生成するので、これらの信号を生成する3つのプログラムの内容を以下に順次示す。
【0030】
図3は、指令値生成処理部13の張力指令信号を生成するためのプログラムのフローチャートである。まず、プログラムを開始し(ステップSt1(以下「ステップ」を省略する))、NC装置9からの張力制御開始信号と張力設定値Tcと張力検出器10からの張力検出信号Twとを読み取る(St2)。次に、St3にて張力制御開始信号がONを示していればSt5へ進み、張力制御開始信号がOFFを示していればSt4へ進む。ここで、張力制御開始信号がOFFのときは、ブレーキモータ4Bへ電圧をかけないようにつまりブレーキモータ4Bがフリーとなるようにサーボドライバ4Cをハード制御している。そして、St4では、計数を開始している時間カウンタのカウント値tcntを零に初期化し、張力指令値T*に張力検出値Twを設定し、張力検出値の初期値Tw0に張力検出値Twを保存して、St2へ戻る。またSt3にて、張力制御開始信号がONのときは、St5にて制御周期tsと時間カウンタtcntとの積から現在の時間ts・tcntを計算し、この値ts・tcntがあらかじめ設定しておいた起動時間Tsよりも大きければ前述したオーバーシュートや開始時での張力制御の追従遅れの危険性はなくなるのでSt7へ進み、張力指令値T*を張力設定値Tcとする。このとき、ワイヤ放電加工機の張力制御は通常の制御となり、PI制御器14の次段に位置する加算装置から出力される電流指令値CCに基づいて、サーボドライバ4Cでブレーキモータ4Bが制御される。また、St5にて現在時間ts・tcntが起動時間Tsを経過していないときはSt6へ進む。St6では、制御周期tsと時間カウンタtcntとの積から得られた現在の時間tを用いて、次式(1)によって張力指令値T*を算出する。
【0031】
*=(Tc−Tw0)・f(t)+Tw0・・・(1)
すなわち、張力検出値の初期値Tw0に、張力設定値Tcと張力検出値の初期値Tw0との差分をf(t)にて変化させた値を加えたものを、張力指令値T*とするものである。そしてこの関数f(t)がステップ状ではなく時定数の遅い徐々に変化するものであれば前述のオーバーシュートや開始時での張力制御の追従遅れの危険性は回避できる。例えば関数f(t)としては、張力制御開始時の張力検出値Tw0からNC装置9からの張力設定値Tcまで少なくとも2サンプリング周期以上で到達するように与えた関数またはデータテーブルの数値列があげられる。また、St6では、時間カウンタのカウント値tcntに+1加算してカウント値を更新する。St7では、張力指令信号T*を出力し、St2へ戻る。
【0032】
例えばf(t)が張力設定値Tcまで少なくとも2サンプリング周期となるような場合、初期張力をTw0を零、張力設定値をTc、1サンプリング時間後の張力指令値をTc/2、2サンプリング時間後の張力指令値をTcとすれば、張力制御開始後の誤差は、次のようになる。
【0033】
1サンプリング時間後
Δe=Tc/2
2サンプリング時間後
Δe≒Tc
ここでは、張力制御系の応答がサンプリング時間に対して十分遅いものとしている。
またこのとき、図2のPI制御器14の2サンプリング時間後の張力制御信号は次式(2)のようになる。
【0034】
2サンプリング時間後のPi制御器14の張力制御信号
=Kp・Δe+Ki・∫Δedt
=Kp・Tc+Ki・Tc/2・ts+Ki・Tc・ts ・・・(2)
なおここで、Kp、Kiは張力制御ゲインである。
【0035】
比較のためにf(t)がステップ状に変化することとした場合には、次のようになる。
1サンプリング時間後
Δe=Tc
2サンプリング時間後
Δe=Tc
このときの2サンプリング時間後のPI制御器14の出力である張力制御信号は次式(3)で得られる。
【0036】
2サンプリング時間後のPI制御器14の張力制御信号
=Kp・Δe+Ki・∫Δedt
=Kp・Tc+Ki・Tc・ts+Ki・Tc・ts ・・・(3)
式(2)は式(3)よりもKi・Tc/2・tsだけ張力制御信号が小さくできている。
【0037】
具体的に、張力制御開始初期では、ブレーキモータ4B、回収モータ6Bとも停止しているとすると、ブレーキモータ4Bの速度指令およびブレーキモータ速度検出信号は零となるので、式(2)、式(3)の張力制御信号は張力制御開始直後の電流指令になる。ここで、2サンプリング時間にて二段階で張力指令値が張力設定値に到達する場合の張力制御信号については、張力制御系が十分追従できる時間でゆるやかに張力指令値T*を張力制御開始時の初期張力から増加させれば、PI制御器14の張力制御信号の発生も緩やかになるので、ブレーキモータ4Bへの急峻なモータ電流の通電によるワイヤ電極1の張力のオーバーシュートが防止できることは明らかである。
