JP4064086B2 - 帯電防止コーティング剤および無色透明帯電防止フィルム - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、帯電防止コーティング剤及び無色透明帯電防止フィルムに関するものであり、更に詳しくは、安価に、透明性が高い被膜を得ることができる、液安定性に優れた帯電防止コーティング剤および無色透明帯電防止フィルムに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、一般的な工業材料や磁気記録材料としてフィルム、とくにポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル系フィルムが広く使用されているが、ポリエステル系フィルムは表面抵抗率が大きいため、摩擦などで帯電しやすいという特性を有している。これらのフィルムは帯電することによって、そのフィルム表面にほこり、ごみなどが付着するといった問題が発生する。
【0003】
そこで、帯電防止性能が付与されたフィルムとして、帯電防止剤を練り込んだ樹脂から得られるフィルムまたは表面に帯電防止塗膜を形成したフィルムが実用化されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、例えば、高分子型の帯電防止剤を練り込んだ樹脂から得られるフィルムは、帯電防止性能を良好なものとするためには帯電防止剤を多量に含有させる必要があるので、経済的ではなく、耐水性が十分でないといった問題があった。
【0005】
また、表面に帯電防止被膜を形成したフィルムのうち、低分子の界面活性剤型帯電防止剤を用いたフィルムでは、帯電防止性能が経時的に低下する傾向があり、またフィルムをロール状に巻いた状態では帯電防止剤が隣接するフィルムの背面に移行するといった問題がある。また、ポリピロールやポリアニリンなどの導電性高分子を用いたフィルムでは、コストが高くなるとともに導電性高分子特有の着色が生ずるという問題が起こる。
【0006】
また、表面に帯電防止被膜を形成したフィルムについては、導電性を有する酸化スズを主成分とする超微粒子を含有させたフィルムも検討されているが、酸化スズ超微粒子が高価であるためコストが高くなるうえ、密着性が不十分という問題があった。特に、アンチモンをドープした酸化スズ超微粒子は、アンチモンが高価なうえ、製法が複雑であり、コーティン剤の組成物として用いるには性能のわりに高価であるという問題があった。
【0007】
本発明は、透明性が高く、適度な基材との密着性を有する被膜を得ることができる、液安定性に優れた帯電防止コーティング剤および無色透明帯電防止フィルムを安価に提供することを目的とするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討の結果、酸化スズ超微粒子単体を、アルキルアミンを分散安定剤として分散させることにより、ゾル中の酸化スズ超微粒子の体積平均粒子径(mv)および数平均粒子径(mn)がともに15nm以下で、かつ、mv/mnが1.0〜1.1の範囲にあるシャープな粒度分布を有する無色透明酸化スズゾルを安価に製造できることを見出し、この無色透明酸化スズゾルと、アニオン性またはノニオン性の水溶性高分子の水溶液および/または水分散性高分子の水性分散体とを混合するのみという簡便な操作で、酸化スズ超微粒子が充分均一に分散した、液安定性に優れた帯電防止コーティング剤が安価に得られることを見出し、また、このコーティング剤から形成された被膜は、透明性が高く、適度な基材との密着性を有していることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち、本発明の第一は、アニオン性またはノニオン性の水溶性高分子および/または水分散性高分子の固形分100質量部と、酸化スズ超微粒子30〜1500質量部とがアルキルアミンを含有する水性媒体中に均一に分散し、実質的にアンモニア、アミノアルコール、第4級アンモニウム水酸化物を含まないことを特徴とする帯電防止コーティング剤を要旨とするものであり、ゾル中の酸化スズ超微粒子の体積平均粒子径(mv)および数平均粒子径(mn)がともに15nm以下で、かつ、mv/mnが1.0〜1.1の範囲にあるシャープな粒度分布を有する無色透明酸化スズゾルと、アニオン性またはノニオン性の水溶性高分子溶液および/または水分散性重合体の水性分散体とを撹拌、混合することで得られることを特徴とするものである。
【0010】
