JP3772487B2 - 車両の運動制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、回頭性要又は安定性要と判定した時に、回頭性又は安定性を向上させるように車両の制動力を制御する車両の運動制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、この種の技術として、例えば特開平9−2235号公報に示されるものが知られている。このものは、運転者が車両を急旋回させようとしている場合(即ち車両の回頭性が要求される場合)に、旋回方向への車両のヨー速度を増大させて運転者の要求通りに確実に車両を急旋回させるものである。具体的には、ステアリング角を検出し、そのステアリング角に基づきステアリング角速度を演算し、そのステアリング角速度が所定値よりも大きい場合に後輪に制動力を作用する。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、この公報には、ブレーキペダル非操作時の回頭性向上制御について述べられているが、ブレーキペダルが操作された直後の制動過渡領域中の回頭性向上制御又は安定性向上制御については述べられていない。
【0004】
ここで、制動過渡領域とは、ブレーキペダル操作から車輪に作用する制動力がペダルストロークに対応する制動力(制動液圧)に達するまでの領域を言い、その後の制動定常領域と区別される。例えば、図11に示すように、運転者が時刻T0 ’でブレーキペダルを操作した場合、ペダルストロークに対応してマスタシリンダ液圧が上昇するが、ホイールシリンダ液圧はパッドの剛性等の影響で立ち上がりが遅れ、ペダルストロークに対応する液圧にならない。その後、時刻T1 ’でホイールシリンダ液圧はペダルストロークに対応する液圧となる。このように、時刻T0 ’から時刻T1 ’までの時間が制動過渡領域となる。
【0005】
故に、本発明は、ブレーキペダルが操作された直後の制動過渡領域中の回頭性及び安定性を向上させることを、その技術的課題とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記技術的課題を解決するため、請求項1の発明の車両の制動制御装置は、ブレーキペダルの操作に応じて車両の各車輪に制動力を付与し制御する制動力制御装置と、前記車両のハンドルの操作を検出するハンドル操作検出手段と、少なくとも前記ハンドル操作検出手段の検出結果に基づき前記車両が回頭性要か安定性要かを判定する判定手段と、前記判定手段が回頭性要と判定している場合には、前記ブレーキペダルが操作された直後の制動過渡領域における前記車両の前輪に付与する制動力の上昇勾配を、前記車両の後輪に付与する制動力の上昇勾配よりも小とするように前記制動力制御装置を制御し、前記判定手段が安定性要と判定している場合には、前記ブレーキペダルが操作された直後の制動過渡領域における前記車両の後輪に付与する制動力の上昇勾配を、前記車両の前輪に付与する制動力の上昇勾配よりも小とするように前記制動力制御装置を制御する上昇勾配制御手段とを備えた。
【0010】
請求項1の発明によれば、前記判定手段が回頭性要と判定している場合には、前記ブレーキペダルが操作された直後の制動過渡領域における前記車両の前輪に付与する制動力の上昇勾配を、前記車両の後輪に付与する制動力の上昇勾配よりも小とするように前記制動力制御装置を制御するので、車両の前輪のコーナリング力の減少率が後輪のコーナリング力の減少率よりも小となり、その分旋回内方向にヨーモーメントが増大して車両の回頭性が確実に向上する。又、前記判定手段が安定性要と判定している場合には、前記ブレーキペダルが操作された直後の制動過渡領域における前記車両の後輪に付与する制動力の上昇勾配を、前記車両の前輪に付与する制動力の上昇勾配よりも小とするので、後輪のコーナリング力の減少率が前輪のコーナリング力の減少率よりも小となり、旋回外方向にヨーモーメントが発生して車両の安定性が確実に向上する。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の望ましい実施の形態を図面を参照して説明する。
