なお、この明細書において、「記録」とは、文字、図形等有意の情報を形成する場合のみならず、有意無意を問わず、広く記録媒体上に画像、模様、パターン等を形成する、または媒体の加工を行う場合も表すものとする。また、人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かを問わない。
また、「記録媒体」とは、一般的な記録装置で用いられる紙のみならず、広く、布、プラスチック・フィルム、金属板、ガラス、セラミックス、木材、皮革等、インクを受容可能なものも表すものとする。
さらに、「インク」とは、上記「記録」の定義と同様広く解釈されるべきもので、記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成または記録媒体の加工、或いはインクの処理に供され得る液体を表すものとする。インクの処理としては、例えば記録媒体に付与されるインク中の色剤の凝固または不溶化させることが挙げられる。
またさらに、「記録素子」(「ノズル」という場合もある)とは、特にことわらない限り吐出口乃至これに連通する液路及びインク吐出に利用されるエネルギーを発生する素子を総括して言うものとする。
[第1の実施形態]
図1は、本実施形態のインクジェット記録装置(以下、単に記録装置ともいう)1の斜視図である。記録装置1は、インクを吐出可能な記録ヘッド3を着脱自在に搭載するキャリッジ2と、これを移動させて記録ヘッド3の走査を行うための駆動機構を備える。キャリッジ2は、駆動源であるキャリッジモータM1の駆動力がベルト、プーリなどからなる伝動機構4を介してキャリッジ2に伝えられることによりキャリッジ2を矢印A方向に往復移動させることができる。キャリッジ2には、記録装置1で用いるインクの種類に対応してインクカートリッジ6が着脱自在に搭載される。
また、記録媒体である記録紙Pを、キャリッジ2の移動方向と交差する方向に搬送する給紙機構5を備え、記録ヘッド3の走査に応じて記録紙Pを所定量で間欠送りする。さらに、記録装置1は、キャリッジ2の移動範囲の一端に記録ヘッド3の吐出回復処理を行うための回復装置10を備える。このような記録装置において、記録紙Pは給紙機構5の搬送動作によって記録ヘッド3の走査領域に送り込まれ、記録ヘッド3の走査によって記録紙Pに画像や文字などの記録が行なわれる。キャリッジ2は、キャリッジモータM1の駆動力を伝達する伝動機構4を構成する駆動ベルト7の一部に連結されており、ガイドシャフト13に沿って矢印A方向に摺動自在に案内支持されている。これにより、キャリッジモータM1の駆動力がキャリッジ2に伝達されて、キャリッジ2は移動することができる。この場合、キャリッジ2は、キャリッジモータM1の正転および逆転によってそれぞれ往方向または復方向の移動を行うことができる。スケール8は、キャリッジ2の矢印A方向における位置を検出するものであり、本実施形態では、透明なPETフィルムに所定のピッチで黒色のバーを記録したものを用いている。スケール8の一方はシャーシ9に固着され、他方は不図示の板バネで支持されている。そして、キャリッジ2に設けられる不図示のセンサがスケール8のバーを光学的に検出することにより、キャリッジ2の位置を検出することができる。
記録ヘッド3の吐出口列と対向する領域に不図示のプラテンが設けられており、プラテンによって平坦な面が維持された記録紙Pに対して記録ヘッド3の走査中にインクを吐出することにより記録が行われる。
記録ヘッド3は、記録信号に応じてエネルギーを発生することにより、複数の吐出口からインクを選択的に吐出して記録を行う。特に、本実施形態の記録ヘッド3は、熱エネルギーを利用してインクを吐出するインクジェット方式を採用している。そのため、記録ヘッド3は電気エネルギーを熱エネルギーに変換する電気熱変換体(記録素子)を備え、その熱エネルギーをインクに与えることにより膜沸騰を発生させる。そして、発生した膜沸騰による気泡の成長、収縮によって生じる圧力変化を利用して吐出口よりインクを吐出させる。この電気熱変換体は、各吐出口のそれぞれに対応して設けられ、各吐出口対応する電気熱変換体に記録信号に応じたパルス電圧を印加することによって、対応する吐出口からインクが吐出される。
搬送ローラ14は、不図示の搬送ローラ用モータM2によって駆動され、ピンチローラ15は、不図示のバネにより記録紙Pを搬送ローラ14とで挟持する。ピンチローラホルダ16はピンチローラ15を回転自在に支持する。また、ローラギア17は搬送ローラ14の一端に取り付けられ、この搬送ローラギア17に不図示の中間ギアを介して伝達された搬送モータM2の回転により、搬送ローラ14が駆動される。第2の排出ローラ20は排出ローラ用モータM3の回転が伝達されることで駆動され、記録ヘッド3によって記録された記録紙Pを装置外へと排出する。なお、第2の排出ローラ20には、不図示のバネの押圧力によって不図示の拍車が押圧されており、第2の排出ローラ20と拍車とで記録紙Pを挟持している。拍車ホルダ22は拍車を回転自在に支持している。
