JP3673323B2 - 空気入りタイヤの設計方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は空気入りタイヤの設計方法に係り、特に、タイヤの単一目的性能、二律背反する性能等を満足するタイヤの構造、形状等の設計開発を容易化かつ効率化すると共にタイヤのベストな構造、形状を求めることを可能とし、コスト・パーフォーマンスの高いタイヤを設計することができる空気入りタイヤの設計方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
タイヤ設計方法としては従来より種々の方法が知られているが、何れの設計方法についても、実験及び計算機を用いた数値実験による試行錯誤の繰り返しによって成り立っているので、開発に必要な試作・試験の工数が膨大で非常に非効率であり、開発コストがアップするためタイヤのコスト・パフォーマンスが低く、また開発期間の短縮も困難であった。また従来のタイヤの設計開発では、タイヤのある性能について目標値を定め、この目標値をクリアすれば一応終了とされ、与えられた資源で最良の性能、形状、構造を得るという考え方のものではなく、二律背反する性能を満足するよう設計するものでもなかった。
【0003】
上記実情に鑑み、本願出願人は、異分野に利用されている「最適化設計手法」をタイヤという特殊分野に応用することに着目し、あらゆる検討を試み、具体的にそれをタイヤ設計方法として確立して既に提案している(特開平7-164815号公報、国際公開番号WO 94/16877 号等参照)。
【0004】
このタイヤ設計方法では、(a)内部構造を含むタイヤ断面形状を表すタイヤ基本モデルを定めかつ、タイヤ性能評価用物理量を表す目的関数を定めると共に、ゴム部材及び補強材の物性を決定する設計変数を定めかつ、ゴム部材及び補強材の物性、性能評価用物理量及びタイヤ寸度の少なくとも1つを制約する制約条件を定めるステップ、(b)制約条件を考慮しながら目的関数の最適値を与える設計変数の値を求めるステップ、(c)目的関数の最適値を与える設計変数に基づいてタイヤを設計するステップを含んで構成されている。
【0005】
ところで、上記の設計方法において、ステップ(b)における設計変数の値の最適化は、具体的には、例えば設計変数の単位変化量に対する目的関数の変化量の割合である目的関数の感度、設計変数の単位変化量に対する制約条件の変化量の割合である制約条件の感度に基づいて、目的関数の最適値を与える設計変数の変化量を予測し、制約条件を考慮しつつ目的関数の最適値を与える設計変数の値を求めることにより実現できる。
【0006】
しかし、上記の最適化方法において、例えば目的関数をタイヤのトレッド部に配設されるベルト端部の歪みとした等の場合、設計変数の値を演算する毎にベルトの幅が変化することに伴って目的関数の感度が振動的に変化するので、設計変数の値が収束しないという問題がある。
【0007】
このため本願出願人は、異分野に利用されている「遺伝的アルゴリズム手法」をタイヤという特殊分野に応用することについても検討を試み、具体的にそれをタイヤ設計方法として確立して既に提案している(前出の公報等参照)。遺伝的アルゴリズムを適用した場合、目的変数や制約条件の感度を用いることなく設計変数の値を収束させることができるので、目的関数としてベルト端歪を用いた等の場合にも設計変数の最適化を実現できる。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、本願発明者が上述したタイヤ設計方法を用いて種々の実験を行ったところ、遺伝的アルゴリズムを適用したタイヤ設計方法を用いたとしても、設計変数の値が収束しない、或いは収束するまでに多数回の演算が行われ収束に時間がかかる等のように設計変数の収束性が低い場合があることが判明した。
【0009】
すなわち、タイヤのトレッド部に配設するベルト等の補強材の構造は、タイヤのトレッド部にタイヤの周方向と直交する方向(タイヤの幅方向)に沿って断続的に補強材を配設した構造が最適な構造である場合も有り得るが、これを考慮すると、タイヤ基本モデル及び該タイヤ基本モデルにおける補強材の構造を規定する設計変数は、上記のようにタイヤの幅方向に沿って断続的に補強材を配設した構造をも表すことが可能なように定める必要がある。これは、具体的には前出のWO 94/16877 号(第11実施例:第34図参照)に記載されているように、タイヤの幅方向に沿って補強材が配設される範囲を単位長さ毎に複数の区間に区切ったタイヤ基本モデルを用い、各区間における補強材の有無を設計変数として用いることによって実現できる。
【0010】
しかしながら、上記のように補強材配設範囲を単位長さ毎に複数の区間に区切ったタイヤ基本モデルを用い、各区間における補強材の有無を設計変数として用いたとすると、設計変数の収束性が非常に低く、また設計変数が収束したとしても得られた設計変数が最適値でない可能性が高いことが本願発明者が行った実験によって確認された。この設計変数の収束性が低いという問題は、トレッド部に設ける補強材の構造を決定する場合のみならず、ビード部に設ける補強材(所謂チェーファー)の構造を決定する場合にも同様に発生する問題である。
【0011】
本発明は上記事実を考慮して成されたもので、所定部分に所定方向に沿って断続的に補強材が配設された構造が最適な補強材構造である場合も考慮してタイヤの設計を行う際にも、与えられた条件下で最適なタイヤを設計することができると共に、タイヤの設計・開発を高効率化し、低コストでタイヤを提供することができる空気入りタイヤの設計方法を得ることが目的である。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本願発明者は、タイヤ基本モデル及び補強材の構造を規定する設計変数として、タイヤの所定部分(例えばトレッド部やビード部等)に所定方向に沿って断続的に補強材を配設した構造をも表すことが可能な種々のタイヤ基本モデル及び設計変数を各々用い、遺伝的アルゴリズムを適用したタイヤ設計方法によりタイヤを設計する実験を行った。その結果、補強材が配設される所定部分に所定方向に沿って補強材の配設部及び非配設部が交互に位置するように規定されたタイヤ基本モデルを用い、補強材の構造を規定する設計変数として、前記タイヤ基本モデル上での前記所定方向に沿った前記補強材の配設部及び非配設部の長さを表す変数を用いた場合に、設計変数の収束性が非常に高く、かつ設計変数の最適値が得られる確率が非常に高いことを見い出した。
