現在、スマートフォンの爆発的な普及に伴い、利便性の高いマイクロ波帯の周波数資源が枯渇の危機を迎えている。いわゆる第3世代の携帯電話から第4世代の携帯電話へ移行したり、新しい周波数帯の新規割り当てなども行われているが、サービスを望む事業者が多いことから、一つの事業者に割り当てられる周波数資源は限られている。この周波数資源の逼迫状態を解消するための技術として、マルチユーザMIMO(Multiple-Input Multiple-Output)技術が注目されている。
[マルチユーザMIMO技術について]
(マルチユーザMIMOの概要)
コヒーレント伝送や、フェーズドアレーアンテナ技術は、基本的に回線利得を改善する技術であり、広域のサービスエリアを一つの基地局装置でカバーする際の回線容量を増大させるためには、別の無線通信技術が必要となる。一方で周波数資源は限りがあるために、ここでは限られた資源を高い周波数利用効率で利用するための技術として、例えば非特許文献1にて検討されているマルチユーザMIMO技術について説明をする。
図11は、マルチユーザMIMOシステムの構成例を示す概略図である。同図に示すように、マルチユーザMIMOシステムは、基地局装置801と、端末装置802−1、802−2、802−3(端末装置#1〜#3)とを具備している。実際に一つの基地局装置801が収容する端末装置802の数は多数であるが、そのうちの数局を選び出し(同図では端末装置802−1〜802−3)、通信を行う。各端末装置802は、基地局装置801と比較して送受信アンテナ数が一般に少ない。以下では、基地局装置801から端末装置802への通信(ダウンリンク)を行う場合について説明する。
基地局装置801は、多数のアンテナ素子を用いて複数の指向性ビームを形成する。例えば、各端末装置802−1〜802−3に対してそれぞれ3つのMIMOチャネルを割り当て、全体として9系統の信号系列を送信する場合を考える。その際、端末装置802−1に対して送信する信号は、端末装置802−2及び端末装置802−3方向には指向性利得が極端に低くなるように(ヌルが形成されるように)調整し、この結果として端末装置802−2及び端末装置802−3への干渉を抑制する。同様に、端末装置802−2に対して送信する信号は、端末装置802−1及び端末装置802−3方向には指向性利得が極端に低くなるように調整する。同様の処理を端末装置802−3にも施す。このように指向性制御を行う理由は、例えば端末装置802−1においては、端末装置802−2及び端末装置802−3で受信した信号の情報を知る術がないため、端末装置802間での協調的な受信処理ができない。つまり、3本のアンテナしかない端末装置802−1のみの受信処理において、9系統の全ての信号系列を信号分離することは非常に厳しい。そこで、各端末装置802−1〜802−3には他の端末装置802の信号が受信されないように、送信側で干渉分離を事前に行う。以上が既存のマルチユーザMIMOシステムの概要である。
次に、指向性ビームの形成方法について説明する。ここでは、基地局装置801が9つのアンテナ素子を備え、各端末装置802−1〜802−3が3つのアンテナ素子を備える場合について説明する。例えば、図11において、基地局装置801の第j(j=1,…,9)のアンテナ素子と、端末装置802−1の第1のアンテナ素子との間のチャネル情報をh1jと表記する。基地局装置801の各アンテナ素子(j=1,…,9)と、端末装置802−1の第1のアンテナ素子とのチャネル情報を用いて行ベクトルh1を(h11,h12,h13,…,h18,h19)と表記する。同様に、基地局装置801の第jのアンテナ素子と、端末装置802−1の第2のアンテナ素子及び第3のアンテナ素子との間のチャネル情報をh2j及びh3jと表記し、対応する行ベクトルh2及びh3を(h21,h22,h23,…,h28,h29)及び(h31,h32,h33,…,h38,h39)と表記する。端末装置802−2及び端末装置802−3のアンテナ素子に対して同様の連番を付与し、行ベクトルh4〜h9を(h41,h42,h43,…,h48,h49)〜(h91,h92,h93,…,h98,h99)と表記する。
加えて、基地局装置801が送信する9系統の信号をt1〜t9と表記し、これを成分とする列ベクトルをTx[all]=(t1,t2,t3,…,t8,t9)Tと表記する。ここで、右肩のTの文字はベクトル、行列の転置を表す。また同様に、端末装置802−1〜802−3の9本のアンテナ素子での受信信号をr1〜r9と表記し、これを成分とする列ベクトルをRx[all]=(r1,r2,r3,…,r8,r9)Tと表記する。最後に、行ベクトルh1〜h9を第1から第9行成分とする行列を、全体チャネル行列H[all]と表記する。また、ノイズをnと表記する。
この場合、マルチユーザMIMOシステム全体として、次式(1)の関係が成り立つ。
これに対し送信指向性制御を行うため、9行9列の送信ウエイト行列Wを導入し、式(1)を次式(2)のように書き換える。
更に、送信ウエイト行列Wを列ベクトルw1〜w9に分解し、W=(w1,w2,w3,…,w8,w9)と表記すると、式(2)における「H[all]・W」を次式(3)のように表せる。
ここで、例えば6つの行ベクトルh4〜h9と、3つの列ベクトルw1〜w3との乗算(各成分の乗算したものの総和、複素ベクトルの場合は内積とは異なる)が全てゼロになるように、w1〜w3の値を選ぶことを考える。同時に、行ベクトルh1〜h3及びh7〜h9と列ベクトルw4〜w6との乗算、行ベクトルh1〜h6と列ベクトルw7〜w9との乗算が全てゼロになるように、w4〜w9の値を選ぶことにする。
すると、式(3)に示す9行9列の行列H[all]・Wは、3行3列の部分行列を用いて、次式(4)のように表すことができる。
式(4)において、H[1]、H[2]及びH[3]は3行3列の行列であり、「0」は成分が全てゼロの3行3列の行列である。このような条件を満たす変換行列を送信ウエイト行列Wに選択することで、式(4)は次式(5−1)〜式(5−3)で表される3つの関係式に分解できる。
ここで、Tx[1]=(t1,t2,t3)T、Tx[2]=(t4,t5,t6)T、Tx[3]=(t7,t8,t9)T、Rx[1]=(r1,r2,r3)T、Rx[2]=(r4,r5,r6)T、Rx[3]=(r7,r8,r9)Tとした。このようにして、一つの基地局装置が1対1でMIMO通信を行う、いわゆるシングルユーザMIMO通信が3系統、同時並行的に通信を行っている状態とみなすことができるようになる。
次に、送信ウエイトベクトルw1〜w9の決定方法の例を以下に説明する。手順としては、端末装置802−1に対する送信ウエイトベクトルw1〜w3を決定し、順次、端末装置802−2に対する送信ウエイトベクトルw4〜w6、端末装置802−3に対する送信ウエイトベクトルw7〜w9を決定する。
まず、第1ステップとして、端末装置802−2、802−3に対する6つの行ベクトルh4〜h9が張る6次元部分空間における6つの基底ベクトルe4〜e9を求める。求める方法は、グラムシュミットの直交化法の他、様々な方法があるが、ここでは例としてグラムシュミットの直交化法を例に説明する。
まず、一つの行ベクトルh4に着目し、この方向で絶対値が1のベクトルを基底ベクトルe4とする。基底ベクトルe4は次式(6)として表される。
式(6)における(h4h4 H)は同一ベクトルの絶対値の2乗を意味するスカラー量であり、この値の平方根での除算は行ベクトルh4を規格化することを意味する。また、「h4 H」は、行ベクトルh4に対するエルミート共役ベクトルであり、行と列を転置し且つ各成分の複素共役をとることで得られるベクトルである。
次に、行ベクトルh5に着目し、この行ベクトルの中から基底ベクトルe4方向の成分をキャンセルした行ベクトルh5’を求めた後、更に規格化する。行ベクトルh5’と基底ベクトルe5とは、次式(7−1)及び式(7−2)で表される。
式(7−1)における(h5e4 H)は、行ベクトルh5の基底ベクトルe4方向への射影を意味する。同様の処理を次式(8−1)及び次式(8−2)のように行う。
ここで、式(8−1)におけるΣの総和の範囲は、4≦i≦(j−1)(jは5〜9の整数)の整数iに対する総和となっている。つまり、既に確定した規定ベクトル方向の成分をキャンセルすることを意味する。このようにして、6つの基底ベクトルe4〜e9を求めることができる。
次に、第2ステップとして、端末装置802−1に対する送信ウエイトベクトルw1〜w3を求める。まず、行ベクトルh1〜h3から、基底ベクトルe4〜e9が張る6次元部分空間の成分をキャンセルする。具体的には、次式(9)で表される。
ここで、式(9)におけるjは1〜3の整数であり、Σの総和の範囲は4≦i≦9の整数iに対する総和となっている。このようにして求めた行ベクトルh1’〜h3’の3つのベクトルが張る3次元空間は上述の行ベクトルh4〜h9のいずれとも直交している。この3次元空間内の3つのベクトル(必ずしも直交ベクトルである必然性はない)を選び、そのベクトルの複素共役ベクトルを送信ウエイトベクトルw1〜w3として設定すれば、他の端末装置802−2、802−3への干渉を抑圧することができる。
なお、3つのベクトルの選び方は如何なる方法でも構わないが、例えば特異値分解を行って得られるユニタリー行列を構成する3つの直交ベクトルを用いれば、他の端末装置802に干渉を与えない部分空間内に限定された固有モード伝送が可能になり、効率的な伝送が可能になる。
最後に、第3ステップとして、これと同様の処理を端末装置802−2、端末装置802−3に対しても行えば、最終的に全体の送信ウエイトベクトルw1〜w9を求めることができる。
以上が送信ウエイト行列Wの求め方の例である。
