JP4131077B2 - シリコンウェーハの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、チョクラルスキー法(以下、CZ法という。)により作られた点欠陥の凝集体が存在しないシリコンウェーハにイントリンシックゲッタリング(以下、IG)効果をもたらす製造方法に関する。更に詳しくは、酸素析出核を十分に発現し、デバイス製造工程の熱処理でIG効果を発揮するシリコンウェーハの製造方法及びその方法で製造されたシリコンウェーハに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、半導体集積回路を製造する工程において、歩留りを低下させる原因として酸化誘起積層欠陥(Oxidation Induced Stacking Fault、以下、OSFという。)の核となる酸素析出物の微小欠陥や、結晶に起因したパーティクル(Crystal Originated Particle、以下、COPという。)や、或いは侵入型転位(Interstitial-type Large Dislocation、以下、LDという。)の存在が挙げられている。OSFは、結晶成長時にその核となる微小欠陥が導入され、半導体デバイスを製造する際の熱酸化工程等で顕在化し、作製したデバイスのリーク電流の増加等の不良原因になる。またCOPは、鏡面研磨後のシリコンウェーハをアンモニアと過酸化水素の混合液で洗浄したときにウェーハ表面に出現する結晶に起因したピットである。このウェーハをパーティクルカウンタで測定すると、このピットも本来のパーティクルとともに光散乱欠陥として検出される。このCOPは電気的特性、例えば酸化膜の経時絶縁破壊特性(Time Dependent dielectric Breakdown、TDDB)、酸化膜耐圧特性(Time Zero Dielectric Breakdown、TZDB)等を劣化させる原因となる。またCOPがウェーハ表面に存在するとデバイスの配線工程において段差を生じ、断線の原因となり得る。そして素子分離部分においてもリーク等の原因となり、製品の歩留りを低くする。更にLDは、転位クラスタとも呼ばれたり、或いはこの欠陥を生じたシリコンウェーハをフッ酸を主成分とする選択エッチング液に浸漬するとピットを生じることから転位ピットとも呼ばれる。このLDも、電気的特性、例えばリーク特性、アイソレーション特性等を劣化させる原因となる。
【0003】
以上のことから、半導体集積回路を製造するために用いられるシリコンウェーハからOSF、COP及びLDを減少させることが必要となっている。
このOSF、COP及びLDを有しない無欠陥のシリコンウェーハが特開平11−1393号公報に開示されている。この無欠陥のシリコンウェーハは、シリコン単結晶インゴット内での空孔型点欠陥の凝集体及び格子間シリコン型点欠陥の凝集体がそれぞれ存在しないパーフェクト領域を[P]とするとき、パーフェクト領域[P]からなるインゴットから切出されたシリコンウェーハである。パーフェクト領域[P]は、格子間シリコン型点欠陥が支配的に存在する領域[I]と、シリコン単結晶インゴット内で空孔型点欠陥が支配的に存在する領域[V]との間に介在する。このパーフェクト領域[P]からなるシリコンウェーハは、インゴットの引上げ速度をV(mm/分)とし、シリコン融液とインゴットとの界面近傍におけるインゴット鉛直方向の温度勾配をG(℃/mm)とするとき、熱酸化処理をした際にリング状に発生するOSFがウェーハ中心部で消滅するように、V/G(mm2/分・℃)の値を決めて作られる。