【0013】
上記に基づき請求項1記載の発明に係る空気入りタイヤの設計方法は、(a)タイヤの内部構造を含むタイヤの断面形状を表し、かつ補強材が配設される所定部分に所定方向に沿って補強材の配設部及び非配設部が交互に位置するように規定された複数個のタイヤ基本モデルから成る選択対象集団を定め、該選択対象集団の各タイヤ基本モデルについて、タイヤ性能評価用物理量を表す目的関数、タイヤ基本モデル上での前記所定方向に沿った前記補強材の配設部及び非配設部の長さを表す変数を含む設計変数、ゴム部材及び補強材の物性、性能評価用物理量及びタイヤ寸度の少なくとも1つを制約する制約条件、及び目的関数及び制約条件から評価できる適応関数を定めるステップ、(b)適応関数に基づいて前記選択対象集団から2つのタイヤ基本モデルを選択し、所定の確率で各タイヤ基本モデルの設計変数を交叉させて新規のタイヤ基本モデルを生成すること及び少なくとも一方のタイヤ基本モデルの設計変数の一部を変更させて新規のタイヤ基本モデルを生成することの少なくとも一方を行うと共に、変化させた設計変数から求まるタイヤ基本モデル上での補強材配設部及び非配設部の存在している範囲が、実際のタイヤ上で予め定められた所定範囲内に収まるように、実際のタイヤにおける前記補強材配設部及び非配設部の長さを演算し、演算結果に基づいて、設計変数を変化させたタイヤ基本モデルの目的関数、制約条件及び適応関数を求めて該タイヤ基本モデル及び設計変数を変化させなかったタイヤ基本モデルを保存しかつ保存したタイヤ基本モデルが所定数になるまで繰り返し、保存した所定数のタイヤ基本モデルから成る新規集団が所定の収束条件を満たすか否かを判断し、収束条件を満たさないときには該新規集団を前記選択対象集団として該選択対象集団が所定の収束条件を満たすまで繰り返すと共に、該所定の収束条件を満たしたときに保存した所定数のタイヤ基本モデルのなかで制約条件を考慮しながら目的関数の最適値を与える設計変数を求めるステップ、(c)目的関数の最適値を与える設計変数に基づいてタイヤを設計するステップを含んでいる。
【0014】
請求項1の発明では、タイヤの内部構造を含むタイヤの断面形状を表し、かつ補強材が配設される所定部分に所定方向に沿って補強材の配設部及び非配設部が交互に位置するように規定されたタイヤ基本モデルを用い、該タイヤ基本モデル上での所定方向に沿った補強材の配設部及び非配設部の長さを表す変数を含む設計変数を用いている。なお、本発明に係る補強材には、タイヤのトレッド部に設けられカーカスを補強するベルト、該ベルトを補強する補強材、ビード部に設けられるチェーファー等が含まれる。
【0015】
また請求項1の発明では、ステップ(a)において、複数個のタイヤ基本モデルから成る選択対象集団を定め、該選択対象集団の各タイヤ基本モデルについて、タイヤ性能評価用物理量を表す目的関数、前記設計変数、ゴム部材及び補強材の物性、性能評価用物理量及びタイヤ寸度の少なくとも1つを制約する制約条件、及び目的関数及び制約条件から評価できる適応関数を定めている。
【0016】
なお、タイヤ基本モデルには、タイヤ外面形状を表すライン、タイヤクラウン形状を表すライン、タイヤのカーカスを表すカーカスライン、タイヤ内部のカーカスプライの折り返しラインを表す折り返しプライライン、ベルトを含む各種補強材のラインを表す補強材ライン、タイヤゴム部材のゲージ分布及びベルト部の構造を表す各ベルト層の角度、幅、コード種類、打ち込み密度、並びにパターンの形状を表すブロック形状、ブロック溝壁角度、サイプの位置、本数、長さを含ませることができる。また、タイヤ基本モデルは、複数の要素に分割する有限要素法と呼ばれる手法を用いても良く解析的手法を用いても良い。
【0017】
また、タイヤ性能評価用物理量を表す目的関数としては、操縦安定性を向上させるための空気充填時のタイヤ周方向ベルト張力や横ばね定数等のタイヤ性能の優劣を支配する物理量を使用することができる。
【0018】
また設計変数は、タイヤ基本モデル上での所定方向に沿った補強材の配設部及び非配設部の長さを表す変数のみに限定されるものではなく、カーカスライン、折り返しプライライン、タイヤ外面形状を表すライン、タイヤクラウン形状を表すライン、及び補強材ラインの少なくとも1つのラインの形状を表す関数と、ビードフィラーのゲージ分布、ゴムチェーファーのゲージ分布、サイドゴムのゲージ分布、トレッドゴムのゲージ分布、トレッドベースゴムのゲージ分布、内面補強ゴムのゲージ分布、ベルト間ゴムのゲージ分布、及びベルトエンドゴムのゲージ分布の少なくとも1つのタイヤゴム部材のゲージ分布を表す変数と、ブロックの形状及びサイプの位置、本数、及び長さの少なくとも1つのパターンの形状を表す変数と、のうちの少なくとも何れかを含んでいてもよい。
【0019】
また、次のステップ(b)では、適応関数に基づいて前記選択対象集団から2つのタイヤ基本モデルを選択し、所定の確率で各タイヤ基本モデルの設計変数を交叉させて新規のタイヤ基本モデルを生成すること及び少なくとも一方のタイヤ基本モデルの設計変数の一部を変更(所謂突然変異)させて新規のタイヤ基本モデルを生成することの少なくとも一方を行うと共に、変化させた設計変数から求まるタイヤ基本モデル上での補強材配設部及び非配設部の存在している範囲が、実際のタイヤ上で予め定められた所定範囲内に収まるように、実際のタイヤにおける前記補強材配設部及び非配設部の長さを演算し、演算結果に基づいて、設計変数を変化させたタイヤ基本モデルの目的関数、制約条件及び適応関数を求めて該タイヤ基本モデル及び設計変数を変化させなかったタイヤ基本モデルを保存しかつ保存したタイヤ基本モデルが所定数になるまで繰り返し、保存した所定数のタイヤ基本モデルから成る新規集団が所定の収束条件を満たすか否かを判断し、収束条件を満たさないときには該新規集団を前記選択対象集団として該選択対象集団が所定の収束条件を満たすまで繰り返すと共に、該所定の収束条件を満たしたときに保存した所定数のタイヤ基本モデルのなかで制約条件を考慮しながら目的関数の最適値を与える設計変数を求めている。これにより、設計変数の最適値が求まることになる。
【0020】
そして、次のステップ(c)では、目的関数の最適値を与える設計変数に基づいてタイヤを設計する。
【0021】