【0016】
図1は本発明の車両の運動制御装置の一実施形態を示すものである。
【0017】
車輪NL,NR,DL,DRには夫々ホイールシリンダWfl,Wfr,Wrl,Wrrが装着され、これらのホイールシリンダWfl等にブレーキ液圧制御装置(制動力制御装置)PCが接続されている。尚、車輪NLは運転席からみて前方左側の従動輪、車輪NRは前方右側の従動輪を示し、車輪DLは後方左側の駆動側、車輪DRは後方右側の駆動輪を示している。ブレーキ液圧制御装置PCは図2に示すように構成されており、これについては後述する。
【0018】
車輪NL,NR,DL,DRには車輪速度センサWSl乃至WS4が配設され、これらが電子制御装置ECUに接続されており、各車輪の回転速度、即ち車輪速度に比例するパルス数のパルス信号が電子制御装置ECUに入力されるように構成されている。更に、ブレーキペダルBPが踏み込まれたときオンとなるブレーキスイッチBS、ブレーキペダルBPのストロークを検出するペダルストロークセンサST、車両前方の車輪NL,NRの舵角θfを検出する前輪舵角センサSSf等が電子制御装置ECUに接続されている。
【0019】
電子制御装置ECUは、バスを介して相互に接続されたプロセシングユニットCPU、メモリROM、RAM、入力ポートIPT及び出力ポートOPT等から成るマイクロコンピュータMCPを備えている。上記車輪速度センサWSl乃至WS4、ブレーキスイッチBS、前輪舵角センサSSf等の出力信号は増幅回路AMPを介して夫々入力ポートIPTからプロセシングユニットCPUに入力されるように構成されている。また、出力ポートOPTからは駆動回路ACTを介してブレーキ液圧制御装置PCに制御信号が出力されるように構成されている。マイクロコンピュータMCPにおいては、メモリROMは図3及び図4に示したフローチャートを含む種々の処理に供するプログラムを記憶し、プロセシングユニットCPUは図示しないイグニッションスイッチが閉成されている間当該プログラムを実行し、メモリRAMは当該プログラムの実行に必要な変数データを一時的に記憶する。
【0020】
図2はブレーキ液圧制御装置PCの一例を示すもので、マスタシリンダMC及び液圧ブースタHBがブレーキペダルBPの操作に応じて駆動される。液圧ブースタHBには補助液圧源APが接続されており、これらはマスタシリンダMCと共に低圧リザーバRSに接続されている。
【0021】
補助液圧源APは、液圧ポンプHP及びアキュムレータAccを有する。液圧ポンプHPは電動モータMによって駆動され、低圧リザーバRSのブレーキ液を昇圧して出力し、このブレーキ液が逆止弁CV6を介してアキュムレータAccに供給され、蓄圧される。電動モータMは、アキュムレータAcc内の液圧が所定の下限値を下回ることに応答して駆動され、またアキュムレータAcc内の液圧が所定の上限値を上回ることに応答して停止する。尚、アキュムレータAccと低圧リザーバRSとの間にはリリーフバルブRVが介装されている。而して、アキュムレータAccから所謂パワー液圧が適宜液圧ブースタHBに供給される。液圧ブースタHBは、補助液圧源APの出力液圧を入力し、マスタシリンダMCの出力液圧をパイロット圧として、これに比例したブースタ液圧に調圧するもので、これによってマスタシリンダMCが倍力駆動される。
【0022】
マスタシリンダMCと車両前方のホイールシリンダWfr,Wflの各々を接続する前輪側の液圧路には、電磁切換弁SA1及びSA2が介装され、これらは制御通路Pfr及びPflを介して夫々電磁開閉弁PC1,PC5及び電磁開閉弁PC2,PC6に接続されている。また、液圧ブースタHBとホイールシリンダWfr等の各々を接続する液圧路には電磁開閉弁SA3,給排制御用の電磁開閉弁PC1乃至PC8が介装されており、後輪側には比例減圧弁PVが介装されている。そして、電磁開閉弁STRを介して補助液圧源APが電磁開閉弁SA3の下流側に接続されている。図2では前輪の液圧制御系と後輪の液圧制御系に区分された前後配管が構成されているが、所謂X配管としてもよい。
