JP4157309B2 - 耐火性構造物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ビルや一般家屋の内外壁や天井部、屋外通路壁、トンネル内壁、各種建造物資材、建具、器壁等の種々の基材表面に耐火被覆を施した耐火性構造物に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、都市におけるビルの高層化や地下街の大規模化が進み、これに伴って防災対策の必要性が高まっており、特に火災への備えが重要になっている。しかるに、各種構造材に対する耐火被覆として旧来汎用されていたアスベストは粉塵吸入による発癌性の問題で使用できなくなっており、またロックウールについても同様の健康被害の懸念があって嫌忌すべきものになっている上、これらは耐火性能面でも充分ではなかった。
【0003】
そこで、前記のアスベストやロックウールに代わる耐火被覆材料として、火災時の受熱で発泡して断熱発泡層を形成し、遮炎・遮熱作用を発揮する熱発泡性耐火塗料が種々提案されている。このような熱発泡性耐火塗料には、水溶性アルカリ珪酸塩を主成分として硬化剤や骨材成分が配合され、含有水分の気化によって発泡を生じる無機系のもの、結合剤樹脂に炭化剤とポリリン酸アンモニウムの如き発泡剤が配合され、発泡と共に炭化層を形成する有機系のもの、水溶性シリケートとアルコキシシラン誘導体やオルガノシリカゾルとの反応物を主体としたもの、水溶性アルカリ珪酸塩と紫外線硬化型樹脂成分を混合したもの等があるが、これらの殆どは実用化しておらず、実際の使用例は有機系のものだけである。
【0004】
しかるに、上記使用実績のある有機系のものは、火災時に結合剤樹脂の溶融と共に発泡剤の分解によるガスが発生することにより、フォーム状に膨張した炭化層を生成するが、そのガス成分に有毒なアンモニアガスが高率で含まれるため、被災環境を却って害する懸念がある上、肝心な耐火性能も充分とは言えない。因みに、普通鋼の耐熱温度は350℃、耐火鋼でも600℃に過ぎず、それ以上の高温では軟化してしまうため、鉄骨構造として火災温度1000℃に耐えるためには極めて強力な熱遮断性を発揮する耐火被覆が必要である。
【0005】
上述の情況に照らし、本発明者らの内の一人は先に、長期にわたる綿密な実験研究のもとに、鉄骨構造用の耐火被覆として充分な熱遮断性を発揮し得る画期的な無機系の耐火性コーティング剤を究明し、これを本出願人の一が特願2001−354858号として出願中である。この耐火性コーティング剤は、水溶性アルカリ珪酸塩及びホルマイト系鉱物粉末と、これら以外のSiO2 付与成分とを必須成分として含有する水性ペーストからなり、その塗膜が火災時の受熱によって発泡して断熱発泡層を生成するが、発泡のタイミングとスピードの極めて絶妙なバランスにより、塗膜全体に偏りなく生じた細かい気泡の安定した成長に伴って塗膜全体が均一に膨張してゆき、内部に空洞を生じたり亀裂を発生することなく均一で厚い発泡断熱層を生成する上、発泡後の流動点が高いために垂れ落ちを生じにくく、優れた熱遮断性を長く持続できるという特徴を備えている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上記の耐火性コーティング剤は、既述のように鉄骨等の鋼材に対して優れた耐火性能を付与する目的で開発されたものであるが、鋼材表面に限らず、他の各種金属物品の表面や、例えばスレート、コンクリート、木材、合板、段ボール、圧縮板紙、合成樹脂、FRP等の金属以外の材料からなる物品表面に塗工しても、形成される熱発泡性塗膜層により、これら物品を極めて火災に強いものにすることができる。しかるに、この耐火性コーティング剤の塗膜層は、無機質粉末が水溶性アルカリ珪酸塩をバインダーとして結着したものであるため、表面は概して白色乃至灰色で意匠性に乏しく、例えばビルや一般家屋の内外壁や天井部、屋外通路壁、トンネル内壁、建具、屋内外に設置する物品等、外観の見栄えが重要な用途には不向きであった。
【0007】
