JP2009161836A - 溶接隙間部の耐食性に優れるフェライト系ステンレス鋼板 - Google Patents
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Abstract
【課題】Arバックガスシールを行わないTIG溶接により隙間構造をもった温水容器を構築したときに、どのような隙間構造であっても溶接ままの状態で上水を使用した温水環境において優れた耐食性を呈するフェライト系ステンレス鋼を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.02%以下、Si:0.01〜0.3%、Mn:1%以下、P:0.04%以下、S:0.03%以下、Ni:0.2〜2%、Cr:22〜26%、Mo:0.8%以下、Nb:0.05〜0.6%、Ti:0.05〜0.4%、N:0.025%以下、Al:0.02〜0.3%であり、さらに不純物としてのCuを0.2%未満に制限し、残部Feおよび他の不可避的不純物からなるフェライト系ステンレス鋼。
【選択図】なし
【解決手段】質量%で、C:0.02%以下、Si:0.01〜0.3%、Mn:1%以下、P:0.04%以下、S:0.03%以下、Ni:0.2〜2%、Cr:22〜26%、Mo:0.8%以下、Nb:0.05〜0.6%、Ti:0.05〜0.4%、N:0.025%以下、Al:0.02〜0.3%であり、さらに不純物としてのCuを0.2%未満に制限し、残部Feおよび他の不可避的不純物からなるフェライト系ステンレス鋼。
【選択図】なし
Description
本発明は、TIG溶接により施工され溶接隙間構造を有する溶接部耐食性に優れるフェライト系ステンレス鋼板に関する。
電気温水器や貯湯槽などの温水容器の材料としてフェライト系ステンレス鋼のSUS444(低C、低N、18〜19Cr−2Mo−Nb、Ti系鋼)が広く用いられている。
SUS444は温水環境での耐食性向上を主目的に開発された鋼種である。
SUS444は温水環境での耐食性向上を主目的に開発された鋼種である。
温水容器は、構成部材(例えば鏡と胴)をTIG溶接により接合した「溶接隙間構造」を有するものが主流である。溶接隙間構造の温水容器を上水の温水環境で使用すると、溶接隙間部で腐食が生じやすい。SUS444の場合、腐食形態が孔食であるときには再不動態化しやすく、孔食が成長するケースは稀である。しかし、隙間腐食であるときには再不動態化しにくいので腐食が成長し、板厚を貫通して漏水に至ることもある。このため、温水容器では腐食しやすい隙間構造の形成をできるだけ避ける構造とすることが望ましい。しかし、鏡と胴の溶接接合部など、施工上、隙間の形成を回避することが難しい部位もある。
温水容器をTIG溶接により製造する際には、溶接部の耐食性低下を小さくするため、一般にArバックガスシールを行って裏ビード側の酸化を抑制する対策が採られている。ところが、電気温水器では追い焚き機能のニーズが高まり、蛇管を内部に装入した構造の缶体が増えてきた。この場合、溶接時にArバックガスシールを行うためのノズルを缶体内部に挿入することが難しくなり、バックガスシールなしのTIG溶接を採用せざるを得ないケースが増え、耐食性低下に対する不安要因となっている。
また、地球環境問題から、電気温水器に比べ消費電力の少ないCO2冷媒ヒートポンプ給湯器(エコキュート(登録商標))の需要が高まってきた。この方式でヒーター加熱を行わないので、ヒーター挿入のためのフランジは本来不要であるが、TIG溶接時のバックガスシール用ノズルを挿入するためにはフランジが省略できないなど、コストアップに繋がる問題が生じる。