【0023】
前輪側液圧系において、電磁開閉弁PC1及びPC2は電磁開閉弁STRに接続されている。電磁開閉弁STRは2ポート2位置の電磁開閉弁であり、非作動時の閉位置では遮断状態で、作動時の開位置では電磁開閉弁PC1及びPC2を直接アキュムレータAccに連通する。電磁切換弁SA1及び電磁切換弁SA2は3ポート2位置の電磁切換弁で、非作動時は図2に示す第1位置にあってホイールシリンダWfr,Wflは何れもマスタシリンダMCに連通接続されているが、ソレノイドコイルが励磁され第2位置に切換わると、ホイールシリンダWfr,Wflは何れもマスタシリンダMCとの連通が遮断され、夫々電磁開閉弁PC1及びPC5、電磁開閉弁PC2及びPC6と連通する。
【0024】
これら電磁開閉弁PC1及びPC2に対して並列に逆止弁CV1及びCV2が接続されており、逆止弁CV1の流入側が制御通路Pfrに、逆止弁CV2の流入側が制御通路Pf1に夫々接続されている。逆止弁CV1は、電磁切換弁SA1が作動位置(第2位置)にある場合において、ブレーキペダルBPが開放されたときには、ホイールシリンダWfrのブレーキ液圧を液圧ブースタHBの出力へのブレーキ液の流れは許容されるが逆方向の流れは阻止される。尚、逆止弁CV2についても同様である。
【0025】
次に、後輪側液圧系について説明すると、電磁開放弁SA3は2ポート2位置の電磁開閉弁で、非作動時には図2に示す開位置にあって、電磁開閉弁PC3,PC4は比例減圧弁PVを介して液圧ブースタHBと連通する。このとき、電磁開閉弁STRは閉位置とされ、アキュムレータAccとの連通が遮断される。電磁開閉弁SA3が作動時の閉位置に切換えられると、電磁開閉弁PC3,PC4は液圧ブースタHBとの連通が遮断され、比例減圧弁PVを介して電磁開閉弁STRに接続され、この電磁開閉弁STRが作動時にアキュムレータAccと連通する。
【0026】
また、電磁開閉弁PC3及びPC4に対して並列に逆止弁CV3及びCV4が接続されており、逆止弁CV3の流入側がホイールシリンダWrrに、逆止弁CV4の流入側がホイールシリンダWrlに夫々接続されている。これらの逆止弁CV3,CV4は、ブレーキペダルBPが開放されたときには、ホイールシリンダWrr,Wrlのブレーキ液圧を液圧ブースタHBの出力液圧の低下に迅速に追従させるために設けられたもので、電磁開閉弁SA3方向へのブレーキ液の流れが許容され逆方向の流れは阻止される。更に、逆止弁CV5が電磁開閉弁SA3に並列に設けられており、電磁開閉弁SA3が閉位置にあるときにも、ブレーキペダルBPによる踏み増しが可能とされている。
【0027】
上記電磁開閉弁SA1,SA2及び電磁開閉弁SA3,STR並びに電磁開閉弁PC1乃至PC8は電磁制御装置ECUによって駆動制御される。これにより、車両のオーバーステア又はアンダーステアを抑制する制動操舵制御やトラクション制御等の各種制御が実行可能である。例えば、ブレーキペダルBPが操作されていない状態で行なわれる制動操舵制御時には、液圧ブースタHB及びマスタシリンダMCからはブレーキ液圧が出力されないので、電磁開閉弁SA1,SA2が第2位置とされ、電磁開閉弁SA3が閉位置とされ、そして電磁開閉弁STRが開位置とされる。これにより、補助液圧源APの出力パワー液圧が電磁開閉弁STR並びに開状態の電磁開閉弁PC1乃至PC8を介してホイールシリンダWfr等に供給され得る状態となる。而して、電磁開閉弁PC1乃至PC8が適宜開閉駆動されることによって各ホイールシリンダ内のブレーキ液圧が急増圧、パルス増圧(緩増圧)、パルス減圧(緩減圧)、急減圧、及び保持状態とされ、オーバーステアの抑制制御及び/又はアンダーステア抑制制御が行なわれる。
【0028】
