以下、本実施形態に係る膜電極接合体(以下、「本MEA」ということがある。)およびその製造方法(以下、「本製造方法」ということがある。)ならびに、本MEAを適用した燃料電池(以下、「本燃料電池」ということがある。)について詳細に説明する。
1.本MEA
図1に例示するように、本MEA10は、電解質膜12の一方面にアノード電極14a、他方面にカソード電極14cが接合されている。
1.1 電解質膜
本MEAにおいて、電解質膜は、多孔質膜の孔部内に電解質ポリマーが充填された膜である。
(多孔質膜)
上記多孔質膜は、主に、電解質膜の骨格をなすもので、膜の一方面から他方面に貫通する貫通孔を多数有している。なお、貫通孔以外にも、非貫通孔が存在していても構わない。
上記貫通孔は、例えば、膜面に対してほぼ垂直に貫通していても良いし、膜面に対して90°未満の角度で傾斜して貫通していても良い。また、蛇行、ジグザク状など、ランダムに貫通していても良い。
上記貫通孔の断面形状は、電解質ポリマーを充填することができれば何れの形状であっても良く、その断面形状は、特に限定されるものではない。貫通孔の断面形状としては、具体的には、例えば、円形、楕円形、多角形、これらが連接された形、これらの組み合わせなどを例示することができる。
上記多孔質膜の空孔率の上限としては、95%以下が好ましく、90%以下がより好ましく、85%以下がさらにより好ましく、80%以下が最も好ましい。一方、上記多孔質膜の空孔率の下限としては、5%以上が好ましく、10%以上がより好ましく、15%以上がさらにより好ましく、20%以上が最も好ましい。多孔質膜の空孔率が上記範囲内にあれば、単位面積当たりの電解質基量と膜強度とのバランスが良いからである。
なお、上記空孔率は、多孔質膜の厚さと面積から体積を求め、その重量を測定し、構成する材料の比重とから、全体積中に占める空気の割合を計算することにより求めることができる。具体的には、下記の式により求めることができる。
空孔率%=(多孔質膜の厚さ×多孔質膜の面積−多孔質膜の重量/構成材料の
比重)/(多孔質膜の厚さ×多孔質膜の面積)×100
上記多孔質膜の孔部径の上限としては、孔部内に充填された電解質ポリマーを保持しやすいなどの観点から、50μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましく、1μm以下が最も好ましい。一方、上記多孔質膜の孔部径の下限としては、孔部内へ電解質ポリマーを充填しやすいなどの観点から、0.001μm以上が好ましく、0.01μm以上がより好ましい。
多孔質膜の孔部径が上記範囲内にあれば、孔部内に電解質ポリマーを比較的充填しやすく、また、充填された電解質ポリマーの保持性が良好で、膜変形時などに脱落し難いからである。なお、上記孔部径は、水銀圧入法により測定される値である。
上記多孔質膜の材質は、上述したような貫通孔を形成することができれば、特に限定されるものではない。例えば、高分子などの有機材料、セラミックス(アルミナ、ムライトなど)、金属(合金含む)などの無機材料、これらを複合した複合材料などを例示することができる。これらのうち、孔部を比較的容易に形成しやすい、軽量であるなどの観点から、高分子を好適に用いることができる。
上記高分子としては、具体的には、例えば、エチレン系樹脂(ポリエチレンなどのエチレン単量体を主成分とする樹脂)、ポリプロピレン、ポリメチルペンテンなどのオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニルなどの塩化ビニル樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、ポリトリフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリ(テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン)、ポリ(テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルエーテル)などのフッ素系樹脂、ナイロン6、ナイロン66などのポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、芳香族ポリイミド、アラミド、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリカーボネート、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステルなどを例示することができる。これらは1種または2種以上含まれていても良い。また、2種以上の高分子を積層するなどしても良い。また、上記高分子は、必要に応じて架橋されていても良い。
上記高分子のうち、好ましくは、ポリエチレンなどのオレフィン系樹脂、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂などといった熱可塑性高分子を好適に用いることができる。
これら熱可塑性高分子は、加熱により軟化または溶融させることができるので、電極を熱圧着した場合に、多孔質膜表面が軟化または溶融し、電解質膜と電極とを融着させやすくなるなどの利点があるからである。なお、上記熱可塑性高分子は、本MEAを適用する燃料電池の作動温度などを考慮して、その作動温度よりも軟化温度または溶融温度が高い材料を選択すれば良い。
上記熱可塑性高分子のうち、より好ましくは、イソプロパノール、メタノールなどのアルコールや水により膨潤し難いなどの観点から、ポリエチレンなどのオレフィン系樹脂である。
上記多孔質膜の厚みの上限としては、電池の内部抵抗の観点から、200μm以下が好ましく、150μm以下がより好ましく、100μm以下が最も好ましい。一方、上記多孔質膜の厚みの下限としては、膜強度を維持し、電極の接合や燃料電池への組み込みの際に、破れなどの欠損を防止するなどの観点から、1μm以上が好ましく、5μm以上がより好ましく、10μm以上が最も好ましい。