【0038】
次に、f(t)を時定数の遅い緩やかな関数、ここでは、張力フィードバックループの交差周波数以下の遅い時定数で増加する関数を例示する。
例えばf(t)=0.5・(1−cosωt) ・・・(4)とする。ここで、ωは張力制御の起動速度を決める定数、tは張力制御開始後の時間である。起動時間をTsとすると、Ts=π/ω ・・・(5)の関係がある。
【0039】
式(4)のωをワイヤ走行系の張力フィードバックループの交差周波数よりも小さくして、ワイヤ張力の初期値Tw0からワイヤ張力設定値Tcへと張力指令値T*が増加する時間を長くした場合、張力制御開始時の張力検出値Twの時間波形を図4(b)に示す。図4(b)では、式(4)に示すf(t)と図3のフローチャートを用いてワイヤ初期張力からゆるやかに張力設定値に漸近するように張力指令信号を与えた場合である。図4(b)では、張力検出値Twの過剰なオーバーシュートをほとんど生じることなく、張力設定値Tcに追従していることがわかる。このように、ワイヤ初期張力からゆるやかに張力設定値Tcに漸近するように張力指令信号を与えることによって、張力制御開始直後のワイヤ張力の過剰な増加を防止できるので、ワイヤ電極の断線を防止できることは明らかである。因みに、図4(a)は従来の方法に用いて張力制御開始信号とともに張力指令値を張力設定値になるようにした場合であり、かなり大きい張力検出値Twのオーバーシュートが生じている。例えばφ0.1mm以下の破断張力の余裕の少ないワイヤ電極1においては、ワイヤ電極1の断線が容易に生じうる。
【0040】
次に、図2の指令値生成処理部13における回収モータ6Bへの速度指令とブレーキモータ4Bへの速度指令とを生成するプログラムのフローチャートの一例を図5に示す。なお、本例では、指令値生成処理部13の出力として回収モータ6Bへの速度指令とブレーキモータ4Bへの速度指令とについて、同じ速度指令値を用いているため、図5では一つのプログラムで構成しているが、これらの指令値は独立したプログラムによって生成するようにしてもよい。
【0041】
図5のフローチャートにおいて、まず、プログラムを開始し(St10)、NC装置9からのワイヤ速度設定値Vcとワイヤ走行開始信号とを読み込む(St11)。次に、St12にてNC装置9からのワイヤ走行開始信号がOFFであればSt13へ進む(St12)。St13では、時間カウンタのカウント値tcntを零に初期化し、速度指令値V*に零を保存して、St11に戻る。St12にてワイヤ走行開始信号がONであればSt14へ進む。St14では、時間カウンタのカウント値と制御周期との積である現在の時間tcnt・tsがあらかじめ設定しておいた起動時間Tsより大きければ速度指令値V*としてワイヤ速度設定値Vcを出力するようにSt16へ進み、それ以外はSt15へ進む。St15では、制御周期tsと時間カウンタtcntとの積から現在の時間tを用いて、次式によって速度指令値V*を算出する。
【0042】
*=Vc・f(t)・・・(6)
そして、時間カウンタのカウント値tcntに1を加算して更新する。St16では、回収モータ6Bへの速度指令とブレーキモータ4Bへの速度指令としてV*を出力し、St11へ戻る。なお、f(t)は図3の例と同様の関数またはデータテーブルの数値列があげられ、式(4)の具体例を適用できる。
【0043】
図6は、張力制御開始信号とワイヤ走行開始信号を同時にONしたときの張力検出信号Twと回収モータ速度検出信号それぞれの時間波形である。張力制御とワイヤ回収を同時に開始することで、張力検出値と回収モータ速度検出値ほぼ同時に立ち上がり同様の波形になっている。そして、張力制御の起動と回収モータの起動を同時に行っている分だけ制御立ち上げ時間が短縮される。
【0044】
従来のNC装置の張力設定値をそのまま張力指令値として用いる方法では、張力制御開始時のオーバーシュートのために張力が大きくなり、細いワイヤ電極では断線してしまうことは前述したとおりである。そして、張力検出値と回収モータ速度検出値とを同時に開始した場合、張力制御の応答遅れによる張力変動が張力制御系のオーバーシュートに重畳し、さらにワイヤ電極に生じる張力が大きくなっていたことも前述したとおりである。このため、細いワイヤ電極1を走行させようとした場合には、張力制御が張力設定値Tcに整定した後にワイヤ送りを開始しなければならなくなり、加工を開始するまでの時間が多くかかることになる。本実施の形態では、図3、図5のように、回収モータと張力制御それぞれの指令値を緩やかに変化となるように与えるとともに、両者の起動を同時に行っているので、張力制御系のオーバーシュートによる断線を防止できるとともに、加工を開始するまでの時間を大幅に短縮できる。
【0045】
実施の形態2.