一方、半導体デバイスメーカーの中には、OSF、COP及びLDを有しない上に、デバイス工程で生じる金属汚染をゲッタリングする能力を有するシリコンウェーハを求めるメーカーがある。ゲッタリング能力が十分に備わっていないウェーハでは、デバイス工程で金属により汚染されると、接合リークや、金属不純物によるトラップ準位によるデバイスの動作不良等を生じ、これにより製品の歩留りが低下する。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記パーフェクト領域[P]からなるインゴットから切出されたシリコンウェーハは、OSF、COP及びLDを有しないけれども、デバイス製造工程の熱処理において、必ずしもウェーハ内部で酸素析出が起らず、これによりIG効果が十分に得られないおそれがある。
本発明の目的は、領域[P V ]及び領域[P I ]の混合領域又は領域[P V ]のみからなり、かつ酸素濃度が0.5×1018〜1.1×1018atoms/cm3(旧ASTM)であるインゴットから切出されたシリコンウェーハであっても、このウェーハに比較的短時間の所定の熱処理を施すことにより、点欠陥の凝集体が存在せず、かつゲッタリング能力を有するIG層を形成できる、シリコンウェーハの製造方法及びその方法により製造されたシリコンウェーハを提供することにある。
本発明の別の目的は、酸素ドナーキラー処理を不要とする、シリコンウェーハの製造方法及びその方法により製造されたシリコンウェーハを提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
請求項1に係る発明は、図1〜図4に示すように、チョクラルスキー法により窒素が1×1010〜1×1014atoms/cm3ドープされたシリコン単結晶インゴットを育成し、インゴット内での格子間シリコン型点欠陥が支配的に存在する領域を[I]とし、空孔型点欠陥が支配的に存在する領域を[V]とし、格子間シリコン型点欠陥の凝集体及び空孔型点欠陥の凝集体が存在しないパーフェクト領域を[P]とするとき、パーフェクト領域[P]からなるインゴットから切出された点欠陥の凝集体が存在しないシリコンウェーハの製造方法である。
その特徴ある構成は、領域[I]に隣接しかつパーフェクト領域[P]に属し侵入型転位を形成し得る最低の格子間シリコン濃度未満の領域を[PI]とし、領域[V]に隣接しかつパーフェクト領域[P]に属しCOP又はFPDを形成し得る空孔濃度以下の領域を[PV]とするとき、領域[PV]及び領域[PI]の混合領域又は領域[PV]のみからなりかつ酸素濃度が0.5×1018〜1.1×1018atoms/cm3(旧ASTM)であるシリコン単結晶インゴットを引上げ、インゴットから切出されたシリコンウェーハをアルゴン及び窒素の混合ガス雰囲気下で室温から1100〜1300℃まで10〜100℃/秒の昇温速度で加熱し、1100〜1300℃で0〜10秒間保持し、更に1100〜1300℃から室温まで10〜100℃/秒の降温速度で冷却するところにある。
【0006】
この請求項1に記載されたシリコンウェーハの製造方法では、窒素ドープされたインゴットの酸素濃度が0.5×1018〜1.1×1018atoms/cm3(旧ASTM)である場合であって、シリコンウェーハが領域[P V ]及び領域[P I ]の混合領域又は領域[P V ]のみからなるときには、このインゴットから切出されたシリコンウェーハを上記のような比較的短時間の熱処理(急速加熱及び急速冷却)を施すことにより、結晶成長時に酸素析出核が導入されない領域[PI]にも酸素析出核が発現し、結晶成長時に酸素析出核が導入されている領域[PV]ではその酸素析出核の密度が高まる。従って、上記熱処理を行ったウェーハを半導体デバイスメーカーのデバイス製造工程で熱酸化処理すると、上記酸素析出核が酸素析出物(Bulk Micro Defect、以下、BMDという。)に成長し、領域[P V ]及び領域[P I ]の混合領域又は領域[P V ]のみからなるウェーハであっても、このウェーハにゲッタリング能力を有するIG層が形成される、即ちウェーハ全面がIG効果を発揮する。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明のシリコンウェーハは、CZ法によりホットゾーン炉内のシリコン融液からインゴット(窒素ドープ)をボロンコフ(Voronkov)の理論に基づいた所定の引上げ速度プロファイルで引上げた後、このインゴットを切出して作製される。
