近年のインターネットの普及とともに、既に全世帯の90%にも及ぶ世帯で光ファイバを用いた回線が利用可能となっている。このようにブロードバンド化の流れは確実に進展してはいるが、実際には、光回線の敷設による採算が見込めない地域があることから、ブロードバンド・ゼロ地域の解消を如何にして実現するかという問題はなかなか解決する術が見つからない現状がある。このような光回線の敷設による採算が見込めない地域を不採算地域(条件不利地域)という。
このような不採算地域における対策としては、無線回線を利用することが有利とされており、例えば、WiMAX(Worldwide interoperability for microwave access)(登録商標)と呼ばれる無線規格を用いたサービスのための周波数チャネルを10[MHz]確保し、この周波数チャネルを用いたWiMAXサービスを、条件不利地域を中心に適用する「地域WiMAX」と呼ばれる施策が実施されている。この施策に用いられているWiMAXでは、例えば基地局は10[W]程度の大きな送信電力で信号送信を行い、この結果、半径3km程度のエリアを1局でカバーすることが可能となっている。
一般に、見通しがきく環境では送信局と受信局の間での伝搬に伴い受信信号強度は、距離の2乗に反比例する。見通し外の場合には受信信号強度は距離の3〜4乗に反比例するようになり、回線設計上にはより厳しい制限が課せられることになる。仮に見通しを想定したとしても、伝送距離を2倍に伸ばすためには、送信電力を22=4倍にする必要があり、より線形性の高い送信アンプを必要とする。しかし、そのような送信アンプは高価であるとともに、そのような送信アンプを用いると、電力効率は著しく低下するため消費電力は急激に増加してしまう。
近年は特に環境問題が注目され、無線を含めたインフラの低消費電力化が要求されており、高出力の送信アンプを用いた非効率的な通信は好ましくない。このような問題を解決するための方法としては、例えば、非特許文献1に記載のように、複数の中継局を介在させたコヒーレント伝送が有効である。非特許文献1では、中継においては非再生中継を仮定しているが、このコヒーレント伝送のポイントは、中継の形態が「非再生中継」であるか、又は「再生中継」であるかに依存しておらず、あくまでも受信側において各信号が同位相で合成されるように送信することである。このようなコヒーレント伝送を行う場合の別の形態の1つとして、分散アンテナシステムがある。
分散アンテナシステムは、1つの制御局に場所的に分散されて設置された複数のアンテナ(厳密にはアンテナに、光・電気変換や信号増幅等を行う装置が組み合わされた無線モジュールないしはリモート基地局)が接続された構成であり、制御局と各アンテナ間は光ファイバ等で接続される。
また、他の形態として、1つの基地局に複数の中継局が無線接続された構成(無線中継システム)をとることもできる。この場合は、基地局が制御局となり、中継局がアンテナないしは無線モジュールとなり、全体として分散アンテナシステムを構成することになるが、基地局と中継局とが無線により接続される点で異なる構成である。
いずれの場合も、複数のアンテナ(中継局)が受信端末側で各信号が同位相で合成されるように送信するコヒーレント伝送を行う。以下、その詳細な説明を行う。
[従来技術におけるコヒーレント伝送のシステム概要]
(無線中継システム)
図2は、従来技術における無線中継システムの概要を示す図である。
同図に示すように、無線中継システムは、送信局901と、N1個の中継局902−1〜902−N1と、受信局903とを具備している。送信局901は、受信局903宛ての無線パケットを一旦中継局902−1〜902−N1に対して送信する。中継局902−1〜902−N1は、送信局901から受信した信号に対して各種受信信号処理を行い、送信局901が送信した無線パケットを再生(復元)する。次に、各中継局902−1〜902−N1は、再生した同一の無線パケットを同時刻に受信局903に対して送信する。この際、各中継局902−1〜902−N1は、それぞれが送信した信号が受信局903において同一の位相で受信されるように、送信信号の位相を調整する。受信局903では、各中継局902−1〜902−N1から送信された信号全てが伝送路上で合成されて受信される。この際、各中継局902−1〜902−N1から送信された信号が、受信局903において同程度の受信電力で受信されるとするならば、合成された後の信号は、合成される前の信号に対して振幅でN1倍となる。また、受信電力は、振幅の2乗に比例するため(N1)2倍となる。
ここで、無線中継システムにおける中継局902が1局の場合と、N1局の場合とで比較する。評価条件を公平にするために、1局で中継する場合には単一の中継局902が送信電力をPとして送信し、N1局で中継する場合には中継局902−1〜902−N1がそれぞれ送信電力をP/N1として(総送信電力が一定の条件)送信するものとして比較する。N1局の中継局902−1〜902−N1から送信した場合、各中継局902−1〜902−N1から送信された信号は伝送路で合成され、中継局902−1〜902−N1のいずれか1局からの受信信号に比べ、受信局903における受信信号の振幅はN1倍になり、その結果、総受信電力は(N1)2倍となる。しかし、N1局で送信した場合、1つの中継局902当たりの送信電力は、単一の中継局902で送信した場合の1/N1となっている。そのため、受信電力は、(1/N1)×(N1)2=N1倍となる。
つまり、中継局902−1〜902−N1の総送信電力を一定としているにもかかわらず、1局で中継する場合と比較して受信局903における受信電力がN1倍となり、回線利得として10×Log10N1[dB]を稼ぐことが可能になる。
(分散アンテナシステム)
図3は、従来技術における分散アンテナシステムの概要を示す図である。
同図に示すように、分散アンテナシステムは、協調的な通信を行う3つのセル911−1〜911−3を形成するリモート基地局912−1〜912−3と、複数の端末装置913−1〜913−6と、光ファイバ915を介して各リモート基地局912−1〜912−3に接続された制御局914とを具備している。なお、各リモート基地局912−1〜912−3と制御局914とを接続する光ファイバ915は、同軸ケーブルなどであってもよい。また、ここでは3つのセル911−1〜911−3と3つのリモート基地局912−1〜912−3を想定して説明を行うが、一般的には3以外の数であっても良い。
各リモート基地局912−1〜912−3は、それぞれが形成するセル内に位置する各端末装置913−1〜913−6と、同一の周波数チャネルを用いて通信を行う。制御局914は、光ファイバ915を介して、リモート基地局912−1〜912−3を制御する。同一の周波数チャネルを用いた通信を行うため、各端末装置913−1〜913−6は、複数のリモート基地局912−1〜912−3から送信された信号を同時に受信することができる。例えば、端末装置913−4は、全てのリモート基地局912−1〜912−3から信号を受信することができる。
ここで、リモート基地局912−1〜912−3それぞれと端末装置913−4との間のチャネル情報が既知であれば、リモート基地局912−1〜912−3は、それぞれが端末装置913−4宛てに送信する際に、各リモート基地局912−1〜912−3から送信された信号が端末装置913−4において同位相となるように送信ウエイト乗算を施すことができる。この場合、端末装置913−4において受信される信号は、同位相合成されるので受信電力が増加する。その結果、端末装置913−4における通信特性が改善される。このような、同位相合成を行うための信号処理の制御は全て制御局914で実施され、リモート基地局912−1〜912−3は制御局914の指示に従い動作する。
分散アンテナシステムにおいて、制御局914と各リモート基地局912−1〜912−3との間は光ファイバ915で接続されており、この光ファイバ915上で転送される信号を各リモート基地局912−1〜912−3では光/電気変換を行うことで無線回線上において送信する電気信号を生成し、信号増幅などの処理の後にこれをアンテナから送信する。このような制御を利用することで、全てのチャネル情報を把握した制御局914に受信側において同位相合成となるような信号処理の機能を集約し、その結果、各リモート基地局912−1〜912−3における位相制御の不確定性を回避しながら通信品質の向上を図ることを可能としている。
なお、厳密な意味での分散アンテナシステムでは、各リモート基地局912−1〜912−3は同時に複数の端末装置913−1〜913−6と同一周波数上で空間多重を行うマルチユーザMIMO(Multiple Input Multiple Output)技術を利用してさらなる特性改善を図ることができる。マルチユーザMIMO技術を利用する際の制御は、多数の送信アンテナを利用することで、端末側における希望信号の同位相合成と、異なる端末間の干渉信号の除去のためのヌル制御とを両立しているという点を除けば、基本的にはコヒーレント伝送を基礎とした制御である。
[コヒーレント伝送におけるチャネルフィードバックの概要]
コヒーレント伝送を行うためには、送受信局間のチャネルの状態を把握する必要がある。これは、複数の送信局又は中継局から送信された信号が同位相で受信局に届くようにするために、送信局及び中継局において、受信局との間のチャネルの状態を把握し、チャネルの状態に応じた送信ウエイトを用いて信号を送信するためである。
図4は、従来技術におけるチャネルフィードバックの処理を示すフローチャートである。従来技術におけるチャネルフィードバックの方法は大別して2種類の方法がある。ここでは、フォワードリンクのチャネル推定結果を直接取得する「(A)直接的な方法」と、バックワードリンクの情報を用いて換算推定する「(B)間接的な方法」とについて説明する。
一般的には、フォワードリンクとその逆方向のバックワードリンクのチャネル情報は一致しない。それは、フォワードリンクで用いられる送信側のハイパワーアンプと受信側のローノイズアンプの組み合わせと、バックワードリンクで用いられる送信側のハイパワーアンプと受信側のローノイズアンプの組み合わせが異なり、フォワードリンクのチャネル情報とバックワードリンクのチャネル情報との間で複素位相や振幅が異なるからである。
しかし、後述する換算処理(キャリブレーション処理)を実施することで、バックワードリンクのチャネル情報からフォワードリンクの情報を換算推定することが可能である。なお、以降の説明においては、先の説明における「リモート基地局」及び「中継局」を区別しない場合は「無線モジュール」と呼ぶことにする。
図4(A)は、直接的な方法の処理を示すフローチャートである。同図に示すように、直接的な方法では、チャネル情報を推定開始する(ステップS901)と、各無線モジュールから端末装置宛にチャネル推定用のプリアンブル信号などを含む無線パケットを送信する(ステップS902)。
端末装置は、各無線モジュールから送信された無線パケットを受信し、受信した無線パケットに含まれているプリアンブル信号などを用いてチャネル推定を実施する(ステップS903)。端末装置では、このチャネル推定結果を「制御情報収容用の無線パケット」に収容し、無線モジュールに送信する(ステップS904)。
無線モジュールは、端末装置が送信した「制御情報収容用の無線パケット」を受信し、チャネル情報を取得する(ステップS905)。更に、無線モジュールは、受信したチャネル情報をメモリに保存し、チャネル情報に関するデータベースを構築し(ステップS906)、処理を終了する(ステップS907)。
図4(B)は、間接的な方法の処理を示すフローチャートである。同図に示すように、間接的な方法では、チャネル情報を推定開始する(ステップS908)と、端末装置から無線モジュール宛にチャネル推定用のプリアンブル信号などを含む無線パケットを送信する(ステップS909)。
無線モジュールは、端末装置から送信された無線パケットを受信し、無線パケットに含まれているプリアンブル信号などを用いてチャネル推定を実施する(ステップS910)。無線モジュールは、このバックワードリンクにおけるチャネル情報の推定結果に、換算処理を施し、フォワードリンク側のチャネル情報を取得する(ステップS911)。
バックワードリンクにおけるチャネル情報からフォワードリンクにおけるチャネル情報を算出する換算処理は、フォワードリンクにおけるハイパワーアンプと、バックワードリンクにおけるローノイズアンプとの相違を補正する係数を用いることにより実施することが可能である。具体的には、バックワードリンクにおけるチャネル情報に、ハイパワーアンプとローノイズアンプとの相違を補正する係数を乗算することによって、ステップS911における変換処理を実施することができる。
更に、無線モジュールは、端末装置から受信したバックワードリンクにおけるチャネル情報と、変換処理により得られたフォワードリンクにおけるチャネル情報とをメモリに保存し、チャネル情報を記憶するデータベースを構築し(ステップS912)、処理を終了する(ステップS913)。
このようにしてチャネル情報を事前に取得しておき、一般的には実際に通信を行う際にこのチャネル情報を基に送信ウエイトを算出する。なお、チャネル情報は時間とともに変動するため、状況に応じて例えば周期的に更新することが一般的である。また、上記の中でチャネル情報をデータベース化して保存するのは、無線モジュール以外のその他の制御局等で行っても構わない。
また、分散アンテナシステムを例にとれば、この送信ウエイト算出処理は各無線モジュールで個別に行うのではなく、制御局において集中制御的に一括処理を行うことが一般的である。特に、マルチユーザMIMOにより複数の端末装置と同時に同一周波数チャネルで通信を行う際には、全てのチャネル情報を用いなければ送信ウエイトを算出することはできない。ただし、マルチユーザMIMOではなく、1台の端末装置との間での1対1通信を行う場合に限定すれば、チャネル情報から得られる伝送路上での複素位相の回転をキャンセルする送信ウエイト(つまり、全ての無線モジュールでチャネル情報と送信ウエイトを乗算すると複素位相が定数となる)を利用可能であるので、無線モジュールで個別に処理をすることも可能である。
[従来技術におけるコヒーレント伝送の信号処理概要]
従来技術におけるコヒーレント伝送の信号処理について、以下に簡単に説明する。
まず、端末装置に対してコヒーレント伝送を行う無線通信装置の構成について説明する。無線通信装置は、送信を行う機能と、受信を行う機能とを備えるのが一般的で、特にチャネル情報のフィードバックを行う際には両方の機能を同時に利用することになる。ここでは、説明の便宜上、無線通信装置の送信側の機能と、受信側の機能とを分けて説明する。
また、本発明に係わる信号処理は物理層が中心となっており、無線通信装置におけるMAC層以上の上位レイヤの処理はここでは本質的ではない。このため、MAC層以上の信号処理については省略し、送信側及び受信側の装置構成例の右側におけるデータの入出力は、基本的にはMAC層側の機能ブロックとのデータの入出力に相当し、MAC層側の構成はここでは図示せずに省略する。
更には、分散アンテナシステムを例にとる場合には、先にも説明したように、通常は複数の端末局との間で同時に同一周波数軸上における空間多重を行い周波数資源の有効利用を図るが、この空間多重機能に関する説明は後述するマルチユーザMIMO技術の説明において行うものとし、ここでは説明を省略する。
(ダウンリンクにおける送信側の構成例)
図5は、従来技術における無線通信装置のダウンリンクに係る送信側の構成の一例を示す概略ブロック図である。同図に示すように、無線通信装置は、ダウンリンク(フォワードリンク)に係る構成として、制御局装置92と、光ファイバ96−1〜96−N2を介して接続されたリモート基地局としての無線モジュール97−1〜97−N2とを具備している。また、ここではOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing:直交周波数分割多重)変調方式及びSC−FDE(Single Carrier Frequency Domain Equalization:周波数領域等化シングルキャリア伝送)方式を用いる場合を例にとり説明を行う。なお、OFDMA(Orthogonal Frequency Division Multiple Access:直交周波数分割多元接続)方式は、物理レイヤにおける処理は基本的にOFDM変調方式を利用しているため、下記の説明ではOFDMとOFDMAは同等の方式として扱うことにする。
制御局装置92は、送信信号処理回路921、IFFT&GI付与回路922−1〜922−N2、D/A(デジタル/アナログ)変換器923−1〜923−N2、ローカル発振器924、ミキサ925−1〜925−N2、フィルタ926−1〜926−N2、E/O(Electrical/Optical:電気/光)変換器927−1〜927−N2、チャネル情報取得回路941、チャネル情報記憶回路942、及び送信ウエイト算出回路943を備えている。
D/A変換器923−1〜923−N2、ミキサ925−1〜925−N2、フィルタ926−1〜926−N2、及びE/O変換器927−1〜927−N2は、無線モジュール97−1〜97−N2に対応して設けられている。
無線モジュール97−1〜97−N2は、それぞれが同じ構成を有しており、O/E(Optical/Electrical:光/電気)変換器971−1〜971−N2、ハイパワーアンプ(High Power Amplifier:HPA)972−1〜972−N2、及びアンテナ素子973−1〜973−N2を備えている。
送信信号処理回路921は、MAC層側(上位の装置)から送信すべきデータが入力されると、入力されるデータに基づいて無線回線で送信する無線パケットを生成して変調処理を行う。更に、送信ウエイト算出回路943はチャネル情報記憶回路942に記憶されているチャネル情報を基に送信ウエイトを算出し、送信信号処理回路921は、変調処理がなされたベースバンド信号に、送信ウエイト算出回路943が算出した送信ウエイトを乗算し、周波数成分ごとのベースバンドにおける送信信号を生成する。
また、送信信号処理回路921は、生成した周波数成分ごとの送信信号をIFFT&GI付与回路922−1〜922−N2に出力する。IFFT&GI付与回路922−1〜922−N2は各周波数成分の信号を合成し、周波数軸上の信号から時間軸上の信号に変換するとともに、ガードインターバルを付与する。このように処理された時間軸上の信号は、各無線モジュール97−1〜97−N2において送信する送信信号として、無線モジュール97−1〜97−N2に対応するD/A変換器923−1〜923−N2に出力される。
D/A変換器923−1〜923−N2は、それぞれが送信信号処理回路921から入力される送信信号(デジタル・サンプリングデータ)からベースバンドのアナログ信号に変換してミキサ925−1〜925−N2に出力する。
ミキサ925−1〜925−N2は、ローカル発振器924から入力される局部発振信号と、D/A変換器923−1〜923−N2から入力されるアナログ信号とを乗算して、無線周波数の信号にアップコンバートする。
ミキサ925−1〜925−N2がアップコンバートした信号には、送信すべきチャネルの帯域外の周波数成分の信号が含まれている。フィルタ926−1〜926−N2は、ミキサ925−1〜925−N2がアップコンバートした信号から、送信すべきチャネルの帯域外の成分を除去して、送信すべき電気的な信号を生成する。
E/O変換器927−1〜927−N2は、フィルタ926−1〜926−N2が生成した電気的な信号を光信号に変換し、光ファイバ96−1〜96−N2を介して無線モジュール97−1〜97−N2に送信する。無線モジュール97−1〜97−N2に送信する信号を、E/O変換器927−1〜927−N22を用いて光信号に変換することにより、信号のレベル損失やノイズ混入を防ぐことができる。
チャネル情報取得回路941は、無線モジュール97−1〜97−N2それぞれと、不図示の端末装置との間の各周波数成分のチャネル情報を取得し、取得したチャネル情報をチャネル情報記憶回路942に記憶させる。
送信ウエイト算出回路943は、信号送信の都度、チャネル情報記憶回路942から読み出したチャネル情報に基づいて、各周波数成分の送信ウエイトを算出する。
各無線モジュール97−1〜97−N2において、O/E変換器971−1〜971−N2は、制御局装置92から受信した光信号を電気信号に変換して、ハイパワーアンプ972−1〜972−N2に出力する。ハイパワーアンプ972−1〜972−N2は、O/E変換器971−1〜971−N2から出力された電気信号を増幅し、アンテナ素子973−1〜973−N2を介して不図示の端末装置に送信する。
ここで、無線通信装置の重要な特徴は、単一のローカル発振器924が出力する局部発振信号を各ミキサ925−1〜925−N2に入力している点である。単一のローカル発振器924から出力された局部発振信号を各ミキサ925−1〜925−N2において用いることにより、各ミキサ925−1〜925−N2に入力される信号の相対的な位相関係は常に固定的(ほぼ同位相)になる。したがって、各無線モジュール97−1〜97−N2間相互の位相の不確定性が回避されることから、受信側の端末装置で同位相合成となる送信ウエイト乗算処理が容易になる。
図6は、従来技術における無線通信装置による送信処理の一例を示すフローチャートである。無線通信装置において、チャネル情報取得回路941は、図4に示した手順で、送信処理とは別の機会に逐次、ダウンリンクのチャネル情報を取得し(ステップS928)、この取得されたチャネル情報はチャネル情報記憶回路942に記憶される(ステップS929)。
このダウンリンクのチャネル情報を取得及び記憶する処理は定期的に行われ、常に最新のチャネル情報がチャネル情報記憶回路942に記憶されている。
一方、各無線モジュール97−1〜97−N2から端末装置に向けての信号の送信に際して、無線通信装置は、送信処理を開始すると(ステップS921)、制御局装置92において送信信号処理回路921が各周波数成分の送信信号を生成する(ステップS922)。同時に、宛先局を指示してチャネル情報記憶回路942に記憶されているアンテナ素子973−1〜973−N2それぞれと宛先局の端末装置との組み合わせに対応するチャネル情報の読出しを行い、送信ウエイト算出回路943にて送信ウエイトを算出する(ステップS930)。
また、送信信号処理回路921は、送信ウエイト算出回路943が算出した送信ウエイトを送信信号に周波数成分ごとに乗算する(ステップS923−1〜S923−N2)。
また、送信信号処理回路921と、IFFT&GI付与回路922−1〜922−N2からE/O変換器927−1〜927−N2とは、各周波数成分の信号の合成(IFFT処理)を含む各種送信信号処理を施して(ステップS924−1〜S924−N2)、各無線モジュール97−1〜97−N2に光ファイバ96−1〜96−N2を介して転送する(ステップS925−1〜S925−N2)。
各無線モジュール97−1〜97−N2は、制御局装置92から転送された信号を各アンテナ素子973−1〜973−N2を介して送信し(ステップS926−1〜S926−N2)、送信処理を終了させる(ステップS927−1〜S927−N2)。
以上の説明では、制御局装置92において、ステップS923−1〜S923−N2と、ステップS924−1〜S924−N2との処理を行う場合について説明した。しかし、ステップS922で生成した送信信号を各無線モジュール97−1〜97−N2に転送し(ステップS925−1〜S925−N2に相当)、その後に、ステップS923−1〜S923−N2と、ステップS924−1〜S924−N2との処理を行うようにしてもよい。すなわち、無線モジュール97−1〜97−N2において、ステップS923−1〜S923−N2と、ステップS924−1〜S924−N2との処理を行うようにしてもよい。ただし、この場合にはミキサ925−1〜925−N2に入力する局部発振信号の位相の不確定性を補償する工夫を別途行う必要があるため、相互に周波数誤差や複素位相の不確定性をもたない共通の局部発振信号をアップコンバートに利用することが基本的な構成となる。
(アップリンクにおける受信側の構成例)
図7は、従来技術における無線通信装置のアップリンクに係る受信側の構成の一例を示す概略ブロック図である。同図に示すように、無線通信装置は、アップリンク(バックワードリンク)に係る構成として、ダウンリンクに係る構成と同様に、制御局装置92と、光ファイバ96−1〜96−N2を介して接続されたリモート基地局としての無線モジュール97−1〜97−N2とを具備している。
制御局装置92は、図5に示した構成に加えて、O/E変換器931−1〜931−N2、ミキサ932−1〜932−N2、ローカル発振器933(ローカル発振器924と共用することも可能)、フィルタ934−1〜934−N2、A/D(Analogue/Digital:アナログ/デジタル)変換器935−1〜935−N2、FFT回路936−1〜936−N2、チャネル情報推定回路937、受信ウエイト算出回路938、及び受信信号処理回路939を更に備えている。
無線モジュール97−1〜97−N2は、図5に示した構成に加えて、ローノイズアンプ(Low Noise Amplifier:LNA)974−1〜974−N2、及びE/O変換器975−1〜975−N2を備えている。
各無線モジュール97−1〜97−N2において、ローノイズアンプ974−1〜974−N2は、アンテナ素子973−1〜973−N2を介して受信した信号を増幅してE/O変換器975−1〜975−N2に出力する。
E/O変換器975−1〜975−N2は、ローノイズアンプ974−1〜974−N2から入力された電気的な信号を光信号に変換して、光ファイバ96−1〜96−N2を介して制御局装置92に送信する。
制御局装置92において、O/E変換器931−1〜931−N2は、無線モジュール97−1〜97−N2から受信した光信号を電気信号に変換してミキサ932−1〜932−2に出力する。
ミキサ932−1〜932−N2は、O/E変換器931−1〜931−N2から出力される電気信号と、ローカル発振器933から出力される局部発振信号とを乗算し、無線周波数の信号からベースバンドの信号にダウンコンバートする。
ミキサ932−1〜932−N2においてダウンコンバートされた信号には、受信すべきチャネルの帯域外の周波数成分も含まれる。そこで、フィルタ934−1〜934−N2は、ミキサ932−1〜932−N2においてダウンコンバートされた信号から、受信すべきチャネルの帯域外の周波数成分を除去する。
A/D変換器935−1〜935−N2は、フィルタ934−1〜934−N2により帯域外の周波数成分が除去された信号を、デジタル・ベースバンド信号に変換してFFT回路936−1〜936−N2に出力する。FFT回路936−1〜936−N2は、A/D変換器935−1〜935−N2から入力されるデジタル・ベースバンド信号を周波数成分ごとに信号に分離する。この際、FFT回路936−1〜936−N2は、各周波数成分の信号に対して、OFDMシンボルごとにガードインターバルを除去し、残りのサンプリングデータに対してFFT処理を施し、時間軸上の信号を周波数軸上の信号に変換する。
FFT回路936−1〜936−N2により変換された周波数軸上の信号は、受信信号処理回路939に集約され、ここで周波数成分ごとに所定の受信ウエイトが乗算され、更に合成される。受信信号処理回路939は、OFDM(A)変調方式が用いられている場合、信号に対してサブキャリアごとの復調処理を行い、SC−FDE方式が用いられている場合、各周波数成分の信号に対し周波数軸上での信号等化処理を施し、その信号をIFFT処理で合成した信号に対する復調処理を行う。これらの復調処理によって再生されたデータをMAC層側に出力する。
ここで、受信信号処理回路939で用いられる受信ウエイトは、上述の信号処理とは別の処理により取得する。具体的には、FFT回路936−1〜936−N2により変換された周波数軸上の信号は、チャネル情報推定回路937にも出力される。
チャネル情報推定回路937は、入力されたデジタル・ベースバンド信号に含まれるチャネル推定用の信号に基づいて、各無線モジュール97−1〜97−N2それぞれと端末装置との間のチャネル情報を周波数成分ごとに推定し、推定したチャネル情報を受信ウエイト算出回路938に出力する。
受信ウエイト算出回路938は、チャネル情報推定回路937から出力されたチャネル情報に基づいて、受信ウエイトを算出して受信信号処理回路939に出力する。
なお、ここでは信号受信時に取得するチャネル情報に基づいて受信ウエイトを算出することを明示するために、チャネル情報推定回路937及び受信ウエイト算出回路938を受信信号処理回路939と別に示した。しかし、受信信号処理回路939が、チャネル情報推定回路937及び受信ウエイト算出回路938を含む構成としてもよい。すなわち、チャネル情報推定回路937及び受信ウエイト算出回路938は、受信信号処理回路939の機能の一部とみなすことも可能である。なお、ここでは説明を省略したが、受信した信号のシンボルタイミングを検出する処理などその他の細かな機能も、チャネル情報推定回路937ないしは受信信号処理回路939などに含まれて、全体としての信号処理を実現している。
無線通信装置では、ダウンリンクに係る構成と同様に、一つのローカル発振器933から出力される局部発振信号を各ミキサ932−1〜932−N2に入力している。これにより、各ミキサ932−1〜932−N2に入力される局部発振信号の相対的な位相関係は常に固定的(ほぼ同位相)になる。ただし、アップリンクに係る構成に関して、ミキサ932−1〜932−N2においてダウンコンバートが行われた後の信号に対して、チャネル情報推定回路937がチャネル情報の推定を行うので、仮にローカル発振器933からの局部発振信号の位相関係が異なっていても、その影響を除去した受信信号処理を行うことは原理的には可能である。
なお、無線モジュール97−1〜97−N2ごとに個別のローカル発振器を用いるような構成では、ローカル発振器ごとに周波数誤差が生じることを避けられないため、時間とともに無線モジュール97−1〜97−N2ごとに独立で異なる位相の回転が加わり、その影響を除去することが困難となる。したがって、アップリンクに係る構成においても、相互に周波数誤差や複素位相の不確定性をもたない共通の局部発振信号をダウンコンバートに利用することが基本的な構成となる。
図8は、従来技術における無線通信装置による受信処理の一例を示すフローチャートである。同図に示す各ステップのうち、ステップS931−1〜S931−N2からステップS934−1〜S934−N2の処理は、各無線モジュール97−1〜97−N2で受信した信号に対して個別に行われる処理である。これに対して、ステップS936〜S937の処理は、ステップS931−1〜S931−N2からステップS934−1〜S934−N2の処理の結果を受信信号処理回路939に集約して行う処理である。
各無線モジュール97−1〜97−N2は信号を受信する(ステップS931−1〜S931−N2)。ここでの受信とは、受信した信号(ないしはそれをダウンコンバートした信号)に対してアナログ/デジタル変換を施す処理まで含み、以降の信号処理はこれらのデジタル化された受信信号に対しする処理を意味する。すなわち、各無線モジュール97−1〜97−N2のアンテナ素子973−1〜973−N2において受信された信号が制御局装置92に転送され、A/D変換器935−1〜935−N2によりデジタル化されるまでの処理を意味する。
制御局装置92において、FFT回路936−1〜936−N2は、無線モジュールにおいて受信された各信号を周波数成分ごとに分離するためにFFT処理を実施する(ステップS932−1〜932−N2)。周波数成分ごとに分離された信号は、チャネル情報推定回路937及び受信信号処理回路939に出力される。チャネル情報推定回路937は、各無線モジュール97−1〜97−N2の受信信号に含まれる無線パケットに付与されていた既知のパターンからなるプリアンブル信号に基づいて、周波数成分ごとにチャネル推定を実施する(ステップS933−1〜933−N2)。すなわち、チャネル情報推定回路937は、周波数成分ごとに伝送路上での信号の減衰、及び複素位相の回転状態を把握し、信号の減衰及び複素位相の回転状態を示すチャネル情報を受信ウエイト算出回路938に出力する。