図12は、マルチユーザMIMOシステムにおける送信ウエイト行列Wを算出する手順を示すフローチャートである。まず、送信ウエイト行列Wの算出にあたり、多重する全ての端末装置802へのチャネル行列Hを取得する(ステップS801)。宛先とする端末装置802に対して通し番号を付与し、その通し番号を示す変数をkとした場合、まずkを初期化する(ステップS802)。更に、kをカウントアップし(ステップS803)、現在のkが示す値に対応する端末装置802(#k)に対する部分チャネル行列(ここでは便宜上、Hmainと表記する。)を抽出し(ステップS804)、それ以外の宛先の端末装置802に対する部分チャネル行列(ここでは便宜上、Hsubと表記する。)を抽出する(ステップS805)。
更に、部分チャネル行列Hsubの各行ベクトルが張る部分空間の直交基底ベクトルを算出し、これを基底ベクトル{ej}と置く(ステップS806)。次に、式(9)に相当する処理として、着目している端末装置802(#k)に対する部分チャネル行列HmainからステップS806において求めた基底ベクトル{ej}に関する成分をキャンセルし、これを行列〜Hmainとする(ステップS807)。ここで、ステップS807において、「〜(チルダ)」が上に付されたHを「〜H」と表記する。以下、数式等においても同様に、「^(ハット)」などの記号が文字の上に付されている文字を表記する場合、当該記号を文字の前に表記する。
更に、行列〜Hmainの行ベクトルが張る部分空間の任意の直交基底ベクトルを算出し、これを基底ベクトル{ek}とする(ステップS808)。ここで、任意の基底ベクトルとは、例えば行列〜Hmainを特異値分解した際の右特異行列を構成するベクトルなどを選んでもよい。その後、基底ベクトル{ek}の各ベクトルのエルミート共役ベクトル(複素共役ベクトルを転置した列ベクトル)として、端末装置802(#k)の信号に関する送信ウエイトベクトル{wk}を決定する(ステップS809)。
ここで、全ての宛先の端末装置802の送信ウエイトベクトルを決定済みか否かを判定し(ステップS810)、残りの端末装置802があれば、ステップS803からステップS809までの処理を繰り返す。全ての端末装置802の送信ウエイトベクトルを決定済みであれば、送信ウエイトベクトル{wk}を各列ベクトルとする行列として送信ウエイト行列Wを決定し(ステップS811)、処理を終了する。
なお、チャネル情報は一般的には周波数成分ごとに異なるため、広帯域の信号、例えばOFDM(直交波周波数分割多重:Orthogonal Frequency Division Multiplexing)変調方式を用いた信号であれば、周波数成分ごと、すなわちサブキャリアごとに同様の送信ウエイト行列を算出することになる。またここでは、端末装置802−1〜802−3がそれぞれアンテナを3素子ずつ備えている場合について説明したため、ステップS808にて行列〜Hmainの各行ベクトルが張る部分空間の直交基底ベクトルを算出する処理を含んでいたが、端末装置が1本のアンテナのみを備える場合には、ステップS808は単に行列〜Hmainに相当する行ベクトルを規格化することに対応する。
以上は一般的なマルチユーザMIMOの送受信ウエイトの算出方法であり、端末装置側に複数のアンテナが備えられていることを想定し、全体のチャネル行列を式(4)に示したようにブロック対角化する方法である。しかし、同様の送受信ウエイトの算出法としては、その他にも幾つかのバリエーションがある。これらのバリエーションは必ずしも端末装置のアンテナが1本である必要はないが、以下の説明では簡単のために1本アンテナの端末装置がN台同時に空間多重する場合を想定した説明を行う。以下にその他の送受信ウエイトを算出する方法の説明を行う。
まず、基地局装置801の送受信ウエイトに関しては、式(1)等に示した全体のチャネル行列H[all]に対し、次式(10−1)及び(10−2)で表されるZF(Zero Forcing)型の擬似逆行列を算出し、これを送信ウエイト行列及び受信ウエイト行列として用いるようにしてもよい。
ここで、空間多重する端末装置数をN台、基地局装置801のアンテナ素子の数をK本(N<K)とすると、例えばダウンリンクを例にとればチャネル行列H[all]のサイズはN×K(N行K列)である。H[all]のランクがNであれば、全体行列H[all]・H[all]HのサイズはN×Nで逆行列が存在し、式(10−1)を用いて擬似逆行列を得ることができる。一般に、Nに対してKの値が十分冗長であれば、このN×Nの行列のランクは安定的にNとなり、逆行列が安定的に存在する。同様に、基地局装置801の受信に相当するアップリンクの受信ウエイトに関しては、全体チャネル行列H[all]のサイズはK×N(K行N列)であり、行列H[all]H・H[all]のサイズもN×Nとなり、一般には逆行列が存在し、次式(10−2)で表されるZF型の擬似逆行列を算出し、これを受信ウエイトとして用いるようにしてもよい。
なお、同様の送受信ウエイトとして知られているMMSE(Minimum Mean Square Error)ウエイトでは、雑音電力をσ2とすれば、次式(11−1)及び次式(11−2)を式(10−1)及び式(10−2)の代わりに用いてもよい。なお、式(11−1)及び式(11−2)における「I」はN×N(N行N列)の単位行列である。
(マルチユーザMIMOの装置構成例)
図13は、マルチユーザMIMOシステムにおける基地局装置80の構成の一例を示す概略ブロック図である。同図に示すように、基地局装置80は、送信部81、受信部85、インタフェース回路87、MAC(Medium Access Control)層処理回路88、及び通信制御回路820を備えている。MAC層処理回路88はスケジューリング処理回路881を有している。
基地局装置80は、インタフェース回路87を介して、外部機器ないしはネットワークとのデータの入出力を行う。インタフェース回路87は、入力されるデータのうち、無線回線上で転送すべきデータを検出し、検出したデータをMAC層処理回路88に出力する。MAC層処理回路88は、基地局装置80全体の動作の管理制御を行う通信制御回路820の指示に従い、MAC層に関する処理を行う。ここで、MAC層に関する処理には、インタフェース回路87で入出力されるデータと、無線回線上で送受信されるデータの変換、MAC層のヘッダ情報の付与などが含まれる。この処理の中で、スケジューリング処理回路881は、マルチユーザMIMO伝送において同時に空間多重を行う端末装置の組み合わせを含む各種スケジューリング処理を行う。スケジューリング処理回路881は、スケジューリング結果を通信制御回路820に出力する。マルチユーザMIMOでは、複数の端末装置宛に一度に信号を送信するため、複数系統の信号系列がMAC層処理回路88から送信部81に出力される。
図14は、マルチユーザMIMOシステムにおける基地局装置80における送信部81の構成の一例を示す概略ブロック図である。同図に示すように、送信部81は、送信信号処理回路811−1〜811−L(Lは2以上の整数)と、加算合成回路812−1〜812−K(Kは2以上の整数)と、IFFT(Inverse Fast Fourier Transform:逆高速フーリエ変換)&GI(Guard Interval:ガードインターバル)付与回路813−1〜813−Kと、D/A(デジタル/アナログ)変換器814−1〜814−Kと、ローカル発振器815と、ミキサ816−1〜816−Kと、フィルタ817−1〜817−Kと、ハイパワーアンプ(HPA)818−1〜818−Kと、アンテナ素子819−1〜819−Kと、送信ウエイト処理部830とを備えている。送信信号処理回路811−1〜811−Lと、送信ウエイト処理部830とは、図13において示した通信制御回路820に接続されている。
送信ウエイト処理部830は、チャネル情報取得回路831と、チャネル情報記憶回路832と、マルチユーザMIMO(MU−MIMO)送信ウエイト算出回路833とを備えている。ここで、同図における送信信号処理回路811−1〜811−Lの添え字のLは、同時に空間多重を行う多重数を表す。また、加算合成回路812−1〜812−Kからアンテナ素子819−1〜819−Kまでの回路の添え字のKは、基地局装置80が備えるアンテナ素子数を表す。
マルチユーザMIMOでは、複数の端末装置宛に一度に信号を送信するため、複数系統の信号系列がMAC層処理回路88から送信部81に入力され、入力された複数系統の信号系列が送信信号処理回路811−1〜811−Lに入力される。送信信号処理回路811−1〜811−Lは、宛先の端末装置それぞれに送信すべきデータ(データ入力#1〜#L)がMAC層処理回路88から入力されると、無線回線で送信する無線パケットを生成して変調処理を行う。ここで、例えばOFDM変調方式を用いるのであれば、各信号系列の信号は周波数成分ごとに変調処理が行われる。更に、変調処理がなされたベースバンド信号に周波数成分ごとに送信ウエイトベクトルを乗算する。各アンテナ素子819−1〜819−Kに対応した送信ウエイトが乗算された信号は、必要に応じて残りの信号処理が施され、ベースバンドにおける送信信号のサンプリングデータとして加算合成回路812−1〜812−Kに入力される。
加算合成回路812−1〜812−Kに入力された信号は、周波数成分ごとに合成される。合成された信号は、IFFT&GI付与回路813−1〜813−Kにて周波数軸上の信号から時間軸上の信号に変換され、更にガードインターバルの挿入やOFDMシンボル間(SC−FDE(Single-Carrier Frequency Domain Equalization)であればブロック伝送のブロック間)の波形整形等の処理が行われ、アンテナ素子819−1〜819−Kごとに、D/A変換器814−1〜814−Kでデジタル・サンプリングデータからベースバンドのアナログ信号に変換される。更に、各アナログ信号は、ローカル発振器815から入力される局部発振信号と、ミキサ816−1〜816−Kで乗算され、無線周波数の信号にアップコンバートされる。ここで、アップコンバートされた信号には、送信すべきチャネルの帯域外の周波数成分に信号が含まれるため、フィルタ817−1〜817−Kで帯域外の周波数成分を除去し、送信すべき電気的な信号を生成する。生成された信号は、ハイパワーアンプ818−1〜818−Kで増幅され、アンテナ素子819−1〜819−Kより送信される。
