JP2008105471A - 車両の制振制御装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】 車両の旋回中、特に、運転者が、緊急回避操作などの目的で、急操舵を行った場合に、より高度に制振効果が得られるよう改良された車体の制振制御装置を提供すること。
【解決手段】 本発明の車両の駆動力を制御することにより車両のピッチ又はバウンス振動を抑制する車両の制振制御装置は、車両の車輪と路面との接地個所に於いて発生する車輪に作用する車輪トルクに基づいてピッチ又はバウンス振動振幅を抑制するよう車両の駆動力を制御する駆動力制御部を含み、更に、車両の旋回中に於いて車輪トルクに基づく駆動力制御の制御量を通常走行中に比して増大することを特徴とする。
【選択図】 図5
【解決手段】 本発明の車両の駆動力を制御することにより車両のピッチ又はバウンス振動を抑制する車両の制振制御装置は、車両の車輪と路面との接地個所に於いて発生する車輪に作用する車輪トルクに基づいてピッチ又はバウンス振動振幅を抑制するよう車両の駆動力を制御する駆動力制御部を含み、更に、車両の旋回中に於いて車輪トルクに基づく駆動力制御の制御量を通常走行中に比して増大することを特徴とする。
【選択図】 図5
Description
本発明は、自動車等の車両の制振制御装置に係り、より詳細には、車両の駆動力を制御して車体の振動を抑制する制振制御装置に係る。
車両の走行中のピッチ・バウンス等の振動は、車両の加減速時に車体に作用する制駆動力(若しくは慣性力)又はその他の車体に作用する外力により発生するところ、それらの力は、車輪(駆動時には、駆動輪)が路面に対して作用している「車輪トルク」(車輪と接地路面上との間に作用するトルク)に反映される。そこで、車両の制振制御の分野に於いて、車両のエンジン又はその他の駆動装置の駆動出力制御を通して車輪トルクを調節して、車両の走行中に於ける車体の振動を抑制することが提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。かかる駆動出力制御による振動の制振制御に於いては、所謂車体のばね上・ばね下振動の力学的モデルを仮定して構築された運動モデルを用いて、車両の加減速要求があった場合又は車体に外力(外乱)が作用して車輪トルクに変動があった場合に車体に生ずるピッチ・バウンス振動を予測し、その予測された振動が抑制されるように車両の駆動装置の駆動出力が調節される。
上記の如き駆動出力制御による制振制御によれば、サスペンションによる制振制御の如く発生した振動エネルギーを吸収することにより抑制するというよりは、振動を発生する力の源を調節して振動エネルギーの発生を抑えることになるので、制振作用が比較的速やかであり、また、エネルギー効率が良いなどの利点を有する。また、駆動出力制御による制振制御に於いては、制御対象が駆動装置の駆動出力(駆動トルク)に集約されるので、制御の調節が比較的に容易である。
特開2004−168148
特開2006−69472
特許第2518445号
ところで、この分野に於いてよく知られているように、運転者が車両を旋回するべく車輪を操舵すると、車輪の回転方向が車両の進行方向に対して傾き、車両の進行方向に垂直な方向にコーナリングフォースが発生するとともに、車両の進行方向の後ろ向きに、コーナリングドラッグが発生し、その結果、車輪トルクが低減することとなる(車輪にコーナリングフォースとコーナリングドラッグとの合力の車輪の回転方向の成分(転がり抵抗)が作用する。)。従って、上記の如き制振制御に於いて、車輪トルクを調節する際、転がり抵抗を相殺する分、車輪トルクの制御量を増大する必要がある。また、車両の旋回中には、車両に旋回外向きに遠心力が作用するので、旋回外側及び内側の車輪の接地荷重が、それぞれ、増大及び低減し、接地荷重のバランスが変動し、これにより、車両の操縦安定性が低下する(旋回路の曲率半径又は路面の粗さ等の路面の状況と車両のサスペンション又はタイヤ性能に依存して、場合によっては、旋回内輪が路面から離れる場合も有り得る。)。従って、車両の旋回中、特に、操舵量が大きいとき、例えば、緊急回避操作が行われた場合など、には、車両の安定性を確保するべく、より確実に車体の振動が抑制するのに十分な量にて車輪トルクの制御量を供給できることが望ましい。
しかしながら、従前の、駆動力制御による制振制御装置に於いて、車両の旋回中、特に、操舵量が速いとき又は大きいときの対応については、あまり考慮されていない。一般には、過度の制御量が車両に与えられることを避けるために、制振制御のために車輪トルクを調節する車両の駆動力の制御量に、所謂上下限ガードを設けるなどして、駆動力の制御量の大きさ(絶対値)が所定値を越えないように制限している場合もある。かかる従前の制振制御装置に於いて、特に、制御量の上下限ガードを設けている場合に於いては、車両の旋回中に制振制御装置による駆動力の制御が十分に供給されず、その結果、十分な制振効果が得られない場合が起き得る。
本発明によれば、車両の駆動出力制御による車体の制振制御を実行する形式の制振制御装置であって、車両の旋回中、特に、運転者が、緊急回避操作などの目的で、急操舵を行った場合に、より高度に制振効果が得られるよう改良された車両の制振制御装置が提供される。
本発明の車両の駆動力を制御することにより車両のピッチ又はバウンス振動を抑制する車両の制振制御装置は、車両の車輪と路面との接地個所に於いて発生する車輪に作用する車輪トルクに基づいて前記ピッチ又はバウンス振動振幅を抑制するよう車両の駆動力を制御する駆動力制御部を含み、更に、車両の旋回中に於いて車輪トルクに基づく駆動力制御の制御量を通常走行中に比して増大することを特徴とする。なお、かかる構成に於いて、車輪トルクは、車輪に於いて実際に発生しているトルクの検出値であってもよいが、車輪の車輪速から推定された車輪トルク推定値であってもよいことは理解されるべきである。
