JP2008004781A - 圧電膜、圧電素子、インクジェット式記録ヘッド、及びインクジェット式記録装置 - Google Patents

圧電膜、圧電素子、インクジェット式記録ヘッド、及びインクジェット式記録装置 Download PDF

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Abstract

【課題】可逆的非180°ドメイン回転による大きな圧電歪を得ることができ、しかも比較的製造がしやすく、より実用的な圧電膜を提供する。
【解決手段】圧電膜30は、基板10上に成膜された、一般式ABOで表されるペロブスカイト型酸化物からなる圧電膜(不可避不純物を含んでいてもよい)であり、圧電膜30の少なくとも一部は、母体ペロブスカイト型酸化物のAサイト及び/又はBサイトの一部が、被置換イオンよりもイオン価数の小さい1種又は複数種のカチオンで置換された組成を有しており、かつ、膜厚方向に見て、基板10側から膜表面30s側に向けて、カチオンの添加量が連続的に又は段階的に多くなっている。
【選択図】図1

Description

本発明は、ペロブスカイト型酸化物からなる圧電膜とその成膜方法、この圧電膜を備えた圧電素子、この圧電素子を用いたインクジェット式記録ヘッド及びインクジェット式記録装置に関するものである。
電界印加強度の増減に伴って伸縮する圧電性を有する圧電膜と、圧電膜に対して電界を印加する電極とを備えた圧電素子が、インクジェット式記録ヘッドに搭載される圧電アクチュエータ等の用途に使用されている。圧電材料としては、ジルコンチタン酸鉛(PZT)等のペロブスカイト型酸化物が広く用いられている。
かかる圧電材料は電界無印加時において自発分極性を有する強誘電体であり、従来の圧電素子では、強誘電体の分極軸に合わせた方向に電界を印加することで、分極軸方向に伸びる圧電歪(真の圧電歪)を利用することが一般的であった。しかしながら、強誘電体の上記圧電歪を利用するだけでは歪変位量に限界があり、より大きな歪変位量が求められるようになってきている。かかる背景下、可逆的非180°ドメイン回転を利用した圧電素子が提案されている。
正方晶系をモデルとして説明すれば、a軸が電界印加方向に配向したaドメインが、電界印加によって、c軸が電界印加方向に配向したcドメインに90°ドメイン回転すると、結晶格子の長軸方向が90°回転して、通常の圧電歪よりも大きな圧電歪が得られる(図2(b)を参照)。
上記のような非180°ドメイン回転自体は従来より知られているが、非180°ドメイン回転は通常不可逆であるため、その有用性は低かった。特許文献1及び非特許文献1には、移動性の点欠陥が、その短範囲秩序の対称性が強誘電相の結晶対称性に一致するように配置された圧電材料が開示されており、該材料において可逆的非180°ドメイン回転が起こることが報告されている。
特許文献1及び非特許文献1では、上記圧電材料で可逆的非180°ドメイン回転の起こる理由が、以下のように説明されている(特許文献1の図2を参照)。
常誘電相から冷却により強誘電相に相転移した直後では、点欠陥の短範囲秩序は存在しないが、時効処理を施して点欠陥を拡散させることにより、点欠陥の短範囲秩序が現れ、しかもその短範囲秩序は点欠陥の属する強誘電ドメインの結晶対称性に揃えることができる。この状態は、点欠陥の短範囲秩序による分極軸がその点欠陥の属するドメインの分極軸に揃った状態であり、最も安定である。この状態で電界を印加すると、一部のドメインでは非180°ドメイン回転が起こる。電界を印加しても点欠陥の短範囲秩序による分極軸は回転しないので、非180°ドメイン回転が起こったドメインでは、点欠陥の分極軸とその点欠陥の属するドメインの分極軸とが異なる状態となる。この状態は不安定であるので、電界を取り除くと、点欠陥の分極軸がその点欠陥の属するドメインの自発分極軸に揃った安定な状態に戻りやすく、非180°ドメイン回転を可逆的に起こすことができる。
特許文献1及び非特許文献1では、(1)BaTiO単結晶をフラックス法により作製し、冷却後にキュリー点以下の温度で時効処理したサンプル(実施例1)、(2)BaTiOにKを少量添加した(BaK)TiO単結晶をフラックス法により作製し、冷却後にキュリー点以下の温度で時効処理したサンプル(実施例2)、(3)(Pb,La)(Zr,Ti)Oセラミックス(PLZT)を室温で30日間時効したサンプル(実施例3)、(4)BaTiOにFeを少量添加した単結晶(Fe−BT)を作製し、80℃の温度で5日間時効処理したサンプル(実施例5)などが調製されている。
図9に、代表として上記サンプル(4)の電界歪特性を示しておく(この図は特許文献1の図7である。)。同図には、強誘電体の分極軸に合わせた方向に電界を印加することで、分極軸方向に伸びる通常の圧電歪のみを利用したPZT−PT単結晶とPZTセラミックスの電界歪特性についても合わせて図示されている。
この図には、可逆的非180°ドメイン回転を利用することで、強誘電体の分極軸に合わせた方向に電界を印加することで、分極軸方向に伸びる通常の圧電歪のみを利用するよりも、はるかに大きな圧電歪が得られることが示されている。
特開2004-363557号公報 Xiaobing Ren, Nature-Materials 3(2004)p91
特許文献1では、単結晶体あるいはバルクセラミックス体についてのみサンプルが調製されており、非180°ドメイン回転を可逆的に起こす圧電膜の製法等について記載がなく、圧電膜への応用については具体的に記載されていない。
また、図9に示すように、強誘電体の分極軸に合わせた方向に電界を印加することで、分極軸方向に伸びる通常の圧電歪(真の圧電歪)では、歪変位量は電界印加強度に対して正比例するのに対して、可逆的非180°ドメイン回転による圧電歪では、電界歪特性はヒステリシスの大きいものとなっている。かかる電界歪特性では、ある範囲では電界印加強度を増加させても歪は大きく変化せず、ある範囲を超えると電界印加強度の増加に対して急激に歪が増加する傾向にある。かかるヒステリシスの大きい電界歪特性では実用上の制約が大きく、実用化は難しい。
また、電界印加により非180°ドメイン回転させたドメインは、降電界時には元のドメイン状態に戻す必要があるが、電界挿印速度(周波数)が高くなると、所望のドメイン回転が起こらなくなる恐れもある。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、可逆的非180°ドメイン回転による大きな圧電歪を得ることができ、しかも比較的製造がしやすく、実用的な圧電膜を提供することを目的とするものである。本発明はまた、可逆的非180°ドメイン回転を利用した場合の電界歪特性のヒステリシスや周波数特性を改善することができ、実用上好適な圧電膜を提供することを目的とするものである。
本発明はまた、上記圧電膜を用いた圧電素子、該圧電素子を用いたインクジェット式記録ヘッド及びインクジェット式記録装置を提供することを目的とするものである。
本発明の圧電膜は、基板上に成膜された、一般式ABO(式中、A:Aサイトをなす少なくとも1種の金属元素、B:Bサイトをなす少なくとも1種の金属元素、O:酸素原子、Aサイト元素のモル数が1.0であり、かつBサイト元素のモル数が1.0である場合が標準であるが、Aサイト元素とBサイト元素のモル数はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で1.0からずれてもよい。)で表されるペロブスカイト型酸化物からなる圧電膜(不可避不純物を含んでいてもよい)において、