上記多孔質膜の厚みが上記範囲内にあれば、膜強度と膜抵抗とのバランスが良いからである。また、メタノールなどの燃料が用いられる場合に、その透過も抑制しやすいからである。
(電解質ポリマー)
上記多孔質膜の孔部内に充填される電解質ポリマーは、膜にイオン伝導性を付与する役割を有する。
上記電解質ポリマーとしては、具体的には、例えば、主鎖および/または側鎖に1種または2種以上の電解質基を有するポリマー、酸、常温溶融塩などの電解質を含ませたポリマーなどを好適なものとして例示することができる。これらポリマーは1種または2種以上含まれていても良い。また、これらポリマーは必要に応じて架橋された架橋体であっても良い。
上記電解質ポリマーは、孔部内に充填される前からポリマーとして存在するものであっても良いし、電解質ポリマーを生成可能なポリマー前駆体が孔部内に充填された後、重合、架橋などが行われて電解質ポリマーとされたものであっても良い。なお、電解質ポリマーの具体的な充填方法については、「2.本製造方法」にて後述する。
上記電解質ポリマーに含まれる電解質基としては、具体的には、例えば、スルホン酸基、スルホンイミド基、ホスホン酸基、亜ホスホン酸基、カルボン酸基などの酸性基を例示することができる。これらは1種または2種以上含まれていても良い。これらのうち、高プロトン伝導性が得られやすいなどの観点から、スルホン酸基を好適に用いることができる。
上記電解質ポリマーとしては、具体的には、例えば、ナフィオン(登録商標)などのパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマー、パーフルオロカーボンホスホン酸系ポリマー、トリフルオロスチレンスルホン酸系ポリマーなど、ポリマー骨格の全部または一部がフッ素化されたフッ素系ポリマーであって電解質基を有するもの;ポリスルホンスルホン酸、ポリアリールエーテルケトンスルホン酸、ポリベンズイミダゾールアルキルスルホン酸、ポリベンズイミダゾールアルキルホスホン酸など、ポリマー骨格にフッ素を含まない炭化水素系ポリマーであって電解質基を有するもの;電解質基を有するモノマー、電解質基に変換し得る官能基を有するモノマー、および、重合前後に電解質基を導入可能な部位を有するモノマー、これらの組み合わせなどからなる電解質モノマーを単量体単位として有するポリマーなどを例示することができる。これらは1種または2種以上含まれていても良い。
上記電解質基を有するモノマーとしては、具体的には、例えば、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンホスホン酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、ビニルスルホン酸、イソプレンスルホン酸、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、クロトン酸、ビニルホスホン酸、酸性リン酸基含有(メタ)アクリレートなどを例示することができる。
なお、「(メタ)アクリル」は「アクリルおよび/またはメタクリル」を、「(メタ)アリル」は「アリルおよび/またはメタリル」を、「(メタ)アクリレート」は「アクリレートおよび/またはメタクリレート」を意味する(以下同様である)。
上記重合前後に電解質基に変換し得る官能基を有するモノマーとしては、具体的には、例えば上記化合物の塩、無水物、エステルなどを例示することができる。使用するモノマーの酸残基が塩、無水物、エステルなどの誘導体となっている場合には、重合後にプロトン酸型にすることでプロトン伝導性を付与することができる。
上記重合前後に電解質基を導入可能な部位を有するモノマーとしては、具体的には、例えば、スチレン、α―メチルスチレン、クロロメチルスチレン、t−ブチルスチレンなどのベンゼン環を有するモノマーを例示することができる。なお、これらに電解質基を導入する方法としては、具体的には、例えば、クロロスルホン酸、濃硫酸、三酸化硫黄などのスルホン化剤でスルホン化する方法などが挙げられる。
これら電解質モノマーとしては、プロトン伝導性に優れるなどの観点から、スルホン酸基を有するビニル化合物、リン酸基を有するビニル化合物などが好ましく、より好ましくは、高い重合性を有するなどの観点から、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などである。
上記電解質ポリマーは、高イオン伝導性が得られるなどの観点から、実質的に、上記多孔質膜の孔部のほぼ全てに充填されていることが好ましい。もっとも、多孔質膜が有する全ての孔部に電解質ポリマーが充填されていなければならないわけではなく、イオン伝導性、燃料の透過性などに悪影響を及ぼさない範囲内であれば、電解質ポリマーが充填されていない孔部が部分的に存在していても構わない。
以上、本MEAが有する電解質膜の各構成について説明した。ここで、上記電解質膜は、乾燥状態にある当該膜を、液温25℃のイソプロパノールまたはその水溶液に1時間浸漬した場合に、何れの濃度範囲においても、浸漬前後における面積変化率が20%以下であることが好ましい。
上記面積変化率が20%以下の範囲にあれば、例えば、イソプロパノールなどの溶剤に溶解した電解質材料を電解質膜の表面に塗布した後、電極を接合してMEAとする際に、溶剤吸収による膜の膨潤や、溶剤揮発による膜の収縮などによる表面積変化によって生じる電極の破損を抑制しやすくなるからである。
上記面積変化率の上限としては、好ましくは20%以下、より好ましくは15%以下、最も好ましくは10%以下であると良い。
また、上記電解質膜は、乾燥状態にある当該膜を、液温25℃のメタノールまたはその水溶液に1時間浸漬した場合に、何れの濃度範囲においても、浸漬前後における面積変化率が20%以下であることが好ましい。
上記面積変化率が20%以下の範囲にあれば、メタノールなどのアルコールを燃料に用いる燃料電池のMEAとして本MEAを用いた場合に、発電と停止とが繰り返し行われても、膜の膨潤や、乾燥による膜の収縮などによる表面積変化によって生じる電極の破損を抑制しやすくなるからである。
上記面積変化率の上限としては、好ましくは20%以下、より好ましくは15%以下、最も好ましくは10%以下であると良い。