また、キャリッジ2が記録動作のために往復移動する範囲外の所定の位置(例えばホームポジションと対応する位置)には、記録ヘッド3の吐出性能を維持するための回復装置10が配設されている。この回復装置10は、記録ヘッド3の吐出口が備えられた面(吐出口面)をキャッピングするキャッピング機構11と、記録ヘッド3の吐出口面をクリーニングするワイピング機構12とを備えている。このキャッピング機構11による吐出口面のキャッピングに連動して、回復装置内の不図示の吸引機構(吸引ポンプ等)により吐出口からインクを強制的に排出させる。これによって、記録ヘッド3の吐出口内の増粘インクや気泡等を除去するなどの吐出回復処理を行う。また、非記録時等に、記録ヘッド3の吐出口面をキャッピングすることによって、記録ヘッド3を保護するとともにインクの乾燥を防止することができる。さらに、ワイピング機構12は、キャッピング機構11の近傍に配されており、記録ヘッド3の吐出口面に付着したインク滴を拭き取ることにより吐出口面のクリーニングを行う。そして、これらキャッピング機構11およびワイピング機構12により、記録ヘッド3を正常な吐出状態に保つことが可能となっている。
図2に、記録装置1の制御構成図を示す。パターン記憶メモリ201は、記録位置ずれを調整するためのパターンのデータを記憶しておくメモリである。パターン記憶メモリ201は、不揮発性メモリ(ROM)で構成されており、記録装置本体に内蔵されている。なお、パターン記憶メモリ201は、記録装置本体ではなくコンピュータなどの外部装置に備わっていても良い。その場合には、インターフェース207を介して、パターン記憶メモリ201に記憶したパターンのデータを転送することが可能である。
調整値記憶メモリ202は、記録位置ずれを調整するための調整値を記憶しておくメモリである。この調整値記憶メモリ202は、書き換え可能な不揮発性メモリ(EEPROM)で構成されており、記録装置本体に内蔵されている。なお、調整値記憶メモリ202は、パターン記憶メモリ201と同様に外部装置に備わっていても良い。また、ユーザー所望の記録データを記録する場合は、この調整値記憶メモリ202に記憶された調整値を適用して、記録ヘッド3の吐出タイミングを変更して記録を行う。パターン展開バッファ203は、パターン記憶メモリ201に記憶されたパターンを記録するためにパターンのデータを一時的に記憶保持する揮発性メモリ(RAM)で、記録装置本体に内蔵されている。上述したパターン記憶メモリ201に記憶されたパターンは、このパターン展開バッファ203に展開される。そして、制御装置204の指示により、記録ヘッド3はパターン展開バッファ203に展開されたパターンのデータに基づいて記録を実行する。
制御装置204は、記録装置本体に内蔵されており、演算処理、各装置間の連携、記録装置全体の制御を司る、いわゆるCPUやMPUに相当する。パターン読取装置205は、記録装置に搭載した発光体と受光体で構成された光学センサであり、記録媒体に記録されたパターンの濃度を電気的信号に変換して測定するために用いられる。このパターン読み取り装置(光学センサ)は、例えば、記録ヘッド3よりも搬送方向上流側のキャリッジ2上に設置されている。
図3を用いて、本実施形態における記録位置ずれの調整手順について説明する。
まず、ステップ301において、記録位置ずれを調整するための複数のパターンを記録媒体上に記録する。そして、ステップS302で、パターン読取装置205を用いて複数のパターンそれぞれの光学濃度を測定する。ステップS302により測定したパターンの光学濃度は一時的に保持し、ステップS303における調整値の算出(取得)の工程に用いる。
ステップS304で、全調整項目について調整値の取得が完了したか否かを判断する。同ステップにおいて、全調整項目の調整値取得が完了したと判断されれば、ステップS305により調整値記憶メモリ202に各調整項目の調整値を記憶し、以後の記録時には調整値に基づいて吐出タイミングが変更される。また、ステップS304において、全調整項目について調整値の取得が完了していないと判断されれば、ステップS301に戻り、調整値の取得が完了していない調整個目についてパターンの記録、濃度の読み取りを行って、調整値を取得する。
