JP4041844B2 - ヨウ素除去フィルタ、ヨウ素除去装置及び複合装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、空気中のヨウ素又は液中のヨウ素を除去するヨウ素除去フィルタ及びヨウ素除去装置に関し、特に、原子力発電所及び使用済み核燃料再処理設備等温原子力施設から放出される129Iや131Iを効果的に除去するのに好適なヨウ素除去フィルタ及びヨウ素除去装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
原子力発電所、特に原子炉の排気系において、各燃料棒にピンホール等の破損があると、129Iや131Iの核***生成物が排出される。このうち、129Iは半減期が107年と極めて長いが、排出量が少量で且つエネルギーも低いという特徴がある。一方、131Iは半減期が8日と短いが、排出量が多く、エネルギーが高いという特徴を有している。したがって、原子炉の排気系において最も危険な核***生成物核種は、131Iで、原子力施設における測定評価の対象となっている。
【0003】
また、使用済み核燃料再処理設備においては、原子炉施設から使用済みの核燃料が運び込まれるまでには長い日時が経過しており、半減期の短い131Iは減衰して殆ど存在しないが、半減期の長い129Iは多量に存在する。
【0004】
従来、原子炉施設から排出される131Iを除去するためには、ヨウ化カリウム(KI)を添着した添着活性炭を大量に使用して、放射性ヨウ素である131Iを非放射性のヨウ素と同位体交換することによって捕集している。また、核燃料再処理設備においては、多量に発生する放射性ヨウ素である129Iを捕集するために、銀ゼオライト(AgX,AgZ)を使用している。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記に示すヨウ化カリウムを添着した添着活性炭を使用する方法は、大量の活性炭を必要とするためにコストが高くなると同時に、使用した後の活性炭の処理が問題となる。また、銀ゼオライトを使用する方法は、銀ゼオライトが高価であると同時に、脱水や150℃での加熱が必要なことなど、プロセスが複雑で、且つ放射性ヨウ素の除去率が満足できるものではなかった。
【0006】
本発明は上記の問題点を解決すべく完成されたもので、原子力発電所や使用済み核燃料再処理設備等において発生する放射性ヨウ素(129I、131I)を、確実に捕集することができるヨウ素除去フィルタ及び該ヨウ素除去フィルタを用いたヨウ素除去装置を提供するものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、ヨウ素を吸着除去する高分子素材を具備するヨウ素除去フィルタであって、前記高分子素材は、主鎖上に、少なくともN−アルキル−N−ビニルアルキルアミドから誘導される単位を含む重合体側鎖を有することを特徴とするヨウ素除去フィルタに関する。
【0008】
N−アルキル−N−ビニルアルキルアミド、例えばN−ビニルピロリドンがヨウ素と結合することは知られている。しかしながら、このN−アルキル−N−ビニルアルキルアミド基を、樹脂や不織布等の高分子基材などに導入して、ヨウ素を吸着・除去する素材を提供するという試みはこれまでなされていない。
【0009】
一般に、有機高分子よりなる吸着剤は、高分子主鎖に吸着機能を有する官能基を導入して吸着機能を持たせると共に、この官能基の導入によって生じる物理的強度の劣化を補うために主鎖同士を架橋している。この代表的なものはイオン交換樹脂である。イオン交換樹脂においては、一般にスチレンモノマーを重合したポリスチレン主鎖に、スルホン基や4級アンモニウム基などのイオン交換基が導入されている。しかしながら、これらのイオン交換基は親水基であり、周辺に水分子を数個配位して嵩張っているために、このままでは樹脂の物理的強度が十分でなく、水にも溶解してしまう。イオン交換樹脂においては、この問題を解決するために、ジビニルベンゼンなどの架橋剤を加えてポリスチレン主鎖同士を架橋させている。これによって、樹脂の物理的強度が増し、水への溶解もなくなるが、その反面、架橋構造が形成されることによって、吸着速度や拡散速度等の吸着分離機能が低下するという問題が生じる。