受信ウエイト算出回路938は、チャネル情報推定回路937から出力される無線モジュール97−1〜97−N2において受信した信号に対する周波数成分ごとのチャネル情報に基づいて、各周波数成分の受信ウエイトを算出し(ステップS935)、更にこの算出された受信ウエイトを受信信号処理回路939に出力する。
一方、受信信号処理回路939は、受信ウエイト算出回路938が算出した受信ウエイトを、FFT回路936−1〜936−N2から入力されるデジタル・ベースバンド信号を各周波数成分に分離した信号に対し、周波数成分ごとに乗算し(ステップS934−1〜934−N2)、各アンテナ素子に対する乗算結果を周波数成分ごとに加算合成し(ステップS936)、加算合成された信号に対して通常の受信信号処理を実施し(ステップS937)、処理を終了する(ステップS938)。
[フェーズドアレーアンテナ技術について]
なお、コヒーレント伝送と類似の技術として、多数のアンテナ素子を用いたフェーズドアレーアンテナ技術がある(例えば、非特許文献3)。
図9は、フェーズドアレーアンテナの原理を示す図である。同図には、5つのアンテナ素子961−1〜961−5が、互いに間隔dを隔てて直線状に配置されているフェーズドアレーアンテナが示されている。フェーズドアレーアンテナにおいてアンテナ素子961−1〜961−5の配列方向に対して角度θ方向の指向性を形成する場合、その方向に対してアンテナ素子961−1〜961−5ごとの経路長差がdCosθであることを考慮して、同位相合成するように各アンテナ素子961−1〜961−5を用いて送受信する信号それぞれに対して調整を行えばよい。
ここで、送受信する信号の波長がλである場合、隣接するアンテナ素子961−1〜961−5間で((2πdCosθ)/λ)ずつ位相をずらした信号を出力することにより、角度θ方向に対して指向性を形成することができる。この位相差((2πdCosθ)/λ)は、送受信する信号にアナログ的に移相器を用いて与えてもよいし、デジタル信号処理において与えてもよい。
フェーズドアレーアンテナでは、このようにして、所定の角度方向に対するアンテナ利得を稼ぐことができる。なお、一般には、指向性利得が最大となるメインローブ方向の周りに細かな利得のうねりを示すサブローブが生じるため、その影響を低減しメインローブを安定的に運用するために、アンテナ素子961−1〜961−5の間隔dをλ/2以下にする。
ただし、波長λに対しアンテナ素子961−1〜961−5間隔が短くなるにつれ、アンテナ素子961−1〜961−5同士の素子間結合や様々な要因により、単純な同位相合成の場合に比べ大幅に利得は低減する。この場合、個々のアンテナ素子961−1〜961−5から送受信される信号は、送受信点において独立な波として振幅を単純に加算できる波動と異なり、あたかも多数のアンテナ素子961−1〜961−5全体で一つの仮想的なアンテナ素子を構成し、その仮想的なアンテナ素子から一つの信号(波動)を送信するといった振る舞いとなる。この点で、単純な同位相合成が成り立つコヒーレント伝送とは異なる現象と見ることができる。
[マルチユーザMIMO技術について]
(マルチユーザMIMOの概要)
コヒーレント伝送や、フェーズドアレーアンテナ技術は、基本的に回線利得を改善する技術であり、広域のサービスエリアを一つの基地局でカバーする際の回線容量を増大させるためには、別の無線通信技術が必要となる。一方で周波数資源は限りがあるために、ここでは限られた資源を高い周波数利用効率で利用するための技術として、例えば非特許文献4にて検討されているマルチユーザMIMO技術について説明をする。
図10は、マルチユーザMIMOシステムの構成例を示す概略図である。同図に示すように、マルチユーザMIMOシステムは、基地局装置801と、端末装置802−1、802−2、802−3(端末装置#1〜#3)とを具備している。実際に一つの基地局装置801が収容する端末装置802の数は多数であるが、そのうちの数局を選び出し(同図では端末装置802−1〜802−3)、通信を行う。各端末装置802は、基地局装置801と比較して送受信アンテナ数が一般に少ない。例えば、基地局装置801から端末装置802への通信(ダウンリンク)を行う場合について説明する。
基地局装置801は、多数のアンテナ素子を用いて複数の指向性ビームを形成する。例えば、各端末装置802−1〜803に対してそれぞれ3つのMIMOチャネルを割り当て、全体として9系統の信号系列を送信する場合を考える。その際、端末装置802−1に対して送信する信号は、端末装置802−2及び端末装置802−3方向には指向性利得が極端に低くなるように調整し、この結果として端末装置802−2及び端末装置802−3への干渉を抑制する。同様に、端末装置802−2に対して送信する信号は、端末装置802−1及び端末装置802−3方向には指向性利得が極端に低くなるように調整する。同様の処理を端末装置802−3にも施す。このように指向性制御を行う理由は、例えば端末装置802−1においては、端末装置802−2及び端末装置802−3で受信した信号の情報を知る術がないため、端末装置802間での協調的な受信処理ができない。つまり、3本しかない端末装置802−1のみの受信処理において、9系統の全ての信号系列を信号分離することは非常に厳しい。そこで、各端末装置802−1〜802−3には他の端末装置802の信号が受信されないように、送信側で干渉分離を事前に行う。
以上が既存のマルチユーザMIMOシステムの概要である。次に、指向性ビームの形成方法について、以下に説明を加える。ここでは、基地局装置801が9つのアンテナ素子を備え、各端末装置802−1〜802−3が3つのアンテナ素子を備える場合について説明する。例えば、図10において、基地局装置801の第j(j=1,…,9)のアンテナ素子と、端末装置802−1の第1のアンテナ素子との間のチャネル情報をh1jと表記する。基地局装置801の各アンテナ素子(j=1,…,9)と、端末装置802−1の第1のアンテナ素子とのチャネル情報を用いて行ベクトルh1を(h11,h12,h13,…,h18,h19)と表記する。同様に、基地局装置801の第jのアンテナ素子と、端末装置802−1の第2のアンテナ素子及び第3のアンテナ素子との間のチャネル情報をh2j及びh3jと表記し、対応する行ベクトルh2及びh3を(h21,h22,h23,…,h28,h29)及び(h31,h32,h33,…,h38,h39)と表記する。端末装置802−2及び端末装置802−3のアンテナ素子に対して同様の連番をふり、行ベクトルh4〜h9を(h41,h42,h43,…,h48,h49)〜(h91,h92,h93,…,h98,h99)と表記する。
加えて、基地局装置801が送信する9系統の信号をt1〜t9と表記し、これを成分とする列ベクトルをTx[all]=(t1,t2,t3,…,t8,t9)Tと表記する。ここで、右肩のTの文字はベクトル、行列の転置を表す。また同様に、端末装置802−1〜80−3の9本のアンテナ素子での受信信号をr1〜r9と表記し、これを成分とする列ベクトルをRx[all]=(r1,r2,r3,…,r8,r9)Tと表記する。最後に、行ベクトルh1〜h9を第1から第9行成分とする行列を、全体チャネル情報行列H[all]と表記する。
この場合、マルチユーザMIMOシステム全体として、次式(1)の関係が成り立つ。
これに対し送信指向性制御を行うため、9行9列の送信ウエイト行列Wを導入し、式(1)を次式(2)のように書き換える。
更に、送信ウエイト行列Wを列ベクトルw1〜w9に分解し、W=(w1,w2,w3,…,w8,w9)と表記すると、式(2)における「H[all]・W」を次式(3)のように表せる。
ここで、例えば6つの行ベクトルh4〜h9と、3つの列ベクトルw1〜w3との乗算(各成分の乗算したものの総和、複素ベクトルの場合は内積とは異なる)が全てゼロになるように、w1〜w3の値を選ぶことを考える。同時に、行ベクトルh1〜h3及びh7〜h9と列ベクトルw4〜w6との乗算、行ベクトルh1〜h6と列ベクトルw7〜w9との乗算が全てゼロになるように、w4〜w9の値を選ぶことにする。
すると、式(3)に示す9行9列の行列H[all]・Wは、3行3列の部分行列を用いて、次式(4)のように表すことができる。
式(4)において、H[1]、H[2]、及びH[3]は3行3列の行列であり、「0」は成分が全てゼロの3行3列の行列である。このような条件を満たす変換行列を送信ウエイト行列Wに選択することで、式(4)は次式(5−1)〜式(5−3)で表される3つの関係式に分解できる。
ここで、Tx[1]=(t1,t2,t3)T、Tx[2]=(t4,t5,t6)T、Tx[3]=(t7,t8,t9)T、Rx[1]=(r1,r2,r3)T、Rx[2]=(r4,r5,r6)T、Rx[3]=(r7,r8,r9)Tとした。このようにして、一つの基地局が1対1でMIMO通信を行う、いわゆるシングルユーザMIMO通信が3系統、同時並行的に通信を行っている状態とみなすことができるようになる。
次に、送信ウエイトベクトルw1〜w9の決定方法の例を以下に説明する。手順としては、端末装置802−1に対する送信ウエイトベクトルw1〜w3を決定し、順次、端末装置802−2に対する送信ウエイトベクトルw4〜w6、端末装置802−3に対する送信ウエイトベクトルw7〜w9を決定する。
まず、第1ステップとして、端末装置802−2、802−3に対する6つの行ベクトルh4〜h9が張る6次元部分空間における6つの基底ベクトルe4〜e9を求める。求める方法は、グラムシュミットの直交化法の他、様々な方法があるが、ここでは例としてグラムシュミットの直交化法を例に説明する。
まず、一つの行ベクトルh4に着目し、この方向で絶対値が1のベクトルを基底ベクトルe4とする。基底ベクトルe4は次式(6)として表される。
式(6)における(h4h4 H)は同一ベクトルの絶対値の2乗を意味するスカラー量であり、この値の平方根での除算は行ベクトルh4を規格化することを意味する。また、「h4 H」は、行ベクトルh4に対するエルミート共役ベクトルであり、行と列を転置し且つ各成分の複素共役を取ることで得られるベクトルである。
次に、行ベクトルh5に着目し、この行ベクトルの中から基底ベクトルe4方向の成分をキャンセルした行ベクトルh5’を求めた後、更に規格化する。行ベクトルh5’と基底ベクトルe5とは、次式(7−1)及び式(7−2)で表される。
式(7−2)における(h5e4 H)は、行ベクトルh5の基底ベクトルe4方向への射影を意味する。同様の処理を次式(8−1)及び次式(8−2)のように行う。
ここで、式(8−1)におけるΣの総和の範囲は、4≦i≦(j−1)(jは5〜9の整数)の整数iに対する総和となっている。つまり、既に確定した規定ベクトル方向の成分をキャンセルすることを意味する。このようにして、6つの基底ベクトルe4〜e9を求めることができる。
次に、第2ステップとして、端末装置802−1に対する送信ウエイトベクトルw1〜w3を求める。まず、行ベクトルh1〜h3から、基底ベクトルe4〜e9が張る6次元部分空間の成分をキャンセルする。具体的には、次式(9)で表される。
ここで、式(9)におけるjは1〜3の整数であり、Σの総和の範囲は4≦i≦9の整数iに対する総和となっている。このようにして求めた行ベクトルh1’〜h3’の3つのベクトルが張る3次元空間は上述の行ベクトルh4〜h9のいずれとも直交している。この3次元空間内の3つのベクトル(必ずしも直交ベクトルである必然性はない)を選び、そのベクトルの複素共役ベクトルを送信ウエイトベクトルw1〜w3として設定すれば、他の端末装置802−2、802−3への干渉を抑圧することができる。
なお、3つのベクトルの選び方は如何なる方法でも構わないが、例えば特異値分解を行って得られるユニタリー行列を構成する3つの直交ベクトルを用いれば、他の端末装置802に干渉を与えない部分空間内に限定された固有モード伝送が可能になり、効率的な伝送が可能になる。
最後に、第3ステップとして、これと同様の処理を端末装置802−2、端末装置802−3に対しても行えば、最終的に全体の送信ウエイトベクトルw1〜w9を求めることができる。
以上が送信ウエイト行列Wの求め方である。
図11は、マルチユーザMIMOシステムにおける送信ウエイト行列Wを算出する手順を示すフローチャートである。まず、送信ウエイト行列Wの算出にあたり、全ての端末装置802へのチャネル情報行列Hを取得する(ステップS801)。宛先とする端末装置802に対して通し番号を付与し、その通し番号を示す変数をkとした場合、まずkを初期化する(ステップS802)。更に、kをカウントアップし(ステップS803)、現在のkが示す値に対応する端末装置802(#1)に対する部分チャネル情報(ここでは便宜上、Hmainと表記する。)を抽出し(S804)、それ以外の宛先の端末装置802に対する部分チャネル情報行列(ここでは便宜上、Hsubと表記する。)を抽出する(ステップS805)。
更に、部分チャネル行列Hsubの各行ベクトルが張る部分空間の直交基底ベクトルを算出し、これを基底ベクトル{ej}と置く(ステップS806)。次に、式(9)に相当する処理として、着目している端末装置802(#1)に対する部分チャネル情報行列HmainからステップS806において求めた基底ベクトル{ej}に関する成分をキャンセルし、これを行列〜Hmainとする(ステップS807)。ここで、ステップS807において、「〜(チルダ)」が上に付されたHを「〜H」と表記する。以下、数式等においても同様に、「^(ハット)」などの記号が文字の上に付されている文字を表記する場合、当該記号を文字の前に表記する。
更に、行列〜Hmainの行ベクトルが張る部分空間の任意の直交基底ベクトルを算出し、これを基底ベクトル{ei}とする(ステップS808)。ここで、任意の基底ベクトルとは、例えば行列〜Hmainを特異値分解した際の右特異行列を構成するベクトルなどを選んでもよい。その後、基底ベクトル{ei}の各ベクトルのエルミート共役ベクトル(複素共役ベクトルを転置した列ベクトル)として、端末装置802(#1)の信号に関する送信ウエイトベクトル{wj}を決定する(ステップS809)。
ここで、全ての宛先の端末装置802の送信ウエイトベクトルを決定済みか否かを判定し(ステップS810)、残りの端末装置802があれば、ステップS803からステップS809までの処理を繰り返す。全ての端末装置802の送信ウエイトベクトルを決定済みであれば、送信ウエイトベクトル{wj}を各列ベクトルとする行列として送信ウエイト行列Wを決定し(ステップS811)、処理を終了する。
なお、チャネル情報は一般的には周波数成分ごとに異なるため、広帯域の信号、例えばOFDM変調方式を用いた信号であれば、周波数成分ごと、すなわちサブキャリアごとに同様の送信ウエイトを算出することになる。またここでは、端末装置802−1〜802−3がそれぞれアンテナを3素子ずつ備えている場合を例に取り説明したため、ステップS808にて〜Hmainの各行ベクトルが張る部分空間の直交基底ベクトルを算出する処理を含んでいたが、端末装置が1本のアンテナのみを備える場合には、ステップS808は単に〜Hmainに相当する行ベクトルを規格化することに対応する。
(マルチユーザMIMOの装置構成例)
図12は、マルチユーザMIMOシステムにおける基地局装置80の構成の一例を示す概略ブロック図である。同図に示すように、基地局装置80は、送信部81、受信部85、インタフェース回路87、MAC層処理回路88、及び通信制御回路820を備えている。MAC層処理回路88はスケジューリング処理回路881を有している。
基地局装置80は、インタフェース回路87を介して、外部機器ないしはネットワークとのデータの入出力を行う。インタフェース回路87は、入力されるデータのうち、無線回線上で転送すべきデータを検出し、検出したデータをMAC層処理回路88に出力する。MAC層処理回路88は、基地局装置80全体の動作の管理制御を行う通信制御回路820の指示に従い、MAC層に関する処理を行う。ここで、MAC層に関する処理には、インタフェース回路87で入出力されるデータと、無線回線上で送受信されるデータの変換、MAC層のヘッダ情報の付与などが含まれる。この処理の中で、スケジューリング処理回路881は、マルチユーザMIMO伝送において同時に空間多重を行う端末装置の組み合わせを含む各種スケジューリング処理を行う。スケジューリング処理回路881は、スケジューリング結果を通信制御回路820に出力する。
マルチユーザMIMOでは、複数の端末装置宛に一度に信号を送信するため、複数系統の信号系列がMAC層処理回路88から送信部81に出力される。
図13は、マルチユーザMIMOシステムにおける基地局装置80における送信部81の構成の一例を示す概略ブロック図である。同図に示すように、送信部81は、送信信号処理回路811−1〜811−L(Lは2以上の整数)と、加算合成回路812−1〜812−K(Kは2以上の整数)と、IFFT&GI付与回路813−1〜813−Kと、D/A変換器814−1〜814−Kと、ローカル発振器815と、ミキサ816−1〜816−Kと、フィルタ817−1〜817−Kと、ハイパワーアンプ(HPA)818−1〜818−Kと、アンテナ素子819−1〜819−Kと、送信ウエイト処理部830とを備えている。送信信号処理回路811−1〜811−Lと、送信ウエイト処理部830とは、図12において示した通信制御回路820に接続されている。
送信ウエイト処理部830は、チャネル情報取得回路831と、チャネル情報記憶回路832と、マルチユーザMIMO(MU−MIMO)送信ウエイト算出回路833とを備えている。
ここで、同図における送信信号処理回路811−1〜811−Lの添え字のLは、同時に空間多重を行う多重数を表す。また、加算合成回路812−1〜812−Kからアンテナ素子819−1〜819−Kまでの回路の添え字のKは、基地局装置80が備えるアンテナ系統数を表す。
マルチユーザMIMOでは、複数の端末装置宛に一度に信号を送信するため、複数系統の信号系列がMAC層処理回路88から送信部81に入力され、入力された複数系統の信号系列が送信信号処理回路811−1〜811−Lに入力される。送信信号処理回路811−1〜811−Lは、宛先の端末装置それぞれに送信すべきデータ(データ入力#1〜#L)がMAC層処理回路88から入力されると、無線回線で送信する無線パケットを生成して変調処理を行う。ここで、例えばOFDM変調方式を用いるのであれば、各信号系列の信号は周波数成分ごとに変調処理が行われる。更に、変調処理がなされたベースバンド信号に周波数成分ごとに送信ウエイトを乗算する。各アンテナ素子819−1〜819−Kに対応した送信ウエイトが乗算された信号は、必要に応じて残りの信号処理が施され、ベースバンドにおける送信信号のサンプリングデータとして加算合成回路812−1〜812−Kに入力される。
加算合成回路812−1〜812−Kに入力された信号は、周波数成分ごとに合成される。合成された信号は、IFFT&GI付与回路813−1〜813−Kにて周波数軸上の信号から時間軸上の信号に変換され、更にガードインターバルの挿入やOFDMシンボル間(SC−FDEであればブロック伝送のブロック間)の波形整形等の処理が行われ、アンテナ素子819−1〜819−Kごとに、D/A変換器814−1〜814−Kでデジタル・サンプリングデータからベースバンドのアナログ信号に変換される。更に、各アナログ信号は、ローカル発振器815から入力される局部発振信号と、ミキサ816−1〜816−Kで乗算され、無線周波数の信号にアップコンバートされる。ここで、アップコンバートされた信号には、送信すべきチャネルの帯域外の周波数成分に信号が含まれるため、フィルタ817−1〜817−Kで帯域外の周波数成分を除去し、送信すべき電気的な信号を生成する。生成された信号は、ハイパワーアンプ818−1〜818−Kで増幅され、アンテナ素子819−1〜819−Kより送信される。
なお、図13では、各周波数成分の信号の加算合成を加算合成回路812−1〜812−Kで実施した後に、IFFT処理、ガードインターバルの挿入、波形整形等の処理を行っているが、送信信号処理回路811−1〜811−Lにてこれらの処理を行い、IFFT&GI付与回路813−1〜813−Kを省略する構成としてもよい。この場合、送信信号処理回路811−1〜811−Lにおける送信ウエイト乗算後の必要に応じた残りの信号処理とは、IFFT処理、ガードインターバルの挿入、波形整形等の処理をさす。
なお、送信信号処理回路811−1〜811−Lで乗算される送信ウエイトは、信号送信処理時に、送信ウエイト処理部830に備えられているマルチユーザMIMO送信ウエイト算出回路833より取得する。送信ウエイト処理部830では、チャネル情報取得回路831で別途チャネル情報を取得しておき、これを逐次更新しながら、チャネル情報記憶回路832に記憶する。信号の送信時にマルチユーザMIMO送信ウエイト算出回路833は、宛先局に対応したチャネル情報をチャネル情報記憶回路832から読み出し、読み出したチャネル情報を基に送信ウエイトを算出する。マルチユーザMIMO送信ウエイト算出回路833は、算出した送信ウエイトを送信信号処理回路811−1〜811−Lに出力する。
また、宛先局の管理や、全体のタイミング制御など、全体の通信に係る制御を通信制御回路820が管理する。上述の送信ウエイトの算出に係る信号処理を行う送信ウエイト処理部830に対し、通信制御回路820は宛先局等を示す情報を出力する。
図14は、マルチユーザMIMOシステムにおける基地局装置80における受信部85の構成の一例を示す概略ブロック図である。同図に示すように、基地局装置80は、アンテナ素子851−1〜851−Kと、ローノイズアンプ(LNA)852−1〜852−Kと、ローカル発振器853と、ミキサ854−1〜854−Kと、フィルタ855−1〜855−Kと、A/D変換器856−1〜856−Kと、FFT回路857−1〜857−Kと、受信信号処理回路858−1〜858−Lと、受信ウエイト処理部860とを備えている。受信信号処理回路858−1〜858−Lと、受信ウエイト処理部860とは、図12において示した通信制御回路820に接続されている。
受信ウエイト処理部860は、チャネル情報推定回路861と、マルチユーザMIMO(MU−MIMO)受信ウエイト算出回路862とを備えている。
アンテナ素子851−1〜851−Kで受信した信号をローノイズアンプ852−1〜852−Kで増幅する。増幅された信号とローカル発振器853から出力される局部発振信号とがミキサ854−1〜854−Kで乗算され、増幅された信号は無線周波数の信号からベースバンドの信号にダウンコンバートされる。ダウンコンバートされた信号には、受信すべき周波数帯域外の周波数成分も含まれるため、フィルタ855−1〜855−Kで帯域外成分を除去する。帯域外成分が除去された信号は、A/D変換器856−1〜856−Kでデジタル・ベースバンド信号に変換される。デジタル・ベースバンド信号は全てFFT回路857−1〜857−Kに入力され、所定のシンボルタイミングで時間軸上の信号を周波数軸上の信号に変換(各周波数成分の信号に分離)する。この各周波数成分に分離された信号は、受信信号処理回路858−1〜858−Lに入力されるとともに、チャネル情報推定回路861にも入力される。
チャネル情報推定回路861では、各周波数成分に分離されたチャネル推定用の既知の信号(無線パケットの先頭に付与されるプリアンブル信号等)を基に各端末装置のアンテナ素子と、基地局装置の各アンテナ素子851−1〜851−Kとの間のチャネル情報を周波数成分ごとに推定し、その推定結果をマルチユーザMIMO受信ウエイト算出回路862に出力する。マルチユーザMIMO受信ウエイト算出回路862では、入力されたチャネル情報を基に乗算すべき受信ウエイトを周波数成分ごとに算出する。この際、各アンテナ素子851−1〜851−Kで受信された信号を合成する受信ウエイトは、信号系列ごとに異なり、抽出すべき信号系列に対応する受信信号処理回路858−1〜858−Lそれぞれに入力される。
受信信号処理回路858−1〜858−Lでは、FFT回路857−1〜847−Kから入力された周波数成分ごとの信号に対し、マルチユーザMIMO受信ウエイト算出回路862から入力された受信ウエイトを乗算し、各アンテナ素子851−1〜851−Kで受信された信号を周波数成分ごとに加算合成する。受信信号処理回路858−1〜858−Lは、加算合成した信号に対して復調処理を施し、再生されたデータをMAC層処理回路88に出力する。
ここで、異なる受信信号処理回路858−1〜858−Lでは、異なる信号系列の信号処理が行われる。また、MAC層処理回路88は、MAC層に関する処理(例えば、インタフェース回路87に対して入出力するデータと、無線回線上で送受信されるデータとの変換、MAC層のヘッダ情報の終端など)を行う。この処理の中でスケジューリング処理回路811は、マルチユーザMIMO伝送において同時に空間多重を行う端末装置の組み合わせを含む各種スケジューリング処理を行い、スケジューリング結果を通信制御回路820に出力する。MAC層処理回路88にて処理された受信データは、インタフェース回路87を介して外部機器ないしはネットワークに出力される。
また、送信元の端末装置の管理や、全体のタイミング制御など、全体の通信に係る制御を通信制御回路820が管理する。また、上述の受信ウエイトの算出に係る信号処理を行う受信ウエイト処理部860に対し、通信制御回路820から送信元の端末装置等を示す情報が入力される。
なお、信号受信に関しても送信の場合と同様に、OFDM変調方式ないしはSC−FDE方式を用いた広帯域のシステムでは、上述の受信ウエイトの乗算は周波数成分ごとに行われる。つまりA/D変換器856−1〜856−Kから出力される信号に対し、FFT回路857−1〜857−KでFFTを行い各周波数成分に分離し、分離した周波数成分ごとに、チャネル情報推定回路861での信号処理、及び、受信信号処理回路858−1〜858−Lでの受信信号処理が実施されることになる。
(マルチユーザMIMOの送信処理)
図15は、マルチユーザMIMOにおける基地局装置80の送信処理を示すフローチャートである。マルチユーザMIMOでは、データの送信とは別に行うダウンリンクのチャネル情報のフィードバックが定期的になされている。チャネル情報取得回路831はダウンリンクにおけるチャネル情報を取得すると(ステップS831)、端末装置ごとに各周波数成分のチャネル情報をチャネル情報記憶回路832に記憶させる(ステップS832)。ステップS831及びステップS832の処理は、逐次行われる。
基地局装置80からの信号送信処理が開始されると(ステップS821)、マルチユーザMIMO送信ウエイト算出回路833は、宛先である端末装置に対応する各周波数成分のチャネル情報をチャネル情報記憶回路832から読み出す(ステップS822)。
マルチユーザMIMO送信ウエイト算出回路833は、読み出したチャネル情報を基に、先に示した処理によりマルチユーザMIMO用の送信ウエイトを周波数成分ごとに算出する(ステップS823)。ステップS822及びステップS823の処理とは別に、送信信号処理回路811−1〜811−Lは、宛先ごとの送信すべきデータに対し、各種変調処理等の送信信号処理により、宛先局ごとに各周波数成分の送信信号を生成する(ステップS824)。
送信信号処理回路811−1〜811−Lは、生成した送信信号に、ステップS823においてマルチユーザMIMO送信ウエイト算出回路833が算出した送信ウエイトを乗算する(ステップS825)。また、送信信号処理回路811−1〜811−Lは一連の信号処理を施し、加算合成回路812−1〜812−Lはアンテナ素子819−1〜819−Lごとに各周波数成分の各端末装置宛の送信信号に対する加算合成を行い、更にIFFT&GI付与回路813−1〜813−Kにて周波数軸上の信号から時間軸上の信号に変換され、更にガードインターバルの挿入やOFDMシンボル間(SC−FDEであればブロック伝送のブロック間)の波形整形等の処理を行い、D/A変換器814−1〜814−Kに出力する(ステップS826−1〜S826−K)。IFFT&GI付与回路813−1〜813−Kから出力された信号は、D/A変換器814−1〜814−Kからハイパワーアンプ818−1〜818−Kにおける信号処理が施され、アンテナ素子819−1〜819−Kそれぞれから送信され(ステップS827−1〜S827−K)、処理を終了する(ステップS828−1〜S828−K)。
なお、ステップS827−1〜S827−Kにおける処理は、ベースバンド信号から無線周波数へのアップコンバート処理、フィルタによる帯域が周波数成分の除去、ハイパワーアンプによる信号の増幅などを含む。
(マルチユーザMIMOの受信処理)
図16は、マルチユーザMIMOにおける基地局装置80の受信処理を示すフローチャートである。まず、第1から第Kのアンテナ素子851−1〜851−Kにて信号を受信する(ステップS841−1〜S841−K)。ここでの受信とは、受信した信号ないしそれをダウンコンバートした信号に対し、アナログ/デジタル変換を施す処理までを含む。以降の信号処理は、デジタル化された受信信号に対する処理を意味する。
続いて、各アンテナ素子851−1〜851−Kに対応する受信信号に対し、FFT回路857−1〜857−Kによる各周波数成分への分離等の信号処理を行う(ステップS841−1〜S842−K)。更に、チャネル情報推定回路861は、無線パケットに付与されていた既知のパターンのプリアンブル信号の受信状態より、各周波数成分のチャネル推定を実施する(ステップS843−1〜S843−K)。ここで、伝搬路上での信号の減衰、及び複素位相の回転状態を把握する。このステップS843−1〜S843−Kで行うチャネル推定では、ステップS843−1、S843−2、・・・、S843−Kを個別に示した通り、空間多重される信号系列ごとに個別にチャネル推定を行う必要がある。この個別のチャネル推定とは、送信元の端末装置それぞれから送信された信号を分離可能な状態で行う必要がある。OFDM変調方式を例に取れば、一般的には空間多重数と同数のシンボル数のチャネル推定用のプリアンブル信号が必要となる。各端末装置は空間多重数と同数のシンボル数(ないしはそれ以上)で且つそれぞれが異なるパターンのプリアンブル信号を付与して信号送信を行い、基地局装置80はそのパターンの違いを利用して、ステップS843−1〜S843−Kにて個別のチャネル推定を行うことになる。
マルチユーザMIMO受信ウエイト算出回路862は、チャネル情報推定回路861が推定したチャネル情報を用いて、空間多重された信号系列ごと及び周波数成分ごとに個別の適切な受信ウエイトを算出する(ステップS844)。更に、受信信号処理回路858−1〜858−Lは、信号系列ごと及び周波数成分ごとに算出された受信ウエイトを、周波数成分ごとに分離された各アンテナ素子の受信信号に乗算する(ステップS845−1〜S845−K)。
ここで、受信ウエイトは、空間多重された信号系列ごとに用意されているため、ステップS845−1〜845−Lにおける乗算結果は、空間多重された信号系列ごとに別々の結果となる。それぞれの信号系列の信号は、各アンテナ素子851−1〜851−Kの信号が周波数成分ごとに加算合成され(ステップS846−1〜846−L)、合成された信号系列に対して、第1信号系列の信号処理(ステップS847−1)から第L信号系列の信号処理(ステップS847−L)までの処理が行われ、処理を終了する(ステップS848−1〜S848−L)。
なお、ここでは簡単のために線形の受信ウエイトを用いる場合の例を示したが、一般にはMIMOに関してはMLD(Maximum Likelihood Detection)等の非線形の信号処理を行うようにしてもよい。この場合、ステップS845−1〜S845−L、ステップS846−1〜846−L、及びステップS847−1〜847−Lにおける処理は、一体として非線形の信号検出処理が行われることになる。また、線形の受信ウエイトの算出に関しては、図11に示した送信ウエイトの算出処理と同様の手法で算出することが可能である。その他にも、擬似逆行列を利用した受信ウエイトや、MMSEウエイトを利用することも可能である。また、ここでは、受信に用いるアンテナ素子851−1〜851−Kの数Kに対し、空間多重された信号系列数がLとして説明をしたが、一般的にはKとLとは一致する必要はなく、Lの値がKの値以下であれば多数の信号系列の信号を空間多重することができる。