図4には、記録媒体Pに記録されるパターンのレイアウトを図示している。同図に示される401は双方向調整のための複数のパターン、402は列間調整のための複数のパターン、403は傾き調整のための複数のパターンであり、調整項目ごとに複数のパターンが記録される。例えば、双方向調整のためのパターンでは、記録ヘッドの往走査で基準ドットを記録し、復走査で調整ドットを記録する。また、列間調整のためのパターンでは、記録ヘッドの一方の走査において、第1ノズル列により基準ドットを記録し、第2ノズル列で調整ドットを記録する。なお、列間調整の対象となる2つのノズル列は、異なるインク色を吐出する2つのノズル列に限らず、同色のインクを吐出するノズル列が他界にノズル配列方向に半ピッチずれた2つのノズル列(ODD列、EVEN列)であっても構わない。また、傾き調整の場合は、基準ドットはノズル列の上流側ノズル群、調整ドットは下流側ノズル群を用いて記録する(上流側と下流側が逆でも構わない)。
さらに、各調整項目の複数のパターンでは、基準ドットの記録位置に対する調整ドットの記録位置の相対的なずれ量を異ならせている。本実施形態では、図4に示すように、ずれ量を“−2”から“+2”まで変化させて、各調整個目の複数のパターンを記録している。図4では、パターンの上側にそれぞれのずれ量を記録するようにしているが、省略することも可能である。
ここで、ずれ量について詳細に説明すると、ずれ量は、基準ドットの記録位置に対して調整ドットの記録位置を記録ヘッドの走査進行方向にずらす場合を“+”、走査進行方向とは逆方向にずらす場合を“−”として表現する。また、本実施形態の記録装置では、調整ドットの記録位置を4800dpi単位でずらすことが可能であり、“1”、“2”で表されるずれ量の大きさは、1/4800inch、2/4800inchとなっている。つまり、“+2”で表されるずれ量は、基準ドットの記録位置に対して調整ドットの記録位置を記録ヘッドの走査進行方向に2/4800inchずらしていることになる。
次に、図5を用いて、記録した複数のパターンに基づいて記録位置ずれを調整するための調整値を取得する手法について説明する。ここでは、記録ヘッドの往走査(X1方向の走査)と復走査(X2方向の走査)の記録位置ずれを調整する場合を例に説明する。
図5(A)は、記録位置ずれがないときに、ずれ量“0”で記録したパターンにおける基準ドット501および調整ドット502のドット配置を示している。同図に示されるように、記録位置ずれがなければ、基準ドット501も調整ドット502も理想的な位置に記録されて、基準ドット501と調整ドット502は理想的なドット配置となる。
図5(B),(C)には、実際に記録されるパターンの一例として、ずれ量“0”と“+1”の2つのパターンを図示する。図5(B)は、ずれ量“0”のパターンであり、記録位置ずれがなければ、基準ドット501も調整ドット502も理想的な位置に記録されるパターンである。しかし、記録位置ずれが発生しているために、同図に示されるとおり、復走査で記録される調整ドット502が基準ドット501に対して相対的に1/4800inchだけ右側にずれる。
このとき、図5(C)に示す、ずれ量“+1”のパターンは理想的なドット配置になっており、図5(A)の記録位置ずれがないときのドット配置と等しくなっている。これは、記録位置ずれによって調整ドット502が理想的な記録位置から右側に1/4800inchずれるのに対し、1/4800inchだけ復走査方向の走査進行方向に記録位置がずれるように記録ヘッドの吐出タミングを変更しているためである。つまり、記録位置ずれと吐出タイミングの変更分とが相殺し合うことで、ずれ量“+1”のパターンが理想的なドット配置となったのである。
したがって、複数のパターンの中から理想的なドット配置となるパターンを検知することにより、そのパターンを記録したときのずれ量を基に、記録位置ずれを調整するための調整値として取得することが可能になる。そして、取得した調整値に基づいて、記録時には復走査の吐出タイミングを変更し、往走査による記録位置と復走査による記録位置との相対的な位置関係を調整することができる。
また、傾き調整においては、上流側のノズル群を用いて往走査(X1)で基準ドット501を記録し、記録紙Pを搬送した後、下流側のノズル群を用いて往走査(X1)で調整ドット502を記録する。このとき、基準ドット501と調整ドット502との相対的なずれ量を異ならせて、複数のパターンを形成する。例えば、ずれ量“+1”のパターンが最も光学濃度が高い場合、このパターンが理想的なドット配置になっていることから、記録位置ずれによって調整ドット502が理想的な記録位置から走査反対方向に1/4800innchずれて記録されている。したがって、記録の際の吐出タイミングをこのずれ量に合わせて調整することで、記録位置ずれによる画像の悪化を軽減できる。
ステップS302では、パターン読取装置205を用いて記録した複数のパターンの光学濃度を測定する。そして、複数のパターンの中から最も光学濃度の高いパターンを選択することにより、上述の理想的なドット配置となっているパターンを検知することができる。なお、各パターンの濃度測定は、比較的広範囲の領域における平均濃度を測定し、これを各パターンの濃度として取得する方法が好適である。
