JP2007107106A - 炭素繊維前駆体繊維用ポリアクリロニトリル系重合体およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】 繊維強化複合材料に成形した際に、優れた機械特性、特に優れた圧縮強度が得られる炭素繊維および黒鉛化繊維を供給するための炭素繊維前駆体繊維用ポリアクリロニトリル系重合体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 シクロデキストリン等の環状化合物存在下でアクリロニトリルと共重合成分とを重合し、湿式または乾湿式紡糸法により紡糸する炭素繊維前駆体繊維用ポリアクリロニトリル系重合体および繊維の製造方法。
【選択図】なし
【解決手段】 シクロデキストリン等の環状化合物存在下でアクリロニトリルと共重合成分とを重合し、湿式または乾湿式紡糸法により紡糸する炭素繊維前駆体繊維用ポリアクリロニトリル系重合体および繊維の製造方法。
【選択図】なし
Description
本発明は、炭素繊維前駆体繊維用ポリアクリロニトリル系重合体およびその製造方法に関する。詳しくは、繊維強化複合材料に成形した際に、優れた機械特性、特に優れた圧縮強度が得られる炭素繊維および黒鉛化繊維を供給するための炭素繊維前駆体繊維用ポリアクリロニトリル系重合体およびその製造方法に関するものである。
強化繊維とマトリックス樹脂からなる繊維強化複合材料は軽量で優れた機械的特性を有するために航空宇宙用途、釣り竿やゴルフシャフトといったスポーツ用具用途、自動車や風車などの一般産業用途といった幅広い用途に用いられている。その強化繊維としては炭素繊維が優れた機械的特性、特に比強度、比弾性率が高いという特徴を有しているため最も広く使用されている。
ところで、繊維強化複合材料を構造材料として用いる場合の重要な物性の一つに圧縮強度がある。しかし、従来の繊維強化複合材料では圧縮強度が十分ではないために適用可能な用途が制限されることがあり、圧縮強度向上の要望が強まっている。
炭素繊維強化複合材料の圧縮強度向上には強化繊維である炭素繊維自体の圧縮強度を向上させる方法があり、炭素繊維の原料となるポリアクリロニトリル系重合体にポリアミド等の他のポリマーを混合することで得られる炭素繊維の微細構造を改質し、炭素繊維の圧縮強度を向上する技術が提案されている(特許文献1参照)。
しかし、かかる技術ではポリアクリロニトリル系重合体と他のポリマーを均一化することが難しく、均一化されていない場合には炭素繊維微細構造の改質が十分ではなく効果が小さい。さらに、他のポリマーの部分は物性発現に寄与しないために、束としての物性が低下することがある。また、ポリアクリロニトリル系重合体と他のポリマーを均一にすることができた場合においてもポリアクリロニトリルとの相互作用は無く、ポリアクリロニトリルが耐炎化処理、炭化処理を経て炭素繊維になる上で、その各工程における化学的構造変化への影響は小さいために、微細構造の改質およびその圧縮強度向上効果が十分とは言い難い。
しかし、かかる技術ではポリアクリロニトリル系重合体と他のポリマーを均一化することが難しく、均一化されていない場合には炭素繊維微細構造の改質が十分ではなく効果が小さい。さらに、他のポリマーの部分は物性発現に寄与しないために、束としての物性が低下することがある。また、ポリアクリロニトリル系重合体と他のポリマーを均一にすることができた場合においてもポリアクリロニトリルとの相互作用は無く、ポリアクリロニトリルが耐炎化処理、炭化処理を経て炭素繊維になる上で、その各工程における化学的構造変化への影響は小さいために、微細構造の改質およびその圧縮強度向上効果が十分とは言い難い。
また炭素繊維の圧縮強度向上および樹脂との接着性を向上させるために、炭素繊維前駆体繊維を製造するに際して、水膨潤繊維に糖類を付与、含浸する技術が提案されている(特許文献2参照)。しかし、かかる技術においても糖類とポリアクリロニトリルの相互作用は無く、ポリアクリロニトリルが耐炎化処理、炭化処理を経て炭素繊維になる上で、その各工程における化学的構造変化への影響は小さいために、微細構造の改質およびその圧縮強度向上効果が十分とは言い難い。さらに、糖類の部分は物性発現に寄与しないために、束としての物性が低下することがある。
特開平05−295616号公報
特開2002−4175号公報
本発明の目的は、かかる現状に鑑み、要求されるレベルを達成しうる、高性能な炭素繊維および黒鉛化繊維を供給するための炭素繊維前駆体繊維用ポリアクリロニトリル系重合体およびその製造方法を提供することにある。
前記本発明の目的を達成するために、本発明のポリアクリロニトリル系重合体は次の構成を有する。すなわち、環状化合物を含む炭素繊維前駆体繊維用ポリアクリロニトリル系重合体である。
また、前記本発明の目的を達成するために、本発明のポリアクリロニトリル系重合体の製造方法は次の構成を有する。すなわち、環状化合物存在下でアクリロニトリルと共重合成分を重合する炭素繊維前駆体繊維用ポリアクリロニトリル系重合体の製造方法、または、ポリアクリロニトリル系重合体に環状化合物を混合する炭素繊維前駆体繊維用ポリアクリロニトリル系重合体の製造方法である。
そして、上記炭素繊維前駆体繊維用ポリアクリロニトリル系重合体を湿式または乾湿式紡糸法により紡糸して炭素繊維前駆体繊維を製造するものである。また、かかる方法により製造される炭素繊維前駆体繊維を200〜300℃の空気中において耐炎化処理した後、300〜2000℃の不活性雰囲気中において炭化処理することにより炭素繊維を製造することができ、さらに、かかる方法により得られた炭素繊維を2000〜3000℃の不活性雰囲気中において黒鉛化処理することにより黒鉛化繊維を製造することができる。
本発明によれば、優れた圧縮強度が得られる炭素繊維および黒鉛化繊維を容易に製造することができる。