少なくとも一部は、母体ペロブスカイト型酸化物のAサイト及び/又はBサイトの一部が、被置換イオンよりもイオン価数の小さい1種又は複数種のカチオンで置換された組成を有しており、
かつ、膜厚方向に見て、前記基板側から膜表面側に向けて、前記カチオンの添加量が連続的に又は段階的に多くなっていることを特徴とするものである。
本発明の圧電膜は、膜厚方向に見て、基板側から膜表面側に向けて、カチオンの添加量が連続的に又は段階的に多くなっていればよいので、基板側にはカチオンがドープされていない領域があってもよい。また、膜厚方向に見て、基板側から膜表面側に向けてカチオンの添加量が段階的に多くなる構成では、カチオンの添加量の変化は一段階的でもよいし複数段階的でもよい。
前記カチオンとしては、Li,Na,及びKからなる群より選ばれた少なくとも1種が挙げられる。この場合、前記カチオンは、前記母体ペロブスカイト型酸化物のAサイトを置換することができる。
前記母体ペロブスカイト型酸化物のBサイトに1種又は複数種のIV族元素が含まれている場合、前記カチオンは該IV族元素の一部を置換することができる。Bサイトに含まれる前記IV族元素としてはTi及び/又はZrが挙げられる。Bサイトに1種又は複数種のIV族元素が含まれている場合、前記カチオンとしては、Li,Na,K,Mg,Ca,Cr,Mo,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Ag,Zn,Al,Ga,In,Sb,Bi,及び希土類からなる群より選ばれた少なくとも1種が挙げられる。
前記母体ペロブスカイト型酸化物のBサイトに1種又は複数種のV族元素が含まれている場合、前記カチオンは該V族元素の一部を置換することができる。Bサイトに含まれる前記V族元素としてはNb及び/又はTaが挙げられる。Bサイトに1種又は複数種のV族元素が含まれている場合、前記カチオンとしては、Li,Na,K,Mg,Ca,Ti,Zr,Hf,Cr,Mo,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Ag,Zn,Al,Ga,In,Si,Ge,Sn,Sb,Bi,Se,Te,及び希土類からなる群より選ばれた少なくとも1種が挙げられる。
本発明によれば、前記カチオンの添加によって、電界印加強度の増減によって分極軸が可逆的に非180°回転するドメインが形成された圧電膜を提供することができる。
本発明の圧電膜の結晶構造は、正方晶系、斜方晶系、菱面体晶系、及びこれらの結晶系が複数混合した結晶系のうちいずれかであることが好ましい。本発明の圧電膜は、結晶配向性を有していることが好ましい。ここで、「複数の結晶系が混合した結晶系」とは、モルフォトロピック相境界で複数の結晶相が共存している状態を言う。また、「結晶配向性を有する膜」とは、圧電膜表面におけるX線回折パターンおいて、一部の回折線のみが大きく現れる膜を言う。
本発明の圧電膜の結晶構造が、正方晶系、又は正方晶系と他の結晶系とが混合した結晶系である場合、本発明の圧電膜のドメイン構造としては、電界無印加時において、正方晶のa軸が前記基板の基板面に対して垂直方向に優先配向したaドメインと、正方晶のc軸が前記基板の基板面に対して垂直方向に優先配向したcドメインとを有し、少なくとも一部の前記aドメインが電界印加強度の増減によって分極軸が可逆的に非180°回転するドメインとなっている構造が挙げられる。
本発明の圧電膜は、前記基板の構成材料より室温〜500℃の熱膨張率が大きい材料により構成されていることが好ましい。
本明細書において、「基板の構成材料の熱膨張率」は、基板の構成材料からなるバルク体について測定される一般的な線膨張率を意味するものとする。同様に、「圧電膜の構成材料の熱膨張率」は、圧電膜の構成材料からなるバルク体について測定される一般的な圧電膜の線膨張率を意味するものとする。本発明の圧電膜は膜厚方向のカチオン添加量が異なる組成分布を有しているが、カチオン添加量によって線膨張率は大きくは変化しないので、母体ペロブスカイト型酸化物の線膨張率でもって圧電膜の熱膨張率を規定するものとする。なお、膜自体の線膨張率は正確な測定が困難であるため、本発明では、バルク材料の線膨張率でもって、基板と圧電膜との線膨張率の関係を規定してある。
線膨張率は温度Tの変化に対するバルク体の1辺の長さLの変化率を表し、一般に下記式で表される。
α=(ΔL/L)/ΔT
本発明の圧電膜は、気相成長法により成膜することができる。本発明の圧電膜は例えば、前記カチオンの含有量の異なる複数のターゲットを用意し、成膜中に該複数のターゲットからの成膜の割合を変更して成膜することができる。
従来、圧電膜の組成傾斜に関しては、特開2000-208828号公報が公知になっている。この発明は、前駆体膜を加熱することによって結晶性膜を得るゾルゲル法における問題を解決することを目的としている。
特開2000-208828号公報には、ペロブスカイト型正方晶ではc軸配向させることが、圧電性をより効果的に発現させるために有効であると考えられているが、ゾルゲル法では、結晶化に際して生じる体積収縮によって圧電膜に引張応力が発生し、c軸方向が基板面と平行になってしまう傾向が強いことが記載されている(特開2000-208828号公報の段落[0005])。
そこで、特開2000-208828号公報では、例えばPZT膜において、TiリッチからZrリッチに膜厚方向に組成傾斜させることが提案されている。PZTでは、Ti量が多いときには結晶構造が正方晶系になりやすく、Zr量が多いときには結晶構造が菱面体晶系になりやすい。そのため、上記のような組成傾斜とすることで、結晶化後の降温過程を経た後に菱面体晶系の結晶格子が正方晶系の結晶格子に連続して繋がる膜構造とすることができ、正方晶系の結晶格子を束縛することができるので、c軸配向を実現しやすいことが記載されている(特開2000-208828号公報の段落[0013]等)。
すなわち、特開2000-208828号公報に記載の発明は、本発明で言うところの母体ペロブスカイト型酸化物の組成(圧電膜のメイン組成)に傾斜を持たせるものであり、圧電膜のメイン組成は変えずに、添加するカチオンの量を膜厚方向に変える本発明とは組成傾斜のさせ方が異なっている。また、特開2000-208828号公報に記載の発明は、可逆的非180°ドメイン回転を利用する系ではない。
なお、特開2000-208828号公報ではc軸配向性を高めることが好ましいことが記載されているが、本発明では、可逆的非180°ドメイン回転を利用するので、正方晶系であれば、上記のようにa軸が基板面に対して垂直方向に優先配向したaドメインと、c軸が基板面に対して垂直方向に優先配向したcドメインとが存在することが好ましい。
本発明の圧電膜の成膜方法は、
基板上に、一般式ABO(式中、A:Aサイトをなす少なくとも1種の金属元素、B:Bサイトをなす少なくとも1種の金属元素、O:酸素原子、Aサイト元素のモル数が1.0であり、かつBサイト元素のモル数が1.0である場合が標準であるが、Aサイト元素とBサイト元素のモル数はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で1.0からずれてもよい。)で表されるペロブスカイト型酸化物からなる圧電膜(不可避不純物を含んでいてもよい)を成膜する圧電膜の成膜方法において、