【0010】
この問題は、放射性ヨウ素吸着用の基としてN−アルキル−N−ビニルアルキルアミドを高分子主鎖中に導入して、放射性ヨウ素吸着材料を製造しようとする場合にも同様に問題となる。即ち、N−アルキル−N−ビニルアルキルアミドの基を主鎖上に直接導入すると、高分子材料の物理的強度が保持できないが、その場合、物理的強度の保持のために高分子主鎖同士を架橋させると、吸着機能が低下するという相反する問題がある。
【0011】
本発明においては、高分子素材の高分子主鎖上に、少なくともN−アルキル−N−ビニルアルキルアミドから誘導される単位を含む重合体鎖の形態の側鎖を配置させることによって、高分子主鎖の物理的強度をそのまま保持しながら、高いヨウ素吸着性能を素材に付与することが可能なことを見出した。また、本発明に係るフィルタ材料は、高分子主鎖において架橋構造を有していないので、吸着速度及び拡散速度がともに大きく保持される。本発明に係るフィルタを構成する高分子材料においては、主鎖が物理的強度の維持や形状の保持の役割を担う。
【0012】
本発明に係るフィルタを構成する高分子材料において、高分子主鎖上に、少なくともN−アルキル−N−ビニルアルキルアミドから誘導される単位を含む重合体鎖の形態の側鎖を導入する手段としては、グラフト重合法を用いることができる。中でも、放射線グラフト重合法は、ポリマー基材に放射線を照射してラジカルを生成させ、それにグラフトモノマーを反応させることによって、所望のグラフト重合体側鎖を基材に導入することのできる方法であり、グラフト鎖の数や長さを比較的自由にコントロールすることができ、また、各種形状の既存の高分子材料に重合体側鎖を導入することができるので、本発明の目的のために用いるのに最適である。
【0013】
本発明において、主としてN−アルキル−N−ビニルアルキルアミドから誘導される単位を含む重合体鎖の形態の側鎖を導入する基材として用いることができる材料としては、高分子素材繊維やその集合体である織布や不織布を用いることができる。織布/不織布基材は、放射線グラフト重合用の基材として好適に用いることができ、また、軽量でフィルタ状に加工することが容易であり、有害なガス成分ばかりでなく、微粒子を除去することもできるので、フィルタの材料として好適である。また、織布/不織布から製造したフィルタは、従来用いられている活性炭や架橋構造を有するイオン交換樹脂が、焼却処理が容易でないのに比較して、使用済みのフィルタの取り扱いも簡単で、容易に焼却処理することができる。
【0014】
本発明の目的のために好適に用いることのできる放射線グラフト重合法において、用いることのできる放射線としては、α線、β線、γ線、電子線、紫外線などを挙げることができるが、本発明において用いるのにはγ線や電子線が適している。放射線グラフト重合法には、グラフト用基材に予め放射線を照射した後、重合性単量体(グラフトモノマー)と接触させて反応させる前照射グラフト重合法と、基材とモノマーの共存下に放射線を照射する同時照射グラフト重合法とがあるが、いずれの方法も本発明において用いることができる。また、モノマーと基材との接触方法により、モノマー溶液に基材を浸漬させたまま重合を行う液相グラフト重合法、モノマーの蒸気に基材を接触させて重合を行う気相グラフト重合法、基材をモノマー溶液に浸漬した後、モノマー溶液から取り出して気相中で反応を行わせる含浸気相グラフト重合法などが挙げられるが、いずれの方法も本発明において用いることができる。
【0015】
繊維や繊維の集合体である織布/不織布は本発明のフィルタ基材として用いるのに最も適した素材であるが、これはモノマー溶液を保持し易いので、含浸気相グラフト重合法において用いるのに適している。
