以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
本実施形態のタイヤの振動性能評価方法(以下、単に「評価方法」ということがある)は、タイヤの振動性能を、コンピュータを用いて評価するためのものである。本実施形態の評価方法では、予め定義された互いに異なる少なくとも2つの条件に基づいて、タイヤモデルを路面モデル上で転動させて振動に関する物理量を計算し、それぞれの条件についての物理量の差分に基づいて、振動性能を評価している。
本実施形態の条件としては、第1路面モデルでタイヤモデルを転動させる第1条件と、第1路面モデルとは路面状態が異なる第2路面モデルでタイヤモデルを転動させる第2条件とを含んでいる。
図1は、本実施形態の評価方法が実施されるコンピュータ1の一例を示すブロック図である。本実施形態のコンピュータ1は、入力デバイスとしての入力部11、出力デバイスとしての出力部12、及び、タイヤの物理量等を計算する演算処理装置13を有し、タイヤの振動性能を評価するタイヤのシミュレーション装置1Aとして構成されている。
入力部11は、例えば、キーボード又はマウス等が用いられる。出力部12は、例えば、ディスプレイ装置又はプリンタ等が用いられる。演算処理装置13は、各種の演算を行う演算部(CPU)13A、データやプログラム等が記憶される記憶部13B、及び、作業用メモリ13Cが含まれている。
記憶部13Bは、例えば、磁気ディスク、光ディスク又はSSD等からなる不揮発性の情報記憶装置である。記憶部13Bには、データ部15及びプログラム部16が設けられている。
データ部15は、評価対象のタイヤや路面に関する情報(例えば、CADデータ等)が記憶される初期データ部15A、タイヤモデルが入力されるタイヤモデル入力部15B、及び、路面モデルが入力される路面モデル入力部15Cが含まれている。さらに、データ部15は、シミュレーションの境界条件が入力される境界条件入力部15D、及び、演算部13Aが計算した物理量が入力される物理量入力部15Eが含まれている。
プログラム部16は、演算部13Aによって実行されるプログラムである。プログラム部16には、タイヤモデルを設定するタイヤモデル設定部16Aと、路面モデルを設定する路面モデル設定部16Bと、タイヤモデルの内圧充填後の形状を計算する内圧充填計算部16Cと、内圧充填後のタイヤモデルに荷重を定義する荷重負荷計算部16Dとが含まれている。さらに、プログラム部16は、路面モデル上を転動するタイヤモデルを計算する転動計算部16Eと、振動に関する物理量を計算する物理量計算部16Fと、物理量の差分を計算する差分計算部16Gと、差分を可視化する差分可視化部16Hとを含んで構成されている。
図2は、本実施形態の評価方法によって振動性能が評価されるタイヤ2の一例を示す断面図である。本実施形態のタイヤ2は、トレッド部2aからサイドウォール部2bを経てビード部2cのビードコア5に至るカーカス6と、このカーカス6のタイヤ半径方向外側かつトレッド部2aの内部に配されるベルト層7とが設けられている。
図2に示されるように、カーカス6は、少なくとも1枚以上、本実施形態では1枚のカーカスプライ6Aで構成される。このカーカスプライ6Aは、トレッド部2aからサイドウォール部2bを経てビード部2cのビードコア5に至る本体部6aと、この本体部6aに連なりビードコア5の廻りをタイヤ軸方向内側から外側に折り返された折返し部6bとが含まれる。本体部6aと折返し部6bとの間には、ビードコア5からタイヤ半径方向外側にのびるビードエーペックスゴム8が配される。また、カーカスプライ6Aは、タイヤ赤道Cに対して、例えば75〜90度の角度で配列されたカーカスコード(図示省略)が含まれる。
ベルト層7は、ベルトコードを、タイヤ周方向に対して例えば10〜35度の角度で傾けて配列した内、外2枚のベルトプライ7A、7Bを含んで構成されている。これらのベルトプライ7A、7Bは、ベルトコードが互いに交差する向きに重ね合わせて構成される。
図3は、本実施形態の評価方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。本実施形態の評価方法では、先ず、コンピュータ1に、図2に示したタイヤ2をモデル化した少なくとも一つのタイヤモデルが入力される(工程S1)。