前記圧電膜の少なくとも一部は、母体ペロブスカイト型酸化物のAサイト及び/又はBサイトの一部が、被置換イオンよりもイオン価数の小さい1種又は複数種のカチオンで置換された組成を有するものであり、
膜厚方向に見て、前記基板側から膜表面側に向けて、前記カチオンの添加量が連続的に又は段階的に多くなるように、前記圧電膜の成膜を行うことを特徴とするものである。
前記成膜が気相成長法による成膜である場合、成膜時間の経過と共に、前記カチオンの添加量を連続的に又は段階的に増加させて、前記成膜を行えばよい。例えば、前記カチオンの含有量の異なる複数のターゲットを用意し、前記成膜中に該複数のターゲットからの成膜の割合を変更して、前記成膜を行うことが好ましい。
本発明の圧電素子は、上記の本発明の圧電膜と、該圧電膜の膜厚方向に電界を印加する電極とを備えたことを特徴とするものである。
本発明の圧電素子を製造する際には、圧電膜の成膜に用いた基板を取り除くことが可能である。したがって、本発明の圧電素子は、基板を有するものでもよいし、基板を有しないものでもよい。
本発明のインクジェット式記録ヘッドは、上記の本発明の圧電素子と、
インクが貯留されるインク室及び該インク室から外部に前記インクが吐出されるインク吐出口を有するインク貯留吐出部材とを備えたことを特徴とするものである。
本発明のインクジェット式記録装置は、上記の本発明のインクジェット式記録ヘッドを備えたことを特徴とするものである。
本発明では、圧電膜の少なくとも一部については、母体ペロブスカイト型酸化物のAサイト及び/又はBサイトの一部が、被置換イオンよりもイオン価数の小さい1種又は複数種のカチオンで置換された組成を有する構成とし、さらに、膜厚方向に見て、基板側から膜表面側に向けて、カチオンの添加量が連続的に又は段階的に多くなるよう、カチオン添加を行う構成としている。
かかる構成では、上記カチオン添加による点欠陥によって、分極軸が可逆的に非180°回転するドメインが形成され、可逆的非180°ドメイン回転による大きな圧電歪を得ることができる。しかも、基板側はカチオンの添加量が相対的に少ないので、はじめからカチオンを高い濃度で添加するよりも成膜初期の点欠陥が少なく、結晶構造や結晶配向等を制御しやすく、製造も比較的容易である。
カチオンの添加量によって分極軸が可逆的に非180°回転するドメインの割合が決まるので、本発明では、分極軸が可逆的に非180°回転するドメインの割合は、基板側が相対的に少なく、膜表面側が相対的に多い構成となる。かかる構成では、基板側では可逆的非180°ドメイン回転は起こらない、あるいは可逆的非180°ドメイン回転が起きてもその量は少なく、膜表面側で可逆的非180°ドメイン回転が相対的に大きく起こることとなる。したがって、膜全体に一様に可逆的非180°ドメイン回転が起こる場合に比較すれば、可逆的非180°ドメイン回転を利用した場合の電界歪特性のヒステリシスを和らげることができる。
また、少なくとも膜表面側で可逆的非180°ドメイン回転が起こればよいので、電界挿印速度(周波数)が高くなっても、所望通りのドメイン回転を安定的に起こすことができ、可逆的非180°ドメイン回転を利用した場合の周波数特性も改善することができる。
「圧電素子、インクジェット式記録ヘッド」
図1を参照して、本発明に係る実施形態の圧電素子、及びこれを備えたインクジェット式記録ヘッドの構造について説明する。図1はインクジェット式記録ヘッドの要部断面図である。視認しやすくするため、構成要素の縮尺は実際のものとは適宜異ならせてある。
本実施形態の圧電素子1は、基板10上に、下部電極20と圧電膜30と上部電極40とが順次積層された素子である。圧電膜30は、下部電極20と上部電極40とにより厚み方向に電界が印加されるようになっている。本実施形態では、圧電膜30の膜構造が特徴的なものとなっている。
下部電極20は基板10の略全面に形成されており、この上に図示手前側から奥側に延びるライン状の凸部31がストライプ状に配列したパターンの圧電膜30が形成され、各凸部31の上に上部電極40が形成されている。基板10と下部電極20との間には、これらの密着性を高めるために、Ti等からなる密着層を介在させてもよい。
圧電膜30のパターンは図示するものに限定されず、適宜設計される。また、圧電膜30は連続膜でも構わない。但し、圧電膜30は、連続膜ではなく、互いに分離した複数の凸部31からなるパターンで形成することで、個々の凸部31の伸縮がスムーズに起こるので、より大きな変位量が得られ、好ましい。
基板10としては特に制限なく、シリコン,ガラス,ステンレス(SUS),イットリウム安定化ジルコニア(YSZ),アルミナ,サファイヤ,及びシリコンカーバイド等の基板が挙げられる。基板10としては、シリコン基板上にSiO膜とSi活性層とが順次積層されたSOI基板等の積層基板を用いてもよい。
下部電極20の主成分としては特に制限なく、Au,Pt,Ir,IrO,RuO,LaNiO,及びSrRuO等の金属又は金属酸化物、及びこれらの組合せが挙げられる。
上部電極40の主成分としては特に制限なく、下部電極20で例示した材料,Al,Ta,Cr,Cu等の一般的に半導体プロセスで用いられている電極材料、及びこれらの組合せが挙げられる。
下部電極20と上部電極40の厚みは特に制限なく、50〜500nmであることが好ましい。圧電膜30の膜厚は特に制限なく、例えば1〜10μmである。
圧電膜30は、下記一般式で表されるペロブスカイト型酸化物からなる膜である(不可避不純物を含んでいてもよい)。
一般式ABO
(式中、A:Aサイトをなす少なくとも1種の金属元素、
B:Bサイトをなす少なくとも1種の金属元素、
O:酸素原子、
Aサイト元素のモル数が1.0であり、かつBサイト元素のモル数が1.0である場合が標準であるが、Aサイト元素とBサイト元素のモル数はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で1.0からずれてもよい。)
本実施形態において、圧電膜30の少なくとも一部は、母体ペロブスカイト型酸化物のAサイト及び/又はBサイトの一部が、被置換イオンよりもイオン価数の小さい1種又は複数種のカチオンで置換された組成を有しており、かつ、膜厚方向に見て、基板10側から膜表面30s側に向けて、カチオンの添加量が連続的に又は段階的に多くなっている膜構造を有している。
すなわち、本実施形態においては、圧電膜30の膜構造を、メイン組成は変えずに、添加するカチオンの量を膜厚方向に変える構造としている。
圧電膜30は、膜厚方向に見て、基板10側から膜表面30s側に向けて、カチオンの添加量が連続的に又は段階的に多くなっていればよいので、基板10側にはカチオンがドープされていない領域があってもよい。膜厚方向に見て、基板10側から膜表面30s側に向けてカチオンの添加量が段階的に多くなる構成では、カチオンの添加量の変化は一段階的でもよいし複数段階的でもよい。
母体ペロブスカイト型酸化物の組成は特に制限なく、下記一般式で表されるものが挙げられる。
一般式ABO
(式中、A:Pb,Ba,Nb,La,Li,Sr,Bi,Na,及びKからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
B:Cd,Fe,Ti,Ta,Mg,Mo,Ni,Nb,Zr,Zn,W,及びYbからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素、