なお、上記両面積変化率とは、温度70℃で1時間乾燥させた電解質膜の表面積S1と、当該イソプロパノールもしくはメタノールまたはこれらの水溶液に浸漬した後の表面積S2とを測定し、下記式により算出した値である。
面積変化率=(S2−S1)/S1×100
また、上記電解質膜は、多孔質膜の孔部内に電解質ポリマーが充填されておれば、膜表面(つまり、孔部外)に電解質ポリマー層が被覆されていても良いし、膜表面に多孔質膜が露出されていても良い。電解質膜の骨格をなす多孔質膜と電極との接着性に優れるなどの観点から、好ましくは後者であると良い。
1.2 電極
本MEAにおいて、アノード電極、カソード電極(以下、まとめて単に「電極」ということがある。)のうちの何れか一方または両方は、少なくともMEMS技術を用いて形成されている。
ここで、上記MEMS技術とは、半導体集積回路などに使用される半導体製造プロセスや微細加工プロセスを利用し、機械的な機能と電気的な機能とを合わせ持った微小構造を製造する技術をいう。
これまで電極といえば、触媒層と拡散層とが積層された二層構造のものが主流であった。そして、燃料や酸化剤を供給する流路を有するセパレータや、発電された電気を集電する集電体などは、別部材とされることが通常であった。
ところが、MEMS技術を利用することで、極めて微小な構造を作り込むことが可能である。そのため、従来の電極、セパレータ、集電体などのように、あえて別部材として各電池部材を作製する必要性も小さくなってきている。
つまり、触媒機能および拡散機能のみならず、燃料や酸化剤の供給機能(流路機能)や集電機能をも取り込んだ形で、一体部材として電極を作製することが可能である。
本発明では、「電極」とは、このような広義の意味で使用している。したがって、「MEMS技術を用いて電極を形成する」とは、触媒機能、拡散機能、燃料や酸化剤の供給機能(流路機能)、および、集電機能から選択される少なくとも1種以上の機能を発揮できる構造をMEMS技術を用いて形作ることを意味している。
本電極の具体的な構成としては、例えば、図1に例示するように、燃料(アノード電極14aの場合)または酸化剤(カソード電極14cの場合)の流路16が形成された流路層18と、この流路層18の流路底部に接し、その孔部内に触媒が担持された多孔質層20とを有する電極14a(14c)、図3(h)に例示するように、流路層18の表面に、さらに、集電体層22を有する電極などを例示することができる。
なお、上記構成では、多孔質層が拡散層に該当し、多孔質層の孔部に担持された触媒の層が触媒層に該当する。つまり、上記構成では、拡散層兼触媒層を有していることになる。
上記電極構成において、流路層の流路形状は、燃料または酸化剤を供給することができれば、特に限定されるものではない。
図1は、実際の流路16となる凹部と凸部23とが交互に直線状に配列された断面凹凸状の流路層を例示したものであるが、それ以外にも、燃料電池セパレータに良く用いられるサーペンタイン形状(シングルサーペンタインなど、マルチサーペンタイン形状など)や、渦巻形状などに形成された流路層などであっても良い。
なお、凹凸部のピッチ、凸部の幅、凹部の幅、凹部の溝深さなども、特に限定されることはない。発電部分の形状、大きさや必要とされる電池の性能に伴って、発生する水素や炭酸ガスの排出の量が変わるため、これらにより流路が詰まったり、逆に排出し過ぎて膜が乾燥したりしないように、空気などの酸化剤や燃料の流量、流速などを考慮して設計すれば良い。
上記電極構成において、流路層の流路底部(凹部の底面)と多孔質層の表面とは接している。より具体的には、流路層に隣接して積層されている多孔質層の表面の一部が、流路層の流路底部として使用されている(流路底部に多孔質層の表面が露出している)。
ここで、多孔質層は、流路層の流路底部から多孔質層の電解質膜側の表面まで貫通する貫通孔を多数有している。なお、多孔質層には、上記貫通孔以外にも、非貫通孔が存在していても構わない。
この場合、上記貫通孔は、例えば、多孔質層の表面に対してほぼ垂直に貫通していても良いし、膜面に対して90°未満の角度で傾斜して貫通していても良い。また、蛇行、ジグザク状など、ランダムに貫通していても良い。
上記貫通孔の断面形状は、特に限定されるものではない。貫通孔の断面形状としては、具体的には、例えば、円形、楕円形、多角形、これらが連接された形、これらの組み合わせなどを例示することができる。
上記多孔質層の空孔率の上限としては、機械的強度、触媒層の電気抵抗などの観点から、90%以下が好ましく、80%以下がより好ましく、75%以下がさらにより好ましい。一方、上記多孔質層の空孔率の下限としては、燃料などの供給、触媒層形成プロセスなどの観点から、20%以上が好ましく、30%以上がより好ましく、50%以上がさらにより好ましい。
なお、上記空孔率は、多孔質シリコンの場合、陽極酸化による多孔質化前後の重量測定、および、断面観察による多孔質層の体積計測から求めることができる。
上記多孔質層の孔部径の上限としては、燃料透過性などの観点から、100μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましい。一方、上記多孔質層の孔部径の下限としては、触媒層形成プロセスなどの観点から、10nm以上が好ましく、50nm以上がより好ましい。
なお、上記孔部径は、電子顕微鏡観察により求めることができる。
上記電極構成において、触媒は、上記多孔質層の孔部表面に担持されている、あるいは、触媒金属自体が多孔質層を形成している。
上記触媒の担持方法は、特に限定されるものではない。例えば、孔部表面に粒子状の触媒が化学的、物理的に付着していても良いし、孔部表面に触媒がめっきされるなどしていても良い。
上記触媒は、比較的安価なめっき技術を用いることができる点、触媒が孔部から脱落し難いなどの観点から、好ましくは、めっきにより孔部表面に担持されていると良い。
上記触媒は、上記多孔質層の全域に分布していても良いし、上記多孔質層の電解質膜側の表面から流路層側に向かって、多孔質層の厚さに満たない距離に亘って分布しているなどしていても良い。
