現在、スマートフォンの爆発的な普及に伴い、利便性の高いマイクロ波帯の周波数資源が枯渇の危機を迎えている。いわゆる第3世代の携帯電話から第4世代の携帯電話へ移行したり、新しい周波数帯の新規割り当てなども行われているが、サービスを望む事業者が多いことから、一つの事業者に割り当てられる周波数資源は限られている。この周波数資源の逼迫状態を解消するための技術として、マルチユーザMIMO技術が注目されている。
[マルチユーザMIMO技術について]
(マルチユーザMIMOの概要)
コヒーレント伝送や、フェーズドアレーアンテナ技術は、基本的に回線利得を改善する技術であり、広域のサービスエリアを一つの基地局装置でカバーする際の回線容量を増大させるためには、別の無線通信技術が必要となる。一方で周波数資源は限りがあるために、ここでは限られた資源を高い周波数利用効率で利用するための技術として、例えば非特許文献1にて検討されているマルチユーザMIMO技術について説明をする。
図20は、マルチユーザMIMOシステムの構成例を示す概略図である。同図に示すように、マルチユーザMIMOシステムは、基地局装置801と、端末装置802−1、802−2、802−3(端末装置#1〜#3)とを具備している。実際に一つの基地局装置801が収容する端末装置802の数は多数であるが、そのうちの数局を選び出し(同図では端末装置802−1〜802−3)、通信を行う。各端末装置802は、基地局装置801と比較して送受信アンテナ数が一般に少ない。以下では、基地局装置801から端末装置802への通信(ダウンリンク)を行う場合について説明する。
基地局装置801は、多数のアンテナ素子を用いて複数の指向性ビームを形成する。例えば、各端末装置802−1〜803に対してそれぞれ3つのMIMOチャネルを割り当て、全体として9系統の信号系列を送信する場合を考える。その際、端末装置802−1に対して送信する信号は、端末装置802−2及び端末装置802−3方向には指向性利得が極端に低くなるように調整し、この結果として端末装置802−2及び端末装置802−3への干渉を抑制する。同様に、端末装置802−2に対して送信する信号は、端末装置802−1及び端末装置802−3方向には指向性利得が極端に低くなるように調整する。同様の処理を端末装置802−3にも施す。このように指向性制御を行う理由は、例えば端末装置802−1においては、端末装置802−2及び端末装置802−3で受信した信号の情報を知る術がないため、端末装置802間での協調的な受信処理ができない。つまり、3本のアンテナしかない端末装置802−1のみの受信処理において、9系統の全ての信号系列を信号分離することは非常に厳しい。そこで、各端末装置802−1〜802−3には他の端末装置802の信号が受信されないように、送信側で干渉分離を事前に行う。以上が既存のマルチユーザMIMOシステムの概要である。
次に、指向性ビームの形成方法について、以下に説明を加える。ここでは、基地局装置801が9つのアンテナ素子を備え、各端末装置802−1〜802−3が3つのアンテナ素子を備える場合について説明する。例えば、図20において、基地局装置801の第j(j=1,…,9)のアンテナ素子と、端末装置802−1の第1のアンテナ素子との間のチャネル情報をh1jと表記する。基地局装置801の各アンテナ素子(j=1,…,9)と、端末装置802−1の第1のアンテナ素子とのチャネル情報を用いて行ベクトルh1を(h11,h12,h13,…,h18,h19)と表記する。同様に、基地局装置801の第jのアンテナ素子と、端末装置802−1の第2のアンテナ素子及び第3のアンテナ素子との間のチャネル情報をh2j及びh3jと表記し、対応する行ベクトルh2及びh3を(h21,h22,h23,…,h28,h29)及び(h31,h32,h33,…,h38,h39)と表記する。端末装置802−2及び端末装置802−3のアンテナ素子に対して同様の連番をふり、行ベクトルh4〜h9を(h41,h42,h43,…,h48,h49)〜(h91,h92,h93,…,h98,h99)と表記する。
加えて、基地局装置801が送信する9系統の信号をt1〜t9と表記し、これを成分とする列ベクトルをTx[all]=(t1,t2,t3,…,t8,t9)Tと表記する。ここで、右肩のTの文字はベクトル、行列の転置を表す。また同様に、端末装置802−1〜80−3の9本のアンテナ素子での受信信号をr1〜r9と表記し、これを成分とする列ベクトルをRx[all]=(r1,r2,r3,…,r8,r9)Tと表記する。最後に、行ベクトルh1〜h9を第1から第9行成分とする行列を、全体チャネル情報行列H[all]と表記する。また、ノイズをnと表記する。
この場合、マルチユーザMIMOシステム全体として、次式(1)の関係が成り立つ。
これに対し送信指向性制御を行うため、9行9列の送信ウエイト行列Wを導入し、式(1)を次式(2)のように書き換える。
更に、送信ウエイト行列Wを列ベクトルw1〜w9に分解し、W=(w1,w2,w3,…,w8,w9)と表記すると、式(2)における「H[all]・W」を次式(3)のように表せる。
ここで、例えば6つの行ベクトルh4〜h9と、3つの列ベクトルw1〜w3との乗算(各成分の乗算したものの総和、複素ベクトルの場合は内積とは異なる)が全てゼロになるように、w1〜w3の値を選ぶことを考える。同時に、行ベクトルh1〜h3及びh7〜h9と列ベクトルw4〜w6との乗算、行ベクトルh1〜h6と列ベクトルw7〜w9との乗算が全てゼロになるように、w4〜w9の値を選ぶことにする。
すると、式(3)に示す9行9列の行列H[all]・Wは、3行3列の部分行列を用いて、次式(4)のように表すことができる。
式(4)において、H[1]、H[2]、及びH[3]は3行3列の行列であり、「0」は成分が全てゼロの3行3列の行列である。このような条件を満たす変換行列を送信ウエイト行列Wに選択することで、式(4)は次式(5−1)〜式(5−3)で表される3つの関係式に分解できる。
ここで、Tx[1]=(t1,t2,t3)T、Tx[2]=(t4,t5,t6)T、Tx[3]=(t7,t8,t9)T、Rx[1]=(r1,r2,r3)T、Rx[2]=(r4,r5,r6)T、Rx[3]=(r7,r8,r9)Tとした。このようにして、一つの基地局装置が1対1でMIMO通信を行う、いわゆるシングルユーザMIMO通信が3系統、同時並行的に通信を行っている状態とみなすことができるようになる。
次に、送信ウエイトベクトルw1〜w9の決定方法の例を以下に説明する。手順としては、端末装置802−1に対する送信ウエイトベクトルw1〜w3を決定し、順次、端末装置802−2に対する送信ウエイトベクトルw4〜w6、端末装置802−3に対する送信ウエイトベクトルw7〜w9を決定する。
まず、第1ステップとして、端末装置802−2、802−3に対する6つの行ベクトルh4〜h9が張る6次元部分空間における6つの基底ベクトルe4〜e9を求める。求める方法は、グラムシュミットの直交化法の他、様々な方法があるが、ここでは例としてグラムシュミットの直交化法を例に説明する。
まず、一つの行ベクトルh4に着目し、この方向で絶対値が1のベクトルを基底ベクトルe4とする。基底ベクトルe4は次式(6)として表される。
式(6)における(h4h4 H)は同一ベクトルの絶対値の2乗を意味するスカラー量であり、この値の平方根での除算は行ベクトルh4を規格化することを意味する。また、「h4 H」は、行ベクトルh4に対するエルミート共役ベクトルであり、行と列を転置し且つ各成分の複素共役をとることで得られるベクトルである。
次に、行ベクトルh5に着目し、この行ベクトルの中から基底ベクトルe4方向の成分をキャンセルした行ベクトルh5’を求めた後、更に規格化する。行ベクトルh5’と基底ベクトルe5とは、次式(7−1)及び式(7−2)で表される。
式(7−1)における(h5e4 H)は、行ベクトルh5の基底ベクトルe4方向への射影を意味する。同様の処理を次式(8−1)及び次式(8−2)のように行う。
ここで、式(8−1)におけるΣの総和の範囲は、4≦i≦(j−1)(jは5〜9の整数)の整数iに対する総和となっている。つまり、既に確定した規定ベクトル方向の成分をキャンセルすることを意味する。このようにして、6つの基底ベクトルe4〜e9を求めることができる。
次に、第2ステップとして、端末装置802−1に対する送信ウエイトベクトルw1〜w3を求める。まず、行ベクトルh1〜h3から、基底ベクトルe4〜e9が張る6次元部分空間の成分をキャンセルする。具体的には、次式(9)で表される。
ここで、式(9)におけるjは1〜3の整数であり、Σの総和の範囲は4≦i≦9の整数iに対する総和となっている。このようにして求めた行ベクトルh1’〜h3’の3つのベクトルが張る3次元空間は上述の行ベクトルh4〜h9のいずれとも直交している。この3次元空間内の3つのベクトル(必ずしも直交ベクトルである必然性はない)を選び、そのベクトルの複素共役ベクトルを送信ウエイトベクトルw1〜w3として設定すれば、他の端末装置802−2、802−3への干渉を抑圧することができる。
なお、3つのベクトルの選び方は如何なる方法でも構わないが、例えば特異値分解を行って得られるユニタリー行列を構成する3つの直交ベクトルを用いれば、他の端末装置802に干渉を与えない部分空間内に限定された固有モード伝送が可能になり、効率的な伝送が可能になる。
最後に、第3ステップとして、これと同様の処理を端末装置802−2、端末装置802−3に対しても行えば、最終的に全体の送信ウエイトベクトルw1〜w9を求めることができる。
以上が送信ウエイト行列Wの求め方である。
図21は、マルチユーザMIMOシステムにおける送信ウエイト行列Wを算出する手順を示すフローチャートである。まず、送信ウエイト行列Wの算出にあたり、全ての端末装置802へのチャネル情報行列Hを取得する(ステップS801)。宛先とする端末装置802に対して通し番号を付与し、その通し番号を示す変数をkとした場合、まずkを初期化する(ステップS802)。更に、kをカウントアップし(ステップS803)、現在のkが示す値に対応する端末装置802(#1)に対する部分チャネル情報(ここでは便宜上、Hmainと表記する。)を抽出し(ステップS804)、それ以外の宛先の端末装置802に対する部分チャネル情報行列(ここでは便宜上、Hsubと表記する。)を抽出する(ステップS805)。
更に、部分チャネル行列Hsubの各行ベクトルが張る部分空間の直交基底ベクトルを算出し、これを基底ベクトル{ej}と置く(ステップS806)。次に、式(9)に相当する処理として、着目している端末装置802(#1)に対する部分チャネル情報行列HmainからステップS806において求めた基底ベクトル{ej}に関する成分をキャンセルし、これを行列〜Hmainとする(ステップS807)。ここで、ステップS807において、「〜(チルダ)」が上に付されたHを「〜H」と表記する。以下、数式等においても同様に、「^(ハット)」などの記号が文字の上に付されている文字を表記する場合、当該記号を文字の前に表記する。
更に、行列〜Hmainの行ベクトルが張る部分空間の任意の直交基底ベクトルを算出し、これを基底ベクトル{ei}とする(ステップS808)。ここで、任意の基底ベクトルとは、例えば行列〜Hmainを特異値分解した際の右特異行列を構成するベクトルなどを選んでもよい。その後、基底ベクトル{ei}の各ベクトルのエルミート共役ベクトル(複素共役ベクトルを転置した列ベクトル)として、端末装置802(#1)の信号に関する送信ウエイトベクトル{wj}を決定する(ステップS809)。
ここで、全ての宛先の端末装置802の送信ウエイトベクトルを決定済みか否かを判定し(ステップS810)、残りの端末装置802があれば、ステップS803からステップS809までの処理を繰り返す。全ての端末装置802の送信ウエイトベクトルを決定済みであれば、送信ウエイトベクトル{wj}を各列ベクトルとする行列として送信ウエイト行列Wを決定し(ステップS811)、処理を終了する。
なお、チャネル情報は一般的には周波数成分ごとに異なるため、広帯域の信号、例えばOFDM変調方式を用いた信号であれば、周波数成分ごと、すなわちサブキャリアごとに同様の送信ウエイトを算出することになる。またここでは、端末装置802−1〜802−3がそれぞれアンテナを3素子ずつ備えている場合について説明したため、ステップS808にて行列〜Hmainの各行ベクトルが張る部分空間の直交基底ベクトルを算出する処理を含んでいたが、端末装置が1本のアンテナのみを備える場合には、ステップS808は単に行列〜Hmainに相当する行ベクトルを規格化することに対応する。
以上は一般的なマルチユーザMIMOの送受信ウエイトの算出方法であり、端末装置側に複数のアンテナが備えられていることを想定し、全体のチャネル行列を式(4)に示したようにブロック対角化する方法である。しかし、同様の送受信ウエイトの算出法としては、その他にも幾つかのバリエーションがある。これらのバリエーションは必ずしも端末装置のアンテナが1本である必要はないが、以下の説明では簡単のために1本アンテナの端末装置がN台同時に空間多重する場合を想定した説明を行う。以下にその他の送受信ウエイトを算出する方法の説明を行う。
まず、基地局装置801の送受信ウエイトに関しては、式(1)等に示した全体のチャネル行列H[all]に対し、次式(10−1)及び(10−2)で表されるZF(Zero Forcing)型の擬似逆行列を算出し、これを送信ウエイト及び受信ウエイトとして用いるようにしてもよい。
ここで、空間多重する端末装置数をN台、基地局装置801のアンテナ素子の数をK本(N<K)とすると、例えばダウンリンクを例にとればチャネル行列H[all]のサイズはN×K(N行K列)である。H[all]のランクがNであれば、行列H[all]・H[all]HのサイズはN×Nで逆行列が存在し、式(10−1)を用いて擬似逆行列を得ることができる。一般に、Nに対してKの値が十分冗長であれば、このN×Nの行列のランクは安定的にNとなり、逆行列が安定的に存在する。同様に、基地局装置801の受信に相当するアップリンクの受信ウエイトに関しては、チャネル行列H[all]のサイズはK×N(K行N列)であり、行列H[all]H・H[all]のサイズもN×Nとなり、一般には逆行列が存在し、次式(10−2)で表されるZF型の擬似逆行列を算出し、これを受信ウエイトとして用いるようにしてもよい。
なお、同様の送受信ウエイトとして知られているMMSEウエイトでは、雑音電力をσ2とすれば、次式(11−1)及び次式(11−2)を式(10−1)及び式(10−2)の代わりに用いてもよい。なお、式(11−1)及び式(11−2)における「I」はN×N(N行N列)の単位行列である。
(マルチユーザMIMOの装置構成例)
図22は、マルチユーザMIMOシステムにおける基地局装置80の構成の一例を示す概略ブロック図である。同図に示すように、基地局装置80は、送信部81、受信部85、インタフェース回路87、MAC層処理回路88、及び通信制御回路820を備えている。MAC層処理回路88はスケジューリング処理回路881を有している。
基地局装置80は、インタフェース回路87を介して、外部機器ないしはネットワークとのデータの入出力を行う。インタフェース回路87は、入力されるデータのうち、無線回線上で転送すべきデータを検出し、検出したデータをMAC層処理回路88に出力する。MAC層処理回路88は、基地局装置80全体の動作の管理制御を行う通信制御回路820の指示に従い、MAC層に関する処理を行う。ここで、MAC層に関する処理には、インタフェース回路87で入出力されるデータと、無線回線上で送受信されるデータの変換、MAC層のヘッダ情報の付与などが含まれる。この処理の中で、スケジューリング処理回路881は、マルチユーザMIMO伝送において同時に空間多重を行う端末装置の組み合わせを含む各種スケジューリング処理を行う。スケジューリング処理回路881は、スケジューリング結果を通信制御回路820に出力する。マルチユーザMIMOでは、複数の端末装置宛に一度に信号を送信するため、複数系統の信号系列がMAC層処理回路88から送信部81に出力される。
図23は、マルチユーザMIMOシステムにおける基地局装置80における送信部81の構成の一例を示す概略ブロック図である。同図に示すように、送信部81は、送信信号処理回路811−1〜811−L(Lは2以上の整数)と、加算合成回路812−1〜812−K(Kは2以上の整数)と、IFFT(Inverse Fast Fourier Transform:逆高速フーリエ変換)&GI(Guard Interval:ガードインターバル)付与回路813−1〜813−Kと、D/A(デジタル/アナログ)変換器814−1〜814−Kと、ローカル発振器815と、ミキサ816−1〜816−Kと、フィルタ817−1〜817−Kと、ハイパワーアンプ(HPA)818−1〜818−Kと、アンテナ素子819−1〜819−Kと、送信ウエイト処理部830とを備えている。送信信号処理回路811−1〜811−Lと、送信ウエイト処理部830とは、図22において示した通信制御回路820に接続されている。
送信ウエイト処理部830は、チャネル情報取得回路831と、チャネル情報記憶回路832と、マルチユーザMIMO(MU−MIMO)送信ウエイト算出回路833とを備えている。ここで、同図における送信信号処理回路811−1〜811−Lの添え字のLは、同時に空間多重を行う多重数を表す。また、加算合成回路812−1〜812−Kからアンテナ素子819−1〜819−Kまでの回路の添え字のKは、基地局装置80が備えるアンテナ素子数を表す。
マルチユーザMIMOでは、複数の端末装置宛に一度に信号を送信するため、複数系統の信号系列がMAC層処理回路88から送信部81に入力され、入力された複数系統の信号系列が送信信号処理回路811−1〜811−Lに入力される。送信信号処理回路811−1〜811−Lは、宛先の端末装置それぞれに送信すべきデータ(データ入力#1〜#L)がMAC層処理回路88から入力されると、無線回線で送信する無線パケットを生成して変調処理を行う。ここで、例えばOFDM変調方式を用いるのであれば、各信号系列の信号は周波数成分ごとに変調処理が行われる。更に、変調処理がなされたベースバンド信号に周波数成分ごとに送信ウエイトを乗算する。各アンテナ素子819−1〜819−Kに対応した送信ウエイトが乗算された信号は、必要に応じて残りの信号処理が施され、ベースバンドにおける送信信号のサンプリングデータとして加算合成回路812−1〜812−Kに入力される。
加算合成回路812−1〜812−Kに入力された信号は、周波数成分ごとに合成される。合成された信号は、IFFT&GI付与回路813−1〜813−Kにて周波数軸上の信号から時間軸上の信号に変換され、更にガードインターバルの挿入やOFDMシンボル間(SC−FDEであればブロック伝送のブロック間)の波形整形等の処理が行われ、アンテナ素子819−1〜819−Kごとに、D/A変換器814−1〜814−Kでデジタル・サンプリングデータからベースバンドのアナログ信号に変換される。更に、各アナログ信号は、ローカル発振器815から入力される局部発振信号と、ミキサ816−1〜816−Kで乗算され、無線周波数の信号にアップコンバートされる。ここで、アップコンバートされた信号には、送信すべきチャネルの帯域外の周波数成分に信号が含まれるため、フィルタ817−1〜817−Kで帯域外の周波数成分を除去し、送信すべき電気的な信号を生成する。生成された信号は、ハイパワーアンプ818−1〜818−Kで増幅され、アンテナ素子819−1〜819−Kより送信される。
なお、図23では、各周波数成分の信号の加算合成を加算合成回路812−1〜812−Kで実施した後に、IFFT処理、ガードインターバルの挿入、波形整形等の処理を行っているが、送信信号処理回路811−1〜811−Lにてこれらの処理を行い、IFFT&GI付与回路813−1〜813−Kを省略する構成としてもよい。この場合、送信信号処理回路811−1〜811−Lにおける送信ウエイト乗算後の必要に応じた残りの信号処理とは、IFFT処理、ガードインターバルの挿入、波形整形等の処理をさす。