上記の本発明によれば、車両の旋回中に於いては、車両の姿勢が不安定になり易いところ、車輪トルクに基づく駆動力制御の制御量が増大されて車体の振動に対する制振作用が、通常走行時よりも効果的に表れるようにすることにより、車体の安定化が図られることとなる。車両の旋回中は、車両の車輪の接地荷重のバランスが旋回外側に偏り、旋回内側の接地荷重が下がることになるので、通常走行中、即ち、直進走行中よりも小さな振動でもタイヤと路面の密着の程度が低減し、車両の操縦性が低下してしまう可能性があった。しかしながら、上記の本発明の制振装置に於いては、制振作用が増大されるので、旋回内側の接地荷重は遠心力によって低減されていても、安定的に維持され、これにより、運転者の操縦安定性が向上されることとなる。
上記の構成に於ける車輪トルクに基づく駆動力制御の制御量の増大は、一つの態様としては、車両の操舵速度を表す量、即ち、操舵速度状態量が所定値を越えているときに実行されるようになっていてよい。理解されるように、車体の振動は、車輪トルクの大きさが変動したときに発生し易くなるところ(後述の実施形態の説明参照)、例えば、運転者が緊急回避操作の目的で急操舵を行う場合など、操舵角の変化が大きく且急であるとき、これに伴って車輪の転がり抵抗が大きく且急峻に変動を生じ、その際に、車体を振動させる車輪トルクの変化が特に発生し易くなる。しかも、その場合、車輪トルクを、振動を抑制する目標値まで持っていくには、車輪の転がり抵抗の寄与の相殺も行う必要がある。他方、車両の通常走行時に於いては、制振制御のための駆動力制御は、運転者の意図とは無関係に実行されるので、運転者が違和感を感ずるほど大きく設定すべきではない。そこで、上記の如く、好ましくは、車両の旋回中であって、特に、操舵速度状態量が所定値を越えているとき(急操舵が実行されたとき)、即ち、車輪トルクの変動が大きいときに、車両の安定性の確保を重視するべく、駆動力制御の制御量が増大される。
上記の本発明のもう一つの態様として、車輪トルクに基づく駆動力制御の制御量は、操舵速度状態量の大きさとともに、増大するようになっていてよい。上記の説明から理解される如く、操舵速度が増大すればするほど、車輪トルクの変化速度も増大し、従って、より大きな振幅を引き起こす作用が車体に伝わる可能性がある。従って、操舵速度の増大とともに、より大きな振幅が抑えられるよう駆動力制御の制御量が大きくされてよい。
急操舵が行われたか否かを判定するため又は操舵速度の大きさを判断するための車両の操舵速度を表す量、即ち、操舵速度状態量としては、典型的には、操舵輪の操舵角速度であるが、その他の操舵速度が反映される量、例えば、車両の横加速度の時間変化率、ヨー加速度又はこれらの組み合わせが採用されてよい。理解されるべきことは、操舵速度を参照することにより、車輪トルクの変化の速さに対応して制振制御の制御量を増大し、これにより、車体の安定性を確保することが可能になるということである。
本発明の更に別の態様として、操舵角の大きさが増大するとともに車輪トルクに基づく駆動力制御の制御量が増大するようになっていてもよい。車両の走行中、操舵角が大きければ、通常、その分、車両に於ける接地荷重の旋回外側への偏りが大きくなり、旋回内側の接地荷重は低減されている。従って、操舵角が大きいほど、車体に或る振動が発生した場合に車体の姿勢が不安定に陥る可能性が高くなる。従って、操舵角の大きさに対応して、駆動力制御の制御量を増大し、より確実に制振制御が効果的に作用するようになっていてよい。
なお、車両の制振制御は、そもそも運転者の操縦安定性、乗員の乗り心地等を改善することを目的とするものである。従って、好適には、既に触れたように、車両の通常走行時に於いては、制振制御による車両の駆動力の変化は、運転者に違和感を感じさせない程度に抑えられ、本発明による駆動力制御の制御量の増大は、旋回時の接地荷重のバランスのくずれや車輪トルクの変動が大きく、これにより発生する可能性のある車体の振動が、車両の通常走行時の制御量では、抑制し切れないと想定される場合に実行される。つまり、車両が旋回中であっても、車両が低速で定常的に旋回している場合には、駆動力制御の制御量の増大は、実行されなくてもよい。
本発明は、総じて、車両の旋回時に、制振制御装置の作用を高めて、接地荷重(特に旋回内輪)及び車両の姿勢が振動より不安定にならないようにして、車両の旋回性能又は操縦安定性を確保するものである。この点に関し、例えば、特許文献3の如く、車両の旋回中は、車両の駆動力を低減して、車両の姿勢を安定化させる方法が知られているが、かかる方法の場合は、車速を低下し、遠心力を低下させて接地荷重のバランスを旋回内側へ戻すという手法であり、制振により、車両の姿勢を安定化させるという本発明の発想とは異なるものである。特許文献3に記載の車両安定化装置の場合、駆動力の低減制御中に車輪トルクの大きな変動が起きれば、大きな振幅の振動が発生する可能性が残る(振幅が大きければ、接地荷重が一時的に一部の車輪で接地荷重が一過的に著しく低下し、旋回性能が悪化してしまうこともあり得る。)。一方、本発明によれば、旋回中又は急操舵時に於いては大きな制御量が与えられ、これにより、制振が有効に作用することで、接地荷重のバランスが安定化されるので、車速を落とさずに安定的に車両の操縦性を確保できることとなる。