また、複数のパターンの光学濃度から調整値を取得する手法としては、上述のように、最も光学濃度の高いパターンを選択する方法に限られるものではない。例えば、光学濃度の最も高いパターンを選択し、そのパターンの左側に記録された複数のパターンの光学濃度から直線近似や多項式近似によって近似直線または近似曲線を求める。同様に、右側に記録された複数のパターンについても、光学濃度から直線近似や多項式近似によって近似直線または近似曲線を求める。そして、2つの直線または曲線の交点から、記録位置ずれを調整するための調整値を取得するようにしても良い。
また、ここでは、基準ドット501と調整ドット502が重ならない位置関係にあるドット配置を理想的なドット配置としたが、基準ドット501と調整ドット502が重なる位置関係を理想的なドット配置としても良い。その場合には、複数のパターンの中から最も光学濃度の低いパターンを選択することにより、理想的なドット配置となっているパターンを検知することができる。
以下、本実施形態における記録位置ずれの調整方法の特徴について、詳細に説明する。
従来の記録位置ずれの調整方法では、ステップS301で複数のパターンを記録し、S302で濃度測定を行うという処理を調整項目ごとに行い、この処理を全調整項目について繰り返すことによって、全調整項目の調整値を取得するようにしていた。また、ステップS301において全調整項目のパターンを記録し、その後S302で光学濃度測定を行う場合であっても、ステップS301では調整項目ごとにパターンを完成させていた。
これに対し、本実施形態の記録位置ずれの調整方法では、ステップS301において、複数の調整項目のパターンを同時に記録することを特徴とする。なお、ここでの“同時に記録する”とは、複数の調整項目のパターンを記録するにあたり、複数の調整項目について同じタイミングで記録が開始され、同じタイミングで記録が終了することではない。ここでは、複数の調整項目のうち、第1調整項目のパターンを記録する期間と第2調整項目のパターンを記録する期間とが少なくとも一部重複していることである。
[双方向調整と列間調整]
まず、双方向調整と列間調整のパターンを同時に記録する例について説明する。図6は、双方向調整と列間調整のパターンを同時に記録するときの記録手順を説明する図である。
同図(A)において、601はマゼンタインクを吐出する第1ノズル列、602はシアンインクを吐出する第2ノズル列を模式的に示したもので、各ノズル列には256のノズルが備えられている。本例では、第1ノズル列の双方向調整のパターンと、第1ノズル列と第2ノズル列との列間調整のパターンの記録を行うものである。
第1調整項目であるマゼンタ列の双方向調整のパターンの記録には、マゼンタ列601のうち搬送方向上流側の端部から100ノズルのノズル群603を使用する。また、第2調整項目であるマゼンタ列601とシアン列602の列間調整のパターン記録には、マゼンタ列601のうち搬送方向上流側の端部から101番目のノズルから200番目のノズルまでの100ノズルから成るノズル群604を使用する。シアン列602についても、搬送方向に同じ位置のノズル群605を使用する。なお、第1調整項目のパターンを記録するためのノズル群603と第2調整項目のパターンを記録するためのノズル群604,605との搬送方向の間を空けるようにしても良い。
図6(B)は、記録ヘッドの1回目の走査として、第1、第2ノズル列を含む記録ヘッドを往方向(X1方向)に走査させた後の状態を図示している。1回目の走査では、マゼンタ列のノズル群603を用いて、第1調整項目のパターンの基準ドットを記録する。また、マゼンタ列のノズル群604を用いて第2調整項目のパターンの基準ドットを記録し、シアン列のノズル群605を用いて第2調整項目のパターンの調整ドットを記録する。
第1調整項目(マゼンタ列の双方向調整)のための複数のパターン606は、マゼンタ列によって基準ドットのみが記録されており、完成途中のパターンとなっている。一方、第2調整項目(マゼンタ列とシアン列の列間調整)のための複数のパターン607は、マゼンタ列によって基準ドットが記録され、シアンノズル列によって調整ドットが記録されており、完成されたパターンとなっている。
図6(C)は、記録ヘッドの2回目の走査として、第1、第2ノズル列を含む記録ヘッドを復方向(X2方向)に走査させた後の状態を図示している。2回目の走査では、マゼンタ列のノズル群603の復走査によって、第1調整項目のパターンの調整ドットを記録する。
第1調整項目(マゼンタ列の双方向調整)のための複数のパターン608は、マゼンタ列によって調整ドットが記録され、完成されたパターンとる。
以上で、双方向調整と列間調整のパターンの記録が完了する。