上記のように構成された本実施形態においては、電子制御装置ECUにより本発明の要旨となる制動過渡領域中の回頭性又は安定性向上制御等の一連の処理が行なわれ、イグニッションスイッチ(図示せず)が開成されると図3及び図4のフローチャートに対応したプログラムの実行が開始し、その周期は6msである。
【0029】
図3は制動過渡領域中の回頭性安定性向上制御の作動を示すもので、先ずステップ101にてマイクロコンピュータMCPが初期化され、各種の演算値がクリアされる。次にステップ102において、車輪速度センサWS1乃至WS4の検出信号、前輪舵角センサSSfの検出信号、ペダルストロークセンサSTの検出信号が読み込まれる。続いてステップ103に進み、各車輪の車輪速度Vw** 、操舵角θf、ペダル踏込量Bstが演算され、ステップ104にて、各車輪の車輪速度Vw** が微分されて各車輪の車輪加速度DVw** が演算され、操舵角θfが微分されて操舵角速度Dθfが演算され、ペダル踏込量Bstが微分されてペダル踏込速度DBstが演算される。次いで、ステップ105において、各車輪の車輪速度Vw** に基づき車両の重心位置における推定車体速度VsoがVso=MAX(Vw** )として演算され、車両の重心位置における前後方向の車体加速度DVsoが推定車体速度Vsoを微分することにより演算される。
【0030】
次いで、ステップ106にて路面状態が推定される。即ち、車体加速度DVsoに基づき路面摩擦係数μが推定されると共に、悪路、路面カントなども推定される。続いて、ステップ107にて、旋回状態量(例えばヨーレートや横加速度)が演算される。ここでは、各車輪速度Vw** に基づき左右車輪速度差ΔVw を演算し、その左右車輪速度差ΔVw に基づき車両のヨーレートγが演算される。尚、操舵角θf及び推定車体速度Vsoに基づき車両のヨーレートを演算しても良く、センサを用いて直接検出しても良い。
【0031】
次いで、図4のステップ108に進み、アンチスキッド制御開始条件を充足しているか否かが判定され、ステップ109にてアンチスキッド制御が実行される。即ち、車輪のロックを防止するように、図2の電磁弁PC1〜PC8が開閉制御される。
【0032】
ステップ108にてアンチスキッド制御開始条件を充足していないと判定されたときには、ステップ110に進み、操舵角速度Dθf の絶対値が所定値K1 以上か否か、つまり車両の回頭性が必要か否かが判定される。そうであれば、ステップ111に進み、ペダル踏込量Bstが所定値K2 を超えたか否かが判定される。ここで、K2 は制動力が発生する最小限の値に設定されている。尚、この判定に代えて、車体減速度DVsoが所定値以上か否かを判定しても良い。上記K1 ,K2 は、車体速度Vso、車体加速度DVso、操舵角θf 、ペダル踏込速度DBstに応じて可変することが望ましい。ステップ111でペダル踏込量Bstが所定値K2 を超えたと判定すると、ステップ112に進み、制御対象車輪(ここでは前輪)のホイールシリンダのブレーキ液圧Pwc* がペダルストロークに対応する圧Pstと一致するか否かが判定される。つまり、制御対象車輪が制動過渡状態か否かが判定され、Pwc* がPstに一致しなければ制動過渡状態と判定されステップ113に進み、一致すれば制動過渡状態でないと判定され、そのままステップ102に戻る。ここで、Pwc* (ここではPwfr ,Pwfl )は、制御対象車輪の車輪減速度DVwc* (ここではDVwfr ,DVwfl )から推定演算される。また、Pstは、ペダル踏込量Bstから演算される。尚、マスタシリンダ圧センサを設け、その出力からPstを演算しても良い。
【0033】
ステップ113では、制動過渡領域内の回頭性向上制御が実行される。このように、回頭性要と判定され、且つ制御対象車輪が制動過渡状態でありペダル踏込量Bstが所定値K2 を超えた場合に、回頭性向上制御が実行される。
【0034】
回頭性向上制御の第1の実施例を図5を用いて説明する。
【0035】