つぎに、この発明の実施の形態2について説明する。上述した実施の形態1では、図3、図5にて図2に示す指令値生成処理部13を構成した。これに対し、図7は、指令値生成処理部13の張力指令信号を生成する部分と速度指令を生成する部分の別の構成例を示す。図7(a)は張力指令信号を生成する部分であり、17は張力設定値Tcと張力検出値Twとを入力としてフィルタ18へ一つの信号を出力するスイッチである。フィルタ18はスイッチ17から出力された信号を波形処理して張力指令信号T*を出力するものである。ここでは、制御入力である張力制御開始信号がOFFのときに張力検出値Twをフィルタ18へ出力し、張力制御開始信号がONのときに張力設定値Tcをフィルタ18へ出力するようにしており、スイッチ17から出力される信号は、図中にて示すようなステップ状に変化する信号になる。フィルタ18を、張力フィードバックループの交差周波数よりも低い遮断周波数を有するローパスフィルタとすることにより、出力波形である張力指令信号T*は図7(a)のフィルタ18の出力に示すような張力制御開始時の張力から張力設定値へと緩やかに増加する信号となる。このように、張力制御開始時の張力から張力設定値へ緩やかに増加する信号が得られるので前述の実施の形態1の図3の場合と同様の効果が得られる。
【0046】
図7(b)は指令値生成処理部13の回収モータ速度指令とブレーキモータ速度指令とを生成する部分の別の構成例である。図7(b)の装置において、19はワイヤ速度設定値Vcおよび速度零とを入力としてフィルタ20へ一つの信号を出力するスイッチである。フィルタ20はスイッチ19から出力された信号を波形処理して速度指令V*を出力するものである。この装置において、制御入力であるワイヤ走行開始信号がOFFのときに零をフィルタ20へ出力し、ワイヤ走行開始信号がONのときに張力設定値Vcをフィルタ20へ出力するようにしており、スイッチ19から出力される信号は、図中にて示すようにステップ状に変化する信号になる。フィルタ20を、張力フィードバックループの交差周波数よりも低い遮断周波数を有するローパスフィルタとすることにより、出力波形である速度指令信号はフィルタ20の出力に示すような速度零からワイヤ速度設定値へ緩やかに増加する信号となる。図7(a)と図7(b)のローパスフィルタは立ち上がり時定数を任意に設定可能であり、例えば図6に示した場合とほぼ同様の時定数で立ち上がるようにローパスフィルタを設定すれば、実施の形態1の図6の結果とほぼ同様の結果が得られる。
【0047】
実施の形態3.