特許文献1には鏡への胴の挿入深さを20mmまでとし、隙間腐食の発生を避けた構造の温水器用ステンレス鋼製缶体が記載されている。鋼種としてはSUS444相当鋼が採用されている。しかし、発明者らの調査によれば溶接で耐食性が低下する熱影響部は溶接ビードから概ね10mm程度の範囲であり、上記構造では安定した耐食性向上効果が十分に得られない場合がある。また、このSUS444相当鋼をArバックガスシールを行わないTIG溶接に供すると、裏ビード部での酸化スケールの生成部分では著しい耐食性低下が生じることが予想される。
特許文献2にはTiとAlを複合添加することにより溶接時のCr酸化ロスを抑制し、溶接部での耐食性低下を改善したフェライト系ステンレス鋼が記載されている。この鋼を使用することにより温水容器の耐食性レベルを大きく向上させることが可能になった。しかし、この鋼の場合も、Arバックガスシールを行わないTIG溶接ではCrの酸化ロスを十分に抑制することはできず、溶接隙間部の耐食性の大幅な低下は避けられない。
特許文献3には、バックガスシールを行わないTIG溶接により形成された裏ビード側溶接部の耐食性向上として21質量%を超えるCr含有量を確保し、Ni,Cuの添加でTIG溶接裏面熱影響部の耐食性を大きく改善する鋼を提案されている。この鋼を使用することにより温水容器の耐食性レベルを大きく向上させることが可能になった。しかし、隙間構造やCu量によっては十分なTIG溶接隙間部の耐食性改善効果が得られないことがあった。
上述のように、昨今の温水容器においては、TIG溶接で製造する際にArバックガスシールを実施しにくい構造のものが増えている。一方で、製造コスト低減等の要請から溶接部に隙間を形成しないような構造の温水容器を設計することも難しい状況にある。本発明は、このような現状に鑑み、Arバックガスシールを行わないTIG溶接により隙間構造をもった温水容器を構築したときに、どのような隙間構造であっても溶接ままの状態で上水を使用した温水環境において優れた耐食性を呈するフェライト系ステンレス鋼を開発し提供することを目的とする。
発明者らは上記目的を達成すべく詳細な研究を行った結果、以下のようなことを見出した。
(i)溶接隙間部の耐食性は、溶接スケールのほか、隙間のクリアランスと隙間深さなどの隙間構造に依存する。とくに隙間開口部から溶着部(溶接ボンド)までの隙間深さは重要である。隙間腐食は一定の範囲の隙間深さの構造で成長する。すなわち、隙間深さが浅いと腐食は成長せず、隙間深さが深すぎても同様である。
(ii)22質量%を超えるCr含有量を確保して基本的耐食性レベルを向上させることが、バックガスシールを行わないTIG溶接により形成された裏ビード側溶接隙間部の耐食性向上に極めて有効である。
(iii)Ni、Cuの溶接隙間部の耐食性改善効果は異なる。Niは溶接隙間部で発生した隙間腐食の板厚方向の成長を抑制する効果が大きい。一方、Cuは隙間腐食の横広がりの成長を抑制するが、板厚方向への成長を抑制する効果は小さく、場合によっては逆に侵食が深くなることを突き止めた。したがって、溶接隙間構造での耐食性が要求される用途ではCu量を規制する必要がある。
(iv)溶接部の耐食性向上に有効であるとされてきたSiは、一定量以上添加するとバックガスシールを行わないTIG溶接においては、溶接ままの裏ビード側溶接部において、
むしろ耐食性を低下させる。
(v)耐食性改善元素として知られるMoは、ステンレス鋼表面での酸化の抑制、すなわち溶接部の耐食性改善には有効に作用しない。
本発明はこのような知見に基づいて成分設計された新たなフェライト系ステンレス鋼を
提供するものである。
(i)溶接隙間部の耐食性は、溶接スケールのほか、隙間のクリアランスと隙間深さなどの隙間構造に依存する。とくに隙間開口部から溶着部(溶接ボンド)までの隙間深さは重要である。隙間腐食は一定の範囲の隙間深さの構造で成長する。すなわち、隙間深さが浅いと腐食は成長せず、隙間深さが深すぎても同様である。