また、送信信号処理回路811−1〜811−Lで乗算される送信ウエイトは、信号送信処理時に、送信ウエイト処理部830に備えられているマルチユーザMIMO送信ウエイト算出回路833より取得する。送信ウエイト処理部830では、チャネル情報取得回路831で別途チャネル情報を取得しておき、これを逐次更新しながら、チャネル情報記憶回路832に記憶する。信号の送信時にマルチユーザMIMO送信ウエイト算出回路833は、宛先局に対応したチャネル情報をチャネル情報記憶回路832から読み出し、読み出したチャネル情報を基に送信ウエイトを算出する。マルチユーザMIMO送信ウエイト算出回路833は、算出した送信ウエイトを送信信号処理回路811−1〜811−Lに出力する。
また、宛先局の管理や、全体のタイミング制御など、全体の通信に係る制御を通信制御回路820が管理する。上述の送信ウエイトの算出に係る信号処理を行う送信ウエイト処理部830に対し、通信制御回路820は宛先局等を示す情報を出力する。
図24は、マルチユーザMIMOシステムにおける基地局装置80における受信部85の構成の一例を示す概略ブロック図である。同図に示すように、受信部85は、アンテナ素子851−1〜851−Kと、ローノイズアンプ(LNA)852−1〜852−Kと、ローカル発振器853と、ミキサ854−1〜854−Kと、フィルタ855−1〜855−Kと、A/D(アナログ/デジタル)変換器856−1〜856−Kと、FFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)回路857−1〜857−Kと、受信信号処理回路858−1〜858−Lと、受信ウエイト処理部860とを備えている。受信信号処理回路858−1〜858−Lと、受信ウエイト処理部860とは、図22において示した通信制御回路820に接続されている。受信ウエイト処理部860は、チャネル情報推定回路861と、マルチユーザMIMO(MU−MIMO)受信ウエイト算出回路862とを備えている。
アンテナ素子851−1〜851−Kで受信した信号をローノイズアンプ852−1〜852−Kで増幅する。増幅された信号とローカル発振器853から出力される局部発振信号とがミキサ854−1〜854−Kで乗算され、増幅された信号は無線周波数の信号からベースバンドの信号にダウンコンバートされる。ダウンコンバートされた信号には、受信すべき周波数帯域外の周波数成分も含まれるため、フィルタ855−1〜855−Kで帯域外成分を除去する。帯域外成分が除去された信号は、A/D変換器856−1〜856−Kでデジタル・ベースバンド信号に変換される。デジタル・ベースバンド信号は全てFFT回路857−1〜857−Kに入力され、所定のシンボルタイミングで時間軸上の信号を周波数軸上の信号に変換(各周波数成分の信号に分離)する。この各周波数成分に分離された信号は、受信信号処理回路858−1〜858−Lに入力されるとともに、チャネル情報推定回路861にも入力される。
チャネル情報推定回路861では、各周波数成分に分離されたチャネル推定用の既知の信号(無線パケットの先頭に付与されるプリアンブル信号等)を基に各端末装置のアンテナ素子と、基地局装置80の各アンテナ素子851−1〜851−Kとの間のチャネル情報を周波数成分ごとに推定し、その推定結果をマルチユーザMIMO受信ウエイト算出回路862に出力する。マルチユーザMIMO受信ウエイト算出回路862では、入力されたチャネル情報を基に乗算すべき受信ウエイトを周波数成分ごとに算出する。この際、各アンテナ素子851−1〜851−Kで受信された信号を合成する受信ウエイトは、信号系列ごとに異なり、抽出すべき信号系列に対応する受信信号処理回路858−1〜858−Lそれぞれに入力される。
受信信号処理回路858−1〜858−Lでは、FFT回路857−1〜847−Kから入力された周波数成分ごとの信号に対し、マルチユーザMIMO受信ウエイト算出回路862から入力された受信ウエイトを乗算し、各アンテナ素子851−1〜851−Kで受信された信号を周波数成分ごとに加算合成する。受信信号処理回路858−1〜858−Lは、加算合成した信号に対して復調処理を施し、再生されたデータをMAC層処理回路88に出力する。
ここで、異なる受信信号処理回路858−1〜858−Lでは、異なる信号系列の信号処理が行われる。また、MAC層処理回路88は、MAC層に関する処理(例えば、インタフェース回路87に対して入出力するデータと、無線回線上で送受信されるデータとの変換、MAC層のヘッダ情報の終端など)を行う。この処理の中でスケジューリング処理回路881は、マルチユーザMIMO伝送において同時に空間多重を行う端末装置の組み合わせを含む各種スケジューリング処理を行い、スケジューリング結果を通信制御回路820に出力する。MAC層処理回路88にて処理された受信データは、インタフェース回路87を介して外部機器ないしはネットワークに出力される。
また、送信元の端末装置の管理や、全体のタイミング制御など、全体の通信に係る制御を通信制御回路820が管理する。また、上述の受信ウエイトの算出に係る信号処理を行う受信ウエイト処理部860に対し、通信制御回路820から送信元の端末装置等を示す情報が入力される。
なお、信号受信に関しても送信の場合と同様に、OFDM変調方式ないしはSC−FDE方式を用いた広帯域のシステムでは、上述の受信ウエイトの乗算は周波数成分ごとに行われる。つまりA/D変換器856−1〜856−Kから出力される信号に対し、FFT回路857−1〜857−KでFFTを行い各周波数成分に分離し、分離した周波数成分ごとに、チャネル情報推定回路861での信号処理、及び、受信信号処理回路858−1〜858−Lでの受信信号処理が実施されることになる。
(マルチユーザMIMOの送信処理)
図25は、マルチユーザMIMOにおける基地局装置80の送信処理を示すフローチャートである。マルチユーザMIMOでは、データの送信とは別に行うダウンリンクのチャネル情報のフィードバックが定期的になされている。チャネル情報取得回路831はダウンリンクにおけるチャネル情報を取得すると(ステップS831)、端末装置ごとに各周波数成分のチャネル情報をチャネル情報記憶回路832に記憶させる(ステップS832)。ステップS831及びステップS832の処理は、逐次行われる。
基地局装置80からの信号送信処理が開始されると(ステップS821)、マルチユーザMIMO送信ウエイト算出回路833は、宛先である端末装置に対応する各周波数成分のチャネル情報をチャネル情報記憶回路832から読み出す(ステップS822)。
マルチユーザMIMO送信ウエイト算出回路833は、読み出したチャネル情報を基に、先に示した処理によりマルチユーザMIMO用の送信ウエイトを周波数成分ごとに算出する(ステップS823)。ステップS822及びステップS823の処理とは別に、送信信号処理回路811−1〜811−Lは、宛先ごとの送信すべきデータに対し、各種変調処理等の送信信号処理により、宛先局ごとに各周波数成分の送信信号を生成する(ステップS824)。
送信信号処理回路811−1〜811−Lは、生成した送信信号に、ステップS823においてマルチユーザMIMO送信ウエイト算出回路833が算出した送信ウエイトを乗算する(ステップS825)。また、送信信号処理回路811−1〜811−Lは一連の信号処理を施し、加算合成回路812−1〜812−Lはアンテナ素子819−1〜819−Lごとに各周波数成分の各端末装置宛の送信信号に対する加算合成を行い、更にIFFT&GI付与回路813−1〜813−Kにて周波数軸上の信号から時間軸上の信号に変換され、更にガードインターバルの挿入やOFDMシンボル間(SC−FDEであればブロック伝送のブロック間)の波形整形等の処理を行い、D/A変換器814−1〜814−Kに出力する(ステップS826−1〜S826−K)。
IFFT&GI付与回路813−1〜813−Kから出力された信号は、D/A変換器814−1〜814−Kからハイパワーアンプ818−1〜818−Kにおける信号処理が施され、アンテナ素子819−1〜819−Kそれぞれから送信され(ステップS827−1〜S827−K)、処理を終了する(ステップS828−1〜S828−K)。
なお、ステップS827−1〜S827−Kにおける処理は、ベースバンド信号から無線周波数へのアップコンバート処理、フィルタによる帯域が周波数成分の除去、ハイパワーアンプによる信号の増幅などを含む。
(マルチユーザMIMOの受信処理)
図26は、マルチユーザMIMOにおける基地局装置80の受信処理を示すフローチャートである。まず、受信処理を開始すると(ステップS840)、第1から第Kのアンテナ素子851−1〜851−Kにて信号を受信する(ステップS841−1〜S841−K)。ここでの受信とは、受信した信号ないしそれをダウンコンバートした信号に対し、アナログ/デジタル変換を施す処理までを含む。以降の信号処理は、デジタル化された受信信号に対する処理を意味する。
続いて、各アンテナ素子851−1〜851−Kに対応する受信信号に対し、FFT回路857−1〜857−Kによる各周波数成分への分離等の信号処理を行う(ステップS842−1〜S842−K)。更に、チャネル情報推定回路861は、無線パケットに付与されていた既知のパターンのプリアンブル信号の受信状態より、各周波数成分のチャネル推定を実施する(ステップS843−1〜S843−K)。ここで、伝搬路上での信号の減衰、及び複素位相の回転状態を把握する。このステップS843−1〜S843−Kで行うチャネル推定では、ステップS843−1、S843−2、・・・、S843−Kを個別に示した通り、空間多重される信号系列ごとに個別にチャネル推定を行う必要がある。この個別のチャネル推定とは、送信元の端末装置それぞれから送信された信号を分離可能な状態で行う必要がある。OFDM変調方式を例にとれば、一般的には空間多重数と同数のシンボル数のチャネル推定用のプリアンブル信号が必要となる。各端末装置は空間多重数と同数のシンボル数(ないしはそれ以上)で且つそれぞれが異なるパターンのプリアンブル信号を付与して信号送信を行い、基地局装置80はそのパターンの違いを利用して、ステップS843−1〜S843−Kにて個別のチャネル推定を行うことになる。
マルチユーザMIMO受信ウエイト算出回路862は、チャネル情報推定回路861が推定したチャネル情報を用いて、空間多重された信号系列ごと及び周波数成分ごとに個別の適切な受信ウエイトを算出する(ステップS844)。更に、受信信号処理回路858−1〜858−Lは、信号系列ごと及び周波数成分ごとに算出された受信ウエイトを、周波数成分ごとに分離された各アンテナ素子の受信信号に乗算する(ステップS845−1〜S845−K)。
ここで、受信ウエイトは、空間多重された信号系列ごとに用意されているため、ステップS845−1〜S845−Kにおける乗算結果は、空間多重された信号系列ごとに別々の結果となる。それぞれの信号系列の信号は、各アンテナ素子851−1〜851−Kの信号が周波数成分ごとに加算合成され(ステップS846−1〜S846−L)、合成された信号系列に対して、第1信号系列の信号処理(ステップS847−1)から第L信号系列の信号処理(ステップS847−L)までの処理が行われ、処理を終了する(ステップS848−1〜S848−L)。
なお、ここでは簡単のために線形の受信ウエイトを用いる場合の例を示したが、一般にはMIMOに関してはMLD(Maximum Likelihood Detection)等の非線形の信号処理を行うようにしてもよい。この場合、ステップS845−1〜S845−L、ステップS846−1〜S846−L、及びステップS847−1〜S847−Lにおける処理は、一体として非線形の信号検出処理が行われることになる。また、線形の受信ウエイトの算出に関しては、図21に示した送信ウエイトの算出処理と同様の手法で算出することが可能である。その他にも、擬似逆行列を利用した受信ウエイトや、MMSEウエイトを利用することも可能である。また、ここでは、受信に用いるアンテナ素子851−1〜851−Kの数Kに対し、空間多重された信号系列数がLとして説明をしたが、一般的にはKとLとは一致する必要はなく、Lの値がKの値以下であれば多数の信号系列の信号を空間多重することができる。
[本発明の動作原理について]
本発明においては、高所に固定的に設置され且つ複数のアンテナ素子を備える基地局装置と、比較的高所に固定的に設置される多数の端末装置により構成されるシステムを想定し、基地局装置と端末装置のアンテナの間のチャネル情報は、時間的な変動は伴うものの、ある程度の時間相関が強いことを前提としている。ただし、この時間相関の条件が成り立つ状況、すなわちチャネル情報のフィードバック周期に対してチャネル情報の時間変動の速度が比較的遅ければ、端末装置は必ずしも高所に固定的に設置されている必要はなく、一般の端末装置においても適用は可能である。
図27は、本発明に係る無線通信システムが具備する基地局装置の設置例を示す図である。同図において、符号11は基地局装置が設置されている建築物を示し、符号12−1〜12−2は端末装置を示し、符号13−1〜13−4は基地局装置が備えているアンテナ素子を示し、符号14−1〜14−3は地上の移動体を示し、符号15−1〜15−2は大型の建築物(当然、静止状態)を示している。
ここで、基地局装置のアンテナ素子13−1〜13−4は、建築物11の屋上など非常に高所に設置されている。端末装置12−1〜12−2は、電信柱などの上や、一般のビルの屋上など、基地局装置のアンテナ素子13−1〜13−4よりは相対的に低所であるかも知れないが、比較的高所に設置されている。一方、基地局装置のアンテナ素子13−1〜13−4や、端末装置12−1〜12−2よりも比較的低所に位置する場所には、地上の移動体14−1〜14−3である車に加え、人や風に揺れる樹木など、ランダムに変動する反射波の起点(反射点)が多数存在する。
例えば、端末装置12−1と、基地局装置のアンテナ素子13−1〜13−4とは、見通し環境(図中、太い実線の矢印で直接波を表示)にある。一方、端末装置12−2と、基地局装置のアンテナ素子13−1〜13−4とは、大型の建築物15−2の遮蔽により見通し環境にはないが、大型の建築物15−1などの反射体があり、安定した反射波(図中、太い実線の矢印で表示)が到達している。また、見通し環境の端末装置12−1にとって、見通し波以外に大型の建築物による安定的な反射波が存在し、常にそれらが合成されて信号が到達する状況であるかもしれない。このような太い実線の矢印で表した信号を安定的な入射波とみなす。一方、地上の移動体14−1〜14−3等からの反射波は、多数回のランダムな多重反射として到達する信号が多く、相対的に受信される信号のレベルは低く、更に複素位相成分及び振幅は時間とともにランダムに変動する。
多数の微弱かつランダムな波を合成すると、その結果得られる信号は、安定的な入射波に対して相対的に信号強度が小さい。したがって、「安定的な入射波」に「ランダムな多重反射波」を合成して得られる「時変動する入射波」は、「安定的な入射波」の周りに微小な誤差が加わった信号と見ることができる。
次に、このような状況において、基地局装置が行う信号の合成について説明する。
図28は、本発明に係る基地局装置が行う信号合成の動作例を示す図である。ここでは、一例として、図27における端末装置12−1から送信された信号を、基地局装置のアンテナ素子13−1〜13−4にて受信した際に、適切な受信ウエイトを用いて合成する場合を示している。
基地局装置のアンテナ素子13−1〜13−4では、「時変動する入射波」を受信している。これらを合成する際に用いる受信ウエイトは、「安定的な入射波」を基準にして、各アンテナ素子での信号が同位相合成されるように定められている。図28において点線で示した信号は、「安定的な入射波」に対して受信ウエイトを乗算し、基地局装置のアンテナ素子13−1〜13−4で位相が同位相に揃えられた信号である。
実際の「時変動する入射波」に受信ウエイトを乗算した信号、即ち図28における細い実線で示した「時変動する入射波」は、点線で示した「安定的な入射波」から微小にずれているため厳密には各アンテナ素子で同位相合成とはなっていないが、「時変動する入射波」は「安定的な入射波」に近い振る舞いを示すため、多数のアンテナ素子の信号を「安定的な入射波」を基準にして設定した受信ウエイトを用いて合成すると、太い実線で示した大きな振幅の合成された信号となる。つまり、基地局装置で用いるアンテナ素子の数を膨大な数に増やせば、統計的な効果として各アンテナ素子の「安定的な入射波」成分は同位相合成され、「ランダムな多重反射波」は相互に打ち消しあうために、「安定的な入射波」に対して時変動成分は相対的に非常に小さなレベルに抑えられる。
ここで、図27及び図28の説明においては、あくまでも簡単のために基地局装置に4本のアンテナ素子を備える場合について説明を行ったが、以下に示すように、本発明では非常に多数のアンテナ素子を備えることで統計的な効果を得ることが可能になる。
ここで、基地局装置の備えるアンテナ素子数をK本とした場合、同位相合成される信号は振幅がK倍となり、受信電力はK2倍となる。つまり、ふたつの端末装置Aと端末装置Bとが存在した場合、端末装置Aが送信した信号に対して端末装置Aの同位相合成を実現する受信ウエイトを適用すると、受信電力は1本あたりの受信電力のK2倍となる。同時に端末装置Bが空間多重により信号送信をしていた場合、端末装置Bからの信号は、端末装置Aの同位相合成を実現する受信ウエイトを適用してもランダムな位相合成にしかならず、結果的に受信電力は1本あたりの受信電力のK倍にしかならない。仮にK=100とすれば、希望信号は10000倍、干渉信号は100倍となるため、相対的な電力差が100倍となり、20dBのSIRが実現できる。しかし、実際にはアンテナ素子数を多くするためには、そこに接続するRF回路やA/D変換器、及びD/A変換器、さらにはFFTなどのデジタル信号処理部をアンテナ素子数だけ揃える必要があるため、ビジネス的な採算性に制約されてアンテナ素子数を低めに抑えなければならない事態が予想される。この場合には、十分なSIR特性を確保できないため、ここにマルチユーザMIMOの場合と同様の相互の干渉信号を除去するためのヌル制御のための送受信ウエイトを適用する必要がある。
しかし、一方で基地局装置の複数のアンテナ素子と各端末装置の間のチャネル情報の時間変動は限定的であるために、同位相合成のための送受信ウエイト自体は大きな変化がない。そこで、アンテナ素子数をK本、空間多重数をL系統として、以下の処理を行うこととする。なお、一般的にはL<<Kの関係(Kに対してLが十分に小さい)が成り立つものとする。
まず、受信処理を例にとれば、実際の信号(通信データ)の送受信の前までに取得済みのチャネル情報に基づいて算出された、各端末装置からの信号を同位相合成するためのK次元のウエイトベクトルを、全てのアンテナ素子を介して受信したK系統の信号系列に乗算した後に加算合成する。このとき、K系統の信号系列に対するK次元のウエイトベクトルの乗算は、送信元の端末装置ごとに行われる。これにより、L系統の信号系列が生成される。これは、仮想的なL本のアンテナ素子で受信した信号に相当する信号系列を生成したことになる。
このウエイトベクトルは、最後に該当する端末装置から取得したチャネル情報を基に生成した同位相合成のためのウエイトベクトルであっても良いし、時間変動の影響を抑えることを考慮すれば、ある程度の期間で平均化したチャネル情報を基に生成したウエイトベクトルであっても構わない。
本発明においては、実際に空間多重される信号系統数よりも大幅に冗長なアンテナ素子に対して同位相合成を実施するための(送)受信ウエイトと、同位相合成を前提として空間多重される信号系統数に絞り込まれた相対的に小さな次元での後述する(送)受信ウエイトという、ふたつの意味の(送)受信ウエイトの概念が存在する。以降の説明では便宜上これらのふたつを区分けするために、多数のアンテナ素子に対して同位相合成を実施するための送受信ウエイトであり、一般的には時間的に平均化を行って得たチャネル情報を基に取得した(送)受信ウエイトを「平均化(送)受信ウエイトベクトル」として説明する。ただし、便宜上、「平均化」という用語を用いるが、本発明には必ずしも平均化処理は必須ではない。ここでの「平均化」の主なる意図としては、通常のMIMO伝送の信号処理では最新のチャネル情報を利用してリアルタイムで更新される送受信ウエイト行列を必要とするが、この平均化(送)受信ウエイトベクトルはそのリアルタイム性は要求されず、チャネルの時変動に伴う誤差を許容することが可能であることを意味する。このため一般的な実施形態としては、ランダムな微小変位を抑圧することを目的に、平均化された(送)受信ウエイトベクトルを利用することを想定している。