本発明者らは、炭素繊維や黒鉛化繊維の圧縮強度を向上すべく、炭素繊維や黒鉛化繊維の結晶構造を如何に微細化するか、鋭意検討を重ねた結果、本発明に到達したものである。
本発明の炭素繊維前駆体繊維用ポリアクリロニトリル系重合体は環状化合物を含むものである。ここで環状化合物とは、環を形成し、その環の内径がポリアクリロニトリルを包接する大きさを有している有機化合物のことをいい、特に3〜15オングストロームの環の内径を有している環状化合物を好適に用いることができる。環状化合物を含む炭素繊維前駆体繊維用ポリアクリロニトリル系重合体とすることによって炭素繊維や黒鉛化繊維の結晶構造が微細化する理由については明確とはなっていないが、次のように推測される。すなわち、環状化合物の環の中にポリアクリロニトリルを包接した構造を形成し、かかる構造形成により、重合体を紡糸して得られる炭素繊維前駆体繊維を耐炎化処理した際に、ポリアクリロニトリル同士の分子間での架橋反応を環状化合物が抑制し、かつ引き続く炭化処理において環状化合物の炭化物がポリアクリロニトリルにおける結晶成長を抑制し、得られる炭素繊維の結晶サイズが小さくなるものと考えられる。環の内径が3オングストローム未満では、ポリアクリロニトリルを包接するには小さすぎるため十分に包接ができず、15オングストロームを超える場合には、ポリアクリロニトリルと環状化合物の相互作用が弱くなるために安定に包接することが難しい。
環状化合物としては、例えば、ブドウ糖や果糖などの単糖が2〜10個程度環状に連なった環状オリゴ糖、環の構成成分に芳香環が含まれてなるシクロファン、ポリエチレンエーテル骨格を有するクラウンエーテル、または環の構成成分に不飽和結合が含まれてなるアヌレンなどを挙げることができる。中でもブドウ糖が6個連なったα−シクロデキストリン、ブドウ糖が7個連なったβ−シクロデキストリン、ブドウ糖が8個連なったγ−シクロデキストリンは、環の内側が疎水性であるために様々な化合物やポリマーをその環の中に包接することが知られており、本発明において特に好適に用いられる。特に、ポリアクリロニトリルが包接されるのにより適した環の大きさを有しており、工業的に入手が容易であるなどの理由によって、α−シクロデキストリンおよびβ−シクロデキストリンが、本発明において最も好適に用いられる。
環状化合物としては、例えば、ブドウ糖や果糖などの単糖が2〜10個程度環状に連なった環状オリゴ糖、環の構成成分に芳香環が含まれてなるシクロファン、ポリエチレンエーテル骨格を有するクラウンエーテル、または環の構成成分に不飽和結合が含まれてなるアヌレンなどを挙げることができる。中でもブドウ糖が6個連なったα−シクロデキストリン、ブドウ糖が7個連なったβ−シクロデキストリン、ブドウ糖が8個連なったγ−シクロデキストリンは、環の内側が疎水性であるために様々な化合物やポリマーをその環の中に包接することが知られており、本発明において特に好適に用いられる。特に、ポリアクリロニトリルが包接されるのにより適した環の大きさを有しており、工業的に入手が容易であるなどの理由によって、α−シクロデキストリンおよびβ−シクロデキストリンが、本発明において最も好適に用いられる。
本発明の炭素繊維前駆体繊維用ポリアクリロニトリル系重合体は、例えば、以下に示すような方法によって製造することができる。
本発明の炭素繊維前駆体繊維用ポリアクリロニトリル系重合体の製造方法の一つとしては、環状化合物存在下でアクリロニトリルと共重合成分を重合する方法がある。この場合、環状化合物はモル換算でアクリロニトリル100%に対して0.01〜50%、好ましくは、0.1〜10%存在するようにするのが良い。また、本発明のポリアクリロニトリル系重合体のもう一つの製造方法として、ポリアクリロニトリル系重合体に環状化合物を混合する方法も挙げられる。ここで、ポリアクリロニトリル系重合体とは、アクリロニトリルと共重合成分を重合して得られた重合体のことを言う。この場合、環状化合物は、モル換算で重合に用いるアクリロニトリル100%に対して0.01〜50%、好ましくは、0.1〜10%混合するのが良い。環状化合物が少なすぎると本発明の効果が小さくなる一方で、多すぎると、環状化合物の引張強度および引張弾性率への寄与が小さいために得られる炭素繊維の引張強度および引張弾性率が低くなることがある。共重合成分としては、いわゆる耐炎化促進成分が良く、ビニル基を含有する化合物が好ましい。具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸等、より好ましくは、これらの一部又は全量をアンモニアで中和したアクリル酸、メタクリル酸、又はイタコン酸のアンモニウム塩が挙げられる。その他、アリルスルホン酸金属塩、メタクリルスルホン酸金属塩、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルやアクリルアミドなども共重合成分として用いることができる。共重合成分としてはモル換算でアクリロニトリル100%に対して0.01〜15%、好ましくは0.05〜5%共重合するのが良い。共重合成分が少なすぎると、耐炎化促進の効果が小さくなることがある一方で、多すぎると、炭化処理後の収率が低くなったり、耐炎化促進成分の増加に伴い耐炎化が急激に進行し除熱出来ず暴走することがあり、その暴走を防止するために耐炎化処理を低温で行うために処理に長時間を要したりして、炭素繊維の製造コストが高くなることがある。重合方法としては、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等が適用できるが、重合原料を均一に溶解できる有機溶媒を用いた溶液重合が好適に用いられ、具体的な有機溶媒としては、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等が挙げられる。