このように、請求項1の発明によれば、制約条件を満たす目的関数の最適値を与える設計変数を求め、この設計変数からタイヤを設計しているので、与えられた条件下で最適なタイヤを設計することができる。また、コンピューター計算を主体にして最適なタイヤの設計から、設計したタイヤの性能評価までがある程度可能となるので、タイヤ設計・開発の著しい効率化、タイヤの低コスト化を達成できる。
【0022】
そして請求項1の発明では、所定部分に所定方向に沿って断続的に補強材が配設された構造が最適な補強材構造である場合も考慮し、補強材が配設される所定部分に所定方向に沿って補強材の配設部及び非配設部が交互に位置するように規定されたタイヤ基本モデルを用い、該タイヤ基本モデル上での所定方向に沿った補強材の配設部及び非配設部の長さを表す変数を含む設計変数を用いているので、前述のように、設計変数としての補強材の配設部及び非配設部の長さを表す変数の収束性が非常に高く、かつ前記変数の最適値が得られる確率が非常に高い。従って、所定部分に所定方向に沿って断続的に補強材が配設された構造が最適な補強材構造である場合も考慮してタイヤの設計を行う際にも、上述した効果、すなわち、与えられた条件下で最適なタイヤを設計することができると共に、タイヤの設計・開発を高効率化し、低コストでタイヤを提供することができる、という効果が得られる。
【0023】
また、前述のステップ(b)では、各タイヤ基本モデルの設計変数の交叉及び少なくとも一方のタイヤ基本モデルの設計変数の一部の変更を行って設計変数を変化させるが、設計変数の交叉や一部の変更により設計変数がどのような値に変化するかについて制限を設けない場合、変化させた設計変数の値に基づいて、実際のタイヤ上での補強材配設部及び非配設部の長さを、例えば設計変数の値に比例するように単純に演算したとすると、演算結果が表す実際のタイヤ上での補強材配設部の存在している範囲の一部が、実際のタイヤ上で予め定められた補強材配設可能範囲から逸脱することも考えられる。
【0024】
これを考慮して請求項1の発明では、前記ステップ(b)において、前記変化させた設計変数から求まるタイヤ基本モデル上での補強材配設部及び非配設部の存在している範囲が、実際のタイヤ上で予め定められた所定範囲内に収まるように、実際のタイヤにおける前記補強材配設部及び非配設部の長さを演算し、演算結果に基づいて、設計変数を変化させたタイヤ基本モデルの目的関数、制約条件及び適応関数を求めている。
【0025】
これにより、設計変数の交叉や一部変更により設計変数がどのような値に変化したかに拘らず、実際のタイヤにおける補強材配設部及び非配設部の存在している範囲は前記所定範囲内に収まることになり、本発明に係る設計方法を適用してタイヤを設計することで、実際には製造不可能等のように何らかの不都合があるタイヤが設計されることを防止することができる。
【0026】
請求項2記載の発明は、請求項1の発明において、前記設計変数は、前記補強材配設部に配設される補強材の物性を表す変数及び補強材の配設方向を表す変数の少なくとも一方を含むことを特徴としている。
【0027】
上記のように、設計変数に、補強材配設部に配設される補強材の物性を表す変数や補強材の配設方向を表す変数を含ませることにより、補強材配設部に配設すべき補強材の最適な物性や配設方向も決定することができる。
【0028】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して本発明の実施形態の一例を詳細に説明する。図1には、本発明に係る空気入りタイヤの設計方法を実施するためのパーソナルコンピュータの概略が示されている。このパーソナルコンピュータは、データ等を入力するためのキーボード10、予め記憶されたプログラムに従って制約条件を満たしかつ目的関数を最適、例えば、最大または最小にする設計変数を演算するコンピュータ本体12、及びコンピュータ本体12の演算結果等を表示するCRT14から構成されている。
【0029】
次に本実施形態の作用として図2のフローチャートを参照し、パーソナルコンピュータで実行されるタイヤ設計処理について、タイヤのトレッド部に配設するベルト等の補強材の構造(ベルト構造)を設計する場合を例に説明する。
【0030】
ステップ300では、N個のタイヤ断面形状を、有限要素法等のように空気充填時のタイヤ周方向ベルト張力を数値的・解析的に求めることができる手法によりモデル化し、内部構造を含むタイヤ基本モデルを求める。なお、基準形状は、自然平衡状態のタイヤ断面形状に限らず任意の形状でよい。ここで、モデル化とは、タイヤ形状、構造、材料、パターンを、数値的・解析的手法に基づいて作成されたコンピュータプログラムへのインプットデータ形式に数値化することをいう。
【0031】
一例として図3に示すように、タイヤ基本モデルは、カーカスラインCL、タイヤ外面形状を表すラインOL、折り返しプライラインPL、補強材が配設されて形成されるベルト層を表すベルトラインBL1,BL2,BL3(図3では二点鎖線で示す)を含んで構成されている。なお、ベルトラインBLの数は上記に限定されるものではない。また、このタイヤ基本モデルは、カーカスラインCLの複数の法線NL1,NL2,NL3,・・・によって複数の要素に分割されている。なお、上記では、タイヤ基本モデルをカーカスラインの複数の法線によって複数の要素に分割した例について説明したが、タイヤ外面形状を表すラインの複数の法線や折り返しプライラインの複数の法線によって複数の要素に分割してもよく、また設計目的によって3角形等の任意の形状に分割してもよい。
【0032】
ベルトラインBL1〜BL3については、ベルトラインBLに沿って断続的に補強材が配設された構造が最適なベルト構造である場合も考慮し、詳しくは図4に破線及び実線で示すように、各ベルトラインBL毎に、ベルトラインBLの延びる方向に沿って補強材が存在している部分(補強材配設部)と補強材が存在していない部分(補強材非配設部)とが交互に現れるように各ベルトラインBLがモデル化されている。
【0033】
またこのモデルにおいては、ベルト構造を表す設計変数として、補強材配設部及び補強材非配設部の各々の長さxij(タイヤ基本モデル上での補強材配設部及び非配設部の長さを表す変数に相当)、補強材配設部の各々における補強材の材質Mij(補強材の物性を表す変数に相当)及び補強材の角度θij(補強材としての線材の長手方向とタイヤの赤道面とが成す角度、補強材の配設方向を表す変数に相当)を用いている(但し、iは各ベルトラインBLを識別するための符号、jは同一ベルトラインBL上の各部分を識別するための符号)。