上記の本発明の操舵速度状態量を参照する態様に関して留意されるべきことは、操舵速度状態量を参照するということは、車輪トルクの絶対的な大きさではなく、操舵に伴う車輪トルクの変化の大きさを参照しているということである。車輪の舵を切れば、転がり抵抗は発生するが、値そのものが安定していれば、後述の説明から理解される如く、車体の振動が惹起されることはない。車体の振動を誘発し得るものは、(車体の固有振動数に実質的に一致する)車輪トルクの変化の大きさであり、そこで、操舵速度状態量を用いて、操舵による車輪トルクの変化の大きさが監視されるようになっている。他方、操舵角を参照する態様は、操舵角とともに接地荷重の偏りが大きくなることによる振動に対する旋回性能の「抵抗性」の低減を監視するものであるということができる。
本発明のその他の目的及び利点は、以下の本発明の好ましい実施形態の説明により明らかになるであろう。
以下に添付の図を参照しつつ、本発明を幾つかの好ましい実施形態について詳細に説明する。図中、同一の符号は、同一の部位を示す。
装置の構成
図1(A)は、本発明の制振制御装置の好ましい実施形態が搭載される自動車を模式的に示している。同図に於いて、左右前輪12FL、12FRと、左右後輪12RL、12RRを有する車両10には、通常の態様にて、運転者によるアクセルペダル14の踏込みに応じて前輪に駆動力を発生する駆動装置16と、左右前輪を操舵するステアリング装置30が搭載される。駆動装置16は、図示の例では、エンジン18から、トランスアクスル20を経て、駆動トルク或いは回転駆動力が前輪12FL、12FRへ伝達されるよう構成されている(エンジン22に代えて電動機が用いられる電気式、或いは、エンジンと電動機との双方を有するハイブリッド式の駆動装置であってもよい。)。また、ステアリング装置30は、運転者によって回転されるステアリングホイール32の回転を、ステアリングギア機構34を介して、タイロッド36L、Rへ伝達し、前輪12FL、FRを転舵する。なお、車両は、後輪にも駆動力が伝達される四輪駆動車両であってもよい。簡単のため図示していないが、車両10には、通常の車両と同様に各輪に制動力を発生する制動系装置が設けられる。
図1(A)は、本発明の制振制御装置の好ましい実施形態が搭載される自動車を模式的に示している。同図に於いて、左右前輪12FL、12FRと、左右後輪12RL、12RRを有する車両10には、通常の態様にて、運転者によるアクセルペダル14の踏込みに応じて前輪に駆動力を発生する駆動装置16と、左右前輪を操舵するステアリング装置30が搭載される。駆動装置16は、図示の例では、エンジン18から、トランスアクスル20を経て、駆動トルク或いは回転駆動力が前輪12FL、12FRへ伝達されるよう構成されている(エンジン22に代えて電動機が用いられる電気式、或いは、エンジンと電動機との双方を有するハイブリッド式の駆動装置であってもよい。)。また、ステアリング装置30は、運転者によって回転されるステアリングホイール32の回転を、ステアリングギア機構34を介して、タイロッド36L、Rへ伝達し、前輪12FL、FRを転舵する。なお、車両は、後輪にも駆動力が伝達される四輪駆動車両であってもよい。簡単のため図示していないが、車両10には、通常の車両と同様に各輪に制動力を発生する制動系装置が設けられる。
駆動装置16の作動は、電子制御装置50により制御される。電子制御装置50は、通常の形式の、双方向コモン・バスにより相互に連結されたCPU、ROM、RAM及び入出力ポート装置を有するマイクロコンピュータ及び駆動回路を含んでいてよい。電子制御装置50には、各輪に搭載された車輪速センサ40i(i=FL、FR、RL、RR)からの車輪速Vwi(i=FL、FR、RL、RR)を表す信号と、車両の各部に設けられたセンサからのエンジンの回転速Er、変速機の変速段情報Ds、アクセルペダル踏込量θa、ステアリングシャフト32aに設けられた操舵角センサ32bからの操舵角δ等の信号が入力される。なお、上記以外に、本実施形態の車両に於いて実行されるべき各種制御に必要な種々のパラメータを得るための各種検出信号、例えば、ヨーレートセンサにより検出されるヨーレート、Gセンサにより検出された横加速度が入力されてよいことは理解されるべきである。電子制御装置50は、図1(B)に於いてより詳細に模式的に示されているように、駆動装置16の作動を制御する駆動制御装置50aと制動装置(図示せず)の作動を制御する制動制御装置50bとから構成されてよい。制動制御装置に於いては、各輪の車輪速センサ40FR、FL、RR、RLからの信号が入力され、車輪の回転速ωが算出され、これに車輪半径rが乗ぜられることにより、車輪速値が算出され、下記に述べる如く、車輪トルク推定値を算出するために、駆動制御装置50aへ送信される(車輪回転速から車輪速への演算は、駆動制御装置50aにて行われてもよい。その場合、車輪回転速が制動制御装置50bから駆動制御装置50aへ与えられる)。また、駆動制御装置50aには、以下により詳細に説明される目的のために、操舵角センサ32bからの操舵角δが与えられる。
駆動制御装置50aに於いては、運転者からの駆動要求がアクセルペダル踏込量θa(及び車速、変速段情報等)に基づいて運転者の要求する駆動装置の目標出力トルク(運転者要求トルク)が決定される。しかしながら、本発明の駆動制御装置に於いては、駆動力制御による車体のピッチ/バウンス振動制振制御を実行するべく、運転者要求トルクが修正され、その修正された要求トルクに対応する制御指令が駆動装置16へ与えられる。かかるピッチ/バウンス振動制振制御に於いては、(1)駆動輪に於いて路面との間に作用する力による駆動輪の車輪トルク推定値の算出、(2)車体振動の運動モデルによるピッチ/バウンス振動状態量の演算、(3)ピッチ/バウンス振動状態量を抑制する車輪トルクの修正量の算出とこれに基づく要求トルクの修正が実行される。なお、本発明の制振制御装置は、(1)−(3)の処理作動に於いて実現されることは理解されるべきである。
車体のピッチ/バウンス振動制振制御を行う駆動力制御の構成