【0016】
本発明において、高分子主鎖上に重合体側鎖の形態で導入するN−アルキル−N−ビニルアルキルアミドとして用いることのできる化合物の具体的な例としては、N−ビニルピロリドン、1−ビニル−2−ピペリドン、N−ビニル−N−メチルアセタミド、N−ビニル−N−エチルアセタミド、N−ビニル−N−メチルプロピルアミド、N−ビニル−N−エチルプロピルアミド、及びこれらの誘導体から選択される1種以上の重合性単量体を挙げることができる。
【0017】
本発明に係るフィルタの素材として用いられる高分子材料においては、上記のように、高分子主鎖上に、少なくともN−アルキル−N−ビニルアルキルアミドから誘導される単位を含む重合体側鎖を有しており、この側鎖上に存在するN−アルキル−N−ビニルアルキルアミド基に、129Iや131Iの放射性ヨウ素が付着して除去される。
【0018】
本発明の一例として、高分子基材としてポリエチレン製繊維よりなる不織布を用い、N−アルキル−N−ビニルアルキルアミドとしてN−ビニルピロリドンを用いて、放射線グラフト重合法によって、本発明の一態様に係るフィルタ材料を製造する場合の反応を下記に示す。
【0019】
【化1】
【0020】
上記で示されるように、放射線グラフト重合法によって、ポリエチレン主鎖上に、主としてN−ビニルピロリドンから誘導される単位を含む重合体側鎖を有する本発明に係るフィルタ材料が得られる。
【0021】
本発明に係るフィルタの素材として用いられる高分子材料においては、重合体側鎖に導入するグラフトモノマーとして、N−アルキル−N−ビニルアルキルアミドに加えて、アニオン交換基を有するか又はアニオン交換基に転換可能な基を有するモノマーを導入することができる。この場合、グラフトモノマー溶液として、N−アルキル−N−ビニルアルキルアミドと、アニオン交換基を有するか又はアニオン交換基に転換可能な基を有するモノマーとの混合溶液と用いることにより、これらの両方をグラフト基として導入することができる。
【0022】
この目的で用いることのできるモノマーとしては、アニオン交換基を有するものとして、ジエチルアミノエチルメタクリレート(DEAEMA)、ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドなどを、それ自体はアニオン交換基ではないが、その後更に反応させることによってアニオン交換基に転換させることのできる基を有するものとして、スチレン、クロロメチルスチレン、メタクリル酸グリシジル(GMA)、アクロレイン、アクリロニトリルなどを用いることができる。例えば、メタクリル酸グリシジルをグラフト重合によって導入した後、エタノールアミンなどを反応させてアミノ化することによってアニオン交換基に転換させることができる。
【0023】
このように、N−アルキル−N−ビニルアルキルアミドに加えて、アニオン交換基を有するか又はアニオン交換基に転換可能な基を有するモノマーを用いてグラフト重合を行うと、得られる高分子材料においては、グラフト側鎖に、N−アルキル−N−ビニルアルキルアミドの重合体鎖と、アニオン交換基を有する重合体鎖とが混在することになる。この場合、1本のグラフト側鎖の中に両方の重合体鎖が混在していてもよいし、N−アルキル−N−ビニルアルキルアミドの重合体鎖を含むグラフト側鎖と、アニオン交換基を有する重合体鎖のグラフト側鎖とが、主鎖上に混在していてもよい。
【0024】
アニオン交換基を導入した素材によって製造されるフィルタは、酸性ガスを効率的に除去することができる。原子力発電所等から排出されるヨウ素は、ヨウ素(I2)、次亜ヨウ素酸(HIO)、ヨウ化メチルなどといった種々の形態をとることが確認されている。アニオン交換基は、次亜ヨウ素酸等のガスを除去する能力を有しているので、N−アルキル−N−ビニルアルキルアミドから誘導される単位とアニオン交換基の両方をグラフト重合体側鎖上に有する材料により形成される本発明の好ましい態様に係るフィルタは、ヨウ素のみならず、上記のガスも除去することができる複合フィルタとして有用である。