ポリアクリロニトリル系重合体に環状化合物を混合する場合、特に限定されるものではないが、均一に混合するために、ポリアクリロニトリル系重合体と環状化合物の両方を溶解する溶媒にポリアクリロニトリル系重合体および環状化合物を溶解してから混合し、相分離が無くなるまで撹拌するのが良い。
本発明では、本発明のポリアクリロニトリル系重合体を湿式または乾湿式紡糸法により紡糸することで炭素繊維用前駆体繊維を得る。本発明のポリアクリロニトリル系重合体を紡糸するに際し、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等の該重合体が可溶な溶媒に溶解し紡糸原液とする。特に溶液重合を用いる場合には、重合に用いる溶媒を紡糸原液に用いる溶媒を同じものにしておくと、得られた重合体を分離し溶媒に再溶解する工程が不要となり好ましい。紡糸原液中の該重合体の濃度は、原液安定性の観点から、10〜40重量%であることが好ましい。かかる紡糸原液を紡糸する前に目開き1μm以下のフィルターに通し、ポリマー原料および各工程において混入した不純物を除去することが高強度な炭素繊維を得るためには好ましい。
本発明では、本発明のポリアクリロニトリル系重合体を湿式または乾湿式紡糸法により紡糸することで炭素繊維用前駆体繊維を得る。本発明のポリアクリロニトリル系重合体を紡糸するに際し、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等の該重合体が可溶な溶媒に溶解し紡糸原液とする。特に溶液重合を用いる場合には、重合に用いる溶媒を紡糸原液に用いる溶媒を同じものにしておくと、得られた重合体を分離し溶媒に再溶解する工程が不要となり好ましい。紡糸原液中の該重合体の濃度は、原液安定性の観点から、10〜40重量%であることが好ましい。かかる紡糸原液を紡糸する前に目開き1μm以下のフィルターに通し、ポリマー原料および各工程において混入した不純物を除去することが高強度な炭素繊維を得るためには好ましい。
紡糸原液を、湿式または乾湿式紡糸法により口金から紡出し、凝固浴に導入して繊維を凝固せしめる。得られる炭素繊維前駆体繊維の緻密性を高め、また得られる炭素繊維の力学物性を高める目的からは、乾湿式紡糸法を用いることが、より好ましい。
本発明において、前記凝固浴には、紡糸原液の溶媒として用いたジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等の溶媒と、いわゆる凝固促進成分を含ませることが好ましい。凝固促進成分としては、前記重合体を溶解せず、かつ紡糸原液に用いる溶媒と相溶性があるものが使用できる。具体的には、水を使用するのが好ましい。
凝固浴中に導入して糸条を凝固せしめた後、水洗工程、浴中延伸工程、油剤付与工程、乾燥熱処理工程、スチーム延伸工程を経て、炭素繊維前駆体繊維が得られる。ただし、凝固後の糸条は、水洗工程を省略して直接浴中延伸を行っても良いし、溶媒を水洗工程により除去した後に浴中延伸を行っても良い。かかる浴中延伸は、通常、30〜98℃に温調された単一又は複数の延伸浴中で1〜5倍の延伸倍率で行うことが好ましい。浴中延伸工程の後、単繊維同士の接着を防止する目的から、糸条にシリコーン等からなる油剤を付与することが好ましい。かかるシリコーン油剤は、変性されたシリコーンを用いることが好ましく、耐熱性の高いアミノ変性シリコーンを含有するものを用いることがより好ましい。前記した、水洗工程、浴中延伸工程、油剤付与工程の後、乾燥熱処理およびスチーム延伸を行うことにより、炭素繊維前駆体繊維を製造する。かかる乾燥熱処理は短時間で効率よく乾燥できれば接触方式、非接触方式のどちらでも良く、単繊維同士が接着しない、かつ乾燥効率の観点から120〜190℃で行うことが好ましい。スチーム延伸工程においては、単繊維同士が接着しない、かつ延伸性の観点から120〜190℃で行うことが好ましく、延伸倍率は生産性および得られる炭素繊維の力学物性の観点から3倍以上であるのがよい。
本発明において、炭素繊維前駆体繊維の単繊維繊度は、0.3〜1.5dtex、好ましくは0.5〜1.0dtexであるのが良い。単繊維繊度が小さすぎると、可紡性の低下、ローラー、ガイドとの接触による糸切れ発生などにより、製糸工程および焼成工程のプロセス安定性が低下することがある一方で、大きすぎると、耐炎化後の各単繊維における内外構造差が大きくなり、つづく炭化工程でのプロセス性低下や、得られる炭素繊維の引張強度、引張弾性率が低下することがある。また、本発明において、炭素繊維前駆体繊維の1糸条当たりのフィラメント数は、1,000〜3,000,000、好ましくは12,000〜3,000,000であるのが良い。フィラメント数は、生産性の向上の目的からは、1,000以上で多い方が好ましいが、3,000,000を超えると束内部まで均一に耐炎化処理できないことがある。
このようにして得られた本発明の炭素繊維前駆体繊維は、200〜300℃の空気中において耐炎化処理した後、300〜2000℃の不活性雰囲気中において炭化処理することによって炭素繊維へ転換される。
本発明において、前記凝固浴には、紡糸原液の溶媒として用いたジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等の溶媒と、いわゆる凝固促進成分を含ませることが好ましい。凝固促進成分としては、前記重合体を溶解せず、かつ紡糸原液に用いる溶媒と相溶性があるものが使用できる。具体的には、水を使用するのが好ましい。