実施の形態3は、図8に示すように実施の形態2を変形させたもので図2に対応する張力制御装置の別の構成例である。図8において、図2、図7と同一部分には同符号を付す。図8(a)において、スイッチ17、フィルタ21、PI制御器14の電流指令系及びスイッチ19、フィルタ20増幅器15、16の速度指令系からなり、ここでは、図2のPI制御器14の伝達関数をK(s)、図7のフィルタ20の伝達関数をF(s)と表記する。そして、フィルタ21は、スイッチ17とPI制御器14の次段の加算回路との間に備えられ、実施の形態2にて述べた図7のフィルタ18の伝達関数F(s)を用いて、次の伝達関数が与えられる。
K(s)・{F(s)−1}
ここで、図8(a)において、自動結線識別信号が自動結線ONを示しているときはK(s)=0、自動結線OFFを示しているときはK(s)がPI制御器として動作する。
【0048】
図8(b)は、図8(a)と等価の構成例であり、図8(a)の動作を説明するために示した張力制御装置である。そして、図8(b)では、図7のスイッチ17とフィルタ18、及びPI制御器14にて図2に示す張力指令に基づく電流指令Icを得ることになり、図7のスイッチ19とフィルタ20及び増幅器15、16にて図2に示すブレーキモータ及び回収モータそれぞれの速度指令を得る。
【0049】
図8(a)、(b)において、スイッチ17の出力Tswから電流指令値Icまでの伝達関数を求めると、図8(a)では、次のようになる。
Ic/Tsw=K(s)・{F(s)−1}+K(s)=K(s)・F(s)
一方、図8(b)では、次のようになる。
Ic/Tsw=K(s)・F(s)
このように、両者の伝達関数は同じで張力検出値Twからブレーキモータ電流指令値Icまでの伝達関数は両者ともK(s)・F(s)、ブレーキモータの速度誤差信号ΔVbの入力点は同じ位置であり、図8(a)のような構成でも図8(b)の構成と同じ張力制御系の特性が得られることになる。
【0050】
なお、本実施の形態における張力制御装置の構成は図8(a)、(b)の構成に限るものではなく、張力制御開始時の張力検出値Twと張力設定値Tcとによって決めた信号Tswから電流指令値Icまでの伝達関数が、張力検出値Twからブレーキモータ電流指令値Icまでの伝達関数K(s)と張力フィードバックループの交差周波数よりも低い遮断周波数を有するフィルタF(s)との積になるように制御系を構成することで、実施の形態1、2と同様の特性と効果が得られることになる。
【0051】
実施の形態4.
実施の形態4におけるワイヤ放電加工機と張力制御装置の全体構成の別の例を図9、図10に示す。図9、図10において、図1、図2と同一部分には同符号を付し、相違点を説明する。ワイヤ放電加工機は、被加工体8の加工上X軸及びY軸の移動が可能となっており、このうちワイヤ電極1の搬送系はY軸駆動系の可動部と連動する。その構成は図11にて示し、説明は後述する。
【0052】
図9においてリニアエンコーダ22は、ワイヤ放電加工機のY軸駆動系に取り付けられ、カウンタアンプ23に接続される。このリニアエンコーダ22はワイヤ放電加工機のY軸駆動系の移動速度に応じた周期のパルスを発生し、カウンタアンプ23へ出力する。カウンタアンプ23はリニアエンコーダ22から出力されるパルスをカウントし、機械移動速度信号に変換して、張力制御装置12へ機械移動速度信号として出力するようになっている。
【0053】
図9における張力制御装置12の詳細ブロック図である図10においては、指令値生成処理部13の出力である回収モータ速度指令信号から機械移動速度検出信号を加算回路にて差し引いて回収モータ6Bのサーボアンプ6Cに速度指令を与えている。
【0054】
図11は図9、10の動作の基礎となるワイヤ放電加工機のY軸駆動系の一例である。図9における回収部6とNC装置9と被加工物8を除き、サドルS上に搭載されたワイヤ電極1の搬送系がY軸駆動系可動部とともにY軸駆動用モータYMとボールねじBTによってY軸方向に位置決めされる。なお、回収部6はサドルSに固定されており、Y軸方向に固定されている。このような構成のワイヤ放電加工機のワイヤ張力制御装置においては、図12にて概略を示すように、Y軸送り時には、ブレーキプーリ4Aと回収ローラ6Aの相対距離が変化し、Y軸駆動時の相対距離の時間変化(相対速度)によって生じるワイヤのたるみや引っ張りによって、張力変動が過渡的に生じる。