JP2011173124A - フェライト系ステンレス鋼の溶接方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】シールドガスを用いてステンレス鋼を溶接する際に、TIG溶接での溶接部裏面のバックシールドガスにArガスを用いるのが一般的である。一方で、製造コスト低減のためにArバックシールドガス以外のガスを用いることも難しい状況にある。
【解決手段】シールドガスを用いてステンレス鋼を溶接する際に、溶接部裏面のバックシールドガスにArガスに窒素ガスを含有させた不活性ガスを用いることを特徴とする溶接部裏面の耐食性低下を抑制したフェライト系ステンレス鋼の溶接方法。
【選択図】なし
【解決手段】シールドガスを用いてステンレス鋼を溶接する際に、溶接部裏面のバックシールドガスにArガスに窒素ガスを含有させた不活性ガスを用いることを特徴とする溶接部裏面の耐食性低下を抑制したフェライト系ステンレス鋼の溶接方法。
【選択図】なし
Description
本発明は、耐食性が要求されるフェライト系ステンレス鋼板のTIG溶接施工機器の溶接方法に関するものである。
電気温水器や貯湯槽などの温水容器の材料としてフェライト系ステンレス鋼のSUS444(低C、低N、18〜19Cr−2Mo−Nb、Ti系鋼)が広く用いられている。SUS444は温水環境での耐食性向上を主目的に開発された鋼種である。
温水容器は、構成部材の胴と鏡をTIG溶接により接合する溶接構造が主流である。溶接構造の温水容器を上水の温水環境で使用すると、溶接トーチ面の裏面で腐食が生じやすい。SUS444の素材では腐食形態が孔食であるときには再不動態化しやすく、孔食が成長するケースは稀である。しかし、溶接部で酸化スケール(溶接スケール)が存在すると再不動態化しにくく、とくに溶接裏面では腐食が成長し板厚を貫通して漏水に至ることもある。このため、温水容器では容器内面の溶接部が溶接表面となるように施工されるが、缶体の構造上、一部の溶接部位で腐食しやすい溶接裏面部が容器内面となるため、酸化スケールの形成をできるだけ避ける目的でバックガスシールが採用されている。
上記のように、温水容器をTIG溶接により製造する際には、溶接部の耐食性低下を小さくするため、Arバックシールドガスを行って溶接部裏面の酸化を抑制する対策が採られている。一方、温水缶体の需要が増すにつれ、缶体の製造コスト低減は温水器メーカーの重要な課題であり、Arガス費低減は大きな課題の一つとなってきた。
特許文献1には鏡への胴の挿入深さを20mmまでとし、隙間腐食の発生を避けた構造の温水器用ステンレス鋼製缶体が記載され、鋼種としてはSUS444相当鋼が記述されている。しかし、発明者らの調査によれば溶接で耐食性が低下する熱影響部は溶接金属部から概ね10mm程度までの範囲であるため、上記構造にしてもArバックガスシールを省略すると耐食性向上効果は不十分である。
特許文献2にはTiとAlを複合添加することにより溶接時のCrの酸化ロスを抑制し、溶接部での耐食性低下を改善したフェライト系ステンレス鋼が記載されている。この鋼を使用することにより温水容器の耐食性レベルを大きく向上させることが可能になった。しかし、この鋼の場合も、Arバックシールドガスを行わないTIG溶接ではCrの酸化ロスを十分に抑制することはできず、溶接部の耐食性の大幅な低下は避けられない。
特許文献3〜5には、アークシールドガスのArに窒素、もしくは窒素とヘリウムを加えた溶接方法が開示されている。
特許文献3は、フェライト・オーステナイトの2相ステンレス鋼の溶接が対象で、シールドガスに窒素ガスを含有させることで溶接金属のオーステナイト相を調整し溶接金属の耐食性向上を図ったもの。特許文献4も被溶接材はフェライト・オーステナイトの2相ステンレス鋼で、シールドガスに窒素ガス等を含有させて溶接性、溶接金属の耐食性および溶接棒の消耗抑制を図ったもの。特許文献5は、溶接材料とシールドガス組成を規制したMIG溶接方法に関するものである。被溶接材は、窒素を多く含有するフェライト・オーステナイトの2相ステンレス鋼およびオーステナイト系ステンレス鋼であり、溶接金属でのブローホール発生の抑制を図ったものである。