凝固浴中に導入して糸条を凝固せしめた後、水洗工程、浴中延伸工程、油剤付与工程、乾燥熱処理工程、スチーム延伸工程を経て、炭素繊維前駆体繊維が得られる。ただし、凝固後の糸条は、水洗工程を省略して直接浴中延伸を行っても良いし、溶媒を水洗工程により除去した後に浴中延伸を行っても良い。かかる浴中延伸は、通常、30〜98℃に温調された単一又は複数の延伸浴中で1〜5倍の延伸倍率で行うことが好ましい。浴中延伸工程の後、単繊維同士の接着を防止する目的から、糸条にシリコーン等からなる油剤を付与することが好ましい。かかるシリコーン油剤は、変性されたシリコーンを用いることが好ましく、耐熱性の高いアミノ変性シリコーンを含有するものを用いることがより好ましい。前記した、水洗工程、浴中延伸工程、油剤付与工程の後、乾燥熱処理およびスチーム延伸を行うことにより、炭素繊維前駆体繊維を製造する。かかる乾燥熱処理は短時間で効率よく乾燥できれば接触方式、非接触方式のどちらでも良く、単繊維同士が接着しない、かつ乾燥効率の観点から120〜190℃で行うことが好ましい。スチーム延伸工程においては、単繊維同士が接着しない、かつ延伸性の観点から120〜190℃で行うことが好ましく、延伸倍率は生産性および得られる炭素繊維の力学物性の観点から3倍以上であるのがよい。
本発明において、炭素繊維前駆体繊維の単繊維繊度は、0.3〜1.5dtex、好ましくは0.5〜1.0dtexであるのが良い。単繊維繊度が小さすぎると、可紡性の低下、ローラー、ガイドとの接触による糸切れ発生などにより、製糸工程および焼成工程のプロセス安定性が低下することがある一方で、大きすぎると、耐炎化後の各単繊維における内外構造差が大きくなり、つづく炭化工程でのプロセス性低下や、得られる炭素繊維の引張強度、引張弾性率が低下することがある。また、本発明において、炭素繊維前駆体繊維の1糸条当たりのフィラメント数は、1,000〜3,000,000、好ましくは12,000〜3,000,000であるのが良い。フィラメント数は、生産性の向上の目的からは、1,000以上で多い方が好ましいが、3,000,000を超えると束内部まで均一に耐炎化処理できないことがある。
このようにして得られた本発明の炭素繊維前駆体繊維は、200〜300℃の空気中において耐炎化処理した後、300〜2000℃の不活性雰囲気中において炭化処理することによって炭素繊維へ転換される。
本発明において、耐炎化処理する際の延伸比は、0.85〜1.20、より好ましくは0.87〜1.15とするのが良い。かかる延伸比が小さすぎると、得られる耐炎化繊維の配向度が不十分となり、また得られる炭素繊維の力学物性が低下することがある一方で、大きすぎると、毛羽発生、糸切れ発生によりプロセス性が低下することがある。耐炎化の処理時間は、適宜選択することができるが、得られる耐炎化繊維の比重が1.3〜1.5、好ましくは1.32〜1.47の範囲となるよう設定することが、続く炭化処理のプロセス性、および得られる炭素繊維の力学物性向上の目的から好ましい。
本発明において、炭化処理は不活性雰囲気中で行うが、用いるガスとしては、窒素、アルゴン、キセノンなどが好ましく例示でき、経済的な観点からは窒素を好ましく用いることができる。炭化処理は300〜2000℃で行うが、300〜800℃の温度範囲と800〜2000℃の温度範囲で2段階または2段階以上に分けて処理することもできる。300〜800℃の範囲は昇温速度を500℃/分以下に設定することが好ましく、その際の延伸比は、0.98〜1.30、好ましくは1.00〜1.25とするのが良い。かかる延伸比が小さすぎると、得られる予備炭化繊維の配向度が不十分となり、炭素繊維の力学物性が低下することがある一方で、大きすぎると、毛羽発生、糸切れ発生によりプロセス性が低下することがある。また、800〜2000℃の温度範囲においては、その最高温度は、所望する炭素繊維の力学物性に応じて適宜設定するのがよい。一般に炭化工程の最高温度が高いほど、得られる炭素繊維の引張弾性率が高くなるものの、引張強度は1500℃付近で極大となる。引張強度と引張弾性率の両方を高めるためには、炭化工程の最高温度は、1200〜1700℃、好ましくは1300〜1600℃とするのが良い。また、800〜2000℃の温度範囲での延伸比は、0.95〜1.1、好ましくは0.96〜1.07とするのが良い。ここでの延伸比が小さすぎると、得られる炭素繊維の配向度や緻密性が不十分となり、力学物性が低下することがある一方で、大きすぎると、毛羽発生、糸切れ発生によりプロセス性が低下することがある。
本発明において、300〜2000℃の温度範囲での炭化処理を1段階で行う場合、延伸比は、0.95〜1.3、好ましくは0.96〜1.25とするのが良い。ここでの延伸比が小さすぎると、得られる炭素繊維の配向度や緻密性が不十分となり、力学物性が低下することがある一方で、大きすぎると、毛羽発生、糸切れ発生によりプロセス性が低下することがある。
引き続き、上述の方法で得られた炭素繊維を、不活性雰囲気中、2,000〜3,000℃で黒鉛化処理することによって、より高い弾性率を有した黒鉛化繊維とすることもできる。黒鉛化処理は不活性雰囲気中で行うが、用いるガスとしては、窒素、アルゴン、キセノンなどが好ましく例示でき、経済的な観点からは窒素を好ましく用いることができる。
黒鉛化処理を行う際の延伸比は、1〜1.2、好ましくは1.005〜1.17とするのが良い。ここでの延伸比が小さすぎると、得られる黒鉛化繊維の配向度や緻密性が不十分となり、力学物性が低下することがある一方で、大きすぎると、毛羽発生、糸切れ発生によりプロセス性が低下することがある。
得られた炭素繊維や黒鉛化繊維はその表面改質のため、電解処理することができる。電解処理に用いる電解液には、硫酸、硝酸、塩酸等の酸性溶液や、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、炭酸アンモニウム、重炭酸アンモニウムといったアルカリ又はそれらの塩を水溶液として使用することができる。ここで、電解処理に要する電気量は、適用する炭素繊維、黒鉛化繊維の炭化度に応じて適宜選択することができる。かかる電解処理により、得られる複合材料において炭素繊維や黒鉛化繊維とマトリックスとの接着性が適正化でき、接着が強すぎることによる複合材料のブリトルな破壊や、繊維方向の引張強度が低下する問題や、繊維方向における引張強度は高いものの、樹脂との接着性に劣り、非繊維方向における強度特性が発現しないといった問題が解消され、得られる複合材料において、繊維方向と非繊維方向の両方向にバランスのとれた強度特性が発現されるようになる。