なお、図14では、各周波数成分の信号の加算合成を加算合成回路812−1〜812−Kで実施した後に、IFFT処理、ガードインターバルの挿入、波形整形等の処理を行っているが、送信信号処理回路811−1〜811−Lにてこれらの処理を行い、IFFT&GI付与回路813−1〜813−Kを省略する構成としてもよい。この場合、送信信号処理回路811−1〜811−Lにおける送信ウエイトベクトル乗算後の必要に応じた残りの信号処理とは、IFFT処理、ガードインターバルの挿入、波形整形等の処理を指す。
また、送信信号処理回路811−1〜811−Lで乗算される送信ウエイトベクトルは、信号送信処理時に、送信ウエイト処理部830に備えられているマルチユーザMIMO送信ウエイト算出回路833より取得する。送信ウエイト処理部830では、チャネル情報取得回路831において、受信部にて取得されたチャネル情報を通信制御回路820経由で別途取得しておき、これを逐次更新しながら、チャネル情報記憶回路832に記憶する。信号の送信時には通信制御回路820からの指示に従い、マルチユーザMIMO送信ウエイト算出回路833は、宛先局に対応したチャネル情報をチャネル情報記憶回路832から読み出し、読み出したチャネル情報を基に送信ウエイト行列を算出する。マルチユーザMIMO送信ウエイト算出回路833は、算出した送信ウエイトを送信信号処理回路811−1〜811−Lに出力する。
また、宛先局の管理や、全体のタイミング制御など、全体の通信に係る制御を通信制御回路820が管理する。上述の送信ウエイト行列の算出に係る信号処理を行う送信ウエイト処理部830に対し、通信制御回路820は宛先局等を示す情報を出力する。
図15は、マルチユーザMIMOシステムにおける基地局装置80における受信部85の構成の一例を示す概略ブロック図である。同図に示すように、受信部85は、アンテナ素子851−1〜851−Kと、ローノイズアンプ(LNA)852−1〜852−Kと、ローカル発振器853と、ミキサ854−1〜854−Kと、フィルタ855−1〜855−Kと、A/D(アナログ/デジタル)変換器856−1〜856−Kと、FFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)回路857−1〜857−Kと、受信信号処理回路858−1〜858−Lと、受信ウエイト処理部860とを備えている。受信信号処理回路858−1〜858−Lと、受信ウエイト処理部860とは、図22において示した通信制御回路820に接続されている。受信ウエイト処理部860は、チャネル情報推定回路861と、マルチユーザMIMO(MU−MIMO)受信ウエイト算出回路862とを備えている。
アンテナ素子851−1〜851−Kで受信した信号をローノイズアンプ852−1〜852−Kで増幅する。増幅された信号とローカル発振器853から出力される局部発振信号とがミキサ854−1〜854−Kで乗算され、増幅された信号は無線周波数の信号からベースバンドの信号にダウンコンバートされる。ダウンコンバートされた信号には、受信すべき周波数帯域外の周波数成分も含まれるため、フィルタ855−1〜855−Kで帯域外成分を除去する。帯域外成分が除去された信号は、A/D変換器856−1〜856−Kでデジタル・ベースバンド信号に変換される。デジタル・ベースバンド信号は全てFFT回路857−1〜857−Kに入力され、所定のシンボルタイミングで時間軸上の信号を周波数軸上の信号に変換(各周波数成分の信号に分離)する。この各周波数成分に分離された信号は、受信信号処理回路858−1〜858−Lに入力されるとともに、チャネル情報推定回路861にも入力される。
チャネル情報推定回路861では、各周波数成分に分離されたチャネル推定用の既知の信号(無線パケットの先頭に付与されるプリアンブル信号等)を基に各端末装置のアンテナ素子と、基地局装置80の各アンテナ素子851−1〜851−Kとの間のチャネル情報を周波数成分ごとに推定し、その推定結果をマルチユーザMIMO受信ウエイト算出回路862に出力する。マルチユーザMIMO受信ウエイト算出回路862では、入力されたチャネル情報を基に乗算すべき受信ウエイトを周波数成分ごとに算出する。この際、各アンテナ素子851−1〜851−Kで受信された信号を合成する受信ウエイトは、信号系列ごとに異なり、抽出すべき信号系列に対応する受信信号処理回路858−1〜858−Lそれぞれに入力される。
受信信号処理回路858−1〜858−Lでは、FFT回路857−1〜857−Kから入力された周波数成分ごとの信号に対し、マルチユーザMIMO受信ウエイト算出回路862から入力された受信ウエイトを乗算し、各アンテナ素子851−1〜851−Kで受信された信号を周波数成分ごとに加算合成する。受信信号処理回路858−1〜858−Lは、加算合成した信号に対して復調処理を施し、再生されたデータをMAC層処理回路88に出力する。
ここで、異なる受信信号処理回路858−1〜858−Lでは、異なる信号系列の信号処理が行われる。また、MAC層処理回路88は、MAC層に関する処理(例えば、インタフェース回路87に対して入出力するデータと、無線回線上で送受信されるデータとの変換、MAC層のヘッダ情報の終端など)を行う。この処理の中でスケジューリング処理回路881は、マルチユーザMIMO伝送において同時に空間多重を行う端末装置の組み合わせを含む各種スケジューリング処理を行い、スケジューリング結果を通信制御回路820に出力する。MAC層処理回路88にて処理された受信データは、インタフェース回路87を介して外部機器ないしはネットワークに出力される。
また、送信元の端末装置の管理や、全体のタイミング制御など、全体の通信に係る制御を通信制御回路820が管理する。また、上述の受信ウエイトの算出に係る信号処理を行う受信ウエイト処理部860に対し、通信制御回路820から送信元の端末装置等を示す情報が入力される。
なお、信号受信に関しても送信の場合と同様に、OFDM変調方式ないしはSC−FDE方式を用いた広帯域のシステムでは、上述の受信ウエイトの乗算は周波数成分ごとに行われる。つまりA/D変換器856−1〜856−Kから出力される信号に対し、FFT回路857−1〜857−KでFFTを行い各周波数成分に分離し、分離した周波数成分ごとに、チャネル情報推定回路861での信号処理、及び、受信信号処理回路858−1〜858−Lでの受信信号処理が実施されることになる。
(マルチユーザMIMOの送信処理)
図16は、マルチユーザMIMOにおける基地局装置80の送信処理を示すフローチャートである。マルチユーザMIMOでは、データの送信とは別に行うダウンリンクのチャネル情報のフィードバックが定期的になされている。チャネル情報取得回路831はダウンリンクにおけるチャネル情報を取得すると(ステップS831)、端末装置ごとに各周波数成分のチャネル情報をチャネル情報記憶回路832に記憶させる(ステップS832)。ステップS831及びステップS832の処理は、逐次行われる。
基地局装置80からの信号送信処理が開始されると(ステップS821)、マルチユーザMIMO送信ウエイト算出回路833は、宛先である端末装置に対応する各周波数成分のチャネル情報をチャネル情報記憶回路832から読み出す(ステップS822)。
マルチユーザMIMO送信ウエイト算出回路833は、読み出したチャネル情報を基に、先に示した処理によりマルチユーザMIMO用の送信ウエイト行列を周波数成分ごとに算出する(ステップS823)。ステップS822及びステップS823の処理とは別に、送信信号処理回路811−1〜811−Lは、宛先ごとの送信すべきデータに対し、各種変調処理等の送信信号処理により、宛先局ごとに各周波数成分の送信信号を生成する(ステップS824)。
送信信号処理回路811−1〜811−Lは、生成した送信信号に、ステップS823においてマルチユーザMIMO送信ウエイト算出回路833が算出した送信ウエイトベクトルを乗算する(ステップS825)。また、送信信号処理回路811−1〜811−Kは一連の信号処理を施し、加算合成回路812−1〜812−Kはアンテナ素子819−1〜819−Lごとに各周波数成分の各端末装置宛の送信信号に対する加算合成を行い、更にIFFT&GI付与回路813−1〜813−Kにて周波数軸上の信号から時間軸上の信号に変換され、更にガードインターバルの挿入やOFDMシンボル間(SC−FDEであればブロック伝送のブロック間)の波形整形等の処理を行い、D/A変換器814−1〜814−Kに出力する(ステップS826−1〜S826−K)。
IFFT&GI付与回路813−1〜813−Kから出力された信号は、D/A変換器814−1〜814−Kからハイパワーアンプ818−1〜818−Kにおける信号処理が施され、アンテナ素子819−1〜819−Kそれぞれから送信され(ステップS827−1〜S827−K)、処理を終了する(ステップS828−1〜S828−K)。
なお、ステップS827−1〜S827−Kにおける処理は、ベースバンド信号から無線周波数へのアップコンバート処理、フィルタによる帯域が周波数成分の除去、ハイパワーアンプによる信号の増幅などを含む。
(マルチユーザMIMOの受信処理)
図17は、マルチユーザMIMOにおける基地局装置80の受信処理を示すフローチャートである。まず、受信処理を開始すると(ステップS840)、第1から第Kのアンテナ素子851−1〜851−Kにて信号を受信する(ステップS841−1〜S841−K)。ここでの受信とは、受信した信号ないしそれをダウンコンバートした信号に対し、アナログ/デジタル変換を施す処理までを含む。以降の信号処理は、デジタル化された受信信号に対する処理を意味する。
