JP2010007092A - 軸受鋼鋼材およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】C:0.85〜1.2%、Si:0.1〜0.5%、Mn:0.05〜0.6%、P≦0.03%、S≦0.010%、Cr:1.2〜1.7%、Al≦0.005%、Ca≦0.0005%、O≦0.0020%を含有し、残部はFeと不純物からなる化学成分を有し、非金属介在物について、酸化物の平均組成が質量%で、Cao:10〜60%、Al2O3≦35%、MnO≦35%及びMgO≦15%で残部SiO2と不純物からなるとともに、鋼材の長手方向縦断面10箇所の100mm2の面積中に存在する酸化物の最大厚さの算術平均の値と硫化物の最大厚さの算術平均の値が、それぞれ、8.5μm以下で、更に、鋼材の表面からR/2部位置までの平均断面硬さがビッカース硬さで290以下である軸受鋼鋼材。但し、「R」は軸受鋼鋼材の半径を表す。
【選択図】なし
Description
アルミナ系:(MgO)も(SiO2)も3%未満で且つ(CaO)も(CaO)/((CaO)+(Al2O3))の比で0.08以下であるもの。
スピネル系:3%〜20%の範囲の(MgO)に残部が(Al2O3)である2元系に、15%以内の(CaO)および/または15%以内の(SiO2)が混入する場合があるスピネル型結晶構造のもの。
の定義によるアルミナ系とスピネル系との合計個数が全酸化物個数の60%未満であることを特徴とする高炭素クロム軸受鋼」に関する技術が開示されている。
(a)鋼のいわゆる「二次精錬」の過程におけるスラグの主要構成成分を主にCaOおよびSiO2とし、さらに、Al2O3が極力少量となるように厳密な制御を行うことで、軟質な酸化物が得られること、さらには、この軟質酸化物は圧下を加えることによって微細化できること、
(b)上記(a)のようにして精錬する方法で製造された鋼の場合、硫化物中にMnOと思われる酸化物が含有されやすくなる傾向があり、この硫化物は従来のAl添加により脱酸処理した軸受鋼中の硫化物とは異なり、圧下によって延伸、分断されることが難しいが、Sの含有量を質量%で、0.010%以下とし、かつ、圧下比や加工温度などの圧下条件を適正に制御すれば、酸化物だけではなく硫化物をも延伸、分断させて微細化することができ、結果として、過酷な使用環境下においても、優れた転動疲労寿命を有する軸受鋼鋼材を得ることができること、
を見出し、特願2007−204872の特許出願で「軸受鋼鋼材およびその製造方法」を提案した。
但し、「R」は軸受鋼鋼材の半径を表す。
〔2〕圧下工程中の被圧下材の表面温度が、680℃〜(Aem点−30℃)の温度範囲内であること、
〔3〕圧下比が4以上であること。
但し、全圧下比とは、鋳片または鋼塊の断面積を、最終圧下工程における最終の圧下によって得られた軸受鋼鋼材の断面積で除した値を指し、また、最終圧下工程での圧下比とは、最終圧下工程で圧下が加えられる前の被圧下材の断面積を最終圧下工程における最終の圧下によって得られた軸受鋼鋼材の断面積で除した値を指す。
C:0.85〜1.2%
Cは、焼入れ時の硬さを確保して転動疲労寿命を向上させる元素であり、0.85%以上の含有量とする必要がある。しかしながら、Cの含有量が多くなって、特に1.2%を超えると、耐摩耗性は向上するものの、母材の硬さが高くなりすぎて冷間鍛造性の悪化、切削時の工具寿命の低下、焼割れの原因となる。したがって、Cの含有量を0.85〜1.2%とした。なお、C含有量の好ましい下限は0.9%である。また、好ましい上限は1.1%である。
Siは、焼入れ性を高めて転動疲労寿命を向上させるのに有効な元素であり、0.1%以上含有させなければならない。しかしながら、0.5%を超えてSiを含有させると、母材の硬さが高くなって切削時の工具寿命の低下や冷間鍛造性の悪化をきたす。したがって、Siの含有量を0.1〜0.5%とした。なお、Si含有量の好ましい下限は0.15%である。また、好ましい上限は0.35%である。