かかる電解処理の後、炭素繊維や黒鉛化繊維に集束性を付与するため、サイジング処理をすることもできる。サイジング剤には、使用する樹脂の種類に応じて、樹脂との相溶性の良いサイジング剤を適宜選択することができる。
本発明により得られる炭素繊維および黒鉛化繊維は、同じ温度で炭化処理、または黒鉛化処理した炭素繊維、黒鉛化繊維に対して、炭素網面の(002)面の結晶サイズLcが小さくなり、圧縮強度が高くなる。炭素繊維および黒鉛化繊維の結晶サイズは大きくなるほど圧縮強度が低下し、結晶サイズが小さくなるほど圧縮強度が向上することが分かっているが、そのメカニズムは明らかにはされていない。しかしながら、結晶サイズが大きくなるほど圧縮方向に加圧したときに座屈破壊しやすくなり圧縮強度が低下すると考えられる。
次に、本発明をより具体的に説明する。なお、各種物性値の測定方法は以下に記載の方法によるものである。
<繊維比重>
JIS R7601(1986)記載の方法に従う。耐炎化繊維の場合、エタノールを用い、炭素繊維の場合、オルトージクロロベンゼンを試薬として用いる。繊維を1.0〜1.5g採取し、120℃で2時間絶乾した。絶乾質量W1(g)を測定した後、比重既知(比重ρ)のエタノールまたはオルトージクロロベンゼンに含浸し、該試薬中の繊維質量W2(g)を測定し、次式、繊維比重=(W1×ρ)/(W1−W2)により繊維比重を求める。なお、本実施例では、エタノールとオルトージクロロベンゼンには和光純薬(株)製特級を用いた。
<炭素繊維や黒鉛化繊維の結晶サイズLc>
測定する炭素繊維および黒鉛化繊維から、長さ4cmの試験片を切り出し、金型とコロジオン・アルコール溶液を用いて固め、角柱形状とし、測定用試料を作製する。
<繊維比重>
JIS R7601(1986)記載の方法に従う。耐炎化繊維の場合、エタノールを用い、炭素繊維の場合、オルトージクロロベンゼンを試薬として用いる。繊維を1.0〜1.5g採取し、120℃で2時間絶乾した。絶乾質量W1(g)を測定した後、比重既知(比重ρ)のエタノールまたはオルトージクロロベンゼンに含浸し、該試薬中の繊維質量W2(g)を測定し、次式、繊維比重=(W1×ρ)/(W1−W2)により繊維比重を求める。なお、本実施例では、エタノールとオルトージクロロベンゼンには和光純薬(株)製特級を用いた。
<炭素繊維や黒鉛化繊維の結晶サイズLc>
測定する炭素繊維および黒鉛化繊維から、長さ4cmの試験片を切り出し、金型とコロジオン・アルコール溶液を用いて固め、角柱形状とし、測定用試料を作製する。
測定はX線源としてCuKα線(Niフィルター使用)を用い、2θ=26°付近に観察される(002)面のピークを赤道方向にスキャンして得られたピークからその半値幅を求め、次の式により算出した。尚、赤道方向は繊維径方向に相当する。
Lc=Kλ/(β0cosθ)
ここで、Kは1.0、λは0.15418nm(X線の波長)、β0は(βE 2−β1 2)1/2、βEは見掛けの半値幅(測定値)、β1は1.046×10−2rad、θはBraggの回折角を示す。なお、本実施例では、測定装置として(株)理学電機社製4036A型(管球型)を用い、次の装置構成を採用した。
[装置構成]
X線源:CuKα線(Niフィルター使用)
出力:40kV、20mA
スリット:2mmφ−1°−1°
検出器:シンチレーションカウンター
<炭素繊維や黒鉛化繊維の引張強度及び引張弾性率>
JIS R7601(1986)「樹脂含浸ストランド試験法」に従って求める。本実施例では、測定する炭素繊維および黒鉛化繊維の樹脂含浸ストランドは、ユニオンカーバイド(株)製”ベークライト(登録商標)”ERL4221(100重量部)/3フッ化ホウ素モノエチルアミン(3重量部)/アセトン(4重量部)を、炭素繊維または黒鉛化繊維に含浸させ、130℃、30分で硬化させて作製した。また、ストランドの測定本数は6本とし、各測定結果の平均値を、引張強度、引張弾性率とした。
<積層板の圧縮強度>
本発明において得られる炭素繊維および黒鉛化繊維の圧縮強度を評価するため、それらを強化繊維とする繊維強化複合材料の積層板を作製しその圧縮強度を測定した。
A.樹脂組成物の調整
次に示す原料樹脂を混合し、30分間撹拌して樹脂組成物を得た。
ビスフェノールAジグリシジルエーテル樹脂(エピコート(登録商標)1001、油化シェルエポキシ社製) 30重量%、
ビスフェノールAジグリシジルエーテル樹脂(エピコート828、油化シェルエポキシ社製) 30重量%、
フェノールノボラックポリグリシジルエーテル樹脂(エピクロン(登録商標)−N740、大日本インキ化学工業社製) 40重量%、
ポリビニルホルマール樹脂(ビニレックス(登録商標)K、チッソ社製) 5重量%
ジシアンジアミド(DICY7、大日本インキ化学工業社製) 4重量%、
3,4−ジクロロフェニル−1,1−ジメチルウレア(DCMU99、保土谷化学社製、硬化剤) 4重量%
次に、この樹脂組成物をシリコーン塗布ペーパー上に離型紙にコーティングして得た樹脂フィルムを、円周約2.7mの60〜70℃に調温した鋼製ドラムに巻き付けた。この上に、炭素繊維または黒鉛化繊維を、クリールから巻きだし、トラバースを介して配列した。さらにその上から、前記樹脂フィルムで再度覆い、ロールで回転しながら加圧し、樹脂を繊維内に含浸せしめ、幅300mm、長さ2.7mの一方向プリプレグを作製した。ここで、プリプレグの繊維目付はドラムの回転数とトラバースの送り速度を変化させ、190g/m2に調整した。また、プリプレグの樹脂量は約35重量%とした。このプリプレグを繊維方向を引き揃えて積層し、温度130℃、圧力0.3MPaで2時間硬化させ、厚みが1mmの積層板を成形した。次に、この積層板に試験片の被破壊部分以外を補強する板を積層板の厚みが均一となるよう接着剤等で固着させ、一方向積層板を作製した。この積層板から、被破壊部分が中心になるように、厚み約1±0.1mm、幅12.7±0.13mm、長さ80±0.013mm、ゲージの長さ5±0.13mmの試験片を切り出す。この試験片を用い、ASTM D695に示される圧縮治具を使用し、歪み速度1.27mm/分の条件で測定し、繊維体積分率60%に換算して積層板の圧縮強度とした。