【0034】
一例として図4に示すモデルにおいては、ベルト構造を表す設計変数は、次の(1)式に示すように、補強材配設部の各々の長さを表す設計変数ベクトルA、補強材非配設部の各々の長さを表す設計変数ベクトルB、補強材配設部の各々における補強材の材質を表す設計変数ベクトルC、及び補強材配設部の各々における補強材の角度を表す設計変数ベクトルDから構成されることになる。
【0035】
A=(x11,x13,x21,x23,x31,x33)
B=(x12,x14,x22,x24,x32,x34)
C=(M12,M14,M22,M24,M32,M34)
D=(θ12,θ14,θ22,θ24,θ32,θ34) …(1)
次のステップ302では、タイヤ性能評価用物理量を表す目的関数、タイヤのベルト構造を制約する制約条件及びN個のタイヤモデルのベルト構造を表す設計変数(設計変数ベクトルA,B,C,D)を決定する。目的関数及び制約条件は、設計すべきタイヤの種類や満足すべき性能等に応じて定めることができる。一例として、設計すべきタイヤが、高いコーナリングパワーCpが得られかつ低コストのタイヤである場合には、目的関数OBJ及び制約条件Gは例えば次のように定めることができる。
【0036】
目的関数OBJ:タイヤの踏面のセンターラインCL に横斜めの変位を与えたときの横力(=コーナリングパワーCpと相関の高い物理量)
制約条件 G :材料費が所定値以下
また、ベルト構造を表す設計変数ベクトルA,B,C,Dの要素としての各設計変数の値は、具体的には、例えば次の表1に示すテーブルに従って数値化することができる。
【0037】
【表1】
なお、ベルトラインBLiに沿って連続的に補強材を配設するベルト構造は、ベルトラインBLiにおける補強材配設部の長さ≧1かつベルトラインBLiにおける補強材非配設部の長さ=0となるように設計変数xijの値を設定することで表すことができ、ベルトラインBLiに補強材を配設しないベルト構造は、ベルトラインBLiにおける補強材非配設部の長さ≧1かつベルトラインBLiにおける補強材配設部の長さ=0となるように設計変数xijの値を設定することで表すことができる。また、ベルトラインBLiに沿って断続的に補強材を配設するベルト構造は、ベルトラインBLiにおける少なくとも1個以上の補強材配設部及び補強材非配設部の長さ≧1となるように設計変数xijの値を設定することで表すことができる。
【0038】
上記の表1等に従って、N個のタイヤモデルの各々のベルト構造を表す設計変数ベクトルAJ ,BJ ,CJ ,DJ (但しJ=1,2,・・・,N)を決定すると、ステップ304へ移行し、N個のタイヤモデルの各々の設計変数ベクトルAJ 〜DJ に基づき、N個のタイヤモデルの各々の目的関数OBJJ 及び制約条件GJ の値を演算する。
【0039】
この目的関数OBJJ 及び制約条件GJ の値の演算は、各タイヤモデルの設計変数ベクトルが表す実際のタイヤの各部の形状、構造、物性等に基づいて行うが、本実施形態では、設計変数ベクトルA及び設計変数ベクトルBの要素である設計変数xijの値が、補強材配設部及び補強材非配設部のタイヤモデル上での論理的な長さを表しており、実際のタイヤ上での補強材配設部及び非配設部の物理的な長さとは必ずしも対応していない。
【0040】
このため本実施形態では、目的関数OBJJ 及び制約条件GJ の値の演算に先立って、補強材配置演算処理(図5参照)により、設計変数xijから実際のタイヤ上での補強材配設部及び非配設部の物理的な長さXijを演算することにより、各タイヤモデルが表す実際のタイヤ上での各ベルトラインBL上の補強材の配置を求めている。以下、図5のフローチャートを参照し、補強材配置演算処理について説明する。
【0041】
ステップ400では、予め設定されてメモリ等に記憶されている、実際のタイヤ上でのベルトラインBLの最大長さLa (実際のタイヤ上での補強材の配設可能範囲を表す)及び設計変数xijが表すタイヤモデル上での補強材配設部又は非配設部の長さの最大値Lb (先に示した表1ではLb =7)を取り込む。ステップ402ではカウンタiに1を代入し、ステップ404ではカウンタjに1を代入する。次のステップ406では、ベルトラインBLiのj番目の部分(補強材配設部又は非配設部)のタイヤモデル上での長さを表す設計変数xijを設計変数ベクトルA又は設計変数ベクトルBから取り込む。
【0042】
ステップ408では、ステップ406で取り込んだ設計変数xijに基づき、ベルトラインBLiのj番目の部分(補強材配設部又は非配設部)の実際のタイヤ上での物理的な長さXijを次の(2)式に従って演算する。
【0043】
【数1】
次のステップ410ではカウンタjを1だけインクリメントし、ステップ412でベルトラインBLiにj番目の部分(補強材配設部又は非配設部)が有るか否か判定する。判定が肯定された場合にはステップ406に戻り、上記判定が肯定される迄ステップ406〜412を繰り返す。
【0044】
これにより、一例としてベルトラインBLiの設計変数ベクトルA及び設計変数ベクトルBの内容が、
A=(xi2,xi4)=(2,2)、 B=(xi1,xi3)=(1,1)
であり、設計変数xijが表すタイヤモデル上での補強材配設部又は非配設部の長さの最大値Lb =7であったとすると、タイヤのセンターラインCL を基準として各部分が順に割付けされ、実際のタイヤ上での1番目の部分(非配設部)の長さは図6(A)に示すようにXi1=(1/7)・La となり、実際のタイヤ上での2番目の部分(補強材配設部)の長さは図6(B)に示すようにXi2=(2/7)・(La −Xi1)となり、実際のタイヤ上での3番目の部分(非配設部)の長さは図6(C)に示すようにXi3=(1/7)・(La −(Xi1+Xi2))となり、実際のタイヤ上での4番目の部分(補強材配設部)の長さは、図6(D)に示すようにXi4=(2/7)・(La −(Xi1+Xi2+Xi3)となる。
【0045】
上述した例からも明らかなように、設計変数xijが表すタイヤモデル上での補強材配設部又は非配設部の長さは最大値Lb を越えることはないので、実際のタイヤ上での補強材配設部及び非配設部の長さXijを(2)式に従って演算することにより、後述する交叉や突然変異により設計変数ベクトルA及び設計変数ベクトルBを構成する各設計変数xijの合計値が変化したとしても、実際のタイヤ上におけるベルトラインBLiの補強材配設部及び非配設部の長さXijは、実際のタイヤ上でのベルトラインBLの最大長さLa 内に収まるように値が演算されることになる。