ここで平均化受信ウエイトベクトルは、端末装置ごとの利得を最大とするためのウエイトベクトルであるために、平均化受信ウエイトベクトルで規定される仮想アンテナ間には相互の干渉信号の漏れ込みが残されている。したがって、この漏れ込みに対応してL系統の信号系列と仮想アンテナの間の仮想的なチャネル情報はサイズL×Lの行列で表すことができる。ただし、希望信号は同位相合成で利得が高く、他の干渉信号はランダム位相合成で利得が低いために、L×Lの行列において対角成分と非対角成分の間には相対的には10Log10(K)[dB]程度の利得差が期待できる。つまり、L個のL次元チャネルベクトルは相互の相関が小さく、概ね直交関係にあるから、L×Lの正方行列は安定した逆行列をもつことになる。更にL<<Kであることから、この逆行列演算は比較的少ない演算量(L3のオーダー)で算出することが可能である。
仮にL=2であれば、逆行列の公式を用いれば、行列式の演算に2回の乗算を、更に4つの行列の成分を入れ替えたものを行列式で除算する際に4回の除算を、合計で6回の乗算(または除算も同様)で処理が完了する。これは、グラムシュミットの直交化や式(10−1)(10−2)、及び式(11−1)(11−2)のような形式での演算とは比較にならない演算量の削減である。この結果、事前に平均化受信ウエイトベクトルを乗算する処理を実施することで、信号受信時にリアルタイムでL系統の信号分離を行うための受信ウエイト行列を非常に簡易な処理にて取得することができる。これ以降においては、このリアルタイムでL系統の信号分離を行うための(送)受信ウエイト行列を「リアルタイム(送)受信ウエイト行列」と呼び、先に説明した平均化(送)受信ウエイトベクトルとは区別しておく。
なお、このリアルタイム受信ウエイト行列の算出は、例えば以下のような処理により取得可能である。まず、平均化受信ウエイトベクトルを乗算後に取得されるL×Lの仮想的なチャネル行列をHvとする。この行列は正方行列であるから、最も単純なZF(Zero-Forcing)型の信号処理の場合には、リアルタイム受信ウエイト行列WRは以下の式で与えられる。
また、雑音を考慮したMMSE型の処理の場合には、リアルタイム受信ウエイト行列WRは以下の式で与えても良い。
式(13)において、σ2は雑音電力、行列IはL×Lのサイズの単位行列を表す。
以上が受信側における処理であるが、この処理は送信の場合にも同様に適用可能である。具体的には、適切な平均化受信ウエイトベクトル及び平均化送信ウエイトベクトルが適用されるならば、これらのウエイトの中にアップリンクにおける受信側のローノイズアンプの受信特性及びダウンリンクにおける送信側のハイパワーアンプの送信特性に起因したアップリンクとダウンリンクの間の非対称性を補償するための後述するキャリブレーション係数が含まれており、このアップリンクとダウンリンクの非対称性はキャンセルされるはずである。したがって、仮想的アンテナを想定した場合の仮想的チャネルの特性を示すリアルタイムの仮想的チャネル行列はアップリンクとダウンリンクは対称となり、それぞれがお互いの行列を転置した関係になっている。つまり、ダウンリンクの仮想的チャネル行列H(DL)は、アップリンクの仮想的チャネル行列Hvを転置した{Hv}Tに一致する。したがって、送信時に用いるリアルタイム送信ウエイト行列は次式(14)で与えられる。
同様に、式(13)に対応するリアルタイム送信ウエイト行列WTは次式(15)のように変形できる。
つまり、式(12)ないし式(13)のいずれの形式を用いてリアルタイム受信ウエイト行列WRを得る場合においても、対応するリアルタイム送信ウエイト行列WTはリアルタイム受信ウエイト行列WRを転置することで得ることができる。
したがって、上述のように受信の際に生成した受信ウエイト行列を、その際に空間多重で組み合わせた端末装置の組み合わせとともに記憶しておけば、同一の組み合わせの端末装置へ空間多重して送信する際には、その組み合わせに対する直近のリアルタイム受信ウエイト行列を転置したものを、リアルタイム送信ウエイト行列とみなして利用することで同様の効果を得ることができる。
このように、送信側及び受信側双方において、送受信ウエイトの乗算を2段階に分けて行い、その内の一方はチャネル時変動による誤差を許容した平均化送受信ウエイトベクトルを用い、チャネル時変動に追従する干渉抑圧のための行列演算は空間多重するL系統の信号系列に対してL×Lのサイズのリアルタイム送受信ウエイト行列の演算で済ませることができる。
なお、以下には本発明の実施形態についての説明をする前に本発明の関連技術としてキャリブレーション処理について説明を加えておく。
[アンプの個体差による影響(キャリブレーション)について]
実際の無線通信装置では、送信側の信号処理において、送信の直前にハイパワーアンプにて信号増幅を行うことが多い。この場合、ハイパワーアンプの個体差により増幅率に誤差があるとともに、ハイパワーアンプ内で複素位相がハイパワーアンプごとに異なる値で回転する場合がある。同様に、受信側の信号処理において、受信の直後にローノイズアンプにて信号増幅を行うことが多い。この場合、ローノイズアンプの個体差により増幅率に誤差があるとともに、ローノイズアンプ内で複素位相がローノイズアンプごとに異なる値で回転する場合がある。
特に、ハイパワーアンプ及びローノイズアンプの増幅率及び位相回転量には、周波数依存性がある。周波数依存性を伴う増幅率及び複素位相の回転量の個体差が無視できないほどに大きい場合には、アップリンクのチャネル情報からダウンリンクのチャネル情報を推定する際に、キャリブレーション処理を施す必要がある。この増幅率及び位相回転量の誤差は時間的にはほぼ安定しているため、増幅率及び位相回転量の誤差を事前に測定しておき、誤差の影響をキャンセルするための係数を用いてアップリンクのチャネル情報からダウンリンクのチャネル情報に換算する。
以下の関連技術における無線通信装置では、アップリンクのチャネル推定結果を用いて、平均化送信ウエイトベクトル及び平均化受信ウエイトベクトルを算出する。先の説明においても、実際にはハイパワーアンプやローノイズアンプ(厳密にはその他のフィルタ等の回路を含めた送信系及び受信系の回路等)により、振幅や複素位相が変化する場合がある。この場合、振幅や複素位相の変化に応じた補正をするためのキャリブレーション係数を事前に取得しておき、これを補正に用いると説明した。キャリブレーション処理は、公知の技術を用いても構わないが、以下にキャリブレーション処理の一例を説明する。
図29は、アップリンクとダウンリンクとのチャネル情報の非対称性を示す図である。同図において、符号25−1〜25−3は無線モジュールを示し、符号21−1〜21−3はハイパワーアンプ(HPA)を示し、符号22−1〜22−3はローノイズアンプ(LNA)を示し、符号23−1〜23−3は時分割スイッチ(TDD−SW)を示し、符号24−1〜24−3はアンテナ素子を示している。
ここでは、無線通信装置においてチャネル情報に影響を与える機能のみを抽出したため、図示した以外の構成は省略したが、無線モジュール25−1〜25−3にはその他の機能も含まれる。また、信号がハイパワーアンプ21−1〜21−3それぞれを通過する際に、振幅及び複素位相がZHPA#1(fk)、ZHPA#2(fk)、ZHPA#3(fk)に応じて変化するものとする。また、信号がローノイズアンプ22−1〜22−3それぞれを通過する際に、振幅及び複素位相がZLNA#1(fk)、ZLNA#2(fk)、ZLNA#3(fk)に応じて変化するものとする。ここでは一般的な条件として周波数依存性があるものとし、第k周波数成分に対する周波数「(fk)」の表記を行っている。
ここで、例えば、無線モジュール25−1及び無線モジュール25−2から試験用の無線モジュール25−3に信号を送信する場合のチャネル情報について説明する。ここでは、無線モジュール25−1のアンテナ素子24−1と、無線モジュール25−3のアンテナ素子24−3との間の空間上のチャネル情報がh1(fk)で表されている。また、無線モジュール25−2のアンテナ素子24−2と無線モジュール25−3のアンテナ素子24−3との間の空間上のチャネル情報がh2(fk)で表されている。
このとき、実際に無線モジュール25−1から無線モジュール25−3に信号を送信する際のチャネル情報は、空間上のh1(fk)にハイパワーアンプ21−1の通過に伴う変化を示す係数ZHPA#1(fk)、及びローノイズアンプ22−3の通過に伴う変化を示す係数ZLNA#3(fk)が乗算された値として観測される。
同様に、無線モジュール25−2から無線モジュール25−3に信号を送信する際のチャネル情報は、空間上のh2(fk)にハイパワーアンプ21−2の通過に伴う変化を示す係数ZHPA#2(fk)、及びローノイズアンプ22−3の通過に伴う変化を示す係数ZLNA#3(fk)が乗算された値として観測される。
したがって、無線モジュール25−1から無線モジュール25−3へのチャネルは、ZHPA#1(fk)・h1(fk)・ZLNA#3(fk)で表される。また、無線モジュール25−2から無線モジュール25−3へのチャネルは、ZHPA#2(fk)・h2(fk)・ZLNA#3(fk)で表される。このため、無線モジュール25−1と無線モジュール25−2との間では、チャネル情報h1(fk)とh2(fk)の差に加えて、相対的にZHPA#2(fk)/ZHPA#1(fk)の差が発生する。
この状況は受信側においても同様であり、無線モジュール25−3から送信された信号を無線モジュール25−1にて受信する場合、チャネル情報は空間上のh1(fk)にハイパワーアンプ21−3の通過に伴う変化を示す係数ZHPA#3(fk)と、ローノイズアンプ22−1の通過にともなる変化を示す係数ZLNA#1(fk)とが乗算された値として観測される。
同様に、無線モジュール25−3から送信された信号を無線モジュール25−2にて受信する場合、チャネル情報は空間上のh2(fk)にハイパワーアンプ21−3の通過に伴う変化を示す係数ZHPA#3(fk)と、ローノイズアンプ22−2の通過に伴う変化を示す係数ZLNA#2(fk)とが乗算された値として観測される。
したがって、無線モジュール25−3から無線モジュール25−1へのチャネルは、ZHPA#3(fk)・h1(fk)・ZLNA#1(fk)で表される。また、無線モジュール25−3から無線モジュール25−2へのチャネルは、ZHPA#3(fk)・h2(fk)・ZLNA#2(fk)で表される。このため、無線モジュール25−1と無線モジュール25−2との間では、チャネル情報h1(fk)とh2(fk)の差に加えて、相対的にZLNA#2(fk)/ZLNA#1(fk)の差が発生する。
上述したように、関連技術における無線通信装置は、受信したトレーニング信号に対して長時間平均をとることにより、各アンテナ素子に接続されているローノイズアンプ22−1〜22−3による変化を含むチャネル情報をアップリンクにて取得可能である。
しかし、無線通信装置はダウンリンクにおけるチャネル情報を直接求めることができない。そこで、アップリンクのチャネル情報から換算することで、ダウンリンクのチャネル情報を取得する。この換算のためには、各アンテナ素子24−1〜24−3に接続されているローノイズアンプ22−1〜22−3及びハイパワーアンプ21−1〜21−3の個体差の影響をキャンセルする必要がある。
そこで、無線通信装置の製造段階において、リファレンスとなる試験用の無線モジュール25−3を用意し、試験用の無線モジュール25−3のアンテナ端子と、無線モジュール25−1、25−2のアンテナ端子とを直接ケーブルで接続し、伝搬路上のチャネル情報が共通の値となる環境で、ハイパワーアンプ21−1〜21−3及びローノイズアンプ22−1〜22−3による変化を含むチャネル情報を測定し、測定したチャネル情報を用いて補正を行う。
図30は、キャリブレーションの概要を示す図である。同図において、符号26−1〜26−3はアンテナ端子を示し、符号27は同軸ケーブルを示している。なお、図29に示した機能部と同じ機能部には同じ符号を付している。
図30(A)は、無線モジュール25−3と無線モジュール25−1とを同軸ケーブルで接続した構成を示している。図30(B)は、無線モジュール25−3と無線モジュール25−2とを同軸ケーブルで接続した構成を示している。図29が実際の空間上を信号が伝搬した状態を示しているのに対して、図30がアンテナ素子を介さずに同軸ケーブル上を信号が伝搬した状態を示している。
無線モジュール25−1、25−2と、無線モジュール25−3とを接続する伝搬路としての同軸ケーブル27のチャネル情報は、h0(fk)である。
このとき、無線モジュール25−1から無線モジュール25−3へのチャネル情報は、ZHPA#1(fk)・h0(fk)・ZLNA#3(fk)で表される。無線モジュール25−2から無線モジュール25−3へのチャネル情報は、ZHPA#2(fk)・h0(fk)・ZLNA#3(fk)で表される。
また、無線モジュール25−3から無線モジュール25−1へのチャネル情報は、ZHPA#3(fk)・h0(fk)・ZLNA#1(fk)で表され、無線モジュール25−3から無線モジュール25−2へのチャネル情報は、ZHPA#3(fk)・h0(fk)・ZLNA#2(fk)で表される。
そこで、これらのチャネル情報を測定した後に、次式(16)及び式(17)で表されるキャリブレーション係数C1(fk)、C2(fk)を算出しておく。
先ほど、無線モジュール25−3から無線モジュール25−1へのチャネル情報はZHPA#3(fk)・h1(fk)・ZLNA#1(fk)で表され、無線モジュール25−3から無線モジュール25−2へのチャネル情報はZHPA#3・(fk)・h2(fk)・ZLNA#2(fk)で表されると説明した。これらに式(16)及び式(17)のキャリブレーション係数C1(fk)、C2(fk)を乗算すると次式(18)及び式(19)が得られる。
式(18)及び式(19)の右辺は、先ほど説明した、無線モジュール25−1から無線モジュール25−3へのチャネル情報、及び、無線モジュール25−2から無線モジュール25−3へのチャネル情報に一致している。
このように、式(16)及び式(17)に相当するキャリブレーション係数を無線通信装置の製造段階において取得しておき、これらを無線通信装置内に記憶しておくことにより、これらのキャリブレーション係数を用いてアップリンクのチャネル情報からダウンリンクのチャネル情報を算出することができる。
なお、以下の実施形態では、これらのキャリブレーション係数を予め取得し、その値をデジタル信号処理上で利用する場合の説明を中心に行うが、当然ながらアナログ回路上において、これらのキャリブレーション係数が全てほぼ一定の値(複素位相が一定値であれば、絶対値そのものには差があっても構わない)となるように無線通信装置内で調整を行っていれば、全てのキャリブレーション係数が1であるとみなした処理に読み替えることも可能である。同様に、アップリンクとダウンリンクの複素位相が一定値となるように調整されている場合にも、結果的に式(16)及び式(17)で示されるキャリブレーション係数の複素位相が全てのアンテナ素子でほぼ一定値になるため、同様の効果を得ることができる。
[本発明の具体的な実施形態]
以下、図1から図19を参照して、本発明に係る具体的な実施形態を図を用いて説明する。
(一実施形態における基地局装置の構成)
図1は、本発明に係る一実施形態における基地局装置10の構成を示す概略ブロック図である。同図に示すように、基地局装置10は、受信部100、送信部140、平均化送受信ウエイト算出部120、リアルタイム送信ウエイト行列記憶部130、インタフェース回路170、MAC層処理回路180、通信制御回路110、及び、記憶回路115を備えている。MAC層処理回路180はスケジューリング処理回路181を有している。
基地局装置10は、インタフェース回路170を介して、外部機器ないしはネットワークとのデータの入出力を行う。インタフェース回路170は、入力されるデータのうち、無線回線上で転送すべきデータを検出し、検出したデータをMAC層処理回路180に出力する。MAC層処理回路180は、基地局装置10全体の動作の管理制御を行う通信制御回路110の指示に従い、MAC層に関する処理を行う。ここで、MAC層に関する処理には、インタフェース回路170で入出力されるデータ、及び、無線回線上で送受信されるデータに対するフォーマット等の変換や、MAC層のヘッダ情報の付与などが含まれる。この処理の中で、スケジューリング処理回路181は、同時に空間多重を行う端末装置の組み合わせを含む各種スケジューリング処理を行う。スケジューリング処理回路181は、スケジューリング結果を通信制御回路110に出力する。
空間多重伝送では、送信時には複数の端末装置宛に一度に信号を送信するため、複数系統の信号系列がMAC層処理回路180から送信部140に出力される。また、受信の際には複数の端末装置から送信された複数系統の信号系列が受信部100からMAC層処理回路180に出力される。平均化送受信ウエイト算出部120は、受信部100と送信部140とが空間多重してデータを送受信する際に用いる平均化受信ウエイトベクトル及び平均化送信ウエイトベクトルを管理する。リアルタイム送信ウエイト行列記憶部130は、送信部140が空間多重してデータを送信する際に用いるリアルタイム送信ウエイト行列を記憶・管理する。
記憶回路115は、無線通信システムにおいて各端末装置の様々な情報など(例えば、SNR情報、時変動の程度の情報や最適伝送モードなどに関する情報など)を予め記憶している。記憶回路115が記憶している端末装置のSNR情報や最適伝送モードなどの情報は、スケジューリング実施時において用いられる。なお、この記憶回路115は、本実施形態及びその関連技術の双方において、必ずしも必要ではなく、場合によっては省略する構成とすることも可能である。
以下、基地局装置10における受信(アップリンク)に係る構成(受信部100)と、送信(ダウンリンク)に係る構成(送信部140)とに分けて説明する。
(本実施形態における基地局装置の受信部の構成)
図2は、本実施形態における基地局装置10が備える受信部100の構成の一例を示す概略ブロック図である。同図に示すように、受信部100は、アンテナ素子101−1〜101−K、TDDスイッチ102−1〜102−K、ローノイズアンプ(LNA)103−1〜103−K、ローカル発振器104、ミキサ105−1〜105−K、フィルタ106−1〜106−K、A/D変換器107−1〜107−K、FFT回路108−1〜108−K、第1受信信号処理回路191−1〜191−L、及び、第2受信信号処理回路192を備えている。
第2受信信号処理回路192と、TDDスイッチ102−1〜102−Kとは、図1に示した通信制御回路110に接続されている。また、FFT回路108−1〜108−Kと、第1受信信号処理回路191−1〜191−Lは、図1に示した平均化送受信ウエイト算出部120と接続されている。また、第2受信信号処理回路192は、図1に示したリアルタイム送信ウエイト行列記憶部130と接続されている。なお、アンテナ素子101−1〜101−Kは、図27における基地局装置のアンテナ素子13−1〜13−4に対応する。また、本実施形態ではTDD方式を前提として説明を行うが、原理的にはFDD方式にも拡張可能である。
本実施形態の基地局装置10には、K個のアンテナ素子101−1〜101−Kそれぞれに対応する、TDDスイッチ102−1〜102−KからA/D変換器107−1〜107−Kまでの回路が並列に設けられている。A/D変換器107−1〜107−Kの出力にFFT回路108−1〜108−Kが接続されている。また、アップリンクのチャネル情報からダウンリンクのチャネル情報を推定するために、送受信で同一のアンテナ素子101−1〜101−Kを用いている。TDDスイッチ102−1〜102−Kが送信信号と受信信号との流れを切り替えている。