これら先行技術は、窒素を加えたシールドガスで溶接金属の組成制御を図ったものである。したがって、シールドガス組成の効果はトーチ側で用いた場合に発現し、必須である。
一方、本件発明の被溶接材はフェライト系ステンレス鋼であり、さらに溶接裏面の溶接熱影響部の耐食性改善を図るために溶接裏面のシールドガス組成を規定するものである。
特許文献3は、フェライト・オーステナイトの2相ステンレス鋼の溶接が対象で、シールドガスに窒素ガスを含有させることで溶接金属のオーステナイト相を調整し溶接金属の耐食性向上を図ったもの。特許文献4も被溶接材はフェライト・オーステナイトの2相ステンレス鋼で、シールドガスに窒素ガス等を含有させて溶接性、溶接金属の耐食性および溶接棒の消耗抑制を図ったもの。特許文献5は、溶接材料とシールドガス組成を規制したMIG溶接方法に関するものである。被溶接材は、窒素を多く含有するフェライト・オーステナイトの2相ステンレス鋼およびオーステナイト系ステンレス鋼であり、溶接金属でのブローホール発生の抑制を図ったものである。
これら先行技術は、窒素を加えたシールドガスで溶接金属の組成制御を図ったものである。したがって、シールドガス組成の効果はトーチ側で用いた場合に発現し、必須である。
一方、本件発明の被溶接材はフェライト系ステンレス鋼であり、さらに溶接裏面の溶接熱影響部の耐食性改善を図るために溶接裏面のシールドガス組成を規定するものである。
上述のように、昨今の温水容器においては、TIG溶接で製造する際にArバックシールドガスを実施している。一方、製造コスト低減としてArガス以外のシールドガスを用いることも難しい状況にある。
本発明は、このような現状に鑑み、Arバックシールドを前提とした缶体の製造コスト低減ならびに溶接部裏面の熱影響部のFe系酸化皮膜を抑制し、耐食性を高めたフェライト系ステンレス鋼のTIG溶接方法を提供することを目的とする。
本発明は、このような現状に鑑み、Arバックシールドを前提とした缶体の製造コスト低減ならびに溶接部裏面の熱影響部のFe系酸化皮膜を抑制し、耐食性を高めたフェライト系ステンレス鋼のTIG溶接方法を提供することを目的とする。
発明者らは上記目的を達成すべく詳細な研究を行った結果、以下の知見を得た。
(i)溶接部の耐食性は、酸化スケール(溶接スケール)の性状に依存する。とくに溶接裏面の溶接ボンドから5mm程度離れた500〜600℃に加熱された位置の溶接熱影響部で腐食が厳しく問題となる。孔食は、スケール中のCr濃度が低下し、Fe2O3濃度の高い部位で生じる。
(ii)バックシールドガスとしてArガスに窒素ガスを添加することで、該当部位の耐性が向上する理由は明らかではないが、窒素ガスを添加することでTIG溶接裏面の熱影響部のFe系酸化皮膜を抑制し、耐食性改善が図れたと推測される。これは、窒素添加では酸素ポテンシャルを上げてCrのみ酸化物として安定となる領域になっているためと考えられる。とくに18質量%を超えるCr含有量を確保して基本的耐食性レベルを向上させた鋼でその効果が大きい。
本発明はこのような知見に基づいたフェライト系ステンレス鋼板のTIG溶接方法を提供するものである。
(i)溶接部の耐食性は、酸化スケール(溶接スケール)の性状に依存する。とくに溶接裏面の溶接ボンドから5mm程度離れた500〜600℃に加熱された位置の溶接熱影響部で腐食が厳しく問題となる。孔食は、スケール中のCr濃度が低下し、Fe2O3濃度の高い部位で生じる。
(ii)バックシールドガスとしてArガスに窒素ガスを添加することで、該当部位の耐性が向上する理由は明らかではないが、窒素ガスを添加することでTIG溶接裏面の熱影響部のFe系酸化皮膜を抑制し、耐食性改善が図れたと推測される。これは、窒素添加では酸素ポテンシャルを上げてCrのみ酸化物として安定となる領域になっているためと考えられる。とくに18質量%を超えるCr含有量を確保して基本的耐食性レベルを向上させた鋼でその効果が大きい。
本発明はこのような知見に基づいたフェライト系ステンレス鋼板のTIG溶接方法を提供するものである。
本発明の具体的な構成は、以下の通りである。