本発明の第二は、熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも一方の面に、上記の帯電防止コーティング剤を塗布、乾燥してなるコート層を有し、表面固有抵抗が1010Ω/□未満であり、ヘイズが10%以下であることを特徴とする無色透明帯電防止フィルムを要旨とするものであり、好ましくは、コート層が耐水性に優れているものであり、また、熱可塑性樹脂フィルムがポリエチレンテレフタレートからなることを特徴とするものである。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明におけるコーティング剤は、アニオン性またはノニオン性の水溶性高分子および/または水分散性高分子の固形分100質量部に対して、酸化スズ超微粒子がおよそ30〜1500質量部含有されたものであり、好ましくはアニオン性またはノニオン性の水溶性高分子および/または水分散性高分子の固形分100質量部に対して酸化スズ超微粒子が50〜1000質量部、より好ましくは100〜800質量部混合されたものである。酸化スズ超微粒子の割合が30質量部未満ではこのコーティング剤を用いて得られる被膜の帯電防止性が不十分になることがあり、一方、1500質量部を越えると、被膜と基材との密着性が低下することがある。
【0012】
また、上記アニオン性またはノニオン性の水溶性高分子および/または水分散性高分子と酸化スズ超微粒子とを分散させる溶媒としては、水性媒体が用いられる。この水性媒体としては水を主成分とするものが用いられ、好ましくは水または60質量%以上が水である水性媒体が用いられる。
【0013】
アニオン性またはノニオン性の水溶性高分子としては、ポリビニルアルコール、カルボキシル基変性ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、変性デンプン、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸およびその塩、アクリル酸−無水マレイン酸共重合体およびその塩、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、イソブチレン−無水マレイン酸交互共重合体、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体等の不飽和カルボン酸含有量が10質量%以上のカルボキシル基含有ポリマーおよびその塩、ポリイタコン酸およびその塩、アミノ基を有する水溶性アクリル系共重合体、ゼラチン、アラビアゴム、カゼイン等を挙げることができ、これらは2種以上を混合して使用しても良い。
【0014】
また、アニオン性またはノニオン性の水分散性高分子の水性分散体としては、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビリニデン、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−マレイン酸樹脂、スチレン−ブタジエン樹脂、ブタジエン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン樹脂、ポリ(メタ)アクリロニトリル樹脂、(メタ)アクリルアミド樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、変性ナイロン樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等の水性分散体を挙げることができ、これらは2種以上を混合して使用しても良い。
さらに、アニオン性またはノニオン性の水溶性高分子の水溶液と水分散性高分子の水性分散体とを組み合わせて2種類以上混合して使用しても良い。
【0015】
水分散性高分子の水性分散体を使用した場合、得られる帯電防止コートフィルムのコート層は耐水性に優れたものとなる場合が多い。本発明において、耐水性に優れるとは、例えばコートフィルムを流水中に60秒間さらした後も、コートフィルムが膨潤せず、流水中にさらす前の帯電防止性能レベルを保つことをいう。
なお、本発明におけるアニオン性またはノニオン性の水溶性高分子の水溶液および/または水分散性高分子の水性分散体は、酸化スズ超微粒子の良好な分散安定性を維持するために、pH7以上にコントロールされていることが好ましい。
【0016】
次に、本発明のコーティング剤における酸化スズ超微粒子について説明する。本発明における酸化スズ超微粒子とは、酸化スズ、あるいはその溶媒和物や配位化合物の超微粒子のことをいい、その数平均粒径は15nm以下でシャープな粒径分布を持つものである。ここで、上記酸化スズ超微粒子の数平均粒子径は、微粒物質の粒子径を測定するために一般的に使用されている動的光散乱法によって測定される。