以上説明を行ったが、マルチユーザMIMOの典型的な特徴は、アップリンクにおける基地局装置80での受信処理において送信側と受信側との間のチャネル情報を基に、受信の都度、受信ウエイトを算出する点(ステップS844)、及び、ダウンリンクにおける送信処理において最新のチャネル情報を読み出し(ステップS822)、読み出したチャネル情報を基に送信ウエイトを算出する点(ステップS823)にある。つまり、送信ウエイト及び受信ウエイトの算出は、送信ないし受信の都度行う点にある。これは、チャネルの時変動に起因したものであり、良好なチャネル推定精度を得るためには周期的にチャネル情報のフィードバック処理をする必要がある。チャネルのフィードバック周期を短く設定するに従い、チャネルフィードバックのための制御情報の送受信が必要になりオーバーヘッドは増大する。更に、基地局において空間多重された信号を受信する際には複数の端末局のチャネル推定をそれぞれ個別に行う必要があり、そのために所望の数の直交したプリアンブルが必要となる。一般的には、プリアンブル信号のパターンそのものが直交していることが好ましいが、そのようなパターンを設定できなければ、空間多重数と同数のシンボル数のオーバーヘッドが必要であり、空間多重数の増大に従ってそのオーバーヘッドも増大する。
[実際のシステムに求められる要求条件]
上述したコヒーレント伝送及び分散アンテナシステムでは、チャネル情報が送信側で既知である必要がある。そのため、実際のシステムでは、以下の要求条件をクリアする必要がある。
(要求条件1)
例えば、100局の無線モジュールを利用して20[dB]の回線利得を稼ぐ場合について考える。通信において、20[dB]の回線利得改善を前提として無線通信装置等の回路を設計するため、一つの無線モジュールと端末装置との間のチャネル推定を行う際には、通信時に比べて20[dB]劣化した環境でチャネル推定を行わなければならない。例えば、実際の通信における所要SNRが10[dB]であったとすると、チャネル推定はSNRが−10[dB]という雑音が支配的な環境で実施しなければならない。しかし、このような雑音が支配的な環境では、推定した極めて不確かなチャネル情報から送信ウエイトを求めても同位相合成を実現することはできない。
なお、分散アンテナシステムは、図3に示したように、複数のセルがオーバーラップする領域に存在する端末装置を想定している。すなわち、分散アンテナシステムで送受信に関与するリモート基地局は地理的に端末装置に比較的近接する数局のみであり、その結果低SNRとはならず、そもそも上述のチャネル推定精度の問題は発生していなかった。また、複数の中継局を利用したコヒーレント伝送が記載されている非特許文献1では、その「まとめ」の章においても記載があるように、チャネル情報の推定法を含む各種制御の達成方法についてはこの文献内で「あえて言及しないこと」を明言している。すなわち、著者は現時点ではコヒーレント伝送の実現は困難であるとの認識であり、非特許文献1ではこれらの数々の課題を解決できさえすれば有益な効果が得られる可能性があるという主張を行っていると推察される。このように従来技術では、コヒーレント伝送に必要な超低SNR領域でのチャネル情報のフィードバックを行うための方法が確立されていない。したがって、実際のシステムではこれらの技術が確立されることが求められる。
(要求条件2)
都市部のように自動車の往来が常に絶えない環境を想定すると、チャネルの状況は時間とともに変動する。仮にチャネル推定精度が所望のレベルにありチャネルのフィードバックが可能な場合であっても、チャネルのフィードバックに要するオーバーヘッドによる伝送効率の低下を考慮すれば、チャネルをフィードバックする周期は比較的長めに設定する必要があり、この結果、実際の送受信時刻よりも過去のチャネル情報を基にした送受信ウエイトを利用することになる。しかし、チャネルの時変動により最適な送受信ウエイトは変化するため、期待する回線利得は得られないことがあり、通信が不安定化してしまうという問題がある。したがって、実際のシステムでは、このチャネル時変動に対する対策技術の確立が求められている。
以上説明したように、複数の無線モジュール又は複数のアンテナ素子を介したコヒーレント伝送を行うためには、上記の「受信電力が低い環境ではチャネル情報の精度が低くなることに対する対策」(要求条件1)、「チャネルの時変動に起因して通信が不安定化してしまうことに対する対策」(要求条件2)に関する技術を確立し、受信側としての端末装置において同位相で信号が合成されるように、各無線モジュール又は各アンテナ素子から送信する信号を調整するための新たな技術が求められることになる。また、送信側と同様に、各無線モジュール又は各アンテナ素子で受信した信号に対する受信信号処理においても、全く同様の要求条件が存在する。
(要求条件3)
上記の要求条件をクリアできる状況であったとしても、20[dB]などの高い回線利得を稼ぐことが可能である場合、非常に広域のエリアを一括してサービスエリアとすることができるようになるため、広域のエリア内に位置する多数の端末装置で周波数資源を共用しなければならない。エリアが広くなり周波数資源を共用する端末装置数が増えると、1台の端末装置あたりのスループットが結果的に低下する。端末装置あたりのスループットを所定の値以上にするには、システム全体におけるスループットを高める必要がある。しかし、周波数資源は限られているため、通信に利用する周波数帯域を広げることはできない。つまり、周波数利用効率を高めることで、1台の端末装置あたりのスループットを向上させる必要がある。つまり、この様な環境での利用におけるシステムの大容量化技術の確立が求められる。
上述の(要求条件3)に対しては、マルチユーザMIMO技術が有効であるが、大幅なスループットの増大のためには空間多重数を膨大にする必要があり、このために様々な要求条件が新たに生じる。
例えば、超多数(例えば、100本)のアンテナ素子を用いたマルチユーザMIMO伝送では、送信ウエイト及び受信ウエイトの算出において、「総送信アンテナ素子数」×「総受信アンテナ素子数」の行列を扱うことになり、この行列のサイズの増加に合わせてデータの送受信ごとに求められる送信ウエイト及び受信ウエイトの算出に対する影響が大きくなる。一般に、逆行列算出や特異値分解等の演算処理量(具体的には、回路として構成する際に加算回路に比べて乗算回路は回路規模が大きくなるため、乗算回数ないし除算回数を基準として評価される)は、行列サイズの3乗に比例して増加するといわれている。一般的に想定されるマルチユーザMIMOに用いられるアンテナ素子数に対して1桁以上多いアンテナ素子の数を用いる場合、要求される演算量は1000倍以上になってしまう。また、チャネルが時変動する環境であれば、データの送受信ごとに送信ウエイト又は受信ウエイトを算出する必要があるので、逐次、演算負荷による影響は著しく大きくなる。すなわち、送信ウエイト及び受信ウエイトの算出に要する時間が長くなり、空間多重化を効率よく行うことが困難になってしまうという問題がある。
更に、マルチユーザMIMO伝送で超多数の信号を空間多重する場合には、少なくともアップリンクにおいて、空間多重した信号を分離した上で、受信側で個別のパスのチャネル推定が必要となる。このようなチャネル推定を行うためには、少なくとも空間多重数の直交したプリアンブル信号が必要となる。一般的には、プリアンブル信号のパターンそのものが直交していることが好ましいが、そのようなパターンを設定できなければ、空間多重数と同数のシンボル数のオーバーヘッドが必要となる。これはMACレイヤの効率を低下させることとなり、周波数利用効率を低くしてしまうことになる。つまり、(要求条件3)に対する従来の対策技術では、新たな課題を生むことになっている。したがって、実際のシステムでは、現実的な演算負荷で、且つチャネルフィードバックやチャネル推定用のプリアンブルなどを含めたオーバーヘッドによるMACレイヤの効率の低下を抑えて、大幅なスループットの増大のための高次の空間多重を効果的に実現することが求められている。
[本発明の動作原理について]
本発明の本質は、基地局装置が、基地局装置に備えられている多数の無線モジュールと、端末装置との間のチャネルの特性を示すチャネル情報の推定値を長時間に亘って測定し、チャネル情報の推定値の平均値に基づいて算出した送信ウエイト及び受信ウエイトを用いることにより、複数の無線モジュールを用いてチャネル時変動の影響を低減させながら、同位相合成を用いたコヒーレント伝送に伴う回線利得の獲得と、ピンポイントで同位相合成となる地域以外での低い回線利得を利用した与・被干渉の低減を利用した高次の空間多重を実現することにある。さらに、この高次の空間多重においては、チャネル情報の推定値の平均値と逐次のチャネル情報との差分により特性が劣化することになる。そこで、このチャネル情報の時変動に関する統計量を算出し、実運用中の特性が所望の特性になる様に、空間多重数ないしは変調方式(多値変調の変調多値数や誤り訂正の符号化率などの組み合わせで決まる変調方式)の最適化制御を行い、通信品質と高い周波数利用効率を両立することで、より効果的な運用が可能になる。
(前提条件)
本発明では、各無線モジュールと端末装置との見通しが必ずしも確保できている必要はないが、無線モジュールと端末装置とは比較的高所に固定されていることが推奨される。この場合、各無線モジュールと端末装置との間の伝送路(チャネル)は、「直接的な見通し波」と、固定的な巨大な建築物等による「安定した反射波」と、地上(低所)付近の車や人などの「移動を伴う物体からの多重反射波」とが混在したものとみなすことができる。この場合、「直接的な見通し波」と「安定した反射波」とは、「移動を伴う物体からの多重反射波」に比べ、受信レベルが相対的に高く、更に時変動が小さい。一方、「移動を伴う物体からの多重反射波」は、「直接的な見通し波」と「安定した反射波」とに比べ、受信レベルが低く、時変動が大きく激しい。
何らかのチャネル推定用の信号(以降、「トレーニング信号」と呼ぶ)を連続的、又は間欠的に長時間に亘り送信し、受信側では受信した信号を長時間に亘り平均すると、その結果、「移動を伴う物体からの多重反射波」の信号は、そのランダム性故に複素位相及び振幅の変動の平均値はゼロに近づく。一方で、「直接的な見通し波」及び「安定的な反射波」に関する成分は非ゼロの一定値に収束する。結果的に、時変動成分が相対的に小さな安定したパスに相当するチャネル推定結果が抽出されることになる。
なお、従来技術におけるコヒーレント伝送の説明においては「無線モジュール」とは「中継局」又は分散アンテナシステムにおける「リモート基地局」であった。これらは、当然ながら従来技術における制御局ないしは基地局から物理的に離れた場所に位置していた。分散アンテナシステムを例にとれば、複数のセルの中心にリモート基地局が位置する形態であるし、無線を用いた中継局であれば、無線を用いる必要があるほどには離れていることになる。しかし、本発明で意図する個別の無線モジュールからの信号の(送信及び受信の両方に対しての)同位相合成においては、必ずしも無線モジュールをリモート基地局や中継局のように遠くまで離す必要はない。
また、各無線モジュールのアンテナ素子とアンテナ素子の間隔が、通信の搬送波周波数の波長よりも小さくなると、アンテナ素子間の相互結合により想定している信号の同位相合成が乱される可能性があるが、概ね1波長以上の間隔がアンテナ素子相互に確保されていれば、この問題は回避できる。
つまり、本発明においては1波長以上の間隔が相互に確保された多数のアンテナ素子が、一つの基地局装置に接続された構成が基本となる。当然ながら、各アンテナ素子から送受信される信号は送受信ウエイトの係数が異なるため、アンテナ素子ごとに、ハイパワーアンプ、ローノイズアンプ、フィルタ等の無線周波数帯におけるRF(Radio Frequency:無線周波数)回路が個別に設けられるとともに、接続されており、これらが一つの無線モジュールを構成する。
これまでの説明においては、各無線モジュールが物理的に制御局などと異なる場所に離散的に配置されていたために、アンテナ素子とほぼ一体型の無線モジュールを意図して「無線モジュール」という用語で様々な説明を行っていたが、本発明においては制御局と多数の無線モジュールが1箇所に集約され、一般的には一つの基地局装置という形態が自然であるため、その実現の構成によっては「無線モジュール」という表現が適切でない場合がありうる。
例えば、機能的にはベースバンド信号処理等の制御局に相当する機能と複数のハイパワーアンプ、ローノイズアンプ、フィルタ等の無線周波数帯でのRF回路の機能が一つの筐体内に実装され、その筐体と多数のアンテナ素子間を同軸ケーブルで接続する構成を想定するならば、送受信時のアンプ、フィルタ系での振幅/複素位相の変動に対する補正を行うことを考慮した上で、「端末装置と無線モジュール間のチャネル情報」という表現は実質的には「端末装置のアンテナ素子と無線モジュールのアンテナ素子間のチャネル情報」と表現されることが多い。したがって、以降、チャネルの説明においては無線モジュールという用語の代わりにアンテナ素子という用語を用いて説明することにする。
(無線通信システムの設置例と基本原理)
図17は、本発明に係る無線通信システムが具備する基地局装置の設置例を示す図である。同図において、符号11は基地局装置が設置されている建築物を示し、符号12−1〜12−2は端末装置を示し、符号13−1〜13−4は基地局装置が備えているアンテナ素子を示し、符号14−1〜14−3は地上の移動体を示し、符号15−1〜15−2は大型の建築物(当然、静止状態)を示している。
ここで、基地局装置が備えるアンテナ素子13−1〜13−4は、建築物11の屋上などに設置されていたりして、非常に高所に設置されている。端末装置12−1〜12−2は、電信柱などの上や、一般のビルの屋上など、基地局装置のアンテナ素子13−1〜13−4よりは相対的に低所であるかも知れないが、比較的高所に設置されている。一方、基地局装置のアンテナ素子13−1〜13−4や、端末装置12−1〜12−2よりも比較的低所に位置する場所には、地上の移動体14−1〜14−3である車に加え、人や風に揺れる樹木など、ランダムに変動する反射波の起点(反射点)が多数存在する。
例えば、端末装置12−1と、基地局装置のアンテナ素子13−1〜13−4とは、見通し環境(図中、太い実線の矢印で直接波を表示)にある。一方、端末装置12−2と、基地局装置のアンテナ素子13−1〜13−4とは、大型の建築物15−2の遮蔽により見通し環境にはないが、大型の建築物15−1などの反射体があり、安定した反射波(図中、太い実線の矢印で表示)が到達している。
また、見通し環境の端末装置12−1にとって、見通し波以外に大型の建築物による安定的な反射波が存在し、常にそれらが合成されて信号が到達する状況であるかもしれない。このような太い実線の矢印で表した信号を安定的な入射波とみなす。一方、地上の移動体14−1〜14−3等からの反射波は、多数回のランダムな多重反射として到達する信号が多く、相対的に受信される信号のレベルは低く、更に複素位相成分及び振幅は時間とともにランダムに変動する。
多数の微弱かつランダムな波を合成すると、その結果得られる信号は、安定的な入射波に対して相対的に信号強度が小さい。したがって、「安定的な入射波」に「ランダムな多重反射波」を合成して得られる「時変動する入射波」は、「安定的な入射波」の周りに微小な誤差が加わった信号と見ることができる。
次に、このような状況において、基地局装置が行う信号の合成について説明する。
図18は、本発明に係る基地局装置が行う信号合成の動作例を示す図である。ここでは、一例として、図17における端末装置12−1から送信された信号を、基地局装置のアンテナ素子13−1〜13−4にて受信した際に、適切な受信ウエイトを用いて合成する場合を示している。
基地局装置のアンテナ素子13−1〜13−4では、「時変動する入射波」を受信している。これらを合成する際に用いる受信ウエイトは、「安定的な入射波」を基準にして、各アンテナ素子での信号が同位相合成されるように定められている。図18において点線で示した信号は、「安定的な入射波」に対して受信ウエイトを乗算し、各アンテナ素子13−1〜13−4で位相が同位相に揃えられた信号である。
実際の「時変動する入射波」に受信ウエイトを乗算した信号、即ち図18における細い実線で示した「時変動する入射波」は、点線で示した「安定的な入射波」から微小にずれているため厳密には各アンテナ素子で同位相合成とはなっていないが、「時変動する入射波」は「安定的な入射波」に近い振る舞いを示すため、多数のアンテナ素子の信号を「安定的な入射波」を基準にして設定した受信ウエイトを用いて合成すると、太い実線で示した大きな振幅の合成された信号となる。つまり、基地局装置で用いるアンテナ素子の数を膨大な数に増やせば、統計的な効果として各アンテナ素子の「安定的な入射波」成分は同位相合成され、「ランダムな多重反射波」は相互に打ち消しあうために、「安定的な入射波」に対して時変動成分は相対的に非常に小さなレベルに抑えられる。
ここで、図17及び図18の説明においては、あくまでも簡単のために基地局装置側に4本のアンテナ素子を備える場合について説明を行ったが、以下に示すように、本発明では非常に多数のアンテナ素子を備えることで統計的な効果を得ることが可能になる。
なお、この「安定的な入射波」に基づく統計的な信号の同位相合成は、送信時に用いる送信ウエイトと受信時に用いる受信ウエイトの双方において同様に利用することができる。基地局装置で用いる送受信ウエイトはチャネル推定結果に基づき算出されるものであるが、そのチャネル推定は基地局装置が送信するトレーニング信号を端末装置側で受信して行っても、端末装置が送信する信号を基地局装置で受信してチャネル推定しても構わない。一般的に、ダウンリンクとアップリンクのチャネル情報は送信/受信に用いるアンプ/フィルタ等が異なるために非対称であるが、アップリンクのチャネル推定結果とダウンリンクのチャネル推定結果には所定の換算式が成り立ち、後述するキャリブレーション処理を用いれば、端末装置が送信したトレーニング信号を基地局装置の全てのアンテナ素子で同時に受信し、その結果を用いたチャネル推定によりアップリンクのチャネル情報を取得し、これに所定の換算式を適用することでダウンリンク方向のチャネル情報を取得することが可能である。
以上に説明したように、基地局装置の各アンテナ素子と、各端末装置のアンテナ素子との間のチャネル情報に対する長時間に亘る平均化処理により、ランダムな時変動成分を抑制し、時間変動のない見通し波ないしは安定的な構造物等からの安定的な入射波を抽出することが可能になる。この抽出された長時間平均のチャネル情報を基に、ターゲットとする端末装置に対して同位相合成を行うことで、高い回線利得を獲得することが可能となる。一般に、ある1本のアンテナ素子から送信された信号が別の場所の1本のアンテナ素子で受信される際の振幅を1としたときに、N本のアンテナ素子から送信された信号を同位相合成すると、受信信号の振幅の期待値はN倍になる。受信電力は振幅の2乗に比例するので、受信電力はN2倍となる。つまり10Log10(N2)[dB]の利得を得ることが可能になり、Nが仮に100であれば同位相合成によるコヒーレント伝送に伴う回線利得は40[dB]に相当する。
次に、与・被干渉の低減を利用した高次の空間多重に関して説明する。上述の同位相合成は、特定の端末装置をターゲットにして行うものであり、当該端末装置に対してのみピンポイントで高い回線利得を得ることができる。例えば、図17の端末装置12−1に対して同位相合成を行えば、端末装置12−2のように同位相合成とならない他の地点では、ランダムな位相合成となる。図17では基地局装置のアンテナ素子13−1〜13−4が4素子の場合を示したが、アンテナ素子がN個の場合、ランダムな位相合成の結果、期待値として受信電力はN倍になる。このような状況で、2つの信号系列を同時に空間多重した場合、同位相合成がなされている希望信号に関しては回線利得が送信アンテナ素子1本あたりN2倍であるのに対して、干渉となる非希望信号に関しては回線利得が送信アンテナ素子1本あたりN倍となる。そのため、相対的なSIR値は10Log10(N)[dB]となる。
このように、送信アンテナ素子の数(N)が仮に100であれば、空間多重を行いながらも期待値として20[dB]のSIRを稼ぐことができる。つまり、図17における太い実線で示した二つのパスを利用し、端末装置12−1及び端末装置12−2の両方と基地局装置との通信を同時に同一周波数帯で実施することが可能となる。
通常、アンテナの本数が膨大な場合に、一般的なマルチユーザMIMO技術で空間多重を行う際、アンテナの本数の3乗に比例する信号処理の演算量が見込まれるため、回路規模的に現実的な数のアンテナ素子による運用が強いられてきた。特に、重要なのはある端末装置への信号が他の端末装置に対して干渉とならないようにするためのヌル制御であるが、本発明においてはこのヌル制御を実現するための送受信ウエイトの算出をリアルタイムで行う必要がなく、事前に算出したウエイトを読み出す形で通信における信号処理を実現できる。このため、多数のアンテナ素子を利用しながらも、運用中の演算量及び回路規模を抑えた高次の空間多重が実現可能である。更には、本発明では上述のヌル制御を行わずとも、もともとある程度高いSIRを確保することができ、このためチャネル時変動により多少ヌル制御が破れてもSIR値は比較的高いままで、安定的に空間多重を行うことができるという特徴も併せ持つ。
なお、先ほどの例を基に説明を行えば、送信アンテナの数(N)が100である場合、10系統の信号を空間多重すると干渉電力は相対的に約10倍となるために、SIRの期待値は約10[dB]となる。もちろん、平均SIR値が10[dB]でもある程度の分布の広がりがあるため、所要SIR値が10[dB]の場合でも10多重ないしはそれ以上の空間多重を行うためには、SIR特性が良好な端末装置の組み合わせを行うスケジューリング機能や、干渉抑圧を行うための指向性制御機能を組み合わせることが好ましい。ただし、ここで行うスケジューリング機能及び指向性制御機能は、時間とともに変動するチャネル情報を反映したリアルタイムの制御を前提とする必要はなく、先に説明した長時間平均により時変動成分を平均化した固定的なチャネル情報を用いて行うことができる。そのため、通信を行うたびに逐次複雑な信号処理を行うことを避け、通信の開始の前に行う事前処理において、その負荷の大きい処理を完了させ、処理の結果を用いた運用を行うことにより、運用中の負荷を低減させることができる。本発明は、上述のようにヌル制御なしでもSIR特性に優れる安定的な条件を構築すると共に、更に干渉抑圧を行うための指向性制御機能を組み合わせることで、より高次の空間多重を安定的に実現可能とする。
このように本発明では、リアルタイムのチャネル情報を用いて厳密な同位相合成を目指す代わりに、厳密な送受信ウエイトからは若干の誤差を伴う送受信ウエイトであったとしてもある程度の誤差以内に抑えられる送受信ウエイトを用い、多数のアンテナ素子を用いて合成することで統計的な効果により安定的かつ高い回線利得を引き出す準最適な同位相合成を目指す点が第1の重要なポイントである。
更に本発明では、送受信ウエイトはチャネルの時変動を意識することなく固定的な値となるため、例えば通信サービスの運用開始前に事前に取得しておけば、データの送受信を行うサービス運用時には、個々に演算をすることなく単純にメモリに記憶された送受信ウエイトを読み出すだけで良いため、通信に用いるアンテナ素子数を膨大な数に増やしたとしても信号処理の負荷を低く抑えることが可能であり、この点が第2の重要なポイントである。
更に本発明では、通信の都度、送受信ウエイトの算出のために個別のアンテナ素子間のチャネル推定を行わないので、空間多重数と同数のチャネル推定用のプリアンブル信号を付与する必要がない。このため、OFDM変調方式を用いる場合を例に取れば、従来であれば10多重の空間多重のためには異なる10シンボルのチャネル推定用のプリアンブル信号が必要であったが、本発明では空間多重数に依存せずに1シンボルのチャネル推定用のプリアンブル信号で足りることになる。この結果、MACレイヤの効率の低下を抑えて高次の空間多重を実施することが可能となり、この点が第3の重要なポイントである。
以上の動作原理に対し、詳細な実施形態の説明の前に、これらを実現するための補足事項を以下に簡単に整理しておく。
(チャネル推定の平均化処理について)
本発明に係る基地局装置は、「安定的な入射波」に基づく統計的な信号の同位相合成を行うための送受信ウエイトを用いることが特徴であるが、この「安定的な入射波」に対応したチャネル推定の概要について、ここで説明しておく。
先ほども説明した通り、基地局装置は、移動体において反射しランダムに変動する多重反射波の影響を取り除くことで「安定的な入射波」に関する成分を抽出する。基地局装置は、多数のアンテナ素子による統計的な効果を得る前段として、各アンテナ素子においても「安定的な入射波」に関する成分を抽出するために、基地局装置の各アンテナ素子と端末装置のアンテナ素子との間の個々のチャネルのチャネル推定を長時間に亘り実施し、その結果を平均化することで「安定的な入射波」に対応したチャネル情報を取得する。
その具体的な取得方法を説明する前に、まず、図17における車等の移動体14−1〜14−3において反射する反射の影響について考える。これらの移動体からの反射波の状況は、移動体の位置があまり変位しない短時間ではそれ程大きくは変動しないが、これらの移動体が物理的に異なる位置に移動すれば反射波の影響は全く異なるものになることが予想される。つまり、移動体において反射しランダムな多重反射の状況がそれ程大きく変動しない短時間の間でチャネル情報の平均化処理を行ったとしても、ランダムな反射波の基になる移動体が大きく移動した際には、また別のチャネル状態になっていることが予想される。
図19は、チャネル推定の概要を示す図である。ここでは、チャネル情報の推定結果をI/Q複素平面上での点に対応したベクトルとして示している。同図において、符号16は「安定的な入射波」に対応した長時間平均のチャネル情報の推定値に対応するベクトルを示している。符号17−1〜17−4は比較的短時間のチャネル推定結果を用いて平均化したチャネル情報に対応するベクトルを示している。符号18は時変動により発生するチャネル推定誤差の範囲を示している。
同図において、例えば、チャネル情報17−2と、チャネル情報17−4とは、円状に分布する時変動により発生するチャネル推定値の誤差範囲18において、両端に位置する関係であり、そのふたつのベクトルの相対的な差(誤差)が大きい。しかし、多数の平均化されたチャネル情報17−1〜17−4を更に平均化すれば、チャネル推定誤差18の円の中心に相当する「安定的な入射波」に対応した長時間平均のチャネル推定値16に対応するチャネル情報を取得することが可能になる。これにより、瞬時のチャネル推定値との誤差は誤差範囲18の円の半径以下に抑えられ、円の両端に位置する場合に比べて相対的に小さく抑えることができる。
更に、実際の誤差の分布は、チャネル推定誤差の範囲18の円内に一様に分布するのではなく、平均値である長時間平均のチャネル推定値16の近傍ほど分布の密度が高いと推察される。したがって、長時間平均のチャネル推定値16に近づけるためには、移動体の配置の相関が少なくなる離散的な時間で多数回行ったチャネル推定により得られたチャネル情報を平均化することが好ましい。
次に、この長時間平均のチャネル情報の求め方について、注意すべき点を中心に説明する。一般に、基地局装置のクロック信号と、端末装置のクロック信号とは完全に同期が取れておらず、ある程度の周波数誤差が存在する。例えば、OFDM変調方式やSC−FDE伝送技術のようなブロック伝送を行う場合には、1シンボルのシンボル周期(ないしはブロック周期)は少しずつシンボルタイミングが基地局装置と端末装置との間でずれることになり、このシンボルタイミングのずれは全周波数で共通の複素位相の回転として表れる。なお、基地局装置のクロック信号、及び端末装置のクロック信号は、A/D変換や、D/A変換を行う際のサンプリング周期を定めるクロック信号のことである。
同様の複素位相の回転という課題は、ベースバンド信号と無線周波数信号との間のアップコンバート、ダウンコンバートで用いるローカル発振器が出力する局部発振信号の基地局装置と端末装置との間の非同期性や周波数誤差によっても問題となる。
送信と受信との間が非同期で周波数誤差が伴う場合、仮に空間上のチャネル情報に時変動がない場合でも、異なる時刻に測定するチャネル情報は、その時間差と周波数誤差とに依存する形で複素位相成分が変動する。
これは、例えば、受信側のダウンコンバート処理でミキサにおいて乗算するローカル発振器から入力される局部発振信号の初期複素位相を通信の都度、毎回一致させることができないことに起因する。通信における信号検出処理では、トレーニング信号でチャネル推定を行う際に、その初期複素位相の影響まで含めた結果としてのチャネル情報を取得するため、トレーニング信号に後続する信号の信号検出処理において問題となることはない。しかし、離散時間で平均化する際には、仮にチャネル情報に時変動がなくてもこの初期複素位相の不確定性により時変動があったように見えてしまうために問題となる。
しかし、受信時の同位相合成を実現するための送信ウエイト及び受信ウエイトの算出に必要となるチャネル情報は、伝送路の特性を示すチャネル情報の複素位相を含む絶対的な値そのものではなく、アンテナ素子ごとのチャネル情報における複素位相の相対的な関係さえ分かれば十分なのである。したがって、離散的な時刻に測定したチャネル推定結果を平均化する際には、基地局装置の複数のアンテナ素子から基準となるアンテナ素子を1つ設定し、そのアンテナ素子で推定されたチャネル情報の複素位相成分だけ、各アンテナ素子におけるチャネル情報の複素位相成分にオフセットを付加すれば良い。
具体的には、基地局装置がK個のアンテナ素子を備えている場合、アンテナ素子#i(i=1,…,K)で観測された第k周波数成分のチャネル情報がAi・Exp(φi (k)j)であるとする。ここでjは虚数単位を表し、Aiはアンテナ素子#iのチャネル情報の振幅成分を表し、φi (k)はアンテナ素子#iの第k周波数成分のチャネル情報の複素位相を表す。
このとき、アンテナ素子#1の複素位相φ1 (k)を用いて、全てのアンテナ素子に複素位相−φ1 (k)のオフセットを加えると、オフセットによる補正後のアンテナ素子#kのチャネル情報としてAi・Exp{(φi (k)−φ1 (k))j}が得られる。空間上のチャネル情報が不変であるならば、この補正後のチャネル情報は基地局装置と端末装置とのクロック信号及び局部発振信号の周波数誤差の影響(すなわち複素位相の初期位相の不確定性の影響)を受けない。以降の説明では、この初期位相の不確定性除去のための補正後のチャネル情報を「(チャネル情報の)相対成分」と呼ぶことにする。なお、この補正は周波数成分ごとに個別に行うものとする。
したがって、チャネル情報の平均化を行う際には、このような補正を行い、複素位相成分の不確定性を排除した上で平均化を実施する必要がある。その他、この平均化を行う上で、本発明における課題の(課題1)で示した回線利得が大幅に不足する領域では、チャネル推定により取得したチャネル情報の平均化を行う以前に、その基になる情報の取得が困難な場合があることに注意しなければならない。このような状況では、何らかのチャネル推定用のトレーニング信号を受信したとしても、一般にはその信号の受信を検知することができない。OFDM変調方式の場合を例にとれば、OFDMシンボルタイミングの検出ができないことを意味し、当然ながらガードインターバルの除去もできなければFFTを実施することもできない。以下に、このような低SNR環境におけるチャネル推定の平均化処理の方法と具体的なトレーニング信号の例を示す。
(本発明におけるトレーニング信号の例)