O:酸素原子)
上記組成を有する母体ペロブスカイト型酸化物としては、チタン酸鉛,チタン酸ジルコン酸鉛(PZT),ジルコニウム酸鉛,チタン酸鉛ランタン,ジルコン酸チタン酸鉛ランタン,マグネシウムニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛,及びニッケルニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛等の鉛含有化合物や、チタン酸バリウム,ニオブ酸カリウム,及びチタン酸ビスマスナトリウム等の非鉛含有化合物が挙げられる。
添加するカチオンは母体組成に応じて適宜選択され、被置換イオンよりもイオン価数の小さいものであれば特に制限されない。
添加するカチオンとしては、Li,Na,及びKからなる群より選ばれた少なくとも1種のアルカリ金属が挙げられる。これらはいずれも+1価のカチオンである。アルカリ金属は、Aサイト及び/又はBサイトを置換することができ、Aサイトを置換しやすい傾向にある。
母体ペロブスカイト型酸化物のBサイトに1種又は複数種のIV族元素が含まれている場合、添加するカチオンは該IV族元素の一部を置換することができる。Bサイトに含まれるIV族元素としてはTi及び/又はZrが挙げられる。
Bサイトに含まれるIV族元素を置換する添加カチオンとしては、+1〜+3価のカチオンであればよく、Li,Na,K,Mg,Ca,Cr,Mo,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Ag,Zn,Al,Ga,In,Sb,Bi,及び希土類からなる群より選ばれた少なくとも1種が挙げられる。
アルカリ金属はAサイトを置換しやすい傾向にあるので、Bサイトに含まれるIV族元素を置換する場合、添加カチオンとしては、Mg,Ca,Cr,Mo,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Ag,Zn,Al,Ga,In,Sb,Bi,及び希土類からなる群より選ばれた少なくとも1種が好ましい。
母体ペロブスカイト型酸化物のBサイトに1種又は複数種のV族元素が含まれている場合、添加するカチオンは該V族元素の一部を置換することができる。Bサイトに含まれるV族元素としてはNb及び/又はTaが挙げられる。
Bサイトに含まれるV族元素を置換する添加カチオンとしては、+1〜+4価のカチオンであればよく、Li,Na,K,Mg,Ca,Ti,Zr,Hf,Cr,Mo,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Ag,Zn,Al,Ga,In,Si,Ge,Sn,Sb,Bi,Se,Te,及び希土類からなる群より選ばれた少なくとも1種が挙げられる。
アルカリ金属はAサイトを置換しやすい傾向にあるので、Bサイトに含まれるV族元素を置換する場合、添加カチオンとしては、Mg,Ca,Ti,Zr,Hf,Cr,Mo,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Ag,Zn,Al,Ga,In,Si,Ge,Sn,Sb,Bi,Se,Te,及び希土類からなる群より選ばれた少なくとも1種が好ましい。
圧電膜30に母体ペロブスカイト型酸化物の被置換イオンよりもイオン価数の小さい1種又は複数種のカチオンを添加することにより、圧電膜30内に添加カチオンによる点欠陥を生じさせることができる。この添加カチオンによる点欠陥によって、電界印加強度の増減によって分極軸が可逆的に非180°回転するドメインを形成することができる。
また、カチオンの添加量によって分極軸が可逆的に非180°回転するドメインの割合が決まるので、圧電膜30では、分極軸が可逆的に非180°回転するドメインの割合は、基板10側が相対的に少なく、膜表面30s側が相対的に多い構成となる。かかる構成では、基板10側では可逆的非180°ドメイン回転は起こらない、あるいは可逆的非180°ドメイン回転が起きてもその量は少なく、膜表面30s側で可逆的非180°ドメイン回転が相対的に大きく起こることとなる。
本実施形態における可逆的非180°ドメイン回転のメカニズムは、以下のように考えられる。ここでは、正方晶系をモデルにして説明する。
図2(a)は通常の圧電歪の様子を示した図である。図中、Eは電界印加強度と電界印加方向を示す符号である。矢印Pは電界無印加時の分極方向と大きさ、矢印Pは電界印加時の分極方向と大きさを示している。
c軸が電界印加方向に配向したcドメインに対して、その分極軸方向に電界を印加すると(E>0)、電界印加方向に結晶格子が伸びる。これが通常の圧電歪(真の圧電歪)である。
これに対して、非180°ドメイン回転による圧電歪の様子を示したのが図2(b)である。図2(b)に示すように、a軸が電界印加方向に配向したaドメインが、電界印加によって(E>0)、c軸が電界印加方向に配向したcドメインに90°ドメイン回転すると、結晶格子の長軸方向が90°回転して、図2(a)の通常の圧電歪よりも大きな圧電歪が得られる。
本実施形態では、カチオン添加による点欠陥は被置換イオンよりも小さい価数であり、負荷電となっている。この点欠陥とその近傍の酸素空孔(正荷電)は短範囲秩序性を有する欠陥Dを構成し、この欠陥Dは荷電ペアによる分極性を有すると考えられる。図中、欠陥D内の小さな矢印が欠陥分極の方向を示している。
ドメイン内の欠陥Dの分極方向は、その欠陥Dの属するドメインの分極方向と一致した状態が安定である。すなわち、aドメイン内の欠陥Dの分極軸はaドメインの分極軸と一致した状態が安定である。
電界を印加しても欠陥Dの分極軸は回転しないので、電界印加によってaドメインが回転してcドメインとなると、欠陥Dの分極軸と欠陥Dの属するドメインの分極軸とが異なる状態となる。この状態は不安定であるので、電界を取り除くと、欠陥Dの分極軸が欠陥Dの属するドメインの分極軸に揃った安定な状態に戻りやすく、非180°ドメイン回転を可逆的に起こすことができると考えられる。
正方晶系をモデルとし、aドメインからcドメインに整然とドメイン回転する場合について説明したが、実際の圧電膜30は分極軸方向の異なる種々のドメインの集合体である。
また、ドメインには大きく分けて、電界を印加しても分極軸が回転しないドメインXと、電界を印加すると分極軸が180°回転(反転)するドメインYと、電界を印加すると分極軸が非180°回転するドメインZとがある。さらに、ドメインZには、非180°ドメイン回転が非可逆的に起こるドメインZ1と非180°ドメイン回転が可逆的に起こるドメインZ2とがある。
以下、図3を参照して、上記ドメインX〜Zについて説明する。後記するように、圧電膜30は結晶配向性を有することが好ましいが、ここでは分極軸が完全ランダムな多数の結晶粒の集合体である圧電膜30について図示してある。
図3において、(a)は分極処理前の圧電膜30の状態を示す図、(b)は分極処理済みの圧電膜30の電界無印加時の状態(E=0)を示す図、(c)は分極処理済みの圧電膜30に対して電界を印加した状態(E>0)を示す図である。ここでは、1つの結晶粒が1つのドメインである場合について図示してある。
図3(a)に示す分極処理前の圧電膜30は、分極軸がランダムな多数の結晶粒の集合体である。この分極処理前の圧電膜30に対して分極処理を施し、さらに電界を印加すると、図3(c)に示すように、ドメインXでは分極軸の回転は起こらず、ドメインYでは分極軸の180°回転(反転)が起こり、ドメインZでは分極軸の非180°回転が起こる。180°ドメイン回転では結晶格子の上下の向きが変わるだけなので、ドメイン回転による圧電歪は生じないのに対して、非180°ドメイン回転ではドメイン回転による圧電歪が生じる。