【0017】
本発明のコーティング剤において、上記アニオン性またはノニオン性の水溶性高分子および/または水分散性高分子の微粒子とともに使用される酸化スズ超微粒子は、あらかじめ水中もしくは水を主成分とする溶媒中に分散したゾルとして使用され、その分散安定剤としてアルキルアミンが用いられる。
【0018】
なお、本発明におけるゾルとは、1〜100nm程度の大きさを持つ固体分散質が液体分散媒中に分散した流動性のある系で、固体分散質が活発なブラウン運動をしており、速やかに濾紙を通過する程度まで分散しているものまたはその状態を指す。一方、後述するスラリーとは、静置により液体分散媒中の固体分散質が沈降する系を示し、固体分散質の殆どが濾紙を通過できない程度にしか分散していないものまたはその状態を示す。
【0019】
本発明に用いられる酸化スズゾル中には既述のアニオン性またはノニオン性の水溶性高分子の水溶液や水分散性高分子の水性分散体に含有される親水性有機溶剤が含まれていてもよい。
【0020】
酸化スズゾルの製造法は、大別して酸化スズ超微粒子含有スラリー製造工程と酸化スズ超微粒子含有スラリーのゾル化工程との2つに分けることができる。
酸化スズ超微粒子含有スラリーの製造工程において、酸化スズ超微粒子含有スラリーの製造方法に規定はないが、後のゾル化の容易さを考慮すると、湿式法により酸化スズ超微粒子含有スラリーを製造するのが好ましい。
【0021】
本発明において、湿式法で酸化スズ超微粒子含有スラリーを製造する方法にも特に規定はなく、金属スズやスズ化合物を加水分解または熱加水分解する方法や、スズイオンを含む酸性溶液をアルカリ加水分解する方法、スズイオンを含む溶液をイオン交換膜やイオン交換樹脂によりイオン交換する方法など何れの方法も用いることができる。
【0022】
本発明において、湿式法で酸化スズ超微粒子含有スラリーを製造する方法に用いられるスズ原料には、金属スズ、ハロゲン化物や硫酸塩などの水溶性の無機塩、蓚酸や酢酸などの有機酸塩、有機スズ化合物、スズアルコキシドなどが挙げられるが、何れの化合物においても溶液中におけるスズイオンの価数が4価になり得るものが用いられる。
【0023】
本発明において、酸化スズ超微粒子は酸性域での調製が可能であるので、酸化スズ超微粒子含有スラリーを製造する際のpHは1.5〜5.0が好ましく、さらに好ましくは1.5〜3.0である。特にアルカリ加水分解法において、中性域および塩基性域に到達するまでアルカリを添加することはコストアップにつながるのみならず、生成した酸化スズ超微粒子が過剰のアルカリ成分の影響で分散しやすくなるために洗浄時に排出されてしまい、収率を低下させる。しかも、生成したゾルの安定性に問題を生じるため好ましくない。一方、pH1.5未満では酸化スズ超微粒子の生成量が少なく不適当である。
【0024】
上記のようにして得られた酸化スズ超微粒子含有スラリーは、次のゾル化工程に移る前に通常、加熱処理および洗浄を行う。加熱温度は60℃以上が好ましく、さらに好ましくは70℃以上である。加熱処理しなくても目的の無色透明導電性酸化スズゾルを得ることは可能であるが、加熱処理することにより、後の洗浄およびゾル化を速やかに行うことが可能になることから、加熱処理することが望ましい。
【0025】
洗浄工程における固液分離法に特に規定はなく、デカンテーション、遠心分離、濾過など何れの方法を用いても良い。
【0026】
次に、酸化スズ超微粒子含有スラリーをゾル化する工程に移る。ゾル化工程は、酸化スズ固形分とゾル媒体、分散安定剤を混合し、撹拌、加温することからなる。なお、酸化スズ固形分とゾル媒体、分散安定剤との混合順序は任意であり、固形分をスラリー化した後、分散安定剤を添加し混合・分散・加温しても良いし、または分散安定剤を添加したゾル媒体中に酸化スズ固形分を添加、混合・分散・加温しても良い。
【0027】
本発明において、ゾルの媒体には水以外に水と親水性有機溶媒との混合溶媒も用いることができる。親水性有機溶媒としては、既述の水溶性高分子の水溶液や水分散性高分子の水性分散体中に含まれる親水性有機溶剤をはじめとし、メチルアルコールやエチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、エチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリンなどのアルコール類、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、テトラヒドロフランなどのエーテル類、ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどの酸アミド類、また後述するアミン類を挙げることができる。