[実施例1]
ジメチルスルホキシド中、重合原料のモル比をアクリロニトリル:β−シクロデキストリン:イタコン酸=100:1:0.5とし、開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを用い、ラジカル重合を行って、炭素繊維前駆体繊維用ポリアクリロニトリル系重合体を得た。重合体の濃度がジメチルスルホキシド中、25重量%となるように調整した後、アンモニアガスをpHが8.5になるまで吹き込むことで、イタコン酸を中和しつつ、アンモニウム基をポリアクリロニトリル系共重合体に導入し、紡糸原液を作製した。得られた紡糸原液を、目開き0.5μmのフィルター通過後、40℃で、単孔の直径0.15mm、孔数6,000の紡糸口金を用い、一旦空気中に吐出し、約4mmの空間を通過させた後、3℃にコントロールした35重量%ジメチルスルホキシドの水溶液からなる凝固浴に導入する乾湿式紡糸法により凝固糸条とした。この凝固糸条を、常法により水洗した後、温水中で3.25倍に延伸し、さらにアミノ変性シリコーン系シリコーン油剤を付与して単繊維繊度2.8dtexの浴中延伸糸を得た。この浴中延伸糸を、170℃に加熱したローラーを用いて乾燥熱処理を行い、次に150℃の加圧スチーム中にて4倍に延伸し、全延伸倍率13倍、単繊維繊度0.7dtex、フィラメント数6,000の炭素繊維前駆体繊維を得た。得られた炭素繊維前駆体繊維を4本合糸し、トータルフィラメント数24,000とした上で、230〜260℃の空気中において延伸比0.98で延伸しながら耐炎化処理し、比重1.35の耐炎化繊維を得た。
ここで、Kは1.0、λは0.15418nm(X線の波長)、β0は(βE 2−β1 2)1/2、βEは見掛けの半値幅(測定値)、β1は1.046×10−2rad、θはBraggの回折角を示す。なお、本実施例では、測定装置として(株)理学電機社製4036A型(管球型)を用い、次の装置構成を採用した。
[装置構成]
X線源:CuKα線(Niフィルター使用)
出力:40kV、20mA
スリット:2mmφ−1°−1°
検出器:シンチレーションカウンター
<炭素繊維や黒鉛化繊維の引張強度及び引張弾性率>
JIS R7601(1986)「樹脂含浸ストランド試験法」に従って求める。本実施例では、測定する炭素繊維および黒鉛化繊維の樹脂含浸ストランドは、ユニオンカーバイド(株)製”ベークライト(登録商標)”ERL4221(100重量部)/3フッ化ホウ素モノエチルアミン(3重量部)/アセトン(4重量部)を、炭素繊維または黒鉛化繊維に含浸させ、130℃、30分で硬化させて作製した。また、ストランドの測定本数は6本とし、各測定結果の平均値を、引張強度、引張弾性率とした。
<積層板の圧縮強度>
本発明において得られる炭素繊維および黒鉛化繊維の圧縮強度を評価するため、それらを強化繊維とする繊維強化複合材料の積層板を作製しその圧縮強度を測定した。
A.樹脂組成物の調整
次に示す原料樹脂を混合し、30分間撹拌して樹脂組成物を得た。
ビスフェノールAジグリシジルエーテル樹脂(エピコート(登録商標)1001、油化シェルエポキシ社製) 30重量%、
ビスフェノールAジグリシジルエーテル樹脂(エピコート828、油化シェルエポキシ社製) 30重量%、
フェノールノボラックポリグリシジルエーテル樹脂(エピクロン(登録商標)−N740、大日本インキ化学工業社製) 40重量%、
ポリビニルホルマール樹脂(ビニレックス(登録商標)K、チッソ社製) 5重量%
ジシアンジアミド(DICY7、大日本インキ化学工業社製) 4重量%、
3,4−ジクロロフェニル−1,1−ジメチルウレア(DCMU99、保土谷化学社製、硬化剤) 4重量%
次に、この樹脂組成物をシリコーン塗布ペーパー上に離型紙にコーティングして得た樹脂フィルムを、円周約2.7mの60〜70℃に調温した鋼製ドラムに巻き付けた。この上に、炭素繊維または黒鉛化繊維を、クリールから巻きだし、トラバースを介して配列した。さらにその上から、前記樹脂フィルムで再度覆い、ロールで回転しながら加圧し、樹脂を繊維内に含浸せしめ、幅300mm、長さ2.7mの一方向プリプレグを作製した。ここで、プリプレグの繊維目付はドラムの回転数とトラバースの送り速度を変化させ、190g/m2に調整した。また、プリプレグの樹脂量は約35重量%とした。このプリプレグを繊維方向を引き揃えて積層し、温度130℃、圧力0.3MPaで2時間硬化させ、厚みが1mmの積層板を成形した。次に、この積層板に試験片の被破壊部分以外を補強する板を積層板の厚みが均一となるよう接着剤等で固着させ、一方向積層板を作製した。この積層板から、被破壊部分が中心になるように、厚み約1±0.1mm、幅12.7±0.13mm、長さ80±0.013mm、ゲージの長さ5±0.13mmの試験片を切り出す。この試験片を用い、ASTM D695に示される圧縮治具を使用し、歪み速度1.27mm/分の条件で測定し、繊維体積分率60%に換算して積層板の圧縮強度とした。
[実施例1]