工程S1では、先ず、図1に示されるように、初期データ部15Aに記憶されているタイヤ2(図2に示す)に関する情報(例えば、タイヤ2の輪郭データ等)が、作業用メモリ13Cに入力される。さらに、タイヤモデル設定部16Aが、作業用メモリ13Cに読み込まれる。そして、タイヤモデル設定部16Aが、演算部13Aによって実行される。図4は、本実施形態のタイヤモデルの一例を示す断面図である。
工程S1では、タイヤ2(図2に示す)に関する情報に基づいて、数値解析法により取り扱い可能な有限個の要素F(i)(i=1、2、…)を用いて離散化している。これにより、タイヤ2がモデル化されたタイヤモデル21が設定される。タイヤモデル21には、カーカスプライ6A(図2に示す)をモデル化したカーカスプライモデル22、及び、ベルトプライ7A、7B(図2に示す)をモデル化したベルトプライモデル23を含んでいる。数値解析法としては、例えば有限要素法、有限体積法、差分法又は境界要素法が適宜採用できるが、本実施形態では有限要素法が採用されている。
要素F(i)としては、例えば、4面体ソリッド要素、5面体ソリッド要素、又は、6面体ソリッド要素などが用いられるのが望ましい。各要素F(i)には、複数個の節点25が設けられる。このような各要素F(i)には、要素番号、節点25の番号、節点25の座標値及び材料特性(例えば密度、ヤング率及び/又は減衰係数等)などの数値データが定義される。タイヤモデル21は、タイヤモデル入力部15B(図1に示す)に記憶される。
次に、本実施形態の評価方法では、コンピュータ1に、路面をモデル化した少なくとも一つの路面モデルが入力される(路面モデル入力工程S2)。路面モデル入力工程S2では、先ず、図1に示した初期データ部15Aに記憶されている路面に関する情報が、作業用メモリ13Cに入力される。さらに、路面モデル設定部16Bが、作業用メモリ13Cに読み込まれる。そして、路面モデル設定部16Bが、演算部13Aによって実行される。
本実施形態の路面モデル入力工程S2は、第1路面モデルと、第2路面モデルとが入力される。上述したように、第1路面モデルと第2路面モデルとは、路面状態が異なるものである。本実施形態では、第1路面モデルの表面と、第2路面モデルの表面とが、互いに異なる平滑度に設定されている。さらに、本実施形態では、第1路面モデル26の表面が、第2路面モデル27の表面よりも平滑度が高く設定されている。図5は、路面モデル入力工程S2の処理手順の一例を示すフローチャートである。
本実施形態の路面モデル入力工程S2は、先ず、第1路面モデルが入力される(工程S21)。図6は、タイヤモデル21及び第1路面モデル26の一例を示す斜視図である。工程S21では、路面に関する情報に基づいて、数値解析法(本実施形態では、有限要素法)により取り扱い可能な有限個の要素G(i)(i=1、2、…)を用いて離散化している。これにより、工程S21では、第1路面モデル26が設定される。本実施形態の第1路面モデル26は、凹凸のない平滑な表面を有している。なお、第1路面モデル26は、その表面が第2路面モデル27の表面よりも平滑度が高く設定されていれば、凹凸を有していてもよい。
要素G(i)は、変形不能に設定された剛平面要素として設定される。この要素G(i)には、複数の節点28が設けられる。さらに、要素G(i)は、要素番号や、節点28の座標値等の数値データが定義される。第1路面モデル26は、路面モデル入力部15C(図1に示す)に記憶される。
次に、本実施形態の路面モデル入力工程S2は、第2路面モデルが入力される(工程S22)。図7は、タイヤモデル21及び第2路面モデル27の一例を示す斜視図である。工程S22では、路面に関する情報に基づいて、有限個の要素G(i)(i=1、2、…)を用いて離散化している。これにより、工程S22では、第2路面モデル27が設定される。
本実施形態の第2路面モデル27は、第1路面モデル26とは異なり、凹凸29を有する表面を有している。凹凸の大きさは、例えば、アスファルト路面のような微小凹凸、不規則な段差、窪み、うねり、又は、轍等の実走行路面に近似させるのが望ましい。第2路面モデル27は、路面モデル入力部15C(図1に示す)に記憶される。
次に、本実施形態の評価方法では、図3に示されるように、コンピュータ1が、タイヤモデル21(図6及び図7に示す)を路面モデル上で転動させ、タイヤモデル21から振動に関する物理量を計算する(物理量計算工程S3)。