続いて、各アンテナ素子851−1〜851−Kに対応する受信信号に対し、FFT回路857−1〜857−Kによる各周波数成分への分離等の信号処理を行う(ステップS842−1〜S842−K)。更に、チャネル情報推定回路861は、無線パケットに付与されていた既知のパターンのプリアンブル信号の受信状態より、各周波数成分のチャネル推定を実施する(ステップS843−1〜S843−K)。ここで、伝搬路上での信号の減衰、及び複素位相の回転状態を把握する。このステップS843−1〜S843−Kで行うチャネル推定では、ステップS843−1、S843−2、・・・、S843−Kを個別に示した通り、空間多重される信号系列ごとに個別にチャネル推定を行う必要がある。この個別のチャネル推定とは、送信元の端末装置それぞれから送信された信号を分離可能な状態で行う必要がある。OFDM変調方式を例にとれば、一般的には空間多重数と同数のシンボル数のチャネル推定用のプリアンブル信号が必要となる。各端末装置は空間多重数と同数のシンボル数(ないしはそれ以上)で且つそれぞれが異なるパターンのプリアンブル信号を付与して信号送信を行い、基地局装置80はそのパターンの違いを利用して、ステップS843−1〜S843−Kにて個別のチャネル推定を行うことになる。
マルチユーザMIMO受信ウエイト算出回路862は、チャネル情報推定回路861が推定したチャネル情報を用いて、空間多重された信号系列ごと及び周波数成分ごとに個別の適切な受信ウエイトを算出する(ステップS844)。更に、受信信号処理回路858−1〜858−Lは、信号系列ごと及び周波数成分ごとに算出された受信ウエイトを、周波数成分ごとに分離された各アンテナ素子の受信信号に乗算する(ステップS845−1〜S845−K)。
ここで、受信ウエイトは、空間多重された信号系列ごとに用意されているため、ステップS845−1〜S845−Kにおける乗算結果は、空間多重された信号系列ごとに別々の結果となる。それぞれの信号系列の信号は、各アンテナ素子851−1〜851−Kの信号が周波数成分ごとに加算合成され(ステップS846−1〜S846−L)、合成された信号系列に対して、第1信号系列の信号処理(ステップS847−1)から第L信号系列の信号処理(ステップS847−L)までの処理が行われ、処理を終了する(ステップS848−1〜S848−L)。
なお、ここでは簡単のために線形の受信ウエイトを用いる場合の例を示したが、一般にはMIMOに関してはMLD(Maximum Likelihood Detection)等の非線形の信号処理を行うようにしてもよい。この場合、ステップS845−1〜S845−L、ステップS846−1〜S846−L、及びステップS847−1〜S847−Lにおける処理は、一体として非線形の信号検出処理が行われることになる。また、線形の受信ウエイトの算出に関しては、図12に示した送信ウエイト行列の算出処理と同様の手法で算出することが可能である。その他にも、擬似逆行列を利用した受信ウエイトや、MMSEウエイトを利用することも可能である。また、ここでは、受信に用いるアンテナ素子851−1〜851−Kの数Kに対し、空間多重された信号系列数がLとして説明をしたが、一般的にはKとLとは一致する必要はなく、空間多重数Lの値がアンテナ数Kの値以下であれば多数の信号系列の信号を空間多重することができる。
以上のマルチユーザMIMOの説明では、基地局装置のアンテナ数と同数の空間多重を行う場合を中心に説明を行ってきたが、実際には基地局装置のアンテナ数と空間多重数は一致する必要はない。一般に、MIMO伝送は空間多重する信号系列数に対して送信局側及び受信局側のアンテナ素子数が増えれば増えるほど特性が改善されることが知られている。この特性の改善は空間多重される各信号系列のSINR(信号対干渉雑音電力比:Signal to Interference and Noise Ratio)の向上や更なる空間多重数の増加という形で利用され、近年では基地局側のアンテナ素子数を100以上の超多数に拡大した、非特許文献2にて検討されているようなMassive MIMO技術が注目されている。
なお、本発明における送信ウエイトベクトルとは、送信ウエイト行列の各行ベクトルを意味し、同時に空間多重する端末装置のひとつ(または、複数アンテナを備えた端末装置に複数の信号系列を送信する場合には、さらにそのうちのひとつ)に着目したベクトル表記された送信ウエイトである。具体的には、複数の端末装置宛ての信号系列を空間多重する際の送信ウエイト行列の各行ベクトルは、複数の端末装置の中のある端末装置に着目した係数(送信ウエイトベクトルの成分)をベクトル表記したもので、空間多重する端末装置のチャネルベクトルを基に全体の送信ウエイト行列生成の過程で順次取得されるものである。したがって、送信ウエイトベクトルの生成(及び、「算出」「決定」「乗算」「成分」などの言葉が後続する場合も同様)とは、全体としては送信ウエイト行列の生成と等価であり、特にその行列の行ベクトルないしは列ベクトルを順番に生成する手順を意識した際に、「送信ウエイト行列の生成」と等価な意味で「送信ウエイトベクトルの生成」の様に標記している。
以下、図面を参照して、本発明の実施形態による基地局装置、無線通信方法及び無線通信システムを説明する。
[本発明の基本となる技術の動作原理について]
以下、本発明の基本となる技術におけるチャネル時変動にロバストな送信ウエイトベクトルの生成技術について、その基本原理を詳細に説明する。ここで問題となるのは主としてダウンリンクにおける送信ウエイトベクトルであり、アップリンクに関しては基本的に受信時に各端末装置からの信号の先頭に、端末装置間で直交したトレーニング信号が付与されていれば、その信号を用いてリアルタイムのチャネル行列を取得可能であり、チャネル時変動を含まない高精度な信号検出処理が可能である。一方でダウンリンクに関しては、その通信に先行して行われたチャネル情報のフィードバックで得られた時間的に過去のチャネル情報を用いざるをえないので、そのタイムラグに伴うチャネル推定精度の低下を補う信号処理を行う。
まず、ある端末装置に着目し、時間と共に変動するチャネルベクトル(ないしは行列)をh(t)とする。このチャネル情報が仮に連続的で且つ比較的緩やかに変動するとすれば、チャネルベクトルh(t)は微分可能であり、ある時刻t0チャネル情報をh(t0)とすれば、微小時間経過した時刻t0+δtのチャネルベクトルはテーラー展開により下記の様に表現できるはずである。
ここで式中のh(n)(t)とは、チャネルベクトルh(t)に対して時間tでn回微分した関数を表す。この式の意味することはまず第1に、微小時間δtが1より十分に小さければ、時刻t0から時間が経過したとき、チャネルベクトルはh(t0)に対しh(1)(t0)方向のベクトルが加算される傾向が強く、経過時間が倍になれば倍の量だけh(1)(t0)方向の成分がチャネルベクトルh(t0)に加算されるように変化すると期待されるということである。さらに、h(1)(t0)の次に増加が期待される成分はh(2)(t0)であり、式(12)の右辺のΣを2次までで近似すれば、h(t0)、h(1)(t0)、h(2)(t0)の線形結合で概ね時刻t0+δtのチャネルベクトルは近似的に記述可能ということになる。ここではあくまでもテーラー展開の視点で表現したためにδtのべき乗形式でチャネルベクトルを表現したが、式(12)を有限の項、例えば1次の項までで近似し、且つδtのべき乗をδtの関数であるα(δt)を用いて表せば、式(12)は以下の様な表現形式で表すこともできる。
ここで、uはチャネル時変動の変動方向を表現するためのベクトルであり例えばuをh(1)(t0)、α(δt)=δtと置き換えると式(12)の1次の項までの近似と一致する。この表現の意図することは、あるチャネルベクトルの時間変動を表すn回微分の関数形が分かる必要はなく、何らかの手段によりチャネルベクトルの時間変動が予測でき、しかもその予測されたチャネルベクトルが所定のベクトルh(t0)、u等の線形結合で表現できる場合、その情報を利用してチャネル時変動にロバストな送信指向性制御を行うことが可能になる。
ここで、従来方式におけるチャネル時変動予測の送信指向性制御への活用法を簡単に説明する。例えば参考文献1などの従来技術では予測されたチャネル情報を基に、そのチャネルベクトルにヌルを向ける(すなわちベクトル同士が直交し、ベクトルの内積がゼロになる)ように送信ウエイトベクトルを設定することとしていた。つまり、時刻t0におけるチャネルベクトルがh(t0)で微小時間δt経過後のチャネルベクトルがh(t0)+uα(δt)であると予測されたとする。この際、送信ウエイトベクトルw(t0+δt)はw(t0+δt)H・{h(t0)+uα(δt)}がゼロになる様に選択されていた。
参考文献1:山口歌奈子他、「時変動マルチユーザMIMOシステムにおけるチャネル予測手法の効果に関する考察」信学技報、A・P2013−107、pp.43−48、2013年11月
しかし、チャネル時変動によるチャネルベクトルの変動方向がuとは異なる方向であった場合、寧ろw(t0+δt)H・h(t0)がゼロになる様に選んだ方が残留干渉は小さいという場合も予想される。従来のマルチユーザMIMOにおいては、送信指向性制御で形成するヌルの数は空間多重数と一致しており、実際、基地局装置の備えるアンテナ素子数に対して空間多重数は概ね同程度であることが想定されていたため、送信指向性制御で形成するヌルの数を空間多重数よりも冗長に形成することは不可能であったが、近年注目されているMassive MIMOにおいては少なくとも基地局側では膨大なアンテナ素子を実装することで自由度が大幅に冗長に設定されているため、更なる追加として冗長のヌル制御を行うことも可能となった。