ジメチルスルホキシド中、重合原料のモル比をアクリロニトリル:β−シクロデキストリン:イタコン酸=100:1:0.5とし、開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを用い、ラジカル重合を行って、炭素繊維前駆体繊維用ポリアクリロニトリル系重合体を得た。重合体の濃度がジメチルスルホキシド中、25重量%となるように調整した後、アンモニアガスをpHが8.5になるまで吹き込むことで、イタコン酸を中和しつつ、アンモニウム基をポリアクリロニトリル系共重合体に導入し、紡糸原液を作製した。得られた紡糸原液を、目開き0.5μmのフィルター通過後、40℃で、単孔の直径0.15mm、孔数6,000の紡糸口金を用い、一旦空気中に吐出し、約4mmの空間を通過させた後、3℃にコントロールした35重量%ジメチルスルホキシドの水溶液からなる凝固浴に導入する乾湿式紡糸法により凝固糸条とした。この凝固糸条を、常法により水洗した後、温水中で3.25倍に延伸し、さらにアミノ変性シリコーン系シリコーン油剤を付与して単繊維繊度2.8dtexの浴中延伸糸を得た。この浴中延伸糸を、170℃に加熱したローラーを用いて乾燥熱処理を行い、次に150℃の加圧スチーム中にて4倍に延伸し、全延伸倍率13倍、単繊維繊度0.7dtex、フィラメント数6,000の炭素繊維前駆体繊維を得た。得られた炭素繊維前駆体繊維を4本合糸し、トータルフィラメント数24,000とした上で、230〜260℃の空気中において延伸比0.98で延伸しながら耐炎化処理し、比重1.35の耐炎化繊維を得た。
得られた耐炎化繊維を、続いて最高温度800℃の窒素雰囲気中、300〜800℃での昇温速度を100℃/分とし延伸比1.1で延伸し、さらに最高温度1500℃の窒素雰囲気中、800〜1500℃で延伸比0.97で延伸して炭化処理を行い、比重1.8の炭素繊維(未表面処理)を得た。また、引き続き最高温度2300℃の窒素雰囲気中、2000〜2300℃で延伸比1.1で延伸して黒鉛化処理を行い黒鉛化繊維(未表面処理)を得た。
得られた炭素繊維(未表面処理)および黒鉛化繊維(未表面処理)のそれぞれについて、硫酸水溶液中、陽極電荷処理により50クーロン/gの電荷を与える表面処理を行い、水洗した後、サイジング剤を付与し、乾燥することによって、表面処理された炭素繊維および黒鉛化繊維を得た。これら表面処理された炭素繊維および黒鉛化繊維のそれぞれについて、ストランド引張強度およびストランド引張弾性率を測定した。また、かかる表面処理された炭素繊維および黒鉛化繊維のそれぞれを強化繊維として繊維強化複合材料の積層板を作製し、それらの圧縮強度を測定した。結果を表1にまとめて示す。
[実施例2]
重合原料のモル比をアクリロニトリル:β−シクロデキストリン:イタコン酸=100:0.05:0.5と変更した以外は実施例1と同様にして、表面処理された炭素繊維および黒鉛化繊維を得た。また、それらのストランド引張強度およびストランド引張弾性率を測定し、それぞれを強化繊維として繊維強化複合材料の積層板を作製し、それらの圧縮強度を測定した。結果を表1にまとめて示す。
[実施例3]
β−シクロデキストリンの代わりにα−シクロデキストリンを用いた以外は実施例1と同様にして、表面処理された炭素繊維および黒鉛化繊維を得た。また、それらのストランド引張強度およびストランド引張弾性率を測定し、それぞれを強化繊維として繊維強化複合材料の積層板を作製し、それらの圧縮強度を測定した。結果を表1にまとめて示す。
[実施例4]
ジメチルスルホキシド中、重合原料のモル比をアクリロニトリル:イタコン酸=100:0.5とし、開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを用い、ラジカル重合を行い、ポリアクリロニトリル系重合体を得た。モル比でアクリロニトリル:β−シクロデキストリン=100:1となる量のβ−シクロデキストリンをジメチルスルホキシドに溶解し、1重量%溶液とした。ポリアクリロニトリル系重合体、β−シクロデキストリン溶液およびジメチルスルホキシドを混合し、ホモミキサーを用いて重合体の濃度がジメチルスルホキシド中、25重量%となるように調整した後、アンモニアガスをpHが8.5になるまで吹き込むことで、イタコン酸を中和しつつ、アンモニウム基をポリアクリロニトリル系共重合体に導入し、紡糸原液を作製した。実施例1における紡糸原液を、ここで得られた紡糸原液に変更した以外は、実施例1と同様にして表面処理された炭素繊維および黒鉛化繊維を得た。また、それらのストランド引張強度およびストランド引張弾性率を測定し、それぞれを強化繊維として繊維強化複合材料の積層板を作製し、それらの圧縮強度を測定した。結果を表1にまとめて示す。
[実施例5]
ポリアクリロニトリル系重合体と混合するβ−シクロデキストリン溶液におけるβ−シクロデキストリンの量をモル比でアクリロニトリル:β−シクロデキストリン=100:0.05とした以外は実施例4と同様にして、表面処理された炭素繊維および黒鉛化繊維を得た。また、それらのストランド引張強度およびストランド引張弾性率を測定し、それぞれを強化繊維として繊維強化複合材料の積層板を作製し、それらの圧縮強度を測定した。結果を表1にまとめて示す。
[実施例6]
β−シクロデキストリンの代わりにα−シクロデキストリンを用いた以外は実施例4と同様にして、表面処理された炭素繊維および黒鉛化繊維を得た。また、それらのストランド引張強度およびストランド引張弾性率を測定し、それぞれを強化繊維として繊維強化複合材料の積層板を作製し、それらの圧縮強度を測定した。結果を表1にまとめて示す。
[比較例1]
重合原料のモル比をアクリロニトリル:イタコン酸=100:0.5とした以外は実施例1と同様にして、表面処理された炭素繊維および黒鉛化繊維を得た。また、それらのストランド引張強度およびストランド引張弾性率を測定し、それぞれを強化繊維として繊維強化複合材料の積層板を作製し、それらの圧縮強度を測定した。結果を表1にまとめて示す。
[実施例2]