物理量計算工程S3では、上述した少なくとも2つの条件(本実施形態では、第1条件及び第2条件)について、タイヤモデル21から振動に関する物理量が計算される。即ち、本実施形態の物理量計算工程S3では、タイヤモデル21を第1路面モデル26(図6に示す)上で転動させて得られる第1物理量と、タイヤモデル21を第2路面モデル27(図7に示す)上で転動させて得られる第2物理量とが計算される。図8は、物理量計算工程S3の処理手順の一例を示すフローチャートである。
本実施形態の物理量計算工程S3は、先ず、タイヤモデル21に境界条件が定義される(工程S31)。図6及び図7に示されるように、境界条件としては、例えば、タイヤモデル21の内圧、荷重T、キャンバー角、及び、タイヤモデル21と路面モデル(第1路面モデル26及び第2路面モデル27)との摩擦係数等が設定される。
さらに、境界条件としては、例えば、タイヤモデル21の走行速度Vに対応する角速度V1、及び、走行速度Vに対応する路面モデル(第1路面モデル26及び第2路面モデル27)の角速度(図示省略)が設定される。これらの境界条件は、境界条件入力部15D(図1に示す)に記憶される。
次に、本実施形態の物理量計算工程S3は、図8に示されるように、タイヤモデル21(図5に示す)の内圧充填後の形状が計算される(工程S32)。工程S32では、図1に示されるように、タイヤモデル入力部15Bに記憶されているタイヤモデル21、及び、境界条件入力部15Dに記憶されている内圧が、作業用メモリ13Cに読み込まれる。さらに、内圧充填計算部16Cが、作業用メモリ13Cに読み込まれる。そして、内圧充填計算部16Cが、演算部13Aによって実行される。
工程S32では、先ず、図4に示されるように、タイヤ2のリム9(図2に示す)がモデル化されたリムモデル31によって、タイヤモデル21のビード部21c、21cが拘束される。リムモデル31は、例えば、第1路面モデル26(図6に示す)及び第2路面モデル27(図7に示す)と同様に、剛平面要素(図示省略)によって構成されている。
次に、工程S32では、内圧に相当する等分布荷重wに基づいて、タイヤモデル21の変形が計算される。これにより、工程S32では、内圧充填後のタイヤモデル21が計算される。内圧としては、例えば、タイヤ2(図2に示す)が基づいている規格を含む規格体系において、各規格が定めている空気圧が設定されるのが望ましい。
タイヤモデル21の変形計算は、各要素F(i)の形状及び材料特性などをもとに、各要素F(i)の質量マトリックス、剛性マトリックス、及び、減衰マトリックスがそれぞれ作成される。さらに、これらの各マトリックスが組み合わされて、全体の系のマトリックスが作成される。そして、コンピュータ1が、前記各種の条件を当てはめて運動方程式を作成し、これらを微小時間(単位時間Tx(x=0、1、…))ごとにタイヤモデル21の変形計算を行う。このようなタイヤモデル21の変形計算(後述する転動計算を含む)は、例えば、LSTC社製の LS-DYNA などの市販の有限要素解析アプリケーションソフトを用いて計算されうる。なお、単位時間Txについては、求められるシミュレーション精度によって、適宜設定されうる。
次に、本実施形態の物理量計算工程S3は、タイヤモデル21を第1路面モデル26上で転動させて得られる第1物理量が計算される(第1物理量計算工程S33)。図9は、第1物理量計算工程S33の一例を示すフローチャートである。
本実施形態の第1物理量計算工程S33では、先ず、図6に示されるように、第1路面モデル26に対して荷重が定義されたタイヤモデル21が計算される(工程S331)。工程S331では、図1に示されるように、境界条件入力部15Dに記憶されている荷重T、キャンバー角、及び、摩擦係数が、作業用メモリ13Cに読み込まれる。さらに、工程S331では、荷重負荷計算部16Dが、作業用メモリ13Cに読み込まれる。そして、荷重負荷計算部16Dが、演算部13Aによって実行される。
工程S331では、先ず、図6に示されるように、内圧充填後のタイヤモデル21と、第1路面モデル26との接触が計算される。次に、工程S331では、荷重T、キャンバー角(図示省略)、及び、摩擦係数に基づいて、タイヤモデル21の変形が計算される。これにより、工程S331では、第1路面モデル26に接地したタイヤモデル21が計算される。