(1)シールドガスを用いてステンレス鋼を溶接する際に、溶接部裏面のバックシールドガスにArガスに窒素ガスを混合させた不活性ガスを用いることを特徴とする溶接部裏面の耐食性低下を抑制したフェライト系ステンレス鋼の溶接方法。
(2)混合ガス中の窒素濃度が20〜80体積%であることを特徴とする、上記(1)に記載のフェライト系ステンレス鋼の溶接方法。
(3)Cr量が質量%で16〜26%のフェライト系ステンレス鋼の溶接に適用することを特徴とする、上記(1)または(2)に記載の溶接方法。
(4)質量%で
C:0.02%以下、
Si:3%以下、
Mn:1%以下、
P:0.04%以下、
S:0.03%以下、
Ni:4%以下、
Cr:16〜26%、
Mo:2%以下、
N:0.025%以下、
さらに、Nb:0.05〜0.6%、Ti:0.05〜0.4%、Al:0.02〜0.3%の1種もしくは1種以上を含み、残部Feおよび他の不可避的不純物からなるフェライト系ステンレス鋼の溶接に適用することを特徴とする、(1)乃至(3)に記載の溶接方法。
(1)シールドガスを用いてステンレス鋼を溶接する際に、溶接部裏面のバックシールドガスにArガスに窒素ガスを混合させた不活性ガスを用いることを特徴とする溶接部裏面の耐食性低下を抑制したフェライト系ステンレス鋼の溶接方法。
(2)混合ガス中の窒素濃度が20〜80体積%であることを特徴とする、上記(1)に記載のフェライト系ステンレス鋼の溶接方法。
(3)Cr量が質量%で16〜26%のフェライト系ステンレス鋼の溶接に適用することを特徴とする、上記(1)または(2)に記載の溶接方法。
(4)質量%で
C:0.02%以下、
Si:3%以下、
Mn:1%以下、
P:0.04%以下、
S:0.03%以下、
Ni:4%以下、
Cr:16〜26%、
Mo:2%以下、
N:0.025%以下、
さらに、Nb:0.05〜0.6%、Ti:0.05〜0.4%、Al:0.02〜0.3%の1種もしくは1種以上を含み、残部Feおよび他の不可避的不純物からなるフェライト系ステンレス鋼の溶接に適用することを特徴とする、(1)乃至(3)に記載の溶接方法。
本発明のフェライト系ステンレス鋼の溶接方法を使用することで、溶接施工機器の温水環境における溶接裏面の熱影響部の耐食性改善が製造コストの低減とともに図れる。特に、TIG溶接によって形成された溶接部を無手入れのまま高温の上水に曝して使用した場合でも、長期間優れた耐食性が維持される。また、溶接施工性を損なうことなく機器の溶接が行える。
1 TIGトーチ
2 押さえボルト
3 押さえ治具
4 拘束治具
5 バックシールドガス挿入管
6 試験片
11 試験液槽
12 ホルダー
13 試験片
2 押さえボルト
3 押さえ治具
4 拘束治具
5 バックシールドガス挿入管
6 試験片
11 試験液槽
12 ホルダー
13 試験片
本発明の特徴は、前述の通りバックシールドガスとしてArガスに窒素ガスを添加することにある。TIG溶接裏面の熱影響部のFe系酸化皮膜を抑制し、耐食性を改善するためには、混合ガス中の窒素濃度は20〜80体積%であることが望ましい。20%より低濃度では窒素の効果が十分に発揮されず、Fe系酸化物の発生が抑制できない。また、窒素濃度100%では窒化が懸念されるため、好ましくは80%を上限とする。
本発明のフェライト系ステンレス鋼を構成する成分元素について説明する。
C、Nは、鋼中に不可避的に含まれる元素である。C、Nの含有量を低減すると鋼は軟質になり加工性が向上するとともに炭化物、窒化物の生成が少なくなり、溶接性および溶接部の耐食性が向上する。このため本発明ではC、Nとも含有量は少ない方が良く、Cは0.02質量%まで、Nは0.025質量%まで含有が許容される。
C、Nは、鋼中に不可避的に含まれる元素である。C、Nの含有量を低減すると鋼は軟質になり加工性が向上するとともに炭化物、窒化物の生成が少なくなり、溶接性および溶接部の耐食性が向上する。このため本発明ではC、Nとも含有量は少ない方が良く、Cは0.02質量%まで、Nは0.025質量%まで含有が許容される。