一般的に、CZ法によりホットゾーン炉内のシリコン融液からシリコン単結晶のインゴットを引上げたときには、シリコン単結晶における欠陥として、点欠陥(point defect)と点欠陥の凝集体(agglomerates:三次元欠陥)が発生する。点欠陥は空孔型点欠陥と格子間シリコン型点欠陥という二つの一般的な形態がある。空孔型点欠陥は一つのシリコン原子がシリコン結晶格子で正常的な位置の一つから離脱したものである。このような空孔が空孔型点欠陥になる。一方、原子がシリコン結晶の格子点以外の位置(インタースチシャルサイト)で発見されるとこれが格子間シリコン点欠陥になる。
【0009】
点欠陥は一般的にシリコン融液(溶融シリコン)とインゴット(固状シリコン)の間の接触面で形成される。しかし、インゴットを継続的に引上げることによって接触面であった部分は引上げとともに冷却し始める。冷却の間、空孔型点欠陥又は格子間シリコン型点欠陥は拡散により互いに合併して、空孔型点欠陥の凝集体(vacancy agglomerates)又は格子間シリコン型点欠陥の凝集体(interstitial agglomerates)が形成される。言い換えれば、凝集体は点欠陥の合併に起因して発生する三次元構造である。
空孔型点欠陥の凝集体は前述したCOPの他に、LSTD(Laser Scattering Tomograph Defects)又はFPD(Flow Pattern Defects)と呼ばれる欠陥を含み、格子間シリコン型点欠陥の凝集体は前述したLDと呼ばれる欠陥を含む。FPDとは、インゴットを切出して作製されたシリコンウェーハを30分間セコエッチング(Secco etching、HF:K2Cr2O7(0.15mol/l)=2:1の混合液によるエッチング)したときに現れる特異なフローパターンを呈する痕跡の源であり、LSTDとは、シリコン単結晶内に赤外線を照射したときにシリコンとは異なる屈折率を有し散乱光を発生する源である。
【0010】
ボロンコフの理論は、欠陥の数が少ない高純度インゴットを成長させるために、インゴットの引上げ速度をV(mm/分)、インゴットとシリコン融液の界面近傍のインゴット鉛直方向の温度勾配をG(℃/mm)とするときに、V/G(mm2/分・℃)を制御することである。この理論では、図1に示すように、V/Gを横軸にとり、空孔型点欠陥濃度と格子間シリコン型点欠陥濃度を同一の縦軸にとって、V/Gと点欠陥濃度との関係を図式的に表現し、空孔領域と格子間シリコン領域の境界がV/Gによって決定されることを説明している。より詳しくは、V/G比が臨界点以上では空孔型点欠陥濃度が優勢なインゴットが形成される反面、V/G比が臨界点以下では格子間シリコン型点欠陥濃度が優勢なインゴットが形成される。図1において、[I]は格子間シリコン型点欠陥が支配的であって、格子間シリコン型点欠陥が存在する領域((V/G)1以下)を示し、[V]はインゴット内での空孔型点欠陥が支配的であって、空孔型点欠陥の凝集体が存在する領域((V/G)2以上)を示し、[P]は空孔型点欠陥の凝集体及び格子間シリコン型点欠陥の凝集体が存在しないパーフェクト領域((V/G)1〜(V/G)2)を示す。領域[P]に隣接する領域[V]にはOSF核を形成する領域[OSF]((V/G)2〜(V/G)3)が存在する。
【0011】