(ii)22質量%を超えるCr含有量を確保して基本的耐食性レベルを向上させることが、バックガスシールを行わないTIG溶接により形成された裏ビード側溶接隙間部の耐食性向上に極めて有効である。
(iii)Ni、Cuの溶接隙間部の耐食性改善効果は異なる。Niは溶接隙間部で発生した隙間腐食の板厚方向の成長を抑制する効果が大きい。一方、Cuは隙間腐食の横広がりの成長を抑制するが、板厚方向への成長を抑制する効果は小さく、場合によっては逆に侵食が深くなることを突き止めた。したがって、溶接隙間構造での耐食性が要求される用途ではCu量を規制する必要がある。
(iv)溶接部の耐食性向上に有効であるとされてきたSiは、一定量以上添加するとバックガスシールを行わないTIG溶接においては、溶接ままの裏ビード側溶接部において、
むしろ耐食性を低下させる。
(v)耐食性改善元素として知られるMoは、ステンレス鋼表面での酸化の抑制、すなわち溶接部の耐食性改善には有効に作用しない。
本発明はこのような知見に基づいて成分設計された新たなフェライト系ステンレス鋼を
提供するものである。
すなわち本発明では、質量%で、C:0.02%以下、Si:0.01〜0.3%、Mn:1%以下、P:0.04%以下、S:0.03%以下、Ni:0.3〜2%以下、Cr:22〜26%、Mo:1.0%以下、Nb:0.05〜0.6%、Ti:0.05〜0.4%、N:0.025%以下、Al:0.02〜0.3%であり、不純物としてのCuを0.3%未満に制限し、残部Feおよび他の不可避的不純物からなる、溶接隙間部の耐食性に優れることを特長とする溶フェライト系ステンレス鋼板を提供する。
この鋼板は、冷延焼鈍酸洗した後、その鋼板を7mmの隙間深さと最大隙間間隔20μm以下でアルゴンバックガスシールなしでTIG溶接隙間構造を形成した試験片に対し、ボンド端部から1mm以内の溶接隙間部の酸化スケールの稠密度が80%以上を有するものである。
ここで、「無手入れのまま」とは、溶接部に生じた酸化スケールを除去する手段(研唐等の機械的除去手段および酸洗等の化学的除去手段)が施されておらず、溶接されたままの状態であることを意味する。
「溶接部」は溶接ビード部と熱影響部からなる領域である。上記浸漬試験に供するための溶接隙間を形成するには、2枚の鋼板を重ね、一方の鋼飯を水平から10°開き、TIG溶接のアークを一定速度で移動させながら裏ビード(アークを当てる面の裏面に現れる溶接金属部)が形成される条件で溶接ビードを形成していく手法が採用される。その際、溶接隙間となる部位と裏ビード側には一切バックガスシールを行わない。また、溶加材も使用しない。試験片には溶接隙間部とその両側の母材部が含まれるようにする。
「溶接部」は溶接ビード部と熱影響部からなる領域である。上記浸漬試験に供するための溶接隙間を形成するには、2枚の鋼板を重ね、一方の鋼飯を水平から10°開き、TIG溶接のアークを一定速度で移動させながら裏ビード(アークを当てる面の裏面に現れる溶接金属部)が形成される条件で溶接ビードを形成していく手法が採用される。その際、溶接隙間となる部位と裏ビード側には一切バックガスシールを行わない。また、溶加材も使用しない。試験片には溶接隙間部とその両側の母材部が含まれるようにする。
ステンレス鋼にとって隙間構造と溶接熱影響部の酸化皮膜の存在が耐食性の劣化をもたらす主要因であるが、予備検討した結果、本組成の範囲で酸化スケール中の稠密度が80%以上、言い換えれば酸化スケール中に存在する空隙の比率を20%以下とすることにより、溶接隙間構造部の耐食性を向上させるのに有効であることを見出した。