さらに、電界印加により分極軸が非180°回転するドメインZのうちドメインZ1では、図3(b)に示すように、電界を取り除いても分極軸は元には戻らず、その歪は残留する(残留歪)。電界印加により分極軸が非180°回転するドメインZのうちドメインZ2では、図3(b)に示すように、電界を取り除くと分極軸が元に戻り、可逆的非180°ドメイン回転が起こる。本実施形態では、可逆的非180°ドメイン回転が起こるドメインZ2の割合は、基板10側が相対的に少なく、膜表面30s側が相対的に多い構成となっている。
圧電膜30では、自発分極軸のベクトル成分と電界印加方向とが一致したときに、電界印加強度の増減によって電界印加方向に伸縮する通常の圧電歪(真の圧電歪)と、可逆的非180°ドメイン回転による圧電歪の双方の効果が得られる。可逆的非180°ドメイン回転による圧電歪では、結晶格子が回転して大きな歪が得られるので、通常の圧電歪と可逆的非180°ドメイン回転による圧電歪とが組み合わさることで、通常の圧電歪のみよりも大きな圧電歪が得られる。
圧電膜30は、結晶配向性を有していることが好ましい。より具体的には、圧電膜30は、基板10側については、自発分極軸のベクトル成分と電界印加方向とが一致したときに、電界印加強度の増減によって電界印加方向に伸縮する通常の圧電歪が効果的に発現するように、分極軸のベクトル成分と電界印加方向とが一致する配向領域の割合が高くなるようにすることが好ましい。また、圧電膜30は、膜表面30s側については、可逆的非180°ドメイン回転による圧電歪が効果的に発現する配向領域の割合が高くなるようにすることが好ましい。
PZT等では、立方晶系と正方晶系と菱面体晶系との3種の結晶系があり、チタン酸バリウム等では、立方晶系と正方晶系と斜方晶系と菱面体晶系との4種の結晶系がある。立方晶系は常誘電体であり圧電性を示さないので、圧電膜30は、正方晶系、斜方晶系、菱面体晶系、及びこれらの結晶系が複数混合した結晶系のうちいずれかである必要がある。各結晶系の自発分極軸は以下の通りである。したがって、結晶系と自発分極軸と電界印加方向と圧電歪の原理とを考慮して、結晶配向を設計することが好ましい。
正方晶系:<001>、斜方晶系:<110>、菱面体晶系:<111>
例えば、圧電膜30の結晶構造が、正方晶系、又は正方晶系と他の結晶系とが混合した結晶系である場合、圧電膜30のドメイン構造としては、電界無印加時において、a軸が基板10の基板面に対して垂直方向に優先配向したaドメインと、c軸が基板10の基板面に対して垂直方向に優先配向したcドメインとを有し、基板10側はcドメインの割合が相対的に多く、膜表面30s側はaドメインの割合が相対的に多く、少なくとも一部のaドメインが電界印加強度の増減によって分極軸が可逆的に非180°回転するドメインとなっている構造が挙げられる。
本実施形態では、基板10の構成材料より圧電膜30の構成材料の方が室温〜500℃の熱膨張率が大きくなるよう、基板10及び圧電膜30の材料の組み合わせを選定することが好ましい。
図4を参照して、正方晶系をモデルとしてこの理由について説明する。図4では、電界無印加時において圧電膜30はaドメインのみからなり、電界印加によりすべてのaドメインがcドメインにドメイン回転する場合について模式的に図示してある。図中、符号30aがaドメイン、符号30cがcドメインを示しており、電極の図示は省略してある。
上記のような熱膨張率の関係にあると、圧電膜30の成膜が終了して室温に戻った後には、基板10及び圧電膜30の構成材料の熱膨張率差から、圧電膜30が基板10よりも横方向に相対的に大きく伸びるような状態となり(この量はごく僅かである)、図4の上図に示すように、圧電膜30に引張応力が発生する。異方性結晶である強誘電体結晶は引張応力下では、応力を緩和するために引張応力の方向に長軸方向を合わせた結晶構造が結晶的に安定である。すなわち、この状態ではaドメインが結晶的に安定である。図4の下図に示すように、電界印加によりaドメインからcドメインへのドメイン回転が生じるが、電界を取り除いた後は、引張応力の方向に長軸方向を合わせた結晶的に安定なaドメインに戻りやすいため、非180°ドメイン回転を可逆的に安定的に起こすことができると考えられる。
室温〜500℃の線膨張率は、PZT系等の一般的な圧電材料は4.0〜8.0×10−6(/℃)である。主な基板材料の室温〜500℃の線膨張率は以下の通りである。
Si:2.6×10−6(/℃)、アルミナ:7.0×10−6(/℃)
基板10の構成材料より圧電膜30の構成材料の方が室温〜500℃の熱膨張率が大きくなるようにするには、基板10としてSi基板等を用いることが好ましい。
本発明では、圧電膜の成膜温度が通常500℃程度以上であることを考慮して、概ね成膜温度以下の範囲と考えられる室温〜500℃の熱膨張率について規定してある。
本明細書において、「結晶配向性を有する」とは、Lotgerling法により測定される配向率Fが、50%以上であることと定義する。
配向率Fは、下記式で表される。
F(%)=(P−P0)/(1−P0)×100・・・(i)
式(i)中、Pは、配向面からの反射強度の合計と全反射強度の合計の比である。(001)配向の場合、Pは、(00l)面からの反射強度I(00l)の合計ΣI(00l)と、各結晶面(hkl)からの反射強度I(hkl)の合計ΣI(hkl)との比({ΣI(00l)/ΣI(hkl)})である。例えば、ペロブスカイト結晶において(001)配向の場合、P=I(001)/[I(001)+I(100)+I(101)+I(110)+I(111)]である。
P0は、完全にランダムな配向をしている試料のPである。
完全にランダムな配向をしている場合(P=P0)にはF=0%であり、完全に配向をしている場合(P=1)にはF=100%である。
圧電膜30の成膜方法としては特に制限なく、スパッタリング法、MOCVD法、及びパルスレーザデポジッション法等の気相成長法;ゾルゲル法及び有機金属分解法等の化学溶液堆積法(CSD);エアロゾルデポジション法等が挙げられる。
本実施形態では、膜厚方向に見て、基板10側から膜表面30s側に向けて、カチオンの添加量が連続的に又は段階的に多くなるように、圧電膜30の成膜を行う。
気相成長法では、成膜時間の経過と共に、カチオンの添加量を連続的に又は段階的に増加させて、圧電膜30の成膜を行えばよい。例えば、カチオンの含有量の異なる複数のターゲットを用意し、成膜中に該複数のターゲットからの成膜の割合を変更することで、膜厚方向のカチオン添加量の異なる圧電膜30を成膜することができる(後記実施例1〜3を参照)。
化学溶液堆積法(CSD)では、原料溶液の組成を変えて組成の異なる層を積層することで、膜厚方向のカチオン添加量の異なる圧電膜30を成膜することができる。
成膜後の常温状態において、欠陥の対称性がその欠陥の属する強誘電ドメインの結晶対称性と一致しない状態となることがある。かかる場合には、成膜後にキュリー点以下の温度でアニールする時効処理を行うことによって、点欠陥を安定な位置に拡散させて、点欠陥の対称性がその点欠陥の属するドメインの結晶対称性と一致した安定な状態(図2(b)の左図を参照)とすることができる。