図20は、本発明におけるトレーニング信号の例を示す図である。同図において符号1−1〜1−3は一般的なOFDMシンボルを示し、符号2−1〜2−3はガードインターバルを含まない有効な信号領域を示し、符号3−1〜3−3は本発明におけるトレーニング信号を示し、符号4−1〜4−3は信号の末尾領域を示し、符号5−1〜5−3はガードインターバルを示し、符号6−1〜6−3は実際のチャネル推定に用いる信号周期を示している。なお、OFDM信号は、複数のサブキャリア成分を含むが、本図ではあるサブキャリア一つを抜き出して正弦波として図示している。
従来のOFDM信号であれば、OFDMシンボル(1−1〜1−3)周期の信号は、実際のデータとして有効な信号領域(2−1〜2−3)を生成し、この信号の末尾領域(4−1〜4−3)を信号の先頭領域にガードインターバル(5−1〜5−3)としてコピーして貼り付け、全体のOFDMシンボル(1−1〜1−3)を生成していた。通常の通信においては、ガードインターバルを取り除いた有効な信号領域(2−1〜2−3)の先頭部分のタイミングをタイミング検出により抽出し、そのタイミングを起点とした場合の振幅及び複素位相に関する情報をチャネル推定では取得する。
しかし、本発明の送受信ウエイトの算出においては各アンテナ素子の相対的な位相関係を取得できれば十分であるために、正確な初期複素位相の把握までは不要であり、OFDMシンボルの先頭のような適切なタイミングを起点とする必要はない。したがって、ガードインターバルを設定したOFDM信号である必要はなく、OFDMシンボルの有効な信号領域(2−1〜2−3)を取り出して連続させた信号であるトレーニング信号(3−1〜3−3)を多数回繰り返し送信すれば良い。ここで各区間は連続的につながっているために、この複数の周期に亘るトレーニング信号においては実質的にはシンボルタイミングというものは意味を成さない。受信側では、受信したトレーニング信号(3−1〜3−3)に対して任意の開始タイミング、例えば実際のチャネル推定に用いる信号周期(6−1〜6−3)で信号を切り取り、区間6−1、区間6−2、区間6−3の信号に対して加算処理を行えばよい。
(基地局装置と端末装置とのローカル発振器周波数誤差の補償)
なお、このトレーニング信号を用いたチャネル平均化においては、複数の連続する区間6−1、区間6−2、区間6−3の比較的短時間平均を行うことになるが、この「比較的短時間」の定量的な意味は、基地局装置と端末装置との間のクロック信号及び局部発振信号の周波数誤差に依存する影響(厳密には、下記に示す周波数誤差補償処理後に残る、残留周波数誤差の影響)を無視できる範囲での平均化を意味する。
例えば、中心周波数が2.4[GHz]の局部発振信号において、ローカル発振器の周波数誤差が1p.p.m.である場合、局部発振信号の周波数誤差の最大値は2.4[kHz]である。つまり、416μ秒で位相が2π回転してしまう誤差である。このとき、平均化を行う時間長の中で周波数誤差に伴う複素位相の回転が1周期(2π)の1/10以内に抑えたいと考えるならば、平均化に使える時間長は約40μ秒となる。
しかし、広域をサービスエリアにするWiMAXの例を見れば、長遅延波の影響を排除するための1シンボル周期は約100μ秒に設定されており、平均化処理を行う時間としては十分ではない。これらの問題を解決するために、ここでは周波数誤差を補償するための以下の補正処理を行う。
一般的には周波数誤差補正はAFC(Automatic Frequency Control)と呼ばれる信号処理で対処可能である。今回のトレーニング信号のように同一の信号が繰り返し受信される状況であれば、一般には1周期分だけシフトした信号を乗算することで周波数誤差成分を抽出することが可能である。このAFC処理を適用して周波数誤差を抽出し、その周波数誤差をキャンセルする補正を行うことが可能である。しかし、受信信号が低SNRである場合、AFC処理を適用して隣接するシンボルから周波数誤差を抽出しようとしても、ノイズに埋もれて誤った周波数誤差を抽出してしまう可能性がある。したがって、AFC処理も、もともとの信号のSNRを改善可能な時間長に亘り実施する必要がある。
例えば、時刻tにおける複素数で表されるサンプリングデータをS(t)と表し、周波数誤差をΔfと表すと、時刻tにおける複素位相の回転量は2πΔf・tとなる。そこで、サンプリングデータS(t)に対して理想的に周波数補償すると、周波数補償されたサンプリングデータは、S(t)・Exp(−2πjΔf・t)となる。
また、サンプリング周期をΔtと表し、1シンボルの周期をTとすると、1周期のデータ数はN=T/Δtで与えられる。このとき、時刻t=m’・Δtとし、更に、mとMとをm=mod(m’,N)、M=Int(m’/N)とすれば、サンプリングデータS(t)を離散的な時刻により定められる数列{S(M) m}と表記できる。ここで、関数「mod」は、m’をNで除算した際の余りを求める関数である。また、関数「Int」は、m’をNで除算した際の商(整数部)を求める関数である。
更に、サンプリングデータS(t)を理想的に周波数補償した数列を{S(M) m・Exp(−2πjΔf・Δt・[M×N+m]}と表記できる。ここで、全体としてM0シンボル周期のサンプリングを行うものとする。
周波数補償した数列{S(M) m・Exp(−2πjΔf・Δt・[M×N+m]}を、mごとに多数のMでの加算したサンプリングデータ〜Smは次式(10)で表される。ここで、式(10)において、「〜(チルダ)」が上に付されたSを「〜S」と表記する。また、「Exp(X)」は自然対数の底eのX乗を示す関数である。
AFC処理によりSNRを改善するには、式(10)で表される〜Smの振幅を最大にするΔfを求めればよい。そこで、次式(11)で表される評価関数G(Δf)を定める。
式(11)における^S(M,M’)は、次式(12)で表される。
評価関数G(Δf)を最大にするΔfを求めれば良いので、次式(13)で表される条件式が求まる。
条件式(13)を満たす実数Δfを数値的に求めれば、基地局装置と端末装置との間の周波数誤差が算出され、このΔfを用いて式(10)で与えられる1周期分の加算・平均化されたサンプリングデータを用い、チャネル推定を行えばよい。OFDM変調方式であれば、この1周期のサンプリングデータを基にFFT処理により、各サブキャリア成分のチャネル情報を算出する。
なお、必ずしも式(13)を用いなくても、Δfのとりうる範囲が限定されているならば、その範囲内の適当な刻み幅でΔfを設定し、それらのΔfに対して式(11)を算出して最大値を与えるΔfを検索しても良い。この場合、先ほど例示したのと同様に使用する中心周波数が仮に2.4GHzで周波数誤差が1p.p.m.であるならば、Δfの範囲は−2.4kHzから+2.4kHz以内となる。この刻み幅の最適値は求められる精度に応じて変わるが、例えば、10Hz刻みでΔfを設定し、式(11)を算出するならば、式(11)を最大にする真のΔfに対して±5Hz以内の残留周波数誤差の範囲でΔfを検索することが可能である。つまり、周波数誤差は5Hz以内に抑えられ、M0周期の平均化を行う際の時間長(M0×T)を5m秒程度と想定しても、平均化を行う期間内の位相の誤差は2πの1/40(角度は9度)以内に収まる。平均化の期間中に位相は定常的に回転することを考慮すれば、運用上、支障のない程度の精度でチャネル情報を算出することが可能である。これは逆にいえば、平均化を行う期間内の位相の誤差を所定の値に抑えられる範囲で、M0周期の平均化を行う際の時間長(つまりM0の値)が制限されることになる。
(基地局装置と端末装置とのシンボルタイミング誤差)
以上は基地局と端末局のローカル発振器の周波数誤差に伴う補正の説明である。同様にクロック周波数誤差により、シンボルタイミングのずれの問題も考慮する必要がある。先ほどの説明と同様、1p.p.m.の周波数誤差を伴うシステムを想定すると、1秒という測定時間を想定した場合にこの期間に発生するシンボルタイミングの累積時間誤差は1μ秒程度になる。
広域の無線アクセスシステムの規格として普及しているWiMAXの場合を例にとるならば、1シンボルは約100μ秒であり、FFTのポイント数(近似的にはサブキャリア数)が1024とすれば、最も周波数の高いサブキャリアの周期は約0.1μ秒程度になる。同様に、WiFi(登録商標)を想定するならば、1シンボルは4μ秒であり、そこに64ポイントFFTを想定すると、最も周波数の高いサブキャリアの周期は約0.06μ秒となる。シンボルタイミングの誤差の累積値はこれらの周期に対して十分小さく設定されることが好ましい。そのため、例えば、チャネル情報の平均化を行う測定時間を5m秒とするならば、1p.p.m.の周波数誤差による累積時間誤差は0.005μ秒となり、WiMAXやWiFiの最も周波数の高いサブキャリアの周期よりも一桁以上小さな誤差に抑えられている。
WiMAXの例では、チャネル情報の平均化を行う測定時間を5m秒とした場合にこの時間長はシンボル周期の50倍の時間長となるので、十分に加算・平均化により信号のSNRを改善することが可能になり、取得した情報を用いて更に離散時間で平均化することにより、移動体からのランダムな多重反射波の影響も除去できる。
このように、平均化処理を行う際には、連続する比較的短い時間スケールでの平均化と離散時間のチャネル推定結果での平均化を2段階で行う。なお、比較的短い時間スケールでの平均化を行う際の時間長は上述の制限を受けることに注意を要する。また、離散時間のチャネル推定結果においては、上述のようにアンテナ素子#1の複素位相φ1 (k)を用いて、全てのアンテナ素子に複素位相−φ1 (k)のオフセットを加えることで、初期複素位相の不確定性の問題は回避できる。
(アンプの個体差による影響(キャリブレーション)について)
実際の無線通信装置では、送信側の信号処理において、送信の直前にハイパワーアンプにて信号増幅を行うことが多い。この場合、ハイパワーアンプの個体差により増幅率に誤差があるとともに、ハイパワーアンプ内で複素位相がハイパワーアンプごとに異なる値で回転する場合がある。同様に、受信側の信号処理において、受信の直後にローノイズアンプにて信号増幅を行うことが多い。この場合、ローノイズアンプの個体差により増幅率に誤差があるとともに、ローノイズアンプ内で複素位相がローノイズアンプごとに異なる値で回転する場合がある。
特に、ハイパワーアンプ及びローノイズアンプの増幅率及び位相回転量には、周波数依存性がある。周波数依存性を伴う増幅率および複素位相の回転量の個体差が無視できないほどに大きい場合には、アップリンクのチャネル情報からダウンリンクのチャネル情報を推定する際に、キャリブレーション処理を施す必要がある。この増幅率及び位相回転量の誤差は時間的にはほぼ安定しているため、増幅率及び位相回転量の誤差を事前に測定しておき、誤差の影響をキャンセルするための係数を用いてアップリンクのチャネル情報からダウンリンクのチャネル情報に換算する。
以下の実施形態における基地局装置では、アップリンクのチャネル推定結果に長時間平均を行ったチャネル情報を用いて、送信ウエイト及び受信ウエイトを算出する。先の説明においても、実際にはハイパワーアンプやローノイズアンプ(厳密にはその他のフィルタ等の回路を含めた送信系及び受信系の回路等)により、振幅や複素位相が変化する場合がある。この場合、振幅や複素位相の変化に応じた補正をするためのキャリブレーション係数を事前に取得しておき、これを補正に用いると説明した。キャリブレーション処理は、公知の技術を用いても構わないが、以下にキャリブレーション処理の一例を説明する。
図21は、アップリンクとダウンリンクとのチャネル情報の非対称性を示す図である。同図において、符号25−1〜25−3は無線モジュールを示し、符号21−1〜21−3はハイパワーアンプ(HPA)を示し、符号22−1〜22−3はローノイズアンプ(LNA)を示し、符号23−1〜23−3は時分割スイッチ(TDD−SW)を示し、符号24−1〜24−3はアンテナ素子を示している。
ここでは、基地局装置においてチャネル情報に影響を与える機能のみを抽出したため、図示した以外の構成は省略したが、無線モジュール25−1〜25−3にはその他の機能も含まれる。また、信号がハイパワーアンプ21−1〜21−3それぞれを通過する際に、振幅及び複素位相がZHPA#1(fk)、ZHPA#2(fk)、ZHPA#3(fk)変化するものとする。また、信号がローノイズアンプ22−1〜22−3それぞれを通過する際に、振幅及び複素位相がZLNA#1(fk)、ZLNA#2(fk)、ZLNA#3(fk)変化するものとする。ここでは一般的な条件として周波数依存性があるものとし、第k周波数成分に対する周波数「(fk)」の表記を行っている。
ここで、例えば、無線モジュール25−1及び無線モジュール25−2から試験用の無線モジュール25−3に信号を送信する場合のチャネル情報について説明する。ここでは、無線モジュール25−1のアンテナ素子24−1と、無線モジュール25−3のアンテナ素子24−3との間の空間上のチャネル情報がh1(fk)で表され、無線モジュール25−2のアンテナ素子24−2と無線モジュール25−3のアンテナ素子24−3との間の空間上のチャネル情報がh2(fk)で表されている。
このとき、実際に無線モジュール25−1から無線モジュール25−3に信号を送信する際のチャネル情報は、空間上のh1(fk)にハイパワーアンプ21−1の通過に伴う変化を示す係数ZHPA#1(fk)、及びローノイズアンプ22−3の通過に伴う変化を示す係数ZLNA#3(fk)が乗算された値として観測される。
同様に、無線モジュール25−2から無線モジュール25−3に信号を送信する際のチャネル情報は、空間上のh2(fk)にハイパワーアンプ21−2の通過に伴う変化を示す係数ZHPA#2(fk)、及びローノイズアンプ22−3の通過に伴う変化を示す係数ZLNA#3(fk)が乗算された値として観測される。
したがって、無線モジュール25−1から無線モジュール25−3へのチャネルは、ZHPA#1(fk)・h1(fk)・ZLNA#3(fk)で表される。また、無線モジュール25−2から無線モジュール25−3へのチャネルは、ZHPA#2(fk)・h2(fk)・ZLNA#3(fk)で表される。このため、無線モジュール25−1と無線モジュール25−2との間では、チャネル情報h1(fk)とh2(fk)の差に加えて、相対的にZHPA#2(fk)/ZHPA#1(fk)の差が発生する。
この状況は受信側においても同様であり、無線モジュール25−3から送信された信号を無線モジュール25−1にて受信する場合、チャネル情報は空間上のh1(fk)にハイパワーアンプ21−3の通過に伴う変化を示す係数ZHPA#3(fk)と、ローノイズアンプ22−1の通過にともなる変化を示す係数ZLNA#1(fk)とが乗算された値として観測される。
同様に、無線モジュール25−3から送信された信号を無線モジュール25−2にて受信する場合、チャネル情報は空間上のh2(fk)にハイパワーアンプ21−3の通過に伴う変化を示す係数ZHPA#3(fk)と、ローノイズアンプ22−2の通過に伴う変化を示す係数ZLNA#2(fk)とが乗算された値として観測される。
したがって、無線モジュール25−3から無線モジュール25−1へのチャネルは、ZHPA#3(fk)・h1(fk)・ZLNA#1(fk)で表される。また、無線モジュール25−3から無線モジュール25−2へのチャネルは、ZHPA#3(fk)・h2(fk)・ZLNA#2(fk)で表される。このため、無線モジュール25−1と無線モジュール25−2との間では、チャネル情報h1(fk)とh2(fk)の差に加えて、相対的にZLNA#2(fk)/ZLNA#1(fk)の差が発生する。
上述したように、実施形態における基地局装置は、受信したトレーニング信号に対して長時間平均をとることにより、各アンテナ素子に接続されているローノイズアンプ22−1〜22−3による変化を含むチャネル情報をアップリンクにて取得可能である。
しかし、基地局装置はダウンリンクにおけるチャネル情報を直接求めることができない。そこで、アップリンクのチャネル情報から換算することで、ダウンリンクのチャネル情報を取得する。この換算のためには、各アンテナ素子24−1〜24−3に接続されているローノイズアンプ22−1〜22−3及びハイパワーアンプ21−1〜21−3の個体差の影響をキャンセルする必要がある。
そこで、基地局装置の製造段階において、リファレンスとなる試験用の無線モジュール25−3を用意し、試験用の無線モジュール25−3のアンテナ端子と、無線モジュール25−1、25−2のアンテナ端子とを直接ケーブルで接続し、伝搬路上のチャネル情報が共通の値となる環境で、ハイパワーアンプ21−1〜21−3及びローノイズアンプ22−1〜22−3による変化を含むチャネル情報を測定し、測定したチャネル情報を用いて補正を行う。
図22は、キャリブレーションの概要を示す図である。同図において、符号26−1〜26−3はアンテナ端子を示し、符号27は同軸ケーブルを示している。なお、図21に示した機能部と同じ機能部には同じ符号を付している。
図22(A)は、無線モジュール25−3と無線モジュール25−1とを同軸ケーブルで接続した構成を示している。図22(B)は、無線モジュール25−3と無線モジュール25−2とを同軸ケーブルで接続した構成を示している。図21が実際の空間上を信号が伝搬した状態を示しているのに対して、図22がアンテナ素子を介さずに同軸ケーブル上を信号が伝搬した状態を示している。
無線モジュール25−1、25−2と、無線モジュール25−3とを接続する伝搬路としての同軸ケーブル27のチャネル情報は、h0(fk)である。
このとき、無線モジュール25−1から無線モジュール25−3へのチャネル情報は、ZHPA#1(fk)・h0(fk)・ZLNA#3(fk)で表される。無線モジュール25−2から無線モジュール25−3へのチャネル情報は、ZHPA#2(fk)・h0(fk)・ZLNA#3(fk)で表される。
また、無線モジュール25−3から無線モジュール25−1へのチャネル情報は、ZHPA#3(fk)・h0(fk)・ZLNA#1(fk)で表され、無線モジュール25−3から無線モジュール25−2へのチャネル情報は、ZHPA#3(fk)・h0(fk)・ZLNA#2(fk)で表される。
そこで、これらのチャネル情報を測定した後に、次式(14)及び式(15)で表されるキャリブレーション係数C1(fk)、C2(fk)を算出しておく。
先ほど、無線モジュール25−3から無線モジュール25−1へのチャネル情報はZHPA#3(fk)・h1(fk)・ZLNA#1(fk)で表され、無線モジュール25−3から無線モジュール25−2へのチャネル情報はZHPA#3・(fk)・h2(fk)・ZLNA#2(fk)で表されると説明した。これらに式(14)及び式(15)のキャリブレーション係数C1(fk)、C2(fk)を乗算すると次式(16)及び式(17)が得られる。
式(16)及び式(17)の右辺は、先ほど説明した、無線モジュール25−1から無線モジュール25−3へのチャネル情報、及び、無線モジュール25−2から無線モジュール25−3へのチャネル情報に一致している。
このように、式(14)及び式(15)に相当するキャリブレーション係数を基地局装置の製造段階において取得しておき、これらを基地局装置内に記憶しておくことにより、これらのキャリブレーショ係数を用いてアップリンクのチャネル情報からダウンリンクのチャネル情報を算出することができる。
なお、以下の実施形態では、これらのキャリブレーション係数を予め取得し、その値をデジタル信号処理上で利用する場合の説明を中心に行うが、当然ながらアナログ回路上において、これらのキャリブレーション係数が全てほぼ一定の値(複素位相が一定値であれば、絶対値そのものには差があっても構わない)となるように基地局装置内で調整を行っていれば、全てのキャリブレーション係数が1であるとみなした処理に読み替えることも可能である。同様に、アップリンクとダウンリンクの複素位相が一定値となるように調整されている場合にも、結果的に式(14)及び式(15)で示されるキャリブレーション係数の複素位相が全てのアンテナ素子でほぼ一定値になるため、同様の効果を得ることができる。
(チャネルの時変動量の推定と通信品質管理制御)
本発明の動作原理についてのここまでの説明では、チャネル情報の短時間平均化処理、相対成分取得、長時間平均化処理、及び送受信ウエイトの取得に関するそれぞれの説明と、それらに付随するキャリブレーションや周波数誤差等に関する説明を行なってきた。これらの技術を用いることで、より高次の空間多重に関する処理を、リアルタイム処理可能、かつ、簡易な制御で実現することができるようになる。しかし、実際の運用においては、基地局装置が固定的な送受信ウエイトを用いて端末装置間の信号の分離を行う際に、チャネルの時変動等の影響を受けて完全な信号分離が行えず、残留的な干渉信号が残ることになる。この信号がSINR特性の劣化を引き起こし、当初見込んでいた品質での通信を妨げることになる。
この問題の解決のためには、基地局装置において、SINR特性がどの程度であるかを把握し、そのSINR特性に見合った伝送モードを用いれば良い。例えば、受信信号レベルが十分高く、しかも残留干渉が殆ど無視できれば、64QAM(Quadrature Amplitude Modulation)などの高い多値数の変調方式を適用可能となる。一方、受信レベルが幾ら高くても残留干渉のレベルが無視できないと、BPSK(Binary Phase Shift Keying)などの低い多値数の変調方式を利用しなければならない。無線通信では通常は誤り訂正を適用するので、その誤り訂正の符号化率も組み合わせて選択可能な伝送モードが多数存在し、基地局装置は、その中のひとつを選択することになる。WiFi(wireless fidelity)(登録商標)を例に取れば、例えば20MHz帯域で64QAM(R=3/4)の単一ストリームの伝送に対応する伝送モードでは伝送速度は54Mb/sに相当する。同様にBPSK(R=1/2)では伝送速度は6Mb/sである。伝送速度が低いほど雑音や干渉に対する耐性は高まるため、より低いSINR値でも誤りなしに通信ができる可能性が高い。
同様に、同一周波数成分上で空間多重する信号系列数(空間多重する端末数)が多いと、当然ながらその分、SINR特性も劣化する。一般的には、多重数が2倍になると、残留干渉電力も2倍になる。
以上述べたように、チャネル情報の時変動量に応じてSINR特性が劣化するため、基地局装置は、チャネル情報の時変動の程度を統計的に取得し、その時変動により劣化するSINR値を推定することで、どの程度の空間多重数で、どの伝送モードを用いれば、所望の品質を得ることができるかを予測することができる。
なお、チャネルの時変動量を示す指標としては、チャネル情報そのものの変動量を評価する方法とは別に、後述する巡回遅延プリアンブルを用いた与被干渉量推定法を用いて算出する相対干渉指標値を用いる。相対干渉指標値は、もともとはチャネル情報の時変動に伴う影響を評価するものであるが、時変動が実際の通信品質に与える与被干渉量に焼きなおした時変動指標に相当するのが本発明の特徴である。
なお、この時変動指標である相対干渉指標値は、厳密にいえばあるスケジューリングにて選択された端末装置の組み合わせに依存した条件付きの物理量であるが、概ねSIR特性に対応する物理量となっている。そのため、取得した時変動指標をもとにしたSIR特性の劣化量をデータテーブルとして構成し、基地局装置は、そのデータテーブルを参照することで最適な空間多重数および伝送モードを設定する構成としても良い。また、データテーブルを用いる場合には、ある程度の刻み幅で時変動指標値を階級化して管理することも可能である。そこで、例えば0〜0.01は代表値として0.01(または0)、0.01〜0.03は代表値として0.03(または0.01)といった様に、その階級の最大値(または最小値で、時変動が最も大きい状態に相当)を代表値である階級値とみなした管理を行なっても良い。この階級化の刻み幅は、シミュレーション等において換算されるSIR値に大きな変化がなければ刻み幅を大きくしても構わないし、少量の変化で大きくSIR値が変化する場合には刻み幅を小さく設定する必要がある。特に、ここで用いる時変動指標である相対干渉指標値は通常は対数をとったdB表示で評価することが一般的であり、dB表示の時に概ね均等間隔になる様な階級化を行っても良い。また、刻み幅が十分に細かければ、代表値は階級の最大値の代わりに中央値等の他の値としても良い。これらの詳細については、階級化により制御を行うその他の一般的な技術と同じであるのでこれ以上の説明は省略する。
次に通信品質を考慮したスケジューリングの具体的な例としては、例えば、マルチユーザMIMOでは同程度のSNRの端末装置同士を組み合わせると効率的であるという報告もある。ここでは一例として全ての端末装置の伝送モードをQPSK R=1/2に固定する場合を例として考え、この際の所要SINR値が12dBであったと仮定する。また、上述の時変動の階級値の管理において、別途行なう計算機上のシミュレーション等で、ある時変動指標の階級値はSIRに換算して24dBに相当すると判断されていたとする。空間多重により発生する干渉量は、概ねN台多重すればN倍になるため、例えば8台多重すると9dB(Log10(8)≒9)の劣化に相当する。階級値が24dBに対応する場合には、8台の空間多重の結果、SIRは15dBまで劣化する。
ここで、空間多重する候補である各端末装置のSNRが15dB程度で、時変動指標が同一の階級値(ないしはその階級値よりも時変動が少ない階級値であってもよい)の端末装置を8台組み合わせる場合を考える。15dBのSNRおよびSIR(ここでは、雑音電力と干渉電力が偶然同じである場合を想定した)により、雑音および干渉電力の総和は2倍になり、SINR値としては12dBとなる。伝送モードとしてQPSK R=1/2を用いれば、所望SINR値を満足することになり、期待した品質での通信が可能となる。
さらに全く同様に、例えば時変動の階級値がSIRに換算して27dBであったとする。この場合、目標のSIR値の15dBまでには12dBのマージンがあり、先ほどの例のさらに2倍の16台の端末装置を空間多重しても、合成後のSIR値は15dBとなり、SINR値としては12dBとなるから通信品質を満足することになる。
この様にして、基地局装置は、この条件の端末装置を組み合わせ、使用する伝送モードの所要SINR値を満足しながら、効率的に空間多重を行う条件を調整することができる。なお、ここでの説明では時変動の階級値を1台あたりのSIR値に換算し、さらに所定の台数分だけ空間多重した後の合計のSIR値を求め、さらに端末装置のSNR値を加味して最終的なSINR値を算出する。そして、伝送モードを固定的に利用することを想定し、算出したSINR値から所望のSINR条件を満足しているかを判断している。他方、逆算的に目標とする空間多重後の最終的なSIR値(上述の例では15dB)を設定すれば、換算された1台当たりのSIR値との差分から空間多重可能な端末装置数(最大多重数)に換算することも可能である。また逆に、空間多重数の目標値を定めれば、空間多重後の最終的なSIR値(または雑音量も合わせて仮定することで得られる最終的なSINR値)を算出し、この値と伝送モードの所要SINR値を対応付けた換算テーブルにより最適伝送モードを選択することも可能である。
上述の例では雑音電力と干渉電力が同程度(ふたつ合わせると電力は2倍となる)である場合を想定し、所望SINR値である12dBよりも3dBだけ良好な15dBをSIRの目標値とした。しかし、空間多重する端末装置のSNR値は当然その様な都合の良い値とは限らないため、より一般化された条件について下記に整理しておく。例えば、i番目の端末装置である第i端末のSNR値がxidB、時変動指標の階級値に対応したSIR値がyidB、適用する伝送モードの所要SINR値がzidBであったとする。この場合、所望の品質を満たすためには以下の式(18)を満たす必要がある。
例えば全ての端末装置でSNR値が18dB(xi=18)、所要SINR値が12dB(zi=12)の場合を例に取ると、yi>13.3[dB]が要求条件となる。先ほどの例で、階級値がSIR換算で24dBであるとすると、13.3dBとの間で10.7dBの差となるので、10^(10.7/10)=11.74…となり、11台までの空間多重が可能であるという計算になる。
以上の例示で示したように、基地局装置は、一般的には式(18)の条件を満たすように空間多重数と伝送モードを選択すればよいが、処理を簡単にするためには若干の工夫をする必要がある。例えば、(1)同程度のSNR値の端末装置に同じ伝送モードを適用し、この条件の下で同時に空間多重を行うことが可能な多重数を決定する、(2)目標とする空間多重数の上限を決めて空間多重の組み合わせを決め、その後で式(18)の条件を満たす伝送モードを選択する、のいずれかのアプローチを利用することも可能である。
(1)の場合であれば、式(18)のxi、yi、ziを固定値と見なし、x0を端末装置に想定する最低SNR値、y0を時変動指標から換算される端末装置に想定する最低SIR値、z0を端末装置に想定する伝送モードの最大所要SINR値とすれば、多重数mは以下の条件を満たせば良い。
同様に(2)であれば、目標とする空間多重数をmとすることで、式(18)を以下の式に書き換えることもできる。
式(20)は、多重数mの代わりに式(18)の左辺第2項に相当するΣを残した形式であっても構わない。どちらにしろ、この様にして得られるSINR値ziに対して、それよりも所要SINR値が低い伝送モードを割り当てれば所望の品質を満足することができる。
これらの条件式は、基地局装置が、その都度、逐次計算する構成以外にも、データテーブル化したものを事前に用意しておき、それらを参照することで判断する構成であっても構わない。例えば、基地局装置は、式(19)に関して、離散的なx0と時変動の階級値に対応したy0及び各伝送モードのz0に対して(x0,y0,z0)を引数としてmを返すデータテーブルを用意しておき、このmを多重数の上限としてスケジューリングを実施しても良い。さらには、基地局装置は、離散的なx0と時変動指標の階級値に対応したy0及び多重数mとを引数とし、式(20)の所要SINR値を満足する伝送モードを提示可能なデータテーブルを用意しておき、各端末装置の推定SNR値を階級化した際の代表値であるx0に変換し、そのx0を用いてデータテーブルにより伝送モードを選択する構成としても良い。類似の処理は、例えば式(18)のΣを残した形式でΣ10^(−yi/10)を階級化した離散値を引数として伝送モードを与えるデータテーブルを構築しても構わない。ここでは3種類のパラメータ値を引数として説明したが、その一部を固定値として設定し、実際には1種類ないし2種類のパラメータ値を引数とする構成でも良い。あくまでも、この様にデータテーブル化することで、逐次行う処理の負荷低減を図ることが可能となる。
また、以上の説明では時変動指標からSIR値に換算する際に階級化されたテーブルを用いるとして説明したが、式(18)から式(20)のx、y、zは一般的な値として扱うことが可能であることから、時変動指標を引数とする冪乗や指数関数などを合成した多項式などでSIR値を近似的に表すことが可能な換算式を取得して利用することにより、必ずしも階級化を行わずとも、同等の処理を実施することは可能である。
また更に、例えば符号分割多元接続(CDMA:Code Division Multiple Access)などの伝送技術において、相互に干渉となりうる信号の受信レベルを調整するための手段として、送信電力制御を用いることがある。これは、基地局装置の近くの端末装置からの受信信号とサービスエリアの端に位置する遠くの端末装置からの受信信号が混在した場合、仮に符号分割を行ったとしても相互の信号の受信電力に差がありすぎると、十分な干渉抑圧ができないという課題に対し、各端末装置と基地局装置の間の伝搬損失を見積もり、アップリンクでの信号が全ての端末装置で同程度の受信信号レベルとなる様に端末装置側の送信電力を調整するという技術である。本発明においても、この様なアップリンクにおける受信信号のレベル差は相互の与・被干渉の抑制において好ましくない影響を与えるため、端末装置側で送信電力制御(アップリンクのみ)を行うことを想定する。この場合には、各端末装置のSNR特性はほぼ一定となり、式(18)および式(20)のxiが送信電力制御を考慮した回線設計上の所定の固定値として扱えば良い。
[本発明の背景技術の構成例]