本発明のフェライト系ステンレス鋼を使用すると、温水環境における溶接部の耐食性が顕著に改善される。特に、バックガスシールなしのTIG溶接によって形成された溶接隙間部を無手入れのまま高温の上水に曝して使用した場合でも、長期間優れた耐食性が維持される。すなわち温水容器をTIG溶接により製造する際に、Arバックガスシールを省略しても高い信頼性が得られる。したがって本発明によれば、高耐食性が要求される上水環境での温水容器において設計自由度の拡大が可能になる。また、今後需要増が見込まれるCO2冷媒ヒートポンプ給湯器の温水缶体ではバックガスシールのためのフランジが不要になり、コスト低減が可能になる。
本発明のフェライト系ステンレス鋼を構成する成分元素について説明する。
C、Nは、鋼中に不可避的に含まれる元素である。C、Nの含有量を低減すると鋼は軟質になり加工性が向上するとともに炭化物、窒化物の生成が少なくなり、溶接性および溶接部の耐食性が向上する。このため本発明ではC、Nとも含有量は少ない方が良く、Cは0.02質量%まで、Nは0.025質量%まで含有が許容される。
C、Nは、鋼中に不可避的に含まれる元素である。C、Nの含有量を低減すると鋼は軟質になり加工性が向上するとともに炭化物、窒化物の生成が少なくなり、溶接性および溶接部の耐食性が向上する。このため本発明ではC、Nとも含有量は少ない方が良く、Cは0.02質量%まで、Nは0.025質量%まで含有が許容される。
Siは、Arガスシールを行ってTIG溶接する場合、溶接部の耐食性改善に有効に作用する。しかしながら発明者らの詳細な検討によれば、ガスシールなしでTIG溶接する場合、Siは逆に溶接部の耐食性を阻害する要因になることがわかった。このため、耐食性の点ではSi含有量は低い方が好ましく、本発明では0.3質量%以下に規定する。ただし、Siはフエライト系鋼の硬質化に寄与するので、例えば水道に直結して使用する高圧タイブの温水容器をはじめとして継手の強度が要求されるような用途などでは、Siの添加は有利となる。種々検討の結果、Siによる強度向上作用を十分に享受するには、0.01質量%以上の含有量を確保することが望まれる。したがって本発明ではSi含有量を0.01〜0.3質量%に範囲にコントロールする。
Mnは、ステンレス鋼の脱酸剤として使用される。しかしMnは不動態皮膜中のCr濃度を低下させ、耐食性低下を招く要因となるので、本発明ではMn含有量は低い方が好ましく、1質量%以下の含有量に規定される。スクラップを原料とするステンレス鋼ではある程度のMn混入は避けられないので、過剰に含有されないよう管理が必要である。
Pは、母材および溶接部の靭性を損なうので低い方が望ましい。ただし、含Cr鋼の溶製において精錬による脱りんは困難であることから、P含有量を極低化するには原料の厳選などに過剰なコスト増を伴う。したがって本発明では一般的なフェライト系ステンレス鋼と同様に、0.04質量%までのP含有を許容する。
Sは、孔食の起点となりやすいMnSを形成して耐食性を阻害することが知られているが、本発明では適量のTiを必須添加するので、Sを特に厳しく規制する必要はない。すなわち、TiはSとの親和力が強く、化学的に安定な硫化物を形成するので、耐食性低下の原因になるMnSの生成が十分に抑止される。一方、あまり多量にSが含まれると溶接部の高温割れが生じやすくなるので、S含有量は0.03質量%以下に規定される。
Crは、不動態皮膜の主要構成元素であり、耐孔食性や耐隙間腐食性などの局部腐食性の向上をもたらす。バックガスシールなしでTIG溶接した溶接部の耐食性はCr含有量に大きく依存することから、Crは本発明において特に重要な元素である。発明者らの検討の結果、バックガスシールなしで溶接した溶接部に温水環境で要求される耐食性を付与するには21質量%を超えるCr含有量を確保すべきであることがわかった。耐食性向上効果はCr含有量が多くなるに伴って向上する。しかし、Cr含有量が多くなるとC、Nの低減が難しくなり、機械的性質や靭性を損ねかつコストを増大させる要因となる。