一般に、基板のないバルク圧電体では、自発分極軸方向に正電界が印加されると、電界印加方向に伸び(33モード変形)、電界印加方向と直交する方向に縮む(31モード変形)。これに対して、基板上に形成された圧電膜では、自発分極軸方向に正電界が印加されると、圧電膜の膜表面側についてはバルク圧電体と同様に、電界印加方向に伸び(33モード変形)、電界印加方向と直交する方向に縮む(31モード変形)が、基板側については、変形が基板に拘束されて、電界印加方向と直交する方向の縮みは小さくなり、圧電素子全体が僅かながらも湾曲することが知られている(31モード撓み変形)。
本実施形態では、圧電膜30の膜表面30s側で可逆的非180°回転による圧電歪が相対的に大きくなるように構成しているので、31モード撓み変形がより顕著に起こると考えられる。この様子を図5に模式的に示す(電極の図示は省略)。なお、図面上は視認しやすくするため、31モード撓み変形を誇張して図示してあるが、そのレベルはごく僅かである。
インクジェット式記録ヘッド2は、概略、圧電素子1の基板10の下面に圧電膜30の伸縮により振動する振動板50が取り付けられ、振動板50の下面に、インクが貯留されるインク室61及びインク室61から外部にインクが吐出されるインク吐出口62を有するインクノズル(インク貯留吐出部材)60が取り付けられたものである。インク室61は、圧電膜30の凸部31の数及びパターンに対応して、複数設けられている。
基板10とは独立した部材の振動板50及びインクノズル60を取り付ける代わりに、基板10の一部を振動板50及びインクノズル60に加工してもよい。例えば、基板10がSOI基板等の積層基板からなる場合には、基板10を下面側からエッチングしてインク室61を形成し、基板自体の加工により振動板50とインクノズル60とを形成することができる。
本実施形態の圧電素子1及びインクジェット式記録ヘッド2は、以上のように構成されている。
本実施形態では、圧電膜30の少なくとも一部については、母体ペロブスカイト型酸化物のAサイト及び/又はBサイトの一部が、被置換イオンよりもイオン価数の小さい1種又は複数種のカチオンで置換された組成を有する構成とし、さらに、膜厚方向に見て、基板10側から膜表面30s側に向けて、カチオンの添加量が連続的に又は段階的に多くなるよう、カチオン添加を行う構成としている。
かかる構成では、上記カチオン添加による点欠陥によって、分極軸が可逆的に非180°回転するドメインが形成され、可逆的非180°ドメイン回転による大きな圧電歪を得ることができる。しかも、基板10側はカチオンの添加量が相対的に少ないので、はじめからカチオンを高い濃度で添加するよりも成膜初期の点欠陥が少なく、結晶構造や結晶配向等を制御しやすく、製造も比較的容易である。
カチオンの添加量によって分極軸が可逆的に非180°回転するドメインの割合が決まるので、本実施形態では、分極軸が可逆的に非180°回転するドメインの割合は、基板10側が相対的に少なく、膜表面30s側が相対的に多い構成となる。かかる構成では、基板10側では可逆的非180°ドメイン回転は起こらない、あるいは可逆的非180°ドメイン回転が起きてもその量は少なく、膜表面30s側で可逆的非180°ドメイン回転が相対的に大きく起こることとなる。
「背景技術」の項において、可逆的非180°ドメイン回転を利用した圧電歪では、電界歪特性はヒステリシスが大きく、実用上の制約が大きいことを述べた(図9を参照)。また、降電界時には元のドメイン状態に戻す必要があるが、電界挿印速度(周波数)が高くなると、所望のドメイン回転が起こらなくなる恐れもあることを述べた。
本実施形態では、分極軸が可逆的に非180°回転するドメインの割合を膜厚方向に変えているので、膜全体に一様に可逆的非180°ドメイン回転が起こる場合に比較すれば、可逆的非180°ドメイン回転を利用した場合の電界歪特性のヒステリシスを和らげることができる。また、少なくとも膜表面30s側で可逆的非180°ドメイン回転が起こればよいので、電界挿印速度(周波数)が高くなっても、所望通りのドメイン回転を安定的に起こすことができ、可逆的非180°ドメイン回転を利用した場合の周波数特性も改善することができる。
本実施形態では、上記のように、電界印加強度の増減によって、31モード撓み変形が効果的に起こるので、31モード撓み変形によって生じる電界横歪を積極的に利用することもできる。例えば、圧電素子1は、31モード撓み変形によって生じる電界横歪を利用して、振動板等として利用することができる。
「インクジェット式記録装置」
図6及び図7を参照して、上記実施形態のインクジェット式記録ヘッド3を備えたインクジェット式記録装置の構成例について説明する。図6は装置全体図であり、図7は部分上面図である。
図示するインクジェット式記録装置100は、インクの色ごとに設けられた複数のインクジェット式記録ヘッド(以下、単に「ヘッド」という)2K,2C,2M,2Yを有する印字部102と、各ヘッド2K,2C,2M,2Yに供給するインクを貯蔵しておくインク貯蔵/装填部114と、記録紙116を供給する給紙部118と、記録紙116のカールを除去するデカール処理部120と、印字部102のノズル面(インク吐出面)に対向して配置され、記録紙116の平面性を保持しながら記録紙116を搬送する吸着ベルト搬送部122と、印字部102による印字結果を読み取る印字検出部124と、印画済みの記録紙(プリント物)を外部に排紙する排紙部126とから概略構成されている。
印字部102をなすヘッド2K,2C,2M,2Yが、各々上記実施形態のインクジェット式記録ヘッド2である。
デカール処理部120では、巻き癖方向と逆方向に加熱ドラム130により記録紙116に熱が与えられて、デカール処理が実施される。
ロール紙を使用する装置では、図6のように、デカール処理部120の後段に裁断用のカッター128が設けられ、このカッターによってロール紙は所望のサイズにカットされる。カッター128は、記録紙116の搬送路幅以上の長さを有する固定刃128Aと、該固定刃128Aに沿って移動する丸刃128Bとから構成されており、印字裏面側に固定刃128Aが設けられ、搬送路を挟んで印字面側に丸刃128Bが配置される。カット紙を使用する装置では、カッター128は不要である。
デカール処理され、カットされた記録紙116は、吸着ベルト搬送部122へと送られる。吸着ベルト搬送部122は、ローラ131、132間に無端状のベルト133が巻き掛けられた構造を有し、少なくとも印字部102のノズル面及び印字検出部124のセンサ面に対向する部分が水平面(フラット面)となるよう構成されている。
ベルト133は、記録紙116の幅よりも広い幅寸法を有しており、ベルト面には多数の吸引孔(図示略)が形成されている。ローラ131、132間に掛け渡されたベルト133の内側において印字部102のノズル面及び印字検出部124のセンサ面に対向する位置には吸着チャンバ134が設けられており、この吸着チャンバ134をファン135で吸引して負圧にすることによってベルト133上の記録紙116が吸着保持される。
ベルト133が巻かれているローラ131、132の少なくとも一方にモータ(図示略)の動力が伝達されることにより、ベルト133は図6上の時計回り方向に駆動され、ベルト133上に保持された記録紙116は図6の左から右へと搬送される。
縁無しプリント等を印字するとベルト133上にもインクが付着するので、ベルト133の外側の所定位置(印字領域以外の適当な位置)にベルト清掃部136が設けられている。