この張力変動は、加工時の筋付きや破断張力の小さい細いワイヤ電極を用いたときに速いY軸送りを与えた場合に断線を引き起こす要因になることは前述したとおりである。このような問題は、Y軸送り時停止時に関わらず、回収モータの回転速度を一定としているために生じており、本実施の形態では、Y軸送り速度に合わせて回収モータ6Bの回転速度を変化させるようにして、張力制御の追従遅れによる過渡的なワイヤ電極のたるみや引っ張りの発生を防止するようにしている。すなわち、図9のリニアエンコーダ22の移動を図10に示す回収モータの速度指令に加味することでY軸送りによる過渡状態を補償している。
【0055】
図13(a)、(b)は、図9、図10の構成において張力制御を行ったときの定常走行状態における張力検出値の時間波形とY軸駆動速度検出値の時間波形である。図13(a)は図1、図2に示す張力制御系を用いた場合、図13(b)は本実施の形態である図9、図10の張力制御系を用いた場合である。図13(a)では、Y軸駆動速度の時間変化の大きいところで張力変動が大きくなっている。図13(b)ではY軸送りを与えた場合でも張力変動はほとんど変化していない。
【0056】
このように、機械移動速度を回収モータ速度指令値から差し引いて、回収ローラ6AのY軸可動部に対する接線方向の相対速度が一定になるように回収モータ6Bの速度を変化させることによって、Y軸送り時の張力変動の過渡的変化を小さくできるので、Y軸送り時の張力変動に起因する加工時の筋付き、ワイヤ電極の断線を防止できる。
【0057】
実施の形態5.
実施の形態5におけるワイヤ放電加工機と張力制御装置の全体構成の別の例を図14、図15に示す。図14、図15において、図1、図2と同一部分には同符号を付し、相違点を説明する。図14では、ワイヤ放電加工機の構成を示し、ここではNC装置9から張力制御装置12へ送られる信号としてワイヤ電極諸元データを追加している。このワイヤ電極諸元データは、例えば使用するワイヤ電極1の線径及び種類、加工の種類や目的等である。そしてこのワイヤ電極諸元データに応じた張力がワイヤ電極1に付与されるようになっている。
【0058】
図15は、張力制御装置12の詳細ブロック図の構成例である。図15において、ブロック24はNC装置9からのワイヤ電極諸元データ(例えば線種や線径)に基づいて、PI制御器14へPI制御ゲインを出力する張力制御ゲイン決定処理部である。
【0059】
NC装置9からのワイヤ電極情報は、通常、NC画面からの入力や外部設定スイッチ、プログラムなどによってユーザからNC装置へ与えるようにしている。また、その他の手段として、外部のセンサによって測定されるワイヤの色、反射率、ワイヤの曲げ剛性、ワイヤの形状などの情報からワイヤ電極の種別を識別するようにしてもよい。張力制御ゲイン決定処理部24におけるPI制御ゲインの出力は、予め記憶させておいた関数あるいはデータベースによって決定し、出力するようにしている。PI制御器14は、張力制御ゲイン決定処理部24から出されたPI制御ゲインを用いて張力制御信号を演算し、出力するようにしている。このようにすれば、図20の従来の装置にあるような、例えばノッチフィルタの遮断周波数を決定するためのFFT周波数分析処理が不要となる。
【0060】
FFT動作が不要になる利点は次のとおりである。従来の張力制御装置のように、ノッチフィルタの周波数の決定をワイヤの固有振動数をFFTなどの周波数分析を用いて決定するような場合、工場の環境が悪い場合には、電磁ノイズや電源の基本高調波などによる誤動作を発生することは前述したとおりである。本実施の形態では、NC装置9からの諸元データ(情報)に基づいてPI制御ゲインを変更するようにしているのでこのような誤動作は防止できる。また、従来の張力制御装置では、FFT周波数分析のためのデータを得るためにワイヤ電極1を走行させる必要があり、例えばφ0.03mmのワイヤ電極のような二百グラム程度の張力で破断してしまうような電極では、周波数分析のためのデータを得るためにワイヤを走行させた時点で破断してしまうことも前述したとおりである。本実施の形態では、制御パラメータを決定するためのワイヤ電極の走行動作は不要であるので、このような問題は生じない。
【0061】