【0028】
本発明において、ゾル化する酸化スズ超微粒子含有スラリー中の固形分濃度は5wt%〜15wt%が好ましく、さらに好ましくは8wt%〜12wt%である。固形分濃度が低いと出来上がった際の無色透明酸化スズゾルの濃度も低くなるため、十分な導電性を得るためには濃縮工程が必要となる。一方で固形分濃度が15wt%を超えると、酸化スズ超微粒子含有スラリーの粘度が高くなるため取り扱いにくく、ゾル化が困難になる。また、解膠が不十分になり、シャープな粒度分布を得ることが困難になる。
【0029】
本発明においてゾル化に用いられる分散安定剤として、アルキルアミンを用いることが必要である。本発明におけるアルキルアミンとは、一般式RNH2、R2NHまたはR3Nで表される塩基性を示す化合物であり、ここでRはアルキル基であるが、ゾル媒体との相溶性、取り扱いの点から鎖状アルキル基を主とするものが好ましい。そのようなアルキルアミンの具体例としては、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、n−プロピルアミン、イソプロピルアミン、n−ブチルアミン、イソブチルアミン,sec−ブチルアミン、tert−ブチルアミン、3−エトキシプロピルアミン、3−ジエチルアミノプロピルアミン、メチルアミノプロピルアミン、メチルイミノビスプロピルアミン、3−メトキシプロピルアミンなどを挙げることができ、中でも沸点が30〜200℃のものが好ましく、50〜100℃のものが特に好ましい。このようなアルキルアミンの中でもジエチルアミン、トリエチルアミン、イソプロピルアミンが工業的に入手しやすいので特に好ましい。なお、これらのアルキルアミンはゾル中で塩を形成していても良い。
【0030】
分子内に水酸基を有するアミノアルコールを分散安定剤として用いるには、アミノアルコールの必要量が多く、また塗布膜に斑が生じてヘイズが大きくなる場合がある。また、水分散性高分子の水性分散体を含む塗布加工液の組成物として用いたとき、塗布加工液の液安定性に乏しい場合があるので採用できない。
【0031】
また、第4級アンモニウム水酸化物を分散安定剤として用いるには、第4級アンモニウム水酸化物が高価であるうえ、他の塩基性分散安定剤に比べて必要量が多いので用いられない。
【0032】
一方、アンモニアを分散安定剤として用いる場合、高濃度の酸化スズ含有スラリーをゾル化することが困難であることから、ゾル調製時の酸化スズ含有スラリー中固形分濃度の上限が低くなるために低固形分濃度のものしか製造できず、利用可能な濃度にするためには濃縮工程が必要となり、しかも、高濃度化のための濃縮工程において、随時アンモニア水を添加しなければならないうえに、細やかなpHコントロールが必要とされるなどの操作上の煩わしさがあるので本発明では採用しない。
【0033】
アルキルアミンのゾル媒体への混合量としては、得られる混合溶媒のpHが8.5〜10.0になるよう添加することが好ましく、さらに好ましくは8.5〜9.5である。pHが8.5未満では酸化スズ超微粒子の解膠が不完全になり透明なゾルが得られない場合があるうえ、ゾルの安定性が悪くなる場合がある。しかも、アニオン性またはノニオン性の水溶性高分子の水溶液および/または水分散性高分子の水性分散体との混合安定性が乏しくなる場合がある。一方でpHが10.0を越えるとコストアップの原因となるうえ、後の塗布加工液調製時に混合する高分子によっては塗布加工液が凝集する場合がある。媒体のpHが10.0以上になった場合には、後の加温工程において加温時間を長くし、アルキルアミンの含有量を低減させることでpHを下げることが可能である。
【0034】
pHが上記範囲を逸脱すると、分散性に優れたゾルは得られない。なお、この場合必要なアルキルアミンの添加量は、酸化スズ超微粒子含有スラリーに残存する不純物の量や種類に、あるいは酸化スズ超微粒子濃度によっても若干異なるが、酸化スズ超微粒子1モルに対して0.15〜0.50モルになるよう添加することが好ましく、さらに好ましくは0.20〜0.40モルである。
【0035】
本発明のゾル化工程においては通常、攪拌することが行われるが、撹拌方法に特に規定はなく、一般的な撹拌子や撹拌羽を用いる撹拌方法以外に、ホモミキサーやホモジナイザーを用いる分散法や、高圧分散器や超音波分散器などを用いることも可能である。