吸着ベルト搬送部122により形成される用紙搬送路上において印字部102の上流側に、加熱ファン140が設けられている。加熱ファン140は、印字前の記録紙116に加熱空気を吹き付け、記録紙116を加熱する。印字直前に記録紙116を加熱しておくことにより、インクが着弾後に乾きやすくなる。
印字部102は、最大紙幅に対応する長さを有するライン型ヘッドを紙送り方向と直交方向(主走査方向)に配置した、いわゆるフルライン型のヘッドとなっている(図7を参照)。各印字ヘッド2K,2C,2M,2Yは、インクジェット式記録装置100が対象とする最大サイズの記録紙116の少なくとも一辺を超える長さにわたってインク吐出口(ノズル)が複数配列されたライン型ヘッドで構成されている。
記録紙116の送り方向に沿って上流側から、黒(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の順に各色インクに対応したヘッド2K,2C,2M,2Yが配置されている。記録紙116を搬送しつつ各ヘッド2K,2C,2M,2Yからそれぞれ色インクを吐出することにより、記録紙116上にカラー画像が記録される。
印字検出部124は、印字部102の打滴結果を撮像するラインセンサ等からなり、ラインセンサによって読み取った打滴画像からノズルの目詰まり等の吐出不良を検出する。
印字検出部124の後段には、印字された画像面を乾燥させる加熱ファン等からなる後乾燥部142が設けられている。印字後のインクが乾燥するまでは印字面と接触することは避けた方が好ましいので、熱風を吹き付ける方式が好ましい。
後乾燥部142の後段には、画像表面の光沢度を制御するために、加熱・加圧部144が設けられている。加熱・加圧部144では、画像面を加熱しながら、所定の表面凹凸形状を有する加圧ローラ145で画像面を加圧し、画像面に凹凸形状を転写する。
こうして得られたプリント物は、排紙部126から排出される。本来プリントすべき本画像(目的の画像を印刷したもの)とテスト印字とは分けて排出することが好ましい。このインクジェット式記録装置100では、本画像のプリント物と、テスト印字のプリント物とを選別してそれぞれの排出部126A、126Bへと送るために排紙経路を切り替える選別手段(図示略)が設けられている。
大きめの用紙に本画像とテスト印字とを同時に並列にプリントする場合には、カッター148を設けて、テスト印字の部分を切り離す構成とすればよい。
インクジェット記記録装置100は、以上のように構成されている。
本発明に係る実施例及び比較例について説明する。
(実施例1)
圧電膜の成膜基板として、表面に自然酸化膜を有する(001)Si単結晶基板上に、Ti密着層(10nm厚)とPt下部電極(100nm厚)とが順次積層された電極付き基板を用意した。
圧電膜の成膜は、2種類のターゲットを設置でき、基板ホルダが回転することで2種類のターゲットから同時に成膜することが可能なRFスパッタリング装置を用いて実施した。下記2種類の組成の第1ターゲット及び第2ターゲットを装置にセットした。基板ホルダの温度は550℃とした。
第1ターゲット:BaTiO
第2ターゲット:2%Mn−BaTiO(BaTiOのTiを2モル%のMnで置換したもの:BaTi0.98Mn0.02
基板ホルダを回転させて成膜を行い、第1ターゲットへ印加するRFパワーは80Wに固定した。成膜開始時は第2ターゲットへ印加するRFパワーは0Wとし、成膜開始から30分経過後、第2ターゲットへ20WのRFパワーを印加した。その後、20分毎に第2ターゲットへ印加するRFパワーを10Wずつ増加させ、第2ターゲットへ印加するRFパワーを最終的に80Wとした。第1ターゲットのみからの成膜も含めた総成膜時間は180分とした。得られた圧電膜の膜厚は1.5μmであった。
圧電膜の成膜終了後に、Au上部電極(100nm厚)を真空蒸着して、本発明の圧電素子を得た。
本例では、第2ターゲットへ印加するRFパワーを経時的に変化させることで、厚み方向の膜組成を変化させたが、第1ターゲット及び第2ターゲットへの印加パワーはいずれも固定した状態で、基板ホルダの回転と停止とを繰り返し、その停止時間を制御することでも、厚み方向の膜組成を変化させることができる。
(実施例2)
下記組成の第1ターゲット及び第2ターゲットを用いて圧電膜の成膜を行った以外は、実施例1と同様にして本発明の圧電素子を得た。
第1ターゲット:KNaNb
第2ターゲット:2%Mn−KNaNb(KNaNbのNbを2モル%のMnで置換したもの:KNaNb1.96Mn0.04
(実施例3)
圧電膜の成膜基板として、(0001)サファイヤ基板上にTi密着層とPt下部電極とが順次積層された電極付き基板(Ti密着層とPt下部電極の膜厚は実施例1と同様)を用意した以外は、実施例1と同様にして本発明の圧電素子を得た。
(比較例1,2,4)
表1に示す組成の1種類のターゲットのみを用いて圧電膜の成膜を行った以外は、実施例1,2と同様にして比較用の圧電素子を得た。
(比較例3)
表1に示す組成の第1ターゲット及び第2ターゲットを用いて圧電膜の成膜を行った以外は、実施例1と同様にして比較用の圧電素子を得た。
<評価>
<XRD測定>
圧電膜の成膜が終了した時点で、Cu−Kαの特性X線で圧電膜のX線回折(XRD)測定を実施した。
<圧電定数>
得られた圧電素子の圧電定数d31を片持ち梁法で測定した。
<結果>
代表として、実施例1で得られた圧電膜のXRDパターンを図8に示す。22°付近及び45°付近の回折線が大きく、かつ45°の回折線がスプリットしたパターンであった。すなわち、得られた圧電膜は、c軸とa軸が基板面に対して垂直に優先配向した膜構造であった。他の実施例と比較例においても同様の回折パターンが得られた。
各例において用いたターゲット組成と評価結果を表1に示す。
Mnの添加量が基板側は相対的に少なく膜表面側は相対的に多くなるように圧電膜の成膜を行った実施例1〜3では、比較例1〜3より高い圧電定数が得られた。実施例1とは逆に、Mnの添加量が基板側は相対的に多く膜表面側は相対的に少なくなるように圧電膜の成膜を行った比較例3では、高い圧電定数は得られず、Mn濃度が一様である比較例2と同程度であった。
基板の構成材料よりも圧電膜の構成材料の方が室温〜500℃の熱膨張率が大きくなるように、基板及び圧電膜の材料の組み合わせを選定した実施例1,2では、特に高い圧電定数が得られた。
Figure 2008004781
本発明の圧電膜は、インクジェット式記録ヘッド,磁気記録再生ヘッド,MEMS(Micro Electro-Mechanical Systems)デバイス,マイクロポンプ,超音波探触子等に搭載される圧電アクチュエータ、及び振動板等に好ましく利用できる。
本発明に係る実施形態の圧電素子及びこれを備えたインクジェット式記録ヘッドの構造を示す要部断面図 (a)は通常の圧電歪の様子を示す図、(b)は可逆的非180°ドメイン回転による圧電歪の様子を示す図 (a)は分極処理前の圧電膜の状態を示す図、(b)は分極処理済みの圧電膜の電界無印加時の状態を示す図、(c)は分極処理済みの圧電膜に対して電界を印加した状態を示す図 基板及び圧電膜の熱膨張率の関係を規定することで、可逆的非180°ドメイン回転を安定的に起こすことができることを説明する説明図 31モード撓み変形の説明図 図1のインクジェット式記録ヘッドを備えたインクジェット式記録装置の構成例を示す図 図6のインクジェット式記録装置の部分上面図 実施例1で得られた圧電膜のXRDパターン 可逆的非180°ドメイン回転を利用した圧電素子の電界歪特性の例を示す図