本発明は、チャネルの時変動量の推定と通信品質管理制御に係わる技術と、その背景技術の組み合わせにより構成される。本発明の具体的な実施形態を説明する前に、その実施形態のベースとなる背景技術の構成例を先に説明する。
(背景技術の第1の構成例)
本発明の背景技術の第1の構成例では、複数のアンテナ素子を備える基地局装置と、基地局装置と通信をする複数の端末装置を具備する無線通信システムを例にして説明を行う。
図23は、本発明背景技術の第1の構成例における基地局装置10の構成を示す概略ブロック図である。同図に示すように、基地局装置10は、受信部100、送信部140、送受信ウエイト算出部120a、インタフェース回路170、MAC層処理回路180および通信制御回路110を備えている。MAC層処理回路180はスケジューリング処理回路181を有している。
基地局装置10は、インタフェース回路170を介して、外部機器ないしはネットワークとのデータの入出力を行う。インタフェース回路170は、入力されるデータのうち、無線回線上で転送すべきデータを検出し、検出したデータをMAC層処理回路180に出力する。MAC層処理回路180は、基地局装置10全体の動作の管理制御を行う通信制御回路110の指示に従い、MAC層に関する処理を行う。ここで、MAC層に関する処理には、インタフェース回路170で入出力されるデータと、無線回線上で送受信されるデータの変換、MAC層のヘッダ情報の付与などが含まれる。この処理の中で、スケジューリング処理回路181は、マルチユーザMIMO伝送において同時に空間多重を行う端末装置の組み合わせを含む各種スケジューリング処理を行う。スケジューリング処理回路181は、スケジューリング結果を通信制御回路110に出力する。
マルチユーザMIMOでは、複数の端末装置宛に一度に信号を送信するため、複数系統の信号系列がMAC層処理回路180から送信部140に出力される。また、複数の端末装置から送信された複数系統の信号系列が受信部100からMAC層処理回路180に出力される。送受信ウエイト算出部120aは、受信部100と送信部140とが空間多重してデータを送受信する際に用いる受信ウエイト及び送信ウエイトを管理する。
以下、基地局装置10における受信(アップリンク)に係る構成(受信部100)と、送信(ダウンリンク)に係る構成(送信部140)とに分けて説明する。
図24は、本発明背景技術の第1の構成例における基地局装置10が備える受信部100の構成の一例を示す概略ブロック図である。同図に示すように、受信部100は、アンテナ素子101−1〜101−K、TDDスイッチ102−1〜102−K、ローノイズアンプ(LNA)103−1〜103−K、ローカル発振器104、ミキサ105−1〜105−K、フィルタ106−1〜106−K、A/D変換器107−1〜107−K、FFT回路108−1〜108−K、及び受信信号処理回路109−1〜109−Lを備えている。受信信号処理回路109−1〜109−Lと、TDDスイッチ102−1〜102−Kとは、図23に示した通信制御回路110に接続されている。また、FFT回路108−1〜108−Kと、受信信号処理回路109−1〜109−Lは、図23に示した送受信ウエイト算出部120aと接続されている。なお、アンテナ素子101−1〜101−Kは、図17におけるアンテナ素子13−1〜13−4に対応する。
本構成例の基地局装置10には、K個のアンテナ素子101−1〜101−Kそれぞれに対応する、TDDスイッチ102−1〜102−KからA/D変換器107−1〜107−Kまでの回路が並列に設けられ、A/D変換器107−1〜107−Kの出力にFFT回路108−1〜108−Kが接続されている。また、アップリンクのチャネル情報からダウンリンクのチャネル情報を推定するために、送受信で同一のアンテナ素子101−1〜101−Kを用いている。TDDスイッチ102−1〜102−Kが送信信号と受信信号との流れを切り替えている。
TDDスイッチ102−1〜102−Kは、アンテナ素子101−1〜102−Kを介して受信した信号をローノイズアンプ103−1〜103−Kに出力する。ローノイズアンプ103−1〜103−Kは、TDDスイッチ102−1〜102−Kから出力される信号を増幅して、ミキサ105−1〜105−Kに出力する。ローカル発振器104は、予め定められた周波数を有する局部発振信号を生成し、生成した局部発振信号を各ミキサ105−1〜105−Kに出力する。ここで、各ミキサ105−1〜105−Kに入力される局部発振信号は同一の信号であり、周波数及び位相がそろった局部発振信号が各ミキサ105−1〜105−Kに入力される。
ミキサ105−1〜105−Kは、ローノイズアンプ103−1〜103−Kから入力された信号に対し、ローカル発振器104から入力される局部発振信号を乗算してダウンコンバートしてフィルタ106−1〜106−Kに出力する。フィルタ106−1〜106−Kは、ミキサ105−1〜105−Kがダウンコンバートした信号に含まれる受信すべきチャネルの帯域外の信号を除去し、A/D変換器107−1〜107−Kに出力する。
A/D変換器107−1〜107−Kは、フィルタ106−1〜106−Kから入力されるベースバンド信号をデジタル化する。FFT回路108−1〜108−Kは、A/D変換器107−1〜107−Kから入力されるデジタル・ベースバンド信号が通常のデータ通信信号を含む信号であれば、当該デジタル・ベースバンド信号を周波数成分ごとの信号に分離する。この際、FFT回路108−1〜108−Kは、各周波数成分の信号に対して、OFDMシンボル(ないしはブロック伝送のブロック)ごとにガードインターバルを除去し、残りのサンプリングデータに対してFFT処理を施し、時間軸上の信号を周波数軸上の信号に変換し、当該信号を受信信号処理回路109−1〜109−Lに出力する。更に、FFT回路108−1〜108−Kは、通信制御回路110の制御に応じて、入力されるデジタル・ベースバンド信号が通常のデータ通信信号と異なるチャネル推定用のトレーニング信号であれば、当該信号を送受信ウエイト算出部120aに出力する。FFT回路108−1〜108−Kに入力されるデジタル・ベースバンド信号がデータ通信信号を含む信号であるか、それとは異なるトレーニング信号であるかの判定は、通信制御回路110が行う。
ここで、「通常のデータ通信信号と異なるチャネル推定用のトレーニング信号」とは、本構成例において送受信ウエイトの算出に用いるチャネル情報の推定処理において使用される図20に示すトレーニング信号3−1〜3−3信号であって、無線通信におけるユーザ・データないしは各種制御情報を収容した無線パケットとは全く異なる信号である。本背景技術では一部の構成例を除き、通常のデータ通信とは異なる信号処理(以下の図27に示すチャネル情報の短時間平均化処理等)を行う必要があり、この信号は図20にて説明したとおり、従来のOFDM信号等とは異なるため、信号処理の内容も微妙に異なる。このため、FFT回路108−1〜108−Kでは、この通常のデータ通信信号と異なるチャネル推定用のトレーニング信号に対しては、FFTに伴う一連の処理を施さず、デジタル・ベースバンド信号のまま送受信ウエイト算出部120aに出力し、送受信ウエイト算出部120aにおいてFFTを含む処理を実施する機能が実装されているものとしている。ただ、詳細は後述するが、ここに記載された機能を実現するために、他の機能ブロックに同等の処理を実施することで代替することは当然可能であり、それも本背景技術の実現方法の一部であるとみなす。
受信信号処理回路109−1〜109−Lは、それぞれが、空間多重を用いてデータを送信する端末装置ないしは空間多重された信号系列に対応付けられ、受信信号から対応する端末装置のデータを検出する信号検出処理を行う。具体的には、受信信号処理回路109−1〜109−Lは、各周波数成分に分離した信号に対して、それぞれに割り当てられた送信元の端末装置に対応する受信ウエイトを送受信ウエイト算出部120aから入力し、周波数成分ごとに受信ウエイトを乗算する。受信信号処理回路109−1〜109−Lは、周波数成分ごとに、アンテナ素子101−1〜101−Kそれぞれに対し、受信ウエイトを乗算した信号を加算合成し、加算合成した信号に対して信号検出処理を行い、得られたデータ出力#1〜#LをMAC層処理回路180に出力する。
具体的には、受信信号処理回路109−1〜109−Lは、OFDM(A)変調方式が用いられている場合、加算合成された信号に対してサブキャリアごとの復調処理を行い、SC−FDEが用いられている場合、加算合成された各周波数成分の信号に対し周波数軸上での信号等化処理を施し、その信号をIFFT処理で合成した信号に対する復調処理を行う。ここでの復調処理には、加算合成等の信号処理が施された後の信号に対するチャネル推定を含み、ここで推定されたチャネル情報を基に信号検出処理が行われる。更に、必要に応じて誤り訂正の復号処理を施し、データを出力する。MAC層処理回路180におけるMAC層上での信号処理などは、公知の技術を用いた処理と同じであり、ここでは説明を省略する。
受信信号処理回路109−1〜109−Lが信号処理を行う際、送信元の端末装置ごとに異なる受信ウエイトを用いる必要がある。通信制御回路110は、一連の通信に係る制御全般を管理するが、特に、どのタイミングでどの端末装置からの信号を受信するか、どの受信ウエイトを用いるのかを管理する。そのため、本構成例における基地局装置10と端末装置との間のアクセス制御は、基地局装置10の集中制御により管理している。
なお、補足であるが、通信制御回路110は、自装置(基地局装置10)と端末装置との間の大まかなタイミングの同期に関して、GPS等を用いた絶対的な時刻・タイミングの同期を用いるようにしてもよい。
また、絶対的な時刻の同期の他にも、基地局装置10と端末装置との間の大まかな距離が分かっていれば、その距離に相当する伝搬遅延を端末装置に事前に設定しておき、端末装置は、基地局装置10のタイミングの基準となる信号の受信時刻に対し、所定のオフセットとして伝搬遅延を減算した時間にアップリンクの信号を送信開始するようにしてもよい。
具体的には、時分割多元接続(Time Division Multiple Access:TDMA)を用いたアクセス制御の例を用いれば、端末装置は、TDMAフレーム先頭のプリアンブル等のタイミング検出により得られるフレームタイミングを基準とし、フレーム内のスロット割り当ての内容を把握して通信の動作を行う。通常であれば、アップリンクのタイムスロットのタイミングで信号を送信するが、いわゆるタイム・アライメントと呼ばれる制御では、伝搬遅延を見込んでその遅延分だけ端末が自らの認識しているタイミングに対して先行した時間のタイミングで信号の送信を開始し、結果的に基地局装置10にその信号が到着する時刻を、基地局が認識しているタイミング通りになるように調整する。
この際に必要となる調整量は、実際の信号は基地局装置10から端末装置、更に基地局装置10へと往復することになるため、端末装置は伝搬遅延の2倍の時間だけ前倒しで送信を開始することになる。なお、このタイミングの調整は必ずしも端末装置で行わなくてもよく、基地局装置10が自装置と端末装置との距離ないしはその距離に相当する伝搬遅延を把握することができれば、基地局装置10において信号が受信される時刻をその時間分(伝搬遅延の2倍)だけ後ろ倒しに調整することで、タイミング調整を行うことも可能である。ないしは、直接的に基地局装置から端末装置に対し、その時間分だけ前倒しした時間を送信タイミングであると指示を行ってもよい。
このように、GPSを用いた絶対時刻の同期ないしはタイム・アライメント制御等のいずれかの手段で把握したタイミングで基地局装置10は受信処理を開始し、シンボルタイミングも既知として処理を行うことが可能である。これらのタイミング制御、アクセス制御、TDDスイッチ102−1〜102−Kの切替え、受信ウエイトを読み出すときにおける送信元である端末装置情報の提供など、これらを合わせて全て通信制御回路110が制御・管理を行う。
次に、送受信ウエイト算出部120aの構成について説明する。
図25は、本発明背景技術の第1の構成例における送受信ウエイト算出部120aの構成例を示す概略ブロック図である。同図に示すように、送受信ウエイト算出部120aは、チャネル情報短時間平均回路121、相対成分取得回路122、チャネル情報長時間平均回路123、マルチユーザMIMO(MU−MIMO)受信ウエイト算出回路124a、マルチユーザMIMO(MU−MIMO)受信ウエイト記憶回路125a、キャリブレーション回路126、マルチユーザMIMO(MU−MIMO)送信ウエイト算出回路127a、マルチユーザMIMO(MU−MIMO)送信ウエイト記憶回路128a、及びキャリブレーション係数記憶回路129を有している。なお、以下に示す説明におけるチャネル情報、送受信ウエイト、キャリブレーション係数等は、全て周波数成分ごとに異なるものであり、それらは周波数成分ごとに個別に算出、処理、記録、管理されるものである。
チャネル情報短時間平均回路121は、通信制御回路110の指示に従い、FFT回路108−1〜108−Kから入力される信号に対してトレーニング信号の短時間平均化処理(必要に応じ周波数誤差補償を行い、更に時間軸上の信号をFFT処理により周波数成分ごとに分離する)を行い、端末装置ごとに、端末装置とアンテナ素子101−1〜101−Kそれぞれとの間のアップリンクのチャネル情報を周波数成分ごとに取得する。相対成分取得回路122は、例えばアンテナ素子101−1の複素位相を基準とし、各アンテナ素子101−1〜101−Kそれぞれのチャネル情報のアンテナ素子101−1との相対成分を取得する。チャネル情報長時間平均回路123は、端末装置ごとに、相対成分取得回路122が取得した離散的な時刻に取得された複数回分のアンテナ素子101−1〜101−Kそれぞれに対する相対成分から、アンテナ素子101−1〜101−Kそれぞれに対する相対成分の平均値を算出する長時間平均化処理を行い、算出した平均値をチャネル情報として出力する。
マルチユーザMIMO受信ウエイト算出回路124aは、チャネル情報長時間平均回路123が出力したチャネル情報に基づいて、端末装置の予め定められた組み合わせごとに、受信ウエイトを算出し、算出した受信ウエイトと当該組み合わせとを対応付けてマルチユーザMIMO受信ウエイト記憶回路125aに出力する。マルチユーザMIMO受信ウエイト記憶回路125aは、マルチユーザMIMO受信ウエイト算出回路124aが出力した、受信ウエイトと、端末装置の組み合わせとを対応付けて記憶する。ここで、端末装置の組み合わせは、無線通信システムに具備されている複数の端末装置の全ての組み合わせでもよいし、頻繁に利用される限定的な組み合わせでもよい。
キャリブレーション回路126は、チャネル情報長時間平均回路123が出力したチャネル情報に予め定められたキャリブレーション係数を乗算してダウンリンクのチャネル情報を取得する。マルチユーザMIMO送信ウエイト算出回路127aは、キャリブレーション回路126が取得したダウンリンクのチャネル情報に基づいて、端末装置の予め定められた組み合わせごとに、送信ウエイトを算出し、算出した送信ウエイトと当該組み合わせとを対応付けてマルチユーザMIMO送信ウエイト記憶回路128aに出力する。マルチユーザMIMO送信ウエイト記憶回路128aは、マルチユーザMIMO送信ウエイト算出回路127aが出力した送信ウエイトと端末装置の組み合わせとを対応付けて記憶する。
キャリブレーション係数記憶回路129には、アンテナ素子101−1〜101−Kごとに、アップリングのチャネル情報から、ダウンリンクのチャネル情報を算出する際に用いる各周波数成分におけるキャリブレーション係数を予め記憶している。
なお、送受信ウエイト算出部120aにて行うチャネル情報の推定に係わる一連の処理、及びそれに後続する送受信ウエイトの算出とその記憶等の一連の処理は、全て各周波数成分ごとに行われる。つまり、式(11)又は式(13)を用いて行う周波数誤差を推定した後は、周波数誤差を補正した式(10)で与えられる短時間平均化後の各mに対するサンプリングデータ〜Smに対してFFT処理を行い、各周波数成分に分離することでアップリンクの短時間平均化されたチャネル情報を取得した後、それを基に各周波数成分に対して一連の処理を行う。
図26は、本発明背景技術の第1の構成例における基地局装置10における送信部140の構成の一例を示す図である。同図に示すように、送信部140は、送信信号処理回路141−1〜141−L、加算合成回路142−1〜142−K、IFFT&GI付与回路143−1〜143−K、D/A変換器144−1〜144−K、ローカル発振器145、ミキサ146−1〜146−K、フィルタ147−1〜147−K、及びハイパワーアンプ(HPA)148−1〜148−Kを更に備えている。送信信号処理回路141−1〜141−Lと、TDDスイッチ102−1〜102−Kとは、図23に示した通信制御回路110に接続されている。また、送信信号処理回路141−1〜141−Lは、図23に示した送受信ウエイト算出部120aに接続されている。ここで、アンテナ素子101−1〜101−K、及びTDDスイッチ102−1〜102−Kは、アップリンクに係る構成(受信側)とで共通に用いられる。実際には、基地局装置10において、アップリンクに係る構成と、ダウンリンクに係る構成とが一体となって動作するものであるが、説明の都合上、分けて説明をしている。
送信信号処理回路141−1〜141−Lは、それぞれが、空間多重を用いてデータを送信する宛先の端末装置に対応付けられ、対応付けられた端末装置に送信するデータに対して信号処理を行う。具体的には、送信信号処理回路141−1〜141−Lは、送信すべきデータ入力#1〜#LがMAC層処理回路180から入力されると、OFDM(A)変調方式又はSC−FDEにおける所定の送信処理を実行する。データ入力#1〜#Lは、宛先の端末装置ないしは空間多重する信号系列それぞれに対応するデータであり、宛先の端末装置に対応付けられた送信信号処理回路141−1〜141−Lに入力される。送信信号処理回路141−1〜141−Lは、基地局装置10においてOFDM(A)変調方式が用いられる場合、サブキャリアごとの信号の変調処理を行う。送信信号処理回路141−1〜141−Lは、マルチユーザMIMO送信ウエイト記憶回路128aに記憶されている送信ウエイトのうち、それぞれに割り当てられた宛先の端末装置に対応する各アンテナ素子101−1〜101−Kそれぞれの送信ウエイトをマルチユーザMIMO送信ウエイト記憶回路128aから読み出し、変調処理を行ったサブキャリアごとの信号に対し、読み出した送信ウエイトをサブキャリアごとに乗算する。
また、送信信号処理回路141−1〜141−Lは、基地局装置10においてSC−FDEが用いられる場合、シングルキャリアの変調処理が施された信号を、送信信号のブロック単位でFFTにより各周波数成分に分離する。送信信号処理回路141−1〜141−Lは、マルチユーザMIMO送信ウエイト記憶回路128aに記憶されている送信ウエイトのうち、宛先の端末装置に対応した送信ウエイトを読み出し、周波数成分に分離した信号に対し、読み出した送信ウエイトを周波数成分ごとに乗算する。
その後、送信信号処理回路141−1〜141−Lは、OFDM(A)変調方式及びSC−FDEのいずれが用いられる場合においても、送信ウエイトを乗算したアンテナ素子ごとの各周波数成分の信号を加算合成回路142−1〜142−Kに出力する。加算合成回路142−1〜142−Kは、送信信号処理回路141−1〜141−Lが生成した信号を周波数成分ごとに合成し、IFFT&GI付与回路143−1〜143−Kに出力する。IFFT&GI付与回路143−1〜143−Kは、加算合成回路142−1〜142−Kにおいて合成された信号に対しIFFT処理を施し、周波数軸上から時間軸上の信号に変換し、更にガードインターバルを付与し、必要に応じて波形整形を行い送信すべきデジタル・ベースバンド信号を生成し、D/A変換器144−1〜144−Kに出力する。なお、デジタル・ベースバンド信号は、アンテナ素子101−1〜101−Kそれぞれに対応し、個別に信号処理される。
D/A変換器144−1〜144−Kは、IFFT&GI付与回路143−1〜143−Kから入力された信号をアナログ信号に変換しミキサ146−1〜146−Kに出力する。
ローカル発振器145は、アップコンバートに用いられる局部発振信号であって所定の周波数を有する局部発振信号をミキサ146−1〜146−Kに出力する。
ミキサ146−1〜146−Kは、D/A変換器144−1〜144−Kから入力されるアナログ信号に対し、ローカル発振器145から入力される局部発振信号を乗算して無線周波数にアップコンバートした信号をフィルタ147−1〜147−Kに出力する。なお、ミキサ146−1〜146−Kに入力される局部発振信号は同一の信号であり、周波数及び位相がそろった局部発振信号が各ミキサ146−1〜146−Kに入力される。
フィルタ147−1〜147−Kは、ミキサ146−1〜146−Kから入力される信号に含まれ送信すべきチャネルの帯域外の信号を除去し、ハイパワーアンプ148−1〜148−Kに出力する。
ハイパワーアンプ148−1〜148−Kは、フィルタ147−1〜147−Kから入力される信号を増幅し、TDDスイッチ102−1〜102−Kを介してアンテナ素子101−1〜101−Kより送信する。
通信制御回路110は、更に、送信タイミングや、宛先の端末装置の管理、TDDスイッチ102−1〜102−Kの切替えの制御を行う。
なお、以上の説明では、IFFT&GI付与回路143−1〜143−Kにおいて行う信号処理が加算合成回路142−1〜142−Kの後段において処理される場合について説明を行ったが、IFFT&GI付与回路143−1〜143−Kにおいて行う信号処理を送信信号処理回路141−1〜141−Lにて実施し、時間軸上のデジタル・サンプリングデータとした上で、各サンプリング時刻のサンプリングデータを加算合成回路142−1〜142−Kにて全宛先の端末局に亘り加算合成するという処理に置き換えても、同等の信号処理が可能であり、どちらの構成を選択しても構わない。ただし、この場合、IFFTを行う回数が上記説明よりも多くなるため、全体的な回路規模抑制の観点からは図26の構成が好ましいと思われる。
<チャネル推定から送受信ウエイトの算出処理>
以下、図27から図31を用いて、本構成例の基地局装置10におけるチャネル推定から送信ウエイト及び受信ウエイトの算出までの処理を説明する。これらの一連処理は、端末装置と通信を開始する前に行うことが基本であるが、一旦、これらの処理を行った上で、逐次学習を行いながらチャネル情報の精度の向上、すなわち送信ウエイト及び受信ウエイトの精度の向上を図ることも可能である。
また、基地局装置10は、ブロードバンドサービスの中で利用されることを想定し、ある程度の帯域幅で通信を行う場合を対象とした。このため、OFDM(A)変調方式や、SC−FDE等の通信方式が用いられることを想定し、ブロック単位で各周波数成分を分離して信号処理をする説明を行っている。
アップリンクのチャネル推定においては、例えば、図20に示したようなトレーニング信号を端末装置から連続的に送信し、それを基地局装置10が受信し、比較的短い時間での平均化処理(図27)を行う。更に、基地局装置10において、各アンテナ素子101−1〜101−Kそれぞれの相対的なチャネル情報の差を示す相対成分を取得し(図28)、長時間での平均化処理(図29)を行う3段階の信号処理を行う。
このようにして求めたアップリンクのチャネル情報に対し、キャリブレーション係数を乗算してダウンリンクのチャネル情報を取得し(図30)、アップリンク及びダウンリンクのチャネル情報に基づいて送信ウエイト及び受信ウエイトを算出する(図31)。
以下、各処理を説明する。
図27は、本発明背景技術の第1の構成例におけるアップリンクのチャネル情報を取得する短時間平均化処理を示すフローチャートである。
基地局装置10において、チャネル情報短時間平均回路121は、端末装置から短時間平均化用のチャネル推定のトレーニング信号の受信が開始されると(ステップS101)、サンプリングのカウンタとしてのm及びMをゼロにリセットする(ステップS102)。ここで、カウンタとは、式(10)におけるm、Mのことであり、第Mシンボルの第mサンプルの意味である。チャネル情報短時間平均回路121は、FFT回路108−1〜108−Kから入力されるトレーニング信号に対してサンプリングを行い、サンプリングした信号をS(M) mとする(ステップS103)。
チャネル情報短時間平均回路121は、サンプリング周期Δtが経過するたびに、カウンタmに「1」を加算し(ステップS104)、カウンタmがデータ数Nと一致した(m=N)か否かを判定し(ステップS105)、カウンタmがデータ数Nと一致していない(m≠N)場合(ステップS105:No)、ステップS103に処理を戻し、ステップS103〜S105を繰り返す。ここで、データ数Nは、1シンボル当たりのサンプル数であり、予め定められた値である。
一方、カウンタmがデータ数Nと一致した場合(ステップS105:Yes)、チャネル情報短時間平均回路121は、1シンボル分のサンプリングが完了したとみなし、次のシンボルをサンプリングするために、カウンタmに0を代入し、カウンタMに「1」を加算する(ステップS106)。
チャネル情報短時間平均回路121は、カウンタMが所定の値(式(10)のM0)に達したか否かに応じてサンプリング終了か否かを判定し(ステップS107)、一続きのサンプリングが完了していない場合(ステップS107:No)、ステップS103に処理を戻し、ステップS103〜S106の処理を繰り返して行う。ここで、一続きのサンプリングとは、予め定められたシンボル数M0のサンプリングのことである。
一方、一続きのサンプリングが完了した場合(ステップS107:Yes)、チャネル情報短時間平均回路121は、式(12)を用いて^S(M,M’)を算出し(ステップS108)、式(13)の解ないしは式(11)を最大にする周波数誤差Δfを算出する(ステップS109)。
チャネル情報短時間平均回路121は、算出した周波数誤差Δfを用い、式(10)から複数周期に亘り加算平均化されたサンプリングデータ〜Smを算出する(ステップS110)。
チャネル情報短時間平均回路121は、短時間平均されたサンプリングデータ〜Smに対してFFTを行い、各周波数成分の情報を算出し(ステップS111)、短時間平均化の処理を終了する(ステップS112)。
なお、周波数誤差Δfが無視可能なほどに小さいことが事前に分かっている場合(設計上、この様な設定となっている場合)、ないしは短時間平均化を行う時間(T×M0)が十分に短く設定されている場合には、周波数誤差Δfの補正に相当する処理S108及びS109を省略し、Δf=0として処理S110を直接実施することも可能である。
チャネル情報短時間平均回路121は、アンテナ素子101−1〜101−Kごとに、複数の周期に亘るトレーニング信号を周期ごとに分離し、分離した各トレーニング信号を合成して短時間の平均化処理を行う。更に、各アンテナ素子101−1〜101−Kで受信した信号に含まれる異なる周期を有する各周波数成分の信号をFFTにて周波数成分ごとに分離し、分離した周波数成分ごとの信号から各アンテナ素子101−1〜101−Kと端末装置との間のアップリンクにおける各周波数成分のチャネル情報を取得する。
図28は、本発明背景技術の第1の構成例におけるアップリンクのチャネル情報の相対成分を取得する相対成分取得処理を示すフローチャートである。相対成分取得回路122は、チャネル情報短時間平均回路121が第1のアンテナ素子101−1から第Kのアンテナ素子101−Kそれぞれに対応する信号に対して短時間平均化処理を終了すると(ステップS121−1〜S121−K)、短時間平均化処理が終了した各アンテナ素子101−1〜101−Kに対応するチャネル情報における第k周波数成分^h(k) 1,…,^h(k) Kがチャネル情報短時間平均回路121から入力される(ステップS122−1〜122−K)。
相対成分取得回路122は、第1のアンテナ素子101−1におけるチャネル情報(^h(k) 1)と、その複素共役(^h(k) 1)*とから、オフセット値e−jφ(k)(=(^h(k) 1)*/‖^h(k) 1‖)を算出する(ステップS123)。ここで「‖x‖」は、xの絶対値を表す。なお、このオフセット値は周波数成分ごとに個別に求める。
相対成分取得回路122は、算出した第k周波数成分に対するオフセット値e−jφ(k)を各アンテナ素子101−1〜101−Kに対応する第k周波数成分^h(k) 1、…、^h(k) Kに乗算し(ステップS124−1〜S124−K)、相対的な複素位相関係を示すチャネル情報〜h(k) 1,…〜h(k) Kを求め、処理を終了する(ステップS125−1〜S125−K)。
上述のように、相対成分取得回路122は、第1のアンテナ素子101−1のチャネル情報を基準として、各アンテナ素子101−1〜101−Kの相対的なチャネル情報〜h(k) 1,…〜h(k) Kを算出する。なお、相対成分取得回路122は、端末装置ごとに、全ての周波数成分について上記のステップS121−1〜ステップS125−Kまでの処理を行い、各端末装置に対する全ての周波数成分における短時間平均のチャネル情報の相対成分〜h(k) 1,…,〜h(k) Kを算出する。
図29は、本発明背景技術の第1の構成例におけるアップリンクのチャネル情報の長時間平均化処理を示すフローチャートである。上述の図27及び図28の各処理は、連続又は離散的な時間で複数回実施され、各処理において算出された短時間平均のチャネル情報を基に、長時間平均化処理において長時間平均化されたチャネル情報を算出する。
チャネル情報長時間平均回路123は、1回目からQ回目の短時間平均化処理(相対成分取得を含む)が完了すると(ステップS131−1〜131−Q)、相対成分取得回路122から短時間平均のチャネル情報の相対成分〜h(k) 1 [q],…〜h(k) K [q](q=1,…,Q)が入力される(ステップS132−1〜S132−Q)。ここで、短時間平均のチャネル情報の相対成分〜h(k) 1 [q]は、q回目に算出された第1のアンテナ素子101−1の第k周波数成分に対するチャネル情報の相対成分である。したがって、ステップS132−1〜S132−Qは時間的に異なるタイミングで行われる処理に相当する。なお、長時間平均化処理の対象になる回数Qは、無線通信システムを運用する環境などに基づいて予め定められる。
また、チャネル情報長時間平均回路123は、次式(21)を用いて、長時間平均のチャネル情報h(k) i(i=1,…,K)を算出する(ステップS133)。なお、ステップS132−1〜S132−Qは時間的に異なるタイミングで処理が完了するため、長時間平均化処理であるステップS133の実施までの間、このチャネル情報の相対成分を一時的にメモリに記憶しておき、一度にステップS133を実施しても構わない。ないしは、ステップS133のΣによる総和の個々の加算処理を、ステップS132−1〜S132−Qの個々の処理が完了ごとに実施し、次の処理までの間メモリに記憶しておいて、加算の都度、それらを読み出してステップS133を実施しても構わない。
チャネル情報長時間平均回路123は、各アンテナ素子101−1〜101−Kごとに、各周波数成分のチャネル情報それぞれを平均化した長時間平均のチャネル情報h(k) iを算出すると、長時間平均化処理を終了する(ステップS134)。なお、後述の図31を用いて説明する受信ウエイトの算出は、ここで取得したアップリンクのチャネル情報を用いて行われることになるが、これらの処理を行うにあたり、一時的にメモリに記憶しておいても構わない。
以上の処理により、アップリンクのチャネル情報が直接的に取得できる。また、本構成例では、相対成分取得処理(図28)を行っているので、1回目からQ回目までの各短時間平均処理における位相のずれの影響を受けることなく長時間平均のチャネル情報を算出することができる。なお、上述のチャネル情報h(k) i等の右肩の添え字kは周波数成分を識別する番号(サブキャリア番号)を表している。
図30は、本発明背景技術の第1の構成例におけるダウンリンクのチャネル情報を取得する処理を示すフローチャートである。基地局装置10は、基地局装置10から端末装置へのダウンリンクに関しては、アップリンクのように直接的にチャネル情報を取得することが困難なので、アップリンクのチャネル情報を基にダウンリンクのチャネル情報を推定する。