このパーフェクト領域[P]は更に領域[PI]と領域[PV]に分類される。[PI]はV/G比が上記(V/G)1から臨界点までの領域であり、[PV]はV/G比が臨界点から上記(V/G)2までの領域である。即ち、[PI]は領域[I]に隣接し、かつ侵入型転位を形成し得る最低の格子間シリコン型点欠陥濃度未満の格子間シリコン型点欠陥濃度を有する領域であり、[PV]は領域[V]に隣接し、かつOSFを形成し得る最低の空孔型点欠陥濃度未満の空孔型点欠陥濃度を有する領域である。
本発明の所定の引上げ速度プロファイルは、インゴットがホットゾーン炉内のシリコン溶融物から引上げられる時、温度勾配に対する引上げ速度の比(V/G)が格子間シリコン型点欠陥の凝集体の発生を防止する第1臨界比((V/G)1)以上であって、空孔型点欠陥の凝集体をインゴットの中央にある空孔型点欠陥が支配的に存在する領域内に制限する第2臨界比((V/G)2)以下に維持されるように決められる。
【0012】
この引上げ速度のプロファイルは、実験的に基準インゴットを軸方向に切出すことで、又はこれらの技術を組合わせることで、シミュレーションによって上記ボロンコフの理論に基づき決定される。即ち、この決定は、シミュレーションの後、軸方向に切出されたインゴットを横断方向に切出してウェーハ状態で確認し、更にシミュレーションを繰り返すことによりなされる。シミュレーションのために複数種類の引上げ速度が所定の範囲で決められ、複数個の基準インゴットが成長される。図2に示すように、シミュレーションのための引上げ速度プロファイルは1.2mm/分のような高い引上げ速度(a)から0.5mm/分の低い引上げ速度(c)及び再び高い引上げ速度(d)に調整される。上記低い引上げ速度は0.4mm/分又はそれ以下であってもよく、引上げ速度(b)及び(d)での変化は線形的なものが望ましい。
異なった速度で引上げられた複数個の基準インゴットは各別に軸方向に切出される。最適のV/Gが軸方向の切出し、ウェーハの確認及びシミュレーションの結果の相関関係から決定され、続いて最適な引上げ速度プロファイルが決定され、そのプロファイルでインゴットが製造される。実際の引上げ速度プロファイルは所望のインゴットの直径、使用される特定のホットゾーン炉及びシリコン融液の品質等を含めてこれに限定されない多くの変数に依存する。
【0013】
引上げ速度を徐々に低下させてV/Gを連続的に低下させたときのインゴットの断面図を描いてみると、図3に示される事実が分かる。図3には、インゴット内での空孔型点欠陥が支配的に存在する領域が[V]、格子間シリコン型点欠陥が支配的に存在する領域が[I]、及び空孔型点欠陥の凝集体及び格子間シリコン型点欠陥の凝集体が存在しないパーフェクト領域が[P]としてそれぞれ示される。前述したようにパーフェクト領域[P]は更に領域[PI]と領域[PV]に分類される。領域[PV]はパーフェクト領域[P]の中でも凝集体にならない空孔型点欠陥が存在する領域であり、領域[PI]はパーフェクト領域[P]の中でも凝集体にならない格子間シリコン型点欠陥が存在する領域である。具体的には、図3におけるインゴットの軸方向位置1(図3では丸数字1)〜3(図3では丸数字3)は空孔型点欠陥の凝集体及び格子間シリコン型点欠陥の凝集体のないパーフェクト領域であって、領域[P V ]及び領域[P I ]の混合領域(軸方向位置2(図3では丸数字2))と領域[P V ]のみ(軸方向位置1(図3では丸数字1))とが本発明に係る領域である。なお、図3における軸方向位置3(図3では丸数字3)は領域[P I ]のみであり、本発明の領域に含まれない。
【0014】