次に、本実施形態の第1物理量計算工程S33では、図6及び図9に示されるように、第1路面モデル26上で転動するタイヤモデル21が計算される(工程S332)。工程S332では、図1に示されるように、境界条件入力部15Dに記憶されているタイヤモデル21の角速度V1及び第1路面モデル26の角速度(図示省略)が、作業用メモリ13Cに読み込まれる。さらに、工程S332では、転動するタイヤモデル21を計算する転動計算部16Eが、作業用メモリ13Cに読み込まれる。そして、転動計算部16Eが、演算部13Aによって実行される。
図6に示されるように、工程S332では、先ず、タイヤモデル21に角速度V1が設定される。次に、工程S332では、第1路面モデル26に角速度(図示省略)が設定される。これにより、第1路面モデル26の上を走行速度Vで転動するタイヤモデル21が、単位時間毎に計算される。
さらに、工程S332では、タイヤモデル21を構成する各要素F(i)の節点25(図4に示す)において、例えば、節点25の変位、速度、振動加速度、応力又はひずみ等の物理量が、単位時間毎に計算される。本実施形態では、上記物理量のうち、少なくとも振動加速度が、物理量入力部15E(図1に示す)に入力される。
次に、本実施形態の第1物理量計算工程S33では、図6及び図9に示されるように、予め定められた転動終了時間が経過したか否かが判断される(工程S333)。転動終了時間については、求められるシミュレーションの精度、及び、コンピュータ1の性能等に応じて、適宜設定されうる。
工程S333において、転動終了時間が経過したと判断された場合(工程S333において、「Y」)、次の工程S334が実施される。他方、転動終了時間が終了していないと判断された場合(工程S333において、「N」)、単位時間を一つ進めて(工程S335)、工程S332及び工程S333が再度実施される。これにより、第1物理量計算工程S33では、タイヤモデル21が第1路面モデル26を転動したときの各節点25(図4に示す)の振動加速度の時系列データを得ることができる。図10は、第1路面モデル26での振動加速度の時系列データ(即ち、振動加速度と、時間との関係)の一例を示すグラフである。なお、図10のグラフは、図4に示したカーカスプライモデル22を構成する要素F(i)の第1節点25Aでの振動加速度の時系列データが代表して示されている。
次に、本実施形態の第1物理量計算工程S33では、図9に示されるように、タイヤモデル21の転動時の振動加速度の時系列データ(図10に示す)に基づいて、第1物理量が計算される(工程S334)。工程S334では、図1に示されるように、物理量入力部15Eに入力されている振動加速度の時系列データ(図10に示す)が、作業用メモリ13Cに読み込まれる。さらに、工程S334では、物理量計算部16Fが、作業用メモリ13Cに読み込まれる。そして、物理量計算部16Fが、演算部13Aによって実行される。
工程S334では、第1路面モデル26での振動加速度の時系列データ(図10に示す)が周波数分析(FFT処理)される。これにより、工程S334では、第1物理量として、振動加速度の時系列データの周波数分析値が求められる。図11は、第1路面モデル26での第1物理量(即ち、振動加速度と周波数との関係)の一例を示すグラフである。なお、図11のグラフは、図4に示したカーカスプライモデル22を構成する要素F(i)の第1節点25Aでの振動加速度の時系列データが代表して示されている。
さらに、本実施形態では、図11に示した第1物理量が、1/3オクターブ分析される。これにより、振動加速度を周波数帯域毎に求めることができる。図12は、1/3オクターブ分析した第1物理量32及び後述の第2物理量の一例を示すグラフである。図12のグラフは、図4に示したカーカスプライモデル22の第1節点25Aでの第1物理量及び第2物理量が代表して示されている。第1物理量32は、物理量入力部15E(図1に示す)に入力される。
図8に示されるように、本実施形態の物理量計算工程S3は、図7に示したタイヤモデル21を第2路面モデル27上で転動させて得られる第2物理量が計算される(第2物理量計算工程S34)。図13は、第2物理量計算工程S34の一例を示すフローチャートである。