【0025】
また、本発明の好ましい態様においては、ヨウ素除去フィルタにアルカリ金属のヨウ化物を接触・担持させることができる。このように、ヨウ素除去フィルタにアルカリ金属のヨウ化物を接触・担持させると、運転中にフィルタに接触したヨウ素(I2)がヨウ化物イオンI3 -となって、吸着され易い形態に変化するので、ヨウ素の吸着効率が向上する。
【0026】
一例として、ポリエチレン主鎖上に、主としてN−ビニルピロリドンから誘導される単位を含む重合体側鎖を有する本発明に係るフィルタ材料に、ヨウ化カリウムを接触・担持させた場合に、フィルタ材料がヨウ素を吸着するメカニズムを下記に示す。
【0027】
【化2】
【0028】
上記のように、KIがフィルタ材料上に接触・担持されていると、まずヨウ素がKIと反応してI3 -イオンが生成し、一方K+イオンは重合体側鎖におけるN−ビニルピロリドン基の酸素原子間に配位される。これによって、I3 -イオンが吸着され易くなるのである。
【0029】
また、雰囲気条件が酸性の場合も、アルカリ金属のヨウ化物を接触・担持させることにより、ヨウ素をより吸着させ易くすることができる。
下記に、一例として、上記と同様のポリエチレン主鎖上に、N−ビニルピロリドンの重合体鎖を含む重合体側鎖を有する本発明に係るフィルタ材料に、ヨウ化カリウムを接触・担持させた場合に、酸性条件下においてフィルタ材料がヨウ素を吸着するメカニズムを下記に示す。
【0030】
【化3】
【0031】
本発明のフィルタの素材として用いられる高分子材料としては、ポリオレフィン系の有機高分子材料が好ましく用いられる。ポリオレフィン系の有機高分子材料は、放射線に対して崩壊性ではないので、放射線グラフト重合法によってグラフト側鎖を導入する目的に用いるのに適している。更に、フィルタ素材として用いる高分子材料の形態としては、繊維、又は繊維の集合体である織布又は不織布、或いはそれらの加工品が好ましく用いられる。
【0032】
本発明に係るヨウ素除去フィルタは、ヨウ素除去装置におけるヨウ素除去素材として用いることができる。即ち、本発明の更なる態様は、ヨウ素除去素材として、上記に記載の本発明に係るヨウ素除去フィルタを用いたヨウ素除去装置に関する。かかるヨウ素除去装置は、放射性ヨウ素である129Iや131Iが放出される可能性のある、原子力発電所又は核燃料再処理設備における排気ダクトに取り付けることができる。
【0033】
また、本発明に係るヨウ素除去装置は、図3に示すように、ヨウ素除去剤として、活性炭、活性炭素繊維、薬剤添着活性炭、薬剤添着活性炭素繊維、ゼオライト、薬剤添着ゼオライト、シリカゲル、薬剤添着シリカゲルなどを用いる従来のヨウ素除去装置11と組み合わせて用い、従来のヨウ素除去装置11を設置したダクト10の下流側に本発明に係るヨウ素除去装置12を配置することができる。このような複合装置を構成すると、1段目のヨウ素除去装置(従来のヨウ素除去装置)から流出するヨウ素を本発明に係るヨウ素除去フィルタで完全に除去することができ、従来のヨウ素除去剤の十分でない除去性能を補って、安全性を更に向上させることができる。
【0034】
また、本発明に係るヨウ素除去フィルタは、マスク又は防護装置の表面又は内部に組み込んで用いることもできる。
【0035】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明に係るヨウ素除去フィルタは、フィルタ基材を構成する高分子主鎖上に、少なくともN−アルキル−N−ビニルアルキルアミドから誘導される単位を含む重合体側鎖を有することを特徴としており、物理的強度が高く、空気中のみならず水中においてもヨウ素を除去することができ、更には次亜ヨウ素酸等のヨウ素化合物をも同時に除去することが可能である。また、N−アルキル−N−ビニルアルキルアミドのアミノ基によってヨウ化メチルを除去することも期待できる。