インゴットに窒素を1×1010〜1×1014atoms/cm3、好ましくは5×1012〜1×1014atoms/cm3ドープすることにより、領域[PV]又は領域[PI]のいずれか一方の領域又は双方の混合領域に点欠陥の凝集体が発生せず、領域[PV]の酸素析出核の密度が高まるとともに、領域[PI]にも所望の密度以上の酸素析出核を形成できる。インゴットに窒素をドープする方法としては、インゴットの引上げ時に窒化物が混合された多結晶シリコン又は窒化膜が形成された多結晶シリコン融液に投入するか、或いはインゴットを窒素雰囲気中で引上げることにより行われる。窒素のドープ量を1×1010〜1×1014atoms/cm3に限定したのは、1×1010atoms/cm3未満では酸素析出物の生成を促進するという効果を得られず、1×1014atoms/cm3を越えると電気的補償により所望の抵抗率から外れるからである。即ち、ホウ素のドープによりPタイプとなったウェーハに、ウェーハをNタイプにする窒素のドープ量(この窒素はシリコンと置換する。)が多くなると、上記Pタイプ及びNタイプが互いにキャンセルして抵抗値が上昇するからである。
【0015】
また空孔型点欠陥が支配的に存在する領域のパーフェクト領域に接する僅かな領域(図1の(V/G)2〜(V/G)3)は、ウェーハ面内でCOPもLDも発生していない領域である。しかしこの領域を含むシリコンウェーハに対して、従来のOSF顕在化熱処理に従った、酸素雰囲気下、1000℃±30℃の温度で2〜5時間熱処理し、引続き1130℃±30℃の温度で1〜16時間熱処理すると、OSFを生じる。即ち、上記ウェーハではウェーハの半径の1/2付近にOSFリングが発生する。このOSFリングで囲まれた空孔型点欠陥が支配的に存在する領域はCOPが出現する傾向がある。
【0016】
なお、COPやLDなどの点欠陥の凝集体は検出方法によって検出感度、検出下限値が異なる値を示すことがある。そのため、本明細書において、「点欠陥の凝集体が存在しない」の意味は、鏡面加工されたシリコン単結晶を無攪拌セコエッチングを施した後に光学顕微鏡により、観察面積とエッチング取り代との積を検査体積として観察した際に、フローパターン(空孔型欠陥)及び転位クラスタ(格子間シリコン型点欠陥)の各凝集体が1×10-3cm3の検査体積に対して1個欠陥が検出された場合を検出下限値(1×103個/cm3)とするとき、点欠陥の凝集体の数が上記検出下限値以下であることをいう。
本発明のシリコンウェーハは上述したインゴットの軸方向位置1(図3では丸数字1)及び2(図3では丸数字2)で切出したウェーハ1(図3では丸数字1)及び2(図3では丸数字2)であって、その平面図は図4(a)及び(b)にそれぞれ示される。ウェーハ1(図3では丸数字1)及び2(図3では丸数字2)は本発明の急速加熱及び急速冷却の熱処理によりウェーハ1(図3では丸数字1)及び2(図3では丸数字2)に所望の密度以上の酸素析出核を発生させるために、その酸素濃度が0.5×1018〜1.1×1018atoms/cm3(旧ASTM)であることが必要である。
【0017】
次に上記シリコンウェーハ1(図3では丸数字1)及び2(図3では丸数字2)の急速加熱及び急速冷却の熱処理について説明する。
この熱処理はウェーハ1(図3では丸数字1)及び2(図3では丸数字2)をアルゴン及び窒素の混合ガス雰囲気下で室温から1100〜1300℃まで20〜70℃/秒の昇温速度で加熱し、1100〜1300℃で0〜10秒間保持し、更に1100〜1300℃から室温まで20〜100℃/秒の降温速度で冷却することにより行われる。ここで保持時間が0秒間とは、昇温した後に直ちに降温し、所定の温度に保持しないことを意味する。加熱は室温に維持された熱処理炉、又は連続運転の場合には余熱で数百度になっている熱処理炉の内部にウェーハを導入し、この熱処理炉内でシリコンウェーハに白熱ランプ、ハロゲンランプ、アークランプ、グラファイトヒータ等の放射光を照射し、10〜100℃/秒、好ましくは20〜70℃/秒の昇温速度で1100〜1300℃まで昇温する。昇温速度が10℃/秒未満では酸素析出核は増加するものの処理能力に劣り、実用的でない。また保持温度が1100℃未満では酸素析出核が十分に増加せず、半導体デバイスメーカーのデバイス製造工程で熱酸化処理を行ったときに、IG効果を十分に発揮できない。保持温度が1300℃を越えるか、又は保持時間が10秒を越える場合には、スリップが発生したり、熱処理の生産性が低下する不具合を生じる。また昇温速度が100℃/秒を越えると、自重応力や面内温度分布のバラツキによりスリップが発生する不具合を生じる。