車両に於いて、運転者の駆動要求に基づいて駆動装置が作動して車輪トルクの変動が生ずると、図2(A)に例示されている如き車体10に於いて、車体の重心Cgの鉛直方向(z方向)のバウンス振動と、車体の重心周りのピッチ方向(θ方向)のピッチ振動が発生し得る。また、車両の走行中に路面から車輪上に外力又はトルク(外乱)が作用すると、その外乱が車両に伝達され、やはり車体にバウンス方向及びピッチ方向の振動が発生し得る。そこで、図示の実施形態に於いては、車体のピッチ・バウンス振動の運動モデルを構築し、そのモデルに於いて運転者要求トルク(を車輪トルクに換算した値)と、現在の車輪トルク(の推定値)とを入力した際の車体の変位z、θとその変化率dz/dt、dθ/dt、即ち、車体振動の状態変数を算出し、モデルから得られた状態変数が0に収束するように、即ち、ピッチ/バウンス振動が抑制されるよう駆動装置の駆動トルクが調節される(運転者要求トルクが修正される。)。
車両に於いて、運転者の駆動要求に基づいて駆動装置が作動して車輪トルクの変動が生ずると、図2(A)に例示されている如き車体10に於いて、車体の重心Cgの鉛直方向(z方向)のバウンス振動と、車体の重心周りのピッチ方向(θ方向)のピッチ振動が発生し得る。また、車両の走行中に路面から車輪上に外力又はトルク(外乱)が作用すると、その外乱が車両に伝達され、やはり車体にバウンス方向及びピッチ方向の振動が発生し得る。そこで、図示の実施形態に於いては、車体のピッチ・バウンス振動の運動モデルを構築し、そのモデルに於いて運転者要求トルク(を車輪トルクに換算した値)と、現在の車輪トルク(の推定値)とを入力した際の車体の変位z、θとその変化率dz/dt、dθ/dt、即ち、車体振動の状態変数を算出し、モデルから得られた状態変数が0に収束するように、即ち、ピッチ/バウンス振動が抑制されるよう駆動装置の駆動トルクが調節される(運転者要求トルクが修正される。)。
図2(B)は、本発明の実施形態に於ける駆動力制御の構成を制御ブロックの形式で模式的に示したものである(なお、各制御ブロックの作動は、(C0、C3を除き)電子制御装置50の駆動制御装置50a又は制動制御装置50bのいずれかにより実行される。)。図2(B)を参照して、本発明の実施形態の駆動力制御に於いては、概して述べれば、運転者の駆動要求を車両へ与える駆動制御器と、車体のピッチ/バウンス振動を抑制するよう運転者の駆動要求を修正するための制振制御器とから構成される。駆動制御器に於いては、運転者の駆動要求、即ち、アクセルペダルの踏み込み量(C0)が、通常の態様にて、運転者要求トルクに換算された後(C1)、運転者要求トルクが、駆動装置の制御指令に変換され(C2)、駆動装置(C3)へ送信される。[制御指令は、ガソリンエンジンであれば、目標スロットル開度、ディーゼルエンジンであれば、目標燃料噴射量、モータであれば、目標電流量などである。]
一方、制振制御器は、フィードフォワード制御部分とフィードバック制御部分とから構成される。フィードフォワード制御部分は、所謂、最適レギュレータの構成を有し、ここでは、下記に説明される如く、C1の運転者要求トルクを車輪トルクに換算した値(運転者要求車輪トルクTw0)が車体のピッチ・バウンス振動の運動モデル部分(C4)に入力され、運動モデル部分(C4)では、入力されたトルクに対する車体の状態変数の応答が算出され、その状態変数を最小に収束する運転者要求車輪トルクの修正量が算出される(C5)。他方、フィードバック制御部分に於いては、車輪トルク推定器(C6)にて、後に説明する処理にて車輪トルク推定値Twが算出され、車輪トルク推定値は、乗算器(C7)にてFBゲイン(運転モデルに於ける運転者要求車輪トルクTw0と車輪トルク推定値Twとの寄与のバランスを調整するためのゲイン)が乗ぜられた後、外乱入力として、運転者要求トルクに加算されて運動モデル部分(C4)へ入力され、これにより、外乱に対する運転者要求車輪トルクの修正分も算出される。C5の運転者要求車輪トルクの修正量は、駆動装置の要求トルクの単位に換算されて、加算器(C1a)に送信され、かくして、運転者要求トルクは、ピッチ・バウンス振動が発生しないように修正された後、制御指令に変換されて(C2)、駆動装置(C3)へ与えられることとなる。
上記の運転者要求車輪トルクの修正量Uが、駆動トルクに換算後、加算器C1aに入力される際、運転者要求車輪トルクの修正量が過度に大きいと、運転者にとって不意に駆動力が変動したように感じて不安感を感じたり、或いは、急加速により車両が突発的に前後方向に振動する感覚(ゴツゴツ感)が発生し得る。そこで、制振制御器による演算結果Uを駆動制御器へ入力する直前に、上下限ガード(C8)が設けられ、運転者要求トルクの修正量の寄与が過剰なものとならないようその加算器C1aへの入力値が制限される。なお、後に説明される如く、車両の旋回中、本発明による制振制御の修正、即ち、駆動力制御の制御量の増大が実行される場合、上下限ガードによる処理は、実行されないこととなる。
制振制御の原理
本発明の実施形態に於ける制振制御に於いては、既に触れたように、まず、車体のバウンス方向及びピッチ方向の力学的運動モデルを仮定して、運転者要求車輪トルクTw0と車輪トルク推定値Tw(外乱)とを入力としたバウンス方向及びピッチ方向の状態変数の状態方程式を構成する。そして、かかる状態方程式から、最適レギュレータの理論を用いてバウンス方向及びピッチ方向の状態変数を0に収束させる入力(トルク値)を決定し、得られたトルク値に基づいて運転者要求トルクが修正される。