したがって、本発明に係るヨウ素除去フィルタ及びヨウ素除去装置を用いれば、原子力発電所、核燃料再処理設備等の原子力関連施設から放出される可能性のある放射性ヨウ素を効率よく除去することができ、これらの施設内作業における放射性ヨウ素に起因する被爆の防止、及び施設外への放射性ヨウ素の放出を排除することができる。また、本発明のより好ましい態様によれば、フィルタ基材を構成する高分子主鎖上に、N−アルキル−N−ビニルアルキルアミドから誘導される単位と、アニオン交換基又はアニオン交換基に転換可能な基を含む重合体側鎖が導入されているので、ヨウ素のみならず、次亜ヨウ素酸、ヨウ化メチルなども合わせて除去することができる。
【0036】
以下、本発明の実施の種々の形態例を、図面を参照しながら説明する。これらの記載は、本発明を限定するものではない。
【0037】
【実施例】
実施例1
高分子基材として、繊維径約16μmのポリエチレン繊維よりなる目付56g/m2、厚さ0.2mmの不織布を用いた。この不織布基材に、ガンマ線を窒素雰囲気中で150kGy照射した後、N−ビニルピロリドン溶液に浸漬し、溶液を加温して反応させて、グラフト率153%のN−ビニルピロリドングラフト不織布を得た。このグラフト不織布を、ヨウ化カリウム(KI)の2%水溶液に、室温で30分浸漬した後、乾燥させて、ヨウ素除去フィルタ材料を得た。
【0038】
このようにして得られたフィルタ材料を、5cm角に切断し、50Lのテドラバッグ内に挿入した。次に、固体のヨウ素を、供栓付き三角フラスコに入れて加熱して、ヨウ素の気体を発生させた。発生したヨウ素の気体を注射器で5mlサンプリングし、テドラバッグに注入して、テドラバッグ内のヨウ素濃度の経時変化を調べた。また、グラフト重合を行わなかった不織布材料を用いて上記と同様のヨウ素除去実験を行った。これらの結果を図1に示す。
【0039】
図1において、曲線Aは、グラフト重合を行わない不織布基材を用いた場合のヨウ素濃度の経時変化を示し、曲線Bは、上記に従って製造された本発明のヨウ素除去フィルタを用いた場合のヨウ素濃度の経時変化を示す。図から明らかなように、グラフト重合によってN−ビニルピロリドンを含むグラフト重合側鎖を導入した本発明のフィルタ材料は、空気中のヨウ素を除去するヨウ素除去フィルタとして、極めて有効であった。
【0040】
また、上記のようにして製造したヨウ素除去フィルタ材料を、6cm角に切断し、更にこれを2mm角に切断した。0.5規定のヨウ素−ヨウ化カリウム溶液を用いて、ヨウ素200ppmを含む水溶液を調整した。この水溶液500ml中に、2mm角に切断したフィルタ材料片を入れ、溶液を撹拌しながら、溶液中のヨウ素濃度の経時変化を調べた。結果を図2に示す。図より明らかなように、本発明のフィルタ材料は、液中のヨウ素を除去するヨウ素除去フィルタとして極めて有効であった。
実施例2
実施例1で用いたものと同様のポリエチレン製繊維よりなる不織布に、電子線を窒素雰囲気で、150kGy照射した後、ジエチルアミノエチルメタクリレート/N−ビニルピロリドンの混合溶液に浸漬し、溶液を加温して反応させて、グラフト率131%のグラフト不織布を得た。このグラフト不織布を、ヨウ化カリウム(KI)の2%水溶液に、室温で30分浸漬した後、乾燥させて、ヨウ素除去フィルタ材料を得た。
【0041】
このようにして得られたフィルタ材料を、5cm角に切断し、50Lのテドラバッグ内に挿入した。次に、固体のヨウ素を、供栓付き三角フラスコに入れて加熱して、ヨウ素の気体を発生させた。発生したヨウ素の気体を注射器で5mlサンプリングし、テドラバッグに注入して、テドラバッグ内のヨウ素濃度の経時変化を調べた。図1に示す結果と同等の結果が得られ、空気中のヨウ素を除去するヨウ素除去フィルタとして有効であることが分かった。
【0042】