【0018】
一方、冷却は上記所定の温度に保持された熱処理炉の白熱ランプ等の放射光の照射を停止、又は徐々に低下して、10〜100℃/秒、好ましくは20〜100℃/秒の降温速度で室温まで冷却する。降温速度が10℃/秒未満では十分な酸素析出核が形成されず、降温速度が100℃/秒を越えると、面内に温度分布の差が大きくなり、スリップが発生する不具合がある。上述のように従来と比べて短時間の熱処理(急速加熱時間、所定の温度での保持時間及び急速冷却時間の合計)で済むのは、ウェーハを切出す前のインゴットに窒素がドープされているためである。これによりウェーハの領域[PV]又は領域[PI]のいずれか一方の領域又は双方の混合領域に点欠陥の凝集体が存在せず、かつ領域[PV]の酸素析出核の密度が高まるとともに、領域[PI]にも所望の密度以上の酸素析出核が形成されるので、上記熱処理後のウェーハに半導体デバイス製造工程における熱酸化処理を行うことにより、ウェーハにゲッタリング能力を有するIG層が形成され、ウェーハはIG効果を発揮することができる。
【0019】
また上述のように熱処理を短時間化することにより、シリコンウェーハのヘイズ(シリコンウェーハをスポットライトで照射したときのウェーハ表面が白っぽく見える度合)、マイクロラフネス(シリコンウェーハを鏡面研磨した後のウェーハ表面の100〜1000nmのピッチでの表面粗さ)、スリップ(シリコンウェーハの結晶中ですべりにより生じた結晶欠陥)及び汚染(Cu,Fe,Cr,Ni)が低減される。更に上記熱処理を行うことにより、ウェーハプロセスのうちの酸素ドナーキラー処理が不要となる。
【0020】
【実施例】
次に本発明の実施例を参考例及び比較例とともに説明する。
<参考例1>
シリコン単結晶引上げ装置を用いて直径8インチのボロン(B)及び窒素(N)がドープされたp型のシリコンインゴットを引上げた。このインゴットは直胴部の長さが1200mm、結晶方位が(100)、抵抗率が約10Ωcm、酸素濃度が0.9×1018atoms/cm3(旧ASTM)であった。インゴットは、引上げ時のV/Gを0.28mm2/分℃から0.16mm2/分℃まで連続的に減少させながら、同一条件で2本育成した。そのうちの1本のインゴットは図3に示すように引上げ方向にインゴット中心を切断し、各領域の位置を調べ、別の1本から図3の軸方向位置2(図3では丸数字2)のシリコンウェーハ2(図3では丸数字2)を切出し、試料とした。この例では試料となるウェーハは、中心部に領域[PV]を有し、その周囲に領域[PI]を有する図4(b)に示すウェーハ2(図3では丸数字2)である。
インゴットから切出し鏡面研磨したこのウェーハ2(図3では丸数字2)を窒素雰囲気下、室温から1250℃まで40℃/秒の昇温速度で加熱し、1250℃で3秒間保持し、更に50℃/秒の降温速度で冷却した。なお、表面の窒化を防ぐため、1250〜700℃までは、窒素と同時に1%の酸素を流した。
【0021】
<参考例2>
参考例1と同じインゴットから図3の軸方向位置1(図3では丸数字1)で切出し鏡面研磨したウェーハ1(図3では丸数字1)を用いて、参考例1と同様に熱処理した。
<参考例3>
参考例1と同じインゴットから図3の軸方向位置3(図3では丸数字3)で切出し鏡面研磨したウェーハ3(図3では丸数字3)を用いて、参考例1と同様に熱処理した。