本発明の実施形態に於ける制振制御に於いては、既に触れたように、まず、車体のバウンス方向及びピッチ方向の力学的運動モデルを仮定して、運転者要求車輪トルクTw0と車輪トルク推定値Tw(外乱)とを入力としたバウンス方向及びピッチ方向の状態変数の状態方程式を構成する。そして、かかる状態方程式から、最適レギュレータの理論を用いてバウンス方向及びピッチ方向の状態変数を0に収束させる入力(トルク値)を決定し、得られたトルク値に基づいて運転者要求トルクが修正される。
車体のバウンス方向及びピッチ方向の力学的運動モデルとして、例えば、図3(A)に示されている如く、車体を質量M及び慣性モーメントIの剛体Sとみなし、かかる剛体Sが、弾性率kfと減衰率cfの前輪サスペンジョンと弾性率krと減衰率crの後輪サスペンジョンにより支持されているとする(車体のばね上振動モデル)。この場合、車体の重心のバウンス方向の運動方程式とピッチ方向の運動方程式は、下記の数1の如く表される。
ここに於いて、Lf、Lrは、それぞれ、重心から前輪軸及び後輪軸までの距離であり、rは、車輪半径であり、hは、重心の路面からの高さである。なお、式(1a)に於いて、第1、第2項は、前輪軸から、第3、4項は、後輪軸からの力の成分であり、式(1b)に於いて、第1項は、前輪軸から、第2項は、後輪軸からの力のモーメント成分である。式(1b)に於ける第3項は、駆動輪に於いて発生している車輪トルクT(=Tw0+Tw)が車体の重心周りに与える力のモーメント成分である。
上記の式(1a)及び(1b)は、車体の変位z、θとその変化率dz/dt、dθ/dtを状態変数ベクトルX(t)として、下記の式(2a)の如く、(線形システムの)状態方程式の形式に書き換えることができる。
dX(t)/dt=A・X(t)+B・u(t) …(2a)
ここで、X(t)、A、Bは、それぞれ、
であり、行列Aの各要素a1-a4及びb1-b4は、それぞれ、式(1a)、(1b)にz、θ、dz/dt、dθ/dtの係数をまとめることにより与えられ、
a1=-(kf+kr)/M、a2=-(cf+cr)/M、
a3=-(kf・Lf-kr・Lr)/M、a4=-(cf・Lf-cr・Lr)/M、
b1=-(Lf・kf-Lr・kr)/I、b2=-(Lf・cf-Lr・cr)/I、
b3=-(Lf2・kf+Lr2・kr)/I、b4=-(Lf2・cf+Lr2・cr)/I
である。また、u(t)は、
u(t)=T
であり、状態方程式(2a)にて表されるシステムの入力である。従って、式(1b)より、行列Bの要素p1は、
p1=h/(I・r)
である。
dX(t)/dt=A・X(t)+B・u(t) …(2a)
ここで、X(t)、A、Bは、それぞれ、
a1=-(kf+kr)/M、a2=-(cf+cr)/M、
a3=-(kf・Lf-kr・Lr)/M、a4=-(cf・Lf-cr・Lr)/M、
b1=-(Lf・kf-Lr・kr)/I、b2=-(Lf・cf-Lr・cr)/I、
b3=-(Lf2・kf+Lr2・kr)/I、b4=-(Lf2・cf+Lr2・cr)/I
である。また、u(t)は、
u(t)=T
であり、状態方程式(2a)にて表されるシステムの入力である。従って、式(1b)より、行列Bの要素p1は、
p1=h/(I・r)
である。
状態方程式(2a)に於いて、
u(t)=−K・X(t) …(2b)
とおくと、状態方程式(2a)は、
dX(t)/dt=(A−BK)・X(t) …(2c)
となる。従って、X(t)の初期値X0(t)をX0(t)=(0,0,0,0)と設定して(トルク入力がされる前には振動はないものとする。)、状態変数ベクトルX(t)の微分方程式(2c)を解いたときに、X(t)、即ち、バウンス方向及びピッチ方向の変位及びのその時間変化率、の大きさを0に収束させるゲインKが決定されれば、バウンス・ピッチ振動を抑制するトルク値u(t)が決定されることとなる。
u(t)=−K・X(t) …(2b)
とおくと、状態方程式(2a)は、
dX(t)/dt=(A−BK)・X(t) …(2c)
となる。従って、X(t)の初期値X0(t)をX0(t)=(0,0,0,0)と設定して(トルク入力がされる前には振動はないものとする。)、状態変数ベクトルX(t)の微分方程式(2c)を解いたときに、X(t)、即ち、バウンス方向及びピッチ方向の変位及びのその時間変化率、の大きさを0に収束させるゲインKが決定されれば、バウンス・ピッチ振動を抑制するトルク値u(t)が決定されることとなる。
ゲインKは、所謂、最適レギュレータの理論を用いて決定することができる。かかる理論によれば、2次形式の評価関数
J=1/2・∫(XTQX+uTRu)dt …(3a)
(積分範囲は、0から∞)
の値が最小になるとき、状態方程式(2a)に於いてX(t)が安定的に収束し、評価関数Jを最小にする行列Kは、
K=R−1・BT・P
により与えられることが知られている。ここで、Pは、リカッティ方程式
-dP/dt=ATP+PA+Q−PBR−1BTP
の解である。リカッティ方程式は、線形システムの分野に於いて知られている任意の方法により解くことができ、これにより、ゲインKが決定される。
J=1/2・∫(XTQX+uTRu)dt …(3a)
(積分範囲は、0から∞)
の値が最小になるとき、状態方程式(2a)に於いてX(t)が安定的に収束し、評価関数Jを最小にする行列Kは、
K=R−1・BT・P
により与えられることが知られている。ここで、Pは、リカッティ方程式
-dP/dt=ATP+PA+Q−PBR−1BTP
の解である。リカッティ方程式は、線形システムの分野に於いて知られている任意の方法により解くことができ、これにより、ゲインKが決定される。
なお、評価関数J及びリカッティ方程式中のQ、Rは、それぞれ、任意に設定される半正定対称行列、正定対称行列であり、システムの設計者により決定される評価関数Jの重み行列である。例えば、ここで考えている運動モデルの場合、Q、Rは、