【0036】
酸化スズ固形分とゾル媒体、分散安定剤とを混合した後、ゾル化の加速と出来上がった際の酸化スズゾルの透明性確保から、25℃以上、より好ましくは30℃以上に加温することが好ましい。これにより無色透明酸化スズゾルを得ることができるが、さらに必要に応じて濃縮することも可能である。
【0037】
本発明で使用される無色透明酸化スズゾルは、酸化スズ超微粒子の体積平均粒子径(mv)および数平均粒子径(mn)が15nm以下で、かつ、mv/mnが1.0〜1.1の範囲にあるシャープな粒度分布を有するものである。mv/mnが1.1を超えると、コロイド色が強くなり、塗布加工液組成物として用いたとき、得られた塗布膜のヘイズが大きくなる場合があるので好ましくない。
【0038】
上記のアルキルアミンを用いる酸化スズゾル製造法によれば、酸化スズ超微粒子が一次粒子レベルまで解膠された、着色が無く良好な導電性を有する高固形分濃度の無色透明酸化スズゾルを濃縮工程や細やかなpHコントロールなしで製造することが可能であるため、安価に所望の無色透明酸化スズゾルを得ることができる。
【0039】
本発明におけるコーティング剤は、例えば、上記無色透明酸化スズゾルと上記アニオン性またはノニオン性の水溶性高分子の水溶液および/または水分散性高分子の水性分散体とを混合することによって調製される。その際に、アニオン性またはノニオン性の水溶性高分子の水溶液および/または水分散性高分子の水性分散体に無色透明酸化スズゾルを加えて混合してもよく、逆に無色透明酸化スズゾルに上記アニオン性またはノニオン性の水溶性高分子の水溶液および/または水分散性高分子の水性分散体を加えて混合してもよく、混合順序は任意である。
【0040】
なお、両者を混合する際、コーティング剤の分散安定性を維持するために、必要に応じて、混合液のpHが8〜10になるようにpH調整を行うことが好ましい。
【0041】
上記コーティング剤を調製する際に、無色透明酸化スズゾルとアニオン性またはノニオン性の水溶性高分子の水溶液および/または水分散性高分子の水性分散体とを混合する際の撹拌装置としては、広く知られている装置を使用することが可能であり、混合液の分散性が良好であるため、極めて短時間かつ簡単な混合操作でよい。
【0042】
このようにして得られたコーティング剤中には、上記アニオン性またはノニオン性の水溶性高分子の水溶液および/または水分散性高分子の水性分散体に由来する有機溶媒が含まれており、また、塗布性能を向上させるために例えばイソプロピルアルコールなどの低沸点アルコールのような有機溶媒を加えることもあるが、有機溶媒の含有量は溶媒全体の40質量%以下に抑え、60質量%以上は水であることが作業環境の上から好ましい。
【0043】
本発明のコーティング剤における固形分濃度すなわち酸化スズ超微粒子とアニオン性またはノニオン性の水溶性高分子および/または水分散性高分子の総濃度は1〜40質量%が好ましい。固形分濃度が1質量%以下では、基材に塗布する際に十分な厚さの被膜を形成しにくくなる傾向があり、一方40質量%を越えると、酸化スズ超微粒子の分散性が不十分になることがある。
【0044】
また、本発明のコーティング剤には、架橋剤を混合して被膜の硬度および耐水性を上げることができる。架橋剤としては、アニオン性またはノニオン性の水溶性高分子および/または水分散性高分子が有する官能基、例えばカルボキシル基や水酸基と反応性を有するものが用いられ、例えば、フェノール樹脂、アミノ樹脂、多官能エポキシ樹脂、多官能イソシアネート化合物及びその各種ブロックイソシアネート化合物、多官能アジリジン化合物、カルボジイミド基含有化合物、オキサゾリン基含有化合物などが挙げられる。このような架橋剤は1種類のみでも、2種類以上を併用してもよい。
【0045】
さらに、本発明のコーティング剤には、その特性が損なわれない範囲で、酸化防止剤、滑剤、着色剤などを添加することができる。
【0046】
本発明のコーティング剤は、塗料、接着剤、インキ、繊維処理剤、紙塗工剤などの各種コーティング剤として、フィルムなどの樹脂形成体、紙、ガラスなどの各種基材上に均一に塗布することができる。
【0047】
塗布方法としては、ディップコート法、はけ塗り法、ロールコート法、スプレーコート法、グラビアコート法、カーテンフローコート法、各種印刷法などが挙げられる。
【0048】
また、塗布されたコーティング剤の乾燥方法としては、通常、熱風循環型のオーブンや赤外線ヒーターなどにより、60℃〜230℃で例えば2秒間〜50秒間乾燥する方法が挙げられ、それによって基材上に被膜が形成される。