Siは、Arガスシールを行ってTIG溶接する場合、溶接部の耐食性改善に有効に作用する。また、Siはフェライト系鋼の硬質化に寄与するので、例えば水道に直結して使用する高圧タイプの温水容器をはじめとして継手の強度が要求されるような用途などでは、Siの添加は有利となる。種々検討の結果、Siによる強度向上作用を十分に享受するには、0.01質量%以上のSi含有量を確保することが望まれる。したがって本発明ではSi含有量を3質量%以下にコントロールする。
Mnは、ステンレス鋼の脱酸剤として使用される。しかしMnは不動態皮膜中のCr濃度を低下させ、耐食性低下を招く要因となるので、本発明ではMn含有量の低い方が好ましく、1質量%以下の含有量に規定される。スクラップを原料とするステンレス鋼ではある程度のMn混入は避けられないので、過剰に含有されないよう管理が必要である。
Pは、母材および溶接部の靭性を損なうので低い方が望ましい。ただし、含Cr鋼の溶製において精錬による脱りんは困難であることから、P含有量を極低化するには原料の厳選などに過剰なコスト増を伴う。したがって本発明では一般的なフェライト系ステンレス鋼と同様に、0.04質量%までのP含有を許容する。
Sは、孔食の起点となりやすいMnSを形成して耐食性を阻害することが知られているが、溶接熱影響部の耐食性に関してはSを特に厳しく規制する必要はない。しかし、あまり多量にSが含まれると溶接部の高温割れが生じやすくなるので、S含有量は0.03質量%以下に規定される。
Crは、不動態皮膜の主要構成元素であり、耐孔食性や耐隙間腐食性などの局部腐食性の向上をもたらす。TIG溶接熱影響部の耐食性はCr含有量に強く依存することから、Crは本発明において重要な元素である。発明者らの検討の結果、バックガスシールにArと窒素ガスを用いて溶接した溶接部に温水環境で要求される耐食性を付与するには16質量%を超えるCr含有量を確保すべきであることがわかった。耐食性向上効果はCr含有量が多くなるに伴って向上する。しかし、Cr含有量が多くなるとC、Nの低減が難しくなり、機械的性質や靭性を損ねかつコストを増大させる要因となる。
なお、Cr含有量が22質量%以上の鋼ではArと窒素のバックシールドガスによる耐食性改善効果が大きくなること、厳しい環境への適用においてもCr含有量のさらなる増加に頼ることなく、上述の問題を最小限に抑え、十分な耐食性を得ることができる。したがって、好ましくはCr含有量を22〜26質量%とする。
なお、Cr含有量が22質量%以上の鋼ではArと窒素のバックシールドガスによる耐食性改善効果が大きくなること、厳しい環境への適用においてもCr含有量のさらなる増加に頼ることなく、上述の問題を最小限に抑え、十分な耐食性を得ることができる。したがって、好ましくはCr含有量を22〜26質量%とする。
Moは、Crとともに耐食性レベルを向上させるための有効な元素であり、その耐食性向上作用は高Crになるほど大きくなることが知られている。ところが、発明者らの詳細な検討によれば、TIG溶接した溶接裏面の熱影響部については、Moによってもたらされる耐食性向上作用はあまり大きくないことがわかった。本発明の主な用途である上水の温水環境に対しては2質量%以下のMoを含有させることで達成される。2質量%を超えて増量しても溶接熱影響部腐食性の改善効果は小さく、徒にコスト上昇を招くのみで得策ではない。したがってMo含有量は2質量%以下とする。
Nbは、Tiと同様にC、Nとの親和力が強く、フェライト系ステンレス鋼で問題となる粒界腐食を防止するのに有効な元素である。その効果を十分発揮させるには0.05質量%以上のNb含有量を確保することが望ましい。しかし、過剰に添加すると溶接高温割れが生じるようになり、溶接部靭性も低下するので、Nb含有量の上限は0.6質量%とする。
Tiは、Arバックガスシールを行う従来のTIG溶接において溶接部の耐食性向上に寄与する元素であるが、Arバックガスシールを行うTIG溶接の場合は、Alとの複合添加により溶接時に鋼表面にAl、Ti主体の化学的に安定な酸化皮膜を形成することで酸化スケールの耐食性を高めると考えられる。
このようなTiの作用を十分に享受するには0.05質量%以上のTi含有量を確保することが望ましい。しかし、Ti含有量が多くなると素材の表面品質が低下したり、溶接ビードに酸化物が生成して溶接性が低下したりしやすいので、Ti含有量の上限は0.4質量%とする。