TDDスイッチ102−1〜102−Kは、アンテナ素子101−1〜102−Kを介して受信した信号をローノイズアンプ103−1〜103−Kに出力する。ローノイズアンプ103−1〜103−Kは、TDDスイッチ102−1〜102−Kから出力される信号を増幅して、ミキサ105−1〜105−Kに出力する。ローカル発振器104は、予め定められた周波数を有する局部発振信号を生成し、生成した局部発振信号を各ミキサ105−1〜105−Kに出力する。ここで、各ミキサ105−1〜105−Kに入力される局部発振信号は同一の信号であり、周波数及び位相がそろった局部発振信号が各ミキサ105−1〜105−Kに入力される。
ミキサ105−1〜105−Kは、ローノイズアンプ103−1〜103−Kから入力された信号に対し、ローカル発振器104から入力される局部発振信号を乗算してダウンコンバートしてフィルタ106−1〜106−Kに出力する。フィルタ106−1〜106−Kは、ミキサ105−1〜105−Kがダウンコンバートした信号に含まれる受信すべきチャネルの帯域外の信号を除去し、A/D変換器107−1〜107−Kに出力する。A/D変換器107−1〜107−Kは、フィルタ106−1〜106−Kから入力されるベースバンド信号をデジタル化する。
FFT回路108−1〜108−Kは、A/D変換器107−1〜107−Kから入力されると、当該デジタル・ベースバンド信号を周波数成分ごとの信号に分離する。この際、FFT回路108−1〜108−Kは、各周波数成分の信号に対して、OFDMシンボル(ないしはブロック伝送のブロック)ごとにガードインターバルを除去し、残りのサンプリングデータに対してFFT処理を施し、時間軸上の信号を周波数軸上の信号に変換し、当該信号を第1受信信号処理回路191−1〜191−Lに出力する。更に、FFT回路108−1〜108−Kは、当該信号を平均化送受信ウエイト算出部120にも出力する。
平均化送受信ウエイト算出部120では、FFT回路108−1〜108−Kから入力されるデジタル・ベースバンド信号がトレーニング信号に対応するタイミングであるか否かの指示を、通信制御回路110より受けて、トレーニング信号であれば通信制御回路110から指示された端末装置との平均化送受信ウエイトベクトルの取得、平均化、記憶等の処理を行う。チャネル推定用のトレーニング信号の詳細については後述する。なお、以下に示す第1受信信号処理回路191−1〜191−L及び第2受信信号処理回路192における処理は、全て周波数成分ごとに個別に算出、処理、記録、管理されるものである。
第1受信信号処理回路191−1〜191−Lは、それぞれが、空間多重を用いて信号を送信する端末装置ないしは空間多重された信号系列に対応付けられている。第1受信信号処理回路191−1〜191−Lは、L<<KとなるK本のアンテナに対応する受信信号から、L系統に対応する端末装置ごとの信号を算出する。
具体的には、第1受信信号処理回路191−1〜191−Lは、それぞれに割り当てられた送信元の端末装置に対応する平均化受信ウエイトベクトルを平均化送受信ウエイト算出部120から入力する。第1受信信号処理回路191−1〜191−Lは、入力した平均化受信ウエイトベクトルを、FFT回路108−1〜108−Kにて各周波数成分に分離された信号に対して周波数成分ごとに乗算する。第1受信信号処理回路191−1〜191−Lは、アンテナ素子101−1〜101−Kそれぞれに対応する信号であって乗算により得られた信号を加算合成し、加算合成により得られた信号を第2受信信号処理回路192に出力する。
ただし、第1受信信号処理回路191−1〜191−Lそれぞれが算出する信号系列は、相互の干渉信号を完全に抑圧できた状態ではなく、相互の残留干渉が残った状態であるため、第2受信信号処理回路192では信号分離のための更なる信号処理を施し、残留干渉を十分に抑圧した状態で信号検出処理を行う。
第2受信信号処理回路192では、第1受信信号処理回路191−1〜191−Lから入力される信号の先頭部分に配置されたトレーニング信号の受信タイミングを通信制御回路110からの指示で把握する。第2受信信号処理回路192は、このトレーニング信号を用いて、加算合成後のL系統の信号系列に関する各周波数成分のチャネル情報を取得する。平均化受信ウエイトベクトルを用いて生成されるL系統の信号系列のそれぞれは、平均化受信ウエイトベクトルに対応した仮想的な1本のアンテナで受信される信号系列に相当する。つまり、L局の端末装置のアンテナと仮想的なL本のアンテナ間のチャネル情報を取得することで、L×Lのサイズの各周波数成分のチャネル行列が取得可能であり、アンテナの本数Kに対して比較的小さなサイズの行列を用いることで信号分離が可能となる。
第2受信信号処理回路192における信号分離の処理としては、式(12)を用いるZF型の逆行列であったり、同様に式(13)を用いるMMSE型の信号処理であったり、ないしは非線形なMLD(Maximum Likelihood Detection)などの信号処理であっても構わない。以下では簡単のため、ZF型の逆行列を用いる場合について説明を行う。
まず、第2受信信号処理回路192は、各周波数成分において式(12)によりL×Lの正方行列の逆行列を求め、これをリアルタイム受信ウエイト行列として用いる。第2受信信号処理回路192は、トレーニング信号に後続する各周波数成分のL系統の信号系列(L個の成分をもつL次元ベクトルとして処理する)に対して逆行列を乗算して信号分離を行う。第2受信信号処理回路192は、分離された各系統の信号系列に対して信号検出処理を行い、得られたデータ出力#1〜#LをMAC層処理回路180に出力する。
なお、式(12)などを用いて得られたリアルタイム受信ウエイト行列は、送信処理におけるリアルタイム送信ウエイト行列としても利用可能であることから、これをリアルタイム送信ウエイト行列記憶部130に出力し、これを記録しておく。なお、この際には同時に空間多重された端末装置の組み合わせ情報も合わせて記録しておく。
第2受信信号処理回路192が行う信号検出処理は、具体的にはOFDM(A)変調方式が用いられている場合にはサブキャリアごとの復調処理を行い、SC−FDEが用いられている場合には周波数軸上での信号等化処理を施し、その信号をIFFT処理で合成した信号に対する復調処理を行う。この復調処理では、適用された変調方式に対応したコンスタレーションを基に硬判定処理ないしは軟判定処理により仮の信号検出を行い、更に、必要に応じて誤り訂正の復号処理を施し、データを出力する。
MAC層処理回路180におけるMAC層上での信号処理などは、公知の技術を用いた処理と同じであり、ここでは説明を省略する。
以上の処理において第1受信信号処理回路191−1〜191−Lが信号処理を行う際、送信元の端末装置ごとに異なる平均化受信ウエイトベクトルを用いる必要がある。通信制御回路110は、一連の通信に係る制御全般を管理するが、特に、どのタイミングでどの端末装置からの信号を受信するか、どの平均化受信ウエイトベクトルを用いるのかを管理する。そのため、本実施形態における基地局装置10と端末装置との間のアクセス制御は、基本的には基地局装置10が集中制御して管理している。
なお、補足であるが、通信制御回路110は、自装置(基地局装置10)と端末装置との間のタイミングの同期に関して、GPS等を用いた絶対的な時刻・タイミングの同期を用いるようにしてもよい。また、絶対的な時刻の同期の他にも、基地局装置10と端末装置との間の大まかな距離が分かっていれば、その距離に相当する伝搬遅延を端末装置に事前に設定しておき、端末装置は、基地局装置10のタイミングの基準となる信号の受信時刻に対し、所定のオフセットとして伝搬遅延を減算した時間にアップリンクの信号を送信開始するようにしてもよい。
具体的には、時分割多元接続(Time Division Multiple Access:TDMA)を用いたアクセス制御の例を用いれば、端末装置は、TDMAフレーム先頭のプリアンブル等のタイミング検出により得られるフレームタイミングを基準とし、フレーム内のスロット割り当ての内容を把握して通信の動作を行う。通常であれば、アップリンクのタイムスロットのタイミングで信号を送信するが、いわゆるタイム・アライメントと呼ばれる制御では、伝搬遅延を見込んでその遅延分だけ端末が自らの認識しているタイミングに対して先行した時間のタイミングで信号の送信を開始し、結果的に基地局装置10にその信号が到着する時刻を、基地局装置10が認識しているタイミング通りになるように調整する。
この際に必要となる調整量は、実際の信号は基地局装置10から端末装置、更に基地局装置10へと往復することになるため、端末装置は伝搬遅延の2倍の時間だけ前倒しで送信を開始することになる。なお、このタイミングの調整は必ずしも端末装置で行わなくてもよく、基地局装置10が自装置と端末装置との距離ないしはその距離に相当する伝搬遅延を把握することができれば、基地局装置10において信号が受信される時刻をその時間分(伝搬遅延の2倍)だけ後ろ倒しに調整することで、タイミング調整を行うことも可能である。ないしは、直接的に基地局装置から端末装置に対し、その時間分だけ前倒しした時間を送信タイミングであると指示を行ってもよい。
このように、GPSを用いた絶対時刻の同期ないしはタイム・アライメント制御等のいずれかの手段で把握したタイミングで基地局装置10は受信処理を開始し、シンボルタイミングも既知として処理を行うことが可能である。これらのタイミング制御、アクセス制御、TDDスイッチ102−1〜102−Kの切り替え、受信ウエイトを読み出すときにおける送信元である端末装置情報の提供など、これらを合わせて全て通信制御回路110が制御・管理を行う。
次に、本実施形態における基地局装置10が備える平均化送受信ウエイト算出部120の構成について説明する。
図3は、本実施形態における平均化送受信ウエイト算出部120の構成例を示す概略ブロック図である。同図に示すように、平均化送受信ウエイト算出部120は、チャネル情報平均化回路121、受信ウエイト算出回路122、受信ウエイト記憶回路123、キャリブレーション係数記憶回路124、キャリブレーション回路125、送信ウエイト算出回路126、及び、送信ウエイト記憶回路127を有している。以下に示す説明におけるチャネル情報、平均化送受信ウエイトベクトル、キャリブレーション係数等は、全て周波数成分ごとに異なるものであり、それらは周波数成分ごとに個別に算出、処理、記録、管理されるものである。
チャネル情報平均化回路121は、通信制御回路110の指示に従い、FFT回路108−1〜108−Kから入力される信号に対してトレーニング信号の平均化処理を行う。チャネル情報平均化回路121は、端末装置ごとに、端末装置とアンテナ素子101−1〜101−Kそれぞれとの間のアップリンクの平均化されたチャネル情報を周波数成分ごとに取得する。ここでの平均化とは、図27に示す利用形態を想定すれば、見通し波ないしは巨大構造物からの安定的な反射波などの時変動のないチャネル情報成分の抽出を意図しているが、必ずしも長時間に亘る平均化である必要はなく、最後に取得したチャネル情報をそのまま用いても構わない。この場合には実質的には平均化を行っていないことになるが、説明の都合上、その場合も1回の測定値を平均化したものとみなして「平均化」という言葉を用いて説明を行う。また、この平均化の詳細については後述する。
チャネル情報平均化回路121は、端末装置ごとに、離散的な時刻に取得された複数回分のアンテナ素子101−1〜101−Kそれぞれに対するチャネル情報から、アンテナ素子101−1〜101−Kそれぞれに対するチャネル情報の平均値を算出し、算出した平均値をチャネル情報として出力する。
受信ウエイト算出回路122は、チャネル情報平均化回路121が出力したチャネル情報に基づいて、端末装置ごとにアンテナ素子と周波数成分の各組み合わせに対応する平均化受信ウエイトを算出し、算出した平均化受信ウエイトを受信ウエイト記憶回路123に出力する。受信ウエイト記憶回路123は、受信ウエイト算出回路122が出力した平均化受信ウエイトと、端末装置、アンテナ素子及び周波数の組み合わせとを対応付けて記憶する。
キャリブレーション係数記憶回路124には、アンテナ素子101−1〜101−Kそれぞれに対応した各周波数成分のキャリブレーション係数が予め記憶されている。このキャリブレーション係数は、アップリンクのチャネル情報からダウンリンクのチャネル情報を算出する際に用いる係数である。キャリブレーション回路125は、チャネル情報平均化回路121が出力したチャネル情報に対して、キャリブレーション係数記憶回路124に記憶されているキャリブレーション係数を乗算することにより、ダウンリンクのチャネル情報を取得する。
送信ウエイト算出回路126は、キャリブレーション回路125が取得したダウンリンクのチャネル情報に基づいて、端末装置ごとにアンテナ素子101−1〜101−Kと周波数成分との各組み合わせに対応する平均化送信ウエイトを算出し、算出した平均化送信ウエイトを送信ウエイト記憶回路127に出力する。送信ウエイト記憶回路127は、送信ウエイト算出回路126が出力した平均化送信ウエイトと、端末装置、アンテナ素子及び周波数の組み合わせとを対応付けて記憶する。なお、送信ウエイト記憶回路127は、基地局装置10が備えるアップリンクに係る構成の一部にもなっている。
平均化送受信ウエイト算出部120における各回路によるチャネル情報の推定に関する一連の処理、及びそれに後続する平均化送受信ウエイトの算出とその記憶などは、全て周波数成分ごとに行われる。
次に、第1受信信号処理回路191−1〜191−L、及び第2受信信号処理回路192の詳細について説明する。
図2に示したように、受信部100にはL面の第1受信信号処理回路191−1〜191−Lが含まれており、ここではそのうちの1面(便宜上、第j(1≦j≦L)面とする)に着目して説明を行う。図4は、本実施形態における第1受信信号処理回路191−jの構成例を示す概略ブロック図である。第1受信信号処理回路191−jは、乗算器201−1〜201−K、加算器202、及び、平均化受信ウエイトベクトル成分分配器203を有している。
平均化受信ウエイトベクトル成分分配器203は、図1において示した平均化送受信ウエイト算出部120に接続されている。平均化受信ウエイトベクトル成分分配器203は、平均化送受信ウエイト算出部120より入力されるK次元のベクトル形式の各周波数成分の平均化受信ウエイトベクトルをK個の各成分に分け、それぞれの成分を対応する乗算器201−1〜201−Kに入力する。乗算器201−1〜201−Kは、それぞれが対応するFFT回路108−1〜108−Kと接続されており、FFT回路108−1〜108−Kから各周波数成分に対する受信信号#1〜#Kを入力する。乗算器201−1〜201−Kは、平均化受信ウエイトベクトルの成分と、受信信号とを周波数成分ごとに乗算し、乗算結果を加算器202に出力する。加算器202は、各乗算器201−1〜201−Kから入力される信号をシンボル単位で周波数成分ごとに加算合成し、その結果を中間信号#jとして第2受信信号処理回路192に出力する。図2に示したように、第1受信信号処理回路191−j(1≦j≦L)それぞれからの信号であるL系統の信号系列は、後続する第2受信信号処理回路192に入力される。なお、上述したとおり以上の処理は全ての周波数成分に対して同様に実施される。
図5は、本実施形態における第2受信信号処理回路192の構成例を示す概略ブロック図である。第2受信信号処理回路192は、同図に示すように、リアルタイム送受信ウエイト算出部204、行列乗算部205、及び、信号検出回路206−1〜206−Lを有している。
リアルタイム送受信ウエイト算出部204は、図2に示したリアルタイム送信ウエイト行列記憶部130及び第1受信信号処理回路191−1〜191−Lに接続されている。行列乗算部205は、第1受信信号処理回路191−1〜191−Lと接続されている。信号検出回路206−1〜206−Lは、図2において示したMAC層処理回路180と接続されている。また、第2受信信号処理回路192は通信制御回路110とも接続されており、通信に関する様々なタイミングや制御情報が通信制御回路110から入力される。
リアルタイム送受信ウエイト算出部204及び行列乗算部205には、第1受信信号処理回路191−1〜191−LからL系統の信号系列(中間信号#1〜中間信号#L)が入力される。通信制御回路110からの指示において、各中間信号の先頭部がチャネル推定のためのトレーニング信号であると判断されるとき、リアルタイム送受信ウエイト算出部204は、中間信号に含まれるトレーニング信号に基づいて周波数成分ごとのチャネル推定を行い、周波数成分ごとにL×Lのチャネル行列を取得する。リアルタイム送受信ウエイト算出部204は、取得したチャネル行列を基に式(12)又は式(13)によりリアルタイム受信ウエイト行列WRを算出し、算出したリアルタイム受信ウエイト行列WRを行列乗算部205に入力する。算出された各周波数成分のリアルタイム受信ウエイト行列WRは、その対称性によりリアルタイム送信ウエイト行列WTとして利用できるため、リアルタイム送受信ウエイト算出部204はリアルタイム受信ウエイト行列WR及び空間多重する端末装置の組み合わせをリアルタイム送信ウエイト行列記憶部130に出力して記憶させる。
行列乗算部205は、第1受信信号処理回路191−1〜191−Lから入力される中間信号#1〜#Lのうちトレーニング信号に後続する信号の各周波数成分を、L次元のベクトルとして扱う。行列乗算部205は、リアルタイム送受信ウエイト算出部204から入力されるリアルタイム受信ウエイト行列WRと、L次元のベクトルとを周波数成分ごとに乗算する。これにより、中間信号#1〜#L間における相互干渉が抑圧される。行列乗算部205は、乗算により相互干渉が抑圧された中間信号#1〜#Lを信号検出回路206−1〜206−Lに入力する。
信号検出回路206−1〜206−Lは、それぞれ個別に信号検出処理を行い、再生されたビット列をデータ出力#1〜#LとしてMAC層処理回路180へ出力する。ここでの具体的な信号処理は、OFDM(A)変調方式が用いられている場合にはサブキャリアごとの復調処理を行い、SC−FDEが用いられている場合には周波数軸上での信号等化処理を施し、その信号をIFFT処理で合成した信号に対する復調処理である。
(本実施形態の受信処理について)
図6は、本実施形態における基地局装置10が行う受信処理を示すフローチャートである。端末装置が送信する信号は、本実施形態における基地局装置10が実施する各種信号処理を意識することなく、通常のマルチユーザMIMOを用いた通信における信号として送信される。ここでは、同時に空間多重する端末装置の選択方法、即ちスケジューリング方法の詳細は省略するが、MAC層処理回路180は公知の技術を用いて、空間多重してデータを伝送する端末装置を選択する。
基地局装置10において、受信処理が開始されると(ステップS101)、通信制御回路110は、空間多重してデータを伝送する端末装置の組み合わせを選択し(ステップS102)、アップリンクに関するスケジューリング内容を選択された端末装置に対して通知する(ステップS103)。ここでの通知方法は、例えばTDMAフレームを用いた基地局集中制御を採用するWiMAX(登録商標)のようなシステムであれば、フレーム先頭部分におけるUL−MAP(アップリンクの割り当てマップ)にて、割り当てのあるサブキャリア番号やタイムスロット(OFDMシンボル位置)、さらには継続する時間(OFDMシンボル数)などを通知する。もちろん、他の方法で割り当てを端末装置に通知してもよいし、アクセス制御の方法次第ではスケジューリング処理及び端末装置に通知する処理を省略することも可能である。
ステップS103の処理に応じて、第1受信信号処理回路191−1〜191−Lは、送信元の端末装置に対応する平均化受信ウエイトベクトルのうち、自回路に割り当てられる端末装置に対応し各アンテナ素子101−1〜101−Kそれぞれの各周波数成分に対する平均化受信ウエイトベクトルを受信ウエイト記憶回路123から読み出しを行う(ステップS106)。
これと並行して、ローノイズアンプ103−1〜103−KからA/D変換器107−1〜107−Kは、アップリンクの割り当て指示を受けた端末装置から送信される信号であって各アンテナ素子101−1〜101−Kを介して受信した信号に対して、処理を行う(ステップS104−1〜S104−K)。ここでの処理とは、受信した信号に対する増幅、ダウンコンバート、不要波の除去、アナログ信号からデジタル信号への変換である。