本実施形態の第2物理量計算工程S34では、先ず、図7及び図13に示されるように、第2路面モデル27に対して荷重が定義されたタイヤモデル21が計算される(工程S341)。工程S341では、図1に示されるように、境界条件入力部15Dに記憶されている荷重T、キャンバー角及び摩擦係数が、作業用メモリ13Cに読み込まれる。本実施形態の荷重T、キャンバー角及び摩擦係数は、第1物理量計算工程S33の荷重T、キャンバー角及び摩擦係数と、それぞれ同一に設定されている。さらに、工程S341では、荷重負荷計算部16Dが、作業用メモリ13Cに読み込まれる。そして、荷重負荷計算部16Dが、演算部13Aによって実行される。
工程S341は、第1物理量計算工程S33の工程S331(図9に示す)と同一の処理手順で行われる。これにより、工程S341では、図7に示されるように、第2路面モデル27に接地したタイヤモデル21が計算される。
次に、本実施形態の第2物理量計算工程S34では、図7及び図13に示されるように、第2路面モデル27上で転動するタイヤモデル21が計算される(工程S342)。工程S342では、先ず、図1に示されるように、境界条件入力部15Dに記憶されているタイヤモデル21の角速度V1及び第2路面モデル27の角速度(図示省略)が、作業用メモリ13Cに読み込まれる。工程S342でのタイヤモデル21の角速度V1及び第2路面モデル27の角速度は、第1物理量計算工程S33でのタイヤモデル21の角速度V1及び第1路面モデル26の角速度(図示省略)と同一に設定されている。さらに、工程S342では、転動するタイヤモデル21を計算する転動計算部16Eが、作業用メモリ13Cに読み込まれる。そして、転動計算部16Eが、演算部13Aによって実行される。
工程S342は、第1物理量計算工程S33の工程S332(図9に示す)と同一の処理手順で行われる。これにより、工程S342では、図7に示されるように、第2路面モデル27の上を走行速度Vで転動するタイヤモデル21が計算される。
さらに、工程S342では、タイヤモデル21を構成する各要素F(i)の節点25(図4に示す)において、例えば、節点25の変位、速度、振動加速度、応力又はひずみ等の物理量が、単位時間毎に計算される。本実施形態では、上記物理量のうち、少なくとも振動加速度が、物理量入力部15E(図1に示す)に入力される。
次に、本実施形態の第2物理量計算工程S34では、図13に示されるように、予め定められた転動終了時間が経過したか否かが判断される(工程S343)。転動終了時間については、求められるシミュレーションの精度、及び、コンピュータ1の性能等に応じて、適宜設定されうる。本実施形態の転動終了時間は、第1物理量計算工程S33(図9に示す)の転動終了時間と同一範囲が望ましい。
工程S343において、転動終了時間が経過したと判断された場合(工程S343において、「Y」)、次の工程S344が実施される。他方、転動終了時間が終了していないと判断された場合(工程S343において、「N」)、単位時間を一つ進めて(工程S345)、工程S342及び工程S343が再度実施される。これにより、第2物理量計算工程S34では、タイヤモデル21が第2路面モデル27を転動したときの各節点25の振動加速度の時系列データ(図示省略)を得ることができる。
次に、本実施形態の第2物理量計算工程S34では、図7及び図13に示されるように、タイヤモデル21の転動時の振動加速度の時系列データ(図示省略)に基づいて、第2物理量が計算される(工程S344)。工程S344では、図1に示されるように、物理量入力部15Eに入力されている振動加速度の時系列データが、作業用メモリ13Cに読み込まれる。さらに、工程S344では、物理量計算部16Fが、作業用メモリ13Cに読み込まれる。そして、物理量計算部16Fが、演算部13Aによって実行される。
工程S344では、第2路面モデル27での振動加速度の時系列データ(図示省略)が周波数分析(FFT処理)される。これにより、工程S344では、第2物理量として、振動加速度の時系列データの周波数分析値(図示省略)が求められる。さらに、本実施形態では、第2物理量が、1/3オクターブ分析される。これにより、振動加速度を周波数帯域毎に求めることができる。図12には、1/3オクターブ分析した第2物理量のグラフが示されている。第2物理量は、物理量入力部15E(図1に示す)に入力される。
次に、本実施形態の物理量計算工程S3では、図8及び図13に示されるように、コンピュータ1が、それぞれの条件(本実施形態では、第1条件及び第2条件)についての物理量の差分が計算される(工程S35)。工程S35では、図1に示されるように、物理量入力部15Eに入力されている第1物理量及び第2物理量が、作業用メモリ13Cに読み込まれる。さらに、工程S35では、差分計算部16Gが、作業用メモリ13Cに読み込まれる。そして、差分計算部16Gが、演算部13Aによって実行される。