無論、耐火性コーティング剤に顔料等の着色剤を配合すれば、着色した熱発泡性塗膜層を形成できるが、火災時に充分な耐火・断熱性を発揮する厚い断熱発泡層を生成させる上で、熱発泡性塗膜層も数mmから数十mmと厚くする必要があるため、着色剤の使用量が多くなってコスト高になると共に、固形粉末を高比率で含むペースト中に着色剤を均一分散させることが困難であり、分散不足で色むらを生じたり、過度な混合によるぺースト粒子の崩壊や多量配合した着色剤によって火災時の発泡のタイミングとスピードのバランスが崩れ、形成される断熱発泡層の性状が悪化して耐火・断熱性能の低下を招く懸念がある。また、熱発泡性塗膜層の表面に一般的な着色塗料を塗装して彩色することもできるが、この場合は表面の着色塗膜は耐火性に寄与しない上、火災時には着色塗膜の燃焼によって有毒ガスや黒煙を発生することになり、加えて熱発泡性塗膜層は微視的には多孔構造を有するため、着色塗膜形成時にバインダー成分が下地の熱発泡性塗膜層に滲み込んで熱発泡性に悪影響を及ぼす懸念もある。
【0008】
本発明は、上述の事情に鑑み、前記耐火性コーティング剤のようなアルカリ珪酸塩を含有する無機系の熱発泡性耐火塗料による耐火被覆を有する耐火性構造物として、表面の着色による高い意匠性を備えて外観が良好であり、しかも火災時には熱発泡による高い耐火・断熱作用が発現する上、低コストで容易に製作・施工が可能なものを提供することを目的としている。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1に係る耐火性構造物は、基材上に耐火性ベース層が形成され、この耐火性ベース層上に耐火性着色層が形成され、前記耐火性ベース層は、水溶性アルカリ珪酸塩と、ホルマイト系鉱物粉末と、これら以外のSiO2 付与成分とを含有する熱発泡性無機質材料からなり、この熱発泡性無機質材料中のホルマイト系鉱物粉末が水溶性アルカリ珪酸塩に対して5〜50重量%の割合で配合されると共に、前記SiO2 付与成分が水溶性アルカリ珪酸塩との合量におけるSiO2 /M2 O(Mはアルカリ金属)のモル比を3.7〜8とする割合で配合されてなり、前記耐火性着色層は、前記熱発泡性無機質材料中に陶砂又は有彩天然石の粉末からなる有彩無機質骨材を配合したものであり、 耐火性ベース層の厚さが2〜20mm、耐火性着色層の厚さが0.5〜5mmに設定されてなることを特徴とする構成を採用したものである。
【0010】
上記構成の耐火性構造物では、耐火性着色層によって着色した表面を有するが、下地の耐火性ベース層には有彩無機質骨材を含まないから、火災時には該ベース層の熱発泡によって本来の優れた耐火・断熱作用が発現することに加え、耐火性着色層もある程度の熱発泡性を備えるために火災時の耐火・断熱に貢献すると共に、該着色層が耐火性ベース層への熱衝撃を緩和する緩衝層としても機能し、もって火災時の耐火性ベース層は全体的に穏やかに温度上昇して均一な熱発泡を生じることになる。しかして、前記熱発泡性無機質材料は、水溶性アルカリ珪酸塩と共に、ホルマイト系鉱物粉末と、これら以外のSiO 2 付与成分とを適度な比率で含有するから、火災時の発泡性無機質材料の受熱による発泡のタイミングとスピードが絶妙にバランスしたものとなり、耐火性ベース層は空洞や亀裂がなく均一で厚い上に垂れ落ちしにくい発泡断熱層に転化すると共に、耐火性着色層の熱発泡性も良好になり、もって優れた熱遮断性を長く持続できることになる。一方、耐火性着色層の着色成分は粒子サイズの大きい有彩無機質骨材からなるため、該着色層形成用のコーティング剤の調製に際し、熱発泡性無機質材料との混合によって均一分散し易く、塗工後の着色層表面は色むらのない美しいセラミック調の着色面となり、高い意匠性が得られる。また、有彩無機質骨材は耐火性着色層のみを所要の色合いに調色できればよいから、その使用量は少なくて済む。更に、耐火性着色層には耐火性ベース層と同じ熱発泡性無機質材料を用いていることから、両層は高い親和性によって強固に一体化し、界面剥離を生じにくいものとなる。
【0012】
請求項2の発明は、上記請求項1の耐火性構造物において、耐火性着色層の有彩無機質骨材の平均粒度が0.05〜1mmであるものとしている。この場合、耐火性着色層は鮮明な色合いで表面性に優れるものとなる。
【0014】
請求項3の発明は、上記請求項1又は2の耐火性構造物において、耐火性ベース層が前記熱発泡性無機質材料の水性ペーストの塗膜からなると共に、耐火性着色層が該水性ペーストに対して5〜50重量%の有彩無機質骨材を配合した水性ペーストの塗膜からなるものとしている。この構成では、耐火性ベース層及び耐火性着色層の厚塗り塗工が容易であり、また耐火性着色層における有彩無機質骨材の適度の配合比率により、該着色層の耐火性能と発色性を共に充分に確保できる。