その後、FFT回路108−1〜108−Kは、A/D変換器107−1〜107−Kから出力されるデジタル信号からシンボル単位で信号を抽出し、抽出した信号からガードインターバルを除去してFFT処理を行うことにより、時間軸上の信号を周波数軸上の信号に変換するなどの各種の受信信号処理を実施する(ステップS105−1〜S105−K)。
第1受信信号処理回路191−1〜191−Lは、ステップS106において受信ウエイト記憶回路123から読み出した平均化受信ウエイトベクトルと、FFT回路108−1〜108−Kにより周波数成分ごとに分離された受信信号とを乗算する(ステップS107−1〜S107−K)。
第1受信信号処理回路191−1〜191−Lは、自回路に割り当てられた端末装置に対応する平均化受信ウエイトベクトルとの乗算により重み付けされた信号を加算合成する(ステップS108−1〜S108−L)。ステップS107−1〜S107−K及びステップS108−1〜S108−Lにおける処理は、それ全体で受信信号ベクトルに平均化受信ウエイトベクトルを乗算する個々の演算に相当する。
第1受信信号処理回路191−1〜191−Lは、このようにして信号分離された各信号系列(中間信号#1〜#L)を第2受信信号処理回路192に出力する。第2受信信号処理回路192において、リアルタイム送受信ウエイト算出部204は、第1受信信号処理回路191−1〜191−Lから出力される中間信号#1〜#Lに含まれるトレーニング信号を抽出する。このトレーニング信号は、各端末装置から送信された信号の無線パケットにおいて先頭部分に付与されたチャネル推定用の信号である。リアルタイム送受信ウエイト算出部204は、抽出したトレーニング信号に基づいてアップリンクのチャネル情報(サイズがL×Lのチャネル行列の各成分に相当する情報)を取得する(ステップS112)。
リアルタイム送受信ウエイト算出部204は、取得したアップリンクのチャネル情報と、式(12)又は式(13)とを用いてリアルタイム受信ウエイト行列WRを算出し、算出したリアルタイム受信ウエイト行列WRを行列乗算部205に出力する。また、リアルタイム送受信ウエイト算出部204は、リアルタイム受信ウエイト行列WRからリアルタイム送信ウエイト行列WTを算出(実質的には行列の転置)し、算出したリアルタイム送信ウエイト行列WTをリアルタイム送信ウエイト行列記憶部130に出力して記憶させる(ステップS113)。
行列乗算部205は、リアルタイム送受信ウエイト算出部204から出力されたリアルタイム受信ウエイト行列WRと、第1受信信号処理回路191−1〜191−Lから出力されるL系統の中間信号#1〜#Lで構成されるL次元の受信ベクトルとを乗算する(ステップS114)。この行列演算により、各信号系列に残留干渉として漏れ込んでいた干渉信号は抑圧され、各端末装置から送信された信号系列により近い信号が得られる。
信号検出回路206−1〜206−Lは、行列乗算部205においてリアルタイム受信ウエイト行列WRとの乗算により得られた信号系列に対して所定の受信信号処理を行い、得られた結果をデータ出力#1〜#Lとして出力し(ステップS115−1〜S115−L)、一連の処理を終了する(ステップS116−1〜S116−L)。
ここで、信号検出回路206−1〜206−Lにおける所定の受信信号処理とは、空間多重された信号を信号分離した後の処理である。したがって、通常のSISO通信と同様の信号処理である。また、受信信号処理には、OFDM(A)変調方式が用いられている場合、サブキャリアごとの復調処理を含み、SC−FDEが用いられている場合、各周波数成分の受信信号に対し周波数軸上での信号等化処理を施し、その信号をIFFT処理で合成した信号に対するシングルキャリアの復調処理を含む。さらには、必要に応じて誤り訂正の復号処理などを実施してもよい。当然ながら、以上の処理の後段でMACレイヤ等の信号処理も行われるが、公知の技術による処理と変わらないためここでは省略する。
なお、シンボルタイミングに関しては、各アンテナ素子101−1〜101−Kでの受信信号の受信レベルが十分なレベルにあれば、その受信した信号を基にタイミング検出を行っても良いが、受信信号レベルが非常に微弱な場合には、受信信号からタイミング検出を行うのは困難な場合がある。この場合には、例えばGPSを用いた絶対的な時間同期の他に、周期的なフレーム構成を用いて、直前のフレームタイミング検出用の信号などで得られたタイミングを基準にして、後続するフレームの受信タイミングを推定するなど、如何なる同期手段を用いて受信信号の受信タイミング及びシンボルタイミングを決定するようにしてもよい。このとき、端末装置は送信タイミングを決定する際に、同期された受信タイミングを基準として基地局装置10からの指示等に従い所定のタイミングで信号を送信すればよい。
また、FFT回路108−1〜108−Kが行うステップS105−1〜S105−Kの処理で得られた各アンテナ素子の各周波数成分の信号は、平均化送受信ウエイト算出部120へも出力される。この信号が無線パケット先頭に配置されているチャネル推定用のトレーニング信号である場合には、平均化送受信ウエイト算出部120(厳密には、チャネル情報平均化回路121)では、この情報を用いて各端末装置と基地局装置の各アンテナとの間のアップリンクのチャネル情報を取得する(ステップS109)。ここでは、一般的にはチャネル情報の取得だけではなく、過去のチャネル情報との平均化処理などを通して、見通し波を中心とする安定成分によるチャネル情報の抽出処理を行うことになる。
続いて、平均化送受信ウエイト算出部120は、抽出したチャネル情報に基づいて、平均化受信ウエイトベクトル及び平均化送信ウエイトベクトルを算出して更新し(ステップS110)、一連の処理を終了する(ステップS111)。平均化受信ウエイトベクトル及び平均化送信ウエイトベクトルの算出及び更新は、具体的には以下のようにして行われる。平均化送受信ウエイト算出部120において、受信ウエイト算出回路122は、取得したチャネル情報に基づいて、平均化受信ウエイトベクトルを算出し、算出した平均化受信ウエイトベクトルを受信ウエイト記憶回路123に記憶させる。また、送信ウエイト算出回路126は、取得したチャネル情報に基づいて、平均送信ウエイトベクトルを算出し、算出した平均化送信ウエイトベクトルを送信ウエイト記憶回路127に記憶させる。
なお、原理的にはステップS106で読み出すべき平均化受信ウエイトベクトルは、ステップS110の処理で算出した平均化受信ウエイトベクトルにより与えることも可能である。この場合は、無線パケットの先頭に付与されているチャネル推定用のトレーニング信号に対してステップS105−1〜S105−Kの処理を実施し、その処理により得られた信号に対してステップS109及びステップS110の処理を行う。ステップS107−1〜S107−Kでは、ステップS110において算出された平均化受信ウエイトベクトルを利用すればよい。ただし、この場合にはステップS109及びステップS110の処理を実行する間、ステップS107−1〜S107−Kの処理を待ち合わせさせ、ステップS109及びステップS110の処理が完了後に遡ってステップS107−1〜S107−Kの処理を実施することとなる。しかし、ここでのチャネルの時変動量はわずかな上に、信号系列間の信号分離処理は最新のリアルタイムのチャネル行列を用いて算出することになるので、特性的には殆ど差は現れない。したがって、信号処理の遅延時間の観点からは、平均化受信ウエイトベクトルは事前に取得されたチャネル情報を基に算出した値を利用することが好ましい。
(本実施形態の送信部の構成)
図7は、本実施形態における基地局装置10が備える送信部140の構成例を示す概略ブロック図である。同図に示すように、送信部140は、第1送信信号処理回路193−1〜193−L、第2送信信号処理回路194、加算合成回路142−1〜142−K、IFFT&GI付与回路143−1〜143−K、D/A変換器144−1〜144−K、ローカル発振器145、ミキサ146−1〜146−K、フィルタ147−1〜147−K、及び、ハイパワーアンプ(HPA)148−1〜148−Kを更に備えている。第2送信信号処理回路194とTDDスイッチ102−1〜102−Kとは図1に示した通信制御回路110に接続されている。第1送信信号処理回路193−1〜193−Lは図1に示した平均化送受信ウエイト算出部120に接続されている。また、第2送信信号処理回路194は図1に示したリアルタイム送信ウエイト行列記憶部130に接続されている。なお、アンテナ素子101−1〜101−K、及び、TDDスイッチ102−1〜102−Kはアップリンクに係る構成(受信部100)とで共通に用いられる。実際には、基地局装置10において、アップリンクに係る構成とダウンリンクに係る構成とが一体となって動作するものであるが、説明の都合上、分けて説明をしている。また、以下に示す第2送信信号処理回路194及び第1送信信号処理回路193−1〜193−Lにおける処理は、全て周波数成分ごとに個別に処理されるものである。
第2送信信号処理回路194は、同時に空間多重を行うL系統の信号系列(データ入力#1〜#L)がMAC層処理回路180より入力されると、まずはそのビット列に対して所定の変調処理を実施する。具体的には、OFDM(A)変調方式が用いられる場合には、第2送信信号処理回路194において、MAC層処理回路180から入力される送信すべきデータ入力#1〜#Lは、必要に応じて誤り訂正符号化された後、端末装置ごとに各サブキャリアに分配され、各サブキャリアに分配されたデータは1シンボルごとに所定変調方式における位相・振幅情報に変換される。また、SC−FDEが用いられる場合には、第2送信信号処理回路194において、MAC層処理回路180から入力される送信すべきデータ入力#1〜#Lは、必要に応じて誤り訂正符号化された後、端末装置ごとに一連のビット列がシングルキャリアにおける伝送単位のビットが所定の変調方式における位相・振幅情報に変換された且つ1シンボル(SC−FDEのブロック伝送の単位)に亘るシングルキャリア信号が生成され、FFTにより周波数成分の信号に置き換えられる。
更に、第2送信信号処理回路194において、これらの周波数成分ごとのL系統の信号系列は、リアルタイム送信ウエイト行列記憶部130に記憶されているリアルタイム送信ウエイト行列のうちL系統の信号系列が送信される宛先の端末装置の組み合わせに対応した各周波数成分のリアルタイム送信ウエイト行列が乗算される。リアルタイム送信ウエイト行列をL系統の信号系列に乗算することにより、後続する第1送信信号処理回路193−1〜193−Lで行う同位相合成のための平均化送信ウエイトベクトルを乗算した後に各端末装置間での干渉信号が抑圧される。この乗算により得られた信号は、各第1送信信号処理回路193−1〜193−Lに出力される。
第1送信信号処理回路193−1〜193−Lは、自回路に割り当てられた宛先の端末装置と各アンテナ素子101−1〜101−Kとの組み合わせに対応する各周波数成分の平均化送信ウエイトベクトルを平均化送受信ウエイト算出部120から読み出す。第1送信信号処理回路193−1〜193−Lは、第2送信信号処理回路194において変調処理が行われたサブキャリアごとの信号を、アンテナ素子101−1〜101−KごとのK系統の信号に分配し、分配した信号に対して読み出した平均化送信ウエイトベクトルをサブキャリアごとに乗算する。第1送信信号処理回路193−1〜193−Lは、アンテナ素子101−1〜101−Kごとの各周波数成分の信号を、対応するアンテナ素子101−1〜101−Kに接続されている加算合成回路142−1〜142−Kに出力する。
加算合成回路142−1〜142−Kは、第1送信信号処理回路193−1〜193−Lが生成した信号を周波数成分ごとに加算合成し、IFFT&GI付与回路143−1〜143−Kに出力する。
IFFT&GI付与回路143−1〜143−Kは、加算合成回路142−1〜142−Kにおいて加算合成された信号に対しIFFT処理を施し、周波数軸上から時間軸上の信号に変換する。更に、IFFT&GI付与回路143−1〜143−Kは、変換により得られた時間軸上の信号に対してガードインターバルを付与し、必要に応じて波形整形を行い送信すべきデジタル・ベースバンド信号を生成し、D/A変換器144−1〜144−Kに出力する。なお、デジタル・ベースバンド信号は、アンテナ素子101−1〜101−Kそれぞれに対応し、個別に信号処理される。
D/A変換器144−1〜144−Kは、IFFT&GI付与回路143−1〜143−Kから入力された信号をアナログ信号に変換し、ミキサ146−1〜146−Kに出力する。
ローカル発振器145は、アップコンバートに用いられる局部発振信号であって所定の周波数を有する局部発振信号をミキサ146−1〜146−Kに出力する。
ミキサ146−1〜146−Kは、D/A変換器144−1〜144−Kから入力されるアナログ信号に対し、ローカル発振器145から入力される局部発振信号を乗算して無線周波数にアップコンバートした信号をフィルタ147−1〜147−Kに出力する。なお、ミキサ146−1〜146−Kに入力される局部発振信号は同一の信号であり、周波数及び位相がそろった局部発振信号が各ミキサ146−1〜146−Kに入力される。
フィルタ147−1〜147−Kは、ミキサ146−1〜146−Kから入力される信号に含まれ送信すべきチャネルの周波数帯域外の信号を除去し、ハイパワーアンプ148−1〜148−Kに出力する。
ハイパワーアンプ148−1〜148−Kは、フィルタ147−1〜147−Kから入力される信号を増幅し、TDDスイッチ102−1〜102−Kを介してアンテナ素子101−1〜101−Kより送信する。
通信制御回路110は、更に、送信タイミングや、宛先の端末装置の管理、TDDスイッチ102−1〜102−Kの切り替えの制御を行う。
なお、以上の説明では、IFFT&GI付与回路143−1〜143−Kにおいて行う信号処理が加算合成回路142−1〜142−Kの後段において処理される場合について説明を行った。しかし、IFFT&GI付与回路143−1〜143−Kにおいて行う周波数成分の情報を時間軸の成分に変換する信号処理を第1送信信号処理回路193−1〜193−Lにて実施し、時間軸上のデジタル・サンプリングデータとした上で、各サンプリング時刻のサンプリングデータを加算合成回路142−1〜142−Kにて全宛先の端末局に亘り加算合成するという処理に置き換えてもよい。このようにしても同等の信号処理が可能であり、どちらの構成を選択しても構わない。ただし、この場合、IFFTを行う回路が第1送信信号処理回路193−1〜193−Lの各々において必要となり、回路規模が上記に説明した構成よりも大きくなる。そのため、全体的な回路規模抑制の観点からは図7の構成が好ましいと思われる。ただ、基地局装置10を実現する上ではこのいずれを用いる構成であっても構わない。
次に、本実施形態における基地局装置10が備える第2送信信号処理回路194の構成について説明する。
図8は、本実施形態における第2送信信号処理回路194の構成例を示す概略ブロック図である。同図に示すように、第2送信信号処理回路194は、変調回路215−1〜215−L、及び、行列乗算部214を有している。変調回路215−1〜215−Lは図1に示したMAC層処理回路180と接続されている。また、行列乗算部214は、第1送信信号処理回路193−1〜193−L及びリアルタイム送信ウエイト行列記憶部130と接続されている。
変調回路215−1〜215−Lは、同時に空間多重されるL系統のデータ入力#1〜#LがMAC層処理回路180から入力されると、データ入力#1〜#Lに対して所定の変調処理を行う。具体的には、OFDM(A)変調方式が用いられる場合には、変調回路215−1〜215−Lにおいて、データ入力#1〜#Lは、必要に応じて誤り訂正符号化された後、各サブキャリアに分配され、各サブキャリアに分配されたデータは1シンボル分のビットごとに所定の変調方式により位相・振幅情報を有する信号に変換される。SC−FDEが用いられる場合には、変調回路215−1〜215−Lにおいて、データ入力#1〜#Lは、必要に応じた誤り訂正符号化された後、シングルキャリアにおける伝送単位のビットごとに所定の変調方式により位相・振幅情報を有する信号に変換された且つ1シンボル(SC−FDEのブロック伝送の単位)に亘るシングルキャリア信号が生成され、FFTにより周波数成分の信号に置き換えられる。
変調回路215−1〜215−Lにおいて、所定の変調処理が施された各周波数成分のL系統の信号は行列乗算部214に入力される。行列乗算部214は、変調回路215−1〜215−Lから入力されるL系統の信号をL次元ベクトルとして扱う。行列乗算部214は、空間多重する組み合わせに対応するリアルタイム送信ウエイト行列をリアルタイム送信ウエイト行列記憶部130から読み出す。行列乗算部214は、読み出したリアルタイム送信ウエイト行列をL次元ベクトルに乗算し、乗算結果を中間信号#1〜#Lとして第1送信信号処理回路193−1〜193−Lに出力する。
次に、本実施形態における基地局装置が備える第1送信信号処理回路193−1〜193−Lの構成について説明する。図7に示したように、送信部140には、L面の第1送信信号処理回路193−1〜193−Lが含まれている。以下の説明では、L面の第1送信信号処理回路193−1〜193−Lのうちの1面(便宜上、第j面(1≦j≦L)とする)に着目して説明を行う。
図9は、本実施形態における第1送信信号処理回路193−j(1≦j≦L)の構成を示す概略ブロック図である。同図に示すように、第1送信信号処理回路193−jは、乗算器211−1〜211−K、信号複製器212、及び、平均化送信ウエイトベクトル成分分配器213を有している。
平均化送信ウエイトベクトル成分分配器213は、図1に示した平均化送受信ウエイト算出部120と接続されている。平均化送信ウエイトベクトル成分分配器213は、平均化送受信ウエイト算出部120が有する送信ウエイト記憶回路127より各周波数成分のK次元の平均化送信ウエイトベクトルを読み出し、平均化送信ウエイトベクトルに含まれるK個の成分を各成分に対応する乗算器211−1〜211−Kに入力する。
信号複製器212は第2送信信号処理回路194と接続されている。信号複製器212は、第2送信信号処理回路194から周波数成分ごとの中間信号#jが入力されると、当該中間信号#jと同一のデジタル信号をK系統分の中間信号に複製し、複製したK系統の中間信号を乗算器211−1〜211−Kに入力する。
乗算器211−1〜211−Kそれぞれは、アンテナ素子101−1〜101−Kに対応付けられており、対応する加算合成回路142−1〜142−Kと接続されている。乗算器211−1〜211−Kは、平均化送信ウエイトベクトル成分分配器213から入力された各周波数成分の平均化送信ウエイトベクトルの各成分を、信号複製器212から入力される信号に対してシンボル単位で乗算する。乗算器211−1〜211−Kは、乗算結果を後続する加算合成回路142−1〜142−Kに対して出力する。
以上説明したように、受信系においては図4に示した第1受信信号処理回路191−1〜191−Lにより、受信信号の中の着目する端末装置の受信利得を高め、相対的にSIR特性を改善した状態で図5に示す第2受信信号処理回路192に入力する。第2受信信号処理回路192は、リアルタイムのチャネル情報を反映した形での残留干渉抑圧処理を行い、きれいに信号分離された状態で良好な受信特性を達成することが可能となる。
同様に、送信系においては図8に示した第2送信信号処理回路194にて、第1送信信号処理回路193−1〜193−Lにより直交性が高められた仮想的なL本のアンテナ素子に対し、リアルタイムのチャネル情報を反映させる形で相互の残留干渉を抑圧した信号を生成する。これにより、相対的なSIR特性を改善した状態で信号送信を行うことができ、結果的に空間多重を行いながら安定的な通信を行うことが可能となる。
(本実施形態の送信処理について)
次に、本実施形態における基地局装置10が行う送信処理について図を参照して説明する。
図10は、本実施形態における基地局装置10が行う送信処理を示すフローチャートである。先にも触れたが、ここではOFDM(A)変調方式ないしはSC−FDEを用いている場合について説明する。