Mnは、焼入れ性を高めて転動疲労寿命を向上させるのに有効な元素であり、0.05%以上含有させなければならない。しかしながら、0.6%を超えてMnを含有させると、母材の硬さが高くなって切削時の工具寿命の低下や冷間鍛造性の悪化をきたし、さらには、焼割れの原因ともなる。したがって、Mnの含有量を0.05〜0.6%とした。なお、Mn含有量の好ましい下限は0.1%である。また、好ましい上限は0.5%である。
Pは、結晶粒界に偏析して転動疲労寿命を短くしてしまう。特に、その含有量が0.03%を超えると、転動疲労寿命の低下が著しくなる。したがって、Pの含有量を0.03%以下とした。好ましいP含有量の範囲は0.02%以下である。
Sは、硫化物を形成する元素であり、その含有量が0.010%を超えると、粗大な硫化物が残存するため転動疲労寿命を短くしてしまう。したがって、Sの含有量を0.010%以下とした。なお、転動疲労寿命の向上という観点からは、Sの含有量は低ければ低いほど好ましいが、Sには被削性を高める作用があり、その含有量が0.005%以上で被削性向上効果が確実に得られる。このため被削性を重視する場合には、Sの含有量は0.005%以上とすることが好ましい。
Crは、焼入れ性を高めて転動疲労寿命を向上させるのに有効な元素であり、1.2%以上含有させなければならない。しかしながら、1.7%を超えてCrを含有させると、母材の硬さが高くなって切削時の工具寿命の低下や冷間鍛造性の悪化をきたし、さらには、焼割れが発生する場合がある。したがって、Crの含有量を1.2〜1.7%とした。なお、Cr含有量の好ましい下限は1.3%である。また、好ましい上限は1.6%である。
Alは、好ましくない元素であり、本発明においては、Alは極力少なくする必要がある。したがって、後述するように一次精錬としての酸化精錬後のAl添加による脱酸処理は行わないし、フラックスを投入して新たに生成されたスラグと溶鋼を強攪拌する際に用いるフラックスもAl2O3の含有量の少ない、実質的にAlを含有しないものを用いる。しかしながら、Alの含有量が多くなって、特に、0.005%を超えると、Al2O3を主体とする硬質な酸化物の生成量が多くなり、しかも、圧下した後も粗大な酸化物として残存するので、転動疲労寿命が短くなってしまう。したがって、Alの含有量を0.005%以下とした。なお、Alは、0.003%以下の含有量とすることが好ましく、低ければ低いほどよい。
本発明においては、後述するように、一次精錬としての酸化精錬で生成したスラグの除滓後に、主成分がCaOであるフラックスを投入して、新たに生成されたスラグと溶鋼を強攪拌する。この際に、Caは軟質な酸化物として、フラックスから鋼中に極微量混入する。ただし、Caの含有量が多くなり、0.0005%を超えると、酸化物組成におけるCaOの割合が高くなりすぎて、粗大な酸化物となってしまう。したがって、Caの含有量を0.0005%以下とした。好ましいCa含有量は、0.0003%以下であり、さらに好ましくは0.0002%以下である。なお、含有されるCaの量の下限値は、特に規定するものではなく、鋼材中の酸化物の平均組成におけるCaOが10%以上であればよい。
Oは、好ましくない不純物元素である。Oの含有量が多くなって、特に、0.0020%を超えると、圧下した後に粗大な酸化物として残存し、転動疲労寿命の低下を招く。したがって、Oの含有量を0.0020%以下とした。なお、好ましいO含有量の範囲は0.0015%以下である。
(B−1)酸化物の平均組成:
本発明においては、非金属介在物について、先ず、酸化物の平均組成が、質量%で、CaO:10〜60%、Al2O3:35%以下、MnO:35%以下およびMgO:15%以下で残部SiO2および不純物からなるものでなければならない。以下、質量%での酸化物の平均組成における含有量を「濃度」ともいう。