工程S35では、第1物理量32と第2物理量33との差分が計算される。本実施形態では、図12に示した第1路面モデル26での第1物理量32の振動加速度と、第2路面モデル27での第2物理量33の振動加速度との差分ΔAが、周波数帯域毎に計算される。なお、図12に示した差分ΔAは、第1物理量32及び第2物理量33が計算される要素F(i)毎(本実施形態では、節点25毎)に計算される。差分ΔAは、物理量入力部15E(図1に示す)に入力される。
このような差分ΔAは、一方の条件によって生じた振動(本実施形態では、第2物理量33での振動加速度)から、他方の条件による振動への影響(本実施形態では、第1物理量32での振動加速度)を除去した物理量である。
差分ΔAが相対的に大きい周波数帯域では、第2路面モデル27の転動時の振動が、第1路面モデル26の転動時の振動に比べて相対的に大きくなることを示している。他方、差分ΔAが相対的に小さい周波数帯域では、第2路面モデル27の転動時の振動と、第1路面モデル26の転動時の振動との間に、大きな差がないことを示している。
従って、差分ΔAは、一方の条件(本実施形態では、第2路面モデル27でタイヤモデル21を転動させる第2条件)に特有の振動に関する物理量として求められる。従って、本実施形態では、差分ΔAに基づいて、特定の条件(本実施形態では、第2条件)に起因する振動性能を評価することができる。
なお、上記差分ΔAは、タイヤモデル21に設定される多数の節点25(図4に示す)毎に計算されるため、差分ΔAが大きい部分を一見して把握するのが難しい。このため、本実施形態の物理量計算工程S3では、図8に示されるように、コンピュータ1が、差分ΔAを可視化する工程S36が行われている。
工程S36では、図1に示されるように、物理量入力部15Eに入力されている差分(図12に示す)が、作業用メモリ13Cに読み込まれる。さらに、工程S36では、差分可視化部16Hが、作業用メモリ13Cに読み込まれる。そして、差分可視化部16Hが、演算部13Aによって実行される。
本実施形態の工程S36では、図12に示した周波数帯域毎の差分ΔAのうち、評価対象の周波数帯域(例えば、160Hz帯域)での差分ΔAが、節点25(図4に示す)毎に抽出される。そして、工程S36では、各節点25の差分ΔA、及び、各節点25の差分ΔAから補間された差分に基づいて、同一範囲の差分ΔA毎に異なる色情報が設定されるコンター図が作成される。コンター図は、例えば、汎用のポストプロセッサ( LSTC 社製の LS-PrePost など)を用いて求めることができる。図14は、カーカスプライモデル22の差分ΔAの一例を示すコンター図である。なお、コンター図は、異なる周波数帯域おいて作成されてもよい。
このように、本実施形態の評価方法では、タイヤモデル21(本実施形態では、カーカスプライモデル22)において、差分ΔAが可視化されるため、差分ΔAが大きい部分を一見して把握することができる。これにより、本実施形態の評価方法では、タイヤの振動性能を容易に評価することができる。
次に、本実施形態の評価方法では、図3に示されるように、コンピュータ1が、振動に関する物理量が、許容範囲内であるか否かを判断する(工程S4)。本実施形態の振動に関する物理量としては、物理量計算工程S3の工程S35で求められた差分ΔA(図12に示す)が用いられる。また、許容範囲については、評価されるタイヤモデル21の構造等に応じて、適宜設定される。
工程S4において、差分ΔAが許容範囲内であると判断された場合(工程S4で、「Y」)、タイヤモデル21に基づいて、タイヤ2が製造される(工程S5)。他方、差分ΔAが許容範囲内でないと判断された場合(工程S4で、「N」)、タイヤ2の設計因子が変更され(工程S6)、工程S1〜工程S4が再度実施される。このように、本実施形態の評価方法は、振動性能が良好なタイヤ2が確実に設計されうる。
これまでの実施形態の物理量計算工程S3は、表面の平滑度が異なる第1路面モデル26(図6に示す)及び第2路面モデル27(図7に示す)上を転動させて、第1物理量及び第2物理量が計算される態様が例示されたが、このような態様に限定されるわけではない。タイヤモデル21を路面モデル上で転動させる条件が互いに異なるものであれば適宜設定することができる。一例としては、走行速度、荷重、又は、タイヤモデル21の構造等を互いに異ならせて、第1物理量及び第2物理量が計算されてもよい。