従来の記録位置ずれの調整方法では、調整項目ごとにパターンの記録を完成させていたので、記録ヘッドを何回も走査させる必要があり、その分パターンの記録に要する時間が長くかかっていた。上記のように、双方向調整と列間調整のパターンを記録する場合には、双方向調整のパターンに2走査を要し、列間調整のパターン記録に1走査を要するため、合計で記録ヘッドを3回走査させる必要があった。これに対し、本実施形態の調整方法では、複数の調整項目のパターンを同時に記録しているため、双方向調整と列間調整のパターンを記録する場合でも、合計で記録ヘッドを2回走査させれば、それぞれのパターンを完成させることができる。したがって、複数項目のパターンを調整するにあたり、パターンの記録に必要な時間を短縮させることが可能となった。
[2つの列間調整]
次に、2つの列間調整のパターンを同時に記録する例について説明する。図7は、2つの列間調整のパターンを同時に記録するときの記録手順を説明する図である。
同図(A)において、701はマゼンタインクを吐出する第1ノズル列、702はシアンインクを吐出する第2ノズル列、703はイエローインクを吐出する第3ノズル列を模式的に示したもので、各ノズル列には256のノズルが備えられている。本例では、第1ノズル列と第2ノズル列の列間調整のパターンと、第2ノズル列と第3ノズル列の列間調整のパターンの記録を行うものである。
第1調整項目であるマゼンタ列とシアン列の列間調整のパターンの記録には、マゼンタ列701のうち搬送方向上流側の端部から100ノズルのノズル群704と、シアン列702のうち搬送方向上流側の端部から100ノズルのノズル群705を使用する。また、第2調整項目であるシアン列とイエロー列の列間調整のパターンの記録には、シアン列702のうち搬送方向上流側の端部から101番目のノズルから200番目のノズルまでの100ノズルから成るノズル群706を使用する。イエロー列703については、イエロー列703のうち搬送方向上流側の端部から101番目のノズルから200番目のノズルまで100ノズルから成るノズル群707を使用する。なお、第1調整項目のパターンを記録するためのノズル群704、705と第2調整項目のパターンを記録するためのノズル群706,707との搬送方向の間を空けるようにしても良い。
図7(B)は、記録ヘッドの1回目の走査として、第1、第2、第3ノズル列を含む記録ヘッドを往方向(X1方向)に走査させた後の状態を図示している。1回目の走査で、マゼンタ列のノズル群704を用いて第1調整項目のパターンの基準ドットを記録し、シアン列のノズル群705を用いて第1調整項目のパターンの調整ドットを記録する。また、シアン列のノズル群706を用いて第2調整項目のパターンの基準ドットを記録し、イエロー列のノズル群707を用いて第2調整項目のパターンの調整ドットを記録する。
第1調整項目(マゼンタ列とシアン列の列間調整)のための複数のパターン708は、マゼンタ列によって基準ドットが記録され、シアン列によって調整ドットが記録されており、完成されたパターンとなっている。また、第2調整項目(シアン列とイエロー列の列間調整)のための複数のパターン709は、シアン列によって基準ドットが記録され、イエロー列によって調整ドットが記録されており、完成されたパターンとなっている。
以上で、2つの列間調整のパターンの記録が完了する。
従来の記録位置ずれの調整方法では、2つの列間調整のパターンを記録する場合には、それぞれの列間調整のパターンに1走査を要し、合計で記録ヘッドを2回走査させる必要があった。これに対し、本実施形態の調整方法では、複数の調整項目のパターンを同時に記録しているため、2つの列間調整のパターンを記録する場合でも、記録ヘッドを1回走査させれば、それぞれのパターンを完成させることができる。したがって、複数項目のパターンを調整するにあたり、パターンの記録に必要な時間を短縮させることが可能となった。
[2つの双方向調整と列間調整]
次に、2つの双方向調整と列間調整の合計3パターンを同時に記録する例について説明する。図8は、2つの双方向調整と列間調整の3パターンを同時に記録するときの記録手順を説明する図である。
同図(A)において、801はマゼンタインクを吐出する第1ノズル列、802はシアンインクを吐出する第2ノズル列を模式的に示したもので、各ノズル列には256のノズルが備えられている。本例では、第1ノズル列の双方向調整のパターン、第2ノズル列の双方向調整のパターン、第1ノズル列と第2ノズル列との列間調整のパターンの記録を行うものである。
第1調整項目であるマゼンタ列の双方向調整のパターンの記録には、マゼンタ列801のうち搬送方向上流側の端部から75ノズルのノズル群803を使用する。また、第2調整項目であるシアン列802のうち搬送方向上流側の端部から76番目のノズルから150番目までの75ノズルのノズル群804を使用する。また、第3調整項目であるマゼンタ列801とシアン列802の列間調整のパターン記録には、マゼンタ列801のうち搬送方向上流側の端部から151番目のノズルから225番目のノズルまでの75ノズルから成るノズル群805を使用する。シアン列802についても、シアン列802のうちノズル群805と搬送方向に同じ位置のノズル群806を使用する。なお、ノズル群803,804とノズル群805,806との搬送方向の間を空けるようにしても良い。