【0046】
図2のステップ304では、上記の補強材配置演算処理をN回繰り返すことにより、N個のタイヤモデルの各々の設計変数ベクトルA、設計変数ベクトルBが表す実際のタイヤ上での補強材配設部又は非配設部の物理的な長さXijを各々演算する。そして、N個のタイヤモデルが各々表す実際のタイヤの各部の形状、構造、物性等(演算した長さXij及び他の設計変数によって定まる)に基づいて、目的関数OBJJ 及び制約条件GJ の値を各々演算する。
【0047】
次のステップ306では、ステップ204で求めたN個のタイヤモデルの各々の目的関数OBJJ 及び制約条件GJ の値を用いて、N個のタイヤモデルの各々の適応関数FJ を以下の(3)式に従って演算する。例えば目的関数OBJを、タイヤの踏面のセンターラインCL に横斜めの変位を与えたときの横力とした場合、適応関数による値(適応度)は横力が大きくなるに従って大きくなる。
【0048】
ΦJ =−OBJJ +γ・max(GJ ,O)
FJ =−ΦJ …(3)
又は、
FJ =1/ΦJ
又は、
FJ =−a・ΦJ +b
但し、
【0049】
【数2】
c :定数
γ :ペナルティ係数
Φmin =min(Φ1 ,Φ2 ,・・・,ΦN )
ΦJ :N個のタイヤモデルのJ番目のタイヤモデルのペナルティ関数
(J=1,2,・・・,N)
なお、c及びγは使用者が予め入力する。
【0050】
次のステップ308では、N個のモデルの中から交叉させるモデルを2個選択する。選択方法としては、一般に知られている適応度比例戦略を用いることができる。適応度比例戦略を適用した場合、N個のタイヤモデルのある個体Lが各々選択で選ばれる確率PL は以下の式で表わされる。
【0051】
【数3】
但し、FL :N個のタイヤモデルの中のある個体Lの適応関数
FJ :N個のタイヤモデルのJ番目の適応関数
J=1、2、3、・・・N
なお、上記で説明した適応度比例戦略に代えて、遺伝的アルゴリズム(北野宏明 編)に示されている様な、期待値戦略、ランク戦略、エリート保存戦略、トーナメント選択戦略、或いはGENITORアルゴリズム等を用いてもよい。
【0052】
次のステップ310では、選択された2個のタイヤモデルを、使用者が予め入力した確率Tによって交叉させるか否かを決定する。ここでいう交叉とは、2個のタイヤモデルの設計変数ベクトルの要素である設計変数の一部を交換することをいう。判定が否定された場合には、ステップ312で現在の2個のタイヤモデルに対し交叉等の処理を行うことなくそのままの状態でステップ316へ進む。一方、前記判定が肯定された場合には、ステップ314で2個のタイヤモデルを交叉させる。
【0053】
具体的には、先のステップ308で選択した2個のタイヤモデル(便宜的に双方のタイヤモデルをタイヤモデルa、タイヤモデルbと称する)の各設計変数ベクトルAa 〜Da 、Ab 〜Db に対し、各設計変数ベクトルを構成する設計変数のうち交叉させる対象としての設計変数のアドレス(交叉場所i)を乱数により決定し、決定した交叉場所iに位置している設計変数を先頭とする所定数の設計変数を、タイヤモデルaとタイヤモデルbの対応する設計変数ベクトル毎に交叉(交換)し、交叉によって新規な2個のタイヤモデルを生成する。
【0054】
以下に、各設計変数ベクトルの1番目の設計変数のアドレスが交叉場所iとして決定され、交換する設計変数の数が「2」とされていた場合の交叉の一例を、具体的数値を挙げて示す。
【0055】
【数4】
なお上記の例では、交叉(交換)の対象としての設計変数に下線を付して示しており、交叉によって生成された新たな設計変数ベクトルAa ’〜Da ’及びAb ’〜Db ’が表すタイヤモデルをタイヤモデルa’、b’として示している。なお交叉場所iは各設計変数ベクトル毎に別個に決定してもよい。また交叉(交換)の対象としての設計変数の数も乱数等により定めるようにしてもよい。更に、遺伝的アルゴリズム(北野 宏明 編)に示されているような、複数点交叉または一様交叉等を適用してもよい。
【0056】
次のステップ316では、使用者が予め入力した確率Sで、突然変異させるか否かを決定する。この突然変異は、後述するように、設計変数の一部を微小に変更することをいい、最適な設計変数となりうる母集団を含む確度を高くするために行う。ステップ316の判定が否定された場合にはステップ318へ移行し、現在の2個のタイヤモデルに対し突然変異等の処理を行うことなくステップ322へ進む。
【0057】
一方、前記判定が肯定された場合には、次のステップ320で以下のようにして突然変異処理を行う。すなわち、2個のタイヤモデルの各々の設計変数ベクトルを構成する全ての設計変数のうち突然変異させる設計変数のアドレス(突然変異の場所i)を乱数等により決定し、決定した突然変異の場所iに位置している設計変数(突然変異させる設計変数)の値を乱数等により決定し、前記設計変数の値を前記乱数等により決定した値に変更することにより新規なタイヤモデルを生成する。
【0058】
以下に、設計変数ベクトルAの5番目の設計変数のアドレスが突然変異の場所iとして決定された場合の突然変異の一例を、具体的数値を挙げて示す。
【0059】
【数5】
なお上記の例では、突然変異の対象としての設計変数に下線を付して示しており、突然変異によって生成された新たな設計変数ベクトルAa ’〜Da ’(但し上記の例では設計変数ベクトルAa ’以外は各設計変数の値は変化せず)が表すタイヤモデルをタイヤモデルa’として示している。なお設計変数ベクトルA〜Dの各々に対して突然変異を行ってもよい。
【0060】
次のステップ322では、上記のようにして新規に生成された2個のタイヤモデルについて、目的関数OBJJ 及び制約条件GJ を演算する。このステップ322における目的関数OBJJ 及び制約条件GJ の演算についても、先に説明したステップ304と同様に、補強材配置演算処理(図5参照)により2個のタイヤモデルの各々について、設計変数xijから実際のタイヤ上での補強材配設部及び非配設部の物理的な長さXijを演算する。これにより、前述の交叉や突然変異によって設計変数ベクトルA及び設計変数ベクトルBを構成する各設計変数xijの合計値が変化したとしても、実際のタイヤ上におけるベルトラインBLiの補強材配設部及び非配設部の長さXijは、実際のタイヤ上でのベルトラインBLの最大長さLa 内に収まるように値が演算されることになる。そして、2個のタイヤモデルが各々表す実際のタイヤの各部の形状、構造、物性等(演算した長さXij及び他の設計変数によって定まる)に基づいて、目的関数OBJJ 及び制約条件GJ を各々演算する。