例えば、送信ウエイトベクトルw(t0+δt)を、w(t0+δt)H・{h(t0)+uα(δt)}がゼロで且つw(t0+δt)H・h(t0)もゼロとなる様に設定すれば、チャネルベクトルの時変動が予測されたh(t0)+uα(δt)の方向で高精度に近似できていた場合にも、さらには大幅に予測がはずれてh(t0)のままのチャネルベクトルの方が現実のチャネルに近い場合であっても、そのどちらでも対処可能とすることができる。さらに言えば、ベクトルuの方向を予測できていれば、α(δt)の値が予測とは異なっても、時刻t0+δtのチャネルベクトルがベクトルh(t0)とベクトルuの線形結合で表される部分空間内に概ね存在する限りにおいて、残留干渉を十分に抑えることが可能になる。
一例として100本アンテナを実装する基地局装置が1本アンテナの端末装置を10台同時に空間多重伝送する場合を考えてみる。この場合、チャネルベクトルは100次元ベクトルであり、従来技術であれば10端末の空間多重で10の自由度を利用することになる。ここでは90(=100−10)の自由度が余っており、この自由度が各端末装置のSNR(Signal to Noise ratio:S/N比)等の回線利得を向上させるために働く。ここで、仮に1つの端末装置のチャネル時変動を式(13)の様に2つの自由度を用い、チャネルベクトルがh(t0)、uの2次元部分空間内に収まっていることが期待される場合、1局で2の自由度を消費することになる。しかし、空間多重する端末装置は10台だから、合計でもヌル形成に利用する自由度は20であり、残りの80の自由度は回線利得の向上に利用可能である。仮に回線利得の向上率が自由度の1乗に比例するとすれば、従来の90の自由度を利用する場合と本実施形態の80の自由度を利用する場合で、対数であるdB表示で表せば、その差は10Log(80/90)=−0.51[dB]となり僅か0.5dB程度の差にしかならない。一方で、冗長のヌル制御を行うことで、干渉抑圧が可能となる部分空間の次元が当初の1次元空間(ひとつのチャネルベクトルのみに直交)から2次元空間、3次元空間(複数のチャネルベクトルに直交)と次元が拡張され、その次元拡張効果により干渉抑圧が可能となる確率が高まり、干渉が大幅に低減されることが期待される。
この様に、上述の冗長なヌル制御がなされた部分空間を拡張することで、ユーザ間干渉の電力は大幅に抑えられるため、SNR的には約0.5dBの劣化となるが、SIR(Signal to Interference Ratio:信号電力対干渉電力比)的には大幅な向上が期待できる。最終的にはSINRにより特性が定まるが、SNRよりもSIR特性が支配的と考えられる時変動チャネル環境下でのマルチユーザMIMOでは、この様な手法が有効となる。
次に、本発明の基本となる技術の動作原理のポイントを説明する。図1は、本発明の基本となる技術の動作原理のポイントを示す説明図である。この図において、左側は従来技術における送信指向性制御の考え方、右側が本発明の基本となる技術における送信指向性制御の考え方を示す。ここでは簡単のため、端末装置は1本のアンテナを備えるとし、L(Lは自然数)局の端末装置を空間多重する場合を考える。各端末装置のチャネルベクトルh1(t)〜hL(t)は基地局のアンテナ素子数の次元をもつベクトルである。100本アンテナを想定すれば、100次元ベクトルとなっている。
従来技術における送信ウエイトベクトルの生成の処理フローは図12に示されているが、ここではステップS803からステップS810のループの初回の処理として、k=1の場合の処理に着目して説明を行っている。まず、端末装置#1(k=1に相当)の局宛ての送信ウエイトベクトルw1(t)は、h1(t)をHmainとし(ステップS804)、残りのh2(t)〜hL(t)をHsubとして設定し(ステップS805)、ステップS805からステップS810の処理を実施する。
しかし、本実施形態ではHmainはh1(t)で共通であるが、Hsubはh2(t)〜hL(t)にu2〜uLを加えたものをH’subとして設定し、これらの部分空間に直交する空間にHmainを射影するように送信ウエイトベクトルw1(t)を設定することになる。
次に、上述した本発明の基本となる技術の動作原理の処理動作を説明する。図2は、本発明の基本となる技術の動作原理の処理動作をフローチャートである。図2に示す処理動作が図12と異なる点は、ステップS801で宛先端末装置へのチャネル情報を取得した後、これらの宛先端末装置へのチャネル情報の時変動予測を行い(ステップS1)、式(13)に相当するベクトルu1〜uLを算出する。その後、ステップS802に戻り処理を継続する。さらに、ステップS805でHsubを設定する代わりに、j≠kなる端末装置#jのチャネルベクトルに、端末装置#kを除く式(13)に相当するベクトルu1〜uLを組み合わせてH’subを設定し(ステップS2)、その後処理S806(ステップS3)に戻る。HsubがH’subに置き換わることで形式上、基底ベクトルejをe’jに、〜Hmainを〜H’mainに、送信ウエイトベクトルwjをw’jに置き換えることで処理ステップの符号(ステップS3〜S7)を変更しているが、これらの変更を除けばステップS3〜ステップS7の基本的動作は図12に示すステップS806〜ステップS811と同一である。
次に、図3に本発明の基本となる技術の基本原理における送信ウエイト処理部1の構成を説明する。図3は、本発明の基本となる技術の基本原理における送信ウエイト処理部1の構成を示すブロック図である。図14で示した送信ウエイト処理部830では、チャネル情報取得回路831、チャネル情報記憶回路832、MU−MIMO送信ウエイト算出回路833により送信ウエイトベクトルの算出を行っていた。一方、実施形態における送信ウエイト処理部1では、時変動チャネルの予測を行うチャネル時変動予測回路3、予測されたチャネルベクトルを基に冗長なヌル制御を行うために必要となる式(13)のベクトルuを冗長ベクトル(追加でヌル制御を行う際に、送信ウエイトベクトルが直交すべき部分空間を張るベクトル)として記憶する冗長ベクトル記憶回路4を新たに備える。
次に、図3に示す送信ウエイト処理部1の処理動作を説明する。まず、チャネル情報取得回路831が既存技術の何らかの手法を用いてダウンリンクのチャネル情報を取得すると、これをチャネル情報記憶回路2に記憶する。これを受けて、チャネル時変動予測回路3はチャネル情報記憶回路2に記憶されたこれまでのチャネル情報を参照し、未来のチャネルベクトルが含まれる部分空間を予測る。ここで、従来技術におけるチャネル情報記憶回路832では、端末装置毎に取得された最新のチャネル情報のみを記憶していればよかったが、チャネル時変動予測においては過去の時変動の状況を参照して予測することが一般的である。所定の時間分ないしは所定の数の個数だけ過去のチャネル情報の記憶も留めておく機能を備え、この点が図3に示すチャネル情報記憶回路2と従来技術におけるチャネル情報記憶回路832の異なる点である。
チャネル時変動予測回路3では、チャネル情報記憶回路2に記憶された過去の情報と新規に記録された新しいチャネル情報を参照し、未来のチャネルベクトルの含まれる部分空間の予測を行う。未来のチャネルベクトルは、一般的に微小時間δtの関数となっており、空間多重伝送を行うことが確定した時点でチャネル予測を行うのであれば特定のδtに対するチャネル予測を行うことが可能である。しかし、一般には空間多重伝送の決定から送信ウエイトベクトル算出完了までのタイムラグを押さえるためには、いずれかの端末装置のチャネル情報の新規更新が行われる都度、チャネル予測を行っておくことが好ましい。その場合、例えば式(13)の様に1次近似を行うのであれば、任意の微小時間に対して共通のベクトルuを用いて一般的な微小時間δt後の未来のチャネル情報を標記可能であり、将来的に空間多重を行う際の送信ウエイトベクトル算出においては、図2に示した様にこのuを用いて送信ウエイトベクトルを算出可能である。
このため、チャネル時変動予測回路3では式(13)のuに相当するベクトルを冗長ベクトルとして算出し、これを冗長ベクトル記憶回路4に記憶する。MU−MIMO送信ウエイト算出回路5では、従来のMU−MIMO送信ウエイト算出回路833ではチャネル情報記憶回路832に記憶された最新のチャネル情報のみを基に送信ウエイトベクトルを算出していたのに対し、図3に示すMU−MIMO送信ウエイト算出回路5では、チャネル情報記憶回路2に記憶された最新のチャネル情報に加えて、冗長ベクトル記憶回路4に記憶された冗長ベクトルを参照し、図2に示した手順で送信ウエイトベクトルを算出する。
なお以上の説明では、冗長ベクトルとして式(13)のuに相当するベクトルを設定する場合を例に示したが、その他の形式のベクトルを冗長ベクトルとして設定することも可能である。例えば、元々のチャネルベクトルh(t0)と式(13)のuに相当するベクトルが張る部分空間は、β≠0なる任意の複素係数βに対してh(t0)とh(t0)+β×uの張る部分空間と等価である。したがって、h(t0)+β×uを冗長ベクトルとして扱うことも可能であり、これはβ=α(δt)の時に式(13)のh(t0+δt)と一致する。さらに言えば、このh(t0+δt)のチャネルベクトルの予測を、時刻t0よりも過去の時刻t1におけるチャネルベクトルh(t1)と時刻t0のチャネルベクトルh(t0)からの線形外挿により行うのであれば、h(t0)とh(t0+δt)の張る部分空間はh(t0)とh(t1)の張る部分空間とも一致する。この場合には、式(13)のuに相当するベクトルの代わりにh(t1)を冗長ベクトルとして設定することも可能である。この様に、冗長ベクトルとはh(t0)とh(t0+δt)の予測値の張る部分空間と等価であれば他の如何なるチャネルベクトルを設定しても構わない。
以上が本発明の基本となる技術の動作原理である。以下、チャネル情報の予測を含めて具体的な実施形態を図を用いて説明する。