触媒含有量の上限としては、10mg/cm2以下が好ましく、5mg/cm2以下がより好ましい。多すぎると、白金などの触媒の粒径が大きくなって触媒重量当たりの利用効率が低下しやすく、粒径を小さいままにする場合は触媒層を厚くしなければならず、その際には、電解質膜から遠い場所における触媒利用率が低下してしまう傾向があるからである。一方、触媒含有量の下限としては、性能維持の観点から、0.01mg/cm2以上が好ましく、0.1mg/cm2がより好ましい。
上記電極構成において、集電体層は、流路層の凸部の表面に形成される。集電体層は、必要な集電を行うことができれば、流路層が有する凸部表面の全てに形成されていても良いし、凸部表面に部分的に形成されていても構わない。
上記流路層材料としては、具体的には、例えば、チタン、ニッケル、それらの合金などの導体材料、シリコン、ゲルマニウム、セレンの単体にイオンをドープしたものやGaAs、GaP、InP、CdTe、ZnSe、SiCなどの化合物半導体にイオンドープしたものなどの半導体材料などを好適なものとして用いることができる。好ましくは、半導体材料を好適に用いることができる。
半導体材料のうちでは、半導体加工技術を応用でき、加工がしやすいなどの観点や、化合物半導体は割れやすいなどの観点から、シリコンを最も好適なものとして用いることができる。
上記シリコンとしては、より具体的には、例えば、エッチング速度が比較的速いn型シリコンを好適に用いることができ、電気エネルギーのロスを小さくするなどの観点から、その抵抗率が好ましくは0.01Ω以下、より好ましくは、0.005Ω以下であるハイドープn型シリコンなどを最も好適に用いることができる。
上記多孔質層材料としては、具体的には、例えば、上記流路層材料を多孔化した材料を好適に用いることができる。
上記触媒材料としては、具体的には、例えば、白金、白金−ルテニウム合金、パラジウム、白金−コバルト合金、白金−鉄合金などの貴金属、貴金属合金などを例示することができる。これらは1種または2種以上含まれていても良い。
より具体的には、カソード電極側の触媒としては、例えば、白金などを好適に用いることができる。一方、アノード電極側の触媒としては、例えば、一酸化炭素による触媒の被毒を軽減しやすい、白金−ルテニウム合金などを好適に用いることができる。
上記集電体層材料としては、具体的には、例えば、銅、銀、金、白金、パラジウム、これらの合金、ステンレスなどを例示することができる。これらは1種または2種以上含まれていても良い。
上記電極の厚みは、特に限定されるものではなく、軽量化や電気抵抗などを考慮して適宜設定することができる。
上記電極の厚みの上限としては、軽量化、小型化などに有利であるなどの観点から、1mm以下が好ましい。一方、上記電極の厚みの下限としては、過度に薄くなると、燃料などの流路を確保し難くなる、MEMSプロセス時のハンドリングが悪くなるなどの観点から、0.05mm以上が好ましい。
この際、上記流路層の厚みの上限としては、1mm以下が好ましく、0.5mm以下がより好ましい。一方、上記流路層の厚みの下限としては、0.01mm以上が好ましく、0.05mm以上がより好ましい。
上記多孔質層の厚みの上限としては、厚くなりすぎると、抵抗が大きく、電池性能が低下するなどの観点から、100μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましく、20μm以下が最も好ましい。一方、上記多孔質層の厚みの下限としては、薄すぎると強度が保てず崩壊しやすくなるなどの観点から、1μm以上が好ましく、2μm以上がより好ましく、5μm以上が最も好ましい。
上記集電体層の厚みの上限としては、厚すぎるとめっき応力で破損しやすくなるなどの観点から、500μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましい。一方、上記集電体層の厚みの下限としては、薄すぎると抵抗が発生するなどの観点から、1μm以上が好ましく、5μm以上がより好ましい。
2.本製造方法
本製造方法は、本MEAを製造することが可能な方法である。この本製造方法では、電極の形成に、少なくともMEMS技術を利用する。
2.1 電解質膜の準備
本製造方法では、多孔質膜の孔部内に電解質ポリマーが充填された電解質膜を使用する。この電解質膜の詳細な構成については、「1.本MEA」にて説明した通りである。
ここで、上記多孔質膜を得る方法は、その材質によっても異なるが、例えば、延伸による方法、造孔材を分散させた膜材料の溶液または溶融物を膜状に塗工し、溶剤を揮発除去したり、溶融状態の膜材料を冷却するなどして膜状にし、造孔材を除去して孔部とする方法、膜状に形成された膜材料に対して、パンチング、ドリリング、レーザ、化学的・物理的エッチングなどの加工手段を用いて孔部を形成する方法、孔部を転写可能な鋳型に高分子などの膜材料の融液を流し込んだ後、これを剥離することにより、膜面に孔部を転写する方法などを例示することができる。
多孔性膜の材質が高分子である場合、最も一般的な方法は、延伸による方法である。すなわち、この方法では、高分子などの膜材料と液状または固体の造孔材とを溶融混合などの方法で混合し、造孔材を一旦微分散させておき、これをTダイなどから押し出しながら延伸し、洗浄などの方法によって造孔材を除去し、多孔質膜とする。
また、延伸方法としては1軸延伸、2軸延伸などの方法がある。なお、延伸の比率や、造孔材の比率や種類、配合量、膜材料の種類などによって孔部の形状などを決定することができる。
上記多孔性膜が、疎水性の高分子材料から形成されている場合、この多孔質膜の表面のうち、少なくとも一方面は、親水処理されていても良い。親水性の高い電解質材料を孔部内に含浸させる場合に、多孔性膜が予め親水化されておれば、孔部内への含浸性が向上し、膜電極接合体の製造性を向上させることができるからである。
上記親水処理の方法としては、具体的には、例えば、界面活性剤処理、コロナ処理、スルホン化処理、親水性ポリマーのグラフト処理などを例示することができる。これら処理は、1または2以上併用しても良い。