図8(B)は、記録ヘッドの1回目の走査として、第1、第2ノズル列を含む記録ヘッドを往方向(X1方向)に走査させた後の状態を図示している。1回目の走査では、マゼンタ列のノズル群803を用いて第1調整項目のパターンの基準ドットを記録する。また、シアン列のノズル群804を用いて第2調整項目のパターンの基準ドットを記録する。さらに、マゼンタ列のノズル群805を用いて第3調整項目のパターンの基準ドットを記録し、シアン列のノズル群806を用いて第3調整項目のパターンの調整ドットを記録する。
第1調整項目(マゼンタ列の双方向調整)のための複数のパターン807は、マゼンタ列によって基準ドットのみが記録されており、完成途中のパターンとなっている。また、第2調整項目(シアン列の双方向調整)のための複数のパターン808は、シアン列によって基準ドットのみが記録されており、完成途中のパターンとなっている。さらに、第3調整項目(マゼンタ列とシアン列の列間調整)のための複数のパターン809は、マゼンタ列によって基準ドットが記録され、シアンノズル列によって調整ドットが記録されており、完成されたパターンとなっている。
図8(C)は、記録ヘッドの2回目の走査として、第1、第2ノズル列を含む記録ヘッドを復方向(X2方向)に走査させた後の状態を図示している。2回目の走査では、マゼンタ列のノズル群803を用いて第1調整項目のパターンの調整ドットを記録する。また、シアン列のノズル群804を用いて第2調整項目のパターンの調整ドットを記録する。
第1調整項目(マゼンタ列の双方向調整)のための複数のパターン810は、マゼンタ列によって調整ドットが記録され、完成されたパターンとなる。第2調整項目(シアン列の双方向調整)のための複数のパターン811は、シアン列によって調整ドットが記録され、完成されたパターンとなる。
以上で、2つの双方向調整と列間調整のパターンの記録が完了する。
従来の記録位置ずれの調整方法では、上記のように、2つの双方向調整と列間調整のパターンを記録する場合には、2つの双方向調整のパターンに4走査を要し、列間調整のパターン記録に1走査を要するため、合計で記録ヘッドを5回走査させる必要があった。これに対し、本実施形態の調整方法では、複数の調整項目のパターンを同時に記録しているため、2つの双方向調整と列間調整のパターンを記録する場合でも、合計で記録ヘッドを2回走査させれば、それぞれのパターンを完成させることができる。したがって、複数項目のパターンを調整するにあたり、パターンの記録に必要な時間を短縮させることが可能となった。
[双方向調整と傾き調整]
次に、双方向調整と傾き調整のパターンを記録する例について説明する。図9は、双方向調整と傾き調整のパターンを同時に記録するときの記録手順を説明する図である。
同図(A)において、901はマゼンタインクを吐出する第1ノズル列を模式的に示したもので、第1ノズル列には256のノズルが備えられている。本例では、第1ノズル列の双方向調整のパターンと傾き調整のパターンを記録するものである。
第1調整項目であるマゼンタ列の双方向調整のパターンの記録には、マゼンタ列901のうち搬送方向上流側の端部から79番目のノズルから178番目までの100ノズルのノズル群902を使用する。また、第2調整項目である傾き調整のパターン記録には、マゼンタ列901のうち搬送方向上流側から50ノズルのノズル群903と、搬送方向下流側から50ノズルのノズル群904とを使用する。
図9(B)は、記録ヘッドの1回目の走査として、第1ノズル列を含む記録ヘッドを往方向(X1方向)に走査させた後の状態を図示している。1回目の走査では、マゼンタ列のノズル群903を用いて第1調整項目(双方向調整)のパターンの基準ドットを記録する。また、マゼンタ列のノズル群902が用いて第2調整項目のパターンの基準ドットを記録する。第1調整項目(マゼンタ列の双方向調整)のための複数のパターン905は、マゼンタ列によって基準ドットのみが記録されており、完成途中のパターンとなっている。また、第2調整項目(傾き調整)のための複数のパターン906も、マゼンタ列によって基準ドットのみが記録されており、完成途中のパターンとなっている。
図9(C)は、記録ヘッドの2回目の走査として、第1ノズル列を含む記録ヘッドを復方向(X2方向)に走査させた後の状態を図示している。なお、1回目の走査終了から2回目の走査開始までに、記録紙Pは搬送方向(Y方向)に搬送されていない。マゼンタ列のノズル群903を用いて第1調整項目(双方向調整)のパターンの調整ドットを記録する。第1調整項目(マゼンタ列の双方向調整)のための複数のパターン907は、マゼンタ列によって調整ドットが記録され、完成されたパターンとなる。