以上説明した本発明の基本となる技術においては、同時に空間多重を行う端末装置において等しくチャネルの時変動が発生するものとしていたが、実際には自らが移動中の端末装置や周囲に高速で移動する反射物がある場合にはチャネルの時変動が激しい。一方でチャネルの時変動が殆どない端末装置の場合には、新たに冗長ベクトルを追加してヌルを形成しなくても、殆ど問題となることはない。また、ヌル形成に用いる自由度を多く用いれば用いるほど、冗長なアンテナを用いた回線利得の確保ができなくなるために、無用にヌル形成を行い過ぎることなく、必要に応じて適切にヌル形成の程度を最適化する必要がある。
以下で説明する実施形態は、複数の過去のチャネル情報の履歴を基に、活用する冗長ベクトル数を端末装置毎に最適化するための具体的な手段を提供するものである。
[冗長ベクトル数最適化]
式(13)においては、チャネルベクトルの時変動部分空間をh(t0)とuの2次元部分空間としたが、当然ながら時変動が少ない端末装置の場合には、h(t0)の1次元部分空間で表されるとみなすことが可能である。
同様に、チャネルの時変動が激しい端末装置の場合には、式(12)の2次以降の項を考慮して3次元部分空間で表すことも可能である。
この場合には、チャネルベクトルの時変動部分空間はh(t0)とuとvの3次元部分空間で表されることになる。同様に4次元以上とすることも可能である。ここで冗長ベクトル数を多く設定した端末装置は、その部分空間内に実際のチャネル情報が収まっている限りにおいては、他の端末装置宛ての信号はそのチャネルベクトルに直交した方向に送信ウエイトベクトルを向けて送信しているために、干渉信号の漏れ込は低いレベルに抑えられることが期待される。
ここで、チャネルの時変動の大きさを議論するときには、単に単位時間当たりのチャネルベクトルの変動量を用いるのではなく、元々のチャネルベクトルの絶対値に対して時変動の差分ベクトルがどの程度の大きさかによって、端末装置間の干渉信号に対するSIR値が決まる。つまり、大雑把に言えばチャネル時変動量に比例して干渉信号強度は増大するが、元々の希望信号の受信強度が大きければSIRは十分大きな値となり得る。このため、ここでのチャネル時変動の指標は、微小時刻δtに対し、チャネルベクトルがh(t0)からh(t0+δt)に変位する場合、以下の値が大きい場合ほど、干渉による特性劣化のリスクが高いと推定される。
この相対的な時変動量は、未来のチャネル情報の予測値として求めたh(t0+δt)に対して実施してもよいし、過去のチャネル時変動の履歴を基に算出したものであっても構わない。
例えば、t1、t2、t3、t4、t5の時刻に取得されたチャネルベクトルをh(t1)、h(t2)、h(t3)、h(t4)、h(t5)とおく。時刻がt1からt2、t3、t4、t5の順番で流れるとすると、各時刻の間の単位時間当たりの相対的時間変動量は以下の通りである。
このようにして得られた相対差分ベクトルの絶対値、|Δh1|、|Δh2|、|Δh3|、|Δh4|は各時刻における時変動の大きさの程度を表す。例えば直近の時変動の相対量である|Δh4|を用いて判断してもよいし、これら過去複数回分の平均値を用いてチャネル時変動の相対量を判断しても構わない。ないしは、時間的に新しい方の重みを重くした加重平均であっても構わないし、最悪のケースを想定する場合にはこれら過去複数回分の中の最大値を用いても構わない。いずれにしても、このようにして求めたチャネル時変動の相対量を基に、利用する冗長ベクトルの数を判断する。以上の本発明の基本となる技術の動作原理に基づき、以下に具体的な実施形態を図を用いて説明する。
<第1の実施形態>
図4は、本発明の第1の実施形態における送信ウエイト処理部11の構成を示すブロック図である。図4に示す送信ウエイト処理部11が、図3に示す送信ウエイト処理部1と異なる点は、新たにチャネル時変動量の元のチャネルベクトルとの相対値を求めるチャネル時変動相対量評価回路6が付与されている点である。
次に、図4に示す送信ウエイト処理部11の動作を説明する。まず、チャネル情報取得回路831が既存技術の何らかの手法を用いてダウンリンクのチャネル情報を取得すると、これをチャネル情報記憶回路2に記憶する。チャネル時変動予測回路23はチャネル情報記憶回路2に記憶されたこれまでのチャネル情報を参照し、未来のチャネルベクトルを予測する。
このチャネルベクトルの例としては、例えば異なる複数のチャネル予測アルゴリズムを用いることにより実現してもよいし、異なる複数の未来時刻に対するチャネル予測であっても構わない。また、ある端末装置が利用する冗長ベクトルの数が1または0の場合(すなわち、時変動が少ない場合には冗長ベクトルを利用せず、一方で時変動がある場合にはひとつだけ冗長ベクトルを利用するケースに相当)には、複数のチャネル情報の予測ではなく単一のチャネル情報の予測であっても構わない。
このようにひとつまたは複数のチャネルベクトルの予測がなされた際に、チャネル時変動相対量評価回路6は式(16)または式(17)と同様に単位時間当たりの相対的チャネル時間変動量(ここでは各ベクトルの絶対値により与えられる)を評価する。ここでは、上述の様に複数の時刻に対するものであれば式(17)と同様に行えばよいし、複数のチャネル予測アルゴリズムを用いる場合には、式(16)の様にある時刻t0と微小時間δt経過後のチャネルベクトルの差分を基の時刻t0のチャネルベクトルの絶対値で除算した値で評価することになり、分母の時間の差分は共通の値を用いることになる。
このようなケースでは、必ずしも時間で除算しなくても、それぞれの端末装置のチャネル時変動の相対量の大小を判断することは可能である。冗長ベクトル記憶回路24では、式(16)または式(17)の左辺に相当する相対的な差分ベクトル(冗長ベクトルに相当)とそのチャネル時変動の相対量評価値(ここでは差分ベクトルの絶対値)を合わせ記録しておく。ここでこのチャネル時変動の相対量評価値は、絶対値が大きければ大きいほど大きな干渉を生じるリスクとなりやすいから、その冗長ベクトルの重要度は高いと考えられる。これら一連の処理は空間多重伝送を行うことが確定した時点で実施してもよいし、いずれかの端末装置のチャネル情報の新規更新が行われる都度、チャネル予測を実施してもよい。ないしは、定期的にその様な処理を通信の有無に関係なく実施することも可能である。
MU−MIMO送信ウエイト算出回路5では、通信を行う際にチャネル情報記憶回路2に記憶された最新のチャネル情報に加えて、冗長ベクトル記憶回路4に記憶された冗長ベクトルのチャネル時変動の相対量評価値を参照し、所定の数だけ冗長ベクトルを読み出して図2に示した手順で送信ウエイトベクトルを算出する。
次に、図4に示す送信ウエイト処理部11における冗長ベクトルの選択処理を説明する。図5は、図4に示す送信ウエイト処理部11における冗長ベクトルの選択処理を示すフローチャートである。送信ウエイト算出を開始すると(ステップS11)、MU−MIMO送信ウエイト算出回路5は利用する冗長ベクトルの総数Mを決定し(ステップS12)、冗長ベクトル記憶回路4にアクセスし、空間多重を行う端末装置のチャネル時変動の相対量評価値(冗長ベクトルの絶対値)を参照し、時変動量の大きい方からM個の冗長ベクトルを選択し(ステップS13)、処理を終了する(ステップS14)。
このようにして選択された冗長ベクトルを用い、図2に示す処理フローで送信ウエイトベクトルを決定する。なお、この図2の処理においては、図1に示した様に端末装置のチャネルベクトルと冗長ベクトルの対応を意識し、その対応に応じたH’subを設定して処理を行う。
なお、ここでは単純に時変動の大きい方から冗長ベクトルを選んだが、この場合にはひとつも冗長ベクトルが選択されない端末装置と多数の冗長ベクトルが選択された端末装置が存在する。少なくとも一つ以上の冗長ベクトルを利用する場合には、例えば図6に示す冗長ベクトルの選択処理を利用することも可能である。図6は、冗長ベクトルの選択処理を利用する処理を示すフローチャートである。図6に示す処理動作が図5に示す処理動作と異なる点は、ステップS12に続けて空間多重を行うN局の各端末装置からひとつずつの冗長ベクトル(最も時変動の大きいもの)を選択し(ステップS15)、その後に残りのM−N個の冗長ベクトルを、各端末装置の未選択の冗長ベクトルの中から時変動量の大きい方から順番に選択し(ステップS16)、処理を終了する(ステップS17)点である。
<第2の実施形態>
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。上述の説明では、チャネル情報の時変動予測を実際に行う場合の例を示したが、本来必要であるのは未来のチャネルベクトルの存在する部分空間を張る冗長ベクトルである。ここでは、過去のチャネル時変動の履歴から、チャネルベクトルが時変動時に存在する確率の高い部分空間の冗長ベクトルの抽出法を以下に示す。
まず、過去の時刻t1、t2、t3、t4、t5の時刻に取得されたチャネルベクトルをh(t1)、h(t2)、h(t3)、h(t4)、h(t5)とおく。時刻がt1からt2、t3、t4、t5の順番で流れるとすると、各時刻の間の単位時間当たりの相対的チャネル時間変動は上述の式(17)で与えられる。それらの相対的チャネル時変動量のベクトルを下記の様に行列に組み、特異値分解を行う。
この式の意味するところは、時刻t5から微小時間経過したところである送信ウエイトベクトルをある端末装置に対して利用する場合、その送信ウエイトベクトルがベクトルv1の方向の成分を持っていると、λ1に相当する程度の残留干渉が生じうることを意味している。逆に言えば、特異値の絶対値が大きい方に相当する右特異ベクトルvに直交した方向に送信ウエイトベクトルを設定すれば、残留干渉のリスクを低減することができる。この様に、本実施形態では特異値の絶対値が対応する右特異ベクトルのチャネル時変動の相対量評価値に相当し、その冗長ベクトルの重要度(干渉低減のためにどの程度寄与できるか)の指標になっており、絶対値が大きければ大きいほど重要度は高いことになる。