基地局装置10において、キャリブレーション回路126は、チャネル情報長時間平均回路123からアップリンクのチャネル情報h(k) iが入力され(ステップS142)、入力されたチャネル情報h(k) iに対する第iのアンテナ素子101−iにおける第k周波数成分に対応するキャリブレーション係数C(k) iをキャリブレーション係数記憶回路129から読み出す(ステップS143)。
キャリブレーション回路126は、入力されたチャネル情報h(k) iと、読み出したキャリブレーション係数C(k) iとを乗算し(ステップS144)、乗算結果をダウンリンクのチャネル情報として、処理を終了する(ステップS145)。この場合も、後述の図31を用いて説明する送信ウエイトの算出は、ここで取得したダウンリンクのチャネル情報を用いて行われることになるが、これらの処理を行うにあたり一時的にメモリに記憶しておいても構わない。
キャリブレーション回路126は、各アンテナ素子101−1〜101−Kそれぞれに対して、周波数成分ごとに上述のステップS142からステップS144の処理を行う。
図31は、本発明背景技術の第1の構成例の基地局装置10における送信ウエイト及び受信ウエイトを算出する処理を示すフローチャートである。アップリンクにおけるチャネル情報に対する受信ウエイトの算出処理と、ダウンリンクにおけるチャネル情報に対する送信ウエイトの算出処理とは同等であるので、ここでは、ダウンリンクにおける送信ウエイトを算出する処理について説明し、アップリンクにおける受信ウエイトを算出する処理の具体的な説明を省略する。
マルチユーザMIMO送信ウエイト算出回路127aは、処理を開始すると(ステップS151)、空間多重を用いてデータを同時に送信する宛先となる端末装置の組み合わせパターンが入力される(ステップS152)。この端末装置の組み合わせパターンは、予め何らかの方法を用いて定められたパターンであり、例えば、無線通信システムに具備されている端末装置の全ての組み合わせや、頻繁に利用される限定的な組み合わせ、所定の条件を満たす組み合わせなどを用いるようにしてもよい。なお、全ての端末装置が必ず一つ以上の組み合わせに属するものとする。また、OFDMAのようにサブキャリアごとに異なる組み合わせによる帯域割り当てが可能な場合には、全ての周波数成分で同一のバリエーションの組み合わせを用意する必要はなく、周波数成分ごとに異なるバリエーションとなっても構わない。この場合、いずれかの周波数成分において一つ以上の組み合わせに属しているならば、全ての周波数成分において属する組み合わせが存在しなくても、動作的には問題ない。
マルチユーザMIMO送信ウエイト算出回路127aは、入力された組み合わせパターン#s(1≦s≦S)ごとに、組み合わせパターンに含まれる端末装置に対応するダウンリンクのチャネル情報をキャリブレーション回路126から取得し(ステップS153−1〜S153−S)、組み合わせパターンに対応する送信ウエイトを算出する(ステップS154−1〜S154−S)。マルチユーザMIMO送信ウエイト算出回路127aは、算出した各送信ウエイトを、それぞれの組み合わせパターンに対応付けてマルチユーザMIMO送信ウエイト記憶回路128aに記憶させる(ステップS155−1〜S155−S)。
マルチユーザMIMO送信ウエイト算出回路127aは、ステップS153−1〜153−SからステップS155−1〜S155−Sまでの処理を全ての周波数成分に対して行う。
なお、同時に空間多重を行う端末装置の組み合わせパターンを決める方法として、端末装置の数が比較的少なければ、その全体の端末装置から空間多重数であるN個の端末装置を抜き出す組み合わせの数だけ用意してもよい。但し、全ての端末装置の数MからN個を選び出す組み合わせはMCNだけあり、「M」や「N」の値が大きいとその組み合わせの数は天文学的な膨大な数になる。その場合には、例えば全ての端末装置から適当にN個の組み合わせに分ける幾つかのパターンを厳選し、必ず各端末装置がいずれかのパターンに属するようにしておく。厳選の方法は、例えばランダムにN個を選ぶ組み合わせを多数作成し、なるべく各端末装置が同程度に数のパターンに属するように選び出してもよい。その作業は、何らかのプログラムを用いて実施してもよいし、人為的に組み合わせを設定してもよい。また、その際に何らかのルールを設定してもよいし、あくまで適当(ランダム)な作業で実施してもよい。ステップS151−1〜S151−SからステップS155−1〜S155−Sまでの処理は、この組み合わせパターンの作成の方法に影響を受けることなく実施できる。
更に、端末装置の組み合わせパターンに対する送信ウエイトの算出処理(ステップS154−1〜S154−S)について説明を追加しておく。ここでの送信ウエイトは、一般的なマルチユーザMIMOにおける送信ウエイトの算出と同様の方法、すなわち公知の算出方法を用いてもよい。例えば、図11に示した算出方法を用いるようにしてもよい。図11に示した方法では、式(6)〜式(9)として具体的な演算を示している。なお、同様の送信ウエイトの算出法としては、以下に示す方法もあり、いずれの方法を用いてもよい。
まず、基地局装置10の送信に相当するダウンリンクの送信ウエイトに関しては、式(1)等に示した全体のチャネル行列H[all]に対し、次式(22)で表される擬似逆行列を算出し、これを送信ウエイトとして用いるようにしてもよい。
ここで、空間多重する端末装置数をN台、基地局装置10のアンテナ素子の数をK本(N<K)とすると、チャネル行列H[all]のサイズはN×K(N行K列)である。H[all]のランクがNであれば、行列H[all]・H[all]HのサイズはN×Nで逆行列が存在し、式(22)を用いて擬似逆行列を得ることができる。一般に、Nに対してKの値が十分冗長であれば、このN×Nの行列のランクは安定的にNとなり、逆行列が安定的に存在する。
同様に、基地局装置10の受信に相当するアップリンクの受信ウエイトに関しては、次式(23)で表される擬似逆行列を算出し、これを受信ウエイトとして用いるようにしてもよい。
アップリンクの場合、チャネル行列H[all]のサイズはK×N(K行N列)であり、行列H[all]H・H[all]のサイズでもN×Nで一般には逆行列が存在し、式(23)を受信ウエイトとして用いてもよい。
なお、同様の送受信ウエイトとして知られているMMSEウエイトでは、雑音電力をσ2とすれば、次式(24−1)及び次式(24−2)を式(22)及び式(23)の代わりに用いてもよい。
また、基地局装置10からの送信に対応するダウンリンクと、受信に対応するアップリンクとでは、チャネル行列が異なるので、送信ウエイトと受信ウエイトとを個別に算出する必要がある。なお、式(24−1)及び式(24−2)における「I」はN×N(N行N列)の単位行列である。
以上のように、ステップS154−1〜S154−Sにおける処理でウエイトを算出し、ステップS155−1〜S155−Sにおける処理で算出したウエイトをマルチユーザMIMO送信ウエイト記憶回路128aに記憶させる。
なお、送受信ウエイトは、アンテナ素子ごとのウエイトの値を各要素の成分として構成されるベクトル(ウエイトベクトル)の示す方向が実効的な意味をもつ。このため、あるウエイトベクトルに所定の係数を乗算したベクトルは方向的には同一であるため、アンテナ素子ごとに一定の係数が乗算されたウエイトベクトルは乗算される係数に依存せずに全て等価である。つまり、式(22)から式(24−2)などで与えられる行列の各行ベクトルないしは列ベクトル(従来からの公知の技術により求められる送受信ウエイトベクトル)の成分全体に共通の係数が乗算されたウエイトは、全て本発明背景技術におけるウエイトと等価なものである。
図31に関する以上の説明は送信ウエイトの算出に関するものであったが、受信ウエイトに関しても対応する回路(例えば、キャリブレーション回路126に対してチャネル情報長時間平均回路123、マルチユーザMIMO送信ウエイト算出回路127aに対してマルチユーザMIMO受信ウエイト算出回路124a、マルチユーザMIMO送信ウエイト記憶回路128aに対してマルチユーザMIMO受信ウエイト記憶回路125a)に置き換えて、同様の処理を行うことで受信ウエイトの算出処理を実施することができる。
図27から図31に示した上述の処理を事前に実施し、そこで得られた送信ウエイト及び受信ウエイトをマルチユーザMIMO送信ウエイト記憶回路128a及びマルチユーザMIMO受信ウエイト記憶回路125aに記憶させておく。なお、図27及び図31に示した処理は、通信開始後も適当な周期で通信を一時的に休止させて実行することが可能である。そこで得られた短時間平均のチャネル情報を用いて図29から図31に示した処理を行い、逐次、送信ウエイト及び受信ウエイトを更新するようにしてもよい。
<送信処理>
次に、基地局装置10における信号の送信処理について図を参照して説明する。
図32は、本発明背景技術の第1の構成例における基地局装置10の送信処理を示すフローチャートである。先にも触れたが、ここではOFDM(A)変調方式ないしはSC−FDEを用いている場合について説明する。
基地局装置10において、送信処理が開始されると(ステップS161)、通信制御回路110またはスケジューリング処理回路181が公知の技術を用いて空間多重の対象となる端末装置を選択する(ステップS162)。なお、ここでは同時に空間多重する端末装置の選択方法、すなわちスケジューリング方法の詳細についての説明を省略する。送信信号処理回路141−1〜141−Lは、入力されるデータ入力#1〜#Lから各周波数成分の送信信号の生成を行う(ステップS163)。
ステップS163における送信信号処理回路141−1〜141−Lが行う処理は、例えば、OFDM(A)変調方式を用いている場合、MACレイヤの信号処理を施した無線パケットを構成するビット列に対し必要に応じて誤り訂正のための符号化処理、タイミング検出信号やチャネル推定用信号等からなるオーバーヘッド情報(プリアンブル信号)の付与等を施し、サブキャリアごとにビットを分けて所定の変調方式(例えばBPSK、QPSK、16QAM等)での信号点のマッピング処理等を行う。また、SC−FDEを用いている場合、送信信号処理回路141−1〜141−Lは、OFDM(A)変調方式と同様にMACレイヤの信号処理を施した無線パケットを構成するビット列に対し必要に応じて誤り訂正のための符号化処理、タイミング検出信号やチャネル推定用信号等からなるオーバーヘッド情報(プリアンブル信号)の付与等を施し、所定の変調方式(例えばBPSK、QPSK、16QAM等)での信号点のマッピング処理等のシングルキャリアの送信信号処理を行い、周波数軸上での送信ウエイト乗算処理を行うためにブロック単位でFFTを実施し、送信信号の各周波数成分を生成する。
また、送信信号処理回路141−1〜141−Lは、通信制御回路110が選択した端末装置の組み合わせに対応する送信ウエイトのうち、自回路に割り当てられた端末装置に対応し各アンテナ素子101−1〜101−Kそれぞれの各周波数成分の送信ウエイトをマルチユーザMIMO送信ウエイト記憶回路128aから読み出す(ステップS164)。
送信信号処理回路141−1〜141−Lは、それぞれが各アンテナ素子101−1〜101−Kで送信する送信信号ごとに、ステップS163において生成した各周波数成分に分離した送信信号と、ステップS164において読み出した各周波数成分の送信ウエイトとを乗算し、加算合成回路142−1〜142−Kに出力する(ステップS165)。
加算合成回路142−1〜142−Kは、それぞれが各送信信号処理回路141−1〜141−Lから入力された信号を加算合成し、この信号に対しIFFT&GI付与回路143−1〜143−Kにて周波数軸上の信号から時間軸上の信号に変換するとともにガードインターバルが付与され、必要に応じて波形整形等の一連の処理を行う(ステップS166−1〜S166−K)。この信号それぞれに対して、D/A変換器144−1〜144−KによるサンプリングデータのD/A変換や、ミキサ146−1〜146−Kによる無線周波数へのアップコンバート、フィルタ147−1〜147−Kによる帯域外信号の除去、ハイパワーアンプ148−1〜148−Kによる増幅が行われ、各アンテナ素子101−1〜101−Kから送信され(ステップS167−1〜S167−K)、送信処理が終了する(ステップS168−1〜S168−K)。
これらの一連の処理(ステップS163からステップS167−1〜S167−K)は、無線パケットが複数シンボル又は複数ブロックに亘る場合には、OFDMシンボルやSC−FDEのブロック単位での処理がシンボル数ないしブロック数分だけ引き続き実施されることで無線パケット全体の送信信号処理が実施される。
また、送信ウエイトは図31に関連して説明したように、マルチユーザMIMO送信ウエイト記憶回路128aにて管理されている端末装置の組み合わせパターンは必ずしも全ての端末装置の組み合わせを含むわけではないため、この場合にはスケジューリング処理回路181がステップS162にて行う端末装置の組み合わせ選択では、マルチユーザMIMO送信ウエイト記憶回路128aにて管理されている端末装置の組み合わせパターンに対応した端末を選ぶことになる。
本構成例における基地局装置10の送信処理の特徴としては、ステップS164においてマルチユーザMIMO送信ウエイト記憶回路128aに記憶されている、端末装置の組み合わせに対応する送信ウエイトを読み出して利用する点であり、時々刻々と微妙に変化するチャネル情報を意識せず、端末装置の組み合わせごとに事前に算出された送信ウエイトを利用することである。これにより、送信する都度、送信ウエイトを算出することなく、送信処理を行うことができる。
また、このようにして送信された信号は、各端末装置のアンテナ素子において、基地局装置10のアンテナ素子101−1〜101−Kから送信された信号が、周波数成分ごとに概ね同位相(厳密には、与・被干渉回避のヌル制御により、完全な同位相合成からは若干ずれている)で受信されることになる。各端末装置において受信された信号は、特に基地局装置10が行う各種信号処理を意識することなく受信できる通常の信号として処理することが可能である。
また、送信信号処理回路141−1〜141−LがステップS163において行うチャネル推定用信号等のオーバーヘッド情報(プリアンブル信号)の付与においては、複数の端末装置に対して共通のパターンの信号を利用することが可能である。これはステップS165において行う送信ウエイトの乗算により、各端末装置において他の端末装置宛の信号が十分に抑圧された状態で受信可能となるために、各端末装置に個別のプリアンブル信号を割り当てる必要がないからである。この結果、高次の空間多重を行いながらも、空間多重数に依存したシンボル数のプリアンブル信号を付与する必要が無くなり、MACレイヤの効率の低下を抑えることが可能となる。
<受信処理>
図33は、本発明背景技術の第1の構成例における基地局装置10の受信処理を示すフローチャートである。端末装置が送信する信号は、本構成例における基地局装置10が実施する各種信号処理を意識することなく、通常の信号として送信される。ここでは、同時に空間多重する端末装置の選択方法、即ちスケジューリング方法の詳細は省略するが、MAC層処理回路180は公知の技術を用いて、空間多重してデータを伝送する端末装置を選択する。
基地局装置10において、受信処理が開始されると(ステップS171)、通信制御回路110は、空間多重してデータを伝送する端末装置の組み合わせを選択し(ステップS172)、アップリンクに関するスケジューリング内容を選択された端末装置に対して通知する(ステップS173)。ここでの通知方法は、例えばTDMAフレームを用いた基地局集中制御を採用するWiMAX(登録商標)のようなシステムであれば、フレーム先頭部分におけるUL−MAP(アップリンクの割り当てマップ)にて、割り当てのあるサブキャリア番号やタイムスロット(OFDMシンボル位置)、更には継続する時間(OFDMシンボル数)などを通知する。もちろん、他の方法で割り当てを端末装置に通知してもよいし、アクセス制御の方法次第では端末装置側に通知するステップS173を省略することも可能である。なお、ステップS172における端末装置の組み合わせは、上位の装置から指示された端末装置の組み合わせを用いるようにしてもよい。
ステップS173の処理に合わせて、送信元の端末装置の組み合わせに対応する受信ウエイトのうち、自回路に割り当てられた端末装置に対応し各アンテナ素子101−1〜101−Kそれぞれの各周波数成分の受信ウエイトを受信ウエイト記憶回路125aから読み出しを行う(ステップS176)。
これと並行して、割り当て指示(端末装置への送信指示)を行った所定のタイミングから各アンテナ素子101−1〜101−Kを介して信号を受信する(ステップS174−1〜S174−K)。ここでの受信とは、受信した信号ないしそれをダウンコンバートした信号に対し、アナログ/デジタル変換を施す処理までを含む。その後、FFT回路108−1〜108−Kにてシンボル単位で信号を抽出し、ガードインターバルを除去してFFT処理を実施し、時間軸上の信号を周波数軸上の信号に変換するなどの各種の受信信号処理を実施する(ステップS175−1〜175−K)。
更に、受信信号処理回路109−1〜109−Lは、マルチユーザMIMO受信ウエイト記憶回路125aから読み出した受信ウエイトと、周波数成分ごとに分離した受信信号とを乗算する(ステップS177−1〜S177−K)。受信信号処理回路109−1〜109−Lは乗算結果を送信元の端末装置ごとに加算合成する(ステップS178−1〜S178−L)。ステップS177−1〜177−K及びステップS178−1〜178−Lにおける処理は、それ全体で受信信号ベクトルに受信ウエイト行列を乗算する演算に相当する。
受信信号処理回路109−1〜109−Lは、このようにして信号分離された各信号系列(データ出力#1〜#L)に対して、所定の受信信号処理を行い(ステップS179−1〜179−L)、一連の処理を終了する(ステップS180−1〜S180−L)。
ここで、所定の受信信号処理とは、空間多重された信号を信号分離した後の処理である。したがって、通常のSISO通信と同様の信号処理である。また、受信信号処理には、OFDM(A)変調方式が用いられている場合、サブキャリアごとの復調処理を含み、SC−FDEが用いられている場合、各周波数成分の受信信号に対し周波数軸上での信号等化処理を施し、その信号をIFFT処理で合成した信号に対するシングルキャリアの復調処理を含む。更には、必要に応じて誤り訂正の復号処理などを実施してもよい。当然ながら、以上の処理の後段でMACレイヤ等の信号処理も行われるが、公知の技術による処理と変わらないためここでは省略する。
また、送信処理においても説明したように、マルチユーザMIMO受信ウエイト記憶回路125aにて管理されている端末装置の組み合わせパターンは必ずしも全ての端末装置の組み合わせを含むわけではないため、この場合にはスケジューリング処理回路181がステップS172にて行う端末装置の組み合わせ選択では、マルチユーザMIMO受信ウエイト記憶回路125aにて管理されている端末装置の組み合わせパターンに対応した端末を選ぶことになる。
なお、シンボルタイミングに関しては、各アンテナ素子101−1〜101−Kでの受信信号の受信レベルが非常に微弱な場合には、受信信号からタイミング検出を行うのは困難な場合がある。この場合には、例えばGPSを用いた絶対的な時間同期の他に、周期的なフレーム構成を用いて、直前のフレームタイミング検出用の信号などで得られたタイミングを基準にして、後続するフレームの受信タイミングを推定するなど、如何なる同期手段を用いて受信信号の受信タイミング及びシンボルタイミングを決定するようにしてもよい。このとき、端末装置は送信タイミングを決定する際に、同期された受信タイミングを基準として基地局からの指示等に従い所定のタイミングで信号を送信すればよい。
上述のように、本構成例の無線通信システムでは、基地局装置10及び端末装置が双方ともに比較的高所に設置され、この結果として見通し波ないしは固定的な巨大な建築物等からの安定的な反射波が基地局装置及び端末装置間で期待される環境で、見通し波及び安定した反射波の合成により与えられる安定した入射波成分に対応するチャネル情報を取得する。基地局装置10は、取得したチャネル情報に基づいて、送信ウエイト及び受信ウエイトを生成し、この受信ウエイトを用いることで基地局装置及び端末装置における信号の同位相合成を実現する。また、基地局装置10が生成した送信ウエイトを用いて複数のアンテナ素子101−1〜101−Kから信号を送信することで、端末装置は伝搬路上において合成された信号を高い精度で位相が揃えられた信号として受信することができる。
また、基地局装置10におけるチャネル情報の取得では、短時間平均を行うことでチャネル推定の推定精度を向上している。更に、アンテナ素子101−1〜101−Kを介して受信する離散した時刻の複数の受信信号を合成することにより、各アンテナ素子101−1〜101−Kを介して受信する受信信号におけるランダムな時変動成分の安定的な成分に対する相対的な比率を統計的に抑圧することができ、時変動の影響を低減させることができる。
これにより、端末装置とアンテナ素子101−1〜101−Kとの間のチャネル情報の取得が困難なほどに、各アンテナ素子101−1〜101−Kによる回線利得が不足する環境であっても、各アンテナ素子101−1〜101−Kから送信された信号が端末装置において同位相合成される送信ウエイトを算出することができる。
また、送信ウエイト及び受信ウエイトの算出に係わるチャネル情報のフィードバックにおいて、リアルタイムのチャネル情報のフィードバックを頻繁に行う場合には問題となるチャネル推定のためのオーバーヘッドによる伝送効率の低下を回避することができる。実際、サービス開始前に長時間平均化チャネル情報を取得しておけば、データ通信を行うサービス中にはチャネル情報フィードバックを一切行わなくても運用可能である。更には従来であれば逐次行われていた送信ウエイト及び受信ウエイトの算出に伴う演算の負荷も、無線通信システムの運用開始時に1回だけ算出すれば良くなるため、通常運用時の負荷の低減を図ることも可能である。これらの送信ウエイト及び受信ウエイトの算出は、リアルタイム処理が前提の従来技術では短時間での演算処理完了が求められる場合が多く、このために高速演算が可能なハードウエア処理が前提となることが多かった。しかし、従来技術では膨大な演算量ゆえにハードウエア規模が増大する問題があったが、基地局装置10によれば無線通信システムの運用開始時に時間をかけて演算処理を行うことが許されるようになるために、演算処理時間の遅いソフトウエア処理であっても対処可能になり、全体的なハードウエア規模を低減するといった副次的な効果も得ることができるようになる。
このように、上述の送信ウエイト及び受信ウエイトを利用してK個のアンテナ素子(無線モジュール)を用いて送受信を行うことで、総送信電力が一定の条件下において最大で10Log10K[dB]の回線利得を得ることが可能となる。この結果、総送信電力を抑える省エネ効果や、高出力の高価な線形性の高い高利得アンプの代わりに安価なアンプが利用可能になる経済効果などを得ることができる。これと同時に、L系統の信号系列を同時に同一周波数上で空間多重することで、伝送容量の増大、すなわち周波数利用効率の向上をもたらすことができる。
また、図14に示した基地局装置80の受信部85は、信号を受信する都度、チャネル推定に用いるプリアンブル信号等をA/D変換器856−1〜856−Kからチャネル情報推定回路861に出力し、チャネル情報推定回路861が受信信号のチャネル推定を行う。チャネル推定の結果は、マルチユーザMIMO受信ウエイト算出回路862に入力され、ここでMIMOのチャネル行列に対する所定の演算処理から受信ウエイトを算出し、これを受信信号処理回路858−1〜858−Lに出力し、これを基に受信信号検出処理を行う。最も典型的な処理例では、MIMOチャネル行列の逆行列ないしは擬似逆行列を受信ウエイトとして算出するが、当然ながら、宛先の端末装置の組み合わせが異なる場合、仮に着目する端末装置のチャネル情報(チャネルベクトル)として同一のベクトルを選択したとしても、他のチャネルベクトルが異なるときには逆行列演算により求められる受信ウエイト行列を構成する該当端末装置に対応した行ベクトルは異なるものとなり、受信ウエイトは異なる。
これに対して、本構成例における基地局装置10は、信号を受信する都度、空間多重された信号系列を分離するための受信ウエイトを生成するための情報取得を目的としてチャネル推定をし、推定結果から受信ウエイトを算出することは不要である。この点が図14に示した基地局装置80の受信部85とは本質的に異なる。特に、基地局装置10では、長時間平均を行った多数のアンテナ素子101−1〜101−Kに対応するチャネル情報、及び端末装置の組み合わせを基に、事前に算出した受信ウエイトを用いる。
従来のマルチユーザMIMO技術において信号を受信する都度受信ウエイトを算出するのは、空間多重されている各信号系列(データ入力#1〜#L)からの干渉信号の強度が無視できないレベルであり、これを抑圧するためにヌル制御として他の端末装置の信号を合成時にキャンセルする係数を算出する必要があるからである。この信号抑圧のための信号処理が先に示した(擬似)逆行列などの算出であるが、行列サイズの3乗に比例して演算負荷が増大し、リアルタイム処理が不可能になる傾向にある。
本構成例における基地局装置10は、端末装置の組み合わせが定まると、当該組み合わせに対応した受信ウエイトを読み出して受信信号処理を行うのみでよいので、受信ウエイト算出演算に関してリアルタイム処理を必要としない(すなわち受信ウエイトはメモリからの単純な読み出しだけでよい)ため、膨大なアンテナ素子数を想定しても現実的なハードウエア構成で実現可能である。
また、基地局装置80は、マルチユーザMIMO技術において信号を受信する都度、同時に空間多重される端末装置ごとにそれぞれ個別にチャネル推定を行う必要があり、その結果を用いて受信ウエイトを算出していた。この個別のチャネル推定のためには、空間多重数と同数の直交プリアンブルないしは空間多重数と同数のシンボル数のチャネル推定用信号のプリアンブル信号が必要であった。この場合、空間多重数と同数のシンボル数だけのオーバーヘッドが発生することから、MACレイヤの効率の低下につながっていた。しかし本発明背景技術では、空間多重されている端末装置ごとにチャネル推定を行うことなくステップS177−1〜S177−Kにて受信ウエイトを受信信号に対して乗算し、その結果として送信元の端末装置ごとに信号分離がなされる。これにより、ステップS179−1〜S179−Lにおいて行う信号系列ごとの受信信号処理においては、あたかも空間多重数が1であるかの様に単一のチャネル推定用のプリアンブル信号(例えば1シンボル)があれば信号検出処理を実施することが可能である。この結果、高次の空間多重を行いながらも、空間多重数に依存したシンボル数のプリアンブル信号を付与する必要が無くなり、MACレイヤの効率の低下を抑えることが可能となる。
また、基地局装置10に具備されているアンテナ素子101−1〜101−Kの数を非常に大きな数とした場合、個々の送信アンテナ素子対受信アンテナ素子のチャネルの時間変動があっても、多数のアンテナ素子間にてランダムに変化すれば、全体として統計的に平均化された状態とみなすことができ、時間変動の影響を低減することが可能である。
また、マルチユーザMIMO送信ウエイト記憶回路128aに端末装置の組み合わせごとに算出した送信ウエイトを予め記憶させておくことにより、空間多重してデータを送信する際に、端末装置の組み合わせに対応する送信ウエイトを読み出し、送信信号処理を行うため、送信の都度、送信ウエイトを算出することなく、空間多重してデータを送信することができ、簡易な処理で膨大なアンテナ素子数を用いた高次の空間多重を実現し、その結果としてダウンリンクの周波数利用効率を向上させることができる。
(背景技術の第2の構成例)
上述した背景技術の第1の構成例では、基地局装置10は、ヌル制御を伴う指向性制御を行っているが、本構成例では、ヌル制御を伴わない指向制御により与干渉及び被干渉を抑圧する。本構成例では、第1の構成例との差分を中心に説明する。
上述の第1の構成例の説明において、図23〜図24および図26に関する送信部140および受信部100の構成の例、図27〜図30に示したチャネル情報取得に係わるフローチャートの説明を行なったが、これらは第2の構成例においても共通であり、変更はない。主なる差分は、送受信ウエイトの算出方法が同時に空間多重する端末装置の組み合わせに依存しない方法に変更になった点である。それに関連して、送受信ウエイト算出部120aの構成例を示す図25、送信ウエイトおよび受信ウエイトの算出処理を示す図31、送信処理を示すフローチャートである図32、受信処理を示すフローチャートである図33が、それぞれ対応する内容に変更となっている。
図34は、本発明背景技術の第2の構成例における送受信ウエイト算出部120bの構成を示す概略ブロック図である。本構成例における基地局装置は、基地局装置10(図24及び図26)において、送受信ウエイト算出部120aを送受信ウエイト算出部120bに置き換えた構成となっている。
同図に示す送受信ウエイト算出部120bが、図24に示す基地局装置10と異なる点は、マルチユーザMIMO(MU−MIMO)受信ウエイト算出回路124a、マルチユーザMIMO(MU−MIMO)受信ウエイト記憶回路125a、マルチユーザMIMO(MU−MIMO)送信ウエイト算出回路127a、マルチユーザMIMO(MU−MIMO)送信ウエイト記憶回路128aに代えて、受信ウエイト算出回路124b、受信ウエイト記憶回路125b、送信ウエイト算出回路127b、送信ウエイト記憶回路128bを備える点である。
受信ウエイト算出回路124bは、チャネル情報長時間平均回路123が出力したチャネル情報に基づいて、端末装置ごとに受信ウエイトを算出し、算出した受信ウエイトを受信ウエイト記憶回路125bに出力する。受信ウエイト記憶回路125bは、受信ウエイト算出回路124bが算出した受信ウエイトを記憶する。
送信ウエイト算出回路127bは、キャリブレーション回路126が取得したダウンリンクのチャネル情報に基づいて、端末装置ごとに送信ウエイトを算出し、算出した送信ウエイトを送信ウエイト記憶回路128bに出力する。送信ウエイト記憶回路128bは、送信ウエイト算出回路127bが算出した送信ウエイトを記憶する。なお、送信ウエイト記憶回路128bは、基地局装置10が備えるアップリンクに係る構成の一部にもなっている。
<チャネル推定から送受信ウエイトの算出処理>
本構成例の基地局装置10におけるアップリンクのチャネル情報を取得する短時間平均化処理は、図27に示す第1の構成例と同様である。
また、本構成例の基地局装置10におけるアップリンクのチャネル情報の相対成分を取得する相対成分取得処理は、図28に示す第1の構成例と同様である。
また、本構成例の基地局装置10におけるアップリンクのチャネル情報の長時間平均化処理は、図29に示す第1の構成例と同様である。
また、本構成例の基地局装置10におけるダウンリンクのチャネル情報を取得する処理は、図30に示す第1の構成例と同様である。
図35は、本発明背景技術の第2の構成例の基地局装置10における送信ウエイト及び受信ウエイトを算出する処理を示すフローチャートである。
送信ウエイト算出回路127bは、処理を開始すると(ステップS451)、第iのアンテナ素子101−iにおける第k周波数成分のチャネル情報h(k) iがキャリブレーション回路126から入力される(ステップS452)。
送信ウエイト算出回路127bは、キャリブレーション回路126から入力されたチャネル情報h(k) iの複素共役(h(k) i)*を算出し、算出した複素共役(h(k) i)*をチャネル情報h(k) iの絶対値で除算した値を送信ウエイトw(k) iにする(ステップS453)。すなわち、送信ウエイト算出回路127bは、次式(25)を用いて、送信ウエイトw(k) iを算出する(ステップS453)。
送信ウエイト算出回路127bは、算出した送信ウエイトw(k) iを送信ウエイト記憶回路128bに記憶させ(ステップS454)、処理を終了する(ステップS455)。