また、上記多孔質膜の孔部内に電解質ポリマーを充填する方法は、特に限定されるものではない。具体的には、例えば、電解質ポリマーの溶液もしくは分散液または溶融状態の電解質ポリマーを孔部内に含浸させる方法、電解質ポリマーのポリマー前駆体の溶液もしくは分散液または溶融状態のポリマー前駆体を孔部内に含浸させた後、孔部内に含浸されたポリマー前駆体を重合したり、重合後に、電解質基に変換し得る官能基を電解質基に変換したりするなどして、電解質ポリマーを生成させる方法などを例示することができる。
上記含浸方法としては、具体的には、例えば、上記溶液などに多孔質膜を浸漬する方法、上記溶液や溶融物を多孔質膜に各種の塗工方法(ダイコート法、コンマコート法、グラビアコート法、ロールコート法、バーコート法、リバースコート法など)を用いて塗工する方法などを例示することができる。これらは1種または2種以上併用しても良い。
なお、上記含浸時には、必要に応じて、架橋剤、重合開始剤(光重合開始剤、熱開始剤、レドックス系開始重合開始剤など)、硬化剤、界面活性剤などを1種または2種以上添加しても良い。
上記ポリマー前駆体を用いる場合、このポリマー前駆体には、上述した電解質モノマーが少なくとも1種以上含有される。さらに、必要に応じて架橋剤を含有させても良い。
この場合には、電解質ポリマーの生成時に架橋点を形成することができるので、電解質ポリマーの架橋体を形成しやすくなる。そのため、電解質膜の孔部内に充填された電解質ポリマーの不溶性、不融性が向上し、孔部から脱落し難くなる。
上記架橋剤としては、具体的には、例えば、1分子中に重合可能な官能基を2個以上有する化合物、1分子中に重合性二重結合とその他の架橋反応が可能な官能基を合わせ持つ化合物などを例示することができる。これらは1種または2種以上含まれていても良い。
前者の架橋剤としては、具体的には、例えば、N,N’−メチレンビス(メタ)アクリルアミド、N,N’−エチレンビス(メタ)アクリルアミド、N,N’−プロピレンビス(メタ)アクリルアミド、N,N’−ブチレンビス(メタ)アクリルアミド、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル、ジビニルベンゼン、ビスフェノールジ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸ジ(メタ)アクリレート、テトラアリルオキシエタン、トリアリルアミン、ジアリルオキシ酢酸塩などの架橋性モノマーを例示することができる。
後者の架橋剤としては、具体的には、例えば、N−メチロールアクリルアミド、N−メトキシメチルアクリルアミド、N−ブトキシメチルアクリルアミドなどの架橋性モノマーを例示することができる。これらは、重合性二重結合のラジカル重合を行った後で加熱して縮合反応などを起こさせて架橋するか、ラジカル重合と同時に加熱を行って同様の架橋反応を起こさせることができる。
なお、上記架橋剤は、炭素−炭素二重結合を有する化合物に限られず、重合反応速度はやや小さいものの、2官能以上のエポキシ化合物、ヒドロキシメチル基を有するフェニル基などを有する化合物なども使用することもできる。上記エポキシ化合物を用いる場合は、ポリマー中に含まれるカルボキシル基などの酸と反応することにより架橋点が形成される。
上記ポリマー前駆体には、さらに、必要に応じて、上記電解質モノマーおよび/または上記架橋剤と共重合可能なモノマーを含有させても良い。この種のモノマーとしては、具体的には、例えば、(メタ)アクリル酸エステル類、(メタ)アクリルアミド類、マレイミド類、スチレン類、有機酸ビニル類、アリル化合物、メタリル化合物などを例示することができる。これらは1種または2種以上含まれていても良い。
上記ポリマー前駆体に含まれる電解質モノマーを重合させる方法は、特に限定されるものではなく、一般に知られる方法であれば、何れの方法であっても使用することができる。具体的には、例えば、過酸化物、アゾ化合物などの熱開始剤、レドックス系重合開始剤を用いた熱重合、紫外線などの光の照射によりラジカルを発生する光重合開始剤を用いた光重合、電子線、放射線などによる重合などを例示することができる。これらは1種または2種以上併用しても良い。
上記電解質膜を作製する際、上記電解質ポリマー、ポリマー前駆体は、そのもの自体が液体であり、低粘度である場合には、そのまま多孔質膜の孔部へ含浸させることができる。この場合、好ましい粘度としては、25℃において1〜10000mPa・s程度である。
これに対して、そのままでは多孔質膜の孔部へ含浸させ難い場合には、電解質ポリマーおよび/またはポリマー前駆体を、適当な溶媒に溶解させた溶液、または、適当な分散媒に分散させた分散液とすると良い。この場合、好ましい粘度は、25℃において1〜10000mPa・s程度である。なお、上記粘度は、B型粘度計にて測定される値である。
上記溶媒、分散媒としては、具体的には、例えば、例えばトルエン、キシレン、ベンゼンなどの芳香族系有機溶剤、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族系有機溶剤、クロロホルム、ジクロロエタンなどの塩素系溶剤、ジエチルエーテルなどのエーテル類、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフランなどの環状エーテル類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどのアミド系溶剤、水、アルコール類などを例示することができる。これらは1種または2種以上含まれていても良い。これらのうち、好ましくは、水を主に含んでいると良い。取扱い性、経済性などに優れるからである。
上記溶液または分散液の濃度の上限としては、濃度が高い方が性能に優れるなどの観点から、100質量%以下が好ましく、90質量%以下がより好ましく、80質量%以下が最も好ましい。一方、上記溶液または分散液の濃度の下限としては、濃度が低すぎると充填が不十分となったり、回数を重ねないと充填がし難くなり生産性が悪くなったりするなどの観点から、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、20質量%以上が最も好ましい。