【0015】
請求項4の発明は、上記請求項1〜3のいずれかの耐火性構造物において、耐火性着色層中に金属粉末が含有されてなるものとしている。この場合、着色表面は金属粉末による光沢が加わってメタリックカラーを表出する。
【0016】
請求項5の発明は、上記請求項1〜4のいずれかの耐火性構造物において、耐火性着色層の表面に凹凸模様が形成されてなるものとしている。この場合、着色表面の凹凸模様によって更に意匠性が高められる。
【0017】
請求項6の発明は、上記請求項1〜5のいずれかの耐火性構造物において、耐火性着色層上に無機質バインダーを主体とする透明性被膜が形成されてなるものとしている。この構成では、透明性被膜によって着色表面に光沢が付与されるから、意匠性がより向上する上、該透明性被膜による防汚性、シール性、耐薬品性により、耐火性ベース層及び耐火性着色層の耐火性能と着色表面の良好な外観が長期にわたって安定に保たれることになる。しかして、透明性被膜は不燃性の無機質であるために火災時に有毒ガスや黒煙を発生することはなく、また該皮膜の形成時にバインダー成分が下地に浸透しても、該下地は耐火性着色層であるから、耐火性ベース層の耐火性能が阻害される懸念はない。
【0020】
請求項7の発明は、上記請求項1〜6のいずれかの耐火性構造物において、前記SiO2 付与成分は、加水雲母類、珪酸カルシウム、コロイダルシリカ、天然ガラス、カオリン類、真珠岩類より選ばれる少なくとも一種であるものとしている。この場合、耐火性ベース層及び耐火性着色層は火災時に優れた熱遮断性を有して垂れ落ちしにくい発泡層に確実に転化することになる。
【0021】
【発明の実施の形態】
図1は、本発明に係る耐火性構造物の一構成例を示す断面図である。本図において、1は基材であり、その表面に順次、耐火性ベース層2と、耐火性着色層3と、透明性被膜4とが積層形成されている。
【0022】
基材1は、例えば、ビルや一般家屋の内外壁や天井部、屋外通路壁、トンネル内壁、各種建造物資材、建具、器壁等の耐火被覆を要する種々の構造部や物品表面部を構成するもの全てを包含しており、その用途的及び形態的な制約はない。また、基材1の材質についても特に制約はなく、不燃物及び可燃物のいずれでもよく、例えば、鉄を始めとする各種金属、スレート、コンクリート、木材、合板、ダンボール、圧縮板紙、合成樹脂、FRP等の広範な材質が対象となる。
【0023】
耐火性ベース層2は水溶性アルカリ珪酸塩及び無機質粉末を含有する熱発泡性無機質材料からなり、耐火性着色層3は該耐火性ベース層2の熱発泡性無機質材料中に有彩無機質骨材を配合したものからなる。また、透明性被膜4は、例えばシリコーン系ポリマー等の無機バインダーを主体とする無機質被膜からなっている。
【0024】
このような耐火性構造物は、耐火性ベース層2と耐火性着色層3とが共に、火災時の受熱によって発泡して断熱発泡層を形成し、その熱遮断性により、基材1が不燃物である場合の熱軟化や熱劣化、当該基材1が可燃物である場合の焼けや炎上を長時間にわたってくい止める機能を果たすために高い耐火性を具備するが、これに加えて耐火性着色層3の表面が色むらのない美しいセラミック調の着色面をなし、更に透明性被膜4による光沢があることから、外観が良好で高い意匠性を備えており、しかも透明性被膜4による防汚性、シール性、耐薬品性により、耐火性ベース層2及び耐火性着色層3の耐火性能と着色表面の良好な外観を長期にわたって安定に保持するという特徴を有している。従って、この耐火性構造物は、例えば建物の耐火性内外装等として非常に高級感を与えるものとなる。
【0025】
しかして、耐火性着色層3の着色剤として有彩無機質骨材を用いるのは、その粒子サイズが大きいため、該着色層形成用のコーティング剤の調製に際し、熱発泡性無機質材料のペーストとの混合によって均一分散し易く、もって色むらを生じにくいことに加え、塗工後の着色層表面が美しいセラミック調の着色面となり、高い意匠性が得られることによる。これに対し、無機顔料のような微粒子状の着色剤では、基本的に着色層3に美しいセラミック調の色合いを表出できない上、前記コーティング剤の調製に際して熱発泡性無機質材料中に均一分散させることが困難であるため、分散不足によって塗工後の着色層表面に色むらを生じ易く、また色むらを防ぐために強力なミキサーを用いて長時間の攪拌混合を行うと、粒子崩壊等で熱発泡性無機質材料が変性してしまい、熱発泡性耐火層としての充分な性能を付与できなくなる。