なお、本実施の形態においては、張力制御ゲイン決定処理部24におけるPI制御ゲインは、ワイヤ線種、ワイヤ線径の変化に対して張力制御系の開ループ伝達特性における交差周波数がワイヤ固有振動数の1/5以下になるように決定しており、共振ピークが張力フィードバック制御によって増大するのを防止している。
【0062】
ワイヤ電極1の線径およびその線種によって変化する固有振動数に応じて、制御ゲインの変更について説明する。図14、図15の張力制御装置12にφ0.25mm、BS(黄銅)のワイヤ電極1を走行させたときの張力検出器10の出力を測定した結果を図16に示す。図16(a)は、PI制御器14の制御ゲインを零にした状態で回収モータ6Bのみを速度制御し、ワイヤ電極1を走行させたときの張力検出器10の出力波形である。図示のようにブレーキモータ4Bの回転に同期した張力変動131gが生じている。この張力変動はブレーキモータ4Bのモータ軸の偏芯によって生じる回転速度変動によって生じているものと思われる。図16(b)は、固有振動数30Hz以上に対して図17に示すような制御帯域幅5Hzの張力フィードバックループの周波数応答特性を持つようにPI制御器14の制御ゲインを設定した場合である。ここでは、図16(a)に対して、約1/20に張力変動を低減できている。
【0063】
次に、φ0.03mm、SP(高張力鋼)のワイヤ電極1を走行させたときの、張力制御系の張力指令値から張力検出器出力までの周波数伝達特性を測定した結果を図18に示す。φ0.03mm、SPのワイヤ電極を用いた場合、共振周波数が12Hz程度にあるが、張力フィードバックループの交差周波数を固有振動数の1/5以下になるようにPI制御ゲインをあらかじめ設定することで、共振ピークは−20dB以下に小さく抑えられる。逆に、張力フィードバックループの交差周波数を固有振動数に接近させた場合には、12Hzの共振ピークが大きくなり、張力変動が大きくなる。
【0064】
図19はφ0.03mm、SPのワイヤ電極に対して、PI制御器14に図16の場合と同じPI制御ゲインを与え、実際にワイヤ電極を走行させたときの張力検出値Twと回収モータ速度指令V*の実測結果である。図16のφ0.25mm、BSのワイヤ電極のときよりも張力フィードバックループの制御帯域幅を小さくしたにも拘らず、振動を生じることなくワイヤ電極の張力をほぼ一定に制御できている。
【0065】
以上のように、φ0.03mm、SPのワイヤ電極を用いた場合の共振周波数12Hzの共振ピークを大きくしないように張力フィードバックループの制御帯域幅を小さくした場合においても、図16(b)の場合と同等以上に張力変動を低減できる理由は次のとおりである。
【0066】
上述のように、ワイヤ張力変動は、ブレーキモータ4Bの回転速度が変動することによってブレーキプーリ4Aと回収プーリ6Aとの間のワイヤ送り量の差Δθが発生することで生じる。このときのワイヤ張力変動量ΔTwはワイヤ送り量の差Δθとワイヤ電極のばね定数kwとの積で与えられる。ブレーキモータ4Bの回転速度変動は、ブレーキモータ4Bの速度をフィードバックしているので、ワイヤ電極の線径が変化しても速度変動幅はあまり変わらない。また、ワイヤ電極のばね定数kwはワイヤ電極の線径の2乗に比例して小さくなることから、ワイヤ電極の線径が細くなるほどブレーキモータ4Bの回転速度変動の影響が張力変動に生じにくくなる。張力制御系の張力変動の大きさは張力検出値のフィードバック制御を用いているので、PI制御器14のゲインの大きさに反比例することから、ワイヤ電極の線径を細くする影響の方が制御ゲインを小さくする影響よりも大きい。
【0067】
例えば、図17、18に示すようなφ0.03mmのワイヤ電極を走行させた場合において、PI制御器14のゲインをφ0.25mmのときの1/5に小さくしても、ワイヤ電極のばね定数が約1/70に小さくなるので、φ0.03mmのワイヤ電極の走行時に生じる張力変動量は図16(b)に示したよりも同等以上に低減できる。
【0068】
以上のように、張力制御系の開ループ伝達特性における交差周波数がワイヤ電極の固有振動数の1/5以下に設定するように張力制御ゲインを与えることによって、固有振動数と張力制御応答周波数の接近によるワイヤ走行系の固有振動数における共振ピークの増大を防止できるので、ワイヤ電極の線径に関わらず張力変動の小さいワイヤ電極の走行が実現できる。これによって、信頼性の高いワイヤ張力制御装置が得られるという効果がある。