基地局装置10において、送信処理が開始されると(ステップS161)、通信制御回路110又はスケジューリング処理回路181が公知の技術を用いて空間多重の対象となる端末装置を選択する(ステップS162)。なお、ここでは同時に空間多重する端末装置の選択方法、すなわちスケジューリング方法の詳細についての説明を省略する。
第2送信信号処理回路194内の変調回路215−1〜215−Lは、MAC層処理回路180より入力されるデータ入力#1〜#Lから各周波数成分の送信信号の生成を行う(ステップS163)。
OFDM(A)変調方式を用いている場合、ステップS163において変調回路215−1〜215−Lが送信信号を生成する際には、例えば、MACレイヤの信号処理を施した無線パケットを構成するビット列に対し必要に応じて誤り訂正のための符号化処理、タイミング検出信号やチャネル推定用信号等からなるオーバーヘッド情報(プリアンブル信号)の付与、サブキャリアごとにビットを分けて所定の変調方式(例えばBPSK、QPSK、16QAM等)での信号点のマッピング処理等が行われる。また、SC−FDEを用いている場合、ステップS163において変調回路215−1〜215−Lが送信信号を生成する際には、OFDM(A)変調方式と同様に、MACレイヤの信号処理を施した無線パケットを構成するビット列に対し必要に応じて誤り訂正のための符号化処理、タイミング検出信号やチャネル推定用信号等からなるオーバーヘッド情報(プリアンブル信号)の付与、所定の変調方式(例えばBPSK、QPSK、16QAM等)での信号点のマッピング処理等のシングルキャリアの送信信号処理や周波数軸上での送信ウエイト乗算処理を行うためにブロック単位でのFFT処理などが行われる。
一方、図6に示した受信側の処理においては逐次、ステップS109において平均化送受信ウエイト算出部120がアップリンクのチャネル情報取得後にダウンリンクのチャネル情報も合わせて取得し(ステップS164)、その後、平均化送受信ウエイト算出部120内で平均化送信ウエイトベクトルを算出及び記憶すると共に、ステップS113においてリアルタイム送受信ウエイト算出部204がアップリンクのリアルタイム受信ウエイト行列取得後にこれをダウンリンクのリアルタイム送信ウエイト行列としてリアルタイム送信ウエイト行列記憶部130に記憶する(ステップS165)。以上のステップS164及びS165の処理は、データの送信処理(ステップS161〜S163)とは関係なく、逐次、実施される処理に相当する。
ここでステップS163の処理に引き続き、第2送信信号処理回路194内の行列乗算部214は、通信制御回路110が選択した端末装置の組み合わせに対応する各周波数成分のL×Lのサイズのリアルタイム送信ウエイト行列をリアルタイム送信ウエイト行列記憶部130から読み出す(ステップS166)。
行列乗算部214は、変調回路215−1〜215−Lにおいて生成されたL系統の信号系列を成分とするL次元ベクトルに対し、読み出したL×Lのサイズのリアルタイム送信ウエイト行列を乗算する(ステップS168)。この乗算結果は、対応する第1送信信号処理回路193−1〜193−Lに出力される。
第1送信信号処理回路193−1〜193−Lでは、自回路に対応する端末装置の平均化送信ウエイトベクトルを平均化送受信ウエイト算出部120内の送信ウエイト記憶回路127より読み出す(ステップS167)。
第1送信信号処理回路193−1〜193−Lは、それぞれが各アンテナ素子101−1〜101−Kで送信する送信信号ごとに、ステップS168において生成された各周波数成分のL系統の送信信号と、ステップS167において読み出した各周波数成分の平均化送信ウエイトベクトルとを乗算する。第1送信信号処理回路193−1〜193−Lは、それぞれが乗算結果を加算合成回路142−1〜142−Kに出力する(ステップS169−1〜S169−K)。
加算合成回路142−1〜142−Kは、それぞれが各第1送信信号処理回路193−1〜193−Lから入力された信号を加算合成する。IFFT&GI付与回路143−1〜143−Kは、加算合成回路142−1〜142−Kにおける加算合成により得られた信号に対して、周波数軸上の信号から時間軸上の信号に変換するとともにガードインターバルを付与し、必要に応じて波形整形等の一連の処理を行い、D/A変換器144−1〜144−Kに出力する(ステップS170−1〜S170−K)。
D/A変換器144−1〜144−KはIFFT&GI付与回路143−1〜143−Kから出力された信号をデジタル/アナログ変換によりアナログ信号に変換する。ミキサ146−1〜146−Kは、D/A変換器144−1〜144−Kによりアナログ信号に変換された信号に対して無線周波数へアップコンバートする。フィルタ147−1〜147−Kはアップコンバートされた信号に含まれる帯域外信号の除去を行い、ハイパワーアンプ148−1〜148−Kに出力する。ハイパワーアンプ148−1〜148−Kは、フィルタ147−1〜147−Kから出力された信号を増幅し、各アンテナ素子101−1〜101−Kから送信する(ステップS171−1〜171−K)。以上により送信処理が終了する(ステップS172−1〜172−K)。
これらの一連の処理(ステップS163及びステップS168からステップS171−1〜S171−Kまでの処理)は、無線パケットが複数シンボル又は複数ブロックに亘る場合には、OFDMシンボルやSC−FDEのブロック単位での処理がシンボル数ないしブロック数分だけ引き続き実施されることで無線パケット全体の送信信号処理が実施される。
本実施形態における基地局装置10の送信処理の特徴としては、ステップS166においてリアルタイム送信ウエイト行列記憶部130に記憶されているリアルタイム送信ウエイト行列を読み出し、更にステップS167において送信ウエイト記憶回路127に記憶されている端末装置に対応する平均化送信ウエイトベクトルを読み出して、2段階の指向性制御のための演算に分けて処理を実施する点であり、端末装置ごとに事前に算出・記憶された平均化送信ウエイトベクトル及びリアルタイム送信ウエイト行列を利用することである。これにより、送信する都度、アンテナ素子数に依存する大規模な送信ウエイト行列の演算を行うことなく、送信処理を行うことができる。
また、このようにして送信された信号は、各端末装置のアンテナ素子において、基地局装置10のアンテナ素子101−1〜101−Kから送信された信号が、周波数成分ごとに概ね同位相で受信されることになる。各端末装置において受信された信号は、特に基地局装置10が行う各種信号処理を意識することなく受信できる通常の信号として処理することが可能である。
また、変調回路215−1〜215−LがステップS163において行うチャネル推定用信号等のオーバーヘッド情報(プリアンブル信号)の付与においては、アップリンクの場合と異なり複数の端末装置に対して共通のパターンの信号を利用することが可能である。これはステップS168及びステップS169−1〜S169−Kにおいて行うリアルタイム送信ウエイト行列及び平均化送信ウエイトベクトルの乗算により、各端末装置において他の端末装置宛の信号が十分に抑圧された状態で受信可能となるために、各端末装置に個別のプリアンブル信号を割り当てる必要がないからである。この結果、空間多重を行いながらも、空間多重数に依存したシンボル数のプリアンブル信号を付与する必要がなくなり、MACレイヤの効率の低下を抑えることが可能となる。
(チャネル推定処理と平均化送受信ウエイトベクトルの算出について)
図3に示した平均化送受信ウエイト算出部120や、図5に示したリアルタイム送受信ウエイト算出部204においては、受信ウエイトや送信ウエイトを算出する際に用いるチャネル情報を取得する必要がある。このチャネル情報の取得は如何なる方法を用いて取得しても構わないが、以下にその取得方法の一例を示しておく。
一般に、チャネル情報は先のキャリブレーションに係わる説明においても示したように、基本的にはアップリンクとダウンリンクとは非対称な関係となっている。このため、基地局装置がダウンリンクで送信した信号を端末装置で受信し、端末装置で取得したチャネル情報を制御回線を用いて基地局装置にフィードバックすることも可能である。ここでは端末装置がアップリンクで送信した信号を基地局装置のK本のアンテナで受信し、基地局装置が取得したチャネル情報を用いてキャリブレーション等の処理によりダウンリンクのチャネル情報を取得する場合について説明を行う。
最初に、平均化送受信ウエイトベクトルの算出について説明を行う。
まず、空間多重を行わない場合には、通常のチャネル推定用のトレーニング信号を無線パケットのデータ領域に先行して端末装置が送信し、これを基地局装置で受信し、一連の受信信号処理の後にFFT処理により各周波数成分に分解し、各周波数成分ごとの送信信号と比較することで各周波数成分のチャネル情報を取得する。例えば、一般的にはOFDM変調方式ではピーク対平均電力比(PAPR:Peak to Average Power Ratio)を低減できるように、チャネル推定用のトレーニング信号の各周波数成分はBPSK等で変調処理されている。したがって、受信信号に対してこの逆処理を行うことで、チャネル推定は可能である。
以上は空間多重を行わない場合の単純なケースであるが、空間多重を行うときは、その空間多重を行う各アンテナ間のチャネル情報を把握するために、複数シンボルを用いる。例えば、端末装置#1と端末装置#2とが信号を送信する場合を考える。最も単純な例は、1シンボル目は端末装置#1のみがパターンPを送信し、2シンボル目は端末装置#2のみがパターンPを送信する。この場合には、1シンボル目で端末装置#1のチャネル推定を行い、2シンボル目で端末装置#2のチャネル推定を行えばよい。全周波数成分のチャネル推定を行うことを考慮すれば、1シンボル目は偶数サブキャリアでは端末装置#1のみ、奇数サブキャリアでは端末装置#2のみが送信し、2シンボル目は偶数サブキャリアでは端末装置#2のみ、奇数サブキャリアでは端末装置#1のみが送信することとすれば、各周波数成分あたりの送信電力を2倍に高め、各サブキャリアのSNRを改善することも可能である。
その他の例では、全サブキャリアにおいて、1シンボル目は端末装置#1がパターン「P」、端末装置#2もパターン「P」を送信し、2シンボル目は端末装置#1がパターン「P」、端末装置#2はパターン「−P」を送信する。この場合、受信した信号の1シンボル目と2シンボル目を加算すると、端末装置#1が「2P」の信号を送信した場合と同様の受信信号が得られる。また、受信した信号の1シンボル目から2シンボル目を減算すると、端末装置#2が「2P」の信号を送信した場合と同様の受信信号が得られる。これらの処理により、各端末装置が送信した信号が基地局装置のK本のアンテナで受信した場合に、それぞれのアンテナ間のチャネル情報がどのような値になるかを取得することが可能である。
このように、チャネル行列の取得のためのアップリンクでのチャネル推定用トレーニング信号の付与においては、同時に空間多重を行う端末装置が送信するトレーニング信号は各周波数成分も含めて同一のパターンではないことに注意を要する。これはマルチユーザMIMOであれば一般的な条件であり、したがって各端末装置は送信する信号いずれのパターンのトレーニング信号を送信するかを基地局装置から指示されることになる。
以上説明したように、着目する周波数成分及び着目するシンボルにおいて複数の端末装置からトレーニング信号が送信されている場合についても、上述した手順ないしは既存のチャネル推定手段を用いて、端末ごとのチャネル推定を実施することは可能であるが、以下の説明では簡単のため、少なくとも着目する周波数成分及び着目するシンボルにおいては、一つの端末装置のみから信号が送信されている場合を例にとり説明する。
無線パケットの先頭に付与されたチャネル推定用の信号に対し、上述の受信信号処理を行うことで、FFT回路108−1〜108−Kにて各周波数成分に分離された受信信号は平均化送受信ウエイト算出部120に入力される。上述のように、トレーニング信号はPAPR抑圧のために所定の変調処理が施されているので、その逆処理を施すことでチャネル情報を取得することができる。通信制御回路110からの指示に従うことで、そのトレーニング信号の送信元である端末装置を把握し、これによりその周波数成分で対応するアンテナのチャネル情報を把握することができる。
次に、ある程度の回数で取得したチャネル情報を所定の時間・回数で平均化する場合には、単純にそのチャネル情報をそのまま平均化に用いると本来の値とは異なるチャネル情報となってしまうので注意を要する。以下に、その平均化処理において注意すべき点を示す。一般に、チャネル推定はシンボルタイミング検出の誤差があったり、送信側のローカル発振器の初期位相の不確定性などにより、チャネル推定により得られるチャネル情報の位相情報は仮にチャネルの時変動がない場合でも毎回一定値になるわけではない。ただし、端末装置に起因した位相の不確定性とは異なり、基地局装置ではその不確定性は全てのアンテナ素子で同様の影響を受けるために、任意のふたつのアンテナ素子間の相対的な関係は保存されることになる。例えば、アンテナ#1のチャネル情報の位相情報を基準として、他のアンテナ素子のチャネル情報の位相をアンテナ#1に対する相対的な位相関係に焼き直すことにすれば、チャネルの時変動がなければ毎回同じ値が推定されることになる。以降の説明では、この基準となる位相のオフセットを補正したチャネル情報を、「チャネル情報の相対成分」と呼び説明を行う。また、第k周波数成分の第jアンテナに関する推定されたチャネル情報を^hj (k)、その相対成分として補正されたチャネル情報を〜hj (k)と便宜上表すことにする。ここでは、「^(ハット)」が上に付されたhを「^h」、「〜(チルダ)」が上に付されたhを「〜h」と表記する。以下、数式等においても同様に、「⌒」などの記号が文字の上に付されている文字を表記する場合、当該記号を文字の前に表記する。
図11は、本実施形態におけるアップリンクのチャネル情報の相対成分を取得する相対成分取得処理を示すフローチャートである。この処理は、チャネル情報平均化回路121で行われる処理の一部を示している。
チャネル情報平均化回路121は、第1のアンテナ素子101−1から第Kのアンテナ素子101−Kそれぞれに対応するチャネル情報がFFT回路108−1〜108−Kから取得されると(ステップS121−1〜S121−K)、第jのアンテナ素子101−j(1≦j≦K)で受信した信号の第k周波数成分を「^hj (k)」とする(ステップS122−1〜S122−K)。
チャネル情報平均化回路121は、第1のアンテナ素子101−1におけるチャネル情報(^h1 (k))と、その複素共役(^h1 (k))*とから、オフセット値e−jφ(k)(=(^h1 (k))*/‖^h1 (k)‖)を算出する(ステップS123)。ここで「‖x‖」は、xの絶対値を表す。なお、このオフセット値は周波数成分ごとに個別に求める。
チャネル情報平均化回路121は、算出した第k周波数成分に対するオフセット値e−jφ(k)を各アンテナ素子101−1〜101−Kに対応する第k周波数成分^h1 (k)、…、^hK (k)に乗算することにより、相対的な複素位相関係を示すチャネル情報〜h1 (k),…,〜hK (k)を算出し(ステップS124−1〜S124−K)、処理を終了する(ステップS125−1〜S125−K)。
上述のように、チャネル情報平均化回路121は、第1のアンテナ素子101−1のチャネル情報を基準として、各アンテナ素子101−1〜101−Kの相対的なチャネル情報〜h1 (k),…,〜hK (k)を算出する。チャネル情報平均化回路121は、端末装置ごとに、全ての周波数成分について上記のステップS121−1〜ステップS125−Kまでの処理を行い、各端末装置に対する全ての周波数成分における短時間平均のチャネル情報の相対成分〜h1 (k),…,〜hK (k)を算出する。
図12は、本実施形態におけるアップリンクのチャネル情報の相対成分を取得する他の相対成分取得処理を示すフローチャートである。同図に示す処理と図11に示した処理との差分は、相対成分の取得の際に用いる複素位相のオフセット値φ(k)を、特定のアンテナ素子101−1の複素位相を基準とする代わりに、ステップS126において全てのアンテナ素子101−1〜101−Kの複素位相(すなわち0〜2πで表される角度)の平均値を用いる点である。
ステップS126にて、アンテナ素子101−1〜101−Kに対応するチャネル情報における第k周波数成分^h1 (k),…,^hK (k)を基に、次式(20)を用いて第k周波数成分に対する全アンテナの複素位相の平均値φ(k)を求め、これをステップS124−1〜S124−Kにて用いることで相対成分の取得を実現する。
なお、このオフセット値は周波数成分ごとに個別に求める。個々のアンテナ素子101−1〜101−Kの複素位相成分が誤差を含む場合においても、式(20)では誤差の平均化を行うことになるので、結果的に精度の高い相対成分を求めることができる。
なお、式(20)ではチャネル情報^hi (k)の複素位相を抽出する処理を行っているが、チャネル情報^hi (k)の実数部と虚数部の比率から複素位相の角度情報を取得し、その角度情報を基に式(20)と等価な値を算出することも可能である。これは数式的には異なる処理に見えるが、数学的には全く等価な処理であり、全ての演算処理に対しこのような数学的に等価な代替の手段で処理を代用することも当然ながら可能である。
チャネル情報の平均化処理を行う場合には、以上の処理によりチャネル情報の相対成分を抽出した後、この相対成分の平均化処理を行う。
図13は、本実施形態におけるアップリンクのチャネル情報の平均化処理を示すフローチャートである。チャネル情報平均化回路121は、上述の図11又は図12の処理を連続又は離散的な時間で複数回実施し、得られたチャネル情報の相対成分を基にした平均化処理により平均化されたチャネル情報を算出する。
チャネル情報平均化回路121において、1回目からQ回目のチャネル情報の相対成分取得処理が完了すると(ステップS131−1〜S131−Q)、チャネル情報の相対成分〜h1 (k)[q],…,〜hK (k)[q](q=1,…,Q)を集約する(ステップS132−1〜S132−Q)。ここで、チャネル情報の相対成分〜h1 (k)[q]は、q回目に算出された第1のアンテナ素子101−1の第k周波数成分に対するチャネル情報の相対成分である。したがって、ステップS132−1〜S132−Qは時間的に異なるタイミングで行われる処理に相当する。なお、平均化処理の対象になる回数Qは、無線通信システムを運用する環境などに基づいて予め定められる。これは固定的な数でも良いし、所定の時間内に収集された回数をQに設定し、平均化の都度、異なる回数で平均化を行っても良い。
また、チャネル情報平均化回路121は、次式(21)を用いて、平均のチャネル情報hi (k)(i=1,…,K)を算出する(ステップS133)。なお、ステップS132−1〜S132−Qは時間的に異なるタイミングで処理が完了するため、平均化処理であるステップS133の実施までの間、このチャネル情報の相対成分を一時的にメモリに記憶しておき、一度にステップS133を実施しても構わない。ないしは、ステップS133のΣによる総和の個々の加算処理を、ステップS132−1〜S132−Qの個々の処理が完了ごとに実施し、次の処理までの間メモリに記憶しておいて、加算の都度、それらを読み出してステップS133を実施しても構わない。
チャネル情報平均化回路121は、各アンテナ素子101−1〜101−Kごとに、各周波数成分のチャネル情報それぞれを平均化した平均のチャネル情報hi (k)を算出すると、平均化処理を終了する(ステップS134)。
なお、後述の平均化受信ウエイトベクトルの算出は、ここで取得したアップリンクのチャネル情報を用いて行われることになるが、これらの処理を行うにあたり、一時的にメモリに記憶しておいても構わない。
以上の処理により、アップリンクのチャネル情報が直接的に取得できる。また、本実施形態では、相対成分取得処理(図11及び図12)を行っているので、1回目からQ回目までの各短時間平均処理における位相のずれの影響を受けることなく長時間平均のチャネル情報を算出することができる。なお、上述のチャネル情報hi (k)等の右肩の添え字kは周波数成分を識別する番号を表している。
