JP3657474B2 - 内燃機関のクランク軸 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、主として車両に搭載される内燃機関のクランク軸に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、内燃機関のクランク軸は、コネクティングロッドを介して伝達されるピストンの上下動を回転運動に変換する機能を有している。このようなクランク軸は、コネクティングロッドの回転軸であるクランクピンと、そのクランクピンを挟持する一対のクランクアームと、クランクピンの軸心とは異なる位置でクランクアームの外面に結合されるクランクジャーナルと、クランクアームと一体に形成されるカウンタウエイトとを備えている。このようなクランク軸では、ピストンの上下動に応じて、曲げ応力や剪断応力が各部に加わるが、内燃機関の重量を軽量化するために、剛性、強度を維持したままで軽量にすることが試みられている。例えば特開平9−317750号公報には、カウンタウエイトにおいて肉抜きを行い、強度、耐久性を維持しながら軽量化を図ったクランク軸が記載されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
上記したカウンタウエイトに肉抜き部があるクランク軸では、例えば爆発行程後のピストンの降下動により、下向きの曲げ応力がクランクアームの、いわゆる危険断面と呼ばれる部分に集中して加わることが知られている。すなわち、通常のクランク軸では、クランクジャーナル端部において、軸受との関係で小さな曲率でその全周にわたって設けられる溝が形成してあるとともに、クランクピン端部においても小さな曲率でその全周にわたって溝が設けられており、これらの溝が爆発工程後においてクランク軸が下向きの力を受けた場合に、クランクアームがクランクピンとクランクジャーナルとにより引っ張られるように歪もうとすることにより応力が集中する隅部となり、この隅部と隅部との間に上記危険断面が生じるものである。
【0004】
つまり、例えば、図7に示す応力分布図により明らかなように、クランクピン側の隅部Gp及びクランクジャーナル側の隅部Gjをそれぞれ中心として曲げ応力が集中し(領域Ra)、クランクアームの内部に向かって曲げ応力の大きさは減少するものの、応力の大きな領域Rdが狭い範囲で生じることにより、その間つまり危険断面Sdに曲げ応力が集中するものとなる。このように、曲率の小さな溝部には応力が発生しやすく、その結果その危険断面に曲げ応力が集中すると、クランク軸に不具合が生じることがある。
【0005】
本発明は、このような不具合を解消することを目的としている。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は、このような目的を達成するために、次のような手段を講じたものである。すなわち、本発明に係る内燃機関のクランク軸は、クランクアームの危険断面に集中する曲げ応力を、カウンタウエイトに設ける肉盗み部の形状に基づいて複数の断面に分散させて、軽量化を図りつつ一つの断面に集中することを防止する構成である。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明は、クランクピンにより連結される対をなすクランクアームに連続するカウンタウエイトの対向する面の少なくとも一方の面に肉盗み部を有してなり、クランクピンに垂直にかかる力により撓む際に応力が集中するクランクジャーナル側隅部とクランクピン側隅部との間及びクランクジャーナル側隅部と肉盗み部側隅部との間のクランクアームに生じる曲げ応力の集中するそれぞれの断面にかかる曲げ応力が略等しくなるように、肉盗み部に隣接するクランクジャーナルの軸心方向の中点から前記それぞれの断面の中点までの前記軸心方向のそれぞれの距離と前記それぞれの断面の厚さとが、前記それぞれの距離が大きくなるに伴い前記それぞれの断面の厚さが厚くなる関係を維持してカウンタウエイトに肉盗み部形状を設定することを特徴とする内燃機関のクランク軸である。
【0008】
このような構成のものであれば、爆発工程においてクランクピンに垂直に力がかかれば、その力により生じた曲げ応力は、クランクジャーナル側隅部とクランクピン側隅部との間及びクランクジャーナル側隅部と肉盗み部側隅部との間のそれぞれの断面に分散して、略等しくなる。つまり、クランクアームに生じた応力は、肉盗み部を形成することにより形成される断面にもかかることになり、クランクジャーナル側隅部とクランクピン側隅部との間に存在する断面にのみ集中することがなくなる。したがって、一つの断面に曲げ応力が集中することを防止することが可能になり、クランク軸に不具合が生じるのを防止することが可能になる。