【0026】
本発明において耐火性着色層3に用いる有彩無機質骨材は、ガラス質、石質、セラミック質等の有彩色の無機質粒子からなるものであり、人工材料及び天然材料のいずれをも使用できるが、その好適なものとして陶砂及び有彩天然石の粉末が挙げられ、特に陶砂が透明感のある美しいセラミック調の色合いを容易に表出できる点から最適である。この陶砂は、陶土に発色成分となる金属酸化物等の粉末を混合し、これを1400℃前後で高温焼成し、焼成物を粉砕したものであり、透明感のある美しい色彩のガラス質粒子からなり、使用する発色成分の金属酸化物等の種類及び組合わせと配合量により、ブルー、グリーン、イエロー、オレンジ、レッド、ピンク等の様々な色調で且つ淡色から濃色まで、極めて多種のものが得られている。
【0027】
このような有彩無機質骨材の粒子サイズは、骨材として平均粒度0.05〜1mmの範囲にあるものが好ましい。すなわち、この粒子サイズが小さ過ぎては乱反射によって耐火性着色層3の表面が白っぽく色ぼけした感じになり、逆に粒子サイズが大き過ぎては耐火性着色層3の表面性が悪化するため、共に美しいセラミック調の色合いを表出することが困難になる。また、有彩無機質骨材の配合量は、熱発泡性無機質材料の水性ペーストに対して5〜50重量%の範囲がよく、この配合量が少な過ぎる場合は充分な発色が得られず、逆に多過ぎる場合は耐火性着色層3の熱発泡性耐火層としての性能が悪化することになる。なお、耐火性着色層3においては、前記の有彩無機質骨材と共にステンレス鋼粉末、錫粉末、真鍮粉末、銅粉末等の金属粉末を配合することにより、該金属粉末の光沢が加わったメタリックカラーを表出させることができる。
【0028】
耐火性ベース層2及び耐火性着色層3に用いる熱発泡性無機質材料としては、水溶性アルカリ珪酸塩及び無機質粉末を含有し、火災時の受熱によって溶融すると共に含有水分の蒸発による気泡を生じ、この気泡の膨張によって断熱発泡層を形成できるものであればよく、特に既述した特願2001−354858号に係る耐火性コーティング剤が好適であるが、該コーティング剤のみに制約されるものではない。
【0029】
しかして、特願2001−354858号に係る耐火性コーティング剤は、水溶性アルカリ珪酸塩を基本成分とし、ホルマイト系鉱物の粉末と、前2者以外のSiO2 付与成分とが配合された水性ペーストからなる無機系の熱発泡性耐火塗料であり、その塗膜が火災時の受熱によって発泡する際、塗膜の素地が理想的な粘性の溶融状態となり、発泡のタイミングとスピードが極めて絶妙にバランスし、塗膜全体に偏りなく生じた細かい気泡の安定した成長に伴って塗膜全体が均一に膨張してゆき、熱遮断に最適な性状の均一で厚い発泡層を生成するという特徴を備えている。
【0030】
この耐火性コーティング剤における水溶性アルカリ珪酸塩は、塗膜に熱発泡性をもたらすための基本成分であり、火災時の受熱によって溶融状態となって気化した含有水分を気泡化させて塗膜内に留まらせ、もって塗膜の発泡層への転化を可能にするものである。また、コーティング剤においても、その水溶液が塗料ベースとして他の配合成分を分散ないし溶存させる液媒体となる。従って、この水溶性アルカリ珪酸塩は、コーティング剤の水を除く成分中の30重量%以上を占める割合とするのがよく、この割合が少な過ぎては充分な熱発泡性が得られなくなる。
【0031】
このような水溶性アルカリ珪酸塩としては、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、珪酸リチウム等が挙げられるが、水ガラスとしての水溶液形態の市販品を好適に使用できる。しかして、この水溶性アルカリ珪酸塩は、M2 O・nSiO2 (Mはアルカリ金属)の構造式で表され、化合物の種類や水ガラスのグレードによってM2 OとSiO2 のモル比に幅がある。
【0032】