上記電解質膜の製造した際、多孔質膜の表面に電解質ポリマー層が形成された場合、これを取り除く方法としては、具体的には、例えば、樹脂繊維などからなるたわし、ブラシなどにより擦る方法、スクレーパーなどで掻き取る方法などを例示することができる。この際、上記方法は、水などにより湿らせた後、または、洗浄しながら行っても良い。これら方法は1種または2種以上併用しても良い。
2.2 電極の形成
本製造方法では、少なくとも一方の電極を形成するにあたり、MEMS技術を利用する。
上述した電極構成を形成する場合には、具体的には、例えば、シリコンウエハなどの一定の厚みを有する基板の一方面を、貫通しない深さでエッチングして流路層を形成する工程と、流路底部から基板の他方面に至るまでの間を多孔化して多孔質層を形成する工程と、多孔質層の孔部内に触媒を担持させる工程とを少なくとも経る方法(以下、これを「第1の電極形成方法」という。)などを例示することができる。
また、上記第1の方法以外にも、例えば、一定の厚みを有する基板の一方面を、その厚みに達しない深さだけ多孔化して多孔質層を形成する工程と、多孔質層の孔部内に触媒を担持させる工程と、基板の他方面を、多孔質層に達する深さまでエッチングして流路層を形成する工程とを少なくとも経る方法(以下、これを「第2の電極形成方法」という。)、一定の厚みを有する基板の一方面を、その厚みに達しない深さだけ多孔化して多孔質層を形成する工程と、基板の他方面を、多孔質層に達する深さまでエッチングして流路層を形成する工程と、多孔質層の孔部内に触媒を担持させる工程とを少なくとも経る方法などを例示することができる。なお、製造上効率的ではないものの、多孔質層を有する基板と流路層を有する基板とを接合して電極構造とすることも可能である。
上記電極形成方法において、エッチングは、ウェットエッチングであっても良いし、プラズマエッチングなどのドライエッチングであっても良い。電極材料、流路形状などを考慮して選択することができる。
また、基板の一部を多孔化する方法は、例えば、電極材料がシリコンである場合には、陽極酸化法などを例示することができる。シリコン多孔質層の孔径や形状、層厚などは、使用するシリコン単結晶の抵抗率、陽極酸化時の電流密度、陽極酸化時間、陽極酸化液の液組成、濃度、液温などをのパラメータを調製することで制御することが可能である。
陽極酸化時の電流密度の上限としては、電解研磨を生じ難くし、多孔化を促進させやすいなどの観点から、10000A/m2以下が好ましく、5000A/m2以下がより好ましく、2000A/m2以下が最も好ましい。一方、陽極酸化時の電流密度の下限としては、空孔率が小さくなりすぎないなどの観点から、1A/m2以上が好ましく、100A/m2以上がより好ましく、500A/m2以上が最も好ましい。
上記陽極酸化液としては、例えば、フッ酸、フッ化ナトリウム、フッ化アンモニウムなど、水、アルコールなどに溶解してフッ素イオンを生成する化合物を1種または2種以上、水やアルコールなどの適当な溶媒に溶解した液を例示することができる。なお、陽極酸化液におけるフッ素イオンの濃度は、通常、0.5mol/dm3〜25mol/dm3程度とすれば良い。
上記陽極酸化液の液温の上限としては、反応の均一性などの観点から、25℃以下が好ましく、20℃以下がより好ましい。一方、上記陽極酸化液の液温の下限としては、反応速度の観点から、0℃以上が好ましく、10℃以上がより好ましい。
また、多孔質層の孔部内に触媒を担持させる方法としては、具体的には、例えば、無電解めっき、電解めっきなどのめっき法、スパッタ法、金属コロイドの吸着などを例示することができる。これらのうち、孔部内に触媒を保持しやすい、比較的制御が容易で、安価な方法である、触媒担持方法として確立されているなどの観点から、めっき法が好適である。
めっき法に用いるめっき液は、例えば、担持させる触媒金属を構成元素として含む可溶性塩を1種または2種以上、水などの適当な溶媒に溶解させるなどして調製することができる。この際、多孔質層材料がシリコンである場合、無電解めっきを行うときには、めっき液中に、フッ酸などを用いてフッ素イオンを含有させると良い。
シリコンよりもイオン化傾向が小さい白金などの触媒金属は、シリコンから出た電子を受け取り還元されて自然析出してめっきが進行する。しかしながら、めっき進行に伴い、孔部表面にめっき進行の障壁となる絶縁膜(酸化シリコン膜)が形成されることが考えられる。そのため、この絶縁膜の形成が、フッ素イオンの存在によって抑制され、めっきを進行させやすくなるからである。
めっき時の電流密度の上限としては、多孔質層内部への金属イオン供給などの観点から、100A/m2以下が好ましく、10A/m2以下がより好ましい。一方、めっき時の電流密度の下限としては、析出過電圧、析出核の成長などの観点から、0.1A/m2以上が好ましく、1A/m2以上がより好ましい。
上記めっき液の液温の上限としては、核成長などの観点から、25℃以下が好ましく、20℃以下がより好ましい。一方、上記めっき液の液温の下限としては、反応速度の観点から、0℃以上が好ましく、5℃以上がより好ましい。
以下、上記第1および第2の電極形成方法について、図面を用いてより詳細に説明する。
図2は、第1の電極形成方法の一例を模式的に示した断面図である。
初めに、一定の厚みを有するシリコンウエハなどの基板W表面を、ウェットエッチングして、凹凸部よりなる流路層18を形成する(図2(a))。
次に、電気的な導通を確保するため、銅膜などの導電性膜24をスパッタなどにより成膜する(図2(b))。次いで、上記導電性膜24の表面にレジスト膜などの、保護膜26を成膜する(図2(c))。次いで、基板Wの裏面を陽極酸化液に接触させて陽極酸化を行うなどして、基板Wの裏面から流路層18の流路底部に至るまでの間を多孔化し、多孔質層20’を形成する(図2(d))。
次に、多孔質層20’をめっき液に浸漬し、めっきを行うなどして、孔部内に触媒を担持させた多孔質層20を形成する(図2(e))。なお、これにより、多孔質層(拡散層)と触媒層とが重複して形成される。