運転者が時刻T0 にブレーキペダルBPを操作すると、マスタシリンダ液圧はペダルストロークBstに対応する値に略一致するが、各車輪のホイールシリンダのブレーキ液圧Pw** はパッドやキャリパの剛性等により立ち上がりが遅れるため、ペダルストロークBstに対応する圧力Pstに一致しない。つまり、各車輪が制動過渡状態となる。この状態で、ペダル踏込量Bstが所定値K2 を超え、且つ回頭性要と判定されている場合(時刻T1 )、制御対象車輪である前輪に対し回頭性向上制御が開始される。即ち、前輪ホイールシリンダのブレーキ液圧Pwfr ,Pwfl の上昇勾配を後輪ホイールシリンダのブレーキ液圧Pwrr ,Pwrl の上昇勾配よりも小とするように、前輪ホイールシリンダに接続された電磁弁PC1,PC2,PC5,PC6が開閉駆動される。その結果、前輪のコーナリング力の単位時間当たりの減少量(以下減少率という)が後輪のコーナリング力の減少率よりも小となり、旋回内向きのヨーモーメントが増大し、回頭性が向上する。従って、運転者の要求通りに車両を急旋回させることができる。ここで、前輪ブレーキ液圧の上昇勾配は、車体速度Vso、車体加速度DVso、操舵角θf 、操舵角速度Dθf 、旋回状態量(例えばヨーレートγ)、路面状態、ペダル踏込量Bst、ペダル踏込速度DBst等に応じて可変することが望ましい。
【0036】
その後、前輪ホイールシリンダのブレーキ液圧Pwfr ,Pwfl がペダルストロークに対応する値Pstになると(時刻T3 )、前輪の制動過渡状態が終了するため、回頭性向上制御が終了される。一方、時刻T3 よりも早い時刻T2 に、後輪ホイールシリンダのブレーキ液圧Pwrr ,Pwrl はペダルストロークに対応する値Pstとなり、後輪の制動過渡状態が終了する。尚、上記制御中、後輪ホイールシリンダのブレーキ液圧は制御されない。
【0037】
回頭性向上制御の第2の実施例を図6を用いて説明する。
【0038】
運転者が時刻T0 にブレーキペダルBPを操作すると、前述のように各車輪が制動過渡状態となる。この状態で、ペダル踏込量Bstが所定値K2 を超え、且つ回頭性要と判定されている場合(時刻T1 )、制御対象車輪である前輪に対し制動過渡領域内の回頭性向上制御が開始される。即ち、前輪ホイールシリンダに接続された電磁弁PC1,PC2が所定時間ΔT閉作動され、前輪ホイールシリンダのブレーキ液圧Pwfr ,Pwfl が保持される。ここで、ΔTは、車体速度Vso、車体加速度DVso、操舵角θf 、操舵角速度Dθf 、旋回状態量、路面状態、ペダル踏込量Bst、ペダル踏込速度DBst等に応じて可変することが望ましい。時刻T1 からΔT経過した後、電磁弁PC1,PC2が開作動され、通常の図2の状態とされる。一方、後輪ホイールシリンダのブレーキ液圧Pwrr ,Pwrl は制御されない。このように、前輪ブレーキ液圧Pwfr ,Pwfl の上昇タイミングを後輪ブレーキ液圧Pwrr ,Pwrl の上昇タイミングに対し遅らせている。その結果、前輪のコーナリング力の減少率が後輪のコーナリング力の減少率よりも小となり、旋回内向きのヨーモーメントが増大し、回頭性が向上する。従って、運転者の要求通りに車両を急旋回させることができる。
【0039】
その後、前輪ブレーキ液圧Pwfr ,Pwfl がペダルストロークに対応する値Pstになると(時刻T31)、前輪の制動過渡状態が終了するため、回頭性向上制御が終了される。尚、時刻T31よりも早い時刻T2 に、後輪ブレーキ液圧Pwrr ,Pwrl はペダルストロークに対応する値Pstとなり、後輪の制動過渡状態が終了する。
【0040】
回頭性向上制御の第3の実施例を図7を用いて説明する。この実施例は、第1及び第2の実施例を組み合わせたものである。
【0041】