また、上記耐火性コーティング剤に用いるホルマイト系鉱物は、繊維状組織を有する鉱物であり、塗膜が発泡に必要な適度な水分含有量を継続的に維持することを可能にすると共に、火災時の受熱による塗膜の発泡をコントロールし、既述した発泡のタイミングとスピードの絶妙なバランスをもたらし、熱遮断性に優れた均一な発泡層の生成に寄与し、また繊維状組織による補強作用により、塗膜の乾燥固化時のクラックならびに経日的なクラックの発生を効果的に防止する機能を果たす。このようなホルマイト系鉱物としては、特に制約はないが、その代表的なものとしてマグネシウムのイノ珪酸塩鉱物であるセピオライトが挙げられ、このセピオライトは適度な繊維長を有して且つ安価に入手できるという利点がある。
【0033】
ホルマイト系鉱物の粉末の配合量は、水溶性アルカリ珪酸塩に対して5〜50重量%となる範囲が好ましく、特に5〜30重量%の範囲が最適である。すなわち、この配合量が少な過ぎても、また多過ぎても、既述した塗膜の受熱による発泡のタイミングとスピードのバランスが崩れ易く、所期する熱遮断性に優れた発泡層は形成困難になり、とりわけ配合量が少な過ぎる場合は、塗膜のクラック防止の面でも充分な効果が得られにくくなる。
【0034】
上記の耐火性コーティング剤に使用する前二者以外のSiO2 付与成分は、塗膜の発泡後の流動点を高くし、発泡層による優れた熱遮断効果を長く機能させる作用を持つ。すなわち、前記モル比でSiO2 の比率が高いほど塗膜の発泡後の流動点(流動温度)は高くなる傾向があり、それだけ火災時の受熱から垂れ落ちを生じるまでに時間を要し、もって発泡層による優れた熱遮断効果が長く持続することになるが、例えばJIS−3号水ガラスの同モル比が3.2程度であるように、水溶性アルカリ珪酸塩単独ではSiO2 の比率を高く設定できないため、このSiO2 付与成分を加えてSiO2 の比率を高めるのである。
【0035】
このようなSiO2 付与成分としては、バーミュキュライトの如き加水雲母類、珪酸カルシウム、コロイダルシリカ、天然ガラス、パーライトの如き真珠岩類、カオリン類やシリマナイトの如きSiO2 を主体とする粘土鉱物及びこれらの焼成物、中空状アルミノシリケート粒子等が挙げられ、これらは2種以上を併用してもよい。しかして、SiO2 付与成分の配合量は、水溶性アルカリ珪酸塩との合量におけるSiO2 /M2 O(Mはアルカリ金属)のモル比を3.7〜8とする割合に設定するのがよい。すなわち、このモル比が低過ぎると、前記発泡後の流動点が低くなり、発泡層の垂れ落ちによって高い熱遮断性を長く維持することが困難になる。逆に同モル比が高過ぎる場合は、コーティング剤中の水溶性アルカリ珪酸塩の相対比率が低下して発泡不足に陥り易いこともあるが、前記モル比が8を越えるものはコーティング剤として調製困難である。
【0036】
更に、上記の耐火性コーティング剤には、既述の水溶性アルカリ珪酸塩、ホルマイト系鉱物粉末、SiO2 付与成分以外にも、必要に応じて種々の添加剤を配合することができる。好適な添加剤としては、塗膜の割れ防止と強度向上を担うグラスファイバー、塗膜の防黴や溶融状態での垂れ止めとして機能する酸化チタン粉末、雨水による溶出防止のためのポリメチル水素シロキサンの如きシリコーン系撥水剤等が挙げられる。
【0037】
耐火性構造物の耐火性ベース層2及び耐火性着色層3を形成するには、上記の耐火性コーティング剤の如き熱発泡性無機材料の水性ペーストを調製し、これらを基材1の表面に順次塗工すればよい。なお、調製される水性ペーストは概してクリーム状ないしパテ状をなすが、そのままでもスプレーガンによる吹き付け塗装、ローラー塗装、コテ塗り塗装、刷毛塗り塗装、スリットからの流延塗装等の種々の塗工手段で塗工可能である。無論、必要とあらば適用する塗工方法に応じて適当な粘度になるように水を加えて希釈してもよい。また、これら耐火性ベース層2及び耐火性着色層3を所要の厚みに設定する上で重ね塗りを行うことも可能である。しかして、耐火性ベース層2と耐火性着色層3には同じ熱発泡性無機質材料を用いていることから、両層2,3は高い親和性によって強固に一体化し、界面剥離を生じにくいものとなる。
【0038】