【0061】
次のステップ324では、上記で演算した2個のタイヤモデルの各々の目的関数OBJJ 及び制約条件GJ の値を用いて、先のステップ306と同様に2個のタイヤモデルの各々の適応関数FJ を演算する。ステップ326では上記2個のタイヤモデルを保存し、次のステップ328ではステップ326で保存したタイヤモデルの数がN個に達したか否か判定する。
【0062】
判定が否定された場合には、タイヤモデルの数がN個になるまでステップ308〜ステップ328を繰り返す。そしてタイヤモデルの数がN個に達し、ステップ326の判定が肯定されると、ステップ330で収束判定を行う。この収束判定は、例えば以下の条件のいずれかを満足したら収束とみなすことができる。
【0063】
1)世代数がM個に達した
2)一番目的関数の値が大きい線列の数が全体のq%以上になった
3)最大の目的関数の値が、続くp回の世代で更新されない。
【0064】
なお、M、q、pは使用者が予め入力しておく。
ステップ330の判定が否定された場合には、N個のタイヤモデルをステップ326で保存されたタイヤモデルに更新してステップ308に戻り、ステップ308〜ステップ330を繰り返し実行する。
【0065】
一方、ステップ330で収束したと判断された場合には、N個のタイヤモデルの中で制約条件を略満たしながら目的関数の値が最大となるタイヤモデルの設計変数の値をもって制約条件を略満たしながら目的関数を最大にする設計変数の値とし、ステップ332においてこの設計変数の値を用いてタイヤの構造、形状を決定する。これにより、制約条件を略満たしながら目的関数を最大にする最適なタイヤの構造、形状を決定することができる。
【0066】
また、上記ではベルト構造を表す設計変数として補強材配設部及び補強材非配設部の長さxijを用いているので、制約条件を略満たしながら目的関数を最大にする最適なタイヤのベルト構造が、タイヤの幅方向に沿って断続的に補強材が配設された構造であったとしても設計変数の値が良好に収束し、前記最適なベルト構造を短期間で効率良く得ることができる。
【0067】
なお、上記では実際のタイヤ上における補強材配設可能範囲をタイヤのセンターライン側より順に、(補強材配設部又は非配設部の長さを表す設計変数xij/設計変数xijの最大値Lb )により分割して割り当てることを繰り返して(2回目以降は補強材配設可能範囲のうち未割り当ての範囲に対して分割・割り当てを行う)、補強材配設部及び非配設部の実際のタイヤ上での長さXijを演算することにより、実際のタイヤにおける補強材配設部及び非配設部の存在している範囲が補強材配設可能範囲内に収まるようにしていたが、本発明はこれに限定されるものではなく、補強材配設部及び非配設部の各々のタイヤモデル上での長さを表す設計変数xijの値に応じて、補強材配設可能範囲を比例配分する(以下の(4)式参照)ことにより、実際のタイヤにおける補強材配設部及び非配設部の存在している範囲が補強材配設可能範囲内に収まるように、補強材配設部及び非配設部の実際のタイヤ上での長さXijを演算するようにしてもよい。
【0068】
【数6】
但し、n:ベルトラインBLiの補強材配設部及び非配設部の総数
また、上記では突然変異として特定の設計変数の値を変更するようにしていたが、これに限定されるものではなく、補強材配設部や補強材非配設部の数も変化するように突然変異を行ってもよい。
【0069】
更に、上記では補強材の物性を表す設計変数として、補強材の材質を表す変数を用いていたが、これに限定されるものではなく、補強材としての線材の径やその他の物性を表す設計変数を含めてもよい。
【0070】
また、上記ではタイヤのトレッド部に配設する補強材の構造を設計する場合を例に説明したが、本発明はビード部に配設する補強材の構造(所謂チェーファー構造)を決定する場合にも適用可能であり、この場合にも設計変数の収束性が良好であることは言うまでもない。
【0071】
【実施例】
次に、本発明の有効性を検証するために、本願発明者が、本発明に係るタイヤ設計方法を適用してパーソナルコンピュータにより実際にタイヤを設計(詳しくはベルト構造の設計)する実験を行った結果について説明する。なお、以下で説明する実験では全て、タイヤサイズを195/65R15とした。
【0072】
〔第1実験例〕
第1実験例では、タイヤに要求される各種性能のうち特にコーナリングパワーCpを重視し、ベルト層の数が2、補強材としてスチールのベルトのみを用いるとの条件で、本願発明者が試作及び試験の繰り返しによって求めたコーナリングパワーCpが最大となる最適なベルト構造が、本発明に係るタイヤ設計方法を適用したタイヤ設計処理によって得られるか否かを検証した。
【0073】
本願発明者が試作及び試験の繰り返しによって求めたコーナリングパワーCpが最大となる最適なベルト構造は、第1ベルト層(BL1)がタイヤの赤道面に対して0°の角度でスチールのベルトが連続的に配設されて構成され、第2ベルト層(BL2)がタイヤの赤道面に対して右上がりに30°の角度でスチールのベルトが連続的に配設されて構成されたベルト構造であった。
【0074】
これに対し、本第1実験例では、ベルトラインBLの数を2とし、補強材の材質をスチールに限定すると共に、目的関数及び制約条件を以下のように定め、先に説明したタイヤ設計処理を行ってベルト構造の設計を行った。
【0075】
目的関数:タイヤの踏面のセンターラインCL に横斜めの変位を与えたときの横力(以下、単に「横力」という)が最大
制約条件:重量が所定値以下
図7には第1実験例のタイヤ設計処理の途中経過及び最終結果を示す。図7(A)はタイヤ設計処理を実行している過程で生成された多数のタイヤモデルを、横軸に重量を、縦軸に横力をとった線図に、タイヤモデルの世代毎(図2に示すステップ300で生成されたN個のタイヤモデルから成るモデル群を第1世代、以下ステップ328の判定が繰り返し肯定される間に繰り返し生成される各々N個のタイヤモデルから成る複数のモデル群を第2世代、第3世代、…と称する)にプロットしたものであり、図7(A)では簡略的に第1世代(「△」で示す)、第12世代(「○」で示す)、第16世代(「◇」で示す)及び第20世代(「+」で示す)の各モデル群のタイヤモデルのみプロットしている。