送信ウエイト算出回路127bは、各アンテナ素子101−1〜101−Kそれぞれに対して、周波数成分ごとに全ての端末装置に対して上述のステップS452からステップS453の処理を行う。
なお、受信ウエイト算出回路124bは、送信ウエイト算出回路127bと同様の演算により、チャネル情報長時間平均回路123から入力されるチャネル情報h(k) iから受信ウエイトを算出し、算出した受信ウエイトを受信ウエイト記憶回路125bに記憶させる。
なお、一般に複数のアンテナで受信した場合の信号合成のためのウエイトとしては、フェージング等の影響によりアンテナごとの信号の受信レベルに大きな差が見られる場合があり、その場合には受信レベルの低いアンテナ素子の受信信号の雑音の影響を抑制するために、以下に示す最大比合成のウエイトを用いることが多い。したがって、本構成例では式(25)の代わりに、以下に示す式(26)を用いることも可能である。
式(25)と式(26)との二つのウエイトの違いは、第iアンテナ素子の係数の大きさ(絶対値)がアンテナ素子ごとに微妙に異なるか同一であるかの差であり、式(26)では相対的に雑音のレベルが高い(すなわち受信レベルの低い)信号の重みを軽くする効果を取り込んでいる。しかし、長時間平均化されたチャネル情報との乗算後にはともに複素位相がゼロないし一定値となるように調整されている点では両者は共通している。広義の意味では式(26)も同位相合成のウエイトの一種といえる。本構成例では、このように長時間平均化されたチャネル情報との乗算後に複素位相がゼロないし一定値となるウエイトであればその他のウエイトを用いても同様の効果を得ることができる。
一般には、送信ウエイトとしては式(25)のウエイトを、受信ウエイトとしては式(26)のウエイトを用いるのが好ましい。なお、本構成例では基地局装置と端末装置の間の見通しが確保できるように設置されることが推奨されるので、非常に多くの多重反射波が存在するマルチパス環境とは異なり見通し波が支配的な環境であるため、アンテナ素子ごとの受信レベルの差は比較的つきにくい。この結果、式(26)で求めたウエイトは、実効的には式(26)と等価なウエイトとなる。
なお、送受信ウエイトは、アンテナ素子ごとのウエイトの値を各要素の成分として構成されるベクトル(ウエイトベクトル)の示す方向が実効的な意味をもつ。このため、あるウエイトベクトルに所定の係数を乗算したベクトルは方向的には同一であるため、アンテナ素子ごとに一定の係数が乗算されたウエイトベクトルは乗算される係数に依存せずに全て等価である。つまり、式(25)や式(26)で与えられる各ベクトルの成分全体に共通の係数が乗算されたウエイトは、全て本発明背景技術におけるウエイトと等価なものである。
図35に関する以上の説明は送信ウエイトの算出に関するものであったが、受信ウエイトに関しても対応する回路(例えば、キャリブレーション回路126に対してチャネル情報長時間平均回路123、送信ウエイト算出回路127bに対して受信ウエイト算出回路124b、送信ウエイト記憶回路128bに対して受信ウエイト記憶回路125b)に置き換えて、同様の処理を行うことで受信ウエイトの算出処理を実施することができる。
図27から図30、及び図35に示した上述の処理を事前に実施し、そこで得られた送信ウエイト及び受信ウエイトを送信ウエイト記憶回路128b及び受信ウエイト記憶回路125bに記憶させておく。なお、図27及び図35に示した処理は、通信開始後も適当な周期で通信を一時的に休止させて実行することが可能である。そこで得られた短時間平均のチャネル情報を用いて図29から図30、及び図35に示した処理を行い、逐次、送信ウエイト及び受信ウエイトを更新するようにしてもよい。
<送信処理>
次に、本構成例の基地局装置10における信号の送信処理について図を参照して説明する。
図36は、本構成例における基地局装置10の送信処理を示すフローチャートである。ここではOFDM(OFDMA)変調ないしはSC−FDEを用いている場合について説明する。
ステップS461〜ステップS462の処理は、図32に示す第1の構成例の送信処理におけるステップS161〜ステップS162の処理と同様である。送信信号処理回路141−1〜141−Lは、入力されるデータ入力#1〜#Lから各周波数成分の送信信号の生成を行う(ステップS463−1〜S463−L)。ステップS463−1〜S463−Lにおいて、送信信号処理回路141−1〜141−Lが行う処理は、図32に示すステップS163と同様である。
また、送信信号処理回路141−1〜141−Lは、通信制御回路110が選択した端末装置を示す情報に基づいて、自回路に割り当てられた端末装置に対応し各アンテナ素子101−1〜101−Kそれぞれの各周波数成分の送信ウエイトを送信ウエイト記憶回路128bから読み出す(ステップS464−1〜S464−L)。
送信信号処理回路141−1〜141−Lは、それぞれが各アンテナ素子101−1〜101−Kで送信する信号ごとに、ステップS463−1〜S463−Lにおいて生成した各周波数成分に分離した信号と、ステップS464−1〜S464−Lにおいて読み出した各周波数成分の送信ウエイトとを乗算し、加算合成回路142−1〜142−Kに出力する(ステップS465−1〜S465−L)。
ステップS466−1〜S466−K、ステップS467−1〜S467−K、及び、ステップS468−1〜S468−Kの処理は、図32のステップS166−1〜S166−K、ステップS167−1〜S167−K、及び、ステップS168−1〜S168−Kの処理と同様である。
本構成例における基地局装置10の送信処理の特徴としては、ステップS464−1〜S464−Lにおいて送信ウエイト記憶回路128bに記憶されている送信ウエイトのうち、宛先の端末装置に対応する送信ウエイトを読み出して利用する点であり、端末装置の組み合わせや時々刻々と微妙に変化するチャネル情報を意識せず、事前に算出された各端末装置に対応する送信ウエイトを利用することである。すなわち、受信ウエイト算出回路124bが算出する空間多重伝送のための受信ウエイトと、送信ウエイト算出回路127bが算出する空間多重伝送のための送信ウエイトとは、同時に空間多重を行う端末装置の組み合わせに依存しないウエイトであることを特徴としている。
若干補足すると、背景技術第1の構成例に関する図32におけるステップS163からステップS165の処理は、各端末装置宛の送信信号を要素とする送信信号ベクトルに、送信ウエイトにより構成される送信ウエイト行列を乗算する処理に対応する。その送信ウエイト行列は、空間多重を行う端末装置の組み合わせが異なると、全ての行列要素が全く異なるものとなる。一方で、本構成例におけるステップS463−1〜S463−L、ステップS464−1〜S464−L、及び、ステップS465−1〜S465−Lの処理では、単純に各端末装置宛の信号に対し端末装置に固有の係数を送信ウエイトとして乗算し、それを各アンテナ素子から送信する処理に相当し、同時に空間多重する端末局を意識することのない独立な処理で対応可能である。
これにより、送信する都度、送信ウエイトを算出することなく、任意の端末局の組み合わせに対する送信処理を行うことができる。全ての端末装置の数MからN個を選び出す組み合わせはMCNだけあり、「M」や「N」の値が大きいとその組み合わせの数は天文学的な膨大な数になるのであるが、利用する送信ウエイトが端末装置の組み合わせに依存しないということは、その天文学的な数の全てのバリエーションに対しても対処可能であることを意味している。同時に、送信ウエイト記憶回路128bに記憶すべき情報量は、周波数成分の数(例えばサブキャリア数)×収容する端末装置数の送信ウエイトベクトルのみで良く、端末装置数が増えた場合においても送信ウエイト記憶回路128bの記憶容量の増加を抑制することができるという特徴も併せ持つ。
また、このようにして送信された信号は、各端末装置のアンテナ素子において、基地局装置10のアンテナ素子101−1〜101−Kから送信された信号が、周波数成分ごとに同位相で受信されることになる。各端末装置において受信された信号は、特に基地局装置10が行う各種信号処理を意識することなく受信できる通常の信号として処理することが可能である。
また、ステップS463−1〜S463−Lにおいて行うチャネル推定用信号等のオーバーヘッド情報(プリアンブル信号)の付与においては、複数の端末装置に対して共通のパターンの信号を利用することが可能である。これはステップS465−1〜S465−Lにおいて行う送信ウエイトの乗算により、各端末装置において他の端末装置宛の信号が十分に抑圧された状態で受信可能となるために、各端末装置に個別のプリアンブル信号を割り当てる必要がないからである。この結果、高次の空間多重を行いながらも、空間多重数に依存したシンボル数のプリアンブル信号を付与する必要が無くなり、MACレイヤの効率の低下を抑えることが可能となる。
<受信処理>
図37は、本発明背景技術の第2の構成例における基地局装置10の受信処理を示すフローチャートである。
ステップS471〜ステップS473までの処理は、図33に示す第1の構成例の受信処理におけるステップS171〜ステップS173までの処理と同様である。
ステップS473の処理に合わせて、送信元の端末装置に対応する受信ウエイトのうち、自回路に割り当てられた端末装置に対応し各アンテナ素子101−1〜101−Kそれぞれの各周波数成分の受信ウエイトを受信ウエイト記憶回路125bから読み出しを行う(ステップS476)。
ステップS474−1〜S474−Kの処理、ステップS475−1〜S475−Kの処理は、図33に示すステップS174−1〜S174−Kの処理、ステップS175−1〜ステップ175−Kの処理と同様である。
更に、受信信号処理回路109−1〜109−Lは、受信ウエイト記憶回路125bから読み出した受信ウエイトと、周波数成分ごとに分離した受信信号とを乗算する(ステップS477−1〜S477−K)。
ステップS478−1〜S478−L以降の処理は、図33に示すステップS178−1〜178−K以降の処理と同様である。
なお、ステップS476の処理は、図33に示すステップS176に対応する処理であるが、図33に示すステップS176の処理では同時に空間多重する端末装置の組み合わせに依存した受信ウエイトを読み出すのに対し、ステップS476の処理では端末装置の組み合わせを意識せずに、単純に各端末装置に対応した受信ウエイトを端末装置毎に個別に読み出せば良い。このため、上記の送信処理で説明したのと同様に、任意の端末局の組み合わせに対する受信処理を行うことができる。また、端末装置数が増えた場合においても、受信ウエイト記憶回路125bの記憶容量の増加を抑制することができる。
(構成例に関する補足)
以上が、本発明背景技術の構成例の説明である。以下に、これらの構成例に共通な補足事項を示しておく。
第1および第2の構成例における基地局装置10では、アップリンクにおけるチャネル情報を取得する際に図27に示した短時間平均処理を実施する構成を説明した。しかし、これは(要求条件1)への対応を前提とするものであった。例えば、回線設計的にはチャネル推定は実施可能なレベルであるが、より高い伝送レートでの通信のために、回線利得を更に得るための手段として基地局装置10を用いる場合には、必ずしも短時間平均を行う必要はない。この場合、アップリンクのチャネル情報を取得する短時間平均化処理(図27)は、単に、チャネル推定処理に置き換えることができる。
また同様に第1および第2の構成例における基地局装置10では、アップリンクのチャネル情報からダウンリンクのチャネル情報を算出する際に、式(14)及び式(15)に示したキャリブレーション係数を用いる構成を説明した。しかし、先にも説明したが、ローノイズアンプ103−1〜103−K、フィルタ106−1〜106−K、ハイパワーアンプ148−1〜148−K、フィルタ147−1〜147−Kなどにおける周波数成分ごとの複素位相の回転量のアップリンクとダウンリンクとの間の相対値(複素位相の角度差)が全てのアンテナ素子に対応する回路で一定値になるようにアナログ的な信号処理で調整を行ってある場合(例えば、アップリンクとダウンリンクの複素位相が一定値となるように調整していても良い)、キャリブレーション係数を用いた処理を行う必要はない。この場合、ダウンリンクのチャネル情報を取得する処理(図30)は、省略することができ、上りリンクのチャネル情報とダウンリンクのチャネル情報とが等価になるので、送信ウエイトと受信ウエイトとは共通の値になる。この場合、ダウンリンクにおける送信ウエイト算出に係わる回路と、アップリンクにおける受信ウエイトの算出に係わる回路は共用化を図ることが可能である。
またこの場合、本発明背景技術の第1および第2の構成例における基地局装置では、マルチユーザMIMO送受信ウエイト算出回路324a及びマルチユーザMIMO送受信ウエイト記憶回路325a、あるいは、送受信ウエイト算出回路324b及び送受信ウエイト記憶回路325bのいずれかが、送信ウエイトと受信ウエイトとの算出及び記憶を行う構成となることに相当するが、しかし、これに限ることなく、本発明背景技術の第1および第2の構成例における基地局装置10と同じ構成のままで、キャリブレーション係数をアンテナ素子及び周波数成分の全ての組み合わせにおいて「1」とみなして送信ウエイトを算出するようにしてもよい。
さらにこの場合、各周波数成分の必ずしも全てのアンテナ素子において複素位相の回転量が同一(ないしは、キャリブレーション係数が1)である必要はなく、この条件が一部の少数のアンテナ素子において例外的に満たされない状況であっても、少なくとも半数以上のアンテナ素子でこの条件を満たしていれば、全体として本発明の意図する動作を実現することは可能である。
また、OFDM変調方式では全てのサブキャリアが同一の端末装置との通信に利用されているので、その際の送受信ウエイトは全サブキャリアで共通の組み合わせの端末装置に対する送受信ウエイトを用いていた。しかし、OFDMAでは、時間軸及び周波数軸上にパッチワーク状に異なる組み合わせの端末装置への割り当てを寄せ集めているため、時間(OFDMシンボル)及び周波数(サブキャリア)ごとに、割り当てられている端末装置に対する送受信ウエイトを用いる必要がある。この場合には、複数面で構成される受信信号処理回路109−1〜109−Lおよび送信信号処理回路141−1〜141−Lは、周波数および時刻に関係なく通信相手となる端末装置に対応しているというものではなく、ある各周波数成分ないしは各時刻(OFDMシンボル)に着目した場合に通信相手となる端末装置に対応していると理解すべきである。しかし、その差を除けばOFDMとOFDMAとは全く同様に処理することが可能であり、本明細書中ではOFDMを中心に説明を行ったが、OFDMAにおいても全く同様に本発明背景技術を適用することができる。
また、SC−FDEに関しても様々な運用上のバリエーションが存在するが、送信側で送信ウエイトを乗算し、各アンテナ素子から送信された信号が空間上で合成された後の受信信号処理、及び受信側で受信ウエイトを乗算し、各アンテナ素子の信号が加算合成された後の受信信号処理のいずれにおいても、上述の各構成例では従来のSC−FDEで行われる処理をそのまま適用する構成としているために、全てのバリエーションのSC−FDEに適用可能である。
更に、受信ウエイトを乗算した信号を複数のアンテナ素子に亘り加算合成する際に、必ずしも全てのアンテナ素子に亘り加算合成する必要はなく、全体の中の一部の複数のアンテナ素子に亘り加算合成を行ったとしても、全体として本発明背景技術の意図する動作を実現することは可能であり、結果として同様の効果を得ることができる。同様に、送信ウエイトを乗算した複数の端末装置宛の信号をアンテナ素子ごとに加算合成する際においても、加算合成を全てのアンテナ素子に亘り実施せず、一部の複数のアンテナ素子において加算合成を行ったとしても、全体として本発明背景技術の意図する動作を実現することは可能である。
また同様に、本発明背景技術においてはデータ通信の際に用いるチャネル推定用のプリアンブル信号は全ての端末装置において共通のプリアンブル信号とすることは可能であるが、一部の端末装置で他のプリアンブル信号を用いる構成とすることも当然ながら可能であり、少なくとも複数の端末装置に対して同時に空間多重して信号を送受信する際に共通のプリアンブルを用いたとすれば、それは本発明背景技術の意図する動作に相当する。
更に、本発明背景技術における図27から図29で示したチャネル情報の取得処理において、それらの処理を開始するための指示等の各種制御情報の基地局装置と端末装置の間の交換処理は如何なる方法で実現しても構わない。これらの処理は基本的にはサービス運用開始前に行うものであり、その場合には適切な送受信ウエイトが当初は未知であるために、基地局装置と端末装置の間で十分な回線利得が確保できない状況で各種制御が行われることが想定される。しかし、サービス運用開始前であれば、例えば作業員が端末装置の設置作業において手動で処理開始の指示を行うことも可能であるし、一時的に他の無線規格を利用して制御を行っても構わない。したがって、チャネル情報の取得処理を開始するための指示等の各種制御処理方法に係わりなく、本発明背景技術を実施することは可能である。
また更に、相対成分を取得する際に用いる複素位相のオフセット値φ(k)は、図28に示した処理以外の方法で取得することも可能である。
図38は、上述の本発明背景技術の各構成例においてアップリンクのチャネル情報の相対成分を取得する他の相対成分取得処理を示すフローチャートである。同図に示す処理と図28に示した処理との差分は、相対成分の取得の際に用いる複素位相のオフセット値φ(k)を、特定のアンテナ素子101−1の複素位相を基準とする代わりに、ステップS193において全てのアンテナ素子101−1〜101−Kの複素位相(すなわち0〜2πで表される角度)の平均値を用いる点である。ステップS122−1〜122−Kにてアンテナ素子101−1〜101−Kに対応するチャネル情報における第k周波数成分^h(k) 1,…,^h(k) Kを基に、次式(27)を用いて第k周波数成分に対する全アンテナの複素位相の平均値φ(k)を求め、これをステップS124−1〜S124−Kにて用いることで相対成分の取得を実現する。なお、このオフセット値は周波数成分ごとに個別に求める。
個々のアンテナ素子101−1〜101−Kの複素位相成分は誤差を含む場合においても、式(27)では誤差の平均化を行うことになるので、結果的に精度の高い相対成分を求めることができる。
また、ダウンリンクのチャネル情報の取得方法としては、本明細書で示したアップリンクのチャネル情報を利用する方法の他に、従来技術の図4(A)の直接的な方法で示したように、ダウンリンクで直接トレーニング信号を送信し、そのトレーニング信号を受信した端末装置が取得したチャネル情報をフィードバックする形で基地局装置に設定する方法も考えられる。この場合、図20で示したトレーニング信号を、基地局装置が備えるアンテナ素子から1本ずつ順番に送信し、図27から図29で示した処理と同様の処理を端末装置側で実施し、その結果得られた平均化されたアンテナ素子ごと及び周波数成分ごとのチャネル情報を何らかの方法で基地局にフィードバックして設定し、基地局装置側ではこれを利用して送信ウエイトを算出する構成としても同様の効果を得ることは可能である。ただし、この場合であってもアップリンクのチャネル情報の取得においては各端末装置からのトレーニング信号の送信は必須であり、この点に関しては上述の本発明背景技術と全く同様である。
また、例えば式(27)ではチャネル情報^h(k) iの複素位相を抽出する処理を行っているが、チャネル情報^h(k) iの実数部と虚数部の比率から複素位相の角度情報を取得し、その角度情報を基に式(27)と等価な値を算出することも可能である。これは数式的には異なる処理に見えるが、数学的には全く等価な処理であり、全ての演算処理に対しこのような数学的に等価な代替の手段で処理を代用することも当然ながら可能である。
また同様に第2の構成例における基地局装置10では、図28に示すアップリンクのチャネル情報の相対成分の取得後の処理として、図29に示す長時間平均化処理を行なった後、図35に示す送受信ウエイト算出処理を行なっていた。しかし、式(25)ないし式(26)で示すウエイトは単純な複素位相成分の抽出に相当する。そのため、図28に示す相対成分の取得後に、図29で算出した長時間平均化後のチャネル情報h(k) iに代えて取得した長時間平均化前の各相対成分を用いて図35に示す送受信ウエイト算出処理を実施し、その後、図29のステップS131−1〜S131−Qにおいて個々の短時間平均化チャネル情報に代えて図35で算出した受信ウエイトを利用する(ステップS133における長時間平均化の対象をこの受信ウエイトに置き換える)ことでも近似的に同等の長時間平均の受信ウエイトを取得することが可能である。つまり、先の第1及び第2の構成例では長時間平均化の対象となる物理量はチャネル情報の相対成分であったが、チャネル情報の相対成分から算出した受信ウエイトを長時間平均化の対象となる物理量に置き換えることも可能である。
更に、図17に示した本発明に係る無線通信システムが具備する基地局装置の設置例では、端末装置12−1〜12−2は1本のアンテナを備えるものとして図示したが、端末装置が複数のアンテナを備えていたとしても同様の処理を行うことは可能である。原理的には、端末装置12−1〜12−2が複数本のアンテナを備えていれば、一つの端末局に複数の信号系列を空間多重することも可能である。この場合、端末装置12−1〜12−2の各アンテナを個々の端末局のアンテナ素子と見なすことで、本発明背景技術を同様に実施することが可能である。ただし、本発明では端末装置12−1〜12−2と基地局装置のアンテナ素子13−1〜13−4は相互に見通し環境であることを想定しているため、一般的には基地局と一つの端末局の間でMIMO伝送を行うことは困難(第2固有値以降がゼロに近づく)であることが多い。そこで端末局が複数本のアンテナを備えている場合には、実際には単一信号系列の送受信を複数アンテナのダイバーシチ構成として運用するのが現実的である。この場合には、複数のアンテナを適当なウエイトで合成することで、仮想的な1本のアンテナとみなすことが可能であり、この仮想的な1本のアンテナとの間で同様の処理を実現すれば、全く同様に本発明背景技術を適用することが可能である。
また更に、以上の動作原理及び本発明背景技術の構成例の説明の中では、各アンテナ素子に対応したチャネル情報や送受信ウエイトについて述べてきたが、各アンテナ素子のチャネル情報ないしは送受信ウエイトを成分として構成されるベクトルは、そのベクトルの示す方向が実効的な意味をもつ。このため、あるベクトルに所定の係数を乗算したベクトルは方向的には同一であるため、アンテナ素子ごとに一定の係数が乗算されたベクトルは乗算される係数に依存せずに全て等価な意味合いをもつことになる。
一方で、本発明の前提条件で説明した通り、基地局装置と端末装置のアンテナはそれぞれ見通し環境ないしは見通し環境に近い環境を想定しているため、各アンテナ素子で受信される信号の強度及び振幅は概ね一定の値となっていることが期待される。このため、例えば各アンテナ素子のチャネル情報のベクトルは、実効的にはベクトルの各成分の絶対値はそれほど大きな意味を持たず、チャネル情報の値を規格化した値(チャネル情報をその絶対値で除算して得られる複素数)が有意な情報となる。このため、以上の動作原理及びの説明の中で用いられた「チャネル情報」を、近似的に「チャネル情報の値を規格化した値」とみなした処理は本発明及び本発明の背景技術と全く等価なものであり、その意味で上述の「チャネル情報」とは広義の意味で「チャネル情報の値を規格化した値」までを含むものとする。
また更に、本明細書においては説明の都合上、「行ベクトル」と「列ベクトル」をあまり区別することなく扱っている。例えば、式(3)におけるチャネル情報ベクトルhiは行ベクトルであり、送信ウエイトベクトルwjは列ベクトルである。ベクトルの並びの方向を統一する厳密な数学上の表記であれば、「転置」などの記号などを使って表記すべきであるが、本発明の実施において必要な情報はベクトルの各成分の値であり、そのベクトルが行ベクトルか列ベクトルであるかはあまり意味を持たないため、理解の容易さを優先して「行ベクトル」と「列ベクトル」を区別しない説明としている。
また更に、以上の背景技術の主たる特徴は、実際の通信に先行した事前処理として、アップリンク及び又はダウンリンクのチャネル情報を事前に取得し、その情報をもとに事前に受信ウエイト及び又は送信ウエイトを算出しておくことで、実際の通信に際しては事前に取得しておいた受信ウエイト又は送信ウエイトを参照して送受信の信号処理を実施する点である。この結果、アンテナ素子数が膨大な数になっても送受信ウエイトの取得処理において非常に重い演算の負荷を伴わず、回路規模も抑えながら、リアルタイムでの処理を実施することができるという効果を得ることが可能となる。したがって、必ずしもチャネル情報のアンテナ素子毎の相対成分の取得や、その平均化処理などを行わずとも、事前処理として1回のチャネル情報の取得結果を用いて送受信ウエイトを取得した場合であっても、信号分離のための送受信ウエイトによる信号分離の精度は幾分落ちるかもしれないが、本背景技術の目的とする効果を得ることも可能である。本発明においては、この背景技術の利用を主として想定しているが、本発明の効果を得るための必須条件としては、チャネル情報の相対成分の取得と平均化処理は必要ではない。
[背景技術に基づく具体的な本発明の実施形態]
以上の動作原理のもと、具体的な本発明の実施形態について以下に説明を行う。本発明の実施形態は、本発明背景技術との組み合わせで実施されるものであり、その際には上述の複数の構成例のいずれと組み合わせることも可能である。
図1は、本発明の一実施形態における基地局装置50の構成を示す概略ブロック図である。この図において、図23に示す背景技術の第1の構成例における基地局装置10と同一の部分には同一の符号を付し、その説明を省略する。同図に示すように、基地局装置50は、受信部130、送信部140、送受信ウエイト算出部120a、インタフェース回路170、MAC層処理回路180、通信制御回路110、及び記憶回路115を備えている。MAC層処理回路180は、スケジューリング処理回路181を有している。同図に示す基地局装置50と、図23に示す背景技術の第1の構成例における基地局装置10との構成上の差分は、受信部100に代えて受信部130を備える点、及び記憶回路115を備えている点である。
本実施形態の基地局装置50の各部の基本的な動作は、図23に示す背景技術の第1の構成例における基地局装置10の各部の動作と同様である。ただし、本実施形態の受信部130は、受信処理を行った受信信号から巡回遅延プリアンブルを利用して送信されたプリアンブル信号と基本プリアンブル信号との相関値を算出し、算出した相関値に基づいて他の端末装置への相対的な与被干渉を算出する。受信部130は、算出した相対的な与被干渉に関する情報を算出し、これを記憶回路115に記録する。なお、巡回遅延プリアンブルについては後述する。MAC層処理回路180は、基地局装置50全体の動作の管理制御を行う通信制御回路110の指示に従い、MAC層に関する処理を行う。このMAC層に関する処理の中で、スケジューリング処理回路181は、マルチユーザMIMO伝送において同時に空間多重を行う端末装置の組み合わせを含む各種スケジューリング処理を行う。スケジューリング処理回路181は、このスケジューリング処理において、記憶回路115に記憶されている端末装置の与被干渉に関する情報、許容空間多重数や最適伝送モードなどの情報を参照し、同時に空間多重を行なう際の空間多重数や伝送モードの最適化を含むスケジューリング処理を行う。そしてスケジューリング処理回路181は、スケジューリング結果を通信制御回路110に出力する。
なお、ここでの説明は背景技術の第1の構成例を組み合わせた場合を例にとって説明しているが、背景技術の第2の構成例を組み合わせることも可能である。この場合は、基地局装置50は、図25に示す送受信ウエイト算出部120aに代えて、図34に示す送受信ウエイト算出部120bを備えた構成となる。
図39は、本発明の実施形態における基地局装置50が備える受信部130の構成の一例を示す概略ブロック図である。この図において、図24に示す背景技術の第1の構成例における受信部100と同一の部分には同一の符号を付し、その説明を省略する。同図に示すように、受信部130は、アンテナ素子101−1〜101−K、TDDスイッチ102−1〜102−K、ローノイズアンプ(LNA)103−1〜103−K、ローカル発振器104、ミキサ105−1〜105−K、フィルタ106−1〜106−K、A/D変換器107−1〜107−K、FFT回路108−1〜108−K、受信信号処理回路109−1〜109−L、及び干渉評価回路132を備えている。図24に示す背景技術の第1の構成例における受信部100との構成上の差分は、干渉評価回路132を備えている点である。
受信信号処理回路109−1〜109−Lと、TDDスイッチ102−1〜102−Kとは、図1に示した通信制御回路110に接続されている。また、FFT回路108−1〜108−Kと、受信信号処理回路109−1〜109−Lは、図1に示した送受信ウエイト算出部120aと接続されている。また更に、干渉評価回路132は記憶回路115と接続されている。なお、アンテナ素子101−1〜101−Kは、図17におけるアンテナ素子13−1〜13−4に対応する。
本実施形態の受信部130の各部の基本的な動作は、図24に示す背景技術の第1の構成例における受信部100の各部の動作と同様である。ただし、受信信号処理回路109−1〜109−Lにおいて、所定のチャネル推定用のプリアンブル部分の信号に対し受信ウエイトを乗算して合成後の信号を、各周波数成分ごとに干渉評価回路132に出力する。一般にチャネル推定用のプリアンブル信号は、波形歪の原因となる高いピーク対平均電力比(PAPR:Peak to Average Power Ratio)を抑えるために、全てのサブキャリアの初期位相を一定にせず、0又はπを初期位相とするBPSKでの変調(IQ平面状では{1,0}または{−1,0}に対応し、信号に対しては係数として1または−1が乗算されている)がなされている。干渉評価回路132では、周波数軸上の信号にこの係数1または−1を乗算して初期位相を0にそろえる処理を行ない、これを時間軸上の信号に変換する逆フーリエ変換(IFFT)処理を実施し、この結果を記憶回路115に出力する。
<与被干渉評価に基づく空間多重数の最適化>
まず、背景技術において説明したように、基地局装置50は、長時間平均化したチャネル情報に基づいて送信ウエイト及び受信ウエイトを算出し、これらを利用して空間多重により通信を行う。ところが実際には、この平均化したチャネル情報に基づく送信ウエイト及び受信ウエイトを使用しても、チャネルの時変動により、例えば背景技術第1の構成例を用いた場合であっても送受信ウエイトによるヌル制御が破れるため、端末装置間の相互干渉が発生し、その分だけSIR特性が劣化する。このように、実際のサービス運用中はチャネル時変動の影響を受けることになる。
例えば、アップリンクに関して言えば、ある端末装置からの信号を抽出する際に、所定の受信ウエイトを用いることで、希望信号に対する他の端末装置からの干渉信号の程度を抑えて、所望のSIR値以上の品質を確保可能とすることが望まれる。しかし、特定の端末装置についてチャネル時変動によるSIR特性の劣化量が大きい場合には、空間多重されている他の全ての端末装置に対して大きな干渉成分が付加されることになり、全体のSIR特性の劣化が予想される。
そしてチャネル時変動量は、SIR特性と必ずしも1対1で対応する訳ではない。例えば、基地局装置50と端末装置とを結ぶ直線と平行な方向に端末装置の位置が、風や何かの要因で振動するなどして、微小に変位した場合を想定する。具体的には、電信柱の上に設置した端末装置が、風等の影響で電信柱が振動し、その結果、チャネルが変動する場合が例として挙げられる。このとき、各アンテナ素子におけるチャネル情報は時変動するが、殆ど全てのアンテナ素子において同じだけ伝搬距離が変化するため、全てのアンテナ素子で同じ複素位相の係数だけオフセットがつく状況である。