本発明では、Cr含有量が22質量%以上の鋼ではNiの溶接隙間部の耐食性改善効果が大きくなること、Cuは不純物レベルの混入であっても板厚方向に腐食が進行するため、Cuの上限を規制することで、厳しい環境への適用においてもCr含有量のさらなる増加に頼ることなく、上述の問題を最小限に抑え、十分な耐食性を得ることができる。したがって本発明ではCr含有量を22〜26質量%とする。
本発明では、Cr含有量が22質量%以上の鋼ではNiの溶接隙間部の耐食性改善効果が大きくなること、Cuは不純物レベルの混入であっても板厚方向に腐食が進行するため、Cuの上限を規制することで、厳しい環境への適用においてもCr含有量のさらなる増加に頼ることなく、上述の問題を最小限に抑え、十分な耐食性を得ることができる。したがって本発明ではCr含有量を22〜26質量%とする。
Moは、Crとともに耐食性レベルを向上させるための有効な元素であり、その耐食性向上作用は高Crになるほど大きくなることが知られている。ところが、発明者らの詳細な検討によれば、バックガスシールなしでTIG溶接した溶接隙間部や裏ビード側の溶接部については、Moによってもたらされる耐食性向上作用はあまり大きくないことがわかった。本発明の主な用途である上水の温水環境に対しては0.2質量%以上のMoを含有させることが効果的であるが、0.8質量%を超えて増量しても耐隙間腐食性の改善効果は小さく、徒にコスト上昇を招くのみで得策ではない。したがってMo含有量は0.8質量%以下とする。
Nbは、Tiと同様にC、Nとの親和力が強く、フエライト系ステンレス鋼で問題となる粒界腐食を防止するのに有効な元素である。その効果を十分発揮させるには0.05質量%以上のNb含有量を確保することが望ましい。しかし、過剰に添加すると溶接高温割れが生じるようになり、溶接部靭性も低下するので、Nb含有量の上限は0.6質量%とする。
Tiは、Arバックガスシールを行う従来のTIG溶接において溶接部の耐食性向上に寄与する元素であるが、バックガスシールなしのTIG溶接においても隙間部やその裏ビード側溶接部の耐食性を顕著に改善する作用を有することがわかった。そのメカニズムについては必ずしも明確ではないが、Arバックガスシールを行うTIG溶接の場合は、Alとの複合添加により溶接時に鋼表面にAl主体の酸化皮膜が優先的に形成され、結果的にCrの酸化ロスが抑制されるものと考えられる。他方、バックガスシールなしのTIG溶接の場合は、その溶接部においてTiは腐食発生後の再不動態化を促進する作用を発揮し、それによって耐食性が向上するものと推察される。このようなTiの作用を十分に享受するには0.05質量%以上のTi含有量を確保することが望ましい。しかし、Ti含有量が多くなると素材の表面品質が低下したり、溶接ビードに酸化物が生成して溶接性が低下したりしやすいので、Ti含有量の上限は0.4質量%とする。
Alは、Tiとの複合添加によって溶接による耐食性低下を抑制する。その作用を十分に得るためには0.02質量%以上のAl含有量を確保することが望ましい。一方、過剰のAl含有は素材の表面品質の低下や、溶接性の低下を招くので、Al含有量は0.3質量%以下とする。
Niは、ArバックガスシールなしのTIG溶接において溶接スケール中のCr濃度を高め、化学的に安定なCr203の生成量を増加しスケールの耐食性を向上させる。さらにNiはCr203とFe203両方のスケールの稠密度を上昇させる効果があることを見出した。その効果を出すためにはNiが0.2%以上必要である。ただし多量のNi含有は鋼を硬質にし加工性を阻害するので、2質量%以下の範囲で行う。