などと置いて、式(3a)に於いて、状態ベクトルの成分うち、特定のもの、例えば、dz/dt、dθ/dt、のノルム(大きさ)をその他の成分、例えば、z、θ、のノルムより大きく設定すると、ノルムを大きく設定された成分が相対的に、より安定的に収束されることとなる。また、Qの成分の値を大きくすると、過渡特性重視、即ち、状態ベクトルの値が速やかに安定値に収束し、Rの値を大きくすると、消費エネルギーが低減される。
実際の制振制御に於いては、図2(B)のブロック図に示されている如く、運動モデルC4に於いて、トルク入力値を用いて式(2a)の微分方程式を解くことにより、状態変数ベクトルX(t)が算出される。次いで、C5にて、上記の如く状態変数ベクトルX(t)を0又は最小値に収束させるべく決定されたゲインKを運動モデルC4の出力である状態ベクトルX(t)に乗じた値U(t)が、(駆動装置のトルクに換算されて)加算器(C1a)に於いて、運転者要求トルクから差し引かれる(運動モデルC4の演算のために、運動モデルC4のトルク入力値にもフィードバックされる。(状態フィードバック)。)式(1a)及び(1b)で表されるシステムは、共振システムであり、任意の入力に対して状態変数ベクトルの値は、実質的にシステムの固有振動数の成分のみとなる。従って、U(t)(の換算値Uc)が運転者要求トルクから差し引かれるよう構成することにより、運転者要求トルクのうち、システムの固有振動数の成分、即ち、車体に於いてピッチ・バウンス振動を引き起こす成分が修正され、車体に於けるピッチ・バウンス振動が抑制されることとなる(運転者から与えられる要求トルクに於いて、システムの固有振動数の成分がなくなると、駆動装置へ入力される要求トルク指令のうち、システムの固有振動数の成分は、−U(t)のみとなり、Tw(外乱)による振動変位が収束することとなる。)。
車体のバウンス方向及びピッチ方向の力学的運動モデルとして、例えば、図3(B)に示されている如く、図3(A)の構成に加えて、前輪及び後輪のタイヤのばね弾性を考慮したモデル(車体のばね上・下振動モデル)が採用されてもよい。前輪及び後輪のタイヤが、それぞれ、弾性率ktf、ktrを有しているとすると、図3(B)から理解される如く、車体の重心のバウンス方向の運動方程式とピッチ方向の運動方程式は、下記の数4の如く表される。
ここに於いて、xf、xrは、前輪、後輪のばね下変位量であり、mf、mrは、前輪、後輪のばね下の質量である。式(4a)−(4b)は、z、θ、xf、xrとその時間微分値を状態変数ベクトルとして、図3(A)の場合と同様に、式(2a)の如き状態方程式を構成し(ただし、行列Aは、8行8列、行列Bは、8行1列となる。)最適レギュレータの理論に従って、状態変数ベクトルの大きさが0を収束させるゲイン行列Kを決定することができる。実際の制振制御は、図3(A)の場合と同様である。
車輪トルク推定値の算出
図2(B)の制振制御器のフィードバック制御部分に於いて、フィードフォワード制御部分へ外乱として入力される車輪トルクTwは、車輪に於いて実際に発生している車輪トルクを任意の方法で推定したものであってよく、例えば、駆動輪の車輪速センサから得られる車輪回転速ω又は車輪速値r・ωの時間微分を用いて、
Tw=M・r2・dω/dt …(5)
と推定することができる。ここに於いて、Mは、車両の質量であり、rは、車輪半径である。[駆動輪が路面の接地個所に於いて発生している駆動力の総和が、車両の全体の駆動力M・G(Gは、加速度)に等しいとすると、車輪トルクTwは、
Tw=M・G・r …(5a)
にて与えられる。車両の加速度Gは、車輪速度r・ωの微分値より、
G=r・dω/dt …(5b)
で与えられるので、車輪トルクは、式(5)の如く推定される。]
図2(B)の制振制御器のフィードバック制御部分に於いて、フィードフォワード制御部分へ外乱として入力される車輪トルクTwは、車輪に於いて実際に発生している車輪トルクを任意の方法で推定したものであってよく、例えば、駆動輪の車輪速センサから得られる車輪回転速ω又は車輪速値r・ωの時間微分を用いて、
Tw=M・r2・dω/dt …(5)
と推定することができる。ここに於いて、Mは、車両の質量であり、rは、車輪半径である。[駆動輪が路面の接地個所に於いて発生している駆動力の総和が、車両の全体の駆動力M・G(Gは、加速度)に等しいとすると、車輪トルクTwは、
Tw=M・G・r …(5a)
にて与えられる。車両の加速度Gは、車輪速度r・ωの微分値より、
G=r・dω/dt …(5b)
で与えられるので、車輪トルクは、式(5)の如く推定される。]
制振制御の修正
「発明の開示」の欄に於いて触れたように、車輪が操舵されると、図4に模式的に描かれているように、車輪に於いてその回転方向の逆向きに「転がり抵抗」が発生する。よく知られているように、車輪の回転方向が車両の進行方向(図中上向き)に対して傾くと、車輪のタイヤが歪むことにより、車両の進行方向に垂直にコーナリングフォースが発生するとともに、車両の進行方向の逆向きには、コーナリングドラッグが発生する。そのとき、コーナリングドラッグとコーナリングフォースの車輪の回転方向の成分の和は、車輪の回転方向の逆向きに生じ(転がり抵抗)、かかる力が車輪の回転を低減するトルクとなる。従って、車両の駆動中に車輪(駆動輪)の舵が切られ、車輪の回転方向が車両の進行方向からずれると、車輪トルクに車輪の回転方向の逆向きの成分が発生し、車輪トルクが低減されることとなる。