【0049】
また、被膜の厚さとしては、強度および傷が付きにくい均一な厚さの被膜が得られる0.01〜100μmが好ましく、0.05〜20μmがより好ましく、0.1〜5μmがさらに好ましい。
【0050】
本発明のコーティング剤を塗布して得られる被膜は、表面固有抵抗が1010Ω/□未満と低い表面固有抵抗値を示し、優れた帯電防止能を有する。そして、この被膜は耐水性にも優れている。
さらに、本発明のコーティング剤を塗布して得られるフィルムは、ヘイズが10%以下と低く非常に透明性に優れており、アニオン性またはノニオン性の水溶性高分子および/または水分散性高分子と酸化スズ超微粒子との組み合わせにより、被膜の透明性を変化させることによって、フィルムのヘイズは8%以下がより好ましく、5%以下がさらに好ましい。
【0051】
本発明のコーティング剤は、特に熱可塑性のフィルムのコーティング剤として好適に用いることができ、これによって熱可塑性フィルムの表面に被膜を形成すると、被膜の表面固有抵抗が1010Ω/□未満と低い表面固有抵抗を示す、優れた帯電防止性を有し、かつフィルムのヘイズが10%以下と透明性に優れた無色透明帯電防止フィルムを得ることができる。
【0052】
【実施例】
次に、実施例により本発明をより具体的に説明する。
以下の実施例において各種の特性は次に示す方法によって測定した。
(1)被膜の厚さ
接触式膜厚計により、コーティング剤を基材フィルムに塗布、乾燥して被膜を形成したフィルム(以下コートフィルムという)の全体の厚さから、基材フィルムの厚さを減じて求めた。
【0053】
(2)ヘイズ
JIS−K7361−1に基づいて、濁度計(日本電色工業株式会社製、NDH2000)を用いて、コートフィルムのヘイズ測定を行った。ただし、この評価値は、実施例で用いた、ヘイズが2.8%の2軸延伸PETフィルムにコートしたフィルム全体のヘイズの値である。
【0054】
(3)コートフィルムの帯電防止特性
JIS−K6911に基づいて、株式会社アドバンテスト製デジタル超高抵抗/微少電流計、R8340を用いて、コートフィルムの被膜の表面固有抵抗値を次の2つの条件下で測定して、それぞれについて評価した。
(3-a)標準特性評価
温度20℃、湿度60%雰囲気下での評価。
(3-b)耐流水性評価
コートフィルムを流水中に60秒間さらした後、3-aと同一条件で評価。
【0055】
(4)密着性
基材フィルムと被膜との密着性をテープ剥離により、以下の基準で評価した。○:剥離なし
×:剥離あり
【0056】
(5)粒子径
酸化スズ超微粒子の体積平均粒子径および数平均粒子径は日機装株式会社製のマイクロトラック粒度分布計UPA150(Model No.9340)を用いて、動的光散乱法によって測定した。
(6)液安定性
○:室温で3ヶ月後も安定
△:室温で1ヶ月以内にゲル化
×:室温で1週間以内にゲル化
【0057】
実施例1
塩化第二スズ五水和物0.1モルを200mlの水に溶解して0.5Mの水溶液とし、アルカリ加水分解法によりスラリーを生成するために、撹拌しながら28%のアンモニア水を添加することでpH1.5の白色酸化スズ超微粒子含有スラリーを得た。得られた酸化スズ超微粒子含有スラリーを70℃まで加熱した後、50℃前後まで自然冷却したうえで純水を加え1Lの酸化スズ超微粒子含有スラリーとし、遠心分離器を用いて固液分離を行った。この含水固形分に800mlの純水を加えて、ホモジナイザーにより撹拌・分散を行った後、遠心分離器を用いて固液分離を行うことで洗浄を行った。洗浄後の含水固形分に純水を75ml加えて酸化スズ超微粒子含有スラリーを調製した。
【0058】
得られたスラリーは酸化スズ超微粒子が凝集した状態にあり、この酸化スズ超微粒子の凝集をほぐして分散安定化するためにトリエチルアミン3.0ml(酸化スズに対して0.2倍モル)を加え撹拌し、透明感が出てきたところで50℃まで昇温した後、加温をやめ自然冷却した。加温中に酸化スズ超微粒子の凝集がほぐれて分散安定化され、スラリーは無色透明の酸化スズゾルになった。この酸化スズゾルのpHは8.9であった。得られた酸化スズゾルは無色透明で、これを強熱乾燥させることで得られた固形分濃度は10.3wt%であった。また、ゾル中の酸化スズの体積平均粒径(mv)は8.9nm、数平均粒子径(mn)は8.7nmで、mv/mnは1.02であった。このゾルは室温で6ヶ月以上放置しても安定であった。
【0059】