Cuは、ArバックガスシールなしのTIG突合せ溶接部の耐食性において、溶接裏面熱影響部での孔食発生を抑制したが、TIG溶接隙間では隙間腐食面積を小さくするが、侵食深さについては、隙間条件にもよるが逆に侵食を深くすることがある。したがって、バックガスシールなしのTIG溶接で隙間を形成する用途ではCuは耐食性を阻害する恐れがある。このため、本発明ではCuを添加しない。さらにCuの耐隙間腐食性阻害の作用は不純物レベルであっても現れるため、Cuの上限を0.2%未満に規制する。
また、本発明にかかる鋼材の冷延焼鈍酸洗板を7mmの隙間深さと最大隙間間隔20μm以下、アルゴンバックガスシールなしで以下の溶接条件によりTIG溶接隙間構造を形成した場合、ボンド端部から1mm以内の溶接隙間部の酸化スケールの稠密度が80%以上となる。
(溶接条件)
溶接法:溶接芯線なしの突合せ溶接
溶接電流:60A 溶接速度:300mm/min
トーチシール側のArガス流量:12L/min
電極径:φ1.6mm
(溶接条件)
溶接法:溶接芯線なしの突合せ溶接
溶接電流:60A 溶接速度:300mm/min
トーチシール側のArガス流量:12L/min
電極径:φ1.6mm
このときに生成される酸化スケールはコランダム型のCr2O3もしくはFe2O3である。
酸化スケールの生成過程で、溶接時の熱履歴により酸化スケール/母材界面もしくは酸化スケール内で剥離が生じることがあるが、この剥離が酸化スケールの稠密度を低下させ、すなわち空隙率を増大させることになる。その結果、酸化スケールを介しての腐食液の浸透が助長され、腐食が促進されてしまう。
Niはこの剥離を抑制する効果があるため、腐食の防止につながる。
酸化スケールの生成過程で、溶接時の熱履歴により酸化スケール/母材界面もしくは酸化スケール内で剥離が生じることがあるが、この剥離が酸化スケールの稠密度を低下させ、すなわち空隙率を増大させることになる。その結果、酸化スケールを介しての腐食液の浸透が助長され、腐食が促進されてしまう。
Niはこの剥離を抑制する効果があるため、腐食の防止につながる。
表1に示す化学組成を有するステンレス鋼を溶製し、熱間圧延にて板厚3mmの熱延板を作製した。その後、冷間圧延にて板厚1.0mmとし、仕上焼鈍を1000〜1070℃で行い、酸洗を施すことによって供試材とした。
各供試材について、図1に示す方法にてTIG溶接隙間を形成した。溶接はArバックガスシールを施さずに行った。すなわち、2枚の鋼板を重ねてTIG溶接する際、隙間開口部を作るため、一方の鋼板に10°の角度で曲げを施した後・隙間となる面を大気に曝した状態で溶接を行った0溶接条件は、溶け込み(溶接金属部)が裏面まで到達し・裏面に約4mm幅の「裏ビード」が形成される条件とした。この条件の場合、溶接熱影響部(HAZ)は板厚中央部でビード中心からの距離が約10mmの範囲となる。
供試鋼の評価に先立ち、表1に記載の比較鋼No.7を用いて、隙間構造、特に隙間深さと隙間腐食による侵食深さの関係を調べた。図1に示すように、「隙間深さ」を溶接ビード中心から曲げ位置までの距離(mm)と定義し、隙間深さ7mmと固定して作製した。
溶接で生じた酸化スケールを除去していない試料(無手入れのままの試料)から15×40mmの試験片を切り出し、温水中での浸漬試験に供した。
図2に溶接隙間試験片の外観を模式的に示す。溶接ビードが試験片長手方向中央位置を横切るように試験片を採取した。この浸漬試験片には溶接ビード部、熟影響部および母材部が含まれる。母材部の端にリード線をスポット溶接にて接続し、リード線およびその接続部分のみを樹脂被覆した。
溶接で生じた酸化スケールを除去していない試料(無手入れのままの試料)から15×40mmの試験片を切り出し、温水中での浸漬試験に供した。
図2に溶接隙間試験片の外観を模式的に示す。溶接ビードが試験片長手方向中央位置を横切るように試験片を採取した。この浸漬試験片には溶接ビード部、熟影響部および母材部が含まれる。母材部の端にリード線をスポット溶接にて接続し、リード線およびその接続部分のみを樹脂被覆した。