このようなTiの作用を十分に享受するには0.05質量%以上のTi含有量を確保することが望ましい。しかし、Ti含有量が多くなると素材の表面品質が低下したり、溶接ビードに酸化物が生成して溶接性が低下したりしやすいので、Ti含有量の上限は0.4質量%とする。
Alは、Tiとの複合添加によってTIG溶接熱影響部でTiとともに優先酸化することでFe2O3の生成を抑え、Cr2O3の濃化を促進し、酸化スケールの耐食性を高める。その作用を十分に得るためには0.02質量%以上のAl含有量を確保する必要がある。
一方、過剰のAl含有は素材の表面品質の低下や溶接性の低下を招くので、Al含有量は0.3質量%以下とする。
一方、過剰のAl含有は素材の表面品質の低下や溶接性の低下を招くので、Al含有量は0.3質量%以下とする。
Niは、腐食が進行している食孔内でのメタルの活性溶解速度をおさえ、腐食の成長を抑制する作用がある。Niの効果は添加量が多いほど大きいが、多量のNi含有は鋼を硬質にし、加工性を阻害する。また、フェライト相を維持できる量として2質量%以下の範囲で行う。
表1に示す化学組成を有するフェライト系ステンレス鋼を供試材として用いた。板厚は1.0mm材とした。A鋼は22質量%CrのSUS445J1相当鋼、BおよびC鋼はSUS444相当鋼である。
図1はTIG突き合せ溶接方法を示す。試験片の下側からバックシールドガスを吹き付けて酸化スケール(溶接スケール)の付着を防止した。バックシールドガスはArガスに窒素ガスを含有させた不活性ガスを用いた。Arガスと窒素ガスの混合比はArガスが100%から0%と窒素ガスが0%から100%の6条件とし、比較としてバックシールドガスを用いない溶接も行った。
図2は浸漬試験前の試験形状である。溶接金属部が試験片長手方向中央位置を横切るように試験片を採取した。この浸漬試験片には溶接金属部、熱影響部および母材部が含まれる。溶接トーチ側(表面)は酸化スケールを除去した30×40mmの試験片である。
図3は浸漬試験方法を示す。試験は80℃の1000ppmCl−+10ppmCu2+の水溶液に24時間浸漬して行った。浸漬試験後の試験片を顕微鏡で観察し、溶接裏面熱影響部に生じた孔食深さを焦点深度法にて測定した。
表2に測定結果をまとめた。表2中に表示した侵食深さの値はn=3全ての試験片における最大侵食深さである。いずれ鋼においてもArガス100%に比べ窒素ガスを含有すると最大侵食深さは浅くなり、窒素ガスが有効であることが顕著である。特に最大侵食深さはAr20%+窒素80%で最も浅く、効果が大きい。Arガス+窒素ガスの混合比により孔食による腐食性に差異があることが判明した。A鋼とB鋼とでは最大侵食深さはA鋼の方が浅く、Cr量による効果が大きく、Crは有効である。B鋼とC鋼とでは最大侵食深さはB鋼の方が浅く、Tiは有効である。
本発明によれば、TIG突き合せ溶接ではバックシールドガスにはArガスを用いるのが一般的ではあるが、窒素ガスを混合した不活性ガスを用いることで孔食による耐食性抑制効果に有効であることが得られる。
Claims (4)
- シールドガスを用いてステンレス鋼を溶接する際に、溶接部裏面のバックシールドガスにArガスに窒素ガスを混合させた不活性ガスを用いることを特徴とする溶接部裏面の耐食性低下を抑制したフェライト系ステンレス鋼の溶接方法。
- 混合ガス中の窒素濃度が20〜80体積%であることを特徴とする、請求項1に記載のフェライト系ステンレス鋼の溶接方法。
- Cr量が質量%で16〜26%のフェライト系ステンレス鋼の溶接に適用することを特徴とする、請求項1または2に記載の溶接方法。
- 質量%で
C:0.02%以下、
Si:3%以下、
Mn:1%以下、
P:0.04%以下、
S:0.03%以下、
Ni:4%以下、
Cr:16〜26%、
Mo:2%以下、
N:0.025%以下、
さらに、Nb:0.05〜0.6%、Ti:0.05〜0.4%、Al:0.02〜0.3%の1種もしくは1種以上を含み、残部Feおよび他の不可避的不純物からなるフェライト系ステンレス鋼の溶接に適用することを特徴とする、請求項1乃至3に記載の溶接方法。
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