運転者が時刻T0 にブレーキペダルBPを操作すると、前述のように各車輪が制動過渡状態となる。この状態で、ペダル踏込量Bstが所定値K2 を超え、且つ回頭性要と判定されている場合(時刻T1 )、制御対象車輪である前輪に対し回頭性向上制御が開始される。即ち、第2の実施例と同様に、まず前輪ホイールシリンダに接続された電磁弁PC1,PC2が所定時間ΔT閉作動され、前輪ホイールシリンダのブレーキ液圧Pwfr ,Pwfl が保持される。次いで、第1の実施例と同様に、前輪ホイールシリンダのブレーキ液圧の上昇勾配を後輪ホイールシリンダのブレーキ液圧の上昇勾配よりも小とするように、前輪ホイールシリンダに接続された電磁弁PC1,PC2,PC5,PC6が開閉駆動される。一方、後輪ホイールシリンダのブレーキ液圧Pwrr ,Pwrl は制御されない。その結果、前輪のコーナリング力の減少率が後輪のコーナリング力の減少率よりも小となり、旋回内向きのヨーモーメントが増大し、回頭性が向上する。従って、運転者の要求通りに車両を急旋回させることができる。
【0042】
その後、前輪ホイールシリンダのブレーキ液圧Pwfr ,Pwfl がペダルストロークに対応する値Pstになると(時刻T32)、前輪の制動過渡状態が終了するため、回頭性向上制御が終了される。
【0043】
尚、前述した第1〜第3実施例の回頭性向上制御では、前輪ホイールシリンダのブレーキ液圧Pwfr ,Pwfl のみを制御しているが、後輪ホイールシリンダのブレーキ液圧のみを制御しても良い。その場合には、アキュムレータAccの高圧液を用いて、後輪ホイールシリンダのブレーキ液圧Pwrr ,Pwrl の上昇勾配をペダルストロークに対応する圧力(つまりマスタシリンダ液圧)の勾配に対し大きくすれば良い。また、全車輪ホイールシリンダのブレーキ液圧を制御しても良い。
【0044】
また、第1〜第3実施例の回頭性向上制御では、前後車輪のホイールシリンダのブレーキ液圧の上昇勾配を相対的に制御しているが、左右車輪のホイールシリンダのブレーキ液圧の上昇勾配を相対的に制御しても良い。その場合には、旋回外側車輪のホイールシリンダのブレーキ液圧の上昇勾配を旋回内側車輪のホイールシリンダのブレーキ液圧の上昇勾配に対し小さくすれば良い。
【0045】
再び図4に戻って、ステップ110、111でNOと判定されると、ステップ115に進み、操舵角速度Dθf の絶対値が所定値K4 以下か否かが判定される。つまり、ステップ115において、車両の安定性が必要か否かが判定される。尚、車両の旋回状態量が所定値以上で且つ操舵角速度Dθf の絶対値が所定値K4 以下の場合に、安定性要と判定しても良い。ステップ115でYESと判定されれば、ステップ116に進み、ペダル踏込量Bstが所定値K5 を超えたか否かが判定される。ここで、K5 は制動力が発生する最小値に設定されている。尚、この判定に代えて、車体減速度DVsoが所定値以上か否かを判定しても良い。上記K4 ,K5 は、車体速度Vso、車体加速度DVso、操舵角θf 、ペダル踏込速度DBst、旋回状態量、路面状態に応じて可変することが望ましい。ステップ116でペダル踏込量Bstが所定値K5 を超えたと判定すると、ステップ117に進み、制御対象車輪(ここでは後輪)のホイールシリンダのブレーキ液圧Pwc* がペダルストロークに対応する圧Pstと一致するか否かが判定される。つまり、制御対象車輪が制動過渡状態か否かが判定され、Pwc* がPstに一致しなければ制動過渡状態と判定されステップ118に進む。尚、ステップ115〜117の何れかでNOと判定されると、図3のステップ102に戻る。
【0046】
ステップ118では、制動過渡領域内の安定性向上制御が実行される。このように、安定性要と判定され、且つ制御対象車輪が制動過渡状態でありペダル踏込量Bstが所定値を超えた場合に、安定性向上制御が実行される。
【0047】
安定性向上制御の第1の実施例を図8を用いて説明する。
【0048】