図9(D)は、記録ヘッドの3回目の走査として、第1ノズル列を含む記録ヘッドを往方向(X1方向)に走査させた後の状態を図示している。なお、2回目の走査終了から3回目の走査開始までに、本双方向(Y方向)に記録紙Pを216ノズル分だけ搬送している。3回目の走査では、マゼンタ列のノズル群904を用いて第2調整項目(傾き調整)のパターンの調整ドットを記録する。第2調整項目(傾き調整)のための複数のパターン910は、マゼンタ列によって調整ドットが記録され、完成されたパターンとなる。
従来の記録位置ずれの調整方法では、上記のように、双方向調整と傾き調整のパターンを記録する場合には、双方向調整のパターンに2走査を要し、傾き調整のパターン記録に2走査を要するため、合計で記録ヘッドを4回走査させる必要があった。これに対し、本実施形態の調整方法では、複数の調整項目のパターンを同時に記録しているため、双方向調整と傾き調整のパターンを記録する場合でも、合計で記録ヘッドを3回走査させれば、それぞれのパターンを完成させることができる。したがって、複数項目のパターンを調整するにあたり、パターンの記録に必要な時間を短縮させることが可能となった。
以上説明してきたように、本実施形態では、複数の調整項目のパターンを同時に記録することにより、記録位置ずれを調整するためのパターンを記録するのに必要な時間を短縮することが可能となる。
なお、本実施形態が適用される調整項目の組み合わせは上述の組み合わせに限られず、その他の種々の組み合わせにおいても本実施形態は適用可能ある。
また、上述の説明からも明らかなように、同時に記録する調整項目が多いほど、従来の方法に比べて、パターンの記録に要する時間を短縮することができる。しかし、同時に記録する調整項目が多いほど、パターンの搬送方向のサイズは小さくなってしまう。そのため、光学センサの取り付け誤差等があると、光学センサがパターン以外の部分の光学濃度を測定し、正確な調整値が取得できなくなるなどの不具合が生じる。
また、本実施形態は、光学センサを備えない記録装置にも適用可能である。この場合、複数のパターンの中から最も濃度の高いパターンをユーザが目視で選択し、そのパターンの情報を操作部から入力することにより光学濃度の情報を得る等の構成とすることが好ましい。この構成において、パターンのサイズが小さすぎると、ユーザが複数のパターンにおける濃度差を認識し難くなるという不具合が生じる。
したがって、ステップS301において、同時に記録される調整項目の数は、上記の事情等を考慮して、パターンのサイズが小さすぎることがないように設定されていることが好ましい。
また、本実施形態は、全ての調整項目が他のいずれかの調整項目と同時に記録されなければならないものはない。つまり、全調整項目の少なくとも一部の調整項目について、同時に記録されるようにすればよい。
[第2の実施形態]
以下、本発明の第2の実施形態について説明を行う。なお、第1の実施形態と同一の構成については説明を省略し、本実施形態の特徴を中心に説明を行う。
本実施形態の特徴は、パターン読み取り装置(光学センサ)の状態やユーザの入力指示等に応じて、同時に記録する調整項目の組み合わせや数を変更することにある。すなわち、第1の実施形態では、同時に記録する調整項目の組み合わせや数が予め定められていたのに対し、本実施形態では、記録位置ずれのパターンを記録する命令が発生するごとに、同時に記録する調整項目の組み合わせや数を決定する。
図10には、本実施形態における、同時に記録する調整項目数を決定するフローを図示している。
図10において、ステップS1001において、パターンサイズを設定する。ここでは、パターン1個あたりの、搬送方向のサイズを設定する。このサイズ設定手法の詳細については後述するが、例えば、光学センサの状態として光学センサの取り付け誤差を補正する補正処理の実施有無、またはユーザの入力指示等に応じて決定される。
次に、ステップS1002で、以下の(式1)を用いて、同時に記録する調整項目数(num)を算出する。
num=Int(N/n)・・・(式1)
ただし、Int(a/b)はaをbで除算した数値の整数部、Nはノズル列のノズル数、nはパターン1個あたりの搬送方向のサイズである。
ステップS1003では、先のステップS1002で算出された同時記録の調整項目数に従って、記録位置ずれ用のパターンを記録する。また、同ステップでは、パターン読み取り装置205を用いて、記録したパターンの光学濃度を測定する。
続いて、ステップS1004において、全調整項目について調整値の取得が完了したか否かを判断する。同ステップにおいて、全調整項目の調整値取得が完了したと判断されれば、ステップS1005により調整値記憶メモリ202に各調整項目の調整値を記憶し、以後の記録時には調整値に基づいて吐出タイミングが変更される。