酸性酸化物であるSiO2を基本組成とする酸化物は、塩基性であるCaOを含むことにより酸化物の液相線温度が下がり、圧延などの圧下温度域で延性を示すようになる。上記の効果は、酸化物の平均組成におけるCaO濃度が10%以上で得られるが、60%を超えると相対的にSiO2濃度が低下して却って延性を示さなくなる。したがって、酸化物の平均組成におけるCaO濃度を10〜60%とした。なお、圧延などの圧下温度域で安定した延性が得られるようにするための上記CaO濃度の好ましい上限は50%である。
両性酸化物であるAl2O3の酸化物の平均組成における濃度が35%を超えると、Al2O3(コランダム)相が晶出したり、後述するMgOとともにMgO・Al2O3(スピネル)相が晶出する。これらの固相は硬質で圧延などの圧下でも延伸することなく、晶出した際の厚みを保つ。したがって、酸化物の平均組成におけるAl2O3濃度は35%以下とする必要がある。なお、前記硬質相の生成を安定かつ確実に抑制するための上記Al2O3濃度の好ましい上限は25%である。
MnOは、酸化物としては塩基性を有し、SiO2系の軟質化を助長するので、比較的高い濃度まで許容できる。しかしながら、MnOは鋼が弱脱酸状態の時に安定な、いわゆる低級酸化物であり、MnO濃度が高いと鋼中のO(酸素)の含有量も高くなる。すなわち、酸化物の平均組成におけるMnO濃度が35%を超えるとO含有量を0.0020%以下とすることができない場合がある。したがって、酸化物の平均組成におけるMnO濃度を35%以下とした。なお、前述したOの含有量を0.0015%以下にするために、酸化物の平均組成におけるMnO濃度は25%以下とすることが好ましい。
MgOは塩基性酸化物であり、少量ではSiO2系酸化物の軟質化ができるが、一方でその溶解度が低く、硬質のMgO(ペリクレース)相およびAl2O3とともにMgO・Al2O3(スピネル)相が晶出する。酸化物の平均組成におけるMgOが15%を超えると、上述した硬質相を晶出する蓋然性が高くなる。したがって、酸化物の平均組成におけるMgO濃度を15%以下とした。なお、前記した硬質相の晶出をより確実に抑制するために、酸化物の平均組成におけるMgO濃度は10%以下とすることが好ましい。
酸化物、硫化物の双方ともに、その厚さが大きい場合には、転動疲労寿命の低下を招く。転動疲労寿命に最も影響を及ぼすものは、軌道面下に存在する最も粗大な介在物である。特に、鋼材のL断面の100mm2の面積中において8.5μmを超えるような最大厚さの酸化物や硫化物が、鋼材中の数多くの部位で存在すると、軌道面に存在する確率が高くなり、転動疲労寿命の著しい低下をきたす。
一般に、熱間加工ままの高炭素クロム軸受鋼鋼材のHv硬さは350〜400程度であるため、切断や冷間鍛造などの冷間加工を施す場合には、熱間加工後に球状化焼鈍など長時間にわたる軟質化熱処理を施す必要があった。しかしながら、鋼材の冷間加工性は、鋼材の表面からR/2部位置までの変形能に大きく支配され、高炭素クロム軸受鋼鋼材であっても、熱間加工ままでの上記部位における平均断面硬さがHv硬さで290以下であれば、熱間加工ままあるいは軟質化熱処理時間を短くしても良好な冷間加工性を確保することができる。
本発明(1)の軸受鋼鋼材は、例えば、本発明(2)の方法、具体的には、前記(A)項で述べた化学成分からなり、非金属介在物について前記(B−1)項で述べた酸化物の平均組成を有する鋳片または鋼塊に、2以上の圧下工程によって全圧下比が15以上となる圧下を加えるに際し、該2以上の圧下工程のうちの最終圧下工程が、下記の〔1〕〜〔3〕の全てを満たすようにして圧下し、さらに、最終圧下工程における圧下を終了した後400℃までの温度域を5℃/s以下の冷却速度で冷却することによって製造することができる。