【0009】
剛性を落とさずして強度を維持するためには、それぞれの断面が、略同一断面積であるものが好適である。
【0010】
【実施例】
以下、本発明の一実施例を、図面を参照して説明する。
図1に示すクランク軸100は、例えば鍛造製の3気筒エンジンのもので、気筒毎に対をなすクランクアーム1と、それぞれのクランクアーム1に一体に形成されるカウンタウエイト2と、クランクアーム1を連結するクランクピン3と、隣接するクランクアーム1を連結するクランクジャーナル4とを備えている。この実施例においては、3気筒エンジンにおける第1気筒に対するクランクアーム1の第2クランクアーム12に連続する第2カウンタウエイト22の、第1クランクアーム11に連続する第1カウンタウエイト21と対向する面22a、及び第3気筒に対するそれぞれのカウンタウエイト2の対向するそれぞれの面25a、26aには、クランクジャーナル4の軸心を中心として肉盗み部6が設けてある。なお、潤滑油を循環させるための内部の潤滑油経路Pについては、この分野で広く知られている構成と同じであってよい。
【0011】
肉盗み部6は、クランクアーム1の厚み方向において連結するクランクジャーナル4方向に肉厚が薄くしてあるとともに、図2に示すように、クランクジャーナル4軸心方向から見た場合に、クランクジャーナル4の軸心を中心としてクランクアーム1の幅が狭くなるように対称に形成してある。すなわち、この肉盗み部6の形状は、クランクピン3に垂直にかかる力により撓む際に応力が集中するクランクジャーナル側隅部4aとクランクピン側隅部3aとの間及びクランクジャーナル側隅部4aと肉盗み部側隅部6aとの間のクランクアーム1に生じる曲げ応力の集中するそれぞれの断面にかかる曲げ応力が略等しくなるように設定するものである。なお、図2においては、第2気筒及び第3気筒のためのクランクアーム1やカウンタウエイト2等については、図示を省略している。
【0012】
以上のように肉盗み部6を形成することにより、図3に示すように、クランクジャーナル側隅部4aとクランクピン側隅部3aとの間の第2クランクアーム12に第1断面7を、また、クランクジャーナル側隅部4aと肉盗み部側隅部6aとの間の第2クランクアーム12に第2断面8をそれぞれ想定する。第1断面7は、図4に示す形状をしており、その断面積は、この断面部分における第2クランクアーム12の幅と厚みとで決定される。また第2断面8は、図5に示す形状をしており、第1断面7とは形状は異なるが、同様にこの断面部分における第2クランクアーム12の幅と厚みとで決定され、第1断面7の断面積と略等しい断面積である。図5において、想像線で示すように、従来のクランク軸のクランクアームの同位置における断面形状と比較した場合、クランクジャーナル4の軸心に対応する部分の厚みは同一だが、それ以外の部分においては、肉盗み部6により第2カウンタウエイト22の厚みが薄くなっているものである。
【0013】
このような第1及び第2断面7、8はそれぞれ、第1断面7の幅をU1、第1断面7の厚さをh1、第2断面8の幅をU2、第2断面8の厚さをh2とした場合、以下の式で示される断面係数Z1,Z2を有している。
Z1=U1×h1 2/6 (1)
Z2=U2×h2 2/6 (2)
【0014】
第1及び第2断面7、8には、図1の状態において、クランクピン3に上方から外力Fが加わると、次に示す式による曲げ応力σ1及びσ2が加わる。
M1=F×a1 (3)
M2=F×a2 (4)
σ1=M1/Z1=F×a1/Z1 (5)
σ2=M2/Z2=F×a2/Z2 (6)
ただし、M1,M2は、曲げモーメント、a1は、隣接するクランクジャーナル4の軸心方向の中点から第1断面7の中点までの距離、a2は、隣接するクランクジャーナル4の軸心方向の中点から第2断面8の中点までの距離である。
【0015】
このように、第1及び第2断面7、8に加わる曲げ応力σ1及びσ2が略等しくなるように、肉盗み部6形状を設定する。この場合、第1断面7の幅U1と第2断面8の幅U2とは等しいので、式(1)、(2)、(5)及び(6)より、第1断面7の厚さh1、第2断面8の厚さh2、距離a1及び距離a2が次の式の関係になるように設定する。
σ1≒σ2
F×a1/Z1≒F×a2/Z2
a1/Z1≒a2/Z2
a1×6/U1×h1 2≒a2×6/U2×h2 2
a1/h1 2≒a2/h2 2 (7)
【0016】