耐火性ベース層2の厚さは、2〜20mmの範囲とするのがよく、薄過ぎては充分な耐火性能が得られず、逆に厚過ぎては耐火性構造物の重量が大きくなる上に発泡時に自己重量によって垂れを生じ易くなる。なお、発泡後の厚みは、通常では発泡前の3〜4倍程度になる。また、耐火性着色層3の厚さは0.5〜5mmの範囲がよく、薄過ぎては下地の耐火性ベース層2の色が透け出して彩色効果に乏しくなり、逆に厚過ぎる場合は下地の耐火性ベース層2の耐火性能を損なうことになる。
【0039】
透明性被膜4については、本発明の耐火性構造物として必須ではないが、既述のように表面に光沢を付与して意匠性を更に高める効果を有すると共に、表面の防汚性、シール性、耐薬品性を高める保護層として機能し、もって耐火性ベース層2及び耐火性着色層3の耐火性能と着色表面の良好な外観を長期にわたって安定に保持させるという利点がある。このような透明性被膜4の形成には、無機系の透明性コーテイング剤として市販されるものを使用でき、スプレー塗装や刷毛塗り塗装にて耐火性着色層3の表面を数十〜数百μm程度の厚みでムラなく覆うように塗工すればよい。
【0040】
また、本発明の耐火性構造物においては、耐火性ベース層2及び耐火性着色層3が比較的に厚いものになることから、表面に凹凸模様を形成することが容易であり、この凹凸模様によって更に意匠性を高めることができる。このような凹凸模様は、図1に示すように耐火性ベース層2の表面を凹凸状として、この凹凸が耐火性着色層3や透明性被膜4の表面に現れるようにしてもよいし、耐火性ベース層2は平坦にして、その上の耐火性着色層3の表面を凹凸状としてもよい。しかして、凹凸模様の種類については全く制約はなく、幾何学的模様、流延模様、不規則模様等、様々に設定でき、目地状の格子溝によってタイル調の外観としたり、粗い不規則凹凸で岩肌状の外観を付与することもできる。また、その模様付けは、塗工時の刷毛操作、コテ操作、ローラー操作等で行ってもよいし、塗工後の塗膜未乾燥状態において刻印ローラーや適当な模様付け治具を用いて行ってもよい。
【0041】
【実施例】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。なお、以下において、部とあるのは重量部を意味する。なお、実施例で使用した各成分の詳細は次の通りである。
JIS3号水ガラス・・・大阪曹達社製(濃度38%、SiO2 /M2 Oのモル比3.2)
セピオライト粉末・・・昭和鉱業社製ミルコンMS−2−2
珪酸カルシウム粉末・・・ハイクロン・インディア・リミテッド社製ハイコンS−3
コロイダルシリカ・・・日成共益社製ゼオシール77(含水非晶質SiO2 98%)
パーライト粉末・・・トモエパーライト社製
天然ガラス粉末・・・九州パーミス社製パーミスKp−F
アルミノシリケート粒子・・日本フィライト社製フィライト5e(中空粒子)
バーミュキュライト粉末(未焼成品…粒度1.2〜2.2mm)・・・オーストラリアン・バーミュキュライト・インダストリー社製
酸化チタン粉末・・・古河機械金属社製FR−41(ルチル型)
【0042】
実施例1
JIS3号水ガラス ・・・72.0部
セピオライト粉末 ・・・・7.0部
珪酸カルシウム粉末 ・・・・6.0部
コロイダルシリカ ・・・13.5部
酸化チタン粉末 ・・・・1.5部
【0043】
上記組成物を攪拌混合して耐火性コーティング剤(SiO2 /Na2 Oのモル比4.51)を調製し、この耐火性コーティング剤を4mm厚のスレート板の表面に吹き付け塗装−放置乾燥を2回繰り返して厚さ約5mmの耐火ベース層を形成したのち、この耐火ベース層の硬化前に刻印ローラーによって層表面に凹凸模様付けを行った。そして、この耐火性ベース層上に、前記耐火性コーティング剤100重量部に対してグリーン色の陶砂(美州興産社製セラサンド、粒度0.1〜0.5 mm)30重量部を添加混合して得られた着色層用コーティング剤を吹き付け塗装し、厚さ約1.5mmの耐火性着色層を形成し、更に該着色層の乾燥後の表面にシリコーン系コーティング剤(かべいち社製スターブライト・トップS)を刷毛塗り塗装して透明性被膜を形成し、耐火性構造物サンプルを作製した。
【0044】
実施例2
JIS3号水ガラス ・・・83.4部
セピオライト粉末 ・・・・7.3部
天然ガラス粉末 ・・・・6.3部
アルミノシリケート粒子 ・・・・1.3部
酸化チタン粉末 ・・・・1.7部
【0045】