浸漬試験は80℃の0.5mol/L H2SO4に48時間浸漬し、腐食断面組織10箇所の観察で母材侵食の有無の結果を表2に示す。
また、0.5mol/L H2SO4に48時間浸漬試験したときの最大侵食位置であったボンド端部から1mm位置での酸化皮膜の密度分析を高分解能RBS(High Resolution Rutherford Backscattering Spectrometry)で行った。これは散乱されたHe+イオンの強度で密度を測定する方法であり、試料電流25nA/照射量20μCで行いTEMで皮膜厚みを測定し、He+イオン強度をスケール厚みで除して密度を測定した。
稠密度の測定は以下の手順による。
酸化スケールの組成はコランダム型のCr2O3もしくはFe2O3であり、それぞれの密度は5.21g/cm3、5.24g/cm3とほぼ等しい。そこで、両組成の密度を同一とみなし、膜厚100nmで作成した空隙のないFe2O3を標準試験片とした。この標準試験片に対して、密度測定を高分解能RBSで行い、単位厚みあたりのHe+イオン強度を稠密度100%の値とした。各実験材の酸化物のRBSによるHe+強度を求め、次式から稠密度を算出した。
稠密度(%)=(各試験材のRBSによるHe+イオン強度)/(標準試験片のRBSによるHe+イオン強度)×100
稠密度の測定は以下の手順による。
酸化スケールの組成はコランダム型のCr2O3もしくはFe2O3であり、それぞれの密度は5.21g/cm3、5.24g/cm3とほぼ等しい。そこで、両組成の密度を同一とみなし、膜厚100nmで作成した空隙のないFe2O3を標準試験片とした。この標準試験片に対して、密度測定を高分解能RBSで行い、単位厚みあたりのHe+イオン強度を稠密度100%の値とした。各実験材の酸化物のRBSによるHe+強度を求め、次式から稠密度を算出した。
稠密度(%)=(各試験材のRBSによるHe+イオン強度)/(標準試験片のRBSによるHe+イオン強度)×100
本明例のものは、いずれも上記漫漬試験において48時間後に母材侵食がなく、酸化皮膜の密度が高く腐食液が浸透する開孔がなかったのだと考えられる。なお、比較例7は母材侵食はないが、Pt補助浸漬カソード30日ではCu添加により最大侵食深さは本発明例をはるかに大きくなる。以上のように本発明鋼では、隙間部の溶接部耐食性向上が達成できる。
この材料は エコキュート、電気温水器、定置型燃料電池、エコウィルなどに使用される温水器缶体のみでなく、溶接隙間構造を有する給油管や燃料タンクの給油系部材や燃料噴射レールならびに熟交換機部材にも適用できる。
Claims (1)
- 質量%で、
C:0.02%以下、
Si:0.01〜0.3%、
Mn:1%以下、
P:0.04%以下、
S:0.03%以下、
Ni:0.2〜2%、
Cr:22〜26%、
Mo:0.8%以下、
Nb:0.05〜0.6%、
Ti:0.05〜0.4%、
N:0.025%以下、
Al:0.02〜0.3%であり、
さらに不純物としてのCuを0.2%未満に制限し、残部Feおよび他の不可避的不純物からなるフェライト系ステンレス鋼からなる冷延焼鈍酸洗鋼板であって、7mmの隙間深さと最大隙間間隔20μm以下でアルゴンバックガスシールなしでTIG溶接隙間構造を形成した際に、ボンド端部から1mm以内の溶接隙間部の酸化スケールの稠密度が80%以上となることを特徴とする、溶接隙間部の耐食性に優れるフェライト系ステンレス鋼板。
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Cited By (11)
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