ポリエステル樹脂水性分散体(ユニチカ株式会社製、製品名エリーテルKA5034)に、無色透明酸化スズゾルをポリエステル樹脂固形分100質量部に対して酸化スズ超微粒子が800質量部となるように混合した後、イソプロピルアルコール(以下、IPA)を全液量の10wt%相当添加し、手で軽く攪拌することによって、帯電防止コーティング剤を得た。
【0060】
得られたコーティング剤を2軸延伸PETフィルム(ユニチカ株式会社製、製品名エンブレット、厚さ12μm)の片面にフィルムアプリケーター(株式会社安田精機製作所製、542-AB)を使用して塗布後、130℃で30秒間乾燥することにより、フィルム面に厚さ0.2μmの被膜を形成したコートフィルムを得た。得られたコートフィルムの特性評価結果を表1に示した。
【0061】
実施例2
ポリエステル樹脂固形分100質量部に対して酸化スズ超微粒子が400質量部となるようにした以外は、実施例1と同様の方法により、コーティング剤およびコートフィルムを得た。得られたコートフィルムの特性評価結果を表1に示した。
【0062】
実施例3
ポリエステル樹脂固形分100質量部に対して酸化スズ超微粒子が200質量部となるようにした以外は、実施例1と同様の方法により、コーティング剤およびコートフィルムを得た。得られたコートフィルムの特性評価結果を表1に示した。
【0063】
実施例4
混合する高分子の水性分散体をポリオレフィン樹脂水性分散体にした以外は、実施例1と同様の方法により、コーティング剤およびコートフィルムを得た。得られたコートフィルムの特性評価結果を表1に示した。
【0064】
なお、ここで使用したポリオレフィン樹脂水性分散体は以下の方法により製造した。
ヒーター付きの密閉できる耐圧1リットル容ガラス容器を備えた撹拌機を用いて、60.0gのポリオレフィン樹脂(ボンダインHX-8290、住友化学工業株式会社製)、60.0gのIPA、4.5g(樹脂中の無水マレイン酸のカルボキシル基に対して1.8倍当量)のトリエチルアミン(以下、TEA)および175.5gの蒸留水をガラス容器内に仕込み、撹拌翼の回転速度を300rpmとして撹拌したところ、容器底部には樹脂粒状物の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこでこの状態を保ちつつ、10分後にヒーターの電源を入れ加熱した。そして系内温度を140〜145℃に保ってさらに20分間撹拌した。その後、水浴につけて、回転速度300rpmのまま攪拌しつつ室温(約25℃)まで冷却した後、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)し、乳白色の均一なポリオレフィン樹脂水性分散体を得た。
【0065】
得られたポリオレフィン樹脂水性分散体250g、蒸留水85gを1Lの2口丸底フラスコに仕込み、メカニカルスターラーとリービッヒ型冷却器を設置し、フラスコをオイルバスで加熱していき、水性媒体を留去した。冷却後、フラスコ内の液状成分を300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧濾過(空気圧0.2MPa)し、濾液の固形分濃度を測定したところ、20.5質量%であった。この濾液を撹拌しながら蒸留水を添加し、固形分濃度が20.0質量%になるように調整した。
【0066】
実施例5
洗浄済み酸化スズ超微粒子含有スラリーに添加するアルキルアミンをイソプロピルアミンにした以外は、実施例1と同様の方法により、コーティング剤およびコートフィルムを得た。得られたコートフィルムの特性評価結果を表1に示した。
なお、この際の酸化スズに対するイソプロピルアミンの添加量は0.35倍モルであり、得られた酸化スズゾルのpHは9.1であった。また、得られた無色透明酸化スズゾルを強熱乾燥させることで得られた固形分濃度は10.9wt%であり、ゾル中の酸化スズの体積平均粒子径(mv)は8.7nm、数平均粒子径(mn)は8.5nmで、mv/mnは1.02であった。このゾルは室温で6ヶ月以上放置しても安定であった。
【0067】
比較例1
ポリエステル樹脂固形分100質量部に対して酸化スズ超微粒子が20質量部となるようにした以外は、実施例1と同様の方法により、コーティング剤およびコートフィルムを得た。得られたコートフィルムの特性評価結果を表1に示した。
【0068】
比較例2
ポリエステル樹脂固形分100質量部に対してカチオン系界面活性剤(三洋化成工業株式会社製、商品名サンスタット2012A)を固形分で1質量部添加したものをコーティング剤とし、実施例1と同様の方法により、コートフィルムを得た。得られたコートフィルムの特性評価結果を表1に示した。
【0069】
比較例3