【0076】
図7(A)より明らかなように、第1世代のモデル群では、横力が最大となる最良のタイヤモデルでも横力が115kgf程度であり、その構造は、図7(B)に示すように第1ベルト層(BL1)がタイヤの赤道面に対して0°の角度でスチールのベルトが連続的に配設されて構成され(図では「0」と表記)、第2ベルト層(BL2)がタイヤの赤道面に対して右上がりに42°の角度でスチールのベルトが連続的に配設されて構成され(図では「R42」と表記)たベルト構造であった。
【0077】
これに対し、本第1実験例は目的関数を横力としているので、世代が新しくなるに従って、横力がより高いベルト構造のタイヤモデルが出現する(第12世代では最良のタイヤモデルの横力が133kgf程度、第16世代や第20世代では最良のタイヤモデルの横力が142kgf程度)と共に、同一世代のモデル群に横力の高いベルト構造のタイヤモデルの占める割合が増加していることが図7(A)からも理解できる。
【0078】
また、図7(B)に示す第16世代における最良のタイヤモデルのベルト構造と、第20世代における最良のタイヤモデルのベルト構造と、が極めて近似していることからも明らかなように、世代の数が大きくなるに伴って、最良のタイヤモデルにおける設計変数の値は略一定の値に収束する。本第1実験例では2種類の収束判定、すなわち「目的関数の値が最も大きい線列の数が全体のq%以上になった」及び「最大の目的関数の値が、続くp回の世代で更新されない」を満足したことにより、第20世代のモデル群を生成した段階で、設計変数の値が収束したと判断して処理を終了した。
【0079】
第20世代のモデル群における最良のベルト構造は、第1ベルト層(BL1)がタイヤの赤道面に対して0°の角度でスチールのベルトが連続的に配設されて構成され、第2ベルト層(BL2)がタイヤの赤道面に対して右上がりに30°の角度でスチールのベルトが連続的に配設されて構成され(図では「R30」と表記)たベルト構造であり、本願発明者が試作及び試験の繰り返しによって求めたコーナリングパワーCpが最大となる最適なベルト構造と等しい。従って本発明を適用すれば、最適なベルト構造を極めて容易に得られることが理解できる。
【0080】
〔第2実験例〕
上記で説明した第1実験例では、試作及び試験の繰り返しにより予め最適なベルト構造を求めていたが、以下で説明する第2実験例及び第3実験例では、最適なベルト構造が未知の状態で実験を行った。
【0081】
本第2実験例では、ベルトラインBLの数を4とし、ベルト構造を表す設計変数として、先に説明した設計変数以外に、補強材の材質がスチールの場合の打込み密度(単位幅当りのベルトの本数)を追加する(第3実験例も同様)と共に、タイヤに要求される各種性能のうち特にコーナリングパワーCpを重視し、目的関数及び制約条件を以下のように定め、先に説明したタイヤ設計処理を行ってベルト構造の設計を行った。
【0082】
その結果、図8(A)に示すように、第1ベルト層(BL1)がタイヤの赤道面に対して左上がりに36°の角度で補強材としてのナイロンのベルトが連続的に配設されて構成され(図では「L36ナイロン」と表記)、第2ベルト層(BL2)がタイヤの赤道面に対して右上がりに42°の角度で補強材としてのナイロンのベルトが連続的に配設されて構成され(図では「R42ナイロン」と表記)、第3ベルト層(BL3)がタイヤの赤道面に対して左上がりに22°の角度かつ打込み密度90%で補強材としてのスチールのベルトが連続的に配設されて構成され(図では「L22スチール打込み90%」と表記)、第4ベルト層(BL4)がタイヤの赤道面に対して0°の角度かつ打込み密度60%で補強材としてのスチールのベルトが連続的に配設されて構成され(図では「0スチール打込み60%」と表記)たベルト構造が得られた。また設計変数の収束性も良好であった。
【0083】
上記のベルト構造に対し、先に目的関数及び制約条件として挙げた各項目について従来のベルト構造(2Steel)との比較を行ったところ、図8(A)に記しているように、本第1実施例で設計されたベルト構造は、制約条件の各項目を殆ど満足していると共に、目的関数としての横力の値が従来に比して大幅に向上(詳しくは9%向上)していることが確認された。従来のタイヤ設計方法では、材料費や重量の増大を招くことなく横力を10%近くも向上させることは非常に困難であったが、本発明を適用することにより、これが容易に可能となることが理解できる。
【0084】
また、コーナリングパワーCpの向上にはベルト面内曲げ剛性(詳しくは剪断方向及びタイヤ周方向の曲げ剛性)を向上させることが必要であるが、上記のベルト構造に対し、ベルト基本剛性予測システムにより面内曲げ剛性及びコーナリングパワーCpの見積もりを行ったところ、図8(A)に記しているように、面内曲げ剛性及びコーナリングパワーCpの何れについても従来より大幅に向上していることが確認された。
【0085】
本願発明者は上記のベルト構造について分析を行った。その結果、図8(B)に示すように、第1ベルト層〜第3ベルト層の補強材によって剪断方向の曲げ剛性が確保されていると共に、第4ベルト層の補強材によって周方向の曲げ剛性が確保されており、また第1ベルト層〜第3ベルト層の補強材は軽量化及び材料費の低減にも寄与していることが判明した。
【0086】
目的関数の感度及び制約条件の感度に設計変数の値を求める設計方法では、上記のようにタイヤの厚さ方向に沿って異なる位置に位置している各ベルト層の補強材で役割を分担しているベルト構造を得ることは困難であるが、本発明を適用すれば、上記のようなベルト構造を容易に得ることができ、かつ設計変数の収束性も良好であることが理解できる。
【0087】
〔第3実験例〕
本第3実験例では、タイヤに要求される各種性能のうち特に材料費の低減を重視し、目的関数及び制約条件を以下のように定め、先に説明したタイヤ設計処理を行ってベルト構造の設計を行った。
【0088】