つまり、基地局装置50と端末装置とを結ぶ直線と平行な方向に端末装置の位置が微小に変位した場合、ヌル制御を行うためのウエイトに影響は殆どでないため、時変動なしのチャネル情報をもとに行ったヌル制御は殆ど破れることはなく、SIR特性は殆ど劣化しない。
一方、基地局装置50と端末装置とを結ぶ直線と直交する方向に同じだけ変位した場合には、アンテナ素子間で微妙に異なる複素位相の係数だけチャネル情報が変化し、その複素位相のずれがヌル制御を破る引き金となる。この結果、SIR特性の劣化は無視できなくなり、その劣化量を考慮した空間多重数又は伝送モードの最適化が必要になる。
従って、基地局装置50において、SIR特性を直接的に取得することが好ましい。
SIR特性を評価するためには複数の信号系列が混信した状態で空間多重する信号系列毎のチャネル推定が必要である。そのために、本実施形態では、各信号系列を区別してチャネル推定を行うためのプリアンブル信号を用いる。一般には、チャネル推定を行う信号系列数ないしはアンテナ素子数だけの直交プリアンブルが必要であり、高いチャネル推定精度を必要とする場合にはその数だけのOFDMシンボルが必要であった。しかし、ここで行うチャネル推定はSIR値の推定のためだけに利用し、且つ、ある程度の刻み幅の階級値に分類するのに十分な程度の精度でよいため、簡易な別の方法を利用することが可能である。そこで、文献「Gunther Auer (DoCoMo Euro-Labs),“Channel Estimation :for OFDM with Cyclic Delay Diversity”,PIMRC 2004. Vol.3 pp.1792 - 1796」に記載の巡回遅延プリアンブル(又は巡回遅延パイロット)と呼ばれる信号を利用する。
巡回遅延プリアンブルを利用したチャネル推定では、M台の端末装置が同時に信号を送信する際に、端末装置ごとに異なるサイクリック遅延を与える。例えば、第i番目の端末装置である端末装置#i(iは1以上M以下の整数)には、(i−1)/M周期の遅延を付与する。受信側である基地局装置50は、受信信号に対して受信部130内の干渉評価回路132にて相関検出結果に相当する情報を抽出する。さらに干渉評価回路132は、相関検出結果を時間軸上でM個の区間に分け、残留干渉成分の電力値を推定し、各端末装置について、チャネル時変動の影響によるSIR劣化量を直接的に推定する。
なお、端末装置#i以外の各端末装置が、相関検出結果のi番目の区間にて取得する残留干渉成分の電力値は端末装置ごとに異なるため、端末装置ごとに平均化を行うことも好ましい。また、受信処理ごとにその平均値自体も変動しうるため、適当な忘却係数を与えて時間方向での平均化処理を加えることも好ましい。忘却係数を用いた平均化においては、対数を取ったdB表示での忘却係数を用いた平均化でも、対数を取らない真値での忘却係数を用いた平均化でも、どちらでも良い。さらに、サイクリック遅延の付加に当たっては1シンボルを1/Mに分割するが、一般的にはMを2のべき乗として扱うことが多い。したがって同時に信号を送信する端末数Mが2のべき乗でない場合には、M以上で最小の2のべき乗の値M’を用いて、1シンボルを1/M’に分割するとして処理を進めても構わない。
基地局装置50は、上記の方法によって求めた干渉成分(SIR劣化量)が大きければ、その大きさに依存して空間多重する信号系統数に上限を設ける。また、基地局装置50は、ユーザ毎の干渉成分(SIR劣化量)に合わせて適応的に伝送モードを最適化しても良い。
上記のように、基地局装置50は、時変動する干渉成分(SIR劣化量)を検出し、その検出した干渉成分(SIR劣化量)の程度に応じて同時に空間多重する信号系統数を最適化したり、各信号系列の信号伝送に用いる変調方式や誤り訂正の符号化率等を最適化したりする。
以下に、干渉成分の程度を評価する方法を示す。
図40は、本実施形態の基本原理におけるアップリンク巡回遅延プリアンブルの例を示す図である。基地局装置50は、端末装置#1〜端末装置#MのM台の端末装置と同時に通信するが、ここでは、M=4である場合を想定する。同図において、符号66−0は基本となるプリアンブル信号、符号66−1は端末装置#1に設定されたプリアンブル信号、符号66−2は端末装置#2に設定されたプリアンブル信号、符号66−3は端末装置#3に設定されたプリアンブル信号、符号66−4は端末装置#4に設定されたプリアンブル信号である。また、符号67−a〜67−dは、1シンボル分の有効なチャネル推定用の信号を1/4(1/M)に分割した信号の要素である。
例えば基本となるプリアンブル信号66−0および端末装置#1に設定されたプリアンブル信号66−1の信号領域には、要素67−a、67−b、67−c、67−dの順で要素が並んでいる。端末装置#1は、この並びの最後に位置する要素67−dをガードインターバルとしてOFDMシンボルの先頭にコピーするため、1OFDMシンボル全体としては要素67−d、67−a、67−b、67−c、67−dの順で配置されている。なお、ここではカードインターバル長を1OFDMシンボル全体の20%に設定する場合を例示している。
同様に、端末装置#2に設定されたプリアンブル信号66−2では、1/4周期だけずらし、1OFDMシンボル全体としては要素67−c、67−d、67−a、67−b、67−cの順で配置されている。同様に、端末装置#3に設定されたプリアンブル信号66−3では、2/4周期だけずらし、1OFDMシンボル全体としては要素67−b、67−c、67−d、67−a、67−bの順で配置されている。同様に、端末装置#4に設定されたプリアンブル信号66−4では、3/4周期だけずらし、1OFDMシンボル全体としては要素67−a、67−b、67−c、67−d、67−aの順で配置されている。
図41は、一般的な巡回遅延プリアンブルと相関検出における相関値の概要を示す。図41(a)は、各端末装置に関する受信信号を、該当するプリアンブルで相関検出を行ったときの相関値を示し、図41(b)は、基本となるプリアンブル信号66−0を用いて相関検出を行ったときの相関値を示す。
各端末装置に関する受信信号を、当該端末装置に該当するプリアンブルで相関検出を行う場合、基地局装置50は、端末装置#1から受信した信号(伝送路の歪により波形は異なるが、プリアンブル信号66−1に対応)を、端末装置#1に設定されたプリアンブル信号66−1により相関検出を行う。基地局装置50は、この相関検出に、端末装置#1に設定されたプリアンブル信号66−1のガードインターバルを除いた要素67−a、67−b、67−c、67−dの領域を用いる。そのため、基地局装置50は、端末装置#1から受信した信号についてもガードインターバルを除いた信号領域において、この区間の周期性を保ち信号が繰り返し後続するものとして、プリアンブル信号66−1のガードインターバルを除いた信号領域(要素67−a、67−b、67−c、67−dの領域)との相関値を求めている。
同様に、基地局装置50は、端末装置#2に関してはガードインターバルを除く要素67−d、67−a、67−b、67−cの領域を用い、端末装置#3に関してはガードインターバルを除く要素67−c、67−d、67−a、67−bの領域を用い、端末装置#4に関してはガードインターバルを除く要素67−b、67−c、67−d、67−aの領域を用いて相関値を検出する。
この相関検出結果は、例えば個々の信号系列が綺麗に信号分離できている場合(適切な受信ウエイトが適用された場合、ないしは空間多重を行わずに信号伝送した場合に相当)には、図41(a)に示すようになる。図41(a)では、1OFDMシンボルの先頭付近に相関のピークがあり、直接の見通し波等の先行波に該当する成分がそこに表れている。更にそのピークに後続して、反射の回数が増えたり、伝搬距離の増大に起因して遅延量が大きくなるにつれて相関値が小さくなったりする傾向がみて取れる。ここでの回線設計におけるパラメータ次第ではあるが、要素67−a、67−b、67−c、67−dの領域に相当する1OFDMシンボル長に対し遅延分散が十分に小さければ、ガードインターバルを除いたOFDMシンボルの1/4周期(今回の例ではM=4で4分割している)の領域以内に有意なレベルの相関値が収まる。なお、以下の説明では特に必要な場合を除き、通常のOFDMシンボルからガードインターバルを除いた有意なデータを含む領域をOFDMシンボル(またはシンボル)と省略して説明する。
この様な状況において、相関検出に用いるプリアンブル信号として、各端末装置に設定されたプリアンブル信号ではなく、全ての端末装置について基本となるプリアンブル信号66−0を用いた場合、相関検出の結果は図41(b)に示すようなる。図41(b)では、各端末装置の相関のピークは、対応する端末装置の信号のシフト分だけずれて表れている。例えば、端末装置#2であれば1/4周期シフトしているため、1/4周期だけずれて相関値の分布が表れる。他の端末装置も同様である。このように、M分割した領域のうち、端末装置に対応したシフト分だけずれた領域を、当該端末装置に対応した領域(時間領域)と記載する。
図42は、本実施形態の基本原理におけるチャネル時変動による干渉成分の発生例を示す。ここでは一例として、端末装置#1と端末装置#3において、無視できないチャネル時変動が発生している場合を想定している。図41(b)で示したように、チャネル時変動の影響を無視でき、ヌル制御が適切に機能していた場合には、各端末装置におけるプリアンブルのシフト量に対応した時間領域に相関が検出できる。しかし、チャネル時変動によりヌル制御が破れると、図42に示すように、時変動の影響で干渉信号が抑圧できていない端末装置の該当する場所に、点線の矢印(更に網掛けで強調して示している領域)のような相関が表れる。
端末装置#1に関する相関検出では、1シンボルを4分割したうちの3番目の領域に、端末装置#3に関するものと思われる相関が表れている。同様に、端末装置#2に関する相関検出では、1シンボルを4分割したうちの1番目と3番目の領域に、端末装置#1および端末装置#3に関するものと思われる相関が表れている。同様に、端末装置#3に関する相関検出では、1シンボルを4分割したうちの1番目の領域に、端末装置#1に関するものと思われる相関が表れている。同様に、端末装置#4に関する相関検出では、1シンボルを4分割したうちの1番目と3番目の領域に、端末装置#1および端末装置#3に関するものと思われる相関が表れている。図では網掛けした部分を強調するために比較的大き目の相関を図示したが、実際には時変動量が比較的小さければより小さな相関値として表れる。
なお、以上の説明は通常の相関検出を想定した場合の説明である。通常の相関検出とは、受信した信号に対して既知のプリアンブル信号のサンプリング情報をシンボル周期の周期性を考慮しながら、既知のプリアンブル信号と受信信号のサンプリング信号を、サンプリング値ごとに乗算したものを1周期分だけ加算(積分)した相関値を、1サンプルごとシフトしながら各サンプル点で算出する処理をさす。しかし、その通常の相関検出処理結果は、プリアンブル信号に対して時間軸上の受信信号をFFT処理して周波数軸上の信号に変換し、これに対してプリアンブル信号に施されたBPSKの変調の逆処理を行ない、さらにそれをIFFT処理して時間軸上の信号に再変換したものと等価である。
本発明では、空間多重された信号を信号分離するために周波数軸上の信号に変換して受信ウエイトを乗算しており、ウエイトを乗算して信号合成を行った時点で既に周波数軸上の信号に変換されている。各端末装置からの信号分離は、周波数軸上での受信ウエイトの乗算と加算合成の結果なされるので、この周波数軸上での加算合成後の信号を基にして通常の相関検出の手順を実施するためには、少々、処理を追加して行なう必要がある。具体的には、受信ウエイトを乗算して加算合成したあとの周波数成分の信号に対し、プリアンブル信号に施されたBPSKの変調の逆処理を行ない、さらにIFFT処理して得られた結果を遅延プロファイルとして取得する。さらに、基本のプリアンブルの時間軸上での信号波形を、先ほどの遅延プロファイルを重み付け係数として用い、複数の遅延波を加算して得られる信号を仮想的な受信信号として生成する。その後で、この仮想的な受信信号と基本となるプリアンブルとの相関検出を行うことで相関検出が可能である。しかし、この手順を見れば明らかなように相関検出で得られる結果は遅延プロファイルであるIFFT後の結果そのものである。したがって、本発明において図41(b)の情報を取得するためには、基地局装置50の受信部130の干渉評価回路132にて、受信ウエイトを乗算してすべてのアンテナに亘り合成された信号が入力された際に、この周波数軸上の信号にプリアンブルのBPSK変調の逆処理を施し、その後にIFFT処理することで、簡単に相関情報を取得することができる。この様にして、通常の相関検出とは手順が異なるが、相関検出に相当する物理量として図41(b)に示す情報を取得することができる。
以下に、図41(b)に示す情報を取得した後の処理について示す。
まず、第i端末装置(端末装置#i)に着目する。このとき、M分割したOFDMシンボルの中のj(jは1以上M以下の整数)番目の領域におけるIFFT処理後の遅延Δt×k’のサンプル点(k’は0以上NSC−1以下の整数)に相当する相関値をc(i) j(k)とする。ただし、Δtはサンプリング周期、NSCはサブキャリア数(=ガードインターバルを含まない1シンボルのサンプル数)、kはM分割した領域において先頭から数えたサンプルの番号(k=k’−(i−1)×NSC/M)である。例えば、第1端末装置に注目した場合、図42における符号aのサンプルの相関値はc(1) 1(2)、符号bのサンプルの相関値はc(1) 3(2)、符号cのサンプルの相関値はc(2) 2(3)、符号dのサンプルの相関値はc(3) 3(1)である。
OFDMシンボルの1/Mの区間のサンプル数をζ(=NSC/M)とすると、第i端末装置が第j端末装置から受ける干渉電力Ii,jは次の式(28)で与えられる。
つまり、第j端末装置が他の端末装置に与える干渉電力〜Ijの大きさは平均すると以下の式(29)で与えられる。なお、ここでのΣi≠j Mの表記の総和の範囲はi=1からi=Mまでであり、その総和からi≠jの項だけを除外していることを意味する。
一方、先にも述べたが、本発明ではアップリンクにおいて端末装置が送信電力制御を行うために各端末装置の希望信号電力はほぼ一定値となるが、こちらの方も下記の式(30)で平均化を行う。
なお、この式(30)の平均化処理は必ずしも必要ではないため、着目する端末装置の希望信号電力で代用しても構わない。
したがって、第j端末装置が原因で劣化する他のM−1台の端末装置のSIRの期待値である相対干渉指標SIRjは、次式(31)で与えられる。
なお、この値は真値であり、dB(デシベル)表示の場合には対数をとることになる。基地局装置50は、この様にして求めた相対干渉指標値を時変動指標として、伝送モード又は空間多重数の最適化を行えば良い。
また、忘却係数μを用いた平均化処理を行う場合には、新規に取得されたSIR値であるSIRj (new)と、それまでのSIR値であるSIRj (old)とを用いて、式(32)に示す真値での平均化の他、対数を取ったdB表示の平均化である式(33)のどちらを利用することも可能である。
巡回遅延プリアンブルをチャネル推定に利用する一般のケースでは、例えば図41(b)に示す状況であれば、各信号のインパルス応答は概ね1/M周期以下に収まっており、若干漏れ出す成分に対しては、対応する1/M周期以外の区間のインパルス応答にゼロ挿入し、図41(b)に相当する図42の状態を最初の1/M周期にシフトした図41(a)に相当する遅延プロファイルと見なしてチャネル推定を行えば良い。この時間軸上の情報をFFT処理することで、周波数軸上のチャネル情報にも変換可能である。
ただし、空間多重数が増えるとMが大きくなり、分割数が多くなるとゼロ挿入区間への長遅延の信号の漏れ出しがチャネル推定精度を低下させる問題がある。この点が巡回遅延プリアンブルをチャネル推定に利用する場合の空間多重数に対する制約となっていたが、しかし本発明においては巡回遅延プリアンブルの利用は、あくまでもSIRの推定値を求めるのが目的である。したがって、図41(a)に示すように1/M周期からはみ出す遅延波が存在する状態であったとしても、本発明は正確なチャネル推定を行うために巡回遅延プリアンブルを利用するのではなく、あくまでも相対干渉指標値(すなわち時変動指標)を取得するのが目的であり、ここでは特に大きな問題とはならない。従って、基地局装置50において、直接的に端末装置のSIR劣化量を推定することが可能になる。
例えば、端末装置の座標の変位に伴いチャネル時変動が発生する場合(例えば、電信柱の上に設置した端末装置が、風等の影響で電信柱が振動し、その結果、チャネルが変動する場合)、座標の変位が電波の進行方向に平行な方向の場合にはチャネルの時変動自体は大きいがSIRの劣化は小さいという傾向がある。逆に、電波の進行方向に垂直な方向への変位ではSIR劣化が大きいという傾向がある。上述したような時変動量の推定によれば、基地局装置50は、直接的なSIR劣化量を読み取ることができる。
図43は、本実施形態による各端末装置の与干渉の指標評価処理を示すフローチャートである。各端末装置は、同時に同一周波数軸上で空間多重される端末装置間で異なる遅延シフトを設定した巡回遅延プリアンブル信号を送信する従来技術と同様の信号送信部を備えている。なお、基地局装置50は、各端末装置のプリアンブル領域におけるシフト量を、当該端末装置に対して帯域を割り当てた際、その割り当てた帯域と併せて通知しておく。例えば、スケジューリング情報の通知において、同時に空間多重する端末装置に通し番号を付与し、第i番目の端末装置が(i−1)/M周期の遅延を付与するという様なルールを事前に定めることで、各端末装置は巡回遅延プリアンブルのシフト量を把握することとする。このシフト量は、当然ながら空間多重する端末装置の組み合せ毎に異なるため、通常は毎回異なる値となるのが一般的であるが、帯域割り当てを周期的に行ない同時に空間多重する端末装置の組み合わせが周期的なルールに従う場合には、端末装置側に固定的にシフト量を設定することも可能である。
基地局装置50は、端末装置から巡回遅延プリアンブル信号を含むアップリンクの信号を各アンテナ素子で受信すると(ステップS501)、図33に示す受信処理を行い、空間多重している端末装置に対応した受信ウエイトを用いてそれぞれの信号系列を信号分離する(ステップS502)。これにより、受信信号処理回路109−1〜109−Lはそれぞれ、自回路に対応した端末装置について分離された信号を得る。ここで、プリアンブル部分におけるこの分離された信号は、干渉評価回路132に通知される。干渉評価回路132は、チャネル推定のためのプリアンブル領域の各周波数成分に、プリアンブル信号のBPSK変調の逆処理(周波数成分毎に係数1又は−1を乗算)を実施し(ステップS503)、その信号に対してIFFT処理を実施し(ステップS504)、この結果を相関値c(i) j(k)とする(ステップS505)。
ここで求めた相関値は、第j端末装置から第i端末装置への信号の漏れ込みに相当する相関値c(i) j(k)となっている。例えば、第i端末装置の希望信号に対応した領域の遅延Δt×k点での相関値は、c(i) i(k)である。
干渉評価回路132は更に、式(29)により、第j端末装置が他の端末装置に与える干渉の程度を表す指標〜Ijを求める(ステップS506)。さらに干渉評価回路132は、相関値c(i) i(k)を用いて式(30)により各端末の希望信号受信電力の平均値〜Sを算出する(ステップS507)。最後に、干渉評価回路132は、これらの値から、式(31)により、第j端末装置からの他の端末装置への相対干渉指標SIRjを算出し(ステップS508)、記憶回路115に書き込み処理を終了する(ステップS509)。
図44は、本実施形態によるスケジューリング処理回路181のスケジューリング処理(空間多重数又は適応変調の最適化)を示すフローチャートである。スケジューリング処理回路181は、MAC層処理回路180(または通信制御回路110)からの指示で処理を開始すると(ステップS601)、帯域割り当て候補の端末装置をリストアップする(ステップS602)。ここでの帯域割り当て候補の端末装置とは、ダウンリンクであれば送信すべきデータがバッファ内に保存されている端末装置、アップリンクでは何らかの制御情報等により、基地局装置に対して送信すべきデータを持っていると判断された端末装置であり、送信順番待ちの待ち行列にて別途管理されている。この管理方法は、公知の如何なる従来技術を用いても構わない。また、送信すべきデータとは、ユーザ情報のみならず、制御情報までも含めたデータを意味している。この様にして得られた候補とは、必ずしも割り当てをその回のスケジューリング(例えば、TDMAフレーム周期であれば、当該フレームでの割り当て意味している)で行なう端末装置だけが含まれるとは限らず、例えば少し多めの数だけ端末装置を候補として選択し、それらの候補に対して以下の処理を実施しても構わない。
これに続けて、スケジューリング処理回路181は、選択された候補の端末装置の推定SNR値を取得する(ステップS603)。この推定SNR値とは、チャネル情報長時間平均回路123が取得したチャネル情報の絶対値から分かる情報である。ないしは、端末装置は固定設置されているので、見通しを前提とすればSNR値は基地局と端末装置の距離の2乗に反比例するので、これらの情報をもとに推定値を事前に基地局装置に設定する構成であっても構わない。また、送信電力制御を行う際のアップリンクの場合には、基地局装置と端末装置との距離に応じて行う送信電力の調整をも考慮してSNRの推定値を設定しても良い。この情報は、頻繁に利用する情報として記憶回路115にて記憶及び管理し、スケジューリング処理回路181は、記憶回路115よりその情報を取得すれば良い。
更に続けて、スケジューリング処理回路181は、候補である端末装置の時変動指標の階級値を取得し、その階級値に対応する推定SIR値を把握する(ステップS604)。この情報も、上述の様に記憶回路115から取得する。スケジューリング処理回路181は、これらの情報をもとに、式(18)を用いて要求品質を満足可能な空間多重数および適応変調の最適化に関するスケジューリング処理を行ない(ステップS605)、処理を終了する(ステップS606)。
なお、スケジューリング処理では割り当てを行なう端末装置で送信すべきデータ長や伝送モード、さらにはOFDMAであれば割り当てサブキャリア数などにより、割り当てを行なうOFDMシンボル数の管理や割り当て開始時刻など、更に詳細な情報を決定する必要があるが、これらは既存のマルチユーザMIMOにおけるスケジューリング処理と変らないため、任意の公知の技術を用いて実現しても良く、ここでは説明を省略する。
図45は、本実施形態におけるステップS605の具体例を示す第1のフローチャートである。スケジューリング処理回路181は、ステップS604を実施後(ステップS611)、候補である端末装置から1台を選択し(ステップS612)、この端末装置に対する目標の伝送モードを仮設定する(ステップS613)。これは、その端末装置のSNR値に合わせた伝送モードの設定であってもよく、効率的な伝送を実現するのに適した伝送モードを別途管理しておき、この伝送モードを半固定的に設定するようにしても構わない。例えば、1ビットを伝送するのに必要なエネルギーを表すEb/N0で評価すると、QPSKは他の変調方式に比べて優れていることが一般的に知られており、この様な観点から伝送モードをQPSK R=1/2に固定した運用とし、空間多重する多重度を調整することとしても構わない。
続けて、スケジューリング処理回路181は、この目標伝送モードの所要SINR値を取得し、これをzi[dB]とする。同様に選択した端末装置の時変動指標の階級値に対応したSIR値をyi[dB]、端末装置のSNR値をxi[dB]とする。これらを用い、スケジューリング処理回路181は、既に割り当てが確定した端末装置に関する情報を用いて、新規の選択した端末装置の割り当て追加を行なった場合に、式(18)を満足することが可能か否かを判断する(ステップS614)。スケジューリング処理回路181は、ステップS614において式(18)を満たすと判断した場合(ステップS614:YES)、その選択した端末装置を空間多重することを決定し(ステップS615)、さらに割り当て待ちの端末装置の有無を調べる(ステップS616)。
スケジューリング処理回路181は、残りの候補があると判断した場合には(ステップS616:YES)、ステップS612に戻り、新たな端末装置の追加の可否をステップS612〜ステップS616を繰り返し行なうことで継続する。
一方、スケジューリング処理回路181は、ステップS614で条件式を満たさないと判断した場合(ステップS614:NO)、ないしはステップS616で残りの候補がないと判断した場合には(ステップS616:NO)、それまでに確定済みの組み合わせでの空間多重を確定する。さらに、スケジューリング処理回路181は、ステップS613で仮設定した伝送モードの確定ないしは伝送モードを、式(20)により与えられるSINR値を許容可能な伝送モードへ変更するなどの処理を行い、空間多重数および適応変調の最適化を確定し(ステップS617)、処理を終了する(ステップS618)。
本実施形態におけるステップS605の具体例としては、上述の様に式(18)を用いた処理の代わりに、以下の図46に示すように、式(19)等を用いて簡易化することもできる。
図46は、図45に示す本実施形態におけるステップS605の具体例を示す第2のフローチャートである。スケジューリング処理回路181は、ステップS604を実施後(ステップS621)、ステップS603で取得した候補となる端末装置のSNR値の最低値を取得する(ステップS622)。さらに、スケジューリング処理回路181は、目標SIR値を設定し(ステップS623)、続けて目標伝送モードを設定する(ステップS624)。スケジューリング処理回路181は、これらの最低SNR値、目標SIR値、伝送モードの所要SINR値をそれぞれx0、y0、z0とし、式(19)より多重数mを算出する(ステップS625)。スケジューリング処理回路181は、推定SIR値が目標値以上の端末装置の中からm台を多重数の上限として端末装置の組み合わせを選択し(ステップS626)、最終的な割り当ておよび伝送モードを確定すると(ステップS627)、処理を終了する(ステップS628)。
さらに本実施形態におけるステップS605の具体例としては、以下の図47に示すように、式(20)等を用いて簡易化することもできる。
図47は、本実施形態におけるステップS605の具体例を示す第3のフローチャートである。スケジューリング処理回路181は、ステップS604を実施後(ステップS631)、ステップS603で取得した候補となる端末装置のSNR値の最低値を取得する(ステップS632)。さらに、スケジューリング処理回路181は、目標SIR値を設定し(ステップS633)、続けて目標多重数を設定する(ステップS624)。スケジューリング処理回路181は、これらの最低SNR値、目標SIR値、目標多重数をそれぞれx0、y0、mとし、式(20)より推定SINR値を算出する。スケジューリング処理回路181は、算出したそのSINR値で所望の品質を満たすことが可能な伝送モードを選択する(ステップS635)。スケジューリング処理回路181は、推定SIR値が目標値以上の端末装置の中からm台を多重数の上限として端末装置の組み合わせを選択し(ステップS636)、最終的な割り当ておよび伝送モードを確定すると(ステップS637)、処理を終了する(ステップS638)。
以上の実施形態では、時変動指標の階級値ないしは階級値をSIR値に換算した情報をもとに式(18)、式(19)、式(20)等を用いて空間多重数およびまたは適応変調の最適化を図っていた。しかし、スケジューリング処理はリアルタイムで高速に処理することが求められている場合が多く、様々な情報を固定的に扱うことで大幅な簡易化を図ることが考えられる。この様な条件下では、時変動指標の階級値を直接、空間多重の多重数ないしは最適な伝送モードに変換するテーブルを事前に作成し、基地局装置50は、そのデータテーブルを参照して割り当てを決定する構成とすることも可能である。
この場合の基地局装置50の回路構成として、図1の構成をそのまま流用することが可能であるが、図1の記憶回路115内の記憶領域の一部に時変動指標の階級値から空間多重数または最適伝送モードに読み替えるデータテーブルを新たに備えることになる。そして、スケジューリング処理回路181が干渉評価回路132で取得した情報を読み込み、この情報をもとに式(19)、式(20)等により時変動指標の階級値毎に空間多重の多重数ないしは最適な伝送モードに変換するデータテーブルを事前に作成する。なお、以下の処理はスケジューリング処理回路181の代わりに通信制御回路110が処理を行なうものとしても同等の動作を実現することができる。
図48は、OFDMAを適用する場合のアップリンクのフォーマット例を示す図である。図48(a)は、従来の通常のOFDMAアップリンク信号のフォーマット概要を示し、図48(b)は、本実施形態のOFDMAアップリンク信号のフォーマット概要を示している。
図48において、符号61−1〜61−4および符号63−1〜63−4は、OFDMAを利用する場合のアップリンクにおける各サブキャリア(ないしはグループ化したサブキャリア群)である。また、符号62−1〜62−4および符号65−1〜65−4は各サブキャリアのチャネル推定用のトレーニング信号、符号64は本実施形態のSIR推定のために付加されたプリアンブル信号である。
一般に、全てのサブキャリアにチャネル推定用のパイロット信号を挿入する場合に対し、例えばNSCサブキャリア全てにチャネル推定用のパイロット信号を挿入した場合には、個別のパイロット信号で相関をとった結果得られる相関値は、図41(a)に示す様に、OFDMシンボルの先頭領域に高い相関値が集中する。ところが、Npサブキャリア毎にチャネル推定用のパイロット信号を挿入する場合には、例えばNp=2であれば、1/2周期ずれたところに先頭領域の相関値の鏡写しの相関値が表れる(一般に、これをエイリアスと呼ぶ)。したがって、図48(a)の様に限定的なサブキャリアのみにて信号が送信される場合には、この様なエイリアスの影響で図42に示すようなSIR値推定が困難となる。そこで、データ領域については限定的な一部のサブキャリアで通信する場合であっても、SIR値推定のためには、図48(b)の符号64に示すように、その先頭領域においてパイロット信号を全サブキャリアにて送信することが好ましい。
このように、本実施形態では、アップリンクの信号に、全端末装置が一斉に全サブキャリアで送信する信号を付与し、さらにこの信号に巡回遅延パイロットを利用したチャネル推定の技術を適用する。
[その他の補足事項]
なお、本発明における基地局装置の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより、送信ウエイト及び受信ウエイト、並びに送受信ウエイトを算出する処理を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウエアを含むものとする。また、「コンピュータシステム」は、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)を備えたWWWシステムも含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。更に「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(RAM)のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。
また、上記プログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)や電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良い。更に、前述した機能をコンピュータシステムに既に記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であっても良い。