重合原料のモル比をアクリロニトリル:β−シクロデキストリン:イタコン酸=100:0.05:0.5と変更した以外は実施例1と同様にして、表面処理された炭素繊維および黒鉛化繊維を得た。また、それらのストランド引張強度およびストランド引張弾性率を測定し、それぞれを強化繊維として繊維強化複合材料の積層板を作製し、それらの圧縮強度を測定した。結果を表1にまとめて示す。
[実施例3]
β−シクロデキストリンの代わりにα−シクロデキストリンを用いた以外は実施例1と同様にして、表面処理された炭素繊維および黒鉛化繊維を得た。また、それらのストランド引張強度およびストランド引張弾性率を測定し、それぞれを強化繊維として繊維強化複合材料の積層板を作製し、それらの圧縮強度を測定した。結果を表1にまとめて示す。
[実施例4]
ジメチルスルホキシド中、重合原料のモル比をアクリロニトリル:イタコン酸=100:0.5とし、開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを用い、ラジカル重合を行い、ポリアクリロニトリル系重合体を得た。モル比でアクリロニトリル:β−シクロデキストリン=100:1となる量のβ−シクロデキストリンをジメチルスルホキシドに溶解し、1重量%溶液とした。ポリアクリロニトリル系重合体、β−シクロデキストリン溶液およびジメチルスルホキシドを混合し、ホモミキサーを用いて重合体の濃度がジメチルスルホキシド中、25重量%となるように調整した後、アンモニアガスをpHが8.5になるまで吹き込むことで、イタコン酸を中和しつつ、アンモニウム基をポリアクリロニトリル系共重合体に導入し、紡糸原液を作製した。実施例1における紡糸原液を、ここで得られた紡糸原液に変更した以外は、実施例1と同様にして表面処理された炭素繊維および黒鉛化繊維を得た。また、それらのストランド引張強度およびストランド引張弾性率を測定し、それぞれを強化繊維として繊維強化複合材料の積層板を作製し、それらの圧縮強度を測定した。結果を表1にまとめて示す。
[実施例5]
ポリアクリロニトリル系重合体と混合するβ−シクロデキストリン溶液におけるβ−シクロデキストリンの量をモル比でアクリロニトリル:β−シクロデキストリン=100:0.05とした以外は実施例4と同様にして、表面処理された炭素繊維および黒鉛化繊維を得た。また、それらのストランド引張強度およびストランド引張弾性率を測定し、それぞれを強化繊維として繊維強化複合材料の積層板を作製し、それらの圧縮強度を測定した。結果を表1にまとめて示す。
[実施例6]
β−シクロデキストリンの代わりにα−シクロデキストリンを用いた以外は実施例4と同様にして、表面処理された炭素繊維および黒鉛化繊維を得た。また、それらのストランド引張強度およびストランド引張弾性率を測定し、それぞれを強化繊維として繊維強化複合材料の積層板を作製し、それらの圧縮強度を測定した。結果を表1にまとめて示す。
[比較例1]
重合原料のモル比をアクリロニトリル:イタコン酸=100:0.5とした以外は実施例1と同様にして、表面処理された炭素繊維および黒鉛化繊維を得た。また、それらのストランド引張強度およびストランド引張弾性率を測定し、それぞれを強化繊維として繊維強化複合材料の積層板を作製し、それらの圧縮強度を測定した。結果を表1にまとめて示す。
本発明により得られる炭素繊維および黒鉛化繊維は、その高い圧縮強度のためにプリプレグとしてオートクレーブ成形、織物などのプリフォームとしてレジントランスファーモールディングで成形、フィラメントワインディングで成形するなど種々の成型法により、航空機部材、圧力容器部材、自動車部材、釣り竿、ゴルフシャフトなどのスポーツ部材として、好適に用いることができる。
Claims (8)
- 環状化合物を含む炭素繊維前駆体繊維用ポリアクリロニトリル系重合体。
- 環状化合物がシクロデキストリンである請求項1記載の炭素繊維前駆体繊維用ポリアクリロニトリル系重合体。
- 環状化合物存在下でアクリロニトリルと共重合成分とを重合する炭素繊維前駆体繊維用ポリアクリロニトリル系重合体の製造方法。
- ポリアクリロニトリル系重合体に環状化合物を混合する炭素繊維前駆体繊維用ポリアクリロニトリル系重合体の製造方法。
- 環状化合物がシクロデキストリンである請求項3または4記載の炭素繊維前駆体繊維用ポリアクリロニトリル系重合体の製造方法。
- 請求項1または2記載の炭素繊維前駆体繊維用ポリアクリロニトリル系重合体を湿式または乾湿式紡糸法により紡糸する炭素繊維前駆体繊維の製造方法。
- 請求項6に記載の方法により製造される炭素繊維前駆体繊維を200〜300℃の空気中において耐炎化処理した後、300〜2000℃の不活性雰囲気中において炭化処理する炭素繊維の製造方法。
- 請求項7に記載の方法により製造される炭素繊維を2000〜3000℃の不活性雰囲気中において黒鉛化処理する黒鉛化繊維の製造方法。
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JP2005296014A JP2007107106A (ja) | 2005-10-11 | 2005-10-11 | 炭素繊維前駆体繊維用ポリアクリロニトリル系重合体およびその製造方法 |
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JP2009256833A (ja) * | 2008-04-18 | 2009-11-05 | Toray Ind Inc | 炭素繊維および補強織物 |
-
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- 2005-10-11 JP JP2005296014A patent/JP2007107106A/ja active Pending
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