【0022】
<参考例4>
参考例1と同じインゴットから図3の軸方向位置2(図3では丸数字2)で切出し鏡面研磨したウェーハ2(図3では丸数字2)を、アルゴン雰囲気下、室温から1250℃まで40℃/秒の昇温速度で加熱し、1250℃で約3秒間保持し、更に50℃/秒の降温速度で冷却した。
<実施例1>
参考例1と同じインゴットから図3の軸方向位置2(図3では丸数字2)で切出し鏡面研磨したウェーハ2(図3では丸数字2)を、アルゴン及び窒素がそれぞれ50%及び50%の雰囲気下、室温から1250℃まで40℃/秒の昇温速度で加熱し、1250℃で約3秒間保持し、更に50℃/秒の降温速度で冷却した。
【0023】
<比較例1>
参考例1と同様の条件で、窒素をドープしないで成長させたインゴットから図3の軸方向位置2(図3では丸数字2)で切出し鏡面研磨したウェーハ2(図3では丸数字2)を窒素雰囲気下、室温から1250℃まで40℃/秒の昇温速度で加熱し、1250℃で3秒間保持し、更に50℃/秒の降温速度で冷却した。
<比較例2>
比較例1と同じインゴットから図3の軸方向位置2(図3では丸数字2)で切出し鏡面研磨したウェーハ2(図3では丸数字2)を窒素雰囲気下、室温から1250℃まで40℃/秒の昇温速度で加熱し、1250℃で30秒間保持し、更に50℃/秒の降温速度で冷却した。
【0024】
<比較試験及び評価>
半導体デバイスメーカーのデバイス製造工程における熱処理に模して、実施例1と、参考例1〜4と、比較例1及び2のウェーハをそれぞれ2枚ずつ酸素雰囲気下、800℃で4時間保持した後、酸素雰囲気下、1000℃で16時間保持する熱処理を行った。次に2枚のうちの一方の各ウェーハのヘイズ及びマイクロラフネスをそれぞれ測定した。
また2枚のうちの他方の各ウェーハを劈開し、更にウェーハ表面をライト(Wright)エッチング液で選択エッチングを行い、光学顕微鏡の観察により、ウェーハ表面から深さ350μmにおける領域[PV]及び領域[PI]に相当する部分のスリップの有無、汚染の度合、BMD体積密度及びデヌーデッドゾーン(Denuded Zone:以下、DZという)の幅をそれぞれ測定した。
【0025】
なお、上記ヘイズはパーティクルカウンタ(Surf Scan 6200:KLA Tencor社製)を用いてゲイン7で測定することにより評価し、マイクロラフネスはAFM(原子間力顕微鏡)を用いて1000×1000nmの測定領域の平均粗さ(Ra)を測定することにより評価した。またスリップの有無はX線トポグラフィを用いて評価し、汚染の度合は原子吸光法を用いてウェーハ表面の金属汚染(Cu,Fe,Cr)を測定することにより評価した。更にBMD体積密度は光学顕微鏡の観察により、ウェーハ表面から深さ100μmにおけるウェーハ中心部からウェーハ周辺部までのウェーハ全面のBMD体積密度を測定することにより評価し、Dzの幅は光学顕微鏡によりバルク欠陥が全く観察されない領域のウェーハ表面からの深さを測定することにより評価した。
実施例1と、参考例1〜4と、比較例1及び2のウェーハの熱処理条件及び図3の切出し位置を表1に示し、ヘイズ、マイクロラフネス、スリップの有無、汚染の度合、BMD体積密度及びDzの幅を表2に示す。また表2において、汚染の度合のN.D.とは「Not Detect(検出下限以下)」の略である。
【0026】
【表1】
【0027】
【表2】
【0028】
表1及び表2から明らかなように、実施例1と参考例1〜4の窒素ドープしたウェーハでは3秒という短い熱処理時間(アニール時間)でも、十分な量の酸素析出が発生しており、またDz幅も確保されていることが判った。一方、窒素ドープをしなかった比較例1のウェーハでは、所定のBMD体積密度を確保することができず、また窒素ドープをしなかった比較例2のウェーハでは、熱処理時間(アニール時間)を30秒と長くして所定のBMD体積密度を確保できたけれども、スリップや汚染が発生し、更にウェーハの表面の粗れも大きくなっていることが判った。