【0073】
【発明の効果】
以上説明したように、この発明によれば、ブレーキプーリと回収ローラとの間の相対速度を検出し、この検出した情報に基づいて回収モータへの速度指令を生成するようにしたことにより、ブレーキプーリと回収ローラの相対距離が時間変化するようなワイヤ放電加工機においては、位置決め時のブレーキプーリと回収ローラの相対距離の急峻な変化があったとしても、回収ローラの動きを上記相対距離の変化に応じて速度を変化させることで、ワイヤ電極の引っ張りやたるみを低減できるので、断線、加工時の筋つきを防止できる利点がある。
【0074】
つぎの発明によれば、NC装置から与えられるワイヤ電極の諸元に基づいて、張力制御信号を生成する張力制御ゲインを決定するようにしたことにより、ユーザがNC装置に与えたワイヤ電極の線径や材質などの情報から張力制御ゲインを決定するようにしているので、常に適正な制御ゲインによる運転が可能であり、工場内の電気ノイズによるFFTの誤動作も無くなり、従来より安定したワイヤ張力制御装置が構成できる利点がある。
【0075】
つぎの発明によれば、張力制御ゲインを、張力制御系の開ループ伝達特性の交差周波数がワイヤ走行系の固有振動数の1/5以下になるように与えたことにより、張力制御系の開ループ伝達特性における交差周波数がワイヤ電極の固有振動数の1/5以下に設定するように張力制御ゲインを与えているので、十分な位相余裕とゲイン余裕が確保でき、従来の装置に比べて固有振動数推定誤差による性能劣化がなく、固有振動数の数Hzの変動に対しても従来装置よりは性能劣化の程度を少なくできる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】 この発明の実施の形態1にかかるワイヤ放電加工機を示す構成図である。
【図2】 図1に示した張力制御装置を示すブロック図である。
【図3】 図2に示した指令値生成処理部での張力指令信号のフローチャートである。
【図4】 張力検出特性図である。
【図5】 図2に示した指令値生成処理部での速度指令値のフローチャートである。
【図6】 張力及びモータ速度の各特性図である。
【図7】 この発明の実施の形態2にかかる指令値生成処理部を示す構成図である。
【図8】 この発明の実施の形態3にかかる張力制御装置示す構成図である。
【図9】 この発明の実施の形態4にかかるワイヤ放電加工機を示す構成図である。
【図10】 図10に示した張力制御装置を示すブロック図である。
【図11】 Y軸駆動を説明する構成図である。
【図12】 Y軸送り方向の説明図である。
【図13】 Y軸駆動に対する張力検出波形図である。
【図14】 この発明の実施の形態5にかかるワイヤ放電加工機を示す構成図である。
【図15】 図14に示した張力制御装置を示すブロック図である。
【図16】 張力変動を表す波形図である。
【図17】 PI制御器のゲイン及び位相特性図である。
【図18】 PI制御器のゲイン及び位相特性図である。
【図19】 張力及びモータ速度の各特性図である。
【図20】 従来例にかかるワイヤ放電加工機を示す構成図である。
【図21】 従来例の張力制御装置を示すブロック図である。
【符号の説明】
4 ブレーキ部、6 回収部、9 NC装置、10 張力検出器、12 張力制御装置、13 指令値生成処理部、14 PI制御器、15、16 増幅器、17、19 スイッチ、18、20、21 フィルタ、22 リニアエンコーダ、24 張力ゲイン決定処理部。

Claims (1)

  1. ブレーキ部のブレーキモータの速度検出信号とワイヤ電極から検出した張力検出信号、NC装置からの張力設定値及び張力制御開始信号とに基づいて生成されるブレーキ部のブレーキモータの電流指令により回収部の回収モータの速度指令に対して張力制御を行いつつブレーキプーリと回収ローラ間で張力を付与した状態でブレーキプーリと回収ローラ間にワイヤ電極を走行させるワイヤ放電加工機のワイヤ張力制御装置において、
    前記ブレーキプーリと前記回収ローラとの間の相対距離が時間変化するワイヤ放電加工機の前記ブレーキプーリと前記回収ローラとの間の相対速度を検出し、この検出した情報に基づいて前記回収モータへの速度指令を生成することを特徴とするワイヤ張力制御装置。
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