なお、この図13ではチャネル情報の平均化処理として、複数回に亘り取得されたチャネル情報を単純平均する場合を例に示したが、忘却係数μ(0<μ<1)を設定し、新規に取得されたチャネル情報に比率μを乗算し、更にこれまでの平均化されたチャネル情報に比率(1−μ)を乗算し、それらを合成して平均化を行うなど一般的なその他の平均化処理で実現しても構わない。
図14は、本実施形態におけるダウンリンクのチャネル情報を取得する処理を示すフローチャートである。基地局装置10は、基地局装置10から端末装置へのダウンリンクに関しては、アップリンクのように直接的にチャネル情報を取得することが困難なので、アップリンクのチャネル情報を基にダウンリンクのチャネル情報を推定する。
基地局装置10において、キャリブレーション回路125は、チャネル情報平均化回路121からアップリンクのチャネル情報hi (k)が入力され(ステップS142)、入力されたチャネル情報hi (k)に対する第iのアンテナ素子101−iにおける第k周波数成分に対応するキャリブレーション係数Ci (k)をキャリブレーション係数記憶回路124から読み出す(ステップS143)。
キャリブレーション回路125は、入力されたチャネル情報hi (k)と、読み出したキャリブレーション係数Ci (k)とを乗算し(ステップS144)、乗算結果をダウンリンクのチャネル情報として送信ウエイト算出回路126に出力し、処理を終了する(ステップS145)。
後述の送信ウエイトの算出は、ここで取得したダウンリンクのチャネル情報を用いて行われることになるが、これらの処理を行うにあたり一時的にメモリに記憶しておいても構わない。キャリブレーション回路125は、各アンテナ素子101−1〜101−Kそれぞれに対して、周波数成分ごとに上述のステップS142からステップS144の処理を行う。
アップリンクにおけるチャネル情報に対する平均化受信ウエイトベクトルの算出処理と、ダウンリンクにおけるチャネル情報に対する平均化送信ウエイトベクトルの算出処理とは基本的に同等である。そこで、ここではアップリンクにおける平均化受信ウエイトベクトルを算出する処理について説明し、ダウンリンクにおける平均化送信ウエイトベクトルを算出する処理の具体的な説明を省略する。なお、以下の説明は具体的には平均化受信ウエイトベクトルのベクトル成分の算出を表すものであり、ベクトルとしてはそれらの成分を合成したものとなっている。
図15は、本実施形態の基地局装置10における平均化受信ウエイトベクトルを算出する処理を示すフローチャートである。
処理を開始すると(ステップS451)、受信ウエイト算出回路122には、第iのアンテナ素子101−iにおける着目するある端末装置に関する第k周波数成分のアップリンクにおけるチャネル情報hi (k)がチャネル情報平均化回路121から入力される(ステップS452)。
受信ウエイト算出回路122は、チャネル情報平均化回路121から入力されたチャネル情報hi (k)の複素共役(hi (k))*を算出し、算出した複素共役(hi (k))*をチャネル情報hi (k)の絶対値で除算した値を平均化受信ウエイトベクトルの成分wi (k)にする(ステップS453)。すなわち、受信ウエイト算出回路122は、次式(22)を用いて、平均化受信ウエイトベクトルの成分wi (k)を算出する(ステップS453)。
受信ウエイト算出回路122は、算出した平均化受信ウエイトベクトルの各成分wi (k)を受信ウエイト記憶回路123に記憶させ(ステップS454)、処理を終了する(ステップS455)。
受信ウエイト算出回路122は、各アンテナ素子101−1〜101−Kそれぞれに対して、周波数成分ごとに全ての端末装置に対して上述のステップS452からステップS454の処理を行う。
なお、送信ウエイト算出回路126は、受信ウエイト算出回路122と同様の演算により、キャリブレーション回路125から入力されるチャネル情報hi (k)から平均化送信ウエイトベクトルを算出し、算出した平均化送信ウエイトベクトルを送信ウエイト記憶回路127に記憶させる。
なお、一般に複数のアンテナで受信した場合の信号合成のためのウエイトとしては、フェージング等の影響によりアンテナごとの信号の受信レベルに大きな差が見られる場合があり、その場合には受信レベルの低いアンテナ素子の受信信号の雑音の影響を抑制するために、以下に示す最大比合成のウエイトを用いることが多い。したがって、本実施形態では式(22)の代わりに、以下に示す式(23)を用いることも可能である。
式(22)と式(23)との二つのウエイトの違いは、第iのアンテナ素子の係数の大きさ(絶対値)がアンテナ素子ごとに異なるか同一であるかの差であり、式(23)では相対的に雑音のレベルが高い(すなわち受信レベルの低い)信号の重みを軽くする効果を取り込んでいる。しかし、平均化されたチャネル情報との乗算後にはともに複素位相がゼロないし一定値となるように調整されている点では両者は共通している。広義の意味では式(23)も同位相合成のウエイトの一種といえる。本実施形態では、このように平均化されたチャネル情報との乗算後に複素位相がゼロないし一定値となるウエイトであればその他のウエイトを用いても同様の効果を得ることができる。
一般には、平均化送信ウエイトベクトルとしては式(22)のウエイトを、平均化受信ウエイトベクトルとしては式(23)のウエイトを用いるのが好ましい。なお、本実施形態では基地局装置と端末装置の間の見通しが確保できるように設置されることが推奨されるので、非常に多くの多重反射波が存在するマルチパス環境とは異なり見通し波が支配的な環境であるため、アンテナ素子ごとの受信レベルの差は比較的つきにくい。この結果、式(23)で求めたウエイトは、実効的には式(22)と等価なウエイトとなる。
なお、平均化送信ウエイトベクトルと平均化受信ウエイトベクトルとは、アンテナ素子ごとのウエイトの値を各要素の成分として構成されるベクトル(ウエイトベクトル)の示す方向(各成分の相対的な関係)が実効的な意味をもつ。例えば、ふたつのベクトルが直交(すなわち内積がゼロとなる)する場合、片方のベクトルの全ての成分に定数cを乗算しても、内積はゼロのままなので直交関係は変わらない。このため、あるウエイトベクトルに所定の係数を乗算したベクトルは方向的には同一であるとみなせるため、アンテナ素子ごとに一定の係数が乗算されたウエイトベクトルは乗算される係数に依存せずに全て等価である。つまり、式(22)や式(23)で与えられる各ベクトルの成分全体に共通の係数が乗算されたウエイトは、それらのウエイトを成分として持つウエイトベクトルに焼き直して解釈すると全て実施形態におけるウエイトと等価なものである。
(リアルタイム送受信ウエイト行列の算出について)
上述の平均化送信ウエイトベクトルと平均化受信ウエイトベクトルとの算出では、端末装置と各アンテナ素子間のチャネル情報に対して同位相合成となるウエイトの算出を行っていた。アンテナの本数がK本であれば、求めるべき平均化送信ウエイトベクトル及び平均化受信ウエイトベクトルはK次元のベクトルとなる。これに対し、リアルタイム送信ウエイト行列やリアルタイム受信ウエイト行列は、第1受信信号処理回路191−1〜191−Lを経由した後でのチャネル推定結果を利用する。この具体的な処理を以下に説明する。
説明を簡単にするために、以下の説明では2台の端末装置をアップリンクで空間多重する場合(つまり、L=2)について説明する。また先の説明でも行ったように、少なくとも着目する周波数成分及び着目するシンボルにおいては、一つの端末装置のみから信号が送信されている場合を例にとり説明する。例えばある周波数成分に着目したときに、第1シンボルにおいては第1の端末装置からのトレーニング信号が送信され、第2シンボルにおいては第2の端末装置からのトレーニング信号が送信されているものとする。このとき、第1受信信号処理回路191−1〜191−2は、それぞれ第1の端末装置の平均化受信ウエイトベクトルの乗算及び第2の端末装置の平均化受信ウエイトベクトルの乗算を行い、それぞれを加算合成した仮想的な2本アンテナで受信した信号として、2系統の信号系列の信号を第2受信信号処理回路192に入力する。これらのトレーニング信号は、送信側でPAPR低減のために各周波数成分ごとに何らかの変調処理を行ったものである。そこで、第2受信信号処理回路192内のリアルタイム送受信ウエイト算出部204は、まずは受信信号に対して周波数成分ごとに変調の逆処理を行うことにより、直接チャネル情報を示す状態を取得する。
第1受信信号処理回路191−1から入力され且つこの変換がなされた信号は、1シンボル目の信号が第1の端末装置と第1の仮想アンテナとの間に関する仮想的なチャネル情報「hv11」を示し、2シンボル目の信号が第2の端末装置と第1の仮想アンテナとの間に関する仮想的なチャネル情報「hv12」を示している。
同様に、第1受信信号処理回路191−2から入力され且つこの変換がなされた信号は、1シンボル目の信号が第1の端末装置と第2の仮想アンテナとの間に関する仮想的なチャネル情報「hv21」を、2シンボル目の信号が第2の端末装置と第2の仮想アンテナとの間に関する仮想的なチャネル情報「hv22」を示している。「hvij」を(i,j)成分とする仮想的なチャネル行列を「Hv」と表記すれば、これにより式(12)〜式(15)を用いてリアルタイム送受信ウエイト行列を算出することが可能である。
なお、上述の「チャネル推定処理と平均化送受信ウエイトベクトルの算出について」に関する記述の中では、トレーニング信号として、1シンボル目は端末装置#1がパターン「P」、端末装置#2もパターン「P」を送信し、2シンボル目は端末装置#1がパターン「P」、端末装置#2はパターン「−P」を送信する例を示していた。用いるチャネル推定用のトレーニング信号をこの様な他のパターンに置き換えた場合でも、単純に仮想的なチャネル行列「Hv」の各成分の求め方が変わるだけであって、その他の処理は全く同様に行うことができる。その他のトレーニング信号を用いる場合も同様である。
(リアルタイム送信ウエイト行列の別の算出方法について)
以上の説明では、リアルタイム受信ウエイト行列を取得できている端末装置の組み合わせで送信を行う場合の説明を行った。しかし、この場合には送信時に空間多重を行うことが可能な端末装置の組み合わせが、比較的直近にリアルタイム受信ウエイト行列を取得したことがある端末装置の組み合わせに限定されるため、スケジューリングの自由度がある程度拘束される。
そこで、以下ではリアルタイム送信ウエイトの別の算出方法についても簡単に説明を行う。まず、ここでは簡単のために2台の端末装置がある周波数成分上で同時に空間多重伝送を行う場合を考える。まず、端末装置#1及び端末装置#2に対する最新のチャネル情報により構成される第k周波数成分のチャネル情報ベクトルをh1 (k)、h2 (k)とする。同様に、端末装置#1及び端末装置#2に対する第k周波数成分の平均化送信ウエイトベクトルをw1 (k)、w2 (k)とする。第2送信信号処理回路194から見た場合の第1送信信号処理回路193−1〜193−L(ここではL=2の場合を例示している)以降の端末装置#1、#2までの実効上の2×2のチャネル行列Heffは以下のように表すことができる。
ここで、リアルタイム送信ウエイト行列WTを次式(25)の形式とし、上述のHeffとの行列積Heff・WTの非対角成分がゼロとなる条件を算出する。
ここで、ベクトル「⌒hj (k)」を次式(27)で定義する。
これを用いれば、式(26)において非対角項成分がゼロであることから次式(28)及び次式(29)を得ることができる。
ここで、事前にベクトル「⌒hj (k)」を求めておけば、送信時にリアルタイムで演算すべきα、βの算出ではそれぞれK回の乗算のみで事足りることになる。つまり、合計で2×K回の乗算演算を許容すれば、任意の端末装置の組み合わせに拡張することができる。以下に、本実施形態における変形例としてリアルタイム送信ウエイト行列に関する以上の変更を回路構成に反映させた構成を説明する。
(変形例1:リアルタイム送信ウエイト行列算出に関する別の構成)
図16は、本実施形態の基地局装置10の変形例1としての構成を示す概略ブロック図である。図1に示した基地局装置10との差分は、リアルタイム送信ウエイト行列記憶部130をリアルタイム送信ウエイト行列算出部131に置き換えた点である。また、リアルタイム送信ウエイト行列算出部131はリアルタイム送信ウエイト行列記憶部130と異なり、平均化送受信ウエイト算出部120とも接続されている一方、受信部100とは接続されていない。
リアルタイム送信ウエイト行列算出部131には、平均化送受信ウエイト算出部120にて最新のダウンリンクのチャネル情報ベクトルhj (k)の取得及び平均化送信ウエイトベクトルwj (k)の更新がある都度に、最新のダウンリンクのチャネル情報ベクトルhj (k)及び平均化送信ウエイトベクトルwj (k)が入力される。変形例1における平均化送受信ウエイト算出部120は、上記の実施形態において説明した構成に加えて、チャネル情報及び平均化送信ウエイトベクトルが更新されると、リアルタイム送信ウエイト行列算出部131に出力する構成を有する。この出力機能を除けば、図3に示す平均化送受信ウエイト算出部120の構成に対して明示的な変更は特にない。ただし、この場合にはチャネル情報平均化回路121からキャリブレーション回路125へは、平均化されたチャネル情報ベクトルとともに、最新のチャネル情報ベクトルも通知を行い、その両者に対してキャリブレーション処理を行うことになる。なお、特に平均化を行わない場合には、その両者は同一であるのでこの点については変更を伴わない。
リアルタイム送信ウエイト行列算出部131では、チャネル情報ベクトル及び平均化送信ウエイトベクトルが入力されるたびに、式(27)の演算を行い、この結果を平均化送信ウエイトベクトルwj (k)とともにメモリに記録しておく。また、通信制御回路110より送信処理開始の指示と、空間多重を行う端末局の組み合わせの通知がなされると、該当する端末装置に関連する式(27)で与えられる「⌒hj (k)」と平均化送信ウエイトベクトルwi (k)を読み出し、式(28)及び式(29)によりα、βを算出し、これを送信部の第2送信信号処理回路194に入力する。以上の変更により、その他についてはそのままで任意の端末装置の組み合わせの空間多重に対して対応可能である。
なお、空間多重数が3以上の場合には、式(25)を対角成分が1、非対角成分が未定数の行列とし、式(26)と同様の処理で各未定数に関する条件を導出すれば同様の拡張が可能である。ただし、この場合には演算量が大幅に増加することになるため、回路規模に関するインパクトは大きくなり、本変形例における基地局装置10の利点は次第に薄れることになる。ただし、それでも式(10−1)、式(10−2)などを用いる場合に比べれば、十分に演算量は抑えることが可能である。
以上に、リアルタイム送信ウエイト行列の算出に関する本実施形態における変形例を示したが、平均化送受信ウエイトベクトルの算出に関しても、同様に本実施形態における変形例が存在する。以下にその説明を加えておく。
(変形例2:平均化送受信ウエイト算出部の別の構成)
上記の実施形態において図3に示した平均化送受信ウエイト算出部120の構成は、ほぼ等価な別の構成としても実現することが可能である。上記の実施形態における平均化送受信ウエイト算出部120に対する変形例としての構成例を説明する。
図17は、上記の実施形態の変形例における平均化送受信ウエイト算出部120aの構成を示す概略ブロック図である。平均化送受信ウエイト算出部120aは、チャネル情報平均化回路121、受信ウエイト算出回路122、受信ウエイト記憶回路123、キャリブレーション係数記憶回路124、送信ウエイト算出回路126a、及び、送信ウエイト記憶回路127を有している。平均化送受信ウエイト算出部120aが平均化送受信ウエイト算出部120(図3)と異なる構成は、キャリブレーション回路125を有していないこと(正確には、送信ウエイト算出回路126aの中にこれと類似の機能が内在される構成となる)、及び、送信ウエイト算出回路126に代えて送信ウエイト算出回路126aを有していることである。また送信ウエイト算出回路126aの機能は、受信ウエイト算出回路122において算出された平均化受信ウエイトの各成分を、キャリブレーション係数記憶回路124に記憶されているキャリブレーション係数で除算することにより、平均化送信ウエイトを算出する処理に変更される。
平均化送受信ウエイト算出部120では、平均化送信ウエイトベクトルの各成分に対応する平均化送信ウエイトを算出する際に、チャネル情報平均化回路121が取得したアップリンクのチャネル情報に対して、式(16)や式(17)などで与えられるキャリブレーション係数を乗じてダウンリンクのチャネル情報を取得し、平均化送信ウエイトを算出していた。これに対して、平均化送受信ウエイト算出部120aでは、受信ウエイト算出回路122が算出する平均化受信ウエイトの各成分を次式(30)に示すように、キャリブレーション係数記憶回路124に記憶されているキャリブレーション係数cj (k)で除算することにより平均化送信ウエイトを算出する。すなわち、平均化送受信ウエイト算出部120aでは、ダウンリンクのチャネル情報を取得することなく、直接、平均化送信ウエイトを算出している。
なお、式(30)では平均化受信ウエイトと平均化送信ウエイトを明示的に区別して説明するために、第k周波数成分の第jアンテナに関する平均化送信ウエイトをwT,j (k)、同様に平均化受信ウエイトをwR,j (k)と表記している。また、平均化受信ウエイトとして式(23)を用いる場合には、平均化送信ウエイトに関しては以下のように設定しても良い。
これは、平均化受信ウエイトに関してはアンテナ素子ごとに受信レベルが変動している場合に、平均化受信ウエイトベクトルを乗算して加算合成した後の信号のSNRを最大化するために平均化受信ウエイトベクトルの各成分の絶対値にばらつきを与えたが、ダウンリンクでの送信時にはこの効果を考慮する必要がなく、式(22)と同様に平均化送信ウエイトベクトルの各成分の絶対値を一定にすることが好ましく、式(31)ではこの意味で絶対値の逆数の係数を式(30)に乗算している。
図18は、変形例2における平均化送信ウエイトを算出する処理を示すフローチャートである。この平均化送信ウエイトを算出する処理は、図15に示したアップリンクのチャネル情報を基に平均化受信ウエイトを算出する処理の後に行われる処理である。
平均化送受信ウエイト算出部120aにおいて、平均化送信ウエイトを算出する処理が開始されると(ステップS151)、送信ウエイト算出回路126aが、受信ウエイト算出回路122から平均化受信ウエイトwR,j (k)を取得し、またキャリブレーション係数記憶回路124からキャリブレーション係数cj (k)を取得する(ステップS152)。
送信ウエイト算出回路126aは、平均化受信ウエイトwR,j (k)をキャリブレーション係数cj (k)で除算し、平均化送信ウエイトwT,j (k)を算出し(ステップS153)、算出した平均化送信ウエイトwT,j (k)を送信ウエイト記憶回路127に出力して記憶させ(ステップS154)、処理を終了する(ステップS155)。なお、式(31)を用いる場合には、平均化受信ウエイトwR,j (k)をキャリブレーション係数cj (k)で除算した後に、さらにその絶対値で除算する規格化する処理を追加しても良い。
上記の実施形態や変形例1における基地局装置10では、第2受信信号処理回路192が、空間多重伝送により同時に信号系列を基地局装置10に送信するL局の端末装置の組み合わせに応じたリアルタイム送信ウエイト行列WTを用いて、L系統の信号系列を生成する。平均化送信ウエイトベクトルは、例えば、各アンテナ素子101−1〜101−Kと各端末装置との間におけるチャネル情報に基づいて予め算出したものを用いる。
また、基地局装置10では、第1受信信号処理回路191−1〜191−Lにより生成されたL系統の信号系列を仮想的なL本のアンテナ素子で受信した信号とみなして、第2受信信号処理回路192が、L系統の信号系列に含まれる既知の信号(トレーニング信号やプリアンブル信号など)に基づいて、L局の端末装置と仮想的なL本のアンテナ素子との間のチャネル情報を取得する。また、第2受信信号処理回路192が、取得したチャネル情報に基づいてリアルタイム受信ウエイト行列WRを算出し、L系統の信号系列にリアルタイム受信ウエイト行列WRを乗算する。これにより、L系統の信号系列間に存在する干渉を抑圧することができる。第2受信信号処理回路192における処理の演算量は、空間多重数(L)に依存し、基地局装置10に備えられているアンテナ素子の数(K)に依存しない。