このように、隣接するクランクジャーナル4の軸心方向の中点から第1断面7の中点までの距離a1、隣接するクランクジャーナル4の軸心方向の中点から第2断面8の中点までの距離a2、第1断面7の厚さh1及び第2断面8の厚さh2を調整して、上記式(7)が成立するように肉盗み部6の形状を設定することにより、第1断面7及び第2断面8に加わる曲げ応力σ1,σ2を等しくすることができる。この結果、図6に示すように、第2クランクアーム12における応力分布は、クランクピン側隅部3a及び肉盗み部側隅部6aを中心に、第1断面7に集中することなく広く分散して、第1断面7と第2断面8との周囲に広く分散したものとなる。つまり、応力の分布は、クランクピン側隅部3a及び肉盗み部側隅部6aにおいて集中するものの、これら隅部3a,6aを取り囲むように応力の集中の小さな領域R1が存在するものとなる。このように、肉盗み部6を所定条件の基に所定形状に形成することにより、第1断面7及び第2断面8のいずれにも曲げ応力が集中することがない。
【0017】
したがって、肉盗み部6がない場合に第1断面7に集中していた曲げ応力を第2断面8に分散させることができるので、いわゆる危険断面である第1断面7に曲げ応力が集中することを防止することができ、クランク軸100に不具合が生じるのを未然に防ぐことができる。また、肉盗み部6を形成することにより、軽量化することができるとともに、剛性を落とすことなく強度を高めることができ、クランク軸100に要求される各種の性能を向上させることができる。
【0018】
なお、本発明は以上に説明した実施例に限定されるものではない。
上記実施例においては、第1気筒及び第3気筒に対するカウンタウエイトに肉盗み部を設けるものを説明したが、これに限定されるものではなく、バランスを考慮して各気筒に対するカウンタウエイトに適宜設けるものであってもよい。
その他、各部の構成は図示例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【0019】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、肉盗み部に隣接するクランクジャーナルの軸心方向の中点からそれぞれの断面の中点までの軸心方向のそれぞれの距離とそれぞれの断面の厚さとが、それぞれの距離が大きくなるに伴いそれぞれの断面の厚さが厚くなる関係を維持してカウンタウエイトに肉盗み部を形成することにより、爆発工程においてクランクピンに垂直に力がかかれば、その力により生じた曲げ応力を、クランクジャーナル側隅部とクランクピン側隅部との間及びクランクジャーナル側隅部と肉盗み部側隅部との間のそれぞれの断面に分散させて、略等しく加わるようにすることができる。このように、クランクアームに生じた応力が、肉盗み部を形成することにより形成される断面にも加われば、クランクジャーナル側隅部とクランクピン側隅部との間に存在する断面にのみ集中することがなく、よって一つの断面に曲げ応力が集中することを防止することができる。したがって、肉盗み部により軽量化を図ることができるとともに、剛性を落とさずして強度を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例を示す正面図。
【図2】図1における一部を省略して示すA−A線断面図。
【図3】同実施例の第2カウンタウエイト部分を拡大して示す要部正面図。
【図4】同実施例の第1断面の形状を示す端面図。
【図5】同実施例の第2断面の形状を示す端面図。
【図6】同実施例の曲げ応力の分布状態を示す応力分布図。
【図7】従来例の曲げ応力の分布状態を示す応力分布図。
【符号の説明】
1…クランクアーム
2…カウンタウエイト
3…クランクピン
3a…クランクピン側隅部
4…クランクジャーナル
4a…クランクジャーナル側隅部
6…肉盗み部
6a…肉盗み部側隅部
7…第1断面
8…第2断面
Claims (2)
- クランクピンにより連結される対をなすクランクアームに連続するカウンタウエイトの対向する面の少なくとも一方の面に肉盗み部を有してなり、クランクピンに垂直にかかる力により撓む際に応力が集中するクランクジャーナル側隅部とクランクピン側隅部との間及びクランクジャーナル側隅部と肉盗み部側隅部との間のクランクアームに生じる曲げ応力の集中するそれぞれの断面にかかる曲げ応力が略等しくなるように、肉盗み部に隣接するクランクジャーナルの軸心方向の中点から前記それぞれの断面の中点までの前記軸心方向のそれぞれの距離と前記それぞれの断面の厚さとが、前記それぞれの距離が大きくなるに伴い前記それぞれの断面の厚さが厚くなる関係を維持してカウンタウエイトに肉盗み部形状を設定することを特徴とする内燃機関のクランク軸。
- それぞれの断面が、略同一断面積であることを特徴とする請求項1記載の内燃機関のクランク軸。
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