つまり、冗長ベクトルとしてひとつだけベクトルを選択するのであれば、第1右特異ベクトルv1の方向に冗長ベクトルを設定し、これに直交する送信ウエイトベクトルを算出すればよいことになる。また、冗長ベクトルを2つ選択できるのであれば、第1右特異ベクトルv1の方向と第2右特異ベクトルv2の方向に冗長ベクトルを設定し、これに直交する送信ウエイトベクトルを算出すればよい。すなわち、ここでの特異値λはその冗長ベクトルの相対的時変動の程度を表す指標となり、冗長ベクトル記憶回路24が管理するチャネルの相対的時変動量としてこの値を用いればよい。
次に、図7を参照して、本発明第2の実施形態における送信ウエイト処理部21の構成を説明する。図7は、本発明第2の実施形態における送信ウエイト処理部21の構成を示すブロック図である。図7に示す構成が図4に示す構成と異なる点は、送信ウエイト処理部21はチャネル時変動予測回路3の代わりに、差分ベクトル算出回路13と特異値分解回路14により構成されるチャネル時変動予測及び相対量評価回路15を備える点、チャネル情報記憶回路2の代わりに過去のチャネルベクトル及びその取得時刻に関する情報を記憶する機能を併せ持つチャネル情報記憶回路12を備える点、チャネル時変動相対評価回路6の機能が特異値分解回路14においてその特異値の絶対値を取得する機能として実現されている点である。
基地局装置において、新たに端末装置のチャネルベクトルを取得すると、このチャネルベクトルと取得時刻を時系列の順にチャネル情報記憶回路に新たに記録すると共に、過去、n回分のチャネルベクトルと取得時刻の情報を読み出す。これらの情報を基に、式(18)に従い行列ΔHを算出し、これを特異値分解する。取得すべき冗長ベクトルの最大数がmであるとすると、絶対値の大きい方から順番に得られた第1〜第m右特異ベクトルを選択し、各右特異ベクトルと特異値の絶対値を冗長ベクトル記憶回路24に記憶し、処理を終了する。
図8は、図7に示す送信ウエイト処理部21が冗長ベクトルの算出処理を示すフローチャートである。この冗長ベクトルは端末装置毎に独立に処理されるものであり、ここでは端末装置の最新のチャネルベクトルを入手できたタイミングで冗長ベクトルの算出を行うものとする。
まず、チャネル情報取得回路831においてチャネルベクトルを取得する(ステップS21)と、この新たなチャネルベクトルと取得時刻をチャネル情報記憶回路12に記憶する(ステップS22)。続いて、このチャネル情報記憶回路12より過去n回分のチャネルベクトルを差分ベクトル算出回路13に入力(ステップS23)する。差分ベクトル算出回路13では式(17)に従いチャネルベクトルの単位時間当たりの相対時変動量を算出し、これらを行ベクトルとする行列ΔHとして特異値分解回路14に入力し(ステップS24)、特異値分解回路14では特異値分解を実施する(ステップS25)。
その後、取得すべき冗長ベクトルの最大数がmであるとすると、第1〜第m右特異ベクトルを選択し、これとその特異値の絶対値を冗長ベクトル記憶回路4に記憶する(ステップS26)。差分ベクトル算出回路13では、処理のたびに過去n回分のチャネルベクトルをチャネル情報記憶回路12から呼び出す必要はなく、過去の情報を記憶していれば、チャネルの更新時に最新のチャネルベクトルのみを取得する構成とし、式(17)に従うチャネルベクトルの単位時間当たりの時変動量についても、過去のデータを記憶して利用することも可能である。
なお、以上の処理は冗長ベクトルの算出方法を中心に説明を行ったが、MU−MIMO送信ウエイト算出回路5では、ここで得られた冗長ベクトルに加えてチャネル情報記憶回路12より最新のチャネルベクトルも取得し、図1に示した様にH’subで張られる空間に対して直交するように〜H’mainの方向に向けて図2に示す手順で送信ウエイトベクトルを算出する。第2の実施形態の場合、冗長ベクトルの算出方法として特異値分解を用い、チャネルの時変動の程度を表す相対的チャネル時変動量として各特異値の絶対値を用いることとしているが、それ以外に関しては第1の実施形態と同様であり、各端末装置に対応させて用いる冗長ベクトルの数は図5または図6に示す手順で決定すればよい。
<第3の実施形態>
前述した第1及び第2の実施形態においては、式(17)において相対差分ベクトルを取得していたが、相対差分情報を用いずに直接的に規格化されたチャネルベクトルにより構成されるチャネル行列を特異値分解することで、同等の処理を実現することも可能である。まず、時刻t1、t2、t3、t4、t5の時刻に取得されたチャネルベクトルをh(t1)、h(t2)、h(t3)、h(t4)、h(t5)とおく。時刻がt1からt2、t3、t4、t5の順番で流れ、h(t5)が最新のチャネル情報であるものとする。ここで過去数回の各時刻のチャネルベクトルを規格化して行列に組み、下記の通り特異値分解を行う。
この場合、h(t1)/|h(t1)|、h(t2)/|h(t2)|、h(t3)/|h(t3)|、h(t4)/|h(t4)|は全てh(t5)/|h(t5)|と概ね同一方向のベクトルであるため、第1右特異ベクトルv’1も同様にh(t5)/|h(t5)|の方向を向いていると期待される。したがってこの場合の第1右特異ベクトルは第2の実施形態における最新のチャネルベクトルに対応し、送信ウエイトベクトル決定のためには無条件で必要となるベクトルである。次に、第2右特異ベクトルに関しては、上述のチャネルベクトルからこの第1右特異ベクトルの成分をキャンセルした残りの部分空間を張るベクトルに相当するため、その意味するところから式(18)の第1右特異ベクトルと式(19)の第2右特異ベクトルは傾向的に類似の方向を示すことが予想される。同様に、式(18)の第2右特異ベクトルと式(18)の第3右特異ベクトルに、式(18)の第3右特異ベクトルと式(19)の第4右特異ベクトルに、式(18)の第4右特異ベクトルと式(19)の第5右特異ベクトルと同様の傾向が期待される。したがって、式(17)及び式(18)を用いた処理と同様の効果を、式(19)を用いて実現することも可能である。
なおこの場合、図8に示す送信ウエイト処理部には若干の変更が加えられる。図9に、本発明の第3の実施形態における送信ウエイト処理部の構成を示すブロック図を示す。図8との差分は、チャネル情報記憶回路12に記憶させるチャネルベクトルの情報を、チャネルベクトルそのものから規格化されたチャネルベクトルに変更した規格化チャネル情報記憶回路18に置き換えられた点、相対差分ベクトル算出回路13が省略され、規格化チャネル情報記憶回路18からの出力が直接特異値分解回路14に入力されること、および冗長ベクトル記憶回路4が冗長ベクトルのみならず、第1の実施形態の場合の最新のチャネルベクトルに等価なチャネルベクトルとして第1右特異ベクトルを含めて記憶するチャネルベクトル記憶回路16に変更された点、MU−MIMO送信ウエイト算出回路5の送信ウエイト算出処理において、チャネル情報記憶回路12からの情報を用いずにチャネルベクトル記憶回路16からの情報のみで算出処理を行う点である。
動作としては以下の通りである。チャネル情報取得回路831においてチャネルベクトルを取得すると、この新たなチャネルベクトルを規格化して規格化チャネル情報記憶回路18に記憶する。そして、この規格化チャネル情報記憶回路18より過去n回分のチャネルベクトルを行列(^H)として特異値分解回路14へ出力する。特異値分解回路14では特異値分解を実施する。その後、第1〜第m右特異ベクトルを選択し、これを特異値の絶対値情報と共にチャネルベクトル記憶回路16に記憶する。MU−MIMO送信ウエイト算出回路5では、ダウンリンクでの信号送信に先立ち、通信制御回路820からの指示に従い送信ウエイトベクトルを算出するが、その際の情報はチャネルベクトル記憶回路16に記録された第1右特異ベクトルを最新のチャネルベクトルと見なし、さらに第2右特異ベクトル以降の右特異ベクトルを冗長ベクトルと見なして活用し、特異値の絶対値情報を参照して第2の実施形態の場合と同様の処理を実施する。
[本発明に係る実施形態のその他の補足事項]
以下に、本発明に係る実施形態に関する幾つかの補足事項を説明する。本発明におけるダウンリンクのチャネル推定方法は、如何なる方法を用いることも可能である。例えば、ダウンリンクのチャネル情報を取得する場合、ダウンリンクで基地局装置が所定のトレーニング信号を送信し、端末装置側でそのトレーニング信号を基にチャネル推定を行い、所定の制御情報を収容した無線パケットを用いて基地局側に直接的にチャネル情報をフィードバックする方法(エクスプリシット・フィードバック法)を用いることも可能である。
同様に、アップリンクで端末装置が所定のトレーニング信号を送信し、基地局側でそのトレーニング信号を基にアップリンクのチャネル推定を行い、得られたアップリンクのチャネル情報を基に所定のキャリブレーション処理の後にダウンリンクのチャネル情報を推定する方法(インプリシット・フィードバック法)を用いることも可能である。
これらのチャネル情報の取得方法の差は、図3のチャネル情報取得回路831の実現方法として様々なバリエーションが有り得るが、本発明はチャネル情報取得回路831にてダウンリンクのチャネル情報の取得が完了した後の処理であるため、従来技術のチャネル情報取得回路831において如何なるチャネル情報の取得方法を用いたとしても、その影響はなく任意のチャネル情報取得方法に本発明は適用可能である。