「発明の開示」の欄に於いて触れたように、車輪が操舵されると、図4に模式的に描かれているように、車輪に於いてその回転方向の逆向きに「転がり抵抗」が発生する。よく知られているように、車輪の回転方向が車両の進行方向(図中上向き)に対して傾くと、車輪のタイヤが歪むことにより、車両の進行方向に垂直にコーナリングフォースが発生するとともに、車両の進行方向の逆向きには、コーナリングドラッグが発生する。そのとき、コーナリングドラッグとコーナリングフォースの車輪の回転方向の成分の和は、車輪の回転方向の逆向きに生じ(転がり抵抗)、かかる力が車輪の回転を低減するトルクとなる。従って、車両の駆動中に車輪(駆動輪)の舵が切られ、車輪の回転方向が車両の進行方向からずれると、車輪トルクに車輪の回転方向の逆向きの成分が発生し、車輪トルクが低減されることとなる。
上記の転がり抵抗に変化がなければ、検出又は推定された車輪トルク値のうちシステムの固有振動数に対応する成分にも変化は発生しない。しかしながら、車輪が急操舵されるなどして、車輪の舵角が急峻に変化した場合に、それに応じて、車輪を逆向きに回転する方向に車輪トルクが変動したとき(車輪トルクが低減したとき)、もしこの車輪トルクの変化にシステムの固有振動数に対応する成分が含まれているとすると、車体に、かかる車輪トルクの変化に対応する振幅の振動が発生することとなる。上記の如く、制振制御器は、かかる振動を抑制するよう駆動装置への制御指令を修正するが、図2Bに示されている如く、制振制御器から駆動制御器の間には、上下限ガードC8が挿入され、通常時、運転者に違和感のある駆動力変動が生じないよう要求トルクの修正量が制限されているので、上記の如き急峻なトルクの変動を補償するのに十分な修正が運転者要求トルクになされず、従って、制振作用が不十分となり得る。
また、操舵角が大きく、(或る車速に対して)旋回半径が小さいと、遠心力による荷重移動により、旋回内側の接地荷重が低減し、旋回性能が悪化する可能性がある。この場合、車輪トルクの変動が急操舵時ほど大きくなかったとしても、(通常時の)制振制御器による振動抑制のための制御指令の修正量が不完全であることにより振動変位がわずかに残ってしまうと、かかる抑制し切れなかった振動により簡単に旋回性能が悪化し操縦安定性が損なわれる場合がある。
上記のような車両の旋回中の制振制御の問題を解消するべく、本発明の制振装置では、操舵角速度(操舵速度状態量)又は操舵角を参照して、車両の旋回時、特に、急操舵又は急旋回が為された場合の制振制御の構成が修正される。
図5(A)は、運転者要求車輪トルクの修正量Uの駆動トルクへの換算値Ucの上下限ガードC8に通す際の演算処理を、本発明の教示するところにより修正した場合の処理過程をフローチャートの形式で表したものである。なお、図示の制振制御処理は、車両の運転中、駆動制御装置50a内にて実行される。
図5(A)を参照して、演算処理に於いては、まず、現在の操舵角速度の絶対値|dδ/dt|が所定値Δ1を越えているか否か(ステップ10)及び現在の操舵角の絶対値|δ|が所定値Δ2を越えているか否か(ステップ20)が判定される。所定値Δ1は、所謂急操舵である判定される任意の速度に設定される。所定値Δ2は、車速の関数であってよく、急旋回であると判定される任意の角度に設定される。いずれも対応する所定値を超えていない場合は、即ち、通常時に於いては、上下限ガード(ステップ30)が実行され、要求トルクの修正量Ucは、所定の範囲内に収まるよう修正される。例えば、
Uc>(上限値)であれば、Uc←(上限値)
Uc<(下限値)であれば、Uc←(下限値) (6)
とUcの置換えが為される。なお、上限値、下限値は、車両の通常走行中に運転者が突発的な前後方向を感じない程度の値に実験的に又は理論的に設定される。
Uc>(上限値)であれば、Uc←(上限値)
Uc<(下限値)であれば、Uc←(下限値) (6)
とUcの置換えが為される。なお、上限値、下限値は、車両の通常走行中に運転者が突発的な前後方向を感じない程度の値に実験的に又は理論的に設定される。
一方、ステップ10又は20に於いて、いずれかの参照値が対応する所定値を越えているときには、上下限ガードは、実行されず、要求トルクの修正量Ucは、
Uc←κ・λUc (7)
に置き換えられる(ステップ30)。ここで、κは、操舵角速度の絶対値の関数として与えられるゲインであり、図5(B)の如きマップにより与えられてよい。同図に於いて実線にて示されている如く、κは、操舵角速度の絶対値が0からΔ1までは、1.0であり、Δ1を越えると増大する。従って、操舵角速度がその所定値を越え、車輪トルクの変動が大きいと判断される場合に、駆動力の修正量、つまり、制振制御の制御量が増大することとなる。λは、図5(C)の如きマップの実線により与えられる。同図に例示されている如く、ラムダは、操舵角の絶対値と車速とともに増大する関数であってよく(図では、操舵角の絶対値に対する変化のみ示されている。)、好適には、操舵角が所定値Δ2を越えると、荷重移動量が増大するとともに1.0から増大することとなる。従って、左右の接地荷重の偏りが大きくなると共に制振制御の制御量は増大する。
Uc←κ・λUc (7)
に置き換えられる(ステップ30)。ここで、κは、操舵角速度の絶対値の関数として与えられるゲインであり、図5(B)の如きマップにより与えられてよい。同図に於いて実線にて示されている如く、κは、操舵角速度の絶対値が0からΔ1までは、1.0であり、Δ1を越えると増大する。従って、操舵角速度がその所定値を越え、車輪トルクの変動が大きいと判断される場合に、駆動力の修正量、つまり、制振制御の制御量が増大することとなる。λは、図5(C)の如きマップの実線により与えられる。同図に例示されている如く、ラムダは、操舵角の絶対値と車速とともに増大する関数であってよく(図では、操舵角の絶対値に対する変化のみ示されている。)、好適には、操舵角が所定値Δ2を越えると、荷重移動量が増大するとともに1.0から増大することとなる。従って、左右の接地荷重の偏りが大きくなると共に制振制御の制御量は増大する。