なお、走行速度を互いに異ならせる場合は、物理量計算工程S3において、タイヤモデル21を第1走行速度で転動させて得られる第1物理量と、タイヤモデル21を第1走行速度よりも大きい第2走行速度で転動させて得られる第2物理量とが計算される。この場合、第1物理量及び第2物理量を計算する工程では、同一のタイヤモデル21、及び、同一の路面モデル(図示省略)が用いられる。そして、第1物理量及び第2物理量の差分が求められることにより、第2走行速度に起因する振動性能を評価することができる。
また、タイヤモデル21の構造(カーカスプライ6A等)を互いに異ならせる場合は、物理量計算工程S3において、予め定められた第1の構造を有するタイヤモデル(図示省略)を路面モデル(図示省略)上で転動させて得られる第1物理量と、第1の構造とは異なる第2の構造を有するタイヤモデル(図示省略)を路面モデル(図示省略)上で転動させて得られる第2物理量とが計算される。この場合、第1物理量及び第2物理量を計算する工程では、同一の路面モデル(図示省略)が用いられる。そして、第1物理量及び第2物理量の差分が求められることにより、第2の構造に起因する振動性能を評価することができる。
これまでの実施形態では、振動に関する物理量として、各節点25の振動加速度の時系列データの周波数分析値である態様が例示されたが、このような態様に限定されない。例えば、各節点25のひずみエネルギーの時系列データの周波数分析値であってもよい。このような物理量も、特定の条件に起因する振動性能を評価することができる。
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
図3に示した処理手順に従って、図4に示したタイヤモデルが設定された(実施例、比較例1及び比較例2)。
実施例では、図5に示した処理手順に従って、図6に示した第1路面モデルと、図7に示した第2路面モデルとが設定された。そして、図8、図9及び図13に示した処理手順に従って、タイヤモデルを第1路面モデル上で転動させて得られる第1物理量と、タイヤモデルを第2路面モデル上で転動させて得られる第2物理量とが、タイヤモデルを構成する要素の節点毎に計算され、それらの差分が求められた。図14に、実施例のカーカスプライモデルの差分ΔAの一例を示すコンター図が示される。このコンター図に基づいて、カーカスプライの振動性能が評価された。
比較例1では、タイヤモデルを第2路面モデル上で転動させて得られる第2物理量に基づいて、カーカスプライの振動性能が評価された。比較例2では、図4に示したタイヤモデルを用いてモード解析(横曲モード)が実施され、カーカスプライの振動性能が評価された。
また、図2に示した基本構造を有するタイヤが製造されるとともに、凹凸のない平滑な表面を有する第1路面、及び、凹凸の表面を有する第2路面(本実施形態では、実路面を模擬したレプリカ路)が用意された(実験例)。そして、タイヤを第1路面上で転動させて得られる第1物理量と、タイヤを第2路面上で転動して得られる第2物理量とが測定され、それらの差分が求められた。なお、実験例の第1物理量及び第2物理量は、レーザードップラー振動計を用いて測定されたサイドウォール部の振動加速度の時系列データである。これらの第1物理量及び第2物理量の差分に基づいて、カーカスプライの振動性能が評価された。共通仕様は、次のとおりである。
タイヤサイズ:195/65R15
リムサイズ:15×6J
内圧230kPa
荷重:4.24kN
周波数帯域:160Hz
走行速度V:60km/h
テストの結果、実施例の評価方法では、第2物理量から第1物理量を除去できるため、第2路面モデルでタイヤモデルを転動させた特有の条件に起因する振動性能を、カーカスプライモデルを構成する要素の節点毎に評価することができた。また、実施例で評価されたカーカスプライの振動性能と、実験例で評価されたカーカスプライの振動性能とに相関があり、カーカスプライの振動性能を精度よく評価できることが確認できた。
比較例1では、第2物理量から第1物理量を除去できないため、第2路面モデルでタイヤモデルを転動させた特有の条件に起因する振動性能を評価できなかった。比較例2では、タイヤモデル全体が大きく変形しており、振動性能を評価することができなかった。