運転者が時刻T0 にブレーキペダルBPを操作すると、各車輪が制動過渡状態となる。この状態で、ペダル踏込量Bstが所定値K5 を超え、且つ安定性要と判定されている場合(時刻T1 )、制御対象車輪である後輪に対し安定性向上制御が開始される。即ち、後輪ホイールシリンダのブレーキ液圧Pwrr ,Pwrl の上昇勾配を前輪ホイールシリンダのブレーキ液圧Pwfr ,Pwfl の上昇勾配よりも小とするように、後輪ホイールシリンダに接続された電磁弁PC3,PC4,PC7,PC8が開閉駆動される。その結果、後輪のコーナリング力の減少率が通常ブレーキ時に比べ小さくなり、旋回外向きのヨーモーメントが発生し、安定性が向上する。ここで、後輪ブレーキ液圧の上昇勾配は、車体速度Vso、車体加速度DVso、操舵角θf 、操舵角速度Dθf 、旋回状態量、路面状態、ペダル踏込量Bst、ペダル踏込速度DBst等に応じて可変することが望ましい。
【0049】
その後、後輪ホイールシリンダのブレーキ液圧Pwrr ,Pwrl がペダルストロークに対応する値Pstになると(時刻T3 )、後輪の制動過渡状態が終了するため、安定性向上制御が終了される。一方、時刻T3 よりも早い時刻T2 に、前輪ホイールシリンダのブレーキ液圧Pwfr ,Pwfl はペダルストロークに対応する値Pstとなり、前輪の制動過渡状態が終了する。尚、上記制御中、前輪ホイールシリンダのブレーキ液圧は制御されない。
【0050】
安定性向上制御の第2の実施例を図9を用いて説明する。
【0051】
運転者が時刻T0 にブレーキペダルBPを操作すると、各車輪が制動過渡状態となる。この状態で、ペダル踏込量Bstが所定値K5 を超え、且つ安定性要と判定されている場合(時刻T1 )、制御対象車輪である後輪に対し回頭性向上制御が開始される。即ち、後輪ホイールシリンダに接続された電磁弁PC3,PC4が所定時間ΔT閉作動され、後輪ホイールシリンダのブレーキ液圧Pwrr ,Pwrl が保持される。ここで、ΔTは、車体速度Vso、車体加速度DVso、操舵角θf 、操舵角速度Dθf 、旋回状態量、路面状態、ペダル踏込量Bst、ペダル踏込速度DBst等に応じて可変することが望ましい。時刻T1 からΔT経過した後、電磁弁PC3,PC4が開作動され、図2の状態とされる。一方、前輪ホイールシリンダのブレーキ液圧Pwfr ,Pwfl は制御されない。このように、後輪ホイールシリンダのブレーキ液圧Pwrr ,Pwrl の上昇タイミングを前輪ホイールシリンダのブレーキ液圧Pwfr ,Pwfl の上昇タイミングに対し遅らせている。その結果、後輪のコーナリング力の減少率が通常ブレーキ時に比べ小となり、旋回外向きのヨーモーメントが発生し、安定性が向上する。
【0052】
その後、後輪ホイールシリンダのブレーキ液圧Pwrr ,Pwrl がペダルストロークに対応する値Pstになると(時刻T31)、後輪の制動過渡状態が終了するため、安定性向上制御が終了される。
【0053】
安定性向上制御の第3の実施例を図10を用いて説明する。この実施例は、第1及び第2の実施例を組み合わせたものである。
【0054】
運転者が時刻T0 にブレーキペダルBPを操作すると、各車輪が制動過渡状態となる。この状態で、ペダル踏込量Bstが所定値K5 を超え、且つ安定性要と判定されている場合(時刻T1 )、制御対象車輪である後輪に対し安定性向上制御が開始される。即ち、第2の実施例と同様に、まず後輪ホイールシリンダに接続された電磁弁PC3,PC4が所定時間ΔT閉作動され、後輪ホイールシリンダのブレーキ液圧Pwrr ,Pwrl が保持される。次いで、第1の実施例と同様に、後輪ホイールシリンダのブレーキ液圧の上昇勾配を前輪ホイールシリンダのブレーキ液圧の上昇勾配よりも小とするように、後輪ホイールシリンダに接続された電磁弁PC3,PC4,PC7,PC8が開閉駆動される。一方、前輪ホイールシリンダのブレーキ液圧Pwfr ,Pwfl は制御されない。その結果、後輪のコーナリング力の減少率が通常ブレーキ時に比べ小となり、旋回外向きのヨーモーメントが生成し、安定性が向上する。
【0055】
その後、後輪ホイールシリンダのブレーキ液圧Pwrr ,Pwrl がペダルストロークに対応する値Pstになると(時刻T32)、後輪の制動過渡状態が終了するため、安定性向上制御が終了される。