〔2〕圧下工程中の被圧下材の表面温度が、680℃〜(Aem点−30℃)の温度範囲内であること、
〔3〕圧下比が4以上であること。
表1に示す種々の化学組成を有する軸受鋼の鋳片1〜21を製造した。
実施例1で作製した鋼3、鋼11、鋼13、鋼17および鋼20の300mm×400mmの鋳片を1250℃で均熱した後、1150〜1100℃の温度域で分塊圧延して160mm×160mmの鋼片にした。
《2》鋼片を830℃に加熱した後、830〜750℃の温度域で棒鋼圧延し、圧延終了後400℃までの温度域を0.4℃/sの冷却速度で冷却して、φ70mmの棒鋼を製造、
《3》鋼片を1000℃に加熱した後、830〜780℃の温度域で棒鋼圧延し、圧延終了後400℃までの温度域を0.4℃/sの冷却速度で冷却して、φ70mmの棒鋼を製造、
《4》鋼片を780℃に加熱した後、720〜600℃の温度域で棒鋼圧延し、圧延終了後400℃までの温度域を0.4℃/sの冷却速度で冷却して、φ70mmの棒鋼を製造、
《5》鋼片を850℃に加熱した後、920〜810℃の温度域で棒鋼圧延し、圧延終了後400℃までの温度域を0.4℃/sの冷却速度で冷却して、φ70mmの棒鋼を製造、
《6》鋼片を830℃に加熱した後、830〜750℃の温度域で棒鋼圧延し、圧延終了後400℃までの温度域を0.3℃/sの冷却速度で冷却して、φ100mmの棒鋼を製造。
Claims (3)
- 質量%で、C:0.85〜1.2%、Si:0.1〜0.5%、Mn:0.05〜0.6%、P:0.03%以下、S:0.010%以下、Cr:1.2〜1.7%、Al:0.005%以下、Ca:0.0005%以下およびO:0.0020%以下を含有し、残部はFeおよび不純物からなる化学成分を有し、非金属介在物について、酸化物の平均組成が質量%で、CaO:10〜60%、Al2O3:35%以下、MnO:35%以下およびMgO:15%以下で残部SiO2および不純物からなるとともに、鋼材の長手方向縦断面10箇所の100mm2の面積中に存在する酸化物の最大厚さの算術平均の値と硫化物の最大厚さの算術平均の値が、それぞれ、8.5μm以下であり、さらに、鋼材の表面からR/2部位置までの平均断面硬さがビッカース硬さで290以下であることを特徴とする軸受鋼鋼材。
但し、「R」は軸受鋼鋼材の半径を表す。 - 請求項1に記載の化学成分および酸化物の平均組成を有する鋳片または鋼塊に2以上の圧下工程によって全圧下比が15以上となる圧下を加えて軸受鋼鋼材を製造する方法であって、該2以上の圧下工程のうちの最終圧下工程において、下記の〔1〕〜〔3〕の全てを満たすようにして圧下し、さらに、最終圧下工程における圧下を終了した後400℃までの温度域を5℃/s以下の冷却速度で冷却することを特徴とする軸受鋼鋼材の製造方法。
〔1〕被圧下材をAe1点〜Aem点の温度域に加熱して圧下を開始すること
〔2〕圧下工程中の被圧下材の表面温度が、680℃〜(Aem点−30℃)の温度範囲内であること
〔3〕圧下比が4以上であること
但し、全圧下比とは、鋳片または鋼塊の断面積を、最終圧下工程における最終の圧下によって得られた軸受鋼鋼材の断面積で除した値を指し、また、最終圧下工程での圧下比とは、最終圧下工程で圧下が加えられる前の被圧下材の断面積を最終圧下工程における最終の圧下によって得られた軸受鋼鋼材の断面積で除した値を指す。 - 鋳片または鋼塊が、一次精錬としての酸化精錬を行った後に、Al脱酸処理を行わずに、実質的にAlを含有しないフラックスを用いて二次精錬を行って、二次精錬終了後の最終的なスラグの塩基度CaO/SiO2の値が0.8〜2.0で、かつスラグ組成が質量%で、MgO:15%以下、F:10%以下、Al2O3:20%以下になるように制御し、続いて鋳造されたものであることを特徴とする請求項2に記載の軸受鋼鋼材の製造方法。
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