ステップS1004において、全調整項目について調整値の取得が完了していないと判断されれば、ステップS1003に戻り、調整値の取得が完了していない調整個目についてパターンの記録、濃度の読み取りを行って、調整値を取得する。
以上のように、本実施形態によれば、記録位置ずれを調整するための調整値を取得する処理を実行するたびに、同時に記録する調整項目数を決定する。例えば、デフォルトとして2つの双方向調整と列間調整が同時に記録されるように設定されている場合にも、図10に示すフローによって、2つの双方向調整のみが同時に記録されるように設定され直す処理が行われる。これにより、光学センサの状態またはユーザの好みに合わせて、記録位置ずれ用のパターンを記録できるようになる。
以下、本実施形態における、パターンサイズの設定手法について説明を行う。本実施形態では、光学センサの状態として光学センサの取り付け誤差を補正する補正処理の実施有無に応じて、パターンサイズを設定する。また、ユーザの目視によって各調整項目のパターンの濃度測定を行う場合には、ユーザの入力指示に応じてパターンサイズが決定される。
まず、光学センサの取り付け誤差を補正する補正処理の実施有無に基づいて、パターンサイズを設定する手法について説明する。
光学センサの取り付け誤差の補正処理についてまず説明を行うと、処理の最初の工程として、まず記録紙P上にパターンを記録する。
図11は、記録紙P上に記録されたパターンの配置を説明するための図である。同図において、記録紙P上に記録された5つのパターン1101は、縦横のサイズがそれぞれ64ドット相当、記録デューティが例えば50%のパターンである。また、5つのパターン1101は、搬送方向(Y方向)にそれぞれ5ドット相当ずつずれて配置されている。
次に、光学センサを搭載したキャリッジを走査させて、先ほど記録した5つのパターン1101の光学濃度を測定する。光学センサの取り付け誤差がなければ、光学センサが中央のパターンを読み取る際は、パターン内だけを読み取ることができるようになっている。一方、中央以外のパターンは中央のパターンに対し搬送方向にずれて配置されているために、これらのパターンを読み取る際は、パターン内だけでなく記録紙の部分も読み取ることになる。そのため、光学センサの取り付け誤差がない場合、パターン内だけが読み取られる中央のパターンが最も濃度の高いパターンとして測定される。
仮に、搬送方向の上流方向に10ドット相当ずらして形成したパターンが最も光学濃度の高いパターンとして検出されれば、光学センサの取り付け位置が放送方向の上方向に10ドット分相当ずれていることが判断できる。そこで、光学センサの取り付け位置の誤差分を考慮して、パターンの記録に使用されるノズルの使用範囲をずらす、または記録紙Pの搬送量を変更するなどの処理を行う。
以上、光学センサの取り付け位置の誤差の補正処理により、取り付け位置の誤差を軽減し、パターンの読み取り精度を向上させることが可能となる。
次に、上述の補正処理の実施の有無に応じたパターンサイズの設定方法について説明を行う。
上述した補正処理を実施することにより、光学センサの取り付け位置の誤差を軽減することができ、記録位置ずれの調整用パターンから高い精度で調整値を取得できるようになる。そのため、取り付け位置の誤差を補正する補正処理を実施した後、記録位置ずれを調整する調整値を取得する処理を行うことが好ましい。しかしながら、ユーザが上述の補正処理を行わないなど、補正処理が実施されていない状態で、記録位置ずれ用パターンの記録、パターンの濃度測定が行われることも考えられる。そこで、光学センサの取り付け位置の誤差が補正されていなくとも、比較的精度良くパターンの濃度測定ができるように、予め大きなサイズの記録位置ずれ用パターンを記録するように構成されている。
しかし、取り付け位置の誤差の補正処理が実施されれば、記録位置ずれ用のパターンは、デフォルトのサイズほど大きく記録しなくとも、精度良く調整値を取得することができる。そこで、本実施形態では、上述の光学センサの取り付け位置の誤差の補正処理有無に従い、補正が実施されている場合にはサイズを小さくするように、記録位置ずれ用のパターンサイズを設定している。
また、記録装置に光学センサが備えられていない場合には、ユーザの目視によって、複数のパターンから最も濃度が高いもしくは低いパターンを選択することになる。しかし、パターンサイズが小さすぎると、複数のパターンそれぞれの濃度差を認識し難くなるため、ユーザに合わせてパターンのサイズを変更できるようにすることが好ましい。その場合、ユーザがホスト装置(PC等)または記録装置本体に設けられた操作部を使用して、パターンサイズに関する情報を設定できる構成とすれば良い。
なお、上述の説明において、ステップS1001において、パターンそれぞれの主走査方向のサイズは、固定サイズとして変更されないようにしても良いし、搬送方向のサイズ変更に合わせて変更されるようにしても良い。