その結果、図9(A)に示すように、第1ベルト層(BL1)がタイヤの赤道面に対して右上がりに22°の角度かつ打込み密度60%で補強材としてのスチールのベルトが連続的に配設されて構成され(図では「R22スチール打込み60%」と表記)、第2ベルト層(BL2)が、タイヤのセンター側にタイヤの赤道面に対して左上がりに6°の角度かつ打込み密度60%で補強材としてのスチールのベルトが配設されたベルト配設部(図では「L6スチール打込み60%」と表記)と、タイヤのショルダー側にタイヤの赤道面に対して0°の角度かつ打込み密度 100%で補強材としてのスチールのベルトが配設されたベルト配設部(図では「0スチール打込み100%」と表記)と、がベルト非配設部を挟んで配置されて構成されたベルト構造が得られた。また設計変数の収束性も良好であった。
【0089】
上記のベルト構造に対し、先に目的関数及び制約条件として挙げた各項目について従来のベルト構造(2Steel)との比較を行ったところ、図9(A)に記しているように、本第1実施例で設計されたベルト構造は、制約条件の各項目を殆ど満足していると共に、目的関数としての材料費が従来に比して大幅に低減(詳しくは29%低減) していることが確認された。従来のタイヤ設計方法では、横力の低下や重量の増大を招くことなく材料費を30%近くも低減することは非常に困難であったが、本発明を適用することにより、これが容易に可能となることが理解できる。
【0090】
また上記のベルト構造に対し、ベルト基本剛性予測システムにより面内曲げ剛性及びコーナリングパワーCpの見積もりを行ったところ、図9(A)に記しているように、面内曲げ剛性及びコーナリングパワーCpの何れについても、若干ではあるが従来より向上していることが確認された。
【0091】
本願発明者は上記のベルト構造についても分析を行った。その結果、図8(B)に示すように、第1ベルト層の補強材及び第2ベルト層のうちセンターライン側に位置しているベルト配設部の補強材によって剪断方向の曲げ剛性が確保されていると共に、第2ベルト層のうちショルダー側に位置しているベルト配設部の補強材によって周方向の曲げ剛性が確保されていることが判明した。
【0092】
目的関数の感度及び制約条件の感度に設計変数の値を求める設計方法では、上記のようにタイヤの厚さ方向及び幅方向に沿った各部で役割を分担しているベルト構造を得ることは困難であるが、本発明を適用すれば、上記のようなベルト構造を容易に得ることができ、かつ設計変数の収束性も良好であることが理解できる。
【0093】
【発明の効果】
以上説明したように請求項1記載の発明は、所定部分に所定方向に沿って断続的に補強材が配設された構造が最適な補強材構造である場合も考慮してタイヤの設計を行う際にも、与えられた条件下で最適なタイヤを設計することができると共に、タイヤの設計・開発を高効率化し、低コストでタイヤを提供することができ、更に、設計変数の交叉や一部変更により設計変数がどのような値に変化したかに拘らず、何らかの不都合があるタイヤが設計されることも防止することができる、という優れた効果を有する。
【0095】
請求項2記載の発明は、上記効果に加え、補強材配設部に配設すべき補強材の最適な物性や配設方向も決定することができる、という効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態で使用されるパーソナルコンピュータの外観図である。
【図2】本実施形態に係るタイヤ設計処理を示すフローチャートである。
【図3】タイヤ基本モデルの一例を示す線図である。
【図4】タイヤ基本モデルのうちベルトラインのモデルの一例を示す線図である。
【図5】補強材配置演算処理を示すフローチャートである。
【図6】(A)乃至(D)は、補強材配置演算処理の過程を説明するための概念図である。
【図7】本願発明者によって実施された実験の結果を説明するための、(A)は線図、(B)は説明図である。
【図8】(A)及び(B)は、本願発明者によって実施された実験の結果を説明する説明図である。
【図9】(A)及び(B)は、本願発明者によって実施された実験の結果を説明する説明図である。
【符号の説明】
10 キーボード
12 コンピュータ本体
14 CRT
Claims (2)
- 次の各ステップを含む空気入りタイヤの設計方法。
(a)タイヤの内部構造を含むタイヤの断面形状を表し、かつ補強材が配設される所定部分に所定方向に沿って補強材の配設部及び非配設部が交互に位置するように規定された複数個のタイヤ基本モデルから成る選択対象集団を定め、該選択対象集団の各タイヤ基本モデルについて、タイヤ性能評価用物理量を表す目的関数、タイヤ基本モデル上での前記所定方向に沿った前記補強材の配設部及び非配設部の長さを表す変数を含む設計変数、ゴム部材及び補強材の物性、性能評価用物理量及びタイヤ寸度の少なくとも1つを制約する制約条件、及び目的関数及び制約条件から評価できる適応関数を定めるステップ。
(b)適応関数に基づいて前記選択対象集団から2つのタイヤ基本モデルを選択し、所定の確率で各タイヤ基本モデルの設計変数を交叉させて新規のタイヤ基本モデルを生成すること及び少なくとも一方のタイヤ基本モデルの設計変数の一部を変更させて新規のタイヤ基本モデルを生成することの少なくとも一方を行うと共に、変化させた設計変数から求まるタイヤ基本モデル上での補強材配設部及び非配設部の存在している範囲が、実際のタイヤ上で予め定められた所定範囲内に収まるように、実際のタイヤにおける前記補強材配設部及び非配設部の長さを演算し、演算結果に基づいて、設計変数を変化させたタイヤ基本モデルの目的関数、制約条件及び適応関数を求めて該タイヤ基本モデル及び設計変数を変化させなかったタイヤ基本モデルを保存しかつ保存したタイヤ基本モデルが所定数になるまで繰り返し、保存した所定数のタイヤ基本モデルから成る新規集団が所定の収束条件を満たすか否かを判断し、収束条件を満たさないときには該新規集団を前記選択対象集団として該選択対象集団が所定の収束条件を満たすまで繰り返すと共に、該所定の収束条件を満たしたときに保存した所定数のタイヤ基本モデルのなかで制約条件を考慮しながら目的関数の最適値を与える設計変数を求めるステップ。
(c)目的関数の最適値を与える設計変数に基づいてタイヤを設計するステップ。 - 前記設計変数は、前記補強材配設部に配設される補強材の物性を表す変数及び補強材の配設方向を表す変数の少なくとも一方を含むことを特徴とする請求項1記載の空気入りタイヤの設計方法。
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