また以上の説明においては、簡単のため周波数成分を表すk(例えば第kサブキャリア等)を省略したり、更には個別の周波数成分に関する説明も省略されているところがあるが、本発明の想定するシステムは広帯域のシステムであり、チャネル情報や送受信ウエイト、さらには送信信号や受信信号などにおける全ての信号処理は全て周波数軸上で周波数成分毎に個別に規定され処理されるべきものである。各信号処理回路の内部では、例えば送信側におけるIFFT処理の前段までの信号処理(一例としてOFDM変調方式を想定すれば、ビット列のインタリーブ処理、信号点のマッピング、信号の変調処理、送信ウエイトベクトルの乗算などを含む)は全て周波数成分毎に行われるものであり、同様に受信側におけるFFT処理後の信号処理(同じくOFDM変調方式を想定すれば、受信ウエイトの乗算、信号検出処理、信号のデマッピング、デインタリーブ処理など)も全て周波数成分毎に行われるものである。
このため、ダウンリンクにおけるチャネル情報の取得も周波数成分毎に実施され、同様に未来のチャネル情報の予測に関しても周波数成分毎に行うことになる。しかし、本発明のポイントはダウンリンクの送信ウエイトベクトルの決定方法であり、これは全ての周波数成分で同様に実施されるべきものである。したがって、説明を簡略化する上で、多くの説明において周波数成分を明示的に表す添え字を省略して説明していた。しかし、これらの全ての説明は、実際には周波数成分毎に個別に行われるものであり、その際には周波数成分を表す添え字を付加して理解すれば説明を厳密に解釈可能である。
ただし、ダウンリンクのチャネル情報の取得は全周波数成分で個別に行うのが基本であるが、未来のチャネル情報の予測の精度は単純なチャネル情報の取得よりもはるかに低いものとなり、この場合、全ての周波数成分で必ずしも同様の処理を実施する必要はなく、周波数成分をある程度間引いてチャネル予測を行い、冗長ベクトルuは近傍の周波数成分の冗長ベクトルを使いまわしてもそれほど特性が劣化することはない。例えば、未来のチャネル予測を3つの周波数成分に1回行う場合、予測を実施した周波数成分の前後の周波数成分に関しては、予測された冗長ベクトルを活用するという構成であっても構わない。周波数方向の相関がさらに強ければ、より間引いてチャネル予測を行うこととしても構わない。また同様に、間引かれた周波数成分に関してはその前後の処理が実施された周波数成分の冗長ベクトルから内挿補完(ないしは外挿補完でも可)を行うことも当然可能である。
また回路構成上は、それぞれの周波数成分毎に個別の回路を備えてもよいし、同一の処理を実施することから周波数成分毎にシリアルに順番に処理を行い、回路を周波数成分に対して共用化することも可能である。さらには、この中間的に、複数の回路を用意して、周波数成分を適宜分割し、複数の回路でパラレルな処理をシリアルに実施する処理としても構わない。これらは全ての実施形態に共通する話である。
また、本発明の実施形態における端末装置では、送信及び受信アンテナを1素子ずつ備える構成を中心に説明を行ったが、当然ながら複数素子を備えた構成であっても構わない。ここでは、チャネル情報は「ベクトル」として説明を行ってきたが、当然ながら各端末装置は複数本のアンテナ素子を備えることが可能であり、この場合には各端末装置の各アンテナに関するチャネルベクトルがアンテナ本数分組み合わせて「行列」形式となっているだけで、同様にHmainやHsub(ないしはH’sub)を定義すれば同様の処理を行うことができる。
例えば、図1で示した模式図と同様の図10を参照して説明すれば、図1ではベクトルであったh1(t)、h2(t)、・・・hL(t)を行列に対応させ、従来技術ではそれぞれの行ベクトルを並べた全体の行列に対してブロック対角化を行っていた。これに対し本発明の第2の実施形態では、図10の右図の行列H1(t)、H2(t)、・・・HL(t)に対し、その各行ベクトルh11(t)、h12(t)、h21(t)、h22(t)、・・・hL1(t)、hL2(t)ごとに式(18)及び式(15)を適用する。
一例として第1特異値までを利用する場合には、その結果得られた式(15)の右辺の第1右特異ベクトルからu11、u12、u21、u22、・・・uL1、uL2に相当するベクトルをそれぞれ求め、これらに対し同様のブロック対角化を行う。図10に示した通り、例えば第1の端末装置に対しては、Hmainをh11(t)、h12(t)より与え、同様にH’subをh21(t)、h22(t)、u21、u22、・・・hL1(t)、hL2(t)、uL1、uL2より与え、同様のブロック対角化処理を行えばよい。
この場合、例えば基地局側からの送信ウエイトベクトルを形成する際には、ある端末装置宛ての信号のアンテナ素子間の信号分離は不要であり、例えばブロック対角化法などの送信ウエイトベクトル生成法を用い異なる端末装置間の信号分離ができていれば、同一端末装置内の信号分離は端末装置側の信号処理で対処することが可能である。
また、OFDM変調方式では全てのサブキャリアが同一の端末装置との通信に利用されているので、その際の送受信ウエイト(平均化送受信ウエイトベクトル及びリアルタイム送受信ウエイト行列)は全サブキャリアで共通の組み合わせの端末装置に対する送受信ウエイトを用いることになる。しかし、OFDMAでは、時間軸及び周波数軸上にパッチワーク状に異なる組み合わせの端末装置への割り当てを寄せ集めているため、時間(OFDMシンボル)及び周波数(サブキャリア)ごとに、割り当てられている端末装置に対する送受信ウエイトを用いる必要がある。しかし、その差を除けばOFDMとOFDMAとは全く同様に処理することが可能であり、本明細書ではOFDMを中心に説明を行ったが、OFDMAにおいても全く同様に本発明を適用することができる。
また、SC−FDEに関しても様々な運用上のバリエーションが存在するが、送信側で平均化送信ウエイトベクトルを乗算し、各アンテナ素子から送信された信号が空間上で合成された後の受信信号処理、及び受信側で平均化受信ウエイトを乗算し、各アンテナ素子の信号が加算合成された後の受信信号処理のいずれにおいても、上述の各構成例では従来のSC−FDEで行われる処理をそのまま適用する構成としているために、全てのバリエーションのSC−FDEに適用可能である。この場合には、OFDM変調方式の信号処理の代わりにシングルキャリアでの信号処理を行った後、ダウンリンクであればシングルキャリアの時間軸上の信号に対してFFT処理を施すことで各周波数成分毎の信号成分を生成し、これらの信号成分をOFDM変調方式で生成される各サブキャリアの信号と見なして本発明により生成された送信ウエイトベクトルを乗算すれば良い。同様にアップリンクであれば、受信信号をFFT処理した信号をOFDM変調方式の場合と同様に扱い、本発明により生成された送信ウエイトベクトルを乗算することで信号分離するが、その信号分離された周波数成分の信号に対してIFFT処理を施すことで時間軸上のシングルキャリアの信号に変換すれば良い。この様に一部の信号処理にOFDM変調方式とSC−FDEでは差異があるが、送受信ウエイトの生成と乗算処理などは共通であり、これらどちらの信号方式であっても本発明は適用可能である。
また更に、本明細書においては説明の都合上、「行ベクトル」と「列ベクトル」をあまり区別することなく扱っている。例えば、式(3)におけるチャネルベクトルhiは行ベクトルであり、送信ウエイトベクトルwjは列ベクトルであり、ベクトルの並びの方向を統一する厳密な数学上の表記であれは「転置」などの記号などを使って表記すべきである。しかし、本発明の実施において必要な情報はベクトルの各成分の値であり、そのベクトルが行ベクトルか列ベクトルであるかはあまり意味をもたないため、理解の容易さを優先して「行ベクトル」と「列ベクトル」を区別しない説明としている。
また、上記の説明では特異値分解の右特異ベクトルを活用する旨説明をしたが、特異値分解対象の行列を転置した行列を特異値分解した左特異ベクトルは、転置しない行列に対する特異値分解の右特異ベクトルと等価であり、この意味でこの右特異ベクトルに数学的に等価なベクトルを活用する場合も、本発明の意図する範囲となる。
以上説明したように、端末装置自体の移動や周囲変動により電波環境が大きく変動する移動体通信に対しマルチユーザMIMO伝送を適用する場合、時間変動するチャネル情報に基づき送信ウエイトベクトルを生成するため、チャネルベクトルの推定精度が劣化し、ユーザ間干渉が発生する。これに対し、従来技術では、高い頻度でチャネルのフィードバックを行うことによりチャネルベクトルの推定精度改善を図りますが、フィードバックの高頻度化に伴い、MACレイヤの効率が低下し、周波数利用効率が低下するという問題を有していた。
この問題に対して、チャネル予測アルゴリズムにより求めた予測チャネル情報と直近に取得したチャネル情報に基づいて生成した拡張チャネル行列を用い送信ウエイトベクトルを生成し、その送信ウエイトベクトルにより時変動を考慮したヌルを新たに形成することが考えられるが、未来のチャネル情報予測を1点でのみ行うだけでは、適切にヌルを形成出来ない場合がある。
本実施形態では、過去の時変動情報に基づき変動(存在)確立の高い空間を張る基底ベクトルをその重要度情報と共に抽出し、その情報に基づき送信ウエイトベクトルを生成するようにした。この結果、チャネルベクトルが尤もらしく存在する空間を予測することが可能となり、効果的に時変動に対応したヌルを形成するマルチユーザMIMO伝送を行うことが可能となります。
前述した実施形態における基地局装置をコンピュータで実現するようにしてもよい。その場合、この機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでもよい。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよく、PLD(Programmable Logic Device)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェアを用いて実現されるものであってもよい。
以上、図面を参照して本発明の実施の形態を説明してきたが、上記実施の形態は本発明の例示に過ぎず、本発明が上記実施の形態に限定されるものではないことは明らかである。したがって、本発明の技術思想及び範囲を逸脱しない範囲で構成要素の追加、省略、置換、その他の変更を行ってもよい。