次いで、アセトンなどの溶剤を用いてレジスト膜を溶解するなどして、保護膜26を除去する(図2(f))。次いで、塩化第二鉄などを用いて銅膜を溶解するなどして、導電性膜24を除去する(図2(g))。これにより、流路16が形成された流路層18と、流路層18の流路底部に接し、その孔部内に触媒が担持された多孔質層20とを有する電極14a(14c)が得られる。
一方、図3は、第2の電極形成方法の一例を模式的に示した断面図である。
初めに、一定の厚みを有するシリコンウエハなどの基板W表面に、電気的な導通を確保する、プラズマエッチングなどのエッチングのマスクに利用するなどのため、銅膜などの導電性膜24をスパッタなどにより成膜する(図3(a))。
次いで、上記導電性膜24の表面に、流路パターンのパターニングのため、フォトレジスト膜26を成膜する(図3(b))。
次いで、上記レジスト膜26の表面に、流路パターンを描いたフォトマスクを載置して露光し、レジスト膜26に流路パターンを転写してベークした後、レジストを除去する(図3(c))。
次いで、塩化第二鉄などのエッチング液を用いて露出した銅膜などの導電性膜24を溶解し、パターンに沿って導電性膜24を除去する(図3(d))。
次いで、アセトンなどの溶剤を用いてレジスト膜26を除去する(図3(e))。
次に、基板Wの裏面を陽極酸化液に接触させて陽極酸化を行うなどして、基板Wの裏面から基板Wの厚みに満たない一定距離の間を多孔化し、多孔質層20’を形成する(図3(f))。
次に、多孔質層20’をめっき液に浸漬し、めっきを行うなどして、孔部内に触媒を担持させた多孔質層20を形成する(図3(g))。なお、これにより、多孔質層(拡散層)と触媒層とが重複して形成される。
次に、上記銅膜24をマスクとして用い、多孔質層20に至るまで基板Wの表面側からプラズマエッチングなどのエッチングを行い、流路層18を形成する(図3(h))。なお、流路層18の表面についている銅膜などの導電性膜は、集電体層22として利用できるが、不要である場合には、さらにエッチングなどを行って除去しても構わない。
これにより、流路が形成された流路層18と、流路層18の流路底部に接し、その孔部内に触媒が担持された多孔質層20と、任意で流路層18の表面に集電体層22とを有する電極14a(14c)が得られる。
2.3 電解質膜と電極との接合
電解質膜に電極を接合する方法としては、具体的には、例えば、イソプロパノールなどの溶剤に溶解した電解質材料を電解質膜の表面および/または電極の多孔質層の表面に塗布した後、電解質膜と電極とを重ね、ホットプレスなどにより加熱加圧する方法などを例示することができる。
上記電解質材料としては、具体的には、例えば、ナフィオンなどのフッ素系電解質ポリマー、ポリスチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸エチレン共重合物、スルホン化ポリエーテルスルホンなどの炭化水素系ポリマーよりなるアイオノマーなどを例示することができる。これらは1種または2種以上併用しても良い。
また、上記加熱加圧時の加熱温度、加圧力は、上記多孔質膜の材質や、溶剤に溶解する電解質材料の種類などを考慮して、適宜選択すれば良い。
一般に、加熱温度、加圧力が過度に高くなると、多孔質膜が変形したり、電極が破損しやすくなる傾向が見られる。一方、加熱温度、加圧力が過度に低くなると、接着性が低下する傾向が見られる。したがって、電解質膜と電極との接合時には、これらに留意すると良い。
3.燃料電池
本燃料電池は、本MEAを備えている。本燃料電池において、本MEAは、一つまたは2つ以上積層されていても良い。本燃料電池に供給する燃料としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール、水素などを用いることができる。好ましくは、メタノールである。一方、本燃料電池に供給する酸化剤としては、酸素、空気などを用いることができる。
以下、本発明を実施例を用いてより具体的に説明する。
1.電解質膜の準備
1.1 電解質膜(1)
2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(東亞合成(株)製、「ATBS」)45g、N,N’−エチレンビスアクリルアミド5g、ノニオン性界面活性剤0.005g、紫外線ラジカル発生剤0.005g、水50gを均一な溶液になるまで攪拌混合し、電解質ポリマーのポリマー前駆体溶液を調製した。
次いで、このポリマー前駆体溶液に、架橋ポリエチレン製の多孔質膜(厚さ16μm、空孔率37%、平均孔部径約0.1μm)を浸漬し、孔部内に当該溶液を含浸させた。
次いで、この多孔質膜を、上記溶液から引き上げた後、気泡ができないようにPETフィルム(厚さ50μm、東レ(株)製、「ルミラーT50」)で挟持し、積層体とした。
次いで、高圧水銀ランプを用いて、上記積層体の両面に紫外線をそれぞれ1000mJ/cm2照射し、孔部内のポリマー前駆体を重合させた。
次いで、この積層体からPETフィルムを剥離除去し、さらに膜表面を純水で濡らしながら樹脂繊維不織布よりなるたわしで擦り、膜表面に付着した電解質ポリマーを取り除き、膜を自然乾燥させた。
これにより、架橋ポリエチレン製の多孔質膜の孔部内に、電解質ポリマーとして、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸単量体単位を有するポリマーの架橋体が充填された電解質膜(1)を得た。
なお、得られた電解質膜(1)表面に水滴を垂らしたところ、水を弾いた。そのため、電解質膜(1)の表面には、架橋ポリエチレン製の多孔質膜が露出していることが確認された。
1.2 電解質膜(2)
比較用電解質膜として、市販のフッ素系電解質膜(デュポン社製、「ナフィオン112」)を用い、これを電解質膜(2)とした。
2.電極の作製
厚さ110μmのハイドープn型シリコンウエハを15mm角に切り出し、その片側表面に、スパッタにより銅薄膜(厚さ約100nm)を成膜した。
なお、上記シリコンウエハは、(100)面が両面研磨加工されている。また、その抵抗率は、0.001〜0.003Ωcmであった。