符号の説明
1 圧電素子
2,2K,2C,2M,2Y インクジェット式記録ヘッド
10 基板
20、40 電極
30 圧電膜
30a aドメイン
30c cドメイン
30s 圧電膜の膜表面
50 振動板
60 インクノズル(インク貯留吐出部材)
61 インク室
62 インク吐出口
100 インクジェット式記録装置
D 短範囲秩序を持つ欠陥
X 電界を印加しても分極軸が回転しないドメイン
Y 電界を印加すると分極軸が180°回転するドメイン
Z1 電界を印加すると分極軸が非180°回転し、電界を取り除いても分極軸が元に戻らないドメイン
Z2 電界を印加すると分極軸が非180°回転し、電界を取り除くと分極軸が元に戻るドメイン(分極軸が可逆的に非180°回転するドメイン)

Claims (21)

  1. 基板上に成膜された、一般式ABO(式中、A:Aサイトをなす少なくとも1種の金属元素、B:Bサイトをなす少なくとも1種の金属元素、O:酸素原子、Aサイト元素のモル数が1.0であり、かつBサイト元素のモル数が1.0である場合が標準であるが、Aサイト元素とBサイト元素のモル数はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で1.0からずれてもよい。)で表されるペロブスカイト型酸化物からなる圧電膜(不可避不純物を含んでいてもよい)において、
    少なくとも一部は、母体ペロブスカイト型酸化物のAサイト及び/又はBサイトの一部が、被置換イオンよりもイオン価数の小さい1種又は複数種のカチオンで置換された組成を有しており、
    かつ、膜厚方向に見て、前記基板側から膜表面側に向けて、前記カチオンの添加量が連続的に又は段階的に多くなっていることを特徴とする圧電膜。
  2. 前記カチオンは、Li,Na,及びKからなる群より選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の圧電膜。
  3. 前記カチオンは、前記母体ペロブスカイト型酸化物のAサイトを置換していることを特徴とする請求項2に記載の圧電膜。
  4. 前記母体ペロブスカイト型酸化物のBサイトに1種又は複数種のIV族元素が含まれており、前記カチオンが該IV族元素の一部を置換していることを特徴とする請求項1に記載の圧電膜。
  5. 前記IV族元素がTi及び/又はZrであることを特徴とする請求項4に記載の圧電膜。
  6. 前記カチオンが、Li,Na,K,Mg,Ca,Cr,Mo,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Ag,Zn,Al,Ga,In,Sb,Bi,及び希土類からなる群より選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項4又は5に記載の圧電膜。
  7. 前記母体ペロブスカイト型酸化物のBサイトに1種又は複数種のV族元素が含まれており、前記カチオンが該V族元素の一部を置換していることを特徴とする請求項1に記載の圧電膜。
  8. 前記V族元素がNb及び/又はTaであることを特徴とする請求項7に記載の圧電膜。
  9. 前記カチオンが、Li,Na,K,Mg,Ca,Ti,Zr,Hf,Cr,Mo,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Ag,Zn,Al,Ga,In,Si,Ge,Sn,Sb,Bi,Se,Te,及び希土類からなる群より選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項7又は8に記載の圧電膜。
  10. 前記カチオンの添加によって、電界印加強度の増減によって分極軸が可逆的に非180°回転するドメインが形成されていることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の圧電膜。
  11. 結晶構造が、正方晶系、斜方晶系、菱面体晶系、及びこれらの結晶系が複数混合した結晶系のうちいずれかであることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の圧電膜。
  12. 結晶配向性を有していることを特徴とする請求項11に記載の圧電膜。
  13. 結晶構造が、正方晶系、又は正方晶系と他の結晶系とが混合した結晶系であり、
    電界無印加時において、正方晶のa軸が前記基板の基板面に対して垂直方向に優先配向したaドメインと、正方晶のc軸が前記基板の基板面に対して垂直方向に優先配向したcドメインとを有し、少なくとも一部の前記aドメインが電界印加強度の増減によって分極軸が可逆的に非180°回転するドメインとなっていることを特徴とする請求項12に記載の圧電膜。
  14. 前記基板の構成材料より室温〜500℃の熱膨張率が大きい材料からなることを特徴とする請求項1〜13のいずれかに記載の圧電膜。
  15. 気相成長法により成膜されたものであって、
    前記カチオンの含有量の異なる複数のターゲットを用意し、成膜中に該複数のターゲットからの成膜の割合を変更して成膜されたものであることを特徴とする請求項1〜14のいずれかに記載の圧電膜。
  16. 基板上に、一般式ABO(式中、A:Aサイトをなす少なくとも1種の金属元素、B:Bサイトをなす少なくとも1種の金属元素、O:酸素原子、Aサイト元素のモル数が1.0であり、かつBサイト元素のモル数が1.0である場合が標準であるが、Aサイト元素とBサイト元素のモル数はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で1.0からずれてもよい。)で表されるペロブスカイト型酸化物からなる圧電膜(不可避不純物を含んでいてもよい)を成膜する圧電膜の成膜方法において、
    前記圧電膜の少なくとも一部は、母体ペロブスカイト型酸化物のAサイト及び/又はBサイトの一部が、被置換イオンよりもイオン価数の小さい1種又は複数種のカチオンで置換された組成を有するものであり、
    膜厚方向に見て、前記基板側から膜表面側に向けて、前記カチオンの添加量が連続的に又は段階的に多くなるように、前記圧電膜の成膜を行うことを特徴とする圧電膜の成膜方法。
  17. 前記成膜が気相成長法による成膜であり、
    成膜時間の経過と共に、前記カチオンの添加量を連続的に又は段階的に増加させて、前記成膜を行うことを特徴とする請求項16に記載の圧電膜の成膜方法。
  18. 前記カチオンの含有量の異なる複数のターゲットを用意し、前記成膜中に該複数のターゲットからの成膜の割合を変更して、前記成膜を行うことを特徴とする17に記載の圧電膜の成膜方法。
  19. 請求項1〜15のいずれかに記載の圧電膜と、該圧電膜の膜厚方向に電界を印加する電極とを備えたことを特徴とする圧電素子。
  20. 請求項19に記載の圧電素子と、
    インクが貯留されるインク室及び該インク室から外部に前記インクが吐出されるインク吐出口を有するインク貯留吐出部材とを備えたことを特徴とするインクジェット式記録ヘッド。
  21. 請求項20に記載のインクジェット式記録ヘッドを備えたことを特徴とするインクジェット式記録装置。
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