これにより、本実施形態の基地局装置10では、アンテナ素子数(K)を増大させることにより各端末装置間のチャネルベクトルの相関を低減させる場合においても、第2受信信号処理回路192における信号系列の直交化に要する演算量を空間多重数(L)に依存した演算量に保つことができる。すなわち、無線通信の利用状況に応じた負荷で、信号系列の直交化を行うことができ、安定した空間多重性を実現することができる。
なお、第1受信信号処理回路191−1〜191−Lにおいて用いる平均化受信ウエイトベクトルは、時変動するチャネル情報に基づいて算出されたものでもよく、事前に取得することができる。よって、空間多重伝送による無線通信を行っている最中に取得することは必ずしも必要ではないので、無線通信を行う際の負荷を低減することができる。なお、第1受信信号処理回路191−1〜191−Lにより得られるL系統の信号系列には、時変動などのチャネル情報の誤差により信号系列間の干渉成分が含まれる。しかし、リアルタイムの情報を用いる第2受信信号処理回路192における処理により十分に干渉成分を抑圧できる。
すなわち、第1受信信号処理回路191−1〜191−Lではチャネルの時変動によるチャネル情報の誤差を許容したK次元の平均化受信ウエイトベクトルの乗算を行い、第2受信信号処理回路192では空間多重伝送で利用するチャネルの時変動に追従する干渉抑圧のためのL×Lサイズのリアルタイム受信ウエイト行列を乗算する。これにより、平均化受信ウエイトベクトルを算出する演算負荷の増加を抑えつつ、基地局装置10のアンテナ素子の数を増加させることができ、少ない演算負荷で安定した空間多重特性を実現することができる。
また、基地局装置10では、第1送信信号処理回路193−1〜193−Lと第2送信信号処理回路194とが、第1受信信号処理回路191−1〜191−Lと第2受信信号処理回路192と同様に動作するため、送信処理においても同様の効果を得ることができる。
換言すると、基地局装置のアンテナ数を増大させることで各端末装置間のチャネルベクトルの相関が低減され、結果的に複数の端末装置を空間多重するとしても、その際の直交化ロスを大幅に低減することが可能であり、安定した空間多重特性を実現することが可能である。その一方で、送受信ウエイト算出の演算負荷は非冗長的なアンテナ数の場合と同様であり、すなわち回路規模を抑えハードウエアインパクトを低減しながらも、所望の特性を安定して期待することができる基地局装置を提供することが可能となる。この際、基地局装置と端末装置の間のチャネル情報に若干のチャネル時変動がある場合でも、その時変動に追従した送受信ウエイトをハードウエアによるリアルタイム処理が可能なレベルの簡易な演算で実現可能であり、若干の時変動が伴う環境でも安定したマルチユーザMIMOの空間多重処理が可能となる。一般に、MIMO伝送の信号検出処理は、(擬似)逆行列などを用いる線形信号処理では特性が悪く、演算量が膨大となるMLD(Most Likelihood Detection)法などの非線形の信号処理が求められることが多いが、本発明の信号処理によりL×Lサイズに圧縮されたリアルタイム送受信ウエイト行列では各行(又は列)ベクトルの相関が非常に小さく、線形処理に伴う特性劣化は非常に限られたレベルに抑えられ、安定した特性を期待することが可能となる。
[本発明に係る実施形態のその他の補足事項]
以下に、本発明に係る実施形態に関する幾つかの補足事項をまとめておく。
本発明における平均化送受信ウエイト算出に用いるアップリンクのチャネル推定においては、基本的には通常の通信に用いられるチャネル推定用のトレーニング信号を用いるが、基地局装置及び端末装置が固定設置されている場合などは、安定的な入射波のチャネルをサービス開始の運用前に取得しておくことも可能である。この場合、必ずしもトレーニング信号は通常の通信に用いられるチャネル推定用のトレーニング信号を用いる必要はなく、例えば図19に示すようなトレーニング信号を用いても良い。
図19は、本発明における平均化送受信ウエイト算出に用いるトレーニング信号の別の例を示す図である。同図において符号1−1〜1−3は一般的なOFDMシンボルを示し、符号2−1〜2−3はガードインターバルを含まない有効な信号領域を示し、符号3−1〜3−3は本発明におけるトレーニング信号を示し、符号4−1〜4−3は信号の末尾領域を示し、符号5−1〜5−3はガードインターバルを示し、符号6−1〜6−3は実際のチャネル推定に用いる信号周期を示している。なお、OFDM信号は、複数のサブキャリア成分を含むが、本図ではあるサブキャリア一つを抜き出して正弦波として図示している。
従来のOFDM信号であれば、OFDMシンボル(1−1〜1−3)周期の信号は、実際のデータとして有効な信号領域(2−1〜2−3)を生成し、この信号の末尾領域(4−1〜4−3)を信号の先頭領域にガードインターバル(5−1〜5−3)としてコピーして貼り付け、全体のOFDMシンボル(1−1〜1−3)を生成していた。通常の通信においては、ガードインターバルを取り除いた有効な信号領域(2−1〜2−3)の先頭部分のタイミングをタイミング検出により抽出し、そのタイミングを起点とした場合の振幅及び複素位相に関する情報をチャネル推定では取得する。
しかし、本発明の送受信ウエイトの算出においては各アンテナ素子の相対的な位相関係を取得できれば十分であるために、正確な初期複素位相の把握までは不要であり、OFDMシンボルの先頭のような適切なタイミングを起点とする必要はない。したがって、ガードインターバルを設定したOFDM信号である必要はなく、OFDMシンボルの有効な信号領域(2−1〜2−3)を取り出して連続させた信号であるトレーニング信号(3−1〜3−3)を多数回繰り返し送信すれば良い。ここで各区間は連続的につながっているために、この複数の周期に亘るトレーニング信号においては実質的にはシンボルタイミングというものは意味を成さない。平均化処理を行う場合には、受信側では受信したトレーニング信号(3−1〜3−3)に対してこの区切り位置とは異なる任意の開始タイミング、例えば実際のチャネル推定に用いる信号周期(6−1〜6−3)で信号を切り取り、区間6−1、区間6−2、区間6−3の信号に対して加算処理を行えばよい。
この際の回路的な変更点は、FFT回路108−1〜108−Kは通信制御回路110からの指示により上述のトレーニング信号を受信したと判断した場合には、A/D変換器107−1〜107−Kから入力された信号に対しガードインターバルを除去することを省略し、所定のタイミングで切り出したトレーニング信号(3−1〜3−3)に対しFFT処理を施し、当該デジタル・ベースバンド信号を周波数成分ごとの信号に分離し、当該信号を平均化送受信ウエイト算出部120に出力する。通常動作では当該信号を第1受信信号処理回路191−1〜191−Lにも出力していたが、このトレーニング信号は送信データを含まないので第1受信信号処理回路191−1〜191−L側への出力は不要になる。
また、通常のチャネル推定であれば、平均化処理は受信したトレーニング信号(3−1〜3−3)の個別の区間3−1、3−2、3−3ないしは6−1、6−2、6−3に対してFFT処理を施しチャネル推定を行い、その後に平均化処理を行うが、本トレーニング信号を用いる場合には、時間軸上の信号である個別の区間3−1、3−2、3−3ないしは6−1、6−2、6−3におけるサンプリングデータを対応するサンプル点同士で加算の後平均化することで、同様の平均化処理を実施することも可能である。この際、送信側と受信側において周波数誤差が存在する場合、その誤差が平均化処理において問題となる程度の大きさであれば、必要に応じて既存の周波数誤差の補正技術を追加で適用しても構わない。
また、上記の実施形態における基地局装置10では、アップリンクのチャネル情報からダウンリンクのチャネル情報を算出する際に、式(16)及び式(17)に示したキャリブレーション係数を用いる構成を説明した。しかし、先にも説明したが、ローノイズアンプ103−1〜103−K、フィルタ106−1〜106−K、ハイパワーアンプ148−1〜148−K、フィルタ147−1〜147−Kなどにおける周波数成分ごとの複素位相の回転量のアップリンクとダウンリンクとの間の相対値(複素位相の角度差)が全てのアンテナ素子に対応する回路で一定値になるようにアナログ的な信号処理で調整を行ってある場合(例えば、アップリンクとダウンリンクの複素位相が一定値となるように調整していても良い)、キャリブレーション係数を用いた処理を行う必要はない。この場合、ダウンリンクのチャネル情報を取得する処理(図14)は、省略することができ、上りリンクのチャネル情報とダウンリンクのチャネル情報とが等価になるので、平均化送信ウエイトと平均化受信ウエイトとは共通の値になる。この場合、ダウンリンクにおける平均化送信ウエイト算出に係わる回路と、アップリンクにおける平均化受信ウエイトの算出に係わる回路は共用化を図ることが可能である。
具体的には、第1及び第2実施形態における基地局装置10では、受信ウエイト算出回路122及び受信ウエイト記憶回路123が、平均化送信ウエイトと平均化受信ウエイトとの算出及び記憶を兼ねて行う構成となる。この結果、キャリブレーション回路125、送信ウエイト算出回路126、送信ウエイト記憶回路127、及びキャリブレーション係数記憶回路124が省略される。しかし、これに限ることなく、各実施形態における基地局装置10と同じ構成のままで、キャリブレーション係数をアンテナ素子及び周波数成分の全ての組み合わせにおいて「1」とみなして送信ウエイトを算出するようにしてもよい。
更にこの場合、各周波数成分の必ずしも全てのアンテナ素子において複素位相の回転量が同一(ないしは、キャリブレーション係数が1)である必要はなく、この条件が一部の少数のアンテナ素子において例外的に満たされない状況であっても、少なくとも半数以上のアンテナ素子でこの条件を満たしていれば、全体として本発明の意図する動作を実現することは可能である。
また、例えば図4に示す第1受信信号処理回路191−1〜191−Lの構成や、図5に示す第2受信信号処理回路192の構成、図8に示す第2送信信号処理回路194の構成、図9に示す第1送信信号処理回路193−1〜193−Lの構成、図3及び図17に示す平均化送受信ウエイト算出部121及び121aの構成などに代表される構成図では、特に複数の周波数成分に対する処理を明示的に記載していなかったが、個々の処理の説明で行ったように、これらの信号処理は全ての周波数成分に対して同様に実施されるものである。ただし実際の回路構成においては、その処理回路を周波数成分ごとに個別に実装しても良いし、単一の処理回路を周波数成分ごとに順番に使いまわして回路規模を圧縮しても良いし、その中間的な処理回路としても構わない。
また、OFDM変調方式では全てのサブキャリアが同一の端末装置との通信に利用されているので、その際の送受信ウエイト(平均化送受信ウエイトベクトル及びリアルタイム送受信ウエイト行列)は全サブキャリアで共通の組み合わせの端末装置に対する送受信ウエイトを用いることになる。しかし、OFDMAでは、時間軸及び周波数軸上にパッチワーク状に異なる組み合わせの端末装置への割り当てを寄せ集めているため、時間(OFDMシンボル)及び周波数(サブキャリア)ごとに、割り当てられている端末装置に対する送受信ウエイトを用いる必要がある。この場合には、第1受信信号処理回路191−1〜191−L、第2受信信号処理回路192、第1送信信号処理回路193−1〜193−L、及び第2送信信号処理回路194は、周波数及び時刻(シンボル)に関係なく同一の通信相手となる端末装置に対応しているというものではなく、ある各周波数成分ないしは各時刻(OFDMシンボル)に着目した場合に通信相手となる端末装置に対応していると理解すべきである。しかし、その差を除けばOFDMとOFDMAとは全く同様に処理することが可能であり、本明細書ではOFDMを中心に説明を行ったが、OFDMAにおいても全く同様に本発明を適用することができる。
また、SC−FDEに関しても様々な運用上のバリエーションが存在するが、送信側で平均化送信ウエイトを乗算し、各アンテナ素子から送信された信号が空間上で合成された後の受信信号処理、及び受信側で平均化受信ウエイトを乗算し、各アンテナ素子の信号が加算合成された後の受信信号処理のいずれにおいても、上述の各構成例では従来のSC−FDEで行われる処理をそのまま適用する構成としているために、全てのバリエーションのSC−FDEに適用可能である。
更に、平均化受信ウエイトを乗算した信号を複数のアンテナ素子に亘り加算合成する際に、必ずしも全てのアンテナ素子に亘り加算合成する必要はなく、全体の中の一部の複数のアンテナ素子に亘り加算合成を行ったとしても、全体として本発明の意図する動作を実現することは可能であり、結果として同様の効果を得ることができる。同様に、平均化送信ウエイトを乗算した複数の端末装置宛の信号をアンテナ素子ごとに加算合成する際においても、加算合成を全てのアンテナ素子に亘り実施せず、一部の複数のアンテナ素子において加算合成を行ったとしても、全体として本発明の意図する動作を実現することは可能である。
また、ダウンリンクのチャネル情報の取得方法としては、本明細書で示したアップリンクのチャネル情報を利用する方法の他に、ダウンリンクで基地局装置の各アンテナから順番に直接トレーニング信号を送信し、そのトレーニング信号を受信した端末装置が取得したチャネル情報を制御回線を用いてフィードバックする形で基地局装置に設定する方法も考えられる。ただし、本発明ではリアルタイム送受信ウエイト行列を取得する必要性から比較的頻繁にチャネル情報の交換を行うので、このようなダウンリンクのチャネル情報を制御回線を用いてフィードバックする方法はMAC効率の低下を招くことになり、あまり好ましい実施形態ではない。ただし、何らかの工夫を行うことができれば、このようにして取得したダウンリンクのチャネル情報を通信制御回路110から平均化送受信ウエイト算出部120内の送信ウエイト算出回路126に直接入力し、これを利用して送信ウエイトを算出する構成としても同様の効果を得ることは可能である。ただし、この場合であってもアップリンクのチャネル情報の取得においては各端末装置からのトレーニング信号の送信は必須であり、この点に関しては上述の本発明と全く同様である。
また同様に実施形態における基地局装置10では、図11及び図12に示すアップリンクのチャネル情報の相対成分の取得後の処理として、図13に示す平均化処理を行った後、図14に示すキャリブレーション処理によりダウンリンクのチャネル情報を取得し、これに続けて図15に示す平均化送受信ウエイト算出処理を行っていた。しかし、式(22)ないし式(23)で示すウエイトは単純な複素位相成分の抽出に相当するため、図11又は図12に示す相対成分の取得後に図15に示すウエイト算出処理を実施し、図13のステップS131−1〜S131−Qを個々の受信ウエイトの取得に読み替えて、ステップS133に示す平均化の対象をこの受信ウエイトに置き換えることでも近似的に同等の平均化受信ウエイトを取得することは可能である。つまり、各実施形態の構成例では平均化の対象となる物理量はチャネル情報の相対成分であったが、チャネル情報の相対成分から算出した受信ウエイトを平均化の対象となる物理量に置き換えることも可能である。
更に、図27に示した無線通信システムが具備する基地局装置の設置例では、端末装置12−1〜12−2は1本のアンテナを備えるものとして図示したが、端末装置が複数のアンテナを備えていたとしても同様の処理を行うことは可能である。原理的には、端末装置12−1〜12−2が複数本のアンテナを備えていれば、一つの端末局に複数の信号系列を空間多重することも可能である。この場合、端末装置12−1〜12−2の各アンテナを個々の端末局のアンテナ素子とみなすことで、本発明を同様に実施することが可能である。ただし、実施形態では端末装置12−1〜12−2と基地局装置のアンテナ素子13−1〜13−4は相互に見通し環境であることを想定しているため、一般的には基地局装置と一つの端末装置の間でMIMO伝送を行うことは困難(第2固有値以降がゼロに近づく)であることが多い。
そこで端末局が複数本のアンテナを備えている場合には、実際には単一信号系列の送受信を複数アンテナのダイバーシチ構成として運用するのが現実的である。この場合には、複数のアンテナを適当なウエイトで合成することで、仮想的な1本のアンテナとみなすことが可能であり、この仮想的な1本のアンテナとの間で同様の処理を実現すれば、全く同様に実施形態を適用することが可能である。
また更に、以上の動作原理及び各実施形態の説明の中では、各アンテナ素子に対応したチャネル情報や送受信ウエイトについて述べてきたが、各アンテナ素子のチャネル情報ないしは送受信ウエイトを成分として構成されるベクトルは、そのベクトルの示す方向が実効的な意味をもつ。このため、あるベクトルに所定の係数を乗算したベクトルは方向的には同一であるため、アンテナ素子ごとに一定の係数が乗算されたベクトルは乗算される係数に依存せずに全て等価な意味合いをもつことになる。
一方で、図27において示したように、基地局装置と端末装置のアンテナはそれぞれ見通し環境ないしは見通し環境に近い環境を想定しているため、各アンテナ素子で受信される信号の強度及び振幅は概ね一定の値となっていることが期待される。このため、例えば各アンテナ素子のチャネル情報のベクトルは、実効的にはベクトルの各成分の絶対値はそれほど大きな意味をもたず、チャネル情報の値を規格化した値(チャネル情報をその絶対値で除算して得られる複素数)が有意な情報となる。このため、以上の動作原理及びの説明の中で用いられた「チャネル情報」を、近似的に「チャネル情報の値を規格化した値」とみなした処理は各実施形態及び本発明の関連技術と全く等価なものであり、その意味で上述の「チャネル情報」とは広義の意味で「チャネル情報の値を規格化した値」までを含むものとする。
また更に、本明細書においては説明の都合上、「行ベクトル」と「列ベクトル」をあまり区別することなく扱っている。例えば、式(3)におけるチャネル情報ベクトルhiは行ベクトルであり、送信ウエイトベクトルwjは列ベクトルであり、ベクトルの並びの方向を統一する厳密な数学上の表記であれは「転置」などの記号などを使って表記すべきである。しかし、本発明の実施において必要な情報はベクトルの各成分の値であり、そのベクトルが行ベクトルか列ベクトルであるかはあまり意味をもたないため、理解の容易さを優先して「行ベクトル」と「列ベクトル」を区別しない説明としている。
なお、各実施形態における基地局装置の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより、送信ウエイト及び受信ウエイト、並びに送受信ウエイトを算出する処理を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウエアを含むものとする。また、「コンピュータシステム」は、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)を備えたWWWシステムも含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。更に「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(RAM)のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。
また、上記プログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)や電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良い。更に、前述した機能をコンピュータシステムに既に記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であっても良い。