次いで、その銅薄膜の表面に、フォトレジスト(東京応化工業(株)製、「OFPR−800」)を塗布し、レジスト膜(厚さ50μm)を成膜した。
次いで、ウエハ中央部の一辺5mm角の領域に、マスク幅および開口幅がそれぞれ100μm、200μmピッチの直線形状の流路パターン(流路間隔は、凸部および凹部がそれぞれ100μm)を描いたフォトマスクを載置し、紫外線を照射して流路パターンを露光した後、現像することにより、レジストパターンを形成した。
次いで、42度ボーメ(約48重量%)の塩化第二鉄溶液を用い、上記レジストパターンに沿って銅を除去した後、アセトンを用いて、上記レジストパターンを除去した。さらに、これを400℃で15分間アニーリングした。これにより、上記シリコンウェハ表面に銅マスクパターンを形成した。
次いで、表面に銅マスクパターンが形成されたシリコンウェハの裏面側を、フッ酸(純度46質量%)とエタノールとを体積比1:1で混合した混合溶液に接触させた。そして、シリコンウエハを陽極として、液温10℃、電流密度70mA/m2で390秒間、電流を印加して陽極酸化を行った。これにより、シリコンウエハの裏面から深さ約10μmの範囲に多孔質層を形成した。
次いで、上記多孔質層を、液温20℃のめっき液(1.0M H2SO4+20mM H2PtCl4+300mM HF)に浸漬し、めっき液をゆっくりと撹拌して、15分間無電解めっきを行った。これにより、多孔質層の孔部内に白金触媒を担持させた。なお、白金触媒形成後のシリコンウエハの断面をSEMにより観察したところ、白金触媒は、多孔質層全体に亘って層状に堆積していた。また、白金触媒は、シリコンウエハの裏面から深さ約7μmの範囲に主に堆積していた。
次いで、上記銅マスクパターンを利用し、このパターンに沿ってシリコンをプラズマエッチングした。なお、エッチング条件は、エッチング時間:約100分間、ガス流量:SF6 12sccm、O2 5sccm、RF出力:50W、真空値:2.2〜2.8Paとした。これにより、各流路底部が多孔質層に接した流路層を形成した。
以上により、流路が形成された流路層と、この流路層の流路底部(凹部)に接し、その孔部内に白金触媒が担持された多孔質層と、流路層の表面(凸部表面)に、集電体層として銅層を有する板状の電極を得た。
3.膜電極接合体の作製
上記作製した電解質膜と電極とを用いて膜電極接合体を作製した。
(実施例1に係る膜電極接合体)
上記作製した電解質膜(1)の両面に、それぞれ、上記作製した電極を接合した。
すなわち、先ず、上記作製した電極の多孔質層面をイソプロパノールに浸漬した後、多孔質層表面にナフィオン溶液(5%のNafion溶液:イソプロパノール=1:6)を塗布した。
次いで、上記作製した電解質膜(1)を上記ナフィオン溶液に浸漬させた後、この電解質膜(1)を、2枚の電極で挟み、圧力0.24MPa、100℃で30分間ホットプレスした。
これにより、その厚さが230μmである実施例に係る膜電極接合体を作製した。
(比較例に係る膜電極接合体)
実施例に係る膜電極接合体の作製において、電解質膜(1)に代えて電解質膜(2)を用いた点以外は同様にして、比較例に係る膜電極接合体の作製を試みた。しかしながら、流路部分と多孔質層とがNafion膜の膨潤変形により破損してしまった。
4.評価
4.1 電解質膜のプロトン伝導性
25℃の純水に1時間浸して膨潤させた電解質膜を、2枚の白金板で挟持した試料を用い、25℃で100Hzから40MHzまでの交流インピーダンス測定を実施し、プロトン伝導度を測定した。
その結果、電解質膜(1)のプロトン伝導度は28S/cm2であった。一方、電解質膜(2)のプロトン伝導度は3.6S/cm2であった。
4.2 電解質膜のメタノール透過性
電解質膜のメタノール透過性を、25℃における浸透実験により確認した。
すなわち、電解質膜をガラス製セルに挟み、一方のセルに10質量%メタノール水溶液を入れ、もう一方のセルに純水を入れた。そして、純水側に浸透するメタノール量をガスクロマトグラフ分析により経時的に測定し、定常状態になったときのメタノールの透過係数および透過流束を測定した。
その結果、電解質膜(1)のメタノール透過流束(電解質膜をメタノールが透過する量を表す)は0.53kg/(m2・h)であった。一方、電解質膜(2)のメタノール透過流束は0.31kg/(m2・h)であった。
4.3 電解質膜の膨潤による面積変化
電解質膜を70℃で5時間減圧乾燥し、乾燥面積を測定した。次いで、この乾燥状態にある電解質膜を、濃度の異なるイソプロパノール水溶液またはメタノール水溶液に、25℃で1時間浸漬し、浸漬前後における面積変化率を測定した。
図4に、イソプロパノール水溶液のイソプロパノール濃度(重量%)と膜の面積変化率(%)との関係を示す。図5に、メタノール水溶液のメタノール濃度(重量%)と膜の面積変化率(%)との関係を示す。
これらより、イソプロパノール水溶液およびメタノール水溶液の何れに浸漬した場合も、電解質膜(1)は、その面積変化率が、どの濃度範囲でも20%以下であった。これに対し、電解質膜(2)は、イソプロパノール水溶液およびメタノール水溶液の何れに浸漬した場合も、濃度が高くなるにつれて、面積変化率が急激に大きくなることが確認された。
4.4 発電試験
実施例に係る膜電極接合体を用いた燃料電池を、一対のクランプで挟持し、これを恒温槽内にセットした後、カソード電極の流路層に空気、アノード電極の流路層に水素を流して、発電試験を行った。この際、電池の運転条件は、空気流量10sccm/min、水素流量10sccm/min、恒温槽内温度は、303K、313K、323K、333Kとした。
図6に、実施例に係る燃料電池の電流−電圧、電流−電力特性を示す。図6によれば、実施例に係る燃料電池は、本実施例に係る膜電極接合体を用いているので、電池として作動可能であり、しかも、耐久性、信頼性に優れていることが確認できた。
以上、本発明の一実施形態、一実施例について説明したが、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。