【0029】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明の熱処理方法によれば、領域[PV]及び領域[PI]の混合領域又は領域[PV]のみからなりかつ酸素濃度が0.5×1018〜1.1×1018atoms/cm3(旧ASTM)である窒素ドープされたシリコンウェーハを、アルゴン及び窒素の混合ガス雰囲気下で室温から1100〜1300℃まで10〜100℃/秒の昇温速度で加熱し、1100〜1300℃で0〜10秒間保持し、更に1100〜1300℃から室温まで10〜100℃/秒の降温速度で冷却するという短時間の熱処理を施すことにより、点欠陥の凝集体が存在しないことに加え、領域[PV]の酸素析出核の密度が高まるとともに、領域[PI]にも所望の密度以上の酸素析出核が形成される。この結果、上記熱処理を終了したウェーハに対して半導体デバイス製造工程における熱酸化処理を行うことにより、ウェーハにゲッタリング能力を有するIG層が形成されてウェーハはIG効果を発揮することができる。
また本発明の熱処理を行うことにより、従来行われていた酸素ドナーキラー処理が不要となる利点もある。
【図面の簡単な説明】
【図1】 ボロンコフの理論を基づいた、V/G比が臨界点以上では空孔豊富インゴットが形成され、V/G比が臨界点以下では格子間シリコン豊富インゴットが形成されることを示す図。
【図2】 所望の引上げ速度プロファイルを決定するための引上げ速度の変化を示す特性図。
【図3】 本発明による基準インゴットの空孔が支配的に存在する領域、格子間シリコンが支配的に存在する領域及びパーフェクト領域を示すX線トポグラフィの概略図。
【図4】 (a) 図3の位置1(図3では丸数字1)に対応するシリコンウェーハに[PV]領域が出現するウェーハの平面図。
(b) 図3の位置2(図3では丸数字2)に対応するシリコンウェーハに[PV]領域及び[PI]領域が出現するウェーハの平面図。
(c) 図3の位置3(図3では丸数字3)に対応するシリコンウェーハに[PI]領域が出現するウェーハの平面図。
Claims (1)
- チョクラルスキー法により窒素が1×1010〜1×1014atoms/cm3ドープされたシリコン単結晶インゴットを育成し、前記インゴット内での格子間シリコン型点欠陥が支配的に存在する領域を[I]とし、空孔型点欠陥が支配的に存在する領域を[V]とし、格子間シリコン型点欠陥の凝集体及び空孔型点欠陥の凝集体が存在しないパーフェクト領域を[P]とするとき、
前記パーフェクト領域[P]からなるインゴットから切出された点欠陥の凝集体が存在しないシリコンウェーハの製造方法であって、
前記領域[I]に隣接しかつ前記パーフェクト領域[P]に属し侵入型転位を形成し得る最低の格子間シリコン濃度未満の領域を[PI]とし、前記領域[V]に隣接しかつ前記パーフェクト領域[P]に属しCOP又はFPDを形成し得る空孔濃度以下の領域を[PV]とするとき、
前記領域[PV]及び前記領域[PI]の混合領域又は前記領域[PV]のみからなりかつ酸素濃度が0.5×1018〜1.1×1018atoms/cm3(旧ASTM)であるシリコン単結晶インゴットを引上げ、
前記インゴットから切出されたシリコンウェーハをアルゴン及び窒素の混合ガス雰囲気下で室温から1100〜1300℃まで10〜100℃/秒の昇温速度で加熱し、1100〜1300℃で0〜10秒間保持し、更に1100〜1300℃から室温まで10〜100℃/秒の降温速度で冷却することを特徴とするシリコンウェーハの製造方法。
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