上記組成物を攪拌混合して耐火性コーティング剤(SiO2 /Na2 Oのモル比3.86)を調製し、この耐火性コーティング剤を用いて実施例1と同様にしてスレート板の表面に厚さ約5mmの耐火ベース層を形成すると共に表面の凹凸模様付けを行った。そして、この耐火性ベース層上に、同耐火性コーティング剤100重量部に対してブルー色の陶砂(美州興産社製セラサンド、粒度0.05〜0.15mm)20重量部とステンレス鋼粉末(平均粒度0.05mm)5重量部とを添加混合して得られた着色層用コーティング剤を吹き付け塗装し、厚さ約1.0mmの耐火性着色層を形成し、更に該着色層の乾燥後の表面に実施例1と同様にして透明性被膜を形成し、耐火性構造物サンプルを作製した。
【0046】
実施例3
JIS3号水ガラス ・・・56.7部
セピオライト粉末 ・・・・3.6部
珪酸カルシウム粉末 ・・・18.8部
コロイダルシリカ ・・・・3.8部
酸化チタン粉末 ・・・・1.0部
撥水剤(メチルナトリウムシリコネート) ・・・・3.2部
水 ・・・12.9部
【0047】
上記組成物を攪拌混合して耐火性コーティング剤(SiO2 /Na2 Oのモル比5.55)を調製し、この耐火性コーティング剤を実施例1と同様にしてスレート板の表面に厚さ約5mmの耐火ベース層を形成した。そして、この耐火性ベース層上に、前記耐火性コーティング剤100重量部に対してレッド色の陶砂(美州興産社製セラサンド、粒度0.5〜1.0mm)7重量部を添加混合して得られた着色層用コーティング剤をローラー塗装すると共に、このローラーの操作によって模様付けを行い、平均厚さ約2.0mmで波打ち状の凹凸模様を有する耐火性着色層を形成し、更に該着色層の乾燥後の表面に無機コーティング剤(前出)をスプレー塗装して透明性被膜を形成し、耐火性構造物サンプルを作製した。
【0048】
実施例4
JIS3号水ガラス ・・・62.5部
セピオライト粉末 ・・・・2.3部
コロイダルシリカ ・・・・4.8部
バーミュキュライト粉末 ・・・14.9部
パーライト粉末 ・・・・6.0部
酸化チタン粉末 ・・・・1.0部
撥水剤(メチルナトリウムシリコネート) ・・・・2.4部
水 ・・・・6.3部
【0049】
上記組成物を攪拌混合して耐火性コーティング剤(SiO2 /Na2 Oのモル比5.63)を調製し、この耐火性コーティング剤を4mm厚のスレート板の表面に吹き付け塗装−放置乾燥を2回繰り返して厚さ約5mmの耐火ベース層を形成したのち、この耐火ベース層の硬化前に刻印ローラーによって層表面に凹凸模様付けを行った。そして、この耐火性ベース層上に、前記耐火性コーティング剤100重量部に対してピンク色の陶砂(美州興産社製セラサンド、粒度0.15〜0.5mm)25重量部を添加混合して得られた着色層用コーティング剤を吹き付け塗装し、厚さ約1.5mmの耐火性着色層を形成し、更に該着色層の乾燥後の表面に実施例1と同様にして透明性被膜を形成し、耐火性構造物サンプルを作製した。
【0050】
以上の実施例1〜4で作製した耐火性構造物サンプルはいずれも、耐火性着色層に使用した陶砂に対応する色合いで、色むらがなく、且つ透明感及び光沢のある美しいセラミック調の凹凸模様付き着色面を有し、高い意匠的価値を備えるものであった。しかして、実施例2で作製した耐火性構造物サンプルの着色面は、輝きのあるメタリックカラーを表出していた。また、これらサンプルの着色面をハンマーで打圧してみたが、基材のスレート板からの耐火ベース層の剥離や耐火ベース層と耐火性着色層との界面剥離は生じなかった。
【0051】
一方、これらサンプルを板面方向を垂直にして加熱試験炉内にセットし、耐火性着色層側の表面をガスバーナーにて直火(1400℃)で加熱すると共に、スレート板側の温度と炉内温度を熱電対を介して測定したところ、いずれも加熱開始から約5分後の炉内温度が約300℃に達した時点から耐火ベース層及び耐火性着色層に溶融発泡を生じ、両層が次第に膨張して厚い断熱発泡層に転化したが、加熱開始から30分後の炉内温度が840℃に達した時点でもスレート板側の温度は200℃前後に留まっていた。
【0052】
【発明の効果】