ポリエステル樹脂固形分100質量部に対してアルキル燐酸塩(三洋化成工業株式会社製、商品名RPS−2)を固形分で1質量部添加したものをコーティング剤とし、実施例1と同様の方法によりコートフィルムを得た。得られたコートフィルムの特性評価結果を表1に示した。
【0070】
比較例4
洗浄済み酸化スズ超微粒子含有スラリーに添加するアミンをN,N−ジメチルエタノールアミンにした以外は、実施例1と同様の方法により、コーティング剤およびコートフィルムを得た。得られたコートフィルムの特性評価結果を表1に示した。
【0071】
【表1】
【0072】
実施例1〜5によって得られたコーティング液は液安定性に優れ、また、コートフィルムの特性は、表1に示したようにいずれも透明性に優れ、高い帯電防止性を示し、流水処理によっても表面固有抵抗が大きく変化せず、密着性にも優れていた。
これに対して、比較例1によって得られたコートフィルムは、コーティング剤中に含有する酸化スズ系超微粒子の量が少ないため、表1に示したように表面固有抵抗の値が高いものであり、帯電防止性が不十分であった。
【0073】
また、比較例2、3によって得られたコートフィルムは、表1に示したようにいずれも標準状態でも表面固有抵抗が大きく、流水処理によって表面固有抵抗の値はさらに大きくなり、帯電防止性が低下するものであった。また標準状態における密着性にも劣っていた。
さらに、比較例4によって得られたコーティング剤は、表1に示したように液安定性に乏しく、室温で1週間もたずゲル化してしまうものであった。
【0074】
以上の実施例から明らかなように、本発明のコーティング剤は液安定性に優れ、かつ本発明のコーティング剤から得られるコートフィルムは、透明性が高く、適度な基材との密着性を有した帯電防止コートフィルムであることが分かる。
【0075】
【発明の効果】
本発明における酸化スズ超微粒子とアニオン性またはノニオン性の水溶性高分子および/または水分散性高分子の微粒子とは、それぞれ優れた水分散性を有するので、水を主成分とする水性媒体に均一に分散する。このため、本発明の帯電防止コーティング剤は貯蔵安定性に優れ、また、有機溶媒の含有量を少なくすることが可能であり、環境問題の解消、作業環境の改善にも寄与することができる。しかも、本発明のコーティング剤の原料となる無色透明酸化スズゾルはアルキルアミンを分散安定剤とすることにより安価に製造が可能であり、したがって本発明の帯電防止コーティング剤も安価に提供される。
また、本発明の帯電防止コーティング剤は、透明性が高く、適度な基材との密着性を有した無色透明の帯電防止性被膜を安価に得ることができる。
したがって、本発明のコーティング剤はプラスチックフィルムをはじめとして各種基材に帯電防止性を付与するためのコーティング剤として好適に利用することができる。
【0076】
本発明のコートフィルムは、酸化スズ単体の超微粒子によって導電性が与えられるため安価であり、かつ、高い帯電防止性を示す。また、酸化スズ超微粒子は粒子径が非常に小さく、可視光線を散乱しないので、フィルムの透明性が維持される。
Claims (4)
- アニオン性またはノニオン性の水溶性高分子および/または水分散性高分子の固形分100質量部と、酸化スズ超微粒子30〜1500質量部とがアルキルアミンを含有する水性媒体中に均一に分散し、実質的にアンモニア、アミノアルコール、第4級アンモニウム水酸化物を含まないことを特徴とする帯電防止コーティング剤であって、
アルキルアミンを分散安定剤とし、ゾル中の酸化スズ超微粒子の体積平均粒子径(mv)および数平均粒子径(mn)がともに15nm以下で、かつ、mv/mnが1.0〜1.1の範囲にあるシャープな粒度分布を有する無色透明酸化スズゾルと、アニオン性またはノニオン性の水溶性高分子の水溶液および/または水分散性高分子の水性分散体とを撹拌、混合することで得られることを特徴とする帯電防止コーティング剤。 - 熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも一方の面に、請求項1記載の帯電防止コーティング剤を塗布、乾燥してなるコート層を有し、表面固有抵抗が1010Ω/□未満であり、ヘイズが10%以下であることを特徴とする無色透明帯電防止フィルム。
- コート層が耐水性に優れていることを特徴とする請求項2記載の無色透明帯電防止フィルム。
- 熱可塑性樹脂フィルムがポリエチレンテレフタレートからなることを特徴とする請求項2〜3のいずれかに記載の無色透明帯電防止フィルム。
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