次に、次亜ヨウ素酸の水溶液を60℃に加温しながらバブリングして、次亜ヨウ素酸の蒸気を1.6ppmの濃度で発生させた。上記でヨウ素除去に使用した後のフィルタを、内径23mmのカラムに装填して、上記で発生させた濃度1.6ppmの次亜ヨウ素酸蒸気を、流量200ml/分で通過させた。カラムの出口側での次亜ヨウ素酸濃度は0.1pppm以下であった。この結果により、本発明のヨウ素除去フィルタは、空気中のヨウ化水素酸も除去することができることが確認された。また、吸着していたヨウ素が脱離しなかったことから、このフィルタは、ヨウ化水素酸の共存下においてもヨウ素を有効に吸着除去することができることが確認された。
【0043】
また、上記のようにして製造したヨウ素除去フィルタ材料を、5cm角に切断し、更にこれを2mm角に切断した。実施例1と同様に、0.5規定のヨウ素−ヨウ化カリウム溶液を用いて、ヨウ素を200ppm含む水溶液を調整した。この水溶液500ml中に、2mm角に切断したフィルタ材料片を入れ、溶液を撹拌しながら、溶液中のヨウ素濃度の経時変化を調べたところ、図2に示される実施例1における結果と同様の結果が得られた。
【0044】
このフィルタ材料片を含むヨウ素溶液を、No.5Aの濾紙で濾過分離して、ヨウ素除去に使用済みのフィルタ材料を回収し、次亜ヨウ素酸を11.8ppmの濃度で含む水溶液200ml中に浸漬し、5分間マグネチックスターラーで溶液を撹拌した。撹拌終了後の次亜ヨウ素酸の濃度は0.1ppm以下であった。この結果より、製造されたヨウ素除去フィルタは、水中のヨウ化水素酸も除去することができることが確認された。また、吸着していたヨウ素が脱離しなかったことから、このフィルタは、ヨウ化水素酸の共存下においても水中のヨウ素を有効に吸着除去することができることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るヨウ素除去フィルタ材料の空気中でのヨウ素の捕集試験結果を示すグラフである。
【図2】本発明に係るヨウ素除去フィルタ材料の水中でのヨウ素の捕集試験結果を示すグラフである。
【図3】本発明のヨウ素除去装置を従来のヨウ素除去装置と共にダクトに組み込む使用例を示す概念図である。
【符号の説明】
10 ダクト
11 従来のヨウ素除去装置
12 本発明に係るヨウ素除去装置
Claims (8)
- ポリオレフィン系の有機高分子よりなる繊維、繊維の集合体である織布、不織布、及びそれらの加工品から選択される素材に放射線グラフト重合を利用してN−アルキル−N−ビニルアルキルアミドから選択される重合性単量体を重合させた単位を含む重合体側鎖を有するヨウ素除去フィルタ。
- N−アルキル−N−ビニルアルキルアミドから選択される重合性単量体は、N−ビニルピロリドン、1−ビニル−2−ピペリドン、N−ビニル−N−メチルアセタミド、N−ビニル−N−エチルアセタミド、N−ビニル−N−メチルプロピルアミド、N−ビニル−N−エチルプロピルアミドから選択される1種以上である請求項1に記載のヨウ素除去フィルタ。
- 重合体側鎖に、アニオン交換基を有するか又はアニオン交換基に転換可能な基を有する重合性単量体を重合させた単位がさらに含まれている請求項1または2に記載のヨウ素除去フィルタ。
- アルカリ金属のヨウ化物が接触・担持されている請求項1〜3のいずれかに記載のヨウ素除去フィルタ。
- 空気中のヨウ素を除去する、請求項1〜4のいずれかに記載のヨウ素除去フィルタ。
- 請求項1〜5のいずれかに記載のヨウ素除去フィルタを組み込んだことを特徴とするヨウ素除去装置。
- 活性炭、活性炭素繊維、薬剤添着活性炭、薬剤添着活性炭素繊維、ゼオライト、薬剤添着ゼオライト、シリカゲル、薬剤添着シリカゲルから選択されるヨウ素除去素材を備えたヨウ素除去装置の下流側のダクトに、請求項1〜5のいずれかに記載のヨウ素除去フィルタを設置したことを特徴とする複合装置。
- マスク又は防護装置の表面又は内部に請求項1〜5のいずれかに記載のヨウ素除去フィルタを組み込んだことを特徴とするヨウ素除去装置。
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