請求項1の発明によれば、耐火性構造物として、基材上に設けた熱発泡性無機質材料からなる耐火性ベース層上に、該熱発泡性無機質材料中に有彩無機質骨材を配合した耐火性着色層が形成されていることから、表面が色むらのない美しいセラミック調の着色面をなして高い意匠性を備え、外観が良好であり、しかも火災時には耐火性ベース層及び耐火性着色層が熱発泡するが、前記熱発泡性無機質材料として特定組成のものを使用して、且つ耐火性ベース層及び耐火性着色層を特定の厚さにすることから、生成する断熱発泡層が均一で厚い上に垂れ落ちしにくいものとなり、高い耐火・断熱作用が発現する上、低コストで容易に製作・施工可能なものが提供される。
【0054】
請求項2の発明によれば、上記の耐火性構造物において、耐火性着色層の有彩無機質骨材として特定粒度のものを使用することから、耐火性着色層が鮮明な色合いで表面性に優れるものとなる。
【0056】
請求項3の発明によれば、上記の耐火性構造物において、耐火性ベース層及び耐火性着色層の形成に水性ペーストを用い、且つ耐火性着色層における有彩無機質骨材の配合比率を特定範囲に設定することから、両層の厚塗り塗工が容易であると共に、着色層の耐火性能と発色性を共に充分に確保できる。
【0057】
請求項4の発明によれば、上記の耐火性構造物において、耐火性着色層中に金属粉末を含有することから、着色表面がメタリックカラーを表出するという利点がある。
【0058】
請求項5の発明によれば、上記の耐火性構造物において、耐火性着色層の表面に凹凸模様を有することから、意匠性がより高くなるという利点がある。
【0059】
請求項6の発明によれば、上記の耐火性構造物において、耐火性着色層上に無機質バインダーを主体とする透明性被膜を有することから、着色表面に光沢が付与されて意匠性がより向上する上、該透明性被膜による防汚性、シール性、耐薬品性により、耐火性ベース層及び耐火性着色層の耐火性能と着色表面の良好な外観が長期にわたって安定に保たれるという利点がある。
【0062】
請求項7の発明によれば、上記の特定組成の熱発泡性無機質材料を用いる耐火性構造物において、該材料のSiO2 付与成分として特定のものを使用することから、耐火性ベース層及び耐火性着色層が火災時に優れた熱遮断性を有して垂れ落ちしにくい発泡層に確実に転化するという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に係る耐火性構造物の構成例を示す断面図である。
【符号の説明】
1 基材
2 耐火性ベース層
3 耐火性着色層
4 透明性被膜
Claims (7)
- 基材上に耐火性ベース層が形成され、この耐火性ベース層上に耐火性着色層が形成されてなる耐火性構造物であって、
前記耐火性ベース層は、水溶性アルカリ珪酸塩と、ホルマイト系鉱物粉末と、これら以外のSiO2 付与成分とを含有する熱発泡性無機質材料からなり、
この熱発泡性無機質材料中のホルマイト系鉱物粉末が水溶性アルカリ珪酸塩に対して5〜50重量%の割合で配合されると共に、前記SiO2 付与成分が水溶性アルカリ珪酸塩との合量におけるSiO2 /M2 O(Mはアルカリ金属)のモル比を3.7〜8とする割合で配合されてなり、
前記耐火性着色層は、前記熱発泡性無機質材料中に陶砂又は有彩天然石の粉末からなる有彩無機質骨材を配合したものからなり、
耐火性ベース層の厚さが2〜20mm、耐火性着色層の厚さが0.5〜5mmに設定されてなることを特徴とする耐火性構造物。 - 耐火性着色層の有彩無機質骨材の平均粒度が0.05〜1.0mmである請求項1に記載の耐火性構造物。
- 耐火性ベース層が前記熱発泡性無機質材料の水性ペーストの塗膜からなると共に、耐火性着色層が該水性ペーストに対して5〜50重量%の有彩無機質骨材を配合した水性ペーストの塗膜からなる請求項1又は2に記載の耐火性構造物。
- 耐火性着色層中に金属粉末が含有されてなる請求項1〜3のいずれかに記載の耐火性構造物。
- 耐火性着色層の表面に凹凸模様が形成されてなる請求項1〜4のいずれかに記載の耐火性構造物。
- 耐火性着色層上に無機質バインダーを主体とする透明性被膜が形成されてなる請求項1〜5のいずれかに記載の耐火性構造物。
- 前記SiO2 付与成分は、加水雲母類、珪酸カルシウム、コロイダルシリカ、天然ガラス、カオリン類、真珠岩類より選ばれる少なくとも一種である請求項1〜6のいずれかに記載の耐火性構造物。
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