【0056】
尚、前述した第1〜第3実施例の安定性向上制御では、後輪ホイールシリンダのブレーキ液圧Pwrr ,Pwrl のみを制御しているが、前輪ホイールシリンダのブレーキ液圧Pwfr ,Pwfl のみを制御しても良い。その場合には、アキュムレータAccの高圧液を用いて、前輪ホイールシリンダのブレーキ液圧の上昇勾配をペダルストロークに対応する圧力(つまりマスタシリンダ液圧)の勾配に対し大きくすれば良い。また、全車輪ホイールシリンダのブレーキ液圧を制御しても良い。
【0057】
また、第1〜第3実施例の安定性向上制御では、前後車輪のホイールシリンダのブレーキ液圧の上昇勾配を相対的に制御しているが、左右車輪のホイールシリンダのブレーキ液圧の上昇勾配を相対的に制御しても良い。その場合には、旋回内側車輪のホイールシリンダのブレーキ液圧の上昇勾配を旋回外側車輪のホイールシリンダのブレーキ液圧の上昇勾配に対し小さくすれば良い。
【0058】
尚、本実施形態では、前述のように回頭性要又は安定性要の判定を行っているが、車両の過度のアンダーステア時に回頭性要と判定し、過度のオーバーステア時に安定性要と判定しても良い。その場合、車両の実ヨーレートと目標ヨーレートの比較結果に基づいてアンダーステア又はオーバーステアを判定できる。
【0059】
また、本発明は、図1及び図2に示す液圧ブレーキシステム以外に、ブレーキペダルの操作を検出し、その結果に基づきパット駆動用のモータを駆動制御する純電気的なシステムにも適用可能である。
【0060】
【発明の効果】
本発明によれば、ブレーキペダルが操作された直後に、回頭性要又は安定性要と判定されている場合、回頭性又は安定性を向上させるように各車輪の制動力の上昇勾配を制御するので、ブレーキペダルが操作された直後の制動過渡領域中の回頭性及び安定性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態に係る運動制御装置の全体構成図である。
【図2】図1のブレーキ液圧制御装置の一例を示す構成図である。
【図3】本発明の実施形態における回頭性及び安定性向上制御の全体を示すフローチャートである。
【図4】本発明の実施形態における回頭性及び安定性向上制御の全体を示すフローチャートである。
【図5】図4の回頭性向上制御の第1実施例を示すタイミングチャートである。
【図6】図4の回頭性向上制御の第2実施例を示すタイミングチャートである。
【図7】図4の回頭性向上制御の第3実施例を示すタイミングチャートである。
【図8】図4の安定性向上制御の第1実施例を示すタイミングチャートである。
【図9】図4の安定性向上制御の第2実施例を示すタイミングチャートである。
【図10】図4の安定性向上制御の第3実施例を示すタイミングチャートである。
【図11】車輪の制動過渡領域を示すタイミングチャートである。
【符号の説明】
BP ブレーキペダル
NR,NL,DR,DL 車輪
PC ブレーキ液圧制御装置(制動力制御装置)
Claims (1)
- ブレーキペダルの操作に応じて車両の各車輪に制動力を付与し制御する制動力制御装置と、
前記車両のハンドルの操作を検出するハンドル操作検出手段と、
少なくとも前記ハンドル操作検出手段の検出結果に基づき前記車両が回頭性要か安定性要かを判定する判定手段と、
前記判定手段が回頭性要と判定している場合には、前記ブレーキペダルが操作された直後の制動過渡領域における前記車両の前輪に付与する制動力の上昇勾配を、前記車両の後輪に付与する制動力の上昇勾配よりも小とするように前記制動力制御装置を制御し、前記判定手段が安定性要と判定している場合には、前記ブレーキペダルが操作された直後の制動過渡領域における前記車両の後輪に付与する制動力の上昇勾配を、前記車両の前輪に付与する制動力の上昇勾配よりも小とするように前記制動力制御装置を制御する上昇勾配制御手段とを備える車両の運動制御装置。
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