かくして、上記の制御処理によれば、操舵角速度又は操舵角が所定値を越えると急操舵又は急旋回と判定され、駆動力の修正量Ucの増大が実行され、制振制御の効果の増大が図られることとなる。なお、図示の例では、操舵角速度と操舵角との双方に依存して、駆動力の修正量Ucの増大が為されているが、操舵角速度と操舵角のうちのいずれか一方にのみ依存して、駆動力の修正量Ucの増大が実行されてよい。例えば、操舵角速度のみに依存して駆動力の修正量Ucを増大させる場合は、ステップ20は、省略され、式(7)に代えて、
Uc←κUc (7a)
が用いられることとなる。また、図5(B)、(C)中の一点鎖線にて示されている如く、操舵角速度と操舵角が所定値に達した後、κ、λは、それぞれ、或る所定の一定値に増大されるようになっていてもよい。
Uc←κUc (7a)
が用いられることとなる。また、図5(B)、(C)中の一点鎖線にて示されている如く、操舵角速度と操舵角が所定値に達した後、κ、λは、それぞれ、或る所定の一定値に増大されるようになっていてもよい。
上記に於いて、操舵角速度dδ/dtは、操舵角センサからの舵角δ(図1B参照)を時間微分することにより得られてよい。また、操舵角速度に代えて、車両の横加速度の時間変化率、ヨー加速度又はこれらの組み合わせが用いられてもよく、操舵角は、横加速度、ヨーレート又はこれらの組み合わせが用いられてもよい。
以上の説明は、本発明の実施の形態に関連してなされているが、当業者にとつて多くの修正及び変更が容易に可能であり、本発明は、上記に例示された実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の概念から逸脱することなく種々の装置に適用されることは明らかであろう。
例えば、上記の実施形態に於いて、上下限ガードが制振制御器から駆動制御器へ要求トルクの修正量を与える直前に設けられているが、これに代えて又はこれと共に制振制御器内のフィードバック制御部分の車輪トルク推定器からフィードフォワードの運動モデル部分へ車輪トルク推定値を入力する際に、車輪トルク推定値の入力に上下限ガードが設けられてもよい。この場合、車輪トルク推定値の上下限ガードの処理は、操舵角速度又は操舵角の絶対値が所定値より大きいときには実行されず、車輪トルク推定値の入力が操舵角速度又は操舵角の絶対値の増大とともに増大されるようになっていてよい(FBゲインが調整されるようになっていてよい。)。
また、上記の実施形態に於ける車輪トルク推定値が車輪速から推定されるものであるが、車輪トルク推定値が車輪速から以外のパラメータから推定されるものであってもよい。また、上記の実施形態に於ける制振制御は、運動モデルとしてばね上又はばね上・ばね下運動モデルを仮定して最適レギュレータの理論を利用した制振制御であるが、本発明の概念は、車輪トルクを利用するものであれば、ここに紹介されているもの以外の運動モデルを採用したもの或いは最適レギュレータ以外の制御手法により制振を行うものにも適用され、そのような場合も本発明の範囲に属する。
更に、上記の実施形態は、前輪駆動車について適用されているが、後輪駆動車であっても、旋回時には、後輪、即ち、駆動輪の回転方向が車両の進行方向から有意な角度にて傾くので、本発明の概念又は原理が同様に適用できることは理解されるべきである。
10…車体
12FL、FR、RL、RR…車輪
14…アクセルペダル
16…駆動装置
18…エンジン
20…トランスアクスル
30…操舵装置
32…ステアリングホイール
32b…操舵角センサ
40FL、FR、RL、RR…車輪速センサ
50…電子制御装置
12FL、FR、RL、RR…車輪
14…アクセルペダル
16…駆動装置
18…エンジン
20…トランスアクスル
30…操舵装置
32…ステアリングホイール
32b…操舵角センサ
40FL、FR、RL、RR…車輪速センサ
50…電子制御装置
Claims (6)
- 車両の駆動力を制御することにより前記車両のピッチ又はバウンス振動を抑制する車両の制振制御装置であって、車両の車輪と路面との接地個所に於いて発生する車輪に作用する車輪トルクに基づいて前記ピッチ又はバウンス振動振幅を抑制するよう前記車両の駆動力を制御する駆動力制御部を含み、前記車両の旋回中に於いて前記車輪トルクに基づく駆動力制御の制御量を通常走行中に比して増大することを特徴とする車両の制振制御装置。
- 請求項1の装置であって、前記車両の操舵速度を表す操舵速度状態量が所定値を越えているとき、前記操舵速度状態量が前記所定値を越えていないときに比べて前記車輪トルクに基づく駆動力制御の制御量を増大することを特徴とする装置。
- 請求項1の装置であって、前記車両の操舵速度を表す操舵速度状態量の大きさが増大するとともに、前記車輪トルクに基づく駆動力制御の制御量を増大することを特徴とする装置。
- 請求項2又は3の装置であって、前記操舵速度状態量が操舵角速度、車両の横加速度の時間変化率及び車両のヨー加速度から成る群から選択される少なくとも一つの量であることを特徴とする装置。
- 請求項1の装置であって、操舵角の大きさが増大するとともに前記車輪トルクに基づく駆動力制御の制御量が増大することを特徴とする装置。
- 請求項1の装置であって、前記車輪トルクが対応する車輪の車輪速から推定された車輪トルク推定値であることを特徴とする装置。
Priority Applications (1)
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- 2006-10-23 JP JP2006287915A patent/JP2008105471A/ja active Pending
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